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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01J
審判 全部無効 2項進歩性  B01J
管理番号 1223209
審判番号 無効2006-80181  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-09-11 
確定日 2010-08-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3690864号「光触媒体の製造法」の特許無効審判事件についてされた平成19年 9月13日付け審決に対し、東京高等裁判所において請求項2ないし5に係る発明に対する部分の審決取消の判決(平成19年(行ケ)第10367号平成20年10月16日判決言渡)があったので、審決が取り消された部分の請求項に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、その12分の11を請求人の負担とし、12分の1を被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯

出願 平成8年3月29日
設定登録 平成17年6月24日
無効審判請求書 平成18年9月11日
審判事件答弁書 平成18年12月19日
証人尋問申出書(請求人) 平成19年3月8日
尋問事項書(請求人) 平成19年3月8日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成19年4月19日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成19年4月19日
証人尋問 平成19年4月19日
口頭審理 平成19年4月19日
上申書(請求人) 平成19年5月11日
上申書(被請求人) 平成19年5月24日
第1次審決 平成19年9月13日
審決取消訴訟 平成19年10月25日
判決 平成20年10月16日
判決確定 平成20年10月30日
上記第1次審決により、「特許第3690864号の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする。特許第3690864号の請求項6ないし12に係る発明の特許についての審判請求は成り立たない。」とされたが、請求項1ないし5に対する審決の取消を求め、知的財産高等裁判所に出訴され、平成19年(行ケ)第10367号として審理された結果、平成20年10月16日に「特許庁が無効2006-80181号事件について平成19年9月13日にした審決中,特許第3690864号の請求項2ないし5に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消す。」との判決がなされたものである。
なお、請求項1に係る発明に対する審決は、上記判決の確定に伴い平成22年10月30日に確定したものであり、請求項6ないし12に係る発明に対する審決は、特許法第178条第3項に定める期間に審決取消の訴えがなされなかったことにより平成19年10月26日に確定したものである(当該請求項6ないし12に対する審決は、後述「参考」参照)。
以降の手続は以下のとおりである。
審理再開通知 平成21年2月26日(発送)
無効理由通知(被請求人) 平成21年3月10日(発送)
無効理由通知(請求人) 平成21年3月10日(発送)
意見書(被請求人) 平成21年4月8日
訂正請求書 平成21年4月8日
弁駁指令 平成21年7月7日(発送)
審理終結通知 平成22年6月2日(発送)

II.本件特許発明

特許第3690864号の請求項2?5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明2?5」といい、これらを総称して「本件特許発明」ということがある。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その【特許請求の範囲】の【請求項2】?【請求項5】に記載された次のとおりのものである。(なお、請求項1に係る発明の特許は、無効が確定しているが、請求項4及び請求項5において引用形式で記載されている。)
「【請求項1】 光触媒を基体に担持固定してなる光触媒体の製造法であって、光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、80℃以下で乾燥させ、固化させて得たことを特徴とする光触媒体の製造法。
【請求項2】 基体上に、光触媒によって分解されない結着剤からなる第一層を設け、該第一層の上に、光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとの混合物を用いて調製した第二層を設けることを特徴とする光触媒体の製造法。
【請求項3】 基体上に、アモルファス型過酸化チタンゾルを用いて調製した光触機能を有さない第一層を設け、該第一層の上に、光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとの混合物を用いて調製した第二層を設けることを特徴とする光触媒体の製造法。
【請求項4】 光触媒として、酸化チタン粒子又は酸化チタン粉末を用いて調製したものであることを特徴とする請求項1?3のいずれか記載の光触媒体の製造法。
【請求項5】 光触媒として、酸化チタンゾルを用いて調製したものであることを特徴とする請求項1?3のいずれか記載の光触媒体の製造法。」

III.請求人の主張および証拠方法の概要
III-1.請求人の主張
請求人は、特許第3690864号の特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として以下の証拠および下記の証人の尋問を申し出て、以下のとおり主張している。なお、上記判決の確定により、審決取消訴訟を提起されることがなく、形式的に確定した請求項6ないし12を無効理由1および無効理由3から除外した。

(1)無効理由1
本件請求項1?5に係る発明は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項2?5に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

(2)無効理由2
本件請求項1には、「コーティングした後、80℃以下で乾燥させ、固化させ」が記載されており、これは、本願発明の詳細な説明には全く記載されていないものを含むので、特許法第36条第6項第1号の規定に違反し、特許を受けることができない。
したがって、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。

(3)無効理由3
本件請求項1?5に係る各特許発明は、特許出願前の平成7年10月6日に開催された平成7年度佐賀県窯業技術センタ-研究会において、佐賀県窯業技術センター、部長、一ノ瀬弘道博士が発表された技術に基づいて、特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項2?5に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

III-2.請求人の証拠方法
甲第1号証:特開平7-286114号公報
甲第2号証:特開平7-171408号公報
甲第3号証:特開昭62-283817号公報
甲第4号証:特開平9-71418号公報(公開日平成9年3月18日)(特願平7-248384号)
甲第5号証:佐賀県窯業技術センター報告「平成7年度業務報告書」
証人 :佐賀県窯業技術センタ-、部長 一ノ瀬 弘道

III-3.甲号各証の記載事項について
III-3-A.甲第1号証(特開平7-286114号公報)の記載
(A-1)「【請求項1】マトリックス成分としてペルオキソポリチタン酸を水および/または有機溶媒に溶解した状態で含有していることを特徴とする被膜形成用塗布液。・・・【請求項3】前記塗布液がさらに無機化合物微粒子を分散した状態で含有していることを特徴とする請求項1または2に記載の被膜形成用塗布液。」(特許請求の範囲第1項?第3項)
(A-2)「本発明に係る塗布液は、上述したようなペルオキソポリチタン酸成分以外に無機化合物の微粒子を含有していてもよい。本発明に係る塗布液中に配合される無機化合物微粒子としては、具体的には、シリカ、チタニア、・・・が挙げられる。・・・本発明では、基材上に形成される被膜の機能に応じて、塗布液中に配合される無機化合物の微粒子の大きさと種類が選択され、1種または2種以上の無機化合物微粒子が塗布液中に配合される。」(段落【0029】?【0030】)
(A-3)「【実施例1】四塩化チタン水溶液(TiCl_(4);酸化チタン濃度28重量%)160gを純水2000gで希釈した。この液に15%アンモニア水を230g添加して中和し、加水分解させゲルを生成させた。このゲルを洗浄したのち、再度純水に懸濁させ、TiO_(2)濃度として2重量%のスラリ-1500gを調製した。このスラリ-に過酸化水素水(35%濃度)340gを添加し、80℃で1時間加熱することにより、透明な黄色のペルオキソポリチタン酸水溶液を得た。・・・また、この液を凍結乾燥した黄色粉末の赤外線吸収スペクトルを測定するとチタン金属にペルオキソ基の配位したことを示す強いピークが900cm^(-1)付近に現れた。また、この凍結乾燥品のX線回折を行うとアナターゼ類似結晶を示した。上記のようにして得られたペルオキソポリチタン酸水溶液50gにメタノール50gを添加して塗布液を調製した。得られた塗布液をスピナ-法(200rpm)でガラスに塗布し、100℃で10分間乾燥した後、200℃で30分間熱処理を行った。」(段落【0052】?【0053】)

III-3-B.甲第2号証(特開平7-171408号公報)の記載
(B-1)「【請求項1】難分解性結着剤を介して光触媒粒子を基体上に接着させてなることを特徴とする光触媒体。・・・【請求項3】基体上に、結着剤からなる、光触媒粒子を含有しない第一層を設け、さらに、該第一層の上に、難分解性結着剤と光触媒粒子とからなる第二層を設けてなることを特徴とする請求項1に記載の光触媒体。【請求項4】第一層の結着剤が難分解性結着剤であることを特徴とする請求項3に記載の光触媒体。・・・【請求項6】光触媒粒子の量が、該光触媒粒子と難分解性結着剤との合量に対する容積基準で5?98%であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒体。【請求項7】難分解性結着剤がフッ素系ポリマ-および/またはシリコン系ポリマ-であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒体。・・・【請求項11】光触媒粒子が酸化チタンであることを特徴とする請求項1に記載の光触媒体。・・・【請求項15】基体上に光触媒粒子を含有しない結着剤を被覆し、次いで固化して、該基板上に結着剤からなる光触媒粒子を含有しない第一層を設け、さらに該第一層の上に難分解性結着剤と光触媒粒子とを配置させ、次いで固化して、難分解性結着剤と光触媒粒子とからなる第二層を設けてなることを特徴とする光触媒体の製造方法。」(特許請求の範囲請求項1?請求項15)
(B-2)「【課題を解決するための手段】本発明者らは、光触媒粒子をあらゆる基体上に、その光触媒機能を損なうことなく、強固に、かつ、長期間にわたって接着させる方法を探索した結果、(1)結着剤を用いて光触媒粒子を基体上に接着させた場合、該光触媒粒子の光触媒機能により接着剤が分解・劣化し、該光触媒粒子が基体から脱離するが、難分解性結着剤を用いると、光触媒粒子をあらゆる基体上に脱離することなく接着できること、さらに、意外にも、本発明の光触媒体は十分な光触媒機能が得られること、(2)光触媒粒子を、該光触媒粒子と難分解性結着剤との合量に対する容積基準で5?98%とすることにより、得られる光触媒体の光触媒機能を低下せしめることなく接着できること、(3)難分解性結着剤としてフッ素系ポリマ-、シリコン系ポリマ-の有機系結着剤或いは無機系結着剤を用いると、光触媒粒子が持つ光触媒機能による結着剤の分解・劣化が極めて少なく、光触媒粒子を強固に、かつ、長期間にわたって接着することができること、・・・(4)光触媒粒子としては、高い光触媒機能を有し、化学的に安定であり、かつ、無害である酸化チタンが好ましいこと、(5)光触媒粒子を接着させる方法としては、・・・光触媒粒子と難分解性結着剤と溶媒とを含有させてなる塗料組成物を各種製品などの基体表面に塗布し或いは吹き付けて配置させ、次いで、固化することにより、各種製品の表面を比較的容易に光触媒体とすることができ、その光触媒機能を手軽に各家庭内でも活用することができることなどを見出し、本発明を完成した。」(段落【0004】)
(B-3)「硫酸チタニルを加水分解して得た酸性チタニアゾル(石原産業株式会社製、CS-N)に水酸化ナトリウムを加えpH7に調節した後濾過、洗浄を行なった。次いで、得られた酸化チタン湿ケーキ・・・110℃の温度で3時間乾燥させて酸化チタンを得た。」(段落【0016】)

III-3-C.甲第3号証(特開昭62-283817号公報)
甲第3号証は、本件特許発明9に記載された加熱処理温度に関する書証であり、上記したように本件特許発明9は、取消訴訟が提起されることなく形式的に確定している。

III-3-D.甲第4号証(特開平9-71418号公報(公開日平成9年3月18日))
甲第4号証は、証人の研究内容の説明に援用されたもので、しかも、本件特許の出願後に頒布されたものであり、公知文献ではなく、書証としての証拠能力を有さないものである。

III-3-E.甲第5号証(佐賀県窯業技術センター報告「平成7年度業務報告書」)
甲第5号証には、証人である一ノ瀬氏が発表者として、平成7年10月6日に窯業技術センター研究発表会において機能性チタニアコーティングについて発表したことが示されている。

III-3-F.証人尋問
証人の陳述は、録音テープの反訳の通りであることについて、証人、請求人及び被請求人の了承を得た。

IV.被請求人の主張の概要
「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、以下のとおり主張している。

(1)無効理由1について
本件特許発明における「アモルファス型過酸化チタンゾル」は、甲第1号証に開示も示唆もされておらず、また、かかる「アモルファス型過酸化チタンゾル」を用いた本件請求項2乃至3の特許発明は、あらゆる基板上に光触媒粒子を強固かつ長期間にわたって担持させることができるという当業者に予測できない優れた効果を奏するものであることから、甲第1号証の発明または甲第1号証の発明と甲第2号証の発明を組み合わせたとしても、本件請求項2?3の特許発明を容易に想到できないことは、明らかである。また、請求人は、『請求項4?5は、請求項2?3の従属項であるので、請求項4から5の特許発明も上述した理由により、特許されるべきものではない。(審判請求書第13頁第19?20行)』と主張しているが意味不明であり、本件特許請求項4?5は、本件特許請求項2?3の従属項であり、係る本件特許請求項2?3の特許発明が特許されるべきものであることは、上述のとおりであるから、本件請求項4?5の特許発明が特許されるべきものであることは明らかである。

(2)無効理由2について
本件特許公報の発明の詳細な説明の欄には、『前記のようにして塗布あるいは吹き付けたりしてコーティングした後、乾燥させ、固化させて本発明の光触媒体を得ることができるが(段落【0015】1?2行)』との記載や、乾燥温度を例示した『例えば80℃以下で乾燥固化させる。(段落【0015】9行)』との記載があり、また、参考例及び実施例において、常温?70℃で乾燥する例が開示されている。したがって、発明の詳細な説明に、「コーティングした後、80℃以下で乾燥させ、固化させて」という事項が記載されていることは明らかであり、本件特許発明は、特許法第36条第6項第1号の要件を具備するものであることは明らかである。

(3)無効理由3について
平成7年10月6日に、平成7年度佐賀県窯業技術センタ-研究会が開催されたこと自体明らかでなく、また仮に開催されていたとしても、その研究会で発表された技術内容の概要すら明らかにされておらず、本件特許発明との関係も明らかでない。また、その研究会が公開性を有していたことも明らかでない。さらに、様々な研究会で種々の研究発表をされている一ノ瀬博士が、10年以上も前に開催された一研究会での発表内容を正確に記憶しているということは到底考えることができない。上記のように、証人尋問を行う意義が明らかでなく、証人尋問を行う必要はない。

V.審決取消訴訟の判決の概要
(1)主文
1 特許庁が無効2006-80181号事件について平成19年9月13日にした審決中,特許第3690864号の請求項2ないし5に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消す。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は5分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。

(2)当裁判所の判断
当裁判所は,<1>本件特許発明1についての特許がサポート要件を満たしていないとした審決の認定判断(理由(1)ア)に誤りはないから,審決中,特許第3690864号の請求項1に係る発明についての特許を無効とした部分は,これを取り消すべき理由がないが,<2>本件特許発明2ないし5は,甲第2発明及び甲第1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の判断には誤りがあるから,審決中,特許第3690864号の請求項2ないし5に係る発明についての特許を無効とした部分は,これを取り消すべきものと判断する。
(中略)
以上によれば,審決における本件特許発明1の進歩性に係る認定判断(理由(1)イ)は,甲第1発明の「ペルオキソポリチタン酸」が「アモルファス型過酸化チタンゾル」であるとした点に誤りがあるが,本件特許発明1のサポート要件に係る認定判断(理由(1)ア)は,その結論において相当であるから,審決中,特許第3690864号の請求項1に係る発明についての特許を無効とした部分は,これを是認することができる。したがって,原告らの主張に係る取消事由1は理由がない。
(3) 結論
以上のとおり,審決中,特許第3690864号の請求項2ないし5に係る発明についての特許を無効とした部分は違法であるから,これを取り消すこととし,原告らのその余の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

VI.当審の無効理由の概要
上記判決の確定により、本件特許発明1の無効が確定した。また、審決取消訴訟を提起されることがなかった、本件特許発明6ないし本件特許発明12は、形式的に確定している。
しかしながら、本件特許発明4および本件特許発明5については、判決においてサポート要件違反が是認され確定した本件特許発明1を発明特定事項として引用するものであるから、当然、同じ内容のサポート要件違反の無効理由を有することは明らかである。
したがって、本件請求項4,5に係る発明の特許は、依然として特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とされるべきものである。

VII.訂正請求書により訂正された本件特許発明について
VII-1.訂正の事由
(1)特許請求の範囲の減縮

VII-2.訂正事項
(1)訂正事項1
【特許請求の範囲】の【請求項4】を次の通り訂正する。
「光触媒を基体に担持固定してなる光触媒体の製造法であって、光触媒を酸化チタン粒子又は酸化チタン粉末を用いて調製し、該光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温で乾燥させ、固化させて得たことを特徴とする光触媒体の製造法。」
(2)訂正事項2
【特許請求の範囲】の【請求項5】を次の通り訂正する。
「光触媒を基体に担持固定してなる光触媒体の製造法であって、光触媒を酸化チタンゾルを用いて調製し、該光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温で乾燥させ、固化させて得たことを特徴とする光触媒体の製造法。」

VII-3.訂正の原因
(1)本件訂正請求は、平成21年3月10日付(発送日)無効理由通知書における「本件特許発明4および本件特許発明5については、判決においてサポート要件違反が是認され無効が確定した本件特許発明1を発明特定事項として引用するものであるから、当然、同じ内容のサポート要件違反の無効理由を有することは明らかである。」及び「したがって、本件請求項4、5に係る発明の特許は、依然として特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものであるから特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とされるべきものである。」との認定に鑑み、かかる無効理由を解消すべく行ったものである。
(2)訂正事項1
訂正事項1は、請求項4において請求項1の記載を具体的に記載して請求項1のみを引用したものとし(請求項2及び3の引用を削除)、さらに、乾燥温度「80℃以下」を「常温」に減縮したものであり、特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
訂正事項1は、本件特許明細書の記載、具体的には、段落【0015】「前記のようにして塗布あるいは吹き付けたりしてコーティングした後、乾燥させ、固化させて本発明の光触媒体を得ることができるが、200℃?400℃前後で焼結して固化坦持させることもできる。」との記載や、段落【0025】の「アモルファス型過酸化チタンゾルと酸化チタンゾルとの混合比による有機物質の分解試験を次のようにして行った。・・・この基板に各種混合割合の混合ゾルを厚さ約2μmにスプレー法によりコーティングし、常温から70℃で乾燥後、約400℃で30分間焼結し、基板上に光触媒を坦持した5種類の光触媒体を得た。」との記載等に依拠するものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内における訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
なお、前審決でも、『上記した本件請求項1の「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、80℃以下で乾燥させ、固化させ」について、本件特許明細書の詳細な説明には、上記指摘箇所によれば「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温から70℃で乾燥して固化させること」または、「30℃で一晩乾燥、固化する」ことしか記載されておらず、これらの記載から本件特許明細書の詳細な説明には、「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温?70℃で乾燥、固化させること」が記載されていると云えるが、「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、70℃を越え80℃以下で乾燥、固化させること」の記載もないし示唆もされていない。』(第14頁第32?第15頁第3行)として、『「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温?70℃で乾燥、固化させること」が記載されている』旨認定されており、訂正事項1は、乾燥温度をさらに常温に限定するものであることから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内における訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。
(3)訂正事項2
訂正事項2は、請求項5において請求項1の記載を具体的に記載して請求項1のみを引用したものとし(請求項2及び3の引用を削除)、さらに、乾燥温度「80℃以下」を「常温」に減縮したものであり、特許請求の範囲の減縮に該当するものである。
訂正事項2は、本件特許明細書の記載、具体的には、段落【0015】「前記のようにして塗布あるいは吹き付けたりしてコーティングした後、乾燥させ、固化させて本発明の光触媒体を得ることができるが、200℃?400℃前後で焼結して固化坦持させることもできる。」との記載や、段落【0025】の「アモルファス型過酸化チタンゾルと酸化チタンゾルとの混合比による有機物質の分解試験を次のようにして行った。・・・この基板に各種混合割合の混合ゾルを厚さ約2μmにスプレー法によりコーティングし、常温から70℃で乾燥後、約400℃で30分間焼結し、基板上に光触媒を坦持した5種類の光触媒体を得た。」との記載等に依拠するものであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内における訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
なお、前審決でも、『上記した本件請求項1の「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、80℃以下で乾燥させ、固化させ」について、本件特許明細書の詳細な説明には、上記指摘箇所によれば「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温から70℃で乾燥して固化させること」または、「30℃で一晩乾燥、固化する」ことしか記載されていず、これらの記載から本件特許明細書の詳細な説明には、「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温?70℃で乾燥、固化させること」が記載されていると云えるが、「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合レコーディングした後、70℃を越え80℃以下で乾燥、固化させること」の記載もないし、示唆もされていない。』(第14頁第32?第15頁第3行)として、『「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温?70℃で乾燥、固化させること」が記載されている』旨認定されており、訂正事項2は、乾燥温度をさらに常温に限定するものであることから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内における訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことは明らかである。
(4)以上の通り、訂正事項1及び2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内における訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

VII-4.訂正後の本件特許発明
【請求項1】
(無効確定)
【請求項2】
基体上に、光触媒によって分解されない結着剤からなる第一層を設け、該第一層の上に、光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとの混合物を用いて調製した第二層を設けることを特徴とする光触媒体の製造法。
【請求項3】
基体上に、アモルファス型過酸化チタンゾルを用いて調製した光触機能を有さない第一層を設け、該第一層の上に、光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとの混合物を用いて調製した第二層を設けることを特徴とする光触媒体の製造法。
【請求項4】
光触媒を基体に担持固定してなる光触媒体の製造法であって、光触媒を酸化チタン粒子又は酸化チタン粉末を用いて調製し、該光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温で乾燥させ、固化させて得たことを特徴とする光触媒体の製造法。(以下、「本件訂正発明4」という。)
【請求項5】
光触媒を基体に担持固定してなる光触媒体の製造法であって、光触媒を酸化チタンゾルを用いて調製し、該光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温で乾燥させ、固化させて得たことを特徴とする光触媒体の製造法。(以下、「本件訂正発明5」という。)
【請求項6】
酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを30重量%以下の割合で混合した混合ゾルを用いることを特徴とする請求項5記載の光触媒体の製造法。
【請求項7】
酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを20?80重量%の割合で混合した混合ゾルを用いることを特徴とする請求項5記載の光触媒体の製造法。
【請求項8】
酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを70重量%以上の割合で混合した混合ゾルを用いることを特徴とする請求項5記載の光触媒体の製造法。
【請求項9】
酸化チタンゾルが、アモルファス型過酸化チタンゾルの100℃以上の加熱処理により得られるものであることを特徴とする請求項5?8のいずれか記載の光触媒体の製造法。
【請求項10】
基体表面及び/又は第一層に、ナトリウムイオンを存在させることを特徴とする請求項1?9のいずれか記載の光触媒体の製造法。
【請求項11】
光触媒粒子と共に、自発型紫外線放射材又は蓄光型紫外線放射材の素材からなる粒子、あるいはこれらの放射材を混入した粒子を用いることを特徴とする請求項1?10のいずれか記載の光触媒体の製造法。
【請求項12】
自発型紫外線放射材又は蓄光型紫外線放射材が、使用する光触媒の励起波長の発光波長又は蓄光波長を有することを特徴とする請求項11記載の光触媒体の製造法。

VII-5.訂正請求についての当審の判断
訂正事項1、2は、請求項3、4においてそれぞれ引用して記載されていた請求項1の記載を独立して記載して請求項2及び3の引用を削除し、さらに、本件特許明細書の段落【0015】「前記のようにして塗布あるいは吹き付けたりしてコーティングした後、乾燥させ、固化させて本発明の光触媒体を得ることができるが、200℃?400℃前後で焼結して固化坦持させることもできる。」との記載や、同段落【0025】の「アモルファス型過酸化チタンゾルと酸化チタンゾルとの混合比による有機物質の分解試験を次のようにして行った。・・・この基板に各種混合割合の混合ゾルを厚さ約2μmにスプレー法によりコーティングし、常温から70℃で乾燥後、約400℃で30分間焼結し、基板上に光触媒を坦持した5種類の光触媒体を得た。」との記載を根拠として、乾燥温度「80℃以下」を「常温」に訂正したもので、いずれも特許請求の範囲の減縮に該当するものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内における訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1、2は、特許法第134条の2第1項及び第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項乃至第5項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

VIII.無効理由についての当審の判断
VIII-1.無効理由1(特許法第29条第2項)について

(1)本件特許発明2について
甲第2号証の記載事項(B-1)には、「基体上に光触媒粒子を含有しない結着剤を被覆し、次いで固化して、該基体上に結着剤からなる光触媒粒子を含有しない第一層を設け、さらに該第一層の上に難分解性結着剤と光触媒粒子とを配置させ、次いで固化して、難分解性結着剤と光触媒粒子とを配置させ、次いで固化して、難分解性結着剤と光触媒粒子とからなる第二層を設けてなることを特徴とする光触媒体の製造方法。」が記載されている。そして、記載事項(B-2)に、「【課題を解決するための手段】」として「本発明者らは、光触媒粒子をあらゆる基体上に、その光触媒機能を損なうことなく、強固に、かつ、長期間にわたって接着させる方法を探索した結果、(1)結着剤を用いて光触媒粒子を基体上に接着させた場合、該光触媒粒子の光触媒機能により接着剤が分解・劣化し、該光触媒粒子が基体から脱離するが、難分解性結着剤を用いると、光触媒粒子をあらゆる基体上に脱離することなく接着できること」が記載されているからみて、記載事項(B-1)における「結着剤」は「難分解性結着剤」であるということができる。
これらの記載を本件特許発明2の記載振りに則して表すと、
甲第2号証には、
「基体上に、光触媒粒子を含有しない難分解性結着剤からなる第一層を設け、該第一層の上に、難分解性結着剤と光触媒粒子とからなる第二層を設けてなる光触媒体の製造方法」の発明(以下、甲第2発明」という。)が記載されていると認められる。
ここで、本件特許発明2と甲第2発明とを対比すると、後者の「光触媒粒子」は、前者の「光触媒」に相当する。
また、甲第2号証の「難分解性結着剤」は、記載事項(B-1)及び(B-2)から「フッ素系ポリマ-および/またはシリコン系ポリマーである」ということができる。一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、段落【0011】から「本発明において、光触媒によって分解されない結着剤とは、・・・フッ素系ポリマ-、シリコン系ポリマ-等の有機系、からなる光触媒によって分解されにくい結着剤を意味する」ことが記載されている。そうすると、甲第2発明の「難分解性結着剤」は、本件特許発明2の「光触媒によって分解されない結着剤」に相当する。
したがって、本件特許発明2と甲第2発明とは、「基体上に、光触媒によって分解されない結着剤からなる第一層を設け、該第一層の上に、光触媒との混合物を用いて調製した第二層を設けることを特徴とする光触媒体の製造方法」である点で一致するが、以下の点で相違する。
相違点1:第二層に用いる光触媒と混合する化合物として、本件特許発明2は、「アモルファス型過酸化チタンゾル」であるのに対し、甲第2発明では、「難分解性結着剤」である点で相違する。
この相違点1について、以下に検討する。
甲第1号証には、記載事項(A-1)、(A-2)より、「基材上にチタニア被膜を形成するために、ペルオキソポリチタン酸をマトリックスとして用いること」が記載されている。しかしながら、この「ペルオキソポリチタン酸」について記載事項(A-3)に「【実施例1】・・・80℃で1時間加熱することにより、透明な黄色のペルオキソポリチタン酸水溶液を得た。・・・また、この液を凍結乾燥した黄色粉末の赤外線吸収スペクトルを測定するとチタン金属にペルオキソ基の配位したことを示す強いピークが900cm^(-1)付近に現れた。また、この凍結乾燥品のX線回折を行うとアナターゼ類似結晶を示した。」と記載され、「アモルファス型」であることが記載されているとはいえず、他にアモルファス型の組織が生成することに関連する記載も見当たらないから、甲第1号証の「ペルオキソポリチタン酸」が「アモルファス型過酸化チタンゾル」であるとすることはできない。
したがって、甲第1号証には、「基材上にチタニア被膜を形成するために、アモルファス型過酸化チタンゾルをマトリックスとして用いること」が記載されているということはできない。
してみると、基板上にチタニア被膜、つまり光触媒被膜を形成するために、アモルファス型過酸化チタンゾルを塗布液として用いることは、甲第1号証に記載されるような公知技術であるとすることはできないから、本件訂正発明2は、この光触媒被膜を形成するための塗布液として甲第2発明の「難分解性結着剤」に換えて公知技術を用いたにすぎないとはいえず、当業者といえども容易になし得ることということはできない。
そして、本件特許発明2は、あらゆる基板上に光触媒を強固にかつ長期間にわたって、担持させることができるという当業者に予期できない優れた効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明2は、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

(2)本件特許発明3について
甲第2発明は、(1)に記載したように「基体上に、光触媒粒子を含有しない難分解性結着剤からなる第一層を設け、該第一層の上に、難分解性結着剤と光触媒粒子とからなる第二層を設けてなる光触媒体の製造方法」の発明である。
ここで、本件特許発明3と甲第2発明とを対比すると、後者の「光触媒粒子」は、前者の「光触媒」に相当する。
したがって、本件特許発明3と甲第2発明とは、「基体上に、光触媒粒子を含有しない塗布液を用いて第一層を設け、該第一層の上に光触媒と塗布液との混合物を用いて調製した第二層を設けることを特徴とする光触媒体の製造法」である点で一致するが、以下の点で相違する。
相違点2:第一層および第二層に用いる塗布液として、本件特許発明3は、「アモルファス型過酸化チタンゾル」であるのに対し、甲第2発明では、「難分解性結着剤」である点で相違する。
この相違点2について、上記「V-2.(1)」と同様に、甲第1号証には、記載事項(A-1)、(A-2)より、「基材上にチタニア被膜を形成するために、ペルオキソポリチタン酸をマトリックスとして使用すること」が記載されている。しかしながら、この「ペルオキソポリチタン酸」について記載事項(A-3)に「【実施例1】・・・80℃で1時間加熱することにより、透明な黄色のペルオキソポリチタン酸水溶液を得た。・・・また、この液を凍結乾燥した黄色粉末の赤外線吸収スペクトルを測定するとチタン金属にペルオキソ基の配位したことを示す強いピークが900cm^(-1)付近に現れた。また、この凍結乾燥品のX線回折を行うとアナターゼ類似結晶を示した。」と記載され、「アモルファス型」であることが記載されているとはいえず、他にアモルファス型の組織が生成することに関連する記載も見当たらないから、甲第1号証の「ペルオキソポリチタン酸」が「アモルファス型過酸化チタンゾル」であるとすることはできない。
したがって、甲第1号証には、「基材上にチタニア被膜を形成するために、アモルファス型過酸化チタンゾルをマトリックスとして用いること」が記載されているということはできない。
すなわち、甲第1号証からは酸化チタンの被膜、すなわち光触媒被膜を形成するための塗布液として、アモルファス型過酸化チタンゾルを用いることは、公知技術であるとすることはできない。
そして、本件特許発明3は、あらゆる基板上に光触媒を強固にかつ長期間にわたって、担持させることができるという当業者に予期できない優れた効果を奏するものである。
よって、本件特許発明3は、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

(3)本件訂正発明4について
本件訂正発明4は、「光触媒を基体に担持固定してなる光触媒体の製造法であって、光触媒を酸化チタン粒子又は酸化チタン粉末を用いて調製し、該光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温で乾燥させ、固化させて得たことを特徴とする光触媒体の製造法。」である。
甲第2号証の記載事項(B-1)には、「光触媒粒子が酸化チタンである」ことが記載されており、これは、本件訂正発明3の「光触媒を酸化チタン粒子または酸化チタン粉末」に相当する。
しかしながら、上述のように、甲第1号証には酸化チタンの被膜、すなわち光触媒被膜を形成するための塗布液として、アモルファス型過酸化チタンゾルを用いることが記載されておらず、示唆もされていない以上、本件訂正発明4が特定事項とする「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温で乾燥させ、固化させ」ることは、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
したがって、当該特定事項を全て含む本件訂正発明4は、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

(4)本件訂正発明5について
本件訂正発明5は、「光触媒を基体に担持固定してなる光触媒体の製造法であって、光触媒を酸化チタンゾルを用いて調製し、該光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温で乾燥させ、固化させて得たことを特徴とする光触媒体の製造法。」であり、「光触媒」として、「酸化チタンゾル」を用いるものである。
甲第2号証には、記載事項(B-1)の「光触媒粒子が酸化チタンである」こと及び記載事項(B-3)に「硫酸チタニルを加水分解して得た酸性チタニアゾル(石原産業株式会社製、CS-N)に水酸化ナトリウムを加えpH7に調節した後濾過、洗浄を行なった。次いで、得られた酸化チタン湿ケーキ・・・110℃の温度で3時間乾燥させ酸化チタンを得た。」が記載されている。「この酸化チタンを乾燥する前のもの」は酸化チタンゾルに相当するものであり、同号証には、この「酸化チタンゾル」を光触媒として用いることが記載されているということができる。
しかしながら、上述のように、甲第1号証には酸化チタンの被膜、すなわち光触媒被膜を形成するための塗布液として、アモルファス型過酸化チタンゾルを用いることが記載されておらず、示唆もされていない以上、本件訂正発明5が特定事項とする「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温で乾燥させ、固化させ」ることは、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
したがって、当該特定事項を全て含む本件訂正発明5は、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

(5)小括
以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由1によっては、本件特許発明2及び本件特許発明3並びに本件訂正発明4及び本件訂正発明5に係る特許を無効にすることはできない。

VIII-2.当審の無効理由(特許法第36条第6項第1号)について
本件訂正発明4及び本件訂正発明5において発明特定事項とする、光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、「常温で乾燥させ、固化させて得た」については、本件特許明細書の段落【0015】の「前記のようにして塗布あるいは吹き付けたりしてコーティングした後、乾燥させ、固化させて本発明の光触媒を得ることができるが、200℃?400℃前後で焼結して固化担持させることもできる。」という記載や、段落【0025】の「アモルファス型過酸化チタンゾルと酸化チタンゾルとの混合比による有機物質の分解試験を次のようにして行った。・・・この基板に各種混合割合の混合ゾルを厚さ約2μmにスプレー法によりコーティングし、常温から70℃で乾燥後、約400度で30分間焼結し、基板上に光触媒を担持した5種類の光触媒体を得た。」という記載において開示されている。段落【0025】に示される[参考例3]は、「常温から70℃で乾燥後、約400度で30分間焼結し」ていることから参考例とされてはいるが、上記段落【0015】の「乾燥させ、・・・200℃?400℃前後で焼結して」の記載に沿って具体的に実施した例を示したものであり、その段落【0015】には、「乾燥させ、固化させて本発明の光触媒を得ることができるが、」と乾燥後の焼結の有無は関係がないことが明確に記載されているのであるから、「常温で乾燥させ、固化させて得た」については、明細書の発明の詳細な説明にが記載されており、これは、本願発明の詳細な説明に記載されたものであることは明らかであるので、本件訂正発明4及び本件訂正発明5がサポート要件即ち特許法第36条第1項の要件を満たすものである。
したがって、本件訂正発明4及び本件訂正発明5に係る特許を無効とすることができない。

VIII-3.無効理由3(特許法第29条第2項)について
証人の陳述は、反訳のとおりである。これによると、平成7年10月6日に佐賀県窯業技術センタ-で研究発表会が開催され、この研究発表会で、証人である佐賀県窯業技術センター、部長、一ノ瀬弘道博士が、佐賀県窯業技術センターで新しい酸化チタンコーティング剤を開発し、その製造方法、酸化チタンコーティング剤の特性、及びこのコーティングした焼き物等をOHPを用いて発表したとのことである。しかしながら、この発表において、ペルオキソチタンとアナタース化したものとの混合液を用いること、基材に塗布した後、80℃以下で乾燥、固化させたこと等、本件特許発明に相当する技術を、この発表会で発表したとは、明確には、証人は証言していない。そして、この証人尋問での証言を裏付けるものが何も存在しないため、上記主張が、平成7年10月6日に開催された平成7年度佐賀県窯業技術センタ-研究発表会において、発表されたものであるのか、それ以降の研究発表会で発表されたものであるのか、さらに、発表された内容が、上記記載のように曖昧不明確なものであるため、上記証言から、その事実を認定することは不可能であり、上記証人尋問の証言内容を証拠として採用することができない。
そうすると、本件特許発明2及び本件特許発明3並びに本件訂正発明4及び本件訂正発明5に相当する技術が、本件特許出願前に発表された事実については、一ノ瀬弘道博士の証言により立証されなかっため、本件特許発明2及び本件特許発明3並びに本件訂正発明4及び本件訂正発明5は、一ノ瀬弘道博士の証言に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件特許発明2及び本件特許発明3並びに本件訂正発明4及び本件訂正発明5に係る特許を無効とすることができないものである。

IX.むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法並びに当審の通知した無効理由によって、本件特許発明2及び本件特許発明3並びに本件訂正発明4及び本件訂正発明5に係る特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、12分の11を請求人が負担し、12分の1を被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
(参考)平成19年 9月13日付け審決(第1次審決)は、以下のとおりである。
「無効2006- 80181

佐賀県武雄市山内町大字宮野字松ノ木原22646
請求人 株式会社 鯤コーポレーション
東京都大田区蒲田1-20-3 泉ビル2F 沢田国際特許事務所
代理人弁理士 沢田 雅男
佐賀県佐賀郡大和町大字尼寺1592?1
被請求人 株式会社 ティオテクノ
東京都港区赤坂2丁目8番5号 若林ビル3階 廣田特許事務所
代理人弁理士 廣田 雅紀
東京都港区赤坂2丁目8番5号 若林ビル3階 廣田特許事務所
代理人弁理士 小澤 誠次
東京都港区赤坂2-8-5 若林ビル3階 廣田特許事務所
代理人弁理士 東海 裕作
東京都港区赤坂2丁目8番5号 若林ビル3階 廣田特許事務所
代理人弁理士 高津 一也
東京都中央区京橋1丁目10番1号
被請求人 株式会社 ブリヂストン
東京都港区赤坂2丁目8番5号 若林ビル3階 廣田特許事務所
代理人弁理士 廣田 雅紀
東京都港区赤坂2丁目8番5号 若林ビル3階 廣田特許事務所
代理人弁理士 小澤 誠次
東京都港区赤坂2-8-5 若林ビル3階 廣田特許事務所
代理人弁理士 東海 裕作
東京都港区赤坂2丁目8番5号 若林ビル3階 廣田特許事務所
代理人弁理士 高津 一也

上記当事者間の特許第3690864号発明「光触媒体の製造法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結 論
特許第3690864号の請求項1?5に係る発明についての特許を無効とする。
特許第3690864号の請求項6?12に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
審判費用は、その12分の7を請求人の負担とし、12分の5を被請求人の負担とする。

理 由
I.手続きの経緯

本件特許第3690864号は、平成8年3月29日に特許出願されたものであって、平成17年6月24日にその設定登録がなされ、その後、当審において、以下の手続を経たものである。
無効審判請求書 平成18年9月11日
審判事件答弁書 平成18年12月19日
証人尋問申出書(請求人) 平成19年3月8日
尋問事項書(請求人) 平成19年3月8日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成19年4月19日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成19年4月19日
証人尋問 平成19年4月19日
口頭審理 平成19年4月19日
上申書(請求人) 平成19年5月11日
上申書(被請求人) 平成19年5月24日

II.本件特許発明

特許第3690864号の請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1?12」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その【特許請求の範囲】の【請求項1】?【請求項12】に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 光触媒を基体に担持固定してなる光触媒体の製造法であって、光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、80℃以下で乾燥させ、固化させて得たことを特徴とする光触媒体の製造法。
【請求項2】 基体上に、光触媒によって分解されない結着剤からなる第一層を設け、該第一層の上に、光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとの混合物を用いて調製した第二層を設けることを特徴とする光触媒体の製造法。
【請求項3】 基体上に、アモルファス型過酸化チタンゾルを用いて調製した光触機能を有さない第一層を設け、該第一層の上に、光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとの混合物を用いて調製した第二層を設けることを特徴とする光触媒体の製造法。
【請求項4】 光触媒として、酸化チタン粒子又は酸化チタン粉末を用いて調製したものであることを特徴とする請求項1?3のいずれか記載の光触媒体の製造法。
【請求項5】 光触媒として、酸化チタンゾルを用いて調製したものであることを特徴とする請求項1?3のいずれか記載の光触媒体の製造法。
【請求項6】 酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを30重量%以下の割合で混合した混合ゾルを用いることを特徴とする請求項5記載の光触媒体の製造法。
【請求項7】 酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを20?80重量%の割合で混合した混合ゾルを用いることを特徴とする請求項5記載の光触媒体の製造法。
【請求項8】 酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを70重量%以上の割合で混合した混合ゾルを用いることを特徴とする請求項5記載の光触媒体の製造法。
【請求項9】 酸化チタンゾルが、アモルファス型過酸化チタンゾルの100℃以上の加熱処理により得られるものであることを特徴とする請求項5?8のいずれか記載の光触媒体の製造法。
【請求項10】 基体表面及び/又は第一層に、ナトリウムイオンを存在させることを特徴とする請求項1?9のいずれか記載の光触媒体の製造法。
【請求項11】 光触媒粒子と共に、自発型紫外線放射材又は蓄光型紫外線放射材の素材からなる粒子、あるいはこれらの放射材を混入した粒子を用いることを特徴とする請求項1?10のいずれか記載の光触媒体の製造法。
【請求項12】 自発型紫外線放射材又は蓄光型紫外線放射材が、使用する光触媒の励起波長の発光波長又は蓄光波長を有することを特徴とする請求項11記載の光触媒体の製造法。」

III.当事者の主張および証拠方法
III-1.請求人の主張
請求人は、特許第3690864号の特許を無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として以下の証拠を提出しおよび下記の証人の尋問を申し出て、以下のとおり主張している。

(1)無効理由1
本件請求項1?12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、または甲第1号証および甲第2号証に開示された技術を組みあわせて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本件請求項1?12に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

(2)無効理由2
本件請求項1には、「コーテイングした後、80℃以下で乾燥させ、固化させ」が記載されており、これは、本願発明の詳細な説明には全く記載されていないものを含むので、特許法第36条第6項第1号の規定に違反し、登録を受けることができない。したがって、本件請求項1に係る発明は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とされるべきである。

(3)無効理由3
本件請求項1?12に係る各特許発明は、特許出願前の平成7年10月6日に開催された平成7年度佐賀県窯業技術センタ-研究会において、佐賀県窯業技術センター、部長、一ノ瀬弘道博士が発表された技術に基づいて、特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、本件請求項1?12に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

III-2.請求人の証拠方法
甲第1号証:特開平7-286114号公報
甲第2号証:特開平7-171408号公報
甲第3号証:特開平9-71418号公報(特願平7-248384号)
証人 :佐賀県窯業技術センタ-、部長 一ノ瀬 弘道


III-3.甲号各証の記載事項について
III-3-A.甲第1号証(特開平7-286114号公報)の記載
(A-1)「【請求項1】マトリックス成分としてペルオキソポリチタン酸を水および/または有機溶媒に溶解した状態で含有していることを特徴とする被膜形成用塗布液。・・・【請求項3】前記塗布液がさらに無機化合物微粒子を分散した状態で含有していることを特徴とする請求項1または2に記載の被膜形成用塗布液。」(特許請求の範囲第1項?第3項)
(A-2)「本発明では、次のような方法で製造されたペルオキソポリチタン酸が用いられる。a)水酸化チタンまたは酸化チタン水和物と過酸化水素とを反応させてペルオキソポリチタン酸を製造する方法、・・・上記方法a)についてさらに詳しく説明すると、下記の通りである。たとえば塩化チタン、硫酸チタンなどの無機チタン化合物またはチタンアルコキシドなどの加水分解性有機チタン化合物を加水分解する方法など、従来公知の方法で酸化チタン水和物のゲルまたはゾルを調製する。ここでいう酸化チタン水和物は、水酸化チタンおよびチタン酸を包含する。次いで、これらのゲルの分散液、ゾルまたはこれらの混合液に過酸化水素を加え、常温でまたは90℃以下に加熱するとペルオキソチタン酸の溶液が得られる。」(段落【0017】?【0019】)
(A-3)「本発明に係る塗布液は、上述したようなペルオキソポリチタン酸成分以外に無機化合物の微粒子を含有していてもよい。本発明に係る塗布液中に配合される無機化合物微粒子としては、具体的には、シリカ、チタニア、・・・が挙げられる。・・・本発明では、基材上に形成される被膜の機能に応じて、塗布液中に配合される無機化合物の微粒子の大きさと種類が選択され、1種または2種以上の無機化合物微粒子が塗布液中に配合される。」(段落【0029】?【0030】)
(A-4)「これらの微粒子は、通常、粉末またはゾルの状態で添加され、その配合量は、ペルオキソポリチタン酸(TiO2換算)1重量部当り0.5?10重量部、好ましくは1?8重量部であることが望ましい。」(段落【0034】)
(A-5)「被膜付基材 次いで、本発明に係る被膜付基材について具体的に説明する。本発明に係る被膜付基材は、以上のようにして得られた塗布液をスピナ-法などの塗布法でガラス、プラスティック、金属、セラミックス、半導体などの基材上に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を乾燥し、次いで必要に応じて焼成することによって得られる。」(段落【0036】)
(A-6)「加えて本発明によれば、被膜中に金属クラスタ-を含有させると、光触媒機能を有する被膜付基材が得られるという特長もある。」(段落【0050】)
(A-7)「【実施例1】四塩化チタン水溶液(TiCl4;酸化チタン濃度28重量%)160gを純水2000gで希釈した。この液に15%アンモニア水を230g添加して中和し、加水分解させゲルを生成させた。このゲルを洗浄したのち、再度純水に懸濁させ、TiO2濃度として2重量%のスラリ-1500gを調製した。このスラリ-に過酸化水素水(35%濃度)340gを添加し、80℃で1時間加熱することにより、透明な黄色のペルオキソポリチタン酸水溶液を得た。・・・また、この液を凍結乾燥した黄色粉末の赤外線吸収スペクトルを測定するとチタン金属にペルオキソ基の配位したことを示す強いピークが900cm-1付近に現れた。また、この凍結乾燥品のX線回折を行うとアナターゼ類似結晶を示した。上記のようにして得られたペルオキソポリチタン酸水溶液50gにメタノール50gを添加して塗布液を調製した。得られた塗布液をスピナ-法(200rpm)でガラスに塗布し、100℃で10分間乾燥した後、200℃で30分間熱処理を行った。」(段落【0052】?【0053】)

III-3-B.甲第2号証(特開平7-171408号公報)の記載
(B-1)「【請求項1】難分解性結着剤を介して光触媒粒子を基体上に接着させてなることを特徴とする光触媒体。・・・【請求項3】基体上に、結着剤からなる、光触媒粒子を含有しない第一層を設け、さらに、該第一層の上に、難分解性結着剤と光触媒粒子とからなる第二層を設けてなることを特徴とする請求項1に記載の光触媒体。【請求項4】第一層の結着剤が難分解性結着剤であることを特徴とする請求項3に記載の光触媒体。・・・【請求項6】光触媒粒子の量が、該光触媒粒子と難分解性結着剤との合量に対する容積基準で5?98%であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒体。【請求項7】難分解性結着剤がフッ素系ポリマ-および/またはシリコン系ポリマ-であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒体。・・・【請求項11】光触媒粒子が酸化チタンであることを特徴とする請求項1に記載の光触媒体。・・・【請求項15】基体上に光触媒粒子を含有しない結着剤を被覆し、次いで固化して、該基板上に結着剤からなる光触媒粒子を含有しない第一層を設け、さらに該第一層の上に難分解性結着剤と光触媒粒子とを配置させ、次いで固化して、難分解性結着剤と光触媒粒子とからなる第二層を設けてなることを特徴とする光触媒体の製造方法。」(特許請求の範囲請求項1?請求項15)
(B-2)「【発明が解決しようとする課題】近年、光触媒粒子を用いて日常の生活環境で生じる有害物質、悪臭物質や油分などを分解・浄化したり、殺菌したりする試みがあり、光触媒粒子の適用範囲が拡大している。これに伴い、光触媒粒子をあらゆる基体上に、その光触媒機能を損なうことなく、強固に、かつ、長期間にわたって接着させる方法が求められている。・・・」(段落【0003】)
(B-3)「【課題を解決するための手段】本発明者らは、光触媒粒子をあらゆる基体上に、その光触媒機能を損なうことなく、強固に、かつ、長期間にわたって接着させる方法を探索した結果、(1)結着剤を用いて光触媒粒子を基体上に接着させた場合、該光触媒粒子の光触媒機能により接着剤が分解・劣化し、該光触媒粒子が基体から脱離するが、難分解性結着剤を用いると、光触媒粒子をあらゆる基体上に脱離することなく接着できること、さらに、意外にも、本発明の光触媒体は十分な光触媒機能が得られること、(2)光触媒粒子を、該光触媒粒子と難分解性結着剤との合量に対する容積基準で5?98%とすることにより、得られる光触媒体の光触媒機能を低下せしめることなく接着できること、(3)難分解性結着剤としてフッ素系ポリマ-、シリコン系ポリマ-の有機系結着剤或いは無機系結着剤を用いると、光触媒粒子が持つ光触媒機能による結着剤の分解・劣化が極めて少なく、光触媒粒子を強固に、かつ、長期間にわたって接着することができること、・・・(4)光触媒粒子としては、高い光触媒機能を有し、化学的に安定であり、かつ、無害である酸化チタンが好ましいこと、(5)光触媒粒子を接着させる方法としては、・・・光触媒粒子と難分解性結着剤と溶媒とを含有させてなる塗料組成物を各種製品などの基体表面に塗布し或いは吹き付けて配置させ、次いで、固化することにより、各種製品の表面を比較的容易に光触媒体とすることができ、その光触媒機能を手軽に各家庭内でも活用することができることなどを見出し、本発明を完成した。」(段落【0004】)
(B-4)「すなわち、本発明は光触媒粒子をあらゆる基体上に、その光触媒機能を損なうことなく、強固に、かつ、長期間にわたって接着させた光触媒体を提供することにある。」(段落【0005】)
(B-5)「本発明は、難分解性結着剤を介して光触媒粒子を基体上に接着させた光触媒体である。本発明において、難分解性結着剤とは、光触媒粒子が持つ光触媒機能による分解の速度が極めて遅い結着剤であり、・・・」(段落【0006】)
(B-6)「・・・光触媒粒子の含有量は、該光触媒粒子と難分解性結着剤との合量に対する容積基準で5?98%が好ましい。光触媒粒子の量が前記範囲より小さいと光触媒体としたときの光触媒機能が低下し易いため好ましくなく、また、前記範囲より大きいと接着強度が低下し易いため好ましくない。難分解性結着剤としてセメントまたはセッコウを用いる場合には、光触媒粒子の含有量は5?40%、特に5?25%が好ましい。また、難分解性結着剤としてセメント、セッコウ以外の無機系結着剤或いは有機系結着剤を用いる場合には、光触媒粒子の含有量は好ましくは20?98%、より好ましくは50?98%、もっとも好ましくは70?98%である。」(段落【0007】)
(B-7)「さらに、本発明においては、基体上に、結着剤からなる、光触媒粒子を含有しない第一層を設け、さらに、該第一層の上に、難分解性結着剤と光触媒粒子とからなる第二層を設けることができる。光触媒粒子を含有しない第一層を設けることによって、基体と、光触媒粒子を含有した第二層との結びつきが強固になって、該光触媒粒子を基体上に、一層強固に、かつ、一層長期間にわたって接着させることができる。・・・」(段落【0011】)
(B-8)「本発明の光触媒体を製造するには、光触媒粒子と難分解性結着剤とを基体の少なくとも一部に配置させ、次いで、固化して、該基体上に難分解性結着剤を介して光触媒粒子を接着させる。本発明においては、特に、光触媒粒子と難分解性結着剤とを溶媒に分散させて・・・或いは吹き付けて、該光触媒粒子と該難分解性結着剤とを基体の少なくとも一部に配置させるのが好ましい。前記の溶媒としては、水や・・・などの有機溶媒を用いることができる。・・・」(段落【0012】)
(B-9)「基体に塗料組成物を塗布したり或いは吹き付けたりするには、例えば、含浸法、ディップコーティング法、・・・、或いは、スプレーコーティング法などの通常の方法で吹き付けたりして、基体の少なくとも一部に光触媒粒子と難分解性結着剤とを配置させることができる。なお、基体に該塗料組成物を塗布したり或いは吹き付けたりする前に、・・・難分解性結着剤を基体に塗布し或いは吹き付けたりして、光触媒粒子を含有しない第一層とし、さらに、該第一層の上に、該塗料組成物を塗布或いは吹き付けて、光触媒粒子と難分解性結着剤とからなる第二層を設けることができる。前記のようにして塗布或いは吹き付けた後、固化させて本発明の光触媒体を得る。固化は、乾燥したり、紫外線を照射したり、加熱したり、冷却したり、架橋剤を使用したりする方法で行なうことができが、固化の温度は、400℃より低い温度、好ましくは室温?200℃の温度で行う。この場合、400℃より高いと結着剤が熱劣化し、光触媒粒子が脱離し易くなるため好ましくない。・・・」(段落【0013】?【0014】)
(B-10)「硫酸チタニルを加水分解して得た酸性チタニアゾル(石原産業株式会社製、CS-N)に水酸化ナトリウムを加えpH7に調節した後濾過、洗浄を行なった。次いで、得られた酸化チタン湿ケーキ・・・110℃の温度で3時間乾燥させて酸化チタンを得た。」(段落【0016】)
(B-11)「本発明の光触媒体は、難分解性結着剤を介して光触媒粒子を基体上に接着させたものであって、その光触媒機能による結着剤の分解・劣化が極めて少なく、光触媒粒子をあらゆる基体上に、その光触媒機能を損なうことなく、強固に、かつ、長期間にわたって接着することができる。本発明の光触媒体の光触媒機能を利用して有害物質、悪臭物質、油分、・・・などを迅速、かつ、効率よく除去することができるので、工業用途ばかりでなく一般家庭用の脱臭体、殺菌体などとして極めて有用なものである。また、本発明の光触媒体は、長期間にわたって使用でき、安全性が高く、適応できる有害物質の範囲が広く、さらに、廃棄しても環境を汚さないため、産業的に極めて有用なものである。・・・また、本発明の光触媒体の製造方法は、プラスチックなどあらゆる材質のものを基体として用いることができ、しかも、簡便、かつ、容易に安定した品質の光触媒体を製造できるなど有用な方法である。さらに、本発明の塗料組成物は、あらゆる形状の基体や基体の必要箇所に塗布しあるいは吹き付けることができ、その光触媒機能を手軽に利用することができるなど、特に一般家庭用としても有用なものである。」(段落【0046】)

III-3-C.甲第3号証(特開平9-71418号公報)の記載
(C-1)「【請求項1】チタンを含む水溶液と塩基性物質から作製した水酸化チタンゲルに過酸化水素水を作用させ合成することを特徴とするチタニア膜形成用液体。【請求項2】請求項1の液体を80℃以上の加熱処理あるいはオートクレーブ処理することにより酸化チタン微粒子を生成させたチタニア膜形成用液体。【請求項3】請求項1あるいは請求項2の液体を、基体に塗布あるいは含浸させ、乾燥あるいは加熱処理して作製することを特徴としたチタニア膜。」(【特許請求の範囲】)
(C-2)「本発明は、チタン溶液と塩基性溶液から作製した水酸化チタンゲルに過酸化水素水を作用させ合成することを特徴とするチタニア膜形成用液体の製法、その液体を80℃以上の加熱処理することにより合成した酸化チタンを含む液体の製法及びそれらの液体を塗布乾燥あるいは加熱処理をして作製することを特徴とするチタニア膜に関するものである。本発明のチタニア膜は各種材料の保護被膜、光触媒、・・・などの分野に利用され得る。」(段落【0001】)
(C-3)「酸化チタン粉末の塗布法は簡単であるが、緻密で密着性良好な膜は得られ難く、合成温度が一般に高いため基体の種類にかなりの制限がある。・・・」(段落【0003】)
(C-4)「前述のような問題点を解決するために、本発明では以下のような全く新しい手段によってチタニア膜形成用の塗布液体を合成した。まず、塩化チタンや硫酸チタン水溶液とアンモニアや苛性ソーダ等のアルカリ溶液からオルトチタン酸と呼ばれる水酸化チタンゲルを沈殿させる。水を用いたデカンテーションによって水洗し、水酸化チタンゲルを分離する。さらに過酸化水素水を加え、余分な過酸化水素を分解除去することにより、請求項1の黄色の透明粘性液体を得ることができる。この液体は、後述するように、過酸化状態の水酸化チタンを含んでいると考えられ、市販のTiO2ゾルとは本質的に異なるものである。一方、請求項2の発明では、請求項1の液体を80℃以上で加熱処理を行うと結晶化した酸化チタンの超微粒子を含む液体は得られる。この液体は中性で、チタン、酸素及び水素以外の物質を含まないので、市販のTiO2ゾルとは本質的に異なるものである。これらの2つの液体を基体上に塗布乾燥、または低温で加熱処理することにより付着性に優れた緻密なチタニア膜を形成できる。また、1回の塗布で1μm以上のチタニア膜を剥離することなく密着性よく形成できる。」(段落【0008】)
(C-5)「チタン原料は安価で取扱が容易な硫酸塩や塩化物、しゅう酸塩等が好ましく、また、水酸化物の沈殿を起こす塩基性物質はアンモニア水、苛性ソーダ等が望ましい。反応によって副生する塩は安定で無害な塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムあるいは塩化アンモニウム等になるような組み合わせが、望ましい。・・・」(段落【0009】)
(C-6)「沈殿した水酸化チタン(オルトチタン酸と呼ばれる場合もある)はOH同志の重合や水素結合によって高分子化したゲル状態にあり、このままではチタニア膜の塗布液としては使用できない。このゲルに過酸化水素水を添加するとOHの一部が過酸化状態になりペルオキソチタン酸イオンとして溶解、あるいは高分子鎖が低分子に分断された一種のゾル状態になり、余分な過酸化水素は水と酸素になって分解し、チタニア膜形成用の粘性液体として使用ができるようになる。このゾルは、チタン以外に酸素と水素しか含まないので、乾燥や焼成によって酸化チタンに変化する場合に水と酸素しか発生しないため、ゾルゲル法や硫酸塩等の熱分解法に必要な炭素成分やハロゲン成分の除去が必要でなく、従来より低温でも比較的密度の高い結晶性のチタニア膜を作製することができる。また、pHは中性なので、使用における人体への影響や基体の腐食などを考慮する必要がない。さらに、過酸化水素はゾル化剤としてだけではなく安定化剤として働き、ゾルの室温域で安定性が極めて高く長期の保存に耐える。さらに、この液体を80℃以上に加熱すると酸化チタンの超微粒子が生成した液体に変性させることができる。80℃以下では十分にチタニアの結晶化が進まない。塗布乾燥あるいは加熱処理することにより、さらに低い温度で結晶性のチタニア膜を形成できるが、密着性を良くするためには200℃以上の処理温度が必要である。」(段落【0010】)
(C-7)「請求項1のチタニア膜形成用液体は、200℃未満でOH基を若干含む非晶質のチタニア膜、200℃以上では結晶性の緻密なチタニア膜を作製できる。これらの膜は耐酸性に優れ、各種の防蝕コーティングに利用できる。また、80℃以上の加熱処理をしたチタニア膜形成用液体は塗布するだけで結晶性のチタニア膜が形成できるため、加熱処理をできない材料のコーティング材として有用である。このような方法において、保護被膜や光触媒等種々の用途に利用可能であり、しかも比較的密度が高く密着性の良いものを比較的低温で得ることができる。」(段落【0012】)
(C-8)「基体はセラミックス、陶磁器、金属、プラスチック、・・・用途に応じた加熱処理に耐え得る素材であればあらゆるものにコーティング可能であり、・・・」(段落【0014】)
(C-9)「【実施例1】原料として四塩化チタン60%溶液5ccを蒸留水で500ccとした溶液にアンモニア水(1:9)を滴下し、水酸化チタンを沈殿させた。蒸留水で洗浄後、過酸化水素水30%溶液を10cc加えかき混ぜ、チタンを含む黄色粘性液体(ゾル溶液)70ccを作製することができた。過酸化水素を加えた直後は酸素が発生し発泡するが、余分な過酸化水素が分解した後は発泡がおさまり、常温常圧の下で6ヵ月たっても変化がなかった。pHは6.4で中性であった。基板として研磨したアルミナを用い、ゾル溶液に侵漬乾燥後、各種温度で熱処理した。1回の塗布で得られた膜の厚みは1μm程度であった。得られたチタニア膜の物性を次に示す。
熱処理温度(℃) 生成相 密度(%)
乾燥のみ 無定型
100 無定型
200 アナターゼ 71
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」(段落【0015】)
(C-10)「本発明の方法を使用することにより、安定なチタニア膜形成用溶液が作成可能であり、従来よりも比較的密度の高い密着性に優れた結晶性チタニア膜が低温で作成可能となる。また、本発明の液体は従来のTiO2ゾルとは本質的に異なるものであり、焼成によって有害な副生成物が出ず、中性なので取り扱いやすく、また、1回の塗布で1μm以上の緻密な膜を形成できるなど膜の作製工程上の利点が多数ある。このような利点のために、塗布法により酸化物膜を作製する上でこれまで問題になっていた原料液体の安定性やpH、低温合成等の課題を解決することができる。・・・」(段落【0021】)

III-3-D.証人尋問
証人の陳述は、録音テープの反訳の通りであることについて、証人、請求人及び被請求人の了承を得た。

IV.被請求人の求めた審決及び反論
「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると主張する。

(1)無効理由1について
本件特許発明における「アモルファス型過酸化チタンゾル」は、甲第1号証に開示も示唆もされておらず、また、かかる「アモルファス型過酸化チタンゾル」を用いた本件請求項1乃至3の特許発明は、あらゆる基板上に光触媒粒子を強固かつ長期間にわたって担持させることができるという当業者に予測できない優れた効果をそうするものであることから、甲第1号証の発明または甲第1号証の発明と甲第2号証の発明を組み合わせたとしても、本件請求項1?3の特許発明を容易に想到できないことは、明らかである。また、請求人は、『請求項4?12は、請求項1?3の従属項であるので、請求項4から12の特許発明も上述した理由により、特許されるべきものではない。(審判請求書第13頁第19?20行)』と主張しているが意味不明であり、本件特許請求項4?12は、本件特許請求項1?3の従属項であり、係る本件特許請求項1?3の特許発明が特許されるべきものであることは、上述のとおりであるから、本件請求項4?12の特許発明が特許されるべきものであることは明らかである。

(2)無効理由2について
本件特許公報の発明の詳細な説明の欄には、『前記のようにして塗布あるいは吹き付けたりしてコーティングした後、乾燥させ、固化させて本発明の光触媒体を得ることができるが(段落【0015】1?2行)』との記載や、乾燥温度を例示した『例えば80℃以下で乾燥固化させる。(段落【0015】9行)』との記載があり、また、参考例及び実施例において、常温?70℃で乾燥する例が開示されている。したがって、発明の詳細な説明に、「コーティングした後、80℃以下で乾燥させ、固化させて」という事項が記載されていることは明らかであり、本件特許発明は、特許法第36条第6項第1号の要件を具備するものであることは明らかである。

(3)無効理由3について
平成7年10月6日に、平成7年度佐賀県窯業技術センタ-研究会が開催されたこと自体明らかでなく、また仮に開催されていたとしても、その研究会で発表された技術内容の概要すら明らかにされておらず、本件特許発明との関係も明らかでない。また、その研究会が公開性を有していたことも明らかでない。さらに、様々な研究会で種々の研究発表をされている一ノ瀬博士が、10年以上も前に開催された一研究会での発表内容を正確に記憶しているということは到底考えることができない。上記のように、証人尋問を行う意義が明らかでなく、証人尋問を行う必要はない。

V.当審の判断
V-1.無効理由2(特許法第36条第6項第1号)について
本件請求項1は、「光触媒を基体に担持固定してなる光触媒体の製造方法であって、光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コ-ティングした後、80℃以下で乾燥させ、固化させて得たことを特徴とする光触媒体の製造法。」と記載されている。
そこで、前記本件請求項1の「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、80℃以下で乾燥させ、固化させて得たことを特徴とする光触媒体の製造法」の記載が、本件特許明細書の詳細な説明に記載された事項の範囲内のものであるか否かにつき検討する。
本件特許明細書の詳細な説明には、
「・・・アモルファス型の過酸化チタンのゾルを100℃以上で加熱すると、アナターゼ型酸化チタンゾルになり、アモルファス型過酸化チタンゾルを基体にコ-ティング後乾燥固定したものは、250℃以上の加熱によりアナターゼ型酸化チタンになる。」(段落【0007】)、
「ゾル状の酸化チタン、すなわち酸化チタンゾルは、上記のように、アモルファス型過酸化チタンゾルを100℃以上の温度で加熱することにより製造できるが、酸化チタンゾルの性状は加熱温度と加熱時間とにより多少変化し、例えば100℃で6時間処理により生成するアナターゼ型の酸化チタンゾルは、pH7.5?9.5、粒子径8?20nmであり、その外観は黄色懸濁の液体である。・・・」(段落【0009】)、
「前記のようにして塗布あるいは吹き付けたりしてコ-ティングした後、乾燥させ、固化させて本発明の光触媒体を得ることができるが、200℃?400℃前後で焼結して固化担持させることもできる。・・・なお、アモルファス型過酸化チタンゾルを第一層として用いる場合は、250℃以上に加熱すると、アナタ-ゼ型酸化チタンの結晶となり光触媒機能が生じるので、それよりも低温、例えば80℃以下で乾燥固化させる。・・・」(段落【0015】)、
「参考例2(アモルファス型過酸化チタンゾルからの酸化チタンゾルの製造)上記アモルファス型過酸化チタンゾルを100℃で加熱すると、3時間程度経過後にアナターゼ型酸化チタンが生じ、6時間程度加熱するとアナターゼ型酸化チタンゾルが得られる。・・・」(段落【0024】)、
「参考例3 アモルファス型過酸化チタンゾルと酸化チタンゾルとの混合比による有機物質の分解試験を次のようにして行った。基板には、・・・ケラミット化粧板(株式会社クレ-・バーン・セラミックス製)を使用した。この基板に各種混合割合の混合ゾルを厚さ約2μmにスプレ-法によりコ-ティングし、常温から70℃で乾燥後、約400℃で30分間焼結し、基板上に光触媒を担持した5種類の光触媒体を得た。・・・」(段落【0025】)、
「実施例1 基体として、アクリル樹脂板とメタクリル樹脂板を用いた。これらの樹脂板を、80℃の2%水酸化ナトリウム溶液に30分間浸漬し水洗後乾燥する。この樹脂板に、第一層として、参考例1で作った過酸化チタンゾルに界面活性剤を0.5%添加したものを、ディッピングにて3?4回塗布した。乾燥は70℃で10分間行った。第二層として、参考例3と同様5種類のアモルファス型過酸化チタンゾルと酸化チタンゾルの配合割合のものをディッピングにて3?4回塗布した。乾燥・固化は、アクリル樹脂板で120℃で3分間、メタクリル樹脂板は乾燥機の温度が119℃へ上昇したところで終了した。光触媒機能は参考例3と同様の結果であったが、樹脂板への付着力及び光触媒による樹脂板の難分解等においては、第一層を設けた方が格段に優れていた。」(段落【0026】)、
「参考例4 基体として、・・・光触媒組成物としては、・・・参考例1で作った過酸化チタンゾル(pH6.4)50部に、酸化チタン粉末「ST-01」(石原産業株式会社製)1部を加え約15分間機械攪拌した後、ダマを作らないように超音波を用いて攪拌したものを用いた。毎秒0.3?0.5cmの速さでディッピングし、30℃で一晩乾燥した。このものを400℃で30分間焼成して光触媒体を製造した。・・・」(段落【0027】)、
「参考例5 ・・・このフロ-トガラスにガラスビーズを固定したものに、参考例4で使用した光触媒組成物をコーティングし乾燥後、400℃で30分間焼成して光触媒体を製造した。・・・」(段落【0028】)、
「参考例6 アモルファス型過酸化チタンゾルに、蓄光型紫外線放射材「キプラス」(商品名 株式会社ネクスト・アイ)を、ゾル中の過酸化チタンに対し25重量%の割合で混合、攪拌し、基体としてのケラミット化粧板に吹き付け、常温乾燥し、400℃で30分間焼成処理し、・・・酸化チタンゾルを1μmの厚みになるように吹き付け乾燥後、40℃で30分間焼成する。・・・」(段落【0029】)等が記載される。
以上の記載から、アモルファス型過酸化チタンのゾルを100℃以上で加熱すると、アナターゼ型酸化チタンゾルになること、また、このアモルファス型過酸化チタンゾルを基体にコーティング後乾燥固定したものは、250℃以上の加熱によりアナターゼ型酸化チタンになること、アモルファス型過酸化チタンゾルを第一層として用いる場合は、250℃以上に加熱すると、アナターゼ型酸化チタンの結晶となり光触媒機能が生じるので、それよりも低温、例えば80℃以下で乾燥固化させること、アモルファス型過酸化チタンゾルと酸化チタンゾルとの混合物を基板に塗布した後、常温から70℃で乾燥、30℃で一晩乾燥、または基板上にアモルファス型過酸化チタンゾルを塗布した後、第二層にアモルファス型過酸化チタンゾルと酸化チタンゾルの混合液を塗布した後、基板がアクリル樹脂板の場合は、120℃で、メタクリル樹脂板は、乾燥機の温度が119℃へ上昇したところで終了すること、等が示されていると云える。
しかしながら、上記した本件請求項1の「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コ-ティングした後、80℃以下で乾燥させ、固化させ」について、本件特許明細書の詳細な説明には、上記指摘箇所によれば「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コ-ティングした後、常温から70℃で乾燥して固化させること」または、「30℃で一晩乾燥、固化する」ことしか記載されていず、これらの記載から本件特許明細書の詳細な説明には、「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コ-テイングした後、常温?70℃で乾燥、固化させること」が記載されていると云えるが、「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コ-ティングした後、70℃を越え80℃以下で乾燥、固化させること」の記載もないし、示唆もされていない。
なお、本件特許明細書の詳細な説明には、「なお、アモルファス型過酸化チタンゾルを第一層として用いる場合は、250℃以上に加熱すると、アナタ-ゼ型酸化チタンの結晶となり光触媒機能が生じるので、それよりも低温、例えば80℃以下で乾燥固化させる。」(段落【0015】)と記載されているが、この「80℃以下で乾燥固化させる。」という記載は、第1層にアモルファス型過酸化チタンゾルを用いる場合、その第一層に光触媒機能を持たせないために、光触媒機能を有させない乾燥温度である250℃よりも低い温度の例として、「80℃以下で乾燥固化させる」と述べているものにずぎず、「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、80℃以下で乾燥、固化させる」という記載の裏付けとなる記載ではない。そしてこの点についてさらに云えば、実施例1の「基体の第1層にアモルファス型過酸化チタンゾルを用い、第2層に光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとの混合液を用いて塗布した場合の乾燥温度は、基体がアクリル樹脂板の場合は、120℃で、メタクリル樹脂板の場合は、119℃で乾燥、固化」(段落【0026】)しており、これらの乾燥温度は、「80℃以下」ではなく、第1層のアモルファス型過酸化チタンゾルに光触媒機能を持たせないための温度であり、つまり250℃よりも低温でありさえすればよいことがわかり、これらからみても前記「80℃以下で乾燥固化させる」(【0015】段落)ことは、第一層のアモルファス型過酸化チタンゾルに光触媒機能を持たせないための250℃よりも低い温度の一例であることは、明らかであり、本件請求項1に記載の「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、80℃以下で乾燥させ、固化させ」ることの根拠にはなり得ない。
したがって、本件請求項1に記載の「光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、80℃以下で乾燥させ、固化させ」について、本件明細書の詳細な説明に、何ら記載されていないし、示唆もされていない。
以上のとおり、本件請求項1の上記記載は、本件特許明細書の詳細な説明での裏付けを欠き、本件特許明細書の詳細な説明に記載されたものであるとは云えない。
そうであれば、本件請求項1は、本件特許明細書の詳細な説明には全く記載されていないものを含むので、特許法第36条第6項第1号の規定により、特許を受けることができない。

V-2.無効理由1(特許法第29条第2項)について
(1)本件特許発明1について
甲第1号証の摘示事項(A-1)から、「マトリックス成分としてペルオキソポリチタン酸を被膜形成用塗布液」とすること、摘示事項(A-3)から「本発明に係る塗布液は、上述したようなペルオキソポリチタン酸成分以外に無機化合物の微粒子を含有してもよい」こと、「本発明に係る塗布液中に配合される無機化合物微粒子として、チタニアを用いる」ことおよび「基材上に形成される被膜の機能に応じて、塗布液中に配合される無機化合物の微粒子の大きさと種類が選択される」ことが記載されている。さらに摘示事項(A-5)から「本発明に係る被膜付基材は、以上のようにして得られた塗布液を基材上に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を乾燥」することが記載されている。
これらの記載を本件特許発明1の記載振りに則して表すと、甲第1号証には、
「基材上にチタニアが配合されたペルオキソポリチタン酸液を塗布し、この塗膜を乾燥させて機能性被膜を形成する製造方法」の発明(以下、「甲第1発明」という。)が記載されていると云える。
ここで、本件特許発明1と甲第1発明とを対比すると、後者の「基材」、「塗布」は、それぞれ前者の「基体」、「コ-ティング」に相当する。また、甲第1発明の「チタニア」は本件特許発明1の「光触媒」に相当することは明白であるから、甲第1発明においても、「光触媒を基体に担持固定してなる光触媒体を製造している」と云える。更に、本件特許発明1の「アモルファス型過酸化チタン」と甲第1発明の「ペルオキソポリチタン酸液」は、共に「過酸化チタン液」の概念に含まれる。
したがって、本件特許発明1と甲第1発明とは、「光触媒を基体に担持固定してなる光触媒体の製造法であって、光触媒と過酸化チタン液とを混合し、コーテイングした後、乾燥させてなる光触媒体の製造法」の点で一致するが、以下の点で相違する。
相違点1:該「過酸化チタン液」が、本件特許発明1では、「アモルファス型過酸化チタンゾル」であるのに対し、甲第1発明では「ペルオキソポリチタン酸液」である点で相違する。
相違点2:本件特許発明1は、「80℃以下で乾燥、固化させて得た」のに対し、甲第1発明では、「乾燥させて機能性被膜を形成する」点で相違する。

次に相違点について検討する。
1)相違点1について
まず、本件特許発明1の「アモルファス型過酸化チタンゾル」と甲第1発明の「ペルオキソポリチタン酸液」について検討する。
甲第1号証の摘示事項(A-2)から「本発明では、次のような方法で製造されたペルオキソポリチタン酸が用いられる。a)水酸化チタンまたは酸化チタン水和物と過酸化水素とを反応させてペルオキソポリチタン酸を製造する方法、・・・上記a)についてさらに詳しく説明すると、下記の通りである。たとえば塩化チタン、・・・を加水分解する方法など、従来公知の方法で酸化チタン水和物のゲルまたはゾルを調製する。ここでいう酸化チタン水和物は、水酸化チタンおよびチタン酸を包含する。次いで、これらのゲルの分散液、ゾルまたはこれらの混合液に過酸化水素を加え、常温でまたは90℃以下に加熱するとペルオキソチタン酸の溶液が得られる。」および摘示事項(A-7)には、「四塩化チタン水溶液(TiCl4;酸化チタン濃度28重量%)160gを純水2000gで希釈した。この液に15%アンモニア水を230g添加して中和し、加水分解させゲルを生成させた。このゲルを洗浄したのち、再度純水に懸濁させ、TiO2濃度として2重量%のスラリ-1500gを調製した。このスラリ-に過酸化水素水(35%濃度)340gを添加し、80℃で1時間加熱することにより、透明な黄色のペルオキソポリチタン酸水溶液を得た。・・・得られた塗布液をスピナ-法(200rpm)でガラスに塗布し、100℃で10分間乾燥した」ことが記載されている。これらの記載からして、「四塩化チタン水溶液にアンモニア水を加えて加水分解させゲルを生成させ、純水を加えて、スラリ-にし、過酸化水素水を添加して、80℃で1時間加熱して透明な黄色のペルオキソポリチタン酸水溶液を得る」ことが記載されていると云える。
これに対して、本件特許発明1の「アモルファス型過酸化チタンゾル」について、本件特許明細書の詳細な説明では、段落【0006】から「本発明において用いられるアモルファス型過酸化チタンゾルは、・・・四塩化チタンTiCl4のようなチタン塩水溶液に、アンモニア水ないし水酸化ナトリウムのような水酸化アルカリを加える。生じる淡青味白色、無定型の水酸化チタンTi(OH)4はオルトチタン酸H4TiO4とも呼ばれ、この水酸化チタンを洗浄・分離後、過酸化水素水で処理すると、本発明のアモルファス形態の過酸化チタン液が得られる。このアモルファス型過酸化チタンゾルは、・・・その外観は黄色透明の液体であり、・・・」及び段落【0023】から「参考例1(アモルファス型過酸化チタンゾルの製造) 四塩化チタンTiCl4の50%溶液(住友シティクス株式会社)を蒸留水で70倍に希釈したものと、水酸化アンモニウムNH4OHの25%溶液(高杉製薬株式会社)を蒸留水で10倍に希釈したものとを、容量比7:1に混合し、中和反応を行う。中和反応後pHを6.5?6.8に調整し、しばらく放置後上澄液を捨ててゲルのみを残す。場合によっては遠心分離により脱水処理を行うことができる。この淡青味白色のTi(OH)43600mlに、35%過酸化水素水210mlを30分間毎2回に分けて添加し、約5℃で一晩攪拌すると黄色透明のアモルファス型過酸化チタンゾル約2500mlが得られる。」が記載されている。これらの記載からして、「四塩化チタン水溶液に水酸化アンモニウム溶液を混合し中和反応後、pHを6.5?6.8に調整し、しばらく放置後上澄液を捨ててゲルのみを残し、過酸化水素水を添加し、約5℃で一晩攪拌すると黄色透明のアモルファス型過酸化チタンゾルを得た。」ことが記載されていると云える。
両者の製造方法を比較検討すると、甲第1号証の「アンモニア水」は、本件特許明細書の詳細な説明に記載の「水酸化アンモニウム」に相当する。
そうすると、甲第1号証と本件特許明細書の詳細な説明に記載されたものとは、四塩化チタン水溶液に水酸化アンモニウム溶液で中和後、pH調整している点と、過酸化水素水を添加した後の処理の点で相違する。
しかしながら、本件特許明細書の詳細な説明における中和後、pH調整を6.5?6.8になるようにすることに関して、本件特許明細書の詳細な説明の段落【0023】の参考例1に「・・・中和反応後pHを6.5から6.8に調整し、しばらく放置後上澄液を捨てる。残っTi(OH)4のゲル・・・」のみ記載されているのみで、中和反応後pHを6.5?6.8にしなければ成らない理由など特に記載されているわけでもなく、そして、この調整した後の生成物は、甲第1号証と同じ、水酸化チタンを形成しており、甲第1号証も、水酸化チタンを四塩化チタン水溶液に水酸化アンモニウム溶液で中和反応を行って得ているわけであるから、当然、pHが7付近にあり、実質的に差異があるとは云えない。また、過酸化水素水を添加後の処理については、約5℃で一晩攪拌するか、80℃で1時間加熱するかは、反応を短時間ですませるためには、加熱すればよく、熟成させるためには、低温で時間をかければよいことは、この技術分野において当業者がよく行う普通のことである。
したがって、これらの相違点1は、違う生成物を製造するほどの差であるとは、認めることができず、両者は表現方法が違うが製造方法が相違しない方法から製造されているため同じものができていると云える。

2)相違点2について
甲第1号証には、摘示事項(A-5)から、「基材上に塗布液を塗布後、乾燥させる」こと及び摘示事項(A-7)から、「塗布液をガラスに塗布した後、100℃で10分間乾燥」することが記載されている。甲第1発明と本件特許発明1とは、乾燥温度の点で相違するが、乾燥温度は、被膜における機能性を壊さない程度であれよく、且つ低温であればある程、低エネルギーで製造できることから、この分野において、できる限り低温で乾燥することは常套手段である。また、本件特許発明1において、「固化させ」と記載されているが、本件特許明細書の詳細な説明において特別な処理を行っているわけではなく、乾燥させると、塗膜が乾燥後、固まる現象を固化と云っているにすぎない。

被請求人は、本件特許発明1の「アモルファス型過酸化チタンゾル」と甲第1発明の「ペルオキソポリチタン酸」とは、異なる物質であり、つまり本件特許発明1は、「アモルファス」であり、かつ「ペルオキソチタン酸の重合体」でない点で、甲第1発明の物質と相違する旨主張している。これに対し、本件出願前の出願であり、本件公開後に公開された甲第3号証の摘示事項(C-6)によれば、「沈殿した水酸化チタン(オルトチタン酸と呼ばれる場合もある)はOH同志の重合や水素結合によって高分子化したゲル状態にあり、このままではチタニア膜の塗布液としては使用できない。このゲルに過酸化水素水を添加するとOHの一部が過酸化状態になりペルオキソチタン酸イオンとして溶解、あるいは高分子鎖が低分子に分散された一種のゲル状態にな」ることが記載されている。一方、本件特許明細書の詳細な説明の段落【0006】には、「本発明において用いられるアモルファス型過酸化チタンゾルは、例えば次のようにして製造することができる。・・・水酸化チタンTi(OH)4はオルトチタン酸H4TiO4とも呼ばれ、この水酸化チタンを洗浄・分離後、過酸化水素水で処理すると、本発明のアモルファス形態の過酸化チタン液が得られる。」の記載から、本件特許発明1も「水酸化チタンに過酸化水素水で処理してアモルファス型過酸化チタンゾルを得ている。そうすると、本件特許発明1の「アモルファス型過酸化チタンゾル」は、甲第3号証に記載の「高分子化したゲル状態の水酸化チタンに過酸化水素水を添加して、ペルオキソチタン酸、高分子鎖が低分子に分散された状態」であるから、甲第1発明の「ペルオキソチタン酸の重合体」であると云える。また、甲第3号証における摘示事項(C-6)によれば、「80℃以上に加熱すると酸化チタンの超微粒子が生成した液体に変性させることができる。80℃以下では、十分にチタニアの結晶化が進まない。塗布乾燥あるいは加熱処理することにより、さらに低い温度で結晶性のチタニア膜を形成できるが、密着性を良くするためには200℃以上の処理温度が必要である。」及び摘示事項(C-9)によれば、「水酸化チタンに過酸化水素水を添加して得られたゾル液に基板を侵漬乾燥して生成されたチタニア膜と、乾燥後100℃で熱処理したチタニア膜との物性は、無定型であり、200℃で熱処理したものは、アナターゼを形成している」ことが甲第3号証に記載されている。これらの記載から、80℃以上では、チタニアの超微粒子が生成した液体に変性し、80℃以下では十分なチタニアの結晶が進まないことと、基板に塗布した後、乾燥しただけ、熱処理したとしても100℃であれば、無定型であり、200℃に熱処理するとアナターゼ型になることがわかる。このことに鑑みながら、甲第1号証の記載をみてみると、甲第1号証の摘示事項(A-7)に、「水酸化チタンに過酸化水素水を添加し、80℃で1時間加熱している」と記載されていることからして、チタニアの微結晶が生成するか否かは不明確な状態であるということができる。また同じく、摘示事項(A-7)に「凍結乾燥品のX線回折を行うとアナターゼ類似結晶を示した。」と記載されていることからして、明確にアナターゼ結晶ができているとは云えない状態であるということができる。これらのことから、甲第1号証の「ペルオキソポリチタン酸」は、アナターゼ型の結晶が生成するか否かの状態であり、言い換えれば、大部分がアモルファス型の状態であると云え、本件特許発明1の「アモルファス型」に相当する。また、被請求人は、甲第1号証は、乾燥後焼成することが必須構成要件であると主張しているが、摘示事項(A-5)の「この塗膜を乾燥し、次いで必要に応じて焼成することによって得られる。」との記載から、必要があれば焼成し、必要がなけば焼成しなくてもよいという記載であるから、上記被請求人の主張は失当である。
そうであれば、甲第1号発明において、当該相違点2に係る特定事項を具備するようにすることは、当業者が困難なく適宜なし得ることに過ぎない。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)本件特許発明2について
甲第2号証の摘示事項(B-1)の【請求項15】には、「基体上に光触媒粒子を含有しない結着剤を被覆し、次いで固化して、該基体上に結着剤からなる光触媒粒子を含有しない第一層を設け、さらに該第一層の上に難分解性結着剤と光触媒粒子とを配置させ、次いで固化して、難分解性結着剤と光触媒粒子とを配置させ、次いで固化して、難分解性結着剤と光触媒粒子とからなる第二層を設けてなることを特徴とする光触媒体の製造方法。」が記載されている。また摘示事項(B-1)の【請求項4】には、「第一層の結着剤が難分解性結着剤であること」が記載されている。
これらの記載を本件特許発明2の記載振りに則して表すと、
甲第2号証には、
「基体上に、光触媒粒子を含有しない難分解性結着剤からなる第一層を設け、該第一層の上に、難分解性結着剤と光触媒粒子とからなる第二層を設けてなる光触媒体の製造方法」の発明(以下、甲第2発明」という。)が記載されていると云える。
ここで、本件特許発明2と甲第2発明とを対比すると、後者の「光触媒粒子」は、前者の「光触媒」に相当する。
また、甲第2号証の「難分解性結着剤」は、摘示事項(B-1)及び(B-3)から「フッ素系ポリマ-および/またはシリコン系ポリマーである」と云える。一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、段落【0011】から「本発明において、光触媒によって分解されない結着剤とは、・・・フッ素系ポリマ-、シリコン系ポリマ-等の有機系、からなる光触媒によって分解されにくい結着剤を意味する」ことが記載されている。そうすると、甲第2発明の「難分解性結着剤」は、本件特許発明2の「光触媒によって分解されない結着剤」に相当する。
したがって、本件特許発明2と甲第2発明とは、「基体上に、光触媒によって分解されない結着剤からなる第一層を設け、該第一層の上に、光触媒との混合物を用いて調製した第二層を設けることを特徴とする光触媒体の製造方法」である点で一致するが、以下の点で相違する。
相違点1:第二層に用いる光触媒と混合する化合物として、本件特許発明2は、「アモルファス型過酸化チタンゾル」であるのに対し、甲第2発明では、「難分解性結着剤」である点で相違する。
この相違点1について、以下に検討する。
甲第1号証には、摘示事項(A-1)、(A-3)より、「基材上にチタニア被膜を形成するために、ペルオキソポリチタン酸をマトリックスとして用いること」が記載されている。そして、甲第1号証で記載の「ペルオキソポリチタン酸」について、前記「V-2.(1)」で記載したように甲第3号証の摘示事項(C-6)の「水酸化チタン(オルトチタン酸と呼ばれる場合もある)はOH同志の重合や水素結合によって高分子化したゲル状態にあり、・・・このゲルに過酸化水素水を添加するとOHの一部が過酸化状態になりペルオキソチタン酸イオンとして溶解、あるいは高分子鎖が低分子に分散された一種のゲル状態になる」ことの記載および本件特許明細書の詳細な説明の段落【0006】によれば、「水酸化チタンはオルトチタン酸とも呼ばれ、この水酸化チタンを過酸化水素水で処理すると本発明のアモルファス型過酸化チタンゾルが得られる」ことの記載から、甲第1号証の「ペルオキソポリチタン酸」は、「アモルファス型過酸化チタンゾル」であると云える。そうすると、甲第1号証には、「基材上にチタニア被膜を形成するために、アモルファス型過酸化チタンゾルをマトリックスとして用いること」が実質的に記載されていると云える。さらに、甲第2号証には、「光触媒」が「酸化チタン」であることも記載されている。
してみると、基板上にチタニア被膜、つまり光触媒被膜を形成するために、アモルファス型過酸化チタンゾルを塗布液として用いることは、甲第1号証に記載されるように公知技術であるから、本件特許発明2は、この光触媒被膜を形成するための塗布液として甲第2発明の「難分解性結着剤」にかえてこの公知技術を用いたにすぎず、当業者が容易になし得ることである。
したがって、本件特許発明2は、甲第2号証及び甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3)本件特許発明3について
上記「V-2.(2)」の記載より、甲第2発明は、「基体上に、光触媒粒子を含有しない難分解性結着剤からなる第一層を設け、該第一層の上に、難分解性結着剤と光触媒粒子とからなる第二層を設けてなる光触媒体の製造方法」の発明である。
ここで、本件特許発明3と甲第2発明とを対比すると、後者の「光触媒粒子」は、前者の「光触媒」に相当する。
したがって、本件特許発明3と甲第2発明とは、「基体上に、光触媒粒子を含有しない塗布液を用いて第一層を設け、該第一層の上に光触媒と塗布液との混合物を用いて調製した第二層を設けることを特徴とする光触媒体の製造法」である点で一致するが、以下の点で相違する。
相違点1:第一層および第二層に用いる塗布液として、本件特許発明3は、「アモルファス型過酸化チタンゾル」であるのに対し、甲第2発明では、「難分解性結着剤」である点で相違する。
この相違点1について、上記「V-2.(2)」と同様に、甲第1号証には、摘示事項(A-1)、(A-3)より、「基材上にチタニア被膜を形成するために、ペルオキソポリチタン酸をマトリックスとして使用すること」が記載されいる。そして、甲第1号証の「ペルオキソポリチタン酸」は、前記「V-2.(1)」および「V-2.(2)」で記載したように甲第3号証の段落摘示事項(C-6)の「水酸化チタン(オルトチタン酸と呼ばれる場合もある)はOH同志の重合や水素結合によって高分子化したゲル状態にあり、・・・このゲルに過酸化水素水を添加するとOHの一部が過酸化状態になりペルオキソチタン酸イオンとして溶解、あるいは高分子鎖が低分子に分散された一種のゲル状態になる」ことの記載および本件特許明細書の詳細な説明の段落【0006】によれば、「水酸化チタンはオルトチタン酸とも呼ばれ、この水酸化チタンを過酸化水素水で処理すると本発明のアモルファス型過酸化チタンゾルが得られる」ことの記載から、「アモルファス型過酸化チタンゾル」であると云える。そうすると、甲第1号証には、「基材上にチタニア被膜を形成するために、アモルファス型過酸化チタンゾルを用いること」が実質的に記載されていると云える。さらに、甲第2号証の「光触媒」は、摘示事項(B-1)より「酸化チタン」であることが記載されている。
したがって、酸化チタンの被膜、すなわち光触媒被膜を形成するための塗布液として、アモルファス型過酸化チタンゾルを用いることは甲第1号証から、公知技術であるから、本件特許発明3は、基材上に光触媒被膜を形成するための塗布液として甲第2発明の「難分解性結着剤」にかえてこの公知技術を用いたにすぎず、当業者が容易になし得ることである。
よって、本件特許発明3は、甲第2号証および甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)本件特許発明4について
本件特許発明4は、「光触媒として、酸化チタン粒子又は酸化チタン粉末を用いて調製したものであること特徴とする請求項1?3のいずれか記載の光触媒体の製造法」である。
甲第2号証の摘示事項(B-1)には、「光触媒粒子が酸化チタンである」ことが記載されており、これは、本件特許発明の「光触媒として、酸化チタン粒子または酸化チタン粉末」に相当する。
したがって、本件特許発明4は、甲第2号証および甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(5)本件特許発明5について
本件特許発明5は、「光触媒として、酸化チタンゾルを用いて調製したものであることを特徴とする請求項1?3のいずれか記載の光触媒体の製造方法。」であり、「光触媒」として、「酸化チタンゾル」を用いるものである。
甲第2号証には、摘示事項(B-1)の「光触媒粒子が酸化チタンである」こと及び摘示事項(B-10)の「硫酸チタニルを加水分解して得た酸性チタニアゾル(石原産業株式会社製、CS-N)に水酸化ナトリウムを加えpH7に調節した後濾過、洗浄を行なった。次いで、得られた酸化チタン湿ケーキ・・・110℃の温度で3時間乾燥させ酸化チタンを得た。」が記載されている。「この酸化チタンを乾燥する前のもの」は酸化チタンゾルに相当するものであり、この「酸化チタンゾル」を光触媒として用いることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計変更にすぎない。
したがって、本件特許発明5は、甲第2号証および甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(6)本件特許発明6について
本件特許発明6は、「酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを30重量%以下の割合で混合した混合ゾルを用いることを特徴とする請求項5記載の光触媒体の製造法。」である。
この本件特許発明6の「酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを30重量%以下の割合で混合した混合ゾルを用いること」に関して、甲第1号証では、摘示事項(A-3)より「無機化合物微粒子としてチタニア」が挙げられており、また配合割合に関しては摘示事項(A-4)の「これらの微粒子は、通常、粉末またはゾルの状態で添加され、その配合量は、ペルオキソポリチタン酸(TiO2換算)1重量部当り0.5?10重量部、好ましくは1?8重量部であることが望ましい。」が記載されている。これらの記載から、「ペルオキソポリチタン酸(TiO2換算)1重量部当り無機化合物微粒子が0.5重量部」のとき、無機化合物微粒子とペルオキソポリチタン酸との合量に対して無機化合物微粒子の割合は、計算すると「33重量%」になり、本件特許発明6の「30重量%以下」を満たさない。そして、無機化合物微粒子が「0.5重量部以上」になると、前記の合量に対して無機化合物微粒子の割合は、当然「33重量%」より大きくなる。さらに、甲第1号証には、「ペルオキソポリチタン酸水溶液(2重量%)」(【0063】、【0075】)と記載されているが、「無機化合物微粒子ゾルの濃度」、および「ペルオキソポリチタン酸ゾル濃度」に関する点について何ら記載がなく、示唆もされていない。
次に、甲第2号証には、摘示事項(B-6)から「・・・光触媒粒子の含有量は、該光触媒粒子と難分解性結着剤との合量に対する容積基準で5?98%が好ましい。光触媒粒子の量が前記範囲より小さいと光触媒体としたときの光触媒機能が低下し易いため好ましくなく、また、前記範囲より大きいと接着強度が低下し易いため好ましくない。難分解性結着剤としてセメントまたはセッコウを用いる場合には、光触媒粒子の含有量は5?40%、特に5?25%が好ましい。また、難分解性結着剤としてセメント、セッコウ以外の無機系結着剤或いは有機系結着剤を用いる場合には、光触媒粒子の含有量は好ましくは20?98%、より好ましくは50?98%、もっとも好ましくは70?98%である。」と記載されているが、これは、本件特許発明6の「酸化チタンゾル濃度」および「アモルファス型過酸化チタンゾル濃度」に関する記載および示唆がなされていないために、「その酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対する酸化チタンゾルの重量%」を比較することができない。
したがって、甲第1号証及び甲第2号証には、本件特許発明6の「酸化チタンゾル濃度」及び「アモルファス型過酸化チタンゾル濃度」に関する点について記載がなく、示唆もされていなし、これらのゾル濃度を用いた「酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを30重量%以下」であることの記載もないし、示唆もされていない。
また、本件特許明細書の段落【0013】には、「前記の酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、混合ゾルを調製する。両者の混合割合は、本発明の光触媒体が適用される製品部位や機器の使用条件により決定されるが、その際、該混合ゾルを用いて調製された光触媒体の基体への付着性、成膜性、耐食性、化粧性等が考慮される。そして、概略次の3つの区分に分けることができる。▲1▼人が接触する、もしくはその可能性が高く、視覚的にも化粧性を必要とする、例えば、内装タイル、衛生陶器、各種ユニット製品、食品、建築内外装材、自動車内装材等。・・・酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを30重量%以下の割合で混合した混合ゾルを用いて製膜した光触媒体が好適であり、これを用いた製品は、日常生活における殺菌や汚染防止、残留臭気分解には十分であり、かつ、膜表面は硬く、掃除等による磨耗や雑物の付着がなく、接触による指紋等も付きにくことがわかった。」ということが記載されているが、甲第1号証及び甲第2号証には、使用対象によって光触媒の濃度割合を変えるということに関する点について記載がなく、示唆もされていない。そして、本件特許発明6は、酸化チタンゾル、アモルファス型過酸化チタンゾルおよび両者の混合割合を前述のようにすることにより、上述に記載のように人が接触する、もしくはその可能性が高く、視覚的にも化粧性を必要とする製品への適用が可能になるという格別優れた効果を有するものである。
したがって、本件特許発明6は、甲第2号証および甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許を受けることができないとは云えない。

(7)本件特許発明7について
本件特許発明7は、「酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを20?80重量%の割合で混合した混合ゾルを用いることを特徴とする請求項5記載の光触媒体の製造法。」である。
本件特許発明7の「酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを20?80重量%の割合で混合した混合ゾルを用いること」に関して、上述の「V-2.(6)」と同様に甲第1号証及び甲第2号証には、「酸化チタンゾル濃度」および「アモルファス型過酸化チタンゾル濃度」に関する点について何ら記載がなく、示唆もされておらず、そして両者の混合割合に関する点についても記載がなく、示唆もされていない。
また、本件特許明細書の段落【0013】には、「前記の酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、混合ゾルを調製する。両者の混合割合は、本発明の光触媒体が適用される製品部位や機器の使用条件により決定されるが、その際、該混合ゾルを用いて調製された光触媒体の基体への付着性、成膜性、耐食性、化粧性等が考慮される。そして、概略次の3つの区分に分けることができる。・・・▲2▼人が接触することはないが、視覚的に化粧性を必要とする、例えば、照明器具、地下道、道路、トンネル、土木資材、電気器具外装パネル等。・・・・さらに、上記区分▲2▼には、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを20?80重量%の割合で混合した混合ゾルを持ち知恵製膜した光触媒体が適していることがわかった。この光触媒体は、硬度、雑物の付着性、光触媒活性等において、前二者の中間の性質を示す。」と記載されているが、甲第1号証及び甲第2号証には、使用対象によって光触媒の割合を変えて用いるということに関する点についても記載されていず、示唆もされていない。そして本件特許発明7は、酸化チタンゾル、アモルファス型過酸化チタンゾルおよび両者の混合割合を前述のようにすることにより、上述に記載のように人が接触することはないが、視覚的にも化粧性を必要とする製品への適用が可能になるという格別優れた効果を有するものである。
したがって、本件特許発明7は、甲第2号証および甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許を受けることができないとは云えない。

(8)本件特許発明8について
本件特許発明8は、「酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを70重量%以上の割合で混合した混合ゾルを用いることを特徴とする請求項5記載の光触媒体の製造法。」である。
本件特許発明8の「酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを70重量%以上の割合で混合した混合ゾルを用いること」に関して、上述の「V-2.(6)」、「V-2.(7)」と同様に甲第1号証及び甲第2号証には、「酸化チタンゾル濃度」および「アモルファス型過酸化チタンゾル濃度」に関して何ら記載されておらず示唆もされていない。そして両者の混合割合に関する点についても記載がなく、示唆もされていない。
また、本件特許明細書の段落【0013】には、「前記の酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、混合ゾルを調製する。両者の混合割合は、本発明の光触媒体が適用される製品部位や機器の使用条件により決定されるが、その際、該混合ゾルを用いて調製された光触媒体の基体への付着性、成膜性、耐食性、化粧性等が考慮される。そして、概略次の3つの区分に分けることができる。・・・▲3▼通常、人が接触・視覚することはなく、光触媒機能に基づく有機物の分解機能や半導体金属自体のもつ性質を利用する、浄化槽、各種排水処理装置、湯沸器、風呂釜、空調機器、レンジフード内部、その他機器内に組み込まれた部材等。・・・また、上記区分▲3▼に属する、例えば浄化槽では、最終排水処理水の残留有機物(BOD)値を下げるために、高い光触媒活性が、使用される光触媒体として要求される最も重要な性能であり、これには酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを70重量%以上の割合で混合した混合ゾルを用いて製膜した光触媒体が最適であることがわかった。この光触媒体は化粧性は劣るが、この区分のものは人が通常接触・視覚しないものであり、また多少の残留物が付着するという問題点も、定期的な除去・清掃により解決できることがわかった。」と記載されているが、甲第1号証及び甲第2号証には、使用対象によって光触媒の割合を変えて用いる点について記載されていず、示唆もされていない。そして本件特許発明8は、酸化チタンゾル、アモルファス型過酸化チタンゾルおよび両者の混合割合を前述のようにすることにより、上述に記載のように通常、人が接触・視覚することはなく、光触媒機能に基づく有機物の分解機能や半導体金属自体のもつ性質を利用する、浄化槽、各種排水処理装置、湯沸器、風呂釜、空調機器、レンジフード内部、その他機器内に組み込まれた部材等の製品への適用が可能になるという格別優れた効果を有するものである。
したがって、本件特許発明8は、甲第2号証および甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許を受けることができないとは云えない。

(9)本件特許発明9について
本件特許発明9は、「酸化チタンゾルが、アモルファス型過酸化チタンゾルの100℃以上の加熱処理により得られるものであることを特徴とする請求項5?8のいずれか記載の光触媒体の製造法。」である。
本件特許発明9の「酸化チタンゾルが、アモルファス型過酸化チタンゾルの100℃以上の加熱処理により得られるものである」ことについて、甲第1号証には、摘示事項(A-3)より無機化合物粒子の具体例として「チタニア」が挙げられているのみで、「チタニアの製造法」に関する点について記載されていないし、示唆もされていない。そして甲第2号証では、「酸化チタン」の製造に関して、摘示事項(B-9)から「硫酸チタニルを加水分解して得た酸性チタニアゾル(石原産業株式会社製、CS-N)に水酸化ナトリウムを加えpH7に調節した後濾過、洗浄を行なった。次いで、得られた酸化チタン湿ケーキ・・・110℃の温度で3時間乾燥させ酸化チタンを得る」ことが記載されている。これから、甲第2号証には、酸化チタンが、「硫酸チタニルの加水分解により得られる」ことが示されているものの、甲第2号証には、本件特許発明9の「酸化チタンゾルが、アモルファス型過酸化チタンゾルの100℃以上の加熱処理により得られること」が記載されていなし、示唆もされていない。そうすると、酸化チタンゾルの原料としてアモルファス型過酸化チタンゾルを用いること自体、当業者が容易に想至し得るものであるとは云えない。
また、本件特許明細書の段落【0009】には、「ゾル状の酸化チタン、すなわち酸化チタンゾルは、上記のように、アモルファス型過酸化チタンゾルを100℃以上の温度で加熱することにより製造できるが、酸化チタンゾルの性状は加熱温度と加熱時間とにより多少変化し、例えば100℃で6時間処理により生成するアナターゼ型の酸化チタンゾルは、pH7.5?9.5、粒子径が8?20nmであり、その外観は黄色懸濁の液体である。この酸化チタンゾルは、常温で長期間保存しても安定である」ことが記載され、これより、加熱するだけで、酸化チタンゾルが得られ、その性状は、加熱温度と加熱時間とを多少変化させることでかえることができ、この酸化チタンゾルは、常温で長期間保存しても安定であるという当業者が予測できない格別な効果を有するものである。
したがって、本件特許発明9は、甲第2号証および甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許を受けることができないとは云えない。

(10)本件特許発明10について
本件特許発明10は、「基体表面及び/又は第一層に、ナトリウムイオンを存在させることを特徴とする請求項1?9のいずれか記載の光触媒体の製造法。」である。
本件特許発明10の「基体表面及び/又は第一層に、ナトリウムイオンを存在させること」について、甲第1号証及び甲第2号証には、何ら記載されておらず、示唆もされていない。
また、本件特許明細書の段落【0009】には、「Naイオンが存在すると光触媒活性や耐酸性が損なわれる場合がある。」ことが記載され、および段落【0015】には、「酸化チタンの光触媒機能はナトリウムイオンによって低下することから、基体として光触媒によって分解を受けやすい有機高分子樹脂を使用する場合は、コ-ティングに先立って、水酸化ナトリウム溶液等ナトリウムイオンを含有する物質で樹脂表面をクリーニングする等してナトリウム源を存在させておくのが有利である」ことが記載されており、これらの記載から「ナトリウムイオンを基体表面及び/又は第一層に、ナトリウムイオンを存在させる」ことにより「基体表面及び/または第一層が光触媒によって分解しない」という優れた効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明10は、甲第2号証および甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許を受けることができないとは云えない。

(11)本件特許発明11について
本件特許発明11は、「光触媒粒子と共に、自発型紫外線放射材又は蓄光型紫外線放射材の素材からなる粒子、あるいはこれらの放射材を混入した粒子を用いることを特徴とする請求項1?10のいずれか記載の光触媒体の製造法。」である。
本件特許発明11の「光触媒粒子と共に、自発型紫外線放射材又は蓄光型紫外線放射材の素材からなる粒子、あるいはこれらの放射材を混入した粒子を用いること」に関する点について、甲第1号証及び甲第2号証には、何ら記載されておらず、示唆もされていない。
また、本件特許明細書の段落【0017】の「このような自発型発光セラミックや蓄光型発光セラミックの粒子あるいはこれらのセラミックの微粒子を混入して成形した粒子(以下、混入粒子と呼ぶ)を光触媒に混合して光触媒体を調製すると、光触媒体に対する紫外線の照射が中断されても、自発型発光セラミック粒子から放射される紫外線、あるいは蓄光型発光セラミックの粒子がそれまでに蓄積したエネルギーを消費して発光する紫外線によって、光触媒体の光触媒半導体が励起され、光触媒機能を持続する。また、自発型発光セラミックや蓄光型発光セラミックの粒子は、通常緑とか青あるいは橙色の可視光線も発するので、これを利用して装飾や暗闇での案内に用いることができる。」ことの記載、段落【0029】の「この光触媒体は、光触媒体に対する紫外線の照射が中断されても、紫外線放射材が発する紫外線によって光触媒作用が持続する。」および段落【0030】の「光触媒と共に自発型紫外線放射材または蓄光型紫外線放射材の素材からなる粒子あるいはこれらの放射材を混入した粒子を混合しておくことにより、紫外線放射器のない戸外で間断なく光触媒機能を発現させることができる」との記載から、本件特許発明11の「光触媒粒子と共に、自発型紫外線放射材又は蓄光型紫外線放射材の素材からなる粒子、あるいはこれらの放射材を混入した粒子を用いること」ということを構成要件とすることにより、「紫外線の照射が中断されても、自発型発光セラミック粒子から放射される紫外線、あるいは蓄光型発光セラミックの粒子がそれまでに蓄積したエネルギ-を消費して発光する紫外線によって、光触媒体の光触媒半導体が励起され、光触媒機能を持続する。また、自発型発光セラミックや蓄光型発光セラミックの粒子は、通常緑とか青あるいは橙色の可視光線も発するので、これを利用して装飾や暗闇での案内に用いることができる。」ことおよび「紫外線放射器のない戸外で間断なく光触媒機能を発現させることができる」という優れた効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明11は、甲第2号証および甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許を受けることができないとは云えない。

(12)本件特許発明12について
本件特許発明12は、「自発型紫外線放射材又は蓄光型紫外線放射材が、使用する光触媒の励起波長の発光波長又は蓄光波長を有することを特徴とする請求項11記載の光触媒体の製造」である。
本件特許発明12の「自発型紫外線放射材又は蓄光型紫外線放射材が、使用する光触媒の励起波長の発光波長または蓄光波長を有すること」について、甲第1号証及び甲第2号証には、「自発型紫外線放射材又は蓄光型紫外線放射材」の記載がなく、示唆もされていない。さらに「自発型紫外線放射材又は蓄光型紫外線放射材」が「使用する光触媒の励起波長の発光波長または蓄光波長を有すること」に関する点についても記載がなく、示唆もされていない。
また、上記「V-2.(11)」の理由と同様に、本件特許発明12の「自発型紫外線放射材又は蓄光型紫外線放射材が、使用する光触媒の励起波長の発光波長又は蓄光波長を有すること」ということを構成要件とすることにより、本件特許発明12は、「紫外線の照射が中断されても、自発型発光セラミック粒子から放射される紫外線、あるいは蓄光型発光セラミックの粒子がそれまでに蓄積したエネルギ-を消費して発光する紫外線によって、光触媒体の光触媒半導体が励起され、光触媒機能を持続する。また、自発型発光セラミックや蓄光型発光セラミックの粒子は、通常緑とか青あるいは橙色の可視光線も発するので、これを利用して装飾や暗闇での案内に用いることができる。」ことおよび「紫外線放射器のない戸外で間断なく光触媒機能を発現させることができる」という優れた効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明12は、甲第2号証および甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許を受けることができないとは云えない。

V-3.無効理由3(特許法第29条第2項)について
証人の陳述は、反訳のとおりである。これによると、平成7年10月6日に佐賀県窯業技術センタ-で研究発表会が開催され、この研究発表会で、証人である佐賀県窯業技術センター、部長、一ノ瀬弘道博士が、佐賀県窯業技術センターで新しい酸化チタンコーテイング剤を開発し、その製造方法、酸化チタンコーティング剤の特性、及びこのコーテイングした焼き物等をOHPを用いて発表したとのことである。しかしながら、この発表において、ペルオキソチタンとアナタース化したものとの混合液を用いること、基材に塗布した後、80℃以下で乾燥、固化させたこと等、本件特許発明に相当する技術を、この発表会で発表したとは明確には、証人は証言していない。そして、この証人尋問での証言を裏付るものが何も存在しないため、上記主張が、平成7年10月6日に開催された平成7年度佐賀県窯業技術センタ-研究発表会において、発表されたものであるのか、それ以降の研究発表会で発表されたものであるのか、さらに、発表された内容が、上記記載のように曖昧不明確なものであるため、上記証言から、その事実を認定することは不合理であり、上記証人尋問の証言内容を証拠として採用することができない。
そうすると、請求項1?12に係る各特許発明に相当する技術が、本件特許出願前に発表された事実については、一ノ瀬弘道博士の証言により立証されなかっため、請求項1?12に係る各特許発明は、一ノ瀬弘道博士の証言に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許を受けることができるものである。

VI.まとめ
本件請求項1に係る発明についての特許は、出願当初明細書に何ら記載されていないものを含むので、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。
また、本件請求項1?5に係る発明は、甲第1?2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2項の規定により無効とすべきものである。
また、本件請求項6?12に係る発明は、甲第1?2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも云えないから、請求人の主張する理由及び証拠方法によって、本件請求項6?12に係る発明についてされた本件特許を無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が12分の7、被請求人が12分の5を負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

平成19年 9月13日

審判長 特許庁審判官 板橋 一隆
特許庁審判官 多喜 鉄雄
特許庁審判官 廣野 知子 」
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光触媒体の製造法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(無効確定)
【請求項2】
基体上に、光触媒によって分解されない結着剤からなる第一層を設け、該第一層の上に、光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとの混合物を用いて調製した第二層を設けることを特徴とする光触媒体の製造法。
【請求項3】
基体上に、アモルファス型過酸化チタンゾルを用いて調製した光触機能を有さない第一層を設け、該第一層の上に、光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとの混合物を用いて調製した第二層を設けることを特徴とする光触媒体の製造法。
【請求項4】
光触媒を基体に担持固定してなる光触媒体の製造法であって、光触媒を酸化チタン粒子又は酸化チタン粉末を用いて調製し、該光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温で乾燥させ、固化させて得たことを特徴とする光触媒体の製造法。
【請求項5】
光触媒を基体に担持固定してなる光触媒体の製造法であって、光触媒を酸化チタンゾルを用いて調製し、該光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、コーティングした後、常温で乾燥させ、固化させて得たことを特徴とする光触媒体の製造法。
【請求項6】
酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを30重量%以下の割合で混合した混合ゾルを用いることを特徴とする請求項5記載の光触媒体の製造法。
【請求項7】
酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを20?80重量%の割合で混合した混合ゾルを用いることを特徴とする請求項5記載の光触媒体の製造法。
【請求項8】
酸化チタンゾル濃度が2.70?2.90%、アモルファス型過酸化チタンゾル濃度が1.40?1.60%のとき、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを70重量%以上の割合で混合した混合ゾルを用いることを特徴とする請求項5記載の光触媒体の製造法。
【請求項9】
酸化チタンゾルが、アモルファス型過酸化チタンゾルの100℃以上の加熱処理により得られるものであることを特徴とする請求項5?8のいずれか記載の光触媒体の製造法。
【請求項10】
基体表面及び/又は第一層に、ナトリウムイオンを存在させることを特徴とする請求項1?9のいずれか記載の光触媒体の製造法。
【請求項11】
光触媒粒子と共に、自発型紫外線放射材又は蓄光型紫外線放射材の素材からなる粒子、あるいはこれらの放射材を混入した粒子を用いることを特徴とする請求項1?10のいずれか記載の光触媒体の製造法。
【請求項12】
自発型紫外線放射材又は蓄光型紫外線放射材が、使用する光触媒の励起波長の発光波長又は蓄光波長を有することを特徴とする請求項11記載の光触媒体の製造法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、優れた光触媒機能を有する光触媒体及びその製造法並びにそれらに使用する光触媒組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体にそのバンドギャップ以上のエネルギーを有する波長の光を照射すると、酸化還元反応が生じる。このような半導体を光触媒半導体、あるいは単に光触媒という。
光触媒は、粉末状で溶液に懸濁させて用いられる場合と、何らかの基体上に担持した形で使用される場合がある。光触媒活性という見地から見ると、その表面積の大きさから一般に前者の方がより活性であるが、実用的な見地からすると、その取り扱い易さからいって、前者より後者の方を採用せざるを得ない場合が多い。
基体上に光触媒を担持させるには、基体上で光触媒粒子を高温で焼結させ担持させたりする方法が採用されている。また、ある種のフッ素系のポリマーをバインダーとして用い光触媒を基体に担持する方法も提案されている。例えば、特開平4-284851号公報には、光触媒粒子とフッ素系ポリマーとの混合物を積層・圧着する方法が、特開平4-334552号公報には、光触媒粒子をフッ素系ポリマーに熱融着する方法が記載されている。また、特開平7-171408号公報には、水ガラス等の無機系及びシリコン系ポリマー等の有機系からなる難分解性結着剤を介して光触媒粒子を基体上に接着させる方法並びに基体上に難分解性の結着剤を第一層として設け、その第一層の上に難分解性の結着剤と光触媒粒子とからなる第二層を設ける光触媒体の製造法が記載されている。さらに、特開平5-309267号公報光触媒粉末の担持固定化材として金属酸化物ゾルより生成する金属酸化物を用いる方法が記載され、金属酸化物のゾルは、ゾルゲル法で採用されるような金属のアルコキシド、アセチルアセトネート、カルボキシレートなどの金属有機化合物や、四塩化チタンといった塩化物のアルコール溶液を酸あるいはアルカリ触媒存在下加水分解して得られる旨の記載がある。
【0003】
【発明が解決すべき課題】
最近、光触媒を用いて、日常の生活環境で生じる有害物質、悪臭成分、油分などを分解・浄化したり、殺菌したりする試みがあり、光触媒の適用範囲が急速に拡大している。これに伴い、光触媒粒子をあらゆる基体上に、その光触媒機能を損なわせることなく、強固に、かつ、長期間にわたって担持させる方法が求められている。特に、光触媒機能に優れた酸化チタンゾルを光触媒として使用する場合、基体へのバインダー機能が弱いことから、その付着性の改良が特に求められていた。
しかしながら、前記の従来技術の方法では、接着強度が十分ではなく、長期間にわたって坦持することができるものが少なく、接着強度を高め長期間坦持できるものを作ろうとすると、逆に光触媒機能が低下するという問題があった。有機高分子樹脂からなる基体を用いる場合においては、アナターゼ型に比べてその光触媒機能が弱いといわれているルチル型の酸化チタンであっても、光触媒反応が進行し、有機高分子樹脂自体の光化学反応と相俟って、長期間の使用により劣化分解する。
また、基体として有機高分子系樹脂を使用する場合には、シリカゾル等であらかじめコーティングすることが考えられていたが、シリカゾルが凝集・乾燥の過程で、割れや空孔が発生し、バインダーとしての性能上問題があった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく、光触媒粒子をあらゆる基体上に、その光触媒機能を損なわせることなく、強固に、かつ、長期間にわたって担持させる方法について探索した結果、アモルファス型過酸化チタンゾルをバインダーとして使用すると意外にも、光触媒粒子をあらゆる基体上に、その光触媒機能を損なわせることなく、強固に、かつ、長期間にわたって担持させることができることを見いだし、本発明を完成させた。
【0005】
すなわち本発明は、光触媒を基体に担持固定してなる光触媒体の製造法であって、酸化チタン等の光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを用いる光触媒体の製造法、基体上に、アモルファス型過酸化チタンゾルを用いて調製した光触機能を有さない第一層を設け、該第一層の上に、光触媒とアモルファス型過酸化チタンゾルとを用いて調製した第二層を設けてなる光触媒体の製造法、及び、これらの方法により製造される光触媒体、並びに、その製造に用いられる光触媒組成物に関する。
【0006】
本発明において用いられるアモルファス型過酸化チタンゾルは、例えば次のようにして製造することができる。四塩化チタンTiCl_(4)のようなチタン塩水溶液に、アンモニア水ないし水酸化ナトリウムのような水酸化アルカリを加える。生じる淡青味白色、無定形の水酸化チタンTi(OH)_(4)はオルトチタン酸H_(4)TiO_(4)とも呼ばれ、この水酸化チタンを洗浄・分離後、過酸化水素水で処理すると、本発明のアモルファス形態の過酸化チタン液が得られる。このアモルファス型過酸化チタンゾルは、pH6.0?7.0、粒子径8?20nmであり、その外観は黄色透明の液体であり、常温で長期間保存しても安定である。また、ゾル濃度は通常1.40?1.60%に調整されているが、必要に応じてその濃度を調整することができ、低濃度で使用する場合は、蒸留水等で希釈して使用する。
【0007】
また、このアモルファス型過酸化チタンゾルは、常温ではアモルファスの状態で未だアナターゼ型酸化チタンには結晶化しておらず、密着性に優れ、成膜性が高く、均一でフラットな薄膜を作成することができ、かつ、乾燥被膜は水に溶けないという性質を有している。
なお、アモルファス型の過酸化チタンのゾルを100℃以上で加熱すると、アナターゼ型酸化チタンゾルになり、アモルファス型過酸化チタンゾルを基体にコーティング後乾燥固定したものは、250℃以上の加熱によりアナターゼ型酸化チタンになる。
【0008】
本発明において使用しうる光触媒としては、Ti0_(2)、ZnO、SrTiO_(3)、CdS、Cd0、CaP、InP、In_(2)O_(3)、CaAs、BaTiO_(3)、K_(2)NbO_(3)、Fe_(2)O_(3)、Ta_(2)O_(5)、WO_(3)、SaO_(2)、Bi_(2)O_(3)、NiO、Cu_(2)O、SiC、SiO_(2)、MoS_(2)、MoS_(3)、InPb、RuO_(2)、CeO_(2)などを挙げることができるが、これらの中でも酸化チタンが好ましく、酸化チタンは粒子状又は粉末状の形態で、あるいはゾル状の形態で使用する。
【0009】
ゾル状の酸化チタン、すなわち酸化チタンゾルは、上記のように、アモルファス型過酸化チタンゾルを100℃以上の温度で加熱することにより製造できるが、酸化チタンゾルの性状は加熱温度と加熱時間とにより多少変化し、例えば100℃で6時間処理により生成するアナターゼ型の酸化チタンゾルは、pH7.5?9.5、粒子径8?20nmであり、その外観は黄色懸濁の液体である。
この酸化チタンゾルは、常温で長期間保存しても安定であるが、酸や金属水溶液等と混合すると沈殿が生じることがあり、また、Naイオンが存在すると光触媒活性や耐酸性が損なわれる場合がある。また、ゾル濃度は通常2.70?2.90%に調整されているが、必要に応じてその濃度を調整して使用することもできる。
光触媒としては上記の酸化チタンゾルを用いるのが望ましいが、市販の「ST-01」(石原産業株式会社製)や「ST-31」(石原産業株式会社製)をも使用しうる。
【0010】
本発明において、基体としては、セラミックス、ガラスなどの無機材質、プラスチック、ゴム、木、紙などの有機材質、並びにアルミニウム、鋼などの金属材質のものを用いることができる。これらの中でも特に、アクリロニトリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、メチルメタクリレート樹脂(アクリル樹脂)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等の有機高分子樹脂材への適用が優れた効果を発揮する。また、その大きさや形には制限されず、ハニカム状、ファイバー状、濾過シート状、ビーズ状、発砲状やそれらが集積したものでもよい。さらに、紫外線を通過する基体であればその内面に光触媒体を適用できるし、また塗装した物品にも適用しうる。
【0011】
本発明において、光触媒によって分解されない結着剤とは、例えば前記特開平7-171408号公報に記載されているような、水ガラス、コロイダルシリカ、セメント等の無機系及びフッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー等の有機系、からなる光触媒によって分解されにくい結着剤を意味する。
【0012】
次に、本発明の光触媒体を製造するための組成物の調製にはいくつかの方法がある。
まず、酸化チタン粉末をアモルファス型過酸化チタンゾルに均一に懸濁させたものを用いる方法を挙げることができる。均一に混濁させるため、機械的撹拌後超音波を使用することが有利である。
【0013】
次に、前記の酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとを混合し、混合ゾルを調製する。両者の混合割合は、本発明の光触媒体が適用される製品部位や機器の使用条件により決定されるが、その際、該混合ゾルを用いて調製された光触媒体の基体への付着性、成膜性、耐食性、化粧性等が考慮される。そして、概略次の3つの区分に分けることができる。
▲1▼人が接触する、もしくはその可能性が高く、視覚的にも化粧性を必要とする、例えば、内装タイル、衛生陶器、各種ユニット製品、食器、建築内外装材、自動車内装材等。
▲2▼人が接触することはないが、視覚的に化粧性を必要とする、例えば、照明器具、地下道、道路、トンネル、土木資材、電気器具外装パネル等。
▲3▼通常、人が接触・視覚することはなく、光触媒機能に基づく有機物の分解機能や半導体金属自体のもつ性質を利用する、浄化槽、各種排水処理装置、湯沸器、風呂釜、空調機器、レンジフード内部、その他機器内に組み込まれた部材等。
そして、上記の区分▲1▼には、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを30重量%以下の割合で混合した混合ゾルを用いて成膜した光触媒体が好適であり、これを用いた製品は、日常生活における殺菌や汚染防止、残留臭気分解には十分であり、かつ、膜表面は硬く、掃除等による磨耗や雑物の付着がなく、接触による指紋等も付きにくいことがわかった。
また、上記区分▲3▼に属する、例えば浄化槽では、最終排水処理水の残留有機物(BOD)値を下げるために、高い光触媒活性が、使用される光触媒体として要求される最も重要な性能であり、これには酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを70重量%以上の割合で混合した混合ゾルを用いて成膜した光触媒体が最適であることがわかった。この光触媒体は化粧性は劣るが、この区分のものは人が通常接触・視覚しないものであり、また多少の残留物が付着するという問題点も、定期的な除去・清掃により解決できることがわかった。
さらに、上記区分▲2▼には、酸化チタンゾルとアモルファス型過酸化チタンゾルとの合量に対し、酸化チタンゾルを20?80重量%の割合で混合した混合ゾルを用いて成膜した光触媒体が適していることがわかった。この光触媒体は、硬度、雑物の付着性、光触媒活性等において、前二者の中間の性質を示す。
【0014】
基体に酸化チタンゾル、アモルファス型過酸化チタンゾル、混合ゾル等を塗布したり、吹き付けたりしてコーティングするには、例えば、ディッピング、吹付スプレー、塗布等の公知の方法が利用できる。コーティングに際しては、複数回塗布を繰り返すとよい場合が多い。
【0015】
前記のようにして塗布あるいは吹き付けたりしてコーティングした後、乾燥させ、固化させて本発明の光触媒体を得ることができるが、200℃?400℃前後で焼結して固化坦持させることもできる。また、酸化チタンの光触媒機能はナトリウムイオンによって低下することから、基体として光触媒によって分解を受けやすい有機高分子樹脂を使用する場合は、コーティングに先立って、水酸化ナトリウム溶液等ナトリウムイオンを含有する物質で樹脂表面をクリーニングする等してナトリウム源を存在させておくのが有利である。
なお、アモルファス型過酸化チタンゾルを第一層として用いる場合は、250℃以上に加熱すると、アナターゼ型酸化チタンの結晶となり光触媒機能が生じるので、それより低温、例えば80℃以下で乾燥固化させる。また、この場合、上記と同様な理由から過酸化チタンゾルにナトリウムイオンを添加しておくこともできる。
【0016】
成形前に、光触媒と共に、自発型紫外線放射材または蓄光型紫外線放射材の素材からなる粒子あるいはこれらの放射材を混入した粒子を混合しておくことができる。
自発型紫外線放射材(自発型発光セラミック)は、内部のエネルギーを消費して自ら発光する材で、ラジウムやプロメチウムの放射崩壊を利用しており、発光に紫外線領域を有している。なお、現状ではこのような成分を含む岩石の精製粉末を固めたものを再度粉砕した破砕粒子を利用する。
蓄光型紫外線放射材(蓄光型発光セラミック)は、外部のエネルギーを取り込み、その分を放出しながら発光する材で、発光に紫外線領域を有している。「ルミノバ」(商品名 株式会社根本特殊化学)、「キプラス」(商品名 株式会社ネクスト・アイ)が市販されている。これらは、高純度のアルミナ、炭酸ストロンチウム、ユウロピウム、ジスプロシウムなどの成分を含んだストロンチウムアルミネート(SrAl_(2)O_(4))を主成分とするものである。吸収スペクトルの最大点は360nmにあり、粒径は20μm?50μmである。しかし、粉砕前の破砕した状態のものをそのまま破砕粒子として得ることもできる。
なお、これら市販品の中で、湿気を吸収すると性能が大きく低下してしまうものの場合には、あらかじめガラスやポリカーボネートのような透明な有機高分子樹脂中に封入して用いることもできるし、また、基体中に混入することや基体表面に貼付して使用することもできる。
【0017】
このような自発型発光セラミックや蓄光型発光セラミックの粒子あるいはこれらセラミックの微粒子を混入して成形した粒子(以下、混入粒子と呼ぶ)を光触媒に混合して光触媒体を調製すると、光触媒体に対する紫外線の照射が中断されても、自発型発光セラミック粒子から放射される紫外線、あるいは、蓄光型発光セラミックの粒子がそれまでに蓄積したエネルギーを消費して発する紫外線によって,光触媒体の光触媒半導体が励起され、光触媒機能を持続する。また、自発型発光セラミックや蓄光型発光セラミックの粒子は、通常緑とか青あるいは橙色の可視光線も発するので、これを利用して装飾や暗闇での案内に用いることができる。
【0018】
また、光触媒半導体は、その組成を調整(無機顔料や金属の添加)したり、製造過程での熱処理を調整することによって、触媒機能の発揮に必要とする紫外線の波長(吸収帯)、すなわち励起波長を変えることができる。例えば、TiO_(2)にCrO_(3)を少量添加すると長波長側に吸収帯が変位する。これによって光触媒体側を自発型紫外線放射材または蓄光型紫外線放射材の発光スペクトル特性に合わせることができ、供給される紫外線の波長に合わせた光触媒半導体を選択することができる。
【0019】
他方、これとは逆に、自発型紫外線放射材または蓄光型紫外線放射材の発光スペクトル特性を光触媒半導体の励起波長に合わせることもできる。例えば、酸化チタンの励起波長は180nm?400nmであるが、それに見合う蓄光型紫外線放射材で現在市販されているものはない。
市販されている長時間残光する蓄光セラミックとしては、根本特殊化学株式会社の「N夜光」があり、残光時間は1000分を超えるものもある。これは炭酸ストロンチウムや炭酸カルシュウムを主原料にアルミナを加え賦活剤としてユウロビウムやジスプロシウムを加え、その中にランタン、セリウム、プラセオジム、サマリウム、カドニュウム、テルビウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、マンガン、スズ、ビスマスのいづれかの元素と、フラッキスとして硼酸を加えて1300℃で加熱処理して長時間残光の蓄光セラミックが生まれている。この混合製法では最も短波長でも440nmをピークとする青色発光体である。
これを、酸化チタンの励起波長である400nm以下の発光波長にするには、前述の「N夜光」が有する、360nmをピークとする吸収波長と、440nmをピークとする発光波長とを近づけるための添加金属元素を加えるか、又は、ストロンチウムやカリウム、硼砂など、鉱物のもつ元々の燐光波長特性である450nm前後の青色発光によって440nm以下の発光波長が生じないとすれば、燐光色は発光しないが、ストロンチウム等よりも、もっと短波長であり、発色はしない400nm以下の発光波長をもつ鉱物元素を精製して、調合加工して蓄光型紫外線放射材を開発することができる。
【0020】
光触媒半導体は、単位粒子の表面にのみあらかじめ担持させておく場合と、単位粒子に自発型発光セラミックや蓄光セラミックの粒子あるいは混入粒子を混合して成形品にした後、全体の表面に担持させる場合がある。前者の方が自発型発光セラミックや蓄光型発光セラミックの粒子あるいは混入粒子の表面に光触媒半導体が付着せず、これら粒子から放射される紫外線の量が多くなる。また,蓄光型発光セラミック粒子の場合は、外部からの紫外線を効率よく吸収することができる。
【0021】
光触媒体には、その製造過程で、光触媒機能補助添加金属(Pt,Ag,Rh,RuO,Nb,Cu,Sn,NiOなど)を付加することがある.これらは光触媒反応を促進補完するものとしてよく知られている.
【0022】
【実施例】
以下に、参考例及び実施例を掲げてこの発明を更に具体的に説明するが、この発明の範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0023】
参考例1(アモルファス型過酸化チタンゾルの製造)
四塩化チタンTiCl_(4)の50%溶液(住友シティクス株式会社)を蒸留水で70倍に希釈したものと、水酸化アンモニウムNH_(4)OHの25%溶液(高杉製薬株式会社)を蒸留水で10倍に希釈したものとを、容量比7:1に混合し、中和反応を行う。中和反応後pHを6.5?6.8に調整し、しばらく放置後上澄液を捨てる。残ったTi(OH)_(4)のゲル量の約4倍の蒸留水を加え十分に撹拌し放置する。硝酸銀でチェックし上澄液中の塩素イオンが検出されなくなるまで水洗を繰り返し、最後に上澄液を捨ててゲルのみを残す。場合によっては遠心分離により脱水処理を行うことができる。この淡青味白色のTi(OH)_(4)3600mlに、35%過酸化水素水210mlを30分毎2回に分けて添加し、約5℃で一晩撹拌すると黄色透明のアモルファス型過酸化チタンゾル約2500mlが得られる。
なお、上記の工程において、発熱を抑えないとメタチタン酸等の水に不溶な物質が析出する可能性があるので、すべての工程は発熱を抑えて行うのが望ましい。
【0024】
参考例2(アモルファス型過酸化チタンゾルからの酸化チタンゾルの製造)
上記アモルファス型過酸化チタンゾルを100℃で加熱すると、3時間程度経過後にアナターゼ型酸化チタンが生じ、6時間程度加熱するとアナターゼ型酸化チタンゾルが得られる。また、100℃で8時間加熱すると、淡黄色やや懸濁蛍光を帯び、濃縮すると、黄色不透明のものが得られ、100℃で16時間加熱すると極淡黄色のものが得られるが、これらは上記100℃、6時間加熱のものに比べて乾燥密着度が多少低下する。
この酸化チタンゾルは、アモルファス型過酸化チタンに比べ粘性が低下しているのでディッピングしやすいように2.5重量%まで濃縮して使用する。
【0025】
参考例3
アモルファス型過酸化チタンゾルと酸化チタンゾルとの混合比による有機物質の分解試験を次のようにして行った。基板には、縦横150×220mm、厚さ4mmのケラミット化粧板(株式会社クレー・バーン・セラミックス製)を使用した。この基板に各種混合割合の混合ゾルを厚さ約2μmにスプレー法によりコーティングし、常温から70℃で乾燥後、約400℃で30分間焼結し、基板上に光触媒を坦持した5種類の光触媒体を得た。これら試験用の光触媒体を試験容器の中に入れ、次いで、容器内に被分解有機物質の着色溶液を深さが1cmとなるように注水した。この着色溶液は、モノアゾレッドの水性分散体(赤色液状物)であるポルックスレッドPM-R(住化カラー株式会社製)を30倍に希釈したものである。次に、容器内の着色溶液の蒸発を防ぐために、容器にフロートグラス(波長300nm以下をカット)で蓋をした。該試験容器の上方5cm、基板から9.5cmのところに紫外線放射器(20wのブルーカラー蛍光管)を13cm離して2本設置し、各種光触媒体に照射し、着色溶液の色が消えた時点をもって有機物の分解が終了したものとした。結果は以下の通りである。
基板に酸化チタンゾル100%のものを用いたものは、試験開始から72時間で色が消え、有機物質の分解能、すなわち光触媒機能に優れていた反面、分解残留物が多かった。一方、アモルファス型過酸化チタンゾル100%のものは150時間で色が消え、有機物質の分解能、すなわち光触媒機能としては上記酸化チタンゾル100%使用のものに比べて劣るが、付着・造膜性、耐食性、化粧性においては優れていた。また、アモルファス型過酸化チタンゾルと酸化チタンゾルとの混合比1:3のものは78時間で、混合比1:1のものは102時間で、混合比3:1のものは120時間で、それぞれ色が消えた。そして、以上の実験から、光触媒機能と付着・造膜性、耐食性、化粧性とは反比例の関係にあることがわかった。これらのことから、本発明によると、混合割合を変えることにより種々の用途(製品適用部位、使用条件)のものに使用できることがわかった。
【0026】
実施例1
基体として、アクリル樹脂板とメタクリル樹脂板を用いた。これら樹脂板を、80℃の2%水酸化ナトリウム溶液に30分間浸漬し水洗後乾燥する。この樹脂板に、第一層として、参考例1で作った過酸化チタンゾルに界面活性剤を0.5%添加したものを、ディッピングにて3?4回塗布した。乾燥は70℃で10分間行った。
第二層として、参考例3と同様5種類のアモルファス型過酸化チタンゾルと酸化チタンゾルの配合割合のものをディッピングにて3?4回塗布した。乾燥・固化は、アクリル樹脂板は120℃で3分間、メタクリル樹脂板は乾燥機の温度が119℃へ上昇したところで終了した。光触媒機能は参考例3と同様の結果であったが、樹脂板への付着力及び光触媒による樹脂板の難分解等においては、第一層を設けた方が格段に優れていた。
【0027】
参考例4
基体として、吸水性の高い市販のタイルを用いた。まず、中性洗剤で洗浄し、乾燥後表面活性剤を塗布したものを用いた。光触媒組成物としては、重量比で、参考例1で作った過酸化チタンゾル(pH6.4)50部に、酸化チタン粉末「ST-01」(石原産業株式会社製)1部を加え約15分間機械攪拌した後、ダマを作らないように超音波を用いて攪拌したものを用いた。毎秒0.3?0.5cmの速さでディッピングし、30℃で一晩乾燥した。このものを400℃で30分間焼成して光触媒体を製造した。この光触媒体は長期間にわたって強固にタイル表面に接着していた。
一方、酸化チタン粉末を蒸留水に分散させたものを用いて上記タイルにコーティングしたところ、うまく接着することはできなかった。
【0028】
参考例5
脱脂・表面活性剤処理をしたフロートガラス表面に、ガラスビーズの懸濁液をスプレーガンで数回コーティングした。このものを40℃で乾燥後700℃で30分間焼成した。このフロートガラスにガラスビーズを固定したものに、参考例4で使用した光触媒組成物をコーティングし乾燥後、400℃で30分間焼成して光触媒体を製造した。この光触媒体はフロートガラスに固定したガラスビーズに長期間にわたって強固に接着していた。
【0029】
参考例6
アモルファス型過酸化チタンゾルに、蓄光型紫外線放射材「キプラス」(商品名 株式会社ネクスト・アイ)を、ゾル中の過酸化チタンに対し25重量%の割合で混合、攪拌し、基体としてのケラミット化粧板に吹き付け、常温乾燥し、400℃で30分間焼成処理し、冷却後、上記放射材の発光波長にその励起波長を調製した酸化チタンゾルを1μmの厚みになるように吹き付け乾燥後、40℃で30分間焼成する。この光触媒体は、光触媒体に対する紫外線の照射が中断されても、紫外線放射材が発する紫外線によって光触媒作用を持続する。
【0030】
【発明の効果】
本発明によると、光触媒が有する光触媒機能を低下させることなく、光触媒を基体に坦持固定することができ、長期間にわたって使用可能な光触媒体の製造法を提供する。また、酸化チタンとアモルファス型過酸化チタンゾルを用いる場合は、その混合割合を変えることにより、種々の用途の製品への適用が可能となる。さらに、光触媒と共に自発型紫外線放射材または蓄光型紫外線放射材の素材からなる粒子あるいはこれらの放射材を混入した粒子を混合しておくことにより、紫外線放射器のない戸外で間断なく光触媒機能を発現させることができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-01-30 
結審通知日 2007-08-24 
審決日 2010-07-08 
出願番号 特願平8-75543
審決分類 P 1 113・ 537- YA (B01J)
P 1 113・ 121- YA (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牟田 博一  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 深草 祐一
小川 慶子
登録日 2005-06-24 
登録番号 特許第3690864号(P3690864)
発明の名称 光触媒体の製造法  
代理人 小澤 誠次  
代理人 東海 裕作  
代理人 沢田 雅男  
代理人 高津 一也  
代理人 小澤 誠次  
代理人 高津 一也  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 東海 裕作  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 高津 一也  
代理人 小澤 誠次  
代理人 東海 裕作  
代理人 廣田 雅紀  

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