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審決分類 審判 判定 権利のもの 属さない(申立て不成立) C12Q
管理番号 1226461
判定請求番号 判定2010-600026  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2010-12-24 
種別 判定 
判定請求日 2010-05-17 
確定日 2010-10-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第3251219号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「ヒトミトコンドリアDNAを用いた遺伝子検出方法」は、特許第3251219号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は,甲第1号証?甲第5号証に説明される「サインポストの遺伝子検査サービス」に係るイ号方法が,特許第3251219号の特許請求の範囲請求項1に係る発明(以下,「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する,との判定を求めるというものである。

2.本件特許発明
本件特許発明は,特許明細書及び図面の記載から見て,その特許請求の範囲の請求項1により特定されるとおりのものと認められるところ,それを構成要件に分節すると,次のとおりである。

(A)ヒトミトコンドリアDNAの塩基配列のうち,
(A-1)4883位の塩基がシトシンからチミンに,
(A-2)5178位の塩基がシトシンからアデニンに,
(A-3)8414位の塩基がシトシンからチミンに,
(A-4)14668位の塩基がシトシンからチミンに,
置換されていることに基づき,前記4ヶ所の塩基置換のうちの少なくとも1ヶ所の塩基置換を検出することを特徴とするヒトミトコンドリアDNAを用いた
(B)遺伝子検出方法。

3.イ号方法
請求人が提出した甲第1?5号証の記載からみて,イ号方法の構成は以下のとおりである。

肥満,酸化ストレス,コレステロールなどメタボリックシンドロームに関する62個の遺伝因子を測定する遺伝子検査方法であって,該62個の遺伝因子の一つとして,ミトコンドリア遺伝子多型(C5178A)を検出する方法。

4.当事者の主張の概要
(1)請求人の判定請求書における主張の概要
請求人は,イ号方法は,本件特許発明の構成要件(A)の選択肢の中の(A-2)及び構成要件(B)を充足し,本件特許の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する旨主張している。

(2)被請求人の答弁書における主張の概要
被請求人は,乙第1?4号証を提出し,イ号方法は本件特許出願日以前から公知の技術を利用したものに過ぎず,また,本件特許発明は本件特許の出願当時に公知であった技術を含むものであるから,本件特許発明の技術的範囲については,公知技術を考慮した上で判断すべきである旨主張している。

(3)請求人の弁駁書における主張の概要
これに対して,請求人は,乙第1?4号証は,全て5176位の制限酵素AluIによる認識部位がなくなるという遺伝子変異が存在することを示しているに過ぎず,本件特許発明の「5178位の塩基がシトシンからアデニンに置換されていること」を意味せず,本願発明のC5178A変異が存在すること,並びにこの変異が長寿および成人病に関連することについて開示も示唆もするものではなく,被請求人の主張は失当であると主張している。

5.当審の判断
(1)本件特許出願日における公知技術
そこで,本件特許出願日における公知技術について検討すると,乙第2号証(Genetics, 1992, Vol.130, p.153-162)には以下の事項が記載されている。

ア.「87のAmerind語スピーカー(Amerind)と80のNadene語スピーカー(Nadene)を含む167のアメリカ先住民由来のミトコンドリアDNA(mtDNA)が詳細な制限酵素解析による配列変異について調査された。全てのアメリカ先住民のmtDNAは,制限酵素サイトの変異によって定義される,4つの異なる系列の一つに入る群を形成した。:13259位のHincIIサイト欠如,5176位のAluIサイト欠如,9塩基対(9-bp)のCOII-tRNA^(Lys)遺伝子間の欠失,及び663位のHaeIIIサイト獲得。13259位のHincII及び5176位のAluIの系列は,Amerindに独占的に観察され,解析されたそのような部族の全てに共有され,このように,北,中央及び南アメリカのAmerindが共通の先祖の遺伝的系統に由来することを示した。」(第153頁要約)

イ.「アメリカの居住者のさらなる調査をするために,我々はアメリカ先住民のmtDNA変異を調査した。その母性遺伝のために(Gilesら,1980),mtDNAは放射状の女性系列に沿って,突然変異を順次蓄積する。mtDNAの高い突然変異率(Brown,George及びWilson,1979;Wallaceら,1987)は,近縁の個体群間でさえ識別を可能にする。」(第153頁第13行?第154頁第3行)

ウ.「クラスターDのハプロタイプは,5176位のAluIサイトの欠如によって識別され,この突然変異は実質的にいつも10394位のDdeI及び10397位のAluIサイトの獲得を伴う。このクラスター内のハプロタイプは独占的にAmerind(Pomo,Maya,Ticua)の中で見つかり,解析されたサンプルの19.5%を構成した。この突然変異は韓国人の23.1%,中国漢民族の14.3%,台湾漢民族の10.0%のmtDNAでも観察されている。(Ballingerら,1992)。系統学的解析はハプロタイプ44をクラスターDの節点に置いた。このハプロタイプは2つの部族グループ(Pomo及びTicua)に共有される唯一のものであり,Ballingerら,1992のアジアのハプロタイプ25から単一の突然変異で遠ざかっただけである。故に,それはおそらくこの系列の創始ハプロタイプである。」(第158頁第30?44行)。

乙第2号証の記載事項ア?ウによれば,民族の系統学的解析を行うために,ヒトミトコンドリアDNAの塩基配列の変異を検出すること,変異の検出は制限酵素サイトの変異として検出されること,そして,クラスターDに分類されるハプロタイプは,ヒトミトコンドリアDNAの5176位のAluIサイト欠如の変異を有し,この変異はAmerindの他,韓国人,及び漢民族などにも存在することが記載されている。
ここで,ヒトミトコンドリアDNAの5176位のAluIサイト欠如の変異とは,請求人が弁駁書第2頁第24?27行において述べているように,5176位から5179位にかけてのAGCTという塩基配列のうち何れかの塩基に置換が生じることによって,制限酵素AluIで切断できなくなったために検出される変異であるが,乙第2号証には,5176?5179位のAGCTの塩基配列のどの塩基が何の塩基に置換したものか具体的に記載されていない。
しかしながら,5176?5179位のAluIサイトの変異型は,乙第2号証の記載事項ウにあるように,異なるアジア系民族においてある程度の出現頻度で検出され,系統学的クラスターを形成し得る程度に集団の中で保存された変異,即ちある程度一般的に見られる変異であること,本願明細書において検出をおこなった37例の百寿者において,5176?5179位のAluIサイトにおける変異型は,5178位のCからAへの置換型しか検出されていないこと,及びヒトミトコンドリアゲノム多型データベース(http://mtsnp.tmig.or.jp/mtsnp/index.shtml)に登録される5178位の多型には、A置換型が288例もあるのに対し,T置換型が1例だけであることに鑑みれば,乙第2号証において記載されたミトコンドリアDNAの5176?5179位のAluIサイト欠如の変異は,本願明細書で記載されたものと同じ5178位のCからAへの置換を検出している蓋然性が極めて高いものである。
また,本件特許明細書における実施例5では,患者群のミトコンドリアDNAの塩基配列について,PCR-RFLP法により5178位の変異を検出しており,5176?5179位の塩基のいずれが何の塩基に置換されているかを個別に確認せずに,5178位のCからAへの置換型であると判定していることからしても,5176?5179位のAluIサイトの検出を行えば,実質的には5178位におけるCからAへの置換に基づく塩基置換の検出がなされているものといえる。
してみると,乙第2号証に記載された,ミトコンドリアDNAの5176位のAluIサイト欠如の検出は,実質的には本件特許発明と同じ,5178位の塩基がCからAに置換されていることに基づく塩基置換の遺伝子検出方法を行っているものといえる。

また,請求人は,乙第2号証には,AluIサイト欠如の変異が,長寿及び成人病に関連することは記載がないと主張しているが,本件特許発明において,遺伝子の検出結果を長寿及び成人病に関連付けることは,本件特許発明の構成要件ではない。

よって,本件特許発明のうち,選択肢(A-2)の態様については,本件特許出願当時に公知の技術であったものと認める。

(2)本件特許発明の技術的範囲
出願当時に公知の部分を含む特許発明の技術的範囲を確定するにあたっては,その公知の部分を除外して新規な技術的思想の趣旨を明らかにすべきであることは,数々の判例において判示されているところである(例えば,最高裁昭和39年8月4日第三小法廷判決,昭和37年(オ)第871号を参照)。
そして,(1)において検討したとおり,本件特許発明のうち,選択肢(A-2)の態様については,本件特許出願当時において公知技術であるから,本件特許発明の技術的範囲は,構成要件Aの選択肢(A-2)を除外したものと認めるのが相当である。

(3)属否の判断
イ号方法におけるミトコンドリア遺伝子多型(C5178A)は,遺伝子検査の対象がヒトであることから,ヒトミトコンドリアDNAを検出対象としていることは明らかである。
また,「C5178A」との記載は,当該技術分野における技術常識からみて,ミトコンドリアDNAの塩基配列のうち5178位の「C(シトシン)」が「A(アデニン)」に置換された多型が存在することを表記しているものと認められる。
この点については,被請求人が判定請求答弁書において,「被請求人は,・・・ミトコンドリア遺伝子の5178位の塩基置換を酸化ストレスを左右するものとして,診断補助サービスに使用しております。具体的には,5178位の塩基C(シトシン)であるときを「酸化ストレスが亢進しやすい」,C以外であるときを「酸化ストレスが亢進しにくい」との判定結果を出力するようになっております。なお,後述しますように,ミトコンドリア遺伝子の5178位の塩基は,それがC以外であるときはA(アデニン)以外になく,他の塩基は存在しません。」と述べ,被請求人も認めるところである。
してみると,イ号方法は,「ヒトミトコンドリアDNAの塩基配列のうち,(A-2)5178位の塩基がシトシンからアデニンに置換されていることに基づき,塩基置換を検出」しているが,(2)に記載したとおり,選択肢(A-2)については本件特許発明の技術的範囲から除外されるべきものであるから,イ号方法は,構成要件Aを充足しない。

したがって,構成要件Bを検討するまでもなく,イ号方法は,本件特許発明の技術的範囲に属しない。
 
判定日 2010-10-19 
出願番号 特願平9-279127
審決分類 P 1 2・ 081- ZB (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上條 肇  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 吉田 佳代子
平田 和男
登録日 2001-11-16 
登録番号 特許第3251219号(P3251219)
発明の名称 ヒトミトコンドリアDNAを用いた遺伝子検出方法  
代理人 小林 洋平  
代理人 小林 洋平  

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