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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N |
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管理番号 | 1223936 |
審判番号 | 不服2009-5976 |
総通号数 | 131 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-11-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-03-19 |
確定日 | 2010-09-16 |
事件の表示 | 特願2005-511304「弾性表面波センサー」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月13日国際公開、WO2005/003752〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成16年4月8日(国内優先権主張日 平成15年7月4日)を国際出願日とする出願であって,平成21年2月6日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年3月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同年4月16日付けで手続補正がなされたものである。さらに,平成22年4月20日付けで審尋がなされ,回答書が同年6月22日付けで請求人より提出されたものである。 第2 平成21年4月16日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 補正後の請求項1に記載された発明 本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであって,そのうち請求項1についてする補正は,補正前の特許請求の範囲(平成20年12月17日付けで補正されたもの。以下,同様。)の 「【請求項1】 弾性表面波素子への微小な質量負荷を周波数変化により検出する弾性表面波センサーであって, SHタイプの弾性表面波を利用しており, オイラー角が(0°,0°?18°,0°±5°)または(0°,58°?180°,0°±5°)である回転YカットLiTaO_(3)基板と, 前記LiTaO_(3)基板上に形成されており,Auを主成分とする表面波励振用電極と, 前記表面波励振用電極を覆うように,前記LiTaO_(3)基板上に形成されており,かつ検出対象物質または検出対象物質と結合する結合物質を結合する反応膜とを備え, 前記電極の弾性表面波の波長で規格化された膜厚が3.0?5.0%の範囲にある,弾性表面波センサー。」 を, 「【請求項1】 弾性表面波素子への微小な質量負荷を周波数変化により検出する弾性表面波センサーであって, SHタイプの弾性表面波を利用しており, オイラー角が(0°,0°?18°,0°±5°)または(0°,58°?180°,0°±5°)である回転YカットLiTaO_(3)基板と,前記LiTaO_(3)基板上に形成されており,Auを主成分とする,インターデジタル電極からなる表面波励振用電極と,前記表面波励振用電極の両側に設けられた反射器とを有する弾性表面波共振子と, 前記表面波励振用電極を覆うように,前記LiTaO_(3)基板上に形成されており,かつ検出対象物質または検出対象物質と結合する結合物質を結合する反応膜とを備え, 前記電極の弾性表面波の波長で規格化された膜厚が3.0?5.0%の範囲にある,弾性表面波センサー。」 と補正するものである。 上記補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「表面波励振用電極」について「インターデジタル電極からなる」との限定を付し,「弾性表面波素子」について「前記表面波励振用電極の両側に設けられた反射器とを有する弾性表面波共振子」を備えるとの限定を付したものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。 そこで,補正後の請求項1に係る発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下検討する。 2 引用刊行物の記載事項 本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開平2-238357号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。なお,以下において,下線は当審にて付与したものである。 (1-ア) 「2 特許請求の範囲 1 圧電結晶上に設けられ,被測定溶液が直接または間接に接触する表面波伝搬面と, 表面波伝搬面の周囲の圧電結晶上に配置され逆圧電効果にて表面弾性波を発生させる入力電極と, 表面波伝搬面の周囲の圧電結晶上に配置され表面弾性波を圧電効果により電気信号として受信する出力電極と, からなり,入力電極により発生される表面弾性波として,表面波伝搬面に平行でかつ伝搬方向に直角な方向に粒子変位を持つ,すべり表面波を主として発生することを特徴とする表面弾性波利用溶液センサ。 2 表面波伝搬面に特定物質と特異的に反応する物質を直接または間接的に結合した第1請求項の表面弾性波利用溶液センサの表面波伝搬面に被測定溶液を注入して,このセンサの発振周波数の変化を観察することにより,被測定溶液中の特定物質の反応性あるいは定量を行う特定物質測定法。」(1頁左下欄4行?同頁右下欄2行) (1-イ) 「[産業上の利用分野] 本発明は,表面弾性波利用溶液センサ及びこのセンサを用いた特定物質測定法に関する。」(1頁右下欄4?6行) (1-ウ) 「[目的] 本発明は,表面弾性波利用溶液センサに,いわゆるすべり表面波を主として発生させることにより,溶液中でも発振を可能とさせ,発振周波数の値から溶液の粘度や濃度,及び抗原抗体といった特定物質の反応性あるいは定量を,迅速にかつ直接的に検出することを目的とする。」(2頁右上欄1?7行) (1-エ) 「また圧電結晶板3の表面には第3図に示すごとく測定部7を挟んで入力側インターデジタル型トランスデューサ-9と出力側インターデジタル型トランスデューサ-11とが配置されている。この各インターデジタル型トランスデューサー(以下IDTと略す。)9,11はケーシング5に覆われているので外部には露出していない。各IDT9,11は櫛歯状の電極9a,9b,11a,1lbの組合せから構成されている。」(3頁左上欄5?13行) (1-オ) 「圧電結晶板3は,表面弾性波の内,すべり表面波を主として発生させるよう構成されている。このような圧電結晶板自身は一般的に知られている。例えば,(1)(当審注:「まる1」を代用。)LiTaO_(3)36゜回転Y板でX伝搬モードの圧電結晶板,(2)(当審注:「まる2」を代用。)XカットLiTaO_(3)150゜伝搬モードの圧電結晶板といったものが用いられる。」(3頁右上欄1?7行) (1-カ) 「次に第2発明の一実施例について説明する。ここで用いられる測定装置61は第9図に示すごとくである。圧電結晶板63の表面には矩形の測定部65を挟んで4つのIDT67,69,71,73が設けられている。IDT67,69,71,73と圧電結晶板63とは測定部65のみを露出して,透明な絶縁樹脂74で覆われている。圧電結晶板は主にすべり表面波を発生するように構成されているので,各発振系のアンプ75,77の作用により,入力側IDT67,71が出力側IDT69,73に向けてすべり表面波が出力され,発振可能となっている。各発振系の発振信号はバンドパスフィルタ79,81により所定の範囲の周波数域のみが差動出力回路83に出力され,その周波数差を示す信号がコンピュータ85に読み込まれて,演算処理がなされ,結果がCRTやプリンタに出力されるように構成されている。 本構成の内,圧電結晶板63とIDT67,69,71,73とからなる部分が,第1発明の表面弾性波利用溶液センサを2つ並べたものに該当する。このセンサの発振周波数特性は第12図に示すごとくであるが,バンドパスフィルタ79,81は,この内,最大ピークPの周波数51MHz前後を通過させている。 矩形の測定部65は測定領域65Sと参照領域65Rとに分かれている。IDT67,69が測定領域65Sにすべり表面波を生じさせ,測定領域65Sでの被測定物の負荷特性を測定している。またIDT71,73が参照領域65Rにすべり表面波を生じさせ,参照領域65Rでの参照負荷特性を測定している。 この装置を用いて,第2発明の一実施例としての,蛋白質を特定物質として検出する測定を説明する。 まず測定領域65Sに,検出する蛋白質に対する抗体を感作しておく。直接,圧電結晶板63の表面あるいはその防食被膜上に抗体を含むバッファ溶液を塗布して物理吸着により感作させてもよいが,例えば測定部65の全面に,抗体が結合しやすいグルタルアルデヒドを塗布しておき,測定領域65Sのみに抗体を含むバッファ溶液を塗布して,間接的に抗体を感作してもよい。 次に測定部65全体に,抗原を含む溶液を滴下する。このことにより抗原抗体反応が生じ,測定領域65Sの発振周波数が変化する。このセンサ61の発振周波数の変化を観察することにより,被測定溶液中の生理活性物質の反応性あるいは定量が可能となる。 ・・・即ち,抗原抗体反応が進行するのに応じて,その質量効果により発振周波数が上昇してゆくことになる。」(4頁左下欄12行?5頁右上欄7行) (1-キ) 「尚,第10図の発振周波数の変化を表す直線は,抗原の濃度が高いほど勾配が大きくなる。・・・ また,高い発振周波数の信号を検出に用いるほど,負荷効果は顕著に現れ,上記直線は急勾配となる。従って,アンプ75,77やバンドパスフィルタ79,81を調節して検出される発振周波数を高く設定すれば,一層明確に早期に抗原の濃度が判明する。」(5頁右上欄15?同頁左下欄15行) (1-ク) 第11図には,測定領域表面の抗体に,溶液中の抗原が結合する様子が描かれている。 上記摘記事項からみて,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。 「センサ61の発振周波数の変化を観察することにより,被測定溶液中の特定物質の反応性あるいは定量を行う表面弾性波利用溶液センサであって, LiTaO_(3)36゜回転Y板でX伝搬モードの圧電結晶板63を備え, 前記圧電結晶板63の表面には矩形の測定部65を挟んで4つのIDT67,69,71,73が設けられており, 前記IDT67,69,71,73と前記圧電結晶板63とは前記測定部65のみを露出して,透明な絶縁樹脂74で覆われており, 前記圧電結晶板63は主にすべり表面波を発生するように構成されており, 前記測定部65の測定領域65Sには,検出する蛋白質に対する抗体が感作されている, 表面弾性波利用溶液センサ。」 また,同様に,本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開2001-77662号公報(以下,「周知例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。 (2-ア) 「【請求項1】 オイラー角が(0°,125°?146°,0°±5°)であるLiTaO_(3)基板と,前記LiTaO_(3)基板上に形成されたIDTよりなり, 前記IDTは,Auを主成分とする電極材料からなり,かつ規格化膜厚H/λ=0.001?0.05にて形成されていることによりSH波を励振するものであることを特徴とする表面波装置。」(1頁左欄16行?同頁右欄1行) (2-イ) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,表面波共振子,表面波フィルタ,共用器等の表面波装置に関し,特にSH波を用いた表面波装置に関する。 【0002】 【従来の技術】 ・・・ 【0003】このような表面波装置として,圧電基板にオイラー角が(0°,-90°,0°)のLiTaO_(3)基板を伝搬する減衰の大きい漏洩弾性表面波を,その基板表面にAuやTa,Wのように質量負荷の大きい金属によって所定膜厚のIDTを構成することにより,伝搬減衰の無いラブ波型の表面波に変換する技術が知られている。」 (2-ウ) 「【0024】また,IDT3の櫛歯部分を構成する電極指は,その規格化膜厚H/λが5%以内になるように設定されている。すなわち,H/λ(電極厚み/励振されるSH波の波長)≦0.05の範囲になるように設定されている。これは,精度良く電極指を形成出来る範囲である。」 (2-エ) 「【0038】なお,本発明の表面波装置でSH波を良好に使用出来る膜厚は,各電極材料で異なり,例えば,Auの場合H/λ=0.001?,Agの場合H/λ=0.002?,Taの場合H/λ=0.002?,Moの場合H/λ=0.005?,Cuの場合H/λ=0.003?,Niの場合H/λ=0.006?,Crの場合H/λ=0.003?,Znの場合H/λ=0.003?,Wの場合H/λ=0.002?であり,伝搬損失や電気機械結合係数を考慮すればこれらの値以上の膜厚が適当である。 【0039】図8は各電極材料における電気機械結合係数の膜厚による変化を示す特性図である。なお,基板材料やカット角・伝搬方向については図6,7と同じ値のものを用いている。図8に示すように,どの金属材料を用いても比較的大きい電気機械結合係数が得られていることがわかる。また,図8に示すように,Alのように比重の小さい金属材料に比べて,他の比重の大きい金属材料の方が電気機械結合係数が大きい。」 3 対比・判断 (1)対比 補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「圧電結晶板63」および「IDT67,69,71,73」は,表面弾性波を発生させて伝搬させるものであるから,「弾性表面波素子」であるといえる。また,引用例1に関する上記摘記事項(1-カ)における「圧電結晶板63の表面には矩形の測定部65を挟んで・・・が設けられている。・・・矩形の測定部65は測定領域65Sと参照領域65Rとに分かれている。・・・測定領域65Sに,検出する蛋白質に対する抗体を感作しておく。次に測定部65全体に,抗原を含む溶液を滴下する。このことにより抗原抗体反応が生じ,測定領域65Sの発振周波数が変化する。このセンサ61の発振周波数の変化を観察することにより,被測定溶液中の生理活性物質の反応性あるいは定量が可能となる。・・・即ち,抗原抗体反応が進行するのに応じて,その質量効果により発振周波数が上昇してゆくことになる。」の記載からみて,引用発明では,圧電結晶板63の表面の測定領域65Sに抗体を感作し,当該抗体と抗原との抗原抗体反応による質量効果による発振周波数の変化を観察しているといえる。そして,引用例1に関する上記摘記事項(1-ク)からみて,上記「抗原抗体反応による質量効果」は,測定領域表面の抗体に微小質量を有する抗原が結合することを意味するものといえる。 してみると,引用発明の「センサ61の発振周波数の変化を観察する・・・表面弾性波利用溶液センサ」は,補正発明の「弾性表面波素子への微小な質量負荷を周波数変化により検出する弾性表面波センサー」に相当する。 イ 引用発明の「すべり表面波」が,SHタイプの弾性表面波であることは,技術常識であるといえる。(必要であれば,特開2002-267640号公報の段落【0004】における「圧電表面すべり波(SH波)」の記載を参照。) してみると,引用発明の「前記圧電結晶板63は主にすべり表面波を発生するように構成され」は,補正発明の「SHタイプの弾性表面波を利用し」に相当する。 ウ 本願明細書(対応する国際公開第2005/003752号。以下同様。)7頁24?25行における「実験例1では,36°回転Y板LiTaO_(3)基板,すなわちオイラー角で(0°,126°,0°)である回転YカットLiTaO_(3)基板を用いたが,」の記載からみて,36°回転Y板LiTaO_(3)基板は,補正発明の「オイラー角が(0°,0°?18°,0°±5°)または(0°,58°?180°,0°±5°)である回転YカットLiTaO_(3)基板」に含まれるものといえる。 してみると,引用発明の「LiTaO_(3)36゜回転Y板でX伝搬モードの圧電結晶板63」を備える点は,補正発明の「オイラー角が(0°,0°?18°,0°±5°)または(0°,58°?180°,0°±5°)である回転YカットLiTaO_(3)基板」を備える点に相当する。 エ 引用例1に関する上記摘記事項(1-エ)に,「圧電結晶板3の表面には・・・入力側インターデジタル型トランスデューサ-9と出力側インターデジタル型トランスデューサ-11とが配置されている。この各インターデジタル型トランスデューサー(以下IDTと略す。)9,11は・・・。各IDT9,11は櫛歯状の電極9a,9b,11a,1lbの組合せから構成されている。」と記載されているように,IDTが電極を備えていることは技術常識である。また,IDTが備える電極は,インターデジタル電極からなる表面波励振用電極であることが明らかである。 してみると,引用発明の「前記圧電結晶板63の表面には矩形の測定部65を挟んで4つのIDT67,69,71,73が設けられて」いる点と,補正発明の「前記LiTaO_(3)基板上に形成されており,Auを主成分とする,インターデジタル電極からなる表面波励振用電極と,前記表面波励振用電極の両側に設けられた反射器とを有する弾性表面波共振子と,」を備える点とは,「前記LiTaO_(3)基板上に形成されており,インターデジタル電極からなる表面波励振用電極と,」を備える点において共通する。 オ 引用発明の「検出する蛋白質」は,補正発明の「検出対象物質」に相当する。また,引用発明の「抗体」は,「検出する蛋白質」すなわち「検出対象物質」を結合する物質であるといえる。 してみると,引用発明の「前記測定部65の測定領域65Sには,検出する蛋白質に対する抗体が感作されている」点と,補正発明の「前記表面波励振用電極を覆うように,前記LiTaO_(3)基板上に形成されており,かつ検出対象物質または検出対象物質と結合する結合物質を結合する反応膜とを備え」る点とは,「前記LiTaO_(3)基板上に形成されており,かつ検出対象物質を結合する物質とを備え」る点において共通する。 してみると,両者は, (一致点) 「弾性表面波素子への微小な質量負荷を周波数変化により検出する弾性表面波センサーであって, SHタイプの弾性表面波を利用しており, オイラー角が(0°,0°?18°,0°±5°)または(0°,58°?180°,0°±5°)である回転YカットLiTaO_(3)基板と,前記LiTaO_(3)基板上に形成されており,インターデジタル電極からなる表面波励振用電極と, 前記LiTaO_(3)基板上に形成されており,かつ検出対象物質を結合する物質とを備えた,弾性表面波センサー。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 (相違点1)インターデジタル電極からなる表面波励振用電極が,補正発明では,「Auを主成分」とし,「弾性表面波の波長で規格化された膜厚が3.0?5.0%の範囲にある」のに対して,引用発明では,そのような構成であるかが不明な点。 (相違点2)補正発明では,「表面波励振用電極と,前記表面波励振用電極の両側に設けられた反射器とを有する弾性表面波共振子」を備えるのに対して,引用発明では,そのような弾性表面波共振子を備えていない点。 (相違点3)前記LiTaO_(3)基板上に形成されており,かつ検出対象物質を結合する物質が,補正発明では,「反応膜」の形態であり,「前記表面波励振用電極を覆うように」形成されているのに対し,引用発明では,反応膜の形態であるかが不明であり,表面波励振用電極を覆うようには形成されていない点。 (2)判断 ア 相違点1について (ア)まず,補正発明では,インターデジタル電極からなる表面波励振用電極が「Auを主成分」としている点について検討する。 弾性表面波センサー等の弾性表面波装置において,表面波を励振するインターデジタル電極の材質としてAuを用いることは,例えば,周知例1に関する上記摘記事項(2-ア),特開2003-163573号公報(以下,「周知例2」という。)の【請求項1】,米国特許第6186005号明細書(以下,「周知例3」という。)の4欄60?67行に記載されているように,本願優先日前に周知である。(周知例として,他にも,特開平9-210975号公報の段落【0005】を参照。) そして,インターデジタル電極の材質として比重の大きなものを使用することは,例えば,周知例1に関する上記摘記事項(2-イ)に記載されているように,周知の技術的課題であるから,引用発明に,上記周知技術を適用し,インターデジタル電極からなる表面波励振用電極が「Auを主成分」とするようにすることは,当業者であれば,何ら困難性はなく,容易に想到し得る事項であるといえる。 (イ)次に,補正発明では,インターデジタル電極からなる表面波励振用電極が,「弾性表面波の波長で規格化された膜厚が3.0?5.0%の範囲にある」点について検討する。 弾性表面波装置において,電極の厚さを表すのに,弾性表面波の波長で規格化した膜厚を用いることは,例えば,周知例1に関する上記摘記事項(2-ア),周知例2の【請求項1】に記載されているように,本願優先日前に周知である。 また,周知例1に関する上記摘記事項(2-ウ)および(2-エ)の記載,特開平9-121136号公報(以下,「周知例4」という。)の段落【0032】における「実用上スプリアスが問題とならない電極膜厚(H/L)の範囲は2.5%以上7.5%以下であり,スプリアスが完全に抑えられ最も良好な周波数特性が得られる電極膜厚(H/L)の範囲は4%以上7%以下であった。」の記載,および,特開昭63-169109号公報(以下,「周知例5」という。)の3頁左下欄16?20行における「同図は第4図に示すように,くし形電極の形成周期をL,線幅をw,膜厚をhとして,横軸は周期で規格化した膜厚h/L,縦軸は中心周波数で規格化した周波数変化率である。」の記載からみて,弾性表面波装置において,精度良く電極指を形成できる範囲,SH波を良好に使用できる範囲,伝播損失,電気機械結合係数,スプリアスが問題とならない範囲,周波数変化率等が,インターデジタル電極の弾性表面波の波長で規格化された膜厚に依存するものであることが,本願優先日前に周知であったといえる。 そうすると,引用発明も弾性表面波を利用した弾性表面波装置であるから,当該技術分野において周知である「電極の弾性表面波の波長で規格化した膜厚」を,電極の厚さを表すのに用いるとともに,規格化された膜厚に依存する上記各特性を考慮しつつ,前記規格化された膜厚として適当な値のものを選択するようにすることは,当業者が適宜なし得る設計的事項であるといえる。また,補正発明において,弾性表面波の波長で規格化された膜厚の下限値を「3.0%」,上限値を「5.0%」と規定していることについては,本願の【図5】,【図6】を参照しても,下限値の「3.0%」の前後,および,上限値の「5.0%」の前後で,周波数変化量,すなわち,センサーの感度に格別顕著な差異が生じているとはいえず,格別な臨界的意義を有するとはいえない。 イ 相違点2について 「表面波励振用電極と,前記表面波励振用電極の両側に設けられた反射器とを有する弾性表面波共振子」を備えた弾性表面波センサーは,例えば,米国特許第6293136号明細書(以下,「周知例6」という。)の3欄28?32行およびFIG.2A,および,特開平2-122242号公報(以下,「周知例7」という。)の6頁左上欄7行?同頁右上欄3行および第5図に記載されているように,本願優先日前に周知である。 そして,上記周知例6のFIG.1および上記周知例7の第3図に,トランスバーサル型の実施例が記載され,上記周知例6のFIG.2Aおよび上記周知例7の第5図に,表面波共振子型の実施例が記載されているように,同一の文献にトランスバーサル型の実施例と表面波共振子型の実施例が記載されているものが複数存在することから,「トランスバーサル型」に変えて「表面波共振子型」を採用することには,動機付けがあり,阻害要因もないといえる。 してみると,引用発明に,上記周知の技術的事項である「表面波励振用電極と,前記表面波励振用電極の両側に設けられた反射器とを有する弾性表面波共振子」の構成を適用し,上記相違点2における補正発明のようにすることは,当業者であれば,何ら困難性はなく,容易になし得る事項であるといえる。 ウ 相違点3について 弾性表面波センサーにおいて,検出対象物質を結合する物質が,「反応膜」の形態であり,「前記表面波励振用電極を覆うように」形成された構成は,例えば,上記周知例6の3欄44?59行,および,上記周知例7の4頁右下欄9?20行および第1,5図に記載されているように,本願優先日前に周知である。(周知例として,他にも,特開平3-100438号公報の第1図,特表平5-509159号公報の2頁右下欄21?23行および1,2図,国際公開第02/095940号のFIG.2,特表平9-512345号公報のFIG.4aを参照。) そして,引用発明も上記周知技術も,弾性表面波センサーという同一の技術分野に属するものであって,検出対象物質を結合する物質の形態やその配置は,当業者が適宜選択し得る事項であるから,引用発明に,上記周知技術を適用し,上記相違点3における補正発明のようにすることは,当業者であれば,何ら困難性はなく,容易になし得る事項であるといえる。 エ 補正発明の有する効果について 本願明細書に記載された補正発明によってもたらされる,センサーの感度を高めるという効果について検討する。 引用例1に関する上記摘記事項(1-キ)には,発振周波数の変化を表す直線をより急勾配とすること,すなわち,発信周波数の変化をより大きくすることで,抗原の濃度をより明確に求めること,すなわち,感度を高めることが記載されているといえる。そして,弾性表面波装置の発振周波数の変化が,電極の膜厚に依存するものであることが,周知例3の4欄25?39行,および,周知例5の3頁左下欄16?20行に記載されている。 そうすると,電極の膜厚として適当な値を選択することによりセンサーの感度が高まるという効果は,引用例1,周知例3および周知例5の記載から,当業者であれば予測することができる程度のものであり,格別顕著なものとはいえない。 したがって,補正発明は,引用発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (3)付記(回答書における請求人の主張について) 請求人は,平成22年6月22日付けで提出された審尋に対する回答書の2頁28行?3頁2行において「引用文献1に記載の弾性表面波デバイスは,入力側IDTと出力側IDTとの間で表面波を伝搬させる,トランス型弾性表面波フィルタであり,引用文献2に記載の共振子型弾性表面波フィルタとは,基本的構造において全く異なるものである。従って,引用文献2に記載の共振子型弾性表面波フィルタにおけるLiTaO_(3)基板の特定のオイラー角範囲を,基本的構造において全く異なる引用文献1に記載のトランスバーサル型弾性表面波フィルタのLiTaO_(3)に,当業者であれば直ちに適用しようとは考えるはずがないものである」と主張し,同回答書の3頁29行?4頁8行において「トランスバーサル型弾性表面波センサー及び共振子型弾性表面波センサーがそれぞれ周知であったとしても,そのことから,トランスバーサル型弾性表面波フィルタを用いた弾性表面波センサーを開示しているにすぎない引用文献1に記載の構成から,直ちに,共振子型弾性表面波フィルタを用いた弾性表面波センサーに変更しようと容易に考えるものではない。引用文献1が共振子型弾性表面波センサーについて何ら開示しておらず,何らの示唆すらしていない以上,引用文献1に記載の発明の効果を得ようとした場合,当業者であれば,引用文献1にしたがって,トランスバーサル型弾性表面波センサーを構成しようと考えるはずである。」と主張している。 しかし,トランスバーサル型弾性表面波センサーを共振子型弾性表面波センサーに変更することが,当業者にとって容易であることは,上記「(2)イ 相違点2について」で検討のとおりである。 また,請求人は,同回答書の4頁23?26行において「表面波励振用電極を覆うように反応膜を配置した構成は,共振子型弾性表面波センサーを前提とした場合に初めて周知である技術であり,引用文献1に記載のトランスバーサル型弾性表面波フィルタにおいては,表面波励振用電極を覆うように反応膜を配置することは決して周知技術とは言えない。」と主張している。 しかし,上記「(2)ウ 相違点3について」で検討のとおり,表面波共振子型においてもトランスバーサル型おいても,表面波励振用電極を覆うように反応膜を配置することは,本願優先日前に周知である。 また,請求人は,同回答書の5頁28行?6頁4行において「本願出願時において,当業者といえども,上記特定の構成を前提とした弾性表面波センサー,すなわち特定のオイラー角のLiTaO_(3)基板を用い,反応膜を表面波励振用電極を覆うように共振子型弾性表面波センサーを構成し,しかも電極の規格化膜厚を3.0?5.0%の範囲とすれば,上記特有の効果が行われることを引用文献1?6の記載から予測し得るものでない。すなわち,上記特有の効果は,非予測性を有する効果である。」と主張している。 しかし,上記「(2)ア 相違点1について」で検討のとおり,電極の規格化膜厚として適当な値のものを選択することは,当業者が適宜なし得る設計的事項であり,規格化された膜厚の下限値を「3.0%」,上限値を「5.0%」としている点についても,格別な臨界的意義を有するとはいえない。また,電極の膜厚として適当な値を選択することによりセンサーの感度が高まるという効果が予測可能なものであることは,上記「(2)エ 補正発明の有する効果について」にて検討のとおりである。 そうすると,請求人の上記主張は,採用することができない。 4 まとめ 以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 以上のとおり,本件補正は,却下されることとなったから,本件特許出願人が特許を受けようとする発明として特定する事項は,平成20年12月17日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものと認められ,そのうち請求項1は,次のとおりである。(以下,「本願発明」という。) 「【請求項1】 弾性表面波素子への微小な質量負荷を周波数変化により検出する弾性表面波センサーであって, SHタイプの弾性表面波を利用しており, オイラー角が(0°,0°?18°,0°±5°)または(0°,58°?180°,0°±5°)である回転YカットLiTaO_(3)基板と, 前記LiTaO_(3)基板上に形成されており,Auを主成分とする表面波励振用電極と, 前記表面波励振用電極を覆うように,前記LiTaO_(3)基板上に形成されており,かつ検出対象物質または検出対象物質と結合する結合物質を結合する反応膜とを備え, 前記電極の弾性表面波の波長で規格化された膜厚が3.0?5.0%の範囲にある,弾性表面波センサー。」 2 引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された引用例およびその記載事項は,上記「第2 2 引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。 3 判断 本願発明は,補正発明から,「インターデジタル電極からなる」,「前記表面波励振用電極の両側に設けられた反射器とを有する弾性表面波共振子」を備えるとの限定を省いたものである。 そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明が,上記「第2 3 対比・判断」において検討のとおり,引用発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明および周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。 4 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-07-16 |
結審通知日 | 2010-07-20 |
審決日 | 2010-08-02 |
出願番号 | 特願2005-511304(P2005-511304) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田中 洋介 |
特許庁審判長 |
岡田 孝博 |
特許庁審判官 |
石川 太郎 後藤 時男 |
発明の名称 | 弾性表面波センサー |
代理人 | 宮▲崎▼ 主税 |