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審決分類 審判 判定 利用 属さない(申立て不成立) H03H
管理番号 1222903
判定請求番号 判定2010-600010  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2010-10-29 
種別 判定 
判定請求日 2010-03-23 
確定日 2010-09-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第4109877号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 本件判定の請求は成り立たない。 
理由 1.請求の趣旨

当審は、下記(1)、(2)の事情を勘案し、本件判定請求の趣旨は、「『甲第1号証(写真)の携帯電話の中の甲第2号証(写真)の容器の中に設置されている甲第3号証(写真)に示される物件は、特許第4109877号の請求項3に係る特許発明の技術的範囲に属する』との判定を求める。」というものであると解した。

(1)平成22年6月10日付けの回答書に添付された「補正判定請求書」の第1ページの、
「判定請求書の4.請求の趣旨を以下のように変更する。
(1) イ号甲第1号証(写真)の携帯電話の中の甲第2号証(写真)の容器の中に設置されている甲第3証号(写真)、並びにその説明書に示す弾性表面波フィルターは、本件特許権者が所有する特許第4109877号技術的範囲に属するものとの判定を求める。」
なる記載によれば、本件において請求人が判定を求める対象物件は、「甲第1号証(写真)の携帯電話の中の甲第2号証(写真)の容器の中に設置されている甲第3号証(写真)に示される物件」であると解される。
(2)上記「補正判定請求書」の第1ページに、
「(2)<5>本件特許発明と甲号証物件の技術的対比の項
特許請求の範囲、(甲第6号証)の特許公報(B2)特許第4109877号の特許請求の範囲の請求項3,圧電性あるいは・・・(中略)・・・を特徴とする弾性表面波機能素子であり、」
なる記載があることと、本件判定請求書の「5.請求の理由」の「<5>本件特許発明と甲号証物件の技術的対比」の欄以降の記載全体も、上記「補正判定請求書」の記載全体も、本件判定請求において判定を求める対象の特許発明が、特許第4109877号の請求項3に係る特許発明であることを前提とした記載であると解されること、とを勘案すると、本件において請求人が判定を求める対象特許発明は、特許第4109877号の請求項3に係る特許発明であると解される(注:上記「補正判定請求書」を引用した記載中の「<5>」は、実際には「丸付き数字の5」であるが、システム上の制約から「<5>」のように表記した。)。

なお、以下、上記「甲第1号証(写真)の携帯電話の中の甲第2号証(写真)の容器の中に設置されている甲第3号証(写真)に示される物件」を「イ号物件」と呼び、上記「特許第4109877号の請求項3に係る特許発明」を「本件特許発明」と呼ぶ。


2.本件特許発明
本件特許発明は、甲第6号証の特許公報の特許請求の範囲の請求項3に記載されたとおりのものであり、その構成要件を検討の便宜のために分説して示すと、以下のとおりである。

A:圧電性あるいは電歪性基板上に、温度変化に対する弾性表面波の周波数の変動特性が前記基板と逆の特性である薄膜が積層された弾性表面波機能素子において、

B:前記基板は、
B1:回転Y板のカット角度が-5度以上で0度未満の範囲で、

B2:レーレー型の弾性表面波よりも速い伝搬速度を有する擬似弾性表面波が、X軸方向あるいは前記X軸方向に対してプラス・マイナス5度の範囲で伝搬する

B3:LiNbO_(3)基板であり、

C:前記薄膜の膜厚をH、前記擬似弾性表面波の動作中心周波数での波長をλとしたときに、H/λの値が0.13から0.31の範囲であり、

D:且つ周波数温度特性(TCF)が、25℃において、-30ppm/℃から+30ppm/℃であることを特徴とする

E:弾性表面波機能素子。


3.当審の判断

(1)イ号物件が上記構成要件A、B、B3、Eを充足しているか否かについて
甲第3号証に示されるイ号物件の形状、イ号物件は甲第1証に示される携帯電話端末中の部品であるという事実、被請求人もイ号物件が弾性共表面波機能素子であることを明らかに争わないという事実、等からみて、イ号物件は、「圧電性あるいは電歪性基板を含む弾性表面波機能素子」の一種であると認められる。
したがって、イ号物件は、上記構成要件Aのうちの「圧電性あるいは電歪性基板を含む弾性表面波機能素子」であることの要件を満たし、当然に上記B(基板を有すること)とE(弾性表面波機能素子であること)の要件も満たすものであると判断される。
また、乙第1号証中の、イ号物件が「SiO_(2)/Cu/LN構造」(ここでいう「LN」は「LiNbO_(3)」の略号であると解される。)である旨の記載、本件特許の明細書(甲第6号証)の段落【0005】の「温度安定性に優れ、かつ大きな電気機械結合係数k^(2)をもつ基板として、LiNbO_(3)基板、LiTaO_(3)基板を用い、その表面に線膨張係数の小さく、かつ逆の温度特性をもつSiO_(2)膜を付着させたSiO2/LiNbO_(3)基板、SiO_(2)/LiTaO_(3)基板などが考案されている。」なる記載、被請求人もイ号物件が「圧電性あるいは電歪性基板上に、温度変化に対する弾性表面波の周波数の変動特性が前記基板と逆の特性である薄膜が積層された」という構成を有していることや、その基板が「LiNbO_(3)基板」であることを明らかに争わないという事実、等からみて、イ号物件は、「圧電性あるいは電歪性基板上に、温度変化に対する弾性表面波の周波数の変動特性が前記基板と逆の特性である薄膜が積層された」という構成を有しており、その基板は「LiNbO_(3)基板」であると認められる。
したがって、イ号物件は、上記構成要件Aのうちの「圧電性あるいは電歪性基板上に、温度変化に対する弾性表面波の周波数の変動特性が前記基板と逆の特性である薄膜が積層された」なる要件と上記構成要件B3も満たすものであると判断される。
よって、当審は、「イ号物件は本件特許発明の上記構成要件A、B、B3、Eを充足している」と判断する。

(2)イ号物件が本件特許発明の上記構成要件B1を充足しているか否かについて
甲第7号証に示される、試料NE-1-568についてのオフ角が0.8530±0.0004度である旨の記載と、上記「補正判定請求書」第2ページ下段の記載、及び被請求人がイ号物件が上記要件B1を充足することについて明らかに争っていないという事実、等からみて、イ号物件の基板は、「回転Y板のカット角度が-5度以上で0度未満の範囲」のものであると認められる。
よって、当審は、「イ号物件は上位構成要件B1を充足している」と判断する。

(3)イ号物件が本件特許発明の上記構成要件B2を充足しているか否かについて

(3-1)イ号物件が本件特許発明の上記構成要件B2に対応する構成を有していることの立証がないことに基づく判断
イ号物件が、「レーレー型の弾性表面波よりも速い伝搬速度を有する擬似弾性表面波が、X軸方向あるいは前記X軸方向に対してプラス・マイナス5度の範囲で伝搬する」という構成を有しているか否かは、当審に顕著な事実ではないし、そのことを示す何らの証拠も提出されていないから、不明であるといわざるを得ない。
したがって、下記(3-2)で検討する上記構成要件B2中の「疑似弾性表面波」なる用語の技術的意義にかかわらず、イ号物件が上記構成要件B2を充足しているということはできない。

なお、請求人は、甲第7、8号証の方位角に関する記載が、イ号物件が上記構成要件B2を充足していることの根拠であると主張したいのかも知れないが、甲第7、8号証の方位角に関する記載と、それに関する説明箇所である上記「補正判定請求書」第3ページ上段の記載を見ても、イ号物件が、「レーレー型の弾性表面波よりも速い伝搬速度を有する擬似弾性表面波が、X軸方向あるいは前記X軸方向に対してプラス・マイナス5度の範囲で伝搬する」という構成を有しているといえる根拠は不明である。

(3-2)被請求人が提出した乙第1、2号証に基づく判断
乙第1、2号証によれば、下記ア.?ウ.に検討するように、イ号物件は、単に上記構成要件B2を充足しているといえないと判断されるにとどまらず、上記構成要件B2を充足していない蓋然性が高いとまで判断される。

ア.上記構成要件B2中の「疑似弾性表面波」なる用語の技術的意義について
本件特許の明細書(甲第6号証)の段落【0023】の「LiNbO3基板においてX軸方向へ伝搬する横波の弾性波は、速い横波と遅い横波とを有する。前記文献では、前記遅い横波より遅いモードの波がレーレ一波(Rayleigh waves)とされている。従来のフィルターなどで使用されている弾性表面波のほとんどがレーレー波である。また、前記文献などには、レーレ一波より速い速度で且つ前記速い横波と前記遅い横波との間の速度を持つ擬似弾性表面波(piezo electric leaky surface waves)が存在すると記載されている。」なる記載や、本件特許の審査過程で請求人が提出した意見書(乙第2号証)の「3.」の「(2)疑似弾性表面波について」の項の「本願の明細書の段落(0023)に記載されているように、LiNbO3基板の弾性表面波には、速い横波と遅い横波が存在しておりますが、弾性表面波がX-軸方向へ伝搬する場合に、遅い横波の伝搬速度は4070m/sであることが知られております。本願の図7に示すように、本願発明における擬似弾性表面波は、OPENでは遅い横波の伝搬速度よりも速くなりますが、SHORTの場合にのみ、遅い横波の伝搬速度よりも遅くなります。」、「一方、引用文献5と引用文献6は『LOVE波を利用した弾性表面波素子』に関するものであります。これら引用文献には『LOVE波』についての定義が明確にされておりませんが、『LOVE波』とは、参考図1に示すように、基板と薄膜との境界面がSHORTの場合に、伝搬速度が、遅い横波よりもさらに遅いのですが、さらに、基板と薄膜との境界面の電極を誘電体と仮定したOPENの場合でも、その伝搬速度は、遅い横波よりも遅くなります。つまり、本願発明での擬似弾性表面波と、引用文献5および引用文献6での『LOVE波』とは、全くことなる概念であります。」なる記載、等にかんがみれば、本件特許発明でいう「疑似弾性表面波」は、「『少なくとも乙第2号証等でいうOPENの場合には、速い横波と遅い横波との間の速度を持つ』波」に限られ、OPENの場合にも遅い横波よりも遅い波であるいわゆる「LOVE波」は含まないと解するのが相当である。

イ.イ号物件で伝搬する波について
乙第1号証によれば、イ号物件で伝搬する波は、「OPENの場合にも遅い横波よりも遅い波」であるいわゆる「LOVE波」であると推認される。

ウ.上記ア.、イ.に基づく判断
上記ア.、イ.によれば、イ号物件は、上記構成要件B2を充足していない蓋然性が高いと判断される。

(3-3)まとめ
以上のとおりであるから、当審は、「イ号物件が上記構成要件B2を充足しているということはできない」と判断する。

(4)イ号物件が本件特許発明の上記構成要件Cを充足しているか否かについて
イ号物件が「前記薄膜の膜厚をH、前記擬似弾性表面波の動作中心周波数での波長をλとしたときに、H/λの値が0.13から0.31の範囲」という構成を有しているか否かは、当審に顕著な事実ではないし、そのことを示す何らの証拠も提出されていないから、不明であるといわざるを得ない。
よって、当審は、「イ号物件が上記構成要件Cを充足しているということはできない」と判断する。

(5)イ号物件が本件特許発明の上記構成要件Dを充足しているか否かについて
イ号物件が「周波数温度特性(TCF)が、25℃において、-30ppm/℃から+30ppm/℃である」という構成を有しているか否かは、当審に顕著な事実ではないし、そのことを示す何らの証拠も提出されていないから、不明であるといわざるを得ない。
よって、当審は、「イ号物件が上記構成要件Dを充足しているということはできない」と判断する。

4.むすび
以上のとおりであるから、当審は、「イ号物件は、本件特許発明の上記構成要件のうちのB2、C、Dを充足しているとはいえないから、本件特許発明の技術的範囲に属するものということはできない」と判断する。

よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2010-08-16 
出願番号 特願2002-51053(P2002-51053)
審決分類 P 1 2・ 2- ZB (H03H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 崎間 伸洋  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 真木 健彦
飯田 清司
登録日 2008-04-11 
登録番号 特許第4109877号(P4109877)
発明の名称 弾性表面波機能素子  
代理人 井上 裕史  
代理人 岩坪 哲  

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