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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G21K
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G21K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21K
管理番号 1226197
審判番号 不服2008-23828  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-18 
確定日 2010-11-05 
事件の表示 特願2002- 35196「放射線画像変換パネル及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月22日出願公開、特開2003-232893〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成14年2月13日の出願であって、平成19年12月19日付けで拒絶理由が通知され、それに対して平成20年2月25日付けで意見書の提出ならびに手続補正がなされたものの、同年8月13日付けで拒絶査定がなされ、この査定を不服として、平成20年9月18日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年10月10日付けで手続補正がなされた。
その後、当審において平成21年5月1日付けで審尋がなされ、同年6月30日付けで回答書が提出されている。

第2 平成20年10月10日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成20年10月10日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正
本件補正は、明細書を補正するもので、特許請求の範囲に係る補正は、補正前(平成20年2月25日付け手続補正によって補正。以下、同じ。)の、
「【請求項1】 支持体上に、少なくとも輝尽性蛍光体層を有する放射線画像変換パネルの製造方法において、該輝尽性蛍光体層が真空度0.13Pa以上で形成した柱状結晶構造を有する輝尽性蛍光体を有し、且つ、該柱状結晶構造が下記一般式(1)を満たす柱状結晶径比を示すことを特徴とする放射線画像変換パネルの製造方法。
一般式(1)
1.0≦D2/D1≦3.0
〔式中、D2は支持体上に形成された輝尽性蛍光体層表面での第1の柱状結晶径を表し、D1は輝尽性蛍光体層の膜厚をTとした時、支持体表面から輝尽性蛍光体層表面に向かって0.1Tの距離にある第2の柱状結晶径を表す。〕
【請求項2】 前記柱状結晶径比が下記一般式(2)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
一般式(2)
1.3≦D2/D1≦3.0
【請求項3】 輝尽性蛍光体層が、下記一般式(3)で表される組成を有する輝尽性蛍光体を含有することを特徴とする請求項1に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
一般式(3)
M^(I)X・aM^(II)X′_(2)・bM^(III)X″_(3):eA
〔式中、M^(I)はLi、Na、K、RbおよびCsから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属であり、M^(II)はBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、CdおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも一種の二価金属であり、M^(III)はSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、GaおよびInから選ばれる少なくとも一種の三価金属であり、X、X′およびX″はF、Cl、BrおよびIからなる群から選ばれる少なくとも一種のハロゲンである。AはEu、Tb、In、Ga、Cs、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMgからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属である。a、b、eは、各々0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e≦0.2
の範囲の数値を表す。〕
【請求項4】 前記一般式(3)のM^(I)は、K、RbおよびCsから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属であることを特徴とする請求項3に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項5】 前記一般式(3)のXは、BrまたはIであることを特徴とする請求項3または4に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項6】 前記一般式(3)のM^(II)は、Be、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれる少なくとも一種の二価金属であることを特徴とする請求項3?5のいずれか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項7】 前記一般式(3)のM^(III)は、Y、La、Ce、Sm、Eu、Gd、Lu、Al、GaおよびInから選ばれる少なくとも一種の三価金属であることを特徴とする請求項3?6のいずれか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項8】 前記一般式(3)のbが、0≦b≦10^(-2)であることを特徴とする請求項3?7のいずれか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項9】 前記一般式(3)のAが、Eu、Cs、Sm、Tl及びNaからなる群から選択される少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項3?8のいずれか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項10】 前記一般式(3)で表される組成を有する輝尽性蛍光体が下記一般式(4)で表される輝尽性蛍光体であることを特徴とする請求項3?9のいずれか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
一般式(4)
CsX:yA
〔式中、XはCl、BrまたはIを表し、Aは、Eu、Sm、In、Tl、GaまたはCeを表す。yは、1×10^(-7)?1×10^(-2)までの数値を表す。〕
【請求項11】 請求項1?10のいずれか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法により当該パネルを製造するに当たり、輝尽性蛍光体層が気相堆積法により形成される工程を有することを特徴とする放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項12】 輝尽性蛍光体層を形成しようとする支持体面の法線方向に対して、輝尽性蛍光体または該輝尽性蛍光体の原料を特定の入射角で入射させることにより、前記支持体面の法線方向に対して特定の傾きを有し、且つ、独立した柱状結晶から構成される輝尽性蛍光体層を形成することを特徴とする請求項11に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項13】 入射角を、0°?80°の範囲に調整することを特徴とする請求項12に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項14】 入射角を、0°?70°の範囲に調整することを特徴とする請求項12に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項15】 請求項1?14のいずれか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法を用いて製造されたことを特徴とする放射線画像変換パネル。」を、
「【請求項1】 支持体上に、少なくとも輝尽性蛍光体層を有する放射線画像変換パネルの製造方法において、該輝尽性蛍光体層が気相堆積法により形成される工程を有し、蒸着中の真空度0.13Pa以上で形成した柱状結晶構造を有する輝尽性蛍光体を有し、且つ、該柱状結晶構造が下記一般式(1)を満たす柱状結晶径比を示すことを特徴とする放射線画像変換パネルの製造方法。
一般式(1)
1.0≦D2/D1≦3.0
〔式中、D2は支持体上に形成された輝尽性蛍光体層表面での第1の柱状結晶径を表し、D1は輝尽性蛍光体層の膜厚をTとした時、支持体表面から輝尽性蛍光体層表面に向かって0.1Tの距離にある第2の柱状結晶径を表す。〕
【請求項2】 前記柱状結晶径比が下記一般式(2)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
一般式(2)
1.3≦D2/D1≦3.0
【請求項3】 前記輝尽性蛍光体層が、蒸着中の支持体温度150から270℃で形成した柱状結晶構造を有する輝尽性蛍光体を有することを特徴とする請求項1または2に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項4】 前記輝尽性蛍光体層が、蒸着中の蒸気流入射角度が0°で形成した柱状結晶構造を有する輝尽性蛍光体を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項5】 輝尽性蛍光体層が、下記一般式(3)で表される組成を有する輝尽性蛍光体を含有することを特徴とする請求項1に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
一般式(3)
M^(I)X・aM^(II)X′_(2)・bM^(III)X″_(3):eA
〔式中、M^(I)はLi、Na、K、RbおよびCsから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属であり、M^(II)はBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、CdおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも一種の二価金属であり、M^(III)はSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、GaおよびInから選ばれる少なくとも一種の三価金属であり、X、X′およびX″はF、Cl、BrおよびIからなる群から選ばれる少なくとも一種のハロゲンである。AはEu、Tb、In、Ga、Cs、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMgからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属である。a、b、eは、各々0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e≦0.2の範囲の数値を表す。〕
【請求項6】 前記一般式(3)のM^(I)は、K、RbおよびCsから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属であることを特徴とする請求項5に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項7】 前記一般式(3)のXは、BrまたはIであることを特徴とする請求項5または6に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項8】 前記一般式(3)のAが、Eu、Cs、Sm、Tl及びNaからなる群から選択される少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
【請求項9】 前記一般式(3)で表される組成を有する輝尽性蛍光体が下記一般式(4)で表される輝尽性蛍光体であることを特徴とする請求項5から8のいずれか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法。
一般式(4)
CsX:yA
〔式中、XはCl、BrまたはIを表し、Aは、Eu、Sm、In、Tl、GaまたはCeを表す。yは、1×10^(-7)から1×10^(-2)までの数値を表す。〕
【請求項10】 請求項1から9のいずれか1項に記載の放射線画像変換パネルの製造方法を用いて製造されたことを特徴とする放射線画像変換パネル。」と補正するものである。

2 本件補正の目的
上記特許請求の範囲に係る補正について、その補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下単に「特許法第17条の2」という。)第4項各号に規定する目的に該当するものであるか否かを、各請求項について検討する。
本件補正後(以下単に「補正後」という。)の請求項2、5?7、8?9、10が、それぞれ、補正前の請求項2、3?5、9?10、15に対応し、記載事項に実質的な変更がないことは明らかである。また、補正前の請求項6ないし8は、補正後に対応する請求項が存在しないことから、補正前の請求項6ないし8に関しては、特許法第17条の2第4項1号に規定する請求項の削除を目的とする補正であることが明らかである。
そこで、上記以外の補正後の請求項1、3、4について検討する。
最初に、補正後の請求項3について検討すると、補正後の請求項3は「蒸着中の支持体温度」の温度範囲を規定するものであり、一応、蒸着に係る条件を規定するものである。しかしながら、補正前の特許請求の範囲には、蒸着中の支持体温度を発明特定事項とする請求項がなく、対応する請求項が存在しない。したがって、補正後の請求項3は、実質的に新たな請求項を導入する増項補正であって、補正前の請求項に記載された発明特定事項を限定して減縮したものとも認められない上、請求項3に係る補正が、請求項の削除、誤記の訂正、明りようでない記載の釈明を目的とするものでないことは明らかである。したがって、補正後の請求項3に係る補正は、特許法第17条の2第4項各号に規定するいずれの目的にも該当しない。
次に、補正後の請求項4について検討すると、補正後の請求項4は、「蒸着中の蒸気流入射角度が0°で形成した柱状結晶構造を有する輝尽性蛍光体」であることを規定するもので、入射角を発明特定事項とする点で補正前の請求項12ないし14のいずれかの請求項に対応する請求項と一応認められる。しかしながら、補正前の請求項12ないし14は、入射角を0°とする態様を含むものの、輝尽性蛍光体層について、「支持体面の法線方向に対して特定の傾きを有し、且つ、独立した柱状結晶から構成される」ことを発明特定事項とするのに対し、補正後の請求項4は、輝尽性蛍光体層について、支持体面の法線方向に対する「傾き」、および、柱状結晶が「独立」していることを規定していない。してみると、補正後の請求項4は、補正前の請求項12ないし14を減縮したものであるということはできない上、請求項4に係る補正が、請求項の削除、誤記の訂正、明りようでない記載の釈明を目的とするものでないことは明らかである。したがって、請求項4に係る補正は、特許法第17条の2第4項各号に規定するいずれの目的にも該当しない。
最後に、補正後の請求項1について検討すると、補正後の請求項1で規定する「(輝尽性蛍光体層が)気相堆積法により形成される」という事項は、補正前の請求項11に発明特定事項として記載されていた事項であり、また、拒絶査定において、具体的な製造工程が明りようでないと指摘されていることから、補正後の請求項1に係る補正は、
(a)補正前の請求項1を削除し、補正前の請求項11を補正後の請求項1とする補正、
(b)補正前の請求項11を削除し、補正前の請求項1について、拒絶査定で指摘された明りようでない記載を明りようとすることを目的とする補正、
(c)補正前の請求項11を削除し、補正前の請求項1について、輝尽性蛍光体層の形成方法を、「気相堆積法により形成される」と限定して減縮する補正、
のいずれかに解されるので、それぞれと解した場合についてさらに検討する。
上記(a)と解すると、請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第4項1号に規定する請求項の削除を目的とした補正であるといえる。
上記(b)と解するには、補正後の請求項1が、一般式(1)を満たすための製造工程を明りようとしたものである必要があるものの、本願の明細書に記載された比較例は、輝尽性蛍光体層を、気相堆積法によって蒸着中の真空度0.13Pa以上の条件下で形成しているにもかかわらず、一般式(1)を満たしていないことからして、補正後の請求項1に付加的に規定された、「(輝尽性蛍光体層が)気相堆積法により形成される」ことのみによって、一般式(1)が満たされるとは到底考えられないから、補正後の請求項1の記載は、一般式(1)を満たす製造方法として依然として明りようでない。したがって、上記(b)と解した場合には、請求項1に係る補正は、特許法第17条の2第4項各号に規定するいずれの目的にも該当しない。

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項各号に規定するいずれの目的にも該当しない補正(少なくとも請求項3,4に係る補正)を含むものであるので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであるが、念のため、補正後の請求項1について、上記(c)と解した場合について、本件補正後の請求項1に係る発明(「以下「本件補正発明」という。)が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か)について、以下に検討する。

3 独立特許要件
(1)本件補正発明
本件補正発明は、平成20年10月10日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 支持体上に、少なくとも輝尽性蛍光体層を有する放射線画像変換パネルの製造方法において、該輝尽性蛍光体層が気相堆積法により形成される工程を有し、蒸着中の真空度0.13Pa以上で形成した柱状結晶構造を有する輝尽性蛍光体を有し、且つ、該柱状結晶構造が下記一般式(1)を満たす柱状結晶径比を示すことを特徴とする放射線画像変換パネルの製造方法。
一般式(1)
1.0≦D2/D1≦3.0
〔式中、D2は支持体上に形成された輝尽性蛍光体層表面での第1の柱状結晶径を表し、D1は輝尽性蛍光体層の膜厚をTとした時、支持体表面から輝尽性蛍光体層表面に向かって0.1Tの距離にある第2の柱状結晶径を表す。〕」

(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平4-152300号公報(以下「引用例」という。)には、図面とともに以下の記載がある。
(2a)第1頁左下欄第13?18行
「〔産業上の利用分野〕
本発明は、放射線画像変換パネルの製造方法に関し、詳しくは、輝尽性蛍光体層を気相堆積法によって形成するに際して、基板上への堆積速度を経時的に大きくする点に特徴を有する放射線画像変換パネルの製造方法に関する。」
(2b)第2頁左下欄第11行?第3頁右上欄第1行
「……詳しく説明すると、この放射線画像変換方法においては、放射線画像変換パネルに蓄積された放射線画像情報は時系列化されて取り出されるので、ある時間(t_(i))に照射された輝尽励起光による輝尽発光は、望ましくはすべて採光されその時間に輝尽励起光が照射されていた当該パネル上のある画素(x_(i),y_(i))からの出力として記録されるが、かりに輝尽励起光が当該パネル内で散乱等により広がり、照射画素(x_(i),y_(i))の外側に存在する輝尽性蛍光体をも励起してしまうと、当該照射画素(x_(i),y_(i))からの出力としてその画素よりも広い領域からの出力が記録されてしまう。従って、ある時間(t_(i))に照射された輝尽励起光による輝尽発光が、その時間(t_(i))に輝尽励起光が真に照射されていた当該パネル上の画素(x_(i),y_(i))からの発光のみであれば、その発光がいかなる広がりを持つものであろうと、得られる画像の鮮鋭性には影響がない。
このような情況の中で、放射線画像の鮮鋭性を改善する方法がいくつか提案されている。…(中略)…
さらに、本願の出願人によって、輝尽性蛍光体層が微細柱状結晶からなる放射線画像変換パネルおよびその製造方法が提案されている(特開昭61-142497号?142500号、同62-105098号の各公報参照)。この技術によれば、輝尽励起光は、微細柱状結晶の光誘導効果のため柱状結晶内で反射を繰り返しながら、柱状結晶外に散逸することなく柱状結晶の底まで到達するため、輝尽発光による画像の鮮鋭性をより増大することができる。」
(2c)第3頁右上欄第2?11行
「〔発明が解決しようとする課題〕
……
すなわち、気相堆積法を利用して輝尽性蛍光体層を製造するに際しては、柱状結晶が成長する条件下であっても、同1条件では層厚が増加するにつれて柱状結晶か太くなり、その結果、柱状結晶同士を隔てる空隙が狭くなり、いずれは消失してしまうため、柱状結晶による効果が十分に発揮されず、従って、画像の鮮鋭性が不十分となる。」
(2d)第3頁右上欄第17行?同左下欄第7行
「〔課題を解決するための手段〕
以上の目的を達成するために、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、輝尽性蛍光体層を気相堆積法によって形成するに際して、基板上への堆積速度を経時的に大きくする、というきわめて簡単な手段により、柱状結晶が太くならず、空隙が表面にまで到達し、放射線感度および画像の粒状性のみならず、画像の鮮鋭性をも十分に満足する放射線画像を形成できる放射線画像変換パネルを製造し得ることを見出して、本発明を完成するに至ったものである。」
(2e)第4頁左下欄第9?18行
「 本発明においては、気相堆積法により輝尽性蛍光体層を形成するが、気相堆積法としては蒸着法が好ましく、上記のような電子ビーム蒸着法のほかに、抵抗加熱蒸着法等を用いてもよい。
また、複数の電子ビーム発生器または抵抗加熱器を用いて共蒸着を行ってもよい。すなわち、輝尽性蛍光体の構成材料を複数の抵抗加熱器または電子ビームを用いて共蒸着し、基板6上で目的とする輝尽性蛍光体を合成すると同時に、輝尽性蛍光体層を形成することも可能である。」
(2f)第7頁右下欄第2行?第8頁左上欄第2行
「〔実施例1〕
厚さが0.5mmで表面が平滑なアルミニウム板からなる基板を蒸着装置内に配置した。
蒸発源容器内にRbBr:0.002TlBr(輝尽性蛍光体の材料)を充填して、この蒸発源容器を蒸着装置内に配置した。
蒸着装置内を排気し、基板を加熱して基板表面を清浄にした。
基板の温度を300℃の一定値に設定し、蒸着装置内にArガスを導入して蒸着装置内の雰囲気圧力を1×10^(-3)Torrの一定値に設定し、電子ビーム発生器を調整して蒸着開始時の堆積速度V_(1)が5μm/分になるように設定した。
堆積速度を第3図の曲線(a)で示すように除々に大きくしながら、蒸着終了時の堆積速度V_(2)が25μm/分となるような条件下で、電子ビーム蒸着法により蒸発源容器内の輝尽性蛍光体を蒸発させてこれを基板上に堆積させて、層厚が200μmの輝尽性蛍光体層を形成し、本発明の変換パネルAを製造した。第4図(a)は、上記輝尽性蛍光体層の構造の一部を模式的に示したものである。」
(2g)第8頁右上欄第6?13行
「〔実施例3〕
蒸着開始時の堆積速度V_(1)が13μm/分で、蒸着終了時の堆積速度V_(2)が17μm/分となるように、雰囲気圧力を第3図の曲線(c)で示すように除々に大きくしたほかは、実施例1と同様にして輝尽性蛍光体層を備えた変換パネルCを製造した。第4図(c)は、上記輝尽性蛍光体層の構造の一部を模式的に示したものである。」
(2h)第8頁左下欄第8?15行
「〔実施例5〕
蒸着開始時の堆積速度V_(1)が0.2μm/分で、蒸着終了時の堆積速度V_(2)が1.0μm/分となるように、堆積速度を第5図の曲線(e)で示すように除々に大きくしたほかは、実施例1と同様にして輝尽性蛍光体層を備えた変換パネルEを製造した。第4図(e)は、上記輝尽性蛍光体層の構造の一部を模式的に示したものである。」
(2i)第9頁右上欄第18行?同左下欄第3行
「〔比較例1〕
実施例1において、堆積速度を15μm/分の一定値としたほかは同様にして輝尽性蛍光体層を備えた変換パネルaを製造した。第4図(g)は、上記輝尽性蛍光体層の構造の一部を模式的に示したものである。」
(2j)第10頁左上欄第8?17行
「〔発明の効果〕
以上詳細に説明したように、本発明の製造方法によれば、輝尽性蛍光体層を気相堆積法によって形成するに際して、基板上への堆積速度を経時的に大きくするようにしたので、柱状結晶が太くならず、空隙が輝尽性蛍光体層の表面にまで到達するようになり、その結果、放射線感度および画像の粒状性のみならず、画像の鮮鋭性をも十分に満足する放射線画像を形成できる放射線画像変換パネルを製造することができる。」
(2k)第4図
上記(2f)?(2j)の記載内容からして、柱状結晶は太くなりつつ成長するものの、第3実施例および第5実施例について図示した第4図(c)および第4図(e)では、柱状結晶同士の間隔が消失することなく成長して空隙が表面にまで到達しているのに対し、比較例について図示した第4図(g)では、柱状結晶同士の間隔が消失して表面には空隙がないことを看取することができる。

引用例の上記記載事項、および図面から看取できる事項からして、引用例には、
「基板上に、輝尽性蛍光体層を気相堆積法によって形成する放射線画像変換パネルの製造方法において、基板の温度を300℃の一定値、蒸着装置内の雰囲気圧力を1×10^(-3)Torrの一定値に設定し、基板上への堆積速度を経時的に大きくすることにより、輝尽性蛍光体の柱状結晶は太くなりつつ成長するものの、柱状結晶同士を隔てる空隙が消失することなく、空隙が表面にまで到達して、放射線感度および画像の粒状性のみならず、画像の鮮鋭性をも十分に満足する放射線画像を形成できる、放射線画像変換パネルの製造方法。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

(3)本件補正発明と引用発明との対比
引用発明の「基板」が、本件補正発明の「支持体」に相当することは明らかである。 また、1Torr=133.3Paであることを勘案すると、引用発明の「1×10^(-3)Torr」が、0.1333Paを意味することは明らかであるから、引用発明と本件補正発明とは、「蒸着中の真空度0.13Pa以上」である点で一致する。

したがって、本件補正発明と引用発明とは、
「支持体上に、少なくとも輝尽性蛍光体層を有する放射線画像変換パネルの製造方法において、該輝尽性蛍光体層が気相堆積法により形成される工程を有し、蒸着中の真空度0.13Pa以上で形成した柱状結晶構造を有する輝尽性蛍光体を有する放射線画像変換パネルの製造方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点〉輝尽性蛍光体層の柱状結晶構造について
本件補正発明は、
「下記一般式(1)を満たす柱状結晶径比を示す
一般式(1)
1.0≦D2/D1≦3.0
〔式中、D2は支持体上に形成された輝尽性蛍光体層表面での第1の柱状結晶径を表し、D1は輝尽性蛍光体層の膜厚をTとした時、支持体表面から輝尽性蛍光体層表面に向かって0.1Tの距離にある第2の柱状結晶径を表す。〕」のに対し、
引用発明は、柱状結晶の径が明らかでなく、上記一般式(1)について記載がない点。

(4)相違点についての検討・判断
引用発明の柱状結晶は、「太くなりつつ成長するものの、柱状結晶同士を隔てる空隙が消失することなく、空隙が表面にまで到達」することによって、「放射線感度および画像の粒状性のみならず、画像の鮮鋭性をも十分に満足する放射線画像を形成できる」ものである。そして、引用例の記載(前記(2b)?(2d)、(2j)参照)、および、第4図の図示内容(第4図(g)と他の図(特に第4図(c)、第4図(e))との対比)からして、引用発明は、柱状結晶成長時の過大な太径化による柱状結晶同士の接触を避けることにより、輝尽励起光の散乱による柱状結晶相互間の広がりを防止したものであることは明らかである。そうすると、引用発明は、基板(支持体)表面では互いに接触していない柱状結晶の成長中の太径化を制御することにより、輝尽性蛍光体層表面において柱状結晶同士の接触を避ける、という技術思想を開示しているものといえる。
そして、輝尽性蛍光体層表面において柱状結晶同士が接触するか否かは、柱状結晶の基板(支持体)表面上の密度、径、および、その成長状況、ならびに、柱状結晶の高さ(輝尽性蛍光体層の厚さ)という、柱状結晶の形成状況と幾何学的条件によって定まることは明らかであり、また、基板(支持体)表面における柱状結晶の径よりも輝尽性蛍光体層表面における柱状結晶の径が小さい場合には、柱状結晶同士を隔てる空隙が大きくなって画像の粒状性が悪化するとともに、励起光の利用効率が低下して輝度に悪影響を与えることは明らかであるから、引用発明が開示する上記技術思想に従えば、基板(支持体)表面における柱状結晶の径と、輝尽性蛍光体層表面における柱状結晶の径の比は、1以上、所定の値以下に制限されることは明らかである。
一方、相違点1の「一般式(1)」中の「D1」に関し、本願の明細書には、段落【0048】、【0050】に、その定義が記載されているにすぎず、「D1は輝尽性蛍光体層の膜厚をTとした時、支持体表面から輝尽性蛍光体層表面に向かって0.1Tの距離にある第2の柱状結晶径」とした格別の根拠を見出すことはできない。また、「1.0≦D2/D1≦3.0」に関し、本願の明細書には、様々なアスペクト比について輝度、鮮鋭性を評価した表1の記載があるものの、以下に述べるとおり、D2/D1=3.0を境界として、輝度と鮮鋭性に格段の向上が見られるとは認められず、そのことは、蒸着時の真空条件を勘案しても同様である。
次に示すFig.1、2は、本願明細書の表1に記載されたパネルのうち、本件補正発明が発明特定事項とする「蒸着中の真空度0.13Pa以上」の蒸着条件において得られたとしているパネルについて、輝度と鮮鋭性の値をプロットしたもので、Fig.1は、アスペクト比の値D2/D1を横軸として、Fig.2は、輝尽性蛍光体層面の柱状結晶径D2を横軸として示したものである。

これらの図示内容からして、鮮鋭性について、Fig.1から、アスペクト比=3を挟んだデータ間で一応差異が見られるものの、Fig.2からは、輝尽性蛍光体層面の柱状結晶径D2、すなわち輝尽性蛍光体表面における面積に依存する傾向が見られ、アスペクト比に依存して変化する傾向を見出すことができない。
また、輝度について、Fig.1から、アスペクト比が大きくなるにしたがってなだらかな低下傾向が見られるものの、アスペクト比=3を挟んで顕著な差異は見いだせず、Fig.2を見ると、鮮鋭性と同様に、輝尽性蛍光体層面の柱状結晶径D2に依存して変化する傾向が見られる。
そうすると、本願明細書に記載された各種パネルの鮮鋭性、輝度に関するデータからは、鮮鋭性や輝度の良否について、輝尽性蛍光体層面の柱状結晶径D2に依存する傾向があるという知見は得られるものの、柱状結晶径のアスペクト比、特にその比の値であるD2/D1=3を臨界点として格別顕著な差異が得られるという知見を得ることはできない。
してみると、引用発明の製造方法において、輝尽性蛍光体層表面における柱状結晶同士の接触を避け得るよう、蒸着条件に応じて、柱状結晶の基板(支持体)表面上の密度、径、および、その成長状況、ならびに、柱状結晶の高さ(輝尽性蛍光体層の厚さ)という、柱状結晶の形成状況と幾何学的条件に応じ、輝尽性蛍光体層の柱状結晶構造のアスペクト比を設定することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎず、引用発明に基いて上記相違点1に係る構成を得ることに格別の進歩性を見出すことはできない。
また、引用発明に相違点1に係る構成を付加することにより、引用発明からは想定できない格別な作用効果を見出すこともできない。

よって、本件補正発明は、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 本件補正についての結び
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項各号に規定するいずれの目的にも該当しない補正(少なくとも請求項3,4に係る補正)を含むものであり、また、請求項1に係る補正を、補正前の請求項11を削除し、補正前の請求項1について、輝尽性蛍光体層の形成方法を限定して減縮する補正であると解したとしても、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるので、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、平成20年10月10日付け手続補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成20年2月25日付け手続補正によって補正された、特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「支持体上に、少なくとも輝尽性蛍光体層を有する放射線画像変換パネルの製造方法において、該輝尽性蛍光体層が真空度0.13Pa以上で形成した柱状結晶構造を有する輝尽性蛍光体を有し、且つ、該柱状結晶構造が下記一般式(1)を満たす柱状結晶径比を示すことを特徴とする放射線画像変換パネルの製造方法。
一般式(1)
1.0≦D2/D1≦3.0
〔式中、D2は支持体上に形成された輝尽性蛍光体層表面での第1の柱状結晶径を表し、D1は輝尽性蛍光体層の膜厚をTとした時、支持体表面から輝尽性蛍光体層表面に向かって0.1Tの距離にある第2の柱状結晶径を表す。〕」

2 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献およびその記載事項、ならびに引用発明は、上記第2[理由]3の(2)に記載したとおりである。

3 本願発明と引用発明との対比、検討、判断
本願発明は、上記II[理由]2で検討したとおり、実質的に、本件補正発明の「輝尽性蛍光体層の形成方法」についての発明特定事項である、「気相堆積法により形成される」という発明特定事項を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、更に他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2[理由]3の(4)で述べたとおり、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、同様の理由により、引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-25 
結審通知日 2010-08-31 
審決日 2010-09-13 
出願番号 特願2002-35196(P2002-35196)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21K)
P 1 8・ 575- Z (G21K)
P 1 8・ 57- Z (G21K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 靖  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 神 悦彦
岡田 吉美
発明の名称 放射線画像変換パネル及びその製造方法  

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