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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  G09F
審判 一部無効 2項進歩性  G09F
管理番号 1225741
審判番号 無効2009-800217  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-10-14 
確定日 2010-10-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第4246741号発明「表示装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 請求
特許第4246741号発明の請求項1及び請求項4に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。


第2 事件の概要
1 本件無効審判請求に係る特許の登録までの経緯の概要
本件無効審判請求に係る特許第4246741号(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成18年1月20日に特許出願され、その請求項1ないし請求項4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。)について、平成21年1月16日に特許権の設定登録がなされたものである。

2 本件無効審判の手続の経緯の概要
(1)平成21年10月14日に請求人により、本件特許発明1及び本件特許発明4についての無効審判請求がなされた。
(2)被請求人により、平成22年1月12日付けで答弁書が提出された。
(3)請求人により、平成22年2月16日付けで上申書が提出された。
(4)請求人により、平成22年4月15日付けで口頭審理陳述要領書及び口頭審理陳述要領書(2)が提出され、被請求人により、同日付けで口頭審理陳述要領書及び口頭審理陳述要領書(2)が提出され、同日に口頭審理が実施された。
(5)被請求人により、平成22年4月26日付けで上申書が提出された。
(6)請求人により、平成22年5月7日付けで上申書が提出された。

3 本件特許発明1ないし本件特許発明4
本件特許発明1ないし本件特許発明4は、それぞれ、次の本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
バーに取付けられる表示装置であって、
第1の情報を表示する第1表示状態、および、第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部を有する本体と、
前記本体を前記バーに固定するための固定具とを備え、
前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され、
前記本体における前記固定具に対向する面から突出するように前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えを行なう切換スイッチが設けられ、
前記本体を上方から下方に向けて押すことにより、前記固定具上に支持された前記本体が回動し、前記切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方に押し込まれ、前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えが行なわれる、表示装置。

【請求項2】
前記表示装置の重心は、前記本体を支持する支点に対して前記切換スイッチの反対側に位置する、請求項1に記載の表示装置。

【請求項3】
前記表示部による表示を行なうための電力を蓄える蓄電機構をさらに備え、
前記蓄電機構の重心は、前記本体を支持する支点に対して前記切換えスイッチの反対側に位置する、請求項1に記載の表示装置。

【請求項4】
前記バーは、二輪車のハンドルバー、フレームまたはステムである、請求項1から請求項3のいずれかに記載の表示装置。


第3 請求人の主張及び証拠方法
1 無効の理由の概要
(1)無効理由1(新規性の欠如)
本件特許発明1及び本件特許発明4(以下、双方を総称して「本件特許発明」という。)は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証の1に記載された発明と実質的に同一であり、特許法第29条第1項第3号に該当する。したがって、本件特許発明についての特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2(進歩性の欠如)
ア 無効理由2-1
本件特許発明は、甲第1号証の1に記載された発明と本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証から甲第5号証に例示される周知技術又は甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項とに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件特許発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

イ 無効理由2-2
本件特許発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証に記載された発明、甲第1号証の1に記載された事項及び甲第2号証から甲第5号証に例示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件特許発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

2 証拠方法(甲号証)
平成21年10月14日にした審判請求に際して請求人が提出した甲号証は、次のとおりである(以下、甲第1号証の1及び甲第1号証の2を総称して「甲第1号証」という。)。
甲第1号証の1 米国特許第4638448号明細書
甲第1号証の2 米国特許第4638448号明細書の翻訳文(明細書及びクレームの全文のみ)
甲第2号証 特許第2926349号公報
甲第3号証 特開昭55-96482号公報
甲第4号証 特許第3598365号公報
甲第5号証 特公平5-36888号公報
甲第6号証 特開2005-324786号公報

3 請求人の主張の詳細
(1)請求項の記載の分説
以下、請求人の主張を示すに当たり、請求項1及び請求項4に記載された発明特定事項について、便宜上次のように符号を付して分説する。

<請求項1>
A1:バーに取付けられる表示装置であって、
B1:第1の情報を表示する第1表示状態、および、第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部を有する本体と、
C1:前記本体を前記バーに固定するための固定具とを備え、
D1:前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され、
E1:前記本体における前記固定具に対向する面から突出するように前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えを行なう切換スイッチが設けられ、
F1:前記本体を上方から下方に向けて押すことにより、前記固定具上に支持された前記本体が回動し、前記切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方に押し込まれ、前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えが行なわれる、
表示装置。

<請求項4>
G4:前記バーは、二輪車のハンドルバー、フレームまたはステムである、
請求項1から請求項3のいずれかに記載の表示装置。

(2)無効理由1(新規性の欠如)について
ア 請求人の主張の要点
本件特許発明と甲第1号証に記載された発明を対比すると、両者は、発明特定事項A1、B1、C1及びD1(本件特許発明4の場合はさらにG4)の点で共通し、発明特定事項E1及びF1で特定される「切換スイッチ」の機械的な構成が相違する。しかし、両者は表示部を有する本体を上方から下方に向けて押すことにより、固定具上に支持された本体が回動したことを機械的に検出する切換スイッチの点で機能が同一であり、実質的な相違点がない。しかも、甲第1号証に記載された発明は本件特許発明と同一の作用効果を奏することができる。したがって、本件特許発明と甲第1号証に記載された発明は実質同一である。

イ 本件特許発明の発明特定事項と甲第1号証に記載された事項の相当関係
甲第1号証に記載された「基部2」は本件特許発明の発明特定事項C1の「固定具」の一部に相当する。そして、甲第1号証には、「基部2」が図示しない支持体によってハンドルバーに固定されることが記載されており、本件特許発明の発明特定事項C1の「前記本体を前記バーに固定するための固定具」と同一のものが記載されている。また、甲第1号証に記載された「カバー3」は、本件特許発明の発明特定事項B1の「本体」に相当する。さらに、甲第1号証に記載された「基部2を覆うと共にピン4によって基部2に連結されたカバー3」は、本件特許発明の発明特定事項D1の「前記本体は前記固定具上で回動自在に支持され」と同一である。

ウ 本件特許発明の認定に対する請求人の主張
請求項に係る発明の認定は、請求項の記載に基づいて行なうのが原則である。『特許・実用新案審査基準』(特許庁)によれば、「請求項の記載が明確である場合は、請求項の記載どおりに請求項に係る発明を認定する。この場合、請求項の用語の意味は、その用語が有する通常の意味と解釈する。」とされている。「リパーゼ事件最高裁判決」においても、新規性及び進歩性の審理に当たっては、特段の事情がない限り、発明の要旨の認定は、明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきである旨判示されている。
本件特許の特許請求の範囲においては、「本体」について、表示部を有することと「固定具」によりバーに固定されること以外の要件は規定されていない。また、明細書の記載を見ても「本体」の意味を定義する記載はなく、「主要構成部分」であることを定義する記載も、「固定具」とは別体に形成されたひとまとまりの部品であることを定義する記載もない。したがって、甲第1号証に記載の「カバー3」と「基部2」が回動可能に連結されて「ケース1」を構成するところ、「前記カバー3(本体)は固定具(基部2)上で回動可能に支持され」という発明特定事項D1を充足する以上、前記「カバー3」が本件特許発明の発明特定事項B1の「本体」としての要件を充足し、さらに前記「基部2」及び図示しない「支持体」が本件特許発明の発明特定事項C1の「固定具」としての要件を充足することは明らかである。

エ 本件特許発明の認定に関する被請求人の主張に対する反論
被請求人は、本件特許発明の発明特定事項B1の「本体」と発明特定事項C1の「固定具」とは別体に形成されたものでなければならず、このことは発明の詳細な説明を参酌すれば明らかである旨主張を行なっているが、「本体」と「固定具」が別体に形成されるということが請求項において特定されていない以上、請求人の主張は成立する余地が無い。しかも、本件特許発明の発明特定事項B1、C1及びD1は、特許請求の範囲の記載から明確であり、請求項に係る発明の認定に際し、特許請求の範囲の記載を離れて、発明の詳細な説明等を参酌する必要もない。
また、被請求人は、「本体」という用語の通常の意味から、「主要構成部分」という意味を導き出そうとしているが、機械分野の明細書においては、「本体」という用語が多義的に使用されていることからも、特許請求の範囲の訂正を伴わない被請求人の主張には無理がある。本件特許発明においては、「本体」という用語は、ユーザーが表示装置を操作するに際して、表示部を有する部材がユーザーにとって重要であることから、選択されたものであり、その選択理由に照らしても、「主要構成部分」という意味ではなく、「固定具」とは別体に形成されたひとまとまりの部品であるという意味でもない。
さらに、被請求人は甲第1号証の「カバー3」は「固定具に対向する面」を有しない旨の主張をしているが、甲第1号証に記載された発明も、「基部2」、「スイッチ6」及び「カバー3」が下方から上方に向けて並んで配置されており、当該主張は成立しない。
また、被請求人は、「本体」の内方には、「切換スイッチ」が押し込まれるための空間が形成される(発明特定事項F1)と主張し、「本体内方の空間」が、本件特許発明において技術的意味があるかのような主張を行なっているが、本件特許発明の発明特定事項E1及びF1で特定される「切換スイッチ」の機械的な構成は、スイッチとして周知の構成であり、当該構成の「切換スイッチ」を採用することに特段の技術的意味は無く、甲第1号証の図1に記載された第1のスイッチ6を採用するか、発明特定事項E1及びF1の構成を有するスイッチを採用するかは、当業者の単なる設計事項に過ぎない。したがって、本件特許発明における「本体内方の空間」に技術的意味はない。

オ 相違点に関する被請求人の主張に対する反論
被請求人は、本件特許発明と甲第1号証に記載された発明はスイッチの具体的構成が異なる旨主張するが、誤りである。スイッチは、電気機械の分野において汎用的に利用されている技術であり、スイッチ自体が発明の対象であるような場合を除き、その具体的構造は周知である。したがって、かかるスイッチの具体的構成は甲第1号証に記載されているに等しく、本件特許発明に新規性はない。

(3)無効理由2(進歩性の欠如)について
ア 無効理由2-1について
(ア)請求人の主張の要点
本件特許発明の「切換スイッチ」と甲第1号証に記載された「第1のスイッチ」が実質的に同一ではないとしても、甲第1号証に記載された「第1のスイッチ」に代え、各種のスイッチを適宜使用することは当業者にとって単なる設計事項にすぎない。このことは、甲第1号証に、第1のスイッチ6に代えて各種のスイッチを採用することも可能である旨の記載がなされていることからも明らかである。
しかも、甲第2号証から甲第5号証には、発明特定事項E1及びF1の機械的な切換スイッチと同一の構成を持つ切替スイッチが開示されている。特に、甲第4号証には、発明特定事項E1及びF1の機械的な切換スイッチと同一構成及び同一原理のタクトスイッチが開示されている。
したがって、仮に特許発明が、甲第1号証に記載された発明と同一でなかったとしても、特許発明は、甲第1号証の記載及び甲第2号証から甲第5号証の記載から、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(イ)被請求人の主張に対する反論
被請求人は、技術分野及び技術的課題の相違を理由として、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証から甲第5号証に記載された発明を適用することには動機付けがない旨主張するが、誤りである。スイッチは、電気機械の分野において汎用的に利用されている技術であるから、その構成の工夫は当業者の通常の創作能力の範囲内である。すなわち、当業者である電気機械の技術者であれば、創作しようとする技術に対して適切なスイッチの構成を調査することは当然の行為である。そして、当業者である電気機械の技術者は、スイッチが、様々な技術分野において使用されていることを知っているから、その調査は、電気機械分野という以上の技術分野の限定を受けないし、また、課題の限定も受けないのである。言い換えれば、スイッチの構成に関連する発明の進歩性判断に際しては、当業者である電気機械の技術者が出願時点における種々のスイッチの具体的構成を認識していることを前提とすべきであり、また、引用例自体の技術分野や技術課題は進歩性判断を左右しないというべきである。したがって、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証から甲第5号証に記載された発明とで技術分野及び課題が同一か否かを問うまでもなく、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証から甲第5号証に記載された発明を適用して本件特許発明に想到することは容易であり、本件特許発明には進歩性がない。

(ウ)発明特定事項D1、E1及びF1の開示について
本件特許発明の発明特定事項D1、E1及びF1に相当する構成は、甲第3号証等に記載されている。甲第3号証に記載の「ポケツト時計」は、第1図に示すように、「表示体2」(発明特定事項B1に相当する。)と「支持体1」(発明特定事項C1に相当する。)とが「支軸3」により互いに回動可能に支持(発明特定事項D1に相当する。)されている。「表示体2」における前記「支持体1」のアラームセットの「端子9、10」と対向する面から突出するように、アラームモードの切換を行う「端部11」が設けられている(発明特定事項E1に相当する。)。そして、「表示体2」を「支持体1」方向に向けて押すことにより、「支軸3」によって「支持体1」上で回動自在に支持された「表示体2」が回動し、「表示体2」から突出した「端部11」が一方のアラームセットスイッチの「端子9」を他方の「端子10」から離す方向に移動させ、アラームセットの状態の切換を行うという構成が開示されている(発明特定事項F1に相当する。)。
本件特許発明の発明特定事項D1、E1及びF1に相当する構成は、甲第4号証にも記載されている。甲第4号証の「筐体11に支点であるヒンジ部16aを介して揺動可能に支持され押圧片15を移動させる作動片16とを備え」との記載は、本件特許発明の発明特定事項D1の「前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され」に相当する。また、甲第4号証に記載の、「筐体11」に支持された「固定接片12」と「可動接片13」は、本件特許の明細書の段落【0018】に実施例として記載された「タクトスイッチ140」に相当し、甲第4号証に記載の「押圧片15」、すなわち「筐体11に上下方向に移動自在に支持されかつこの一端が可動接片13に対接し、下端は筐体11から外部に突出しているという構成を持つ押圧片15」は、本件特許の明細書の段落【0018】に実施例として記載されている「表示装置本体の底面から突出するように設けられたゴムボタン130」に相当する。かかる構成は、本件特許発明の発明特定事項E1の「前記本体における固定具に対向する面から突出すように切換スイッチが設けられ」という構成に相当する。さらに甲第4号証に記載の「筐体11に支点であるヒンジ部16を介して揺動自在に支持され押圧片15を移動させる作動片16により、押圧片15が筐体11の内方に押し込まれ、可動接片13と固定接片12とを接触する(スイッチ10をオンする)」構成は、本件特許発明の発明特定事項F1の「前記本体を上方から下方に向けて押圧することにより、前記固定具上に支持された前記本体が回動し、前記切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方に押し込まれ、前記第1表示状態と第2表示状態の切換えが行われる(スイッチが動作する)」という構成に相当する。なお、被請求人は、甲第4号証の「自動給餌装置」では、「筐体11」が回転して「押圧片15」が「筐体11」の内方に押し込まれるのではなく、「作動片16」が揺動することで「押圧片15」が「筐体11」の内方に押し込まれるものであり、「本体が回動して切換スイッチが本体の内方に押し込まれる」本件発明の発明特定事項F1とはその動作が全く逆であるから、甲第4号証は、本件特許発明への適用阻害要因を有するものであると主張するが、甲第4号証は、本件特許発明の切換スイッチの構成が周知であることを立証するための証拠であり、しかも切換スイッチの動作原理が同一である以上、甲第4号証には、被請求人が主張する本件特許発明への適用阻害要因はない。

イ 無効理由2-2について
甲第6号証に記載された発明と本件特許発明の唯一の相違点は、「前記本体を上方から下方に向けて押すことにより、第1表示状態と第2表示状態の切換えを行う切替スイッチ」として、「表示面に設けたタッチパネル」を使用するか、本件特許発明の発明特定事項D1、E1及びF1の構成を持つ「機械的な切換スイッチ」を使用するかという点にある。しかし、本体に設けられた表示部に表示される内容を、第1の表示状態と第2の表示状態に切換えるためのスイッチとして、タッチパネル式のスイッチを用いるか、タクト式の切換スイッチを用いるかは、当業者にとって単なる設計事項にすぎない。加えて、甲第1号証には、表示部を有する本体を上方から下方に向けて押すことにより、固定具上に支持された本体が回動し、機械的な構成を有する第1のスイッチ6が作動し、第1の表示状態と第2の表示状態の切換えを行う構成が開示されている。したがって、この甲第6号証を主たる証拠として採用した場合であっても、本件特許発明は、甲第6号証及び甲第1号証の記載から当業者が容易に想到することができたものである。加えて、前記機械的スイッチとして、発明特定事項E1及びF1で特定される「切換スイッチ」を採用する構成は、甲第2号証から第6号証に例示されるように、本件出願前に周知慣用の技術である。したがって、本件特許発明は、前記甲第6号証及び甲第1号証の記載に加え、甲第2号証から甲第5号証の各甲号証の記載から、当業者が容易に想到し得るものである。


第4 被請求人の主張及び証拠方法
1 無効理由1(新規性の欠如)について
(1)主張の概要
本件特許発明と甲第1号証に記載された発明の一致点及び相違点については、「発明特定事項A1において共通し、発明特定事項B1からF1において相違している(甲第1号証に記載された発明は、発明特定事項B1?F1を備えない)」と認定されるべきであるから、請求人の共通点(一致点)に関する主張は誤りである。
請求人の主張は、甲第1号証に記載された「基部2」が本件特許発明における発明特定事項C1の「固定具」の一部に相当し、甲第1号証に記載された「カバー3」のみが本件特許発明における発明特定事項B1の「本体」に相当することを前提とするものであるが、かかる前提自体が誤りである。また、甲第1号証に記載の「ケース1」では、支持体上に支持される「基部2」が支持体に対して回動するものではなく、甲第1号証には、本件特許発明の発明特定事項D1も示されていない。
請求人は、本件特許発明の発明特定事項E1及びF1に係る「切換スイッチ」と甲第1号証に記載された「第1のスイッチ6」は、切換スイッチとして機能すればその目的を達成するものであり、この点において同一であるから、両者の間に実質的な相違はないと主張するが、「機能を実現するための具体的構成は複数存在するものであって、引用発明と本願発明とでは同じ機能を実現するための具体的な構成が異なるのであるから、単に実現される機能が同一であるという理由から、両者の具体的な構成を同一視することはできない」とされており(知財高裁平成21年1月29日判決「平成20(行ケ)10176」(ゲーム情報供給装置事件)、甲第1号証に記載された発明と本件特許発明は、具体的な機能も手段・構成も異なるのであるから、同一視することは許されない。

(2)被請求人の主張の詳細
ア 本件特許発明における用語の解釈について
本件特許発明における「本体」は、「固定具とは別に形成されたひとまとまりの部材であり、それ独自で所定の情報を表示可能なもの」と解釈すべきである。本件特許の特許請求の範囲の記載において「本体」については、「第1の情報を表示する第1表示状態、および、第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部を有する」(発明特定事項B1)と規定されている。本件特許の明細書の段落【0018】及び【0034】においては、「表示部110」、「係合部120」、「ゴムボタン130」、「タクトスイッチ140」及び「バッテリ150」を有するひとまとまりの部材を「本体」(「表示装置本体100」)と称している。さらに、本件特許の明細書の段落【0022】から【0023】において、図9、図10を参照しながら、ひとまとまりの部材としての「本体」を「固定具」に取り付ける前後の状態を説明している。このような明細書及び図面の記載を参酌すれば、本件発明における「本体」は、「固定具とは別に形成されたひとまとまりの部材であり、それ独自で所定の情報を表示可能なもの」であることは明白である。また、「広辞苑(第6版)」によれば、「本体」の意味は「…(3)物の、付属物をのぞいた主要な部分。主体。…(当審注:答弁書及び乙第3号証においては、「(3)」の記載は○の中に数字の3。)」であるところ、「表示装置」における主要な機能は、まず第一に「表示機能」であるので、少なくとも表示機能を実現する部分が「主要な部分」に含まれることは明白であるから、本件特許発明における「本体」は、それ独自で所定の情報を表示可能なものであることは、「本体」の一般的な用語の意味からも明白である。なお、本件特許発明における「本体」の用語の意義を解釈するにあたり、発明の詳細な説明等の記載を参酌することはリパーゼ判決(最高裁判所第二小法廷平成3年3月8日判決「昭和62(行ツ)3」民集45巻3号123頁)に反しない。このことは、最近の知財高裁判決(知財高裁平成21年1月27日判決「平成20(行ケ)10166」及び知財高裁平成22年2月24日判決「平成21(行ケ)10139」)も、その旨判示しているとおりである。

イ 請求人の主張する相当関係の誤り
請求人は、甲第1号証に記載された「基部2」が本件特許発明の発明特定事項C1の「固定具」の一部に相当し、甲第1号証に記載された「カバー3」が本件特許発明の発明特定事項B1の「本体」に相当する旨主張しているが、「本体」及び「固定具」の適切な解釈によれば、本件特許発明と甲第1号証に記載された発明を無理やり関連づけるとしても、甲第1号証に記載された発明における「ケース1」の全体(すなわち、「基部2」及び「カバー3」を合わせたもの)が本件特許発明の「本体」に対応し、甲第1号証に記載された発明における図示されていない「支持体」が本件特許発明の「固定具」に対応すべきものであり、上記相当関係についての請求人の主張は、次に示す理由により、失当である。
まず、本件特許発明における「本体」は、それ独自で所定の情報を表示可能なものであると解釈されるべきものであるところ、甲第1号証に記載されたものにおいて「カバー3」を「基部2」から分離すると、「表示装置23」を含む「電子回路5」が外部に露出し、現実的に使用可能な走行距離計とならないことは、明らかである。したがって、「カバー3」を「基部2」と分離させて「カバー3」のみが本件特許発明の「本体」に相当するとの解釈は明らかに不適切である。
次に、本件特許発明における「本体」は、固定具とは別に形成されたひとまとまりの部材であると解釈されるべきものであるところ、甲第1号証に記載されたものにおける「走行距離計の主機能を制御するスイッチ6」や「走行距離計の二次機能を制御するスイッチ7」は、それらの一対の接点が各々「基部2」と「カバー3」に跨って設けられているため、「カバー3」を「基部2」から分離すると、上記「スイッチ6」及び「スイッチ7」の接点が分離されることになり、「ひとまとまりの部材」ではなくなる。したがって、「カバー3」を「基部2」と分離させて「カバー3」のみが本件特許発明の「本体」に相当するとの解釈は明らかに不適切である。
さらに、本件特許の特許請求の範囲の請求項の記載に基づくと、「本体」は「固定具に対向する面」を有し(発明特定事項E1)、「本体」の内方には、「切換スイッチ」が押し込まれるための空間が形成される(発明特定事項F1)から、「切換スイッチ」が設けられる位置において、「固定具」-「本体における固定具に対向する面」-「本体内方の空間」が、下方から上方に向けてこの順に並んでいる。甲第1号証に記載されたものにおける「カバー3」は、「固定具に対向する面」を有しないから、甲第1号証に記載された「カバー3」のみが本件特許発明の「本体」に対応し、甲第1号証に記載された「基部2」は本件特許発明の「固定具」に対応するとの請求人の主張は失当である。

ウ 発明特定事項B1ないしE1に関する甲第1号証の開示について
本件特許発明における「本体」は、それが全体として固定具に対して回動するものでなければならないことは、特許請求の範囲の記載から明らかである。これに対し、甲第1号証に記載されたものにおいては、「ケース1」は全体として支持体に対して回動するものではなく、その内部において「基部2」と「カバー3」が相対的に動くにすぎないから、発明特定事項D1(「前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され」)はもとより、全体として固定具に対して回動する「本体」が具備されているとの発明特定事項B1(「…を実現可能な表示部を有する本体」)、そのような「本体」を固定するための固定具が具備されているという発明特定事項C1(「前記本体を前記バーに固定するための固定具」)、及び発明特定事項E1(「前記本体における前記固定具に対向する面から…切換スイッチが設けられ」)も、甲第1号証に記載されたものは備えていない。

2 無効理由2(進歩性の欠如)について
ア 無効理由2-1について
本件特許発明が進歩性を欠くという請求人の主張は、誤った一致点・相違点の認定に基づくものであるから、その前提において誤りである。しかも、本件特許発明と甲第1号証に記載された発明の相違点(発明特定事項B1?F1、特にD1?F1)は、甲第1号証のみならず、甲第2号証から甲第5号証にも一切示されていないから、甲第1号証に記載された発明に甲第2号証から甲第5号証に記載された事項を如何様に組み合わせても、上記相違点に係る構成を得ることはできない。
また、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証から甲第5号証に記載された事項を適用するための共通の解決課題ないし動機づけは存在しない。しかも、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明が備えない発明特定事項(特に発明特定事項D1?F1)を備えることにより、「表示領域の縮小を抑制しながら表示切換えの操作性を向上させる」という優れた作用効果を奏する。このような思想は、どの甲各号証にも記載も示唆もなされていない。
したがって、本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証から甲第5号証の記載から、当業者が容易に発明をすることができたとする請求人の主張には理由がない。

イ 無効理由2-2について
請求人は、本体を上方から下方に向けて押すことにより、第1表示状態と第2表示状態の切換えを行なう切換スイッチとして、「表示面に設けたタッチパネル」を使用するか、本件特許発明の発明特定事項D1、E1及びF1の構成を持つ「機械的切換スイッチ」を使用するかは、当業者の単なる設計事項にすぎないと主張するが、本件特許発明の発明特定事項D1、E1及びF1(B1及びC1も)は、どの甲各号証にも示されていないものであり、甲第6号証に記載された発明に甲第1号証及び甲第2号証から甲第5号証に記載された事項を如何様に組み合わせても、本件特許発明を得ることはできない。また、甲第6号証に記載された発明の電気的スイッチを本件特許発明の機械的スイッチに置換しようとする動機づけや具体的課題の関連性は存在しないから、これを容易に想到し得たとはいえない。さらに、甲第6号証に記載された発明は、「タッチパネル入力ユニット」を必須の構成とするものであるから、上記「タッチパネル入力ユニット」を機械的スイッチに置き換えることは、甲第6号証に記載された発明における本質的な技術思想に反することであり、これを単なる設計事項ということはできない。したがって、請求人の主張には、理由がない。

3 証拠方法(乙号証)
乙第1号証 「最高裁判所判例解説 民事篇(平成3年度)」(法曹会)抄本写し
乙第2号証 「判例タイムズNo.1301」(株式会社判例タイムズ社)抄本写し
乙第3号証 「広辞苑(第6版)」(株式会社岩波書店)抄本写し


第5 当審の判断
1 甲第1号証の1に記載された事項及び発明
(1)甲第1号証の1に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証の1には、図面とともに下記の事項が記載されている(当審注:下記「(2)甲第1号証の1に記載された発明の認定」のところで特に関連する箇所に下線を引いた。)。
ア 第1欄第5-10行
本発明は、特に自転車用の走行距離計(距離記録器)に関し、より詳細には、制御キーの簡単な操作によって走行距離、速度及びその他の情報をユーザーに提供する電子走行距離計に関する。

イ 第1欄第21-24行
すなわち、制御キーは小型なために取り扱いが容易ではないため、ユーザーは注意を払いながら走行距離計を取り扱う必要がある。
また、制御キーを探したり、表示される情報を認識するためにユーザーはかなりの時間にわたって道路から注意を逸らすことになり、事故が発生する危険が高い。

ウ 第2欄第3-26行
図1及び図2に示す走行距離計(距離記録器)は、基部2と、基部2を覆うと共にピン4によって基部2に連結されたカバー3とによって形成されたケース1を含む。このように形成されたケースは、図3に詳細に示し、全体として参照番号5によって示す計数及び情報処理を行う電子回路を含む。 また、ケース1には、走行距離計の主機能を制御する第1のスイッチ6と、後述する二次機能を制御する第2のスイッチとが設けられている。
基部2とカバー3との間にはカバーを上部位置に戻すための戻しばね8が挿入されており、スイッチ6はカバー3に圧力を加えることによって直接制御される。一方、走行距離計の二次機能を制御するスイッチ7は、独立して設けられ、カバーに形成された開口部10内に延在するプッシュボタン9によって制御される。有利には、スイッチ7はケースの基部に配置された基体11上に配置される。また、カバー3には、図3に示す回路の一部である表示手段に表示される情報を読み取ることを可能とする透明なウィンドウ12が設けられている。

エ 第2欄第37-39行
この走行距離計を自転車に採用する場合には、ステムの近傍においてハンドルバーに固定された適当な支持体(図示せず)に走行距離計を取り付けることができる。

オ 第2欄第40-53行
図3に示す回路には、走行距離計のカバー3及びカバー内に延在するプッシュボタン9によってそれぞれ制御される第1のスイッチ6及び第2のスイッチ7が示されている。これらのスイッチは、接地線とマイクロプロセッサ18の制御端子16,17との間にそれぞれ設けられている。マイクロプロセッサ18は、例えば自転車の車輪に連動する磁気センサによって構成される移動センサ19に接続されている。マイクロプロセッサは、音声信号発生器21に接続された第1の出力20と、本実施形態ではデジタル表示手段24とアナログ表示手段25を含む表示装置23に接続された第2の出力22と、を含む。

カ 第2欄第57行-第3欄第64行
デジタル表示手段は、7つの部分からなる数字によって形成されている。デジタル表示手段はネマチック液晶を使用した表示装置であり、アナログ表示手段は光の反射によって読み取られると共に整列して配置され、測定された数値に応じて長さが変化する暗色の細長い線を構成する部分からなる。
変形例によれば、図3に示すデジタル表示手段等のデジタル表示手段と共に、針によって構成されるアナログ表示手段又は放射状に広がる線によって構成され、セグメントの連続的な照明によって目盛盤上における針の動きをシミュレートするアナログ表示手段を使用することもできる。
図4、図5、図6は、本発明に係る走行距離計の上面を示す。走行距離計の上面はカバー3の上面であり、全体として長方形(長方形の長辺が垂直方向)である。カバー3の上面は、隣接する3つの領域に分割されている。第1の領域30は、二次機能の制御ボタン9を含む。第2の領域31には、走行距離計の表示ウィンドウが配置されている。表示装置23(図3)は、所与の数値を表示するためにマイクロプロセッサ18を作動させると、所与の数値の種類に特有の表示及び所与の数値の単位の目盛のみを表示するように構成されている。そのため、図4では、距離を表示する場合には、距離32と、メートルによる目盛33と、キロメートルの単位34が走行距離計の3つの表示行に表示される。図示する例では、「距離」32が表示ウィンドウの第1行の左側に表示され、可変長の発光ラインによって距離(m)のアナログ測定値を示す正方形の発光部35によって形成された可変長のラインと整列した状態で「m」が第2行の右側に表示される。
四角い発光部35の上方には、メートルによる目盛36が表示される。表示ウィンドウの第3行には、走行距離のデジタル情報及び距離の測定値の単位34が表示される。メートルによるアナログ測定値はデジタル測定値を補うものである。
カバーの上面は、製造者の商標を示す第3の領域37を有する。
図5は、表示ウィンドウ内のカバー3の上面を示し、クロノメータの計時による例えば自転車の走行開始からの経過時間に関する情報が表示されている。図5では、距離に関する情報は消え、時間に関する情報のみが表示されている。
第1行には、ボタン9を使用してクロノメータの計時を開始又は停止させるための表示38が表示される。
第2行には、発光ラインを構成する複数の正方形が存在するが、このモードでは情報は表示されない。
第3行には、装置をゼロにリセットしてからの経過時間がデジタル表示される。
図6は図4及び図5に対応する図であり、走行距離計が取り付けられた車両の瞬間速度に関する情報のみが表示ウィンドウ12に表示され、その他の情報は表示されない。
第1行には、「速度」39が右側に表示される。
第2行には、10km/h単位の目盛40が表示され、目盛の上方には、速度のアナログ表示を行う発光ラインを構成する正方形の発光部35が表示される。第2行の右側には、速度の測定単位41が表示される。
第3行には、速度の測定単位43と共にデジタル表示42が表示される。

キ 第3欄第65行-第4欄第39行
ユーザーが走行時に走行距離計を開始させた時点からの走行距離を知りたい場合には、ユーザーはカバー3を一回押してスイッチ6を閉じ、走行距離計の主機能(距離の測定)を作動させる。マイクロプロセッサ18がスイッチ6から第1の信号を受信すると、マイクロプロセッサ18は直ちに距離の表示に特有の信号である「bip」信号を音声信号発生器21に発信させ、ユーザーが表示される数値の種類を予め知ることができるようにプログラムされている。ユーザーが走行距離計の表示ウィンドウを見ると、図4に示す距離の表示のみが行われており、表示の読み取りに曖昧さは生じない。
ユーザーが出発時からの経過時間を知りたい場合には、ユーザーは走行距離計のカバー3を再び押すことによって走行距離計を作動させる。これにより、音声信号発信器は時間に関連付けられた「bip-bip」信号を発信する。その結果、ユーザーはこの音声信号に続いて表示ウィンドウに現れる表示が時間の表示であることを知ることができる。次に、瞬間速度を表示させる場合には、ユーザーは走行距離計のカバー3を再び押す。これにより、音声信号生成器は速度に関連付けられた「bip-bip-bip」信号を発信する。図6に示すように表示ウィンドウに現れる速度の表示は、ユーザーが速度の表示が行われることを予想しているために曖昧さを生じることなく読み取ることができる。
従って、上述した走行距離計の3つの主機能が、それらを特徴付けると共にユーザーが非常に容易に記憶することができる所定の信号に関連付けられているため、ユーザーが所望の情報を得たい場合には、ユーザーは走行距離計のカバーを押し、所望の情報に対応する信号が得られるまで発信される信号を順番に聞けばよい。

ク 第5欄第1行-第5欄第13行
主機能のためのスイッチ6は、ケースの基部2に回動可能に取り付けられた走行距離計のケースのカバー3を押すことによって作動させている。ただし、スイッチ6を作動させるために他の手段を採用することもできる。例えば、ケースの上面内に配置され、手を近付けるか、手で触れることによって作動させることができる容量センサキーを使用することもできる。この場合、走行距離計のケースは可動部を有さないことになる。
また、ユーザーの手が近付いた場合に作動する赤外線キーの使用も考えられる。

ケ 第5欄第27行-第5欄第35行
また、ユーザーは走行距離計に視線を向けることなく走行距離計を作動させることができ、表示される情報はそれらを特徴付ける音声信号によって告知される。
上述した走行距離計は自転車に適用されるものとして説明したが、あらゆる種類の車両の走行距離、時間、速度及びその他の情報を表示するために使用することができる。

コ 請求項1
1.特に自転車用の電子走行距離計であって、
基部と、前記基部に回動可能に取り付けられたカバーとを有するケースと、
前記ケース内に設けられたマイクロプロセッサと、
自転車の車輪に連動し、前記マイクロプロセッサに接続された移動センサと、
前記マイクロプロセッサに接続され、距離情報、速度情報、時間情報等の情報を表示するための表示手段と、
前記マイクロプロセッサに接続され、前記マイクロプロセッサの制御下で前記表示手段に表示される情報の種類を特定するための信号発生器と、
前記マイクロプロセッサによって処理された情報の表示に関連する少なくとも第1の制御キーと、
を含み、
前記第1の制御キーは、前記ケースの前記カバーによって構成され、
前記信号発生器は、前記表示手段に表示される情報の種類に対応する信号を発信し、
前記マイクロプロセッサを介して前記走行距離計の主機能を制御するスイッチが設けられ、
前記スイッチは前記第1の制御キーと連動すると共に前記マイクロプロセッサに接続され、
前記スイッチを作動させることにより、前記マイクロプロセッサによって処理された情報が表示されると共に、前記信号発生器が、前記表示された情報を特徴づける信号を発信する走行距離計。

サ 図1から図6
図1から図6には、それぞれ下記のことが図示されている。
図1 本発明に係る走行距離計の部分断面立面図。
図2 図1の2-2線に沿った断面図。
図3 図1に示す走行距離計のケースに含まれる電子回路のブロック図。
図3A 図3の一部の変形例を示すブロック図。
図4 走行距離情報が表示された本発明に係る走行距離計の上面を示す平面図。
図5 時間情報が表示された図4と同様な図。
図6 速度情報が表示された図4及び図5と同様な図。

(2)甲第1号証の1に記載された発明の認定
まず、上記摘記事項ウの「図1及び図2に示す走行距離計(距離記録器)は、基部2と、基部2を覆うと共にピン4によって基部2に連結されたカバー3とによって形成されたケース1を含む。このように形成されたケースは、図3に詳細に示し、全体として参照番号5によって示す計数及び情報処理を行う電子回路を含む。…(中略)…また、カバー3には、図3に示す回路の一部である表示手段に表示される情報を読み取ることを可能とする透明なウィンドウ12が設けられている。」との記載及び上記摘記事項コの「特に自転車用の電子走行距離計であって、基部と、前記基部に回動可能に取り付けられたカバーとを有するケースと、前記ケース内に設けられたマイクロプロセッサと、…(中略)…前記マイクロプロセッサに接続され、距離情報、速度情報、時間情報等の情報を表示するための表示手段と、…(中略)…を含み、…(中略)…走行距離計。」との記載を参酌すると、甲第1号証の1には「基部2と前記基部に回動可能に取り付けられたカバー3とを有するケース1と、前記ケース1内に設けられた、距離情報、速度情報、時間情報等の情報を表示するための表示手段と、を含む自転車用の電子走行距離計。」が記載されていると認められる。

次に上記摘記事項ウの「図1及び図2に示す走行距離計(距離記録器)は、基部2と、基部2を覆うと共にピン4によって基部2に連結されたカバー3とによって形成されたケース1を含む。…(中略)…また、ケース1には、走行距離計の主機能を制御する第1のスイッチ6と、後述する二次機能を制御する第2のスイッチとが設けられている。基部2とカバー3との間にはカバーを上部位置に戻すための戻しばね8が挿入されており、スイッチ6はカバー3に圧力を加えることによって直接制御される。」との記載を踏まえつつ、図1を参酌すると、「走行距離計は、ケース1内に備えられ、その構成部材の片方がカバー3側に固定され、他方が基部2側に固定されているスイッチ6を含むこと」が見て取れる。

その次に甲第1号証の1の図4ないし図6を参照しつつ、上記摘記事項カの「図4、図5、図6は、本発明に係る走行距離計の上面を示す。…(中略)…図4では、距離を表示する場合には、距離32と、メートルによる目盛33と、キロメートルの単位34が走行距離計の3つの表示行に表示される。…(中略)…図5は、表示ウィンドウ内のカバー3の上面を示し、クロノメータの計時による例えば自転車の走行開始からの経過時間に関する情報が表示されている。図5では、距離に関する情報は消え、時間に関する情報のみが表示されている。…(中略)…図6は図4及び図5に対応する図であり、走行距離計が取り付けられた車両の瞬間速度に関する情報のみが表示ウィンドウ12に表示され、その他の情報は表示されない。」との記載及び上記摘記事項キの「ユーザーが走行時に走行距離計を開始させた時点からの走行距離を知りたい場合には、ユーザーはカバー3を一回押してスイッチ6を閉じ、走行距離計の主機能(距離の測定)を作動させる。…(中略)…ユーザーが走行距離計の表示ウィンドウを見ると、図4に示す距離の表示のみが行われており、表示の読み取りに曖昧さは生じない。ユーザーが出発時からの経過時間を知りたい場合には、ユーザーは走行距離計のカバー3を再び押すことによって走行距離計を作動させる。…(中略)…次に、瞬間速度を表示させる場合には、ユーザーは走行距離計のカバー3を再び押す。…(中略)…ユーザーが所望の情報を得たい場合には、ユーザーは走行距離計のカバーを押し、所望の情報に対応する信号が得られるまで発信される信号を順番に聞けばよい。」との記載を参酌すると、甲第1号証の1には「ユーザーがカバー3を押すごとに、スイッチ6が閉じられて、瞬間速度、走行距離、経過時間の表示が切り換わること」が記載されていると認められる。

最後に、上記摘記事項エの「この走行距離計を自転車に採用する場合には、ステムの近傍においてハンドルバーに固定された適当な支持体(図示せず)に走行距離計を取り付けることができる。」との記載を参酌すると、甲第1号証の1には、「ステムの近傍においてハンドルバーに固定され、走行距離計を取り付けることができる支持体」が記載されていると認められる。

以上を総合すると、甲第1号証の1には次の発明(以下、「甲1引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1引用発明>
基部2と前記基部に回動可能に取り付けられたカバー3とを有するケース1と、
前記ケース1内に設けられた、距離情報、速度情報、時間情報等の情報を表示するための表示手段と、
前記ケース1内に備えられ、その構成部材の片方が前記カバー3側に固定され、他方が前記基部2側に固定されているスイッチ6と、
を含み、
ユーザーが前記カバー3を押すごとに、前記スイッチ6が閉じられて、瞬間速度、走行距離、経過時間の表示が切り換わる自転車用の電子走行距離計と、
ステムの近傍においてハンドルバーに固定され、前記走行距離計を取り付けることができる支持体と
からなる走行距離計と支持体の組合せ物。

2 本件特許発明と甲1引用発明の対比
(1)本件特許発明1における用語の解釈について
ア 明細書の参酌の可否について
甲1引用発明のどの発明特定事項が本件特許発明のどの発明特定事項に相当するかの点(以下、「相当関係」という。)について、請求人と被請求人の間で意見の対立があり、その前提問題として、本件特許発明の発明特定事項である「第1の情報を表示する第1表示状態、および、第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部を有する本体」という語句の解釈について両者に意見の対立がある。そこで、まず、この点について検討をする。
本件特許の明細書には、「本体」という用語を定義する記載は見当たらない。また、「本体」という用語は、本件特許発明の属する技術分野において定義が明確に定められている学術用語であるということもできない。むしろ、「本体」という用語は、電気機械分野の特許出願関係の書類においては、多義的に使用され得る用語であると認められる。したがって、前記「……本体」との語句の解釈に当たっては、明細書の記載を参酌して、技術的観点から妥当な解釈をすべきであると認められる。
ところで、請求人は、最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁を引用し、特許発明の要旨認定は特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきであり、明細書の記載を参酌すべきでない旨主張しているところ、前記最高裁判決においては、「特許法29条1項及び2項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、この発明を同条1項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」と説示しており、あらゆる場合について、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌してはならないとするものではない。そして、本件特許発明の場合においては、前記の通り「…本体」という語句の技術的意義が一義的に明確に理解することができないという、前記最高裁判決の述べる特段の事情がある場合に該当することから、前記最高裁判決の判示内容に照らしても、明細書の参酌をして用語の意義の解釈をすべきであることとなる。

イ)本件特許発明1における用語の明細書の参酌による解釈
本件特許の明細書を参酌すると、その段落【0018】、【0022】、【0023】及び【0034】には、次のように記載されている。
【0018】
図1?図5を参照して、本実施の形態に係る表示装置本体100は、各種情報を表示する表示部110と、固定具と係合する係合部120と、表示装置本体の底面から突出するように設けられたゴムボタン130と、ゴムボタン130上に設けられたタクトスイッチ140と、バッテリ150とを含んで構成される。
【0022】
図9は、固定具200に表示装置本体100を取付ける状態を示す図である。また、図10は、固定具200に表示装置本体100を取付けた後の状態を示す図である。
【0023】
図9,図10を参照して、表示装置本体100を図9中の矢印の方向にスライドさせ、表示装置本体100における係合部120と固定具200における嵌入部材230とを係合させる。これにより、表示装置本体100が固定具200に取付けられる。なお、図9,図10に示されるように、固定具200は回転操作部240を有するウォームギヤ式の固定具である。すなわち、回転操作部240を回転させることで、バンド220を締めたり緩めたりすることができる。
【0034】
上述した内容について要約すると、以下のようになる。すなわち、本実施の形態に係る表示装置は、バー500に取付けられる表示装置であって、第1の情報(たとえば走行速度)を表示する第1表示状態、および、第2の情報(たとえば走行距離)を表示する第2表示状態を実現可能な表示部110を有する表示装置本体100を備える。そして、表示装置本体100を上方から下方に向けて押すことにより、第1と第2表示状態の切換えが行なわれる。上記表示装置は、表示装置本体100をバー500に固定するための固定具200をさらに備える。表示装置本体100は固定具200上で矢印DR3方向,矢印DR4方向に回動可能に支持される。そして、表示装置本体100における固定具200に対向する面(すなわち、表示装置本体100の底面)から突出するように第1と第2表示状態の切換えを行なう「切換スイッチ」としてのゴムボタン130が設けられる。ゴムボタン130が表示装置本体100の内方に押し込まれることでタクトスイッチ140が作動し、表示状態の切換えが行なわれる。

上記に摘記したとおり、本件特許の明細書の段落【0018】及び【0034】においては、「表示部110」、「係合部120」、「ゴムボタン130」、「タクトスイッチ140」及び「バッテリ150」を有するひとまとまりの部材を「表示装置本体100」と称している。さらに、本件明細書の段落【0022】から【0023】では、図9,図10を参照しながら、ひとまとまりの部材としての「本体」を「固定具」に取り付ける前後の状態を説明している。このような明細書及び図面の記載を参酌すれば、本件特許発明における「第1の情報を表示する第1表示状態、および、第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部を有する本体」は、「固定具とは別に形成されたひとまとまりの部材であり、第1の情報を表示する第1表示状態、及び、第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部を有する、それ独自で所定の情報を表示可能なもの」と解釈することが適当であると認められる。

(2)本件特許発明と甲1引用発明における発明特定事項の相当関係
請求人は、甲1引用発明の「基部2」が本件特許発明の「固定具」の一部に相当し、甲1引用発明の「カバー3」が本件特許発明の「本体」に相当する旨主張している。この点について検討すると、甲1引用発明の「カバー3」を「基部2」から分離すると、カバー独自で所定の情報を表示可能なものとはいえなくなる。また、スイッチ6の構成部材が「基部2」と「カバー3」に跨って設けられていることから、カバーは「ひとまとまりの部材」ということはできない。以上より、前述の「本体」という用語の意義の解釈を踏まえると、請求人の主張は採用することができない。甲1引用発明における「走行距離計」が本件特許発明の「本体」に相当し、甲1引用発明における「支持体」が本件特許発明の「固定具」に相当するとすべきである。

(3)本件特許発明1と甲1引用発明の一致点及び相違点
まず、甲1引用発明の「前記ケース1内に設けられた、距離情報、速度情報、時間情報等の情報を表示するための表示手段と、…(中略)…を含み、ユーザー前記カバー3を押すごとに、前記スイッチ6が閉じられて、瞬間速度、走行距離、経過時間の表示が切り換わる自転車用の電子走行距離計」及び「走行距離計と支持体の組合せ物」という発明特定事項と、本件特許発明1における「表示装置」という発明特定事項とを対比すると、本件特許発明1と甲1引用発明は「表示装置」の点で一致する。
次に、甲1引用発明における「走行距離計と支持体の組合せ物」、「前記ケース1内に設けられた、距離情報、速度情報、時間情報等の情報を表示するための表示手段と…(中略)…を含み、…(中略)…電子走行距離計」及び「ステムの近傍においてハンドルバーに固定され、前記走行距離計を取り付けることができる支持体」という発明特定事項と、本件特許発明1の「バーに取付けられる表示装置であって」という発明特定事項とを対比すると、甲1引用発明における「ハンドルバー」が本件特許発明1における「バー」に相当することは明らかであるから、本件特許発明1と甲1引用発明は、「バーに取付けられる表示装置であって」の点で一致する。
その次に、甲1引用発明における「前記ケース1内に設けられた、距離情報、速度情報、時間情報等の情報を表示するための表示手段と、…(中略)…を含み、ユーザー前記カバー3を押すごとに、前記スイッチ6が閉じられて、瞬間速度、走行距離、経過時間の表示が切り換わる自転車用の電子走行距離計」という発明特定事項と、本件特許発明1における「第1の情報を表示する第1表示状態、および、第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部を有する本体と」という発明特定事項とを対比すると、前述の通り、甲1引用発明における「自転車用の電子走行距離計」は本件特許発明における「本体」に相当するから、本件特許発明1と甲1引用発明は、「第1の情報を表示する第1表示状態、及び、第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部を有する本体と」の点で一致する。
また、甲1引用発明における「ステムの近傍においてハンドルバーに固定され、前記走行距離計を取り付けることができる支持体とからなる」という発明特定事項と、本件特許発明1における「前記本体を前記バーに固定するための固定具とを備え」という発明特定事項とを対比すると、本件特許発明1と甲1引用発明は、「前記本体を前記バーに固定するための固定具とを備え」の点で一致する。
最後に、甲1引用発明の「基部2と前記基部に回動可能に取り付けられたカバー3とを有するケース1と、…(中略)…を含み、ユーザーが前記カバー3を押すごとに、前記スイッチ6が閉じられて、瞬間速度、走行距離、経過時間の表示が切り換わる自転車用の電子走行距離計」という発明特定事項と、本件特許発明1の「前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され、前記本体における前記固定具に対向する面から突出するように前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えを行なう切換スイッチが設けられ、前記本体を上方から下方に向けて押すことにより、前記固定具上に支持された前記本体が回動し、前記切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方に押し込まれ、前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えが行なわれる」という発明特定事項とを対比すると、甲1引用発明における「スイッチ6」が本件特許発明における「切換スイッチ」に相当することは当業者には自明であるから、本件特許発明1と甲1引用発明は、「本体に前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えを行なう切換スイッチを備え、かつ、回動可能に支持された部材を備え、当該回動可能に支持された部材の上面を上方から下方に向けて押すことにより、回動可能にされた部材が回動し、前記切換スイッチが作動して、前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えが行なわれる」の点で一致する。

以上を総合すると、本件特許発明1と甲1引用発明は、
「 バーに取付けられる表示装置であって、
第1の情報を表示する第1表示状態、及び、第2の情報を表示する第2表示状態を実現可能な表示部を有する本体と、
前記本体を前記バーに固定するための固定具とを備え、
本体に前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えを行なう切換スイッチを備え、
回動可能に支持された部材を備え、
前記回動可能に支持された部材の上面を上方から下方に向けて押すことにより、回動可能にされた部材が回動し、前記切換スイッチが作動して、前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えが行なわれる、表示装置。」
の点で一致し、下記の相違点の点で相違する。

<相違点>
本件特許発明においては、回動可能に支持された部材が本体(の全体)であって、本体が固定具上で回動可能に支持されており、切換スイッチが本体における前記固定具に対向する面から突出するように設けられ、前記本体を上方から下方に向けて押すことにより、前記固定具上に支持された前記本体が回動し、前記切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方に押し込まれ、前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えが行なわれるのに対して、甲1引用発明においては回動可能に支持された部材が走行距離計(「本体」に相当する。)のケース1を構成する部材のカバー3であって、カバー3が同じくケース1を構成する部材である基部2に回動可能に支持されており、スイッチ6(「切換スイッチ」に相当する。)は、その構成部材の片方がカバー3側に固定され、他方が基部2側に固定されて、ケース1内に設けられ、カバー3を押すごとに、スイッチ6が閉じられて、瞬間速度、走行距離又は経過時間の表示の切換えが行われる点。

3 相違点についての検討・判断
(1)甲第3号証について
請求人は、本件特許発明1の発明特定事項D1、E1及びF1に相当する構成は甲第3号証に記載されている旨主張しているので、まず、甲第3号証から検討する。
甲第3号証には、第1図から第3図とともに、次の記載がある(第1頁右下欄第11行-第2頁左下欄第2行。)。
「 本発明はポケツト時計で表示体と支持体が互に回動すべく支持されていて開きと閉じの二つの安定角度を操作設定し得る操作型時計に係わり、操作の改善と、操作に連動するアラームセツトの配備、更にはアラームモードの切換え等を計つたものである。以降図面に従つて本発明を説明する。
第1図は本発明による操作型時計の側面図で操作順序を表わしている。1-Aは閉の状態、1-Bは押の状態、1-Cは開の状態を示す。1は支持体、2は表示体、3は支持体1と表示体2の支軸である。…(中略)…第2図は本発明によるデジタル時計の閉状態の平面図であり、表示体2には液晶等のデジタル表示器があり、支持体1には電池、発振器、回路が内蔵されていて、1と2は電気的にはフレキシブルシートでコネクトされている。第3図は本発明による指針式時計の閉状態の平面図であり、表示体2には指針と歯車、モーターを内蔵し、支持体1には電池、発振器、回路が内蔵されていて、1と2はリード線で屈曲自在に電気コネクトされている。本発明は更に次の改良が施されている。第1図の9と10はアラームセツトスイツチの端子であり、閉又は押の状態では表示体2の端部11が一方の端子9を端子10より離す方向に移動させてアラームセツトスイツチがOFF、1-Cの開の状態では端子9と10はコンタクトしていてアラームセツトスイツチがONを選択する。この様にして表示体2と支持体1との回動操作と連動してアラームセツトのON、OFFが設定できる仕組みになつている。これは次の様な効果がある。
1)アラームセツトのための操作部材が節約できる。
2)通常使用は1-Cの開状態であるので自動的にアラームがセツトされるので、セツト忘れがなく便利である。
3)ポケツトに入れて運搬する時は1-Aの開状態でアラームはセツトOFFになつているので、鳴つてしまつて他に迷惑を掛ける様なことはない。」

上記の記載を第1図から第3図の記載とともに参酌すると、甲第3号証に記載された「ポケツト時計」においては、「表示体2」と「支持体1」が互いに回動すべく支持されているところ、例えば、第2図のものでは、「表示体2」に液晶等のデジタル表示器があり、「支持体1」に電池、発振器、回路が内蔵されていて、「支持体1」と「表示体2」は電気的にフレキシブルシートでコネクトされている旨記載されている。このように、その他の図面に対応する実施例のものも含めて、甲第3号証に記載のものにおいてはいずれも、「表示体2」と「支持体1」を分離したのでは「表示体2」は作動しないものであることから、甲第3号証に記載されたものにおける「表示体2」と「支持体1」は本件特許発明1における「本体」と「固定具」の関係にはないものであることが理解される。したがって、甲第3号証には、「操作部材としての回動可能な部材が本体であって、本体が固定具上で回動可能に支持されている」ことは開示されていないと認められる。また、「表示体2」の「支持体1」に対向する面から突出するように設けられた「端部11」は、回動操作によって、「表示体2」の内方に押し込まれるものではないことから、「切換スイッチが本体における固定具に対向する面から突出するように設けられ、切換スイッチが本体の内方に押し込まれ、第1表示状態と第2表示状態の切換えが行なわれる」ということも開示されていないと認められる。

以上検討のとおり、甲第3号証には、相違点に係る技術事項が開示されているとは認められない。したがって、上記相違点は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものであるとは認められない。

(2)甲第4号証について
請求人は、本件特許発明1の発明特定事項D1、E1及びF1に相当する構成は甲第4号証にも記載されている旨主張しているので、次に甲第4号証について検討する。
甲第4号証には、図1から図6とともに、次の記載がある(当審注:下記で特に参照するところに下線を付した。)。
「【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るスイッチの一実施形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明に係るスイッチの一実施形態の断面図である。図1において、スイッチ10は、筐体11に支持された固定接点12と、固定接点12と対向する接点13aを有する可動接片13と、可動接片13を支持する粘弾性型樹脂から構成される衝撃吸収体14と、筐体11に移動可能に支持され可動接片13を固定接点12方向に移動させる押圧片15と、筐体11に支点であるヒンジ部16aを介して揺動可能に支持され押圧片15を移動させる作動片16とを備え、衝撃吸収体14は可動接片13の固定接点12方向への変位により圧縮されて弾性変形する。
【0009】
筐体11はプラスチック等から構成されるものであり、L字形の固定接点12がインサート成型により支持されている。筐体11にはL字形の固定金具17が埋め込まれており、この金具17の水平部17aと筐体11との間に衝撃吸収体14が圧入状態に挟持されており、水平部17aと衝撃吸収体14との間に可動接片13の一端が挟まれた状態で支持されている。可動接片13の他端には、固定接点12と接離可能の接点13aが固着されている。
【0010】
前記の衝撃吸収体14はポリウレタンからなる粘弾性型樹脂から構成され、JIS(A)の硬度が25以下の軟質ゴムであり、固体でありながら液体のように機能し、例えば縦方向に加えられた衝撃を横方向に拡散し、90%以上の高いエネルギ吸収率を実現する弾性体であり、ソルボセインという商品名で市販されているものである。衝撃吸収体14は厚さが3mm程度のソルボセインの板状物から直方体状に形成されており、圧縮変形に対してはエネルギを吸収して減衰させるため、極めて小さな圧縮力により、圧縮されて弾性変形することができる。なお、衝撃吸収体として、シリコーンを主材としたゲル状物質で構成され、同様の機能を有するアルファゲル(商品名)を用いてもよく、形状は直方体に限らず円柱形等、適宜変更してもよい。
【0011】
筐体11に上下方向に移動可能に支持された押圧片15は、筐体11内の一端が可動接片13に対接し、他端は筐体11から外部に突出している。作動片16は金属板材から構成され、一端が筐体11にヒンジ部16aにより揺動可能に支持され、他端側の作動部が押圧片15の突出部に対接している。作動片16には重り調整部を構成するワイヤから形成される水平ロッド18が固着されている。作動片16と水平ロッド18とは、接着、溶着あるいは他の手段により固着され、ヒンジ部16aから離れる方向に延出している。」

請求人は、甲第4号証の「筐体11に支点であるヒンジ部16aを介して揺動可能に支持され押圧片15を移動させる作動片16とを備え」との記載が、本件特許発明の発明特定事項D1の「前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され」に相当する旨主張している。甲第4号証に記載されたものにおける「作動片16」が本件特許発明1における「本体」と呼べるようなものに該当しないことは常識的に見て明らかである。また、たとえ甲第4号証に記載されたものにおける「作動片16」が本件特許発明1における「本体」に相当すると考えたとしても、「作動片16」の内方に押し込まれる部材は存在しないことから、甲第4号証には「切換スイッチが本体における固定具に対向する面から突出するように設けられ、切換スイッチが本体の内方に押し込まれ、第1表示状態と第2表示状態の切換えが行なわれる」ということは開示されていないと認められ、甲第4号証には、相違点に係る技術事項が開示されているとは認められなくなる。したがって、甲第4号証に記載されたものにおける「筐体11」が本件特許発明1における「本体」に対応するとして考えるべきことなるが、「筐体11」に対して揺動する「作動片16」が本件特許発明1における「固定具」と呼べるようなもの、すなわち、本件特許発明1における「本体」に相当する「筐体11」を何らかの部材に固定するための部材に該当するとはとてもいうことができないことは明らかである。したがって、甲第4号証の前記記載が本件特許発明の発明特定事項D1の「前記本体は前記固定具上で回動可能に支持され」に相当するとの請求人の主張は、採用できるものではない。
以上より、甲第4号証には、相違点に係る技術事項が開示されているとは認められない。したがって、上記相違点は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものであるとは認められない。

(3)甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証について
甲第3号証及び甲第4号証のほかに、請求人の挙げた甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証を検討しても、下記に示すように、回動可能に支持された部材が本体であって、本体が固定具上で回動可能に支持されており、切換スイッチが本体における前記固定具に対向する面から突出するように設けられ、前記本体を上方から下方に向けて押すことにより、前記固定具上に支持された前記本体が回動し、前記切換スイッチが前記固定具により前記本体の内方に押し込まれ、前記第1表示状態と前記第2表示状態の切換えが行なわれるという相違点に係る技術事項を開示しているものは見当たらない。
甲第2号証に記載のものにおいては、「第1の筐体2」と「第2の筐体3」を分離したのでは「電子機器1」として作動しないものであり、また、いずれも「固定具」と呼べるようなものでないことは明らかである。したがって、甲第2号証に記載されたものにおける「第1の筐体2」と「第2の筐体3」は本件特許発明における「本体」と「固定具」の関係にはないものであることが理解される。
甲第5号証における回動する部材である「透光性の操作カバー60」が「本体」と呼べるようなものに該当しないことは常識的に見て明らかであり、「切換スイッチ」に相当するものが、回動する部材である「透光性の操作カバー」の面から突出するように設けられ、かつ、内方に押し込まれるように設けられたものも記載されていない。
甲第6号証には、タッチパネル式のスイッチは開示されているが、機械的スイッチは開示されていない。

(4)相違点についての検討・判断のまとめ
以上検討のとおり、相違点に係る技術事項は、請求人の提示した甲第1号証から甲第6号証のいずれにも開示されておらず、周知技術であるとも認められない。また、前記相違点については、甲1引用発明では本体を構成する部材間が回動可能なのに対して、本件特許発明においては、「本体」の一部ではなく、「本体」全体が「固定具」に対して回動可能であるということであって、本体に設けられた切換スイッチの構造の相違というものではない。よって、甲第1号証にスイッチ6を作動させるために他の手段を採用することもできる旨の記載があるといっても、相違点に係る事項を開示する刊行物が挙げられていない以上、当業者が容易に行うことのできる設計事項であるということはできない。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証から甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものということはできない。また、本件特許発明4は、本件特許発明1の備えるすべての発明特定事項を含む以上、同様の理由により、本件特許発明4も、甲第1号証から甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものということはできない。よって、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第6号証に記載された発明及び甲第1号証ないし甲第5号証に記載された事項又は周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとは認められず、無効理由2-1及び無効理由2-2は理由がない。
さらに、本件特許発明と甲1引用発明の間には前記の相違点があり、当該相違点の点をもって進歩性が認められることは上記検討のとおりであるから、両者を同一発明ということはできず、無効理由1も理由がない。


第6 結び
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-25 
結審通知日 2010-05-31 
審決日 2010-06-11 
出願番号 特願2006-12393(P2006-12393)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (G09F)
P 1 123・ 113- Y (G09F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 博之  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 岡田 吉美
小松 徹三
登録日 2009-01-16 
登録番号 特許第4246741号(P4246741)
発明の名称 表示装置  
代理人 辻村 和彦  
代理人 布施 行夫  
代理人 川端 さとみ  
代理人 井口 喜久治  
代理人 深見 久郎  
代理人 池田 恭子  
代理人 永田 美佐  
代理人 森本 純  
代理人 福田 あやこ  
代理人 高橋 淳  
代理人 森田 俊雄  
代理人 高橋 智洋  
代理人 山崎 道雄  
代理人 吉田 昌司  
代理人 宇田 浩康  
代理人 藤野 睦子  
代理人 辻 淳子  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 中村 理紗  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 井▲崎▼ 康孝  

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