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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1222774
審判番号 不服2008-25041  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-30 
確定日 2010-09-03 
事件の表示 特願2004-247635「リソグラフィ装置およびデバイス製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月24日出願公開、特開2005- 79584〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は平成16年8月27日(パリ条約による優先権主張 平成15年8月29日、欧州特許庁)の特許出願であって、平成19年8月31日付けで拒絶理由が通知され、同年12月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成20年6月30日付けで拒絶査定がなされたため、これを不服として同年9月30日に本件審判請求がなされるとともに、同年10月29日付けで特許請求の範囲について手続補正がなされ、同日付けで同年9月30日付けの審判請求書の請求の理由について手続補正がなされたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成20年10月29日付けの特許請求の範囲についての手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成19年12月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲についての

「【請求項1】
リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造とを有し、パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターン形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、を有し、
前記液体供給システムが、前記浸漬液を浄化する液体浄化装置を有し、
前記液体浄化装置は、脱塩装置を有し、
前記浸漬液は、水または水溶液であること、
を特徴とするリソグラフィ投影装置。
【請求項2】
前記液体浄化装置が蒸留ユニットを有する、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項3】
前記液体浄化装置が、浸漬液の炭化水素含有率を低下させるユニットを有する、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項4】
前記脱塩装置が、逆浸透ユニット、イオン交換ユニットまたは脱イオン化ユニットである、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項5】
前記液体浄化装置がフィルタを有する、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項6】
前記フィルタが、前記液体供給システムの1つまたは複数のさらなる構成要素から動的に隔離される、請求項5に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項7】
前記液体供給システムが、前記浸漬液を2度目に完全に、または部分的に浄化した状態で、または浄化しない状態で前記空間で浸漬液を再使用するための再循環手段を含む、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項8】
前記液体供給システムがさらに、浸漬液を前記液体浄化装置から前記空間に提供する循環手段を有する、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項9】
前記液体浄化装置は、前記水または水溶液が以下の特性(a)から(f)、つまり、
(a)0.055マイクロシーメンス/cmから0.5マイクロシーメンス/cmの導電性、
(b)5から8のpH、
(c)5ppb以下の有機化合物含有率、
(d)浸漬液1ml当たり50nm以上の寸法を有する粒子2個以内の粒子含有率、
(e)15ppb以下の溶解酸素濃度、および
(f)500ppt以下のシリカ含有率、
のうち1つまたは複数を有すよう、これを浄化するためのものである、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項10】
リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造とを有し、パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターンを形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、
を有し、
前記液体供給システムが、前記空間に入る前に浸漬液に照射するために紫外線ソースと、
前記浸漬液を浄化する液体浄化装置と、を有し、
前記液体浄化装置は、脱塩装置を有し、
前記浸漬液は、水または水溶液であること、
を特徴とするリソグラフィ投影装置。
【請求項11】
リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造とを有し、パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターンを形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、を有し、
さらに前記浸漬液が可視光で照射されることを防止するための手段を有し、
前記液体供給システムが、前記浸漬液を浄化する液体浄化装置を有し、
前記液体浄化装置は、脱塩装置を有し、
前記浸漬液は、水または水溶液であること、
を特徴とするリソグラフィ投影装置。
【請求項12】
前記手段が、可視光に対して非透明で、前記液体供給システムを囲む容器またはエンクロージャである、請求項11に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項13】
前記手段が、浸漬液を浸漬液ソースから可視光に対して非透明である前記空間に供給する導管を有する、請求項11に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項14】
リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造とを有し、パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターンを形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、を有し、
前記液体供給システムは、脱塩装置を有し、
前記浸漬液は、水または水溶液であり、
前記液体供給システムが、さらに、前記浸漬液に生物成長阻害薬品を添加する手段を有することを特徴とするリソグラフィ投影装置。
【請求項15】
リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造と、を有し、
パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターンを形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、を有し、
前記液体供給システムが、さらに前記浸漬液を浄化する液体浄化装置を有し、
前記液体浄化装置は、脱塩装置を有し、
前記浸漬液は、水または水溶液、および、少なくとも1つの生物成長阻害薬品を含むこと、を特徴とするリソグラフィ投影装置。
【請求項16】
リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造とを有し、パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターンを形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、を有し、
前記液体供給システムは、脱塩装置を有し、
前記浸漬液が以下の特性(a)から(f)、つまり、
(a)0.055マイクロシーメンス/cmから0.5マイクロシーメンス/cmの導電性、
(b)5から8のpH、
(c)5ppb以下の有機化合物含有率、
(d)浸漬液1ml当たり50nm以上の寸法を有する粒子2個以内の粒子含有率、
(e)15ppb以下の溶解酸素濃度、および
(f)500ppt以下のシリカ含有率、
のうち1つまたは複数を有する水または水溶液であることを特徴とするリソグラフィ投影装置。
【請求項17】
前記液体供給システムが、浸漬液を含む液体封じ込めシステムを有する、請求項16に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項18】
前記脱塩装置は、前記浸漬液中のシリカおよび炭化水素を減少させる、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項19】
前記脱塩装置が前記浸漬液の特性を制御することにより、前記浸漬駅の光学的特性を一定にさせる、請求項1に記載のリソグラフィ装置。
【請求項20】
前記脱塩装置は、前記浸漬液の電気的特性を制御する、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。」

の記載を、

「【請求項1】
リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造とを有し、パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターン形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、を有し、
前記液体供給システムが、前記浸漬液を浄化する液体浄化装置を有し、
前記液体浄化装置は、脱塩装置を有し、
前記浸漬液は、水または水溶液であり、
前記脱塩装置は、前記浸漬液中のシリカおよび炭化水素を減少させること、
を特徴とするリソグラフィ投影装置。
【請求項2】
前記液体浄化装置が蒸留ユニットを有する、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項3】
前記液体浄化装置が、浸漬液の炭化水素含有率を低下させるユニットを有する、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項4】
前記脱塩装置が、逆浸透ユニット、イオン交換ユニットまたは脱イオン化ユニットである、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項5】
前記液体浄化装置がフィルタを有する、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項6】
前記フィルタが、前記液体供給システムの1つまたは複数のさらなる構成要素から動的に隔離される、請求項5に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項7】
前記液体供給システムが、前記浸漬液を2度目に完全に、または部分的に浄化した状態で、または浄化しない状態で前記空間で浸漬液を再使用するための再循環手段を含む、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項8】
前記液体供給システムがさらに、浸漬液を前記液体浄化装置から前記空間に提供する循環手段を有する、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項9】
前記液体浄化装置は、前記水または水溶液が以下の特性(a)から(f)、つまり、
(a)0.055マイクロシーメンス/cmから0.5マイクロシーメンス/cmの導電性、
(b)5から8のpH、
(c)5ppb以下の有機化合物含有率、
(d)浸漬液1ml当たり50nm以上の寸法を有する粒子2個以内の粒子含有率、
(e)15ppb以下の溶解酸素濃度、および
(f)500ppt以下のシリカ含有率、
のうち1つまたは複数を有すよう、これを浄化するためのものである、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項10】
リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造とを有し、パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターンを形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、
を有し、
前記液体供給システムが、前記空間に入る前に浸漬液に照射するために紫外線ソースと、
前記浸漬液を浄化する液体浄化装置と、を有し、
前記液体浄化装置は、脱塩装置を有し、
前記浸漬液は、水または水溶液であり、
前記脱塩装置は、前記浸漬液中のシリカおよび炭化水素を減少させること、
を特徴とするリソグラフィ投影装置。
【請求項11】
リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造とを有し、パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターンを形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、を有し、
さらに前記浸漬液が可視光で照射されることを防止するための手段を有し、
前記液体供給システムが、前記浸漬液を浄化する液体浄化装置を有し、
前記液体浄化装置は、脱塩装置を有し、
前記浸漬液は、水または水溶液であり、
前記脱塩装置は、前記浸漬液中のシリカおよび炭化水素を減少させること、
を特徴とするリソグラフィ投影装置。
【請求項12】
前記手段が、可視光に対して非透明で、前記液体供給システムを囲む容器またはエンクロージャである、請求項11に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項13】
前記手段が、浸漬液を浸漬液ソースから可視光に対して非透明である前記空間に供給する導管を有する、請求項11に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項14】
リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造とを有し、パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターンを形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、を有し、
前記液体供給システムは、脱塩装置を有し、
前記浸漬液は、水または水溶液であり、
前記液体供給システムが、さらに、前記浸漬液に生物成長阻害薬品を添加する手段を有し、
前記脱塩装置は、前記浸漬液中のシリカおよび炭化水素を減少させること、
を特徴とするリソグラフィ投影装置。
【請求項15】
リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造と、を有し、
パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターンを形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、を有し、
前記液体供給システムが、さらに前記浸漬液を浄化する液体浄化装置を有し、
前記液体浄化装置は、脱塩装置を有し、
前記浸漬液は、水または水溶液、および、少なくとも1つの生物成長阻害薬品を含み、
前記脱塩装置は、前記浸漬液中のシリカおよび炭化水素を減少させること、
を特徴とするリソグラフィ投影装置。
【請求項16】
リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造とを有し、パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターンを形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、を有し、
前記液体供給システムは、脱塩装置を有し、
前記浸漬液が以下の特性(a)から(f)、つまり、
(a)0.055マイクロシーメンス/cmから0.5マイクロシーメンス/cmの導電性、
(b)5から8のpH、
(c)5ppb以下の有機化合物含有率、
(d)浸漬液1ml当たり50nm以上の寸法を有する粒子2個以内の粒子含有率、
(e)15ppb以下の溶解酸素濃度、および
(f)500ppt以下のシリカ含有率、
のうち1つまたは複数を有する水または水溶液であり、
前記脱塩装置は、前記浸漬液中のシリカおよび炭化水素を減少させること、
ことを特徴とするリソグラフィ投影装置。
【請求項17】
前記液体供給システムが、浸漬液を含む液体封じ込めシステムを有する、請求項16に記載のリソグラフィ投影装置。
【請求項18】
前記浸漬液の光学的特性が一定に制御される、請求項1に記載のリソグラフィ装置。
【請求項19】
前記浸漬液の導電性が0.055マイクロシーメンス/cmと0.5マイクロシーメンス/cmとの間に制御される、請求項1に記載のリソグラフィ投影装置。」

と補正するものである。

2 本件補正の適否の検討
(1)目的要件についての検討
本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下単に「特許法」という。)第17条の2第4項に規定する要件を満たすか否かを検討する。
特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」は、補正前後の請求項に係る発明が一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない(東京高裁平成15年(行ケ)第230号、知財高裁平成17年(行ケ)第10192号、知財高裁平成17年(行ケ)第10156号参照。)。
そして、請求人は、平成20年10月29日付けの手続補正により補正された同年9月30日付けの審判請求書の請求の理由において、「上記手続補正において、以下のように特許請求の範囲が改められました。」、「請求項1、10、11、および14?16が補正前の請求項18に係る発明の内容を含むように改められました。」、「補正前の請求項18が重複を排除するため削除されました。」、「上記請求項18の削除に伴い、補正前の請求項19および20が請求項18および19にそれぞれ繰り上げられました。」と主張している。
すると、本件補正のうち本件補正前の請求項18を削除する補正は、特許法第17条の2第4項第1号に掲げる「請求項の削除」を目的とする補正に該当する。
また、本件補正のうち本件補正前の請求項1?17を本件補正後の請求項1?17とする補正は、本件補正前の請求項1?17の「脱塩装置」を本件補正後の請求項1?17の「浸漬液中のシリカおよび炭化水素を減少させる」「脱塩装置」と限定する補正であるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。
さらに、本件補正のうち本件補正前の請求項19を本件補正後の請求項18とする補正は、本件補正前の請求項19の「浸漬駅」を本件補正後の請求項18の「浸漬液」と誤記訂正し、平成20年6月30日付けの拒絶査定のなお書きを受けて、本件補正前の請求項19の「前記脱塩装置が前記浸漬液の特性を制御することにより」との記載を削除し、本件補正前の請求項19の「脱塩装置」を本件補正後の請求項18の「浸漬液中のシリカおよび炭化水素を減少させる」「脱塩装置」と限定する補正であるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、同項第3号に掲げる「誤記の訂正」及び同項第4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とする補正に該当する。
また、本件補正のうち本件補正前の請求項20を本件補正後の請求項19とする補正は、平成20年6月30日付けの拒絶査定のなお書きを受けて、本件補正前の請求項20の「前記脱塩装置は」との記載を削除するとともに、本件補正前の請求項20の「脱塩装置」を本件補正後の請求項19の「浸漬液中のシリカおよび炭化水素を減少させる」「脱塩装置」と限定し、本件補正前の請求項20の「浸漬液の電気的特性を制御すること」を本件補正後の請求項19の「浸漬液の導電性が0.055マイクロシーメンス/cmと0.5マイクロシーメンス/cmとの間に制御される」ことと限定する補正であるから、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同項第4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とする補正に該当する。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合する。

(2)独立特許要件についての検討
上記(1)で検討したとおり、本件補正のうち本件補正前の請求項4を本件補正後の請求項4とする補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正が平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項(以下、単に「特許法第17条の2第5項」という。)において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否か、すなわち、本件補正後の請求項4に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かを検討する。

ア 本件補正発明の認定
本件補正発明は、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項4に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造とを有し、パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターン形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、を有し、
前記液体供給システムが、前記浸漬液を浄化する液体浄化装置を有し、
前記液体浄化装置は、脱塩装置を有し、
前記浸漬液は、水または水溶液であり、
前記脱塩装置は、前記浸漬液中のシリカおよび炭化水素を減少させ、
前記脱塩装置が、逆浸透ユニット、イオン交換ユニットまたは脱イオン化ユニットであること、
を特徴とするリソグラフィ投影装置。」

イ 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶理由に引用され、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第99/49504号(以下「引用例」という。)には、以下の(ア)?(ク)の記載が図面とともにある。

(ア)「技術分野
本発明は、例えば、半導体素子、撮像素子(CCD等)、液晶表示素子、又は薄膜磁気ヘッド等のデバイスを製造するためのリソグラフィ工程でマスクパターンを感光性の基板上に転写するために用いられる投影露光方法、及び装置に関し、更に詳しくは液浸法を用いた投影露光方法及び装置に関する。

背景技術
半導体素子等を製造する際に、マスクとしてのレチクルのパターンの像を投影光学系を介して、感光性の基板としてのレジストが塗布されたウエハ(又はガラスプレート等)上の各ショット領域に転写する投影露光装置が使用されている。従来は投影露光装置として、ステップ・アンド・リピート方式の縮小投影型の露光装置(ステッパ)が多用されていたが、最近ではレチクルとウエハとを同期走査して露光を行うステップ・アンド・スキャン方式の投影露光装置も注目されている。
投影露光装置に備えられている投影光学系の解像度は、使用する露光波長が短くなるほど、また投影光学系の開口数が大きいほど高くなる。そのため、集積回路の微細化に伴い投影露光装置で使用される露光波長は年々短波長化しており、投影光学系の開口数も増大してきている。そして、現在主流の露光波長は、KrFエキシマレーザの248nmであるが、更に短波長のArFエキシマレーザの193nmも実用化されつつある。
また、露光を行う際には、解像度と同様に焦点深度(DOF)も重要となる。解像度R、及び焦点深度δはそれぞれ以下の式で表される。
R=k_(1)・λ/NA (1)
δ=k_(2)・λ/NA^(2) (2)
ここで、λは露光波長、NAは投影光学系の開口数、k_(1),k_(2)はプロセス係数である。(1)式、(2)式より、解像度Rを高めるために、露光波長λを短くして、開口数NAを大きくすると、焦点深度δが狭くなることが分かる。従来より投影露光装置では、オートフォーカス方式でウエハの表面を投影光学系の像面に合わせ込んで露光を行っているが、そのためには焦点深度δはある程度広いことが望ましい。そこで、従来も位相シフトレチクル法、変形照明法、多層レジスト法など、実質的に焦点深度を広くする提案がなされている。
上記の如く従来の投影露光装置では、露光光の短波長化、及び投影光学系の開口数の増大によって、焦点深度が狭くなってきている。そして、半導体集積回路の一層の高集積化に対応するために、露光波長の更なる短波長も研究されており、このままでは焦点深度が狭くなり過ぎて、露光動作時のマージンが不足する恐れがある。
そこで、実質的に露光波長を短くして、かつ焦点深度を広くする方法として、液浸法が提案されている。これは、投影光学系の下面とウエハ表面との間を水、又は有機溶媒等の液体で満たし、液体中での露光光の波長が、空気中の1/n倍(nは液体の屈折率で通常1.2?1.6程度)になることを利用して解像度を向上すると共に、焦点深度を約n倍に拡大するというものである。
この液浸法を、ステップ・アンド・リピート方式の投影露光装置に単に適用するものとすると、1つのショット領域の露光を終了した後、次のショット領域にウエハをステップ移動する際に、投影光学系とウエハとの間から液体が出てしまうため、再び液体を供給しなければならず、また、液体の回収も困難になるという不都合がある。また、液浸法を仮にステップ・アンド・スキャン方式の投影露光装置に適用する場合、ウエハを移動させながら露光を行うため、ウエハを移動させている間も投影光学系とウエハとの間には液体が満たされている必要がある。
本発明は斯かる点に鑑み、液浸法を適用した場合に、投影光学系とウエハとが相対移動しても、投影光学系とウエハとの間に液体を安定に満たしておくことができる投影露光方法を提供することを目的とする。また、本発明はそのような投影露光方法を実施できる投影露光装置、この投影露光装置の効率的な製造方法、及びそのような投影露光方法を用いた高機能のデバイスの製造方法を提供することをも目的とする。」(第1頁第5行?第3頁第11行)

(イ)「次に、本発明による第1の投影露光装置は、露光ビームでマスク(R)を照明し、そのマスク(R)のパターンを投影光学系(PL)を介して基板(W)上に転写する投影露光装置において、その基板(W)を保持して移動させる基板ステージ(9,10)と、その投影光学系(PL)のその基板(W)側の光学素子(4)の先端部とその基板(W)の表面との間を満たすように、供給用の配管(21a)を介して所定方向に沿って所定の液体(7)を供給する液体供給装置(5)と、その供給用の配管(21a)と共にその所定方向にその露光ビームの照射領域を挟むように配置された排出用の配管(23a,23b)を介してその基板(W)の表面からその液体(7)を回収する液体回収装置(6)とを有し、その基板ステージ(9,10)を駆動してその基板(W)をその所定方向に沿って移動させる際に、その液体(7)の供給及び回収を行うものである。
斯かる本発明の第1の投影露光装置によれば、それらの配管を用いることによって本発明の第1の投影露光方法を実施することができる。」(第4頁第4?18行)

(ウ)「また、その基板(W)の表面に供給されるその液体(7)は、一例として所定の温度に調整された純水、又はフッ素系不活性液体である。この場合、純水は例えば半導体製造工場ではその入手が容易であり、環境的にも問題がない。」(第5頁第20?23行)

(エ)「発明を実施するための最良の形態
以下、本発明の好適な実施の形態の一例につき図1?図4を参照して説明する。本例は本発明をステップ・アンド・リピート方式の投影露光装置で露光を行う場合に適用したものである。
図1は本例の投影露光装置の概略構成を示し、この図1において、露光光源としてのKrFエキシマレーザ光源、オプティカル・インテグレータ(ホモジナイザー)、視野絞り、コンデンサレンズ等を含む照明光学系1から射出された波長248nmの紫外パルス光よりなる露光光ILは、レチクルRに設けられたパターンを照明する。レチクルRのパターンは、両側(又はウエハW側に片側)テレセントリックな投影光学系PLを介して所定の投影倍率β(βは例えば1/4,1/5等)でフォトレジストが塗布されたウエハW上の露光領域に縮小投影される。なお、露光光ILとしては、ArFエキシマレーザ光(波長193nm)、F_(2)レーザ光(波長157nm)や水銀ランプのi線(波長365nm)等を使用してもよい。以下、投影光学系PLの光軸AXに平行にZ軸を取り、Z軸に垂直な平面内で図1の紙面に垂直にY軸を取り、図1の紙面に平行にX軸を取って説明する。
レチクルRはレチクルステージRST上に保持され、レチクルステージRSTにはX方向、Y方向、回転方向にレチクルRを微動する機構が組み込まれている。レチクルステージRSTの2次元的な位置、及び回転角はレーザ干渉計(不図示)によってリアルタイムに計測され、この計測値に基づいて主制御系14がレチクルRの位置決めを行う。
一方、ウエハWはウエハホルダ(不図示)を介してウエハWのフォーカス位置(Z方向の位置)及び傾斜角を制御するZステージ9上に固定されている。Zステージ9は投影光学系PLの像面と実質的に平行なXY平面に沿って移動するXYステージ10上に固定され、XYステージ10はベース11上に載置されている。Zステージ9は、ウエハWのフォーカス位置(Z方向の位置)、及び傾斜角を制御してウエハW上の表面をオートフォーカス方式、及びオートレベリング方式で投影光学系PLの像面に合わせ込み、XYステージ10はウエハWのX方向、及びY方向の位置決めを行う。Zステージ9(ウエハW)の2次元的な位置、及び回転角は、移動鏡12の位置としてレーザ干渉計13によってリアルタイムに計測されている。この計測結果に基づいて主制御系14からウエハステージ駆動系15に制御情報が送られ、これに基づいてウエハステージ駆動系15は、Zステージ9、XYステージ10の動作を制御する。露光時にはウエハW上の各ショット領域を順次露光位置にステップ移動し、レチクルRのパターン像を露光する動作がステップ・アンド・リピート方式で繰り返される。
さて、本例では露光波長を実質的に短くして解像度を向上すると共に、焦点深度は実質的に広くするために、液浸法を適用する。そのため、少なくともレチクルRのパターン像をウエハW上に転写している間は、ウエハWの表面と投影光学系PLのウエハ側のレンズ4の先端面(下面)との間に所定の液体7を満たしておく。投影光学系PLは、他の光学系を収納する鏡筒3と、そのレンズ4とを有しており、レンズ4のみに液体7が接触するように構成されている。これによって、金属よりなる鏡筒3の腐食等が防止されている。」(第9頁第14行?第11頁第7行)

(オ)「また、液体7として、本例では例えば純水を使用する。純水は、半導体製造工場等で容易に大量に入手できると共に、ウエハ上のフォトレジストや光学レンズ等に対する悪影響がない利点がある。また、純水は環境に対する悪影響がないと共に、不純物の含有量が極めて低いため、ウエハの表面、及びレンズ4の表面を洗浄する作用も期待できる。
そして、波長が250nm程度の露光光に対する純水(水)の屈折率nはほぼ1.4であるため、KrFエキシマレーザ光の波長248nmは、ウエハW上では1/n、即ち約177nmに短波長化されて高い解像度が得られる。更に、焦点深度は空気中に比べて約n倍、即ち約1.4倍に拡大されるため、空気中で使用する場合と同程度の焦点深度が確保できればよい場合には、投影光学系PLの開口数をより増加させることができ、この点でも解像度が向上する。
その液体7は、その液体のタンク、加圧ポンプ、温度制御装置等からなる液体供給装置5によって、所定の排出ノズル等を介してウエハW上に温度制御された状態で供給され、その液体のタンク及び吸引ポンプ等からなる液体回収装置6によって、所定の流入ノズル等を介してウエハW上から回収される。」(第12頁第1?17行)

(カ)「なお、本例の投影露光装置の用途としては半導体製造用の投影露光装置に限定されることなく、例えば、角型のガラスプレートに液晶表示素子パターンを露光する液晶用の投影露光装置や、薄膜磁気ヘッドを製造するための投影露光装置にも広く適用できる。」(第21頁第13?16行)

(キ)「2.露光ビームでマスクを照明し、前記マスクのパターンを投影光学系を介して基板上に転写する投影露光装置において、
前記基板を保持して移動させる基板ステージと、前記投影光学系の前記基板側の光学素子の先端部と前記基板の表面との間を満たすように、供給用の配管を介して所定方向に沿って所定の液体を供給する液体供給装置と、前記供給用の配管と共に前記所定方向に前記露光ビームの照射領域を挟むように配置された排出用の配管を介して前記基板の表面から前記液体を回収する液体回収装置と、を有し、
前記基板ステージを駆動して前記基板を前記所定方向に沿って移動させる際に、前記液体の供給及び回収を行うことを特徴とする投影露光装置。」(第24頁第9?19行)

(ク)「7.請求の範囲2?6の何れか一項記載の投影露光装置であって、
前記基板の表面に供給される前記液体は所定の温度に調整された純水、又はフッ素系不活性液体であることを特徴とする投影露光装置。」(第25頁第9?11行)

ウ 引用例記載の発明の認定
引用例の上記記載事項(ア)?(ク)から、引用例には次の発明が記載されていると認めることができる。

「波長が248nm、193nm、157nmのいずれかである露光光源、オプティカル・インテグレータ(ホモジナイザー)、視野絞り、コンデンサレンズ等を含む照明光学系から射出された露光ビームでマスクとしてのレチクルを照明し、前記レチクルのパターンを投影光学系を介して所定の投影倍率で基板上の露光領域に縮小投影する半導体製造用の投影露光装置において、
前記レチクルを保持するレチクルステージと、前記基板を保持して移動させる基板ステージと、前記投影光学系の前記基板側の光学素子の先端部と前記基板の表面との間を満たすように、供給用の配管を介して所定方向に沿って純水を供給する液体供給装置と、前記供給用の配管と共に前記所定方向に前記露光ビームの照射領域を挟むように配置された排出用の配管を介して前記基板の表面から前記純水を回収する液体回収装置と、を有し、
前記基板ステージを駆動して前記基板を前記所定方向に沿って移動させる際に、前記純水の供給及び回収を行う半導体製造用の投影露光装置。」(以下「引用発明」という。)

エ 本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点の認定
(ア)引用発明の「投影露光装置」は、本件補正発明の「リソグラフィ投影装置」に相当する。

(イ)本件補正発明の「放射線の投影ビームを供給する放射線システム」について、本件出願の明細書には、「放射線システムはまた、放射線の投影ビームの誘導、成形、あるいは制御を行う、こうした設計タイプのいずれかに応じて稼動する構成要素も有することが出来る。」(段落【0005】)、「放射線ソースLAも有する、放射線の投影ビームPB(例えばDUV放射線)を供給する放射線ソースEx、IL」(段落【0033】)、「ソースLA(例えばエキシマレーザソース)は放射線のビームを作り出す。このビームは、直接的に、あるいは、例えばビームエキスパンダExといったような調整手段を横断した後に、照明システム(照明装置)ILに供給される。照明装置ILは、ビームにおける強度分布の外部および/あるいは内部放射範囲(一般的にそれぞれ、σ-outerおよびσ-innerと呼ばれる)を設定する調整手段AMを含む。さらに、これは一般的に積分器INおよびコンデンサCOといったような、他のさまざまな構成要素を有する。このようにして、マスクMAに照射するビームPBは、その断面に亘り所望する均一性と強度分布とを有する。」(段落【0035】)と記載されているから、本件補正発明の「放射線システム」は、「放射線ソースEx」及び前記「放射線ソースEx」から放射線のビームを受け取り放射線の投影ビームの誘導、成形、あるいは制御を行う「ビームエキスパンダEx」や「照明装置IL」等の光学構成要素からなるものであると認めることができる。
したがって、引用発明の「波長が248nm、193nm、157nmのいずれかである露光光源、オプティカル・インテグレータ(ホモジナイザー)、視野絞り、コンデンサレンズ等を含む照明光学系」は、本件補正発明の「放射線システム」に相当し、引用発明の「波長が248nm、193nm、157nmのいずれかである露光光源、オプティカル・インテグレータ(ホモジナイザー)、視野絞り、コンデンサレンズ等を含む照明光学系から射出された露光ビーム」は、本件補正発明の「放射線システム」から「供給」された「放射線の投影ビーム」に相当する。

(ウ)引用発明の「投影露光装置」は「露光ビームでマスクとしてのレチクルを照明し、前記レチクルのパターンを投影光学系を介して所定の投影倍率で基板上の露光領域に縮小投影する」ものであるから、引用発明の「レチクル」は「照明光学系から射出された露光ビーム」に「レチクルのパターン」を形成する働きをすると認めることができる。
したがって、引用発明の「レチクル」、「レチクルを保持するレチクルステージ」は、それぞれ、本件補正発明の「所望のパターンに従い投影ビームにパターン形成する働きを」する「パターン形成手段」、「パターン形成手段を支持する支持構造」に相当する。

(エ)引用発明の「基板」、「基板を保持して移動させる基板ステージ」は、それぞれ、本件補正発明の「基板」、「基板を保持する基板テーブル」に相当する。

(オ)引用発明の「前記レチクルのパターンを」「所定の投影倍率で基板上の露光領域に縮小投影する」「投影光学系」は、本件補正発明の「基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システム」に相当する。

(カ)引用発明の「前記投影光学系の前記基板側の光学素子の先端部と前記基板の表面との間を満たすように」「純水を供給する液体供給装置」は、本件補正発明の「前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システム」に相当し、引用発明の「前記投影光学系の前記基板側の光学素子の先端部と前記基板の表面との間を満たす」「純水」は、本件補正発明の「前記浸漬液は、水または水溶液であ」ることに相当する。

(キ)以上から、本件補正発明と引用発明とは、

「リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造とを有し、パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターン形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、を有し、
前記浸漬液は、水または水溶液である、
リソグラフィ投影装置。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

〈相違点1〉
本件補正発明では「リソグラフィ投影装置」の「液体供給システム」が「前記浸漬液を浄化する液体浄化装置を有し」、「前記液体浄化装置は、脱塩装置を有し」、「前記脱塩装置が、逆浸透ユニット、イオン交換ユニットまたは脱イオン化ユニットである」のに対し、引用発明の「投影露光装置」の「液体供給装置」にはこのような限定がない点。

〈相違点2〉
本件補正発明では「前記脱塩装置は、前記浸漬液中のシリカおよび炭化水素を減少させ」るのに対し、引用発明にはこのような限定がない点。

オ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
a 半導体デバイスの製造の際、半導体ウエハを洗浄するために使用する純水を、逆浸透ユニット、イオン交換ユニットまたは脱イオン化ユニットである脱塩装置を有する純水製造装置により製造することは、本件出願の優先日当時において当業者に周知の技術的事項である(例えば、特開平9-192661号公報(請求項1、段落【0001】?【0007】、【0013】を参照。)、特開平11-165168号公報(段落【0002】?【0003】を参照。なお、本件出願の優先日当時の技術常識に照らし、段落【0002】?【0003】に記載されたイオン交換装置や逆浸透膜装置は、脱塩装置であると認めることができる。)、特開平11-138156号公報(段落【0002】を参照。なお、本件出願の優先日当時の技術常識に照らし、段落【0002】に記載されたイオン交換法や逆浸透法を含む濾過手段は、脱塩装置であると認めることができる。)、特開2002-355683号公報(段落【0002】?【0003】を参照。なお、本件出願の優先日当時の技術常識に照らし、段落【0002】?【0003】に記載されたイオン交換装置や逆浸透(RO)膜分離装置は、脱塩装置であると認めることができる。)、特開昭63-108724号公報(第1頁左欄第19行?第2頁左上欄第2行、第3頁左上欄第16?19行、第3頁右上欄第12?20行、第3頁左下欄第15?19行を参照。なお、本件出願の優先日当時の技術常識に照らし、逆浸透膜装置及び逆浸透膜を用いる透過膜装置は、脱塩装置であると認めることができる。)を参照。)。
そして、引用発明の「投影露光装置」は「半導体製造用の投影露光装置」であり、引用発明の「基板」は「半導体」「基板」であることは明らかであるから、引用発明の「純水」及び上記周知技術の純水は、いずれも、半導体基板上に直接供給される純水である点で共通する。
すると、引用発明の「純水」として、上記周知の逆浸透ユニット、イオン交換ユニットまたは脱イオン化ユニットである脱塩装置を有する純水製造装置により製造された純水を採用することは、当業者にとって容易に想到し得る。

b そして、(a)引用発明の「液体供給装置」は「純水を供給する」ものであり、また、上記周知技術の純水製造装置も純水を製造し供給するものであるから、引用発明の「液体供給装置」と上記周知技術の純水製造装置とは純水を供給する装置である点で共通する。また、(b)純水製造部で製造された純水を使用する装置内に前記純水製造部を設けることが、本件出願の優先日当時において当業者に周知の技術的事項である(例えば、特開平6-265555号公報(請求項1、段落【0004】?【0010】、【0027】、【0045】、【0053】、図1,3を参照。)、特開2000-266763号公報(請求項1、段落【0004】、【0008】?【0009】、【0022】?【0024】、【0034】?【0035】、【0047】、図2を参照。)を参照。)。さらに、(c)純水が長い配管を通じて装置に供給されると、配管の中を輸送中に純水の不純物量が増加してしまうという課題が、本件出願の優先日当時において当業者に周知の課題である(例えば、特開平6-265555号公報(段落【0004】を参照。)、特開2001-153855号公報(段落【0011】?【0013】、【0015】を参照。)、特開昭63-108724号公報(第2頁左下欄第8行?右下欄第1行、第3頁左上欄第4?11行、第3頁左上欄第16?19行、第3頁左下欄第15?19行、第3頁右下欄第7?10行を参照。)、米国特許第6461519号明細書(第3欄第57?61行、第4欄第35?49行を参照。なお、第4欄第35?49行には、処理済みの水の不純物レベルは超純水の不純物レベルよりも低いから、パイプラインシステム9の材料として、ポリプロピレンや塩化ビニルのような安価な材料を選択することができること、及び、高品質で高価なパイプラインシステム10を用いるとその中を通る超純水が汚染されない旨記載されているから、米国特許第6461519号明細書には、ポリプロピレンや塩化ビニルのような安価な材料からなるパイプラインシステム9に超純水を通すと、超純水が汚染される旨示唆されているということができる。)を参照。)。
したがって、上記(a)?(c)の少なくとも一つの事項に照らし、配管を介して引用発明の「純水を供給する液体供給装置」と上記周知の脱塩装置を有する純水製造装置を接続するのではなく、引用発明の「純水を供給する液体供給装置」に上記周知の脱塩装置を有する純水製造装置を設けることは、当業者にとって容易に想到し得る。

c 以上のとおりであるから、引用発明に上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

(イ)相違点2について
半導体フォトリソグラフィの技術分野では、シリカ及び炭化水素が露光光の光路から除去されるべき物質であることは、本件出願の優先日当時において当業者に周知の技術的事項である(例えば、特開2000-114334号公報(段落【0002】)、特表2002-535703号公報(段落【0007】)、国際公開第01/8204号(第13頁第5?8行)を参照。)。
そして、半導体製造に使用される純水を製造する純水製造装置の技術分野において、純水中のシリカおよび炭化水素を減少させ、逆浸透ユニット、イオン交換ユニットまたは脱イオン化ユニットである脱塩装置を有する純水製造装置は、本件出願の優先日当時において当業者に周知の技術的事項である(例えば、国際公開第03/55604号(第2頁第13?16行、第8頁第8?21行)、特開2000-51865号公報(段落【0011】の「RO膜でイオン成分(塩類)、TOC、シリカ、ホウ素等を除去する。」との記載を参照。)、特開平4-244288号公報(段落【0002】、【0038】)を参照。)。
すると、上記(ア)で述べたように、引用発明の「純水を供給する液体供給装置」に、上記周知の逆浸透ユニット、イオン交換ユニットまたは脱イオン化ユニットである脱塩装置を有する純水製造装置を設ける際、前記脱塩装置として、純水中のシリカおよび炭化水素を減少させ、逆浸透ユニット、イオン交換ユニットまたは脱イオン化ユニットである脱塩装置を採用することは、当業者にとって容易に想到し得る。
したがって、引用発明に上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。

カ 本件補正発明の独立特許要件の判断
以上のとおり、引用発明に上記相違点1?2に係る本件補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって想到容易である。
また、本件補正発明の効果も、引用例に記載された発明及び周知技術から当業者が予測し得る程度のものに過ぎない。
したがって、本件補正発明は引用例に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)むすび
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1 本件発明の認定
本件補正が却下されたから、平成19年12月28日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面に基いて審理すると、本件出願の請求項4に係る発明は、平成19年12月28日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項4に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。

「リソグラフィ投影装置で、
- 放射線の投影ビームを供給する放射線システムと、
- パターン形成手段を支持する支持構造とを有し、パターン形成手段は、所望のパターンに従い投影ビームにパターン形成する働きをし、さらに、
- 基板を保持する基板テーブルと、
- 基板の目標部分にパターン形成したビームを投影する投影システムと、
- 前記投影システムの最終要素と前記基板の間の空間を浸漬液で少なくとも部分的に充填する液体供給システムと、を有し、
前記液体供給システムが、前記浸漬液を浄化する液体浄化装置を有し、
前記液体浄化装置は、脱塩装置を有し、
前記浸漬液は、水または水溶液であり、
前記脱塩装置が、逆浸透ユニット、イオン交換ユニットまたは脱イオン化ユニットであること、
を特徴とするリソグラフィ投影装置。」(以下「本件発明」という。)

2 引用刊行物の記載事項及び引用例記載の発明の認定
原査定の拒絶理由に引用され、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用例には、上記第2の2(2)イに摘記したとおりの事項が記載されており、引用例に記載された発明は、上記第2の2(2)ウに記載したとおりである。

3 対比・判断
本件発明は、本件補正発明の発明特定事項から、上記第2の2(1)で述べた限定事項を省いたものである。
そして、本件発明の発明特定事項をすべて含み、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の2(2)に記載したとおり、引用例に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、上記第2の2(2)で示した理由と同様の理由により(ただし、相違点2を除く。)、引用例に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本件発明は引用例に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本件発明が特許を受けることができない以上、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-31 
結審通知日 2010-04-01 
審決日 2010-04-16 
出願番号 特願2004-247635(P2004-247635)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡戸 正義  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 日夏 貴史
村田 尚英
発明の名称 リソグラフィ装置およびデバイス製造方法  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 大貫 敏史  

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