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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C04B |
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管理番号 | 1225364 |
審判番号 | 不服2007-13468 |
総通号数 | 132 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-05-09 |
確定日 | 2010-10-14 |
事件の表示 | 特願2004-300797「固化方法及びこれに用いる固化剤」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月27日出願公開、特開2006-111489〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成16年10月14日の出願であって、平成18年12月11日付けで拒絶理由が起案され、平成19年4月5日付けで拒絶査定が起案され、同年5月9日に拒絶査定不服審判が請求され、同年6月8日に明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、平成21年11月4日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され、平成22年1月8日に回答書が提出されたものである。 第2 平成19年6月8日付け手続補正について 平成19年6月8日付け手続補正は、補正前の請求項1及び2を削除するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号の「特許法第36条第5項に規定する請求項の削除」に該当するので、補正要件を充足する。 第3 本願発明 本願の特許請求の範囲に記載された請求項1?16に係る発明は、平成19年6月8日に補正された明細書および図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1?16に記載された以下の事項を発明特定事項とするものである。 「【請求項1】 固化対象資材とカルシウム系組成物とに対し、リグニン系組成物及び珪酸ナトリウムを主成分として調製された溶液Aと、リグニン系組成物及び塩化カルシウムを主成分として調製された溶液Bとを順次又は同時に添加し、攪拌混合して固化対象資材を固化する固化方法において、 固化対象資材に該溶液A又は該溶液Bのいずれかを添加し、攪拌混合する第1攪拌工程と、その後該溶液A又は該溶液Bのうち残りの溶液を添加し、再度攪拌混合する第2攪拌工程と有し、 該第1攪拌工程後、攪拌混合した半製品をサイズ毎に選別し、各サイズ毎に所定割合で配合し、第2攪拌工程を行うことを特徴とする固化方法。 【請求項2】 請求項1に記載の固化方法において、該第2攪拌工程において、該第1攪拌工程で攪拌混合する固化対象資材より粒径の小さい他の固化対象資材を追加投入することを特徴とする固化方法。 【請求項3】 固化対象資材とカルシウム系組成物とに対し、リグニン系組成物及び珪酸ナトリウムを主成分として調製された溶液Aと、リグニン系組成物及び塩化カルシウムを主成分として調製された溶液Bとを順次又は同時に添加し、攪拌混合して固化対象資材を固化する固化方法において、 固化対象資材に該溶液A又は該溶液Bのいずれかを添加し、攪拌混合する第1攪拌工程と、その後該溶液A又は該溶液Bのうち残りの溶液を添加し、再度攪拌混合する第2攪拌工程と有し、 該第2攪拌工程において、該第1攪拌工程で攪拌混合する固化対象資材より粒径の小さい他の固化対象資材を追加投入することを特徴とする固化方法。 【請求項4】 請求項1乃至3のいずれかに記載の固化方法において、カルシウム系組成物がセメント、石膏又は石灰であり、添加量が混合される材料の総重量に対し、3?20重量%であることを特徴とする固化方法。 【請求項5】 請求項1乃至4のいずれかに記載の固化方法において、該固化対象資材は、有機質又は無機質あるいは有機及び無機混合の廃棄物を含むことを特徴とする固化方法。 【請求項6】 請求項1乃至5のいずれかに記載の固化方法において、該溶液A又は溶液Bのいずれかにアスファルト乳化剤が含まれていることを特徴とする固化方法。 【請求項7】 請求項1乃至6のいずれかに記載の固化方法において、該攪拌混合が、混練工程を有することを特徴とする固化方法。 【請求項8】 請求項1乃至7のいずれかに記載の固化方法において、攪拌混合した後、形状型枠への圧縮又は流し込みにより成形し、固化することを特徴とする固化方法。 【請求項9】 請求項1乃至7のいずれかに記載の固化方法において、該固化対象資材が、道路や路盤の表面材料を粉砕した材料を含み、攪拌混合した後、路面に再敷設し固化させることを特徴とする固化方法。 【請求項10】 請求項9に記載の固化方法において、攪拌混合を路面上で行うことを特徴とする固化方法。 【請求項11】 請求項9又は10に記載の固化方法において、再敷設した後、該溶液A又は該溶液Bの少なくとも一方の溶液を路面に撒布し養生させることを特徴とする固化方法。 【請求項12】 請求項1乃至11のいずれかに記載の固化方法に用いるリグニン系組成物及び珪酸ナトリウムを主成分として調整された固化剤。 【請求項13】 請求項1乃至11のいずれかに記載された固化方法に用いるリグニン系組成物及び塩化カルシウムを主成分として調整された固化剤。 【請求項14】 請求項12又は13に記載の固化剤において、リグニン系組成物は、リグニンスルホン酸化合物、リグニンスルホン酸塩、オキシカルボン酸塩、ポリカルボン酸化合物、ポリカルボン酸エーテル化合物、ナフタレンスルホン酸化合物、スルホン酸塩、グリシトール誘導体、ポリオールの少なくとも一つを含むことを特徴とする固化剤。 【請求項15】 請求項12乃至14のいずれかに記載の固化剤において、アスファルト乳化剤が添加されていることを特徴とする固化剤。 【請求項16】 請求項12乃至15のいずれかに記載の固化剤において、セルロース系又はグリコース系の増粘剤と界面活性剤との混和剤が添加されていることを特徴とする固化剤。」 そして、請求項13を、引用する請求項3を用いて独立形式で記載すると、 「固化対象資材とカルシウム系組成物とに対し、リグニン系組成物及び珪酸ナトリウムを主成分として調製された溶液Aと、リグニン系組成物及び塩化カルシウムを主成分として調製された溶液Bとを順次又は同時に添加し、攪拌混合して固化対象資材を固化する固化方法において、 固化対象資材に該溶液A又は該溶液Bのいずれかを添加し、攪拌混合する第1攪拌工程と、その後該溶液A又は該溶液Bのうち残りの溶液を添加し、再度攪拌混合する第2攪拌工程と有し、 該第2攪拌工程において、該第1攪拌工程で攪拌混合する固化対象資材より粒径の小さい他の固化対象資材を追加投入することを特徴とする固化方法に用いるリグニン系組成物及び塩化カルシウムを主成分として調整された固化剤。」(以下、「本願発明13」という。)である。 第4 原査定の拒絶理由 原査定の拒絶理由は、「この出願については、平成18年12月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。」であり、平成18年12月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由は、 「[1] この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 [2] この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・・・ 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項 1、2、5-17 ・理由 2 ・引用文献等 1-7 ・備考 引用例1、2には、コンクリートに混合する遅延混和剤、増粘剤等の複数種の混和剤をあらかじめコンクリートとは別に秤量し袋等に収納したものを、混合時にコンクリート材料中に添加することにより、計量等の作業を軽減させるとともに混和剤をコンクリート中に均一混合できるようにすることが記載されており(引用例1:特許請求の範囲、【0004】-【0006】、引用例2:特許請求の範囲、第3頁右下欄第6-18行、第5頁左上欄第9-12行、等)。また、遅延混和剤としてリグニンスルホン酸塩等のリグニン系組成物を用いること(引用例1:【0018】、引用例2:特許請求の範囲、等)、増粘剤としてセルロース系等の増粘剤を用いること(特に、引用例1:【0031】、引用例2:第7頁左上欄第12行-右上欄第3行、等)、促進剤として塩化カルシウムを用いること(特に、引用例1:【0017】等)が記載されている。コンクリート材料に添加・混合する前に複数種の混和剤の混合物を予め準備するに際し、複数個の袋等に分けて別体として用意しそれぞれコンクリート材料に添加・混合することは当業者が容易に想到しうるものである。その際、同時に添加・混合するか、一方を添加・混合した後に他方を添加・混合するかは当業者が適宜選択しうるものである。 また、コンクリート混和剤として、遅延混和剤であるリグニン系組成物に珪酸ナトリウムや塩化カルシウム等の混和剤を併用することは本願出願前周知(引用例1、3、4参照)であり、前記別体として用意する混和剤として、リグニン系組成物と珪酸ナトリウムの混合物、およびリグニン系組成物と塩化カルシウムの混合物の組み合わせとすることは当業者が適宜なし得るものであり、この点による効果は格別のものとは認められない。 また、固化対象資材として廃棄物、結合剤としてセメント等のカルシウム系組成物を用いた固化方法において、アスファルト乳化剤を添加すること(引用例5:特許請求の範囲等)、セルロース系、リグニンスルホン酸系等の有機化学物を添加すること(引用例6:特許請求の範囲等)は公知である。また、引用例7には、スラリーに優れたレオロジー特性を与えるために、界面活性剤、セルロース、リグニン系組成物を併用することが記載されている。してみれば、要求物性に応じて、前記混和剤混合物に、アスファルト乳化剤、界面活性剤、増粘剤を予め添加混合することは当業者が容易に想到しうるものである。 また、前記固化方法の用途として、固化対象資材とセメントと混和剤の混合物を、型枠に打設・成形すること、路床上等に散布しスタビライザで混合することは本願出願前周知の技術である(引用例5、6参照)。 ・・・ ・請求項 14、15 ・理由 1、2 ・引用文献等 1、4 ・備考 請求項14、15では、「請求項1乃至12のいずれかに記載された固化方法に用いる」なる旨記載されているが、請求項に係る発明は「固化剤」すなわち「リグニン系組成物及び塩化カルシウムを主成分」とする「物」の発明である。 引用例1、4には、リグニンスルホン酸塩等のリグニン系組成物および塩化カルシウムを含有する固化剤が記載されている(引用例1:特許請求の範囲、【0017】、【0018】、引用例4:特許請求の範囲、等)。 ・・・ <拒絶の理由を発見しない請求項> 請求項3、4に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。 拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開平4-251711号公報 2.特開平3-103346号公報 3.特開平8-188460号公報 4.特開2003-171160号公報 5.特開昭55-152203号公報 6.特開平4-40298号公報 7.特開2003-313536号公報」である。 第5 引用刊行物の記載事項 (1)引用文献4(特開2003-171160号公報(公開日平成15年6月17日)、以下、「引用例1」という。): (ア)「【請求項1】 地下掘削やトンネル工事等の土木工事現場より排出される汚泥にセメントと有害物質の溶出を極力抑制する効果を有するリグニンスルホンサン塩誘導体及び塩化カルシウムを主成分とする化合物である固化剤を添加混合し、攪拌後、遠赤外線による内外面からの両側固化反応促進工程を経て有害物質をを安定化させ更に養生した後に、これを破砕加工することで再生クラッシャーランとして利用可能とする再生骨材。 【請求項2】 焼却灰、石炭灰などの極細微粒子構造の産業廃棄物を固化し、再利用可能とする請求項1に記載の再生骨材。 【請求項3】 型枠等によって型体を造形することにより人工漁礁、河川等に用いる護岸ブロックなど生態系に順応した再生材として、汚泥・ばいじんの再利用を可能とする請求項1に記載の再生骨材。 【請求項4】 有機性の下水汚泥を前処理により無機化し、固化することによって再利用可能とする請求項1に記載の再生骨材。」(【特許請求の範囲】)、 (イ)「本発明は、産業廃棄物として最終処分場にて最終処分されていた汚泥・ばいじん・鉱さい等を有害物質の溶出を抑制しつつ、自然環境に順応して再利用可能とする再生骨材に関する。」(段落【0001】)、 (ウ)「土木工事現場より搬送された汚泥をまず含水率調整し、攪拌前処理工程Aとして混入異物の選別処理をおこなう。続いて攪拌工程Bではセメントとリグニンスルホンサン塩誘導体及び塩化カルシウムを主成分とする化合物である固化剤を投入し、その状態から2次攪拌工程Cにおいてパドルミキサーにて更に攪拌処理をおこなう。 次に加圧・成型工程Dでは、充分に攪拌を終えた前記の原材料を型枠内に注入後、加圧し、遠赤固化反応促進工程Eでは遠赤外線式固化反応促進機を用いて、外面固化と内面からの固化を促進し、固化速度調整を行いつつ中和反応を促す。この反応促進機による処理によって、原料に含有する有害物質の中和効果を促すと共に固化時間を極端に短縮することができる。」(段落【0005】?【0006】)、 (エ)「本発明において使用される固化剤は、その成分によってセメント粒子の分散作用、浸透作用、減水作用、中和作用などを有し、その働きによってこれまでのコンクリート製品に見られた強アルカリ成分の溶出や石灰成分の溶出による強度減少などの経年変化が少ない特徴を有する。」(段落【0013】)、 (オ)「 汚泥搬入 ↓ 含水率調整 ↓ 混入異物の選別 ?A ↓ セメント・固化剤の投入 ?B ↓ パドルミキサーにて混合 ?C ↓ プレスによる加圧成型 ?D ↓ 遠赤外線による固化促進 ?E ↓ 24時間自然養生 ↓ クラッシャーによる破砕 ?F ↓ 粒度選別 ↓ 1?2日最終自然養生 ?G ↓ 完成・出荷 」(【図1】)。 第6 引用発明の認定 引用例1の記載事項(ア)に「汚泥にセメントと有害物質の溶出を極力抑制する効果を有するリグニンスルホンサン塩誘導体及び塩化カルシウムを主成分とする化合物である固化剤を添加混合し、攪拌後、・・・固化反応促進工程を経て有害物質をを安定化させ更に養生した後に、これを破砕加工することで・・・利用可能とする再生骨材。」が記載されている。 この記載事項を本願発明13の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、 「汚泥にセメントと有害物質の溶出を極力抑制する効果を有するリグニンスルホンサン塩誘導体及び塩化カルシウムを主成分とする化合物である固化剤を添加混合し、攪拌後、固化反応促進工程を経て有害物質を安定化させ更に養生した後に、これを破砕加工することで再生骨材を得るために用いる、リグニンスルホンサン塩誘導体及び塩化カルシウムを主成分とする化合物である固化剤。」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。 第7 対比・検討 本願発明13と引用例1発明とを対比すると、本願発明13と引用例1発明は、ともに「固化剤」に関する点で一致し、本願発明13の「固化対象資材」に関して、願書に最初に添付した明細書(以下、「本願当初明細書」という。)には「本発明は、固化方法及びこれに用いる固化剤に関し、特に、建材の製造、道路敷設、さらには産業廃棄物の固化などのように、各種の固化対象資材を固化するための固化方法及びこれに用いる固化剤に関する。 【背景技術】 従来より、汚泥や焼却灰などの産業廃棄物をセメントなどで固化し、ブロックや壁板などの建材として利用したり、固化した状態で隔離保管することが行われている。また、道路の敷設において、敷設現場の土砂や補修道路の表面材などを利用し、固化することで新たな道路を敷設することが行われている。」(段落 【0001】?【0002】)とあり、引用例1発明の「汚泥」は、「固化対象資材」といえることは明らかである。そして、引用例1発明の「セメント」は、本願当初明細書には「カルシウム系組成物は、セメント、石膏又は石灰であり」(段落【0051】)と記載されるので、本願発明13の「カルシウム系組成物」に相当する。さらに、引用例1発明の「リグニンスルホンサン塩誘導体」は、本願発明13の「リグニン系組成物」に相当する。そして、引用例1発明の「塩化カルシウム」は、本願発明の「塩化カルシウム」に相当するから、引用例1発明の「リグニンスルホンサン塩誘導体及び塩化カルシウムを主成分とする化合物である固化剤」は、本願発明の「リグニン系組成物及び塩化カルシウムを主成分として調整された固化剤」に相当するということができる。 したがって、本願発明13と引用例1発明とは、「固化対象資材とカルシウム系組成物とに対し、固化剤を添加し、撹拌混合して固化対象資材を固化する固化方法に用いるリグニン系組成物及び塩化カルシウムを主成分として調整された固化剤。」で一致し、次の点で一応相違する。 (a)本願発明13は、「リグニン系組成物及び珪酸ナトリウムを主成分として調製された溶液Aと、リグニン系組成物及び塩化カルシウムを主成分として調製された溶液Bとを順次又は同時に添加し、攪拌混合して」と特定するのに対して、引用例1発明では、係る特定事項を有するものでない点、 (b)本願発明13は、「固化対象資材に該溶液A又は該溶液Bのいずれかを添加し、攪拌混合する第1攪拌工程と、その後該溶液A又は該溶液Bのうち残りの溶液を添加し、再度攪拌混合する第2攪拌工程と有し、 該第2攪拌工程において、該第1攪拌工程で攪拌混合する固化対象資材より粒径の小さい他の固化対象資材を追加投入すること」を特定するのに対して、引用例1発明では、係る特定事項を有するものでない点。 相違点(a)について、以下で検討する。 本願発明13が「リグニン系組成物及び珪酸ナトリウムを主成分として調製された溶液A」の技術的意義については、本願当初明細書において「リグニン系組成物と、珪酸ナトリウム、及び塩化カルシウムを同時に混合した場合には、化学反応により溶液がゲル状となるため、長期保存が困難であり、作業時においても固化反応が急速に進行しやすくなるため、充分な作業時間を確保できないなどの問題を生じる。このため、本発明では、リグニン系組成物及び珪酸ナトリウムを主成分として調製された固化剤Aと、リグニン系組成物及び塩化カルシウムを主成分として調製された固化剤Bとに分けて調整している。各固化剤の成分比率は、リグニン系組成物が30?65重量%に対し、珪酸ナトリウム又は塩化カルシウムが各々30?70重量%程度、混合されている。特に、固化対象資材に固化剤A,Bを添加する際には、珪酸ナトリウムより塩化カルシウムの含有量をより多くすることが好ましい。」(段落【0044】)と記載されるように、「溶液B」と同様に固化の機能以上の記載はなく、溶液Aの主成分である珪酸ナトリウムと溶液Bの主成分である塩化カルシウムの同時混合によるゲル状化を問題視したことにあると認められる。そして、例えば、本願当初明細書において特許文献2として提示された特開平5-339935号公報には、リグニンスルホン酸を混和剤とした硬化促進剤を用いた水硬性セメントを硬化材として(段落【0019】?【0022】)注入充填して地盤内に硬化体を形成させる地盤安定化工法において土砂切削用水にリグニンスルホン酸からなる流動化剤(段落【0012】)及び珪酸ナトリウムからなる分散剤(段落【0014】)を用いる発明が記載され、原査定の拒絶の理由における引用文献2にも「コンクリート混合材は、機能によって、次の様に分類される。 促進剤はコンクリートの硬化および初期強度増加を促進するために使用する。この機能を果たすために使用できる一般的な材料には、塩化カルシウム、・・・がある。」(第5頁左下欄第6?13行)と記載されるように、促進剤として塩化カルシウムは、一般的な材料にすぎないから、特許文献2における土砂切削用水、硬化材が本願発明13の溶液A、溶液Bにそれぞれ相当し、これらが順次添加され土砂の切削及び硬化体の形成を行うことは、地盤内で撹拌混合が行われていると認められ、「リグニン系組成物及び珪酸ナトリウムを主成分として調製された溶液Aと、リグニン系組成物及び塩化カルシウムを主成分として調製された溶液Bとを順次又は同時に添加し、攪拌混合」することは、当業者が任意に採用することができる一般的な手法にすぎないということができる。しかも、本願発明13は、固化剤即ち物の発明であるから係る相違点は固化方法に係る事項であって、物の相違とすることはできない。それゆえ、「リグニン系組成物及び珪酸ナトリウムを主成分として調製された溶液Aと、リグニン系組成物及び塩化カルシウムを主成分として調製された溶液Bとを順次又は同時に添加し、攪拌混合して」は、実質的な相違を構成しないということができる。 したがって、一応の相違点(a)は、実質的なものではない。 次に、相違点(b)に係る「固化対象資材に該溶液A又は該溶液Bのいずれかを添加し、攪拌混合する第1攪拌工程と、その後該溶液A又は該溶液Bのうち残りの溶液を添加し、再度攪拌混合する第2攪拌工程と有し、」については、相違点(a)についての検討で記載したように、「リグニン系組成物及び珪酸ナトリウムを主成分として調製された溶液Aと、リグニン系組成物及び塩化カルシウムを主成分として調製された溶液Bとを順次又は同時に添加し、攪拌混合して」が実質的な相違を構成しないということができるので、その内の「リグニン系組成物及び珪酸ナトリウムを主成分として調製された溶液Aと、リグニン系組成物及び塩化カルシウムを主成分として調製された溶液Bとを順次添加し、攪拌混合して」も実質的な相違を構成しないということができる。さらに、「該第2攪拌工程において、該第1攪拌工程で攪拌混合する固化対象資材より粒径の小さい他の固化対象資材を追加投入すること」については、引用例1には記載がないものの、引用例1の記載事項(オ)に示されるように粒度選別工程が記載されるので、その請求項3に記載される「 型枠等によって型体を造形する」場合に該粒度選別工程により選別された粒度の小さい再生骨材を追加投入することは当業者であれば自然に想起することである。しかも、本願発明13は、固化剤即ち物の発明であるから、係る相違点は固化方法に係る事項であって、物の相違とすることはできない。それゆえ、「固化対象資材に該溶液A又は該溶液Bのいずれかを添加し、攪拌混合する第1攪拌工程と、その後該溶液A又は該溶液Bのうち残りの溶液を添加し、再度攪拌混合する第2攪拌工程と有し、 該第2攪拌工程において、該第1攪拌工程で攪拌混合する固化対象資材より粒径の小さい他の固化対象資材を追加投入すること」は、実質的な相違を構成しないということができる。 したがって、一応の相違点(b)は、実質的なものではない。 以上検討したとおり、本願発明13は、引用例1に記載された固化剤と区別することができないので、引用例1発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、特許を受けることができない。 そして、仮に相違があるとしても、前記特許文献2及び引用文献2の記載により適宜なし得る程度の固化工程の付加にすぎないものであり、それによって奏する効果も格別とすることはできないので、本願発明13は、当業者であれば引用例1発明に基づいて容易に発明することができたものである。 第8 請求人の主張について 請求人は、平成19年6月8日付けの審判請求書の請求の理由に係る補正書において「(c)本願発明が特許されるべき理由 本願発明1乃至3は、補正前の請求項3及び4に係る発明に該当し、これらの発明は、審査官が拒絶の理由のない発明として認定したものである。 また、本願発明4乃至16は、いずれもこの本願発明1乃至3を引用する発明であり、本願発明1乃至3が特許性を有する以上、これらの発明も同様に特許性を有するものである。」と主張する。 しかしながら、審査官が拒絶理由通知書において示した見解は、せいぜい「請求項3、4に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。」であって、引用することでこれらを含む他の請求項の特許性を保証することでなく、特許性は、それぞれの請求項において別個に判断されるべきものである。 特に、審査官の拒絶理由が明確な本願発明13の場合において、上記見解がその意図を越えて審判合議体の判断を拘束する機能を有するものでないことは明らかである。 さらに、平成22年1月8日付け回答書において示された特許請求の範囲の補正案についても、請求項1、3の「カルシウム系組成物」を「セメント又は石膏又は石灰」と補正するだけでサポート要件が満たされるとは認められず、直ちに原査定を取り消すことができないので、採用することができない。 第9 むすび 以上のとおり、本願の請求項13に記載された発明は、本願出願前に頒布された引用文献1に記載された発明であり、仮にそうでないとしても引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願は、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-08-12 |
結審通知日 | 2010-08-17 |
審決日 | 2010-08-31 |
出願番号 | 特願2004-300797(P2004-300797) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C04B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松浦 新司、塩見 篤史 |
特許庁審判長 |
松本 貢 |
特許庁審判官 |
中澤 登 安齋 美佐子 |
発明の名称 | 固化方法及びこれに用いる固化剤 |
代理人 | 田村 爾 |
代理人 | 田村 爾 |