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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1224538
審判番号 不服2006-26840  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-11-29 
確定日 2010-10-07 
事件の表示 特願2002-539945「乱数発生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月10日国際公開、WO02/37260〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2001年10月24日(優先権主張2000年10月24日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成18年10月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成18年11月29日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成18年12月14日付けで手続補正がなされたものである。その後、当審において、平成21年12月15日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して、平成22年2月22日付けで意見書が提出されたものである。

2.当審における拒絶理由通知
当審において平成21年12月15日付けで通知した拒絶理由通知書(以下、「当審拒絶理由通知書」という。)では、特許法第36条第4項について次の事項を指摘している。

『1.本願の発明の詳細な説明を参照しても、本願発明における「パラレルレジスタ列(118)」及び「ビットマスク部(120)」の技術上の意義を理解することができないので、本願の発明の詳細な説明は特許法施行規則第24条の2に規定する要件を満たしていない。
以下では、まず、(1)で発明の詳細な説明のうち関係する記載を摘記し、次いで、(2)で上記「パラレルレジスタ列(118)」及び「ビットマスク部(120)」の技術上の意義が不明である点について詳述する。

(1)発明の詳細な説明の記載
ア.また、パラレルレジスタ列(記憶部)118は、装置外部に出力された乱数データ又はカウンタデータを書き込んでおいて記憶保持させるのに利用することもでき、必要なときに第3系出力として装置外部に出力することで、後のデータ確認等に用いることができる。
イ.また、第3系出力も、第1系及び第2系出力と同様にビットマスクが可能であり、このためにビットマスク部120を備えている。このビットマスク部120の構成はビットマスク部108の構成と同様であり、マスクレジスタ122のマスクデータに応じて出力をマスクでき、第3系出力の有効ビット数を調整することができる。

(2)「パラレルレジスタ列(118)」及び「ビットマスク部(120)」の意義
上記摘記事項アにある「後のデータ確認等」の具体的な内容は発明の詳細な説明に記載がないため、当該「後のデータ確認等」を実行することによる利点を理解できない。したがって、「装置外部に出力された乱数データ又はカウンタデータ」を「パラレルレジスタ列118」に記憶保持させ、「第3系出力として装置外部に出力すること」の技術上の意義が理解できない。
仮に、本願発明の装置の第1系出力として送信され装置外部が受信したデータをD1とし、そのときの第1系出力をパラレルレジスタ列118に記憶保持させ、後に該パラレルレジスタ列118に記憶保持しているデータを第3系出力として送信し、該第3系出力として装置外部が受信したデータをD3とした場合、データD1とデータD3とが一致するか否かを装置外部で確認することにより、装置外部が受信したデータD1が本当に本願発明の装置が出力したものであるか否かを判定できるだろうと考えられ、このような判定のための一連の動作が前記「後のデータ確認等」の具体的内容であるとの推測も一応成立する。
しかしながら、上記の推測が正しいとすると、上記摘記事項イにあるようにビットマスク部120によって「第3系出力の有効ビット数を調整する」必要はない。
なぜなら、第1系出力は、FIG.2によれば、ビットマスク部108によってマスク済の乱数データであり、そのマスクされた乱数データがパラレルレジスタ118に書き込まれる以上、第3系出力と第1系出力との異同を比較するために、第3系出力に新たなマスクをする必要はないからである。
してみると、上記の推測も正しいとはいえず、やはり、前記「後のデータ確認等」の具体的内容はわからない。
結局、発明の詳細な説明の全てを参照し、技術常識を考慮しても、前記「後のデータ確認等」の技術的意義が理解できないため、本願発明において「パラレルレジスタ列(118)」及び「ビットマスク部(120)」を設けることの技術上の意義が理解できない。』

3.審判請求人の意見
上記拒絶理由通知書に対して、審判請求人は平成22年2月22日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)において、以下の意見を述べている。

『(1)本件出願は、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第4項及び第6項2号に規定する要件を満たしていないとして、拒絶理由通知を受けたものであります。
以下に、その意見を述べます。

(2)「ビットマスク部(120)」は乱数から必要な暗号キー/パスワードを作成するときに使用するものであります。一致を見るときに「ビットマスク部(120)」を使用するのではなく、乱数から暗号キー/パスワードを生成するときに生成効率を向上させます。また、「パラレルレジスタ列(118)」が装置外部に出力された乱数データ又はカウンタデータを書き込んでおいて記憶させるのに利用することもできることは、明細書に記載の通りです。

(3)「後のデータの確認等の」は、暗号キー/パスワードとして生成したものを「パラレルレジスタ列(118)に保存しておき、次に使用する機会が訪れたときに、例えば使用する本人であるか否かを認証する場合に使用するものであります。故障による不一致のみを排除するものではありません。また、適切な本人であることを確認するために使用するキーは複雑・推測不可能なものを選択する必要があり、逆に人間の記憶に頼れるものではないこと、したがって記憶装置があること(記憶装置保持者が適切な使用者である)が必要不可欠であります。

(4)また、請求項1の「この他のビットマスク部(120)の出力が、乱数発生装置の前記第1系出力とは異なる他の出力とされている」との記載の「異なる」の意味は、「第3系出力が第1系出力とは別個の出力である」ことを意味しているにすぎません。従って、第3系出力の「値」が第1系出力の「値」と異なるか同じかは何も特定していません。第3系出力の「値」が第1系出力の「値」と同じこともありますし、異なることもあり得ます。

(5)上記理由により、「パラレルレジスタ列(118)」及び「ビットマスク部(120)」の技術上の意義は明確であり、発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第4項及び第6項2号に規定する要件を満たしております。審判官殿には御手数ですが、再度の御審理の上、本願は特許審決すべきものとの御決定を賜りたく、宜しくお願い申しあげます。』

4.当審の判断

当審拒絶理由通知書の特許法第36条第4項に関する審判請求人の反論は、意見書の(2)及び(3)の記載である。
よって、以下では意見書の(2)及び(3)の記載の当否についてまず検討する。

意見書の(2)について
審判請求人は、意見書の(2)において『「ビットマスク部(120)」は乱数から必要な暗号キー/パスワードを作成するときに使用するものであります。』と述べているが、発明の詳細な説明には、ビットマスク部(120)が乱数から暗号キー/パスワードを作成するときに使用するものであることを開示する記載はない。
そもそも、乱数はシリアルパラレル変換器(107)の出力として得られるものであるから、仮にビットマスクを用いて乱数から暗号キー/パスワードを作成するというのであれば、そのビットマスクはビットマスク部(120)ではなく、ビットマスク部(108)で実行されるべきである。
さらに、審判請求人は意見書の(2)において『一致を見るときに「ビットマスク部(120)」を使用するのではなく、乱数から暗号キー/パスワードを生成するときに生成効率を向上させます。』と述べ、ビットマスク部(120)が乱数から暗号キー/パスワードを生成する生成効率を高めると説明しているが、ここでいう「生成効率」がどのように定義されるのかが不明であり、なぜビットマスク部(120)によって生成効率が高まるのかも不明である。
一方、審判請求人は意見書(2)において、『また、「パラレルレジスタ列(118)」が装置外部に出力された乱数データ又はカウンタデータを書き込んでおいて記憶させるのに利用することもできることは、明細書に記載の通りです。』と説明しており、これは発明の詳細な説明の記載とも合致すると認められる。
しかしながら、上記の説明は、パラレルレジスタ列(118)の技術上の意義については説明しているものの、ビットマスク部(120)の技術上の意義については説明していない。結局、ビットマスク部(108)によってマスクされた値をパラレルレジスタ列(118)に格納し、さらにビットマスク部(120)でマスクを重ねることの技術的な意義は不明である。
してみれば、意見書の(2)説明をもってしても、本願の請求項1?6に係る発明(以下、「本願発明」と総称する。)にビットマスク部(120)を設ける技術上の意義は明らかではない。

意見書の(3)について
審判請求人は、意見書の(3)において『(3)「後のデータの確認等の」は、暗号キー/パスワードとして生成したものを「パラレルレジスタ列(118)に保存しておき、次に使用する機会が訪れたときに、例えば使用する本人であるか否かを認証する場合に使用するものであります。故障による不一致のみを排除するものではありません。』と説明しているが、暗号キー/パスワードをパラレルレジスタ列(118)に保存しておき、後に本人か否かを認証する場合に使用するということは、発明の詳細な説明には記載されていない(本人認証に関して発明の詳細な説明には、ユーザIDを装置外部からパラレルレジスタ列(118)に書き込み、本人認証に利用することについて記載があるが、パラレルレジスタ列(118)に書き込まれるのはユーザIDであって、暗号キー/パスワードとは異なるものである)。
加えて、意見書の(3)の『また、適切な本人であることを確認するために使用するキーは複雑・推測不可能なものを選択する必要があり、逆に人間の記憶に頼れるものではないこと、したがって記憶装置があること(記憶装置保持者が適切な使用者である)が必要不可欠であります。』との記載は、本人認証においてその認証のための情報を記憶しておく記憶装置が必要であるという点ではもっともであるが、本願発明のビットマスク部(120)の必要性については何も説明をしていない。

以上から、本願発明のビットマスク部(120)を設ける技術上の意義は、意見書の説明を参酌しても明らかではない。

次いで、発明の詳細な説明及び技術常識からビットマスク部(120)の技術上の意義を検討する。

発明の詳細な説明には、ビットマスク部(120)を設けることによって本願発明がどのような効果を発揮するのかの記載はない。
また、技術常識を参酌しても、暗号キーやパスワードといった情報にマスクを重ねることは、機密情報の情報量を減らしてシステム全体の安全性を低下させることにつながるから、ビットマスク部(120)を設けることにより有利な効果が得られるとは言えない。
よって、発明の詳細な説明及び技術常識からも、本願発明のビットマスク部(120)を設ける技術上の意義は明らかではない。

したがって、本願発明のビットマスク部(120)を設ける技術上の意義は、意見書の説明及び発明の詳細な説明を参照しても明らかではないため、当審拒絶理由通知書で通知した拒絶理由は解消していない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないとして当審において平成21年12月15日付けで通知した拒絶理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-04 
結審通知日 2010-08-10 
審決日 2010-08-25 
出願番号 特願2002-539945(P2002-539945)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内田 正和  
特許庁審判長 江口 能弘
特許庁審判官 丸山 高政
近藤 聡
発明の名称 乱数発生装置  
代理人 安田 敏雄  

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