• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A23B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23B
管理番号 1225215
審判番号 無効2007-800134  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-07-17 
確定日 2010-09-24 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3646993号発明「赤身魚類の処理方法」の特許無効審判事件について、「特許請求の範囲についてする訂正のうち、請求項3及び4を削除する訂正を認める。特許第3646993号の請求項1、2及び5に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」とした平成20年11月10日付けの審決に対し、知的財産高等裁判所において、「特許庁が無効2007-800134号事件について平成20年11月10日にした審決を取り消す。訴訟費用は、原告の負担とする。」との決定(平成20年(行ケ)第10480号)があったので、更に審理の上、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3646993号の請求項1ないし3に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 特許第3646993号の手続の経緯
特許第3646993号(以下、「本件特許」という。)の手続の経緯の概要は、次のとおりである。
平成16年3月5日に出願
出願番号 :特願2004-61501号
特許法第41条第1項の規定による優先権の主張を伴う。
優先権主張の基礎とされた出願:特願2003-279549号
(出願日 :平成15年7月25日)
平成17年2月18日に設定登録
特許番号 :特許第3646993号
(設定登録時の明細書を「本件特許明細書」という。)
発明の名称:赤身魚類の処理方法
特許権者 :有限会社春海水産
請求項数 :5(設定登録時)

2 本件無効審判の手続の経緯
本件無効審判は、山菱水産株式会社及び株式会社ペスカリッチ(以下、「請求人ら」という。)が請求したものであって、その手続の経緯の概要は、次のとおりである。
平成19年 7月17日 無効審判請求
平成19年10月 2日 答弁書及び訂正請求書を提出(被請求人)
平成19年10月29日 手続補正書を提出(被請求人)
平成19年10月25日 同意書(この訂正の請求に対する通常実施
権者の承諾)添付
平成19年12月 6日 弁駁書を提出(請求人ら)
平成20年 2月 5日 口頭審理
平成20年 3月17日付け 無効理由通知(被請求人に対し)
平成20年 3月17日付け 職権審理結果通知(請求人らに対し)
平成20年 4月17日 意見書及び訂正請求書を提出(被請求人)
同月10日付け承諾書(この訂正の請求に
対する通常実施権者の承諾)添付
平成20年 6月 3日付け 訂正拒絶理由(被請求人に対し)
平成20年 6月 3日付け 職権審理結果通知(請求人らに対し)
平成20年 7月 4日 意見書及び手続補正書を提出(被請求人)
同月2日付け承諾書(この手続補正に対す
通常実施権者の承諾)添付
平成20年11月10日付け審決(以下「1次審決」という。)
1次審決の主文:「特許請求の範囲についてする訂正のうち、請求項3
及び4を削除する訂正を認める。
特許第3646993号の請求項1、2及び5に
係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
平成20年12月28日 1次審決取消し訴訟提起
(平成20年(行ケ)第10480号)
平成21年 2月27日 訂正審判請求
(訂正2009-390022号)
平成21年 4月21日 1次審決取消し決定
決定の主文 :「特許庁が無効2007-800134号事件につい
て平成20年11月10日にした審決を取り消す。
訴訟費用は、原告の負担とする。」
平成21年 5月11日付け 訂正請求のための期間指定通知
平成21年 5月18日 上申書(被請求人)
平成21年 6月 8日 弁駁書提出(請求人ら)
平成21年 7月13日付け 答弁書提出(被請求人)
平成21年 7月23日付け 書面審理通知

第2 訂正請求について
1 本件訂正請求及び訂正の内容
(1)本件訂正請求
平成21年5月11日付けの訂正請求のための期間指定通知に対して、被請求人は訂正請求をしなかった。したがって、被請求人が行った平成21年2月27日付けの訂正審判請求(訂正2009-390022号)は、特許法第134条の3第5項の規定により、その訂正審判の請求書に添付された訂正した明細書又は図面を援用した同条第2項の訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)とみなされた。
なお、平成19年10月2日付け及び平成20年4月17日付けでした訂正の請求は、特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされた。

(2)訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、平成21年2月27日付けの訂正審判請求書に添付した訂正した特許請求の範囲及び明細書のとおりとする、というものであると認められ、その訂正は、下記「ア 特許請求の範囲についての訂正」、「イ 明細書についての訂正」からなるものである(なお、下線は、当審において付与した。訂正前記載における下線は訂正により削除される箇所を、訂正後記載における下線は訂正により加入される箇所を示す。)。

ア 特許請求の範囲についての訂正
特許請求の範囲についての訂正は、訂正前の特許請求の範囲である、
「【請求項1】
切断により消費者にそのまま提供できる形態の魚肉をパックに収納するパック収納工程と、
前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にして滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する真空処理工程と、
前記真空処理工程の終了直後にパック内に炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、
前記ガスと魚肉とが封入されたパックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、
前記パック密封工程後の魚肉入りパックを凍結させないで自己消化作用を発生させない程度の低温状態に維持させて、自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させる低温処理工程と、
パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする冷凍工程と、
からなることを特徴とする赤身魚類の処理方法。
【請求項2】
捕獲した魚類をラウンドのままで急速冷凍する第1の冷凍工程と、
前記第1の冷凍工程によって冷凍されている魚類を機械的手段により切断する切断工程と、
前記切断工程によって切断された魚肉を、刃物で切断可能なように半解凍状態にする解凍工程と、
前記解凍工程により解凍された魚肉を刃物で切断して消費者にそのまま提供できる形態にした魚肉をパックに収納するパック収納工程と、
前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にして滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する真空処理工程と、
前記真空処理工程の終了直後にパック内に炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、
炭酸ガスと酸素ガスとが封入された前記パックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、
前記パック密封工程後の魚肉入りパックを凍結させないで自己消化作用を発生させない程度の低温状態に維持させて、自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させる低温処理工程と、
パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする第2の冷凍工程と、
からなることを特徴とする赤身魚類の処理方法。
【請求項3】
ガスの充填工程における混合ガスは、炭酸ガスが20?50容積%、酸素ガスが50?80容積%の混合割合である請求項1または2に記載の赤身魚類の処理方法。
【請求項4】
低温処理工程は、1?15℃の温度範囲で30分?3時間である請求項1または2に記載の赤身魚類の処理方法。
【請求項5】
パック収納工程では、パック内にトレー及び/又はシートを入れる請求項1または2に記載の赤身魚類の処理方法。」
を、 以下のとおりに訂正するものである。
「【請求項1】
刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態の魚肉をパックに収納するパック収納工程と、
前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にする真空処理工程と、
前記真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、
前記ガスと魚肉とが封入されたパックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、
前記パック密封工程後の魚肉入りパックを5℃?10℃で30分?3時間維持する低温処理工程と、
パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする冷凍工程と、
からなることを特徴とする赤身魚類の処理方法。
【請求項2】
捕獲した魚類をラウンドのままで急速冷凍する第1の冷凍工程と、
前記第1の冷凍工程によって冷凍されている魚類を機械的手段により切断する切断工程と、
前記切断工程によって切断された魚肉を、刃物で切断可能なように半解凍状態にする解凍工程と、
前記解凍工程により解凍された魚肉を刃物で切断して、刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態にした魚肉をパックに収納するパック収納工程と、
前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にする真空処理工程と、
前記真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、
炭酸ガスと酸素ガスとが封入された前記パックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、
前記パック密封工程後の魚肉入りパックを5℃?10℃で30分?3時間維持する低温処理工程と、
パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする第2の冷凍工程と、
からなることを特徴とする赤身魚類の処理方法。
【請求項3】
パック収納工程では、パック内にトレー及び/又はシートを入れる請求項1または2に記載の赤身魚類の処理方法。」

イ 明細書についての訂正
明細書についての訂正は、以下の(ア)?(ス)のとおりのものである。
(ア)本件特許明細書の段落【0006】の
「本発明の請求項1に記載の発明は、切断により消費者にそのまま提供できる形態の魚肉をパックに収納するパック収納工程と、前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にして滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する真空処理工程と、前記真空処理工程の終了直後にパック内に炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、前記ガスと魚肉とが封入されたパックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、前記パック密封工程後の魚肉入りパックを凍結させないで自己消化作用を発生させない程度の低温状態に維持させて、自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させる低温処理工程と、パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする冷凍工程と、からなることを特徴とする。」
を、以下のとおりに訂正する。
「本発明の請求項1に記載の発明は、刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態の魚肉をパックに収納するパック収納工程と、前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にする真空処理工程と、前記真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、前記ガスと魚肉とが封入されたパックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、前記パック密封工程後の魚肉入りパックを5℃?10℃で30分?3時間維持する低温処理工程と、パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする冷凍工程と、からなることを特徴とする。」

(イ)本件特許明細書の段落【0007】の
「また本発明の請求項2に記載の発明は、捕獲した魚類をラウンドのままで急速冷凍する第1の冷凍工程と、前記第1の冷凍工程によって冷凍されている魚類を機械的手段により切断する切断工程と、前記切断工程によって切断された魚肉を、刃物で切断可能なように半解凍状態にする解凍工程と、前記解凍工程により解凍された魚肉を刃物で切断して消費者にそのまま提供できる形態にした魚肉をパックに収納するパック収納工程と、前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にして滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する真空処理工程と、
前記真空処理工程の終了直後にパック内に炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、炭酸ガスと酸素ガスとが封入された前記パックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、前記パック密封工程後の魚肉入りパックを凍結させないで自己消化作用を発生させない程度の低温状態に維持させて、自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させる低温処理工程と、パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする第2の冷凍工程と、からなることを特徴とする。」
を、以下のとおりに訂正する。
「また本発明の請求項2に記載の発明は、捕獲した魚類をラウンドのままで急速冷凍する第1の冷凍工程と、前記第1の冷凍工程によって冷凍されている魚類を機械的手段により切断する切断工程と、前記切断工程によって切断された魚肉を、刃物で切断可能なように半解凍状態にする解凍工程と、
前記解凍工程により解凍された魚肉を刃物で切断して、刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態にした魚肉をパックに収納するパック収納工程と、前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にする真空処理工程と、前記真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、炭酸ガスと酸素ガスとが封入された前記パックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、前記パック密封工程後の魚肉入りパックを5℃?10℃で30分?3時間維持する低温処理工程と、パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする第2の冷凍工程と、からなることを特徴とする。」

(ウ)本件特許明細書の段落【0008】の
「また本発明によれば、前記ガスの充填工程における混合ガスは、炭酸ガスが20?50容積%、酸素ガスが50?80容積%の混合割合で、前記低温処理工程は、1?15℃の温度範囲で30分?3時間程処理し、また必要であればパック収納工程では、パック内にトレー及び/又はシートを入れて血液やドリップ液を吸収したり、形状を保持することができる。」
を、以下のとおりに訂正する。
「また本発明によれば、前記ガスの充填工程における混合ガスは、炭酸ガスが20?50容積%、酸素ガスが50?80容積%の混合割合で、前記低温処理工程は、5?10℃の温度範囲で30分?3時間程処理し、また必要であればパック収納工程では、パック内にトレー及び/又はシートを入れて血液やドリップ液を吸収したり、形状を保持することができる。」

(エ)本件特許明細書の段落【0009】の
「本発明の赤身魚類の処理方法は、魚肉を真空雰囲気にすることにより滅菌するとともに空気接触による酸化の防止をし、真空処理工程の直後に魚肉を炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスに接触させ、しかも一定時間だけ低温状態に維持して熟成することにより、魚肉の組織や細胞が活性化して変化したり変性しないので、調理して食するときには、黒ずんだ変色がないばかりでなく生魚と全く同様の食感があり、しかも一般家庭の冷蔵庫に数日間保存しても肉質が変化したり変色しないので、消費者もそのままの形態の状態で食することができるという効果がある。」
を、以下のとおりに訂正する。
「本発明の赤身魚類の処理方法は、魚肉を真空処理することにより空気接触による酸化の防止をし、真空処理工程の直後に魚肉を炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスに接触させ、しかも一定時間だけ低温状態に維持して熟成することにより、魚肉の組織や細胞が変性しないので、調理して食するときに、黒ずんだ変色がないばかりでなく生魚と全く同様の食感があり、しかも一般家庭の冷蔵庫に数日間保存しても肉質が変化したり変色しないので、消費者もそのままの形態の状態で食することができるという効果がある。」

(オ)本件特許明細書の段落【0010】の
「したがって本発明は、魚類の組織や細胞の変性、変化による劣化防止という課題を、魚肉を短時間だけ真空状態にして滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止するとともに、真空処理工程の終了直後にパック内に炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させる、しかも凍結しない温度を一定時間維持させて魚肉を熟成するという手段によって確実に解決するようにしたものである。そして、真空処理工程後に空気に接触させないで前記混合ガスに接触させるために、その後に冷凍して長期間保存し、その後に解凍しても確実に酸化防止をすることができるし、また空気中の雑菌が付着していないので組織の変性や色素の変化などを防止することができる。」
を、以下のとおりに訂正する。
「したがって本発明は、魚類の組織や細胞の変性、変化による劣化防止という課題を、魚肉を短時間だけ真空状態にする真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させる、しかも凍結しない温度を一定時間維持(たとえば、5?10℃の温度範囲で30分?3時間程処理し)させて魚肉を熟成するという手段によって確実に解決するようにしたものである。そして、真空処理工程後に前記混合ガスに接触させるために、その後に冷凍して長期間保存し、その後に解凍しても確実に酸化防止をすることができるし、また空気中の雑菌が付着していないので組織の変性や色素の変化などを防止することができる。」

(カ)本件特許明細書の段落【0014】の
「切断した魚肉を収納したパックは一端が開放しているので、真空処理工程を経ることによりパックの内部を真空な雰囲気にし、魚肉が空気に接触しないので滅菌とともに酸化防止の作用を有し、肉質や色素の変性や変化を防止することができる。この真空処理工程は、きわめて短時間であって、数秒乃至数十秒で十分であり、長時間真空状態に接触させると、組織や細胞が変性して食感が低下したり黒ずんだ色に変色する。」
を、以下のとおりに訂正する。
「切断した魚肉を収納したパックは一端が開放しているので、真空処理工程を経ることによりパックの内部を真空な雰囲気にし、魚肉が空気に接触しないので酸化防止の作用を有し、肉質や色素の変性や変化を防止することができる。この真空処理工程は、きわめて短時間であって、数秒乃至数十秒で十分であり、長時間真空状態に接触させると、組織や細胞が変性して食感が低下したり黒ずんだ色に変色する。」

(キ)本件特許明細書の段落【0015】の
「また魚肉は、短時間でも真空状態に接触して空気から遮断すると、細胞や組織が滅菌されて肉質が生の状態に維持されるし、しかも空気中の酸素が接触しないので酸化防止作用を生じることになるが、長時間真空状態にさらされると肉質が劣化するので、滅菌や酸化防止作用が生じる程度の時間で十分である。」
を、以下のとおりに訂正する。
「また魚肉は、短時間でも真空状態に接触して空気から遮断すると、肉質が生の状態に維持されるし、しかも空気中の酸素が接触しないので酸化防止作用を生じることになるが、長時間真空状態にさらされると肉質が劣化するので、酸化防止作用が生じる程度の時間で十分である。」

(ク)本件特許明細書の段落【0020】の
「前記低温処理工程は、魚肉が凍結しない程度の温度で一定時間維持させるもので、例えば冷蔵庫のチルト室を利用することができる。
前記低温処理工程は、1?15℃、望ましくは5?10℃で30分?3時間、望ましくは1?2時間維持させる。低温処理工程において、1℃以下にすると凍結することがあり、15゜C以上では魚肉に自己消化作用が発生して軟化する可能性がある。また、30分以下では魚肉が十分に熟成しないし、3時間以上も低温維持すると魚肉が加温されて自己消化作用が発生することがある。」
を、以下のとおりに訂正する。
「前記低温処理工程は、魚肉が凍結しない程度の温度で一定時間維持させるもので、例えば冷蔵庫のチルト室を利用することができる。
前記低温処理工程は、5?10℃で30分?3時間維持させる。低温処理工程において、15゜C以上では魚肉に自己消化作用が発生して軟化する可能性がある。また、30分以下では魚肉が熟成しないし、3時間以上も低温維持すると魚肉が加温されて自己消化作用が発生することがある。」

(ケ)本件特許明細書の段落【0021】の
「前記低温処理工程によって魚肉は熟成され、パック内に充填している炭酸ガス、酸素ガスの成分が魚肉内の組織や細胞内に十分に浸透し、これらを活性化させるとともに、組織や細胞、色素などが変性したり変化することがない。
したがって、長期間そのままの状態にしておいても、鮮度や色合いが変わることがなく、また冷凍した魚肉を解凍しても組織や細胞が分解したり変化、変性することがなく、色素が変化しないので黒ずんだような変色をすることがなく、生の魚とほとんど同様の外観と食感を供することができる。じかも冷凍後に解凍した状態であっても、平均10℃以下の冷蔵庫に長期間(3?5日程度)保存しておいても組織、細胞や色彩が変化したり変性することがなくて弾力性があって本来の色彩を有する肉質を維持するので、著しく商品価値の高いものにすることができる。」
を、以下のとおりに訂正する。
「前記低温処理工程によって魚肉は熟成され、パック内に充填している炭酸ガス、酸素ガスの成分が魚肉内の組織や細胞内に十分に浸透し、組織や細胞、色素などが変性したり変化することがない。
したがって、長期間そのままの状態にしておいても、鮮度や色合いが変わることがなく、また冷凍した魚肉を解凍しても組織や細胞が分解したり変化、変性することがなく、色素が変化しないので黒ずんだような変色をすることがなく、生の魚とほとんど同様の外観と食感を供することができる。しかも冷凍後に解凍した状態であっても、平均10℃以下の冷蔵庫に長期間(3?5日程度)保存しておいても組織、細胞や色彩が変化したり変性することがなくて弾力性があって本来の色彩を有する肉質を維持するので、著しく商品価値の高いものにすることができる。」

(コ)本件特許明細書の段落【0026】の
「本発明の第3実施例は、遠洋漁業で捕獲されたまぐろ、かつお等の赤身魚類を、ラウンドのまま船内において-40?-60℃程度で急速冷凍して保存する第1の冷凍工程と、漁船が帰港して陸揚げされた急速冷凍の魚類を機械的手段により強制的にブロック状に、若しくは柵状に切断する切断工程と、切断された魚肉を塩水(海水若しくは同等で5%程度の塩分を含む水)に浸漬して-4?+4℃程度に半解凍する解凍工程と、解凍された魚肉を前記第1実施例と同様に機械的に、若しくは刃物で人手により切断して消費者がそのまま提供できる形態である柵状、切り身に、刺身にし、この魚肉を必要であればトレーに盛り付けして必要であればシートを敷いてパックに収納するパック収納工程と、前記パック収納工程でのパック内を真空の雰囲気にして魚肉から空気を除去し、滅菌じたり酸化防止する真空処理工程と、真空処理工程の直後にパック内に炭酸ガスと酸素ガスとの混合がスを充填して、魚肉を混合ガスに接触させるガスの充填工程と、ガスの充填工程が終了したら、混合ガスが放出しないようにパックを密封するパック密封工程と、前記パック密封工程後の魚肉入りパックを低温状態にし、熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させる低温処理工程と、低温処理された魚肉入りパックを-30?-70℃の温度範囲、望ましくは-40?-60℃の温度範囲で2時間以上継続させる第2の冷凍工程とから成るものである。」
を、以下のとおりに訂正する。
「本発明の第3実施例は、遠洋漁業で捕獲されたまぐろ、かつお等の赤身魚類を、ラウンドのまま船内において-40?-60℃程度で急速冷凍して保存する第1の冷凍工程と、漁船が帰港して陸揚げされた急速冷凍の魚類を機械的手段により強制的にブロック状に、若しくは柵状に切断する切断工程と、切断された魚肉を塩水(海水若しくは同等で5%程度の塩分を含む水)に浸漬して-4?+4℃程度に半解凍する解凍工程と、解凍された魚肉を前記第1実施例と同様に機械的に、若しくは刃物で人手により切断して消費者にそのまま提供できる形態である柵状、切り身に、刺身にし、この魚肉を必要であればトレーに盛り付けして必要であればシートを敷いてパックに収納するパック収納工程と、前記パック収納工程でのパック内を真空の雰囲気にして魚肉から空気を除去し、酸化防止する真空処理工程と、真空処理工程の直後にパック内に炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスを充填して、魚肉を混合ガスに接触させるガスの充填工程と、ガスの充填工程が終了したら、混合ガスが放出しないようにパックを密封するパック密封工程と、前記パック密封工程後の魚肉入りパックを低温状態にし、熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させる低温処理工程と、低温処理された魚肉入りパックを-30?-70℃の温度範囲、望ましくは-40?-60℃の温度範囲で2時間以上継続させる第2の冷凍工程とから成るものである。」

(サ)本件特許明細書の段落【0031】の
「そして、前記魚肉入りパックは、真空包装装置に供給して真空処理工程を行うことにより、パックの内部を真空な雰囲気にし、魚肉が空気に接触するのを防いで滅菌とともに酸化防止をする。特に魚肉は、空気に接触しなければ細胞や組織が滅菌されるとともに、酸化防止の作用を有する。」
を、以下のとおりに訂正する。
「そして、前記魚肉入りパックは、真空包装装置に供給して真空処理工程を行うことにより、パックの内部を真空な雰囲気にし、魚肉が空気に接触するのを防いで酸化防止をする。」

(シ)本件特許明細書の段落【0032】の
「上記のようにして真空処理工程によって滅菌、酸化防止された魚肉入りのパックは、その工程の直後において、空気に接触させないままで、パック内に炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスを充填するガスの充填工程を行う。」
を、以下のとおりに訂正する。
「上記のようにして真空処理工程によって酸化防止された魚肉入りのパックは、その工程の直後において、空気に接触させないままで、パック内に炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスを充填するガスの充填工程を行う。」

(ス)本件特許明細書の段落【0033】の
「上記したガスの充填工程が終了した後は、パックを密封して混合ガスが放出しないようにするパック密封工程を行い、その後に、パックを低温状態にして魚肉を熟成させ、前記パック内の混合ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させる低温処理工程を行い、必要であればパック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする第2の冷凍工程を行う。」
を、以下のとおりに訂正する。
「上記したガスの充填工程が終了した後は、パックを密封して混合ガスが放出しないようにするパック密封工程を行い、その後に、パックを低温状態にして魚肉を熟成させ、前記パック内の混合ガスを魚肉に浸透させることにより低温処理工程を行い、必要であればパック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする第2の冷凍工程を行う。」

2 訂正の適否
(1)特許請求の範囲についての訂正の適否
ア 請求項1についての訂正の適否
請求項1には、「パック収納工程」、「真空処理工程」、「ガスの充填工程」、「パック密封工程」、「低温処理工程」、「冷凍工程」の6工程からなる「赤身魚類の処理方法」が記載されているところ、請求項1についての訂正は、それらの工程のうちの、「パック収納工程」、「真空処理工程」、「ガスの充填工程」及び「低温処理工程」についてするものである。
以下、それぞれの工程についての訂正ごとに、その適否を検討する。

(ア)「パック収納工程」についての訂正
「パック収納工程」についての訂正は、訂正前に「切断により消費者にそのまま提供できる形態の魚肉」とあったものを、「切断により」を「刺身、切り身、柵状のように」として、「刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態の魚肉」とするものである。
訂正前の「切断により消費者にそのまま提供できる形態の魚肉」との記載は、「その魚肉を切断すれば消費者にそのまま提供できる形態となる魚肉」とも、刺身、切り身、柵状の魚肉のように、「何らかの形態の魚肉を切断した後の、消費者にそのまま提供できる形態にした魚肉」とも解することができたものであり、また、「消費者にそのまま提供できる形態」の意味も明りょうではないものであった。これを「刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態の魚肉」と訂正することにより、上記のように「何らかの形態の魚肉を切断した後の、消費者にそのまま提供できる形態にした魚肉」である「刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態の魚肉」として明りようでない記載であった訂正前の魚肉の形態を明りょうにするものといえる。そうすると、「パック収納工程」についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とするものということができるから、特許法第134条の2第1項ただし書きの規定に適合するものである。
そして、願書に添付した明細書(本件特許明細書)、特許請求の範囲又は図面には、「パック収納工程」において、「刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態の魚肉」をパックに収納することについて、段落【0026】に、「解凍された魚肉を前記第1実施例と同様に機械的に、若しくは刃物で人手により切断して消費者がそのまま提供できる形態である柵状、切り身に、刺身にし、…パックに収納するパック収納工程」と記載されているのであるから、「パック収納工程」についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。さらに、明りょうでない記載を明りょうな記載としたものであって実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。よって、「パック収納工程」についての訂正は、特許法第134条の2第5号において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
したがって、「パック収納工程」についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(イ)「真空処理工程」についての訂正
「真空処理工程」についての訂正は、訂正前の「前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にして滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する」を、下線部を削除して、「前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にする」とするものである。
「パックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にして滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する」との記載は、例えば「滅菌」の用語が通常の意味と異なるものか否か不明等の不明りょうな記載を含むもので、明りょうではない記載であるところ、真空処理工程について本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、「魚肉を真空雰囲気にすることにより滅菌するとともに空気接触による酸化の防止をし」(段落【0009】)、「真空状態にして滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する…空気中の雑菌が付着していないので組織の変性や色素の変化などを防止することができる」(段落【0010】)、「真空処理工程を経ることによりパックの内部を真空な雰囲気にし、魚肉が空気に接触しないので滅菌とともに酸化防止の作用を有し、肉質や色素の変性や変化を防止することができる」(段落【0014】)などの記載が認められ、これらの記載によれば、真空処理工程は、「滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する」という作用効果ないし技術的意義を有するものであることが示されていると認められる。すなわち、パック内を真空雰囲気にすると、パック中における空気(窒素、酸素のほか雑菌等も含む)を排除され、その空気の排除に伴いパック中の空気において存在していた酸素、雑菌等も排除されるのであるから、結局「滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する」という作用効果ないし技術的意義を有するというものと認められる。そうすると、訂正前の「滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する」との記載は、「真空雰囲気にすること」という工程の作用効果ないし技術的意義を明示したもの、「真空雰囲気にすること」を言い換えたもの、であると認められる。そうすると、この記載の有無によって、発明の内容が異なるものとなるわけではない。むしろ、この「滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止」との記載があることにより、上記のとおり、例えば「滅菌」の用語が通常の意味と異なるのか否か等の不明りょうな記載を含むこととなり、「内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にして滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する」の記載が不明りょうであったところ、この不明りょうな記載を削除する訂正は、結果として、「真空処理工程」を明りようとするものであるということができる。そうすると、「真空処理工程」についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とするものということができる。
また、「滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する」との記載を削除することによっても、「真空処理工程」の内容は変わらないのであるから、この訂正は、特許請求の範囲を変更するもの又は拡張するものでもなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。そうすると、「真空処理工程」についての訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
したがって、「真空処理工程」についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(ウ)「ガスの充填工程」についての訂正
「ガスの充填工程」についての訂正は、訂正前の「パック内に炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスを充填」を、「パック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填」とするものである。
この訂正は、訂正前の「炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガス」について、「20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガス」とその組成を特定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」又は同ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」のいずれかを目的とするものということができる。
さらに、「ガスの充填工程」において充填される混合ガスの組成が、「20?50容量%の炭酸ガスと50?80%の酸素ガスとの混合ガス」であることは、訂正前の特許請求の範囲の請求項3や本件特許明細書の段落【0008】に記載されている事項であるから、「ガスの充填工程」について混合ガスの組成を特定する訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に適合する。
加えて、混合ガスの組成を特定することは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
したがって、「ガスの充填工程」についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(エ)「低温処理工程」についての訂正
「低温処理工程」についての訂正は、訂正前の「魚肉入りパックを凍結させないで自己消化作用を発生させない程度の低温状態に維持させて、自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させる」を「魚肉入りパックを5℃?10℃で30分?3時間維持する」とするものである。
「凍結させないで自己消化作用を発生させない程度の低温状態に維持させて、自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させる」という記載は、例えば「自己消化作用」、「熟成」の各用語の意味や両者の関係が明りょうではない等不明りょうな記載を含むもので、明りょうではない記載であるところ、低温処理工程について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、「前記低温処理工程は、1?15℃の温度範囲で30分?3時間程処理し、…」(段落【0008】)、「魚肉を炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスに接触させ、しかも一定時間だけ低温状態に維持して熟成することにより、魚肉の組織や細胞が活性化して変化したり変性しない」(段落【0009】)、「前記低温処理工程は、魚肉が凍結しない程度の温度で一定時間維持させるもの…。前記低温処理工程は、1?15℃、望ましくは5?10℃で30分?3時間、望ましくは1?2時間維持させる。低温処理工程において、1℃以下にすると凍結することがあり、15゜C以上では魚肉に自己消化作用が発生して軟化する可能性がある。また、30分以下では魚肉が十分に熟成しないし、3時間以上も低温維持すると魚肉が加温されて自己消化作用が発生することがある。」(段落【0020】)、「前記低温処理工程によって魚肉は熟成され、パック内に充填している炭酸ガス、酸素ガスの成分が魚肉内の組織や細胞内に十分に浸透し、これらを活性化させるとともに、組織や細胞、色素などが変性したり変化することがない。」(段落【0021】)、「前記パック密封工程後の魚肉入りパックを低温状態にし、熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させる低温処理工程」(段落【0026】)、「密封工程を行い、その後に、パックを低温状態にして魚肉を熟成させ、前記パック内の混合ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させる低温処理工程を行い」(段落【0033】)などの記載が認められ、これらの記載によれば、低温処理工程は、「魚肉が凍結しない程度」かつ「自己消化作用が発生することがない」温度で「パック内の混合ガスを魚肉に浸透させる」程度維持するものであり、低温処理工程の作用効果ないし技術的意義は、「熟成することにより、魚肉の組織や細胞が活性化して変化したり変性しない」ものとするための工程であるといえる。そして、その「低温」処理とは具体的には「1?15℃、望ましくは5?10℃」で処理することであり、その温度を維持する時間は「30分?3時間、望ましくは1?2時間」であると認められる。
そうすると、訂正前の「凍結させないで自己消化作用を発生させない程度の低温状態に維持させて、自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させる」との記載は、所定温度の「低温」で所定時間処理するという「低温処理工程」の作用効果ないし技術的意義を明示したもので、この記載の有無によって、発明の内容が異なるものとなるわけではない。むしろ、「魚肉入りパックを凍結させないで自己消化作用を発生させない程度の低温状態に維持させて、自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させる」の記載が、例えば「自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させて」の記載の意味等不明りょうな記載を含むもので、不明りょうであったところ、これを、削除し、低温処理工程の具体的な温度条件の「5℃?10℃」とその維持時間「30分?3時間」とすることは、「低温処理工程」を明りょうにするものであるといえる。したがって、この「低温処理工程」についての訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的としたものであるから、少なくとも特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とするものということができる。
また、この訂正によって「低温処理工程」の内容が変更され又は拡張されるものではないから、この訂正は、実質上特許請求の範囲を変更し又は拡張するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
そうすると、「低温処理工程」についての訂正は、少なくとも特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とするものであり、さらに、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(オ)請求項1についての訂正のまとめ
請求項1についての訂正についての判断は上記(ア)ないし(エ)のとおりのものであるから、請求項1についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

イ 請求項2についての訂正
請求項2には、「第1の冷凍工程」、「切断工程」、「解凍工程」、「パック収納工程」、「真空処理工程」、「ガスの充填工程」、「パック密封工程」、「低温処理工程」、「第2の冷凍工程」の9工程からなる「赤身魚類の処理方法」が記載されているところ、請求項2についての訂正は、それらの工程のうち、「パック収納工程」、「真空処理工程」、「ガスの充填工程」、「低温処理工程」を訂正するものである。
以下、それぞれの工程についての訂正ごとに、その適否を検討する。

(ア)「パック収納工程」についての訂正
パック収納工程についての訂正は、訂正前に「前記解凍工程により解凍された魚肉を刃物で切断して消費者にそのまま提供できる形態にした魚肉」とあったものを、「前記解凍工程により解凍された魚肉を刃物で切断して、刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態にした魚肉」とするものである。
訂正前の「切断して消費者にそのまま提供できる形態」の意味が明りょうでないものであったところ、これを「刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態」とすることにより、明りょうにするものといえる。
そうすると、「パック収納工程」についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明りようでない記載の釈明」を目的とするものということができるから、特許法第134条の2第1項ただし書きの規定に適合するものである。
そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、「パック収納工程」において、「刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態にした魚肉」をパックに収納することについて、段落【0026】に、「解凍された魚肉を前記第1実施例と同様に機械的に、若しくは刃物で人手により切断して消費者がそのまま提供できる形態である柵状、切り身に、刺身にし、…パックに収納するパック収納工程」と記載されているから、「パック収納工程」についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえ、さらに、明りょうでない記載を明りょうな記載としたものであって実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5号において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
したがって、「パック収納工程」についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(イ)「真空処理工程」についての訂正
真空処理工程についての訂正は、請求項1の「真空処理工程」についての訂正と同じであるから、その判断も、上記ア(イ)における判断と同様となる。
したがって、「真空処理工程」についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(ウ)「ガスの充填工程」についての訂正
「ガスの充填工程」についての訂正は、請求項1の「ガスの充填工程」についての訂正と同じであるから、その判断も、上記ア(ウ)における判断と同様となる。
したがって、「ガスの充填工程」についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(エ)「低温処理工程」についての訂正
「低温処理工程」についての訂正は、請求項1の「低温処理工程」についての訂正と同じであるから、その判断も、上記ア(エ)における判断と同様となる。
したがって、「低温処理工程」についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(オ)請求項2についての訂正のまとめ
請求項2についての判断は上記(ア)ないし(エ)のとおりのものであるから、請求項2についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

ウ 請求項3及び請求項4についての訂正
請求項3及び請求項4についての訂正は、これらの請求項を削除するものである。
この訂正は、特許請求の範囲の減縮に相当するものということができるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の規定に適合するものであり、さらに、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

エ 訂正前の請求項5についての訂正
訂正前の請求項5についての訂正は、訂正前の請求項3及び同請求項4の削除に伴い、形式的には、その請求項番号の5を3に繰り上げるものであるが、訂正後の請求項3は、訂正後の請求項1又は訂正後の請求項2を引用するものであるから、内容的には請求項1又は2についての訂正もされているものである。
そして、引用する請求項1又は請求項2についての訂正は、上記ア及びイのとおり、いずれも、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
そうすると、訂正前の請求項5についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

オ 請求人らの主張
(ア)請求人らは、平成21年6月8日付けで提出した弁駁書において、請求項1、2についての訂正は、以下a?cにおいて不適法である旨の主張をする。

a パック収納工程についての訂正は、実質的に「切断により」を削除する訂正であるところ、構成要件を削除する訂正は、特許請求の範囲を実質的に変更ないし拡張するものである。
訂正前の「切断により消費者にそのまま提供できる形態の魚肉」は、「切断すれば、消費者にそのまま提供できる形態となる魚肉」、「何らかの形態の魚肉を切断して、消費者にそのまま提供できる形態にした魚肉」と解釈される不明りょうであった記載を、訂正後においていずれであるかを確定するものではないから、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。

b 真空処理工程について、「滅菌」が追加された出願経緯などからみれば、「滅菌」が誤記であるとはいえず、「滅菌」を削除する訂正は誤記の訂正、さらに、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。
「滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する」が誤記であるとしても、単に構成要件を削除する訂正は正しい記載への置き換えではないから、誤記の訂正とはいえず、構成要件を削除する訂正は特許請求の範囲を実質的に変更ないし拡張するものであり、さらに、この構成要件を有さない真空処理工程については出願当初明細書に記載されていないから、新規事項を追加するものである。

c 低温処理工程について、「凍結させないで自己消化作用を発生させない程度の低温状態に維持させて、自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させる」を「5℃?10℃で30分?3時間維持する」とする訂正は、「凍結させないで自己消化作用を発生させない」、「自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させて」という記載の釈明でも誤記の訂正でも特許請求の範囲の減縮でもなく、実質上特許請求の範囲を拡張するものである。
また、「5℃?10℃で30分?3時間維持する」の根拠とされた本件特許明細書の段落【0020】の記載は、温度及び時間のそれぞれ広い範囲及び望ましいとされる狭い範囲の記載は、広い範囲同士、狭い範囲同士とが対応していると解されるべき、例えば、望ましくは「5℃?10℃で1?2時間維持」等と解されるべきであるから、訂正後の「5℃?10℃で30分?3時間維持する」を導く根拠にはならない。

(イ)本件訂正についての請求人らのこれらの主張は、本件審判請求の結論に影響を及ぼすものではない、すなわち、以下の「第6 当審の判断」において示すとおり、本件特許1ないし3は無効とすべきものであると判断されるが、この本件訂正後の特許請求の範囲の記載は特許法第36条の規定を満たすものではないとする判断は本件訂正前の特許請求の範囲の記載についても同様にいえることであるから、この訂正により本件審判請求の結論に影響を及ぼすものではないが、以下、上記主張について、触れておくこととする。
まず、訂正によって構成要件を削除することが、直ちに特許請求の範囲を拡張(ないし変更)することになるわけではない(例えば、並列の選択枝を削除する訂正等)。本件訂正は、訂正前の特許請求の範囲の記載が、ある構成と、それを説明する構成を含み、かつ、その構成の一部に明りょうでない部分を含むものであったところ、その明りょうでない部分を含む構成を削除(ないし同等ないし減縮構成に置換)するものであるが、上記ア、イに示したとおり、構成要件の削除(置換)は明りょうでない記載の釈明であるといえ、訂正前の特許請求の範囲を拡張ないし変更するものではないといえるものである。
また、段落【0020】における低温処理の条件は、保持温度と、その温度において保持すべき時間の範囲が記載されている。この適切な保持時間は温度に依存するものの、温度のみ依存するものではなく、例えば、「魚肉の形状、大きさ、酸素ガスおよび炭酸ガスの分圧」などによっても影響されるものである(例えば、特開平7-123912号公報(審決注:甲第2号証として提出されている文献である。)の段落【0011】の記載等参照)から、段落【0020】における低温処理の温度、時間の記載は、請求人らの主張するような、温度の範囲及び望ましい範囲の記載は時間の範囲及び望ましい範囲の記載とそれぞれ対応しているものと解すべきではなく、それぞれの範囲、及び望ましい範囲を個別に示しているものと解すべきである。
よって、請求人らの上記主張により、請求項1、2の訂正についての上記判断が左右されるものではない。

カ 特許請求の範囲についての訂正の適否のまとめ
上記のとおり、特許請求の範囲についての訂正は、いずれも、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

(2)明細書についての訂正の適否
ア 段落【0006】、【0007】についての訂正
段落【0006】、【0007】はそれぞれ請求項1、2を引き写した記載部分であり、段落【0006】、【0007】についての訂正は、それぞれ訂正前の請求項1、2の記載を訂正後の請求項1、2の記載とするものである。
そうすると、これらの訂正についての判断は、請求項1、2の訂正についてしたものと同様となる。
したがって、段落【0006】、【0007】についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

イ 段落【0008】についての訂正
段落【0008】についての訂正は、低温処理工程の温度範囲を訂正後の請求項1、2の記載と整合させたものであるから、この訂正についての判断は、請求項1、2の低温処理工程についての訂正についてしたものと同様となる。
したがって、段落【0008】についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

ウ 段落【0009】についての訂正
段落【0009】についての訂正は、真空処理工程の「真空雰囲気にすることにより」を「真空処理することにより」とし、「滅菌するとともに」及び低温処理工程についての「活性化して変化したり」の記載を削除し、「食するときには」を「食するときに」とするものであり、発明の効果についての明りょうでない記載を明りょうとし、かつ訂正後の請求項1又は請求項2の記載と実質的に整合させるものである。
したがって、この訂正についての判断は、請求項1、2の真空処理工程、低温処理工程についての訂正についてしたものと同様となるから、段落【0009】についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

エ 段落【0010】についての訂正
段落【0010】の記載部分は請求項1、2の概要を説明した記載部分であり、段落【0010】についての訂正は、訂正後の請求項1、2の記載と整合させるための訂正であると認められるから、この訂正についての判断は、請求項1、2の訂正についてしたものと同様となる。
したがって、この訂正についての判断は、請求項1、2の真空処理工程、低温処理工程についての訂正についてしたものと同様となるから、段落【0010】についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

オ 段落【0014】、【0015】についての訂正
段落【0014】、【0015】は主に真空処理工程について説明した記載部分であり、段落【0014】、【0015】についての訂正は、「滅菌とともに」、「細胞や組織が滅菌されて」及び「滅菌や」の記載を削除するものであり、真空処理工程についての作用効果ないし技術的意義についての明りょうでない記載を明りょうとし、かつ訂正後の請求項1、2の記載と実質的に整合させるものである。
したがって、この訂正についての判断は、請求項1、2の真空処理工程についての訂正についてしたものと同様となるから、段落【0014】、【0015】についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

カ 段落【0020】、【0021】についての訂正
段落【0020】、【0021】は主に低温処理工程について説明した記載部分であり、段落【0020】、【0021】についての訂正は、訂正前の「1?15℃、望ましくは5?10℃で30分?3時間、望ましくは1?2時間維持」を、「5?10℃で30分?3時間維持」とし、「1℃以下にすると凍結することがあり、」、「十分に」、「これらを活性化させるとともに、」を削除し、かつ訂正後の請求項1又は請求項2の記載と実質的に整合させるものであり、さらに、「じかも」の誤記を「しかも」と訂正するものである。
そして、上記誤記の訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第2号の規定に適合するものであり、さらに、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものであり、その他の訂正についての判断は、請求項1、2の真空処理工程、低温処理工程についての訂正についてしたものと同様となるから、段落【0020】、【0021】についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

キ 段落【0026】についての訂正
段落【0026】は請求項2に記載された発明を説明する記載部分であり、段落【0026】についての訂正は、真空処理工程についての「滅菌じたり」、低温処理工程についての「ことにより活性化させる」という明りょうでない記載を削除し、かつ訂正後の請求項2の記載と実質的に整合させるものであり、さらに、「消費者が」の誤記を「消費者に」と、「混合がス」の誤記を「混合ガス」に訂正するものである。
そして、誤記の各訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第2号の規定に適合するものであり、さらに、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものであり、その他の訂正についての判断は、請求項2の真空処理工程、低温処理工程についての訂正についてしたものと同様となるから、段落【0026】についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

ク 段落【0031】ないし【0033】についての訂正
段落【0031】ないし【0033】は請求項2に記載された発明の真空処理工程から第2の冷凍工程までを説明する記載部分であり、段落【0031】ないし【0033】についての訂正は、真空処理工程についての「滅菌とともに」、「特に魚肉は、空気に接触しなければ細胞や組織が滅菌されるとともに、酸化防止の作用を有する。」、「滅菌」、低温処理工程についての「活性化させる」の記載を削除し、かつ訂正後の請求項2の記載と実質的に整合させるものである。
そして、これらの訂正についての判断は、請求項2の真空処理工程、低温処理工程についての訂正についてしたものと同様となるから、段落【0026】についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

ケ 明細書についての訂正の適否のまとめ
上記のとおり、明細書についての訂正、すなわち、本件特許明細書の段落【0006】、【0007】、【0008】、【0009】、【0010】、【0014】、【0015】、【0020】、【0021】、【0026】、【0031】、【0032】及び【0033】についての訂正は、いずれも、特許法第134条の2第1項ただし書及び同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

3 訂正請求についてのむすび
以上のとおり、特許請求の範囲について及び明細書についての訂正は、いずれも適法である。
したがって、本件訂正請求を認容する。

第3 特許請求の範囲及び明細書
本件訂正は上記第2のとおり認められるから、本件特許の特許請求の範囲及び明細書は、本件訂正の後の特許請求の範囲及び明細書(以下、それぞれ「訂正特許請求の範囲」、「訂正明細書」という。)である。
訂正特許請求の範囲は、上記第2 1(2)アのとおりである。下線を除いて再掲する。
「【請求項1】
刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態の魚肉をパックに収納するパック収納工程と、
前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にする真空処理工程と、
前記真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、
前記ガスと魚肉とが封入されたパックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、
前記パック密封工程後の魚肉入りパックを5℃?10℃で30分?3時間維持する低温処理工程と、
パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする冷凍工程と、
からなることを特徴とする赤身魚類の処理方法。
【請求項2】
捕獲した魚類をラウンドのままで急速冷凍する第1の冷凍工程と、
前記第1の冷凍工程によって冷凍されている魚類を機械的手段により切断する切断工程と、
前記切断工程によって切断された魚肉を、刃物で切断可能なように半解凍状態にする解凍工程と、
前記解凍工程により解凍された魚肉を刃物で切断して、刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態にした魚肉をパックに収納するパック収納工程と、
前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にする真空処理工程と、
前記真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、
炭酸ガスと酸素ガスとが封入された前記パックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、
前記パック密封工程後の魚肉入りパックを5℃?10℃で30分?3時間維持する低温処理工程と、
パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする第2の冷凍工程と、
からなることを特徴とする赤身魚類の処理方法。
【請求項3】
パック収納工程では、パック内にトレー及び/又はシートを入れる請求項1または2に記載の赤身魚類の処理方法。」
以下、請求項1ないし3に記載された特許を受けようとする発明を、「訂正発明1」、「訂正発明2」、「訂正発明3」といい、まとめて「訂正発明」という。また、それらの発明についての特許を、以下、「本件特許1」、「本件特許2」、「本件特許3」ということとする。

第4 請求人らの主張する無効理由の概要
請求人らは、審判請求書、弁駁書、口頭審理陳述要領書、平成20年2月5日付け、平成20年2月19日付け及び平成20年3月4日付け上申書、甲第1号証?甲第3号証、その他によれば、おおむね、特許請求の範囲の請求項1、請求項2及び請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許1、2及び3は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである、と主張すると認められる。
そして、上記甲第1号証?甲第3号証は、以下のとおりのものである。
甲第1号証:特開平5-336878号公報
甲第2号証:特開平7-123912号公報
甲第3号証:特開2000-287618号公報

なお、平成20年2月5日の第1回口頭審理の調書のとおり、請求人らは、下記a?gの主張を撤回している。
a 平成20年2月5日付け上申書で追加した、甲第4号証(特開平3-25463号公報)を根拠にしてする、新たな「特許を無効にする根拠となる事実」の主張
b 口頭審理陳述要領書3ページ14行?4ページ14行の「5.陳述の要領(6)」における、本件特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨の主張
c 口頭審理陳述要領書4ページ24行?5ページ4行の「5.陳述の要領(8)」のうちの4ページ28?29行及び5ページ3行における、本件特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当する旨の主張
d 弁駁書3ページ13?20行の「5.弁駁の理由(3)」における、混合ガスに係る訂正は認められるものではない旨の主張
e 弁駁書3ページ21?27行の「5.弁駁の理由(4)」のうちの3ページ23行?25行における、混合ガスに係る訂正は認められるものではない旨の主張
f 口頭審理陳述要領書4ページ15?23行の「5.陳述の要領の(7)」における、混合ガスについての訂正は、特許法第126条第1項に規定する要件を満たしていない旨の主張
g 口頭審理陳述要領書の4ページ24行?5ページ4行の「5.陳述の要領(8)」のうちの5ページ1?2行における、混合ガスについての訂正は、特許法第126条第1項に規定する要件を満たしていない旨の主張

第5 平成20年3月17日付けで通知した無効理由
当審において、平成20年3月17日付けで通知した無効理由は、以下のとおりである(この無効理由中の「本件特許」、「本件特許請求の範囲」及び「本件特許明細書」については、その無効理由中における定義による。すなわち、平成19年10月2日付けの訂正後のものをいう。)。

『第1 本件特許及び本件特許に係る明細書
本件特許は、平成19年10月2日付け訂正請求に係る訂正された特許請求の範囲(以下、「本件特許請求の範囲」という。)に記載された請求項1?3に係るものであり、本件特許に係る明細書は、平成19年10月2日付け訂正請求に係る訂正された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)である。

第2 無効理由について
本件特許請求の範囲に記載された請求項1?3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号に該当する。
事案にかんがみ、まず特許法第36条第6項第2号に規定する要件について述べることとし、次いで、同第6項第1号、同第4項の順に述べる。

1 特許法第36条第6項第2号に規定する要件について
本件特許請求の範囲の記載は、下記(1)?(6)の点で、「特許を受けようとする発明が明確であること。」との要件に適合しないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1) 請求項1及び2に係る特許における「自己消化作用」について、具体的にどのような作用のことを意味するのかが明確でない。 …
(2) 請求項1及び2に係る特許における「魚肉を十分に熟成」について、具体的にどのような状態などになれば「魚肉を十分に熟成」させたということができるのか、具体的にどのような手段などによりこれを行うことを意味するのかが明確でない。 …
(3) 請求項1及び2に係る特許における「自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させる」について、「自己消化作用」が発生しないのに「熟成」するとは具体的にどのようなことを意味するのか、具体的にどのような手段などによりこれを行うことを意味するのか、また、「自己消化作用」と「熟成」の技術的関係がどのようなものであるのかが明確でない。 …
(4) 請求項1及び2に係る特許における「活性化」について、これが具体的にどのようなことを意味するのか、具体的にどのような状態となれば「活性化」されたというのかが明確でない。 …
(5) 請求項1及び2に係る特許における「前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にして滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する真空処理工程」について、そもそも、相互の修飾関係などが明確でないことからその意味が明確でないし、さらに、当該真空処理工程が、具体的にどのような手段などにより行うことを意味するのか、それにより、具体的にどのような状態などにすることを意味するのかが明確でない。…
(6) 請求項1に係る特許における「切断により消費者にそのまま提供できる形態の魚肉」について、具体的にどのような形態の魚肉を意味するのかが明確でない。 …

2 特許法第36条第6項第1号に規定する要件について
本件特許請求の範囲の記載は、下記の点で、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」との要件に適合しないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1) 本件特許について
本件特許は、本件特許請求の範囲に記載された請求項1?3に係るものであって、そして、いずれも「低温処理工程」を必須の工程とする赤身魚類の処理方法に係るものということができる。

(2) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下ア?クに摘示した記載がある。 …(摘示略)

(3) 特許法第36条第6項第1号に規定する要件の検討
本件特許が解決しようとする課題は、本件特許明細書の記載、とりわけ、上記の「ア」?「ウ」、「オ」及び「カ」として摘示した記載からみて、上記の「ウ」に記載されている、
「消費者にそのままで提供できる形態に切断した赤身魚であっても、長期間経過しても鮮度、色合い、食慾などが変わることがなく、また冷凍した魚肉を解凍しても組織や細胞が分解したり変化、変性することがなく、また色素が変化しないので黒ずんだような変色をすることがなく、生の魚とほとんど同様の外観と食感を供することができ、しかも解凍後に平均10℃以下の冷蔵庫に長期間(3?5日程度)保存しておいても組織、細胞や色彩が変化したり変性することがなくて弾力性があって本来の色彩を有する肉質を維持するので、著しく商品価値の高いものにするようにした」
であるということができる。
そして、本件特許請求の範囲の記載が、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」との要件に適合するためには、本件特許請求の範囲の記載と本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比し、本件特許が、発明の詳細な説明に記載された特許で、発明の詳細な説明の記載により当業者(その発明の属する分野における通常の知識を有する者)が当該特許の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該特許の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができなければならない。
…、本件特許明細書のその余の記載を検討しても、所定の低温処理工程を行うことで、所期の課題を解決し得ると認識できるということはできないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、低温処理工程を行うことによる所期の課題に係る具体的な評価を導くことはできない。

(4) 小括
したがって、発明の詳細な説明は、本件特許が、発明の詳細な説明に記載された特許で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該特許の課題を解決できると認識できるに足る記載を欠くものであるといわざるを得ないから、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 特許法第36条第4項第1号に規定する要件について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、下記(1)?(2)の点で、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」との要件に適合しないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1) 請求項1及び2に係る特許における「自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させる」について、具体的にどのような手段などによりこれを行えばよいのか、発明の詳細な説明の記載をみても明らかではなく、このように「自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させる」には、当業者であっても過度の試行錯誤を要するといわざるを得ない。…
(2) 請求項1及び2に係る特許における「前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にして滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する真空処理工程」について、「魚肉の組織や細胞が変性しないように」、「滅菌」及び「酸化を防止する」という作用・効果を得るための真空処理工程が、具体的にどのような手段などによりこれを行えばよいのか、発明の詳細な説明の記載をみても明らかではなく、このような「真空処理工程」を実施するには、当業者であっても過度の試行錯誤を要するといわざるを得ない。 …

第3 むすび
以上のとおり、本件の請求項1?3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号に該当する。』

第6 当審の判断
当審は、平成20年3月17日付けで通知した無効理由において示したとおり、訂正特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許1ないし3は、同法第123条第1項第4項に該当し、無効にすべきものである、と判断する。その理由は、以下のとおりである。

1 はじめに
(1)特許法第36条第6項第1号についての無効理由の通知について
平成20年3月17日付けの無効理由通知における無効理由の2として特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないことについて通知した。
この無効理由の2において判断対象とした特許請求の範囲及び明細書は、平成19年10月2日付けの訂正請求書に添付された特許請求の範囲及び訂正した明細書であるから、当審の判断対象である訂正特許請求の範囲及び訂正明細書と全く同じものであるとはいえない。
しかしながら、平成19年10月2日付けの訂正請求書に添付された特許請求の範囲は、以下のとおり、
「【請求項1】
切断により消費者にそのまま提供できる形態の魚肉をパックに収納するパック収納工程と、
前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にして滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する真空処理工程と、
前記真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填(審決注:旧字体となっている。以下、新字体にアンダーラインを付して表記する。)して魚肉に接触させるガスの充填工程と、
前記ガスと魚肉とが封入されたパックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、
前記パック密封工程後の魚肉入りパックを凍結させないで自己消化作用を発生させない程度の低温状態に維持させて、自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させるために、5℃?10℃で30分?3時間の低温処理を行う低温処理工程と、
パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする冷凍工程と、
からなることを特徴とする赤身魚類の処理方法。
【請求項2】
捕獲した魚類をラウンドのままで急速冷凍する第1の冷凍工程と、
前記第1の冷凍工程によって冷凍されている魚類を機械的手段により切断する切断工程と、
前記切断工程によって切断された魚肉を、刃物で切断可能なように半解凍状態にする解凍工程と、
前記解凍工程により解凍された魚肉を刃物で切断して消費者にそのまま提供できる形態にした魚肉をパックに収納するパック収納工程と、
前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にして滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止する真空処理工程と、
前記真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、
前記混合ガスが封入された前記パックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、
前記パック密封工程後の魚肉入りパックを凍結させないで自己消化作用を発生させない程度の低温状態に維持させて、自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させるために、5℃?10℃で30分?3時間の低温処理を行う低温処理工程と、
パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする第2の冷凍工程と、
からなることを特徴とする赤身魚類の処理方法。
【請求項3】
パック収納工程では、パック内にトレー及び/又はシートを入れる請求項1または2に記載の赤身魚類の処理方法。」
というものである。
特許請求の範囲についてみると、当審の判断対象である訂正特許請求の範囲の請求項1及び請求項2は、上記平成19年10月2日付けの訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の「収納工程」において「刺身、切り身、柵状のように」が加入され(請求項1では、さらに「切断により」が削除され)、「真空処理工程」及び「低温処理工程」において「して滅菌とともに空気に接触させないで酸化を防止」、「凍結させないで自己消化作用を発生させない程度の低温状態に維持させて、自己消化作用を発生させないようにして魚肉を十分に熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させることにより活性化させ」の記載が削除されているほかは、「ガスの充填工程」における炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスの混合比、「低温処理工程」における低温処理の温度及び時間も同じである。さらに、請求項3も形式的に同じである。
また、明細書についてみても、両者は、それぞれの請求項1、2における関係と概ね同様の関係にあるものといえる。
そうすると、平成20年3月17日付けで通知した無効理由の2は、当審の判断対象である訂正特許請求の範囲及び訂正明細書についても、既に通知されているというべきである。

(2)特許法第36条第6項第1号に規定する要件
特許法第36条第6項第1号において、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している(以下「明細書のサポート要件」ともいう。)。「明細書のサポート要件」の判断について、知的財産高等裁判所の平成17年11月11日判決言渡しの平成17(行ケ)10042号判決において、「特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。」とされ、「そして、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである」とされている。
以下、上記判決の観点に立って、本件について検討することとする。

2 特許請求の範囲の記載
訂正特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりであって、訂正発明1ないし3は、いずれも、特定の「低温処理工程」、さらに「真空処理工程」等を必須の工程とする赤身魚類の処理方法の発明である。

3 訂正明細書の発明の詳細な説明の記載
(1)訂正明細書の発明の詳細な説明には、以下に摘示した記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、まぐろ、かつお等の赤身の魚類において、需要者にそのまま提供できるような形態で切断した魚肉を、長期間にわたり鮮度を維持させるとともに色素変化による変色をさせないで、生の魚肉のように食感を損なわせることなく長期間の保存が可能であり、しかも解凍しても長期間にわたって変色したり食感が損なわれないようにしたことを特徴とする魚類の処理方法に関するものである。」

「【背景技術】…
【0003】
しかし、まぐろやかつお等の大形で赤身の魚類は、魚体の組織や細胞が分解したり変性しやすく、また色素の変化、変性が激しいので冷凍しないと長期間の保存ができないし、冷凍した魚肉をそのままで解凍すると肉質が著しく悪化するばかりでなく、黒ずんだような色変化が発生して、しかも変色した肉汁が垂れ流れるために、外観や食慾が悪化して商品価値が著しく低下する、という欠点があった。
【0004】
この改善策として、冷蔵温度にした魚肉に酸素ガスと炭酸ガスを長時間接触させ、両ガスを魚肉に十分に吸収させたら冷凍温度以下に凍結させて保存する方法、所定の大きさにカットした魚肉を液化窒素や液化炭酸を用いて急速冷凍する方法、等が知られている。
【特許文献1】特開平7-123912号公報」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来の前記方法でも、作業が著しく長時間で手間を要するばかりでなく、0?-3℃の冷蔵庫で16時間も放置すると食品衛生法の規格基準値を大幅に超える無数の大腸菌が発生して冷凍食品として流通できないし、ガスを封入するために空気抜きをして更に真空にすると、魚肉を2回真空状態にするために細胞や組織が著しく変性してドリップが発生したりうま味が著しく低下し、また変色する。
しかも特別の冷蔵装置が必要であるばかりでなく、赤身の魚類では処理温度や時間において微妙に変化すると組織や細胞が変性して黒ずんだように変色するので、特に生で食する刺身や寿司用の素材にすると商品に使用することができない。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、消費者にそのままで提供できる形態に切断した赤身魚であっても、長期間経過しても鮮度、色合い、食慾などが変わることがなく、また冷凍した魚肉を解凍しても組織や細胞が分解したり変化、変性することがなく、また色素が変化しないので黒ずんだような変色をすることがなく、生の魚とほとんど同様の外観と食感を供することができ、しかも解凍後に平均10℃以下の冷蔵庫に長期間(3?5日程度)保存しておいても組織、細胞や色彩が変化したり変性することがなくて弾力性があって本来の色彩を有する肉質を維持するので、著しく商品価値の高いものにするようにしたことである。」

「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載の発明は、…パック収納工程と、…真空処理工程と、…ガスの充填工程と、…パック密封工程と、前記パック密封工程後の魚肉入りパックを5℃?10℃で30分?3時間維持する低温処理工程と、…冷凍工程と、からなることを特徴とする。
【0007】
また本発明の請求項2に記載の発明は、…第1の冷凍工程と、…切断工程と、…解凍工程と、…パック収納工程と、…真空処理工程と、…ガスの充填工程と、…パック密封工程と、前記パック密封工程後の魚肉入りパックを5℃?10℃で30分?3時間維持する低温処理工程と、…第2の冷凍工程と、からなることを特徴とする。」

「【0008】…前記低温処理工程は、5?10℃の温度範囲で30分?3時間程処理し、また必要であればパック収納工程では、パック内にトレー及び/又はシートを入れて血液やドリップ液を吸収したり、形状を保持することができる。」

「【発明の効果】
【0009】
本発明の赤身魚類の処理方法は、魚肉を真空処理することにより空気接触による酸化の防止をし、真空処理工程の直後に魚肉を炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスに接触させ、しかも一定時間だけ低温状態に維持して熟成することにより、魚肉の組織や細胞が変性しないので、調理して食するときに、黒ずんだ変色がないばかりでなく生魚と全く同様の食感があり、しかも一般家庭の冷蔵庫に数日間保存しても肉質が変化したり変色しないので、消費者もそのままの形態の状態で食することができるという効果がある。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
したがって本発明は、魚類の組織や細胞の変性、変化による劣化防止という課題を、魚肉を短時間だけ真空状態にする真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させる、しかも凍結しない温度を一定時間維持(たとえば、5?10℃の温度範囲で30分?3時間程処理し)させて魚肉を熟成するという手段によって確実に解決するようにしたものである。そして、真空処理工程後に前記混合ガスに接触させるために、その後に冷凍して長期間保存し、その後に解凍しても確実に酸化防止をすることができるし、また空気中の雑菌が付着していないので組織の変性や色素の変化などを防止することができる。」

「【0020】
前記低温処理工程は、魚肉が凍結しない程度の温度で一定時間維持させるもので、例えば冷蔵庫のチルト室を利用することができる。
前記低温処理工程は、5?10℃で30分?3時間維持させる。低温処理工程において、15℃以上では魚肉に自己消化作用が発生して軟化する可能性がある。また、30分以下では魚肉が熟成しないし、3時間以上も低温維持すると魚肉が加温されて自己消化作用が発生することがある。
【0021】
前記低温処理工程によって魚肉は熟成され、パック内に充填している炭酸ガス、酸素ガスの成分が魚肉内の組織や細胞内に十分に浸透し、組織や細胞、色素などが変性したり変化することがない。
したがって、長期間そのままの状態にしておいても、鮮度や色合いが変わることがなく、また冷凍した魚肉を解凍しても組織や細胞が分解したり変化、変性することがなく、色素が変化しないので黒ずんだような変色をすることがなく、生の魚とほとんど同様の外観と食感を供することができる。しかも冷凍後に解凍した状態であっても、平均10℃以下の冷蔵庫に長期間(3?5日程度)保存しておいても組織、細胞や色彩が変化したり変性することがなくて弾力性があって本来の色彩を有する肉質を維持するので、著しく商品価値の高いものにすることができる。」

「【0026】
本発明の第3実施例は、遠洋漁業で捕獲されたまぐろ、かつお等の赤身魚類を、ラウンドのまま船内において-40?-60℃程度で急速冷凍して保存する第1の冷凍工程と、漁船が帰港して陸揚げされた急速冷凍の魚類を機械的手段により強制的にブロック状に、若しくは柵状に切断する切断工程と、切断された魚肉を塩水(海水若しくは同等で5%程度の塩分を含む水)に浸漬して-4?+4℃程度に半解凍する解凍工程と、解凍された魚肉を前記第1実施例と同様に機械的に、若しくは刃物で人手により切断して消費者にそのまま提供できる形態である柵状、切り身に、刺身にし、この魚肉を必要であればトレーに盛り付けして必要であればシートを敷いてパックに収納するパック収納工程と、前記パック収納工程でのパック内を真空の雰囲気にして魚肉から空気を除去し、酸化防止する真空処理工程と、真空処理工程の直後にパック内に炭酸ガスと酸素ガスとの混合がスを充填して、魚肉を混合ガスに接触させるガスの充填工程と、ガスの充填工程が終了したら、混合ガスが放出しないようにパックを密封するパック密封工程と、前記パック密封工程後の魚肉入りパックを低温状態にし、熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させる低温処理工程と、低温処理された魚肉入りパックを-30?-70℃の温度範囲、望ましくは-40?-60℃の温度範囲で2時間以上継続させる第2の冷凍工程とから成るものである。」

「【0033】
上記したガスの充填工程が終了した後は、パックを密封して混合ガスが放出しないようにするパック密封工程を行い、その後に、パックを低温状態にして魚肉を熟成させ、前記パック内の混合ガスを魚肉に浸透させることにより低温処理工程を行い、必要であればパック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする第2の冷凍工程を行う。」

「【実施例4】
【0036】
次に、試験成績を説明する。
図1は鮪Aの成分を検出した公的機関の試験成績証明書、図2は鮪Bの成分を検出した公的機関の試験成績証明書である。鮪Aは、遠洋漁業で捕獲して急速冷凍したラウンドの鮪を陸揚げ時に機械的に切断し、自然放置により-2℃にまで半解凍して包丁で切断した100gの刺身状のま々ろ肉を、発泡スチロールシートを底面に敷いた樹脂トレーに盛り付けし、軟質樹脂のパックに収納してガス処理装置に供給し、3torrの真空度で40秒間真空処理した後、直ちに70容積%の酸素ガスと30容積%の炭酸ガスとの混合ガスを充填して充満させ、密封して-60℃で急速冷凍し、1ケ月間経過後に検査協会に持ち込み、検査協会において冷蔵庫で解凍したガス処理済みの供試体である。
鮪Bは、鮪Aと同一の魚体であって、遠洋漁業で捕獲して急速冷凍したラウンドの鮪を陸揚げ時に機械的に切断した魚肉を100gを、そのままの状態で1ケ月間冷凍して鮪Aとともに検査協会に持ち込み、検査協会において冷蔵庫で解凍したガス処理無しの供試体である。
両供試体をエネルギー、水分、たんぱく質、脂質、炭水化物、灰分の6項目において検出試験した結果、図1、2の試験成績証明書に記載の通り、水分においてガス無しの供試体がガス処理済みの供試体より100gのうち0.1g多く、また灰分においてガス処理済みの供試体がガス処理無しの供試体より100gのうち0.1g多いだけで、その他の項目では全く変化がなかった。
したがって、本発明の方法によってガス処理したまぐろ肉は、ガス処理無しのまぐろと全く変わらない組織であり、また色もほとんど変化していなかった。
【0037】
また、前記鮪Aと鮪Bとの鮪肉を、庫内温度が平均8℃の一般家庭用の冷蔵庫に入れて1日経過後に観察してみたら、鮪Aはほとんど変化が無かったが、鮪Bは肉質が柔らかくなって全体に黒みがかっていた。また庫内の平均温度が8℃の冷蔵庫に入れて2日経過後には鮪Aはほとんど変化が無かったが、鮪Bは肉質かきわめて柔らかくなって腐敗状態になるとともに全体が黒くなったので廃棄し、また3日経過して鮪Aを冷蔵庫から取り出して食しても、食感、味覚において変化が無く、また色彩も解凍時と変わらなかった。
【0038】
図3は、冷凍鮪の大腸菌群を検出した公的機関の試験成績証明書である。
この供試体である鮪は、前記鮪Aと同様に、冷凍魚体そのものは異なるが、遠洋漁業で捕獲して急速冷凍したラウンドの鮪を陸揚げ時に機械的に切断し、自然放置により0℃にまで半解凍して包丁で切断した100gの刺身状のまぐろ肉を、発泡スチロールシートを底面に敷いた樹脂トレーに盛り付けし、軟質樹脂のパックに収納してガス処理装置に供給し、4torrの真空度で30秒間真空処理した後、直ちに70容積%の酸素ガスと30容積%の炭酸ガスとの混合ガスを充填して充満させ、密封して-60℃で急速冷凍し、1ケ月間経過後に検査協会に持ち込んだものである。
食品衛生法の「食品、添加物等の規格基準」の冷凍食品の項によれば、冷凍食品の成分規格として、「無加熱摂取冷凍食品(冷凍食品のうち製造し、又は加工した食品を凍結させたものであって、飲食に供する際に加熱を要しないとされているものをいう。以下この項においては同じ。)は、細菌数(生菌数)が検体1gにつき100,000以下で、かつ、大腸菌群が陰性でなければならない。この場合の細菌数(生菌数)の測定法及び大腸菌群試験法は、次のとおりとする。」と規定され、試験法が記載されている。
その試験法とおりに公的機関である財団法人食品環境検査協会で持ち込んだ前記供試体を試験したところ、細菌数が6500/gで、大腸菌群が陰性であり、冷凍食品として著しく優良であって、合格のものであった。」

(2)訂正発明が解決しようとする課題
訂正明細書の上記記載によれば、まぐろ、かつお等の赤身の魚類の処理に関し、従来、
「まぐろやかつお等の大形で赤身の魚類は、魚体の組織や細胞が分解したり変性しやすく、また色素の変化、変性が激しいので冷凍しないと長期間の保存ができないし、冷凍した魚肉をそのままで解凍すると肉質が著しく悪化するばかりでなく、黒ずんだような色変化が発生して、しかも変色した肉汁が垂れ流れるために、外観や食慾が悪化して商品価値が著しく低下する」(段落【0003】)
という欠点があり、この改善策として従来、
「冷蔵温度にした魚肉に酸素ガスと炭酸ガスを長時間接触させ、両ガスを魚肉に十分に吸収させたら冷凍温度以下に凍結させて保存する方法、…、等が知られている」(段落【0004】)
ところ、この方法でも、
「作業が著しく長時間で手間を要するばかりでなく、0?-3℃の冷蔵庫で16時間も放置すると食品衛生法の規格基準値を大幅に超える無数の大腸菌が発生して冷凍食品として流通できないし、ガスを封入するために空気抜きをして更に真空にすると、魚肉を2回真空状態にするために細胞や組織が著しく変性してドリップが発生したりうま味が著しく低下し、また変色する。
しかも特別の冷蔵装置が必要であるばかりでなく、赤身の魚類では処理温度や時間において微妙に変化すると組織や細胞が変性して黒ずんだように変色するので、特に生で食する刺身や寿司用の素材にすると商品に使用することができない。」(段落【0005】)
という欠点があった。そこで、訂正発明は、
「魚類の組織や細胞の変性、変化による劣化防止という課題」(段落【0010】)、
詳細には、
「消費者にそのままで提供できる形態に切断した赤身魚であっても、長期間経過しても鮮度、色合い、食慾などが変わることがなく」、
「また冷凍した魚肉を解凍しても組織や細胞が分解したり変化、変性することがなく、また色素が変化しないので黒ずんだような変色をすることがなく、」
「生の魚とほとんど同様の外観と食感を供することができ」、
「しかも解凍後に平均10℃以下の冷蔵庫に長期間(3?5日程度)保存しておいても組織、細胞や色彩が変化したり変性することがなくて弾力性があって本来の色彩を有する肉質を維持するので、著しく商品価値の高いもの」(段落【0005】)
にするという、赤身魚の上記劣化の防止をすることを課題として発明されたものであると認められる。
そして、訂正発明は、その課題の解決のために、
「本発明の赤身魚類の処理方法は、魚肉を真空雰囲気にすることにより空気接触による酸化の防止をし、真空処理工程の直後に魚肉を炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスに接触させ、しかも一定時間だけ低温状態に維持して熟成することにより、魚肉の組織や細胞が変性しないので、調理して食するときには、黒ずんだ変色がないばかりでなく生魚と全く同様の食感があり、しかも一般家庭の冷蔵庫に数日間保存しても肉質が変化したり変色しないので、消費者もそのままの形態の状態で食することができるという効果がある。」(段落【0009】)
と、特に従来技術の「冷蔵温度にした魚肉に酸素ガスと炭酸ガスを長時間接触」、具体的には「0?-3℃の冷蔵庫で16時間」、という低温処理の欠点等を改良するものとして、低温処理工程を主要な改良点とし、さらに真空処理工程等を必須の構成として含む訂正発明の構成を採用したものであると認められる(段落【0006】、【0007】)。

(3)低温処理工程についての記載
訂正明細書の発明の詳細な説明における訂正発明に関する低温処理工程についての記載をみると、上記のほか以下の記載があり、それ以外にはないことが認められる。
「前記低温処理工程は、5?10℃の温度範囲で30分?3時間程処理し、」(段落【0008】)
「前記低温処理工程は、魚肉が凍結しない程度の温度で一定時間維持させるもので、例えば冷蔵庫のチルト室を利用することができる。
前記低温処理工程は、5?10℃で30分?3時間維持させる。低温処理工程において、15℃以上では魚肉に自己消化作用が発生して軟化する可能性がある。また、30分以下では魚肉が熟成しないし、3時間以上も低温維持すると魚肉が加温されて自己消化作用が発生することがある。
前記低温処理工程によって魚肉は熟成され、パック内に充填している炭酸ガス、酸素ガスの成分が魚肉内の組織や細胞内に十分に浸透し、組織や細胞、色素などが変性したり変化することがない。
したがって、長期間そのままの状態にしておいても、鮮度や色合いが変わることがなく、また冷凍した魚肉を解凍しても組織や細胞が分解したり変化、変性することがなく、色素が変化しないので黒ずんだような変色をすることがなく、生の魚とほとんど同様の外観と食感を供することができる。しかも冷凍後に解凍した状態であっても、平均10℃以下の冷蔵庫に長期間(3?5日程度)保存しておいても組織、細胞や色彩が変化したり変性することがなくて弾力性があって本来の色彩を有する肉質を維持するので、著しく商品価値の高いものにすることができる。」(段落【0020】、【0021】)
「前記パック密封工程後の魚肉入りパックを低温状態にし、熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させる低温処理工程」(段落【0026】)
「密封工程を行い、その後に、パックを低温状態にして魚肉を熟成させ、前記パック内の混合ガスを魚肉に浸透させることにより低温処理工程を行い」(段落【0033】)
これらの記載においては、訂正発明の低温処理工程の作用効果ないし技術的意義についての概要が説明がされていることが認められる。しかしながら、個別具体的な条件で処理したもの、例えば、特定の形状の特定種類の赤身魚について、特定組成の混合ガス中における訂正発明条件内の特定の低温処理をしたものについて、その組織や細胞の変性、変化による劣化が具体的にどのようなものであったのか等について、記載するところはない。
すなわち、訂正発明についての具体的な実験等により客観的な裏付けを示すべき記載部分と認められる「実施例1」の表示以下の記載部分(段落【0011】以降)をみても、まず、「実施例1」とされている部分は、実質的に訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された発明のうち、低温処理工程までの各工程の詳細について定性的に記載しただけのものであるし、同様に、「実施例2」とされている部分は、実質的に訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の詳細について、また、同「実施例3」とされている部分は、実質的に訂正特許請求の範囲の請求項2に記載された発明の詳細について、それぞれ記載したものでにすぎない。これら「実施例1」?「実施例3」とされる記載部分には、従来技術との主な改良点とされ、訂正発明の主要な工程のひとつと認められる、「低温処理工程」について、どのような種類・形状の赤身魚(鮪か鰹かその他か。刺身か切り身か柵か。その縦横厚さ。刺身の場合は重ね方)を、どのような組成・圧力の炭酸ガス及び酸素ガス混合ガス(どのような組成、全圧か)下で、何度で何分(時間)維持したのか等具体的条件で処理したときの、組織や細胞の変性、変化による劣化の程度を具体的に示すものはなんらなく、まして、従来の「0?-3℃の冷蔵庫で16時間」という低温処理をしたものと、劣化の程度が同じなのか相違するのか、相違するとき、そのように相違するのか等を具体的に示すもはない。
さらに、「実施例4」とされている記載部分は、急速冷凍した「鮪」の100gの「刺身状」のマグロを処理を行った際の試験成績について記載しており、真空処理工程の圧力時間、混合ガスの組成が明記されている点において、「実施例1」?「実施例3」とされている記載部分に比し、より具体的に記載されているということができる。しかしながら、この処理においては、「混合ガスを充填して充満させ、密封して-60℃で急速冷凍し」と、パック密閉工程後に(第2の)冷凍工程を行っており、訂正発明の主要な工程のひとつ認められる、「低温処理工程」について、その具体的条件はもとより、その工程が行われたのかすら不明である。
以上のとおり、訂正明細書の発明の詳細な説明には、具体例、特に訂正発明の「低温処理工程」を具体的条件下に実施し、組織や細胞の変性、変化による劣化の程度等の結果を示した例を明記するところはない。

4 発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比
(1)特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきことは、上記1(2)で説示したとおりである。そして、上記2から明らかなとおり、訂正発明は、特定の低温処理工程等を主要な構成要件のひとつとするものであるところ、このような発明において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、その特定の低温処理工程等を構成要件とする方法によって、上記の課題を解決できることを、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該方法であれば、上記の課題を解決し得ると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である。

(2)そこで、訂正明細書の記載が、訂正特許請求の範囲の請求項1の記載との関係で、上記(1)の明細書のサポート要件に適合するか否かについてみると、上記3で検討したとおり、訂正明細書の発明の詳細な説明には、従来の赤身魚の処理方法における課題である、
「長期間経過しても鮮度、色合い、食慾などが変わることがな」い。
「解凍しても組織や細胞が分解したり変化、変性することがなく、また色素が変化しないので黒ずんだような変色をすることがなく、生の魚とほとんど同様の外観と食感を供することができ」る。
「解凍後に平均10℃以下の冷蔵庫に長期間(3?5日程度)保存しておいても組織、細胞や色彩が変化したり変性することがなくて弾力性があって本来の色彩を有する肉質を維持する」
という課題を解決し、組織や細胞の変性、変化による上記劣化の防止がされた赤身魚を得るための手段として、訂正発明に記載された特定の低温処理工程等の工程を採用したことが記載されている。
他方、訂正発明1ないし3は、本件請求項1ないし3に規定された、特定の低温処理工程等を施すことにより、上記所期の課題を解決し得るというのものであるところ、訂正発明1ないし3の特定の低温処理工程等を施すことによって、本件出願時において、それらの工程、特に特定の低温処理工程を採用することと、その作用効果との間の因果関係・メカニズムに関する記載等、具体例の開示がなくとも上記所期の課題を解決し、組織や細胞の変性、変化による上記劣化の防止がされた赤身魚を得られることを当業者に理解できるものであったことを示すに足りるものはない。
むしろ、訂正明細書の発明の詳細な説明の背景技術の欄の段落【0004】に挙げられた、特開平7-123912号公報(審決注:甲第2号証として提出されている文献である。)には、
「吸収処理温度が高くなると、吸収処理している間に魚肉の分解が進むため、氷温下あるいは氷温下より僅かに高い冷蔵温度程度が実際的である。具体的には0℃程度から-3℃程度の範囲が良い。…一方、魚肉の分解は吸収処理時間が長い程進む。通常の「柵」の形状の魚肉で、かつ0ないし-3℃程度の温度、酸素ガス80体積%炭酸ガス20体積%の混合ガス、大気圧での条件下で、吸収処理時間は16時間程度である。」(段落【0011】)
と、「0℃程度から-3℃程度」の範囲を超える温度においてガスの吸収処理をすると、「魚肉の分解が進む」ので不適当であるという技術常識があることが認められる。さらに、気体の溶解度について、温度が低いほど溶解度が大きいという技術常識もある。加えて、訂正明細書の発明に詳細な説明において自ら示すように、低温処理に関し「赤身の魚類では処理温度や時間において微妙に変化すると組織や細胞が変性して黒ずんだように変色する」(段落【0005】)と記載するように、赤身魚の組織や細胞が変性は、「処理温度や時間において微妙に変化する」ものであると認められる。
そうすると、訂正発明1ないし3の方法は、「魚肉の分解が進む」から不適当であるとされ、ガスの溶解からみると溶解度が低下すると予測されるところの、従来技術より高い「5℃?10℃」という温度において、従来技術より短い「30分?3時間」という低温処理工程を含む方法であるにもかかわらず、上記予測に反し、上記課題を解決することができる、すなわち、組織や細胞の変性、変化による劣化防止がされた赤身魚を得ることができる、というものである。そして、赤身魚の組織や細胞が変性は、「処理温度や時間において微妙に変化する」ことを併せ考えれば、訂正発明1ないし3の方法が上記課題を解決することができることを当業者において認識できるというためには、訂正発明1ないし3を実施した(特に、特定の低温処理工程を具体的条件及びその結果を示した)具体例を開示して、上記課題を解決することができることを裏付けることを要するというべきである。
しかし、訂正明細書の発明の詳細な説明には、特許出願時の技術常識を参酌しても、当該方法であれば、上記課題を解決することができることを当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載するということはできない。
すなわち、上記具体的な実験等により客観的な裏付けを示すべき記載部分と認められる「実施例1」ないし「実施例4」の記載における低温処理工程についての記載は上記3(3)のとおりであり、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載に接する当業者において、訂正発明1ないし3の工程を施せば、上記課題を解決し、上記所望の組織や細胞の変性、変化による劣化が防止された赤身魚を得ることが、具体例により裏付けられていると認識することは、本件出願時の技術常識を参酌しても、不可能というべきであるから、訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記課題を解決できることを当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載しているとはいえない。
してみると、訂正特許請求の範囲の訂正発明1ないし3が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえないから、訂正特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合するということはできない。

オ 特許法第36条第6項第1号に規定する要件についてのまとめ
したがって、訂正特許請求の範囲の記載は、訂正発明1ないし3について、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」との要件に適合しないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

5 当審の判断のまとめ
上記のとおり、本件特許1ないし3は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

第7 むすび
以上のとおり、本件特許1ないし3は、特許法第123条第1項第4号に該当するから、請求人らが主張する無効理由について検討するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
赤身魚類の処理方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、まぐろ、かつお等の赤身の魚類において、需要者にそのまま提供できるような形態で切断した魚肉を、長期間にわたり鮮度を維持させるとともに色素変化による変色をさせないで、生の魚肉のように食感を損なわせることなく長期間の保存が可能であり、しかも解凍しても長期間にわたって変色したり食感が損なわれないようにしたことを特徴とする魚類の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、遠洋漁業においては、捕獲した魚類を船内で-60℃以下の温度によって急速冷凍し、帰港して陸揚げしたとき市場に搬入し、競りにかけて競り落とした業者が解凍して調理する。また、近海漁業においては、捕獲した魚類を甲板等に保存しておき、帰港して陸揚げしたら市場に搬入して競りにかけ、競り落とした業者が処理する。
【0003】
しかし、まぐろやかつお等の大形で赤身の魚類は、魚体の組織や細胞が分解したり変性しやすく、また色素の変化、変性が激しいので冷凍しないと長期間の保存ができないし、冷凍した魚肉をそのままで解凍すると肉質が著しく悪化するばかりでなく、黒ずんだような色変化が発生して、しかも変色した肉汁が垂れ流れるために、外観や食慾が悪化して商品価値が著しく低下する、という欠点があった。
【0004】
この改善策として、冷蔵温度にした魚肉に酸素ガスと炭酸ガスを長時間接触させ、両ガスを魚肉に十分に吸収させたら冷凍温度以下に凍結させて保存する方法、所定の大きさにカットした魚肉を液化窒素や液化炭酸を用いて急速冷凍する方法、等が知られている。
【特許文献1】特開平7-123912号公報
【特許文献2】特開2001-169719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来の前記方法でも、作業が著しく長時間で手間を要するばかりでなく、0?-3℃の冷蔵庫で16時間も放置すると食品衛生法の規格基準値を大幅に超える無数の大腸菌が発生して冷凍食品として流通できないし、ガスを封入するために空気抜きをして更に真空にすると、魚肉を2回真空状態にするために細胞や組織が著しく変性してドリップが発生したりうま味が著しく低下し、また変色する。
しかも特別の冷蔵装置が必要であるばかりでなく、赤身の魚類では処理温度や時間において微妙に変化すると組織や細胞が変性して黒ずんだように変色するので、特に生で食する刺身や寿司用の素材にすると商品に使用することができない。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、消費者にそのままで提供できる形態に切断した赤身魚であっても、長期間経過しても鮮度、色合い、食慾などが変わることがなく、また冷凍した魚肉を解凍しても組織や細胞が分解したり変化、変性することがなく、また色素が変化しないので黒ずんだような変色をすることがなく、生の魚とほとんど同様の外観と食感を供することができ、しかも解凍後に平均10℃以下の冷蔵庫に長期間(3?5日程度)保存しておいても組織、細胞や色彩が変化したり変性することがなくて弾力性があって本来の色彩を有する肉質を維持するので、著しく商品価値の高いものにするようにしたことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に記載の発明は、刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態の魚肉をパックに収納するパック収納工程と、前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にする真空処理工程と、前記真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、前記ガスと魚肉とが封入されたパックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、前記パック密封工程後の魚肉入りパックを5℃?10℃で30分?3時間維持する低温処理工程と、パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする冷凍工程と、からなることを特徴とする。
【0007】
また本発明の請求項2に記載の発明は、捕獲した魚類をラウンドのままで急速冷凍する第1の冷凍工程と、前記第1の冷凍工程によって冷凍されている魚類を機械的手段により切断する切断工程と、前記切断工程によって切断された魚肉を、刃物で切断可能なように半解凍状態にする解凍工程と、前記解凍工程により解凍された魚肉を刃物で切断して、刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態にした魚肉をパックに収納するパック収納工程と、前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にする真空処理工程と、前記真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、炭酸ガスと酸素ガスとが封入された前記パックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、前記パック密封工程後の魚肉入りパックを5℃?10℃で30分?3時間維持する低温処理工程と、パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする第2の冷凍工程と、からなることを特徴とする。
【0008】
また本発明によれば、前記ガスの充填工程における混合ガスは、炭酸ガスが20?50容積%、酸素ガスが50?80容積%の混合割合で、前記低温処理工程は、5?10℃の温度範囲で30分?3時間程処理し、また必要であればパック収納工程では、パック内にトレー及び/又はシートを入れて血液やドリップ液を吸収したり、形状を保持することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の赤身魚類の処理方法は、魚肉を真空処理することにより空気接触による酸化の防止をし、真空処理工程の直後に魚肉を炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスに接触させ、しかも一定時間だけ低温状態に維持して熟成することにより、魚肉の組織や細胞が変性しないので、調理して食するときに、黒ずんだ変色がないばかりでなく生魚と全く同様の食感があり、しかも一般家庭の冷蔵庫に数日間保存しても肉質が変化したり変色しないので、消費者もそのままの形態の状態で食することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
したがって本発明は、魚類の組織や細胞の変性、変化による劣化防止という課題を、魚肉を短時間だけ真空状態にする真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させる、しかも凍結しない温度を一定時間維持(たとえば、5?10℃の温度範囲で30分?3時間程処理し)させて魚肉を熟成するという手段によって確実に解決するようにしたものである。そして、真空処理工程後に前記混合ガスに接触させるために、その後に冷凍して長期間保存し、その後に解凍しても確実に酸化防止をすることができるし、また空気中の雑菌が付着していないので組織の変性や色素の変化などを防止することができる。
【実施例1】
【0011】
以下に本発明の実施例を説明する。
【0012】
本発明の第1実施例は、近海漁業において捕獲したまぐろ、かつお等の赤身の魚類を、急速冷凍しないで機械的手段により、または包丁などの刃物によって人手により適宜の寸法に切断して刺身、切り身、柵状等消費者にそのまま提供できる形態にしてトレーに盛り付けし、空気が透過しない樹脂パックにトレーごと収納するパック収納工程を有する。
【0013】
前記パック収納工程では、トレーに盛り付けする場合に、不織布や布、厚手の紙などからなるシートを底面に敷設したトレーに入れておくと、魚類を切断することにより生じる血液、肉汁などの魚体液を前記シートに吸収させることができるので、魚肉に付着して劣化させることを防止することができる。また、トレーは盛り付けする魚肉の形態を維持するためである。
したがって、魚肉の商品として体裁を重視しないのであれば、パック収納工程におけるトレーやシートは、必須要件ではないし、トレーとシートとの何れか一方を使用してもよい。しかし、例えば一般家庭での刺身用に利用するのであれば、体裁よくする必要があるから、シートを敷いたトレーにのせて、血液や肉汁、ドリップ液等をシートに吸収させるとともに、トレーで形状を維持させるのが好ましい。
前記パック収納工程で使用するパックとしては、耐候性、耐低温性、耐液性、空気の非透過性などを有する樹脂の袋を使用するのがよい。
【0014】
切断した魚肉を収納したパックは一端が開放しているので、真空処理工程を経ることによりパックの内部を真空な雰囲気にし、魚肉が空気に接触しないので酸化防止の作用を有し、肉質や色素の変性や変化を防止することができる。この真空処理工程は、きわめて短時間であって、数秒乃至数十秒で十分であり、長時間真空状態に接触させると、組織や細胞が変性して食感が低下したり黒ずんだ色に変色する。
【0015】
また魚肉は、短時間でも真空状態に接触して空気から遮断すると、肉質が生の状態に維持されるし、しかも空気中の酸素が接触しないので酸化防止作用を生じることになるが、長時間真空状態にさらされると肉質が劣化するので、酸化防止作用が生じる程度の時間で十分である。
【0016】
上記のように、真空処理工程によりパックの内部を真空にすると、次の工程では炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスをパックに充填して魚肉に接触させるガスの充填工程が行われる。このガスの充填工程は、真空処理工程の終了直後であって、しかも魚肉を空気に接触させないようにして行う。
【0017】
このガスの充填工程における炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスの比率は、炭酸ガスが20?50容積%、酸素ガスが50?80容積%であって、両ガスの混合比率は、まぐろやかつおなどの赤身の魚肉の組織、細胞や色素を変性させたり変化させないで、そのままの状態を維持するための必要条件である。
【0018】
上記したガスの充填工程が終了した直後には、パックの開口部を密封して混合ガスが放出しないようにする機械的なパック密封工程を行う。
前記した真空処理工程、ガスの充填工程及びパック密封工程は、魚肉を収納したパックをコンペアに乗せて搬送し、搬送途中で真空処理してガスを充填し、パックの開口部を密封する真空包装装置により、装置の内部で連続した工程によって自動的に処理するものである。
前記した3工程は、約1分間で処理することができる。
【0019】
前記した真空処理工程、ガスの充填工程及びパック密封工程を1基の真空包装装置によって処理したら、前記装置からパックが排出されるので、このパックを低温処理工程にまで移動する。
【0020】
前記低温処理工程は、魚肉が凍結しない程度の温度で一定時間維持させるもので、例えば冷蔵庫のチルト室を利用することができる。
前記低温処理工程は、5?10℃で30分?3時間維持させる。低温処理工程において、15°C以上では魚肉に自己消化作用が発生して軟化する可能性がある。また、30分以下では魚肉が熟成しないし、3時間以上も低温維持すると魚肉が加温されて自己消化作用が発生することがある。
【0021】
前記低温処理工程によって魚肉は熟成され、パック内に充填している炭酸ガス、酸素ガスの成分が魚肉内の組織や細胞内に十分に浸透し、組織や細胞、色素などが変性したり変化することがない。
したがって、長期間そのままの状態にしておいても、鮮度や色合いが変わることがなく、また冷凍した魚肉を解凍しても組織や細胞が分解したり変化、変性することがなく、色素が変化しないので黒ずんだような変色をすることがなく、生の魚とほとんど同様の外観と食感を供することができる。しかも冷凍後に解凍した状態であっても、平均10℃以下の冷蔵庫に長期間(3?5日程度)保存しておいても組織、細胞や色彩が変化したり変性することがなくて弾力性があって本来の色彩を有する肉質を維持するので、著しく商品価値の高いものにすることができる。
【0022】
そのため、低温処理工程後、近郊の販売店で販売して3?5日程度で消費できるのであれば、処理したパック入りの魚肉を冷蔵したり常温のままで流通させればよい。しかし、流通過程で1週間以上も必要である場合には、密封したパックを急速冷凍する冷凍工程をするのがよい。
【実施例2】
【0023】
本発明の第2実施例は、前記低温処理工程によって処理されたパックを、魚肉が長期間保存できるようにするために、急速冷凍による冷凍工程をするのであって、パック収納工程、真空処理工程、ガスの充填工程、パック密封工程及び低温処理工程までは前記第1実施例と同様である。
前記冷凍工程は、通常の冷凍保存として知られている工程であって、-30?-70℃の温度範囲、望ましくは-40?-60℃の温度範囲で2時間以上継続させるのであり、きわめて長期間の保存が可能でありながら、鮮度や色彩をそのままの状態で維持することができる。
【0024】
このようにして冷凍保存された魚肉は、室温状態で若しくは10℃以下の冷蔵庫内で解凍すると、肉質が変化したり赤身の色彩が黒ずんだように変色することがなく、生のままの状態を維持している。また、組織や細胞が変性したり変化していないので、品質劣化しないので生と同様の食感があり、商品価値が劣らないし、食品衛生上においても変わることがない。したがって、一般家庭、寿司屋若しくは料亭において刺身、その他の料理用として、または寿司種用として、生のままで調理に利用することができる。
更に、解凍後そのまま冷蔵庫に収納しても、最低3日程度経過しても肉質や色合いが変化することがなく、生のような状態を維持している。
【実施例3】
【0025】
次に本発明の第3実施例を説明する。
【0026】
本発明の第3実施例は、遠洋漁業で捕獲されたまぐろ、かつお等の赤身魚類を、ラウンドのまま船内において-40?-60℃程度で急速冷凍して保存する第1の冷凍工程と、漁船が帰港して陸揚げされた急速冷凍の魚類を機械的手段により強制的にブロック状に、若しくは柵状に切断する切断工程と、切断された魚肉を塩水(海水若しくは同等で5%程度の塩分を含む水)に浸漬して-4?+4℃程度に半解凍する解凍工程と、解凍された魚肉を前記第1実施例と同様に機械的に、若しくは刃物で人手により切断して消費者にそのまま提供できる形態である柵状、切り身に、刺身にし、この魚肉を必要であればトレーに盛り付けして必要であればシートを敷いてパックに収納するパック収納工程と、前記パック収納工程でのパック内を真空の雰囲気にして魚肉から空気を除去し、酸化防止する真空処理工程と、真空処理工程の直後にパック内に炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスを充填して、魚肉を混合ガスに接触させるガスの充填工程と、ガスの充填工程が終了したら、混合ガスが放出しないようにパックを密封するパック密封工程と、前記パック密封工程後の魚肉入りパックを低温状態にし、熟成させて前記ガスを魚肉に浸透させる低温処理工程と、低温処理された魚肉入りパックを-30?-70℃の温度範囲、望ましくは-40?-60℃の温度範囲で2時間以上継続させる第2の冷凍工程とから成るものである。
【0027】
前記第1の冷凍工程は、遠洋漁業では数ケ月間航海しているので、その間に捕獲した魚類を保存するために、船内の設備で魚類を切断しないでラウンドのままの状態で急速冷凍するものである。
【0028】
そして、漁船が帰港して冷凍魚類を陸揚げすると、市場において若しくは競り落とした業者、その他の業者は、ラウンドの冷凍魚類を機械的手段によって強制的にブロック状に、若しくは柵状に切断する切断工程を行う。
【0029】
前記切断工程によって切断された冷凍魚類を、次の工程では塩水に浸漬して人手により包丁などの刃物で切断できる程度の硬さにまで半解凍させる解凍工程を行う。この解凍工程は、海水若しくは5%程度の塩分を含む海水と同程度の塩水に浸漬して-4?+4℃程度にすることであり、この状態では機械によって、若しくは包丁で人力により切断できる状態である。
【0030】
前記解凍工程によって半解凍した魚肉を、前記第1実施例と同様に適宜の寸法に切断して消費者がそのまま調理に利用できる刺身、切り身、柵等に切断し、切断した魚類を必要であれば血液、肉汁、ドリップ等を除去するためにシートを敷いたトレーに盛り付けし、トレーごとパックに収納するパック収納工程を行う。
【0031】
そして、前記魚肉入りパックは、真空包装装置に供給して真空処理工程を行うことにより、パックの内部を真空な雰囲気にし、魚肉が空気に接触するのを防いで酸化防止をする。
【0032】
上記のようにして真空処理工程によって酸化防止された魚肉入りのパックは、その工程の直後において、空気に接触させないままで、パック内に炭酸ガスと酸素ガスとの混合ガスを充填するガスの充填工程を行う。
【0033】
上記したガスの充填工程が終了した後は、パックを密封して混合ガスが放出しないようにするパック密封工程を行い、その後に、パックを低温状態にして魚肉を熟成させ、前記パック内の混合ガスを魚肉に浸透させることにより低温処理工程を行い、必要であればパック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする第2の冷凍工程を行う。
【0034】
前記した第2実施例における真空処理工程、ガスの充填工程、パック密封工程、低温処理工程及び急速冷凍工程は、第1実施例における真空処理工程、ガスの充填工程、パック密封工程、低温処理工程及び急速冷凍工程と同様であるから具体的説明を省略する。
【0035】
前記した第1実施例と第2実施例とは、第1実施例が近海漁業で捕獲して漁船内で急速冷凍していない生の魚類の保存処理であるのに対し、第3実施例は遠洋漁業で捕獲して船内でラウンドのままで急速冷凍した魚類の保存処理であって、その他の工程はほとんど同一である。
【実施例4】
【0036】
次に、試験成績を説明する。
図1は鮪Aの成分を検出した公的機関の試験成績証明書、図2は鮪Bの成分を検出した公的機関の試験成績証明書である。鮪Aは、遠洋漁業で捕獲して急速冷凍したラウンドの鮪を陸揚げ時に機械的に切断し、自然放置により-2℃にまで半解凍して包丁で切断した100gの刺身状のま々ろ肉を、発泡スチロールシートを底面に敷いた樹脂トレーに盛り付けし、軟質樹脂のパックに収納してガス処理装置に供給し、3torrの真空度で40秒間真空処理した後、直ちに70容積%の酸素ガスと30容積%の炭酸ガスとの混合ガスを充填して充満させ、密封して-60℃で急速冷凍し、1ケ月間経過後に検査協会に持ち込み、検査協会において冷蔵庫で解凍したガス処理済みの供試体である。
鮪Bは、鮪Aと同一の魚体であって、遠洋漁業で捕獲して急速冷凍したラウンドの鮪を陸揚げ時に機械的に切断した魚肉を100gを、そのままの状態で1ケ月間冷凍して鮪Aとともに検査協会に持ち込み、検査協会において冷蔵庫で解凍したガス処理無しの供試体である。
両供試体をエネルギー、水分、たんぱく質、脂質、炭水化物、灰分の6項目において検出試験した結果、図1,2の試験成績証明書に記載の通り、水分においてガス無しの供試体がガス処理済みの供試体より100gのうち0.1g多く、また灰分においてガス処理済みの供試体がガス処理無しの供試体より100gのうち0.1g多いだけで、その他の項目では全く変化がなかった。
したがって、本発明の方法によってガス処理したまぐろ肉は、ガス処理無しのまぐろと全く変わらない組織であり、また色もほとんど変化していなかった。
【0037】
また、前記鮪Aと鮪Bとの鮪肉を、庫内温度が平均8℃の一般家庭用の冷蔵庫に入れて1日経過後に観察してみたら、鮪Aはほとんど変化が無かったが、鮪Bは肉質が柔らかくなって全体に黒みがかっていた。また庫内の平均温度が8℃の冷蔵庫に入れて2日経過後には鮪Aはほとんど変化が無かったが、鮪Bは肉質かきわめて柔らかくなって腐敗状態になるとともに全体が黒くなったので廃棄し、また3日経過して鮪Aを冷蔵庫から取り出して食しても、食感、味覚において変化が無く、また色彩も解凍時と変わらなかった。
【0038】
図3は、冷凍鮪の大腸菌群を検出した公的機関の試験成績証明書である。
この供試体である鮪は、前記鮪Aと同様に、冷凍魚体そのものは異なるが、遠洋漁業で捕獲して急速冷凍したラウンドの鮪を陸揚げ時に機械的に切断し、自然放置により0℃にまで半解凍して包丁で切断した100gの刺身状のまぐろ肉を、発泡スチロールシートを底面に敷いた樹脂トレーに盛り付けし、軟質樹脂のパックに収納してガス処理装置に供給し、4torrの真空度で30秒間真空処理した後、直ちに70容積%の酸素ガスと30容積%の炭酸ガスとの混合ガスを充填して充満させ、密封して-60℃で急速冷凍し、1ケ月間経過後に検査協会に持ち込んだものである。
食品衛生法の「食品、添加物等の規格基準」の冷凍食品の項によれば、冷凍食品の成分規格として、「無加熱摂取冷凍食品(冷凍食品のうち製造し、又は加工した食品を凍結させたものであって、飲食に供する際に加熱を要しないとされているものをいう。以下この項においては同じ。)は、細菌数(生菌数)が検体1gにつき100,000以下で、かつ、大腸菌群が陰性でなければならない。この場合の細菌数(生菌数)の測定法及び大腸菌群試験法は、次のとおりとする。」と規定され、試験法が記載されている。
その試験法とおりに公的機関である財団法人食品環境検査協会で持ち込んだ前記供試体を試験したところ、細菌数が6500/gで、大腸菌群が陰性であり、冷凍食品として著しく優良であって、合格のものであった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
したがって本発明によれば、近海漁業で捕獲した赤身の魚類、または遠洋漁業において捕獲した赤身の魚類について、肉質を全く損なうことなく、また色彩においても変色させることなく、生の魚と全く同様な状態で長期の保存に耐えるようにしてもので、そのまま一般家庭、料理店、寿司屋などの消費者に搬送して調理することができるものである。また、解凍後であってもきわめて長期間肉質、色彩などにおいて変化がないものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ガス処理済みの鮪の成分試験成績証明書である。
【図2】ガス処理無しの鮪の成分試験成績証明書である。
【図3】ガス処理済みの鮪の大腸菌の試験成績証明書である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態の魚肉をパックに収納するパック収納工程と、
前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にする真空処理工程と、
前記真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、
前記ガスと魚肉とが封入されたパックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、
前記パック密封工程後の魚肉入りパックを5℃?10℃で30分?3時間維持する低温処理工程と、
パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする冷凍工程と、
からなることを特徴とする赤身魚類の処理方法。
【請求項2】
捕獲した魚類をラウンドのままで急速冷凍する第1の冷凍工程と、
前記第1の冷凍工程によって冷凍されている魚類を機械的手段により切断する切断工程と、
前記切断工程によって切断された魚肉を、刃物で切断可能なように半解凍状態にする解凍工程と、
前記解凍工程により解凍された魚肉を刃物で切断して、刺身、切り身、柵状のように消費者にそのまま提供できる形態にした魚肉をパックに収納するパック収納工程と、
前記魚肉を収納したパックの内部を魚肉の組織や細胞が変性しないように真空雰囲気にする真空処理工程と、
前記真空処理工程の終了直後にパック内に20?50容積%の炭酸ガスと50?80容積%の酸素ガスとの混合ガスを充填して魚肉に接触させるガスの充填工程と、
炭酸ガスと酸素ガスとが封入された前記パックを前記ガスの充填工程の直後に密封するパック密封工程と、
前記パック密封工程後の魚肉入りパックを5℃?10℃で30分?3時間維持する低温処理工程と、
パック内に収納されている魚肉を急速冷凍して冷凍魚肉とする第2の冷凍工程と、
からなることを特徴とする赤身魚類の処理方法。
【請求項3】
パック収納工程では、パック内にトレー及び/又はシートを入れる請求項1または2に記載の赤身魚類の処理方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-09-30 
結審通知日 2008-10-06 
審決日 2008-11-10 
出願番号 特願2004-61501(P2004-61501)
審決分類 P 1 113・ 832- ZA (A23B)
P 1 113・ 537- ZA (A23B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 恵理子  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 細井 龍史
橋本 栄和
登録日 2005-02-18 
登録番号 特許第3646993号(P3646993)
発明の名称 赤身魚類の処理方法  
代理人 福田 武通  
代理人 福田 賢三  
代理人 加藤 恭介  
代理人 畑中 芳実  
代理人 牧 哲郎  
代理人 加藤 恭介  
代理人 福田 武通  
代理人 福田 賢三  
代理人 牧 哲郎  
代理人 畑中 芳実  
代理人 福田 伸一  
代理人 古関 宏  
代理人 古関 宏  
代理人 福田 伸一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ