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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03B
管理番号 1225413
審判番号 不服2008-30021  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-26 
確定日 2010-10-14 
事件の表示 特願2005-242912「光学素子」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月 8日出願公開、特開2007- 57807〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年8月24日になされた出願である。原審において、平成20年6月27日付けで拒絶理由が通知され、これに対して同年8月29日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたものの、同年10月23日付けで拒絶査定がなされた。
これを不服として、同年11月26日に、本件の拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年12月15日付けで手続補正がなされた。その後、前置報告書の内容について、審判請求人の意見を求めるために平成21年9月11日付けで審尋がなされ、同年11月16日付けで回答書が提出された。


第2 平成20年12月15日付けの手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成20年12月15日付けの手続補正を却下する。
〔理由〕

1 本件補正の目的
(1)本件補正後の特許請求の範囲
平成20年12月15日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前(平成20年8月29日付け手続補正によって補正した。以下同じ。)の特許請求の範囲の記載を以下のとおり補正することを含むものである(当審注:下線は補正箇所を示す)。

<本件補正後の特許請求の範囲>
「【請求項1】
厚さ方向において互いに対向する第1、第2の端面壁と、前記第1、第2の端面壁を接続する側面壁とを有する密閉された容器と、
前記容器に封入された有極性または導電性を有する第1の液体と、
前記容器に封入され前記第1の液体と互いに混合しない第2の液体と、
前記第1の液体に電圧を印加する電圧印加手段とを備え、
前記第1の液体と第2の液体は実質的に等しい比重を有しかつ前記第1の液体の透過率は第2の液体の透過率よりも低く形成され、
前記電圧印加手段による電圧印加によりそれら前記第1の液体と第2の液体の界面が変形し、前記第1、第2の端面壁を通り前記容器の厚さ方向に延在する光の透過路が形成され、前記電圧を調整することで前記光の透過路の直径を拡径及び縮径する絞り動作をする光学素子であって、
前記第1の端面壁の内面の全域および前記側面壁の内面全周にわたって前記第1の液体に対する濡れ性が前記第2の液体に対する濡れ性よりも高い第1の膜が形成され、
前記第2の端面壁の内面の全域に前記第2の液体に対する濡れ性が前記第1の液体に対する濡れ性よりも高い第2の膜が形成され、
前記電圧印加手段は、前記第1の端面壁に設けられた第1の電極と、前記第2の端面壁に設けられた第2の電極とを含んで構成され、
前記電圧印加手段による電圧印加がなされていない状態で、前記第2の液体は前記第2の膜上に位置し、かつ、前記第1の液体が光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在し、さらに、前記第1の液体は、前記第1の端面壁上の前記第1の膜から前記側面壁上の前記第1の膜を覆うように位置している、
ことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記第1の膜は前記第1の電極の表面を覆うように設けられ、前記第2の膜は前記第2の電極の表面を覆うように設けられていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
前記電圧印加手段は、前記第2の膜と前記第2の電極との間に形成された絶縁膜を含むことを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項4】
前記第2の液体はシリコンオイルで形成されていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項5】
前記第2の膜はシリコンを主成分とする材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項6】
前記第2の膜は非結晶フッ素樹脂からなる材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項7】
前記第2の液体が前記第2の膜に対してなす接触角が0度以上30度以下であることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項8】
前記第1の液体と第2の液体の界面は、前記第1の液体に対する電圧印加の有無に拘わらず、前記第1の液体から第2の液体に向かって凸状の曲面形状が維持されることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項9】
前記第1の液体は複数種類の液体から構成され、前記複数種類の液体は水、エタノールおよびエチレングリコールの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1記載の光学素子。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲は、平成20年8月29日付けの手続補正により、下記のとおりのものとなっていた。

<本件補正前の特許請求の範囲>
「【請求項1】
厚さ方向において互いに対向する第1、第2の端面壁と、前記第1、第2の端面壁を接続する側面壁とを有する密閉された容器と、
前記容器に封入された有極性または導電性を有する第1の液体と、
前記容器に封入され前記第1の液体と互いに混合しない第2の液体と、
前記第1の液体に電圧を印加する電圧印加手段とを備え、
前記第1の液体と第2の液体は実質的に等しい比重を有しかつ前記第1の液体の透過率は第2の液体の透過率よりも低く形成され、
前記電圧印加手段による電圧印加によりそれら前記第1の液体と第2の液体の界面が変形し、前記第1、第2の端面壁を通り前記容器の厚さ方向に延在する光の透過路が形成される光学素子であって、
前記第1の端面壁の内面の全域および前記側面壁の内面全周にわたって前記第1の液体に対する濡れ性が前記第2の液体に対する濡れ性よりも高い第1の膜が形成され、
前記第2の端面壁の内面の全域に前記第2の液体に対する濡れ性が前記第1の液体に対する濡れ性よりも高い第2の膜が形成され、
前記電圧印加手段は、前記第1の端面壁に設けられた第1の電極と、前記第2の端面壁に設けられた第2の電極とを含んで構成され、
前記電圧印加手段による電圧印加がなされていない状態で、前記第2の液体は前記第2の膜上に位置し、かつ、前記第1の液体が光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在し、さらに、前記第1の液体は、前記第1の端面壁上の前記第1の膜から前記側面壁上の前記第1の膜を覆うように位置している、
ことを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記第1の膜は前記第1の電極の表面を覆うように設けられ、前記第2の膜は前記第2の電極の表面を覆うように設けられていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
前記電圧印加手段は、前記第2の膜と前記第2の電極との間に形成された絶縁膜を含むことを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項4】
前記第2の液体はシリコンオイルで形成されていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項5】
前記第2の膜はシリコンを主成分とする材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項6】
前記第2の膜は非結晶フッ素樹脂からなる材料で形成されていることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項7】
前記第2の液体が前記第2の膜に対してなす接触角が0度以上30度以下であることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項8】
前記第1の液体と第2の液体の界面は、前記第1の液体に対する電圧印加の有無に拘わらず、前記第1の液体から第2の液体に向かって凸状の曲面形状が維持されることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項9】
前記第1の液体は複数種類の液体から構成され、前記複数種類の液体は水、エタノールおよびエチレングリコールの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項1記載の光学素子。」

(3)本件補正の目的について
請求項1に係る補正は、本件補正前の「前記電圧印加手段による電圧印加によりそれら前記第1の液体と第2の液体の界面が変形し、前記第1、第2の端面壁を通り前記容器の厚さ方向に延在する光の透過路が形成される光学素子」を「前記電圧印加手段による電圧印加によりそれら前記第1の液体と第2の液体の界面が変形し、前記第1、第2の端面壁を通り前記容器の厚さ方向に延在する光の透過路が形成され、前記電圧を調整することで前記光の透過路の直径を拡径及び縮径する絞り動作をする光学素子」と補正することにより、「光学素子」の動作の態様を限定する補正を内容とするものである。したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下、単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載されている発明特定事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否かについて、以下検討する。

2 刊行物及び各刊行物の記載事項
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開2001-228307号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項の記載がある(下記「(2)引用発明の認定」において特に関連する部分に下線を引いた。)。
ア 段落【0009】?段落【0018】
「【0009】ところで、上記した構成は、電気毛管現象(エレクトロウエッティング現象)を用いて、透過光量を制御できるようにした前述の本出願人による光学素子(特願昭11-169657号)の原理構成に基づき、それを改良したものである。したがって、上記した構成はこの原理構成を前提とするものであるから、その詳細の理解のため、まず、この原理構成を図6を用いて説明する。
【0010】図6において、101は光学素子全体を示し、102は中央に凹部を設けた透明アクリル製の透明基板である。透明基板102の上面には、酸化インジウムスズ製の透明電極(ITO)103がスパッタリングで形成され、その上面には透明アクリル製の絶縁層104が密着して設けられる。絶縁層104は、前記透明電極103の中央にレプリカ樹脂を滴下し、ガラス板で押しつけて表面を平滑にした後、UV照射を行ない硬化させて形成する。絶縁層104の上面には、遮光性を有した円筒型の容器105が接着固定され、その上面には透明アクリル製のカバー板106が接着固定され、更にその上面には中央部に直径D3の開口を有した絞り板107が配置される。以上の構成において、絶縁層104、容器105及び上カバー106で囲まれた所定体積の密閉空間、すなわち液室を有した筐体が形成される。そして液室の壁面には、以下に示す表面処理が施される。
【0011】まず、絶縁層104の中央上面には、直径D1の範囲内に撥水処理剤が塗布され、撥水膜111が形成される。撥水処理剤は、フッ素化合物等が好適である。また、絶縁層104上面の直径D1より外側の範囲には、親水処理剤が塗布され、親水膜112が形成される。親水剤は、界面活性剤、親水性ポリマー等が好適である。一方、カバー板106の下面には、直径D2の範囲内に親水処理が施され、前記親水膜112と同様の性質を有した親水膜113が形成される。そしてこれまでに説明したすべての構成部材は、光軸123に対して回転対称形状をしている。更に、容器105の一部には孔があけられ、ここに棒状電極125が挿入され、接着剤で封止されて前記液室の密閉性を維持している。そして透明電極103と棒状電極125には給電手段126が接続され、スイッチ127の操作で両電極間に所定の電圧が印加可能になっている。
【0012】以上の構成の液室には、以下に示す2種類の液体が充填される。まず絶縁層104上の撥水膜111の上には、第2の液体122が所定量だけ滴下される。第2の液体122は無色透明で、比重0.85、室温での屈折率1.38のシリコンオイルが用いられる。一方、液室内の残りの空間には、第1の液体121が充填される。第1の液体121は、水とエチルアルコールが所定比率で混合され、更に所定量の食塩が加えられた、比重0.85、室温での屈折率1.38の電解液である。更に第1の液体121には無彩色の水溶性染料、例えばカーボンブラックや、酸化チタン系の材料が加えられる。すなわち、第1及び第2の液体は、比重と屈折率が等しく、光線吸収能率が異なり、かつ互いに不溶の液体が選定される。そこで両液体は界面124を形成し、混じりあわずに各々が独立して存在する。
【0013】次に前記界面の形状について説明する。まず、第1の液体に電圧が印可されていない場合、界面124の形状は、両液体間の界面張力、第1の液体と絶縁層104上の撥水膜111あるいは親水膜112との界面張力、第2の液体と絶縁層104上の撥水膜111あるいは親水膜112との界面張力、及び第2の液体の体積で決まる。当実施例においては、第2の液体122の材料であるシリコンオイルと、撥水膜111との界面張力が相対的に小さくなるように材料選定されている。すなわち両材料間の濡れ性が高いため、第2の液体122が形成するレンズ状液滴の外縁は広がる性向を持ち、外縁が撥水膜111の塗布領域に一致したところで安定する。すなわち第2の液体が形成するレンズ底面の直径A1は、撥水膜111の直径D1に等しい。一方両液体の比重は前述のごとく等しいため、重力は作用しない。そこで界面124は球面になり、その曲率半径及び高さh1は第2の液体122の体積により決まる。また、第1の液体の光軸上の厚さはt1になる。【0014】一方、スイッチ127が閉操作され、第1の液体121に電圧が印可されると、電気毛管現象によって第1の液体121と親水膜112との界面張力が減少し、第1の液体が親水膜112と疎水膜122の境界を乗り越えて疎水膜122内に侵入する。その結果、図7のごとく、第2の液体が作るレンズの底面の直径はA1からA2に減少し、高さはh1からh2に増加する。また、第1の液体の光軸上の厚さはt2になる。このように第1の液体121への電圧印加によって、2種類の液体の界面張力の釣り合いが変化し、両液体間の界面の形状が変わる。
【0015】ここで、第2の液体は実質上透明であるが、第1の液体は添加された光吸収性材料のために所定の光線吸収能率を有する。そこで、絞り板107の開口から光束を入射させると、該光束が通過する第1の液体の光路長に応じた分だけ光線が吸収され、透明基板102から射出する光束の強度は低下する。すなわち光強度の低下率は第1の液体の光軸上の厚さ(図6のt1あるいは図7のt2)に比例するため、給電手段126の電圧制御によって界面123の形状を変えることにより、透過光量を自在に変えられる光学素子が実現できる。また、第1及び第2の液体の屈折率を等しくしているため、入射した光束はその方向を変えずに射出光の強度のみが変えられる。
【0016】図8は当光学素子を可変NDフィルタとして用いる場合の動作を更に詳しく説明するための図である。図8(a)は、光学素子101に接続された給電手段126の出力電圧が、ゼロあるいは非常に低いV1の場合を示す。この時の界面124の形状は図6に示したものと同じで、第2の液体122が形成するレンズの底面の直径はA1、高さはh1である。また、第1の液体の光軸上の厚さはt1である。L_(IN)は光学素子101の上方から照射され、絞り107の開口部に入射する光束、 L_(OUT)は光学素子101から射出される光束である。そして光束L_(IN)に対するL_(OUT)の比が光学素子101の透過率になるが、第1の液体の光軸上の厚さt1が大きいため、透過率は低くなる。また、射出光束L_(OUT)の光量分布は、光軸からの距離、すなわち入射高が大きいほど光量が少なくなるが、液体122が形成するレンズ底面の直径A1に対して、絞り107の開口直径D3を小さくしているので、射出光束L_(OUT)の光量分布は略均一と見なせる。
【0017】図8(b)は、給電手段126の出力電圧が、V1より大きなV2の場合を示す。この時、第2の液体122が形成するレンズの底面の直径はA2、高さはh2である。また、第1の液体の光軸上の厚さは同図(a)のt1より小さなt2である。そこで光束の透過率は同図(a)の場合より大きくなる。図8(c)は、給電手段126の出力電圧が、V2より更に大きなV3の場合を示す。この時、第2の液体122が形成するレンズの底面の直径はA3に縮まり、界面124の頂上はカバー板106の下面に形成された親水膜113に接触して平坦となる。そしてこの平坦部の直径は絞り107の開口部の直径D3に等しいか、D3より大きい。その結果、第1の液体の光軸上の厚さはゼロになるため、透過率は同図(b)の場合より更に大きくなる。その後、給電手段126の出力電圧を更に上昇させても、絞り107の開口部内側の界面124の形状は変わらないため、当光学素子を可変NDフィルタとして用いた場合の透過率は一定のままである。この時の透過率は、透明基板102、透明電極103、絶縁層104、撥水膜111、第2の液体122、親水膜113、カバー板106の透過率の積で表わされる。なお、同図(c)の状態から給電手段126の印可電圧をV1に戻すと、両液体の界面張力が元に戻る。この時、第1の液体121と親水膜113との濡れ性は良く、第2の液体122と親水膜113との濡れ性は悪いため、第2の液体は親水膜113から離れて同図(a)の状態に復帰する。すなわち、当光学素子の界面124の形状変化は、印可電圧の変化に対して可逆である。
【0018】図9は、光学素子101に印可される電圧に対する光学素子101の光線透過率の関係を表わしたものである。印可電圧の増加に伴い、透過率も上昇し、印可電圧がV3に達したところで透過率は飽和する。」

イ 段落【0030】?段落【0037】
「【0030】
【実施例】以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]本発明の実施例1の光学系に用いられる光学素子の構成を図1を用いて説明する。図1において、7は前述した原理図において説明したと同様の、以下の液体を封止した容器で絶縁体でできており、図中左右方向(光の入射出方向)は透明に出来ている。8は容器7に封止された第2の液体でここでは透明なシリコンオイルで構成されている。9は容器7に封止された可視光に対して遮光性のある第1の液体で食塩を溶した水の様な電解液で構成され中にカーボン粒子が混ぜられている。10は電解液9に外部から電位をかける為の電極で不図示のコントロール回路に連結されており前述したようなプラス、マイナス200V程度の交流電界がかけられる。
【0031】11は絶縁体の中に埋め込まれたリング状の第二の電極で同じく不図示のコントロール回路に連結されており 前述したようなプラス、マイナス200V程度の交流電界が前述の電極10とは逆極性の位相でかけられる。12は光束で図1(a)の状態では 第二の液体9により遮光されて光は本デバイスを通過できないようになっているが(b)の状態では遮光性のある第二の液体が電界により外側へ押しやられる事から透過光13が図中右方向へ出力されている。
【0032】上記構成において、前述したように図1(a)の非通電状態からカメラの絞り、シャッター装置を開ける為に不図示のコントロール回路が電極10、及び11に交流通電を始めると図1(b)の様に開口状態となる。この開口量は電極10,11にかける電圧に関係するから任意の光量の通過量を設定できる。
【0033】本実施例では、以上の光学素子を用い、絞り又はシャッターを形成し、結像レンズに内蔵させ、例えば図5に示されるようにシャッター、絞りを兼用したレンズ1aを構成し、結像面4に一番近い部分に配した。これにより、小型化および高性能化を達成することが可能な光学系を構成することができる。これを、図5を用いて、更に詳細に説明する。図5に示される光学系は、通常レンズシャッタータイプカメラに良く使われる凸凹2群タイプのズーム光学系で、不図示の公知のレンズ枠、カム筒、アクチュエーター、構造部材、制御手段により保持されていて(a)がワイド状態、(b)がテレ状態を示している。尚、図5には、後述の実施例3におけるシャッター、絞りを兼用したレンズ1aを用いた光学系が示されているが、その機能は、実施例3に限らず、本実施例においても基本的に変わらないものである。
【0034】図5において、1は凸、凹、凹、凸からなる全体として凸を構成している第1群レンズで上記したようにシャッター、絞りを兼用したレンズ1aを後述する結像面4に一番近い部分に有している。2はメニスカスレンズ、凹レンズからなる全体として凹レンズ群を構成する第2群レンズで、3はレンズ光軸、4はフィルムやCCDがあるべき結像面である。図中dで示しているのは1群、2群の空気間隔でこれを不図示のカム筒に形成したリードカムによって変化させる事により結像面4の位置をほとんど変化させずにあらかじめ決められたラインに1群レンズ1、及び2群レンズ2を移動させ図中左側にある被写界の結像倍率を変化させる、所謂ズームレンズを構成している。
【0035】図中破線で示す5は、従来のレンズユニットには必要な絞り、シャッターユニットで6は1群レンズ1、及び絞り、シャッターユニット5を保持する従来のレンズ枠である。
【0036】図5から明らかなように、従来の絞り、シャッターユニット5が有ると図5(b)の様に1群1と2群2のレンズユニットを近づける事が出来ず、従ってズーム倍率が本実施例よりも明らかに劣る(ちなみにズーム倍率は1群レンズ1と2群レンズ2のレンズパワーと空気間隔変化、すなわちdw-dtで決定される。)。
【0037】また、従来の絞り、シャッターユニットの光軸と直角方向のサイズ(通常外径と呼ぶ)もメカニカルの絞り羽根やシャッター羽根が開きあがる為の空間が大きくなり、従ってそれを収納する為のレンズ枠6の外径も大きなものが一般的であった。これに対して、実施例の構成によれば、図5b)に示すdtの様にテレ状態のレンズを極限まで近づけることが可能となり、従ってズーム倍率も従来に比べて大きく稼げることとなる。」

ウ 【図6】ないし【図9】
【図6】ないし【図9】には、それぞれ下記のことが図示されている。
【図6】 電気毛管現象(エレクトロウエッティング現象)を用いて、透過光量を制御できるようにした光学素子の原理構成を説明するための図。
【図7】 図6に示された光学素子に電圧を印可した時の動作を説明するための図。
【図8】 図6に示された光学素子を可変NDフィルタとして用いる場合の動作を説明するための図であり、(a)は出力電圧が、ゼロあるいは非常に低い場合、(b)は出力電圧が(a)より大きい場合、(c)は出力電圧が(b)より大きい場合を示す図。
【図9】 図6に示された光学素子に印可される電圧に対する光学素子の光線透過率の関係を表わした図。

(2)引用発明の認定
引用例1の段落【0009】の「上記した構成は、電気毛管現象(エレクトロウエッティング現象)を用いて、透過光量を制御できるようにした前述の本出願人による光学素子(特願昭11-169657号)の原理構成に基づき、それを改良したものである。したがって、上記した構成はこの原理構成を前提とするものであるから、その詳細の理解のため、まず、この原理構成を図6を用いて説明する。」との記載及び段落【0016】の「図8は当光学素子を可変NDフィルタとして用いる場合の動作を更に詳しく説明するための図である。」との記載を参酌すると、引用例1には「可変NDフィルタとして動作する、電気毛管現象(エレクトロウエッティング現象)を用いて透過光量を制御できるようにした光学素子」が記載されていると認められる。
引用例1の段落【0010】の「図6において、101は光学素子全体を示し、102は中央に凹部を設けた透明アクリル製の透明基板である。透明基板102の上面には、酸化インジウムスズ製の透明電極(ITO)103がスパッタリングで形成され、その上面には透明アクリル製の絶縁層104が密着して設けられる。絶縁層104は、前記透明電極103の中央にレプリカ樹脂を滴下し、ガラス板で押しつけて表面を平滑にした後、UV照射を行ない硬化させて形成する。絶縁層104の上面には、遮光性を有した円筒型の容器105が接着固定され、その上面には透明アクリル製のカバー板106が接着固定され、更にその上面には中央部に直径D3の開口を有した絞り板107が配置される。以上の構成において、絶縁層104、容器105及び上カバー106で囲まれた所定体積の密閉空間、すなわち液室を有した筐体が形成される。」との記載を参酌すると、引用例1には「透明アクリル製の透明基板102と、透明基板102の上面に形成された酸化インジウムスズ製の透明電極(ITO)103と、該透明電極(ITO)103の上面に設けられた透明アクリル製の絶縁層104と、該絶縁層104の上面に接着固定された遮光性を有した円筒型の容器105と、該円筒形の容器105の上面に接着固定された透明アクリル製のカバー板106を備え、所定体積の密閉空間である液室を有する筐体」が記載されていると認められる。
引用例1の段落【0012】の「以上の構成の液室には、以下に示す2種類の液体が充填される。…(中略)…第1の液体121は、水とエチルアルコールが所定比率で混合され、更に所定量の食塩が加えられた、比重0.85、室温での屈折率1.38の電解液である。更に第1の液体121には無彩色の水溶性染料、例えばカーボンブラックや、酸化チタン系の材料が加えられる。」との記載を参酌すると、引用例1には「液室に充填され、水とエチルアルコールが所定比率で混合され、更に所定量の食塩が加えられ、比重0.85、室温での屈折率1.38の電解液であり、更にカーボンブラックが加えられた、第1の液体121」が記載されていると認められる。
引用例1の段落【0012】の「以上の構成の液室には、以下に示す2種類の液体が充填される。まず絶縁層104上の撥水膜111の上には、第2の液体122が所定量だけ滴下される。第2の液体122は無色透明で、比重0.85、室温での屈折率1.38のシリコンオイルが用いられる。一方、液室内の残りの空間には、第1の液体121が充填される。…(中略)…すなわち、第1及び第2の液体は、比重と屈折率が等しく、光線吸収能率が異なり、かつ互いに不溶の液体が選定される。そこで両液体は界面124を形成し、混じりあわずに各々が独立して存在する。」との記載を参酌すると、引用例1には「液室に充填され、無色透明で、比重0.85、室温での屈折率1.38のシリコンオイルからなり、第1の液体と比重及び屈折率が等しいが光線吸収能率が異なり、かつ第1の液体と互いに不溶の第2の液体122」が記載されていると認められる。
引用例1の段落【0011】の「容器105の一部には孔があけられ、ここに棒状電極125が挿入され、接着剤で封止されて前記液室の密閉性を維持している。そして透明電極103と棒状電極125には給電手段126が接続され、スイッチ127の操作で両電極間に所定の電圧が印加可能になっている。」との記載を参酌すると、引用例1には「容器105の一部にあけられた孔に挿入され接着剤で封止された棒状電極125」及び「透明電極103と棒状電極125に接続され、両電極間に所定の電圧を印加するための給電手段126」が記載されていると認められる。
引用例1の段落【0011】の「絶縁層104の中央上面には、直径D1の範囲内に撥水処理剤が塗布され、撥水膜111が形成される。撥水処理剤は、フッ素化合物等が好適である。また、絶縁層104上面の直径D1より外側の範囲には、親水処理剤が塗布され、親水膜112が形成される。親水剤は、界面活性剤、親水性ポリマー等が好適である。一方、カバー板106の下面には、直径D2の範囲内に親水処理が施され、前記親水膜112と同様の性質を有した親水膜113が形成される。」との記載を参酌すると、引用例1には、「絶縁層104上面の直径D1より外側の範囲に形成された親水膜112」及び「カバー板106の下面の直径D2の範囲内に形成された親水膜113」並びに「絶縁層104の中央上面の直径D1の範囲内に形成された撥水膜111」が記載されていると認められる。
引用例1の段落【0013】の「当実施例においては、第2の液体122の材料であるシリコンオイルと、撥水膜111との界面張力が相対的に小さくなるように材料選定されている。すなわち両材料間の濡れ性が高いため、」との記載を参酌すると、引用例1には「第2の液体122と撥水膜111の間の濡れ性が高いこと」が記載されていると認められる。
引用例1の段落【0015】の「給電手段126の電圧制御によって界面123の形状を変えることにより、透過光量を自在に変えられる光学素子が実現できる」との記載を参酌すると、引用例1には「給電手段126の電圧制御によって界面123の形状を変えることにより透過光量を変える光学素子」が記載されていると認められる。
引用例1の段落【0011】の「これまでに説明したすべての構成部材は、光軸123に対して回転対称形状をしている。」との記載及び段落【0013】の「次に前記界面の形状について説明する。まず、第1の液体に電圧が印可されていない場合、…(中略)…第2の液体が形成するレンズ底面の直径A1は、撥水膜111の直径D1に等しい。一方両液体の比重は前述のごとく等しいため、重力は作用しない。そこで界面124は球面になり、その曲率半径及び高さh1は第2の液体122の体積により決まる。また、第1の液体の光軸上の厚さはt1になる。」との記載を参酌しつつ、【図6】を参酌すると、【図6】から「第1の液体に電圧が印可されていない場合
、第1の液体は光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在し、第1の液体はカバー板106の下面に直径D2の範囲内に形成された親水膜113及び円筒型の容器105を覆うように位置していること」が読み取れるから、引用例1の段落【0013】の記載及び【図6】から読み取れる事項を総合すると、引用例1には「第1の液体に電圧が印可されていない場合、第2の液体が形成するレンズ底面の直径A1は、撥水膜111の直径D1に等しく、界面124は球面になり、第1の液体の光軸上の厚さはt1であり、第1の液体は光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在し、第1の液体はカバー板106の下面に直径D2の範囲内に形成された親水膜113及び円筒型の容器105を覆うように位置していること」が記載されていると認められる。
引用例1の【図8】、段落【0011】の「これまでに説明したすべての構成部材は、光軸123に対して回転対称形状をしている。」との記載及び段落【0017】の「図8(c)は、給電手段126の出力電圧が、V2より更に大きなV3の場合を示す。この時、第2の液体122が形成するレンズの底面の直径はA3に縮まり、界面124の頂上はカバー板106の下面に形成された親水膜113に接触して平坦となる。そしてこの平坦部の直径は絞り107の開口部の直径D3に等しいか、D3より大きい。その結果、第1の液体の光軸上の厚さはゼロになるため、透過率は同図(b)の場合より更に大きくなる。」との記載を参酌すると、引用例1には「給電手段126の出力電圧がV3の場合に、界面124の頂上はカバー板106の下面に形成された親水膜113に接触して平坦となり、当該平坦部は円形状であること」が記載されていると認められる。
以上を総合すると、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
透明アクリル製の透明基板102と、透明基板102の上面に形成された酸化インジウムスズ製の透明電極(ITO)103と、該透明電極(ITO)103の上面に設けられた透明アクリル製の絶縁層104と、該絶縁層104の上面に接着固定された遮光性を有した円筒型の容器105と、該円筒形の容器105の上面に接着固定された透明アクリル製のカバー板106を備え、所定体積の密閉空間である液室を有する筐体と、
液室に充填され、水とエチルアルコールが所定比率で混合され、更に所定量の食塩が加えられ、比重0.85、室温での屈折率1.38の電解液であり、更にカーボンブラックが加えられた、第1の液体121と、
液室に充填され、無色透明で、比重0.85、室温での屈折率1.38のシリコンオイルからなり、第1の液体と比重及び屈折率が等しいが光線吸収能率が異なり、かつ第1の液体と互いに不溶の第2の液体122と、
容器105の一部にあけられた孔に挿入され接着剤で封止された棒状電極125と、
透明電極103と棒状電極125に接続され、両電極間に所定の電圧を印加するための給電手段126と、
カバー板106の下面も直径D2の範囲内に形成された親水膜113及び絶縁層104上面の直径D1より外側の範囲に形成された親水膜112と、
絶縁層104の中央上面の直径D1の範囲内に形成された撥水膜111と、
を備え、
第2の液体122と撥水膜111の間の濡れ性が高く、
給電手段126の電圧制御によって界面123の形状を変えることにより透過光量を変える光学素子であって、
第1の液体に電圧が印可されていない場合、第2の液体が形成するレンズ底面の直径A1は、撥水膜111の直径D1に等しく、界面124は球面になり、第1の液体の光軸上の厚さはt1であり、第1の液体は光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在し、第1の液体はカバー板106の下面に直径D2の範囲内に形成された親水膜113及び円筒型の容器105を覆うように位置しており、
給電手段126の出力電圧がV3の場合に、界面124の頂上はカバー板106の下面に形成された親水膜113に接触して平坦となり、当該平坦部は円形状である、
可変NDフィルタとして動作する、電気毛管現象(エレクトロウエッティング現象)を用いて透過光量を制御できるようにした光学素子」

(2)引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2001-249261号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の事項の記載がある。
ア 段落【0048】?【0054】
「【0048】[実施例3]図16ないし図21は本発明の実施例3を説明するための図であり、図16及び図17は本実施例に用いられる光学素子及び給電手段に係わる説明図である。図16は本実施例の光学素子の構成を示す断面と、これを駆動する給電手段の構成を示す図である。図16を用いて光学素子の構成を説明する。図16において、801は本実施例の光学素子全体を示し、802は円盤形の透明アクリルあるいはガラス製の第1の封止板である。803は電極リングで、外径寸法は均一、内径寸法は下方向に向かって徐々に直径が変化する。すなわち当実施例では内径寸法は下方向に向かって徐々に直径が大きくなる金属製のリング状部材である。該電極リング803の内面全周にはアクリル樹脂等でできた絶縁層804が密着形成される。該絶縁層804の内径寸法は均一なため、厚さは下に向かって徐々に増加する。そして該絶縁層804の内面全周の下側には撥水処理剤が塗布され、撥水膜811が形成されるとともに、絶縁層804の内面全周の上側には親水処理剤が塗布され、親水膜812が形成される。
【0049】806は円盤形の透明アクリルあるいはガラス製の第2の封止板で、その一部には孔があけられ、ここに棒状電極825が挿入され、接着剤で封止される。807は、光学素子801に入射する光束の径を制限する絞り板で、第2の封止板806の上面に固設される。そして第1の封止板802、金属リング803及び第2の封止板806は互いに接着固定され、これらの部材で囲まれた所定体積の密閉空間、すなわち液室を有した筐体が形成される。この筐体は、前記棒状電極825挿入部以外は光軸823に対して軸対称形状をなしている。そして該液室には、以下に示す2種類の液体が充填される。
【0050】まず、液室の底面側には、第2の液体822が、その液柱の高さが前記撥水膜811形成部と同一の高さになる分量だけ滴下される。第2の液体822は無色透明で、比重1.06、室温での屈折率1.38のシリコンオイルが用いられる。続いて液室内の残りの空間には、第1の液体821が充填される。第1の液体821は、水とエチルアルコールが所定比率で混合され、更に所定量の食塩が加えられた、比重1.06、室温での屈折率1.38の電解液である。更に第1の液体821には無彩色の水溶性染料、例えばカーボンブラックや、酸化チタン系の材料が加えられる。すなわち、第1及び第2の液体は、比重と屈折率が等しく、光線吸収能率が異なり、かつ互いに不溶の液体が選定される。そこで両液体は界面824を形成し、混じりあわずに各々が独立して存在する。そしてこの界面824の形状は、液室内壁、第1の液体及び第2の液体の3物質が交わる点、すなわち界面824の外縁部に働く3つの界面張力の釣り合いで決まる。本実施例においては、液室内壁に対する第1及び第2の液体の接触角がいずれも90度になるよう、前記撥水膜811及び親水膜812の材料が選定される。
【0051】131は図1に記載された給電手段131と同一の構成及び作用をなす部材であるため、詳しい説明は省略する。給電手段131の増幅器134は金属リング803に接続され、増幅器135は棒状電極825に接続される。この構成において、第1の液体821には棒状電極825を介して電圧が印加され、エレクトロウェッティング効果によって界面824が変形する。
【0052】次に、光学素子801の前記界面824の変形と、該変形によってもたらされる光学作用について、図17を用いて説明する。まず、第1の液体821に電圧が印加されていない場合、界面824の形状は上述したように平坦となる(図17(a))。ここで、第2の液体は実質上透明であるが、第1の液体は添加された光吸収性材料のために所定の光線吸収能率を有する。そこで、絞り板807の開口から光束を入射させると、第1の液体の光路長に応じた分だけ光線が吸収され、第2の封止板802から射出する光束の強度は一様に低下する。
【0053】一方、第1の液体に電圧を印加すると、界面824の形状はエレクトロウェッティング効果で球面となる(図17(b))。そこで、絞り板807の開口から入射した光束は、第1の液体の光路長変化に応じた割合で吸収率も変化し、第2の封止板802から射出する光束の強度は、中央から周辺に向かって漸減し、その平均強度は同図(a)の場合よりも高い。すなわち給電手段131の電圧制御によって界面824の形状を変えることにより、透過光量を自在に変えられる光学素子が実現できる。また、第1及び第2の液体の屈折率が等しく、入射した光束はその方向を変えずに射出光の強度のみが変えられるため、入射光束の光量を調節する絞り手段や、入射光束を透過・遮断する光シャッタに用いることができる。
【0054】なお、エレクトロウェッティングによる2液界面の変形原理は前述した国際特許WO99/18456に記載されており、本実施例の界面824は、同特許の図6に記載された2液界面のポジションA及びBに相当する。また、2液界面の変形による入射光束の透過光量調節原理とその効果は、本出願人による特願平11-169657号公報に記載されている。」

イ 【図16】及び【図17】
【図16】及び【図17】には、それぞれ下記のことが図示されている。
【図16】 実施例3における光学素子の断面図。
【図17】 実施例3における光学素子に電圧を印加した時の動作説明図。

3 本願補正発明と引用発明の対比
本願補正発明と引用発明を対比する。
引用発明における「カバー板106」、「透明基板102」、「容器105」及び「筐体」が、それぞれ、本願補正発明における「第1の端面壁」、「第2の端面壁」、「側面壁」及び「容器」に相当することは当業者には明らかである。これを踏まえると、引用発明における「透明アクリル製の透明基板102と、…(中略)…、該絶縁層104の上面に接着固定された遮光性を有した円筒型の容器105と、該円筒形の容器105の上面に接着固定された透明アクリル製のカバー板106を備え、所定体積の密閉空間である液室を有する筐体」が、本願補正発明における「厚さ方向において互いに対向する第1、第2の端面壁と、前記第1、第2の端面壁を接続する側面壁とを有する密閉された容器」に相当することは明らかである。
引用発明における「液室に充填され、水とエチルアルコールが所定比率で混合され、更に所定量の食塩が加えられ、比重0.85、室温での屈折率1.38の電解液であり、更にカーボンブラックが加えられた、第1の液体121」及び「液室に充填され、無色透明で、比重0.85、室温での屈折率1.38のシリコンオイルからなり、第1の液体と比重及び屈折率が等しいが光線吸収能率が異なり、かつ第1の液体と互いに不溶の第2の液体122」が、それぞれ、本願補正発明における「前記容器に封入された有極性または導電性を有する第1の液体」及び「前記容器に封入され前記第1の液体と互いに混合しない第2の液体」に相当することは明らかである。
引用発明における「透明基板102の上面に形成された酸化インジウムスズ製の透明電極(ITO)103」、「容器105の一部にあけられた孔に挿入され接着剤で封止された棒状電極125」及び「透明電極103と棒状電極125に接続され、両電極間に所定の電圧を印加するための給電手段126」が、本願補正発明における「前記第1の液体に電圧を印加する電圧印加手段」に相当することは明らかである。
引用発明においては「第1の液体121」に「カーボンブラックが加えられ」ていることを踏まえると、引用発明における「液室に充填され、無色透明で、比重0.85、室温での屈折率1.38のシリコンオイルからなり、第1の液体と比重及び屈折率が等しいが光線吸収能率が異なり、かつ第1の液体と互いに不溶の第2の液体122」が本願補正発明における「前記第1の液体と第2の液体は実質的に等しい比重を有しかつ前記第1の液体の透過率は第2の液体の透過率よりも低く形成され」に相当することは明らかである。
引用発明における、「給電手段126の出力電圧がV3の場合」に生じる「界面124の頂上」が「カバー板106の下面に形成された親水膜113に接触して」形成された「円形状」の「平坦部」が、本願補正発明における、「前記電圧印加手段による電圧印加によりそれら前記第1の液体と第2の液体の界面が変形し」て形成された「前記第1、第2の端面壁を通り前記容器の厚さ方向に延在する光の透過路」に相当することは明らかである。したがって、引用発明における「給電手段126の電圧制御によって界面123の形状を変えることにより透過光量を変える光学素子」及び「給電手段126の出力電圧がV3の場合に、界面124の頂上はカバー板106の下面に形成された親水膜113に接触して平坦となり、当該平坦部は円形状である」を、本願補正発明における「前記電圧印加手段による電圧印加によりそれら前記第1の液体と第2の液体の界面が変形し、前記第1、第2の端面壁を通り前記容器の厚さ方向に延在する光の透過路が形成され、前記電圧を調整することで前記光の透過路の直径を拡径及び縮径する絞り動作をする光学素子」と対比すると、両者は「前記電圧印加手段による電圧印加によりそれら前記第1の液体と第2の液体の界面が変形し、前記電圧を調整することで動作をする光学素子であって、少なくともある電圧の値のときに、前記第1、第2の端面壁を通り前記容器の厚さ方向に延在する光の透過路が形成される光学素子」の点において一致する。
引用発明における「水とエチルアルコールが所定比率で混合され、更に所定量の食塩が加えられ、比重0.85、室温での屈折率1.38の電解液であり、更にカーボンブラックが加えられた、第1の液体121」、「無色透明で、比重0.85、室温での屈折率1.38のシリコンオイルからなり、第1の液体と比重及び屈折率が等しいが光線吸収能率が異なり、かつ第1の液体と互いに不溶の第2の液体122」、「カバー板106の下面の直径D2の範囲内に形成された親水膜113及び絶縁層104上面の直径D1より外側の範囲に形成された親水膜112」、「絶縁層104の中央上面の直径D1の範囲内に形成された撥水膜111」及び「第2の液体122と撥水膜111の間の濡れ性が高く」を、本願補正発明における「前記第1の端面壁の内面の全域および前記側面壁の内面全周にわたって前記第1の液体に対する濡れ性が前記第2の液体に対する濡れ性よりも高い第1の膜が形成され」及び「前記第2の端面壁の内面の全域に前記第2の液体に対する濡れ性が前記第1の液体に対する濡れ性よりも高い第2の膜が形成され」と対比すると、技術常識からして、引用発明において、第1の液体121と親水膜113の間の濡れ性が第2の液体122と親水膜113の間の濡れ性より高く、第2の液体122と撥水膜111の間の濡れ性が第1の液体121と撥水膜111の間の濡れ性より高くあるべきことは明らかであるから、両者は、「前記第1の端面壁の内面に前記第1の液体に対する濡れ性が前記第2の液体に対する濡れ性よりも高い第1の膜が形成され、前記第2の端面壁の内面に前記第2の液体に対する濡れ性が前記第1の液体に対する濡れ性よりも高い第2の膜が形成され」の点において一致する。
引用発明における「棒状電極125」及び「透明電極103」が、それぞれ、本願補正発明における「第1の電極」及び「第2の電極」に相当することは明らかである。したがって、引用発明における「棒状電極125」、「透明電極103」及び「透明電極103と棒状電極125に接続され、両電極間に所定の電圧を印加するための給電手段126」を、本願補正発明における「前記電圧印加手段は、前記第1の端面壁に設けられた第1の電極と、前記第2の端面壁に設けられた第2の電極とを含んで構成され」と対比すると、両者は「前記電圧印加手段は、第1の電極と、前記第2の端面壁に設けられた第2の電極とを含んで構成され」の点において一致する。
引用発明における「第1の液体に電圧が印可されていない場合、第2の液体が形成するレンズ底面の直径A1は、撥水膜111の直径D1に等しく、界面124は球面になり、第1の液体の光軸上の厚さはt1であり、第1の液体は光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在し、第1の液体はカバー板106の下面に直径D2の範囲内に形成された親水膜113及び円筒型の容器105を覆うように位置しており」を、本願補正発明における「前記電圧印加手段による電圧印加がなされていない状態で、前記第2の液体は前記第2の膜上に位置し、かつ、前記第1の液体が光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在し、さらに、前記第1の液体は、前記第1の端面壁上の前記第1の膜から前記側面壁上の前記第1の膜を覆うように位置している」と対比すると、両者は「前記電圧印加手段による電圧印加がなされていない状態で、前記第2の液体は前記第2の膜上に位置し、かつ、前記第1の液体が光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在し、さらに、前記第1の液体は、前記第1の端面壁上の前記第1の膜から前記側面壁を覆うように位置している」の点において一致する。
以上を総合すると、本願補正発明と引用発明は、
「厚さ方向において互いに対向する第1、第2の端面壁と、前記第1、第2の端面壁を接続する側面壁とを有する密閉された容器と、
前記容器に封入された有極性または導電性を有する第1の液体と、
前記容器に封入され前記第1の液体と互いに混合しない第2の液体と、
前記第1の液体に電圧を印加する電圧印加手段とを備え、
前記第1の液体と第2の液体は実質的に等しい比重を有しかつ前記第1の液体の透過率は第2の液体の透過率よりも低く形成され、
前記電圧印加手段による電圧印加によりそれら前記第1の液体と第2の液体の界面が変形し、前記電圧を調整することで動作をする光学素子であって、少なくともある電圧の値のときに、前記第1、第2の端面壁を通り前記容器の厚さ方向に延在する光の透過路が形成され、
前記第1の端面壁の内面に前記第1の液体に対する濡れ性が前記第2の液体に対する濡れ性よりも高い第1の膜が形成され、前記第2の端面壁の内面に前記第2の液体に対する濡れ性が前記第1の液体に対する濡れ性よりも高い第2の膜が形成され、
前記電圧印加手段は、第1の電極と、前記第2の端面壁に設けられた第2の電極とを含んで構成され、
前記電圧印加手段による電圧印加がなされていない状態で、前記第2の液体は前記第2の膜上に位置し、かつ、前記第1の液体が光の透過方向と直交する方向の全域にわたって延在し、さらに、前記第1の液体は、前記第1の端面壁上の前記第1の膜から前記側面壁を覆うように位置している
光学素子」
の点で一致し、以下の相違点1、相違点2及び相違点3の点で相違する。

<相違点1>
第1の電極が、本願補正発明においては第1の端面壁に設けられているのに対して、引用発明においては、第1の電極に相当する棒状電極125は側面壁に相当する容器105に設けられている(該容器の一部に孔があけられ挿入され接着剤で封止されるように設けられている)点。

<相違点2>
第1の液体に対する濡れ性が第2の液体に対する濡れ性よりも高い第1の膜及び第2の液体に対する濡れ性が前記第1の液体に対する濡れ性よりも高い第2の膜について、本願補正発明においては、第1の膜が第1の端面壁の内面の全域および側面壁の内面全周にわたって形成され、第2の膜が第2の端面壁の内面の全域に形成されており、第1の液体は側面壁上の第1の膜を覆うように位置しているのに対して、引用発明においては、親水膜113(「第1の膜」に相当する。)がカバー板106(「第1の端面壁」に相当する。)の一部のみに形成されており、容器(「側面壁」に相当する。)に親水膜が形成されているという発明特定事項を有しておらず、撥水膜111(「第2の膜」に相当する。)は透明基板102(「第2の端面壁」に相当する。)の一部のみに形成され、その外側には、親水膜112が形成されている点。

<相違点3>
本願補正発明は、電圧を調整することで光の透過路の直径を拡径及び縮径する絞り動作をする光学素子であるのに対して、引用発明は、可変NDフィルタとして動作する光学素子であり、界面124の頂上がカバー板106の下面に形成された親水膜113に接触して形成された円形状の平坦部(「光の透過路」に相当する。)が電圧を調整することでその直径を拡径及び縮径する動作をするのか不明である点。

4 相違点の検討・判断
上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
電極をどの位置に設けるかということは設計上の事項にすぎず、第1の電極を側面壁ではなく第1の端面壁に設けることにより、当業者の予測を超える効果を認めることはできない。したがって、上記相違点1は格別なものとは認められず、相違点1をもって進歩性を見いだすことはできない。

(2)相違点2について
引用発明は、第1の膜と第2の膜の境界に相当する親水膜112と撥水膜111の境界が第2の端面壁に相当する透明基板102上に存在する。一方、膜を側面壁に設け、第1の膜と第2の膜の境界が第2の端面壁ではなく側面壁上に存在するものも知られている(上記「2 刊行物及び各刊行物の記載事項」の「(2)引用例2」を参照。親水膜812(「第1の膜」に相当する。)及び撥水膜811(「第2の膜」に相当する。)が、それぞれ絶縁層804(「側面壁」に相当する。)の上側と下側の内面全周に形成されている。)。このような技術水準を考えれば、第1の膜と第2の膜の境界を第2の端面壁及び側面壁のうちのどこに定めるかは、当業者が適宜設定すべき設計上の事項であると認められ、第1の膜と第2の膜の境界を第2の端面壁と側面壁の境界に定めることは当業者が適宜なし得たことであると認められる。また、本願補正発明においては、膜が容器内の全域に設けられているところ、膜を密閉された容器の液体が接触する面の全域に設けるかそれとも一部に設けるかは、当業者が適宜選択できる事項にすぎない。
したがって、親水膜(113、112)と撥水膜111の境界を透明基板102と円筒形の容器105の境界に定め、膜を密閉された筐体の液体が接触する面の全域に設けること、すなわち、親水膜をカバー板106の内面の全域及び円筒形の容器105の内面全周にわたって形成し、撥水膜を透明基板102の内面の全域に形成するようになし(その結果として第1の液体は側面壁上の親水膜を覆うように位置する)、相違点2に係る技術事項を備えるようにすることは、当業者が適宜なし得たことであると認められる。そして、相違点2に基づく当業者の予測を超える効果を認めることはできない。したがって、上記相違点2は格別なものとは認められず、相違点2をもって進歩性を見いだすことはできない。

(3)相違点3について
電気毛管現象(エレクトロウエッティング現象)を用いた光学素子を、絞り装置として用い、電圧を変化させることにより開口量を変化させて光量の通過量を制御することが、引用例1に記載されている(上記「2 刊行物及び各刊行物の記載事項」の「(1)引用例1」の「イ 段落【0030】?段落【0037】を参照。)。してみれば、引用発明において、当該技術事項を適用して、相違点3に係る事項を有するようにすることは、引用発明及び引用例1に記載された技術事項に基いて当業者が容易に想到し得たものと認められる。そして、相違点3に基づく当業者の予測を超える効果を認めることはできない。したがって、上記相違点3は格別なものとは認められず、相違点3をもって進歩性を見いだすことはできない。

(4)相違点の検討・判断の小括
以上のとおり、相違点1ないし相違点3は格別なものとは認められない。そして、本願補正発明が奏する作用効果も、引用発明並びに引用例1及び引用例2に記載された事項から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明並びに引用例1及び引用例2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 本件補正についての結び
以上のとおり、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年12月15日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし請求項9に係る発明は、本件補正前の、平成20年8月29日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項9に記載された事項により特定されるものである(その請求項1に係る発明を以下「本願発明」という。)。

2 刊行物及び各刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及び各引用例の記載事項は、前記「第2」の「2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」の「2」?「5」で検討した本願補正発明において「前記電圧を調整することで前記光の透過路の直径を拡径及び縮径する絞り動作をする」という発明特定事項を削除したものに相当する。そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、更に限定したものに相当する本願補正発明が、前記「第2」の「5」に記載したとおり、引用発明並びに引用例1及び引用例2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明並びに引用例1及び引用例2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 結び
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに引用例1及び引用例2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-13 
結審通知日 2010-08-17 
審決日 2010-08-30 
出願番号 特願2005-242912(P2005-242912)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03B)
P 1 8・ 575- Z (G03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 隆夫  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 森林 克郎
岡田 吉美
発明の名称 光学素子  
代理人 杉浦 正知  

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