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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C |
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管理番号 | 1222370 |
審判番号 | 不服2007-25185 |
総通号数 | 130 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-09-13 |
確定日 | 2010-08-23 |
事件の表示 | 特願2001-275764「銀を含む銅合金および該銅合金の形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月26日出願公開、特開2002-180159〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成13年8月8日(パリ条約による優先権主張2000年8月9日、米国)の出願であって、平成18年11月13日付けで拒絶理由通知がなされ、平成19年5月17日付けで明細書の手続補正がなされたが、同年6月11日付けで拒絶査定がなされたものである。 本件審判は、この査定を不服として、平成19年9月13日付けで請求がなされたものであり、同年10月15日付けで明細書の手続補正もなされていたところ、平成21年6月29日付けで当該明細書の手続補正について補正の却下の決定がなされると共に拒絶理由通知がなされ、平成22年1月4日付けで再度、明細書の手続補正がなされたものである。 2.本願発明の認定 本願の請求項1,10,11に係る発明(以下、「本願発明1,10,11」という。)は、平成22年1月4日付けで手続補正がなされた明細書の特許請求の範囲において、請求項1,10,11に記載された次の事項により特定されるものと認められる。 【請求項1】 改善された組合せの降伏強度、導電性および応力緩和性を有する銅合金であって、 0.15?0.7質量%のクロムと、 0.005?0.3質量%の銀と、 0.01?0.15質量%のチタンと、 0.01?0.10質量%のケイ素と、 0.2質量%以下の鉄と、 0.5質量%以下の錫と、 残部の銅および不可避不純物とから成り、 少なくとも75%IACSの導電率と、少なくとも550MPaの降伏強度と、銀を含まないことを除き前記合金組成と同一の組成を有する合金と比較した時に、温度150℃および200℃における改善された耐応力緩和性とを有する銅合金。 【請求項10】 ロッドに成形された請求項1、請求項2または請求項5に記載の銅合金。 【請求項11】 ワイヤに成形された請求項1、請求項2または請求項5に記載の銅合金。 3.当審拒絶の理由 当審で通知した拒絶の理由の一つは、要するに、 「本願発明10,11は、発明の詳細な説明に記載された発明でない。 よって、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 」 というものであり(以下、「サポート要件違反」という。)、 他の一つは、要するに、 「本願発明1は、その優先権主張の基礎とされた出願前に日本国内において頒布された刊行物、 特開平9-316569号公報 (以下、「引用例1」という。) 特開昭63-103041号公報 (以下、「引用例2」という。) に記載された発明に基いて、その優先権主張の基礎とされた出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 というものである(以下、「進歩性要件違反」という。)。 4.サポート要件違反について 4-1.発明の詳細な説明に記載された本発明銅合金の特性とストリップ成形に関する記述 本願明細書の段落0019,0034,0036,0050,0054,0076?0079,0086と図1には、次のように記載されている(審決注:一部下線を付記)。 【0019】銅合金の機械的性質および電気的性質は加工に大きく依存する。C18600に時効焼鈍、33%冷間圧延および応力除去焼鈍をかけると、この銅合金は、公称特性として:73%IACSの導電率;620MPa(90ksi)の降伏強さ;マンドレル法(「ローラー曲げ」法)を利用する長手方向では1.2および直角方向では3.5の90°MBR/t;ならびに1000時間200℃に暴露したときに20%応力減少を達成する。 【0034】クロム - クロム粒子は時効焼鈍時に析出し、それによって時効硬化と同時に導電率の増大をもたらす。また、クロム析出物は、結晶粒境界の第2相ピン止めによって結晶粒の成長を遅らせて合金ミクロ構造を安定化すると考えられる。これらの有益な結果を達成するためには、最低0.15重量%のクロムが必要である。 【0036】銀 - 銀は、等方性曲げ特性を増進し、それによって合金の電気コネクタ用途に対する実用性を向上させる。さらに、銀は、特にクロム含有量が指定範囲内の最低値、0.3%以下である場合には、強度を増大させる。合金が時効状態にあるとき、銀を添加すると、耐高温応力緩和性が増進する。 【0050】本発明の合金の加工は、完成ゲージ合金即ち完成時の寸法の合金の特性に有意な影響を与える。図1は、当該銅合金に関して望まれる降伏強さ、曲げ成形性、耐応力緩和性、弾性率、極限引張強さおよび導電率を達成する連続加工段階をブロック図で示している。これらの加工段階は、いずれのクロム含有銅合金にも有益であると考えられる。 【図1】 【0054】熱間圧延16の後、ストリップを水冷し、次いで、酸化物被覆を除去するためにばり取りおよびフライス削りを行う。次いで、ストリップを冷間圧延し12、固溶化焼鈍14された寸法とする。冷間圧延12は、1回通すだけでもよいし、必要なら中間焼鈍を挟んで数回通してもよい。約400?550℃の温度で約4?8時間の中間焼鈍により、このプロセスの最後に、10ミクロンの程度の微結晶粒および均質構造を有する高強度合金ができる。この中間焼鈍温度が完全均質化に近いと、このプロセス後の合金は、低強度および粗結晶粒薄層(stringer)を有する。中間焼鈍を省くと、処理後に、結晶粒度が25?30ミクロンの範囲の合金ができる。再結晶粒構造を強化するために、冷間圧延段階がストリップに25?90%の厚さ減少などのある程度の冷間加工を与えるのが好ましい。 【0076】 【実施例】実施例1 0.55%のクロムと、0.10%の銀と、0.09%の鉄と、0.06%のチタンと、0.03%のケイ素と、0.03%の錫と、残部の銅および不可避不純物とからなる公称組成を有する銅合金を溶融し、鋳造してインゴットを造った。インゴットを機械加工し、980℃で熱間圧延し、急冷して、厚さ1.1mmのストリップに加工した。ストリップを長さ約300mmの断片に切断し、950℃で20秒間溶融塩浴中に浸漬し、次いで、室温(公称20℃)まで水冷した。切断されたストリップの表面をフライス削りして表面の酸化物を除去し、ついで、冷間圧延して0.45mmの中間ゲージ即ち中間厚さとし、470℃で1時間、次いで390℃で6時間熱処理した。その後、ストリップ材料を圧延して、0.3mmの最終ゲージ即ち最終厚さとし、280℃で2時間の応力除去焼鈍にかけた。 【0077】最終製品は以下の特性を示した: 降伏強さ=84ksi(580MPa); 弾性率=145GPa; 90°曲げ半径0×t(Vブロック法、顕微鏡写真で調べても亀裂は見られなかった); 180°曲げ半径0.8×t(成形パンチ法、顕微鏡写真で調べても亀裂は見られなかった) 応力緩和 -100℃に1000時間暴露後に6%の応力減少、150℃に1000時間暴露後に13%の応力減少、200℃に1000時間暴露後に22%の応力減少; 極限引張強さ 86ksi(593MPa);および 導電率 79%IACS。 この合金は、54という自動車および工業用途に適したQFD等級を有していた(表12参照、マルチメディア用途については表11参照)。 【0078】実施例2 表3に示されている組成を有する7種の銅合金を溶融し、4.5Kg(10ポンド)のインゴットとして鋼押型に鋳造した。型から抜き出した後、インゴットは10mm×102mm×44.5mm(4″×4″×1.75″)のサイズを有していた。鋳造インゴットを950℃で2時間均熱し、次いで、6回熱間圧延して厚さを1.27mm(0.50″)とし、水冷した。酸化物被覆を除去するためにばり取りおよびフライス削りした後、合金を冷間圧延して1.14mm(0.045″)の公称厚さとし、流動床炉中950℃で20秒間溶体化処理した後、水冷した。 【0079】次いで、合金を連続的に数回通して冷間圧延し、厚さを60%減少させて0.46mm(0.018″)の厚さとし、次いで、470℃で1時間の第1静的焼鈍と、その後の390℃で6時間の2回目の静的焼鈍とからなる2重時効焼鈍にかけた。この熱処理により、合金が硬化すると同時に、そのミクロ構造を再結晶させることなく導電率が冷間圧延値を超えて増大した。次いで、合金を冷間圧延して厚さを33%減少させて0.30mm(0.012″)とし、280℃で2時間の応力除去焼鈍熱処理にかけた。表4に示されているように、本発明の合金によって、552MPa(80ksi)の降伏強さと(80%IACS)導電率の商業用に好ましい公称組合せに近づいた。 【0086】実施例3 表7Aおよび7Bは、本発明の組成物と加工とがどのように曲げの改善をもたらすかを示している。表7Aに示されているように、溶体化処理(SHT)で加工すると、本発明の合金J310は等方性曲げを有していたが、銀を含まない対照合金J306はいくらか非等方性の曲げを有していた。冷間圧延を挟んでベル焼鈍(BA)加工した場合、対照合金K005は、非等方性および不良曲げを有していた。表7Aの合金J306、J310およびK005の曲げ評価は、Vブロック法によるよりも少なくとも0.5高い曲げ値をもたらすことが判明しているマンドレル法にしたがった。 4-2.発明の詳細な説明に記載された本発明銅合金のロッド、ワイヤ成形に関する記述 これに対し、本願明細書の段落0053,0066,0067と図2には、次のように記載されている。 【0053】加工は、熱間および冷間圧延によって加工する銅合金ストリップに関して説明されているが、本発明の銅合金は、ロッド、ワイヤまたはチューブに成形することもでき、その場合、加工は、引抜きまたは押出の形態でよい。 【0066】図2は、ワイヤおよびロッドの製造に特に適した工程の流れをブロック図で示している。本発明の銅合金を任意の適当な方法で鋳造30し、押出32して、所望の断面形状、好ましく形断面形状が円形であるロッドを作る。熱間押出は、700?1030℃の温度、好ましくは930?1020℃の温度下である。 【0067】押し出したロッドを急冷34し、次いで、冷間引抜き(または冷間押出)36して直径を98%まで減少させる。次いで、引き抜いたロッドを350?900℃の温度で1分?6時間焼鈍38する。冷間引抜き36および焼鈍38の順序を1回以上繰返し、次いで、冷間引抜き(または冷間押出)40して最終ゲージ即ち最終寸法にする。 【図2】 4-3.当審の判断 「4-1」に摘記した本願明細書の記載によると、銅合金の機械的性質や電気的性質は加工に大きく依存する(段落0019参照)ところ、本発明銅合金の主要添加成分であるCrやAgは、時効焼鈍後にその効果を奏するものであり(段落0034,段落0036参照)、本発明銅合金に望まれる機械的性質や電気的性質を得る製造工程として開示されているのは、固溶化焼鈍-急冷-冷間圧延-時効焼鈍-冷間圧延-応力除去焼鈍なる工程をもつストリップの製造工程である(段落0050,図1参照)。そして、本発明銅合金の機械的性質や電気的性質について具体的に開示した実施例も、すべて当該製造工程によるものと認められる(段落0076?0079,0086参照)。 これに対し、「4-2」に摘記した本願明細書の記載によると、本発明銅合金は、引抜きや押出によりロッドやワイヤの成形も可能であり(段落0053参照)、最終寸法に至るまでの製造工程も記載されている(段落0066,0067,図2参照)。しかしながら、当該製造工程における「熱間押出」「冷間引抜き」「焼鈍」は、ストリップの製造工程における「熱間圧延」「冷間圧延」「中間焼鈍」(段落0054参照)に相当するものと認められるから、当該製造工程には、ストリップの製造工程における固溶化焼鈍-急冷-冷間圧延-時効焼鈍-冷間圧延-応力除去焼鈍に対応する工程がない。そして、当該製造方法により得られたロッドやワイヤの機械的性質や電気的性質について開示もない。 してみると、発明の詳細な説明に記載された本発明銅合金は、ロッドやワイヤに成形された場合に、ストリップに成形された場合と同様の機械的性質や電気的性質を有するとは認められない。 したがって、ストリップに成形された場合に得られた本発明銅合金の機械的性質や電気的性質を裏付けとする発明特定事項と共に、ロッドやワイヤに成形することを発明特定事項とする本願発明10,11は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。 5.進歩性要件違反について 5-1.引用例の記載 引用例1,2には、それぞれ次の記載がある。 引用例1 摘記1-1(段落0003-0004) 【0003】近年、電子機器の小型軽量化に伴い、こうしたリードフレーム材料も単に機械的強度が優れているのみでなく、以下のような特性が要求されてきている。 (1)電気及び熱伝導性が優れていること。 (2)耐軟化特性が優れていること。 (3)成形性が優れていること。 (4)ダイレクトボンディング性が優れていること。 しかしながら、従来の各種銅合金では、こうした特性を充分満足しているとはいえなかった。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のようなリードフレーム材として求められる成形加工性,導電性,耐熱特性及びダイレクトボンディング性に優れた特性を兼ね備えたリードフレーム用銅合金とその製造法を提案する。 摘記1-2(段落0014) 【0014】またZn,Ni,Mg,Zr,Ti,Alのうち1種または2種以上の元素を添加するのは、導電率を大きく低下させることなく機械的強度を向上させることができ、その添加量が0.01wt%未満ではその効果が小さく、0.3wt%を越えると導電性を大きく低下させてしまうからである。 摘記1-3(段落0018-0022) 【0018】 【発明の実施の形態】 実施例1 図1は本発明に係る合金試験片の作成工程を示す概略説明図で、表1に示す成分組成の合金(No.1?3,No.7が第一発明、No.4?6が第二発明)となるように高周波真空溶解炉にて溶解し、40mm(幅)×100mm(長さ)×10mm(厚み)のインゴットに鋳造した。900℃で熱間圧延し、厚さ10mmの板とし、冷間加工を行った後、850?1000℃で600秒以上加熱処理(一次)した後、水で急冷した。 【0019】その後、400?700℃の温度範囲で2?6時間保持して加熱処理(二次)した後、70%以上の冷間圧延し厚さ0.25mmの板として最終熱処理を施した。 【0020】このようにして調整された試料の評価として、機械強度は引張り試験、伸びはJIS5号試験片、硬度はヴィッカース硬度計により、耐軟化性は7分間加熱後の硬度が圧延後の硬度の80%となるときの温度、導電性と伝熱性は導電率(%IACS)、ダイレクトボンディング性はAuワイヤーをダイレクトボンディングを施した後に5gの荷重で引張り試験を行って剥離したか否かで評価を行い、剥離しないものは○印、剥離したものは×印とした。その結果を表1に示す。 【0021】 【表1】 【0022】表1中の比較材は、本発明に係る第一発明,第二発明で規定した成分組成範囲外のものであり、例えばNo.8はPが、No.9はSnが、No.10はAg、No.11はCr、No.12はAgとP、No.13はAg,P,Sn、No.14はCrとPが、No.15はAgとその他の成分が、No.16はその他の成分がそれぞれ本願発明の成分組成の範囲外である。 引用例2 摘記2-1(第2頁右下欄第5行?第3頁左上欄第11行) 〔発明の背景〕 電気的な使用目的のために銅合金の大きな需要がある。この種の合金はとりわけ、電子構成部品、特にトランジスタ、集積回路等のための半導体基板(いわゆるリードフレーム)、自動車用電気装置のための差込み式接続器及び部品のための材料として必要である。 電子構成部品、とりわけ上記のような種類の半導体基板のための材料は次のような特別の特性の組み合わせを備えていなければならない。 a)電導率及び熱伝導率はできるだけ高いべきである。(大体50%IACS以上)。 b)同時に十分な曲げ特性を持ちながら、高い機械的強さが要求される。 c)更に、高い耐軟化性が要求される。 d)ますます均質な材料、即ちその組織の中に大きな析出物や包有物が含まれていない材料が要求される。それによって一方ではいわゆるボンドワイヤと半導体基板との間の接続が良くなり、かつ他方では更に加工過程が必要となった場合に良好な電気(ガルバーニ電気)的又は化学的表面加工性が得られる。 e)上記のような使用目的のための帯板材料を経済的なやり方で製造することができるためには、更にこの種の合金が冷間成形性が良く、かつ帯板に圧延することができるということが重要である。 摘記2-2(第4頁右下欄第6行?第5頁左下欄第4行) 本発明が以下の実施例にもとづいて詳しく説明される。 ・・・(中略)・・・ 本発明にもとづく3種の合金(No.1.2.3)の組成を示めしている。 表1:試供体の組成(単位:重量%) 試供体 の名称 Cr Ti Si Cu 1 0.33 0.02 0.02 残り 2 0.28 0.08 0.05 残り 3 0.29 0.14 0.04 残り これらの3種の合金は、鋳造、予熱、熱間変形、空冷、交替的な冷間圧延と中間焼なまし、と云う通常のプロセスを用いて工業的に製造された。その際900℃の鋳造ブロックは数時間かけて熱間圧延温度にされ、熱間圧延され、且つ連続的に空冷された。中間厚さ4.0冷間圧延した後、470℃/1hで焼なまし処理が行われた。希望する最終厚さ(例えば0.254mm)に最終的に圧延した後引張り強さ、ブリネル硬さHB、及び電導率が調べられた。 試供体の機械的及び電気的特性が表2(Tabelle2)にまとめられている。この表の中には文献から採取された現在の技術水準の合金の対応する値も一緒に示されている(例えば会社の文書’Leadflame Mterials from Tmagawa”(1983年)のとりわけ第3.4.10頁、Tmagawa Metal & Mchinery Co.,Ltd.,を参照せよ)。 表2:電気的及び機械的特性 (状態:80%冷間成形されてから焼戻し、帯板厚さ0.254mm) 試供体の(UNS 引張り ブリネ 電導 名称 の名称) 強さ ル硬さ 率 (N/mm^(2)) HB (%IACS) 1 520 130 85 2 560 144 78 3 595 158 63 CuFe2P(C19400) 480 128 65 CuFeSnP(C19520) 540 147 48 CuZn15(C23000) 450 120 37 本発明にもとづく合金1及び2は現在の技術水準による合金よりも相当高い電導率をもっているのに対して合金3は電導率は同等ながらはるかに優れた強さと硬さを達成していると云う事がわかる。 ・・・(中略)・・・ 本発明にもとづく合金の優秀な機械的及び電気的特性は銅の基質の中に極めて微細に且つ均一に分布されたクロム、チタン、及び珪素の合金組成元素の析出物によって生み出されたものである。 5-2.引用発明の認定 引用例1には、成形加工性,導電性,耐熱特性及びダイレクトボンディング性に優れた特性を兼ね備えたリードフレーム用銅合金の実施例である「発明材3」として、次の発明が記載されていると認められる(摘記1-1,1-3参照)。 「0.07wt%のAgと0.20wt%のCrと残部のCuとからなり、92.6%IACSの導電率と415N/mm^(2)の引張強度を有する成形加工性,導電性,耐熱特性及びダイレクトボンディング性に優れた特性を兼ね備えたリードフレーム用銅合金。」 5-3.発明の対比 本願発明1と引用発明を対比する。 引用発明の「導電性に優れた特性を備えたリードフレーム用銅合金」は、本願発明1の「改善された導電性を有する銅合金」に相当する。また、本願明細書の段落0040,0042には、本願発明1における鉄と錫が、任意添加成分であることが記載されている。 してみると、本願発明1のうち、 「改善された導電性を有する銅合金であって、 0.15?0.7質量%のクロムと、 0.005?0.3質量%の銀と、 0.2質量%以下の鉄と、 0.5質量%以下の錫と、 残部の銅および不可避不純物とから成り、 少なくとも75%IACSの導電率を有する銅合金。」 (但し、「残部」は、後述する相違点に係る添加成分を除く残部の意。) である点は、引用発明と一致し、次の点で両者は相違する。 相違点1: 本願発明1が「0.01?0.15質量%のチタンと、0.01?0.10質量%のケイ素」を含有するのに対し、引用発明は含有しない点。 相違点2: 本願発明1が「改善された降伏強度を有する銅合金であって、少なくとも550MPaの降伏強度」を有するのに対し、引用発明は「415N/mm^(2)(415MPa)の引張強度」を有する点。 相違点3: 本願発明1が「改善された応力緩和性を有する銅合金であって、銀を含まないことを除き前記合金組成と同一の組成を有する合金と比較した時に、温度150℃および200℃における改善された耐応力緩和性」を有するのに対し、引用発明は、当該耐応力緩和性が不明である点。 5-4.容易性の判断 各相違点について検討する。 相違点1,2について: 引用例1には、引用発明において、チタンを添加すると導電率を低下させることなく機械的強度が向上することが記載されている(摘記1-2参照)。さらに、引用例2には、リードフレームや接続器用の銅合金について、クロムとチタンと珪素を併用添加することで機械的強度が向上することが記載されており、クロムと共に、チタン0.08?0.14%、ケイ素0.04?0.05%を添加して560?595MPaの引張強度になる例が記載されている(摘記2-1,2-2参照)。 してみると、既にクロムを含むリードフレーム用銅合金である引用発明において、0.01?0.15質量%のチタンと、0.01?0.10質量%のケイ素を含有させること、すなわち、相違点1を解消することは、機械的強度を向上させるため、当業者が容易になし得た成分添加である。 そして、降伏強度は引張強度と共に代表的な機械的強度の指標であるから、前記相違点1を解消した結果、引用発明において、降伏強度が向上し、少なくとも550MPaとなること、すなわち、相違点2が解消することも、当業者にとって予測の範囲内のことといえる。 相違点3について: 引用例1には、リードフレーム用銅合金に耐軟化性が要求されること(摘記1-1参照)と共に、耐軟化性を評価するため、一定時間後一定量の硬度低下を示す加熱温度を軟化温度として、引用発明の軟化温度が465℃、銀を含まず0.12?0.30質量%のクロムを含む合金である「比較材12,13」の軟化温度が400?410℃であることが記載されている(摘記1-3参照)。すなわち、引用発明の銅合金は、銀を含まないことを除き前記合金組成と同一の組成となる0.20質量%のクロムを有する合金と比較した時に、軟化温度が高く、改善された耐軟化性を有すると認められる。 ところで、改善された耐軟化性、すなわち、一定時間後一定量の硬度低下を示す軟化温度が高くなるということは、少なくとも軟化温度以下の加熱温度における一定時間後の硬度低下が抑制されることを意味する。一方、硬度試験において硬度低下とは、試験荷重により生じた材料中の応力減少を意味するから、軟化温度以下の一定温度における一定時間後の硬度低下が抑制されるということは、同じ条件下の応力減少が抑制されるということ、すなわち、改善された耐応力緩和性を有することを意味する。 してみると、引用発明の銅合金は、銀を含まないことを除き前記合金組成と同一の組成を有する合金と比較した時に、改善された耐軟化性と共に、軟化温度以下の温度である150℃および200℃における改善された耐応力緩和性を有すると認められる。 したがって、相違点3は実質的な差異ではない。 6.むすび 以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願発明1は、その優先権主張の基礎とされた出願前に日本国内において頒布された引用例1、2に記載された発明に基いて、その優先権主張の基礎とされた出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、当審拒絶の理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-03-30 |
結審通知日 | 2010-04-02 |
審決日 | 2010-04-13 |
出願番号 | 特願2001-275764(P2001-275764) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C22C)
P 1 8・ 537- WZ (C22C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小柳 健悟、河野 一夫 |
特許庁審判長 |
山田 靖 |
特許庁審判官 |
大橋 賢一 青木 千歌子 |
発明の名称 | 銀を含む銅合金および該銅合金の形成方法 |
代理人 | 吉田 裕 |
代理人 | 岩本 行夫 |
代理人 | 吉田 裕 |
代理人 | 浅村 皓 |
代理人 | 浅村 肇 |
代理人 | 岩本 行夫 |
代理人 | 浅村 肇 |
代理人 | 浅村 皓 |