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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
管理番号 1223322
審判番号 不服2007-19477  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-12 
確定日 2010-09-10 
事件の表示 特願2001-396582「マルチピースソリッドゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月 8日出願公開、特開2003-190330〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年12月27日に出願されたものであって、平成18年7月25日及び平成18年10月31日付けで手続補正がなされたが、平成18年10月31日付け手続補正については平成19年6月4日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がされ、これを不服として同年7月12日付けで審判請求がされるとともに、同年8月8日付けで明細書についての手続補正がなされ、当審において、平成22年1月14日付けで拒絶の理由(最後)(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年3月3日に手続補正がなされたものである。

第2 平成22年3月3日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成22年3月3日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容・目的
(1)補正の内容
ア 平成22年3月3日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするもので、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前に、
「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、内層カバーが、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を主材として形成され、外層カバーがポリウレタン系エラストマーを主材として形成されると共に、ソリッドコア表面のショアD硬度が50?60、内層カバーのショアD硬度が53?61、外層カバーのショアD硬度が52?58であり、内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く、かつソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値が53以上58以下、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値が0.48以上1.00以下、外層カバーの厚さと内層カバーとの和が1.5mm以上3.5mm以下、及びディンプルの体積占有率V_(R)値が0.66%以上0.85%以下となることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。」
とあったものを、

「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、内層カバーが、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を主材として形成され、外層カバーがポリウレタン系エラストマーを主材として形成されると共に、ソリッドコア表面のショアD硬度が53?57、内層カバーのショアD硬度が56?60、外層カバーのショアD硬度が52?55であり、内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く、その硬度差が1以上6以下であり、かつソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値が54以上57以下、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値が0.48以上1.00以下、外層カバーの厚さと内層カバーとの和が2.3mm以上3.3mm以下、及びディンプルの体積占有率V_(R)値が0.74%以上0.79%以下となることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。」
に補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)

イ 上記アの請求項1に係る本件補正は、次の補正内容からなる。
(ア)本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「ソリッドコア表面のショアD硬度」を、「50?60」から「53?57」に限定する。
(イ)本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「内層カバーのショアD硬度」を、「53?61」から「56?60」に限定する。
(ウ)本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「外層カバーのショアD硬度」を、「52?58」から「52?55」に限定する。
(エ)本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く」について、「その硬度差が1以上6以下であり」との限定を加える。
(オ)本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「ソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値」を「53以上58以下」から「54以上57以下」に限定する。
(カ)本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「外層カバーの厚さと内層カバーとの和」を、「1.5mm以上3.5mm以下」から「2.3mm以上3.3mm以下」に限定する。
(キ)本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「ディンプルの体積占有率V_(R)値」を、「0.66%以上0.85%以下」から「0.74%以上0.79%以下」に限定する。

(2)補正の目的
上記(1)イ(ア)ないし(キ)の補正内容は、いずれも本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定して、本件補正後の請求項1とするものであるから、請求項1に係る本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

2 記載不備についての当審拒絶理由の概要
(1)本願明細書の発明の詳細な説明の記載について、
本願明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項でいう経済産業省令で定めるところによる記載がされたものでないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
(2)本願の特許請求の範囲の記載について
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められず、本願明細書の特許請求の範囲の請求項の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものでない。

3 本願の発明の詳細な説明の記載について
(1)本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0008】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来のゴルフボールに対して、飛距離特性、フィーリング性、通常時のボールコントロール性に優れるのみならず、フライヤー時のボールコントロール性にも優れると共に、耐擦過傷性、繰り返し打撃耐久性の改善を図ったゴルフボールを提供するという目的に対し、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された構成を採用することにより、上記目的を達成することができたとされることが開示されていると認められる。
(2)しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明の上記課題に関する記載のある箇所には、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に示された「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、内層カバーが、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を主材として形成され、外層カバーがポリウレタン系エラストマーを主材として形成されると共に、ソリッドコア表面のショアD硬度が53?57、内層カバーのショアD硬度が56?60、外層カバーのショアD硬度が52?55であり、内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く、その硬度差が1以上6以下であり、かつソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値が54以上57以下、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値が0.48以上1.00以下、外層カバーの厚さと内層カバーとの和が2.3mm以上3.3mm以下、及びディンプルの体積占有率V_(R)値が0.74%以上0.79%以下となる」(以下「本願補正発明特定事項」という。)との多数の数値限定で規定する範囲が発明の解決しようとする課題を達成するために有効であることが、当業者にとって理解できるように記載されていない。また、発明の解決しようとする課題との関係で多数の数値限定の範囲に設定することのメカニズム及び技術的意義並びに臨界的意義は、当業者といえども把握できるものでない。
(3)以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、技術的意義が不明で、特許法第36条第4項でいう経済産業省令で定めるところによる記載がされておらず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 本願の特許請求の範囲の記載について
本願補正発明は、多数の数値限定でマルチピースソリッドゴルフボールを特定しようとするものである。
そこで、本願補正発明特定事項に係る多数の数値限定に関する記載について、以下に検討する。
(1)本願明細書に開示された発明の課題と、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の上記記載との技術的関係
ア 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0008】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来のソリッドゴルフボールに対して、弾性ソリッドコアを複数層の樹脂カバーで被覆し、ボール表面に多数のディンプルを備えたマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、ショートアイアンによる打球について、ドライの状態に対するウエットの状態のスピンの保持率を高めると同時に、ドライバー等の飛距離を稼ぐためのクラブによる打球における飛びの安定性を高めた高性能なマルチピースソリッドゴルフボールを提供するという目的に対し、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された構成を採用することにより、上記目的を達成することができたとされることが開示されていると認められる。
イ しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願補正発明特定事項に係る多数の数値限定と、発明の解決しようとする課題との間の技術的関係については記載も示唆もされていない。
ウ 一方、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願補正発明特定事項に係る多数の数値限定に関連して、以下(ア)?(ウ)に示す記載がある。
(ア)「【0009】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者は、上記要望に応えるため鋭意検討を行った結果、ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されたマルチピースソリッドゴルフボールについて、内外2層カバーのうち、内層カバーの主材として、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を用いると共に、外層カバーの主材としてポリウレタン系エラストマーを用いると共に、ソリッドコア表面のショアD硬度を53?57、内層カバーのショアD硬度を56?60、外層カバーのショアD硬度を52?55、内層カバーを外層カバーより硬く、かつその硬度差が1以上6以下となるように調整し、更にはソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値を54以上57以下、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値を0.48以上1.00以下、外層カバーの厚さと内層カバーとの和を2.3mm以上3.3mm以下、及びディンプルの体積占有率V_(R)値が0.74%以上0.79%以下となるように各層の硬度,厚さ及びディンプルを適正化することにより、飛び性能、フィーリング性、9番アイアン、サンドウェッジ等のショートアイアンによる通常時(即ち、クラブフェースとボールとの間に異物が入らない場合)のボールコントロール性に優れるのみならず、フライヤー時(クラブフェースとボールとの間に草などの異物が入った時)のボールコントロール性にも優れると共に、耐擦過傷性、繰り返し打撃耐久性を改善し得ることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記のマルチピースソリッドゴルフボールを提供する。
〔請求項1〕 ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、内層カバーが、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を主材として形成され、外層カバーがポリウレタン系エラストマーを主材として形成されると共に、ソリッドコア表面のショアD硬度が53?57、内層カバーのショアD硬度が56?60、外層カバーのショアD硬度が52?55であり、内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く、その硬度差が1以上6以下であり、かつソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値が54以上57以下、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値が0.48以上1.00以下、外層カバーの厚さと内層カバーとの和が2.3mm以上3.3mm以下、及びディンプルの体積占有率V_(R)値が0.74%以上0.79%以下となることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
〔請求項2〕 内層カバーが熱可塑性樹脂を主材として形成された請求項1記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
〔請求項3〕 1分子中に官能基として2個以上のイソシアネート基を持つイソシアネート化合物を該イソシアネート基と実質的に反応しない熱可塑性樹脂中に分散させたイソシアネート混合物を、外層カバーのポリウレタン系エラストマーに混合してなる請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
〔請求項4〕 外層カバーのショアD硬度が54以上55以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【0011】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内層カバー及び外層カバーとの2層構造からなるカバーとを有するものである。
【0012】
ここで、上記ソリッドコアは、表面のショアD硬度が53以上57以下の範囲内で形成されるものである。このソリッドコアの表面硬度が上記の範囲内よりも小さい場合には、ソリッドコアが軟らか過ぎて反発性が低下し、その結果として、ボールが飛ばなくなるおそれがあり、特に、ヘッドスピード(以下、「HS」とする。)45m/s以上の高HS領域でのボールの使用に際してはその欠点が顕著となり、フィーリングも良好に得られない場合がある。また、このソリッドコアの表面硬度が上記の範囲よりも大きい場合には、特に、フルショットする際のフィーリング性に劣ったり、アイアンショットの際にクラブフェースとボールとの間に草や水などが挟まった場合(以下、「フライヤー時」とする。)のコントロール性に劣る場合がある。
【0013】
更に、本発明においては、ソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度との総和を3で除した値、即ち、これら各層のショアD硬度の平均値が54以上57以下となるように、ソリッドコア表面のショアD硬度が適宜調整されるものである。なお、ここで言う内層カバー及び外層カバーのショアD硬度とは、内層カバー、外層カバーを形成する材料をシートに成型したものをASTM D-2240に従って測定した値である。上記平均値が54より小さいと、HS45m/s以上の高ヘッドスピードを有するゴルフプレーヤーにとってはフィーリングを良好に得ることができず、上記平均値が57より大きいと、HS45m/s以上の高ヘッドスピードを有するゴルフプレーヤーにとってはフィーリングが硬いものとなったり、フライヤー時のコントロール性が悪くなる場合がある。」

(イ)「【0019】
本発明においては、上記ソリッドコアを被覆するカバーは内外2層のカバーを 有し、外層カバーがポリウレタン系エラストマーを主材として形成されるもので ある。
【0020】
本発明においては、内層カバーのショアD硬度は56以上60以下に設定されるものである。この内層カバーのショアD硬度が上記の範囲よりも小さい場合には、ボールのスピン量が増大したり、反発性が低下し、その結果として、ボールが飛ばなくなるおそれがある。また、内層カバーのショアD硬度が上記の範囲よりも大きい場合には、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなったり、耐擦過傷性に劣る場合がある。
【0021】
また、内層カバーのショアD硬度を外層カバーのショアD硬度よりも高くすることが必要であり、これによりドライバー(W#1)及びアイアンのフルショット時におけるボールのスピン量の抑制効果が高まり、飛び性能が更に向上することができる。この場合、内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度との硬度差は、少なくとも1以上とすることが好ましく、上限として、好ましくは6以下である。
【0022】
更に、本発明においては、上述したように、ソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度との総和を3で除した値、即ち、これら各層のショアD硬度の平均値が54以上57以下となるように、内層カバーのショアD硬度が調整されるものである。
【0023】
内層カバーは、熱可塑性材料を主材として形成されるものであり、該熱可塑性材料としては、特に制限されるものではないが、例えば、公知のアイオノマー樹脂や熱可塑性エラストマーを好適に使用することができる。熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。
【0024】
本発明では、内層カバーの材料として、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を用いる。上記(c),(d),(e)及び(f)成分の全てを用いることにより、ボール反発性及び飛び性能が更に向上することができる。」

(ウ) 「【0041】
ここで、上記外層カバーのショアD硬度は52以上55以下の範囲内で形成されるものであり、より好ましい下限値は54以上である。この外層カバーの硬度が上記の範囲よりも小さい場合には、スピンが掛かりすぎ飛距離が十分に得られなくなり、また、上記の範囲を越えるとスピン量が減りすぎてボールコントロール性に劣ったり、繰り返し打撃による割れ耐久性や耐擦過傷性が悪くなる。
【0042】
また、ソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カ バーのショアD硬度との総和を3で除した値、即ち、これら各層のショアD硬度 の平均値が53以上58以下となるように、外層カバーのショアD硬度が適宜調整されるものである。
【0043】
本発明においては、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値が0.4 8以上1.00以下に適正化されるものである。このカバーの厚みの比が上記範囲よりも小さいとアイアンでトップした時のボールの耐久性や耐擦過傷性が悪くなり、上記範囲を越えるとボール反発性が低下したり、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなる。
【0044】
また、本発明では、外層カバーの厚さと内層カバーとの和が2.3mm以上3.3mm以下に適正化されるものである。このカバーの厚みの総和が上記範囲を満たないと繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなり、また、上記範囲を越えるとボール反発性が低下して飛距離が十分に得られなくなる。
【0045】
上記内層カバーの厚さは、1.0mm以上、好ましくは1.3mm以上、上限 として2.0mm以下、好ましくは1.8mm以下であることが好ましい。
【0046】
一方、外層カバーの厚さは、0.3mm以上、好ましくは1.0mm以上、上限として1.7mm以下、好ましくは1.6mm以下であることが好ましい。」

エ 上記ウから、本願補正発明特定事項に関する数値限定と本願明細書に開示された発明の課題との因果関係、又は前記数値限定の特定が前記課題を解決するメカニズムを、当業者といえども把握できるものでない。
(2) 小括
上記のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願補正発明特定事項に関する多数の数値限定と、本願補正発明の課題との因果関係、又は前記数値限定の特定が前記課題を解決するメカニズムについて記載も示唆もされていない。
(3) 本願明細書における具体例の開示からの検討
さらに、本願明細書の発明の詳細な説明に記載の具体例について、 本願明細書の「【0054】・・(中略)・・
【0059】【表3】

・・(中略)・・
【0063】【表5】

【0064】【表6】

・・(中略)・・
【0066】【表7】

【0067】【表8】

【0068】・・(中略)・・」
には、実施例1ないし5及び比較例1ないし15の記載がある。
平成22年3月3日付け手続補正により、特許請求の範囲の請求項1について、「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、内層カバーが、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を主材として形成され、外層カバーがポリウレタン系エラストマーを主材として形成されると共に、ソリッドコア表面のショアD硬度が53?57、内層カバーのショアD硬度が56?60、外層カバーのショアD硬度が52?55であり、内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く、その硬度差が1以上6以下であり、かつソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値が54以上57以下、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値が0.48以上1.00以下、外層カバーの厚さと内層カバーとの和が2.3mm以上3.3mm以下、及びディンプルの体積占有率V_(R)値が0.74%以上0.79%以下となることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。」と変更されたものの、この変更に伴う上記実施例1ないし5及び比較例1ないし15についての変更はされず、本願明細書において上記実施例1ないし5及び比較例1ないし15に関する記載がある。
そして上記実施例1ないし5及び比較例1ないし15のうち、上記比較例1ないし15は、特許請求の範囲の請求項1に記載の「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、内層カバーが、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を主材として形成され、外層カバーがポリウレタン系エラストマーを主材として形成されると共に、ソリッドコア表面のショアD硬度が53?57、内層カバーのショアD硬度が56?60、外層カバーのショアD硬度が52?55であり、内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く、その硬度差が1以上6以下であり、かつソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値が54以上57以下、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値が0.48以上1.00以下、外層カバーの厚さと内層カバーとの和が2.3mm以上3.3mm以下、及びディンプルの体積占有率V_(R)値が0.74%以上0.79%以下となる」以外となり、本願補正発明に対応する実施例に相当しないことは明らかである。
そうすると、本願明細書に記載の実施例1ないし5及び比較例1ないし15のうち、本願補正発明に対応する実施例は上記実施例1ないし5の5例のみにすぎない。
そこで、実施例1ないし5について以下に検討する。
実施例1ないし5に係る内層カバー材料の具体例については、上記段落【0063】【表5】の記載から、段落【0059】【表3】に記載の「○1」及び「○2」(審決注:前記「○1」及び「○2」はそれぞれ○を数字を囲んだ丸付き数字を意味する。)のカバー材配合からなり、前記「○1」及び「○2」のカバー材配合は、それぞれ「ハイミラン1605:65質量部,ダイナロン6100P:35質量部,ベハニン酸:20質量部,水酸化カルシウム:2.4質量部」及び「ハイミラン1605:85質量部,ダイナロン6100P:15質量部,ベハニン酸:20質量部,水酸化カルシウム:2.9質量部」である。
前記「○1」及び「○2」のカバー材配合として含まれる「ハイミラン1605」は、「エチレン-メタクリル酸共重合体ナトリウムイオン中和物」であり(特開2001-348470号公報「【0072】・・(中略)・・ハイミラン1605:エチレン-メタクリル酸共重合体ナトリウムイオン中和物、酸含量15質量%(三井デュポンポリケミカル社製)・・(中略)・・」参照。)、前記特開2001-348470号公報「【0020】本発明の(A)の各成分は、市販品を好適に使用することができ、・・(中略)・・またオレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体の金属イオン中和物、オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル三元共重合体の金属イオン中和物としては、アイオノマー樹脂として市販されている、例えば、ハイミラン1554、同1557、同1601、同1605、・・(中略)・・等が挙げられる。」の記載から、特許請求の範囲の請求項1に記載の「(f)ベース樹脂」に係る「(a)」及び「(b)」成分のうち、前記「(a)」成分の1種である「オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物」に相当することは明らかである。
そうすると、実施例1ないし5には、特許請求の範囲の請求項1に記載の「(f)ベース樹脂」に係る「(a)」成分及び「(b)」成分のうち、前記「(a)」成分の1種である「オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物」の具体例のみが記載されているだけで、それ以外の前記「(a)」成分及び「(b)」成分を用いた具体例は記載されていない。
してみれば、特許請求の範囲の請求項1に記載の「(f)ベース樹脂」に係る「(a)」成分及び「(b)」成分のうち、前記「(a)」成分の1種である「オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物」の具体例のみをもって、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載のそれ以外の前記「(a)」成分及び「(b)」成分を含む発明における本願補正発明特定事項に関する多数の数値限定で規定される範囲の技術的意義を裏付けていると当業者といえども把握できるものではない。
したがって、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の上記記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものであるとは認められない。
(4) まとめ
上記(1)ないし(3)にて検討したとおりであるから、本願補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められず、本願明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものでない。
よって、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 進歩性について
(1)刊行物の記載事項
ア 当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-54588号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。
(ア) 「【0004】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】本発明者は、上記要望に応えるため鋭意検討を行った結果、ソリッドコアと、これを被覆する内外2層のカバーを有するマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記ソリッドコアの30kg荷重負荷時の変形量を1.1mm以上とし、上記内層カバーのショアD硬度を45?61に、かつ上記外層カバーのショアD硬度を35?55に形成すると共に、ディンプル体積にディンプル直径の平方根を乗じることによって得られるディンプル弾道体積の総和を530?750とすることが有効であることを知見したものである。
【0005】即ち、本発明は、下記のマルチピースソリッドゴルフボールを提供する。
請求項1:ソリッドコアと、これを被覆する内外2層のカバーを有するマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記ソリッドコアの30kg荷重負荷時の変形量が1.1mm以上であり、上記内層カバーのショアD硬度が45?61であり、上記外層カバーのショアD硬度が35?55であり、ディンプル体積にディンプル直径の平方根を乗じることによって得られるディンプル弾道体積の総和が530?750であることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
請求項2:内外2層のカバーが、それぞれ熱可塑性樹脂を主材として形成された請求項1記載のゴルフボール。
請求項3:外層カバーが、脂肪族ジイソシアネートを用いて得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーを主材として形成された請求項1又は2記載のゴルフボール。
請求項4:外層カバーが、上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーとイソシアネート化合物との反応生成物を主成分とするものである請求項3記載のゴルフボール。
請求項5:外層カバーが、アイオノマー樹脂を主材として形成された請求項1又は2記載のゴルフボール。
請求項6:内層カバーが、アイオノマー樹脂、又はアイオノマー樹脂とオレフィン系エラストマーとからなる樹脂成分を主材として形成された請求項1乃至5のいずれか1項記載のゴルフボール。
請求項7:内層カバーが、熱可塑性ポリエステルエラストマーを主材として形成された請求項1乃至5のいずれか1項記載のゴルフボール。
請求項8:内層カバーより外層カバーを軟らかく形成した請求項1乃至7のいずれか1項記載のゴルフボール。
請求項9:内層カバーと外層カバーとの間に接着剤層を設けた請求項1乃至8のいずれか1項記載のゴルフボール。
請求項10:接着剤層がウレタン樹脂系接着剤又は塩素化ポリオレフィン系接着剤を主材とし、膜厚0.1?30μmに形成された請求項9記載のゴルフボール。
請求項11:ソリッドコアの比重が1.0?1.3であり、内層カバーの比重が0.8?1.2であり、外層カバーの比重が0.9?1.3である請求項1乃至10のいずれか1項記載のゴルフボール。
請求項12:ディンプル中央部における縦断面形状の面積をS_(1)、このディンプルの直径に深さを乗じた面積をS_(2)とした場合、S_(1)/S_(2)で示されるディンプル断面形状面積比の平均値が0.58?0.68であり、全ディンプル数が360?540である請求項1乃至11のいずれか1項記載のゴルフボール。

(イ) 「【0006】本発明のゴルフボールは、比較的低弾道で伸びのある飛び性能を有し、飛距離が大きく、しかもアイアンショットにおけるコントロール性が高い上、ウッド、アイアン、パターのいずれのクラブでショットした場合でも良好なフィーリングを有し、更にアイアンでコントロールショットした際における耐ササクレ性に優れ、耐久性に優れているものである。
【0007】以下、本発明につき更に詳しく説明する。本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、ソリッドコアと、これを被覆する内層カバー及び外層カバーとの2層構造からなるカバーとを有する。
【0008】ここで、上記ソリッドコアは、ゴム組成物にて形成したものが好ましい。ゴム組成物としては、基材としてポリブタジエンを使用したものが好ましい。このポリブタジエンとしては、シス構造を少なくとも40%以上有する1,4-シスポリブタジエンが好適に挙げられる。また、この基材ゴム中には、所望により該ポリブタジエンに天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴムなどを適宜配合することができる。ゴム成分を多くすることにより、ゴルフボールの反発性を向上させることができる。
【0009】また、上記ゴム組成物には、架橋剤としてメタクリル酸亜鉛、アクリル酸亜鉛等の不飽和脂肪酸の亜鉛塩、マグネシウム塩やトリメチルプロパンメタクリレート等のエステル化合物を配合し得るが、特にアクリル酸亜鉛を好適に使用し得る。これら架橋剤の配合量は、上記基材ゴム100重量部に対し、10重量部以上50重量部以下、特に20重量部以上45重量部以下とすることが好ましい。
【0010】上記ゴム組成物中には、通常、加硫剤が配合されているが、この加硫剤中には、1分間で半減期を迎える温度を155℃以下とするパーオキサイドが含まれていることが推奨され、その配合量は加硫剤全体の30重量%以上、特に40重量%以上であり、その上限は特に制限されないが、70重量%以下であることが好ましい。このようなパーオキサイドとしては、市販品を挙げることができ、例えばパーヘキサ3M(日本油脂社製)等が挙げられる。その配合量は、基材ゴム100重量部に対し、0.6重量部以上2重量部以下とすることができる。
【0011】更に、必要に応じて、老化防止剤や比重調整の充填剤として酸化亜鉛や硫酸バリウム等を配合することができる。
【0012】上記成分を配合して得られるソリッドコア組成物は、通常の混練機、例えばバンバリーミキサーやロール等を用いて混練し、コア用金型に圧縮又は射出成形し、成形体を架橋剤及び共架橋剤が作用するのに十分な温度、例えば架橋剤としてジクミルパーオキサイドを用い、共架橋剤としてアクリル酸亜鉛を用いた場合には、約130?170℃、特に150?160℃で10?40分、特に12?20分加熱硬化してソリッドコアを調製する。
【0013】上記ゴム組成物は、公知の方法で加硫・硬化させてソリッドコアを製造することができるが、その直径は30mm以上、より好ましくは33mm以上、更に好ましくは35mm以上であり、また40mm以下、より好ましくは39mm以下、更に好ましくは38mm以下とすることが好ましい。
【0014】また、このソリッドコアは、30kgの荷重を負荷した場合における変形量が1.1mm以上であることが必要であり、好ましくは1.2mm以上、より好ましくは1.4mm以上、更に好ましくは1.5mm以上であり、また好ましくは2.5mm以下、より好ましくは2.3mm以下、更に好ましくは2.1mm以下であることがよい。上記30kg荷重負荷時の変形量が上記値より小さいと、フィーリングが硬くなり、好ましくない。なお、上記変形量が大きすぎると、反発性及び耐久性が低下するおそれがある。
【0015】この場合、コア断面の硬度分布において、中心が一番軟らかく、一番硬い部分との硬度(JIS-C)差が5%以上であることが好ましく、これにより打感が軟らかく良好になる。
【0016】上記ソリッドコアの比重は1.0?1.3、より好ましくは1.05?1.25、更に好ましくは1.10?1.20であることが好ましい。
【0017】本発明において、上記内外2層のカバーは、特に制限されないが、いずれも熱可塑性樹脂にて形成することが好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、公知の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー等を挙げることができ、具体的には、ナイロン、ポリアリレート、アイオノマー樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマーなどを挙げることができ、市販品としてサーリン8945(デュポン社製アイオノマー樹脂)、ハイミラン1706,同1707(三井・デュポンポリケミカル社製アイオノマー樹脂)、リルサンBMNO(エルフアトケム社製ポリアミド系樹脂)、UポリマーU-8000(ユニチカ社製ポリアリレート樹脂)などが例示される。
【0018】この場合、内層カバーは、アイオノマー樹脂、又はアイオノマー樹脂とオレフィン系エラストマーとからなる樹脂成分を主材としたものにて形成することが好ましい。
【0019】アイオノマー樹脂に更にオレフィン系エラストマーを混合することにより、各々を単独で使用したときに達し得ない特性(例えば打感や反発性)を得ることができる。オレフィン系エラストマーとしては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ゴム強化オレフィンポリマー、フレキソマー、プラストマー、酸変性物を含む熱可塑性エラストマー(スチレン系ブロックコポリマー、水素添加ポリブタジエンエチレンプロピレンゴム)、動的に加硫されたエラストマー、エチレンアクリレート、エチレンビニルアセテート等が挙げられる。具体的には、三井・デュポンポリケミカル社製「HPR」,日本合成ゴム社製「ダイナロン」等が用いられる。
【0020】アイオノマー樹脂とオレフィン系エラストマーとの混合割合は、重量比として40:60?95?5、好ましくは45:55?90:10、更に好ましくは48:52?88:12、特に55:45?85:15であることが望ましい。オレフィン系エラストマーが少なすぎると打感が硬くなりやすい。一方、これが多すぎると反発性が低下するおそれがある。
【0021】なお、上記アイオノマー樹脂は、Zn,Mg,Na,Li等のイオン中和タイプを用いることができる。この場合、比較的軟らかく、反発性の高いZn又はMgイオン中和タイプアイオノマー樹脂を5?100重量%、より好ましくは10?80重量%、更に好ましくは15?70重量%含むものであることが好ましい。
【0022】また、上記アイオノマー樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、更に他のポリマーを配合しても差し支えない。
【0023】上記内層カバーは、また熱可塑性ポリエステルエラストマーにて形成したものも、更に軟らかく、反発性が高い点で好適である。
【0024】内層カバーは、酸化亜鉛、硫酸バリウム、二酸化チタン等の無機充填剤を30重量%程度又はそれ以下含んでいてもよい。好ましくはこの量を1?20重量%とする。
【0025】更に、内層カバーの比重は0.8以上、より好ましくは0.9以上、更に好ましくは0.92以上、最も好ましくは0.93以上であり、また1.2以下、より好ましくは1.16以下、更に好ましくは1.10以下、最も好ましくは1.05以下であることが好ましい。
【0026】なお、上記内層カバーの厚さは0.5mm以上、より好ましくは0.9mm以上、更に好ましくは1.1mm以上であり、3.0mm以下、より好ましくは2.5mm以下、更に好ましくは2.0mm以下であることが好ましい。
【0027】一方、外層カバーは、熱可塑性ポリウレタンエラストマー又はアイオノマー樹脂にて形成することが好ましい。ここで、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの分子構造は、ソフトセグメントを構成する高分子ポリオール化合物と、ハードセグメントを構成する単分子鎖延長剤と、ジイソシアネートからなる。
【0028】高分子ポリオール化合物としては、特に制限されるものではないが、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、コポリエステル系ポリオール及びポリカーボネート系ポリオールのいずれでもよく、ポリエステル系ポリオールとしては、ポリカプロラクトングリコール、ポリ(エチレン-1,4-アジペート)グリコール、ポリ(ブチレン-1,4-アジペート)グリコール等、コポリエステル系ポリオールとしては、ポリ(ジエチレングリコールアジペート)グリコール等、ポリカーボネート系ポリオールとしては、(ヘキサンジオール-1,6-カーボネート)グリコール等、ポリエーテル系ポリオールとしては、ポリオキシテトラメチレングリコール等が挙げられる。これらの数平均分子量は約600?5000、好ましくは1000?3000である。
【0029】ジイソシアネートとしては、カバーの耐黄変性を考慮して、脂肪族ジイソシアネートが好適に用いられる。具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4(2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート(LDI)などが挙げられるが、特にHDIが他の樹脂とのブレンドする際の相溶性の点から好ましい。
【0030】単分子鎖延長剤としては、特に制限されず、通常の多価アルコール、アミン類を用いることができ、具体的には1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,6-ヘキシレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジシクロヘキシルメチルメタンジアミン(水添MDA)、イソホロンジアミン(IPDA)などが挙げられる。
【0031】上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、粘弾性測定によるtanδピーク温度が-15℃以下、特に-16?-50℃であるものが軟らかさ、反発性の点から好ましい。
【0032】このような熱可塑性ポリウレタンエラストマーとしては、市販品を用いることができ、例えばパンデックスT7298(-20℃),同T7295(-26℃),同T7890(-30℃)(大日本インキ化学工業社製)などのジイソシアネートが脂肪族であるものが挙げられる。なお、括弧内の数字はいずれもtanδピーク温度を示す。
【0033】上述した熱可塑性ポリウレタンエラストマーとイソシアネート化合物との反応生成物を用いることもでき、これによりアイアン打撃時の表面耐久性を更に向上させることができる。
【0034】この場合、上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーに加えて、他の熱可塑性エラストマー等のポリマーを配合することができ、例えばポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、アイオノマー樹脂、スチレンブロックエラストマー、水添ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル(EVA)共重合体などを配合し得、またポリカーボネート、ポリアクリレート等の硬質樹脂を添加混合することもできる。これら他のポリマーの配合量は、上記熱可塑性ポリウレタンエラストマー100重量部に対し0?100重量部、好ましくは10?75重量部、更に好ましくは10?50重量部がよく、硬度調整、反発性改良、流動性改良、ソリッドコア表面との接着性の改良などに応じて適宜調節される。
【0035】また、上記イソシアネート化合物としては、従来のポリウレタンに関する技術において使用されているイソシアネート化合物はいずれも使用できるものであり、これらに限定されることはないが、例えば芳香族イソシアネート化合物としては、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート及びこの両者の混合物、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ビフェニルジイソシアネート等が挙げられる。また、上記芳香族イソシアネート化合物の水添物、例えばジシクロヘキシルメタンジイソシアネートを用いることもできる。更に、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、オクタメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートなどが挙げられるが、特に芳香族イソシアネート化合物を用いるのが好ましい。
【0036】更に、イソシアネート化合物としては、末端に2個以上のイソシアネート基を有する化合物のイソシアネート基と活性水素を有する化合物とを反応させたブロックイソシアネート化合物や、イソシアネートの二量化によるウレチジオン体等が挙げられる。
【0037】ここで、前者のブロックイソシアネート化合物において、末端に2個以上のイソシアネート基を有する化合物としては、従来のポリウレタンに関する技術において使用されているイソシアネート化合物はいずれも使用することができ、例えば、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート及びこれらの混合物、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ビフェニルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート、4,4’,4”-トリフェニルメタントリイソシアネート、2,4,4’-ビフェニルトリイソシアネート、2,4,4’-ジフェニルメタントリイソシアネート等のトリイソシアネートなどが挙げられ、これらイソシアネート化合物は特に制限されるものではないが、本発明においては、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート及びこの両者の混合物を使用することが好ましい。
【0038】また、活性水素を有する化合物としては、従来よりイソシアネート基のブロック剤として使用されているものであればいずれでもよく、例えば、アルコール類、フェノール類、ε-カプロラクタム、オキシム類、活性メチレン化合物等が有効であり、本発明においては、特にフェノール、キシレノール等のフェノール類が有効である。
【0039】上述した2成分を反応してブロックイソシアネート化合物を得るには、公知の方法を採用し得、特に制限されるものではないが、例えば、2,4-トルエンジイソシアネートのような反応性の異なるイソシアネート基を持つジイソシアネートの場合、予めハーフブロック体を作り、次いでポリイソシアネートプレポリマーとする方法が、反応性の高いイソシアネート基をブロックイソシアネートとして再生して架橋に用いることができるので好適に採用し得る。その製法の一例としては、例えば2,4-トルエンジイソシアネート3モルに、2-エチルヘキサノール3モルを滴下し、50℃に保ちながら2時間保温してハーフブロック体を得、これに5gのオクチル酸カリウムを加えてイソシアネート化を進め、セロソルブアセテート500gを加え、105℃で2時間保温することによりイソシアネート基の約98%をブロック化することができる。
【0040】このようにして得られたブロックイソシアネート化合物は、室温下で遊離するイソシアネート基が存在しないカルバミン酸化合物として安定であり、昇温によってイソシアネートが解離し、活性化する。
【0041】以上のようなブロックイソシアネート化合物としては、市販品を好適に使用することができ、例えば、日本ポリウレタン工業社製ブロックポリイソシアネートのコロネートAPステーブル、コロネート2503、コロネート2507等を用いることができる。
【0042】一方、イソシアネートの二量化によるウレチジオン体において、イソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物としては、芳香族イソシアネートが好ましく、例えば2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、及びこの両者の混合物、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。この場合、例えばTDIの二量化は、トリアルキルホスフィン、ジアルキルホスフィン等の触媒の存在下において加熱により得ることができ、得られた二量体は約120℃以上で遊離のTDIに解離し、活性水素を有する化合物との加熱においてアロハネート架橋する。
【0043】また、ウレチジオン体としては、市販品を好適に使用することができ、例えば住友バイエル社製TDI二量体のデスモジュールTT等を用いることができる。
【0044】上記イソシアネート化合物の配合量は、上記熱可塑性ポリウレタンエラストマー100重量部に対して0.1?10重量部、好ましくは0.2?5重量部、更に好ましくは0.3?3重量部とすることがよく、0.1重量部より少ないと十分な架橋反応が得られず、物性の向上が認められず、10重量部より多いと経時、熱、紫外線による変色が大きくなる、熱可塑性を失ってしまう、反発の低下等の問題が生じる場合がある。
【0045】なお、上記イソシアネート化合物の解離反応速度や解離反応温度は触媒を用いて制御することができ、使用できる触媒は一般にウレタン反応に使用される触媒であればいずれでも良く、例えば1,3-ジアセトキシテトラブチルスタノキサン等の錫系化合物やチタン酸2-エチルヘキシル等の錫以外の金属有機酸塩、塩化第二錫等の一般的な無機金属塩、N-メチルモルホリン等の3級アミンを用いることができる。その配合量は熱可塑性ポリウレタンエラストマー100重量部に対して0.01?3重量部、特に0.05?2重量部とすることが好ましい。
【0046】また、上述したように、外層カバーは、アイオノマー樹脂にて形成したものであってもよく、ソリッドゴルフボールのカバー材として通常使用されるアイオノマー樹脂を主材として形成することができる。アイオノマー樹脂として具体的には、ハイミラン1605,同1706(三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン8120,同8320(デュポン社製)等を挙げることができ、2種以上のアイオノマー樹脂を組み合わせて用いることもできる。また、必要により、アイオノマー樹脂に顔料、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、可塑剤等の公知の添加剤を配合することもでき、外層カバーは、酸化亜鉛、硫酸バリウム、二酸化チタン等の無機充填剤を1?30重量%、特に1.5?20重量%含有してもよい。
【0047】外層カバーの比重は0.90?1.30、より好ましくは0.95?1.25、更に好ましくは1.0?1.22であることが好ましい。
【0048】上記外層カバーの厚さは0.5?2.5mm、より好ましくは0.9?2.3mm、更に好ましくは1.1?2.0mmであることが好ましい。
【0049】この場合、上記内層及び外層カバーの合計厚さ(カバー全体の厚さ)は1.0?5.5mm、より好ましくは1.5?4.5mm、更に好ましくは2.0?3.5mmとすることが好ましい。
【0050】ここで、本発明においては、上記内層カバーのショアD硬度が45以上、好ましくは47以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは52以上、最も好ましくは54以上であり、また61以下、好ましくは60以下、より好ましくは59以下、更に好ましくは58以下、最も好ましくは57以下とすることが必要である。内層カバーが軟らかすぎると反発性が低下し、逆に硬すぎると打感が硬くなる。
【0051】一方、外層カバーのショアD硬度は35以上、好ましくは38以上、より好ましくは40以上、更に好ましくは42以上であり、また55以下、好ましくは53以下、より好ましくは52以下、更に好ましくは50以下であることが必要である。外層カバーが軟らかすぎるとスピンがかかりすぎ、反発性も低下し、飛距離が低下する。逆に硬すぎると打感が硬くなり、スピン性能も低下してしまう。この場合、外層カバーの硬度は、内層カバーの硬度より軟らかく形成することが好ましい。
【0052】上記内層カバーと外層カバーとの間には、打撃時の耐久性を向上させる目的のために、接着剤層を設けることができる。この場合、接着剤としては、エポキシ樹脂系接着剤、ビニル樹脂系接着剤、ゴム系接着剤などを挙げることもできるが、特にはウレタン樹脂系接着剤、塩素化ポリオレフィン系接着剤を用いることが好ましい。
【0053】この場合、接着剤層の形成をディスパージョン塗装にて行うことができるが、ディスパージョン塗装に用いるエマルジョンの種類に限定はない。エマルジョン調製用の樹脂粉末としては、熱可塑性樹脂粉末でも熱硬化性樹脂粉末でも用いることができ、例えば酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル共重合樹脂、EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)、アクリル酸エステル(共)重合樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂等を使用することができる。これらの中で、特に好ましいのはエポキシ樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、アクリル酸エステル(共)重合樹脂であり、中でも熱可塑性ウレタン樹脂が好適である。
【0054】なお、接着剤層の厚さは0.1?30μm、特に0.2?25μm、とりわけ0.3?20μmとすることが好ましい。
【0055】本発明において、上記外層カバーにはディンプルが形成されるが、この場合、ディンプル体積にディンプル直径の平方根を乗じることによって得られるディンプル弾道体積の総和が530?750であることが必要である。
【0056】即ち、ゴルフボールにおいて最も要求される特性は、飛距離が大きいということである。この場合、ランを考慮すると、トータル飛距離の点で低弾道のゴルフボールが有利な点が多いが、本発明者は多数のデータを分析した結果、ディンプル体積にディンプル直径の平方根を乗じることによって得られるディンプル弾道体積の総和(総ディンプル弾道体積)が高ヘッドスピードでの仰角を支配することを見出した。そして、この総ディンプル弾道体積を最適な値にすることで、ボールの飛びに対するバラツキを抑えることができ、また好ましくはこれに加えて下記に説明するディンプル断面形状面積比を最適な値とすることで、同じ仰角でもよりキャリーを伸ばすことができ、伸びのある低弾道ディンプルを開発し得たものである。
【0057】更に詳述すると、本発明のゴルフボールは、上述したように、ディンプル体積にディンプル直径の平方根を乗じることによって得られるディンプル弾道体積VTの総和(総ディンプル弾道体積TVT)が530?750であるものである。この場合、TVTの下限は530以上、好ましくは550以上、より好ましくは580以上、更に好ましくは600以上であり、上限は750以下、好ましくは730以下、より好ましくは700以下、更に好ましくは670以下である。
【0058】ここで、本発明において、図1に示したように、ディンプル10中央部における縦断面を見たとき、図1における左右の最高点が水平になるようにした場合での最高点をディンプルエッジE,Eとし、このエッジE,E間をディンプルの直径D_(i)とする。また、上記エッジE,Eを結んだ線分からディンプル最深部までの距離をディンプル深さD_(e)とする。従って、ディンプル体積Vは、上記エッジに囲まれる部分のディンプル体積となる。更に、ディンプルの縦断面形状の面積S_(1)は、図1において斜線部分である。
【0059】即ち、本発明におけるTVTは、各ディンプルのVT(=V×D_(i0.5))の総和である。このTVTの値により、高ヘッドスピード、特に50m/s程度でのおおよその弾道高さがわかる。通常、TVTが小さいと仰角が大きくなり、TVTが大きいと仰角が小さくなる。本発明は、上述したように、TVTを530?750の範囲とするものであり、TVTが小さすぎると、高弾道になりすぎてランが十分出ず、トータル飛距離が低下する。また、TVTが大きすぎると、低弾道になりすぎてキャリー不足となり、同様に飛距離が低下する。更に、本発明のTVTの範囲外では、キャリーのバラツキが大きくなり、いずれも性能の安定性に欠けるものである。
【0060】なお、本発明のゴルフボールは、ロフト角7.5°のドライバーを用いてヘッドスピード50m/sでショットした場合の仰角が8.6°以上、特に8.7°以上であり、また9.3°以下、より望ましくは9.2°以下、更に望ましくは9.1°以下、最も望ましくは9.0°以下であることが好ましい。
【0061】また、本発明においては、ディンプル中央部における縦断面形状の面積をS_(1)、このディンプルの直径D_(i)に深さD_(e)を乗じた面積をS_(2)とした場合、S_(1)/S_(2)で示されるディンプル断面形状面積比S_(0)の平均値S_(A)が0.58?0.68であり、更にこの場合、全ディンプルの少なくとも80%のディンプルが0.58?0.68のディンプル断面形状面積比S_(0)を有することが好ましい。
【0062】ここで、S_(1),D_(i),D_(e)については、上述した定義通りである。また、S_(2)は、図1において、1点鎖線で囲まれた長方形の面積である。更に、S_(A)は、各ディンプルのS_(0)の総和をディンプル総数nで割った値である。
【0063】本発明においては、このようにS_(A)が好ましくは0.58以上、より好ましくは0.60以上、更に好ましくは0.62以上であり、また好ましくは0.68以下、より好ましくは0.67以下、更に好ましくは0.66以下である。S_(A)が小さすぎるとランの出にくい弾道となりやすく、SAが大きすぎるとキャリーの出にくい弾道となりやすい。
【0064】また、全ディンプルのうち80%以上、より好ましくは88%以上、更に好ましくは94%以上が、S_(0)が0.58?0.68の範囲にあることが好ましい。S_(A)が上記範囲にあっても、全ディンプルの80%以上のディンプルのS_(0)が上記範囲にないと、キャリー,ラン共に劣るという不利が生じる場合がある。
【0065】なお、本発明において、ディンプル形状は、通常平面円形であり、その直径は1.8mm以上、より好ましくは2.4mm以上、更に好ましくは3.0mm以上であり、また4.6mm以下、より好ましくは4.4mm以下、更に好ましくは4.2mm以下であることが好ましい。深さは0.08mm以上、より好ましくは0.10mm以上、更に好ましくは0.12mm以上であり、また0.22mm以下、より好ましくは0.20mm以下、更に好ましくは0.19mm以下であることが好ましい。
【0066】ディンプルの総数nは、360個以上540個以下であることが好ましい。より好ましくは370個以上、更に好ましくは380個以上であり、またより好ましくは500個以下、更に好ましくは450個以下である。この場合、ディンプルは、その直径が互いに異なる2種以上、より好ましくは3種以上、更に好ましくは4種以上であり、また直径が互いに異なる6種以下、特に5種以下の組み合わせである多種ディンプルであることが好ましい。また、深さが互いに相違してもよい。従って、互いにVTが相違する3種以上であり、また10種以下、特に8種以下のディンプルの組み合わせとすることが好適である。
【0067】上記ディンプルの配列方法は、公知の方法を採用し得、上記ディンプルが均等に配置していれば特に制限されないが、8面体配列、20面体配列、半球を2?6に等分割するなどの球面分割法を採用し得、その分割領域内にディンプルを配置する方法とすることができる。なお、これらの方法に微修正を施す方法もとることができる。この場合、ディンプル表面占有率は69?82%、特に72?77%であることが好ましい。
【0068】本発明のゴルフボールは、通常、上記カバー上に更に塗装を施すことによって製品とされるが、本発明のゴルフボールは、ボールに初期荷重10kgをかけた状態から終荷重130kgをかけたときまでの圧縮変形量(以下、μ硬度という)が2.0?4.0mm、より好ましくは2.2?3.7mm、更に好ましくは2.5?3.5mmであることが好ましい。μ硬度が小さすぎると打感が硬くなる傾向となり、逆に大きすぎると耐久性及び反発性が低下するおそれがある。
【0069】本発明のゴルフボールの直径、重さは、ゴルフ規則に従うものであるが、直径42.67mm以上で、44.00mm以下、より好ましくは43.50mm以下、更に好ましくは43.00mm以下の範囲に形成することが好ましい。また、重さは45.92g以下で、44.5g以上、より好ましくは44.8g以上、更に好ましくは45.0g以上、最も好ましくは45.1g以上の範囲が好ましい。」

(ウ) 「【0070】
【実施例】以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0071】〔実施例,比較例〕常法に従い、表1,2に示すソリッドコア上に、表3に示す内層カバー、表4に示す外層カバーを順次形成すると共に、表5に示すディンプルを均一に形成し、表6,7に示すスリーピースソリッドゴルフボールを製造した。
【0072】得られたゴルフボールについて、下記方法で飛び試験を行い、またスピン量、フィーリング、耐ササクレ性、連続耐久性を評価した。結果を表6,7に示す。
【0073】飛び試験
ミヤマエ社製スイングロボットを用い、ドライバーでヘッドスピード(HS)50m/sで各ボールを20発ずつ打撃し、仰角(水平に対する高さ方向の角度)、キャリー、トータル飛距離を測定した。
<使用クラブ>
ヘッド: ブリヂストンスポーツ社製,J’s-METAL,ロフト角7.5°,ライ角57°,SUS630ステンレス,ロストワックス製法
シャフト:ハーモテックプロ,HM-70,LK(先調子),硬さX
スピン量
#W1及びサンドウェッジ(#SW,ヘッドスピード(HS)20m/s)について、インパクト直後のボールの挙動を写真撮影し、写真解像により算出した。
フィーリング
#W1及びパター(#PT)について、プロゴルファー3名により実打したときの感触を下記基準により評価した。
○:軟らかい
△:やや硬い
×:硬い
耐ササクレ性
スイングロボットにより、サンドウェッジ(#SW,ヘッドスピード38m/s)でボールを任意に2ケ所打撃し、これを目視評価した。
◎:非常に良好
○:良好
△:普通
×:劣る
連続耐久性
フライホイール打撃M/Cを用い、ヘッドスピード38m/sで繰り返し打撃して、ボールが破壊するまでの打撃回数の多少により評価した。
○:良好
△:普通
×:悪い
【0074】
【表1】

・・(中略)・・
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】〔注〕
1 ダイナロン:日本合成ゴム社製,ブロックコポリマー,ブタジエン-スチレン共重合体水素添加物2 ニュクレル:三井・デュポンポリケミカル社製,エチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル三元共重合体
3 ハイトレル:東レ・デュポン社製,熱可塑性ポリエステルエラストマー
4 PEBAX:エルフアトケム社製,ポリアミド系エラストマー
5 サーリン:デュポン社製,アイオノマー樹脂6 ハイミラン:三井・デュポンポリケミカル社製,アイオノマー樹脂
7 パンデックス:大日本インキ化学工業社製,熱可塑性ポリウレタンエラストマー
【0079】
【表5】

【0080】
【表6】


エ 上記アないしウから、引用例1、特にその実施例4には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内層カバーと外層カバーを有すると共に、該外層カバーの表面に392個のディンプルが形成されてなるスリーピースソリッドゴルフボールにおいて、内層カバーが、全105.1重量部に対し、アイオノマー樹脂である「サーリン 9945」35重量部及び「サーリン 8945」35重量部からなる(f)樹脂と、(e)オレフィン系エラストマーである「ダイナロン6100P」(日本合成ゴム社製,ブロックポリマー、ブタジエン-スチレン共重合体水素添加物)30重量部、二酸化チタン5.1重量部とを配合した混合物から形成され、外層カバーが、全103.7重量部に対し、熱可塑性ポリウレタンエラストマーである「パンデックス T7298」100重量部にジフェニルメタンジイソシアネート1重量部、二酸化チタン2.7重量部を混合したものから形成されると共に、ソリッドコアの30kgの荷重を負荷した場合における変形量が1.74mmであり、内層カバーのショアD硬度が56、外層カバーのショアD硬度が50であり、内層カバーの厚さ1.55mm、外層カバーの厚さ1.50mmであるスリーピースソリッドゴルフボール。」(以下「引用発明」という。)

イ 当審拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-321463号公報(以下「引用例2」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。
(ア) 「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、前記目的を達成するため、コアと多層構造のカバーとからなり、下記条件(1)?(5)を満たすことを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボールを提供する。
(1)ディンプル数が360?492個
(2)V_(R)(体積占有率)が0.715?0.825%
(3)S_(R)(面積占有率)が70%以上
(4)[(カバーの平均JIS-C硬度)-(コア表面部分のJIS-C硬度)]の値が0?20
(5)初速が77.7m/s(255ft/s)を超える
【0007】本発明において、上述したV_(R)(体積占有率)、S_(R)(面積占有率)、カバーの平均JIS-C硬度及び初速はそれぞれ下記のものを意味する。
・・(中略)・・
【0011】[カバーの平均JIS-C硬度]カバーの平均JIS-C硬度は、各層のJIS-C硬度と厚みとの積の総和を、各層の厚みの総和で除した値である。例えばカバーが2層構造の場合、1層目のカバーのJIS-C硬度をA、厚みをX、2層目のカバーのJIS-C硬度をB、厚みをYとすると、カバーの平均JIS-C硬度は下記式により算出される。
カバーの平均JIS-C硬度=[(A×X+B×Y)/(X+Y)]
カバーが3層構造の場合は、1層目のカバーのJIS-C硬度をA、厚みをX、2層目のカバーのJIS-C硬度をB、厚みをY、2層目のカバーのJIS-C硬度をC、厚みをZとすると、カバーの平均JIS-C硬度は下記式により算出される。
カバーの平均JIS-C硬度=[(A×X+B×Y+C×Z)/(X+Y+Z)]」
(イ) 「【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明につきさらに詳しく説明する。本発明のゴルフボールは、ディンプル数を360?492個とする。ディンプル数が360個未満であると最適な揚力が得られなくなって飛距離が低下し、492個を超えると弾道が低くなって十分な飛距離が得られなくなる。ディンプル数のより好ましい範囲は380?460個である。
【0014】本発明のゴルフボールは、V_(R)を0.715?0.825%とする。V_(R)が0.715%未満であるとボールが吹き上がって飛距離が低下し、0.825%を超えると弾道が低くなりすぎてキャリー距離が極端に低下する。V_(R)のより好ましい範囲は0.73?0.80%である。
【0015】本発明のゴルフボールは、S_(R)を70%以上とする。S_(R)が70%未満であると最適な揚抗力のバランスが得られず、十分な飛距離が得られなくなる。S_(R)のより好ましい範囲は72?80%である。」
(ウ) 「【0016】本発明のゴルフボールは、前述したカバーの平均JIS-C硬度からコア表面部分のJIS-C硬度を引いた値を0?20とする。この値が0未満であると、スピン量(特にドライバーのスピン量)が増えて飛距離が低下したり、割れ耐久性が悪くなったりする。すなわち、上記値が0未満になるということは、カバーの平均硬度が軟らかくなるか、コアが硬くなることを意味し、両者ともスピン量(特にドライバーのスピン量)を増やす方向にある。また、多層カバーにおいて硬い最外層と軟らかい内側層を使用すると、割れ耐久性が悪くなることがある。一方、この値が20を越えると、ドライバーでの打撃フィーリングが軟らかくなりすぎたり、パターでの打撃フィーリングが硬くなりすぎたり、割れ耐久性が悪くなったりする。すなわち、上記値が20を越えるということは、硬い多層カバーと軟らかいコアの組合せになることを意味し、これによりドライバーでの打撃フィーリングが軟らかくなる。また、硬いカバーと軟らかいコアの組合せでは通常は割れ耐久性が悪くなるが、それを防ぐためにカバーを厚くするとパターでの打撃フィーリングが硬くなる。上記値のより好ましい範囲は3?15である。」

(2) 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「30kgの荷重を負荷した場合」において、前記「kg」は正確には質量の単位であって、前記「荷重」の単位でないことから、正確に前記荷重の単位で表現すれば、「kgf」と表現すべきことは明らかである。
したがって、引用発明の「30kgの荷重を負荷した場合」とは、以下「30kgfの荷重を負荷した場合」とする。
イ 引用発明の「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内層カバーと外層カバーを有すると共に」は「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に」といえる。
ウ 引用発明の「該外層カバーの表面に392個のディンプルが形成され」は「該カバーの表面に392個のディンプルが形成され」ともいえる。
エ 引用発明の「392個のディンプルが形成され」は「多数のディンプルが形成され」の点で本願補正発明に包含される。
オ 引用発明の「スリーピースソリッドゴルフボール」は「マルチピースソリッドゴルフボール」の点で本願補正発明に包含される。
カ してみれば、引用発明の「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内層カバーと外層カバーを有すると共に、該外層カバーの表面に392個のディンプルが形成されてなるスリーピースソリッドゴルフボール」は「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるマルチピースソリッドゴルフボール」の点で本願補正発明に包含される。
キ 引用発明の「(f)樹脂」は、「内層カバー」全105.1重量部に対して、アイオノマー樹脂である「サーリン 9945」35重量部及び「サーリン 8945」35重量部であり、合計重量部は70重量部である。
そうすると、引用発明の「内層カバー」において、引用発明の「(f)樹脂」であるアイオノマー樹脂「サーリン 9945」及び「サーリン 8945」は「(f)ベース樹脂」といえる。
ク 引用発明のアイオノマー樹脂である「サーリン 9945」及び「サーリン 8945」は、それぞれの単量体が「エチレン」と「メタクリル酸」とからなる2元共重合体であって、各メタクリル酸の酸基の一部がそれぞれ亜鉛イオン及びナトリウムイオンで中和された中和物であり(上記特開2001-348470号公報「【0072】「・・(中略)・・サーリン8945:エチレン-メタクリル酸共重合体ナトリウムイオン中和物、酸含量15質量%(米国デュポン社製)
サーリン9945:エチレン-メタクリル酸共重合体の亜鉛イオン中和物、酸含量15質量%(米国デュポン社製)」参照。)、前記特開2001-348470号公報「【0020】本発明の(A)の各成分は、市販品を好適に使用することができ、・・(中略)・・またオレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体の金属イオン中和物、オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル三元共重合体の金属イオン中和物としては、アイオノマー樹脂として市販されている、例えば、・・(中略)・・、サーリン6320、同7930、同8120、同8945、同9945(いずれもE.I.DuPont de Nemours Company製)等が挙げられる。」の記載から、「オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物」に相当することは明らかである。
ケ してみれば、引用発明の内層カバーに係る「全105.1重量部に対し、アイオノマー樹脂である「サーリン 9945」35重量部及び「サーリン 8945」35重量部からなる(f)樹脂」は「(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂」の点で本願補正発明に包含される。
コ 引用発明の「(e)オレフィン系エラストマーである「ダイナロン6100P」(日本合成ゴム社製,ブロックポリマー、ブタジエン-スチレン共重合体水素添加物)」は、「非アイオノマー熱可塑性エラストマー」であるから(上記特開2001-348470号公報「【0025】本発明において、上記(A)熱可塑性樹脂組成物の任意成分、(b-1)成分の非アイオノマー熱可塑性エラストマーは、いずれも、例えば、オレフィン共重合体、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等が挙げられ、特に成形加工性に優れるオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーやコスト性に優れるオレフィン共重合体であることが好ましい、特に、ポリエチレンブロックからなるハードセグメントと、水添ポリブタジエンブロックからなるソフトセグメントを有するオレフィン系エラストマーが好適に用いられる。
・・(中略)・・
【0028】また、オレフィン系エラストマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどから選ばれ、好ましくはポリエチレンブロックからなるハードセグメントと、水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン、EPDM、EPR等から選ばれ、好ましくは水添ポリブタジエンブロックからなるソフトセグメントにより構成されるマルチブロックコポリマー、あるいはその架橋体が例示される。
【0029】本発明で好適に用いられるオレフィン系エラストマーの市販品としては、例えば、エチレンブロックと水添ポリブタジエンブロックからなるマルチブロックコポリマーであるダイナロン6100P、同E6160P、同6200P(JSR社製)等が例示される。」参照。)、引用発明の「(e)オレフィン系エラストマーである「ダイナロン6100P」(日本合成ゴム社製,ブロックポリマー、ブタジエン-スチレン共重合体水素添加物)」は、本願補正発明の「(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー」に相当する。
サ したがって、引用発明の内層カバーに係る「全105.1重量部に対し、アイオノマー樹脂である「サーリン 9945」35重量部及び「サーリン 8945」35重量部からなる(f)樹脂と、(e)オレフィン系エラストマーである「ダイナロン6100P」(日本合成ゴム社製,ブロックポリマー、ブタジエン-スチレン共重合体水素添加物)30重量部、二酸化チタン5.1重量部とを配合した混合物から形成され、」は、「(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー」の点で本願補正発明に包含される。
シ 引用発明の「外層カバーが、全103.7重量部に対し、熱可塑性ポリウレタンエラストマーである「パンデックス T7298」100重量部にジフェニルメタンジイソシアネート1重量部、二酸化チタン2.7重量部を混合したものから形成され」ている。
してみれば、外層カバーの全103.7重量部に対し、熱可塑性ポリウレタンエラストマーである「パンデックス T7298」は100重量部であることから、該熱可塑性ポリウレタンエラストマーである「パンデックス T7298」は該外層カバーの主材であることが明らかである。
したがって、引用発明の「外層カバー」は「ポリウレタン系エラストマーを主材として形成され」ているといえる。
ス 引用発明の「その内側カバー層のショアD硬度が56であり」は「そのカバー内層のショアD硬度が56?60」の点で本願補正発明に包含される。
セ 引用発明の「内層カバーのショアD硬度が56、外層カバーのショアD硬度が50であり」は「内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く、その硬度差が6である」といえる。
してみれば、引用発明の「内層カバーのショアD硬度が56、外層カバーのショアD硬度が50であり」は「内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く、その硬度差が1以上6以下であり」の点で本願補正発明に包含される。
ソ 引用発明において、内層カバーの厚さは1.55mm及び外層カバーの厚さは1.50mmであるから、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値は0.968であり、外層カバーの厚さと内層カバーとの和は3.05mmである。
してみれば、引用発明の「内層カバーの厚さ1.55mm、外層カバーの厚さ1.50mm」は「外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値が0.48以上1.00以下、外層カバーの厚さと内層カバーとの和が2.3mm以上3.3mm以下」の点で本願補正発明に包含される。
タ 上記アないしソから、本願補正発明と引用発明とは、
「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、内層カバーが、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、とを配合した混合物を主材として形成され、外層カバーがポリウレタン系エラストマーを主材として形成されると共に、内層カバーのショアD硬度が56?60であり、内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く、その硬度差が1以上6以下であり、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値が0.48以上1.00以下、外層カバーの厚さと内層カバーとの和が2.3mm以上3.3mm以下となるマルチピースソリッドゴルフボール。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:
前記内層カバーの主材である混合物が、本願補正発明では「(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部」も配合したものと特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。

相違点2:
前記ディンプルの体積占有率V_(R)値が、本願補正発明では「0.74%以上0.79%以下」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。

相違点3:
外層カバーのショアD硬度が、本願補正発明では「52?55」であるのに対し、引用発明では「50」である点。

相違点4:
ソリッドコア表面のショアD硬度及びソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値が、本願補正発明では「『ソリッドコア表面のショアD硬度が53?57』かつ『ソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値が54以上57以下』」と特定されているのに対し、引用発明ではそのような特定がなされていない点。

(3) 判断
上記相違点1ないし4について検討する。
ア 相違点1について
(ア)「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、内層カバーが、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を主材として形成され」たものは、本願の出願前に周知である(例.特開2001-218872号公報特に【請求項1】ないし【請求項3】及び【0046】、特開2001-218873号公報特に【請求項1】ないし【請求項3】及び特に【0048】並びに特開2001-120686号公報特に【請求項1】ないし【請求項13】、【請求項15】ないし【請求項17】及び【0039】参照。以下「周知技術1」という。)。
(イ)上記(ア)から、引用発明の「内層カバー」として、相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が周知技術1に基づいて容易になし得たことである。

イ 相違点2について
(ア) ディンプルの体積占有率V_(R)値が0.73?0.80%であるゴルフボールは、本願の出願前に周知である(例.引用例2特に「【請求項1】 コアと多層構造のカバーとからなり、下記条件(1)?(5)を満たすことを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
(1)ディンプル数が360?492個
(2)V_(R)(体積占有率)が0.715?0.825%
・・(中略)・・」及び「【0014】本発明のゴルフボールは、V_(R)を0.715?0.825%とする。V_(R)が0.715%未満であるとボールが吹き上がって飛距離が低下し、0.825%を超えると弾道が低くなりすぎてキャリー距離が極端に低下する。V_(R)のより好ましい範囲は0.73?0.80%である。」、特開2001-321462号公報「【請求項1】 コアとカバーとからなり、下記条件(1)?(6)を満たすことを特徴とするゴルフボール。
(1)ディンプル数が360?492個
(2)V_(R)(体積占有率)が0.715?0.825%
・・(中略)・・」及び「【0013】本発明のゴルフボールは、V_(R)を0.715?0.825%とする。V_(R)が0.715%未満であるとボールが吹き上がって飛距離が低下し、0.825%を超えると弾道が低くなりすぎてキャリー距離が極端に低下する。V_(R)のより好ましい範囲は0.73?0.80%である。」並びに特開2001-259080号公報特に「【0035】本発明のディンプルの体積占有率V_(R)は、通常0.74(%)以上、特に0.75(%)以上、上限として0.84(%)以下、特に0.83(%)以下にする。V_(R)が少ないと、ボールがふけて飛ばなくなり、V_(R)が多いと、弾道が低すぎてキャリーが落ちる。」参照。以下、「周知技術2」という。)
(イ)上記(ア)から、引用発明の「ディンプルの体積占有率V_(R)値」を適切な範囲に設定し、相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が周知技術2に基づいて容易になし得たことである。

ウ 相違点3について
(ア)引用例1には、「一方、外層カバーのショアD硬度は35以上、好ましくは38以上、より好ましくは40以上、更に好ましくは42以上であり、また55以下、好ましくは53以下、より好ましくは52以下、更に好ましくは50以下であることが必要である。外層カバーが軟らかすぎるとスピンがかかりすぎ、反発性も低下し、飛距離が低下する。逆に硬すぎると打感が硬くなり、スピン性能も低下してしまう。この場合、外層カバーの硬度は、内層カバーの硬度より軟らかく形成することが好ましい。」ことが記載されている(上記(1)ア(イ)【0051】参照。)。
(イ)上記(ア)から、引用発明において、外層カバーのショアD硬度を55とし、相違点3に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が引用例1に記載された事項に基づいて適宜になし得た設計上のことである。

エ 相違点4について
(ア) 引用例2には、「本発明は、前記目的を達成するため、コアと多層構造のカバーとからなり、下記条件(1)?(5)を満たすことを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボールを提供する。
(1)ディンプル数が360?492個
(2)V_(R)(体積占有率)が0.715?0.825%
(3)S_(R)(面積占有率)が70%以上
(4)[(カバーの平均JIS-C硬度)-(コア表面部分のJIS-C硬度)]の値が0?20(5)初速が77.7m/s(255ft/s)を超える 」(上記(1)イ(ア)【0016】参照。)及び「[カバーの平均JIS-C硬度]カバーの平均JIS-C硬度は、各層のJIS-C硬度と厚みとの積の総和を、各層の厚みの総和で除した値である。例えばカバーが2層構造の場合、1層目のカバーのJIS-C硬度をA、厚みをX、2層目のカバーのJIS-C硬度をB、厚みをYとすると、カバーの平均JIS-C硬度は下記式により算出される。
カバーの平均JIS-C硬度=[(A×X+B×Y)/(X+Y)]
」(上記(1)イ(ア)【0011】参照。)が記載されている。
(イ) 上記ウで、外層カバーのショアD硬度を55とすれば、内層カバーのショアD硬度は56であるから、内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値は55.5となる。
一方、上記(ア)から、引用発明において、ソリッドコア表面のショアD硬度として、(ソリッドコア表面のショアD硬度-内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値)=0となるようになすことは、当業者が引用例2に記載された事項に基づいて容易に想到し得ることであり、このとき、前記ソリッドコア表面のショアD硬度は55.5となり、ソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値は55.5となる。
(ウ) 上記(イ)の「ソリッドコア表面のショアD硬度」、「内層カバーのショアD硬度」、「外層カバーのショアD硬度」、「ソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値」が、それぞれ、55.5、56、55、55.5であることは、本願補正発明の「『ソリッドコア表面のショアD硬度が53?57』かつ『ソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値が54以上57以下』」に相当する。
(エ) 上記ウ並びに上記(イ)及び(ウ)から、引用発明において、相違点4に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が、引用例1及び2に記載された事項に基づいて容易になし得たことである。

オ 効果について
本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、引用例1及び2に記載された事項並びに周知技術1及び2それぞれの奏する効果から、当業者が予測することができた程度のものである。

カ まとめ
したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明、引用例1及び2に記載された事項並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 小括
上記3及び4のとおり、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件及び同条第6項に規定する要件のいずれも満たしておらず、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
また、上記5のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年3月3日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成19年8月8日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によってそれぞれ特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2〔理由〕1(1)アで、本件補正前の請求項1として記載したものである。

2 記載不備についての当審拒絶理由の概要
上記「第2 2」で述べたとおりである。

3 本願の発明の詳細な説明の記載について
(1)本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0008】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来のゴルフボールに対して、飛距離特性、フィーリング性、通常時のボールコントロール性に優れるのみならず、フライヤー時のボールコントロール性にも優れると共に、耐擦過傷性、繰り返し打撃耐久性の改善を図ったゴルフボールを提供するという目的に対し、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された構成を採用することにより、上記目的を達成することができたとされることが開示されていると認められる。
(2)しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明の上記課題に関する記載のある箇所には、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に示された「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、内層カバーが、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を主材として形成され、外層カバーがポリウレタン系エラストマーを主材として形成されると共に、ソリッドコア表面のショアD硬度が50?60、内層カバーのショアD硬度が53?61、外層カバーのショアD硬度が52?58であり、内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く、かつソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値が53以上58以下、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値が0.48以上1.00以下、外層カバーの厚さと内層カバーとの和が1.5mm以上3.5mm以下、及びディンプルの体積占有率VR値が0.66%以上0.85%以下となる」(以下「本願発明特定事項」という。)との多数の数値限定で規定する範囲が発明の解決しようとする課題を達成するために有効であることが、当業者にとって理解できるように記載されていない。また、発明の解決しようとする課題との関係で多数の数値限定の範囲に設定することのメカニズム及び技術的意義並びに臨界的意義は、当業者といえども把握できるものでない。
(3)以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、技術的意義が不明で、特許法第36条第4項でいう経済産業省令で定めるところによる記載がされておらず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

4 本願の特許請求の範囲の記載について
本願発明は、多数の数値限定でマルチピースソリッドゴルフボールを特定しようとするものである。
そこで、本願発明特定事項に係る多数の数値限定に関する記載について、以下に検討する。
(1)本願明細書に開示された発明の課題と、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の上記記載との技術的関係
ア 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0008】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来のソリッドゴルフボールに対して、弾性ソリッドコアを複数層の樹脂カバーで被覆し、ボール表面に多数のディンプルを備えたマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、ショートアイアンによる打球について、ドライの状態に対するウエットの状態のスピンの保持率を高めると同時に、ドライバー等の飛距離を稼ぐためのクラブによる打球における飛びの安定性を高めた高性能なマルチピースソリッドゴルフボールを提供するという目的に対し、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された構成を採用することにより、上記目的を達成することができたとされることが開示されていると認められる。
イ しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明特定事項に係る多数の数値限定と、発明の解決しようとする課題との間の技術的関係については記載も示唆もされていない。
ウ 一方、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明特定事項に係る多数の数値限定に関連して、以下(ア)?(ウ)に示す記載がある。
(ア)「【0009】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者は、上記要望に応えるため鋭意検討を行った結果、ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されたマルチピースソリッドゴルフボールについて、内外2層カバーのうち、内層カバーの主材として、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を用いると共に、外層カバーの主材としてポリウレタン系エラストマーを用いると共に、ソリッドコア表面のショアD硬度を50?60、内層カバーのショアD硬度を53?61、外層カバーのショアD硬度を52?58、内層カバーを外層カバーより硬くなるように調整し、更にはソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値を53以上58以下、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値を0.48以上1.00以下、外層カバーの厚さと内層カバーとの和を1.5mm以上3.5mm以下、及びディンプルの体積占有率V_(R)値が0.66%以上0.85%以下となるように各層の硬度,厚さ及びディンプルを適正化することにより、飛び性能、フィーリング性、9番アイアン、サンドウェッジ等のショートアイアンによる通常時(即ち、クラブフェースとボールとの間に異物が入らない場合)のボールコントロール性に優れるのみならず、フライヤー時(クラブフェースとボールとの間に草などの異物が入った時)のボールコントロール性にも優れると共に、耐擦過傷性、繰り返し打撃耐久性を改善し得ることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記のマルチピースソリッドゴルフボールを提供する。
〔請求項1〕 ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、内層カバーが、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を主材として形成され、外層カバーがポリウレタン系エラストマーを主材として形成されると共に、ソリッドコア表面のショアD硬度が50?60、内層カバーのショアD硬度が53?61、外層カバーのショアD硬度が52?58であり、内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く、かつソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値が53以上58以下、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値が0.48以上1.00以下、外層カバーの厚さと内層カバーとの和が1.5mm以上3.5mm以下、及びディンプルの体積占有率V_(R)値が0.66%以上0.85%以下となることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
〔請求項2〕 内層カバーが熱可塑性樹脂を主材として形成された請求項1記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
〔請求項3〕 1分子中に官能基として2個以上のイソシアネート基を持つイソシアネート化合物を該イソシアネート基と実質的に反応しない熱可塑性樹脂中に分散させたイソシアネート混合物を、外層カバーのポリウレタン系エラストマーに混合してなる請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
〔請求項4〕 外層カバーのショアD硬度が54以上58以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【0011】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内層カバー及び外層カバーとの2層構造からなるカバーとを有するものである。
【0012】
ここで、上記ソリッドコアは、表面のショアD硬度が50以上60以下の範囲内で形成されるものであり、好ましくは、52以上58以下の範囲である。このソリッドコアの表面硬度が上記の範囲内よりも小さい場合には、ソリッドコアが軟らか過ぎて反発性が低下し、その結果として、ボールが飛ばなくなるおそれがあり、特に、ヘッドスピード(以下、「HS」とする。)45m/s以上の高HS領域でのボールの使用に際してはその欠点が顕著となり、フィーリングも良好に得られない場合がある。また、このソリッドコアの表面硬度が上記の範囲よりも大きい場合には、特に、フルショットする際のフィーリング性に劣ったり、アイアンショットの際にクラブフェースとボールとの間に草や水などが挟まった場合(以下、「フライヤー時」とする。)のコントロール性に劣る場合がある。
【0013】
更に、本発明においては、ソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度との総和を3で除した値、即ち、これら各層のショアD硬度の平均値が53以上58以下となるように、ソリッドコア表面のショアD硬度が適宜調整されるものである。なお、ここで言う内層カバー及び外層カバーのショアD硬度とは、内層カバー、外層カバーを形成する材料をシートに成型したものをASTM D-2240に従って測定した値である。上記平均値が53より小さいと、HS45m/s以上の高ヘッドスピードを有するゴルフプレーヤーにとってはフィーリングを良好に得ることができず、上記平均値が58より大きいと、HS45m/s以上の高ヘッドスピードを有するゴルフプレーヤーにとってはフィーリングが硬いものとなったり、フライヤー時のコントロール性が悪くなる場合がある。」
(イ)「【0019】
本発明においては、上記ソリッドコアを被覆するカバーは内外2層のカバーを 有し、外層カバーがポリウレタン系エラストマーを主材として形成されるもので ある。
【0020】
本発明においては、内層カバーのショアD硬度は53以上61以下、好ましくは、55以上60以下に設定されるものである。この内層カバーのショアD硬度が上記の範囲よりも小さい場合には、ボールのスピン量が増大したり、反発性が低下し、その結果として、ボールが飛ばなくなるおそれがある。また、内層カバーのショアD硬度が上記の範囲よりも大きい場合には、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなったり、耐擦過傷性に劣る場合がある。
【0021】
また、内層カバーのショアD硬度を外層カバーのショアD硬度よりも高くすることが必要であり、これによりドライバー(W#1)及びアイアンのフルショット時におけるボールのスピン量の抑制効果が高まり、飛び性能が更に向上することができる。この場合、内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度との硬度差は、少なくとも1以上とすることが好ましく、上限として8以下とすることが好ましく、更に好ましくは6以下である。
【0022】
更に、本発明においては、上述したように、ソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度との総和を3で除した値、即ち、これら各層のショアD硬度の平均値が53以上58以下となるように、内層カバーのショアD硬度が調整されるものである。
【0023】
内層カバーは、熱可塑性材料を主材として形成されるものであり、該熱可塑性材料としては、特に制限されるものではないが、例えば、公知のアイオノマー樹脂や熱可塑性エラストマーを好適に使用することができる。熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。
【0024】
本発明では、内層カバーの材料として、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を用いる。上記(c),(d),(e)及び(f)成分の全てを用いることにより、ボール反発性及び飛び性能が更に向上することができる。」
(ウ) 「【0041】
ここで、上記外層カバーのショアD硬度は52以上58以下の範囲内で形成されるものであり、好ましくは、53以上56以下の範囲、より好ましい下限値は54以上である。この外層カバーの硬度が上記の範囲よりも小さい場合には、スピンが掛かりすぎ飛距離が十分に得られなくなり、また、上記の範囲を越えるとスピン量が減りすぎてボールコントロール性に劣ったり、繰り返し打撃による割れ耐久性や耐擦過傷性が悪くなる。
【0042】
また、ソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カ バーのショアD硬度との総和を3で除した値、即ち、これら各層のショアD硬度 の平均値が53以上58以下となるように、外層カバーのショアD硬度が適宜調整されるものである。
【0043】
本発明においては、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値が0.4 8以上1.00以下に適正化されるものである。このカバーの厚みの比が上記範囲よりも小さいとアイアンでトップした時のボールの耐久性や耐擦過傷性が悪くなり、上記範囲を越えるとボール反発性が低下したり、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなる。
【0044】
また、本発明では、外層カバーの厚さと内層カバーとの和が1.5mm以上3.5mm以下に適正化されるものであり、好ましくは、2.3mm以上3.3mm以下である。このカバーの厚みの総和が上記範囲を満たないと繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなり、また、上記範囲を越えるとボール反発性が低下して飛距離が十分に得られなくなる。
【0045】
上記内層カバーの厚さは、1.0mm以上、好ましくは1.3mm以上、上限 として2.0mm以下、好ましくは1.8mm以下であることが好ましい。
【0046】
一方、外層カバーの厚さは、0.3mm以上、好ましくは1.0mm以上、上限として1.7mm以下、好ましくは1.6mm以下であることが好ましい。」
エ 上記ウから、本願発明特定事項に関する数値限定と本願明細書に開示された発明の課題との因果関係、又は前記数値限定の特定が前記課題を解決するメカニズムを、当業者といえども把握できるものでない。
(2) 小括
上記のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明特定事項に関する多数の数値限定と、本願発明の課題との因果関係、又は前記数値限定の特定が前記課題を解決するメカニズムについて記載も示唆もされていない。
(3) 本願明細書における具体例の開示からの検討
さらに、本願明細書の発明の詳細な説明に記載の具体例について、 本願明細書の「【0054】・・(中略)・・
【0059】【表3】

・・(中略)・・
【0063】【表5】

【0064】【表6】

・・(中略)・・
【0066】【表7】

【0067】【表8】

【0068】・・(中略)・・」
には、実施例1ないし5及び比較例1ないし15の記載がある。
平成19年8月8日付け手続補正により、特許請求の範囲の請求項1について、「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、内層カバーが、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を主材として形成され、外層カバーがポリウレタン系エラストマーを主材として形成されると共に、ソリッドコア表面のショアD硬度が50?60、内層カバーのショアD硬度が53?61、外層カバーのショアD硬度が52?58であり、内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く、かつソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値が53以上58以下、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値が0.48以上1.00以下、外層カバーの厚さと内層カバーとの和が1.5mm以上3.5mm以下、及びディンプルの体積占有率V_(R)値が0.66%以上0.85%以下となることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。」と変更されたものの、この変更に伴う上記実施例1ないし5及び比較例1ないし15についての変更はされず本願明細書において上記実施例1ないし5及び比較例1ないし15に関する記載がある。
そして上記実施例1ないし5及び比較例1ないし15のうち、上記比較例1ないし15は、特許請求の範囲の請求項1に記載の「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆する内外2層のカバーを有すると共に、該カバーの表面に多数のディンプルが形成されてなるマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、内層カバーが、(a)オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物と、(b)オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体及び/又はオレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル3元ランダム共重合体の金属イオン中和物とを質量比で100:0?25:75になるように配合した(f)ベース樹脂と、(e)非アイオノマー熱可塑性エラストマー、(c)分子量が280?1500の脂肪酸及び/又はその誘導体5?80質量部と、及び(d)上記ベース樹脂及び(c)成分中の未中和の酸基を中和できる塩基性金属化合物0.1?10質量部とを配合した混合物を主材として形成され、外層カバーがポリウレタン系エラストマーを主材として形成されると共に、ソリッドコア表面のショアD硬度が50?60、内層カバーのショアD硬度が53?61、外層カバーのショアD硬度が52?58であり、内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く、かつソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値が53以上58以下、外層カバーの厚さを内層カバーの厚さで除した値が0.48以上1.00以下、外層カバーの厚さと内層カバーとの和が1.5mm以上3.5mm以下、及びディンプルの体積占有率V_(R)値が0.66%以上0.85%以下となる」以外となり、特許請求の範囲の請求項1に記載の発明に対応する実施例に相当しないことは明らかである。
そうすると、本願明細書に記載の実施例1ないし5及び比較例1ないし15のうち、特許請求の範囲の請求項1に記載の発明に対応する実施例は上記実施例1ないし5の5例のみにすぎない。
そこで、実施例1ないし5について以下に検討する。
実施例1ないし5に係る内層カバー材料の具体例については、上記段落【0063】【表5】の記載から、段落【0059】【表3】に記載の「○1」及び「○2」(審決注:前記「○1」及び「○2」はそれぞれ○を数字を囲んだ丸付き数字を意味する。)のカバー材配合からなり、前記「○1」及び「○2」のカバー材配合は、それぞれ「ハイミラン1605:65質量部,ダイナロン6100P:35質量部,ベハニン酸:20質量部,水酸化カルシウム:2.4質量部」及び「ハイミラン1605:85質量部,ダイナロン6100P:15質量部,ベハニン酸:20質量部,水酸化カルシウム:2.9質量部」である。
前記「○1」及び「○2」のカバー材配合として含まれる「ハイミラン1605」は、「エチレン-メタクリル酸共重合体ナトリウムイオン中和物」であり(特開2001-348470号公報「【0072】・・(中略)・・ハイミラン1605:エチレン-メタクリル酸共重合体ナトリウムイオン中和物、酸含量15質量%(三井デュポンポリケミカル社製)・・(中略)・・」参照。)、前記特開2001-348470号公報「【0020】本発明の(A)の各成分は、市販品を好適に使用することができ、・・(中略)・・またオレフィン-不飽和カルボン酸ランダム共重合体の金属イオン中和物、オレフィン-不飽和カルボン酸-不飽和カルボン酸エステル三元共重合体の金属イオン中和物としては、アイオノマー樹脂として市販されている、例えば、ハイミラン1554、同1557、同1601、同1605、・・(中略)・・等が挙げられる。」の記載から、特許請求の範囲の請求項1に記載の「(f)ベース樹脂」に係る「(a)」及び「(b)」成分のうち、前記「(a)」成分の1種である「オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物」に相当することは明らかである。
そうすると、実施例1ないし5には、特許請求の範囲の請求項1に記載の「(f)ベース樹脂」に係る「(a)」成分及び「(b)」成分のうち、前記「(a)」成分の1種である「オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物」の具体例のみが記載されているだけで、それ以外の前記「(a)」成分及び「(b)」成分を用いた具体例は記載されていない。
してみれば、特許請求の範囲の請求項1に記載の「(f)ベース樹脂」に係る「(a)」成分及び「(b)」成分のうち、前記「(a)」成分の1種である「オレフィン-不飽和カルボン酸2元ランダム共重合体の金属イオン中和物」の具体例のみをもって、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載のそれ以外の前記「(a)」成分及び「(b)」成分を含む発明における本願発明特定事項に関する多数の数値限定で規定される範囲の技術的意義を裏付けていると当業者といえども把握できるものではない。
したがって、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の上記記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものであるとは認められない。
(4) まとめ
上記(1)ないし(3)にて検討したとおりであるから、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるとは認められず、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものでない。
よって、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

5 進歩性について
(1) 引用例
当審拒絶理由に引用された引用例1及び2並びにその記載事項は、前記第2〔理由〕5(1)に記載したとおりである。

(2) 対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明において、その発明を特定するために必要な事項である「ソリッドコア表面のショアD硬度」、「内層カバーのショアD硬度」、「外層カバーのショアD硬度」、「ソリッドコア表面のショアD硬度と内層カバーのショアD硬度と外層カバーのショアD硬度の平均値」、「外層カバーの厚さと内層カバーとの和」、「ディンプルの体積占有率V_(R)値」を、それぞれ、「53?57」から「50?60」に、「56?60」から「53?61」に、「52?55」から「52?58」に、「54?57」から「53?58」に、「2.3mm以上3.3mm以下」から「1.5mm以上3.5mm以下」に、「0.74%以上0.79%以下」から「0.66%以上0.85%以下」に、拡張するとともに、その発明を特定するために必要な事項である「内層カバーのショアD硬度が外層カバーのショアD硬度よりも高く、その硬度差が1以上6以下であり」について、前記「その硬度差が1以上6以下であり」との限定を省いたものである(上記第2〔理由〕1(1)イ参照。)。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2〔理由〕5(3)に記載したとおり、引用例1に記載された発明、引用例1及び2に記載された事項並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例1に記載された発明、引用例1及び2に記載された事項並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3) まとめ
上記(1)及び(2)のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明、引用例1及び2に記載された事項並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6 むすび
上記3及び4のとおり、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件及び同条第6項に規定する要件のいずれも満たしていない。
また、上記5のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-09 
結審通知日 2010-07-14 
審決日 2010-07-27 
出願番号 特願2001-396582(P2001-396582)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63B)
P 1 8・ 575- WZ (A63B)
P 1 8・ 537- WZ (A63B)
P 1 8・ 536- WZ (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小齊 信之  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 桐畑 幸▲廣▼
菅野 芳男
発明の名称 マルチピースソリッドゴルフボール  
代理人 石川 武史  
代理人 小島 隆司  
代理人 小林 克成  
代理人 重松 沙織  

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