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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G21C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G21C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21C
管理番号 1222396
審判番号 不服2008-12082  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-12 
確定日 2010-08-05 
事件の表示 平成11年特許願第507243号「液体力学的に平衡する混合翼板を備える核燃料集合体」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 1月14日国際公開、WO99/01873、平成14年 4月16日国内公表、特表2002-511940〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年6月25日(パリ条約による優先権主張1997年7月2日、米国)を国際出願日とする特願平11-507243号であって、平成18年10月18日付けで拒絶理由が通知され、これに対し何ら応答がなかったため、平成20年1月31日付けで拒絶査定がなされたところ、これに対し、同年5月12日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

なお、平成20年5月12日付け手続補正による補正は、当該補正前の請求項4、6、9?10及び12?15の削除を目的とするものであり、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に掲げる事項を目的とするものであるから、適法な補正である。

第2 本願発明
本願の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」という。)は、平成20年5月12日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
原子炉の炉心内に用いられる燃料集合体中の細長い燃料要素の相対位置を横方向に維持する支持格子であって、支持格子に取り付けられていて、冷却材が格子配置場所の近くで燃料集合体を通過しながら運転中の原子炉の炉心を通って流れる冷却材を混合する翼板を有し、翼板は格子の中心の回りに対称的に位置している複数の領域の各々の中に所定の設計で配置され、格子は燃料要素の細長い寸法方向に直角な平面内に位置し、3以上の領域が設けられ、隣り合う領域内の翼板の配置パターンは同一であり、一領域のパターンはその隣の領域に対し、360°を領域の数で割った角度、回転したものであり、各領域はその隣の領域に対し、これらの共通境界部に関して鏡像関係をなしておらず、或る領域内の翼板は、残りの領域内の冷却材流れパターンによって生じる格子の中心に対する横方向の液体力学的力と平衡する冷却材流れパターンを生じさせるようになっていることを特徴とする支持格子。
【請求項2】
燃料要素の細長い寸法方向に対して直角な平面内の格子の外部幾何学的形状は、等辺多角形であり、対称領域は、周囲セグメントの中点から多角形の中心に引かれた線により画定されることを特徴とする請求項1記載の支持格子。
【請求項3】
原子炉の炉心内に用いられる燃料集合体中の細長い燃料要素の相対位置を横方向に維持する支持格子であって、支持格子に取り付けられていて、冷却材が格子配置場所の近くで燃料集合体を通過しながら作動中の原子炉の炉心を通って流れる冷却材を混合する翼板を有し、翼板は格子の中心の回りに対称的に位置している複数の領域の各々の中に所定の設計で配置され、格子は燃料要素の細長い寸法方向に直角な平面内に位置し、燃料要素の細長い寸法方向に対して直角な平面内の格子の外部幾何学的形状は、等辺多角形であり、対称領域は、周囲セグメントの中点から多角形の中心に引かれた線により画定され、各領域内の翼板は、多角形の中心からそれぞれの領域の周囲セグメントの結合部まで延びるものとして定義される対角線に平行な方向に向いており、翼板は、各領域内の冷却材流れパターンを、残りの領域内の冷却材流れパターンによって生じる格子の中心に対する横方向の液体力学的力と平衡するものとして生じさせるよう構成されていることを特徴とする支持格子。
【請求項4】
隣り合う領域内の翼板の配置パターンは、このパターンがその隣の領域に対し“N”°回転したものであることを除き、同一であり、ここで“N”は、360°を領域の数で割った角度に等しいことを特徴とする請求項3記載の支持格子。
【請求項5】
領域の数は、4であり、翼板パターンは全体的に見て、多角形の中心軸線の回りに“X”字形をなしていることを特徴とする請求項4記載の支持格子。
【請求項6】
翼板は、燃料要素支持セル内又は燃料要素支持セル上にのみ延びていることを特徴とする請求項1?5のうち何れか一に記載の支持格子。
【請求項7】
壁を有する複数のセルを構成する組み格子部材を更に有し、前記セルのうち何割かを燃料要素が貫通し、燃料要素を支持するセルのうち少なくとも何割かは、少なくとも2つの隣り合う壁に設けられた斜めのばねを有し,該ばねは、下側のセルコーナー部から、ばねが設けられているセル壁の他方の側の上側のセルコーナー部までセルの実質的な高さ全体にわたって延び、隣り合うばねは、互いに逆方向に傾斜していることを特徴とする請求項1?6のうち何れか一に記載の支持格子。
【請求項8】
請求項1?7のうち何れか一に記載の支持格子により長手方向寸法に沿って支持された平行なアレイ状の細長い燃料要素を有することを特徴とする核燃料集合体。」


第3 進歩性について
1 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平7-159571号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の記載がある。(後述の、「2 引用発明の認定」において特に参照した箇所に下線を付した。)
(a)「【請求項1】所定間隔離間して配設された上部ノズル及び下部ノズルと、薄板帯状をなし短手方向の端部にミキシングベーンが形成され且つ壁面にスプリング及びディンプルが形成された複数のストラップを、互いに直交させることで画成された格子空間を有していて、上記上部ノズル及び下部ノズル間に所定間隔をおいて配設された複数の支持格子と、該支持格子の格子空間内に挿通された状態で該支持格子,上記上部ノズル及び下部ノズルに結合された制御棒案内管及び計装用管と、上記支持格子の格子空間内に挿通されて上記スプリング及びディンプルによって弾性的に支持される多数の燃料棒と、から構成される核燃料集合体において、
上記支持格子の平面視における格子空間の一方の対角方向に並ぶ上記ミキシングベーンの数と、他方の対角方向に並ぶ上記ミキシングベーンの数とが、ほぼ同数に形成されていることを特徴とする核燃料集合体。
【請求項2】・・・
【請求項3】上記支持格子の平面視における格子空間へ突出する上記ミキシングベーンが、上記支持格子の中心に関して4回転対称となるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の核燃料集合体。」

(b)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は原子炉に装荷される核燃料集合体に係わり、特に、振動防止を図ることができるものに関する。
【0002】
【従来の技術】加圧水型軽水炉等の原子炉に装荷される核燃料集合体の一例として、図8に示したものが知られている。この図において、符号1および2は上下方向に離間して対向配置された上部ノズルおよび下部ノズルを示し、これら上部ノズル1及び下部ノズル2の間には、複数の制御棒案内管3が渡されて固定されている。これら制御棒案内管3の中途部には、複数の支持格子4が上下方向に互いに離間して取り付けられている。上記支持格子4は、図9および図10に示すように、複数の薄板帯状のストラップ7を互いに直交させ格子状に組んで、内部に多数の格子空間5を形成したものであり、これら格子空間5を形成する壁面には燃料棒6を支持するためのディンプル9とスプリング10とが互いに対向して形成されている。そして、格子空間5に挿通された燃料棒6は、スプリング10によりディンプル9に押圧されて支持されている。
【0003】また、支持格子4のストラップ7どうしの交差部の上端部には、冷却水を攪拌して乱流とし、燃料棒から発生する熱を除去する効率を高めるためのミキシングベーン11…がストラップ7の短手方向上縁部から突出して形成されている。これらミキシングベーン11は、支持格子4の格子空間5側に向けてストラップ7の上縁部から折曲され、これにより下方から上方に向けて勢いよく流れる冷却水を攪拌するようになっているが、その折曲の方向は以下のように設定されている。すなわち、図11に示すように、支持格子4の平面視において、ミキシングベーン11は、ストラップ7どうしの各交差点回りの4つの格子空間5のうち、一方の対角方向(図において右下がりの対角方向)に隣接する格子空間5に向けて突出するように折曲されている。」

(c)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記のような核燃料集合体においては、支持格子4の平面視において、支持格子4のミキシングベーン11…が、一方の対角方向に隣接する格子空間5に向けて突出しているが、他方の対角方向に隣接する格子空間5には突出していないので、ミキシングベーン11のもたらす乱流に起因する励振力が作用した場合、支持格子の振動減衰特性のアンバランスにより、核燃料集合体に振動を引き起こし易かった。更には、燃料棒6…に振動が発生した場合に、各燃料棒6…の振動方向が同一方向(図11における矢印a方向)を向くことにより、核燃料集合体に振動を引き起こし易くしていた。
【0005】この発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、乱流に起因する振動発生を防止できるようにした核燃料集合体を提供することを目的としている。」

(d)「【0015】
【作用】この発明の核燃料集合体にあっては、支持格子の平面視における格子空間の一方の対角方向に突出するミキシングベーンの数と、他方の対角方向に突出するミキシングベーンの数とが同数であり、かつそれぞれの方向に突出するミキシングベーンが、支持格子の中心に対して点対称にバランスよく配置される。したがって、ミキシングベーンによって発生する冷却水の乱流に起因して、核燃料集合体に励振力が作用しても、支持格子のそれぞれの対角方向の振動減衰特性同士および支持格子を構成する各ストラップの長手方向の振動減衰特性同士が等しく、核燃料集合体の流動振動特性の面のバランスが優れている。しかも、乱流に起因して燃料棒に振動が発生した場合、核燃料集合体に励振力が作用しても、ミキシングベーンがバランスよく配置されているので、各燃料棒の振動が互いに直交する方向に生じ、これが抵抗となって互いに打ち消し合い、核燃料集合体全体としての振動発生を抑制することができる。
【0016】又、ミキシングベーンにより発生する乱流により燃料棒に振動が発生した場合に、一の支持格子のミキシングベーンと、他の支持格子のミキシングベーンとにより、ミキシングベーンから発生する乱流に起因する励振力バランスが取れ、燃料棒の振動が互いに打ち消し合う方向を向くので、核燃料集合体全体としての振動発生を抑制することができる。
【0017】又、核燃料集合体に設けられた複数の支持格子全体の二つの対角方向のミキシングベーンの数がほぼ同数であるから、乱流によって各燃料棒に振動が発生した場合に、複数の支持格子全体で発生する乱流に起因する励振力バランスが取れ、燃料棒の振動が互いに打ち消し合う方向を向くので、核燃料集合体全体としての振動発生を抑制することができる。」

(e)「【0022】図2は第二実施例を示すものであり、この図に示す核燃料集合体の支持格子4では、ミキシングベーン11…が以下のように配置されている。すなわち、支持格子4を平面視においてその中心回りに4等分に区分けし、それぞれの区を第1象限S_(1)、第2象限S_(2)、第3象限S_(3)、第4象限S_(4)とすると、第1および第3象限S_(1)、S_(3)においては、各交差点Pから右上がりの対角方向に並ぶ格子空間5…にミキシングベーン11…を突出させ、かつ第2および第4象限S_(2)、S_(4)においては、各交差点Pから右下がりの対角方向に並ぶ格子空間5…にミキシングベーン11…を突出させている。このように、ミキシングベーン11…が配置された支持格子4では、その平面視におけるストラップ7…どうしの多数の交差点Pから一方の対角方向(図において右上がりの対角方向)に並ぶ格子空間5…へ突出するミキシングベーン11…の数と、他方の対角方向(図において右下がりの対角方向)に並ぶ格子空間5…へ突出するミキシングベーン11…の数とが同数になると共に、ミキシングベーン11…が、支持格子4の中心に対していわゆるミラーの4回転対称に配置される。
【0023】したがって、支持格子4の両対角方向および支持格子4を構成する各ストラップ7の長手方向(図においてはX,Y方向)におけるミキシングベーン11…の配置バランスがよく、よって、乱流によって燃料棒に振動が発生した場合に、支持格子4のそれぞれの対角方向の振動減衰特性同士および図におけるX,Y方向の振動減衰特性同士が等しく、核燃料集合体の流動振動特性の面のバランスが優れている。また、ミキシングベーン11…により発生する乱流により、燃料棒6…に振動が発生した場合でも、ミキシングベーン11…が支持格子4の中心に対して点対称に配置されているので、燃料棒6…の振動が、第1および第3象限S_(1)、S_(3)と第2および第4象限S_(2)、S_(4)とでは、互いに逆方向に向いて打ち消し合うので、核燃料集合体全体としての振動発生を抑制することができる。さらに、平面視における支持格子4の各格子空間5に突出するミキシングベーン11…の数が従来と同様に2つであるので、上記のように配置されたミキシングベーン11…により冷却水の流水圧が上昇することはない。」

(f)「【0024】なお、上記第二実施例の変形例として、第1および第3象限S_(1)、S_(3)に位置するミキシングベーン11…と、第2および第4象限S_(2)、S_(4)に位置するミキシングベーン11…の向きをそれぞれ互いに逆方向にしてもよい。或いは、第1および第3象限S_(1)、S_(3)に位置するミキシングベーン11…の向きを同じくし、かつ第2および第4象限S_(2)、S_(4)に位置するミキシングベーン11…の向きを同じくすると共に第1および第3象限S_(1)、S_(3)とは逆向きにしてもよい。」


2 引用発明の認定
上記記載事項からして、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「上部ノズル及び下部ノズルと、制御棒案内管及び計装用管と、燃料棒とともに、原子炉に装荷される核燃料集合体を構成する支持格子であって、
上記支持格子4は、複数の薄板帯状のストラップ7を互いに直交させ格子状に組んで、内部に多数の格子空間5を形成したものであり、これら格子空間5を形成する壁面には燃料棒6を支持するためのディンプル9とスプリング10とが互いに対向して形成されており、格子空間5に挿通された燃料棒6は、スプリング10によりディンプル9に押圧されて支持され、支持格子4のストラップ7どうしの交差部の上端部には、冷却水を攪拌して乱流とし、燃料棒から発生する熱を除去する効率を高めるためのミキシングベーン11…がストラップ7の短手方向上縁部から突出して形成されたものであり、
支持格子4を平面視においてその中心回りに4等分に区分けし、それぞれの区を第1象限S_(1)、第2象限S_(2)、第3象限S_(3)、第4象限S_(4)とすると、ミキシングベーン11…が配置された支持格子4では、その平面視におけるストラップ7…どうしの多数の交差点Pから一方の対角方向に並ぶ格子空間5…へ突出するミキシングベーン11…の数と、他方の対角方向に並ぶ格子空間5…へ突出するミキシングベーン11…の数とが同数になると共に、ミキシングベーン11…が、支持格子4の中心に対していわゆるミラーの4回転対称に配置され、ミキシングベーン11…により発生する乱流により、燃料棒6…に振動が発生した場合でも、ミキシングベーン11…が支持格子4の中心に対して点対称に配置されていることにより、燃料棒6…の振動が、第1および第3象限S_(1)、S_(3)と第2および第4象限S_(2)、S_(4)とで、互いに逆方向に向いて打ち消し合って、核燃料集合体全体としての振動発生を抑制することができ、
第1および第3象限S_(1)、S_(3)に位置するミキシングベーン11…の向きを同じくし、かつ第2および第4象限S_(2)、S_(4)に位置するミキシングベーン11…の向きを同じくすると共に第1および第3象限S_(1)、S_(3)とは逆向きに配置した支持格子。」


3 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「原子炉に装荷される核燃料集合体を構成する」「燃料棒」は、本願発明1の「原子炉の炉心内に用いられる燃料集合体中の細長い燃料要素」に相当する。
そして、引用発明において、「上記支持格子4は、複数の薄板帯状のストラップ7を互いに直交させ格子状に組んで、内部に多数の格子空間5を形成したものであり、これら格子空間5を形成する壁面には燃料棒6を支持するためのディンプル9とスプリング10とが互いに対向して形成されており、格子空間5に挿通された燃料棒6は、スプリング10によりディンプル9に押圧されて支持され」ているのだから、引用発明の支持格子4は、燃料棒6の長手方向に直角な平面内に位置し、且つ燃料棒6の相対位置を横方向に維持しているといえる。
よって、引用発明の「上部ノズル及び下部ノズルと、制御棒案内管及び計装用管と、燃料棒とともに、原子炉に装荷される核燃料集合体を構成する支持格子であって、上記支持格子4は、複数の薄板帯状のストラップ7を互いに直交させ格子状に組んで、内部に多数の格子空間5を形成したものであり、これら格子空間5を形成する壁面には燃料棒6を支持するためのディンプル9とスプリング10とが互いに対向して形成されており、格子空間5に挿通された燃料棒6は、スプリング10によりディンプル9に押圧されて支持され」ている点は、本願発明1の「原子炉の炉心内に用いられる燃料集合体中の細長い燃料要素の相対位置を横方向に維持する支持格子」であって、且つ「格子は燃料要素の細長い寸法方向に直角な平面内に位置」する点に相当する。

イ 引用発明の「支持格子4のストラップ7どうしの交差部の上端部には、冷却水を攪拌して乱流とし、燃料棒から発生する熱を除去する効率を高めるためのミキシングベーン11…がストラップ7の短手方向上縁部から突出して形成されたものであ」る点は、本願発明1の「支持格子に取り付けられていて、冷却材が格子配置場所の近くで燃料集合体を通過しながら運転中の原子炉の炉心を通って流れる冷却材を混合する翼板を有」する点に相当する。

ウ 引用発明の「支持格子4を平面視においてその中心回りに4等分に区分け」した「第1象限S_(1)、第2象限S_(2)、第3象限S_(3)、第4象限S_(4)」は、本願発明1の「格子の中心の回りに対称的に位置している複数の領域」に相当する。
よって、引用発明の「支持格子4を平面視においてその中心回りに4等分に区分けし、それぞれの区を第1象限S_(1)、第2象限S_(2)、第3象限S_(3)、第4象限S_(4)とすると、ミキシングベーン11…が配置された支持格子4では、その平面視におけるストラップ7…どうしの多数の交差点Pから一方の対角方向に並ぶ格子空間5…へ突出するミキシングベーン11…の数と、他方の対角方向に並ぶ格子空間5…へ突出するミキシングベーン11…の数とが同数になると共に、ミキシングベーン11…が、支持格子4の中心に対していわゆるミラーの4回転対称に配置され」た点は、本願発明1の「翼板は格子の中心の回りに対称的に位置している複数の領域の各々の中に所定の設計で配置され」、「3以上の領域が設けられ、隣り合う領域内の翼板の配置パターンは同一であり、一領域のパターンはその隣の領域に対し、360°を領域の数で割った角度、回転したものであ」る点に相当する。

エ 引用発明において、ミキシングベーン11…は、「ミキシングベーン11…により発生する乱流」によって生じる「燃料棒6…の振動」が、「第1および第3象限S_(1)、S_(3)と第2および第4象限S_(2)、S_(4)とで、互いに逆方向に向いて打ち消し合」うように配置されているのであるから、引用発明は、ミキシングベーン11…を、ある象限の冷却水流れパターンと、残りの象限の冷却水流れパターンとが、格子の中心に対する横方向の液体力学的力と平衡するように配置している、といえる。
よって、引用発明の「ミキシングベーン11…により発生する乱流により、燃料棒6…に振動が発生した場合でも、ミキシングベーン11…が支持格子4の中心に対して点対称に配置されていることにより、燃料棒6…の振動が、第1および第3象限S_(1)、S_(3)と第2および第4象限S_(2)、S_(4)とで、互いに逆方向に向いて打ち消し合って、核燃料集合体全体としての振動発生を抑制することができ」る点は、本願発明1の「或る領域内の翼板は、残りの領域内の冷却材流れパターンによって生じる格子の中心に対する横方向の液体力学的力と平衡する冷却材流れパターンを生じさせるようになっている」点に相当する。

(2)一致点
本願発明1と引用発明とは、以下の点で一致する。
「原子炉の炉心内に用いられる燃料集合体中の細長い燃料要素の相対位置を横方向に維持する支持格子であって、支持格子に取り付けられていて、冷却材が格子配置場所の近くで燃料集合体を通過しながら運転中の原子炉の炉心を通って流れる冷却材を混合する翼板を有し、翼板は格子の中心の回りに対称的に位置している複数の領域の各々の中に所定の設計で配置され、格子は燃料要素の細長い寸法方向に直角な平面内に位置し、3以上の領域が設けられ、隣り合う領域内の翼板の配置パターンは同一であり、一領域のパターンはその隣の領域に対し、360°を領域の数で割った角度、回転したものであり、或る領域内の翼板は、残りの領域内の冷却材流れパターンによって生じる格子の中心に対する横方向の液体力学的力と平衡する冷却材流れパターンを生じさせるようになっている支持格子。」

(3)相違点
よって、本願発明1と引用発明とは、以下の点で相違する。
[相違点1]
隣り合う領域の翼板の配置パターンについて、本願発明1は「各領域はその隣の領域に対し、これらの共通境界部に関して鏡像関係をなしておらず」、とされているのに対し、引用発明には、このような限定がなされていない点。

(4)当審の判断
ア 相違点1についての検討
最初に、本願の明細書または図面の記載内容について確認する。
本願の明細書及び図面には、領域間の共通境界部における「鏡像関係」については、背景技術に関する説明における、「従来、核燃料格子設計者は大抵の場合、支持格子構造全体について一定の冷却材混合翼板パターンを採用していた。別の従来設計例では、格子の隣り合う半部に180°位相ずれした鏡像関係をなすパターンが採用された。これら設計の中には、冷却材の流動によって励起される振動(流動励起振動)を生じるものがあり、かかる流動励起振動は、燃料棒のフレッチングを惹き起してこれらの長期性能に悪影響を及ぼす場合がある。」(明細書第3ページ第13?18行)との記載、及び図1に、鏡像関係にない実施例の図面が記載されているのみである。

また、本願の明細書には、
「かくして、冷却材混合翼板のパターンに回転性があるという特徴と対称性があるという特徴が相まって、燃料集合体に作用する液体力学的力が平衡し、これにより支持格子の防振性が高められる。加うるに、本発明の構造的特徴により、格子の強度が向上し、しかも燃料要素よりも大きな直径の制御棒案内管及び計装シンブルの使用が可能になる。」(明細書第4ページ第15?19行)、
「図1に示す実施形態では、各象限のパターンは、格子全体をその中心の周りに90°ずつ回転させることにより再現できる。このパターンに回転性があるという特徴と対称性があるという特徴が相まって、翼板に作用する液体力学的力が平衡し、かくして支持格子の防振性が高められる。」(明細書第9ページ第14?17行)、及び
「したがって、本発明は、運転中、振動を最小限に抑えた状態でDNB性能を向上させる仕方で冷却材の流れを最適化し、圧力降下を減少させ、しかも格子の破砕耐力を高める支持格子設計及び偏向翼板パターンを有する改良型燃料集合体を提供する。本発明の格子は又、燃料要素よりも大きな直径の案内管及び計装シンブルに対応し、それにより制御棒と案内管との間の設計隙間を大きくすると共に制御棒又は計装のハングアップの恐れを小さくすることができる。」(明細書第10ページ第3?8行)、
と記載されているから、隣り合う領域の翼板の配置パターンが「回転性があるという特徴と対称性があるという特徴が相ま」れば、燃料集合体(翼板)に作用する液体力学的力が平衡し、これによって、支持格子の防振性向上、及び、振動を最小限に抑えた状態でDNB性能を向上させる仕方で冷却材の流れを最適化し、圧力降下を減少させ、しかも格子の破砕耐力を高める、という効果が得られるものと認められる。

引用発明は、もともと、「核燃料集合体全体としての振動発生を抑制」という効果を奏しているのであるから、本願が背景技術に関する説明に記載した、「冷却材の流動によって励起される振動(流動励起振動)」を抑制していることは明らかである。さらに、引用発明では、「ミキシングベーン11…が配置された支持格子4では、その平面視におけるストラップ7…どうしの多数の交差点Pから一方の対角方向に並ぶ格子空間5…へ突出するミキシングベーン11…の数と、他方の対角方向に並ぶ格子空間5…へ突出するミキシングベーン11…の数とが同数になると共に、支持格子4の中心に対していわゆるミラーの4回転対称に配置」されているのであるから、支持格子内に3以上の領域があり、これらが「回転性があるという特徴と対称性があるという特徴」の両方を備えていることは明らかである。してみれば、引用発明が、支持格子の防振性向上、及び、振動を最小限に抑えた状態でDNB性能を向上させる仕方で冷却材の流れを最適化し、圧力降下を減少させ、しかも格子の破砕耐力を高める、という上記の本願の効果を奏することも、当業者が予測できる範囲内のことである。

上記本願の背景技術に関する説明の記載は、「格子の隣り合う半部に180°位相ずれした鏡像関係をなすパターン」、すなわち領域の数が2の場合に限定し、これらの設計の中には流動励起振動が生じるものがある、ことが記載されているにすぎない。
そして、本願の作用効果は、上記したように、支持格子内に3以上の領域があり、これらが「回転性があるという特徴と対称性があるという特徴が相ま」った配置パターンを採用した引用発明も有しているから、翼板の配置パターンが、各領域の共通境界部に関して「鏡像関係」とならない配置であることに、引用発明にない格別有利な効果が奏されるとは認められず、何ら技術的意義を見いだせない。

そして、引用発明では、「ミキシングベーン11…が支持格子4の中心に対して点対称に配置」されていることによって、「燃料棒6…の振動が、第1および第3象限S_(1)、S_(3)と第2および第4象限S_(2)、S_(4)とで、互いに逆方向に向いて打ち消し合って、核燃料集合体全体としての振動発生を抑制することができ」るという、本願発明1の「格子の中心に対する横方向の液体力学的力と平衡する」に相当する作用・効果を得ている(上記「(1)対比」の「エ」を参照。)のであるから、「各領域はその隣の領域に対し、これらの共通境界部に関して鏡像関係をなしておらず」とすることに何ら技術的意義を見いだせない以上、引用発明における隣り合う領域の翼板の配置パターンを、共通境界部に関して鏡像関係とならない配置にすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。


イ 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成20年8月15日付け手続補正(審判請求書における、請求の理由の補正)において、
「即ち、本願発明は原子炉燃料集合体の支持格子に係り、その要旨とするところは、冷却材混合翼板の配置を、格子の中心の回りに対称的に位置する複数の領域の各々における翼板の同一配置パターンが、隣接する領域の共通境界部に関して鏡像関係にならず、360°を領域の数で割った角度だけ回転したものとすることにより、格子の中心に対して横方向に液体力学的に平衡した螺旋状の冷却材流れパターンを発生させて(明細書第3頁下から6乃至5行目)、従来技術の燃料集合体支持格子に付随する翼板による冷却材の乱流に起因する支持格子の振動を減少させると共に燃料集合体の圧力降下を最小限に抑える点にある。」、及び
「本願発明は、上述したように、複数の領域の各々における翼板の同一配置パターンを、隣接する領域の共通境界部に関して鏡像関係にならず、360°を領域の数で割った角度だけ回転したものであり、本願発明のかかる特徴的構成により、格子の中心に対して横方向に液体力学的に平衡した螺旋状の冷却材流れパターンが発生し、支持格子の防振性が改善される。本願発明のかかる特徴的構成については。引用文献1には何の記載も示唆もない。
審査官殿は、『各領域はその隣の領域に対し、共通境界部に関して鏡像関係とならない配置とすることに困難性はなく』と認定されているが、翼板の配置パターンを回転対称とすれば、隣り合う領域の翼板の配置パターンは、引用文献1のように、鏡像関係になるのが常である。本願発明は、翼板の配置パターンを鏡像関係にならないように回転対称とし、格子の中心に対して横方向に液体力学的に平衡した螺旋状の冷却材流れパターンを発生させて、支持格子の防振性が改善したものであり、引用文献1の発明から当業者が容易に想到できるものではないと思料する。」
と主張する。

しかしながら、「螺旋状冷却材流れパターン」について、本願の明細書及び図面を全体的に参照しても、本願の明細書第3ページ第23?26行(当該行は、審判請求人が指摘する「下から6ないし5行目」を含む。)に、「本発明の構造は、格子の中心に対して横方向に液体力学的に平衡した螺旋状冷却材流れパターンを、格子を横切る方向の3又は4以上の対称の領域内に確立することにより従来技術の原子炉用支持格子設計を用いた場合の問題のうち幾つかを解決する。」と記載されているのみであって、「螺旋状」がどのような螺旋状の流れを意味するのか明確でなく、鏡像関係の有無と「螺旋状」冷却剤流れパターンとに技術的関連性があるのかどうかも不明である。
また、本願の図1の翼板の配置パターンを参照しても、各領域内(「格子を横切る方向の3又は4以上の対称の領域」のそれぞれの内)にも、支持格子全体を横切る方向(「3又は4以上の対称の領域」で形成される内で「格子を横切る方向」)にも、「螺旋状」の冷却剤流れパターンが確立されているとは認められないし、「各領域はその隣の領域に対し、これらの共通境界部に関して鏡像関係をなして」いない配置パターンであれば、「螺旋状」の冷却剤流れパターンができる、とは、技術的には必ずしもいえないことである。

加えて、上記したように、格子の中心に対する横方向の液体力学的力の平衡、及びそれに伴う支持格子の防振性向上という効果が、配置パターンの鏡像関係の有無に関わらず得られることを考慮すれば、上記審判請求人の主張は技術的裏付けがなされておらず、採用することができない。


ウ まとめ
以上のとおり、本願の明細書及び図面の記載、ならびに審判請求人の主張を総合勘案しても、引用発明から上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことであり、また、本願発明1の奏する作用効果は、引用発明から当業者が予測できる範囲内のものである。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


4 本願発明3について
本願発明3について検討する。
(1)対比
ア 引用発明の「原子炉に装荷される核燃料集合体を構成する」「燃料棒」は、本願発明3の「原子炉の炉心内に用いられる燃料集合体中の細長い燃料要素」に相当する。
そして、引用発明において、「上記支持格子4は、複数の薄板帯状のストラップ7を互いに直交させ格子状に組んで、内部に多数の格子空間5を形成したものであり、これら格子空間5を形成する壁面には燃料棒6を支持するためのディンプル9とスプリング10とが互いに対向して形成されており、格子空間5に挿通された燃料棒6は、スプリング10によりディンプル9に押圧されて支持され」ているのだから、引用発明の支持格子4は、燃料棒6の長手方向に直角な平面内に位置し、且つ燃料棒6の相対位置を横方向に維持しているといえる。
よって、引用発明の「上部ノズル及び下部ノズルと、制御棒案内管及び計装用管と、燃料棒とともに、原子炉に装荷される核燃料集合体を構成する支持格子であって、上記支持格子4は、複数の薄板帯状のストラップ7を互いに直交させ格子状に組んで、内部に多数の格子空間5を形成したものであり、これら格子空間5を形成する壁面には燃料棒6を支持するためのディンプル9とスプリング10とが互いに対向して形成されており、格子空間5に挿通された燃料棒6は、スプリング10によりディンプル9に押圧されて支持され」ている点は、本願発明3の「原子炉の炉心内に用いられる燃料集合体中の細長い燃料要素の相対位置を横方向に維持する支持格子」であって、且つ「格子は燃料要素の細長い寸法方向に直角な平面内に位置」する点に相当する。

イ 引用発明の「支持格子4のストラップ7どうしの交差部の上端部には、冷却水を攪拌して乱流とし、燃料棒から発生する熱を除去する効率を高めるためのミキシングベーン11…がストラップ7の短手方向上縁部から突出して形成されたものであ」る点は、本願発明3の「支持格子に取り付けられていて、冷却材が格子配置場所の近くで燃料集合体を通過しながら運転中の原子炉の炉心を通って流れる冷却材を混合する翼板を有」する点に相当する。

ウ’ 引用発明の「支持格子4を平面視においてその中心回りに4等分に区分け」した「第1象限S_(1)、第2象限S_(2)、第3象限S_(3)、第4象限S_(4)」は、本願発明3の「格子の中心の回りに対称的に位置している複数の領域」に相当する。
よって、引用発明の「支持格子4を平面視においてその中心回りに4等分に区分けし、それぞれの区を第1象限S_(1)、第2象限S_(2)、第3象限S_(3)、第4象限S_(4)とすると、ミキシングベーン11…が配置された支持格子4では、その平面視におけるストラップ7…どうしの多数の交差点Pから一方の対角方向に並ぶ格子空間5…へ突出するミキシングベーン11…の数と、他方の対角方向に並ぶ格子空間5…へ突出するミキシングベーン11…の数とが同数になると共に、ミキシングベーン11…が、支持格子4の中心に対していわゆるミラーの4回転対称に配置され」た点は、本願発明3の「翼板は格子の中心の回りに対称的に位置している複数の領域の各々の中に所定の設計で配置され」る点に相当する。

エ’ 引用発明において、ミキシングベーン11…は、「ミキシングベーン11…により発生する乱流」によって生じる「燃料棒6…の振動」が、「第1および第3象限S_(1)、S_(3)と第2および第4象限S_(2)、S_(4)とで、互いに逆方向に向いて打ち消し合」うように配置されているのであるから、引用発明は、ミキシングベーン11…を、各象限内の冷却水流れパターンを、残りの象限の冷却水流れパターンによって生じる格子の中心に対する横方向の液体力学的力と平衡するように配置している、といえる。
よって、引用発明の「ミキシングベーン11…により発生する乱流により、燃料棒6…に振動が発生した場合でも、ミキシングベーン11…が支持格子4の中心に対して点対称に配置されていることにより、燃料棒6…の振動が、第1および第3象限S_(1)、S_(3)と第2および第4象限S_(2)、S_(4)とで、互いに逆方向に向いて打ち消し合って、核燃料集合体全体としての振動発生を抑制することができ」る点は、本願発明3の「翼板は、各領域内の冷却材流れパターンを、残りの領域内の冷却材流れパターンによって生じる格子の中心に対する横方向の液体力学的力と平衡するものとして生じさせるよう構成されている」点に相当する。


(2)一致点
本願発明3と引用発明とは、以下の点で一致する。
「原子炉の炉心内に用いられる燃料集合体中の細長い燃料要素の相対位置を横方向に維持する支持格子であって、支持格子に取り付けられていて、冷却材が格子配置場所の近くで燃料集合体を通過しながら運転中の原子炉の炉心を通って流れる冷却材を混合する翼板を有し、翼板は格子の中心の回りに対称的に位置している複数の領域の各々の中に所定の設計で配置され、格子は燃料要素の細長い寸法方向に直角な平面内に位置し、翼板は、各領域内の冷却材流れパターンを、残りの領域内の冷却材流れパターンによって生じる格子の中心に対する横方向の液体力学的力と平衡するものとして生じさせるよう構成されている支持格子。」

(3)相違点
よって、本願発明3と引用発明とは、以下の点で相違する。
[相違点ア]
本願発明3は「燃料要素の細長い寸法方向に対して直角な平面内の格子の外部幾何学的形状は、等辺多角形であり、対称領域は、周囲セグメントの中点から多角形の中心に引かれた線により画定され、各領域内の翼板は、多角形の中心からそれぞれの領域の周囲セグメントの結合部まで延びるものとして定義される対角線に平行な方向に向いて」いるのに対し、引用発明は、格子の外部幾何学的形状が不明であって、本願発明3のような限定がなされていない点。

(4)当審の判断
上記相違点アについて検討する。
最初に、引用例には、図2に示される第二実施例として「第1および第3象限S_(1)、S_(3)においては、各交差点Pから右上がりの対角方向に並ぶ格子空間5…にミキシングベーン11…を突出させ、かつ第2および第4象限S_(2)、S_(4)においては、各交差点Pから右下がりの対角方向に並ぶ格子空間5…にミキシングベーン11…を突出させ」たものが記載され(上記記載事項(e)を参照。)、その第二実施例の変形例として「第1および第3象限S_(1)、S_(3)に位置するミキシングベーン11…の向きを同じくし、かつ第2および第4象限S_(2)、S_(4)に位置するミキシングベーン11…の向きを同じくすると共に第1および第3象限S_(1)、S_(3)とは逆向きにしてもよい」(上記記載事項(f)を参照。)と記載されているのであるから、第二実施例の変形例として、上記第二実施例の第1および第3象限S_(1)、S_(3)と、第2および第4象限S_(2)、S_(4)とのミキシングベーン11…の向きを互いに入れ替える(図2のY軸の左右のパターンを入れ替える)こと、すなわち、第1および第3象限S_(1)、S_(3)においては、各交差点Pから右下がりの対角方向に並ぶ格子空間5…にミキシングベーン11…を突出させ、かつ第2および第4象限S_(2)、S_(4)においては、各交差点Pから右上がりの対角方向に並ぶ格子空間5…にミキシングベーン11…を突出させることは、当業者が容易に想到し得ることである。

また、原子炉の炉心内に用いられる燃料集合体を構成する支持格子の外部幾何学的形状を、燃料要素の細長い寸法方向に対して直角な平面内において「等辺多角形」にすることは、当業者にとって例示するまでもなく周知の技術であるから、引用例の図2を参照しつつ、引用発明では、支持格子4を平面視においてその中心回りに4等分に区分けした第1?第4象限が「支持格子4の中心に対していわゆるミラーの4回転対称」に配置されていることを考慮すると、引用発明の支持格子の外部幾何学的形状を正方形(等辺多角形)とすることは、当業者が容易になし得たことである。
そして、引用発明の支持格子の外部幾何学的形状として正方形を採用すれば、前記各象限(本願発明3の「対称領域」に相当する。)を画定する線として、正方形の一辺(本願発明3の「周囲セグメント」に相当する。)の中点から支持格子4の中心(本願発明3の「多角形の中心」に相当する。)に引かれた線を採用することに困難性はなく、また、その時の、上記した第二実施例の変形例(第1および第3象限S_(1)、S_(3)においては、各交差点Pから右下がりの対角方向に並ぶ格子空間5…にミキシングベーン11…を突出させ、かつ第2および第4象限S_(2)、S_(4)においては、各交差点Pから右上がりの対角方向に並ぶ格子空間5…にミキシングベーン11…を突出させたもの)のミキシングベーン11…が、支持格子4の中心から正方形の頂点(本願発明3の「それぞれの領域の周囲セグメントの結合部」に相当する。)まで延びるものとして定義される線、に平行な方向を向くことは、明らかである。

よって、引用発明に上記周知の技術を適用して、上記相違点アに係る本願発明3の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たことである。
また、本願発明3の奏する作用効果も、引用発明及び周知の技術から当業者が予測できる範囲内のものである。
したがって、本願の請求項3に係る発明は、引用例に記載された発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。


第4 記載不備について
原審で通知した平成18年10月18日付け拒絶理由の、「理由2 (7)」で指摘した拒絶の理由の内容は、以下のとおりである。
「(7)請求項11に『隣り合うばねは、互いに逆方向に傾斜している』と記載されるが、明細書の発明の詳細な説明を参酌しても、該『隣り合うばねは、互いに逆方向に傾斜している』構成が明確ではなく、当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載したものとは認められない(隣り合うばねとは、どのばねとばねとを指すのか明確でないため、『隣り合うばねは、互いに逆方向に傾斜している』構成とは具体的にどのような構成か不明である)。そして、請求項11に係る発明は明確でない。」

上記請求項11の記載は、現在(平成20年5月12日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲)の請求項7に記載されており、発明の詳細な説明、図面、及び本願発明7の構成を全体的に参酌しても、「隣り合う」がどの2箇所を意味するのか不明であるため、本願発明7は依然として明確でなく、発明の詳細な説明も、本願発明7を当業者が容易にその実施をすることができる程度に記載したものとは認められない。

したがって、本願の請求項7に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本願の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。


第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1、3に係る発明は、ともに特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願の請求項7に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本願の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-04 
結審通知日 2010-03-10 
審決日 2010-03-26 
出願番号 特願平11-507243
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G21C)
P 1 8・ 537- Z (G21C)
P 1 8・ 121- Z (G21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中塚 直樹青木 洋平  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 今関 雅子
小松 徹三
発明の名称 液体力学的に平衡する混合翼板を備える核燃料集合体  
代理人 加藤 紘一郎  

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