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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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不服200625545 | 審決 | 特許 |
不服200417222 | 審決 | 特許 |
不服200825108 | 審決 | 特許 |
不服200710119 | 審決 | 特許 |
無効2008800115 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23C |
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管理番号 | 1222457 |
審判番号 | 不服2007-10363 |
総通号数 | 130 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-04-12 |
確定日 | 2010-08-26 |
事件の表示 | 平成11年特許願第210085号「栄養組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成13年2月6日出願公開、特開2001-29010〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、平成11年7月26日の出願であって、平成18年12月11日付けの拒絶理由通知に対して、平成19年2月15日に意見書及び手続補正書が提出され、同年3月6日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年4月12日に審判請求がされるとともに、同年5月14日付けで手続補正がされ、その後、平成22年2月16日付けで平成19年5月14日付けの手続補正が却下されるとともに、拒絶理由が通知され、同年4月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 この出願に係る発明は、平成22年4月26日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?2に記載されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。 「栄養組成物を構成する油脂に対して共役リノール酸及びステアリドン酸を配合により強化して、共役リノール酸0.1?2%及びステアリドン酸0.05? 0.4%とし、免疫機能を高めたことを特徴とする栄養組成物。」 第3 当審が通知した拒絶の理由の概要 平成22年2月16日付けで当審が通知した拒絶の理由は、請求項1?3に係る発明は、その出願前に頒布された下記の刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 記 刊行物1:特表平11-504339号公報 刊行物2:国際公開第98/19675号 第4 当審の判断 当審は、本願発明1は、当審が通知した上記拒絶の理由により特許を受けることができないものと判断する。以下、詳述する。 1 引用刊行物の記載事項 (1)刊行物1に記載された事項 (1-a)「補正請求の範囲 1.治療に使用するための、下記構造を有する化合物。 R_(1)-O-CH(-R_(3))-O-R_(2) ここでR_(1)は二つまたはそれ以上のシスまたはトランス二重結合を有するC_(16)?_(30)脂肪酸から導かれたアシル基であり、R_(2)はR_(1)と同一かまたは異なるか、またはいづれか他の栄養素、薬剤または体内における活性体として放出される他の生物活性物質残基であり、R_(3)は水素、完全な炭化水素であるか、またはヘテロ原子を含む。 2.前記脂肪酸がn-6またはn-3系必須脂肪酸または共役リノール酸、またはコロンビン酸、またはパリナル酸である請求の範囲1の化合物。 3.脂肪酸がγ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、アドルン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、n-3系ドコサペンタエン酸またはドコサヘキサエン酸である請求の範囲1の化合物。」(40頁4?16行) (1-b)「三部分がジエミナルである相互プロドラッグの概念 しばしば、相互に生物活性物質のプロドラッグである単一エステルは、生体内において十分に不安定ではなく、目的とする二つの生物活性物質へのプロドラッグの十分に高い割合の変換を達成できない。…この問題を解決する一つの方法は、生物活性物質がジエミナル・ジオキソまたはジエミナル・アミノオキソ結合を介して連結している、三部分がジエミナルである相互プロドラッグのこころみを用いることである。 たとえば、二つの生物活性カルボン酸を一対のジオキソ結合を介してジエステルとして連結することができる概要図1に概要を示したとおり、一対のジオキソを有するジエステルの加水分解の第1段階は、酵素による経路1または経路2、すなわち二つの生物活性エステル結合の一つが酵素により開裂して極めて不安定なヒドロキシメチルエステルを形成し、これは急速に生体内において他の生物活性物質およびアルデヒドに解離する。いづれの経路によっても、酵素によるただ一つの加水分解反応によって二つの生物活性物質が形成される。」(8頁下から6行?9頁9行) (1-c)「 」(9頁中段) (1-d)「一般に、ここで提示した化合物は、それらの脂肪親和性に加えて多くの利点を有している。与えられた脂肪酸の二つの部分または一つの部分でさえも、経口、非経口または局所用調合物として体内に容易に取り入れられる形状で分配され、たとえば遊離脂肪酸に関連した如何なる副作用にも極めて良好な耐性があり、適切な使用にとって安定でありすぎることがない。 二つの異なる脂肪酸が用いられる場合には、上述のような利点に加えて、一つの分子内に異なる生物学的作用を有する二つの物質を同時に投与することができる利点がある。このことは、二つの物質を別々の化合物として投与したときに生ずる調整の問題を回避する。二つの薬剤が別々の分子として用いられた場合には、調整の専門家は、それぞれの薬剤を別個に、かつ同様に組合せでも検討すべきことを要求する。」(12頁16?26行) (1-e)「脂肪酸誘導体:脂肪酸の効果 活性物質の脂質膜を通しての輸送は、活性物質を直接、または中間物を介して、とりわけγ-リノレン酸(GLA)またはジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)と結合させることによって改善され、これら二つの脂肪酸はそれ自体、望ましい効果の範囲を有する。これらの結合は、いづれかの輸送上の利点にかかわりなく、それ自体望ましい作用を有する脂肪酸と共に同一分子で共に分配することを可能にする。必須脂肪酸(EFAs)のいづれかのような、とりわけn-6およびn-3系EFA(図1)の12の天然酸のような他の脂肪酸を用いることもできる。これら12の酸の中で、アラキドン酸、アドルン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸は、これらがそれ自体で特に望ましい効果を有する故にとりわけ興味がある。更にいづれかの脂肪酸、好適にはC_(12)?C_(30)またはC_(16)?C_(30)で望ましくは二つ以上のシスまたはトランス炭素-炭素2重結合を有する酸も使用される。使用は脂肪酸または対応する脂肪族アルコールの形状でなされる。共役リノール酸およびコロンビン酸はそれ自体で価値ある性質を有し、とりわけ使用されるであろう。」(13頁14?28行) (1-f)「GLAおよびDGLA GLAおよびDGLAは、それ自体で抗炎症効果を有すること、血圧を低下すること、血小板の凝集を抑制すること、コレステロールのレベルを低下すること、ガン細胞の生長を抑制すること、…などを示した。従って、DLAおよびDGLAに結合した活性物質は、より脂肪親和性となり、全ての膜、皮膚および血脳関門の浸透性が高められるばかりでなく、新規かつ付加的な治療効果をも示すようになる。 同様に格別に価値のある他の脂肪酸は、全ての細胞膜の主要な構成成分であるアラキドン酸およびドコサヘキサエン酸、アトルン酸、およびGLAおよびDGLAのそれに類似の望ましい性質の範囲を有するステアリドン酸およびエイコサペンタエン酸である。特別に興味のある図1の脂肪酸に含まれなかった脂肪酸は、共役リノール酸(cLA)およびコロンビン酸(CA)である。cLAはガンの治療と予防に、特にタンパク質含有組織の生長促進に、心血管疾患の予防と治療に、そして酸化防止剤として興味ある効果の範囲を有する。」(15頁下から10行?16頁7行) (1-g)「必須脂肪酸を生物活性物質とする認識 必須脂肪酸(EFAs)はすでに述べたとおりであり、かつ良く知られており、一連の12の化合物からなる。…治療上で特に価値があると思われる脂肪酸は、DGLA、AA、EPAおよびDHA、ならびにDGLAの先駆体であるGLA、EPAの先駆体であるステアリドン酸(SA)、およびDHAの先駆体であるDPA(22:5 n-3)、およびアドレン酸である。 更にEFAsではないが、人体において重要な効果を有するオレイン酸、パリナル酸およびコロンビン酸のような脂肪酸がある。これらの中で最も興味があるものの一つは、早くから一連の望ましい効果を有することが注目されていた共役リノール酸である。」(17頁17行?18頁10行) (1-h)「化学にもとづく生物活性物質の区分 (a)遊離カルボキシル基を有する生物活性物質?これらは下記のように誘導することができる。 (i)ジエミナル・ジオキソ結合を介する不飽和脂肪酸とのジエステル結合 … (b)遊離ヒドロキシル基を有する生物活性物質?… (c)酸性NH基(…)を有する生物活性物質?… これらのカテゴリーの全てにおいて、“不飽和脂肪酸”(…)は、オレイン酸(…)および二つまたはそれ以上のシスまたはトランス二重結合を有する、いづれかの脂肪酸(…)からなる群のメンバーを表わす。 しかしながら、関連する最も価値のある脂肪酸は、図1に示した必須脂肪酸であり、とりわけGLA、DGLA、AA、SA、EPAおよびDHAである。特別の目的のためには、共役リノール酸およびコロンビン酸が最も興味がある。」(19頁11行?20頁下から7行) (1-i)「三つの部分ジエミナルである相互プロドラッグ結合を解して結ばれている、生物活性化物質のペアの例 生物活性物質のペアの例は下記のとおりである…。 脂肪酸 GLA-OA(OA=オレイン酸)、GLA-GLA、EPA-EPA、GLA-EPA、GLA-DHA、AA-DHA、AA-EPA、GLA-AA、GLA-SA、SA-DHA、AA-SA、DGLA-DGLA、DGLA-GLA、DGLA-SA、DGLA-AA、DGLA-EPA、DGLA-DHA、AA-AA、EPA-SA、EPA-DHA、DHA-DHA、cLA-cLA、cLA-GLA、cLA-DGLA、cLA-AA、cLA-SA、cLA-EPA、cLA-DHA、CA-CA、CA-GLA、CA-DGLA、CA-AA、CA-SA、CA-EPA、CA-DHA。」(23頁4?18行) (1-j)「本発明 …本発明はとりわけ、区分(a)〔i〕、遊離カルボキシル基を含む生物活性物質のジエミナル・ジオキソジエステル、すなわち下記の構造に関する。 R_(1)-O-CH(-R_(3))-O-R_(2 ) ここでR_(1)は二つまたはそれ以上のシスまたはトランス二重結合を有するC_(16)?_(30)脂肪酸、とりわけn-6またはn-3系EFAまたは共役リノール酸、またはコロンビン酸、またはパリナル酸であり、R_(2)はR_(1)と同一かまたは異なり、またはいづれか他の栄養素、薬剤または体内において活性物として放出される生物活性残基であり、R_(3)は水素、完全な炭化水素であるか、またはヘテロ原子を含み、好ましくはアルキル基、とりわけC_(1)?C_(4)アルキル基である。 ジエミナル・ジオキソジエステルについては、一般的結合は多くの他のジエミナル・ジオキソジエステルに関する文献に開示されている。しかしながら、ジエミナル・ジオキソジエステルを不飽和脂肪酸(UFA)ジエミナル・ジエステルの形で…有する化合物として治療に使用することは共に開示されておらず、とりわけ重要である。事実、本発明はジエミナル・ジオキソジエステルとしての個々の脂肪酸を与える好都合な方法を提供する。… UFAジエミナル・ジオキソジエステルは広範囲の変化にとむ可能な用途を有する。これらジエステルは、脂肪酸の異状が確認されている疾患の治療または予防のための薬剤として用いられる。食品へ添加することができ、または疾患の治療または予防のために、特定の脂肪酸を要求する人への栄養補給成分として添加または用いられる。… 利点として、または種々の特別の観点において、本発明は下記を提供する。 (i)治療または栄養の目的で、一つまたは二つの不飽和脂肪酸部分、または一つの不飽和脂肪酸および脂肪酸ではない一つの生物活性物質を投与するための、便利かつ安全な方法。 (ii)天然産n-6またはn-3系の必須脂肪酸、とりわけGLA主たはDGIA、AA、SA、EPAまたはDHAまたは関連脂肪酸のcLAまたはCAへのジエミナル・ジオキソまたはジエミナル・アミノオキソ結合によって、細胞に入るか、または皮膚、血脳関門または他のバリアを通過してその作用を発揮するために、人体における脂質膜を越えることが要求される生物活性物質の誘導体。 (iii)…」(25頁14行?26頁27行) (1-k)「一般的用途 脂肪酸は多数の望ましい生物学的および治療上の活性を有し、これについては本発明者ら、およびその他の人による多数の刊行物に詳細に述べられている。四種の脂肪酸、すなわちGLA、DGLA、SAおよびEPAは下記を含むより広範な効能スペクトルを有している。 1.… … 共役リノール酸(cLA)については、GLAやEPAのように広範に試験されていないが、ガン、心血管および代謝疾患の治療に価値ある効果を含む広い範囲の作用を有していると思われる。」(27頁7行?28頁19行) (1-l)「調合物 脂肪酸-生物活性ジエミナル・ジオキソおよびアミノオキソ結合物は、いづれかの適切な、かつ医薬、スキンケア製品または食品の製造分野における当業者に知られている方法で調合することができる。調合物は経口的に、経腸的に、局所的に、非経口的に(皮下、筋肉、静脈)、直腸に、膣に、またはいづれか他の適切な経路で投与される。」(34頁10?15行) (2)刊行物2に記載された事項 (審決注:刊行物2に記載された事項の記載箇所は刊行物2(英文)における該当箇所により示し、記載された事項は日本語訳により示した。) (2-a)「我々は、ヒトを含む動物におけるキラーリンパ球の活性を高める方法を発見した。その方法は安全かつ有効量の共役リノール酸、例えば9,11-オクタデカジエン酸および10,12-オクタデカジエン酸、またはそれらの活性誘導体、例えば無毒性塩、トリグリセリド等の活性エステル、およびこれらの混合物を動物に投与することを含んでなる。 共役リノール酸類、それらの無毒性塩、活性エステル、活性異性体、活性代謝産物、およびそれらの混合物は本明細書では“CLA”と言及する。」(2頁2?11行) (2-b)「別の実施態様においては、動物にCLA強化食を給餌する。 本発明の方法に使用するための動物飼料および薬学的調合剤は、CLAと従来の動物飼料(例えば家禽用餌)、ヒト用補助食品、または承認された薬学的希釈剤とを組み合わせて含むものである。」(3頁15?21行) (2-c)「1.動物のキラーリンパ球の活性を維持または高める方法であって、前記動物にキラーリンパ球の活性を高めるのに有効な量であって安全量のCLAを経口または非経口投与することを含んでなる方法。 2.前記CLAが食物に含まれて動物に経口投与される請求項1記載の方法。 3.前記CLAがCLAの無毒性塩、CLAの活性エステル、またはそれらの混合物として投与される請求項1記載の方法。」(11頁「特許請求の範囲」の項) 2 刊行物1に記載された発明 刊行物1には、「R_(1)-O-CH(-R_(3))-O-R_(2)」(摘示(1-a)の「1.」、摘示(1-j))について記載され、この化合物は、「酵素によるただ一つの加水分解反応によって二つの生物活性物質が形成される」(摘示(1-b))もの、「相互に生物活性物質のプロドラッグである単一エステル」(摘示(1-b))であって、生体内へ「生物活性物質」を供給するために用いる化合物である。その「生物活性物質」として、不飽和脂肪酸、とりわけ、「GLA主たはDGIA、AA、SA、EPAまたはDHAまたは関連脂肪酸のcLAまたはCA」(摘示(1-j))について述べられており、具体的な「ペア例」(摘示(1-i)として、「cLA-SA」すなわち、R_(1)、R_(2)が共役リノール酸(cLA)から導かれたアシル基、ステアリドン酸(SA)から導かれたアシル基である上記化合物が明示されている。 そして、刊行物1の化合物は、「個々の脂肪酸を与える好都合」(摘示(1-j)で、「食品へ添加する」(摘示(1-j))等の用途に用いられるものであり、また、「いづれかの適切な、かつ…食品の製造分野における当業者に知られている方法で調合することができる」(摘示(1-l))ものであることが記載されている。 そうすると、刊行物1には、 「R_(1)、R_(2)が共役リノール酸から導かれたアシル基とステアリドン酸から導かれたアシル基であるR_(1)-O-CH(-R_(3))-O-R_(2)を食品へ添加し調合した食品」 という発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 3 本願発明1と引用発明との対比 引用発明の化合物は、上記のとおり、生体内へ「生物活性物質」を供給するために用いる化合物であり、引用発明の食品を生体内に取り入れると、引用発明の化合物から「酵素によるただ一つの加水分解反応によって二つの生物活性物質」、すなわち、「共役リノール酸」及び「ステアリドン酸」が生体内へ供給されるものであるといえることから、引用発明において「R_(1)、R_(2)が共役リノール酸から導かれたアシル基とステアリドン酸から導かれたアシル基であるR_(1)-O-CH(-R_(3))-O-R_(2)を食品へ添加し調合」することは、食品に対し共役リノール酸から導かれたアシル基とステアリドン酸から導かれたアシル基を有する化合物を配合により強化することである、ということができる。 他方、本願発明1の「共役リノール酸及びステアリドン酸を配合により強化」するときの「共役リノール酸」及び「ステアリドン酸」の形態は、本願明細書の段落【0010】の「本発明で使用する共役リノール酸、ステアリドン酸…の形態は、トリグリセリドの形態であることが望ましい…」の記載からみて、トリグリセリドの形態、すなわち、共役リノール酸から導かれたアシル基、ステアリドン酸から導かれたアシル基を有する化合物の形態を包含するものである。 そうすると、引用発明の共役リノール酸から導かれたアシル基とステアリドン酸から導かれたアシル基を含有する化合物を食品に添加することは、本願発明1の「共役リノール酸及びステアリドン酸を配合により強化」することに包含されるといえる。 そして、引用発明の「食品」は、本願発明1の「栄養組成物」に包含されるといえるから、本願発明1と引用発明とは、 「栄養組成物に対して共役リノール酸及びステアリドン酸を配合により強化した栄養組成物」 において一致するといえ、ただ、以下の点アにおいて相違するといえる。 ア 本願発明1においては、「栄養組成物を構成する油脂」に対して、共役リノール酸を「0.1?2%」、ステアリドン酸を「0.05? 0.4%」とし、「免疫機能を高めた」ものであるのに対し、引用発明では、それらが明らかでない点(以下、「相違点ア」という。) 4 相違点アについての判断 上記のとおり、引用発明の化合物は、「共役リノール酸」及び「ステアリドン酸」を「生物活性物質」として生体内へ供給するためのものであるといえる。 そして、共役リノール酸(cLA)は、例えば刊行物1の摘示(1-f)、(1-k)に「ガンの治療と予防…として興味ある効果の範囲を有する」、「ガン…の治療に価値ある効果を含む広い範囲の作用を有している」と示されるとおり、「生物活性」がある脂肪酸であることが知られているものであるところ、その「生物活性」として、刊行物2に記載のとおり、キラーリンパ球の活性を高める作用(摘示(2-a)、(2-c))が知られている。 そして、本願発明1において「共役リノール酸」を「ステアリドン酸」と共に配合したことによる相乗効果は認めることはできず(下記、「7 (3)」参照のこと)、さらに、上記相違点アに係る油脂に対する割合の上記数値範囲としたことに格別臨界的意義も見出せない(該数値範囲は「油脂」に対する割合で規定されているところ、「油脂」は「栄養組成物」の一成分であって、その「栄養組成物」における「油脂」の配合範囲も「脂質5?40重量%」(本願明細書段落【0010】)と広範である。さらに、「栄養組成物」の1日(回)当たりの摂取量も明らかではない。そうすると、上記相違点アに係る油脂に対する割合の数値限定は、本願発明1の栄養組成物の摂取者における当該脂肪酸の摂取量を何ら特定するものではない。)。 そうすると、上記相違点アに係る油脂に対する割合の数値範囲は、当該脂肪酸が所望の「生物活性」を奏するために、例えば、乳児用ミルクなどの栄養組成物において従来望まれていた免疫機能を高める作用を、その栄養組成物の摂取者において奏するために適切な量範囲というに過ぎないと認められるから、そのような範囲とすることは、当業者が、その栄養組成物の油脂・蛋白質・糖等の組成、1日(回)の摂取量、摂取対象者等に応じ、実験等により適宜なし得る通常の創作能力の範囲のものであるといえるし、その際、強化される「共役リノール酸」及び「ステアリドン酸」が脂肪酸であることから、その添加(量)を栄養組成物を構成する油脂に対するものとすることも、当業者が適宜なし得ることにすぎないといえる。 5 本願発明1の効果について 本願発明1の効果は、本願明細書段落【0023】によると、 「本発明の栄養組成物のように、共役リノール酸及びステアリドン酸、あるいはネルボン酸を強化することにより、ナチュラルキラー細胞活性が高まり、免疫力が賦与されるので、本発明の栄養組成物は、免疫機能の未熟な乳幼児や免疫機能の低下した高齢者等に好適に利用される。」と認められる。 しかるに、引用発明も共役リノール酸を有するものであり、共役リノール酸はナチュラルキラー細胞活性を高めることは、刊行物2に記載される(摘示(2-a)、(2-c))とおり、予測されることにすぎないし、本願発明1において、その免疫機能が高められる程度が、格別高いものと認めることもできない。 そうすると、本願発明1の効果は、刊行物1及び2に記載された事項から予測されるところを超えて優れているとはいえない。 6 まとめ したがって、本願発明1は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をするができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 7 請求人の主張について (1)平成22年4月26日付け意見書において、請求人は、刊行物1について下記のように主張している(意見書3.の項)。 A 「引用文献1には、多種の疾患等に効果が認められる旨の記載がなされているが、その中で、自己免疫疾患及びアトピー性湿疹に関する効果が記載されている。自己免疫疾患とは、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し攻撃を加えてしまうことで症状をきたす疾患の症状であるため、その治療法としては自己免疫を弱めることを期待するものであり、本発明の免疫効果を高めるという課題や効果とは明らかに異なる。」 B 「上記の説明によっても、一見、依然として進歩性を有しないものとしても、本願明細書の実施例の特に表5に記載された本発明の効果を確認すると、共役リノール酸を含有していてもステアリドン酸を含有していない場合よりも、リノール酸とステアリドン酸を共に含有している場合のほうがナチュラルキラー細胞活性が高い。 そうすると、効果に関する具体的データが示されておらず、しかも各種脂肪酸や共役リノール酸等の極めて多数の酸から導かれたアシル基を含有する化合物に留まるために、それらの脂肪酸の組合せが膨大な数に上る引用文献1記載の発明において、本発明は、特定の脂肪酸の組合せを選択することにより顕著な効果を発揮することができたのであり、そのような効果を目的に当業者は本発明中の特定の脂肪酸の組合せを選択できるものではなく、引用文献1記載の発明に対して選択発明を構成するものである。」 (2)Aの主張について 請求人は、「自己免疫疾患とは、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し攻撃を加えてしまうことで症状をきたす疾患の症状であるため、その治療法としては自己免疫を弱めることを期待するものであり、本発明の免疫効果を高めるという課題や効果とは明らかに異なる。」と主張している。 しかし、「免疫機能」のメカニズムは様々であり、本願発明1の「免疫機能を高めた」とは、具体的には、本願明細書の実施例等の記載からみてからみて、「ナチュラルキラー細胞活性が高まる」(段落【0022】)ことであると認められる。 そして、ナチュラルキラー細胞活性を高めることにより免疫機能を高めることと、自己免疫疾患に関する免疫機能のメカニズムとが関連することについては明らかではないところ、自己免疫疾患の「治療法としては自己免疫を弱めることを期待する」とする主張の具体的根拠が示されてはいない。 上記のとおり、「共役リノール酸」には、「ナチュラルキラー細胞活性が高まる」という生物活性があることは、刊行物2に記載のとおり知られていることであるから、「共役リノール酸」を所定量含むようにした引用発明は、「ナチュラルキラー細胞活性が高まる」という効果を奏することは予測されることである。 そうすると、引用発明と「免疫効果を高めるという課題や効果とは明らかに異なる」旨の請求人の主張は、根拠が無く、当を得たものではない。 (3)Bの主張について 請求人は、「共役リノール酸を含有していてもステアリドン酸を含有していない場合よりも、リノール酸とステアリドン酸を共に含有している場合のほうがナチュラルキラー細胞活性が高い…本発明は、特定の脂肪酸の組合せを選択することにより顕著な効果を発揮することができた」と主張する。 しかし、本願明細書を検討しても、「特定の脂肪酸の組合せを選択することにより顕著な効果を発揮することができた」と認めることはできない。 すなわち、本願発明1の「免疫機能を高めた」効果を具体的に示すものは本願明細書の「試験例1」のみである。そして、その結果を示す【表5】の記載は、以下のとおりである。 ────────────────────────────────── A群 B群 C群 D群 E群 F群 G群 ────────────────────────────────── 共役リノール酸(%) 0.01 0.05 0.1 0.1 0.5 1.0 2.0 ステアリドン酸(%) nd nd 0.05 0.05 0.1 0.2 0.4 ネルボン酸(%) 0.01 0.01 0.02 0.05 0.1 0.2 0.4 ────────────────────────────────── ナチュラルキラー細胞活性 (% Cytotoxicity) 23 24 29 34 38 41 43 ────────────────────────────────── ここにおける、「共役リノール酸(%)」、「ステアリドン酸(%)」、「ネルボン酸(%)」は、何に対する値か必ずしも明確ではないが、仮に、これらの値が脂肪酸配合強化後の飼料を構成する「油脂」に対する、それぞれの脂肪酸の存在割合であるとして、以下検討する。 A群とB群は、「共役リノール酸(%)」がそれぞれ「0.01」と「0.05」であり、「ステアリドン酸(%)」がともに「nd」である(請求人はこれらを「共役リノール酸を含有していてもステアリドン酸を含有していない場合」というものと認められる。)。そして、A群とB群の「ナチュラルキラー細胞活性(…)」は「23」、「24」である。 また、C群?G群は、「共役リノール酸(%)」が、「0.1」…「2.0」であり、「ステアリドン酸(%)」が「0.05」…「0.4」である(請求人はこれらを「リノール酸とステアリドン酸を共に含有している場合」というものと認められる。)。そして、C群?G群の「ナチュラルキラー細胞活性(…)」は「29」…「43」である。 以上から、A群とB群の場合よりC群?G群の場合のほうが「ナチュラルキラー細胞活性が高い」とはいえる。 しかし、これらの結果から、「特定の脂肪酸の組合せ」、すなわち、共役リノール酸とステアリドン酸との組合せ、を選択することにより「顕著な効果を発揮することができた」、すなわち、顕著にナチュラルキラー細胞活性を高めることができた、ということはできない。 まず、A群とB群の「共役リノール酸(%)」の含有量は「0.01」と「0.05」と僅少であり、後者は前者の5倍含有するのに「ナチュラルキラー細胞活性」の差は誤差の範囲、ないし、僅かである。そうすると、これらの「ナチュラルキラー細胞活性」が「共役リノール酸」を含有することに基づくものとは必ずしもいえない。 さらに、これらA?G群には、共役リノール酸、(及びステアリドン酸)のほかに、常に「ネルボン酸」が含有され、しかも、これら三者(二者)の量及び割合は各群で異なっているから、これらA?G群の「ナチュラルキラー細胞活性」が、いずれの物質を含有することに基づくものであるかは、明らかではない。 そうすると、C群?G群の、「ナチュラルキラー細胞活性」の値がA群とB群のそれよりも高いということが示されているとしても、そのことが、「共役リノール酸」と「ステアリドン酸」との組合せを選択することに基づくものであるということはできない。 したがって、表5の記載からは、「共役リノール酸」と「ステアリドン酸」の組合せを「選択することにより顕著にナチュラルキラー細胞活性が高まった」、ということはできない。他にこの点を裏付けるに足るものはない(なお、上記相乗効果の有無について、先の補正の却下の決定の「3(2-4)ウ(イ)」(拒絶理由通知の「第2 3(2-4)ウ(イ)」)において、既に指摘しているところである。しかし、「共役リノール酸」と「ステアリドン酸」の組合せ等の相乗効果が有ることについての説明、資料など上記相乗効果を裏付けるに足るものは、提出されなかった。)。 さらに、刊行物1には、「ペアの例」として具体的に「cLA-SA」すなわち、「共役リノール酸」と「ステアリドン酸」との組合せが明示されている(摘示(1-i))。 そうすると、「共役リノール酸」と「ステアリドン酸」との組合せに関して、選択発明が成立するということはできないから、「本発明は、特定の脂肪酸の組合せを選択することにより顕著な効果を発揮することができたのであり、そのような効果を目的に当業者は本発明中の特定の脂肪酸の組合せを選択できるものではなく、引用文献1記載の発明に対して選択発明を構成するものである。」との主張は、採用することはできない。 (4)まとめ したがって、請求人の主張は、上記「本願発明1は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。」とする判断を左右するものではない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余を検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-06-22 |
結審通知日 | 2010-06-29 |
審決日 | 2010-07-12 |
出願番号 | 特願平11-210085 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A23C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼ 美葉子 |
特許庁審判長 |
柳 和子 |
特許庁審判官 |
松本 直子 橋本 栄和 |
発明の名称 | 栄養組成物 |
代理人 | 長谷部 善太郎 |
代理人 | 児玉 喜博 |
代理人 | 佐藤 荘助 |