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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02F
管理番号 1224569
審判番号 不服2008-25309  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-02 
確定日 2010-10-07 
事件の表示 特願2002- 712「電気光学装置及びその製造方法並びに電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月18日出願公開、特開2003-202596〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成14年1月7日に特許出願したものであって、平成16年11月17日付け及び平成19年9月7日付けで手続補正がなされたが、平成20年8月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月2日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同年11月4日付けで手続補正がなされた後、当審において平成22年3月30日付けで拒絶理由が通知され、同年5月28日付けで手続補正がなされたものである。

2 本願発明
(1)本願の請求項に係る発明は、平成22年5月28日付け手続補正後の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「基板上に、
画素電極と、
該画素電極に対応して設けられた薄膜トランジスタと、
該薄膜トランジスタに電気的に接続されたデータ線と、
前記画素電極に接続されており蓄積容量を構成するポリシリコンからなる画素電位側容量電極と、
該画素電位側容量電極上に誘電体膜を介して前記画素電位側容量電極と対向配置されており前記蓄積容量を構成する固定電位側容量電極を含む容量線とを備え、
前記画素電極がマトリクス状に配列されることにより規定される画素表示領域の周辺の領域として規定される周辺領域に形成される配線の一部と、前記容量線とが同一膜からなり、
前記容量線は、前記薄膜トランジスタを上方から覆うように設けられ、金属材料からなり、上層にアルミニウム、銅若しくはクロムからなる金属単体又はこれらを含む材料を有するとともに、下層に光吸収性の材料を有する多層膜からなることを特徴とする電気光学装置。」

(2)上記(1)によれば、本願発明において、容量線は、画素電位側容量電極上に誘電体膜を介して画素電位側容量電極に対向配置されるものと認められるところ、該容量線は、下層に光吸収性の材料を有するものであるから、容量線の光吸収性の材料が、誘電体膜を介して画素電位側容量電極に対向配置されるものと認められる。

3 当審において平成22年3月30日付けで通知した拒絶の理由
当審において平成22年3月30日付けで通知した拒絶の理由は、以下のとおりである。

「 本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



発明の詳細な説明には、請求項1及び請求項11に記載された「『上層にアルミニウム、銅、クロム等の金属単体、又はこれらを含む材料等からなる低抵抗膜を有するとともに、下層に光吸収性の材料』を有する『多層膜』である『容量線』」の奏する作用に関し、「また、容量線300の上層がアルミニウム層300aからなることにより、図3中上方から入射する光は、当該層300aによって反射することが可能となる。つまり、そのような光がTFT30に直接に至ろうとするのを未然に防止することが可能となる。加えて、容量線300の下層がポリシリコン層300bからなることにより、例えば、本実施形態に係る電気光学装置内部に入射した後、前記アルミニウム層300aの表面等で反射した結果発生する迷光が、TFT30に至ろうとするのを未然に防止することが可能となる。すなわち、そのような迷光の全部又は一部は、容量線300の下層で吸収されることになるから、該迷光がTFT30に至る可能性を低減することが可能となるのである。」(【0126】)との記載がある。
しかるところ、請求項1及び請求項11の記載によれば、容量線は、画素電位側容量電極に対向配置されるものと認められ、また、発明の詳細な説明には、「一方、中継層71は、例えば導電性のポリシリコン膜からなり画素電位側容量電極として機能する。ただし、中継層71は、金属又は合金を含む単一層膜又は多層膜から構成してもよい。」(【0093】)との記載があり、図3を参照すれば、上記画素電位側容量電極ないし中継層71は、容量線の下方にあることが認められる。
そうすると、アルミニウム層300aの表面等で反射した結果発生する迷光が存在するとしても、中継層71がポリシリコン膜からなる場合には、中継層71で吸収されるものと考えられ、また、中継層71が金属又は合金を含む単一層膜又は多層膜からなる場合には、中継層71で反射されるものと考えられ、いずれにしても、迷光が容量線300の下層に達するとは想定し難いところである。
してみれば、迷光を吸収するとの観点において、光吸収性の材料が具体的にどのような機能を有するのか理解し難く、「容量線」を「『上層にアルミニウム、銅、クロム等の金属単体、又はこれらを含む材料等からなる低抵抗膜を有するとともに、下層に光吸収性の材料』を有する『多層膜』」とすることによりどのような技術上の意義が生じるのか理解し難い。
よって、発明の詳細な説明をみても、当業者が本願の各請求項に係る発明の技術上の意義を理解することができるものとはいえず、発明の詳細な説明が、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載(特許法施行規則第24条の2)したものとはいえない。
(ちなみに、特開2001-330858号公報に記載されたものは、容量線が光吸収性の材料を有する点を除けば、本願明細書に開示された発明と格別異ならないように思われ、このようなものと対比しても、容量線が光吸収性の材料を有することによりどのような作用の相違が生じるのか判然としない。)」

4 判断
(1)本願明細書(平成22年5月28日付け手続補正後のもの。以下同じ。)には、本願発明における画素電位側容量電極と容量線に関する構成について、以下の記載が認められる(下線は、審決で付した。以下同じ。)。

ア 「 【0014】
また、本発明における容量線は上層にアルミニウム、銅、クロム等の金属単体、又はこれらを含む材料等からなる低抵抗膜を有するとともに、下層に光吸収性の材料を有する多層膜からなるから、該アルミニウム、銅、クロム等の金属単体、又はこれらを含む材料等を有する膜に加え、薄膜トランジスタに対する光入射を防止しうる光遮蔽機能を実現するための他の材料からなる膜を、該容量線の構成要素として併せもたせることが可能となる。」

イ 「 【0088】
一方、図2及び図3においては、蓄積容量70が、TFT30の高濃度ドレイン領域1e及び画素電極9aに接続された画素電位側容量電極としての中継層71と、固定電位側容量電極としての容量線300の一部とが、誘電体膜75を介して対向配置されることにより形成されている。この蓄積容量70によれば、画素電極9aにおける電位保持特性を顕著に高めることが可能となる。
【0089】
そして、本実施形態においては特に、容量線300が低抵抗膜を含む多層膜からなる。より具体的には、本実施形態における容量線300は、図3に示すように、2種類の層からなり、その上層として前記低抵抗膜の一例たるアルミニウム層300a、及び、その下層として光吸収性の材料からなる層の一例たるポリシリコン層300bが、それぞれ積層構造をなしている。
・・・
【0092】
このような容量線300は、平面的に見ると、図2に示すように、走査線3aの形成領域に重ねて形成されている。より具体的には容量線300は、走査線3aに沿って延びる本線部と、図中、データ線6aと交差する各個所からデータ線6aに沿って上方に夫々突出した突出部と、コンタクトホール85に対応する個所が僅かに括れた括れ部とを備えている。このうち突出部は、走査線3a上の領域及びデータ線6a下の領域を利用して、蓄積容量70の形成領域の増大に貢献する。
【0093】
一方、中継層71は、例えば導電性のポリシリコン膜からなり画素電位側容量電極として機能する。ただし、中継層71は、金属又は合金を含む単一層膜又は多層膜から構成してもよい。中継層71は、画素電位側容量電極としての機能のほか、コンタクトホール83及び85を介して、画素電極9aとTFT30の高濃度ドレイン領域1eとを中継接続する機能をもつ。このような中継層71を利用すれば、層間距離が例えば2000nm程度と長くても、両者間を一つのコンタクトホールで接続する技術的困難性を回避しつつ、比較的小径の二つ以上の直列なコンタクトホールで両者間を良好に接続することができ、画素開口率を高めることが可能となる。また、コンタクトホール開孔時におけるエッチングの突き抜け防止にも役立つ。
【0094】
また、誘電体膜75は、例えば膜厚5?200nm程度の比較的薄い、TaOx(酸化タンタル)、BST(チタン酸ストロンチウムバリウム)、PZT(チタン酸ジルコン酸塩)、TiO_(2)(酸化チタン)、ZiO_(2)(酸化ジルコニウム)、HfO_(2)(酸化ハフニウム)、SiO_(2)(酸化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)及びSiN(窒化シリコン)のうち少なくとも一つを含んでなる絶縁膜からなる。特に、TaOx、BST、PZT、TiO_(2)、ZiO_(2)及びHfO_(2)といった高誘電率材料を使用すれば、限られた基板上領域で容量値を増大できる。あるいは、SiO_(2)(酸化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)及びSiNといったシリコンを含む材料を使用すれば、シリコンを含んでなる半導体層1a及び第1層間絶縁膜41等の層間絶縁膜との間におけるストレス発生を低減できる。」

ウ 「 【0126】
また、容量線300の上層がアルミニウム層300aからなることにより、図3中上方から入射する光は、当該層300aによって反射することが可能となる。つまり、そのような光がTFT30に直接に至ろうとするのを未然に防止することが可能となる。加えて、容量線300の下層がポリシリコン層300bからなることにより、例えば、本実施形態に係る電気光学装置内部に入射した後、前記アルミニウム層300aの表面等で反射した結果発生する迷光が、TFT30に至ろうとするのを未然に防止することが可能となる。すなわち、そのような迷光の全部又は一部は、容量線300の下層で吸収されることになるから、該迷光がTFT30に至る可能性を低減することが可能となるのである。」

なお、図3は、次のとおりである。


(2)上記(1)アによれば、本願発明における容量線は、上層にアルミニウム、銅、クロム等の金属単体又はこれらを含む材料等からなる低抵抗膜を有するとともに、下層に薄膜トランジスタに対する光入射を防止しうる光遮蔽機能を実現するための光吸収性の材料を有する多層膜からなるものであるとされることが認められる。
そして、前記2(2)のとおり、本願発明においては、容量線の光吸収性の材料が、誘電体膜を介して画素電位側容量電極に対向配置されるものと認められるところ、上記(1)イによれば、本願発明の実施形態においては、画素電位側容量電極として機能する中継層71は、例えば導電性のポリシリコン膜からなるものとされるとともに、容量線300は、、その上層として低抵抗膜の一例たるアルミニウム層300a、及び、その下層として光吸収性の材料からなる層の一例たるポリシリコン層300bが、それぞれ積層構造をなしているとされ、同ウによれば、アルミニウム層300aの表面等で反射した結果発生する迷光の全部又は一部は、容量線300の下層で吸収されることになるから、該迷光がTFT30に至る可能性を低減することが可能となるとされることが認められる。
さらに、上記(1)イとともに図3を参照すれば、上記中継層71は、比較的薄い誘電体膜75を挟んで容量線300の下層であるポリシリコン層300bの下方にあることが認められる。

(3)上記(2)のとおり、本願発明の実施形態においては、画素電位側容量電極として機能する中継層71は、例えば導電性のポリシリコン膜からなるものとされ、前記2(1)のとおり、本願発明における画素電位側容量電極はポリシリコンからなるものと認められる。
そして、上記(2)のとおり、本願発明の実施形態においては、ポリシリコン層300bが光吸収性の材料からなる層の一例とされており、これによれば、本願明細書においては、ポリシリコンは光吸収性の材料と位置付けられているものと認められるから、ポリシリコンからなる画素電位側容量電極も光吸収性の材料からなるものと解される。
ここで、上記(2)において、アルミニウム層300aの表面等で反射した結果発生するとされる迷光がどのようにして容量線300の下層に至るのか必ずしも明らかではないが、アルミニウム層300aの表面等で反射した結果容量線300の下層に向かう迷光が発生するとしても、上記(2)のとおり、本願発明においては、容量線の光吸収性の材料が、誘電体膜を介して画素電位側容量電極に対向配置されるものであって、その実施形態においては、容量線300の下層であるポリシリコン層300bの下方には、中継層71、すなわち画素電位側容量電極が存在するものであって、これらの間には比較的薄い誘電体膜75が介在されるにすぎないから、容量線300の下層であるポリシリコン層300bに至る前に中継層71で吸収されるものと考えられる(ちなみに、特開2001-330858号公報には、容量線が光吸収性の材料を有する点を除けば、本願明細書に開示された発明と格別異なるところのない電気光学装置が記載されるところ、同公報の【0103】には、「また、万が一、TFTアレイ基板10側から反射光L2が入射された場合、従来例では反射率の高いデータ線6aを遮光膜として代用するため、データ線6aの下方で反射された迷光が半導体層1aに照射される恐れがあったが、本実施形態では中継膜80aをポリシリコン膜や低反射な高融点金属を含有した膜で形成することにより光を吸収するようにする。これにより、内面反射の迷光を大幅に低減することができ、何らTFT30のリークによる画質表示の劣化を心配する必要がなくなる。」との記載があり、このことも上記の判断を裏付けるものといえる。なお、平成22年5月28日付け手続補正により、本願発明に該当するものではなくなったものであるが、上記(1)のとおり、本願明細書においても、中継層71は、金属又は合金を含む単一層膜又は多層膜から構成してもよいとされており、この場合にあっても、容量線300の下層に向かう迷光は、ポリシリコン層300bに至る前に中継層71で反射されるものと考えられるところである。)。

(4)してみれば、迷光を吸収するとの観点において、容量線の下層である光吸収性の材料が具体的にどのような作用を生じるものであるのか理解し難く、「容量線」を「アルミニウム、銅若しくはクロムからなる金属単体又はこれらを含む材料を有するとともに、下層に光吸収性の材料を有する多層膜」からなるものとすることによりどのような技術上の意義が生じるのか理解し難い。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明をみても、当業者が本願発明の技術上の意義を理解することができるものとはいえず、発明の詳細な説明が、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載(特許法施行規則第24条の2)したものとはいえない。

(5)よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

(6)なお、請求人は、平成22年5月28日提出の意見書において、
「請求人は、画素電位側容量電極がポリシリコンからなることを明確にすると共に、画素電位側容量電極上に蓄積容量を構成する固定電位側容量電極を含む容量線が備えられることを明確に致しました。
このような構成によれば、画素電位側容量電極がポリシリコンからなるため、容量線の下層を光吸収性の材料とすることにより、迷光を更に吸収することが可能となります。すなわち、ポリシリコンは、光吸収性を有するものでありますが、金属のように光を全反射又は吸収する材料ではなく、透光性を有しています。このことは、例えば、特開2001-330861号公報(段落【0015】)、特開平6-160899公報(段落【0023】) 、特開昭58-171175号公報(第3頁左上欄)等に開示されているように周知であります。
したがって、発明の詳細な説明には、いわゆる当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているものと思料致します。」
と主張する。
しかし、上記(3)のとおり、本願発明の実施形態においては、ポリシリコン層300bが光吸収性の材料からなる層の一例とされており、これによれば、本願明細書においては、ポリシリコンは光吸収性の材料と位置付けられているものと認められるのであって、本願明細書の記載に接した当業者が、ポリシリコンについて透光性を有する材料と位置付けて理解するということはできないから、請求人の上記主張をもって、発明の詳細な説明が、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他の当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載したものということはできない。

5 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-30 
結審通知日 2010-08-03 
審決日 2010-08-23 
出願番号 特願2002-712(P2002-712)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤田 都志行  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 右田 昌士
吉野 公夫
発明の名称 電気光学装置及びその製造方法並びに電子機器  
代理人 須澤 修  
代理人 宮坂 一彦  
代理人 上柳 雅誉  

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