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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1225945
審判番号 不服2009-11579  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-24 
確定日 2010-10-29 
事件の表示 特願2000-400244「画像形成装置及び画像形成制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月16日出願公開、特開2002-200821〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯

本願は、平成12年12月28日の出願であって、平成21年3月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月24日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に明細書に係る手続補正がなされた後、審査官により作成された前置報告書について審尋がなされたところ、審判請求人から平成22年4月26日付けで回答書が提出されたものである。
さらに、当審において平成22年6月11日付けで、拒絶理由通知がなされ、それに対して、同年8月13日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2.記載要件に関して(平成14年改正前特許法第36条第4項)

1.当審からの拒絶理由の内容
当審からの記載不備に関する拒絶の理由(理由1)は次のとおりである。


<理由1>
この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



1.本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。以下同じ。)
『【0025】S44でジョブ保留処理を行った後、S45で出力ページを調べ、変数PAGEが1以下であり、1ページも出力していないことが判明した場合には、S46において印刷部6を解放し、次のジョブの受け入れを可能とする。すなわち、この場合には後続のジョブが当該ジョブを追い越して実行されることになる。排紙されるビンにはまだ1枚も用紙が排出されていないので、複数のジョブによって画像形成された用紙が重なることはない。』

『【0033】S44でジョブ保留処理を行った後、S45で出力ページを調べ、変数PAGEが1以下であり、1ページも出力していないことが判明した場合には、S46において印刷部6を解放し、次のジョブの受け入れを可能とする。すなわち、この場合には後続のジョブが当該ジョブを追い越して実行されることになる。排紙されるビンにはまだ1枚も用紙が排出されていないので、複数のジョブによって画像形成された用紙が重なることはない。』

『【0036】このような印刷処理によって、印刷ジョブが何らかの資源不足で停止した場合、用紙が排出されるビンに途中のページまでの用紙が存在する状態で、後続の印刷ジョブにより画像形成された用紙が排出され、重なり合うといった不具合を防止することができる。もちろん、ビンに1ページも用紙が排出されていない場合や他のビンを使用する場合には、後続のジョブが先行するジョブを追い越して実行されるので、装置を有効に利用することができる。特にビンが用紙フルとなって停止した場合でも、後続のジョブを実行することができるので、印刷処理が停止する時間を低減することができ、生産性を向上させることができる。』

また、請求項1の記載は、下記のとおりである。
『複数の印刷データを受信して処理可能な画像形成装置において、用紙を排出するための複数のビンを有し前記印刷データに基づいて画像を形成する画像形成手段と、前記印刷データを処理するのに必要な資源を調べて印刷データの処理可能性を判断するとともに先行する印刷データの印刷状況を判断し前記処理可能性及び前記印刷状況の判断結果に応じて前記印刷データの印刷順序を制御するジョブ制御手段を有し、前記ジョブ制御手段は、前記印刷データを処理するのに必要な資源が不足した時点で1ページも画像形成していない場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要なビンが使用できなくなった時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合には当該印刷データを保留として当該使用できなくなったビン以外の資源を利用する他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要なビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合には前記画像形成手段を解放せずに資源の回復を待つように制御することを特徴とする画像形成装置。』

してみると、請求項1に係る発明において、「前記印刷データを処理するのに必要なビンが使用できなくなった時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合には当該印刷データを保留として当該使用できなくなったビン以外の資源を利用する他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要なビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合には前記画像形成手段を解放せずに資源の回復を待つように制御」することの目的(技術上の意義)は、上記段落【0033】の記載によれば、「複数のジョブによって画像形成された用紙が重なることはない。」ということのようである。
しかしながら、「複数のビン」を有することを前提として、「前記印刷データを処理するのに必要な資源が不足した時点で1ページも画像形成していない場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御」できる、請求項1に係る発明は、「前記印刷データを処理するのに必要なビンが使用できなくなった時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合」であっても、「前記印刷データを処理するのに必要なビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合」であっても、空いているビンが使用可能であるから、「前記印刷データを処理するのに必要なビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合には前記画像形成手段を解放せずに資源の回復を待つ」ことの技術上の意義が不明である。

以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願に係る発明の技術上の意義を当業者が理解できる程度に記載したものということはできないから、特許法第36条第4項の経済産業省令で定めるところにより記載されたものであるということはできない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1?4に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではなく、本願は、特許法第36条第4項の規定する要件に違反しているから、特許を受けることができない。


2.請求人の反論(平成22年8月13日付け意見書)
上記拒絶理由に対して、請求人は意見書において、以下のとおり反論している。(下線は、当審で付した。以下同じ。)


(2-2)理由1について
理由1の要点は、印刷データを処理するのに必要なビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合に、空いているビンが使用可能であるにもかかわらず、画像形成手段を解放せずに資源の回復を待つことの技術上の意義が不明とのことと思料する。
ご指摘は、ビン以外の資源が不足した場合についてであるので、ビンはいずれも使用可能な状態である。この状態で「画像形成手段を解放」した場合、不足状態となった資源以外はすべて使用可能となる。そのため、正常に機能しているビンは、使用していたビンも含め、いずれも使用可能な状態となる。例えば1ページも画像形成していなければ、使用するとして確保したビンを解放して同じビンを他の印刷データで使用しても、もともと画像形成結果が存在しないのであるから複数の印刷データの画像形成結果が重なることはない。しかし、1ページ以上の画像形成を行った後に、このビンを解放してしまうと、後続の印刷データで同じビンを指定していた場合には、別の印刷データが当該ビンを使用してしまい、よって異なる印刷データによる画像形成結果が重なってしまうことになる。
もちろん、ご指摘のように使用していたビン以外のビンを使用する印刷データについては問題は生じないが、「画像形成手段を解放」することによって、使用していたビンも他の印刷データが使用可能となってしまうことから、異なる印刷データによる画像形成結果が重なってしまう可能性がある。
このように、本願発明では資源の解放は「画像形成手段を解放」することによって行っている。そのため、ビン以外の資源が不足した場合に、1ページ以上の画像形成を行った状態で「画像形成手段を解放」してしまうと、異なる印刷データによる画像形成結果が重なってしまう。そのため、本願発明では、「ビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合には前記画像形成手段を解放せずに資源の回復を待つように制御」し、異なる印刷データによる画像形成結果が重ならないようにし、本願発明に特有の効果を奏しているのである。
以上説明したように、本願は特許法第36条第4項に規定されている要件を満たすものであるので、特許されるべきである。


また、同日付けの手続補正書により、特許請求の範囲は、
「 【請求項1】 印刷条件として排出するビンが指定された複数の印刷データを受信して処理可能な画像形成装置において、用紙を排出するための複数のビンを有し前記印刷データに基づいて画像を形成する画像形成手段と、前記印刷データを処理するのに必要な資源を調べて印刷データの処理可能性を判断するとともに先行する印刷データの印刷状況を判断し前記処理可能性及び前記印刷状況の判断結果に応じて前記印刷データの印刷順序を制御するジョブ制御手段を有し、前記ジョブ制御手段は、前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページも画像形成していない場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビンが使用できなくなった場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合には前記画像形成手段を解放せずに資源の回復を待つように制御することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】 前記ジョブ制御手段は、資源の不足により保留された印刷データについて、該印刷データを処理するのに必要な資源が回復した場合には、当該印刷データの保留状態を解除することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】 印刷条件として排出するビンが指定された複数の印刷データを受信し、画像形成手段を用いて画像形成処理を実行するように制御する画像形成制御方法において、ある印刷データの画像形成処理を実行中に該印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページも画像形成していない場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビンが使用できなくなった場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合には前記画像形成手段を解放せずに資源の回復を待つように制御することを特徴とする画像形成制御方法。
【請求項4】
資源の不足により保留された印刷データについて、該印刷データを処理するのに必要な資源が回復した場合には、当該印刷データの保留状態を解除することを特徴とする請求項3に記載の画像形成制御方法。」と補正された。

3.当審の判断
(1)請求人は、『「画像形成手段を解放」することによって、使用していたビンも他の印刷データが使用可能となってしまうことから、異なる印刷データによる画像形成結果が重なってしまう可能性がある。』と主張する。
しかしながら、請求項1には、『印刷条件として排出するビンが指定された複数の印刷データを受信して処理可能な画像形成装置』とあるとおり、印刷データ毎に排出するビンが指定されており、印刷データの処理が終了する毎に画像形成手段は解放されるのであり、ユーザの利便性を考慮すれば、当然、異なる印刷データによる画像形成結果が重なることがないようにすべきであるから、『前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合』であっても、『異なる印刷データによる画像形成結果が重なってしまう』ことは起こりえないというべきである。
したがって、請求人の上記主張には首肯できない。

(2)さらに、請求項1に記載の『前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビンが使用できなくなった場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御し』の『前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビンが使用できなくなった場合』には、『1ページ以上の画像形成を行っていた場合』と『1ページも画像形成していない場合』が包含されるから、『前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビンが使用できなくなった場合』であって、『1ページ以上の画像形成を行っていた場合』には、『当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御』する、すなわち、「空いているビンを使用することとなる」のに対して、『前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合には前記画像形成手段を解放せずに資源の回復を待つように制御する』、すなわち、「空いているビンを使用せずに、資源の回復を待たねばならない」とする、この両者の違いの合理性及び技術上の意義を理解することができない。

(3)以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願に係る発明の技術上の意義を当業者が理解できる程度に記載したものということはできないから、特許法第36条第4項の経済産業省令で定めるところにより記載されたものであるということはできない。

4.まとめ
以上のとおりであるから、本願は、平成14年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。


第3.進歩性に関して(特許法第29条第2項)

上記「第2.」で検討したとおり、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないが、予備的に請求項1に係る発明の進歩性についても検討しておく。

1.本願発明について
本願の発明は、平成22年8月13日付けの手続補正書にて補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたものと一応認める。
そして、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「印刷条件として排出するビンが指定された複数の印刷データを受信して処理可能な画像形成装置において、用紙を排出するための複数のビンを有し前記印刷データに基づいて画像を形成する画像形成手段と、前記印刷データを処理するのに必要な資源を調べて印刷データの処理可能性を判断するとともに先行する印刷データの印刷状況を判断し前記処理可能性及び前記印刷状況の判断結果に応じて前記印刷データの印刷順序を制御するジョブ制御手段を有し、前記ジョブ制御手段は、前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページも画像形成していない場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビンが使用できなくなった場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合には前記画像形成手段を解放せずに資源の回復を待つように制御することを特徴とする画像形成装置。」

2.引用された刊行物記載の発明
(刊行物1について)
これに対して、特開平10-836号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1-a)「【請求項1】 複数の排紙部を一体的にまたは装置本体とは独立して有し、遠隔地にあるパソコンなどの上位装置から送られるデータに基づき画像を出力する複写システム装置において、
上位装置からの遠隔操作により所定のジョブの画像を出力中にそのジョブで指定されたサイズの用紙が無くなったとき、その後に予約されているジョブを確認し、当該用紙サイズ以外のジョブがあったら新たなサイズの用紙が積載されている給紙装置を指定してそのジョブを実行し、前記ジョブと別の排紙部に用紙を排紙する制御が実行されることを特徴とする複写システム装置。
【請求項2】 請求項1記載において、途中で用紙切れになったジョブに続くジョブの処理中に用紙切れとなった用紙が補給された場合、そのジョブの終了後に、中断していたジョブに自動復帰する制御が実行されることを特徴とする複写システム装置。」

(1-b)「【0019】次に、遠隔操作による出力か、即ち、パソコン3からのデータ入力による出力か否か判断する(S3)。遠隔操作による出力でなければ(S3でN)、リターンする。遠隔操作による出力の場合は(S3でY)、当該ジョブ実行中に用紙切れが発生したか否か判断する(S4)。用紙切れがなければ(S4でN)、通常通りジョブが実行される。
【0020】ここで、用紙切れが発生したとき(S4でY)、例えば、パソコン3からホストコンピュータ2を経由して、複写機1に文字や画像データを送り、給紙装置6-6にセットされているA4横の用紙にこの文字や画像データを複写し、複写済みの用紙を用紙排紙装置11の第2の排紙トレイ13に排紙しているときに給紙装置6-6に入っている用紙が無くなり、かつ同サイズの用紙がセットされている給紙装置6-1にも用紙が無かったときは、パソコン3に用紙切れを連絡する。
【0021】そして、次のジョブが入っているか否か判断する(S5)。次のジョブが入っていなければ(S5でN)、リターンする。次のジョブが入っていれば(S5でY)、ジョブ内容を確認する(S6)。
【0022】そして次のジョブの用紙が前のジョブの用紙と異なるときは(S7でY)、次のジョブの用紙を排紙することができる排紙トレイがあるかどうか判断する(S8)。例えば、用紙切れとなったジョブの指令がパソコン3-1から出力されており、パソコン3-2から出力される次のジョブがA3縦の用紙(給紙装置6-3にセット)を要求している場合は、この縦方向のA3の用紙を排紙することができる排紙トレイがあるか否か判断する。
【0023】そして、A3縦の用紙が用紙排紙装置11の第1の排紙トレイ12に排紙可能であれば、この第1の排紙トレイ12を指定して出力を開始する(S10)。即ち、次のジョブを実行し、複写済みのA3縦の用紙を第1の排紙トレイ12に排紙する。
【0024】次に、再度パソコン3-1の中断されたジョブで用いられるA4横の用紙が給紙装置6-6あるいは6-1に補給されたか否か判断する(S11)。補給されていなければ(S11でN)、リターンする。A4横の用紙が補給されていれば、パソコン3-2による現在実行中のジョブが終了した時点で(S12でY)、パソコン3-1からの中断されたジョブを自動的に再開し、A4横用紙を用紙排紙装置11の第2の排紙トレイ13に排紙する(S13)。
【0025】もし未だ補給されていなかったらまた次のジョブを確認し、前記で説明した条件に合うジョブならそのジョブを開始する。このとき、パソコン3-1からのジョブがステイプル処理などの処理を行っておらず、複写機1に出力画像を90度回転させる機能が付いているなら、次のジョブを開始する前に、給紙装置6-2に入っているA4縦の用紙を利用してパソコン3-1からのジョブを終了させてから次のジョブを行ってもよい。前記の説明した給紙装置の用紙サイズの設定は、ユーザが好みに応じて行うことができる。
【0026】本発明の実施の形態によれば、パソコンなどの遠隔部から画像を出力中に出力サイズの用紙が無くなったら、その後に予約されているジョブの出力ジョブを確認し、無くなった用紙サイズ以外のジョブがあったら、前記ジョブと別の排紙トレイに出力するようになっているので、用紙切れによる出力待ち時間が少なくなり、効率のよい作業を提供できる。」

(1-c)図4として、






上記の事項を総合すると、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下「刊行物1発明」という。)

「複数の排紙部を一体的にまたは装置本体とは独立して有し、遠隔地にあるパソコンなどの上位装置から送られるデータに基づき画像を出力する複写システム装置であって、
上位装置からの遠隔操作により所定のジョブの画像を出力中にそのジョブで指定されたサイズの用紙が無くなったとき、そのジョブを中断して、その後に予約されているジョブを確認し、当該用紙サイズ以外のジョブがあったら新たなサイズの用紙が積載されている給紙装置を指定してそのジョブを実行し、前記ジョブと別の排紙部に用紙を排紙する制御が実行され、
途中で用紙切れになったジョブに続くジョブの処理中に用紙切れとなった用紙が補給された場合、そのジョブの終了後に、中断していたジョブに自動復帰する制御が実行される、複写システム装置。」

(刊行物2について)
また、特開平11-224170号公報(以下「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。

(2-a)「【0076】次に、上述した(2)排出先が一杯であるとか、出力する用紙の紙切れがおきた時などにより処理が停止する場合には、該当するジョブの処理順序を後に変更する場合の実施例について説明する。
【0077】図13は、本発明に係わる画像データ印刷装置1における印刷処理前に排出不可能を判断して印刷順序の変更を行う場合の処理動作を示すフローチャートである。
【0078】図13において、この処理を開始するには、まず、画像データ印刷装置1では、主制御部18の制御のもと、ジョブ管理制御部15が、ジョブを受付けた時あるいはジョブが終了した時などのジョブの処理順序に変化がおきた場合に、印刷順序の先頭のデータをチェックする(ステップ501)。
【0079】この時、この先頭のデータの属性情報から「排出する用紙枚数」情報を得ると共に、このデータの排出先トレイの「排出可能用紙枚数」情報を得て、両者を比較判定する(ステップ502)。
【0080】この比較判定の結果、排出先トレイの排出可能用紙枚数より印刷処理するデータの排出用紙枚数の方が少ないと判定された場合(ステップ503NO)、この処理を終了する。
【0081】一方、上記比較判定の結果、排出先トレイの排出可能用紙枚数より印刷処理するデータの排出用紙枚数の方が多いと判定された場合は(ステップ503YES)、このデータの印刷順序を後にするよう変更し(ステップ504)、この処理を終了する。
【0082】図14は、本発明に係わる画像データ印刷装置1での印刷処理の途中で排出不可能になった場合の印刷順序の変更処理動作を示すフローチャートである。
【0083】図14において、この処理を開始する場合、まず、画像データ印刷装置1では、あるデータの排出途中で排出先が一杯になると(ステップ601)、主制御部18の制御のもと、ジョブ管理制御部15が、該当するデータの印刷処理を一時停止し、他の排出先へ排出可能な設定であるかどうかをチェックする(ステップ602)。
【0084】このチェックの結果、他の排出先へ排出可能な設定であると判定された場合(ステップ603YES)、排出先を変更し続けて印刷処理を再開し(ステップ605)、この処理を終了する。
【0085】一方、上記チェックの結果、他の排出先へ排出可能な設定でないと判定された場合(ステップ603NO)、該当するデータの印刷処理を中断し、該当するデータの印刷順序を後に変更し(ステップ604)、この処理を終了する。
【0086】このような構成によると、印刷対象画像データの印刷用紙枚数と、当該印刷用紙を排出する排出先トレイの収容可能用紙枚数とを比較判定し、比較判定の結果、排出先トレイの収容可能用紙枚数より当該印刷対象画像データの印刷用紙枚数が多いと判定された場合、あるいは印刷実行中に、当該印刷用紙を排出する排出先トレイが一杯になった場合、当該画像データの印刷順序を下げるように変更制御するようにしたため、例えば、複数の排出先トレイを持っている装置で、あるトレイが一杯に近い状態で更に出力を行うとトレイが一杯になり処理が停止してしまう場合でも、該当するデータの印刷ジョブの処理順序を後に変更することで、排出可能なトレイへの印刷ジョブを先に処理することができ、それにより、より効率良く装置を利用することができる。
【0087】図15は、本発明に係わる画像データ印刷装置1での用紙紙切れで排出不可能になった場合の印刷順序の変更処理動作を示すフローチャートである。
【0088】図15において、この処理を開始する場合、画像データ印刷装置1では、まず、あるデータの印刷処理の途中で、使用する用紙が紙切れになると(ステップ701)、主制御部18の制御のもと、該当するデータの印刷処理を一時停止する(ステップ702)。
【0089】そして、ジョブ管理制御部15が、中断した画像データの処理順序を後に変更し(ステップ703)、この処理を終了する。
【0090】この構成によると、印刷実行中に、当該印刷用紙の用紙切れが発生した場合、当該画像データの印刷順序を下げるように変更制御するようにしたため、印刷中データの用紙切れが発生した場合でも、この印刷中データの印刷順序を下げることで、他の印刷可能なデータの印刷を行うことができ、それにより、より効率良く装置を利用することができる。」

(2-b)図14として、





上記の事項を総合すると、刊行物2には、以下の発明(以下「刊行物2発明」という。)が開示されていると認められる。

「印刷データを処理するのに必要なビンが使用できなくなった場合に当該印刷データを保留として当該使用できなくなったビン以外の資源を利用する他の印刷データが追い越して処理されるように制御する、画像データ印刷装置。」


3.対比
本願発明と刊行物1発明と対比する。
(1)刊行物1発明の「排紙部」、「データ」、「複写システム装置」及び「そのジョブを中断して、その後に予約されているジョブを確認し、当該用紙サイズ以外のジョブがあったら新たなサイズの用紙が積載されている給紙装置を指定してそのジョブを実行し、前記ジョブと別の排紙部に用紙を排紙する制御」する構成は、それぞれ、
本願発明の「ビン」、「印刷データ」、「画像形成装置」、及び、「印刷データを保留とし、画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御」する構成に相当する。

(2)刊行物1発明の「複数の排紙部を一体的にまたは装置本体とは独立して有し、遠隔地にあるパソコンなどの上位装置から送られるデータに基づき画像を出力する複写システム装置」と、
本願発明の「『用紙を排出するための複数のビンを有し前記印刷データに基づいて画像を形成する画像形成手段』を有する『印刷条件として排出するビンが指定された複数の印刷データを受信して処理可能な画像形成装置』」とは、
「『用紙を排出するための複数のビンを有し前記印刷データに基づいて画像を形成する画像形成手段』を有する『複数の印刷データを受信して処理可能な画像形成装置』」で共通する。

(3)刊行物1発明の「そのジョブを中断して、その後に予約されているジョブを確認し、当該用紙サイズ以外のジョブがあったら新たなサイズの用紙が積載されている給紙装置を指定してそのジョブを実行し、前記ジョブと別の排紙部に用紙を排紙する制御」する構成は、
本願発明の「印刷データを保留とし、画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御」する構成に相当するから、
刊行物1発明の「上位装置からの遠隔操作により所定のジョブの画像を出力中にそのジョブで指定されたサイズの用紙が無くなったとき、そのジョブを中断して、その後に予約されているジョブを確認し、当該用紙サイズ以外のジョブがあったら新たなサイズの用紙が積載されている給紙装置を指定してそのジョブを実行し、前記ジョブと別の排紙部に用紙を排紙する制御が実行され、途中で用紙切れになったジョブに続くジョブの処理中に用紙切れとなった用紙が補給された場合、そのジョブの終了後に、中断していたジョブに自動復帰する制御が実行される」構成と、
本願発明の「前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページも画像形成していない場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビンが使用できなくなった場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合には前記画像形成手段を解放せずに資源の回復を待つように制御する」構成とは、
「印刷データを処理するのに必要な資源が不足した場合に、前記印刷データを保留とし、画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御が可能な」構成で共通する。

(4)刊行物1発明の「上位装置からの遠隔操作により所定のジョブの画像を出力中にそのジョブで指定されたサイズの用紙が無くなったとき、そのジョブを中断して、その後に予約されているジョブを確認し、当該用紙サイズ以外のジョブがあったら新たなサイズの用紙が積載されている給紙装置を指定してそのジョブを実行し、前記ジョブと別の排紙部に用紙を排紙する制御」する構成において、「上位装置からの遠隔操作により所定のジョブの画像を出力中にそのジョブで指定されたサイズの用紙が無くなったとき」とは、「先行する印刷データの印刷状況を判断」した結果であり、「その後に予約されているジョブを確認し、当該用紙サイズ以外のジョブがあったら」とは、「印刷データを処理するのに必要な資源を調べて印刷データの処理可能性を判断」した結果であるから、刊行物1発明においても、「前記印刷データを処理するのに必要な資源を調べて印刷データの処理可能性を判断するとともに先行する印刷データの印刷状況を判断し前記処理可能性及び前記印刷状況の判断結果に応じて前記印刷データの印刷順序を制御するジョブ制御手段」を有しているといえる。

(5)上記(1)?(4)から、
本願発明と、刊行物1発明とは、
「複数の印刷データを受信して処理可能な画像形成装置において、
用紙を排出するための複数のビンを有し前記印刷データに基づいて画像を形成する画像形成手段と、
前記印刷データを処理するのに必要な資源を調べて印刷データの処理可能性を判断するとともに先行する印刷データの印刷状況を判断し前記処理可能性及び前記印刷状況の判断結果に応じて前記印刷データの印刷順序を制御するジョブ制御手段を有し、
印刷データを処理するのに必要な資源が不足した場合に、前記印刷データを保留とし、画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御が可能な、画像形成装置。」の点で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:
「印刷データ」に関して、
本願発明は、「印刷データ」が「印刷条件として排出するビンが指定された」ものであるのに対して、
刊行物1発明には、そのような特定がない点。

相違点2:
「ジョブ制御手段」による「制御」に関して、
本願発明は、「前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページも画像形成していない場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビンが使用できなくなった場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合には前記画像形成手段を解放せずに資源の回復を待つように制御する」のに対して、
刊行物1発明は、「上位装置からの遠隔操作により所定のジョブの画像を出力中にそのジョブで指定されたサイズの用紙が無くなったとき、そのジョブを中断して、その後に予約されているジョブを確認し、当該用紙サイズ以外のジョブがあったら新たなサイズの用紙が積載されている給紙装置を指定してそのジョブを実行し、前記ジョブと別の排紙部に用紙を排紙する制御が実行され、途中で用紙切れになったジョブに続くジョブの処理中に用紙切れとなった用紙が補給された場合、そのジョブの終了後に、中断していたジョブに自動復帰する制御が実行される」ものであって、「1ページ以上の画像形成を行っていたか否か」、「不足する資源が印刷条件として指定されたビンかそれ以外か」による制御を有していない点。

4.当審の判断
上記相違点1ないし2について検討する。
(1)相違点1について
画像形成装置において、ユーザ毎やジョブ毎に、排出するビンを指定することは文献等を提示するまでもなく従来周知の技術であるから、「印刷条件として排出するビンが指定された」「印刷データ」とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

(2)相違点2について
ア まず、刊行物2には、「印刷データを処理するのに必要なビンが使用できなくなった場合に当該印刷データを保留として当該使用できなくなったビン以外の資源を利用する他の印刷データが追い越して処理されるように制御する、画像データ印刷装置。」が記載されている(上記「2.」参照。)。

イ そして、刊行物1発明と刊行物2発明は、ともに、「印刷データの処理可能性及び先行する印刷データの印刷状況の判断結果に応じて印刷データの印刷順序を制御するジョブ制御手段を備えた画像形成装置」で共通するから、刊行物1発明において、「印刷データを処理するのに必要な資源」として「ビン」を調べるとともに、「印刷データを処理するのに必要なビンが使用できなくなった場合に当該印刷データを保留として当該使用できなくなったビン以外の資源を利用する他の印刷データが追い越して処理されるように制御する」こと、すなわち、「前記印刷データを処理するのに必要な(前記印刷条件として指定された)ビンが使用できなくなった場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御」することは、当業者が刊行物2発明に基づいて容易に適宜なし得たことである。

ウ さらに、「印刷条件として排出するビンが指定された複数の印刷データを受信して処理」する際に、「前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページも画像形成していない場合」か、それとも、「前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合」かによって、該ビンに排出されているか否か、すなわち、該ビンが他のジョブのビンとして利用できるか否かが決まるのであるから、このような判断条件を採用するとともに、その判断結果によって他の印刷データの追い越し処理としたり、資源の回復待ちとしたりするなどの制御を行うことは、当業者が適宜なし得る設計的事項というべきである。

エ 上記イ及びウから、刊行物1発明において、「前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページも画像形成していない場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビンが使用できなくなった場合には当該印刷データを保留とし、前記画像形成手段を解放して他の印刷データが追い越して処理されるように制御し、前記印刷データを処理するのに必要な前記印刷条件として指定されたビン以外の資源が不足した時点で1ページ以上の画像形成を行っていた場合には前記画像形成手段を解放せずに資源の回復を待つように制御する」ことは、当業者が刊行物2発明及び周知技術に基づいて適宜為し得たことである。

(3)本願発明が奏する効果について
本願発明の効果は、刊行物1?2に記載された事項及び周知技術から予測し得る程度のものであって、格別のものではない(上記「第2.3.」参照。)。

(4)まとめ
以上のとおり、本願発明は、当業者が刊行物1?2に記載された発明及び周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものである。


第4.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、かつ、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-30 
結審通知日 2010-09-01 
審決日 2010-09-14 
出願番号 特願2000-400244(P2000-400244)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
P 1 8・ 536- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松川 直樹貝沼 憲司  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 菅野 芳男
藏田 敦之
発明の名称 画像形成装置及び画像形成制御方法  
代理人 柳澤 正夫  

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