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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B |
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管理番号 | 1225973 |
審判番号 | 不服2007-31618 |
総通号数 | 132 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-11-22 |
確定日 | 2010-10-28 |
事件の表示 | 特願2002- 81299「粉末状セメント分散剤の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 2日出願公開、特開2003-277113〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成14年3月22日の出願であって、平成19年3月26日付けで拒絶理由が起案され(発送日は同年4月3日)、同年6月4日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月16日付けで拒絶査定が起案され(発送日は同年10月23日)、これに対し同年11月22日に拒絶査定不服審判が請求され、同年12月21日付けで手続補正書が提出され、平成22年5月20日付けで特許法第164条第3項に基づく報告書を引用した審尋が起案され(発送日は同年5月25日)、同年7月21日付けで回答書が提出されたものである。 2.平成19年12月21日付け手続補正についての補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成19年12月21日付け手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)を却下する。 [理由] (1)平成19年12月21日付け手続補正は、平成19年6月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲 「【請求項1】 下記のA成分を5?70質量%含有する水溶液を噴霧装置部分にノズルを備えた噴霧乾燥器に導入し、熱風入口温度150?250℃および熱風出口温度80?150℃の温度範囲で噴霧乾燥することを特徴とする粉末状セメント分散剤の製造方法: A成分:A1成分としてメタクリル酸又はその塩を50?72モル%、A2成分としてメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを25?40モル%及び(メタ)アリルスルホン酸塩を0.1?10モル%(A1成分とA2成分の合計100モル%)含み、かつ数平均分子量が2000?50000の水溶性ビニル共重合体。」を 「【請求項1】 下記のA成分を20?65質量%含有する水溶液を噴霧装置部分にノズルを備えた噴霧乾燥器に導入し、熱風入口温度160?230℃および熱風出口温度90?130℃の温度範囲で噴霧乾燥することを特徴とする粉末状セメント分散剤の製造方法: A成分:A1成分としてメタクリル酸又はその塩を50?72モル%、A2成分としてメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを25?40モル%及び(メタ)アリルスルホン酸塩を0.1?10モル%(A1成分とA2成分の合計100モル%)含み、かつ数平均分子量が3000?40000の水溶性ビニル共重合体。」と補正するものである。 特許請求の範囲に加えられた補正事項を検討すると、本件補正前の請求項1における特定事項である「A成分を5?70質量%含有する」、「熱風入口温度150?250℃」、「熱風出口温度80?150℃」及び「数平均分子量が2000?50000」をそれぞれ、「A成分を20?65質量%含有する」、「熱風入口温度160?230℃」、「熱風出口温度90?130℃」及び「数平均分子量が3000?40000」と補正するもので、発明を特定するために必要な事項であるA成分の含有量、熱風入口温度、熱風出口温度及び数平均分子量の範囲を限定することが目的であることは明らかであり、本件補正は、特許請求の範囲の減縮に該当する。 したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に規定する補正の要件を満たしているといえる。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものかについて検討する。 (i)原査定の拒絶の理由において引用された特開2001-72453号公報(以下、「引用文献1」という。)には次の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 下記の一般式(1)で表されるビニル系単量体(a)の一種以上と、下記の一般式(2)で表されるビニル系単量体(b)の一種以上とを、(a)/(b)=1/99?99/1のモル比で含有する単量体混合物を重合して得られる共重合体を必須成分とする水硬性組成物用の粉末状分散剤。 【化1】 H R_(1) \ / C=C (1) / \ H COO(AO)_(n)X (式中、 R1:水素原子又はメチル基 AO:炭素数2?4のオキシアルキレン基 n:平均付加モル数を示す2?300の数 X:水素原子又は炭素数1?3のアルキル基 を表す。) 【化2】 R_(3) R_(2) \ / C=C (2) / \ R_(4) COOM_(1) (式中、 R_(2)?R_(4):水素原子、メチル基又は(CH_(2))_(m)COOM_(2)M_(1)、M_(2):水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基又は置換アルキルアンモニウム基 m:0?2の整数 を表す。)」(特許請求の範囲) (イ)「本発明の一般式(1)で表されるビニル系単量体(a)は、分散性の観点から、アルキレンオキシド、好ましくはエチレンオキシド(以下EOという)を平均付加モル数で2?300、好ましくは110?300モル有するものであり、分散性の観点から、nが2?100のものとnが110?300のものの混合物が好ましい。 一般式(1)で表されるビニル系単量体(a)の例としては、片末端アルキル(炭素数1?3)封鎖ポリアルキレン(炭素数2?4)グリコール、例えばメトキシポリエチレングリコール、プロポキシポリエチレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、メトキシポリエチレン/ポリプロピレングリコール、メトキシポリブチレングリコール等の化合物、好ましくは式(1)中のAOがオキシエチレン基、更にはXがメチル基の化合物のアクリル酸、メタクリル酸エステル化物(a-1)や、アクリル酸、メタクリル酸へのEO付加物、プロピレンオキシド(以下PO)付加物、EO/PO付加物、ブチレンオキシド付加物(a-2)が挙げられ、好ましくは前者のエステル化物(a-1)である。EO、POの両付加物については、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれでも用いることができる。 また本発明の一般式(2)で示されるビニル系単量体(b)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸系単量体、無水マレイン酸、マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸系単量体が挙げられ、これらはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩、置換アルキルアンモニウム塩、例えばヒドロキシアルキルアンモニウム塩等として用いることもできる。好ましくはアクリル酸又はメタクリル酸であり、ナトリウム塩、カルシウム塩、トリエタノールアミン塩とするのがより好ましい。 本発明では、上記ビニル系単量体(a)、(b)を、流動保持性、凝結遅延性及び表面硬度の観点から、(a)/(b)=1/99?99/1、好ましくは5/95?95/5、更に好ましくは10/90?80/20、特に好ましくは10/90?70/30のモル比で含有する単量体混合物を重合して得られる共重合体が用いられる。なお、単量体混合物は、(a)、(b)以外の共重合可能な単量体を含んでいても良いが、(a)、(b)の合計は単量体混合物中50?100重量%、更に80?100重量%、特に100重量%であることが好ましい。他の共重合可能な単量体としては、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレン、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1?12)エステル、(メタ)アリルスルホン酸及びその塩等が挙げられる。」(段落【0010】?【0013】) (ウ)「得られた共重合体は、公知の方法で粉末化して分散剤に用いることができる。具体的には、噴霧乾燥法、薄膜乾燥法等が挙げられる。」(段落【0015】) (エ)「本発明の粉末状分散剤に用いられる共重合体の重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法/ポリエチレングリコール換算)は、分散性及び表面硬度の観点より6,000?1,000,000の範囲が良く、10,000?200,000がより好ましい。」(段落【0016】) (オ)「【実施例】実施例1 <粉末状分散剤>反応容器に水300重量部を仕込み、75℃で窒素雰囲気下、表1記載の単量体混合物60重量%水溶液600重量部、過硫酸アンモニウムの10重量%水溶液38重量部、及び2-メルカプトエタノールの10重量%水溶液20重量部を2時間かけて滴下した。次いで過硫酸アンモニウムの10重量%水溶液15重量部を30分で滴下し、更に1時間同温度で熟成を行った後、48重量%の水酸化ナトリウム水溶液で中和した。得られた共重合体に消泡剤(日華化学株式会社製フォームレックス797、ポリエチレン/ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル)を添加して調製した水溶液を用い薄膜乾燥機で粉末化を行い、表1に示した粉末状分散剤(1)を得た。すなわち、ドラムドライヤー〔玉川マシーナリー(株)〕に水溶液を10kg/hrで供給し、ドラム表面(温度130℃)に薄膜を形成させ、これをスクレーパーで掻き取った後、冷却し、粉体を作製した。同様に表1の粉末状分散剤(2)?(6)も製造した。」(段落【0023】) (カ)「【発明の効果】本発明の粉末状分散剤は、保存安定性が良く、水硬性化合物の分散性に優れ且つその分散性を一定期間保持できる。また、一定の可使時間経過後、表面硬度の高い硬化体が得られる。本発明の粉末状分散剤を使用したプレミックス製品は、従来にない優れた性能を持ち、土木分野及び建築分野において、優れた効果を示す。」(段落【0036】) (ii)引用文献1には、記載事項(ア)に「下記の一般式(1)で表されるビニル系単量体(a)の一種以上と、下記の一般式(2)で表されるビニル系単量体(b)の一種以上とを、(a)/(b)=1/99?99/1のモル比で含有する単量体混合物を重合して得られる共重合体を必須成分とする水硬性組成物用の粉末状分散剤。」が記載され、記載事項(イ)に「一般式(1)で表されるビニル系単量体(a)の例としては、・・・例えばメトキシポリエチレングリコール、・・・等の化合物、好ましくは式(1)中のAOがオキシエチレン基、更にはXがメチル基の化合物のアクリル酸、メタクリル酸エステル化物(a-1)・・・が挙げられ」ること、「一般式(2)で示されるビニル系単量体(b)としては、アクリル酸、メタクリル酸、・・・等の不飽和ジカルボン酸系単量体が挙げられ、これらはアルカリ金属塩、・・・等として用いることもできる。好ましくはアクリル酸又はメタクリル酸であり、ナトリウム塩・・・とするのがより好ましい」こと及び「上記ビニル系単量体(a)、(b)を、流動保持性、凝結遅延性及び表面硬度の観点から、(a)/(b)=1/99?99/1、好ましくは5/95?95/5、更に好ましくは10/90?80/20、特に好ましくは10/90?70/30のモル比で含有する単量体混合物を重合して得られる共重合体が用いられる」と記載され、記載事項(ウ)に「共重合体は、公知の方法で粉末化して分散剤に用いる」こと、及び「具体的には、噴霧乾燥法、薄膜乾燥法等が挙げられる」ことが記載され、記載事項(エ)に「共重合体の重量平均分子量・・・は、・・・10,000?200,000がより好ましい」ことが記載され、記載事項(オ)に「共重合体に消泡剤(・・・)を添加して調製した水溶液を用い・・・粉末化を行」うことが記載されている。 これらを本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると「メトキシポリエチレングリコールのアクリル酸、メタクリル酸エステル化物であるビニル系単量体(a)とメタクリル酸であり、ナトリウム塩とするのがより好ましいビニル系単量体(b)を(a)/(b)=10/90?70/30のモル比で含有し、(メタ)アリルスルホン酸及びその塩を50重量%以下含んでいても良い単量体混合物を重合して得られる共重合体であり、共重合体の重量平均分子量は、10,000?200,000がより好ましい共重合体の水溶液を噴霧乾燥法、薄膜乾燥法等で粉末化する、粉末状分散剤の製造方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が引用文献1には記載されていると認められる。 (iii)原査定の拒絶の理由において引用された特開平4-295037号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。 (キ)「本発明のセメント組成物に使用される重合体粉末は、前記単量体を水性媒体中で乳化重合して得られる共重合体ラテックスから水分を除去することによって得られる。ここで、共重合体ラテックスは、水性媒体(通常水)に単量体、重合開始剤、乳化剤、連鎖移動剤などを加えて乳化重合を行うことによって得られる。」(段落【0008】) (ク)「本発明において、共重合体ラテックスから水分を除去して乾燥粉末化する手段としては、噴霧乾燥法、媒体流動乾燥法、凍結真空乾燥法などの方法があるが、製造効率およびコストの点で、噴霧乾燥法が最も好ましい。なお、本発明において、重合体粉末とは、水分量が通常8重量%以下、好ましくは2重量%以下のものをいう。噴霧乾燥処理は、通常、50?170℃、好ましくは70?120℃の温度雰囲気下で、例えば2流体ノズル型アトマイザー、圧力ノズル型アトマイザー、回転円盤型アトマイザーなどの装置を使用して行われる。さらに、共重合体ラテックスの種類、組成、ガラス転移温度、全固形分の割合などに応じて、噴霧乾燥装置の入口温度、出口温度、風量、流量などの条件が適宜選択される。噴霧乾燥の条件としては、例えば入口温度80?250℃、出口温度50?150℃、風量0.5?0.6m^(3)/分、圧力0.8?1.2kg/cm、流量15?25g/分程度である。」(段落【0014】) 引用文献2の記載事項(キ)には、「セメント組成物に使用される重合体粉末は、前記単量体を水性媒体中で乳化重合して得られる共重合体ラテックスから水分を除去することによって得られる」ことが記載され、同記載事項(ク)には「水分を除去して乾燥粉末化する手段としては、噴霧乾燥法、媒体流動乾燥法、凍結真空乾燥法などの方法があるが、製造効率およびコストの点で、噴霧乾燥法が最も好ましい。・・・噴霧乾燥処理は、通常、50?170℃、好ましくは70?120℃の温度雰囲気下で、例えば2流体ノズル型アトマイザー、圧力ノズル型アトマイザー、回転円盤型アトマイザーなどの装置を使用して行われる。さらに、共重合体ラテックスの種類、組成、ガラス転移温度、全固形分の割合などに応じて、噴霧乾燥装置の入口温度、出口温度、風量、流量などの条件が適宜選択される。噴霧乾燥の条件としては、例えば入口温度80?250℃、出口温度50?150℃、・・・程度である」ことが記載されている。 これらを、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると「セメント組成物に使用される重合体粉末は、共重合体ラテックスから水分を除去することによって得られ、水分を除去して乾燥粉末化する手段としては、噴霧乾燥法、媒体流動乾燥法、凍結真空乾燥法などの方法があり、製造効率およびコストの点で、噴霧乾燥法が最も好ましく、噴霧乾燥処理は、通常、50?170℃、好ましくは70?120℃の温度雰囲気下で、例えば2流体ノズル型アトマイザー、圧力ノズル型アトマイザー、回転円盤型アトマイザーなどの装置を使用して行われ、共重合体ラテックスの種類、組成、ガラス転移温度、全固形分の割合などに応じて、噴霧乾燥装置の入口温度、出口温度、風量、流量などの条件が適宜選択され、噴霧乾燥の条件としては、例えば入口温度80?250℃、出口温度50?150℃、程度である重合体粉末の製造法。」の発明(以下、「引用文献2発明」という。)が引用文献2には記載されていると認められる。 (iv)そこで、本願補正発明と引用発明を対比すると、引用発明の「メトキシポリエチレングリコールのアクリル酸、メタクリル酸エステル化物」は、本願補正発明の「メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート」に相当することは明らかであり、引用発明の「ビニル系単量体(a)」は、本願補正発明の「A2成分」に外ならない。また、引用発明の「メタクリル酸であり、ナトリウム塩とするのがより好ましい」は、本願補正発明の「メタクリル酸又はその塩」に相当することは明らかであり、引用発明の「ビニル系単量体(b)」は、本願補正発明の「A1成分」に外ならない。さらに、引用発明の「(a)/(b)=10/90?70/30のモル比で含有」することは、本願補正発明の「A1成分としてメタクリル酸又はその塩を50?72モル%、A2成分としてメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを25?40モル%(A1成分とA2成分の合計100モル%)含む」ことを包含すると認められ、引用発明の「水溶液を噴霧乾燥法、薄膜乾燥法等で粉末化する」ことは、本願補正発明の「水溶液を噴霧装置部分にノズルを備えた噴霧乾燥器に導入し、熱風入口温度160?230℃および熱風出口温度90?130℃の温度範囲で噴霧乾燥すること」と「水溶液を噴霧乾燥する」点で共通する。 してみると、本願補正発明と引用発明とは、「下記のA成分を含有する水溶液を噴霧乾燥する粉末状セメント分散剤の製造方法: A成分:A1成分としてメタクリル酸又はその塩を50?72モル%、A2成分としてメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを25?40モル%(A1成分とA2成分の合計100モル%)含む水溶性ビニル共重合体。」である点で一致し、 本願補正発明は、乾燥する水溶液がA成分を「20?65質量%」含有するのに対して、引用発明は、乾燥する溶液の濃度については特定のない点(以下、「相違点a」という。)、 本願補正発明は、「噴霧装置部分にノズルを備えた噴霧乾燥器に導入し、熱風入口温度160?230℃および熱風出口温度90?130℃の温度範囲で噴霧乾燥」するのに対して、引用発明は、「噴霧乾燥法、薄膜乾燥法等で粉末化」する点(以下、「相違点b」という。)、 本願補正発明の共重合体はA2成分として「(メタ)アリルスルホン酸塩を0.1?10モル%」含むのに対して、引用発明は「(メタ)アリルスルホン酸及びその塩を50重量%以下含んでいても良」い点(以下、「相違点c」という。)、 本願補正発明は、共重合体の「数平均分子量が3000?40000」であるのに対して、引用発明は「共重合体の重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法/ポリエチレングリコール換算)は、分散性及び表面硬度の観点より6,000?1,000,000の範囲が良く、10,000?200,000がより好ましい」点(以下、「相違点d」という。)で相違する。 (v)各相違点について、以下検討する。 本願補正発明において乾燥器に導入する水溶液がA成分を「20?65質量%」含有する技術的意義は、「A成分である水溶性ビニル共重合体の含有率は20?65質量%である。この含有率が20質量%未満では生産性が低く、65質量%を超えると糸引き状態で乾燥して、粉の嵩比重が大きくなり、流動性が低下する。」(平成19年12月21日付け手続補正により補正された明細書段落【0007】)というものであり、引用発明においても水溶液から噴霧乾燥器により粉末を製造するので、乾燥すべき媒体である水分量が多いことは生産性を低下することからみて上限が設けられるべきであることは当然に理解されるから、水溶液の濃度に下限を設けることは、普通に採用する操業条件であるということができる。一方、水分量が少なく、噴霧に支障を来す場合、液滴の形状や密度等に変化を生じ、得られる粉体が適当なものとならなくなることも、当然に理解されるから、粉体水溶液の濃度に上限を設けることも普通に採用する操業条件であるということができる。そして、本願補正発明において乾燥器に導入する水溶液がA成分を「20?65質量%」含有することが臨界的意義を有するものでないことは上記の明細書の記載をみれば明らかである。そうすると、相違点aに係る水溶液の濃度の数値限定は、当業者であれば適宜なし得る、操業条件の設定にすぎないものである。 相違点bについて検討すると、引用発明においても「噴霧乾燥法」で粉末化することが特定される以上、噴霧を担うノズルを備えることは記載されているに等しい事項と認められ、そうでないとしても、セメント組成物に使用される重合体粉末の乾燥を行うという課題の共通する引用文献2発明についての「セメント組成物に使用される重合体粉末は、共重合体ラテックスから水分を除去することによって得られ、水分を除去して乾燥粉末化する手段としては、噴霧乾燥法、媒体流動乾燥法、凍結真空乾燥法などの方法があり、製造効率およびコストの点で、噴霧乾燥法が最も好ましく、噴霧乾燥処理は、通常、50?170℃、好ましくは70?120℃の温度雰囲気下で、例えば2流体ノズル型アトマイザー、圧力ノズル型アトマイザー、回転円盤型アトマイザーなどの装置を使用して行われ」るという記載から、ノズルを採用し得ることは、当業者にとって自明であると認められる。そして、本願補正発明において「噴霧装置部分にノズルを備えた噴霧」乾燥器に導入し「熱風入口温度160?230℃および熱風出口温度90?130℃の温度範囲で噴霧」する技術的意義は、「本発明において噴霧乾燥器は、プレッシャーノズル、2流体ノズル等のノズル式噴霧装置を備えた公知のものが使用できる。 乾燥条件としては熱風入口温度160?230℃、および熱風出口温度90?130℃の温度範囲が使用される。熱風入口温度160℃未満では生産性が低下し、230℃を超えると熱変性を受けて分散性能が低下する。熱風出口温度90℃未満では、粉末の含水率が多くなってダマが発生し易くなり、130℃を超えると生産性が悪くなり、熱変性を受けて分散性能が低下する。」(平成19年12月21日付け手続補正により補正された明細書段落【0010】)というもので、乾燥条件である熱風入口温度及び熱風出口温度のいずれもが生産性と得られる粉体の物性からの要請により設定され、臨界的意義を有するものでないことは上記の明細書の記載をみれば明らかであり、熱風入口温度及び熱風出口温度は、セメント組成物に使用される重合体粉末の乾燥を行うという課題の共通する引用文献2発明の「共重合体ラテックスの種類、組成、ガラス転移温度、全固形分の割合などに応じて、噴霧乾燥装置の入口温度、出口温度、風量、流量などの条件が適宜選択され、噴霧乾燥の条件としては、例えば入口温度80?250℃、出口温度50?150℃、程度である重合体粉末の製造法。」に示唆されるものであるから、当業者であれば適宜なし得る操業条件の設定にすぎないものである。 相違点cについて検討すると、本願補正発明の共重合体がA2成分として「(メタ)アリルスルホン酸塩を0.1?10モル%」含む技術的意義は、「特に生産性および分散性能の観点から、・・・A2成分としてメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを25?40モル%及び(メタ)アリルスルホン酸塩を0.1?10モル%(A1成分とA2成分との合計100モル%)含む水溶性ビニル共重合体とする。」(平成19年12月21日付け手続補正により補正された明細書段落【0008】)というものであるが、出願当初の明細書においては、「A2成分:アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート及び(メタ)アリルスルホン酸塩から選ばれる一つ又は二つ以上」(【請求項1】)として選択成分であったもので、しかも、その成分の添加範囲に臨界的意義を有するものとは認められないので、引用発明における「(メタ)アリルスルホン酸及びその塩を50重量%以下含んでいても良」いという示唆に基づいて当業者であれば適宜なし得る選択成分の微量添加にすぎないものと認められる。 さらに、相違点dについては、本願補正発明が共重合体の「数平均分子量が3000?40000」である技術的意義は、「水溶性ビニル共重合体の数平均分子量は3000?40000である。この範囲外では分散性能が低下する傾向がある。なお、本発明において数平均分子量は、GPC法によるプルラン換算値である。」(平成19年12月21日付け手続補正により補正された明細書段落【0009】)というもので、分散性能に基づいて定められたものであることが分かる。そして、引用発明も「共重合体の重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法/ポリエチレングリコール換算)は、分散性及び表面硬度の観点より6,000?1,000,000の範囲が良く、10,000?200,000がより好ましい」と定められたものである。したがって、「分散性」という課題とGPC法即ちゲルパーミエーションクロマトグラフィー法という測定方法が共通する以上、引用発明における重量平均分子量の数値限定に換えて本願補正発明の数平均分子量を用いた数値限定により適正な範囲を定めることは、当業者において容易に想到し得る事項というべきである。 本願補正発明によって得られた効果についても、生産性が高く、分散性能が低下しないというものであるから、引用文献1の記載事項(カ)及び引用文献2の記載事項(ク)からみて格別のものとすることができない。 したがって、本願補正発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (vi)以上のとおりであるから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (2)したがって、平成19年12月21日付けで提出された手続補正書によりなされた補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について 平成19年12月21日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は平成19年6月4日付け手続補正書によって補正された請求項1に記載される以下のとおりである。 「【請求項1】 下記のA成分を5?70質量%含有する水溶液を噴霧装置部分にノズルを備えた噴霧乾燥器に導入し、熱風入口温度150?250℃および熱風出口温度80?150℃の温度範囲で噴霧乾燥することを特徴とする粉末状セメント分散剤の製造方法: A成分:A1成分としてメタクリル酸又はその塩を50?72モル%、A2成分としてメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートを25?40モル%及び(メタ)アリルスルホン酸塩を0.1?10モル%(A1成分とA2成分の合計100モル%)含み、かつ数平均分子量が2000?50000の水溶性ビニル共重合体。」 4.引用文献等 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2001-72453号公報)及び引用文献2(特開平4-295037号公報)の記載事項は、前記2.(1)に記載したとおりである。 5.対比・判断 本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明に関して、限定事項である「A成分を20?65質量%含有する」、「熱風入口温度160?230℃」、「熱風出口温度90?130℃」及び「数平均分子量が3000?40000」をそれぞれ、「A成分を5?70質量%含有する」、「熱風入口温度150?250℃」、「熱風出口温度80?150℃」及び「数平均分子量が2000?50000」と拡張するものである。 してみると、本願発明の構成を全て含み、さらに前記の特定事項を限定したものである本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、本願補正発明と同様の理由により、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。 6.回答書における主張について 審判請求人は、回答書において特許請求の範囲の補正案を提示しているが、該補正案における「下記のA成分を20?65質量%含有する水溶液のみを」については、根拠となる記載が、明細書の段落【0013】、【0014】、【0017】及び【0023】?【0025】に見当たらず、しかも、引用文献1には、「しかし、本発明の粉末状分散剤中には前記共重合体が50重量%以上、更には70?100重量%、特に80?99.95重量%含まれていることが好ましい。」(段落【0021】)と明記されているので、特許請求の範囲において「水溶液のみ」と限定することによって進歩性が生じるものとすることはできず、さらに、「120?165kg/hrの流量で噴霧乾燥すること」についても、単にセメント分散剤の製造方法と直接関係しない噴霧乾燥器の能力を特定したにすぎず、該補正事項により進歩性を見いだすことはできないので、本件について、さらなる補正の機会を与えることは相当でないといわざるをえない。 7.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-08-27 |
結審通知日 | 2010-08-31 |
審決日 | 2010-09-13 |
出願番号 | 特願2002-81299(P2002-81299) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C04B)
P 1 8・ 575- Z (C04B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 永田 史泰 |
特許庁審判長 |
松本 貢 |
特許庁審判官 |
斉藤 信人 深草 祐一 |
発明の名称 | 粉末状セメント分散剤の製造方法 |
代理人 | 高野 登志雄 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |
代理人 | 中嶋 俊夫 |
代理人 | 山本 博人 |
代理人 | 高野 登志雄 |
代理人 | 村田 正樹 |
代理人 | 有賀 三幸 |
代理人 | 有賀 三幸 |
代理人 | 山本 博人 |
代理人 | 中嶋 俊夫 |
代理人 | 村田 正樹 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |