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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B41N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 B41N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41N
管理番号 1224062
審判番号 不服2007-31092  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-16 
確定日 2010-09-22 
事件の表示 特願2002-575229「レーザー彫刻によるフレキソ印刷版の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月 3日国際公開、WO02/76739、平成16年11月 4日国内公表、特表2004-533343〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2002年3月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年3月21日、独国)を国際出願日とする出願であって、平成19年8月1日に手続補正がなされ、同年8月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年12月13日に手続補正がなされたものである。

第2 平成19年12月13日付け手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成19年12月13日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容・目的
(1)補正の内容
ア 平成19年12月13日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、本件補正前に、
「【請求項1】 (a)少なくとも1種の弾性バインダー、重合性化合物、光開始剤または光開始剤組成物、及び微粒子状のフィラーを含む少なくとも1種の光化学架橋性レリーフ層を寸法安定支持層に施す工程、
(b)レリーフ層を化学線の照射により表面全体に亘って架橋させる工程、
(c)印刷レリーフをレーザーにより架橋レリーフ層に彫刻する工程、
を含むレーザー彫刻によるフレキソ印刷版の製造方法であって、
フィラーが、1?400nmの粒径及び30?300m^(2)/gの比表面積を有し、熱分解法二酸化ケイ素、熱分解法二酸化チタン、熱分解法酸化アルミニウム及び熱分解法のアルミニウムドープ処理二酸化ケイ素から選択される少なくとも1種の酸化物であり、使用される量が、レリーフ層が透明となる条件でレリーフ層の全成分に対して、0.1?8質量%であることを特徴とする製造方法。
【請求項2】 0.2?5質量%のフィラーを使用する請求項1に記載の方法。」
とあったものを、

「【請求項1】 (a)少なくとも1種の弾性バインダー、重合性化合物、光開始剤または光開始剤組成物、及び微粒子状のフィラーを含む少なくとも1種の光化学架橋性レリーフ層を寸法安定支持層に施す工程、
(b)レリーフ層を化学線の照射により表面全体に亘って架橋させる工程、
(c)印刷レリーフをレーザーにより架橋レリーフ層に彫刻する工程、
を含むレーザー彫刻によるフレキソ印刷版の製造方法であって、
フィラーが、1?400nmの粒径及び30?300m^(2)/gの比表面積を有し、熱分解法二酸化ケイ素であり、使用される量が、レリーフ層が透明となる条件でレリーフ層の全成分に対して、0.2?5質量%であることを特徴とする製造方法。」に補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)

イ 本件補正は、以下(ア)及び(イ)の内容からなる。
(ア)本件補正前の請求項1を削除するとともに、本件補正前の請求項1を引用する本件補正前の請求項2を請求項1に繰り上げる。
(イ)本件補正前の請求項2に係る発明を特定するために必要な事項である「熱分解法二酸化ケイ素、熱分解法二酸化チタン、熱分解法酸化アルミニウム及び熱分解法のアルミニウムドープ処理二酸化ケイ素から選択される少なくとも1種の酸化物」を、「熱分解法二酸化ケイ素」と限定する。

(2)補正の目的
上記(1)イのとおり、本件補正は、本件補正前の請求項2に係る発明を特定するために必要な事項を限定して本件補正後の請求項1とするものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 独立特許要件について
(1)特許法第36条第4項違反
ア 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0014】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来からのレーザー彫刻によるフレキソ印刷版の製造方法に対して、溶融エッジの発生を回避可能となり、十分に高い分解能を達成可能となるレーザー彫刻によるフレキソ印刷版を製造する改良法を提供するという目的が開示されていると認められる。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に示された「フィラーが、1?400nmの粒径及び30?300m^(2)/gの比表面積を有し、熱分解法二酸化ケイ素であり、使用される量が、レリーフ層が透明となる条件でレリーフ層の全成分に対して、0.2?5質量%である」(以下「本願補正発明特定事項」という。)との多数の数値限定で規定する範囲が発明の解決しようとする課題を達成するために有効であることが、当業者にとって理解できるように記載されていない。また、発明の解決しようとする課題との関係で多数の数値限定で規定する技術的意義は明らかでない。
イ 本願の明細書の発明の詳細な説明には、以下の(ア)ないし(ウ)の記載がある。
(ア) 「【0015】
これにより、本発明者等は、印刷レリーフを、光化学架橋により得られる透明なレリーフ層を有するレーザー彫刻可能なフレキソ印刷エレメント(フレキソ印刷材料)に彫刻することによる透明なフレキソ印刷版の製造方法を見出し、その際に、レリーフ層は、0.1?8質量%、好ましくは0.2?5質量%の、1?400nmの粒径の酸化物、ケイ酸塩またはゼオライト固体を含んでいる。」
(イ) 「【0026】
本発明の方法を行うために、無機固体をレリーフ層に添加する。本発明に従い添加される固体の粒径は、1?400nmの範囲である。粒径は、2?200nmの範囲が好ましく、5?100nmの範囲が特に好ましい。これにより、可視光の波長より小さい。従って、フィラーを含むレーザー彫刻可能な層は、透明となる。球形またはほぼ球形の粒子の場合、粒径の規定は直径に関するものであり、一方、不規則な形状の粒子、例えば針状の粒子の場合、粒径の規定は最長径軸に関する。用語「粒径」は、一次粒径を意味する。当業者にとって、固体粒子が一次粒径を低減させて凝集する傾向が高くなり、これにより大きな二次粒径を形成することは言うまでもあるまい。従って、所定のマトリックスにおいて使用する場合、通常、極めて烈しく分散させる必要がある。
【0027】
特に、比表面積30?300m^(2)/gのフィラー、特に好ましくは比表面積100?200m^(2)/gのフィラーが、本発明による方法を行う場合に良好であると証明された。
【0028】
このフィラーは無色であるのが一般的である。しかしながら、本発明は、特定の用途に着色フィラーを使用することも包含しているが、レリーフ層が透明であり、且つこれによりリーフ層の光化学架橋に悪影響を与えないという条件で使用する。」
(ウ) 「【0054】
比較実施例1:
78質量%のSISブロック共重合体(クラトン(登録商標)1161)、12.5質量%のアクリレート、1質量%の光開始剤及び8.5質量%の助剤を含む光電性混合物を、130℃の材料温度で二軸スクリュー押出器において押し出し、そしてスロットダイにより排出した。この押出ダイから排出する溶融物を、二ロールカレンダー成型機のニップに導入した。この2本のロールを80℃に加熱した。接着ラッカーで被覆されたPETフィルムを、ベースフィルムとして、第1カレンダーロールにおけるカレンダーニップに導入し、PET保護フィルムを他方のロールに導入した。これにより得られたサンドイッチエレメントを冷却し、そして裁断した。
【0055】
保護フィルムの除去後、これにより得られた感光性フレキソ印刷エレメントを、前面を30分間、そして背面を30分間、それぞれUV-A光に暴露することにより表面全体に亘って架橋させた。この版は透明であった。
【0056】
次いで、この版を上述したように、レーザー装置のシリンダー上に載置した。上記分割線での線画及び試験モチーフを彫刻し、そして評価した。実験結果を表1に示す。図1では、これにより得られた試験モチーフの顕微鏡写真を示している。
【0057】
実施例1:
比較実施例における操作と同様であるが、1質量%(層における全構成分の合計に対するものである)の、比表面積160m^(2)/g及び平均一次粒径10?20nmの微粒子状熱分解法二酸化ケイ素(エアロシル(登録商標)R8200、デグサ社製)を、フレキソ印刷エレメントの製造中にフィラーとして添加した。
【0058】
実験結果を表1に示す。図2は、これにより得られた試験モチーフの顕微鏡写真を示している。
【0059】
実施例2?3:
比較実施例における操作と同様であるが、表1に示されている量の二酸化ケイ素をフレキソ印刷エレメントの製造中にフィラーとして添加した。実験結果を表1に示す。
【0060】
これにより得られた彫刻結果は、本発明により僅かに1%のフィラーを添加することにより分解能を劇的に改善することを示している。20μmの分割線におけるフィラー線画の無い版の場合、もはや全く分解不可能であり、その代わりに、一致して、単一の線画を形成し、一方、2本の線画を1%のSiO_(2)の存在下で分解可能であった。
【0061】
各図では、フィラーが含まれる場合、示されているポジティブエレメントのエッジが十分に鋭くなることを示している。フィラー無しであると、暗色の溶融液滴がエッジの位置で明らかとなり、これは、本発明に従い充填される版の場合に存在しない。
【0062】
ネガティブエレメントは、充填版の場合に十分に良好となることを見出すことも可能であった。
【0063】
【表1】


(エ) 実施例1ないし3が引用する比較実施例に係る上記(ウ)の段落【0054】の「78質量%のSISブロック共重合体(クラトン(登録商標)1161)、12.5質量%のアクリレート、1質量%の光開始剤及び8.5質量%の助剤を含む光電性混合」において、前記「アクリレート」、「光開始剤」及び「助剤」についてそれぞれ具体的化合物が記載されておらず、比較実施例を引用する実施例1ないし3を当業者が実施することはできない。
(オ) また上記(ア)ないし(ウ)のとおり、本願明細書には、フィラーとしていずれも「比表面積160m^(2)/g及び平均一次粒径10?20nmの微粒子状熱分解法二酸化ケイ素(エアロシル(登録商標)R8200、デグサ社製)」を用いた本願補正発明の実施例1?3、フィラーを全く用いない比較実施例1のわずか4つの具体例が記載されているにすぎず、上記以外の比表面積及び粒径の熱分解法二酸化ケイ素や、熱分解法によらない二酸化ケイ素をフィラーとして用いた具体例は全く記載されていない。
なお、請求人は、審判請求書において、比表面積4.5m^(2)/g、粒径3000nmの熱分解法によらない二酸化ケイ素をフィラーとして用いた2つの比較例を新たに提示しているが、これらの比較例を考慮しても、本願補正発明が特定する「1?400nmの粒径及び30?300m^(2)/gの比表面積」の「熱分解法二酸化ケイ素」をフィラーとして用いることの臨界的な意義は明らかでない。
したがって、本願補正発明において、「フィラーが、1?400nmの粒径及び30?300m^(2)/gの比表面積を有し、熱分解法二酸化ケイ素」と特定することにより、「溶融エッジの発生を回避可能となり、十分に高い分解能を達成可能となる」という本願補正発明の効果が奏されるとは、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載を以てしては、当業者といえども理解できない。
(カ) 上記(エ)及び(オ)より、本願の発明の詳細な説明は、技術的意義が明らかでなく、本願補正発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
ウ まとめ
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項でいう経済産業省令で定めるところによる記載がされておらず、当業者が本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載の発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

(2)特許法第36条第6項第1号違反
本願の特許請求の範囲の請求項1の記載について
本願補正発明は、多数の数値限定で「レーザー彫刻によるフレキソ印刷版の製造方法」を特定しようとするものである。
そこで、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の本願補正発明特定事項に係る多数の数値限定に関する記載について、以下に検討する。
ア 本願明細書に開示された発明の課題と、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の上記記載との技術的関係
(ア) 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0014】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来からのレーザー彫刻によるフレキソ印刷版の製造方法に対して、溶融エッジの発生を回避可能となり、十分に高い分解能を達成可能となるレーザー彫刻によるフレキソ印刷版を製造する改良法を提供するという目的が開示されていると認められる。
(イ) 本願明細書の発明の詳細な説明には、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に示された本願補正発明特定事項に関する数値限定に関連して、以下a及びbに示す記載がある。
a 「【0015】
これにより、本発明者等は、印刷レリーフを、光化学架橋により得られる透明なレリーフ層を有するレーザー彫刻可能なフレキソ印刷エレメント(フレキソ印刷材料)に彫刻することによる透明なフレキソ印刷版の製造方法を見出し、その際に、レリーフ層は、0.1?8質量%、好ましくは0.2?5質量%の、1?400nmの粒径の酸化物、ケイ酸塩またはゼオライト固体を含んでいる。」
b 「【0026】
本発明の方法を行うために、無機固体をレリーフ層に添加する。本発明に従い添加される固体の粒径は、1?400nmの範囲である。粒径は、2?200nmの範囲が好ましく、5?100nmの範囲が特に好ましい。これにより、可視光の波長より小さい。従って、フィラーを含むレーザー彫刻可能な層は、透明となる。球形またはほぼ球形の粒子の場合、粒径の規定は直径に関するものであり、一方、不規則な形状の粒子、例えば針状の粒子の場合、粒径の規定は最長径軸に関する。用語「粒径」は、一次粒径を意味する。当業者にとって、固体粒子が一次粒径を低減させて凝集する傾向が高くなり、これにより大きな二次粒径を形成することは言うまでもあるまい。従って、所定のマトリックスにおいて使用する場合、通常、極めて烈しく分散させる必要がある。
【0027】
特に、比表面積30?300m^(2)/gのフィラー、特に好ましくは比表面積100?200m^(2)/gのフィラーが、本発明による方法を行う場合に良好であると証明された。
【0028】
このフィラーは無色であるのが一般的である。しかしながら、本発明は、特定の用途に着色フィラーを使用することも包含しているが、レリーフ層が透明であり、且つこれによりリーフ層の光化学架橋に悪影響を与えないという条件で使用する。
【0029】
添加されるフィラーは、酸化物、ケイ酸塩及びゼオライトの固体から選択される。
【0030】
好適なフィラーの例は、微粒子状のガラス微粒子、例えばスフェリグラス(Spheriglas)(登録商標)(Potters-Ballotini社製)である。使用可能なケイ酸塩は、例えば微粒子状のベントナイトまたはアルミノシリケート、例えば微粒子状の長石である。
【0031】
好適な酸化物の固体は、特に単体のケイ素、アルミニウム、マグネシウム、チタンまたはカルシウムの酸化物又は混合酸化物である。これらは、追加的にドープ剤を含んでいても良い。当業者にとって、微粒子状の無機固体が常に所定量の水を、表面上に吸収された状態で、または化学結合により含んでいることは言うまでもあるまい。沈殿法により得られる酸化物、例えば沈殿ケイ酸を使用することが可能である。極めて好適なのは、熱分解法の酸化物、すなわち適当な出発物質の熱分解により得られる化合物である。特に、熱分解法二酸化ケイ素、熱分解法酸化アルミニウム、熱分解法アルミニウム-ドープ処理二酸化ケイ素または熱分解法二酸化チタンを使用可能である。この種類の酸化物は市販されており、例えば商品名エアロシル(Aerosil)(登録商標)(デグサ社製)である。フィラーは、適当な分散助剤、接着促進剤または疎水化剤で被覆されていても良い。2種以上のフィラーの混合物を使用することも可能である。
【0032】
0.1?8質量%の微粒子状フィラーを本発明による方法に使用する。量のデータは、レーザー彫刻可能なレリーフ層の全構成分の合計に対するものである。
この層は、0.2?5質量%のフィラーを含んでいるのが好ましく、1?5質量%のフィラーを含んでいるのが特に好ましい。」
(ウ) 上記(イ)から、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の本願補正発明特定事項に関する数値限定と本願明細書に開示された発明の課題との因果関係、又は前記数値限定の特定が前記課題を解決するメカニズムを、当業者といえども把握できるものでない。
(エ) 上記(ア)ないし(ウ)にて検討したとおり、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の本願補正発明特定事項に関する数値限定と、本願明細書に開示された発明の課題との間に、明確な技術的関係があるとは、当業者といえども理解することができない。
イ 小括
上記のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の本願補正発明特定事項に関する数値限定と、本願補正発明の課題との因果関係、又は前記数値限定の特定が前記課題を解決するメカニズムについて記載も示唆もされていない。
ウ 本願明細書における具体例の開示からの検討
(ア) 本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の「フィラーが、1?400nmの粒径及び30?300m^(2)/gの比表面積を有し、熱分解法二酸化ケイ素であり、使用される量が、レリーフ層が透明となる条件でレリーフ層の全成分に対して、0.2?5質量%である」について、以下に検討する。
(イ) 本願明細書の発明の詳細な説明に記載の具体例である実施例1ないし3は、「フィラーが、1?400nmの粒径及び30?300m^(2)/gの比表面積を有し、熱分解法二酸化ケイ素であり、使用される量が、レリーフ層が透明となる条件でレリーフ層の全成分に対して、0.2?5質量%である」について、「フィラーが、10?20nmの粒径及び160m^(2)/gの比表面積を有し、熱分解法二酸化ケイ素であり、使用される量が、レリーフ層が透明となる条件でレリーフ層の全成分に対して、1質量%、3質量%、5質量%、」とした具体例であって、1種のみの熱分解法二酸化ケイ素についてレリーフ層の全成分に対する配合質量%を1質量%、3質量%、5質量%とした3例のみにすぎない。
してみれば、1種のみの熱分解法二酸化ケイ素をレリーフ層の全成分に対して配合質量%を1質量%、3質量%、5質量%とした前記実施例1ないし3ついての3例のみの具体例をもって、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載の発明における「フィラーが、1?400nmの粒径及び30?300m^(2)/gの比表面積を有し、熱分解法二酸化ケイ素であり、使用される量が、レリーフ層が透明となる条件でレリーフ層の全成分に対して、0.2?5質量%である」構成が、発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。
(ウ) したがって、本願補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6号第1項に規定された要件(サポート要件)を満たさない。
エ まとめ
上記アないしウにて検討したとおりであるから、本願補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものでない。

上記(1)に示したように、本願の明細書の発明の詳細な説明には、本願補正発明について、特許法第36条第4項でいう経済産業省令で定めるところによる記載がされておらず、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。また本願補正発明は、上記(2)に示したように、本願の発明の詳細な説明に記載されたものではないが、当業者が特許請求の範囲に記載された事項から把握される発明が本願の発明の詳細な説明の記載から理解できるものと善解し、本願補正発明について進歩性を検討する。

(3)特許法第29条第2項違反
ア 刊行物の記載事項
平成19年3月29日付け拒絶の理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である特表平7-506780号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項(ア)ないし(キ)が記載されている。
(ア)「請 求 の 範 囲
1.(a)可撓性支持体の頂部にあるエラストマー層を強化して、必要に応じてこのエラストマー層上に除去可能なカバーシートを有することのできる、レーザーで彫刻可能なフレキソグラフ印刷エレメントを作成し、この場合強化は、機械的、光化学的および熱化学的強化またはこれらの組合わせからなる群から選択されるが、但し熱化学的強化は、硫黄、硫黄含有化合物または過酸化物以外の架橋剤を用いて実施されるものとし、そして
(b)工程(a)のレーザーで彫刻可能なエレメントを予め選定した少なくとも一つのパターンに従ってレーザー彫刻するが、但しカバーシートが存在する場合は、レーザー彫刻に先立ってそれを除去するものとする
ことからなる、単層のフレキソグラフ印刷板を製造する方法。」(2頁左上欄1行?13行)

(イ)「得られるエレメントが後に論するごとくレーザー彫刻可能なように、適したエラストマー材料が選択されねばならない…(略)…
このようなエラストマー材料の例は、…(略)…ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレン(SBS)、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレン(SIS)…(略)…」(4頁左下欄11行?右下欄9行)

(ウ)「機械的強化は補強材と称される物質を含ませることによって達成できる。・・(略)・・このような補強材の例には、カーボンブランク、シリカ、TlO_(2)、炭酸カルシウムおよび珪酸カルシウム、硫酸バリウム、グラファイト、雲母、アルミニウムならびにアルミナのそれぞれ微粒子が含まれてよいが、これらに限定されはしない。
補強材の量は増加すると、エラストマー材料のレーザー彫刻性と機械的特性との同時的な改善を惹き起しつつ、ついには最大の改善に到達する。この改善は特定の組成について最適の配合を示す。この点を過ぎると、エラストマー材料の特性は悪化することになる。
補強材の有効性はその粒子寸法およびその(審決注:「そり」は「その」の明らかな誤記であるので訂正して摘記した。)凝集するかまたは鎖状物を形成する傾向にも依存する。・・(略)・・他の補強材については、直径数マイクロメートルまでの粒子寸法を使用できる。集塊物または鎖状物を形成する傾向のある補強材は、エラストマー中に一層分散しにくくそして剛性と硬度とは比較的高いが、引張強度と靭性とは低い材料が得られる。」(5頁左上欄7行?右上欄10行)

(エ)「光化学的強化は、光硬化性材料をエラストマ一層中に含ませそしてこの層を活性線に露光することによって実施される。光硬化性材料は周知であり、またそれには光架橋性もしくは光重合性の系またはこれらの組合せがある。・・(略)・・いくつかの系においては、光架橋と光重合の両方が起きる。
エラストマー中に配合することのできる光硬化性材料は一般に、光開始剤またはその系(以下「光開始剤系」と称する)と、(i)重合することのできるモノマーまたはオリゴマー、(i)エラストマーの懸垂基をなす互いに反応しうる反応基または(州)エラストマーの懸垂基をなず反応基とこれと反応しうる架橋剤とのいずれか一つとを含む。」(5頁右上欄11行?左下欄3行)

(オ)「遊離ラジカル重合を行うモノマーは典型的には、エチレン性不飽和化合物である。-官能性化合物の例には、アルコールのアクリレートエステルおよびメタクリレートエステルおよびこれらの低分子量オリゴマーがある。遊離ラジカルで誘発される付加反応を行いうる二つまたはそれ以上の不飽和な部位を有する好適なモノマーおよびオリゴマーの例には、多価アルコールのポリアクリレートエステルおよびポリメタクリレートエステル例えばトリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、1.6-ヘキサンジオールおよびペンタエリスリトールならびにこれらの低分子量オリゴマーがある。」(5頁右下欄16行?24行)

(カ)「ベースないしは支持体は可撓性であってエラストマ一層に十分に接着せねばならない。加えて、ベースないしは支持体はエレメントに対して寸法安定性を与える。」(8頁左下欄17行?19行)

(キ)「エラストマー材料が機械的に強化されるエレメントの場合、材料が支持体に施された後は、エレメントはレーザー彫刻に対して十分に準備されている。必要ならば、上述に論じたようにレーザー彫刻に先立ってエレメントの粘着性を除去することができる。
エラストマー材料が光化学的に強化されるエレメントの場合、支持体へのエラストマー材料の施用の後、レーザー彫刻に先立って深部までの光硬化を行うために、引続いて化学的放射線への全体的曝露が行われるべきである。」(9頁右上欄22行?25行)

(ク)上記(ア)ないし(キ)から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「可撓性支持体の頂部にエラストマー層を施し、レーザーで彫刻可能なフレキソグラフ印刷エレメントを作成する工程と、該フレキソグラフ印刷エレメントをレーザー彫刻する工程とからなる、単層のフレキソグラフ印刷板を製造する方法であって、
前記可撓性支持体は、フレキソグラフ印刷エレメントに対して寸法安定性を与えるものであり、
前記エラストマー層は、
ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレン(以下「SBS」という。)又はポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレン(以下「SIS」という。)からなるエラストマー材料に、
シリカの微粒子を含むことで機械的に強化され、
光開始剤と、重合することのできるモノマーまたはオリゴマーとしてアルコールのアクリレートエステルおよびメタクリレートエステル又は多価アルコールのポリアクリレートエステルおよびポリメタクリレートエステルとを含む、光架橋性かつ光重合性の光硬化性材料を含み、レーザー彫刻に先立って化学的放射線で全体的に露光され光架橋及び光重合を起こすことで光化学的にも強化されるものである、
単層のフレキソグラフ印刷板を製造する方法。」

イ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「『寸法安定性』を与える『可撓性支持体』」、「SBS又はSISからなるエラストマー」、「『レーザー彫刻する工程』を含む『フレキソグラフ印刷板を製造する方法』」、「シリカ」、「光開始剤」、「重合することのできるモノマーまたはオリゴマーとしてアルコールのアクリレートエステルおよびメタクリレートエステル又は多価アルコールのポリアクリレートエステルおよびポリメタクリレートエステル」及び「化学的放射線」は、それぞれ、本願補正発明の「寸法安定支持層」、「弾性バインダー」、「レーザー彫刻によるフレキソ印刷版の製造方法」、「二酸化ケイ素」、「光開始剤」、「重合性化合物」及び「化学線」に相当する。

(イ)引用発明のシリカ(二酸化ケイ素)の微粒子は、エラストマー層(弾性バインダー)に含まれるもので、充填材、すなわちフィラーといえるから、本願補正発明の「微粒子状のフィラー」に相当する。

(ウ)引用発明において、SBS又はSISからなるエラストマー(弾性バインダー)に、シリカの微粒子(微粒子状のフィラー)を含ませて機械的に強化し、光開始剤と、重合することのできるモノマーまたはオリゴマー(重合性化合物)としてアルコールのアクリレートエステルおよびメタクリレートエステル又は多価アルコールのポリアクリレートエステルおよびポリメタクリレートエステルを含む、光架橋性かつ光重合性の光硬化性材料を含ませ、化学的放射線で露光して光架橋及び光重合を起こし光化学的に強化して、レーザーで彫刻可能なフレキソグラフ印刷エレメントを作成することから、引用発明の「シリカの微粒子、光開始剤と、重合することのできるモノマーまたはオリゴマーとしてアルコールのアクリレートエステルおよびメタクリレートエステル又は多価アルコールのポリアクリレートエステルおよびポリメタクリレートエステルを含む、光架橋性かつ光重合性の光硬化性材料を含ませたエラストマー層」は、本願補正発明の「少なくとも1種の弾性バインダー、重合性化合物、光開始剤または光開始剤組成物、及び微粒子状のフィラーを含む少なくとも1種の光化学架橋性レリーフ層」に相当し、引用発明の「エラストマー層を化学的放射線で露光して光架橋及び光重合を起こしてなる、レーザーで彫刻可能なフレキソグラフ印刷エレメント」は、本願補正発明の「架橋レリーフ層」に相当する。

(エ)引用発明において、可撓性支持体(寸法安定支持層)の頂部にエラストマー層(光化学架橋性レリーフ層)を施すことから、引用発明は、本願補正発明の「光化学架橋性レリーフ層を寸法安定支持層に施す工程」を備えている。

(オ)引用発明において、エラストマー層(光化学架橋性レリーフ層)が化学的放射線(化学線)で全体的に露光され光架橋を起こすことから、引用発明は、本願補正発明の「レリーフ層を化学線の照射により表面全体に亘って架橋させる工程」を備えている。

(カ)引用発明の「フレキソグラフ印刷エレメント(架橋レリーフ層)をレーザー彫刻する工程」は、本願補正発明の「印刷レリーフをレーザーにより架橋レリーフ層に彫刻する工程」に相当する。

(キ)上記(ア)ないし(カ)から、本願補正発明と引用発明とは、
「(a)少なくとも1種の弾性バインダー、重合性化合物、光開始剤または光開始剤組成物、及び微粒子状のフィラーを含む少なくとも1種の光化学架橋性レリーフ層を寸法安定支持層に施す工程、
(b)レリーフ層を化学線の照射により表面全体に亘って架橋させる工程、
(c)印刷レリーフをレーザーにより架橋レリーフ層に彫刻する工程、
を含むレーザー彫刻によるフレキソ印刷版の製造方法であって、
フィラーが、二酸化ケイ素である製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
二酸化ケイ素である上記フィラーが、本願補正発明では、「1?400nmの粒径及び30?300m^(2)/gの比表面積」を有し、「熱分解法」によるものであり、「レリーフ層が透明となる条件でレリーフ層の全成分に対して、0.2?5質量%」使用されるのに対して、引用発明では、その粒径、比表面積、製造法及び使用される量のいずれも明らかでない点。

ウ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点について
a 「熱分解法シリカ」を「フュームドシリカ」、「アエロシル」又は「無水シリカ」ともいうことは技術常識である(例.特開平8-117605号公報段落【0021】「・・(略)・・本発明において有用な合成シリカは溶融石英(fused silica)(フュームドシリカ、アエロシル、熱分解法シリカとも呼ばれる)である。これらは一般に四ハロゲン化ケイ素またはシリコンテトラアルコキシドの気相加水分解により製造される。溶融石英の他の製造法としては、SiO_(2) の気化、ケイ素の気化および酸化、ケイ酸エステルのようなケイ素化合物の高温酸化および加水分解を挙げることができる。」、特開平10-7932号公報「【0002】【従来の技術】無機粉末は各種用途に使用されている。中でもアエロジルとして知られる、四塩化ケイ素の燃焼加水分解を利用して乾式法により製造された酸化ケイ素 (気相シリカ、ヒュームドシリカ、無水シリカ等とも呼ばれる・・(略)・・」及び特開平7-33427号公報【0005】「これに対して乾式法による場合は通常のシリカとは物性を異にしたものが得られ、例えば珪素を予め揮発性を有する塩化物となし、次いで気化した後酸素及び水素の混合気流炎中に導入し、熱分解することによって得たシリカは超微粒子状無水シリカと呼ばれ、ほぼ完全な球状微粒子からなる粒子径の揃った粉体が得られ、凝集性が少なく、小嵩比重であると共に分散性の優れた通称アエロシルと呼ばれるシリカ微粒子を得ることが出来る。」参照。以下、「技術常識」という。)。
b 上記aより、「熱分解法シリカ」が透明であり、かつ、「湿式法シリカ」に比べ、凝集性が少なく、分散性に優れていることは周知である(以下、「周知事項」という。透明性に関しては、例1.特開平6-171922号公報段落【0004】「・・(略)・・乾式法により得られるフュームドシリカは高補強性能,高透明性能あるいは低発泡性能といった長所を有しているため、・・(略)・・」、例2.特開2000-302924号公報段落【0005】「さて、無水シリカは透明性が高い充填剤として知られている。・・(略)・・」参照。凝集性及び分散性に関しては、例3.上記特開平10-7932号公報特に「【0002】【従来の技術】無機粉末は各種用途に使用されている。中でもアエロジルとして知られる、四塩化ケイ素の燃焼加水分解を利用して乾式法により製造された酸化ケイ素 (気相シリカ、ヒュームドシリカ、無水シリカ等とも呼ばれる) は、高純度の微粉末であって、粒子の分散性に優れ、吸着水分が少ないという特徴を持ち、合成ゴムやシリコーンゴムの補強充填材や、不飽和ポリエステル樹脂の充填材、接着剤やシーラントの充填材等として、樹脂の強度向上のために樹脂中に配合して使用されることが多い。」及び「【0016】好ましい絶縁性無機粉末は、対応するハロゲン化物の熱分解または燃焼加水分解により乾式法で製造された酸化ケイ素、酸化チタン、または酸化アルミニウムの微粉末である。同様の方法で製造される他の金属酸化物の微粉末も好ましい。乾式法で製造された無機粉末、特に酸化ケイ素、酸化チタンまたは酸化アルミニウムは、湿式法で合成された粉末に比較して、著しく高純度で、粒子の凝集が少なく、分散性に優れているので、充填材として樹脂中に均一分散させるのに適しており、それにより樹脂強度を高めることができる。」、例4.上記特開平7-33427号公報特に「【0004】これら製造法は湿式法及び乾式法に区分することが出来、夫々特徴あるシリカ粉体が得られ、例えば湿式法によるシリカ粉体の場合、特にアルコキシシリコンを有機溶媒中で加水分解することによって製造されたシリカ粉体はその粒度分布が狭く分散性に優れた粉体を得る方法であるとされているが、通常は微細一次粒子が複雑に凝集した粒子として得られるためにその形状は不均一になり易く、高表面積、高細孔容積を有する粉体ではあるがその粒度分布はブロードで、分散性の良好な粉体を得ることは困難である。【0005】これに対して乾式法による場合は通常のシリカとは物性を異にしたものが得られ、例えば珪素を予め揮発性を有する塩化物となし、次いで気化した後酸素及び水素の混合気流炎中に導入し、熱分解することによって得たシリカは超微粒子状無水シリカと呼ばれ、ほぼ完全な球状微粒子からなる粒子径の揃った粉体が得られ、凝集性が少なく、小嵩比重であると共に分散性の優れた通称アエロシルと呼ばれるシリカ微粒子を得ることが出来る。」参照。)。
c 粒径が1?400nm、比表面積が30?300m^(2)/gの熱分解法二酸化ケイ素は周知である(例.特開平2-293313号公報4頁上段表の[Aerosil 90」「Aerosil 130」、「Aerosil 150」、「Aerosil 200」、「Aerosil 300」及び「Aerosil 380」の「BETによる表面積」(m^(2)/g)が、それぞれ、「90±15」、「130±25」、「150±15」、「200±25」、「300±30」及び「380±30」であり、同じく「1次粒子の平均粒度」(nm)が、それぞれ、「20」、「16」、「14」、「12」、「7」及び「7」である点、特開2000-86227号公報特に【0022】「・・(略)・・市販のシリカ微粉末(日本アエロジル株式会社製:商品名アエロシ゛ル200、300、380)・・(略)・・」、表1「AE200」、「AE300」及び「AE380」の「BET値(m^(2)/g)」が、それぞれ、「202」、「298」及び「378」であり、同じく「粒子径nm」が、それぞれ、「12」、「8」及び「9」である点、特開平5-263314号公報段落【0019】「用語「熱分解法シリカ(pyrogenic silica)」は、有機ケイ素化合物の燃焼により得られ、Degussa社からAerosil 300型のようないろいろな商標のもとに市販されている二酸化ケイ素、または再集合を防止するために既知のやり方で表面処理された二酸化ケイ素を意味することを意図している。シリカは100?450m^(2) /gの比表面積を持った、その大きさが5?15nm(50?150Å)、より一般的には100Åのオーダーであり、線状連鎖に磨砕されている素粒子から成る集合体の形にある超微細充填材である。」参照。以下「周知技術」という。)。
d また引用例の「他の補強材については、直径数マイクロメートルまでの粒子寸法を使用できる。集塊物または鎖状物を形成する傾向のある補強材は、エラストマー中に一層分散しにくくそして剛性と硬度とは比較的高いが、引張強度と靭性とは低い材料が得られる。」(上記ア摘記(ウ)参照。)との記載から明らかなように、引用例には、引張強度と靱性を高めるために補強材として凝集しにくいものを選択することの動機付けは十分開示されているといえる。
e 上記aないしdより、引用発明のシリカとして、透明で凝集性が低く分散性に優れた、粒径が1?400nm、比表面積が30?300m^(2)/gの熱分解法二酸化ケイ素を用いることは、引用例に記載された事項、技術常識、周知事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
f SBS、SIS、及びモノマーとしてアルコールのアクリレートエステルおよびメタクリレートエステル又は多価アルコールのポリアクリレートエステルおよびポリメタクリレートエステルからなるポリマーがいずれも透明であることは技術常識である(特開平11-235735号公報【0011】の「【発明の実施の形態】本発明は、射出成形によって成形される透明成形体の材料としては、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)またはスチレン-イソプレン-スチレン(SIS)の両末端ポリスチレンのブロック共重合体か、あるいは該ブロック共重合体の中間ブロックを水素添加することによって得られるスチレン-エチレン・ブチレン-スチレン(SEBS)、またはスチレン-エチレン・プロピレン-スチレン(SEPS)のブロック共重合の単独または2種類以上のブレンドされたポリマーが用いられている。」、特開平11-59424号公報【0010】の「一方、透明コア12を形成する材料(コア材)としては、固体状のものが好ましく、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリカーボネート、ポリスチレン、シリコーンゴム、エチリデンノルボルネンポリマー、SBS、SIS、SEBS(スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロックポリマー)などが挙げられ、中でも(メタ)アクリル系ポリマーが好ましい。」及び特表平11-503773号公報「3.透明なポリマー、オリゴマー及び/又はモノマーa)が、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリレート、・・(略)・・並びに対応するモノマー及び/又はオリゴマーから成る群より選ばれることを特徴とする請求項1又は2記載の複合接着剤」(特許請求の範囲3)参照。)から、これらのいずれか1つからなる引用発明のエラストマー層は透明であり、かつ、「粒径が1?400nm」の「熱分解性二酸化ケイ素」は、透明で凝集しにくく(上記b参照。)、粒径がほとんどの可視光の波長(380?800nm)より短いから、フィラーを上記eの「粒径が1?400nmの粒径、比表面積が30?300m^(2)/g」の「熱分解法」二酸化ケイ素としたエラストマー層(光化学架橋性レリーフ層)は、依然として透明であると認められ、このことは、本願補正発明の「レリーフ層が透明となる」ことに相当する。
g また引用例の「補強材の量は増加すると、エラストマー材料のレーザー彫刻性と機械的特性との同時的な改善を惹き起しつつ、ついには最大の改善に到達する。この改善は特定の組成について最適の配合を示す。この点を過ぎると、エラストマー材料の特性は悪化することになる。」(上記ア摘記(ウ)参照。)の記載からも明らかなように、レリーフ層の全成分に対するフィラーの質量比率を0.2?5質量%の範囲に設定することは、引用例に記載された事項に基づいて当業者が適宜に決定すべき設計事項にすぎない。
h よって、引用発明において、上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことは、引用例に記載された事項、技術常識、周知事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)効果について
本願補正発明の奏する効果は、引用発明及び周知技術がそれぞれ奏する効果、引用例に記載された事項、技術常識並びに周知事項から当業者が予測できた程度のものである。

(ウ)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項、技術常識、周知事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4) 小括
上記(1)ないし(3)のとおり、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。
よって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成19年12月13日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成19年8月1日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項によって特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1及び請求項2に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」といい、両者をまとめて「本願発明」という。)は、上記「第2〔理由〕1(1)ア」で、本件補正前の請求項1及び本件補正前の請求項1を引用する本件補正前の請求項2として記載したものである。

2 特許法第36条第4項違反
(1) 「第2 2 (1)」で述べた理由と同様の理由である。
(2) 本願明細書に記載の実施例1ないし3はフィラーとして熱分解法二酸化ケイ素のみを含む具体例であって、熱分解法二酸化チタン、熱分解法酸化アルミニウム及び熱分解法のアルミニウムドープ処理二酸化ケイ素から選択される少なくとも1種の酸化物」を含むものでない。
したがって、本願発明において「フィラーが、1?400nmの粒径及び30?300m^(2)/gの比表面積を有し、熱分解法二酸化チタン、熱分解法酸化アルミニウム及び熱分解法のアルミニウムドープ処理二酸化ケイ素から選択される少なくとも1種の酸化物であり、使用される量が、レリーフ層が透明となる条件でレリーフ層の全成分に対して、0.1?8質量%である」及び「0.2?5質量%のフィラーを使用する」とそれぞれ特定することにより、「溶融エッジの発生を回避可能となり、十分に高い分解能を達成可能となる」という本願発明の効果が奏されるとは、本願の明細書の発明の詳細な説明の記載を以てしては、当業者といえども理解できない。
(3) 上記(1)及び(2)より、本願の発明の詳細な説明は、本願発明について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(4) まとめ
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項でいう経済産業省令で定めるところによる記載がされておらず、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

3 特許法第36条第6項第1号違反
(1) 「第2 2 (2)」で述べた理由と同様の理由である。
(2) 1種のみの熱分解法二酸化ケイ素をレリーフ層の全成分に対して配合質量%を1質量%、3質量%、5質量%とした実施例1ないし3の3例のみの具体例をもって、本願発明における「フィラーが、1?400nmの粒径及び30?300m^(2)/gの比表面積を有し、熱分解法二酸化チタン、熱分解法酸化アルミニウム及び熱分解法のアルミニウムドープ処理二酸化ケイ素から選択される少なくとも1種の酸化物であり、使用される量が、レリーフ層が透明となる条件でレリーフ層の全成分に対して、0.1?8質量%である」及び「0.2?5質量%のフィラーを使用する」とのそれぞれの構成が、発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。
(3) したがって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6号第1項に規定された要件(サポート要件)を満たさない。
(4) まとめ
上記(1)ないし(3)にて検討したとおりであるから、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとは認められず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものでない。

上記2に示したように、本願の明細書の発明の詳細な説明には、本願発明について、特許法第36条第4項でいう経済産業省令で定めるところによる記載がされておらず、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、かつ、本願の明細書の特許請求の範囲の記載は、上記3に示したように、本願の発明の詳細な説明に記載されたものではないが、当業者が特許請求の範囲に記載された事項から把握される発明が本願の発明の詳細な説明の記載から理解できるものと善解し、本願発明について進歩性を検討する。

4 特許法第29条第2項違反
(1) 引用例
平成19年3月29日付け拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明2は、前記第2で検討した本願補正発明において、その発明を特定するために必要な事項である「熱分解法二酸化ケイ素」を、「熱分解法二酸化ケイ素、熱分解法二酸化チタン、熱分解法酸化アルミニウム及び熱分解法のアルミニウムドープ処理二酸化ケイ素から選択される少なくとも1種の酸化物」に拡張したものであり(上記第2〔理由〕1(1)イ(イ)参照。)、本願発明1は更にフィラーの質量%の範囲の下限及び上限をそれぞれ「0.2質量%」から「0.1質量%」及び「5質量%」から「8質量%」に拡張したものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕(3)ウ」に記載したとおり、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項、技術常識、周知事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項、技術常識、周知事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。また、本願発明は、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項、技術常識、周知事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-22 
結審通知日 2010-04-27 
審決日 2010-05-10 
出願番号 特願2002-575229(P2002-575229)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (B41N)
P 1 8・ 536- Z (B41N)
P 1 8・ 121- Z (B41N)
P 1 8・ 575- Z (B41N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石井 裕美子亀田 宏之  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 レーザー彫刻によるフレキソ印刷版の製造方法  
代理人 江藤 聡明  

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