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審決分類 審判 査定不服 出願日、優先日、請求日 特許、登録しない。 H01S
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1226023
審判番号 不服2009-12209  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-06 
確定日 2010-10-28 
事件の表示 特願2001- 89711「分布帰還型半導体レーザ素子」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月28日出願公開、特開2002- 64244〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年3月27日(優先権主張 平成12年6月6日)の出願であって、平成21年1月9日付けで手続補正がなされ、同年3月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月6日に拒絶査定不服審判が請求され、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成21年7月6日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年7月6日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容・目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲(平成21年1月9日付け手続補正後のもの)の請求項1である、

「 半導体基板上に形成された分布帰還型半導体レーザ素子において、
活性層の発振波長の光を吸収する組成のGaInNAsで形成された回折格子を備えることを特徴とする分布帰還型半導体レーザ素子。」

を、補正後の特許請求の範囲の請求項1として、

「 半導体基板上に形成された分布帰還型半導体レーザ素子において、
活性層の発振波長の光を吸収する組成のGaInNAsで形成された回折格子を備え、
GaInNAsにV族組成比で0.2%?3.5%のSbを添加することを特徴とする分布帰還型半導体レーザ素子。」

に、補正する内容を含むものである。

上記補正内容は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である、回折格子を形成する「活性層の発振波長の光を吸収する組成のGaInNAs」を、「GaInNAsにV族組成比で0.2%?3.5%のSbを添加する」ものに限定するものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成14年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

2 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1)優先権主張について
本願は、特許法第41条第1項の規定により、特願2000-168614号(以下、「先の出願」という。)に記載された発明に基づく優先権の主張を伴ってなされたものであるが、本願補正発明の「GaInNAsにV族組成比で0.2%?3.5%のSbを添加する」との事項は、先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されたものとはいえない。
よって、本願補正発明を、先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明とすることはできないから、本願補正発明には特許法第41条第2項に規定されている優先権主張の効果が及ばず、本願補正発明について特許法第29条第2項の規定を適用するに当たっては、本願の出願日である平成13年3月27日を判断の基準日とする。

(2)刊行物の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平11-103128号公報(以下「刊行物1」という。)には、図とともに次の事項が記載されている(下線は、審決で付した。以下同じ)。

(ア)「【請求項1】 活性層近傍に光導波方向に周期的な凹凸形状を形成し、該凹凸形状に隣接して、凹凸形状と同一周期に光吸収層を形成してなる利得結合型分布帰還半導体レーザ装置において、
前記凹凸形状の谷部上にのみ前記光吸収層が形成され、残る凹凸形状に隣接した領域には埋込層が形成されてなることを特徴とする利得結合型分布帰還半導体レーザ装置。
【請求項2】 前記光吸収層は、垂直量子井戸構造であることを特徴とする請求項1に記載の利得結合型分布帰還半導体レーザ装置。
【請求項3】 半導体基板上に周期的な凹凸形状を形成する工程と、
前記凹凸形状の上に、半導体層を成長させることにより、該半導体層の原料元素のマイグレーションの違いから、凹部の谷部上にのみ光吸収層が形成され、残る領域には埋込層を形成してなる工程と、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の利得結合型分布帰還半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項4】 半導体基板上に、周期的な凹凸形状を形成する工程と、
前記凹凸形状の上に、III-V族化合物半導体層を成長させることにより、該半導体層の原料元素のマイグレーションの違いから、凹部の谷部にのみ光吸収層が形成され、残る領域には埋込層を形成してなる工程と、を有し、
前記凹凸形状の両斜面が(n11)面であり、前記凹部の谷部が(100)面であることを特徴とする請求項1又は2に記載の利得結合型分布帰還型半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項5】 前記凹凸形状の凹部の谷部はその幅が30nm以下であることを特徴とする請求項3又は4に記載の利得結合型分布帰還半導体レーザ装置の製造方法。」

(イ)「【0004】図8は従来の利得結合型分布帰還半導体レーザ装置を示す構造図である。この従来例は、まず、n-GaAs基板80上にn-Al_(0.45)Ga_(0.55)Asクラッド層81、アンドープGaAs活性層82、p-Al_(0.45)Ga_(0.55)Asキャリアブロック層83、p-Al_(0.25)Ga_(0.75)Asガイド層84、p-GaAs光吸収層85を、MOCVD法により形成する。続いて、成長層の最上層に二光束干渉露光法及びエッチングにより255nm周期の回折格子を印刻する。その後、p-Al_(0.45)Ga_(0.55)Asクラッド層86、p-GaAsコンタクト層87を、MOCVD法により再成長して形成する。その後、電極881,882を蒸着し、最後にへき開して、この半導体レーザ素子を完成させる。図8は、共振器方向の断面を示している。
【0005】この従来例では、吸収層はエッチングにより周期的に分離されており、周期的な利得の変動が施され、利得結合型DFB-LDとなっている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述の実施例では、回折格子のデューティは二光束干渉露光法で形成されるレジストマスクのデューティ及びその後のエッチング量によって大きく変化するため、その制御は難しい。特に小さなデューティを再現よく制御することは非常に困難である。即ち利得結合係数と吸収損失の制御が難しく閾値利得の再現性が得られないという問題があった。本発明は、デューティの小さい吸収性回折格子を有するGC-DFB-LDを提供することを目的とする。」

(ウ)「【0044】(実施例4)図9は本発明の第四の実施例を示す利得結合型分布帰還半導体レーザ装置の構造図である。
【0045】この実施例は、まず、n-GaAs基板90上に厚さ1μmのn-Al_(0.3)Ga_(0.7)Asクラッド層91、0.05μmのアンドープGaAsガイド層92、5nmのGaInNAs量子井戸層および5nmのGaAsバリア層よりなるMQW活性領域93、0.1μmのGaAsガイド層94を、MOCVD法により形成する。続いて、成長層の最上層に二光束干渉露光法及びエッチングにより230nm周期、深さ70nmの凹凸形状を印刻する。その後、平均厚さ0.1μmのp-GaInNAs埋込層96(エネルギー波長λg=1.1μm)、1μmのp-Al_(0.3)Ga_(0.7)Asクラッド層97、0.5μmのp-GaAsコンタクト層98を、MOCVD法により再成長して形成する。このとき、p-GaInNAs埋込層96を成長する際、凹凸形状の谷部から基板に対して垂直な方向に、該埋込層のエネルギーよりも小さいエネルギーの層が形成され、即ち、凹凸形状の谷部に沿って垂直量子井戸(VQW)構造95が形成される。その後、電極991,992を蒸着し、最後にへき開して、この半導体レーザ素子を完成させる。図9には、共振器方向の断面を示している。
【0046】この実施例は、p-GaInNAs埋込層96は、成長圧力76Torr、成長温度650℃、V/III比200、成長速度25nm/minでMOCVD成長しており、この際、成長雰囲気中のV族原料はウェハと接した領域で、NのマイグレーションがAsのマイグレーションにくらべ大きく、凹凸形状ウェハ上では、Nは谷部にマイグレーションし、谷部ではNの濃度が増加する。その結果、凹凸形状の谷部に沿って基板に対して垂直な方向に埋込層96の他の部分よりもN組成の高い層が形成されていき、垂直量子井戸(VQW)構造95が形成され、セルフアラインでデューティの小さいVQW光吸収層を構成している。フォトルミネッセンス測定より該VQW95のエネルギー波長は1.35μm、活性層92のエネルギー波長は1.3μmであった。
【0047】即ち、p-GaInNAs埋込層96の内部で、活性層が発生した光の一部を吸収するVQW光吸収層と、活性層が発生した光に対して透明なGaInNAsガイド層(λg=1.1μm)が周期的に形成されており、周期的な利得分布が発生し、利得結合型のDFB-LDが実現された。このVQW光吸収層は、セルフアラインでデューティの小さい光吸収層を構成できることから、小さい吸収損失と充分な利得結合係数を再現良く制御できた。
【0048】また、VQWは原料のマイグレーションにより自然形成されるため、量子井戸の界面は徐々に混晶比の変わるグレイデッドな構造が自然に形成され、吸収再結合が効率良く行なわれ、利得結合係数が増大した。また、活性層が発生した光は、活性層に強度のピークを持ち、クラッド層まで光の一部が広がっているが、本実施例においても、光吸収層の存在するp-GaInNAs埋込層96全体に、活性層が発生した光の一部が広がっており、埋込層中に垂直に構成されているVQW光吸収層は量子井戸の全面で光を感じるため、VQW部分では大きな吸収を感じ、デューティが小さいにもかかわらず利得結合係数を大きくすることができた。
【0049】一方、VQWの井戸幅が薄い即ちデューティが小さいため、VQWでの総吸収量は小さく、吸収係数は小さく抑えられた。小さい吸収係数と大きい利得結合係数を再現良く得られたことから、低い閾値利得が再現良く得られ、動作電流が低減し再現性も向上した。
【0050】
【発明の効果】利得結合型分布帰還半導体レーザ装置において、凹凸形状を埋め込む際、原料のマイグレーションの違いから、凹凸形状の谷部上の混晶比が他の部分の混晶比と異なり、凹凸形状の谷部上に垂直量子井戸構造(VQW)が形成される。この凹凸形状を埋込層の内部で活性層の発生する光を吸収するVQWと、活性層の発生する光に対して透明な領域が周期的に形成されており、周期的な利得分布が生じ、利得結合型の分布帰還半導体レーザを実現できる。VQW光吸収層は、セルフアラインで容易に低デューティの吸収性回折格子が構成できることから、小さい吸収損失と充分な利得結合係数を再現良く制御できる。」

(エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、刊行物1には、
「n-GaAs基板上にn-Al_(0.3)Ga_(0.7)Asクラッド層、アンドープGaAsガイド層、GaInNAs量子井戸層およびGaAsバリア層よりなるMQW活性領域、GaAsガイド層を形成し、続いて、成長層の最上層に凹凸形状を印刻し、その後、p-GaInNAs埋込層(エネルギー波長λg=1.1μm)、p-Al_(0.3)Ga_(0.7)Asクラッド層、p-GaAsコンタクト層を形成し、このとき、p-GaInNAs埋込層を成長する際、凹凸形状の谷部から基板に対して垂直な方向に該埋込層のエネルギーよりも小さいエネルギーの層即ち垂直量子井戸(VQW)構造が形成され、その後、電極を蒸着し、最後にへき開して半導体レーザ素子を完成させる、利得結合型分布帰還半導体レーザ装置であって、
前記垂直量子井戸(VQW)構造は、前記埋込層の他の部分よりもN組成の高い層でありVQW光吸収層を構成し、該VQWのエネルギー波長が1.35μm、活性層のエネルギー波長が1.3μmであって、
前記p-GaInNAs埋込層の内部には、前記活性層が発生した光の一部を吸収しVQW部分では大きな吸収を感じるVQW光吸収層と、活性層が発生した光に対して透明なGaInNAsガイド層(λg=1.1μm)が周期的に形成されており、VQW光吸収層は吸収性回折格子が構成できる、利得結合型分布帰還半導体レーザ装置。」

の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

イ 同じく、特開2000-312054号公報(以下「刊行物2」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 凹部及び/又は凸部を形成して複数の異なる結晶面を露出させた半導体基板上に、窒素と窒素以外のV族元素とを共に組成として含む化合物半導体層を結晶成長させる工程を含んでなることを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項2】 窒素と窒素以外のV族元素とを共に組成として含む化合物半導体層は、窒素原料と、窒素以外のV族元素原料とを交互に供給することによって成長される工程を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項3】 基板表面の結晶面の違いによって、窒素と窒素以外のV族元素との組成比を制御して、窒素と窒素以外のV族元素とを共に組成として含む化合物半導体層を形成する工程を含んでなることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】 前記窒素と窒素以外のV族元素とを共に組成として含む化合物半導体層は、量子井戸構造における井戸層をなすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項5】 前記窒素以外のV族元素は、砒素、リン、アンチモンから少なくとも1種類選択されてなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
・・・
【請求項14】 請求項1乃至5に記載の半導体素子の製造方法のいずれかを用い、
活性層の近傍に周期的な凹凸からなる回折格子を形成し、該回折格子上方に、該回折格子の凹凸形状を反映すると共に、窒素と窒素以外のV族元素とを共に組成として含む化合物半導体層を少なくとも1層積層して、吸収性回折格子を作製する工程を含んでなることを特徴とする半導体レーザ素子の製造方法。」

(イ)「【0104】本実施形態においても、・・・。
(実施の形態4)本発明の実施形態4として、GaInNAsをMQW活性層の井戸層、および吸収性回折格子に有する利得結合分布帰還型半導体レーザ(GC-DFB-LD:Gain-Coupled Distributed FeedBack Laser Diode)素子と変調器とを集積する方法について図10,図11を参照しながら示す。DFB-LDそのものも、半導体レーザと回折格子とが集積化された一種の半導体光集積素子と言える。
【0105】以下に、製造手順を追いながら素子構造についても詳しく説明する。
【0106】まず、(100)面を表面に有する低抵抗n型GaAs基板11の表面に、通常のホトリソグラフィによるパターンニングとウエットエッチングを用いて、図10(a)に示すように領域Aには幅の広い平坦な頂部をもつストライプ状のメサ24を、領域Bには幅の狭いストライプ状のメサ23をエッチング加工することにより設ける。図10(a)において、WAは20μm、WBは6μmとし、メサの高さを1.4μmとした。領域Aが半導体レーザ部、領域Bが変調器となる。メサ23,24の長て方向における側面には、{311}B面から成る斜面が露出していた。
【0107】次に、図10(a)のように加工された基板の上に、導波路構造を構成する各層を積層する。半導体レーザ部となる幅の広い平坦頂部をもつストライプ状のメサ24の上に形成された層構造の断面を図10(b)に、光導波路部となる幅の狭いストライプ状のメサ23の上に形成された層構造の断面を図10(c)に示す。積層される各層の材料,層厚(平坦部への成長層で計測)は次の通りである。
【0108】
下クラッド層13 :n型In_(0.5)Ga_(0.5)P,層厚0.2μm
活性層14 :三重量子井戸
井戸層14a :ノンドープGa_(0.8)In_(0.2)N_(y)As_(1-y),層厚8nm
障壁層14b :ノンドープAl_(0.1)Ga_(0.9)As,層厚10nm
ガイド層14c:ノンドープAl_(0.1)Ga_(0.9)As,層厚30nm
光導波層19 :p型In_(0.5)Ga_(0.5)P,層厚0.2μm
この時の結晶成長には、Ga,Al,In,As源としてトリメチルガリウム(TMGa),トリメチルアルミニウム(TMAl),トリメチルインジウム(TMIn),アルシン(AsH3)を、N原料として500℃でクラッキングされたアンモニアガス(NH3)を用いた化学ビームエピタキシャル成長(CBE)法を使用し、成長温度を500℃とした。活性層のGaInNAs層の結晶成長は、V族原料を交互に供給することによって行った。
【0109】図10(a)のように加工されたGaAs(100)基板の最表面には、主面である(100)面の他に、溝部の長て方向の側面には{311}B面から成る斜面が露出している。この基板の上にV族元素としてAsとNとを含む材料を結晶成長すると、実施形態1で説明したものと同じ作用により、主面である(100)面上に結晶成長した部分よりも{311}B面上に結晶成長した部分の方がN原子と置き換わるAs原子の割合いが少なく、わずかにN組成が小さくなる。B面上の量子井戸32はN組成がy=0.009と小さく、MQWの禁制帯幅は1.08eV(波長1.15μm相当)となっていた。
【0110】一方で傾斜されていない(100)面上に形成されている量子井戸33ではN組成が大きくy=0.018であり、禁制帯幅は0.95eV(波長1.31μm相当)であった。なお、組成の分布に対応して格子定数にも分布が生じるが、GaInNAs層は臨界膜厚以下であることから結晶欠陥が誘発されることはない。(100)面上のGaInNAs層は1.0%程度の圧縮歪を受けており、B面上のGaInNAs層は1.3%程度の圧縮歪を受けている。
【0111】次に、図11(a)に示すように、基板に設けたストライプ状のメサの長て方向に直交するように、2光束干渉露光とウエットエッチングによって表面にピッチ0.2μm,深さ0.1μmの頂部に平坦部をもつV溝状の回折格子20を印刻した。この上に、実施形態1と同様の方法によりV族原料を交互供給する方法でGaInNAs層34を0.03μm結晶成長させた。レーザの長て方向における回折格子部の断面の主要部を図12(a)に示す。
【0112】エッチングによって作製された回折格子の溝の斜面には{111}A面が現われており、平坦な頂部には(100)面が現われている。斜面上にはN組成が大きく禁制帯幅の小さなGaInNAs混晶35が、頂部にはN組成が小さく禁制帯幅の大きなGaInNAs層36が成長した。斜面の禁制帯幅の小さなGaInNAs層35が活性層から発せられる波長1.3μmの光を吸収するように、かつ、頂部の禁制帯幅の大きなGaInNAs層36が波長1.3μmの光に対して透明となるように混晶比の分布を制御して結晶成長を行うと、レーザの共振器方向で吸収が周期的に配置された回折格子を得ることができる。
【0113】回折格子の上に上クラッド層15であるp型In_(0.5)Ga_(0.5)Pを0.8μm、コンタクト層16であるp型GaAsを0.5μm結晶成長し、最後の工程として領域Aと領域Bとを分離する幅2μmの分離溝25の作製を行う。レーザ素子から発せられたレーザ発振光がこの分離溝25で反射してレーザ素子に戻ることがないように、分離溝25はレーザの共振器方向に対して60?80°程度傾くようにした。領域A,Bそれぞれに、p型/n型それぞれの電極17,18を蒸着により形成して、半導体光集積素子を完成した。
【0114】この様にして作製した集積素子の半導体レーザ部に、上下の電極17,18を通して電流を流すと、閾値電流10mA、波長1.3μmでレーザ発振した。周期的な吸収回折格子を備えていることから、レーザ光は安定した単一波長での発振であった。従来のような高温での長時間の熱処理を必要としていない為、同様の構造の単体の半導体レーザ素子と比べて、閾値電流の上昇などの特性に劣化はみられなかった。また、領域Bの電極に電界を印加することにより、透過するDFBレーザ光を変調することができた。発光素子の発光層と変調器の光ガイド部とが連続した同一層として同時に結晶成長されているので、各層の位置ずれ又は継ぎ目が全くなく、素子間の境界における光の過剰損失,散乱は非常に小さかった。」

(ウ)「【0135】・・・
(実施の形態7)本発明の実施形態7として、GaAsSbNを井戸層とするMQWを活性層に有する半導体レーザ素子と光導波路素子とを集積する方法について示す。実施形態1?5,6においては、活性層あるいはコア層における井戸層が、V族元素としてNの他にAsあるいはPを含む化合物半導体であったのに対し、本実施形態ではV族元素として更にSbを含む化合物半導体を用いている点で異なる。
・・・
【0140】実施形態6,7で示した結晶成長及び素子構造の上での特徴は、実施形態1において図4を参照しながら説明したV族元素としてAsとNを含む化合物半導体材料の場合と同様に、V族元素としてPとNを含む化合物半導体材料の場合、V族元素としてAs,SbとNを含む化合物半導体を井戸層に用いた場合にも同様であることを示している。また、実施形態6,7では半導体レーザと光導波路素子とを集積する場合についてのみ示したが、PとNとを含む化合物あるいはAsとSbとNとを含む化合物によって、他の実施形態で示したものと同様の端面窓構造レーザ,吸収性回折格子,利得性回折格子に適用することが可能であることは言うまでもない。」

(エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、刊行物2には、
「凹部及び/又は凸部を形成して複数の異なる結晶面を露出させた半導体基板上に、窒素と窒素以外のV族元素とを共に組成として含む化合物半導体層を結晶成長させる半導体素子の製造方法を用い、窒素と窒素以外のV族元素とを共に組成として含む化合物半導体層を少なくとも1層積層して吸収性回折格子を作製する利得結合分布帰還型半導体レーザ素子であって、
GaInNAsをMQW活性層の井戸層および吸収性回折格子に有し、該吸収性回折格子は、基板に設けたストライプ状のメサの長て方向に直交するように表面に頂部に平坦部をもつV溝状の回折格子を印刻し、この上にGaInNAs層を結晶成長させ、回折格子の溝の斜面上にはN組成が大きく禁制帯幅の小さなGaInNAs混晶35が、回折格子の溝の頂部にはN組成が小さく禁制帯幅の大きなGaInNAs層36が成長し、禁制帯幅の小さなGaInNAs層35が活性層から発せられる波長1.3μmの光を吸収するように、かつ、禁制帯幅の大きなGaInNAs層36が波長1.3μmの光に対して透明となるように混晶比の分布を制御して結晶成長を行うものであり、前記窒素と窒素以外のV族元素とを共に組成として含む化合物半導体層としてAsとSbとNとを含む化合物を吸収性回折格子に適用することが可能である、利得結合分布帰還型半導体レーザ素子。」

の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

ウ 同じく、国際公開第2000/79599号(以下「刊行物3」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。
「Also shown in Fig.2 is the XRD spectrum 203 of a In_(0.3)Ga_(0.7)As_(0.992)N_(0.008)/GaAs multiple quantum well where 8×10^(-8)Torr Sb beam fluxed was introduced during growth of the well. Compared with the XRD spectrum 201 of the In_(0.3)Ga_(0.7)As_(0.992)N_(0.008)/GaAs multiple quantum well structure grown in the absence ob Sb , the better developed satellite peaks and clear diffraction fringes of the XRD spectrum 203 of the same multiple quantum well grown in the presence Sb indicate that the crystal quality and interface of the InGaAsN/GaAs multiple quantum well structure was improved by the introduction of the Sb flux during growth .」(6頁6行?13行)
(当審訳:また図2に、In_(0.3)Ga_(0.7)As_(0.992)N_(0.008)/GaAs多重量子井戸のXRDスペクトル203を示し、ここでは井戸の成長中に、8×10^(-8)TorrのSbビームフラックスを導入している。Sbの存在しない所で成長させたIn_(0.3)Ga_(0.7)As_(0.992)N_(0.008)/GaAs量子井戸構造のXRDスペクトル201に比べて、Sbの存在する所で成長させた同じ量子井戸のXRDスペクトル203の、より良好に発達した衛星(副)ピーク、及び明瞭な回折縞は、成長中にSbフラックスを導入することによって、結晶品質及びInGaAsN/GaAs多重量子井戸構造の境界面が改善されたことを示している。)

(3)本願補正発明と引用発明1との対比・判断
ア 本願補正発明と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「n-GaAs基板」は、本願補正発明の「半導体基板」に相当するとともに、引用発明1の「利得結合型分布帰還半導体レーザ装置」につき、前記「n-GaAs基板」上に、利得結合型分布帰還半導体レーザを構成する素子が形成されることが明らかであるから、引用発明1は、本願補正発明の「半導体基板上に形成された分布帰還型半導体レーザ素子」との事項を備える。

(イ)引用発明1の「垂直量子井戸(VQW)構造」は、埋込層の他の部分(p-GaInNAs)よりもN組成の高い層であり「VQW光吸収層」を構成するものであり、該「VQW光吸収層」は、活性層が発生した光の一部を吸収しVQW部分では大きな吸収を感じ、吸収性回折格子が構成できるものであって、前記「VQW光吸収層」が活性層の発振波長の光を吸収することは明らかであるから、上記(ア)に照らせば、引用発明1は、本願補正発明の「性層の発振波長の光を吸収する組成のGaInNAsで形成された回折格子を備える分布帰還型半導体レーザ素子」との事項を備える。

(ウ)上記(ア)及び(イ)から、本願補正発明と引用発明1とは、
「 半導体基板上に形成された分布帰還型半導体レーザ素子において、
活性層の発振波長の光を吸収する組成のGaInNAsで形成された回折格子を備える分布帰還型半導体レーザ素子。」
の点で一致し、
「本願補正発明は、活性層の発振波長の光を吸収する組成のGaInNAsにつき『GaInNAsにV族組成比で0.2%?3.5%のSbを添加する』のに対し、引用発明1は、そうではない」点(以下「相違点1」という。)で相違するものと認められる。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア)上記2(ウ)によれば、刊行物3には、成長中にSbフラックスを導入することによって、結晶品質及びInGaAsN/GaAsの境界面が改善されるとの技術事項が開示されている。

(イ)半導体レーザ素子において、結晶品質の改善及び構造の境界面の改善をすることは、当業者が当然に考慮する課題であるところ、引用発明1のp-GaInNAsからなるVQW光吸収層において、成長中にSbフラックスを導入することは、当業者が容易になし得ることである。

(ウ)そして、引用発明1のp-GaInNAsからなるVQW光吸収層に添加するSbの量は当業者が設計上適宜定め得る程度のことというべきところ、この量をV族組成比で0.2%?3.5%とすることに格別の困難を要するものとは認められないから、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことというべきである。

(エ)そして、本願補正発明の奏する効果が、引用発明1及び刊行物3の記載事項から当業者が予測可能な域を超える程の格別なものとは認められない。

(オ)したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)本願補正発明と引用発明2との対比・判断
ア 本願補正発明と引用発明2とを対比する。
(ア)引用発明2の「半導体基板」及び「利得結合分布帰還型半導体レーザ素子」は、それぞれ、本願補正発明の「半導体基板」及び「分布帰還型半導体レーザ素子」に相当するとともに、引用発明2の「利得結合分布帰還型半導体レーザ素子」は、半導体基板上に形成されるものであるから、引用発明2は、本願補正発明の「半導体基板上に形成された分布帰還型半導体レーザ素子」との事項を備える。

(イ)引用発明2の「吸収性回折格子」は、回折格子の溝の斜面上にはN組成が大きく禁制帯幅の小さなGaInNAs混晶35が成長し、禁制帯幅の小さなGaInNAs層35は、活性層から発せられる波長1.3μmの光を吸収するものであるから、引用発明2は、本願補正発明の「活性層の発振波長の光を吸収する組成のGaInNAsで形成された回折格子を備え」との事項を備えるとともに、引用発明2の「吸収性回折格子」を作製する「窒素と窒素以外のV族元素とを共に組成として含む化合物半導体層」は、AsとSbとNとを含む化合物であってよく、すなわち、上記禁制帯幅の小さなGaInNAs層35にSbを添加したものであってよいから、引用発明2は、本願補正発明の「(GaInNAsで形成された回折格子を備え、)GaInNAsにSbを添加する」との事項を備えているといえる。

(ウ)上記(ア)及び(イ)から、本願補正発明と引用発明2とは、
「 半導体基板上に形成された分布帰還型半導体レーザ素子において、
活性層の発振波長の光を吸収する組成のGaInNAsで形成された回折格子を備え、
GaInNAsにSbを添加する分布帰還型半導体レーザ素子。」
の点で一致し、
「GaInNAsに添加するSbの量が、本願補正発明では、『V族組成比で0.2%?3.5%』であるのに対し、引用発明2では、そのような量かどうか不明である」点(以下「相違点2」という。)で相違するものと認められる。

イ 判断
上記相違点2について検討する。
(ア)引用発明2の「吸収性回折格子」につき、禁制帯幅の小さなGaInNAs層35に添加するSbの量は当業者が設計上適宜定め得る程度のことというべきところ、この量をV族組成比で0.2%?3.5%とすることに格別の困難を要するものとは認められないから、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が容易に想到し得たことというべきである。

(イ)そして、本願補正発明の奏する効果が、引用発明2から当業者が予測可能な域を超える程の格別なものとは認められない。

(ウ)したがって、本願補正発明は、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)小括
上記(3)及び(4)の検討により、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物3の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本願補正発明は、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上の検討によれば、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成21年1月9日付け手続補正によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1で、本件補正前の請求項1として記載されたとおりのものである。
なお、本願発明には特許法第41条第2項に規定されている優先権主張の効果が及ぶから、本願発明について特許法第29条第1項第3号に該当するかどうかの判断に当たっては、平成12年6月6日を判断の基準日とする。

2 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である刊行物1及びその記載事項は、前記第2[理由]2(2)アに記載したとおりである。

3 対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
上記第2[理由]2(3)に照らせば、本願発明と引用発明1とは、
「 半導体基板上に形成された分布帰還型半導体レーザ素子において、
活性層の発振波長の光を吸収する組成のGaInNAsで形成された回折格子を備える分布帰還型半導体レーザ素子。」の点で一致し、相違する点はない。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明である。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-25 
結審通知日 2010-08-31 
審決日 2010-09-13 
出願番号 特願2001-89711(P2001-89711)
審決分類 P 1 8・ 03- Z (H01S)
P 1 8・ 113- Z (H01S)
P 1 8・ 575- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 百瀬 正之  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 右田 昌士
稲積 義登
発明の名称 分布帰還型半導体レーザ素子  
代理人 井上 誠一  

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