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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07F
管理番号 1224013
審判番号 不服2006-17696  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-11 
確定日 2010-09-17 
事件の表示 特願2003-20635「発光ブロック」拒絶査定不服審判事件〔平成16年8月19日出願公開、特開2004-229817〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
この出願は、平成15年1月29日の出願であって、平成17年11月25日に手続補正書が提出され、平成18年3月6日付けで拒絶理由が通知され、同年5月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月5日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年8月11日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 本願発明
この出願の請求項1?12に係る発明は、平成17年11月25日付け手続補正及び平成18年5月9日付け手続補正により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。
「所定の波長の励起光を照射することにより蛍光を発する希土類錯体又は有機色素を少なくとも一部に分散させた透明又は半透明樹脂から成ることを特徴とする発光ブロック。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成18年 3月 6日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶すべきものである。…
備考
樹脂の技術分野において、該樹脂に添加剤を付与する目的のため、付与の具体的方法を塗布又は混合から選択することは、当業者にとって当然想到し得ることであり、その実行においても何ら困難性はない。」というものであるから、同拒絶理由通知書に記載した理由は、少なくとも進歩性についての理由、すなわち、
「B.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明…に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
という理由を含むものと認められる。
その刊行物は、
特開2000-169840号公報
(以下、「引用例」という。)である。

4 刊行物の記載事項
引用例(特開2000-169840号公報)には、以下の事項が記載されている。
a-1 「蛍光性および発光性を有する蛍光/発光体。」(特許請求の範囲請求項1)
a-2 「請求項1?3のいずれかに記載の蛍光/発光体が、収納または塗布されていることを特徴とする蛍光/発光器具。」(特許請求の範囲請求項4)
a-3「【従来の技術】特定の物質に光(可視光線、紫外線、赤外線等)を照射すると、その物質は光を吸収して電子的励起状態となり、再び光を放出する。この時放出される光は蛍光と呼ばれ、また蛍光を発する性質(蛍光性)を有する物質・組成物は蛍光体と呼ばれている。既に多くの無機化合物・有機化合物(例えば、フルオレセイン、エオシン、エスクリン、シアン化白金、アルカリ土類金属の硫化物等)が蛍光体として知られている。現在蛍光体は、あらゆる工業・産業分野において広く使用されている。その用途は多岐に渡り、染料、顔料、ペンキ、放電管、X線増感紙、生化学試薬等の素材として広く使用され、さらには、種々の物品・製品の視識性・意匠性を高めることを目的として、イルミネーション、交通標識、化粧品、衣料品、玩具等にも使用されている。」(段落【0003】)
a-4 「蛍光以外の原理により光を発する現象(以下単に「発光」という)も知られている。発光としては、物質の化学反応による発光(化学発光)や、発光性生物(発光細菌、ウミホタル、ホタル等)の発光器官で見られる発光(生物発光)等がある。発光性を有する物質・組成物(発光体)としては、既に多くの無機化合物・有機化合物が公知であり、蛍光体と同様、あらゆる工業・産業分野において広く使用されている。化学発光における発光体(以下「化学発光基質」ともいう)としては、アントラセン等が知られている。」(段落【0004】)
a-5 「蛍光体あるいは発光体を取り扱う工業・産業分野においては、より優れた蛍光体あるいは発光体の開発が行われている。しかしながら、これまで、蛍光性および発光性をともに有する物質・組成物(以下「蛍光/発光体」という)に注目し、それを各種物品・工業製品等に応用した例はなかった。」(段落【0005】)
a-6 「「II.「蛍光/発光器具」について
蛍光/発光器具は、前記の蛍光/発光体が、収納または塗布されていることを特徴とする器具である。該器具の形状、大きさ、蛍光/発光体の収納・塗布方法等は、特に限定されず、その用途・操作性等に応じて適宜設定すれば良い。該器具は、これに収納または塗布された蛍光/発光体が蛍光を生じているときはその蛍光が視覚されるように構成されており、かつ、該蛍光/発光体が発光しているときはその発光が視覚されるように構成されていることが好ましい。蛍光/発光体が収納または塗布されるべき基材の形状、素材は任意である。基材の形状としては、動物型、カップ型、グラス型、カプセル型、チューブ型、筒型、板状、直方体、円錐型等が採用できる。また、素材としては、合成高分子、シリカゲル、ガラス、プラスチック、金属、木材、鉱石等が採用できる。」(段落【0008】)
a-7 「以下に、本発明の蛍光/発光器具について例示する。
(a)市販の蛍光灯・紫外灯を基材とし、その表面や内面に蛍光/発光体を塗布したもの。屋内外用の照明器具として使用可能。
(b)市販の玩具(積み木、パズル、人形、乗り物模型等)の表面あるいは内部に、蛍光/発光体を収納または塗布したもの。蛍光および発光を楽しむ玩具として使用可能。」(段落【0009】?【0011】)

5 当審の判断
当審は、本願発明は、原査定の上記理由により特許を受けることができないものである、と判断する。以下、詳述する。

(1)刊行物に記載された発明
引用例は、「蛍光性および発光性を有する蛍光/発光体」(摘記a-1)が「収納または塗布されていることを特徴とする蛍光/発光器具」(摘記a-2)について記載するものであって、その「蛍光」、「発光」について、従来の技術について、「特定の物質に光…を照射すると、その物質は光を吸収して電子的励起状態となり、再び光を放出する。この時放出される光は蛍光と呼ばれ、…蛍光を発する性質(蛍光性)を有する物質・組成物」(摘記a-3)として「多くの無機化合物・有機化合物(例えば、フルオレセイン、エオシン、エスクリン、シアン化白金、アルカリ土類金属の硫化物等)が蛍光体として知られ」(同)、「種々の物品・製品の視識性・意匠性を高めることを目的として、…玩具等にも使用されている」(同)こと、さらには、「蛍光以外の原理により光を発する現象」(摘記a-4)である「発光」も知られ、「発光性を有する物質・組成物(発光体)としては、既に多くの無機化合物・有機化合物が公知であり、蛍光体と同様、あらゆる工業・産業分野において広く使用されている」(同)ことを挙げ、「しかしながら、これまで、蛍光性および発光性をともに有する物質・組成物(以下「蛍光/発光体」という)に注目し、それを各種物品・工業製品等に応用した例はなかった。」(摘記a-5)と記載されている。
これらの引用例の記載からすると、引用例には「蛍光/発光器具」として、蛍光及び発光を楽しむ玩具等のほか、蛍光又は発光のいずれかを楽しむ玩具等も記載されているといえる。
また、光を吸収して電子的励起状態となり、再び光を放出する物質である蛍光体として具体的に挙げられた、「フルオレセイン」、「エオシン」(摘記a-3)は、有機色素といえる(必要ならば、「化学大辞典」(1998年6月1日 東京化学同人発行)参照)。
そして、その「蛍光/発光器具」について、「蛍光/発光体が収納または塗布される」(摘記a-6)とされ、「蛍光/発光体が収納または塗布されるべき基材の形状、素材」については、「任意である。」(摘記a-6)とされ、「基材の形状としては、動物型、カップ型、グラス型、カプセル型、チューブ型、筒型、板状、直方体、円錐型等が採用できる。また、素材としては、合成高分子、シリカゲル、ガラス、プラスチック、金属、木材、鉱石等が採用できる。」(摘記a-6)とある。その例示として、「市販の玩具(積み木、パズル、人形、乗り物模型等)の表面あるいは内部に、蛍光/発光体を収納または塗布したもの。蛍光および発光を楽しむ玩具として使用可能」(摘記a-7)と記載されていることからすると、上記器具として、玩具である積み木等に蛍光体を塗布したものであって、「合成高分子」、「プラスチック」からなるものが記載されているといえる。
そうしてみると、引用例には、
「光を照射し励起状態にすることにより蛍光を発する有機色素を塗布した合成高分子、プラスチックからなる蛍光を楽しむ積み木」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているとすることができる。

(2)本願発明1と引用発明との対比
蛍光体とは特有の波長の光により励起され蛍光を発するものであるから、引用発明における「光を照射し励起状態にすることにより蛍光を発する」は、本願発明1における「所定の波長の励起光を照射することにより蛍光を発する」と同義であり、「合成樹脂」は合成高分子からなるものであり、「プラスチック」は可塑性のある合成樹脂をいうのであるから、引用発明における「合成高分子、プラスチック」は本願発明1における「樹脂」に包含される。そして、引用発明の「蛍光を発する有機色素を塗布」した樹脂も、本願発明1の「少なくとも一部に分散させた透明又は半透明」の樹脂も、ともに「蛍光を発する有機色素を適用した樹脂」ということができる。また、本願発明1における「ブロック」は、具体例として「図1は積み木形状の発光ブロック10を示し」(本願明細書段落【0024】)とあり、実質的に積み木を含むものであるから、引用発明の「積み木」は本願発明1における「ブロック」に包含される。
そうすると、本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、
「所定の波長の励起光を照射することにより蛍光を発する有機色素を適用した樹脂から成ることを特徴とする発光ブロック。」
である点において一致し、以下の点Aにおいて相違するといえる。

A 「蛍光を発する有機色素を適用した樹脂」が、本願発明1では蛍光を発する有機色素を「少なくとも一部に分散させた透明又は半透明」なものであるのに対し、引用発明では蛍光を発する有機色素を「塗布した」ものである点(以下「相違点A」という。)

(3)判断
相違点Aについて検討する。
蛍光を発する有機色素等の蛍光体を樹脂に分散させる方法は、塗布する方法とともに、樹脂に蛍光体を適用して樹脂を発光させる方法として、いずれも周知慣用のもので適宜互換される方法であり(後者について、例えば、特開平9-120706号公報(周知例1)、前者について、先に挙げたもののほか、特開平4-134393号公報(周知例2)、特開昭63-43192号公報(周知例3)参照)、前者の方法(分散させる方法)によるものは、分散した蛍光体に励起光が樹脂を透過して到達し、生じた蛍光が樹脂を透過してから発散する必要があることから、光が透過する透明又は半透明の樹脂を使用することは当然のことである(必要ならば、周知例1の段落【0013】、周知例2の3頁左上欄5行、周知例3の特許請求の範囲等参照)。そうすると、引用発明の蛍光を楽しむ積み木において、蛍光体を樹脂に適用するに当たり、蛍光体を「塗布」したものに代えて「少なくとも一部に分散させた」「透明又は半透明」なものとすることに、格別の創意を認めることはできない。

(4)効果について
そして、本願発明1において、蛍光を発する有機色素を「少なくとも一部に分散させた透明又は半透明」なものとすることにより格別予期し得ない効果を奏するものではない。
なお、審判請求人は本願発明1の効果に関し、本願発明1に係るブロックは、紫外線の照射により「含有させた(分散させた)希土類錯体の種類に応じた色で発光し」(審判請求書4.3.2 理由B1)、「非常に美麗な発光ブロックが得られます。」(同)と記載している。
しかし、そもそも蛍光体は紫外線等の照射により蛍光体の種類に応じた色で発光するものであるから、これを透明又は半透明樹脂から成るブロックに分散させたものも、同様の発光をすることは自明であるし、ブロックの表面だけでなく内部から蛍光が発せられることも、蛍光体を樹脂に分散させることによる自明の効果にすぎず、いずれも格別な効果といえるものではない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用例に記載された発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 審判請求人の主張について
審判請求人は、「拒絶査定においては『平成18年3月6日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである』とだけ述べられており、同拒絶理由通知書に記載のA、B、C(上記請求人の整理後の理由A?C2)のうちのいずれが拒絶の理由となっているのかが明記されていません。」(審判請求書4.1 拒絶査定の理由)と主張する。
確かに、拒絶査定においては『平成18年3月6日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである』と、その「理由」が、同拒絶理由通知書に記載した理由A、B、Cのいずれ(又は、すべて)であるかを明示はするものではない。
しかし、拒絶査定の「備考」の欄には、「樹脂の技術分野において、該樹脂に添加剤を付与する目的のため、付与の具体的方法を塗布または混合から選択することは、当業者にとって当然想到し得ることであり、その実行においても何ら困難性はない。」と記載され、この記載は、この出願の発明と引用例に記載された発明との相違点を、樹脂への添加剤の付与の具体的方法として、塗布(により樹脂の表面に存在させること)又は(樹脂と)混合(して樹脂に含有させ内部に存在させること)のいずれも常法であることを前提として、「付与の具体的方法を塗布または混合から選択することは、当業者にとって当然想到し得ることであり、その実行においても何ら困難性はない。」と判断していると理解できるものであることから、同拒絶理由通知に挙げた進歩性に関する理由B(特許法第29条第2項)についていうものと認められる。
そうすると、拒絶査定の理由には少なくとも進歩性に関する理由Bが含まれることは、明らかである。
そして、当審は、上記5のとおり、原査定の進歩性に関する理由Bにより本願発明1は特許を受けることができないと判断するのであるから、審判請求人の上記不備についての主張は、上記5の判断を左右するものではない。
したがって、審判請求人の上記主張は採用することはできない。

7 むすび
以上のとおり、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-28 
結審通知日 2009-11-04 
審決日 2009-11-19 
出願番号 特願2003-20635(P2003-20635)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 本堂 裕司  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 唐木 以知良
井上 千弥子
発明の名称 発光ブロック  
代理人 小林 良平  

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