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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1222828
審判番号 不服2007-17516  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-06-22 
確定日 2010-09-02 
事件の表示 平成10年特許願第296451号「高流動性モルタル」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月 9日出願公開、特開2000-128604〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年10月19日の出願であって、平成17年6月20日付けで拒絶理由が起案され、同年8月24日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、平成19年6月1日付けで拒絶査定が起案され、同年6月22日に拒絶査定不服審判が請求され、同日に明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、平成22年1月5日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され、同年2月22日に回答書が提出されたものである。

第2 平成19年6月22日付け手続補正について
平成19年6月22日付け手続補正は、補正前の請求項1及び2を削除し、補正前の請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項4を新たな請求項1とし、補正前の請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項3をまたさらに引用する請求項4を新たな請求項2とするものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の「特許法第36条第5項に規定する請求項の削除」に該当するので、補正要件を充足する。

第3 本願発明
本願の特許請求の範囲に記載された請求項1及び請求項2に係る発明は、平成19年6月22日に補正された明細書および図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された以下の事項を発明特定事項とするものである(以下、「本願発明1」及び「本願発明2」という。)。
「【請求項1】 セメント、ブレーン比表面積2,000?10,000cm^(2)/gの膨張材、金属粉末、及び減水剤からなり、フレッシュモルタルの塑性粘度ηが0.1?20Pa・S、降伏値τが5?60Pa、及びブリーディング率が0.5%以下である高流動性モルタル。
【請求項2】 膨張材がカルシウムサルホアルミネートを主成分とする請求項1記載の高流動性モルタル。」

第4 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は、「この出願は、平成17年6月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶すべきものである。」であり、平成17年6月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由1は、この出願の請求項1-4に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1-6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない、というものである。

第5 引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1(特開平9-227194号公報(公開日平成9年9月2日)、以下、「引用例1」という。):
(ア)「セメント、収縮補償性混和材、瀝青乳剤、高分子系乳剤、増量材、凝結調節剤、消泡剤、AE剤、発泡剤および水等を添加してなる高温施工時における鉄道用セメント瀝青系注入材料において、
収縮補償性混和材は普通硬化性のカルシウムサルホアルミネートを主体とする無機微粉末、凝結調節剤は遅延型高性能減水性の変性メチロールメラミン縮合物と変性リグニン化合物の配合物を主成分とするものを用い、その他の材料と一括混練りしてなる混合物としたことを特徴とする鉄道用セメント瀝青系注入材料。」(【請求項1】)、
(イ)「収縮補償性混和材としては、普通硬化タイプにはカルシウム、サルホ・アルミネート(3CaO,3Al_(2)O_(3),CaSO_(4))系鉱物を主体とし、微量の高分子系分散剤と無機塩類を含む膨張性セメント混和材/または石灰系の膨張性セメント混和材を一種類使用する。これらは、セメント硬化時の収縮を補償すると共に材料分離の防止等の作用をする。
・・・
なお、カルシウムアルミネート系鉱物はCaOとAl_(2)O_(3)を電気炉等によって溶融して得られ、無定形物であり、粉末度はブレーン値で2000?8000cm^(2)/gがよい。」(段落【0022】?【0024】)、
(ウ)「増量材としては、細骨材例えば川砂、海砂、山砂、硅砂等を使用する。特には石質が堅硬で吸水率が小さくかつ粒度が良く管理されている硅砂が好ましい。また、細骨材と共に硅藻土、ベントナイト、クレー、石灰岩やその他岩石を粉砕した石粉、フライアッシュ等のフィラーを使用することができる。」(段落【0032】)、
(エ)「凝結調節剤としては、注入材料の種別により2つのグループに大別して使用する。普通硬化タイプの凝結調節剤は、リグニン系、オキシカルボン酸系、ナフタリン系、メラミン系の遅延型を使用する。特には、遅延型の高性能減水剤に属するメラミン系のもの、例えば、高縮合トリアジン系化合物/または変性メチロールメラミン縮合物と水溶性特殊高分子化合物の配合物を主成分とするものが好ましい。
なお、上記した凝結調節剤は普通硬化タイプの高温施工時における作業性の確保と添加水の減量を主目的として使用するものである。その添加量は、セメントに対して0.5?5重量%である。それ以外に範囲では凝結を調節し、作業性を満足させることができない。他方、急硬タイプ両法の凝結調節剤は、無機塩類や有機酸の配合物である凝結調節剤と上記した遅延型高性能減水剤の2つを併用する。」(段落【0033】?【0034】)、
(オ)「発泡剤としては、金属アルミニウム粉末に植物油、鉱物油あるいはステアリン酸等を添加して表面コーティングしたものを使用する。」(段落【0040】)、
(カ)「【表2】

」(段落【0047】)、
(キ)「(3) 試験方法
a フロータイム
JSCEのJロート法に準拠」(段落【0048】)、
(ク)「 ブリーディング率と膨張率
表2に示す如く、比較品と発明品はいずれもブリーディングがまったくなく、膨張率もスラブ軌道の1?3%、E型舗装軌道の0?1%という規格値を満足し、まったく問題がない。」(段落【0050】)。

第6 引用発明の認定
引用例1の記載事項(ア)に「セメント、収縮補償性混和材、瀝青乳剤、高分子系乳剤、増量材、凝結調節剤、消泡剤、AE剤、発泡剤および水等を添加してなる高温施工時における鉄道用セメント瀝青系注入材料において、
収縮補償性混和材は普通硬化性のカルシウムサルホアルミネートを主体とする無機微粉末、凝結調節剤は遅延型高性能減水性の変性メチロールメラミン縮合物と変性リグニン化合物の配合物を主成分とするもの」、同(イ)に「カルシウムアルミネート系鉱物は・・・、粉末度はブレーン値で2000?8000cm^(2)/gがよい」こと、同(エ)に「凝結調節剤としては、・・・遅延型の高性能減水剤に属するメラミン系のもの・・・が好ましい。」ことが記載され、同(オ)に「発泡剤としては、金属アルミニウム粉末に植物油、鉱物油あるいはステアリン酸等を添加して表面コーティングしたものを使用する」こと、同(カ)に「フロータイムが発明品では5.0?18.8秒」であること、同(キ)に「フロータイム」が「JSCEのJロート法に準拠」するものであること及び同(ク)に「発明品はいずれもブリーディングがまったくな」いことが記載されている。
これら記載事項か
ら引用例1には、
「セメント、収縮補償性混和材、凝結調節剤、発泡剤および水等を添加してなる高温施工時における鉄道用セメント瀝青系注入材料において、
収縮補償性混和材は、ブレーン値で2000?8000cm^(2)/gのカルシウムサルホアルミネートを主体とする無機微粉末、凝結調節剤は遅延型高性能減水剤に属するもの、発泡剤としては、金属アルミニウム粉末に植物油、鉱物油あるいはステアリン酸等を添加して表面コーティングしたものを使用し、JSCEのJロート法に準拠するフロータイムが5.0?18.8秒であり、ブリーディングがまったくない注入材料」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

第7 対比・検討
本願発明1と引用例1発明とを対比すると、本願発明1と引用例1発明は、ともに「充填材料」に関する点で共通し、本願発明1の「高流動性モルタル」に関して、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)には「モルタルとは、セメントに砂等の細骨材を添加したものに、水を加えて、混練したものをいい、流動性を付与するために減水剤などを添加することが通常行われている。また、セメントに、アルミニウム粉末等の膨張剤、減水剤、及び川砂や珪砂などの細骨材を配合した高流動性モルタルからなるグラウト材が知られている。グラウト材の用途には、・・・、軌道スラブ下グラウト、・・・等がある。これらには流動性に優れたモルタルが必要であった(特開平9-110503号公報等)。」(段落【0002】)とあり、引用例1発明の「高温施工時における鉄道用セメント瀝青系注入材料」もスラブ軌道に注入されるものであるから(引用例1の段落【0003】参照)、「高流動性モルタル」といえることは明らかである。そして、引用例1発明の「カルシウムサルホアルミネートを主体とする無機微粉末」の「収縮補償性混和材」は、記載事項(イ)にあるように「セメント硬化時の収縮を補償する」ものであり、本願発明2の「膨張材がカルシウムサルホアルミネートを主成分とする」点で一致し、「ブレーン値で2000?8000cm^(2)/g」で重複するから、本願発明1の「ブレーン比表面積2,000?8,000cm^(2)/gの膨張材」に相当する。さらに、引用例1発明の「遅延型高性能減水剤に属する」「凝結調節剤」は、本願発明1の「減水剤」に相当する。そして、引用例1発明の「金属アルミニウム粉末に植物油、鉱物油あるいはステアリン酸等を添加して表面コーティングした」「発泡剤」は、本願当初明細書には「本発明で使用する金属粉末としては、アルミニウム粉末が代表的である。アルミニウム粉末は、それがアルカリ性の水酸化カルシウムを含む水溶液と反応して水素ガスを発生し発泡する現象を利用するものである。そして、モルタルの膨張量を制御するにはアルミニウム粉末の反応性が重要であり、例えば、ステアリン酸で表面コーティングしたものなど、アルミニウム粉末粒子表面を処理したものが好ましい。」(段落【0009】)と記載されるので、本願発明1の「金属粉末」に相当することも明らかであり、これらを添加する点で両発明は、共通する。最後に、引用例1発明が「ブリーディングがまったくない」ことは、本願発明の「ブリーディング率が0.5%以下である」に相当するということができる。
したがって、本願発明1と引用例1発明とは、「セメント、ブレーン比表面積2,000?8,000cm^(2)/gの膨張材、金属粉末、及び減水剤を添加し、ブリーディング率が0.5%以下である高流動性モルタル」で一致し、次の点で一応相違する。
(A)本願発明1は、「セメント、ブレーン比表面積2,000?10,000cm^(2)/gの膨張材、金属粉末、及び減水剤からなり」と特定するのに対して、引用例1発明では、「セメント、収縮補償性混和材、凝結調節剤、発泡剤および水等を添加してなる」ものである点、
(B)本願発明1は、「フレッシュモルタルの塑性粘度ηが0.1?20Pa・S、降伏値τが5?60Pa」であるのに対して、引用例1発明では、「JSCEのJロート法に準拠するフロータイムが5.0?18.8秒であ」る点。
相違点(A)について、以下で検討する。
本願発明1が各成分「からなり」と特定する技術的意義については、本願の当初明細書において「ステンレス製容器に水/セメント比38%になるように水を投入し、その後、セメント100重量部、表1に示す粒度の膨張材10重量部、金属粉末0.002重量部、減水剤1重量部、及び細骨材100重量部投入し、」(段落【0017】)と記載されるように、水及び細骨材を含んでいるから、列挙した成分のみからなることを意味するのでなく、高流動性モルタルに欠くことのできない成分を列挙したものであると認められる。そうであれば、他の成分を含むことを許容する「水等を添加してなる」とは、実質的な相違を構成しないということができる。
したがって、一応の相違点(A)は、本質的なものではない。
次に、相違点(B)に係る「塑性粘土」及び「降伏値」については、いずれも引用例1には記載がない。しかしながら、本願の当初明細書において「流下値 :J_(14)ロート流下時間、土木学会基準「JSCE-F531」に準拠」(段落【0019】)と記載されるように、引用例1発明の「JSCEのJロート法に準拠するフロータイム」と「流下値」は、ほぼ同じものを意味し、本願の当初明細書の【表1】の実施例において流下値が5.0?10.3秒である場合に塑性粘度ηが1?20Pa・Sで降伏値τが5?60Paであること及び膨張材のブレーン比表面積とブリーディング率が本願発明と引用例1発明とで一致することを参酌すれば、引用例1発明の、「フロータイムが5.0?18.8秒であ」って適切な未硬化時の性状を示すことは、引用例1発明において「フレッシュモルタルの塑性粘度ηが1?20Pa・Sで降伏値τが5?60Paであること」の蓋然性が高いといわざるを得ず、係る特定事項は、引用例1に記載されているに等しい事項と認められる。
したがって、一応の相違点(B)は、本質的なものではない。

第8 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に記載された発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
そして、本願は、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-22 
結審通知日 2010-06-29 
審決日 2010-07-20 
出願番号 特願平10-296451
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大橋 賢一武重 竜男  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 中澤 登
深草 祐一
発明の名称 高流動性モルタル  

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