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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2010800236 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B23Q
管理番号 1225742
審判番号 無効2009-800255  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-12-28 
確定日 2010-10-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第4297511号発明「クランプ装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4297511号に係る発明についての出願は、平成20年2月15日に特許出願され、その請求項1ないし7に係る発明は平成21年4月24日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成21年12月25日に請求人株式会社コスメックより本件無効審判の請求がなされたところ、平成22年3月29日に被請求人パスカルエンジニアリング株式会社より審判事件答弁書が提出され、平成22年6月25日に請求人及び被請求人よりそれぞれ口頭審理陳述要領書が提出され、平成22年7月9日に第1回口頭審理が実施され、請求人及び被請求人はそれぞれ上記口頭審理陳述要領書を陳述した。




第2 本件特許発明

1.本件特許発明
本件特許第4297511号の請求項1ないし7に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。)は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、及び図面(以下、明細書を「本件特許明細書」といい、図面を含めて「本件特許明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
ワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材と、このグリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッドと、前記グリップ部材とクランプロッドとを軸心方向へ進退駆動可能な流体圧シリンダと、前記グリップ部材とクランプロッドと流体圧シリンダとが付設される上部本体部材及び下部本体部材とを有するクランプ装置において、
前記上部本体部材に形成されワークを着座させる着座面と、
前記流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段と、
前記クランプ部材と一体的に流体圧シリンダの軸心方向へ移動する連動部材とを備え、
前記クランプ不良検出手段は、前記クランプ部材がクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに前記連動部材により開弁操作される弁機構と、この弁機構の入力側に加圧エアを供給するエア通路とを有することを特徴とするクランプ装置。
【請求項2】
前記着座面に開口された着座センサ用加圧エア噴出孔を設けたことを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。
【請求項3】
前記流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動した場合に、前記グリップ部材がワークの穴の内周面に対してスリップしたときに、グリップ部材がクランプ方向限界位置まで移動することを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。
【請求項4】
前記クランプ不良検出手段のエア通路から分岐した通路部と、この通路部に連通し且つ前記着座面に開口された着座センサ用加圧エア噴出孔とを設けたことを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。
【請求項5】
前記弁機構は、前記エア通路を開閉する弁部材と、前記エア通路を閉じる位置に弁部材を付勢する弾性の有る弁付勢部材とを備え、この弁部材が前記連動部材で押動されて開弁操作されることを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。
【請求項6】
前記弁機構は、前記エア通路を開閉する弁部材と、前記下部本体部材に可動に装着されたロッド状の弁付勢部材であって前記流体圧シリンダに供給された流体圧を受けて前記エア通路を閉じる位置に弁部材を付勢する弁付勢部材を備え、この弁部材が前記連動部材で押動されて開弁操作されることを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。
【請求項7】
前記弁機構は、前記エア通路を開閉する弁部材と、前記流体圧シリンダのピストン部に移動自在に挿通されたロッド状の弁付勢部材であって前記流体圧シリンダに供給された流体圧を受けて前記エア通路を閉じる位置に弁部材を付勢する弁付勢部材を備え、
前記弁付勢部材が、前記ピストン部がクランプ方向限界位置まで移動した場合に、前記ピストン部に係止されて前記エア通路を開ける位置に前記弁部材を移動させ得るように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。」


2.本件特許発明の分節
本件特許発明1ないし7について、以下、請求人の主張のとおり構成AないしOに分節し、以下、「第3 請求人が主張する無効理由の概要」ないし「第5 無効理由1に対する当審の判断」において適宜用いる。

2-1.本件特許発明1
(1)構成A
ワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材と、このグリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッドと、前記グリップ部材とクランプロッドとを軸心方向へ進退駆動可能な流体圧シリンダと、前記グリップ部材とクランプロッドと流体圧シリンダとが付設される上部本体部材及び下部本体部材とを有するクランプ装置において、
(2)構成B
前記上部本体部材に形成されワークを着座させる着座面と、
(3)構成C
前記流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段と、
(4)構成D
前記クランプ部材と一体的に流体圧シリンダの軸心方向へ移動する連動部材とを備え、
(5)構成E
前記クランプ不良検出手段は、前記クランプ部材がクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに前記連動部材により開弁操作される弁機構と、この弁機構の入力側に加圧エアを供給するエア通路とを有する
(6)構成F
ことを特徴とするクランプ装置。

2-2.本件特許発明2
(1)構成G
前記着座面に開口された着座センサ用加圧エア噴出孔を設けたことを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。

2-3.本件特許発明3
(1)構成H
前記流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動した場合に、前記グリップ部材がワークの穴の内周面に対してスリップしたときに、グリップ部材がクランプ方向限界位置まで移動することを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。

2-4.本件特許発明4
(1)構成I
前記クランプ不良検出手段のエア通路から分岐した通路部と、この通路部に連通し且つ前記着座面に開口された着座センサ用加圧エア噴出孔とを設けたことを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。

2-5.本件特許発明5
(1)構成J
前記弁機構は、前記エア通路を開閉する弁部材と、前記エア通路を閉じる位置に弁部材を付勢する弾性の有る弁付勢部材とを備え、
(2)構成K
この弁部材が前記連動部材で押動されて開弁操作されることを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。

2-6.本件特許発明6
(1)構成L
前記弁機構は、前記エア通路を開閉する弁部材と、前記下部本体部材に可動に装着されたロッド状の弁付勢部材であって前記流体圧シリンダに供給された流体圧を受けて前記エア通路を閉じる位置に弁部材を付勢する弁付勢部材を備え、
(2)構成M
この弁部材が前記連動部材で押動されて開弁操作されることを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。

2-7.本件特許発明7
(1)構成N
前記弁機構は、前記エア通路を開閉する弁部材と、前記流体圧シリンダのピストン部に移動自在に挿通されたロッド状の弁付勢部材であって前記流体圧シリンダに供給された流体圧を受けて前記エア通路を閉じる位置に弁部材を付勢する弁付勢部材を備え、
(2)構成O
前記弁付勢部材が、前記ピストン部がクランプ方向限界位置まで移動した場合に、前記ピストン部に係止されて前記エア通路を開ける位置に前記弁部材を移動させ得るように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。




第3 請求人が主張する無効理由の概要

1.請求人の主張の全体概要及び証拠方法
請求人は、審判請求書とともに下記の甲第1号証ないし甲第36号証を証拠方法として提出するとともに口頭審理陳述要領書とともに甲第37号証ないし甲第42号証を証拠方法として提出した。その後、平成22年7月9日に行った第1回口頭審理において甲第24号証ないし甲第36号証及び甲第37号証ないし甲第42号証については参考文献(以下、甲第24号証ないし甲第36号証を「参考文献1」、甲第37号証ないし甲第42号証を「参考文献2」という。)とする旨を陳述するとともに、審判請求書の第39ページ第1行ないし第41ページ第24行の請求理由を削除する旨を陳述した。
そして、「特許第4297511号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の2.の理由(以下、「無効理由1」という。)により本件特許発明1ないし7についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当するから無効とされるべきである旨、及び以下の3.の理由(以下、「無効理由2」という。)により本件特許発明1ないし7についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当するから無効とされるべきである旨を主張する。

<証拠方法>
甲第1号証 :特開2004-195583号公報
甲第2号証 :再表2005/030435号公報
甲第3号証 :国際公開WO2007/060986号公報(国際公開2007/060986号)
甲第4号証 :再表2005/009676号公報
甲第5号証 :特開2003-266262号公報
甲第6号証 :特開平11-188551号公報
甲第7号証 :特開平10-146773号公報
甲第8号証 :特開2003-326347号公報
甲第9号証 :特開2003-305626号公報
甲第10号証 :特開2001-232539号公報
甲第11号証 :特開昭62-181846号公報
甲第12号証 :特開平2-256437号公報
甲第13号証 :特開平5-345248号公報
甲第14号証 :特開2005-279799号公報
甲第15号証 :国際公開WO2006/100958号公報(国際公開2006/100958号)
甲第16号証 :特開平7-40169号公報
甲第17号証 :特開2002-52442号公報
甲第18号証 :実用新案登録第2556618号公報
甲第19号証 :特開2003-251506号公報
甲第20号証 :実用新案登録第2503946号公報
甲第21号証 :実開平5-41659号公報(実願平3-92532号(実開平5-41659号)のCD-ROM)
甲第22号証 :実公平5-18573号公報
甲第23号証 :特表平8-510197号公報

<参考文献1>
甲第24号証 :特開2005-288610号公報
甲第25号証 :実公平5-16473号公報
甲第26号証 :実開平3-72172号公報
甲第27号証 :実開平3-124079号公報
甲第28号証 :特開昭58-203271号公報
甲第29号証 :実開昭63-194975号公報
甲第30号証 :特開2002-5388号公報
甲第31号証 :特開2002-5392号公報
甲第32号証 :特開2002-147689号公報
甲第33号証 :実開昭62-156172号公報
甲第34号証 :米国特許第2800142号公報(米国特許第2800142号明細書)
甲第35号証 :実開平5-71549号公報
甲第36号証 :特開平9-287565号公報

<参考文献2>
甲第37号証 :カタログ「パスカル ホール クランプ model CGH」 発行者/パスカル株式会社、 カタログ番号/CLS-19J-1 、発行日/2004年2月
甲第38号証 :特開平6-15549号公報
甲第39号証 :特開2007-15093号公報
甲第40号証 :特開平5-285760号公報
甲第41号証 :実用新案登録第2520333号公報
甲第42号証 :実公昭61-10913号公報


2.無効理由1に係る主張の概要

(1)本件特許発明1(審判請求書第31ページ第2行ないし第49ページ第22行)
(1-1)甲第1号証を主引例とした場合(審判請求書第31ページ第3行ないし第38ページ第25行)
本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、両発明は、前記の構成A、B、D、Fを備える点で一致し、甲第1号証に記載された発明が前記の構成C、Eを備えない点で相違する。しかしながら、上記構成Cは、下記ア.に示すとおり、周知事項に過ぎない。また、上記構成Eも、後述するイ.に示すとおり、周知の技術的事項である。
ア.上記構成Cについて
構成Cのうちの「流体圧シリンダ(4)によりクランプロッド(3)を介してグリップ部材(2)をクランプ方向へ駆動してワーク(W)を着座面(18)に着座させた状態」なる記載部分は、上記の甲第1号証から甲第6号証の各号証に記載されているように周知事項である。即ち、甲第1号証の図1と図3(及び段落【0035】ないし【0037】)には、上記の記載部分に対応する構成として、「油圧シリンダ5のピストン部材40によりプルロッド4を介して係合部材30をクランプ方向へ駆動してワーク2を受止面15に着座させた状態」が記載されている。この点は、甲第2号証の図15(及び段落【0127】ないし【0134】)、甲第3号証の図2?図4(及び段落[0033]、[0034]及び[0043]ないし[0052])、甲第4号証の図1と図10(及び段落【0033】及び【0051】ないし【0052】)、甲第5号証の図1(及び段落【0015】、【0016】及び【0021】)、甲第6号証の図1(及び段落【0011】ないし【0013】)と図9(及び段落【0040】ないし【0042】)にも、同様に記載されている。
また、構成Cのうちの上記「ワーク(W)を着座面(18)に着座させた状態」における『クランプ不良』なる記載は、如何なる状況のクランプ不良を示しているのかが明確であるとはいえないが、クランプロッド(3)及びグリップ部材(2)が所定のクランプストローク領域を越えてオーバーストロークすることであるようにも解される。そうだとすれば、この種の『クランプ不良』は、当業者にとって周知の技術的事項であり、その「クランプ不良」を検出するクランプ不良検出手段も当業者にとって自明な事項に過ぎない。その理由は、下記(a)?(c)に示すとおりである。
(a)グリップ部材のスリップによるクランプ不良について
甲第7号証には、グリップ部材(2)に相当するコレットをクランプ駆動したときに、そのコレットの外周面に滑り(スリップ)が生じることによる課題が記載されている(要約の課題の欄と段落【0003】)。また、甲第8号証にも、上記グリップ部材(2)に相当するチャッキング爪のスリップによる課題や作用効果が記載されている(要約の解決手段の欄、請求項2、段落【0008】を参照。)。
そして、前記甲第1号証において、図1のクランプ解除状態から図3のクランプ状態へ切り換えたクランプ作動時に、ワーク2の係合穴2aの内周面と係合部材30の外周面との間に作用する上下方向の摩擦力が切削油などの影響によって所定の摩擦力よりも小さくなっている場合や、上記の係合穴2aの穴径寸法が許容範囲よりも大きく形成されている場合には、上記の係合穴2aの内周面に対して係合部材30の外周面が下方ヘスリップして、ピストン部材40とプルロッド4及び上記の係合部材30が下方ヘオーバーストロークする。このようなクランプ不良が発生することは当業者にとって自明な事項である。
そもそも、上記スリップに起因する問題が従来から公知であることは、本件特許明細書の段落【0005】及び【0006】で特許権者が自認しているとおりである。
(b)グリップ部材の破損によるクランプ不良について
上記甲第1号証の図7の(a)図および(b)図に示されたプルロッド4のクランプ状態では、3つの係合部材30が半径方向の外方へ移動されるため、隣り合う係合部材30、30の間に「大きな離間隙間」が放射方向へ形成されている。ところで、甲第1号証の図3のクランプ状態では、ワーク2の切削加工中に多量の切削液が当該ワーク2へ向けて噴射されるので、その切削液がクランプ装置の周囲にも勢い良く飛散する。このため、その切削液に混入した切粉等の異物が上記「大きな離間隙間」に侵入して上記の係合部材30に付着する。その結果、上記の係合部材30は、アンクランプ時に半径方向の内方へ移動できなくなって拡径した状態に保持されることがある。これに気付かずに、新たなワーク2の係合穴2aを係合部材30に嵌合させると、その係合穴2aの周壁の下部が係合部材30の上端に衝突し、その衝撃で係合部材30が破損することがある。
この場合にも、甲第1号証において、図1のクランプ解除状態から図3のクランプ状態へ切り換えたときに、上記の破損した係合部材30の拡径力が消失するため、ピストン部材40とプルロッド4及び上記の係合部材30が下方ヘオーバーストロークする。このようなクランプ不良が発生し得ることは当業者にとって自明な事項である。
(c)グリップ部材やクラレプロットに相当する部材について、種々の「ストローク位置」を検出することは、以下の(c1)?(c7)に示すとおり、周知事項である。
(cl)甲第9号証について
甲第9号証の第1実施形態としての図1から図4(主として図2Aを参照)には、クランプ部材としてのアーム6及びクランプロッド5の下方移動に連動して、検出ロッド62が4つの位置(旋回退避位置X、クランプ準備位置Y、クランプ位置Z、空クランプM)に移動して、これらの位置を検出することが記載されている(段落【0029】、【0034】及び【0035】を参照。)。
なお、下方へのオーバーストローク位置としての上記の空クランプ位置Mは、装着されたワークの厚さが所定値よりも薄いことを検出することに利用可能である。この場合、厚さが薄いワークを固定したというクランプ不良を検出できることになる。この点は、当業者にとって自明な事項である。
また、上記甲第9号証の第2実施形態としての図5から図9(主として図8A?図8Cを参照)には、クランプロッド5の上方移動に連動して検出具62が3つの位置(アンクランプ位置E、クランプ位置F、空クランプ位置G)に移動して、これらの位置を検出することが記載されている(段落【0046】ないし【0050】を参照。)。
なお、この第2実施形態においても、上方へのオーバーストローク位置としての上記の空クランプ位置Gは、装着されたワークWの厚さが所定値よりも薄いことを検出することに利用可能である。この場合、厚さが薄いワークWを固定したというクランプ不良を検出できることになる。この点は、当業者にとって自明な事項である。
(c2)甲第10号証について
甲第10号証の図3と図5及び段落【0015】には、当金20が所定位置よりも右方の異常位置であることに連動して、可動座体32が可動リング31を右方へ押勤し、これにより、第1エアーノズル36が聞かれて上記の異常状態を検出することが記載されている。
また、上記の甲第10号証の上記の図3と図6及び段落【0016】には、当金20が所定位置よりも左方の異常位置であることに連動して、可動座体32が可動リング31から離間し、これにより、第2エアーノズル40が聞かれて上記の異常状態を検出する二とが記載されている。
(c3)甲第11号証について
甲第11号証の第3図には、流量計量シリンダ22のピストンロッド22aを介して作動シリンダ6の後退位置とクランプ位置とオーバストローク位置との3つの位置を検出することが記載されている(第3ページ左下欄第6行ないし第14行を参照。)。
(c4)甲第12号証について
甲第12号証の第2図と明細書の第2頁の右下欄の10?20行(及び第3ページ右上欄第11行ないし第16行)には、検出用シリンダ5のピストンロッド5bを介して作動シリンダ1のアンクランプ位置とクランプ完了位置とオーバーストローク位置との3つの位置を検出することが記載されている。
また、甲第12号証には、大きさの異なるワークを検出することが記載されている(第2ページ右下欄第15行ないし第18行及び第3ページ右上欄第17行ないし左下欄第5行を参照。)。このため、所定の厚さよりも薄いワークをクランプしたときにはクランプ装置がオーバーストロークしたクランプ不良状態であることを検出できることも明らかである。
(c5)甲第13号証について
甲第13号証の図4と段落【0020】には、検測部材39とセンサ40によってパレット9のクランプ・アンクランプ・オーバーストロークの3つの状態を確認することが記載されている。
(c6)甲第14号証について
甲第14号証の段落【0035】及び【0043】(並びに図6及び図7を参照。)には、オーバーストローク状態を検出することが記載されている。
(c7)甲第15号証について
甲第15号証の図1、図3、段落[0010]、[0040]及び[0042](並びに請求項6、7)には、クランプ装置のリリース状態とロック状態とを検出できることが記載されている。なお、上記ロック状態を検出できるので、そのロック状態でない場合の「ロック不良状態(クランプ不良状態)」を検出できることが当業者にとって明らかである。
以上に示すとおり、本件特許のグリップ部材(2)やクランプロッド(3)に相当する部材について、前記「クランプ不良」としてのオーバーストローク状態を含む種々のストローク位置を検出することは周知慣用技術である。また、上記「クランプ不良」を検出するクランプ不良検出手段を設けることも、当業者にとって自明な事項である。
従って、前記構成Cは、周知慣用技術であって、実質的な相違点ではない。
イ.前記構成Eについて
(a)甲第9号証の記載
(a1)甲第9号証の第1実施形態について
甲第9号証の図1から図4(主として図2Aを参照。)と段落【0029】ないし【0034】には、上記構成Eのクランプ不良検出手段(100、100D、100E)に相当する「動作検出装置51」が記載されている。また、その甲第9号証には、上記構成Eのうちの「クランプ部材(2)がクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに運動部材(5)により開弁操作される弁機構(105)」に相当する構成として、『クランプ部材としてのアーム6及びクランプロッド5が下方のクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに検出ロッド62により開弁操作される弁機構(第1開口部71aと、閉止面68及び凹所69)』が記載されている。そして、上記甲第9号証には、上記構成Eのうちの「弁機構(105)の人力側に加圧エアを供給するエア通路(104)」に相当する構成として、『弁機構(第1開口部71aと、閉止面68及び凹所69)の入力側に加圧エアを供給する第1人口孔71』が記載されている。
従って、甲第9号証の第1実施形態(図1から図4)には前記構成Eが記載されている。
(a2)甲第9号証の第2実施形態について
甲9の図5から図9(主として図8Aないし図8Cを参照)と段落【0046】ないし【0050】には、上記構成Eのクランプ不良検出手段(100、100D、100E)に相当する「動作検出装置51」が記載されている。
また、その甲第9号証には、上記構成Eのうちの「クランプ部材(2)がクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに連動部材(5)により開弁操作される弁機構(105)」に相当する構成として、『クランプロッド5が上方のクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに検出具62により開弁操作される弁機構(第1開口部71aと、第1閉止面87及び第1逃し溝88)』が記載されている。
そして、上記甲第9号証には、上記構成Eのうちの「弁機構(105)の人力側に加圧エアを供給するエア通路(104)」に相当する構成として、『弁機構(第1開口部71aと、第1閉止面87及び第1逃し溝88)の入力側に加圧エアを供給する第1人目孔71』が記載されている。
従って、甲第9号証の第2実施形態(図5から図9)には前記構成Eが記載されている。
(b)甲第10号証の記載
(b1)甲第10号証の図5について
甲第10号証の図5(及び図2ないし図4を参照。)と段落【0015】には、上記構成Eのクランプ不良検出手段(100、100D、100E)に相当する「異常検知装置」が記載されている。
また、甲第10号証には、上記構成Eのうちの「クランプ部材(2)がクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに連動部材(5)により開弁操作される弁機構(105)」に相当する構成として、『当金20が左方の限界位置まで移動したときに可動座体32により開弁操作される弁機構(可動リング31に固定された連結軸34のフランジ面33と固定座体29の右端面とからなる開閉弁)』が記載されている。そして、上記甲10には、上記構成Eのうちの「弁機構(105)の人力側に加圧エアを供給するエア通路(104)」に相当する構成として、『弁機構(上記の連結軸34のフランジ面33と固定座体29の右端面とからなる開閉弁)の人力側に加圧エアを供給する第1エアーノズル36』が記載されている。
従って、甲第10号証の図5には前記構成Eが記載されている。
(b2)甲第10号証の図6について
甲第10号証の図6(及び図2ないし図4を参照。)と明細書の段落【0016】にも、上記構成Eのうちの「クランプ部材(2)がクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに連動部材(副により開弁操作される弁機構(105)」に相当する構成として、『当金20が左方の限界位置まで移動したときに可動座体32により開弁操作される弁機構(可動座体32の右端面と可動リング31の左端面)』が記載されている。そして、上記甲第10号証には、上記構成Eのうちの「弁機構(105、105D、105E)の人力側に加圧エアを供給するエア通路(104)」に相当する構成として、『弁機構(可動座休32の右端面と可動リング31の左端面)の人力側に加圧エアを供給する第2エアーノズル40』が記載されている。
従って、甲第10号証の図6には前記構成Eが記載されている。
(c)上述したとおり、上記構成Eは、甲第9号証の各実施形態に記載され、甲第10号証の実施例にも記載されている。
以上に示す理由により、本件特許発明1は、甲第1号証と甲第9号証(又は甲第10号証)及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到できることが明らかである。

(1-2)甲第5号証を主引例とした場合(審判請求書第42ページ第1行ないし第27行)
本件特許発明1と甲第5号証に記載された発明とを対比すると、両発明は、前記の構成A、B、D、Fを備える点で一致し、甲第5号証が前記の構成C、Eを備えない点て相違する。しかしながら、上記構成Cは、上述したとおり、周知慣用技術に過ぎない。また、上記構成Eは、上述したとおり、甲第9号証(又は甲第10号証)に記載されている。
以上の理由により、本件特許発明1は、甲第5号証と甲第9号証(又は甲第10号証)及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に想到できることが明らかである。
よって、本件特許発明1は、甲第1号証(又は甲第5号証)に甲第9号証(又は甲第10号証)及び周知慣用技術を適用することにより、当業者が容易に想到できる。

(2)本件特許発明2(審判請求書第43ページ第1行ないし第19行)
本件特許発明2と甲第1号証(又は甲第5号証)に記載された発明とを対比すると、両発明は、前記の構成C、Eが相違するのみである。即ち、本件特許発明2の前記構成Gは、甲第1号証?甲第4号証の各号証に記載されているように、周知慣用技術である。
そして、前述したとおり、前記構成Cは周知慣用技術であり、前記構成Eは甲第9号証(又は甲第10号証)に記載されている。
従って、本件特許発明2は、甲第1号証(又は甲第5号証)に甲第9号証(又は甲第10号証)と周知慣用技術を適用することにより、当業者が容易に想到できる。

(3)本件特許発明3(審判請求書第43ページ第21行ないし第44ページ第1行)
本件特許発明3と甲第1号証(又は甲第5号証)に記載された発明とを対比すると、両発明は、前記の構成C、Eが相違するのみである。即ち、本件特許発明3の前記構成Hは、当業者にとって自明な事項である。そして、前述したとおり、前記構成Cは周知慣用技術であり、前記構成Eは甲第9号証(:又は甲第10号証)に記載されている。
従って、本件特許発明3は、甲第1号証(又は甲第5号証)に甲第9号証(又は甲第10号証)と周知慣用技術を適用することにより、当業者が容易に想到できる。

(4)本件特許発明4(審判請求書第44ページ第3行ないし第45ページ第18行)
本件特許発明4と甲第1号証(又は甲第5号証)に記載された発明とを対比すると、両発明は、前記構成Iが相違する。しかしながら、その構成Iは、下記(a)?(d)に示すとおり、周知技術である。
(a)甲第16号証の記載
その甲第16号証(図1ないし図3を参照。)には、本件特許発明4の構成Iとしての「クランプ不良検出手段(100、100D、100E)のエア通路(104)から分岐した通路部(82)と、この通路部(82)に連通し且つ着座面(18)に開口された着座センサ用加圧エア噴出孔(81)とを設けた」構成に相当する構成として、『クランプ確認手段(換言すれば、クランプ不良の確認手段)の第2噴出口48に接続された連通路52から分岐した第1通路42と、この第1通路42に連通し且つ基準座14のワーク着座面36に開口された第1噴出口38とを設けた』構成が記載されている(段落【0013】ないし【0016】及び【0020】及び【0025】を参照。)。従って、甲第16号証の上記構成は、本件特許発明4の構成Iと実質的に同一である。
(b)甲第17号証の記載
その甲第17号証(図2ないし図4を参照。)には、本件特許発明4の前記構成Iに相当する構成として、『ノズル30の把持状態のロック確認手段(換言すれば、ロック不良の確認手段)の第1開口部21aから分岐した検出通路21と、この検出通路21に連通し且つノズル30の着座面(参照数字なし)に開口された第2開口部21bとを設けた』構成が記載されている(段落【0020】ないし【0022】、【0029】ないし【0035】を参照。)。従って、甲第17号証の上記構成は、本件特許発明4の構成Iと実質的に同一である。
(c)甲第18号証の記載
その甲第18号証(図1を参照。)には、本件特許発明4の前記構成Iに相当する構成として、『コレット部材28の保持面38へのチャック状況確認手段(換言すれば、チャック不良の確認手段)の供給口88から分岐した空気通路58と、この空気通路58に連通し且つワーク36用の当接面50に開口された供給口76とを設けた』構成が記載されている(段落【0015】ないし【0018】を参照。)。従って、甲第18号証の上記構成は、本件特許発明4の構成Iと実質的に同一である。
(d)甲第19号証の記載
その甲第19号証(図1ないし図3を参照。)には、本件特許発明4の前記構成Iに相当する構成として、『チャック爪41のチヤツク面46への接当確認手段(換言すれば、接当不良の確認手段)の第1空気孔50から分岐したエア供給孔23と、このエア供給孔23に連通し且つワーク1用の着座面61に開口された第2空気孔62とを設けた』構成が記載されている(段落【0015】ないし【0029】を参照。)。従って、甲第19号証の上記構成は、本件特許発明4の構成Iと実質的に同一である。
上述したように、上記各公報に記載された発明は、周知技術である。そして、本件発明のようなクランプ不良検出手段付きのクランプ装置の構造を設計する者が、その検出手段について各種の周知技術を参照することは、当然であり、当業者にとって十分な動機付けのある事柄である。
従って、本件特許発明4は、甲第1号証(又は甲第5号証)に甲第9号証(又は甲第10号証)と上記周知慣用技術と上記の周知技術を適用することにより、容易に想到できる。

(5)本件特許発明5(審判請求書第45ページ第20行ないし第47ページ第10行)
本件特許発明5と甲第1号証(又は甲第5号証)に記載された発明とを対比すると、両発明は、前記構成J及び構成Kが相違する。しかしながら、下記(a)ないし(e)に示すとおり、上記構成J及び構成Kは周知技術である。
(a)甲第10号証の記載
甲第10号証の図5(及び図2ないし図4を参照。)と段落【0009】ないし【0015】には、上記構成Jの「弁機構(105)は、エア通路(104)を開閉する弁部材(102)と、前記エア通路(104)を閉じる位置に弁部材(102)を付勢する弾性の有る弁付勢部材(103)とを備え」に相当する構成として、『弁機構(可動リング31に固定された連結軸34のフランジ面33と固定座体29の右端面とからなる開閉弁)は、第1エアーノズル36を開閉する連結軸34のフランジ面33と、前記の第1エアーノズル36を閉じる位置に連結軸34のフランジ面33を付勢するスプリング35を備える』構成が記載されている。従って、甲第10号証の上記構成は、本件特許発明5の構成Jと実質的に同一である。
また、甲第10号証の図5(及び図2ないし図4を参照。)と段落【0015】には、上記構成Kの「弁部材(102)が連動部材(5)で押動されて開弁操作される」構成に相当する構成として、『第1エアーノズル36を開閉する連結軸34が、可動座体32によって可動リング31を介して押動されて開弁操作される』構成が記載されている。従って、甲第10号証の上記構成は、本件特許発明5の構成Kと実質的に同一である。
よって、甲第10号証には、本件発明5の構成J及び構成Kが記載されている。
(b)甲第20号証の記載
甲第20号証には、本件特許発明5の前記構成Jに相当する構成として、『弁機構(棹部材18の頭部18aと貫通孔15の下部とがらなる開閉弁)は、空気流路30(及び貫通孔15の下部)を開閉する上記の頭部18aと、その空気流路30(及び貫通孔15の下部)を閉じる位置に棹部材18を付勢するスプリング20を備える』構成が記載されている(主として第3欄第33行ないし第4欄第6行を参照。)。従って、甲第20号証の上記構成は、本件特許発明5の構成Jと実質的に同一である。
また、上記の甲第20号証には、本件特許発明5の前記構成Kに相当する構成として、『弁部材としての棹部材18がプルボルト16で押動されて開弁操作される』構成が記載されている(第5欄第34行ないし第38行参照。)。従って、甲第20号証の上記構成は、本件特許発明5の構成Kと実質的に同一である。
よって、甲第20号証には、本件特許発明5の構成J及び構成Kが記載されている。
(c)甲第21号証の記載
甲第21号証には、本件特許発明5の前記構成Jに相当する構成として、『逆止弁50は、エア供給路37に連通された弁通路41を開閉する弁体51と、その弁通路41を閉じる位置に弁体51を付勢するスプリング52を備える』構成が記載されている(段落【0007】ないし【0009】を参照。)。従って、甲第21号証の上記構成は、本件特許発明5の構成Jと実質的に同一である。また、上記の甲第21号証には、本件特許発明5の前記構成Kに相当する構成として、『弁体51が固定ピン61で押動されて開弁操作される』構成が記載されている(段落【0010】を参照。)。従って、甲第21号証の上記構成は、本件特許発明5の構成Kと実質的に同一である。
よって、甲第21号証には本件特許発明5の構成J及び構成Kが記載されている。
(d)甲第22号証の記載
甲第22号証には、本件特許発明5の前記構成Jに相当する構成として、『第ニバルブBは、弁孔15を開閉する弁体14と、その弁孔15を閉じる位置に弁体14を付勢するスプリング7を備える』構成が記載されている(第3欄第43行ないし第5欄第14行)。従って、甲第22号証の上記構成は、本件発明5の構成Jと実質的に同一である。
また、上記の甲第22号証には、本件特許発明5の前記構成Kに相当する構成として、『弁体14がノズルピン5で傾動されて開弁操作される』構成が記載されている(第4欄第18行ないし第22行及び第5欄第6行ないし第12行を参照。)。従って、甲第22号証の上記構成は、本件特許発明5の構成Kと実質的に同一である。
よって、甲第22号証には本件特許発明5の構成J及び構成Kが記載されている。
(e)甲第23号証の記載
甲第23号証には、本件特許発明5の前記構成Jに相当する構成として、『リリーフ弁9は、弁ケーシング26内の流路(参照数字なし)を開閉する弁プランジャ17と、その流路を閉じる位置に弁プランジャ17を付勢する圧縮ばね20を備える』構成が記載されている(第5ページ第2行ないし第12行を参照。)。従って、甲第23号証の上記構成は、本件特許発明5の構成Jと実質的に同一である。
また、上記の甲第23号証には、本件特許発明5の前記構成Kに相当する構成として、『弁プランジャ17がフランジ14で押動されて開弁操作される』構成が記載されている(第5ページ第25行ないし第6ページ第1行を参照。)。従って、甲第23号証の上記構成は、本件特許発明5の構成Kと実質的に同一である。
よって、甲第23号証には本件特許発明5の構成J及び構成Kが記載されている。
従って、本件特許発明5は、甲第1号証(又は甲第5号証)に甲第9号証(又は甲第10号証)と上記周知慣用技術と上記の周知技術を適用することにより、容易に想到できる。

(6)本件特許発明6(審判請求書第48ページ第12行ないし第26行)
本件特許発明6と甲第1号証(又は甲第5号証)に記載された発明とを対比すると、両発明は、前記構成L及び構成Mが相違する。
しかしながら、構成Lのうちの「弁部材(102)」に係る構成は、上述したとおり、周知技術である。
また、構成Lのうちの「流体圧式の弁付勢部材(140)」に係る構成も周知技術である。即ち、甲第1号証の筒状支持部材32(図1を参照。)と、甲第2号証の押上ピストン76(図15を参照。)、甲第4号証の押上げピストン83(図10を参照。)と、甲第5号証のコレット支持部材6(図1を参照。)とに、それぞれ示されたように、流体圧力を利用して対象部材を付勢する構成は周知技術である。
そして、構成Mは、前記構成Kと同一であって、上述したとおり周知技術である。
従って、本件特許発明6は、甲第1号証(又は甲第5号証)に甲第9号証(又は甲第10号証)と上記周知慣用技術と上記の周知技術を適用することにより、容易に想到できる。

(7)本件特許発明7(審判請求書第48ページ第28行ないし第49ページ第16行)
本件特許発明7と甲第1号証(又は甲第5号証)に記載された発明とを対比すると、両発明は、前記構成N及び構成Oが相違する。
しかしながら、構成Nは、前記構成L及びMと実質的に同一であるため、上述したとおり、周知技術である。
また、構成Oも周知技術である。即ち、甲第1号証(図1を参照。)では、付勢部材としての筒状支持部材32が係合部材30とプルロッド4を介してピストン部材40によって係止される。甲第2号証(図15を参照)では、付勢部材としての押上ピストン76が外係合具78とピストンロッド23を介してピストン22によって係止される。甲第4号証(図10を参照)では、付勢部材としての押上げピストン83がスリーブ79やプルロッド18等を介してピストン11によって係止される。また、甲第5号証(図1を参照。)では、コレット支持部材6がコレット部材5とプルロッド4を介してピストン部材30によって係止される。
以上により、上記構成N及び構成Oが周知技術であることは明らかである。
従って、本件特許発明7は、甲第1号証(又は甲第5号証)に甲第9号証(又は甲第10号証)と上記周知慣用技術と上記の周知技術を適用することにより、容易に想到できる。

(8)無効理由1に係る主張の概要のまとめ
上記(1)ないし(7)の内容を総合すると請求人の主張は概ね以下のようになる。
本件特許発明1ないし3は甲第1号証(又は甲第5号証)に記載された発明、甲第9号証(又は甲第10号証)に記載された発明及び周知慣用技術(甲第1号証ないし甲第15号証により例示。)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明4は甲第1号証(又は甲第5号証)に記載された発明、甲第9号証(又は甲第10号証)に記載された発明、周知慣用技術(甲第1号証ないし甲第15号証により例示。)及び周知技術(甲第16号証ないし甲第19号証により例示。)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明5ないし7は甲第1号証(又は甲第5号証)に記載された発明、甲第9号証(又は甲第10号証)に記載された発明、周知慣用技術(甲第1号証ないし甲第15号証により例示。)及び周知技術(甲第16号証ないし甲第23号証により例示。)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである(以下、「無効理由1」という。)。


3.無効理由2に係る主張の概要

(1)特許法第36条第6項第2号(明確性の要件)について(審判請求書第50ページ第2行ないし第53行第6行)
本件特許発明1は、クランプ装置の「クランプ不良」を検出することを要旨としていると解されるが、そのクランプ装置の構成が不明確であり、また、クランプ装置の主要な構成部材であるグリップ部材のウランプカを発生させる構成が不明確であるうえ、そのグリップ部材と連動部材との関係も不明確である。このため、上記「クランプ不良」が如何なる状態であるかを把握できず、その結果、上記「クランプ不良」を検出する構成も不明確である。より詳しくいえば、次のとおりである。
(a)グリップ部材について
前記構成Aにおいて、グリップ部材は、「ワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材」と定義されている。しかしながら、上記「グリップ」なる用語の意義が不明であるうえ、上記グリップ部材は、穴の内周面に挿入されるだけで当該穴の内周面をグリップ可能と言えるものではなく、そもそも、上記グリップ部材が如何なる構成によって穴の内周面をグリップ可能であるのかが不明である。
(b)クランプロットとグリップ部材との関係について
前記構成Aにおいて、ウランプロットは、「グリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッド」と定義されている。しかしながら、上記クラレプロットとグリップ部材とが相対的に移動するのか移動しないのかが特定されてないうえ、上記テーパ軸部のテーパ面が狭まる方向も特定されてない。このため、上記グリップ部材が如何なる構成によって穴の内周面をグリップ可能であるのかは依然として不明なままであり、そのグリップ部材のクランプ方向も不明なままである。
(c)流体圧シリンダについて
前記構成Aにおいて、流体圧シリンダは、「グリップ部材とクランプロッドとを軸心方向へ進退駆動可能な流体圧シリンダ」と定義されている。しかしながら、この定義では、その流体圧シリンダが、グリップ部材とクランプロッドとの両者を同じ方向へ駆動するのか、それとも、異なる方向へ駆動するのかが不明であり、そのうえ、上記の流体圧シリンダが、上記両者を直接に駆動するのか、それとも、上記両者のうちの一方を介して他方を間接的に駆動するのかも不明である。ここで、前記構成Cでは、「流体圧シリンダによりクラレプロットを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動して・・・」と記載されている。この記載によれば、上記の流体圧シリンダは、クラレプロットを介してグリップ部材を同じ方向へ間接的に駆動するように構成されているように解される。そうだとすれば、前記構成Aにおいても、流体圧シリンダは、クランプロットを介してグリップ部材を同じ方向へ間接的に駆動すると定義されることになる。しかしながら、同じ方向へ駆動されるクラレプロットとグリップ部材とが如何にしてクランプ力を発生するのが不明である。
(d)クランプ不良について
上記の構成Cでは、「流体圧シリンダによりクランプロットを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段]と記載されている。しかしながら、この記載では、流体圧シリンダによって駆動されるグリップ部材がワークに係合してその係合状態で当該ワークを強制的に着座面に着座させるのか、それとも、上記グリップ部材がワークに係合せずにその非係合状態でグリップ部材とは別の何らかの力が上記ワークを着座面に着座させるのかが不明である。このため、「ワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良」なる概念が不明である。従って、上記クランプ不良を検出するクランプ不良検出手段も不明確である。
(e)連動部材について
前記構成Dにおいて、連動部材は、「クランプ部材と一体的に流体圧シリングの軸心方向へ移動する連動部材]と定義されている。しかしながら、この定義によれば、クランプ部材と一体的に移動する部材の全てが連動部材に該当することになるため、上記クランプ部材の一部としてのグリップ部材も連動部材に該当することになる。そうだとすれば、前記構成Eの「クランプ部材が・・・まで移動したときに前記連動部材により開弁操作される・・・」の記載は、「連動部材としてのグリップ部材が移動したときに連動部材により開弁操作される・・・」を意味することになり、これは明らかに矛盾している。従って、上記の連動部材の定義は不明確である。また、クランプ部材と連動部材との両部材が別の部材であると解した場合には、上記の両部材は、『一体的に・・・移動する』のであるから、別の部材で構成する必要がなく、明らかに矛盾する。従って、上記定義のうちの『一体的に・・・移動する』とは、どのような状態で移動するのか全く不明である。即ち、上記クランプ部材と連動部材との両部材が常に合体した状態で相対移動なしで移動するのか、それとも、上記の両部材同士が相対的に移動することかあり得るのかが不明である。
しかも、上記のように移動する連動部材と、その連動部材を駆動する流体圧シリンダとの関係も不明確である。
(f)まとめ
上述したとおり、本件特許発明1は、グリップ部材の構成や流体圧シリンダの構成自体が何ら特定されてないうえ、その流体圧シリンダによって駆動されるクラレプロットとグリップ部材との相互の関係も特定されてないのであるから、クランプ装置の構成が不明確であるうえグリップ部材のクランプカを発生させる構成も不明確である。
このため、クランプ装置の「クランプ状態」が如何なる状態であるかを理解できず、その結果、「クランプ不良」なる概念を理解できない。そのうえ、流体圧シリンダとクランプ部材と連動部材との相互の関係も不明確であるから、その連動部材によって上記「クランプ不良」を検出する構成も不明確である。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について(審判請求書第53ページ第8行ないし第59行第26行)
(a)グリップ部材とクランプロットについて
本件特許明細書の段落【0035】、【0038】、【0054】及び【0055】には、概略、「4等分に分割されたグリップ部材2のテーパ孔部21aに、クランプロッド3の上部に上方程大径化するように形成されたテーパ軸部31を係合させ、上昇位置に保持させたグリップ部材2に対してクランプロッド3を下降させることにより、グリップ部材2のグリップ爪部24を拡径駆動させてワークWの穴Hの内周面に係合させる」構成が記載されているが、その構成以外の記載は無く示唆もない。
これに対して、本件特許発明1では、グリップ部材について、「ワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材」と定義しているだけである。
しかしながら、本件特許発明1の記載では、グリップ部材は、穴の内周面に挿入されただけでは当該穴の内周面をグリップ可能であるとは言えず、そのグリップ部材が如何なる構成によって穴の内周面をグリップ可能であるのかは不明である。従って、本件特許の「発明の詳細な説明」に開示された内容を本件特許発明1のグリップ部材の範囲まで拡張または一般化できるとはいえない。
また、本件特許明細書には、「4等分に分割されたグリップ部材2のテーパ孔部21aに、上方程大径化するようにクランプロッド3の上部に形成されたテーパ軸部31を係合させ、上昇位置に保持させたグリップ部材2に対してクランプロッド3を下降させることにより、グリップ部材2のグリップ爪部24を拡径駆動させてワークWの穴Hの内周面に係合させる」構成は記載されているが、その構成以外の記載は無く示唆もない。例えば、「グリップ部材2のテーパ孔部21aに、下方程大径化するテーパ軸部31を係合させる」構成は、記載されてなく示唆もされてない。また、「上昇位置に保持させたグリップ部材2に対してクランプロッド3を下降させることにより、グリップ部材2を拡径駆動させてワークの穴に係合させる」構成しか記載おらず、「上昇位置に保持させたグリップ部材2に対してクランプロッド3を上昇させることにより、グリップ部材2を拡径駆動させてワークの穴に係合させる」構成は、記載されてなく示唆もされてない。
これに対して、本件特許発明1では、クラレプロットについて、「グリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッド」と定義されているだけである。しかしながら、本件特許発明1では、上記クラレプロットとグリップ部材とが相対的に移動するのか移動しないのかが特定されてないうえ、上記テーパ軸部のテーパ面が狭まる方向も特定されてない。このため、上記グリップ部材が如何なる構成によって穴の内周面をグリップ可能であるのかは依然として不明であり、そのグリップ部材のクランプ方向も不明なままである。
そもそも、前記の甲第2号証ないし甲第4号証の各号証の各実施形態に示すように、ワークの穴の周面にグリップ部材に相当する部材を拡径係合させる構成としては、本件特許明細書に記載された構成とは異なる形態が存在している。そして、本件特許明細書には上記の異なる形態が何ら記載されてなく示唆もされてないのであるから、本件特許発明1が上記の異なる形態を包含してないことが明らかである。
従って、出願時の技術常識に照らしても、本件特許の発明の詳細な説明に開示された内容を本件特許発明1のクランプロット及びグリップ部材の範囲まで拡張または一般化できるとはいえない。
(b)流体圧シリンダについて
本件特許明細書の段落【0054】及び【0055】には、クランプ駆動の初期において、概略、「油圧シリンダ4のクランプ用油室45の油圧を受圧する環状受圧部材5によって上限位置を保持されたグリップ部材2に対して、ピストン部材42及びクランプロッド3を下降させることにより、そのクランプロッド3がグリップ部材2を拡径駆動させてワークの穴に係合させる」構成が記載されているが、その構成以外の記載は無く示唆もない。また、段落【0055】には、クランプ駆動の後期において、概略、「アンクランプ用油室46の油圧をドレン圧まで低下させると、ピストン部材42には下方向きの大きな油圧力が作用し、グリップ部材2とクランプロッド3とは相対移動不能であるため、図3に示すように、ピストン部材42とグリップ部材2とクランプロッド3と環状受圧部材5は一体的に下方へ駆動され、ワークWが着座面18に着座し、強く押圧されたクランプ状態になって停止する。」と記載され、それ以外の記載は無く示唆もない。
これに対し、本件特許発明1では、上記の油圧シリンダ4に相当する流体圧シリンダについて、「グリップ部材とクランプロッドとを軸心方向へ進退駆動可能な流体圧シリンダ」と定義しているだけである。しかしながら、上記定義では、その流体圧シリンダが、グリップ部材とクランプロットとの両者を同じ方向へ駆動するのか、それとも、異なる方向へ駆動するのかが不明であり、そのうえ、上記の流体圧シリンダが、上記両者を直接に駆動するのか、それとも、上記両者のうちの一方を介して他方を間接的に駆動するのかも不明である。
従って、出願時の技術常識に照らしても、本件特許の「発明の詳細な説明」に開示された内容を本件特許発明1の流体圧シリンダの範囲まで拡張または一般化できるとはいえない。
(c)クランプ不良について
本件特許発明1では、クランプ不良に関し「流体圧シリンダによりクランプロットを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段」と記載されている。しかしながら、上記の記載では、流体圧シリンダによって駆動されるグリップ部材がワークに係合してその係合状態で当該ワークを強制的に着座面に着座させるのか、それとも、上記グリップ部材がワークに係合せずにその非係合状態でグリップ部材とは別の何らかの力が上記ワークを着座面に着座させるのかが不明である。このため、「ワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良」なる概念が不明である。このため、上記クランプ不良を検出するクランプ不良検出手段の意義も不明確である。よって、「クランプ不良」及び「クランプ不良検出手段」に関し、発明の詳細な説明に発明として記載したものと本件特許発明1とが対応してないことが明白である。
(d)連動部材について
本件特許発明1の前記構成Dにおいて、連動部材は、「クランプ部材と一体的に流体圧シリンダの軸心方向へ移動する連動部材」と定義されている。
しかしながら、上記クランプ部材と連動部材との両部材が別の部材であると解した場合には、上記の両部材は、『一体的に・・・移動する』のであるから、別の部材で構成する必要がなく、明らかに矛盾する。従って、上記定義のうちの『一体的に・・・移動する』とは、どのような状態で移動するのか全く不明である。即ち、上記クランプ部材と連動部材との両部材が常に合体した状態で相対移動なしで移動するのか、それとも、上記の両部材が相対的に移動することかあり得るのかが不明である。このため、上記の連動部材の構成および技術的意義を特定できない。よって、上記の連動部材に関し、発明の詳細な説明に発明として記載したものと本件特許発明1とが対応してないことが明白である。
(e)まとめ
上述したとおり、本件特許発明1の構成のうちの少なくともグリップ部材とクラレプロットと流体圧シリンダと連動部材の技術的事項は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容に照らして、そのような技術的事項まで範囲を拡張または一般化できるとはいえない。このため、本件特許発明1は、いわゆるサポート要件が欠如している。そもそも、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明と本件特許発明1との対比に関する上記(a)から(d)によれば、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていることが明らかである。従って、発明の詳細な説明に発明として記載したものと本件特許発明1とが実質的に対応しているとはいえず、この点からも、本件特許発明1のサポート要件が欠如していることが明らかである。

(3)無効理由2に係る主張の概要のまとめ
上記(1)及び(2)の内容をまとめると請求人の主張は概ね以下のようになる。
本件特許発明1における「グリップ部材」、「クランプロッド」と上記「グリップ部材」との関係、「流体圧シリンダ」、「クランプ不良」及び「連動部材」はいずれもその意味が不明確である。
また、本件特許の発明の詳細な説明に開示された内容を本件特許発明1における「グリップ部材」、「クランプロッド」及び「流体圧シリンダ」の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえず、また、本件特許発明1における「クランプ不良」、「クランプ不良検出手段」及び「連動部材」に関し、発明の詳細な説明に発明として記載したものと対応していない。
よって、本件特許における願書に添付した特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものではなく、本件特許発明1ないし7は特許を受けることができない(以下、「無効理由2」という。)。




第4 被請求人の主張の概要

1.被請求人の主張の全体概要及び証拠方法
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」との主張をするとともに、請求人の主張する無効理由1に対して以下の2.のように主張し、無効理由2に対して以下の3.のように主張している。


2.無効理由1に係る主張の概要

(1)甲第1号証を主引例とした場合に対して(答弁書第6ページ第11行ないし第16ページ第8行)
(ア)一致点、相違点の認定について
本件特許発明1の構成要件C及びEが甲第1号証に示されていないことは、請求人も認めるとおりである。
さらに、本件特許発明4の構成要件Iが甲第1号証に示されていないことも、請求人が認めるとおりである。
(イ)本件特許発明1の進歩性欠如の主張に対して
請求人は、本件特許発明1は、甲第1号証を主引例として、この記載と甲第9号証または甲第10号証の記載および周知技術から、当業者が容易に発明することができたものである旨主張する。
しかし、前記相違点の構成要件C及びEに対応する構成は、どの甲各号証にも示されていない。したがって、進歩性欠如の論理づけは不可能である。
さらに、甲第1号証、甲第9号証及び甲第10号証には、本件特許発明1の課題は一切示されておらず、これらを組み合わせて本件特許発明1を得ようとする動機づけは存在しない。しかも、仮に組み合わせたとしても、本件特許発明1を得ることは到底できない。
よって、請求人の上記主張は失当である。
(ウ)本件特許発明4の進歩性欠如の主張に対して
請求人は、本件特許発明4は、甲第1号証を主引例として、この記載と甲第9号証または甲第10号証の記載および周知技術(甲第16号証ないし甲第19号証)から、当業者が容易に発明することができたものである旨主張する。
しかし、上述したように、本件特許発明1が甲各号証記載の発明に対して進歩性を有することは明らかである。したがって、本件特許発明1に従属する本件特許発明4が甲各号証記載の発明に対して進歩性を有することは明らかである。
さらに、請求人が提出する甲第16号証ないし甲第19号証の記載によっても、本件特許発明4の構成要件Iを容易に想到し得たものではない。
よって、請求人の上記主張は失当である。
(エ)本件特許発明2ないし7について
上述したように、本件特許発明1が甲各号証記載の発明に対して進歩性を有することは明らかである。したがって、本件特許発明1に従属する本件特許発明2、3及び5ないし7(当然、本件特許発明4も)が甲各号証記載の発明に対して進歩性を有することは明らかである。
(オ) まとめ
よって、甲第1号証を主引例とした場合の請求人の主張には、理由がない。

(2)甲第5号証を主引例とした場合に対して(答弁書第6ページ第11行ないし第16ページ第8行)
請求人は、本件特許発明1は、甲第1号証を主引例とした場合に加えて、甲第5号証を各々主引例として、甲第5号証の記載と甲第9号証または甲第10号証の記載および周知技術から、当業者が容易に発明することができたものである旨主張する。
しかし、少なくとも構成要件C、E及びIが甲第5号証のいずれにも示されていないことは、請求人も認めるとおりであるところ、上述のとおり、構成要件C、E及びIに対応する構成は示されていない。したがって、進歩性欠如の論理づけは不可能である。また、甲第9号証及び甲第10号証には、本件特許発明1ないし7の課題は一切示されていないことも、上述のとおりである。
したがって、甲第5号証を主引例とした場合の請求人の主張には、いずれも理由がない。

(3)無効理由1に係る主張の概要のまとめ
上記(1)及び(2)の内容をまとめると被請求人の主張は概ね以下のようになる。
本件特許発明1における「前記流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段」及び「前記クランプ不良検出手段は、前記クランプ部材がクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに前記連動部材により開弁操作される弁機構と、この弁機構の入力側に加圧エアを供給するエア通路とを有する」点は甲第1号証(又は甲第5号証)、甲第9号証(又は甲第10号証)及び周知慣用技術(甲第1号証ないし甲第15号証により例示。)のいずれにも記載されていない。また、甲第1号証(又は甲第5号証)、甲第9号証(又は甲第10号証)及び周知慣用技術(甲第1号証ないし甲第15号証により例示。)には、本件特許発明1の課題は示されておらず、これらを組み合わせて本件特許発明1を得ようとする動機付けは存在しない。しかも、仮に組み合わせたとしても、本件特許発明1を得ることはできない。
また、本件特許発明1に従属する本件特許発明4が甲第1号証(又は甲第5号証)、甲第9号証(又は甲第10号証)及び周知慣用技術(甲第1号証ないし甲第15号証により例示。)に対して進歩性を有することは明らかであり、請求人が主張する周知技術(甲第16号証ないし甲第19号証により例示。)によっても本件特許発明4を容易に想到し得たものではない。
さらに、本件特許発明1に従属する本件特許発明2、3及び5ないし7も甲各号証に記載された発明に対して進歩性を有することは明らかである。
よって、請求人の主張には理由がない。


3.無効理由2に係る主張の概要

(1)明確性要件違反の主張に対する反論(答弁書第17ページ第14行ないし第22ページ第1行)
(ア)「グリップ部材」について
請求人は、「『グリップ』なる用語の意義が不明である」と主張する。
しかし、本件特許明細書の記載(たとえば、段落【0002】における「穴の内周面に係合」)の記載を参酌すれば、「穴の内周面をグリップ可能」なる用語の意義は、「穴の内周面に係合可能」であること明白である。
特許法第36条第6項第2号の「明確性要件」について、知財高裁平成21年7月29日判決「平成20(行ケ)10237」号事件では、次のとおり判示する。
「このような本件特許明細書の詳細な説明の記載を参酌すると、請求項17における「前記各表示列の図柄の配置は、前記各メインリ-ル毎に異なる種類の図柄と対応やけられている」との記載事項については、「図柄」が「図柄」に対応付けられているとの意味であると理解することができるから、特許を受けようとする発明が不明確であるとはいえない。」
すなわち、用語の明確性は、明細書の詳細な説明を参酌して判断されるものであり、請求項の記載のみに基づくものではないので、請求人の主張は失当である。
次に、請求人は、「グリップ部材は、穴の内周面に挿入されるだけで当該穴の内周面をグリップ可能と言えるものではなく、そもそも、上記グリップ部材が如何なる構成によって穴の内周面をグリップ可能であるのかが不明である」と主張する。
しかし、本件特許発明1は、「グリップ部材に内嵌係合させたテ-パ軸部を有するクランプロッド」を備え(構成要件A)、「前記流体圧シリンダによりクランプロットを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワ-クを着座面に着座」させる(構成要件C)ものであるから、グリップ部材が拡径して穴の内周面に係合するということも明白である。
さらに、本件特許明細書の段落【0002】では、本件特許発明1の背景技術として、「ワ-クの穴にグリップ部材と、このグリップ部材に挿入されたテ-パ軸部を有するクランプロットを挿入し、クランプロットを着座面側へ引き付けることで、テ-パ軸部によりグリップ爪を拡径させて穴の内周面に係合させてから、そのグリップ部材を更に着座面側へ引き付けることで、ワ-クを着座面に固定する」ことを説明している。この点からも、本件特許発明1において、グリップ部材が拡径して穴の内周面に係合することは明らかである。
したがって、「グリップ部材」に関する請求人の主張には、理由がない。
(イ)「クランプロッド」と「グリップ部材」との関係について
請求人は、「クランプロッドとグリップ部材とが相対的に移動するのかしないのかが特定されていない」と主張する。
しかし、本件特許発明1のクランプロットは「グリップ部材に内嵌係合させたテ-パ軸部」を有しており(構成要件A)、上述のとおり、クランプロットを介して駆動される「グリップ部材」が拡径して穴の内周面に係合するのであるから、本件特許発明1において「クランプロッド」と「グリップ部材」とは軸心方向に相対移動し、その結果としてグリップ部材が拡径すること明白である。
また、請求人は、「テ-パ軸部のテ-パ面が狭まる方向も特定されていない」とも主張する。
しかし、本件特許発明1においては、「テ-パ軸部」が「グリップ部材」を拡径させることは明らかであり、後述のとおり、クランプロットとグリップ部材とが同じ方向(クランプ方向)に駆動されることも明らかであるから、クランプ方向(上部本体部材から下部本体部材に向かう方向)に向かって狭まる形状を有すること明白である。
したがって、「クランプロッド」と「グリップ部材」との関係に関する請求人の主張には、理由がない。
(ウ)「流体圧シリンダ」について
請求人は、「流体圧シリンダが、グリップ部材とクランプロットとの両者を同じ方向へ駆動するのか、それとも、異なる方向へ駆動するのかが不明」であると主張する。また、請求人は、「流体圧シリンダが、上記の両者を直接に駆動するのか、それとも、上記両者のうちの一方を介して他方を間接的に駆動するのかも不明」とも主張する。
他方で、請求人は、構成要件Cの規定によれば、「流体圧シリンダは、クランプロットを介してグリップ部材を同じ方向へ間接的に駆動するように構成されているように解される」と説明する。
請求人の上記主張は、意味不明である。流体圧シリンダは、クランプロットを介してグリップ部材を同じ方向(クランプ方向)へ間接的に駆動するものであることは明らかであり、この点は、請求人も認めている。
請求人は、「同じ方向へ駆動されるクランプロットとグリップ部材とが如何にしてクランプカを発生するのかが不明である」と主張する。
しかし、本件特許発明1においては、「グリップ部材に内嵌係合させたテ-パ軸部」を有するクランプロットとグリップ部材とがともにクランプ方向に駆動されながら両者の間に軸方向の相対移動が生じ、その結果としてグリップ部材が拡径してワ-クの穴の内湖面をグリップし、その状態でグリップ部材をクランプ方向へ駆動してクランプカを発生させていること明白である。
したがって、「流体圧シリンダ」に関する請求人の主張には、理由がない。
(エ)「クランプ不良」について
請求人は、「流体圧シリンダによって駆動されるグリップ部材がワ-クに係合してその係合状態で当該ワ-クを強制的に着座面に着座させるのか、それとも、上記グリップ部材がワ-クに係合せずにその非係合状態でグリップ部材とは別の何らかの力が上記ワ-クを着座面に着座させるのかが不明である」と主張する。
しかし、請求人の主張は、本件特許明細書における発明の詳細な説明の記載を無視したものであるから失当というほかない。
この点、本件特許発明1の「グリップ部材をクランプ方向へ駆動してワ-クを着座面に着座させ」なる構成(構成要件C)について、本件特許明細書の段落【0005】及び【0006】においてグリップ部材のスリップの課題を指摘し、同段落【0007】において「本発明の目的は、ワ-クを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を確実に検出可能なクランプ装置を提供すること」と説明している。
さらに、本件特許明細書の段落【0022】では、「クランプ不良は、クランプカが十分発生していないようなクランプ状態を含む」と定義している。
したがって、本件特許明細書の記載を参酌すれば、請求人の上記主張における前者の状態(流体圧シリンダによって駆動されるグリップ部材がワ-クに係合してその係合状態で当該ワ-クを強制的に着座面に着座させる状態)であってワ-クをクランプする力が十分である状態が正規のクランプ状態を意味し、後者の状態(上記グリップ部材がフ-グに係合せずにその非係合状態でグリップ部材とは別の何らかの力が上記ワ-クを着座面に着座させる状態)や、前者の状態であってもワ-クをクランプする力が十分でない状態が「クランプ不良」の状態であることは明らかである。
したがって、「クランプ不良」に関する請求人の主張には、理由がない。
(オ)「連動部材」について
請求人は、「構成要件Dの規定によれば、クランプ部材と一体的に移動する部材の全てが連動部材に該当することになるため、上記クランプ部材の一部としてのグリップ部材も連動部材に該当することになる」などととした上で、「そうだとすれば、構成要件Eの規定に矛盾が生じる。」旨主張する。
しかし、「構成要件Dの規定によれば、クランプ部材と一体的に移動する部材の全てが連動部材に該当する」との前提自体が、意味不明である。よって、請求人の上記主張は、全く的外れであるというほかない。
請求人は、さらに、「クランプ部材と連動部材との両部材が別の部材であると解した場合には、上記の両部材は、『一体的に・・・移動する』のであるから、別の部材で構成する必要がなく、明らかに矛盾する。従って、上記定義のうちの『一体的に・・・移動する』とは、どのような状態で移動するのか全く不明である。即ち、上記クランプ部材と連動部材との両部材が常に合体した状態で相対移動なしで移動するのか、それとも、上記の両部材同士が相対的に移動することがあり得るのかが不明である。」などとも主張する。
しかし、「不明である」との請求人の上記主張の趣旨こそが「不明である」といわなければならない。「上記クランプ部材と連動部材との両部材が常に合体した状態で相対移動なしで移動するのか、それとも、上記の両部材同士が相対的に移動することかあり得るのか」ということが、本件特許発明1の明確性とどのように関係するのかが不明である。
本件特許発明1の連動部材は、クランプ部材と一体的に流体圧シリンダの軸心方向に移動する(構成要件D)。したがって、クランプ部材の軸心方向の移動量が大きければ連動部材の移動量が大きくなることは明白である。そして、「クランプ不良検出手段」(構成要件C)の具体的構成として、「クランプ部材がクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに」連動部材により弁機構が開弁操作され(構成要件E)、クランプ不良が検出されるものである。このように、本件特許発明1では、簡単な構成でクランプ不良を確実に検出するという課題を解決するための手段を具体的に特定しており、当該発明は明確である。
上記と同様に、「連動部材と、その連動部材を駆動する流体圧シリンダとの関係も不明確である」との請求人の主張も、発明の明確性要件と何ら関係のない指摘であり、的外れというほかない。
したがって、「連動部材」に関する請求人の主張には、理由がない。

(2)サポ-ト要件違反の主張に対する反論(答弁書第22ページ第2行ないし第9行)
請求人は、サポ-ト要件違反について綾々主張する。
請求人の主張は、明確性要件違反の主張における「不明である」との部分を前提とするものである。しかし、請求人が「不明である」とする各事項は、本件特許請求の範囲の記載ないし本件特許明細書の記載から明らかな事項である。よって、サポ-ト要件違反に関する請求人の主張は、「不明である」との前提において誤りであり、失当というほかない。

(3)無効理由2に係る主張の概要のまとめ
上記(1)及び(2)の内容をまとめると被請求人の主張は概ね以下のようになる。
本件特許発明1における「グリップ部材」、「クランプロッド」と上記「グリップ部材」との関係、「流体圧シリンダ」、「クランプ不良」及び「連動部材」は本件特許明細書における発明の詳細な説明を参酌すれば、その意味は明確であり、かつ、本件特許明細書における発明の詳細な説明の段落【0002】、【0005】ないし【0007】、【0022】、【0038】、【0054】及び【0055】等の記載によりサポートされている。
よって、請求人の主張には理由がない。




第5 無効理由1に対する当審の判断
無効理由1について、当審では、まず、本件特許発明1が甲第1号証(又は甲第5号証)に記載された発明、甲第9号証(又は甲第10号証)に記載された発明及び周知慣用技術(甲第1号証ないし甲第15号証により例示。)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるかについての検討(以下、「本件特許発明1についての進歩性の検討」という。)を行い、次に、本件特許発明2ないし7についても同様に特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるかについての検討(以下、「本件特許発明2ないし7についての進歩性の検討」という。)を行う。


第5-1 本件特許発明1についての進歩性の検討

1.甲第1号証ないし甲第23号証の記載事項
甲各号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(1)甲第1号証に記載された事項
ア.「【0021】
図1?図3に示すように、クランプ装置1は、クランプ本体3と、このクランプ本体3に進退自在に装備されたプルロッド4と、プルロッド4の先端側部分に摺動可能に外嵌された3つの係合部材30と、プルロッド4を下方へクランプ駆動する油圧シリンダ5等を備えている。
【0022】
クランプ本体3は、上部本体10と、この上部本体10の下端に4本のボルト12で連結された下部本体11とを有し、クランプ本体3は、ボルト穴13に挿通される4本のボルト(図示略)によりベース体14に固定される。上部本体10の上端部には、ワーク2を受け止める受止面15が形成されており、受止面15には、図示外のエア供給源からエア通路16,17を介して着座確認用の加圧エアが供給される。上部本体10の中央部には、ワーク2を位置決めする為の位置決め孔18が上下貫通状に形成されている。さらに、上部本体10の内部には、位置決め孔18の下端に連なり係合部材30の基部30cを収容する収容穴19と、この収容穴19の下端に連なり後述の筒状支持部材32の上端壁部32aを収容する収容穴20とが、上下に直列状に形成されている。
【0023】
下部本体11は、上部本体10に連結されるフランジ部11aと、このフランジ部11aの下端から下方へ延びる筒状部11bとを一体形成したものであり、筒状部11bはベース体14に内嵌されている。フランジ部11aの上端部の中央部には、収容穴20の下半部に内嵌される環状突出部21が形成されている。フランジ部11aの内部には、収容穴20の下端に連なり後述の筒状支持部材32の筒部32bを収容する収容穴22が設けられ、筒状部11bの内部には、収容穴22の下端に連なる油圧シリンダ5のシリンダ穴23が形成されている。従って、クランプ本体3の内部において、位置決め孔18、収容穴19, 20, 22、シリンダ穴23が夫々上下に直列状に形成されている。筒状部11bの下端部には、シリンダ穴23を下方から閉塞する端壁部材24が螺合されている。この
端壁部材24には、エアブロー用の加圧エアを導入する為のエア導入孔25が設けられている。」(段落【0021】ないし【0023】)

イ.「【0029】
ところで、3つの係合部材30は、収容穴20,22に上下摺動自在に収容され基部30cの下端に当接する筒状支持部材32により下方から支持されている。つまり、3つの係合部材30は、下方(プルロッド4の退入方向)に移動可能に構成されている。
筒状支持部材32は、基部30cに下方から当接する上端壁部32aと、この上端壁部32aから下方へ延びる筒状部32bとを一体形成したものである。上端壁部32aは収容穴20に上下摺動自在に収容され、上端壁部32aの外周部は筒状部32bよりも外周側に突出しており、環状突出部16により筒状支持部材32の所定以上の下方への移動が規制される。さらに、上端壁部32aの中央部には、プルロッド4を挿通する為の挿通穴32cが形成されている。筒状部32bは、収容穴22に上下摺動自在に収容されており、筒状部32bと収容穴22との間にはシール部材33も装着されている。」(段落【0029】)

ウ.「【0035】
次に、クランプ装置1の作用について説明する。
ワーク2を固定する場合には、図1に示すように、まず、ワーク2の係合穴2aに、プルロッド4のテーパ部4aと係合部材30のクランプ係合部30aを下方から挿入するとともに、ワーク2を受止面15に当接させてワーク2を所定の位置にセットする。次に、エア導入孔25から加圧エアをスプリング収容室48内へ導入しておく。導入された加圧エアは、ピストン部4dを通過し、さらにエア通路49を通って、3つの係合部材30の間の隙間から上方へ噴出する。
【0036】
この状態で環状油室41に油圧が供給されると、図3に示すように、筒状支持部材32が上方へ付勢されるとともに、環状油室41にピストン部材40を下方へ駆動するクランプ力が発生する。ここで、プルロッド4のピストン部4dがスプリング47により上方へ付勢され、さらに、ピストン部4dはピストン部材40と係合しているため、そのクランプ力によりプルロッド4が下方へ駆動される。
【0037】
3つの係合部材30が筒状支持部材32を介して上方へ付勢されている状態で、プルロッド4が下方へ駆動されると、3つの平面部からなるテーパ部4aが3つの係合部材30の各々のクランプ係合部30aに対して相対的に下方へ移動してから、テーパ部4aが各々のクランプ係合部30aのテーパ係合部30dに係合し、クランプ係合部30aがバネ部材31の付勢力に抗して径拡大側へ変位して係合穴2aに内嵌係合する。このとき、テーパ部4aが3つの平面部からなるので、テーパ部4aからテーパ係合部30dにクランプ力が作用する面積が大きくなり、テーパ係合部30dに局所的に大きな力が作用するのを防止できる。ここで、筒状支持部材32は、クランプ本体3に対して上下方向に移動可能に構成されているので、クランプ係合部30aはテーパ部4aにより下方へわずかに押し下げられつつ係合穴2aに係合し、ワーク2が受止面15に引きつけられて上下方向に位置決めされて固定される。」(段落【0035】ないし【0037】)

(2)甲第2号証に記載された事項
ア.「【0127】
〔第6実施形態〕
図15は、第6実施形態のクランプ装置の立面断面図であって、図12に類似する図である。この第6実施形態は、前記第4実施形態の変形例として構成されている。本実施形態が前記第4実施形態と異なる主要な点は、前記スリーブ55を後記の押上ピストン76によって進出させる構成としている点である。
【0128】
具体的に説明する。前記ハウジング9の筒孔の上部に、環状の押上ピストン76が保密状に挿入される。この押上ピストン76は、前記ピストン22の上部に保密状に嵌合されると共に、前記スリーブ55に下側から接当可能に構成される。
【0129】
この押上ピストン76と前記ピストン22との間には、作動室77が形成される。この作動室77は、前述したロック用の油圧室53に連通されている。
【0130】
また、前記のスリーブ55の前記鍔部69の下面には、合成樹脂製のリップ84を装着している。このリップ84は、前記ハウジング9の上面に保密状に接触して、異物等が前記貫通孔9bを介して前記ハウジング9内に侵入するのを防止している。
【0131】
以上の構成において、前記ロック作動時に上記ロック用の油圧室53に圧油を供給すると、その圧油供給の開始時から前半期には、上記の作動室77から上記の押上ピストン76に作用する上向きの油圧力が、その押上ピストン76と前記スリーブ55の前記鍔部69を介して、前記の複数の外係合具78を上方の進出位置へ保持する。この状態では、前
記スリーブ55の前記鍔部69上に乗った状態の前記パレット2の前記被支持面2aと、前記支持面9aとの間には、前記隙間G1が形成されている。従って、前記検出ノズル孔59に圧縮空気を供給しても、その隙間G1を介して空気が漏れるので、上記の検出ノズル孔59の圧力は上昇しない。
【0132】
そして、上記の圧油供給の後半期には、上記のピストン22の大面積に作用する大きな油圧力が、上記の押上ピストン76に作用する上向き力に抗して、前記ピストンロッド23を介して前記の複数の外係合具78を強力に拡径させながら下降させる。従って、前記パレット2も下方に引っ張られ、前記被支持面2aが前記支持面9aに接当する(即ち、前記隙間G1が消失する)。この状態では、前記検出ノズル孔59に圧縮空気を供給した場合、その圧力は上昇する。
【0133】
なお、この第6実施形態では、上記の複数の外係合具78は、上記スリーブ55と上記の押上ピストン76と上記の作動室77の圧油とを介して、前記ハウジング9に支持されることになる。
【0134】
本実施形態では、前記の隙間維持部材Kには、前記押上ピストン76が該当する。即ち、前記の隙間維持部材Kは、圧力流体(本実施形態においては、圧油)で駆動されるピストンとして構成されている。従って、アンクランプ状態において、前記被支持面2aと前記支持面9aとの間に前記隙間G1を形成させるために前記パレット2を前記ベースプレート1から離間させる方向に作用させる押上げ力を、この圧油の圧力を調整することで容易に変更することができる。」(段落【0127】ないし【0134】)

(3)甲第3号証に記載された事項
ア.「[0033]前記ハウジング15内に出力部材48が上下移動自在に挿入される。その出力部材48は、ハウジング15の下部のシリンダ孔49に保密状に挿入したピストン50と、そのピストン50から上向きに突出されると共にロッド孔51に保密状に挿入されたピストンロッド52と、そのピストンロッド52にネジ止めした連結ロッド53とを備える。前記の剛性スリーブ21の筒孔21aに上記の連結ロッド53が挿入される。その連結ロッド53の上フランジ56と上記の連結ロッド53の頭部54との間に、前記クランプ具33の上フランジ57が半径方向へ摺動可能に嵌合されている。
[0034]図2Aに示すように、上記ハウジング15内には、駆動手段Dを構成するロック手段61およびリリース手段62が設けられる。そのロック手段61は、上記ピストン50と、そのピストン50の上側に形成したロック室63とによって構成される。そのロック室63がロック用の圧油給排口64へ連通される。また、上記リリース手段62は、上記ピストン50と、そのピストン50の下側に形成したリリース室66とによって構成される。そのリリース室56にリリース用の圧油給排口67が連通される。
なお、ロック用給排路69の縦路には絞りピン70が嵌合され、その嵌合隙間によって絞り路を構成している。」(明細書第10ページ第15行ないし第11ページ第1行)

イ.「[0043]上記の各クランプ装置11・12・13は、ほぼ同様に、次のように作動する。
上記の図2Aと図3Aのリリース状態では、ロック室63の圧油を排出すると共にリリース室66へ圧油を供給している。これにより、ピストン50が連結ロッド53を介して環状クランプ具33を上昇させ、そのクランプ具33が縮径状態へ切り換えられている。剛性スリーブ21は、進出手段としての弾性部材45によって進出ストロークだけ上昇して、上記クランプ具33に軽くテーパ係合するか又は上記クランプ具33に僅かな隙間をあけて対面している。
[0044]基準ブロック1にワークパレット2を位置決めするときには、まず、図1と図2A(及び図3A)に示すように、上記リリース状態でワークパレット2を下降させてソケット孔3を上記クランプ具33に外嵌させ,そのワークパレット2を剛性スリーブ21のフランジ部28によって受け止める。この状態では、支持面1aと被支持面2aとの間には前記の着座隙間Eが形成されている。また、図3Aに示すように、テーパ内面23とテーパ外面27との間には前記ロック隙間Fが形成され、ピストンロッド52の上端面と剛性スリーブ21の下端面との間には微小な接当隙間N1が形成されている。
なお、上記のようにロック隙間Fを設けたので、ワークパレット2のソケット孔3を上記クランプ具33に嵌合させるときに、そのソケット孔3の軸心と剛性スリーブ21の軸心との心ズレを許容できる。
[0045]次いで、前記リリース室66の圧油を排出すると共に前記ロック室63へ圧油を供給する。すると、ピストン50が連結ロッド53を介してクランプ具33を下降させ、そのクランプ具33の前記テーパ内周面34が剛性スリーブ21のテーパ外周面30に楔係合していく。
[0046]これにより、図3Bに示すように、前記の弾性部材45の付勢力によってほぼ上昇位置に保持された剛性スリーブ21に対してクランプ具33が拡径して前記のソケット孔3に接当する。この図3Bのロック開始状態では、ピストンロッド52の上端面と剛性スリーブ21の下端面との間には、図3Aの前記の接当隙間N1よりも大きい接当隙間N2が形成されている。
[0047]次いで、図4Aに示すように、そのクランプ具33が、剛性スリーブ21を介して弾性部材45を下方へ圧縮しながら拡径して上記ソケット孔3に密着する。これとほぼ同時に、前記ワークパレット2の被支持面2aが前記の基準ブロック1の前記の支持面1aに接当する。そして、この図4Aのロック途中状態では、前記ストッパー47の上方に、前記の図3Bの着座隙間Eに相当する下降ストロークM1が形成され、ピストンロッド52の上端面と剛性スリーブ21の下端面との間には、前記の図3Bの接当隙間N2よりも少し大きい接当隙間N3が形成されている。
[0048]引き続いて、図4Bに示すように、上記ソケット孔3の内周面に対して上記クランプ具33が下方へ摺動しながら移動して、そのクランプ具33が前記の弾性部材45を圧縮しながら剛性スリーブ21をさらに下降させていく。そして、その剛性スリーブ21が前記の進出ストロークに相当する下降ストロークM2だけ下降したときに、上記の剛性スリーブ21のテーパ面27が中心孔20のテーパ内面23にテーパ係合する。
これにより、上記の剛性スリーブ21は、上記テーパ係合を介して、半径方向(水平方向)および軸心方向(上下方向)方向で基準ブロック1に拘束される。そして、ワークパレット2は、上記の拘束状態の剛性スリーブ21とソケット孔3に密着したクランプ具33とを介して前記ハウジング15に水平方向に位置決めされる。
[0049]これとほぼ同時に、上記の剛性スリーブ21に対して出力部材48がさらに下降駆動されることにより、上記ハウジング15に受け止められた剛性スリーブ21のテーパ外周面30にクランプ具33のテーパ内周面34が強力に楔係合して拡径して、そのクランプ具33のストレート外周面35が前記ソケット孔3に強力に密着する。そして、連結ロッド53が上記の強力に密着したクランプ具33を介して前記ワークパレット2の被支持面2aを前記の基準ブロック1の支持面1aに強力に押圧する。
[0050]上記の図4Bのロック終了状態では、上記の剛性スリーブ21のテーパ面27が中心孔20のテーパ内面23にテーパ係合することにより、ロック確認用エアー供給口76の圧力が上昇し、その圧力上昇を検出することにより、ロック状態であることを確認できる。また、被支持面2aが支持面1aに接当することにより、検出孔74の圧力が上昇し、その圧力上昇を検出することにより、ワークパレット2が着座していることを確認できる。
[0051]なお、前記図3Aのリリース状態および図3Bのロック開始時において、上記の支持面1aと上記の被支持面2aとがほぼ完全に接当するようにしてもよい。この場合、そのロック移動時にクランプ具33が次のように作動する。
クランプ具33は、上記ソケット孔3に密着した後、そのソケット孔3に対して摺動しながら下降していく。そして、前述したように、剛性スリーブ21のテーパ面27がテーパ内面23にテーパ係合したときに、クランプ具33がソケット孔3に強力に密着し、そのクランプ具33が上記ワークパレット2を上記の基準ブロック1へ強力に押圧する。
[0052]上記の第1クランプ装置11と第2クランプ装置12の作動と同時に、ロック機能だけを備えた前記二つの第3クランプ装置13・13が上記クランプ具33を介して上記ワークパレット2を前記の基準ブロック1に強力に固定するのである。
上記ロック状態から前記リリース状態へ切り換えるときには、前述したように前記ロック室63の圧油を排出すると共に前記リリース室66へ圧油を供給すればよい。これにより、ピストン50が連結ロッド53を介してクランプ具33を上昇させて、そのクランプ具33が自己の弾性復元力によって縮径するので、前記ロック状態が解除される。
なお、上記リリース駆動時には、図3Aに示す前記の接当隙間N1を無くして、ピストンロッド52が剛性スリーブ21を強制的に押し上げるようにしてもよい。(明細書第13ページ第5行ないし第15ページ第18行)

(4)甲第4号証に記載された事項
ア.「【0033】
前記ハウジング8の上面には、周方向へ間隔をあけて4つの支持ロッド48が圧入される。上記の各支持ロッド48の上面に設けた支持面Sが前記ワークパレット2の前記の被支持面2aを受け止めるようになっている。ここでは、上記の各支持ロッド48は、前記のガイドピン43の突出方向に対応する位相に配置されている。そして、前記プルロッド18は上記の支持面Sよりも上方へ突出されている。」(段落【0033】)

イ.「【0051】
図10は、本発明の第6実施形態を示し、前記の図1Aに類似する図である。
この第6実施形態は、前記の図1Aの構造と比べて次の構造が異なる。
前記の内係合具38の下半部にスリーブ79が保密状に外嵌され、そのスリーブ79が前記ハウジング8に対して半径方向へ相対移動可能とされている。上記スリーブ79の上部外周と上記ハウジング8の上面との間に合成樹脂製のリップ80を装着してある。
さらに、前記の押圧手段41が次のように構成される。前記のハウジング8の上部と前記の駆動ピストン11の上部との間に、押上げピストン83が保密状に挿入される。上記の押上げピストン83の下側の作動室84に前記ロック室13が連通される。
【0052】
前記ロック作動時に上記ロック室13に圧油を供給すると、その圧油供給の開始時から前半期には、上記の作動室84から上記の押上げピストン83に作用する上向きの油圧力が、その押上げピストン83と前記スリーブ79とを介して前記の内係合具38を上方の進出位置へ保持する。そして、上記の圧油供給の後半期には、上記の駆動ピストン11の大面積に作用する大きな油圧力が、上記の押上げピストン83に作用する上向き力に抗して、前記プルロッド18を介して前記の複数の外係合具39を強力に拡径下降させるのである。
なお、この第6実施形態では、上記の内係合具38は、上記スリーブ79と上記の押上げピストン83と上記の作動室84の圧油とを介して前記のハウジング8に支持されることになる。」(段落【0051】及び【0052】)

(5)甲第5号証に記載された事項
ア.「【0015】図1、図2、図4に示すように、クランプ装置2は、ワーク1の立向き穴1bに解除可能に係合してワーク1を固定するものである。クランプ装置2は、クランプ本体3と、このクランプ本体3に昇降自在且つ上方へ突出状に装着されたプルロッド4と、このプルロッド4の上端部分に設けられ上方程大径化するテーパーロッド部4aと、このテーパーロッド部4aに外嵌され径拡大側に弾性変形可能なコレット部5aを有し且つプルロッド4の上半部に摺動可能に外嵌されたコレット部材5と、コレット部材5を下方から支持する環状のコレット支持部材6と、コレット支持部材6を上方へ付勢するとともにプルロッド4を下方へ駆動する油圧シリンダ7と、プルロッド4を上方へ弾性付勢するクランプ解除用のスプリング8と、加圧エアをコレット部5aの先端から噴出させるエアブロー機構9とを備えている。
【0016】図2に示すように、クランプ本体3には4つのボルト穴10が形成され、これらボルト穴10にボルト(図示略)が挿通されて、クランプ本体3はワーク固定台に固定される。クランプ本体3の上端には、ワーク1を受止める環状のワーク受け面3aも形成されている。クランプ本体3の内部には、上方から順に、コレット部材5の環状部5bを収容する為の収容穴11、収容穴11よりもやや大径でコレット支持部材6を収容する為の収容穴12、油圧シリンダ7のシリンダ穴13が直列状に形成されている。クランプ本体3の下端部には上側の筒状部14aを有する端壁部材14がシリンダ穴13を下方から閉塞するように螺合され、クランプ本体3と端壁部材14との間にはシール部材15も装着されている。」(段落【0015】ないし【0016】)

イ.「【0021】油圧シリンダ7は、シリンダ穴13と、このシリンダ穴13に摺動自在に内嵌されプルロッド4を下方へ駆動可能なピストン部材30と、シリンダ穴13とピストン部材30とコレット支持部材6とで形成された環状油室31とを有する。ピストン部材30は、コレット支持部材6に摺動自在に内嵌された上半部の小径筒部30aと、シリンダ穴13に摺動自在に内嵌された下半部の大径筒部30bとを一体形成したものである。大径筒部30bは、収容穴12とシリンダ穴13との間の段部により上方への移動をその上限位置で規制されている。コレット支持部材6と小径筒部30aとの間及びシリンダ穴13と大径筒部30bとの間にはシール部材32,33が夫々装着されている。」(段落【0021】)

ウ.「【0023】ピストン収容部35と大径部36との間に形成された段部において、ピストン部材30にスプリング38が当接し、ピストン部材30はスプリング38により上方へ弾性付勢されている。環状油室31は、クランプ本体3に形成された油圧ポート39を介して油圧供給源(図示略)と接続されており、油圧供給源から環状油室31に油圧が供給されると、コレット支持部材6の下端に油圧が作用してコレット支持部材6は上方へ付勢される。一方、図1、図4に示すように、大径筒部30bの上端面の面積は、コレット支持部材6の下端面の面積よりも大きい。つまり、環状油室31におけるピストン部材30の受圧面積は、コレット支持部材6の受圧面積よりも大きく設定されている。従って、環状油室31に油圧が供給されたときに、前記の受圧面積の差により、環状油室31にはピストン部材30を介してプルロッド4を下方へ駆動するクランプ力が発生する。
【0024】尚、図1に示すように、環状油室31から油圧を抜いてワーク1の固定を解除した状態では、ピストン部材30はスプリング38により上方へ弾性付勢されているため、ピストン部材30の上端がコレット支持部材6の上端壁部6aの下端に当接し、コレット部材5がその上限位置まで押し上げられた状態となる。」(段落【0023】及び【0024】)

エ.「【0027】次に、クランプ装置2の作用について説明する。ワーク1を固定する場合には、図1に示すように、先ず、ワーク1の立向き穴1bにテーパーロッド部4aとコレット部5aの上半部を下方から挿入するとともに、ワーク1をワーク受け面3aに当接させる。次に、エアブロー機構9により、エアポート41より加圧エアをスプリング収容室40に供給して、この加圧エアをエア通路16,37,20を介してコレット部5aから噴出させておく。
【0028】この状態で環状油室31に油圧が供給されると、図4に示すように、コレット支持部材6が上方へ付勢されるとともに、環状油室31におけるピストン部材30とコレット支持部材6の受圧面積の差に応じて、ピストン部材30を下方へ駆動するクランプ力が発生する。ここで、プルロッド4のピストン部4bがスプリング8により上方へ弾性付勢されており、さらに、プルロッド4はピストン部材30と係合しているため、プルロッド4も下方へ駆動されることになる。ここで、エアブロー用の加圧エアはプルロッド4の下方のスプリング収容室40に供給されて、加圧エアのエア圧はプルロッド4を上方へ駆動する方向に作用するので、エア圧によりプルロッド4が下降してワーク1が固定されることはない。
【0029】コレット部材5がコレット支持部材6を介して上方へ付勢されている状態で、プルロッド4が下方へ駆動されると、テーパーロッド部4aがコレット部5aに対して相対的に下方へ移動し、テーパーロッド部4aによりコレット部5aが径拡大側へ弾性変形して係合部5dが立向き穴1bと係合する。ここで、コレット部5aはテーパーロッド部4aにより下方へ僅かに押し下げられつつ立向き穴1bに係合するので、ワーク1はワーク受け面3aに引きつけられて確実に固定される。その後、加圧エアのスプリング収容室40への供給を停止する。」(段落【0027】ないし【0029】)

(6)甲第6号証に記載された事項
ア.「【0040】図9は、第3実施形態を示し、上述した第2実施形態の図6に相当する図である。この図9の装置が上記の図6の装置と異なる点は、その図6中の押圧バネ27及び環状プレート28に代えて押上げピストン60を設けて、その押上げピストン60と押上げ室61とによって前記サポート手段29を構成したことにある。
【0041】より詳しくいえば、上記の図9では、第1ポートPから上昇作動室53へ供給された低圧の圧油によって昇降部材51が上昇されて、前記コレット13の係合具14がワークピース1の係合孔2へ挿入されている。そして、図6の第2実施形態と同様に、上記の上昇作動室53の圧力が設定圧以上になると、クランプ用のピストン17の閉止突起55がクランプ作動室19の上壁から離間する。すると、上記クランプ作動室19内の圧油が前記の押上げ室61へ流入して押上げピストン60を上昇位置に保持し、その押上げピストン60がコレット13を所定の力で支持する。
【0042】次いで、上記クランプ作動室19の油圧力によって上記のクランプ用のピストン17が下降駆動されることにより、上記の上昇位置のコレット13に対して前記プルロッド12が下降駆動されていく。すると、上記コレット13の係合具14が係合孔2に係合すると共に、上記プルロッド12の下降駆動力によって上記コレット13が上記の押上げピストン60の上向き支持力に抗して僅かに下降する。これにより、上記プルロッド12の下降駆動力が上記の係合具14を経てワークピース1へ伝達される。」(段落【0040】ないし【0042】)

(7)甲第7号証に記載された事項
ア.「【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記の図6及び図7による方法はいずれもベアリングに偏荷重がかかるため大きな力を与えられず、小さい力をしかも位置を変えながら与えてベアリングを外方へ僅かづつ移動させるため、かなりの時間を要する。しかも目打ち棒又はロッドにより部材2、2aに傷が付くのを避けられない。これを解決する方法として特公昭62-22750号公報が開示されている。このベアリング抜き取り工具はコレットをボルトで開かせ、このボルトを分銅で叩いてベアリングを抜くもので、例えば全閉型電動機のモータケースの場合はベアリングの中心穴内周とコレット先端部の摩擦力に依存するために滑りを生じたりして確実性を欠く。また、実公平1-41572号公報に示されるものは、とくに自転車用ハブに組み込まれたベアリングを抜く工具で、二つ割の胴体を抜き出す方向と反対の側から棒状体で叩く方法で、前記のモータケースの場合には適用できない。さらに特公平2-17306号公報に示されるものは、ベアリングの中心穴を貫通するねじ棒、ベアリングの片側に油圧ラムのプランジと押圧子、他側に受圧子を設けるもので、上記のモータケースの場合には適用できない。」(段落【0003】)

(8)甲第8号証に記載された事項
ア.「【請求項2】 前記鋳鉄管の管体内面に対する前記チャッキング爪の把持作用力を、前記管体のチャッキング部分が前記金型の端部から抜け出るまでは、チャッキング爪がスリップしない程度の低い作用力となし、前記管体のチャッキング部分が前記金型の端部から抜け出た後は、高い作用力となすことを特徴とする、請求項1に記載の遠心鋳造機における鋳鉄管の引抜き方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項2】)

イ.「【0008】一方、鋳鉄管9が変形しないように、管体内面に対するチャッキング爪14,14の把持作用力を小さくすると、管体内面に接触しているチャッキング爪14,14が、引抜きの際にスリップして、管体内面にチャッキング爪14,14の引っ掻き疵が発生し、製品不良となる問題が生ずる。」(段落【0008】)

ウ.「【0021】上述のようにして、1対のチャッキング爪22a,22bにより鋳鉄管9の管体内面を把持し、管体を金型8から引抜くに際し、この発明においては、エアシリンダー18,18によるチャッキング爪22a,22bの把持作用力を制御する。即ち、図4(a)に示すように、チャッキング爪22a,22bが鋳鉄管9の管体内面に接触してこれを把持し、管体のチャッキング部分が金型8の端部から抜け出るまでは、チャッキング爪22a,22bを、スリップしない程度の比較的低い作用力で管体内面に接触させ、次いで、図4(b)に示すように、チャッキング爪22a,22bによる管体チャッキング部分が金型8の端部から抜け出た後は、管体内面に対するチャッキング爪22a,22bの把持作用力を高めて、金型8から鋳鉄管9を引抜く。」(段落【0021】)

(9)甲第9号証に記載された事項
ア.「【0029】上記構成の動作検出装置51は次のように作動する。上記の検出ロッド62は、前述したクランプロッド5の移動に連動して、図2A中の実線図(および図3)の旋回退避位置Xから図2A中の太線一点鎖線図(および図4)のクランプ準備位置Yへ旋回され、その後、図2A中の二点鎖線図のクランプ位置Zへ直進される。より詳しくいえば次の通りである。
【0030】上記クランプロッド5が旋回退避状態のときには、図2A中の実線図および図3に示すように、上記の検出ロッド62が旋回退避位置Xとなり、その検出ロッド62の三つの閉止面68のうちの一つの閉止面68が前記の第2入口孔72の第2開口部72aを閉じている。これにより、前記の第2供給孔79へ供給された圧縮空気の圧力が設定圧力に保持され、その第2供給孔79に連通させた第2圧力スイッチ(図示せず)によって上記の検出ロッド62が旋回退避位置Xであることを検出している。
【0031】上記クランプ2をクランプ駆動すると、まず、上記の検出ロッド62が上記の旋回退避位置Xから底面視で反時計回りの方向へ回転しながら下降して上記クランプ準備位置Yへ切り換わろうとする。そのクランプ準備位置Yへ切り換わる前の旋回途中状態では、前記の凹所69が前記の第1入口孔71の開口部71aと底面視でオーバーラップしている。このため、前記の第1供給孔75へ供給された圧縮空気は、前記の第1入口孔71の第1開口部71aと上記の凹所69と前記の出口孔60とを経て外部へ排出される。これにより、上記の第1供給孔75の圧力が設定圧力よりも低くなり、その第1給孔75に連通させた第1圧力スイッチ(図示せず)によって上記の検出ロッド62が旋回途中状態であることを検出している。
【0032】そして、上記の検出ロッド62が上記クランプ準備位置Yへ旋回下降すると、図2A中の太線一点鎖線図および図4に示すように、前記の閉止面68の下端が前記の第1開口部71aよりも低くなって、その閉止面68が上記の第1開口部71aを閉じる。これにより、前記の第1供給孔75へ供給された圧縮空気の圧力が設定圧力に保持され、その第1給孔75に連通させた前記の第1圧力スイッチ(図示せず)によって上記の検出ロッド62がクランプ準備位置Yとなったことを検出する。
【0033】次いで、上記のクランプ準備位置Yの検出ロッド62がクランプ位置Zへ真っ直ぐに下降する。このクランプ位置Zでは、図2A中のニ点鎖線図(及び図4)に示すように、前記の閉止面68の上端が前記の第1開口部71aよりも高い状態に保持されて、上記の閉止面68が上記の第1開口部71aを閉じた状態に保持する。これにより、前記の第1供給孔75へ供給された圧縮空気の圧力が設定圧力に保持され、前記の第1圧力スイッチ(図示せず)によって上記の検出ロッド62がクランプ位置Zであることを検出する。なお、クランプ領域は、上記のクランプ準備位置Yと上記クランプ位置Zとの間であればよい。
【0034】また、被固定物であるワーク等が前記テーブル1に装着されてない状態で前記クランプ2をクランプ駆動した場合には、上記の検出ロッド62が上記クランプ位置Zよりも低い空クランプ位置Mへ下降して、図2A中の細線一点鎖線図に示すように、前記の閉止面68の上端が前記の第1開口部71aよりも低くなる。このため、前記の第1供給孔75へ供給された圧縮空気は、上記の第1開口部71aと前記の凹所69と前記の出口孔60とを経て外部へ排出される。これにより、上記の第1供給孔75の圧力が設定圧力よりも低くなり、その第1給孔75に連通させた第1圧力スイッチ(図示せず)によって上記の検出ロッド62が空クランプ位置Mであることを検出する。」(段落【0029】ないし【0034】)

イ.「【0046】上記構成の動作検出装置51は次のように作動する。前記クランプロッド5がアンクランプ状態のときには、図6および図8Aに示すように、上記の検出具62がアンクランプ位置Eとなり、その検出具62の第2閉止面89が前記の第2入口孔72の第2開口部72aを閉じている。これにより、上記の第2入口孔72へ供給された圧縮空気の圧力が設定圧力に保持され、その第2入口孔72に連通させた第2圧力スイッチ(図示せず)によって上記の検出具62がアンクランプ位置Eであることを検出している。
【0047】上記クランプロッド5を上向きにクランプ駆動すると、上記の図8Aのアンクランプ位置Eの検出具62が図8Bのクランプ位置Fへ上昇し、その検出具62の第1閉止面87が前記の第1入口孔71の第1開口部71aを閉じる。これにより、上記の第1入口孔71へ供給された圧縮空気の圧力が設定圧力に保持され、その第1入口孔71に連通させた第1圧力スイッチ(図示せず)によって上記の検出具62がクランプ位置Fであることを検出している。図8Aから図8Cにおいて、参照符号Jはクランプストロークを示し、参照符号Kは余裕ストロークを示し、参照符号Lは全ストロークを示している。
【0048】上記クランプ駆動時において、前記ワークW(図5参照)の装着ミス等によって前記アーム6(図5参照)が空クランプした場合には、上記の検出具62が図8Cの空クランプ位置Gへ上昇する。すると、その図8Cに示すように、上記の第1入口孔71の第1開口部71aが前記の第1逃し溝88に対面する。このため、その第1入口孔71へ供給された圧縮空気は、上記の第1開口部71aと上記の第1逃し溝88と前記の出口孔60(図5参照)とを経て外部へ排出される。これにより、上記の第1入口孔71の圧力が設定圧力よりも低くなり、その第1入口孔71に連通させた第1圧力スイッチ(図示せず)によって上記の検出具62が空クランプ位置Gであることを検出する。
【0049】また、同上クランプ駆動時において、何らかの原因により、上記の検出具62が図8Bのクランプ位置Fへ上昇せず、上記の第1閉止面87の上端が上記の第1開口部71aよりも低い場合には、上記の第1入口孔71へ供給された圧縮空気は、上記の第1開口部71aと前記の連通溝86と前記の出口孔60(図5参照)とを経て外部へ排出される。これにより、上記の第1入口孔71の圧力が設定圧力よりも低くなり、前記の第1圧力スイッチ(図示せず)によって上記の検出具62がクランプ位置Fではないことを検出する。
【0050】さらに、上記の検出具62を図8Bのクランプ位置Fから図8Aのアンクランプ位置Eへ移動させるときにおいて、何らかの原因により、上記の検出具62が図8Aのアンクランプ位置Eへ下降せず、前記の第2逃し溝90が前記の第2開口部72aに対面した場合には、前記の第2入口孔72へ供給された圧縮空気は、上記の第2開口部72aと上記の第2逃し溝90と前記の出口孔60(図5参照)とを経て外部へ排出される。これにより、上記の第2入口孔72の圧力が設定圧力よりも低くなり、前記の第2圧力スイッチ(図示せず)によって上記の検出具62がアンクランプ位置Eではないことを検出する。」(段落【0046】ないし【0050】)

(10)甲第10号証に記載された事項
ア.「【0015】図5は、工作物2の基準面2bと基準シート5をの間にスラッジが侵入したり、チャックの故障等により基準シート5の面から工作物2の押付面2cまでの寸法が過大(L+△S)となる場合を示しており、当金20が固定されている可動座体32が正常位置より後退し、可動座体32の後面が可動リング31の前面に密着し、その隙間 ≡_(2)は0となり、第2エアーノズル40は閉鎖される。更に、可動座体32に押されて可動リング31がスプリング35に抗して後退するので、連結軸34のフランジ面33も後退し、フランジ面33と固定座体29との間にスキマ( ≡_(1)+△s)が生じる。したがって、第1エアーノズル36が開放されてエアースイッチSW1からON信号が発信しないため、工作物取付異常を検知して、次のシーケンスサイクルは続行されない。」(段落【0015】)

イ.「【0016】図6は、工作物2の前加工不良等により基準シート5の面から工作物の押付面2cまでの寸法が過小(L-△S)となる場合を示しており、当金20が正常位置より前進するので、可動座体32も前進位置となり、可動リング31がスプリング35により最前端位置となり、連結軸34のフランジ面33と固定座体39の後面とは密着し、スキマ ≡_(1)は0となるが、可動座体32と可動リング31との間にスキマ( ≡_(2)+△s)ができる。したがって、第1エアノズル36が閉鎖されてエアースイッチSW1からはON信号が発信されるが、第2エアーノズル40が開放されているのでエアースイッチSW2からON信号が発信されないため、工作物取付異常を検知して、図5の場合と同様に次のシーケンスサイクルは停止される。」(段落【0016】)

(11)甲第11号証に記載された事項
ア.「前記、流量シリンダ22は、各作動シリンダ6の作動に必要な量に見合った容量をストッパー27により調整し、また流量計量シリンダ22のピストンロッド22aの先端には、作動シリンダ6の後退位置、クランプ位置、オーバストローク位置等にそれぞれ対応するように位置調整されそれぞれの位置を検出するリミットスイツチLS_(1)、LS_(2)、LS_(3)等から成る検出器23と当接するドッグ26が設けられている。」(第3ページ左下欄第6行ないし第14行)

(12)甲第12号証に記載された事項
ア.「検出用シリンダ5のピストンロッド5b外端に設けたドグ6と複数のリミットスイッチS_(1)、S_(2)、S′_(2)、・・・S_(3)とによって位置検出手段7が形成されている。
このうちのリミットスイッチS_(1)は、作動シリンダlの原位置となるアンクランブ位置、リミットスイッチS_(2)、S′_(2)、・・・は、作動シリンダ1の大きさの異なる複数種のワークW_(1)、W_(2)、・・・に対応したクランプ完了位置、そしてリミットスイッチS_(3)は、作動シリンダ1のオーバーストローク位置にそれぞれ対応するように設けられている。」(第2ページ右下欄第10行ないし第20行)

イ.「ところが、例えば治具上にワークがなかった場合などには、作動シリンダ1のピストン1aはさらに前進限まで移動し、これによって検出用シリンダ5のピストン5aも前進限まで移動し、ドグ6がリミットスイッチS_(3)を押してオーバーストローク位置を検出する。
このように、上記検出手段7は、固定側の作業がし易い位置に設けられている。このため、大きさが異なる複数種のワークW_(1)、W_(2)、W_(3)・・・を同一のクランプ装置で対応させても、可動側の取り付け治具上に多数のスイッチやそれらの配線を設ける必要がなく、検出用シリンダ5側の検出スイッチS_(2)、S′_(2)、S″_(2)・・・を、対応するワークの数だけ設けることで対応でき、ワーク種類に応じた段取り替えをする必要がない。」(第3ページ右上欄第10行ないし左下欄第5行)

(13)甲第13号証に記載された事項
ア.「【0020】図4で示すように、前記昇降プレート31の側端には検測部材39が固定され、ターンテーブル支持台26には前記検測部材39に近接したセンサ40が固定されている。この検測部材39とセンサ40とによって、パレット9のクランプ、アンクランプ及びオーバーストロークを確認する。」(段落【0020】)

(14)甲第14号証に記載された事項
ア.「【0035】
また、クランプシリンダ12には、シリンダ自体の動作確認を電気的に行うために、アンクランプ検知用のセンサ52Aと、クランプシリンダ12がいわゆるオーバーストロークした場合にそれをワイヤ本体28aの切断として検知するワイヤ切断検知用のセンサ52Bが付設されている。これらの各センサ52A,52Bは、クランプシリンダ12のピストンロッド12aと一体の図示外のピストンに装着してある永久磁石とその磁力に反応する磁気近接スイッチもしくはリードスイッチとの組み合わせからなるもので、それぞれの位置にピストンが位置した段階で所定の電気信号を出力し、同時に発光ダイオード等の発光体の点灯によっても上記のアンクランプおよびワイヤ切断の有無を目視で確認できるようになっている。より具体的には、通常動作時はクランプシリンダ12のピストンロッド12aが図7のストロークSの範囲内で往復移動するのに対して、先に述べたようにワイヤ本体28aの切断等が発生した場合にはクランプシリンダ12のピストンロッド12aはS+α分だけストロークし、いわゆるストロークαだけオーバーストロークすることになる。」(段落【0035】)

イ.「【0043】
なお、図6,7に示すように、万が一ワイヤ切断検知用のセンサ52Bがクランプシリンダ12のオーバーストロークを検知した場合には、先に述べたようにいずれかのコントロールワイヤ28のワイヤ本体28aに伸びあるいは切断等が発生したものとみなして、ワイヤ切断検知用のセンサ52Bの出力に基づきアラーム等を発して以降の動作を中止する。」(段落【0043】)

(15)甲第15号証に記載された事項
ア.「[0010]本発明には、例えば、図1から図3又は図7及び図8に示すように、次の(A)と(B)との少なくとも一方の構成を加えることが好ましい。
(A)前記ハウジング(4)に、リリース状態検出用の流体が供給される供給口(71)を設ける。その供給口(71)を、前記の回転部材(25)と前記ピストン(21)との間で軸心方向に対面するように配置された開閉部(73)を介して外部空間へ連通させる。
この場合、回転部材とピストンを利用してリリース状態を確実に検出できる。
(B)前記ハウジング(4)に、ロック状態検出用の流体が供給される供給口(72)を設ける。その供給口(72)を、前記ハウジング(4)と前記の出力ロッド(30)との間で軸心方向に対面するように配置された開閉部(74)を介して外部空間へ連通させる。
この場合、出力ロッドを利用してロック状態を確実に検出できる。また、例えば、製作ミスによって被固定物にメネジ孔が形成されていない場合や、そのメネジ孔が加工不良の場合には、ロック状態の検出信号が発信されない。これにより、形成されるメネジ孔の良否をチェックすることも可能である。」(第3ページ第24行ないし第4ページ第8行)

イ.「[0040]上記リリース状態では、第1供給口71の圧縮空気は、第1開閉部73でストップされている。このため、その第1供給口71の圧力上昇を検出することにより、クランプ装置3がリリース状態であることを確認できる。
なお、そのリリース状態では、第2供給口72の圧縮空気は、上ハウジング部分5の環状溝76と、ガイド筒15の縦路77と、出力ロッド30の入力部41と伝動スリーブ38との嵌合隙間78と、下ハウジング部分7の排気孔79とを順に通って外部へ排出可能になっている。」(第11ページ第15行ないし第21行)

ウ.「[0042]上記ロック状態では、第2供給口72の圧縮空気は、環状溝76を経て縦路77の下端へ供給されるが、その下端の第2開閉部74でストップされている。このため、その第2供給口72の圧力上昇を検出することにより、クランプ装置3がロック状態であることを確認できる。
なお、そのロック状態では、第1供給口71の圧縮空気は、回転部材25の周壁の下部に設けた横孔81と前記の排気孔79とを順に通って外部へ排出可能になっている。」(第12ページ第3行ないし第9行)

(16)甲第16号証に記載された事項
ア.「【0014】図1において、参照符号10は、本実施例に係るワーククランプ装置を示す。このワーククランプ装置10は、ワーク取付治具12を備え、このワーク取付治具12は、複数の基準座14と、この基準座14に載置されたワークWを押圧保持するクランプ手段16、18と、このクランプ手段16、18を構成するクランプ片20、22の一端面20a、22aが該基準座14に載置された前記ワークWを押圧する時に該クランプ片20、22の他端面20b、22bに当接する支持部材24、26とを備える。
【0015】クランプ手段16は、ワーク取付治具12上に固着されるシリンダ28を備え、このシリンダ28から上方に延びるロッド30は、前記シリンダ28の作用下に昇降しながら図示しないガイド手段を介して略90°の範囲で回転する(図3参照)。ロッド30の上部側にクランプ片20が水平方向に向かって装着され、このロッド30の上端部に、前記クランプ片20を水平姿勢に保持する押圧ばね32と係止ボルト34とが設けられる。クランプ手段18は、上記クランプ手段16と同様に構成されており、同一の構成要素には同一の参照数字を付してその詳細な説明は省略する。
【0016】基準座14のワーク当接面36には、外部に開放される第1噴出口38が形成されており、この第1噴出口38は、ワーク取付治具12に形成された連通路40を介して第1通路42に連通する。支持部材24、26のクランプ片当接面44、46には、外部に開放される第2噴出口48、50が形成されており、この第2噴出口48、50は、ワーク取付治具12に形成された連通路52、54を介して第1通路42に連通する。」(段落【0014】ないし【0016】)

イ.「【0020】次に、このように構成されるワーククランプ装置10の動作について説明する。
【0021】図1に示すワーク取付治具12において、ワーク取付治具12に連結手段60が装着されており、ワークWが基準座14上に載置された状態で、クランプ手段16、18を構成する各シリンダ28が駆動される。このため、クランプ片20、22が、図3中、二点鎖線に示す位置から実線に示す位置まで矢印方向に略90°だけ回転するとともに、下方に移動し、前記クランプ片20、22は、それぞれの一端面20a、22aでワークWの所定の押圧部位を押圧保持する。
【0022】この状態で、切換弁78が駆動されて圧力流体供給源76が第2通路62に連通すると、圧力流体がこの第2通路62からロッド70の連通路72を介してワーク取付治具12の第1通路42に供給される。そして、この圧力流体は、連通路40、52および54に分流して基準座14の第1噴出口38からワークW側に導出されるとともに、支持部材24、26の第2噴出口48、50からクランプ片20、22の他端面20b、22b側に導出される。
【0023】ここで、ワークWが基準座14のワーク当接面36に確実に当接しかつクランプ片20、22の一端面20a、22aで前記ワークWが確実に押圧保持されている(すなわち、クランプ片20、22の他端面20b、22bが支持部材24、26のクランプ片当接面44、46に確実に当接している)と、第1噴出口38および第2噴出口48、50に所定の負圧が発生する。従って、第2通路62には、図4に示す設定圧力P1以上の圧力が発生し、この第2通路62に配設された第1圧力スイッチ80および第2圧力スイッチ82が作動する。この第1およひ第2圧力スイッチ80、82からの信号が図示しない制御部に送られることにより、ワークWが基準座14上にクランプ手段16、18を介して確実に位置決め保持されたことが確認される。
【0024】一方、クランプ手段16、18によりワークWが押圧保持されているがこのワークWが基準座14に正確に載置されていない(ワーク着座不良)と、基準座14の第1噴出口38からワークW側に所定量以上の圧力流体が導出される。このため、第2通路62の圧力が設定圧力P1とP2の間の値となり、第1圧力スイッチ80が作動せずかつ第2圧力スイッチ82が作動する。これにより、ワークWが基準座14に正確に載置されていないことが検出される。
【0025】さらに、クランプ片20、22によりワークWが押圧保持されていない(クランプ不良)と、支持部材24、26の第2噴出口48、50から外部に相当量の圧力流体が導出され、第2通路62の圧力が設定圧力P2以下の値となる。従って、第1圧力スイッチ80および第2圧力スイッチ82のいずれも作動せず、クランプ不良であることが検出される。なお、上記の種々の判定条件は、表1に示されている。」(段落【0020】ないし【0025】)

(17)甲第17号証に記載された事項
ア.「【0020】図2は、ノズル30を把持したチャック10の縦断面図である。チャック10はノズルホルダーH上のノズル30を把持している。ノズル30は、垂直方向に伸延するノズルパイプ34の下端に噴射部(図示せず)を、上端に被把持部31を備えている。被把持部31は、チャック10に把持される部分である。被把持部31は、主にチャックボトムカバー32とニップル33とで構成されている。
【0021】チャック10は、カプラ11とピストン15とを有している。カプラ11は、ニップル33の先端部が挿入される部分である。ピストン15は、チャック10に形成されたピストン室14内において上下方向に移動可能に収容されている。またピストン室14には、ピストン15を下方に付勢するばね16が収容されている。
【0022】チャックボディ20には、検出通路21、ピストン室14上端に通ずる検出通路22、ピストン室14下端に通ずるピストン制御通路23、洗浄水を通過させる洗浄水供給通路24が形成されている。検出通路21は、ピストン15によって塞がれる第1の開口部21aと、ノズル30によって塞がれる第2の開口部21bとを有している。」(段落【0020】ないし【0022】)

イ.「【0029】図2の状態では、ピストン15の内周面の内径が最も小さくなった部分が、ボール貫通孔12に対応した位置にある。そして、ボール13の一部がニップル33の環状溝33aに入り込み、ニップル33がカプラ11に対して上下方向に移動できないようにロックされている。ノズル30の噴射部から洗浄水を噴射するときは、このように、チャック10に対してノズル30をロックしておく。なお図示はしていないが、カプラ11とニップル33との間には両者の隙間をシールするための、例えばゴム製オーリングなどで構成されたシール部材が存在する。
【0030】ノズル30は、チャック10に対して傾いたりすることなく、完全な状態でチャック10に把持されている。
【0031】図2では、検出通路21の第1の開口部21aはピストン15によって塞がれ、第2の開口部21bがノズル30のチャックボトムカバー32によって塞がれている。そしてソレノイド52aが励磁されており、検出通路21に空気圧供給源Sの圧縮空気の圧力が作用している。第1の開口部21aおよび第2の開口部21bが塞がれているため、圧力スイッチ53は所定圧力P1を越える圧力を検出する。圧力スイッチ53の出力信号は制御装置に入力されている。これにより制御装置はチャック10が完全な状態でノズル30を把持していることを知る。そして、制御装置は洗浄工程を次の工程に進行させる。
【0032】チャック10からノズル30を脱離させるときは、まず、上記ロック機構のロック状態を解除する必要がある。ロック状態を解除するには、まず、ソレノイド72bを非励磁状態にし、ソレノイド72aを励磁状態にして、ピストン制御通路23に空気圧供給源Sからの圧縮空気を供給する。すると、ピストン15の受圧面15aに圧縮空気の圧力が作用し、ピストン15はばね16の弾性力に抗して上方に持ち上がる。すると、ピストン15下端近傍の、内周面の内径がわずかに大きくなった部分が、カプラ11に形成されたボール貫通孔12に対応した位置に来る。このようにしてボール13が外方向に移動できるようになり、ニップル33とカプラ11とのロック状態が解除され、ノズル30はチャック10に対して下方に移動可能となる。
【0033】図3は、このようにして、ノズル30がチャック10に対して下方に移動可能となった状態の、チャック10の縦断面図である。この状態では、検出通路22の開口部22aがピストン15によって塞がれており、ソレノイド62aを励磁させると圧力スイッチ63が所定圧力P2を越える圧力を検出する。よって、圧力スイッチ63の出力信号を入力している制御装置は、ロック状態が解除されたことを確認することができる。図3の状態では、第1の開口部21aが解放されているので、圧力スイッチ53は所定の圧力を越える圧力を検出することができない。ノズルホルダーHにノズル30を載置させたままで、上記のようにしてロック機構を解除し、チャック10を上方に移動させと、ノズル30をノズルホルダーHに着座させたまま、チャック10をノズル30から離すことができる。
【0034】図4は、ノズルホルダーH上のノズル30を不完全な状態で把持したチャック10の縦断面図である。図2では、チャック10が傾きのない状態でノズル30を把持しているが、図4では、ノズル30はチャック10に対して傾いている。このような状態は、例えば、ノズル30でワークを洗浄しているときに、ノズル30のジェット水流等によりノズル30のノズルホルダーH内での位置が変わってしまったり傾いてしまったような場合に生ずる。このように傾いた状態でノズルホルダーHに載置されたノズル30を、チャック10が上から把持しようとすると、図4のようにチャック10に対して傾いた状態で、すなわち不完全な状態で、ノズル30がチャック10に把持されることがある。ノズル30が傾いているので、ニップル33はカプラ11に完全には挿入されていない。
【0035】図4のような状態で、制御装置がノズル30の把持状態を確認するためにソレノイド52aを励磁すると、圧力スイッチ53は所定圧力P1以下の圧力を検出する。なぜなら、第1の開口部21aはピストン15によって塞がれているが、第2の開口部21bはノズル30によって塞がれておらず解放されているからである。そして、圧力スイッチ53の出力信号を入力した制御装置は、ノズル30が完全な状態でチャック10に把持されていないことを知る。すると制御装置は、洗浄工程を次の工程に進行させることなく、洗浄工程を中断する。よって、チャック10からノズル30が脱落するような事態を未然に防止できる。」(段落【0029】ないし【0035】)

(18)甲第18号証に記載された事項
ア.「【0015】以上のように構成された外径コレットチャックは、ワーク36を保持しない場合には、ドローバー22が前進端位置にあり、コレット部材28はチャック本体14から突出して開いている。ワーク36を保持する際には、ワーク36が図示しないワーク供給装置により主軸10の軸心と一致する状態でコレット部材28および当金48内に挿入される。ワーク36が突き出し部材54を押して当接面50に当接するまで挿入された後、ドローバー22が後退させられ、それに伴ってコレット部材28が後退させられるとともに縮径して保持面38がワーク36に接触し、ワーク36を外側から保持する。
【0016】ワーク36の保持後、空気通路58に空気が供給される。この空気は空気通路64,第一分岐通路66,空気通路70,72,74を経て供給口76から当接面50とワーク36との間に供給されるとともに、空気通路64,第二分岐通路78,空気通路82,フレキシブルチューブ84,空気通路86を経て供給口88から保持面38とワーク36との間に供給される。ワーク36が保持面38全体と当接面50全体とにそれぞれ正確に密着する正規の状態で保持されていれば、ワーク36と保持面38,当接面50との間から多く空気が漏れることはないが、ワーク36が傾いて保持されたり、ワーク36やコレット部材28,当金48に不良があって、ワーク36と保持面38および当接面50との間にワーク36の形状や表面性状に基づく隙間以上の隙間があれば、空気の漏れ量が多くなる。この漏れ量は空気供給装置60の空気供給量を検出することによりわかる。空気供給量が多ければ漏れ量が多いのであり、制御装置94は、実際の空気の漏れ量と、ワーク36が適正に当金48に当接するとともにコレット部材28により適正に保持されているときの空気の基準漏れ量とを比較し、基準漏れ量以下であれば適正に保持されており、基準漏れ量より多ければ、コレット部材28によるワーク36の保持や当金48へのワーク36の当接に何らかの異常があることがわかり、このワーク36を取り付け直し、廃棄し、あるいは作業者に異常の発生を報知する等、適宜の処置を取る。それによって、ワーク36が異常に保持されたまま加工に供されることがなくなって、加工中にワーク36が脱落したり、加工精度が低下したりすることを防止することができる。本実施例においては、空気供給装置60が第一空気通路空気供給装置と第三空気通路空気供給装置を兼ねているのであり、制御装置94の上記空気供給量を漏れ量として検出する部分と、検出した空気の漏れ量が基準漏れ量以下であるか否かを判定する部分とが、チャック状況検出手段と当接状況検出手段とを兼ねているのである。
【0017】また、コレット部材28はワーク36の保持,開放時にチャック本体14に対して軸方向に移動するとともに、半径方向に拡縮するが、この際、フレキシブルチューブ84がスリーブ80内を軸方向に移動するとともに、スリーブ80から突出した部分が撓んで、コレット部材28のチャック本体14に対する動きを許容しつつ空気通路86と82との連通を保つ。このようなフレキシブルチューブ84を用いることにより、ワーク36に直接接触する保持面38に空気を供給してチャック状況を検出することができるのである。
【0018】さらに、本装置によれば、ワーク36の当金48への当接状況とコレット部材28によるチャック状況との両方を同時に検出することができ、一方の状況のみ検出する場合に比較してより確実にワーク36のチャックミスを検出することができ、両者を別々に検出する場合に比較して迅速に検出することができる。コレット部材28によるワーク36のチャックと、ワーク36の当金48への当接とのいずれが不良であるかはわからないが、いずれか一方に不良があればワーク36の取り付け直し等の処置を取るため、併せて検出すればよいのである。」(段落【0015】ないし【0018】)

(19)甲第19号証に記載された事項
ア.「【0015】チャックベース部材13の内側にチャック部材40が設けられている。図2に示すようにチャック部材40は、周方向に複数(例えば6個)に分割されたチャック爪41を有している。これらのチャック爪41は、ワーク1の外周面1aをつかむことができるように、ワーク1の径方向に移動可能である。
【0016】各チャック爪41の外面側に、前記ガイド面14に接するテーパ面42が形成されている。各チャック爪41の先端部の内面側に、図3に一部を示す円弧状の当接部材45が取付けられている。当接部材45の内周面には、ワーク1の外周面1aに当接するチャック面46が形成されている。
【0017】チャック面46に第1の空気孔50が形成されている。第1の空気孔50は、当接部材45の内周面、すなわちワーク1の外周面1aと対向する位置に開口している。第1の空気孔50は、チャック部材40の周方向の複数箇所に形成されている。
【0018】第1の空気孔50は、当接部材45に形成されたエア通路51と、チャックベース部材13に設けられたエア通路52と、ベースプレート12に形成されたエア通路53などを介して、前記エア供給孔23に連通している。
【0019】チャック部材40の基部55は操作軸20の係止部21と係合し、操作軸20が軸線方向(矢印A,Bで示す方向)に移動したときに、チャック部材40も軸線方向に動くようにしている。チャックベース部材13に対してチャック部材40が軸線方向に移動すると、ガイド面14に対してテーパ面42が軸線方向に相対的に移動することにより、各チャック爪41がワーク1の径方向に移動する。すなわち、操作軸20と、ガイド面14と、テーパ面42などは、チャック部材(コレットチャック)40を径方向に駆動するためのチャック駆動機構を構成している。
【0020】チャック部材40の内側に、当て金部材60が設けられている。図2に示すように、当て金部材60の周方向の複数箇所(例えば4箇所)に、平坦な形状の着座面61が形成されている。これらの着座面61に、ワーク1の軸線方向の端面1bが当接するようになっている。
【0021】図4に示すように、着座面61に第2の空気孔62が形成されている。第2の空気孔62は、着座面61に応じて、当て金部材60の周方向の複数箇所に形成されている。
【0022】第2の空気孔62は、当て金部材60に形成されたエア通路63と、チャック部材40に形成されたエア通路64などを介して、エア供給孔23に連通している。このためエア供給源25から第1および第2の空気孔50,62に圧搾エアを供給することができる。
【0023】当て金部材60の内側に押圧部材70が設けられている。押圧部材70は、ばね71によって、ワーク1を当て金部材60から押出す方向に付勢している。
【0024】判定手段として機能するコントローラ31は、圧力検出器30によって検出されたエアの背圧または差圧に基いて、ワーク1がチャック面46および着座面61に正しく接しているか否かを判断する。
【0025】例えばワーク1がチャック面46および着座面61に密接していれば、空気孔50,62からエアが出ることが抑制されるため、所定レベルの背圧または差圧が生じる。ところが、ワーク1とチャック面46との間、あるいはワーク1と着座面61との間に、切り粉などの異物が挟まっていると、ワーク1とチャック面46あるいは着座面61との間に隙間が生じる。
【0026】このため空気孔50,62からエアが漏れることにより、背圧が下がる。または差圧が変化する。コントローラ31は、背圧が所定値を下回ったとき、あるいは差圧が変化したとき、ワーク1が着座不良であると判断し、警告灯あるいはブザーなどの報知手段32を作動させることにより、オペレータに異常を知らせるようにしている。
【0027】次に、前記ワーク保持装置10の動作について説明する。図1において操作軸20が矢印A方向に駆動されると、チャック部材40も矢印A方向に移動し、テーパ面42がガイド面14に対して軸線方向に相対移動することにより、各チャック爪41が開く方向に移動する。この状態でワーク1をチャック部材40の内側に嵌合させるとともに、ワーク1の端面1bを当て金部材60の着座面61に当接させる。
【0028】そののち操作軸20を矢印B方向に移動させると、チャックベース部材13のガイド面14に対してチャック爪41のテーパ面42が矢印B方向に相対移動するため、各チャック爪41がそれぞれ閉じる方向に移動する。このため、チャック面46によってワーク1の外周面1aがクランプされるとともに、第1の空気孔50がワーク1の外周面1aによって覆われる。
【0029】このとき、ワーク1の外周面1aとチャック面46との間、あるいはワーク1の端面1bと着座面61との間に、切り粉などの異物が挟まっていると、ワーク1とチャック面46との間、あるいはワーク1と着座面61との間に隙間が生じる。このため、各空気孔50,62の少なくとも1箇所からエアが漏れることになって、背圧が下がる。または差圧が変化する。コントローラ31は、背圧が所定値を下回ったとき、または差圧が変化したときに、このワーク1が着座不良であると判断し、報知手段32を作動させることにより、オペレータに知らせる。」(段落【0015】ないし【0029】)

(20)甲第20号証に記載された事項
ア.「〔実施例〕
以下本考案を添付図面に示す実施例に基づき更に詳細に説明する。
第2図を参照すると、パレットP1の下面には、複数箇所に円錐面形状の係合用凹所14が形成されており、その中央にはプルボルト16が下方に延設されている。一方、工作機械のワークテーブル10の上面には、パレットP1の係合用凹所14と対応する箇所に、該係合用凹所14と密着可能なパレット着座面としての円錐状係合用凸部12を突設している。この凸部12の中央には、上下方向に孔13が設けられており、下方のコイルスプリング22を収容した室24と連通しており、更に、この室24は圧縮空気源32から供給される空気流路30と連通している。上記孔13には、鋼球28を保持し、後述の油圧の作用で該孔13内を上下動するピストン体26の上部が収容されており、更に、該ピストン体26の中心軸線上に図の如く多段状になった貫通孔15が形成されている。この貫通孔15の中には、上端にキャップ部材18bを、下端に該多段状貫通孔15を塞ぐことの可能な頭部18aを夫々設けていると共に、コイルスプリング20を装着した桿部材18が収容されている。このコイルスプリング20は該桿部材18を常時上方に押し上げてキャップ部材18bによって外部のゴミが侵入することを防止していると共に、頭部18aによって該貫通孔15を塞ぎ、前述の室24との連通を断っているのである。」(第2ページ第3欄第33行ないし第4欄第6行)

イ.「第3図に示す様に、正常であれば、パレットP2のプルボルト16がコイルスプリング20に抗して桿部材18のキャップ部材18bを押し、桿部材18を押し下げるため、桿部材の頭部18aが貫通孔15を開放することとなる。」(第3ページ第5欄第34行ないし第38行)

(21)甲第21号証に記載された事項
ア.「【0007】
【実施例】
以下、本考案を図面に基づいて説明する。
図1は本考案に係るワーク判別装置の一実施例を示す図である。
まず、構成を説明する。
図1において、10は、例えばマシニングセンタの基台上に立設された支持体である。この支持体10には、公知のチャック式のワーク把持装置20と、拡大図示しているが小型のエアシリンダ30(流体シリンダ)とが装着されており、ワーク把持装置20はチャック爪21の先端部を所定のワーク100の段差面102に突き当てた状態でワーク100の保持部103を軸方向に位置決めしつつ保持している。なお、ワーク100はその種類毎に当接面102と後述する検出面101との間の寸法が異なっている。
【0008】
エアシリンダ30はシリンダケース31およびピストン32を有しており、ピストン32によってシリンダケース31内は前後一対の流体室33、34に区画されている。また、ピストン後方の流体室34には圧空(エア)の供給ポート35が、ピストン前方の流体室33にはエアの排出ポート36がそれぞれ接続されており、供給ポート35にはエア(流体圧)を供給するエア供給路37(流体圧供給路)が接続されている。すなわち、ピストン32の後方の流体室34にエアが供給されることで両流体室33、34の間に差圧が発生し、これによってピストン32が前進する。そして、ピストン32の前進によりその先端32aがワーク把持装置20に把持された所定のワーク100の検出面101に当接するようになっている。
【0009】
また、ピストン32には、一対の流体室33、34にそれぞれ開口するよう弁通路41が形成されており、弁通路41内には鋼球弁体51を有する逆止弁50が設けられている。逆止弁50は、弁通路41の通路壁段差部41aに鋼球弁体51を着座させるよう一端で弁体51に当接したスプリング52と、スプリング52の他端をピストン32に係止する止め輪53および当て板54とを有し、スプリング52により閉弁するようになっている。」(段落【0007】ないし【0009】)

イ.「【0010】
一方、エアシリンダ30のシリンダケース31には流体室34内でピストン32に向かって突出するよう固定ピン61が螺合により固定されている。この固定ピン61は、所定位置に達したピストン32のさらなる前進により逆止弁50の鋼球弁体51に衝合し(突き当り)、ピストン32の前記所定位置からの前進量に応じてスプリング52を圧縮しつつ鋼球弁体51をピストン32に対して開弁方向に移動させる(すなわち、逆止弁50を開弁させる)ことができる。また、固定ピン61は、エアシリンダ30の外部に露出した外端部61aを有しており、この外端部61aに設けられたナット62、63と固定ピン61自体とを回転操作することで、固定ピン61を進退動させ、逆止弁50が開弁するピストン位置を調整することができる。」(段落【0010】)

(22)甲第22号証に記載された事項
ア.「第1図において、ガス噴出路3の下流側内側に環状のノズルボトム4が密嵌してあり、該ノズルボトム4にノズルピン5が遊嵌してある。前記ノズルボトム4の上流側端部にはDリング12が装着してあると共に、前記ノズルピン5の外側には環状凸部6が形成してあり、前記Dリング12と環状凸部6との離接により開閉する第一のバルブAが構成してある。
前記ガス噴出路3の上流側には円錐台状としたセラミツク製の減圧用フイルタ10が密嵌してあり、該減圧用フイルタ10の下流側には第二のバルブBを構成する弁座13及び弁体14が装着してある。前記弁座13は、下流側に凸であつて、弁孔15の周囲はテーパー壁13aとしてある。一方前記弁体14は、下面に環状凸部14aが形成してあり、該環状凸部に囲まれた凹部が前記弁座13のテーパー壁13aと嵌合するようにしてあると共に、環状凸部14aの外側はテーパー壁14bとしてある。
更に、前記ノズルピン5の先端側は一側が他側より長くなるよう斜めに切欠されており、ノズルピン5が矢示8方向に押圧されたときに、その一側のみが前記弁体14を押圧し、弁体14が第2図のように傾動するようにしてある。尚、前記ノズルピン一側の長さは、第一のバルブよりも早く第二のバルブが閉じるように選定してあり、かつ前記切欠部の傾斜角度は前記弁体のテーパー壁14bの角度と同等としてある。また、前記ノズルピン5の先端側には内腔16が形成してあり、該内腔16の底と弁体14との間に、ノズルピン5及び弁体14付勢用のスプリング7が介装してある。図中17はワツシヤーである。尚、前記減圧用フイルタ10には、鎖線図示のように凸部を設けると、方向性が明確とにり組み立てが容易となる。
次に、この実施例の作用効果を説明する。
常態においては、スプリング7によつてノズルピン5は下流側へ、弁体14は上流側(弁座13側)へ夫々付勢されており、第一のバルブA、第二のバルブB共に閉じている。ここで、第二のバルブBが閉じているので、減圧用フイルタ10を通過したガスの流れは第二のバルブBで停止され、空隙9にガスが流入することはない。したがつて、空隙9内に溜まつた液化ガスが点火時に瞬時に気化膨張して噴出する、という従来の問題点は解消される。
また、燃焼装置本体側に設けられた点火スイツチに連動するプランジヤー18を押し下げることにより、ノズルピン5を矢示8方向に押し下げると、ノズルピン5の環状凸部6はノズルボトム4のOリング12から離れるので、第一のバルブが開く。次いでノズルピン5を更に押し下げると、その先端一側が第二のバルブの弁体14の一側を押圧する。ここで、弁体13と弁座14とはテーパー壁同士の凹凸嵌合であり、かつ弁体14の周囲にはテーパー壁14bが形成してあるので、弁体14は第2図のように傾動し、第二のバルブも開く。そこで、ボンベ内のガスはガス噴出路3の内壁とノズルピン5の外側との間隙を通過して流れ、噴出孔2を経て燃焼側へ供給される。」(第2ページ第3欄第43行ないし第3ページ第5欄第14行)

(23)甲第23号証に記載された事項
ア.「第2図および第3図から判るように、リリーフ弁9は弁ケーシング26を有している。この弁ケーシング26は側方でタップ栓ヘッドケーシング壁10に固定されている。弁ケーシング26内では、弁プランジャ17と、この弁プランジャ17に装着されたフランジ19と、下側の付加部21とが鉛直方向で摺動可能である。フランジ19と、調節可能なねじ22との間には、圧縮ばね20が挿入されている。この圧縮ばね20によって通常では、フランジ19の下方に配置されたシールリング18にこのフランジ19が押圧される。このシールリング18はタップ栓ヘッドケーシング壁10に設けられた開口を、付加部21の範囲でシールする。弁ケーシング26に設けられた雌ねじ山23にねじ込み可能なねじ22が移動調節可能であることに基づき、与えられた条件に応じてばね圧を調節することができる。」(第5ページ第2行ないし第12行)

イ.「このときに、リリーフ弁9は自動的に操作されて、しかもこの場合、フランジ14が付加部21の下端部に押圧されるので、これによってリリーフ弁9が開放され、ガス圧はタップ栓ヘッド内室16から中間室を通って付加部21に流入し、さらにシールリング18の下側に形成されたガス流出ギャップ24を通って外方に逃出することができる。」(第5ページ第25行ないし第6ページ第1行)


2.甲第1号証、甲第5号証、甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明
(1)甲第1号証に記載された発明の認定
上記1.(1)及び図面の記載を総合すると、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「ワーク2の係合穴2aに挿入されて係合穴2aの内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材である係合部材30と、この係合部材30に内嵌係合させたテーパ部4aを有するプルロッド4と、前記係合部材30とプルロッド4とを軸心方向へ進退駆動可能な油圧シリンダ5と、前記係合部材30とプルロッド4と油圧シリンダ5とが付設される上部本体10及び下部本体11とを有するクランプ装置1において、
前記上部本体10に形成されワーク2を着座させる受止面15と、
前記クランプ部材と一体的に油圧シリンダ5の軸心方向へ移動する筒状支持部材32とを備えるクランプ装置1。」

(2)甲第5号証記載の発明の認定
上記1.(5)及び図面の記載を総合すると、甲第5号証には以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。

「ワーク1の立向き穴1aに挿入されて立向き穴1aの内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるコレット部材5と、このコレット部材5に内嵌係合させたテーパロッド部4aを有するプルロッド4と、前記コレット部材5とプルロッド4とを軸心方向へ進退駆動可能な油圧シリンダ7と、前記コレット部材5とプルロッド4と油圧シリンダ7とが付設されるクランプ本体3の上半部分及びクランプ本体3の下半部分とを有するクランプ装置2において、
前記クランプ本体3の上半部分に形成されワーク1を着座させるワーク受け面3aと、
前記クランプ部材と一体的に油圧シリンダ7の軸心方向へ移動するコレット支持部材6とを備えるクランプ装置。」

(3)甲第9号証記載の発明の認定
上記1.(9)及び図面の記載を総合すると、甲第9号証には以下の発明(以下、「甲9発明1」という。)が記載されていると認められる。

「クランプ部材としてのアーム6及びクランプロッド5が下方のクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに検出ロッド62により開弁操作される弁機構と、この弁機構の入力側に加圧エアを供給する第1入口孔71とを有する動作検出装置51。」

さらに、甲第9号証には以下の発明(以下、「甲9発明2」という。)が記載されていると認められる。

「クランプロッド5が下方のクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに検出具62により開弁操作される弁機構と、この弁機構の入力側に加圧エアを供給する第1入口孔71とを有する動作検出装置51。」

(4)甲第10号証記載の発明の認定
上記1.(10)及び図面の記載を総合すると、甲第10号証には以下の発明(以下、「甲10発明1」という。)が記載されていると認められる。

「当金20が右方の限界位置まで移動したときに可動座体32により開弁操作される弁機構と、この弁機構の入力側に加圧エアを供給する第1エアーノズル36とを有する異常検知装置。」

また、甲第10号証には以下の発明(以下、「甲10発明2」という。)が記載されていると認められる。

「当金20が左方の限界位置まで移動したときに可動座体32により開弁操作される弁機構と、この弁機構の入力側に加圧エアを供給する第2エアーノズル40とを有する異常検知装置。」


3.甲1発明を主引用発明とした場合の本件特許発明1の容易想到性

3-1.対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「ワーク2」は、その機能及び構成からみて、本件特許発明1における「ワーク」に相当し、以下同様に、「係合穴2a」は「穴]に、「係合部材30」は「グリップ部材」に、「テーパ部4a」は「テーパ軸部」に、「プルロッド4」は「クランプロッド」に、「油圧シリンダ5」は「流体圧シリンダ」に、「上部本体10」は「上部本体部材」に、「下部本体11」は「下部本体部材」に、「クランプ装置1」は「クランプ装置」に、「受止面15」は「着座面」に、「筒状支持部材32」は「連動部材」にそれぞれ相当する。

よって、本件特許発明1と甲1発明とは、
「ワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材と、このグリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッドと、前記グリップ部材とクランプロッドとを軸心方向へ進退駆動可能な流体圧シリンダと、前記グリップ部材とクランプロッドと流体圧シリンダとが付設される上部本体部材及び下部本体部材とを有するクランプ装置において、
前記上部本体部材に形成されワークを着座させる着座面と、
前記クランプ部材と一体的に流体圧シリンダの軸心方向へ移動する連動部材とを備えるクランプ装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1においては「前記流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段」を有し、「前記クランプ不良検出手段は、前記クランプ部材がクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに前記連動部材により開弁操作される弁機構と、この弁機構の入力側に加圧エアを供給するエア通路とを有する」ものであるのに対して、甲1発明においてはクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段を有してない点(以下、「相違点1」という。)。


3-2.相違点1についての検討
(1)上記2.にて述べたように、甲9発明1は、
「クランプ部材としてのアーム6及びクランプロッド5が下方のクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに検出ロッド62により開弁操作される弁機構と、この弁機構の入力側に加圧エアを供給する第1入口孔71とを有する動作検出装置51。」である。
甲9発明2は、
「クランプロッド5が下方のクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに検出具62により開弁操作される弁機構と、この弁機構の入力側に加圧エアを供給する第1入口孔71とを有する動作検出装置51。」である。
甲10発明1は、
「当金20が右方の限界位置まで移動したときに可動座体32により開弁操作される弁機構と、この弁機構の入力側に加圧エアを供給する第1エアーノズル36とを有する異常検知装置。」である。
甲10発明2は
「当金20が左方の限界位置まで移動したときに可動座体32により開弁操作される弁機構と、この弁機構の入力側に加圧エアを供給する第1エアーノズル36とを有する異常検知装置。」である。

また、流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態は甲第2号証ないし甲第4号証が示すように周知事項(以下、「周知事項1」という。なお、請求人は審判請求書の(4-2)(1(原文はローマ数字小文字の1を表記。))(ア)3(原文は丸の中に3を表記。)において、上記状態が甲第1号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載されている旨を主張しているが、上記甲第1号証、甲第5号証及び甲第6号証には予め自重によりワークを着座面に着座させるものは記載されているものの、クランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させるものは記載されていない。)である。
さらに、グリップ部材やクランプロッドに相当する部材について、種々の「ストローク位置」を検出することは甲第9号証ないし甲第15号証が示すように周知事項(以下、「周知事項2」という。)である。
そして、甲第7号証及び甲第8号証が示すように筒状部材の内周面をグリップするグリップ部材においてスリップが生じるということは周知の課題(以下、「周知課題」とう。)である。

しかしながら、上記甲9発明1、甲9発明2、甲10発明1及び甲10発明2並びに上記周知事項1、周知事項2及び周知課題はいずれも、ワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段は有しておらず、さらに、上記クランプ不良検出手段において、上記クランプ部材がクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに開弁操作される弁機構の開弁操作が、ワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材(であるグリップ部材)と一体的に流体圧シリンダの軸心方向へ移動する連動部材によってなされる点も有していない。
また、そもそも甲第1号証にはワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段は記載も示唆もされておらず、甲1発明は上記クランプ不良検出手段を有していないのだから上述のように筒状部材の内周面をグリップするグリップ部材においてスリップが生じるということがたとえ周知の課題であったとしても、甲1発明において、上記上記甲9発明1、甲9発明2、甲10発明1及び甲10発明2並びに上記周知事項1及び2を組み合わせる動機があるとはいえない。

よって、 甲1発明において、上記甲9発明1、甲9発明2、甲10発明1及び甲10発明2並びに上記周知事項1及び2を組み合わせることは当業者にとって容易であるとはいえないし、仮に上記組み合わせをなしたとしても上記相違点1に係る本件特許発明1に係る発明特定事項とすることはできない。
さらに、甲第16号証ないし甲第23号証のいずれにも、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項は記載も示唆もされていないことから、甲第16号証ないし甲第23号証について検討しても、本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第23号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)審判請求人は審判請求書の(4-2)(1(原文はローマ数字小文字の1を表記。))(ア)3(原文は丸の中に3を表記。)において、本件特許発明1における「前記流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段」という発明特定事項(審判請求書中における「構成C」に相当する。以下、「構成C」という。)を甲1発明は備えていないことを本件特許発明1と甲1発明の相違点としたうえで、以下のように主張している。
(2-1)本件特許発明1における「流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態」は甲第1号証ないし甲第6号証に記載されているように周知である。
(2-2)甲第7号証ないし甲第15号証に記載されているように、クランプロッド及びグリップ部材が所定のクランプストローク領域を越えてオーバーストロークすることによるクランプ不良は周知慣用技術であり、その「クランプ不良」を検出するクランプ不良検出手段も当業者にとって自明な事項に過ぎない。
(2-3)従って、構成Cは周知慣用技術であって、実質的な相違点ではない。

また、審判請求人は口頭審理陳述要領書の4.(1(原文はローマ数字小文字の1を表記。))において、以下のように主張している。
(2-4)本件特許発明1における課題としての「ワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良」は甲第37号証に記載されているように周知事項である。
(2-5)また、本件特許発明1において、上記「クランプ不良」時にはクランプロッドやピストン等の可動部材が移動するのであるから、その可動部材を検出して当該「クランプ不良」を検出することは、甲第38号証ないし甲第42号証に記載されているようにクランプ装置の可動部材の移動状態を自動的に検出することが一般的に行われていることからみて、当業者にとって自明な事項である。
(2-6)従って、構成Cは当業者にとって自明な事項であって、実質的な相違点ではない。

(3)しかしながら、上記構成Cについて、
(3-1)甲第7号証ないし甲第15号証に記載されたものには「クランプロッド及びグリップ部材が所定のクランプストローク領域を越えてオーバーストロークすることによるクランプ不良」については記載されているものの、「ワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材」を「クランプロッドを介して」「クランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良」及び上記「クランプ不良」を検出する「クランプ不良検出手段」については記載されておらず、周知の技術的事項であるとは認められない。
(3-2)したがって、構成Cは周知慣用技術であるとは認められず、実質的な相違点ではないとは認められない。
(3-3)また、そもそも、上記(2-4)で述べているように「ワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良」が周知事項であったとしても、甲1発明のような「ワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材と、このグリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッドと、前記グリップ部材とクランプロッドとを軸心方向へ進退駆動可能な流体圧シリンダと、前記グリップ部材とクランプロッドと流体圧シリンダとが付設される上部本体部材及び下部本体部材とを有するクランプ装置」は甲第2号証ないし甲第6号証においても記載されているものの、上記構成Cのような「クランプ不良」を検出する「クランプ不良検出手段」が記載されていないことからみても、上記「クランプ装置」において必ずしも上記構成Cのような「クランプ不良」を検出する「クランプ不良検出手段」が設けられているわけではないから、上記「クランプ不良検出手段」が甲第1号証に記載されているに等しいとすることはできない。
(3-4)したがって、上記構成Cは実質的な相違点ではないとは認められない。



4.甲5発明を主引用発明とした場合の本件特許発明1の容易想到性

4-1.対比
本件特許発明1と甲5発明とを対比すると、甲5発明における「ワーク1」は、その機能及び構成からみて、本件特許発明1における「ワーク」に相当し、以下同様に、「立向き穴1a」は「穴]に、「コレット部材5」は「グリップ部材」に、「テーパロッド部4a」は「テーパ軸部」に、「プルロッド4」は「クランプロッド」に、「油圧シリンダ7」は「流体圧シリンダ」に、「クランプ本体3の上半部分」は「上部本体部材」に、「クランプ本体3の下半部分」は「下部本体部材」に、「クランプ装置2」は「クランプ装置」に、「ワーク受け面3a」は「着座面」に、「コレット支持部材6」は「連動部材」にそれぞれ相当する。

よって、本件特許発明1と甲5発明とは、
「ワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材と、このグリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッドと、前記グリップ部材とクランプロッドとを軸心方向へ進退駆動可能な流体圧シリンダと、前記グリップ部材とクランプロッドと流体圧シリンダとが付設される上部本体部材及び下部本体部材とを有するクランプ装置において、
前記上部本体部材に形成されワークを着座させる着座面と、
前記クランプ部材と一体的に流体圧シリンダの軸心方向へ移動する連動部材とを備えるクランプ装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2>
本件特許発明1においては「前記流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段」を有し、「前記クランプ不良検出手段は、前記クランプ部材がクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに前記連動部材により開弁操作される弁機構と、この弁機構の入力側に加圧エアを供給するエア通路とを有する」ものであるのに対して、甲5発明においてはクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段を有してない点(以下、「相違点2」という。)。


4-2.相違点についての検討
(1)上記4-1.で検討した本件特許発明1と甲5発明との一致点及び相違点2は、上記3-1.にて検討した本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点1と実質的に同じものである。
また、上記3-2.(1)にて甲第1号証及び甲1発明について述べたのと同様に、甲第5号証にはワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段は記載も示唆もされておらず、甲5発明は上記クランプ不良検出手段を有していない。
そして、上記3-2.(1)にて甲1発明を主引用発明とした場合に検討した場合と同様に、甲5発明において、上記甲9発明1、甲9発明2、甲10発明1及び甲10発明2並びに上記周知事項1及び2を組み合わせることは当業者にとって容易であるとはいえないし、仮に上記組み合わせをなしたとしても上記相違点2に係る本件特許発明1に係る発明特定事項とすることはできない。また、甲第16号証ないし甲第23号証について検討しても、本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第23号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)審判請求人は審判請求書において、本件特許発明1における「前記流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段」という発明特定事項(審判請求書中における「構成C」に相当する。以下、「構成C」という。)を甲5発明は備えていないことを本件特許発明1と甲5発明の相違点としたうえで、上記3-2.(2)にて示したのと同様な主張をしているが、上記3-2.(3)にて述べたのと同様に、構成Cは実質的な相違点ではないとは認められない。



第5-2 本件特許発明2ないし7についての進歩性の検討
本件特許発明2ないし7は、本件特許発明1を引用する発明であって、本件特許発明1の発明特定事項をさらに限定するものである。そして、本件特許発明1が、上記第5-1のとおり、甲1発明または甲5発明並びに甲9発明1、甲9発明2、甲10発明1、甲10発明2、上記周知事項1及び周知事項2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない以上、同様の理由により、本件発明2ないし7は、甲1発明または甲5発明並びに甲9発明1、甲9発明2、甲10発明1、甲10発明2、上記周知事項1及び周知事項2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
さらに、甲第16号証ないし甲第23号証のいずれにも、上記第5-1で検討した相違点1または2に係る本件特許発明1の特定事項は記載も示唆もされていないことから、甲第16号証ないし甲第23号証について検討しても、本件特許発明2ないし7は、甲第1ないし23号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。



第5-3 無効理由1に対するまとめ
以上のように、本件特許発明1ないし7は、甲第1ないし23号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1ないし7についての特許は同法第123条第1項第2号に該当し無効とされるべきであるとする請求人の主張には理由がない。




第6 無効理由2に対する当審の判断

第6-1 特許法第36条第6項第2号(明確性)の検討
上記第3(2)にて述べたように請求人は、本件特許発明1における「グリップ部材」、「クランプロッド」と上記「グリップ部材」との関係、「流体圧シリンダ」、「クランプ不良」及び「連動部材」はいずれもその意味が不明確であるから、本件特許における願書に添付した特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合しない旨主張している。
そこで、当審では、本件特許発明1における「グリップ部材」、「クランプロッド」と上記「グリップ部材」との関係、「流体圧シリンダ」、「クランプ不良」及び「連動部材」のそれぞれについて不明確であるかどうかについて検討する。


1.グリップ部材(「ワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材」)について
(1)請求人は審判請求書の(5-1)(a)において「グリップ」なる用語の意義が不明であるうえ、「グリップ部材」は、穴の内周面に挿入されるだけで当該穴の内周面をグリップ可能と言えるものではなく、そもそも、上記グリップ部材が如何なる構成によって穴の内周面をグリップ可能であるのかが不明である旨を主張している。そこで、上記主張の点について検討する。

(2)本件特許明細書の段落【0001】及び【0002】には、
「【0001】
本発明は、クランプ不良を検出するクランプ不良検出手段を設けたクランプ装置に関し、特にワークの穴にグリップ部材のグリップ爪を係合させて着座面の方へ引き付けることでワークをクランプするクランプ装置に好適のものに関する。
【背景技術】
【0002】
ワークの全面に亙って機械加工するような場合には、ワークの端部を上方から押圧具で押圧する形式のクランプ装置を採用することができないため、上記のようなクランプ装置(所謂、ホールクランプ装置)が採用される。このクランプ装置では、本体部材にクランプ対象のワークを着座させる着座面が形成され、ワーク投入時にワークを着座面に搭載して支持し、ワークの穴にグリップ部材と、このグリップ部材に挿入されたテーパ軸部を有するクランプロッドを挿入し、クランプロッドを着座面側へ引き付けることで、テーパ軸部によりグリップ爪を拡径させて穴の内周面に係合させてから、そのグリップ部材を更に着座面側へ引き付けることで、ワークを着座面に固定する。この種のクランプ装置が、特許文献1,2に記載されている。」
と記載されているように、本件特許明細書に記載されている本件特許発明1の属する技術分野及び背景技術からみて、本件特許発明1において、「グリップ部材」はワークの穴に挿入され、当該「グリップ部材」のグリップ爪を拡径させて穴の内周面に係合させるものであり、「グリップ部材」はワークの穴に挿入されて穴の内周面を係合可能なものであるといえる。してみれば、本件特許発明1における「ワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材」はワークの穴に挿入されて穴の内周面を係合可能な「グリップ部材」であり、「グリップ」なる用語は「係合」と意味することは明らかである。

(3)また、本件特許発明1においては「グリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッド」とあり、また、「流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させ」るとある。
さらに、上記段落【0002】には「このクランプ装置では、・・(中略)・・ワークの穴にグリップ部材と、このグリップ部材に挿入されたテーパ軸部を有するクランプロッドを挿入し、クランプロッドを着座面側へ引き付けることで、テーパ軸部によりグリップ爪を拡径させて穴の内周面に係合させてから、そのグリップ部材を更に着座面側へ引き付けることで、ワークを着座面に固定する。」と記載されている。
してみれば、本件特許明細書に記載されている本件特許発明1の属する技術分野及び背景技術からみて、本件特許発明1において「グリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッド」を備え、「流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させ」るものは、上記「流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させ」る行程において、「テーパ軸部」により「グリップ部材」のグリップ爪を拡径させて穴の内周面に係合させるものであることは明らかである。


2.クランプロッド(「グリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッド」)とグリップ部材との関係について
(1)請求人は審判請求書の(5-1)(b)において、クランプロッドとグリップ部材とが相対的に移動するのか移動しないのかが特定されてないうえ、上記テーパ軸部のテーパ面が狭まる方向も特定されておらず、このため、上記グリップ部材が如何なる構成によって穴の内周面をグリップ可能であるかは依然として不明なままであり、そのグリップ部材のクランプ方向も不明なままである旨を主張している。そこで、上記主張の点について検討する。

(2)上記1.(3)で述べたように、本件特許発明1においては「グリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッド」を備え、「流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させ」るものであり、上記「流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させ」る行程において、「テーパ軸部」により「グリップ部材」のグリップ爪を拡径させて穴の内周面に係合させているのだから、クランプロッドとグリップ部材とが相対的に移動すること及びクランプ方向、つまり、ワークを着座面に着座させる方向に上記「テーパ軸部」のテーパ面が狭まっていることは明らかである。


3.流体圧シリンダ(「グリップ部材とクランプロッドとを軸心方向へ進退駆動可能な流体圧シリンダ」)について
(1)請求人は審判請求書の(5-1)(c)において、同じ方向へ駆動されるクランプロッドとグリップ部材とが如何にしてクランプ力を発生するのか不明である旨主張するとともに、平成22年6月25日付けの口頭審理陳述要領書の(2(原文はローマ数字小文字の2を表記。))(1)において、本件特許発明1には、油圧力によってグリップ部材2を「所定の力」で上限位置に保持すると共に上記「所定の力」よりも大きな力によってクランプロッド3を引き下げるように油圧シリンダ4を構成することが何ら記載されておらず、技術常識を考慮したとしても、上記の油圧シリンダ4の構成が本件特許発明1に記載されているといえるものではない旨を主張している。そこで、上記主張の点について検討する。

(2)上記2.において述べたように、本件特許発明1においては「流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させ」る行程において、クランプロッドとグリップ部材とが相対的に移動し、その結果としてグリップ部材が拡径してワークの穴の内周面をクリップすることでグリップ部材にクランプ力を発生させていることは明らかである。そして、クランプロッドとグリップ部材とが相対的に移動することが明らかであるならば、必ずしもグリップ部材2を「所定の力」で上限位置に保持すると共に上記「所定の力」よりも大きな力によってクランプロッド3を引き下げるように油圧シリンダ4を構成する点が記載されていないからといって、本件特許発明1が不明確であるとはいえない。


4.クランプ不良(「流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良」)について
(1)請求人は審判請求書の(5-1)(d)において、「前記流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段」という記載では、流体圧シリンダによって駆動されるグリップ部材がワークに係合してその係合状態で当該ワークを強制的に着座面に着座させるのか、それとも、上記グリップ部材がワークに係合せずにその非係合状態でグリップ部材とは別の何らかの力が上記ワークを着座面に着座させるのかが不明であり、「ワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良」なる概念は不明であるから、上記クランプ不良を検出するクランプ不良検出手段も不明確である旨主張している。そこで、上記主張の点について検討する。

(2)上記1.(2)で示したように上記段落【0002】には「このクランプ装置では、・・(中略)・・ワークの穴にグリップ部材と、このグリップ部材に挿入されたテーパ軸部を有するクランプロッドを挿入し、クランプロッドを着座面側へ引き付けることで、テーパ軸部によりグリップ爪を拡径させて穴の内周面に係合させてから、そのグリップ部材を更に着座面側へ引き付けることで、ワークを着座面に固定する。」と記載されているように、本件特許明細書に記載されている本件特許発明1の属する技術分野及び背景技術からみて、本件特許発明1において「グリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッド」を備え、「流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させ」るものは、クランプロッドを着座面側へ引き付けることで、テーパ軸部によりグリップ爪を拡径させて穴の内周面に係合させてから、そのグリップ部材を更に着座面側へ引き付けることで、ワークを着座面に固定するものであることは明らかである。

(3)また、本件特許明細書の段落【0005】ないし【0007】には、
「【0005】
前記着座センサは、ワークが着座面に着座したことを検出するものに過ぎないため、着座センサによりワークの着座面への着座が検出されたとしても、ワークが所期のクランプ力で固定されているとは限らない。例えば、前記のホールクランプ装置の場合、クランプ時にクランプロッドを退入方向へクランプ駆動し、そのテーパ軸部でグリップ部材のグリップ爪部を拡径させてワークの穴の内周面に食い込ませる際に、ワークは着座面に着座状態を保持したまま、グリップ爪部がワークの穴に対してスリップする場合がある。特に、ワークが鋳造品でその穴が僅かにテーパ状の穴に形成されているような場合には、グリップ爪部のスリップが発生しやすい。
【0006】
前記のようなグリップ爪部のスリップが発生した場合には、流体圧シリンダのピストン部材が退入限位置まで退入移動してしまうため、著しく低下したクランプ力でワークをクランプすることになる。しかし、この場合でも、ワークは着座面への着座を保持するため、上記のようなクランプ不良を着座センサでは検知することができない。このようなクランプ不良のままワークの機械加工を実行すると、切削工具から作用する切削力によりワークがズレ動いたりするため、切削工具が破損したり、ワークを損傷したりするという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、ワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を確実に検出可能なクランプ装置を提供することである。」
と記載されているように、本件特許発明1のように「クランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させ」る構成を有するものにおいて、グリップ部材がワークの穴に対してスリップする場合があり、このような場合に著しく低下したクランプ力でワークをクランプすることになる「クランプ不良」という課題があり、それに対して、本件特許発明1の目的はワークを着座面に着座させた状態における上記「クランプ不良」を確実に検出可能なクランプ装置を提供することとしている。
してみれば、本件特許明細書に記載されている本件特許発明1が解決しようとする課題からみて、本件特許発明1においては、流体圧シリンダによって駆動されるグリップ部材がワークに係合してその係合状態で当該ワークを強制的に着座面に着座させる状態であってワークをクランプする力が十分である状態が正規のクランプ状態を意味し、上記グリップ部材がワークに係合せずにその非係合状態でグリップ部材とは別の何らかの力が上記ワークを着座面に着座させる状態や、ワークをクランプする力が十分でない状態が「クランプ不良」の状態であることは明らかであり、上記「クランプ不良」を検出する「クランプ不良検出手段」も明らかであるといえる。


5.連動部材(「クランプ部材と一体的に流体圧シリンダの軸心方向へ移動する連動部材」)について
(1)請求人は審判請求書の(5-1)(e)において、本件特許発明1における「クランプ部材と一体的に流体圧シリンダの軸心方向へ移動する連動部材」との定義によれば、クランプ部材と一体的に移動する部材の全てが連動部材に該当することになるため,上記クランプ部材の一部としてグリップ部材も連動部材に該当することになり、そうだとすれば、請求項1の「前記クランプ部材が・・・移動したときに前記連動部材により開弁操作される弁機構」の記載は、「連動部材としてのグリップ部材が・・・移動したときに連動部材により開弁操作される弁機構」を意味することとなり、これは明らかに矛盾していから、上記の連動部材の定義は不明確である旨主張している。

(2)しかしながら、本件発特許明1における「クランプ部材と一体的に流体圧シリンダの軸心方向へ移動する連動部材」との定義は、本件特許発明1の発明特定事項である「連動部材」がクランプ部材と一体的に流体圧シリンダの軸心方向へ移動することを述べただけのことであり、クランプ部材と一体的に移動する部材の全てが連動部材に該当するということを意味するものではなく、また、クランプ部材の一部としてグリップ部材も連動部材に該当することを意味するものでもない。したがって、上記の連動部材の定義は不明確なものではない。

(3)また、請求人は同じく審判請求書の(5-1)(e)において、クランプ部材と連動部材との両部材が別の部材であると解した場合には、上記の両部材は、『一体的に・・・移動する』のであるから、別の部材で構成する必要がなく、明らかに矛盾するから、上記定義のうちの『一体的に・・・移動する』とは、どのような状態で移動するのか全く不明である、即ち、上記クランプ部材と連動部材との両部材が常に合体した状態で相対移動なしで移動するのか、それとも、上記の両部材同士が相対的に移動することがあり得るのかが不明である旨主張している。

(4)しかしながら、本件特許発明1において「クランプ不良検出手段は、前記クランプ部材がクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動したときに前記連動部材により開弁操作される弁機構」を有するものであり、「クランプ部材がクランプ方向限界位置又はその近傍位置まで移動した」ことを「連動部材」により「弁機構」が開弁操作されることにより検出するものであるといえる。そのような「連動部材」と「クランプ部材」において、「連動部材」が「クランプ部材と一体的に流体圧シリンダの軸心方向へ移動する」状態とは、「連動部材」における流体圧シリンダの軸心方向の移動量と「クランプ部材」における流体圧シリンダの軸心方向の移動量とが上記軸心方向への移動の行程において一定の関係を維持する状態であることは明らかであり、不明確なものではない。


6.小括
以上のように、本件特許発明1における「グリップ部材」、「クランプロッド」と上記「グリップ部材」との関係、「流体圧シリンダ」、「クランプ不良」及び「連動部材」はいずれもその意味が明確であるから、本件特許における願書に添付した特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合している。



第6-2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の検討
上記第2(2)で述べたように請求人は、本件特許の「発明の詳細な説明」に開示された内容を本件特許発明1における「グリップ部材」、「クランプロッド」及び「流体圧シリンダ」の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえず、また、本件特許発明1における「クランプ不良」、「クランプ不良検出手段」及び「連動部材」に関し、発明の詳細な説明に発明として記載したものと対応していないから、本件特許発明1は本件特許明細書における発明の詳細な説明に記載されておらず、本件特許における願書に添付した特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない旨主張している。
そこで、当審では、本件特許の「発明の詳細な説明」に開示された内容を本件特許発明1における「グリップ部材」、「クランプロッド」及び「流体圧シリンダ」の範囲まで拡張ないし一般化できるかどうか、及び本件特許発明1における「クランプ不良」、「クランプ不良検出手段」及び「連動部材」に関し、発明の詳細な説明に発明として記載したものと対応しているかどうかについて検討する。


1.「グリップ部材」及び「クランプロッド」について
(1)請求人は審判請求書の(5-2)(2(原文はローマ数字小文字の2を表記。))(a)において、本件特許明細書の段落【0035】、【0038】、【0054】及び【0055】には、概略、「4等分に分割されたグリップ部材2のテーパ孔部21aに、クランプロッド3の上部に上方程大径化するように形成されたテーパ軸部31を係合させ、上昇位置に保持させたグリップ部材2に対してクランプロッド3を下降させることにより、グリップ部材2のグリップ爪部24を拡径駆動させてワークWの穴Hの内周面に係合させる」構成のみが記載され、その構成以外の記載は無く示唆もないのに対して、本件特許発明1では、グリップ部材について、「ワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材」と定義され、クランプロッドについて、「グリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッド」と定義されているだけで、そのグリップ部材が如何なる構成によって穴の内周面をグリップ可能であるのかは不明であり、そのグリップ部材のクランプ方向も不明なままであるから、本件特許の「発明の詳細な説明」に開示された内容を本件発明発明1の「クランプロッド」及び「グリップ部材」の範囲まで拡張または一般化できるとはいえない旨を主張している。

(2)上記第6-1 1.(3)で述べたように本件特許発明1において「グリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッド」を備え、「流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させ」るものは、上記「流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させ」る行程において、「テーパ軸部」により「グリップ部材」のグリップ爪を拡径させて穴の内周面に係合させることは明らかであり、また、上記第6-1 2.(2)で述べたように、上記行程において「テーパ軸部」により「グリップ部材」のグリップ爪を拡径させて穴の内周面に係合させているのだから、クランプロッドとグリップ部材とが相対的に移動すること及びクランプ方向、つまり、ワークを着座面に着座させる方向に上記「テーパ軸部」のテーパ面が狭まっていることは明らかである。
そして、本件特許発明1における「ワークの穴に挿入されて穴の内周面をグリップ可能な環状のクランプ部材であるグリップ部材」及び「グリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有するクランプロッド」としては、上記「テーパ軸部」により上記「グリップ部材」のグリップ爪を拡径させて穴の内周面に係合させるものであれば十分であるのだから、本件特許明細書の「発明の詳細な説明」に上記構成以外の記載は無く示唆もないからといって、本件特許の「発明の詳細な説明」に開示された内容を本件特許発明1の「クランプロッド」及び「グリップ部材」の範囲まで拡張または一般化することはできないとはいえない。

(3)さらに、請求人は審判請求書の(5-2)(2(原文はローマ数字小文字の2を表記。))(a)において、甲第2号証ないし甲第4号証の各実施形態に示すように、ワークの穴の周面にグリップ部材に相当する部材を拡径係合させる構成としては、本件特許明細書に記載された構成とは異なる形態が存在しており、本件特許明細書には上記の異なる形態が何ら記載されてなく示唆もされてないのであるから、本件特許発明1が上記の異なる形態を包含してないことが明らかである旨を主張している。

(4)しかしながら、甲第2号証の図1ないし図11、甲第3号証及び甲第4号証に記載されているものは本件特許発明1のように「クランプロッド」が「グリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有する」ものではなく、本件特許発明1とは異なるものであるから本件特許明細書の発明の詳細な説明において記載される必要はなく、また、甲第2号証の図12ないし図15に記載されているものは本件特許発明1のように「クランプロッド」が「グリップ部材に内嵌係合させたテーパ軸部を有する」ものであり、発明の詳細な説明の段落【0035】、【0038】、【0054】及び【0055】に記載されていることは明らかである。


2.「流体圧シリンダ」について
(1)請求人は審判請求書の(5-2)(2(原文はローマ数字小文字の2を表記。))(b)において、本件特許明細書の段落【0054】と【0055】には、クランプ駆動の初期において、概略、「油圧シリンダ4のクランプ用油室45の油圧を受圧する環状受圧部材5によって上限位置を保持されたグリップ部材2に対して、ピストン部材42及びクランプロッド3を下降させることにより、そのクランプロッド3がグリップ部材2を拡径駆動させてワークの穴に係合させる」構成が記載されているが、その構成以外の記載は無く示唆もなく、また、段落【0055】には、クランプ駆動の後期において、概略、「アンクランプ用油室46の油圧をドレン圧まで低下させると、ピストン部材42には下方向きの大きな油圧力が作用し、グリップ部材2とクランプロッド3とは相対移動不能であるため、図3に示すように、ピストン部材42とグリップ部材2とクランプロッド3と環状受圧部材5は一体的に下方へ駆動され、ワークWが着座面18に着座し、強く押圧されたクランプ状態になって停止する。」と記載され、それ以外の記載は無く示唆もないのに対し、本件特許発明1では、上記の油圧シリンダ4に相当する流体圧シリンダについて、「グリップ部材とクランプロッドとを軸心方向へ進退駆動可能な流体圧シリンダ」と定義しているだけであり、その流体圧シリンダが、グリップ部材とクランプロットとの両者を同じ方向へ駆動するのか、それとも、異なる方向へ駆動するのかが不明であり、そのうえ、上記の流体圧シリンダが、上記両者を直接に駆動するのか、それとも、上記両者のうちの一方を介して他方を間接的に駆動するのかも不明であるから、出願時の技術常識に照らしても、本件特許の「発明の詳細な説明」に開示された内容を本件特許発明1の「流体圧シリンダ」の範囲まで拡張または一般化できるとはいえない旨を主張するとともに、平成22年6月25日付けの口頭審理陳述要領書の(2(原文はローマ数字小文字の2を表記。))(1)において、本件特許発明1には、油圧力によってグリップ部材2を「所定の力」で上限位置に保持すると共に上記「所定の力」よりも大きな力によってクランプロッド3を引き下げるように油圧シリンダ4を構成することが何ら記載されておらず。本件特許の「発明の詳細な説明」に開示された内容を本件特許発明1の「流体圧シリンダ」の範囲まで拡張または一般化できるとはいえない旨を主張している。

(2)本件特許発明1においては「流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動」しているのだから、流体圧シリンダが、クランプロットを介してグリップ部材を同じ方向へ駆動することは明らかである。
また、上記第6-1 3.(2)で述べたように本件特許発明1は「流体圧シリンダによりクランプロッドを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させ」る行程において、クランプロッドとグリップ部材とが相対的に移動し、その結果としてグリップ部材が拡径してワークの穴の内周面をクリップすることでグリップ部材にクランプ力を発生させているのだから、本件特許発明1においては上記行程において、まず、流体圧シリンダにより、クランプロッドとグリップ部材とが相対的に移動し、その結果としてグリップ部材が拡径してワークの穴の内周面をクリップし、その後、クランプロットを介してグリップ部材を同じ方向へ駆動することは明らかである。
そして、本件特許発明1における「流体圧シリンダ」としては、クランプロッドとグリップ部材とが相対的に移動し、その結果としてグリップ部材が拡径してワークの穴の内周面をクリップし、その後、クランプロットを介してグリップ部材を同じ方向へ駆動するものであれば十分であるのだから、本件特許明細書の「発明の詳細な説明」に上記構成以外の記載は無く示唆もないからといって、本件特許の「発明の詳細な説明」に開示された内容を本件特許発明1の「流体圧シリンダ」の範囲まで拡張または一般化することはできないとはいえない。


3.「クランプ不良」及び「クランプ不良検出手段」について
(1)請求人は審判請求書の(5-2)(2(原文はローマ数字小文字の2を表記。))(c)において、本件特許発明1では、「クランプ不良」に関し「流体圧シリンダによりクランプロットを介してグリップ部材をクランプ方向へ駆動してワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良を検出するクランプ不良検出手段」とされているが、流体圧シリンダによって駆動されるグリップ部材がワークに係合してその係合状態で当該ワークを強制的に着座面に着座させるのか、それとも、上記グリップ部材がワークに係合せずにその非係合状態でグリップ部材とは別の何らかの力が上記ワークを着座面に着座させるのかが不明であり、「ワークを着座面に着座させた状態におけるクランプ不良」なる概念及び「クランプ不良」を検出する「クランプ不良検出手段」の意義も不明確であるから、「クランプ不良」及び「クランプ不良検出手段」に関し、発明の詳細な説明に発明として記載したものと本件特許発明1とが対応してない旨を主張している。

(2)しかしながら、第6-1 4.で述べたように、本件特許発明1はクランプロッドを着座面側へ引き付けることで、テーパ軸部によりグリップ爪を拡径させて穴の内周面に係合させてから、そのグリップ部材を更に着座面側へ引き付けることで、ワークを着座面に固定するものであり、また、本件特許発明1においては、流体圧シリンダによって駆動されるグリップ部材がワークに係合してその係合状態で当該ワークを強制的に着座面に着座させる状態であってワークをクランプする力が十分である状態が正規のクランプ状態を意味し、上記グリップ部材がワークに係合せずにその非係合状態でグリップ部材とは別の何らかの力が上記ワークを着座面に着座させる状態や、ワークをクランプする力が十分でない状態が「クランプ不良」の状態であることは明らかであり、上記「クランプ不良」を検出する「クランプ不良検出手段」も明らかである。
一方、本件特許明細書の段落【0052】ないし【0055】には、
「【0052】
以上のクランプ装置Cの作用、効果について説明する。
クランプ装置CによりワークWを固定する場合、先ず最初に、クランプ用油室45とアンクランプ用油室46にほぼ同圧の油圧を供給する。すると、ピストン部材42におけるクランプ用油室45の受圧面積よりもアンクランプ用油室46の受圧面積の方が大きいため、図2に示すように、ピストン部材42は上限位置まで上昇して停止状態となる。また、環状受圧部材5はクランプ用油室45の油圧を受圧するため上限位置を保持し、グリップ部材2も上限位置を保持し、ワーク搭載面22が着座面18よりも僅かに高い位置を維持する。
【0053】
この状態において、ワークWを投入して、図2に示すように、ワークWの穴Hにグリップ部材2とクランプロッド3とを挿入し、ワークWをワーク搭載面22で支持する。この
ように、最初はワークWを着座面18よりも高い位置にあるワーク搭載面22で支持し、その後クランプ状態ではワークを着座面18で支持するように構成したので、ワーク投入時に着座面18がワークWで傷つけられることを防止でき、また、クランプ前から着座センサ80が作動することがなく、ワークWが着座面18に着座し所期のクランプ力で固定されたときに着座センサ80が作動するようになるため、着座センサ80の信頼性を高めることができる。
【0054】
次に、アンクランプ用油室46の油圧をクランプ用油室45の油圧よりも低い所定の油圧に切換え、ピストン部材42に下方向きのある程度強い所定の油圧力を作用させる。すると、クランプ用油室45の油圧を受圧する環状受圧部材5は、前記と同様に上限位置を保持し、グリップ部材2も上限位置を保持するが、ピストン部材42には下方向きの油圧力が作用し、ピストン部材42が下方へ駆動されるため、グリップ部材2に対して相対的に下方へ移動する。
【0055】
その結果、クランプロッド3のテーパ軸部31によりグリップ部材2のグリップ爪部24が拡径駆動されて、ワークWの穴Hの内周面に食いついて係合状態になる。この状態において、アンクランプ用油室46の油圧をドレン圧まで低下させると、ピストン部材42には下方向きの大きな油圧力が作用し、グリップ部材2とクランプロッド3とは相対移動不能であるため、図3に示すように、ピストン部材42とグリップ部材2とクランプロッド3と環状受圧部材5は一体的に下方へ駆動され、ワークWが着座面18に着座し、強く押圧されたクランプ状態になって停止する。」
と記載されており、また、段落【0060】及び【0061】には、
「【0060】
ところで、ワークWが鋳造品で、その穴Hの直径が一定でなく、下方程大径化するような穴Hである場合、また、ワークWが硬い金属材料製である場合など、アンクランプ用油室46の油圧をドレン圧にして、ピストン部材42等を下降駆動させ始めた時に、グリッ
プ爪部24が穴Hの内周面に対し相対的に下方へスリップすることがある。
【0061】
この場合、図5,図6に示すように、ワークWが着座面18に着座するものの、環状受圧部材5が下限位置まで下降するため、クランプ不良検出機構100の弁機構が開弁状態になり、エア通路82,104のエア圧が上昇せず、着座センサ80の圧力スイッチ84がオンしないため、ワークWが正しくクランプされていないことを検知することができる。この場合、ワークWは不完全なクランプ状態になっており、十分なクランプ力が発生していない。クランプ不良検出機構100のエア供給系を着座センサ80のエア供給系と共通に構成したため、エア供給系が簡単になる。」と記載されているように、本件特許明細書の発明の詳細な説明にはピストン部材42が下方へ駆動されるため、グリップ部材2に対して相対的に下方へ移動し、その結果、クランプロッド3のテーパ軸部31によりグリップ部材2のグリップ爪部24が拡径駆動されて、ワークWの穴Hの内周面に食いついて係合状態になり、この状態において、ピストン部材42には下方向きの大きな油圧力が作用し、グリップ部材2とクランプロッド3とは相対移動不能であるため、ピストン部材42とグリップ部材2とクランプロッド3と環状受圧部材5は一体的に下方へ駆動され、ワークWが着座面18に着座し、強く押圧されたクランプ状態になって停止するものにおいて、ワークWが鋳造品で、その穴Hの直径が一定でなく、下方程大径化するような穴Hである場合、また、ワークWが硬い金属材料製である場合など、グリップ爪部24が穴Hの内周面に対し相対的に下方へスリップすることがあり、このような場合にクランプ不良検出機構100によりワークWが正しくクランプされていないことを検知することが記載されているのだから、「クランプ不良」及び「クランプ不良検出手段」に関し、発明の詳細な説明に発明として記載したものと本件特許発明1とは対応しているといえる。


4.「連動部材」について
(1)請求人は審判請求書の(5-2)(2(原文はローマ数字小文字の2を表記。))(d)において、本件特許発明1において、「連動部材」は、「クランプ部材と一体的に流体圧シリンダの軸心方向へ移動する連動部材」と定義されているが、上記クランプ部材と連動部材との両部材が常に合体した状態で相対移動なしで移動するのか、それとも、上記の両部材が相対的に移動することかあり得るのかが不明であり、上記の連動部材の構成および技術的意義を特定できないから、「連動部材」に関し、「発明の詳細な説明」に発明として記載したものと本件特許発明1とが対応してない旨を主張している。

(2)上記第6-1 5.にて述べたように本件特許発明1における「クランプ部材と一体的に流体圧シリンダの軸心方向へ移動する連動部材」との定義は、本件特許発明1の発明特定事項である「連動部材」がクランプ部材と一体的に流体圧シリンダの軸心方向へ移動することを述べただけのことであり、両部材が常に合体した状態で相対移動なしで移動するのか、それとも、上記の両部材が相対的に移動することかあり得るのかに関わらず、上記の連動部材の定義は不明確なものではない。
一方、本件特許明細書の段落【0043】には
「【0043】
図1?図3に示すように、環状受圧部材5は、受圧筒部61と、この受圧筒部61の上端に連なる水平板部62とを有し、この水平板部62の上面にグリップ部材2の基端鍔部26が載置されてグリップ部材2の基端面が支持されている。水平板部62の中心部の円形穴63に、クランプロッド3の大径ロッド部33が遊嵌状に挿通しており、水平板部62の外周部には、受圧筒部61よりも僅かに大径の係止鍔62aが形成されている。下部本体部材12には、シリンダ穴41の上端に連なるシリンダ穴41より小径の上部シリンダ穴64が形成されている。尚、環状受圧部材5が前記グリップ部材2と一体的に油圧シリンダ4の軸心方向へ移動する「連動部材」に相当する。」
と記載されているように、発明の詳細な説明には「連動部材」に相当する環状受圧部材5がグリップ部材2と一体的に油圧シリンダ4の軸心方向へ移動するものが記載されているのだから、「連動部材」に関し、発明の詳細な説明に発明として記載したものと本件特許発明1とは対応しているといえる。


5.小括
以上のように、本件特許の「発明の詳細な説明」に開示された内容を本件特許発明1における「グリップ部材」、「クランプロッド」及び「流体圧シリンダ」の範囲まで拡張ないし一般化できるものであり、かつ、本件特許発明1における「クランプ不良」、「クランプ不良検出手段」及び「連動部材」に関し、発明の詳細な説明に発明として記載したものと対応するものであるから、本件特許における願書に添付した特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合している。



第6-3 無効理由2に対するまとめ
上記第6-1及び第6-2より、本件特許における願書に添付した特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に適合するものではなく、本件特許発明1ないし7は特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1ないし7についての特許は同法第123条第1項第4号に該当し無効とされるべきであるとする請求人の主張には理由がない。




第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1ないし7についての特許を無効とすることはできない。
また、他に本件特許発明1ないし7についての特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-20 
結審通知日 2010-08-24 
審決日 2010-09-08 
出願番号 特願2008-34921(P2008-34921)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B23Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 陽介  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 加藤 友也
大谷 謙仁
登録日 2009-04-24 
登録番号 特許第4297511号(P4297511)
発明の名称 クランプ装置  
代理人 荒川 伸夫  
代理人 佐々木 眞人  
代理人 森田 俊雄  
代理人 吉田 昌司  
代理人 高橋 智洋  
代理人 深見 久郎  

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