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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
管理番号 1221783
審判番号 不服2007-18688  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-05 
確定日 2010-08-13 
事件の表示 特願2000-389794「マルチピースソリッドゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月 2日出願公開、特開2002-186687〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成12年12月22日の出願であって、平成13年3月12日、平成18年7月31日及び同年10月31日に手続補正がなされ、平成19年5月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月5日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年8月3日に手続補正がなされ、当審において、平成22年1月14日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年3月23日に手続補正がなされたものである。

2 本願発明の認定
本願の請求項1ないし5に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、平成22年3月23日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項によってそれぞれ特定される、次のとおりのものであると認められる。

「【請求項1】 弾性ソリッドコアを複数層の樹脂カバーで被覆し、ボール表面に多数のディンプルを備えたマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記ソリッドコアは、その直径が30?40mmであり、294N(30kgf)の荷重を加えた時に1.1mm以上4.0mm以下に変形する硬さを有し、上記コアに近接するカバー内層の主材が、アイオノマー樹脂に、分子量が280以上の脂肪酸又はその誘導体と、各々の酸基を中和することのできる塩基性無機金属化合物とを加熱混合したものであり、そのカバー内層のショアD硬度が50?62の範囲にあり、その外側のカバー外層の主材が、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーと、イソシアネート化合物との反応生成物であり、そのカバー外層のショアD硬度が35?55であり、カバー内層のショアD硬度をA、カバー外層のショアD硬度をBとすると、これらA,BがA×B≧2300の関係を満たすと共に、ディンプルと交差しない大円が1本も存在しないように多数のディンプルを実質上均等にボール表面に配置してなることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項2】 カバー外層をカバー内層より軟らかく形成した請求項1記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項3】 カバー外層が、芳香族又は脂肪族ジイソシアネートを用いて得られる熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを主材として形成された請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項4】 カバー内層とカバー外層との間に接着剤層が介在してなる請求項1?3のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項5】 上記コアの比重が1.0?1.3であり、カバー内層の比重が0.8?1.4であり、カバー外層の比重が0.9?1.3である請求項1?4のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。」(下線は審決で付した。以下同じ。)

3 記載不備についての当審拒絶理由の概要
(1)本願明細書の発明の詳細な説明の記載について、
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に示された特殊パラメータ「A×B」を含む数値限定で規定する範囲が発明の解決しようとする課題を達成するために有効であることが、当業者にとって理解できるように記載されていない。また、発明の解決しようとする課題との関係で多数のパラメータの数値限定の範囲に設定することのメカニズム及び技術的意義並びに臨界的意義は、当業者といえども把握できるものでない。
(2)本願の特許請求の範囲の記載について
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に示された特殊パラメータ「A×B」を含む数値限定で規定する範囲は本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められず、本願の特許請求の範囲の請求項の記載は、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に適合するものでない。

4 本願の発明の詳細な説明の記載について
(1)本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0010】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来のソリッドゴルフボールに対して、弾性ソリッドコアを複数層の樹脂カバーで被覆し、ボール表面に多数のディンプルを備えたマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、ショートアイアンによる打球について、ドライの状態に対するウエットの状態のスピンの保持率を高めると同時に、ドライバー等の飛距離を稼ぐためのクラブによる打球における飛びの安定性を高めた高性能なマルチピースソリッドゴルフボールを提供するという目的に対し、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された構成を採用することにより、上記目的を達成することができたとされることが開示されていると認められる。
(2)しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明の上記課題に関する記載のある箇所には、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に示された「上記ソリッドコアは、その直径が30?40mmであり、294N(30kgf)の荷重を加えた時に1.1mm以上4.0mm以下に変形する硬さを有し、上記コアに近接するカバー内層の主材が、アイオノマー樹脂に、分子量が280以上の脂肪酸又はその誘導体と、各々の酸基を中和することのできる塩基性無機金属化合物とを加熱混合したものであり、そのカバー内層のショアD硬度が50?62の範囲にあり、その外側のカバー外層の主材が、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーと、イソシアネート化合物との反応生成物であり、そのカバー外層のショアD硬度が35?55であり、カバー内層のショアD硬度をA、カバー外層のショアD硬度をBとすると、これらA,BがA×B≧2300の関係を満たすと共に、ディンプルと交差しない大円が1本も存在しないように多数のディンプルを実質上均等にボール表面に配置してなる」(以下「本願発明1特定事項」という。)との特殊パラメータ「A×B」を含む数値限定で規定する範囲が発明の解決しようとする課題を達成するために有効であることが、当業者にとって理解できるように記載されていない。また、発明の解決しようとする課題との関係で多数のパラメータの数値限定の範囲に設定することのメカニズム及び技術的意義並びに臨界的意義は、当業者といえども把握できるものでない。
(3)以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、技術的意義が不明で、特許法第36条第4項でいう経済産業省令で定めるところによる記載がされておらず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

5 本願の特許請求の範囲の記載について
本願発明1は、特殊パラメータ「A×B」を含む本願発明1特定事項によりマルチピースソリッドゴルフボールを特定しようとするものである。
そこで、本願発明1特定事項に係る特殊パラメータ「A×B」を含む数値限定に関する記載について、以下に検討する。
(1)本願明細書に開示された発明の課題と、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の上記記載との技術的関係
ア 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0007】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来のソリッドゴルフボールに対して、弾性ソリッドコアを複数層の樹脂カバーで被覆し、ボール表面に多数のディンプルを備えたマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、ショートアイアンによる打球について、ドライの状態に対するウエットの状態のスピンの保持率を高めると同時に、ドライバー等の飛距離を稼ぐためのクラブによる打球における飛びの安定性を高めた高性能なマルチピースソリッドゴルフボールを提供するという目的に対し、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された構成を採用することにより、上記目的を達成することができたとされることが開示されていると認められる。
イ しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明の上記課題に関する記載のある箇所には、本願発明1特定事項に係る特殊パラメータ「A×B」を含む数値限定と、発明の解決しようとする課題との間の技術的関係については記載も示唆もされていない。
ウ 一方、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明1特定事項に係る特殊パラメータ「A×B」を含む数値限定に関連して、以下に示す記載がある。
(ア)「【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、弾性ソリッドコアを複数層の樹脂 カバーで被覆し、ボール表面に多数のディンプルを備えたマルチピースソリッド ゴルフボールにおいて、ショートアイアンによる打球について、ドライの状態に 対するウエットの状態のスピンの保持率を高めると同時に、ドライバー等の飛距離を稼ぐためのクラブによる打球における飛びの安定性を高めた高性能なマルチ ピースソリッドゴルフボールを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するため、下記のマルチピースソリッドゴルフボールを提供する。
【0009】
請求項1:
弾性ソリッドコアを複数層の樹脂カバーで被覆し、ボール表面に多数のディンプルを備えたマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記ソリッドコアは、その直径が30?40mmであり、294N(30kgf)の荷重を加えた時に1.1mm以上4.0mm以下に変形する硬さを有し、上記コアに近接するカバー内層の主材が、アイオノマー樹脂に、分子量が280以上の脂肪酸又はその誘導体と、各々の酸基を中和することのできる塩基性無機金属化合物とを加熱混合したものであり、そのカバー内層のショアD硬度が50?62の範囲にあり、その外側のカバー外層の主材が、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーと、イソシアネート化合物との反応生成物であり、そのカバー外層のショアD硬度が35?55であり、カバー内層のショアD硬度をA、カバー外層のショアD硬度をBとすると、これらA,BがA×B≧2300の関係を満たすと共に、ディンプルと交差しない大円が1本も存在しないように多数のディンプルを実質上均等にボール表面に配置してなることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
請求項2:
カバー外層をカバー内層より軟らかく形成した請求項1記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
請求項3:
カバー外層が、芳香族又は脂肪族ジイソシアネートを用いて得られる熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを主材として形成された請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
請求項4:
カバー内層とカバー外層との間に接着剤層が介在してなる請求項1?3のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
請求項5:
上記コアの比重が1.0?1.3であり、カバー内層の比重が0.8?1.4であり、カバー外層の比重が0.9?1.3である請求項1?4のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【0010】
本発明によれば、上記解決手段を備えることにより、ボール表面にディンプルと交差しない大円が1本も存在しないようにディンプルを実質上均等にボール表面に配置してなるシームレスゴルフボールが得られ、ドライバー及びアイアンでの飛距離の安定性が得られると共に、ドライな状態(晴天時)は勿論、雨天時のウエットな状態においても、8番アイアン以上のロフトを有するショートアイアンによるボールのスピンのかかりが低下することなく、予想したとおりの打球の伸びと、グリーン上で止まり易く、コントロール性に優れ、ドライバーからグリーン周りまでのすべての条件において、安定した打撃条件、飛び性能、及びスピン性能を有し、プロゴルファー及びアマチュア上級者の使用に適した高性能なマルチピースソリッドゴルフボールが得られるものである。」
(イ) 「【0022】
上記カバー内層2は、下記(a),(b)のいずれか一方を主材として形成される。
(a)アイオノマー樹脂にオレフィン系エラストマー及び/又はポリエステル系エラストマーをブレンドしたもの
(b)アイオノマー樹脂に、分子量が280以上の脂肪酸又はその誘導体と、各々の酸基を中和することのできる塩基性無機金属化合物とを加熱混合したもの
・・・・(中略)・・・
【0027】
上記カバー内層は、アイオノマー樹脂に分子量が280以上の脂肪酸又はその誘導体と、各々の酸基を中和することのできる塩基性無機金属化合物を加熱混合してアイオノマー樹脂の酸基の中和度を向上させた材料を主材として形成される。更に、カバー内層としては、アイオノマー樹脂の酸含量を向上させたアイオノマー樹脂〔例えばハイミランAM7317、同AM7318(三井・デュポンポリケミカル社製)など〕を用いることができる。
・・・(中略)・・・
【0032】
上記カバー外層3は、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーとイソシアネート化合物との反応生成物を主成分としたものにて形成することができる。
・・・(中略)・・・
【0039】
本発明のカバー外層材としては、上述した熱可塑性ポリウレタン系エラストマーとイソシアネート化合物との反応生成物を用いることもでき、これによりアイアン打撃時の表面耐久性を更に向上させることができる。
・・・(中略)・・・
【0055】
また、本発明においては、カバー内層のショアD硬度をA、カバー外層のショアD硬度をBとすると、これらA,BがA×B≧2300の関係を満たすものであり、好ましくはA×B≧2500、更に好ましくはA×B≧2800であることが好ましい。A×B≧2300の関係を外れるとスピンが多くかかりすぎ、飛距離が低下する場合がある。
・・・(中略)・・・
(ウ) 「【0071】
〔実施例,比較例及び参考例〕
常法に従い、表1に示すソリッドコア上に、表2,3に示すカバー内層及びカバー外層を順次形成すると共に、ディンプルを均一に形成し、表4,5に示すツーピースソリッドゴルフボール又はスリーピースソリッドゴルフボールを製造した。
・・・(中略)・・・
【0073】
【表2】

*表中、添加剤の数値は樹脂成分の合計(100)に対する値を示す。
【0074】
【表3】

*表中、添加剤の数値は樹脂成分の合計(100)に対する値を示す。
*パンデックス:DIC・バイエルポリマー社製、熱可塑性ポリウレタン系エラストマー
*ニュクレル:三井・デュポンポリケミカル社製、エチレン・メタクリル酸・アクリル酸エステル共重合体及びエチレン-メタクリル酸共重合体
*ハイミラン:三井・デュポンポリケミカル社製、アイオノマー樹脂
*ダイナロン:JSR社製、ポリブタジエン水素添加物
*サーリン:米国デュポン社製、アイオノマー樹脂
*ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート:住友バイエルウレタン工業社製
*ハイトレル:東レ・デュポン社製、熱可塑性ポリエステルエラストマー
・・(中略)・・
【0077】
【表1】

【0078】
【表5】

(【図2】ないし【図7】は略す。)」
エ 上記ウから、本願発明1特定事項に係る特殊パラメータ「A×B」を含む数値限定と本願明細書に開示された発明の課題との因果関係、又は前記数値限定の特定が前記課題を解決するメカニズムを、当業者といえども把握できるものでない。
(2)小括
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明1特定事項に係る特殊パラメータ「A×B」を含む数値限定と、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の課題との因果関係、又は前記数値限定の特定が前記課題を解決するメカニズムについて記載も示唆もされていない。
(3) 本願明細書における具体例の開示からの検討
さらに、本願明細書の発明の詳細な説明に記載の具体例について、 本願明細書の本願の発明の詳細な説明の段落【0070】?【0078】には、実施例、参考例No.1ないし参考例No.3及び比較例1ないし比較例5の記載がある。
平成22年3月23日付け手続補正により、特許請求の範囲の請求項1について、「弾性ソリッドコアを複数層の樹脂カバーで被覆し、ボール表面に多数のディンプルを備えたマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記ソリッドコアは、その直径が30?40mmであり、294N(30kgf)の荷重を加えた時に1.1mm以上4.0mm以下に変形する硬さを有し、上記コアに近接するカバー内層の主材が、アイオノマー樹脂に、分子量が280以上の脂肪酸又はその誘導体と、各々の酸基を中和することのできる塩基性無機金属化合物とを加熱混合したものであり、そのカバー内層のショアD硬度が50?62の範囲にあり、その外側のカバー外層の主材が、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーと、イソシアネート化合物との反応生成物であり、そのカバー外層のショアD硬度が35?55であり、カバー内層のショアD硬度をA、カバー外層のショアD硬度をBとすると、これらA,BがA×B≧2300の関係を満たすと共に、ディンプルと交差しない大円が1本も存在しないように多数のディンプルを実質上均等にボール表面に配置してなることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。」と変更され、前記変更に伴い上記実施例1ないし実施例4は、それぞれ参考例No.1、実施例、参考例No.2及び参考例No.3に変更された。
しかしながら、上記実施例、参考例No.1ないし参考例No.3及び比較例1ないし比較例5の具体例のうち、上記参考例No.1ないし参考例No.3及び比較例1ないし比較例5は特許請求の範囲の請求項1に記載の「上記コアに近接するカバー内層の主材が、アイオノマー樹脂に、分子量が280以上の脂肪酸又はその誘導体と、各々の酸基を中和することのできる塩基性無機金属化合物とを加熱混合したもの」以外となり、特許請求の範囲の請求項1に記載の発明に対応する具体例に相当しないことは明らかである。
そうすると、本願明細書に記載の実施例、参考例No.1ないし参考例No.3及び比較例1ないし比較例5の具体例うち、特許請求の範囲の請求項1に記載の発明に対応する具体例は上記実施例の1例のみにすぎない。
してみれば、上記実施例の1例のみをもってすれば,特許請求の範囲の請求項1に記載の「『A』が『50?60』、『B』が『35?55』、『A,BがA×B≧2300の関係』」を満たすA-B平面における(60,50)の1点のみを含むA-B平面と参考例No.1(62,47)、参考例No.2(52,47)、参考例No.3(56,53)、比較例1(60,50)、比較例3(47,62)及び比較例4(40,55)を含むA-B平面との間には、特許請求の範囲の請求項1に記載の「『A』が『50?60』、『B』が『35?55』、『A,BがA×B≧2300の関係』」という区画以外にも他の数値や数式による様々な区画をすることができることは当業者ならずとも自明の事項である。
したがって、上記実施例の1例のみをもって、本願発明1特定事項に係る特殊パラメータ「A×B」を含む数値限定で規定される範囲に設定することの技術的意義並びに臨界的意義が裏付けられているとは、当業者といえども把握できるものではない。
(4) 追加された実施例及び比較例について
平成22年3月23日付け意見書において、請求人は、本願発明1に係る実施例及び比較例を多数提示したが、特許出願後に実験データを提出することで、発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足し、特許請求の範囲の記載をサポート要件に適合させようとすることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきである(平成17年(行ケ)第10042号判決参照。)から、上記意見書で提示された実施例及び比較例は、サポート要件の適合性を判断する際に考慮すべきものでなく、上記(3)の判断を左右するものでない。
(5) まとめ
上記(1)ないし(4)にて検討したとおりであるから、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められず、本願の特許請求の範囲の請求項1及びその従属請求項(請求項2ないし5)の記載は、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に適合するものでない。
よって、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

6 進歩性について
(1)刊行物の記載事項
ア 当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-104273号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ソリッドコアと、これを被覆する内外2層のカバーを有するマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記ソリッドコアの100kg荷重負荷時の変形量が2.4mm以上であり、かつ内側カバー層がアイオノマー樹脂を主材としてショアD硬度28?58に形成されていると共に、外側カバー層が熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主材としてショアD硬度30?55に形成されていることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項2】 内側カバー層の樹脂がアイオノマー樹脂とオレフィン系エラストマーとを重量比40:60?95:5の割合で混合したものである請求項1記載のゴルフボール。
【請求項3】 外側カバー層にショアD硬度が55以上のアイオノマー樹脂を熱可塑性ポリウレタンエラストマー100重量部に対し70重量部以下の割合で混合した請求項1又は2記載のゴルフボール。」
(イ) 「【0008】ここで、上記ソリッドコアは、主としてゴム基材からなり、ゴム基材としては従来からソリッドゴルフボールに用いられている天然ゴム及び/又は合成ゴムを使用することができるが、本発明においては、シス構造を少なくとも40%以上有する1,4-ポリブタジエンが特に好ましい。この場合、所望により該ポリブタジエンに天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム等を適宜配合してもよい。【0009】更に詳述すると、本発明のゴルフボールのソリッドコアは通常の方法により、加硫条件、配合比等を調節することにより得られる。通常、ソリッドコアの配合には基材ゴム、架橋剤、共架橋剤、不活性充填剤等が含まれる。基材ゴムとしては上述した天然ゴム及び/又は合成ゴム等を使用することができ、架橋剤としてはジクミルパーオキサイドやジ-t-ブチルパーオキサイドのような有機過酸化物等が例示されるが、特に好ましくはジクミルパーオキサイドである。架橋剤の配合量は基材ゴム100重量部に対して通常0.5?2.0重量部である。
【0010】共架橋剤としては特に制限されず、不飽和脂肪酸の金属塩、特に、炭素原子数3?8の不飽和脂肪酸(例えばアクリル酸、メタアクリル酸等)の亜鉛塩やマグネシウム塩が例示されるが、アクリル酸亜鉛が特に好適である。この共架橋剤の配合量は基材ゴム100重量部に対して10?50重量部、好ましくは20?48重量部である。
【0011】不活性充填剤としては酸化亜鉛、硫酸バリウム、シリカ、炭酸カルシウム及び炭酸亜鉛等が例示されるが、酸化亜鉛、硫酸バリウムが一般的で、その配合量はコアとカバーの比重、ボールの重量規格等に左右され、特に限定されないが、通常は基材ゴム100重量部に対して3?30重量部である。なお、本発明においては酸化亜鉛、硫酸バリウムの配合割合を適宜調整することで最適なソリッドコアの硬度を得ることができる。
【0012】上記成分を配合して得られるソリッドコア組成物は通常の混練機、例えばバンバリーミキサーやロール等を用いて混練し、コア用金型に圧縮又は射出成形し、成形体を架橋剤及び共架橋剤が作用するのに十分な温度(例えば架橋剤としてジクミルパーオキサイドを用い、共架橋剤としてアクリル酸亜鉛を用いた場合には約130?170℃)で加熱硬化してソリッドコアを調製する。
【0013】上記ソリッドコアは100kg荷重を負荷した時の変形量(たわみ量)が2.4mm以上、好ましくは2.7?7.0mm、更に好ましくは2.9?5.5mmである。100kg荷重負荷時の変形量が2.4mmより小さい(硬い)と打感が硬く感じられるという不利が生じる。なお、変形量が大きすぎる(軟らかすぎる)と反発性を十分得ることができなくなる場合がある。
【0014】ソリッドコアの比重は0.9?1.3、特に1.0?1.25であることが好ましい。
【0015】なお、本発明において、ソリッドコアの直径は30?40mm、特に33?39mmであることが好ましい。また、ソリッドコアは、上記100kg荷重負荷時の変形量を有していれば、複層構造であってもよい。」
(ウ) 「【0016】次に、内側カバー層は、アイオノマー樹脂を主材として形成される。この場合、アイオノマー樹脂としては、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよいが、後述するショアD硬度、比重を満足するように選定、使用される。具体的には、デュポン製「サーリン」,三井・デュポンポリケミカル製「ハイミラン」,エクソン製「アイオテック」等を使用することができる。
【0017】この場合、アイオノマー樹脂に更にオレフィン系エラストマーを混合することにより、各々を単独で使用した時に達し得ない特性(例えば打感や反発性)を得ることができる。オレフィン系エラストマーとしては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ゴム強化オレフィンポリマー、フレキソマー、プラストマー、酸変性物も含む熱可塑性エラストマー(スチレン系ブロックコポリマー、水素添加ポリブタジエンエチレンプロピレンゴム)、動的に加硫されたエラストマー、エチレンアクリレート、エチレンビニルアセテート等が挙げられる。具体的には、三井・デュポンポリケミカル製「HPR」,日本合成ゴム製「ダイナロン」等が用いられる。
【0018】アイオノマー樹脂とオレフィン系エラストマーとの混合割合は、重量比として40:60?95:5、好ましくは45:55?90:10、更に好ましくは48:52?88:12、特に55:45?85:15であることが望ましい。オレフィン系エラストマーが少なすぎると打感が硬くなりやすい。一方、これが多すぎると反発性が低下するおそれがある。
【0019】なお、上記アイオノマー樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で更に他のポリマーを配合しても差し支えない。
【0020】また、上記アイオノマー樹脂を主材とする内側カバー層は、酸化亜鉛、硫酸バリウム、二酸化チタン等の無機充填材を30重量%程度又はそれ以下含んでいてもよい。好ましくはこの量を1?30重量%とする。
【0021】上記内側カバー層は、ショアD硬度が28?58、特に30?57であることが必要であり、ショアD硬度が28より低いと反発性を損ね、また58より高いと打感が悪くなる。
【0022】更に、内側カバー層の比重は0.8?1.2、特に0.9?1.18であることが好ましい。
【0023】なお、上記内側カバー層の厚さは0.5?3.0mm、特に0.9?2.5mmであることが好ましい。」
【0024】一方、外側カバー層は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーにて形成する。ここで、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの分子構造は、ソフトセグメントを構成する高分子ポリオール化合物と、ハードセグメントを構成する単分子鎖延長剤と、ジイソシアネートからなる。
【0025】高分子ポリオール化合物としては、特に制限されるものではないが、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、コポリエステル系ポリオール、及びポリカーボネート系ポリオールのいずれでもよく、ポリエステル系ポリオールとしては、ポリカプロラクトングリコール、ポリ(エチレン-1,4-アジペート)グリコール、ポリ(ブチレン-1,4-アジペート)グリコール等、コポリエステル系ポリオールとしては、ポリ(ジエチレングリコールアジペート)グリコール等、ポリカーボネート系ポリオールとしては、(ヘキサンジオール-1,6-カーボネート)グリコール等、ポリエーテル系ポリオールとしては、ポリオキシテトラメチレングリコール等が挙げられる。これらの数平均分子量は約600?5000、好ましくは1000?3000である。
【0026】ジイソシアネートとしては、カバーの耐黄変性を考慮して脂肪族ジイソシアネートが好適に用いられる。具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4(2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート(LDI)などが挙げられるが、特にHDIが他の樹脂とのブレンドする際の相溶性の点から好ましい。
【0027】単分子鎖延長剤としては、特に制限されず、通常の多価アルコール、アミン類を用いることができ、具体的には1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,6-ヘキシレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジシクロヘキシルメチルメタンジアミン(水添MDA)、イソホロンジアミン(IPDA)などが挙げられる。
【0028】上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、粘弾性測定によるtanδピーク温度が-15℃以下、特に-16℃?-50℃であるものが軟らかさ、反発性の点から好ましい。
【0029】このような熱可塑性ポリウレタンエラストマーとしては、市販品を用いることができ、例えばパンデックスT7298(-20℃),同T7295(-26℃),同T7890(-30℃)(大日本インキ化学工業製)などのジイソシアネートが脂肪族であるものが挙げられる。なお、括弧内の数字はいずれもtanδピーク温度を示す。
【0030】上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーには、必要に応じ、熱可塑性ポリウレタンエラストマー100重量部に対し、ショアD硬度が55以上、好ましくは55?70、特に56?69のアイオノマー樹脂を0?70重量部、特に0?35重量部配合することができる。このアイオノマー樹脂の配合により反発性を向上させることができる。なお、このアイオノマー樹脂を配合する場合の下限は1重量部とすることができる。
【0031】また、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主材とする外側カバー層は、酸化亜鉛、硫酸バリウム、二酸化チタン等の無機充填材を1?30重量%、特に1.5?28重量%含有してもよい。
【0032】上記外側カバー層のショアD硬度は30?55、好ましくは32?54、更に好ましくは33?53である。ショアD硬度が30より低いと低反発となり、55より高いと打感が悪くなる。
【0033】外側カバー層の比重は1.05?1.4、特に1.1?1.35であることが好ましい。
【0034】上記外側カバー層の厚さは0.5?2.5mm、特に1.0?2.3mmであることが好ましい。
【0036】なお、上記内側カバー層、外側カバー層の形成方法は、射出成形、ハーフシェルを用いた圧縮成形など、公知の方法によって行うことができる。
【0037】このようにして得られたマルチピースソリッドゴルフボールは、後述する方法で測定した慣性モーメントが83g・cm2以上、特に83?90g・cm^(2)であることが好ましい。慣性モーメントが83g・cm^(2)より小さいと、パターによるボールの転がりが悪くなるという不利を生じる場合がある。
【0038】また、上記外側カバー層には、常法に従ってディンプルが形成されるが、本発明のゴルフボールの直径、重さ等はゴルフ規則に従い、直径42.67mm以上、重量は45.93g以下に形成することができる。」
(エ) 「【0040】
【実施例】以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0041】〔実施例,比較例〕表1に示す組成のソリッドコアを作製した。
【0042】
【表1】

*ポリブタジエン:日本合成ゴム製,BR01
【0043】次に、上記コアに表2に示す組成の内側カバー層を射出成形によって被覆し、次いで表3に示す組成の外側カバー層を射出成形によって被覆し、表4,5に示す重量、外径のスリーピースゴルフボールを製造した。
【0044】得られたゴルフボールの慣性モーメント、飛距離、スピン量、フィーリング、耐ササクレ性、連続耐久性について下記方法で測定した。結果を表4,5に示す。
・・・(中略)・・・
【0046】
【表2】

HPR AR201:三井・デュポンポリケミカル製,酸変性した熱可塑性樹脂
ダイナロン:日本合成ゴム製,ブロックコポリマー,ブタジエン-スチレン共重合体水素添加物
ハイトレル:東レ・デュポン製,熱可塑性ポリエステルエラストマー
PEBAX:アトケム製,ポリアミド系エラストマー
サーリン:デュポン製,アイオノマー樹脂
ハイミラン:三井・デュポンポリケミカル製,アイオノマー樹脂
【0047】
【表3】

PANDEX:大日本インキ化学工業製,熱可塑性ポリウレタンエラストマー
ハイミラン:三井・デュポンポリケミカル製,アイオノマー樹脂
サーリン:デュポン製,アイオノマー樹脂
【0048】
【表4】


(オ)上記(ア)ないし(エ)から、引用例1、特にその実施例2には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ソリッドコアを内側カバー層及び外側カバー層で被覆し、外側カバー層にディンプルを備えたスリーピースソリッドゴルフボールにおいて、ソリッドコア組成が、ポリブタジエン100重量部、ジクミルパーオキサイド1.2重量部、硫酸バリウム7重量部、亜鉛華5重量部、老化防止剤0.2重量部、ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩1重量部、アクリル酸亜鉛25.9重量部であって、上記ソリッドコアは、その直径が36.40mmであり、100kg荷重を負荷した時の変形量(たわみ量)が4.00mmであり、内側カバー層の主材が、アイオノマー樹脂である「サーリン AD8511」及び「サーリン AD8512」を含み、その内側カバー層のショアD硬度が56であり、その外側カバー層の主材が、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーである「PANDEX T7298」であり、外側カバー層のショアD硬度が50であるスリーピースソリッドゴルフボール。」

イ 当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-56848号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0015】次に、ソリッドコア2において、その内芯球3は、その硬度が100kgの荷重を加えた時のたわみ量で3.5?10.0mmであり、特に4.0?9.5mmであることが好ましい。また、30kgの荷重を加えた時のたわみ量が1.74?5.40mm、特に2.02?5.11mmが好ましい。内芯球3の硬さが小さすぎると反発力が低下し、飛距離が低下する傾向があり、硬さが大きすぎるとフィーリングが低下する傾向にある。なお、そのショアD硬度は10?55度、より好ましくは15?50度であることが好ましい。」

ウ 当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である国際公開98/46671号(以下「引用例3」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。
(ア) 「It is well known in the art that in ethylene/carboxylic acid ionomers, metal ions are labile, and not necessarily associated with one particular acid group. Ion clusters can occur acting as crosslinks in the solid state, but the ions are sufficiently labile to allow thermoplastic processability. If stearic acid rather than a stearate is added to an ionomer, there will be a distribution of the metal ions of the ionomer between the acid groups of the ionomer and the acid groups in the stearate. Thus, in effect a metal stearate will be present Stearic acid added to an ionomer or mixed (metal) ionomers will thus, in effect contain stearates, but the level of neutralization of the ionomer itself, (i.e., ions associated with the polymer) will decrease, since some ions will become associated with the stearic moiety. If the ionomers have high levels of neutralization, it is possible to prepare the materials of the invention by adding stearic acid, rather than a stearate, since in effect, polymer with metal stearates, with somewhat lower level of neutralization of the ionomer, will result 」(10頁1行ないし14行)
(審決訳:エチレン/カルボン酸アイオノマーにおいて、金属イオンは不安定であり、そしてひとつの特定の酸基と必ずしも結合しないことは、従来技術において周知である。イオンクラスターは固体状態において架橋剤としての作用を起こすことができるが、しかし、イオンは十分に不安定であり、熱可塑性プラスチックのプロセス性を与える。ステアリン酸塩よりむしろステアリン酸がアイオノマーに添加されるなら、アイオノマーの酸基とステアリン酸塩中の酸基との間でアイオノマーの金属イオンの配布になるであろう。したがって、結果においてステアリン酸金属塩が存在するであろう。アイオノマーまたは混合(金属)アイオノマーに添加されるステアリン酸は、したがって、結果においてステアリン酸塩を含有するが、しかし、イオンのいくらかはステアリン酸成分と結合するであろうから、アイオノマー自体の中和の濃度(すなわち、ポリマーと結合するイオン)は低下するであろう。アイオノマーが高濃度の中和を有するならば、結果において、ステアリン酸金属塩を備えるポリマーが、いくらかより低い濃度のアイオノマーの中和をともなって得られるので、ステアリン酸塩よりむしろステアリン酸を添加することにより本発明の材料を調製することが可能である。)
(イ) 「11. A golf ball having a center, a cover and at least one intermediate layer wherein the intermediate layer comprises
(i) an ionomeric polymer containing
a) ethylene,
b) from 5 to 25 weight percent (meth)acrylic acid,
c) from 0 to 40 weight percent of a 1 to 8Oalkyl, alkyl acrylate, the acid groups neutralized to between 10 and 90 percent with zinc, sodium, lithium, calcium, magnesium ions and a mixture of any of these, and
(ii) from 5 to 45 weight percent, based on (i) plus (ii), of a metal stearate, the metal selected from the group consisting of calcium, sodium, zinc, lithium, magnesium and barium or a mixture of said metal stearates.

12. The golf ball according to Claim 11 wherein the metal of the metal stearate is selected from calcium or magnesium.」(26頁9行ないし22行)
(審決訳: 11.センター、カバーおよび少なくとも1の中間層を有するゴルフボールにおいて、前記中間層は;
(i) a)エチレン、
b)5から25重量パーセントの(メタ)アクリル酸
c)0から40重量パーセントの1から8C-アルキル、アルキルアクリレート、を含有するアイオノマー性ポリマーであり、該酸基が、亜鉛、ナトリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムイオンおよびこれらのいずれかの混合物で10から90パーセントまで中和されたアイオノマー性ポリマーと、
(ii)(i)と(ii)に基づいて5から45重量パーセントのステアリン酸金属塩、但し、金属は、カルシウム、ナトリウム、亜鉛、リチウム、マグネシウムおよびバリウムから成る群から選択されるもの、または前記ステアリン酸金属塩の混合物とを具えたことを特徴とするゴルフボール。
12.前記ステアリン酸金属塩の金属がカルシウムまたはマグネシウムから選択されることを特徴とする請求項11記載のゴルフボール。)

エ 当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-178949号公報(以下「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア) 「【請求項1】 ソリッドコアと、該ソリッドコアにカバーを被覆してなるソリッドゴルフボールにおいて、上記カバーを形成する樹脂成分が、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとイソシアネート化合物との反応生成物を主成分としてなることを特徴とするソリッドゴルフボール。」
(イ) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、製造時の成形性に優れ、かつ打感、コントロール性、初速(反発性・飛距離)、アイアン打撃時の耐擦過傷性に優れたソリッドゴルフボールに関する。」

(2)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「100kg荷重を負荷した時」とは「100kgの荷重を加えた時」といえる。
そうすると、引用発明の「100kgの荷重を加えた時」において、前記「kg」は正確には質量の単位であって、前記「荷重」の単位でないことから、正確に前記荷重の単位で表現すれば、「kgf」と表現すべきことは自明である。
したがって、引用発明の「100kgの荷重を加えた時」は、以下「100kgfの荷重を加えた時」といえる。
イ 引用発明の「内側カバー層」及び「外側カバー層」は、それぞれ、本願発明1の「カバー内層」及び「カバー外層」に相当する。
ウ 引用発明において、内側カバー層の主材が、アイオノマー樹脂である「サーリン AD8511」及び「サーリン AD8512」を含み、外側カバー層の主材が、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーである「PANDEX T7298」であるところ、前記「外側カバー層の主材」に係る「熱可塑性ポリウレタン系エラストマーである「PANDEX T7298」は樹脂であることは明らかであることから、引用発明の「内側カバー層」及び「外側カバー層」はそれぞれ「樹脂カバー」であるといえる。
そうすると、引用発明の「ソリッドコアを内側カバー層及び外側カバー層で被覆し」は「ソリッドコアを2層の樹脂カバーで被覆し」といえる。
してみれば、引用発明の「ソリッドコアを内側カバー層及び外側カバー層で被覆し」は「ソリッドコアを複数層の樹脂カバーで被覆し」の点で本願発明1に包含される。
エ 引用発明において、「外側カバー層」は「スリーピースソリッドゴルフボール」の「ボール表面」といえ、かつ、「ディンプル」が多数存在することは、当業者に自明であるから、引用発明の「外側カバー層にディンプルを備えたスリーピースソリッドゴルフボール」は「ボール表面に多数のディンプルを備えたスリーピースソリッドゴルフボール」といえる。
オ 引用発明の「スリーピースソリッドゴルフボール」は「マルチピースソリッドゴルフボール」の点で本願発明1に包含される。
カ 引用発明の「上記ソリッドコアは、その直径が36.40mmであり」は「上記ソリッドコアは、その直径が30?40mmであり」の点で本願発明1に包含される。
キ 引用発明の「ソリッドコア」に係る「100kg荷重を負荷した時の変形量(たわみ量)が4.00mmであり」と本願発明1の「弾性ソリッドコア」に係る「294N(30kgf)の荷重を加えた時に1.1mm以上4.0mm以下に変形する硬さを有し」とは「特定の荷重を加えた時に所定量変形する硬さを有し」の点で共通する。
ク 引用発明の「外側カバー層の主材が、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーである「PANDEX T7298」であり、」と本願発明1の「カバー外層の主材が、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーと、イソシアネート化合物との反応生成物であり、」とは「カバー外層の主材が、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含む」点で共通する。
ケ 引用発明の「内側カバー層の主材」と本願発明1の「カバー内層の主材」とは「アイオノマー樹脂を含む」点で共通する。
コ 引用発明の「その内側カバー層のショアD硬度が56であり」は「そのカバー内層のショアD硬度が50?62の範囲にあり」の点で本願発明1に包含される。
サ 引用発明の「その外側カバー層のショアD硬度が50であり」は「そのカバー外層のショアD硬度が35?55であり」の点で本願発明1に包含される。
シ 引用発明の内側カバー層のショアD硬度は56であり、外側カバー層のショアD硬度は50であるから、それらの積は2800となる。
したがって、引用発明は「カバー内層のショアD硬度をA、カバー外層のショアD硬度をBとすると、これらA,BがA×B≧2300の関係を満たす」の点で本願発明1に包含される。
ス 上記アないしシから、本願発明1と引用発明とは、
「ソリッドコアを複数層の樹脂カバーで被覆し、ボール表面に多数のディンプルを備えたマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記ソリッドコアは、その直径が30?40mmであり、特定の荷重を加えた時に所定量変形する硬さを有し、上記コアに近接するカバー内層の主材が、アイオノマー樹脂であり、そのカバー内層のショアD硬度が50?62の範囲にあり、その外側のカバー外層の主材が、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含み、そのカバー外層のショアD硬度が35?55であり、カバー内層のショアD硬度をA、カバー外層のショアD硬度をBとすると、これらA,BがA×B≧2300の関係を満たすマルチピースソリッドゴルフボール。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:
前記ソリッドコアに特定の荷重を加えた時の変形量が、本願発明1では、「294N(30kgf)の荷重を加えた時に1.1mm以上4.0mm以下」であるのに対して、引用発明では、100kg荷重を負荷した時に4.00mmである点。

相違点2:
前記ソリッドコアが、本願発明1では、弾性を有するのに対し、引用発明では、弾性を有するか否か明確でない点。

相違点3:
前記カバー内層の主材が、本願発明1では、「アイオノマー樹脂に、分子量が280以上の脂肪酸又はその誘導体と、各々の酸基を中和することのできる塩基性無機金属化合物とを加熱混合したもの」であるのに対して、引用発明では、アイオノマー樹脂を含む点。

相違点4:
前記カバー外層の主材が、本願発明1では、「熱可塑性ポリウレタン系エラストマーと、イソシアネート化合物との反応生成物」であるのに対して、引用発明では、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーである点。

相違点5:
前記ボール表面上の多数のディンプルが、本願発明1では、「ディンプルと交差しない大円が1本も存在しない」ように「実質上均等」に配置されるのに対して、引用発明では、どのように配置されるのか明らかでない点。

(3) 判断
上記相違点1ないし5について検討する。
ア 相違点1について
(ア)引用例1には、「本発明においては酸化亜鉛、硫酸バリウムの配合割合を適宜調整することで最適なソリッドコアの硬度を得ることができる。・・(略)・・上記ソリッドコアは100kg荷重を負荷した時の変形量(たわみ量)が2.4mm以上、好ましくは2.7?7.0mm、更に好ましくは2.9?5.5mmである。100kg荷重負荷時の変形量が2.4mmより小さい(硬い)と打感が硬く感じられるという不利が生じる。なお、変形量が大きすぎる(軟らかすぎる)と反発性を十分得ることができなくなる場合がある。」(上記5(1)ア(イ)の【0011】?【0013】参照。)と記載されており、ソリッドコアの硬度は、打感や反発性等を考慮して当業者が適宜決定すべき設計事項というべきものである。
ここで、上記「酸化亜鉛」を「亜鉛華」ともいうことは技術常識である(例.特開平8-141112号公報「【0013】・・(中略)・・酸化亜鉛(亜鉛華)・・(中略)・」及び「特開平11-240819号公報【0003】・・(中略)・・、亜鉛華(酸化亜鉛)・・(中略)・・」参照。)。
(イ)引用例2には、「ソリッドコア2において、その内芯球3は、その硬度が100kgの荷重を加えた時のたわみ量で3.5?10.0mmであり、特に4.0?9.5mmであることが好ましい。また、30kgの荷重を加えた時のたわみ量が1.74?5.40mm、特に2.02?5.11mmが好ましい。内芯球3の硬さが小さすぎると反発力が低下し、飛距離が低下する傾向があり、硬さが大きすぎるとフィーリングが低下する傾向にある。」(上記5(1)イ参照。)と記載されている。ここで、前記「30kgの荷重」を「30kgfの荷重」と表記し得ることは、当業者に自明である。
(ウ)上記(ア)及び(イ)から、引用発明において、ソリッドコアにおける亜鉛華(酸化亜鉛)、硫酸バリウムの配合割合を適宜調整する(上記(ア)参照。)ことにより、ソリッドコアの硬度を、30kgfの荷重を加えた時のたわみ量(上記(イ)参照。)が1.1mm以上4.0mm以下となる硬度とし、上記相違点1に係る本願発明1の構成となすことは、当業者が、引用例1に記載された事項及び引用例2に記載された事項に基づいて適宜なし得た設計上のことである。

イ 相違点2について
(ア)引用発明の「ソリッドコア」は、ポリブタジエンにアクリル酸亜鉛がグラフト架橋し、三次元構造をとるものであることは自明である(例.特開昭61-113475号公報特に4頁右上欄下から2行?5頁右上欄下から9行(実施例1)及び10頁第1図参照。)。
(イ)上記(ア)から、上記ポリブタジエンにアクリル酸亜鉛がグラフト架橋し、三次元構造をとるものは弾性を有することは明らかである。
(ウ)上記(イ)から、引用発明の「ソリッドコア」が弾性を有することは明らかである。
(エ)上記(ウ)から、上記相違点2は、実質的な相違点ではなく単なる表現上の差異にすぎない。

ウ 相違点3について
(ア)以下の点a及びbは自明である。
a ステアリン酸(分子式::C_(18)H_(36)O_(2))及びベヘニン酸(ベヘン酸)(分子式:C_(22)H_(44)O_(2))は、それぞれ分子量が284及び341の脂肪酸である点。
ここで、上記「ベヘニン酸」を「ベヘン酸」ともいうことは技術常識である(例.特開2000-234085号公報「【0019】高級脂肪酸としては、・・(中略)・・例えば、・・(中略)・・ベヘン酸(ベヘニン酸)(中略)・・」参照。)。
b Na^(+)、K_(+)、Li^(+)、Zn^(++)、Cu^(++)、Mg^(++)、Ca^(++)、Co^(++)、Ni^(++)又はPb^(++) から選択される金属イオンからなる炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物又は水酸化物が、塩基性無機金属化合物である点。
(イ)上記(ア)aに照らせば、ソリッドコアを複数層の樹脂カバーで被覆したマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記コアに近接するカバー内層の主材が、アイオノマー樹脂と、分子量が280以上の脂肪酸又はその誘導体からなる金属塩(金属せっけん)とを加熱混合したものであるゴルフボールは、本願の出願前に周知である(例.上記(1)ウ(イ)、特開2000-279554号公報特に【0012】ないし【0026】及び【0031】ないし【0035】、特開2000-157646号公報【0011】ないし【0042】、特開2000-93557号公報特に【0016】ないし【0026】、特開平6-343718号公報特に【0024】、【0036】、【0037】及び【0103】「B」参照。以下「周知技術1」という。)。
(ウ)上記(ア)bに照らせば、ソリッドコアを複数層の樹脂カバーで被覆したマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記コアに近接するカバー内層の主材が、アイオノマー樹脂と塩基性無機化合物とを加熱混合して該アイオノマー樹脂の酸基を中和したものであるゴルフボールは、本願の出願前に周知である(例.上記特開2000-279554号公報特に【0015】「また、上記アイオノマー樹脂中のカルボン酸を中和する金属としては、Na^(+)、K_(+)、Li^(+)、Zn^(++)、Cu^(++)、Mg^(++)、Ca^(++)、Co^(++)、Ni^(++)、Pb^(++)などが挙げられるが、特にNa^(+)、Li^(+)、Zn^(++)、Mg^(++)などが好適に用いられる。この場合、中和度は、好ましくは20?80モル%、より好ましくは25?75モル%である。中和度が20モル%未満では、カバー材の剛性が不足して反発性が低下する場合があり、80モル%を超えると、カバー材組成物の流れ性、加工性が損なわれる場合がある、なお、これらの金属イオンはギ酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、水酸化物、及びアルコキシド等の化合物として使用することができる。」及び【0031】ないし【0035】、特開2000-157646号公報特に【0011】「請求項1:アイオノマー樹脂成分として(a)酸含量12重量%以下のオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル共重合体の金属イオン中和物からなる3元アイオノマー樹脂と(b)酸含量15重量%以下のオレフィン-不飽和カルボン酸共重合体の金属イオン中和物からなる2元アイオノマー樹脂とを重量比40:60?100:0の割合で含むアイオノマー樹脂成分と、・・(中略)・・であることを特徴とするゴルフボールカバー材。・・(中略)・・請求項8:コアと、該コアに被覆形成されたカバーとを具備してなるゴルフボールにおいて、カバーが2層以上の多層構造であって、該カバーの最外層以外の少なくとも1層のカバーが請求項1?6のいずれか1項記載のゴルフボールカバー材にて形成されたことを特徴とするゴルフボール。」及び「【0018】(a)成分は、上記オレフィン、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸エステルのランダム共重合体中の不飽和カルボン酸のカルボキシル基が金属イオンにて中和されたものであり、その中和度は通常20?80モル%、より好ましくは25?75モル%である。中和度が低すぎると、カバー材の剛性が不足して反発性が低下する場合があり、中和度が高すぎると、カバーの物性の向上が認められない上に、カバー材組成物の流れ性、加工性が損なわれる場合がある。【0019】ここで、中和に使われる金属イオンとしては、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)、Zn^(++)、Co^(++)、Ni^(++)、Cu^(++)、Pb^(++)及びMg^(++)などを挙げることができるが、特にLi^(+)、Na^(+)、Zn^(++)、Mg^(++)が好ましい。これらの金属イオンは、ギ酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、水酸化物、及びアルコキシド等の化合物として使用することができる。」並びに特開昭60-212406号公報特に2.特許請求の範囲「1.ナトリウム中和アイオノマー樹脂の未中和カルボン酸基をマグネシウムイオンにより2?45%中和したアイオノマー樹脂2.マグネシウムイオンが水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム・・(中略)・・またはそれらの混合物から得られる第1項記載のアイオノマー樹脂」及び3頁右上欄下から3行?左下欄5行「上述のようにして得られたアイオノマー樹脂は・・例えば、ゴルフボール用コアを被覆するカバーとして用いる場合には、前記樹脂を予め半球角状に成形した2枚のカバーでコアを包み、・・(中略)・・」参照。以下「周知技術2」という。)。
(エ)上記(ア)a及び上記(ア)bに照らせば、分子量が280以上の脂肪酸と、該脂肪酸の酸基を中和することのできる塩基性無機金属化合物とを加熱混合する金属せっけんの製造方法は、本願の出願前に周知である(例.特開昭58-222200号公報実施例1及び実施例4並びに特開平4-66551号公報実施例1ないし実施例5参照。以下「周知技術3」という。)。
(オ)引用例3には、ゴルフボールに用いるステアリン酸変性アイオノマーに関して、「ステアリン酸塩よりむしろステアリン酸がアイオノマーに添加されるなら、アイオノマーの酸基とステアリン酸塩中の酸基との間でアイオノマーの金属イオンの配布になるであろう。したがって、結果においてステアリン酸金属塩が存在するであろう。アイオノマーまたは混合(金属)アイオノマーに添加されるステアリン酸は、したがって、結果においてステアリン酸塩を含有するが、しかし、イオンのいくらかはステアリン酸成分と結合するであろうから、アイオノマー自体の中和の濃度(すなわち、ポリマーと結合するイオン)は低下するであろう。アイオノマーが高濃度の中和を有するならば、結果において、ステアリン酸金属塩を備えるポリマーが、いくらかより低い濃度のアイオノマーの中和をともなって得られるので、ステアリン酸塩よりむしろステアリン酸を添加することにより本発明の材料を調製することが可能である。」(上記(1)ウ(ア)参照。)と記載されている。
(カ)上記(イ)ないし(オ)から、引用発明の内側カバー層の主材であるアイオノマー樹脂をステアリン酸変性アイオノマーとすることとし、該ステアリン酸変性アイオノマーを、アイオノマー樹脂にステアリン酸を添加する(上記(オ)参照。)とともに、該アイオノマー樹脂と該ステアリン酸の各々の酸基を中和できる塩基性無機金属化合物を加熱混合して(上記(イ)ないし(エ)参照。)なるものとし、上記相違点3に係る本願発明1の構成となすことは、当業者が、引用例3に記載された事項及び周知技術1ないし3に基づいて容易になし得たことである。

エ 相違点4について
(ア)引用例4には、ソリッドコアと、該ソリッドコアにカバーを被覆してなるソリッドゴルフボールにおいて、上記カバーを形成する樹脂成分が、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとイソシアネート化合物との反応生成物を主成分としてなるソリッドゴルフボールは、製造時の成形性に優れ、かつ打感、コントロール性、初速(反発性・飛距離)、アイアン打撃時の耐擦過傷性に優れることが記載されている(上記5(1)エ参照。)。
(イ)上記(ア)から、引用発明において、ゴルフボールの製造時の成形性、打感、コントロール性、初速(反発性・飛距離)、アイアン打撃時の耐擦過傷性を向上するために、カバー外層の主材として、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーに代えて、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーとイソシアネート化合物との反応生成物を用い、上記相違点4に係る本願発明1の構成となすことは、当業者が引用例4に記載された事項に基づいて容易になし得たことである。

オ 相違点5について
(ア)ディンプルと交差しない大円が1本も存在しないように多数のディンプルを実質上均等にボール表面に配置してなるゴルフボールは、本願の出願前に周知である(例.特開平11-70186号公報特に【0001】及び【0002】、特開平10-127816号公報特に【0001】及び【0002】、並びに特開2000-325499号公報特に【0002】及び【0010】参照。以下「周知技術4」という。)。
(イ)上記(ア)から、引用発明の多数のディンプルを、ディンプルと交差しない大円が1本も存在しないように実質上均等にボール表面に配置されたものとし、上記相違点5に係る本願発明1の構成となすことは、当業者が周知技術4に基づいて容易になし得たことである。

カ 効果について
本願発明1の奏する効果は、引用発明1の奏する効果、引用例1ないし4に記載された事項及び周知技術1ないし4それぞれの奏する効果から、当業者が予測することができた程度のものである。

キ まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、引用例1ないし4に記載された事項及び周知技術1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7 むすび
上記4及び5のとおり、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件及び同条第6項に規定する要件のいずれも満たしていない。
また、上記6のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-14 
結審通知日 2010-06-16 
審決日 2010-06-29 
出願番号 特願2000-389794(P2000-389794)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63B)
P 1 8・ 537- WZ (A63B)
P 1 8・ 536- WZ (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小齊 信之  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 桐畑 幸▲廣▼
菅野 芳男
発明の名称 マルチピースソリッドゴルフボール  
代理人 重松 沙織  
代理人 小林 克成  
代理人 石川 武史  
代理人 小島 隆司  

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