ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 判定 同一 属する(申立て成立) A45D |
---|---|
管理番号 | 1226462 |
判定請求番号 | 判定2010-600036 |
総通号数 | 132 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2010-12-24 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2010-06-22 |
確定日 | 2010-11-09 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4356901号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号写真ならびに説明書に示す「繰り出し容器」は、特許第4356901号発明の技術的範囲に属する。 |
理由 |
I 請求の趣旨・手続の経緯 本件判定の請求は、平成22年6月22日になされ、その請求の趣旨は、イ号物件は、特許第4356901号の請求項1及び請求項2に係る発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである(以下、それぞれの発明を「本件特許発明1」、「本件特許発明2」といい、また、両者を併せて「本件特許発明」という。)。 これに対して、同年7月13日付け(発送日:同年7月16日)で被請求人に判定請求書副本を送達するとともに、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたところ、同年8月16日に答弁書が提出された。 一方、同年10月7日及び14日に、請求人より上記イ号物件の現物が提出された。 II 本件特許発明 本件特許発明は、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりのものであって、その構成、目的及び効果は、以下のとおりである。 1 本件特許発明の構成 分説すると、次のとおりである。 (本件特許発明1) 【請求項1】 (A) 内周面に螺旋溝(3a)を設けた筒状の外筒部(3)内に、上下方向にガイド孔(4a)を有した筒状の内筒部(4)を相対回転可能に収容し、 (B) この内筒部(4)内に、ガイド孔(4a)を貫通し外筒部(3)の螺旋溝(3a)に係合する主導突起(5a)を設けた筒状の受皿(5)を収容し、 (C) 外筒部(3)に対して内筒部(4)を相対回転させることにより受皿(5)が内筒部(4)内を螺旋溝(3a)に沿って上下方向に移動可能とした繰り出し容器において、 (D) 内筒部(4)の外壁に変形可能な突片部(6)を設け、 (E)内筒部(4)を外筒部(3)に収容する際に、突片部(6)を変形させ、 (F)分別時の使用済み確認を可能にした (G)ことを特徴とする繰り出し容器。 (本件特許発明2) 【請求項2】 (H) 突片部(6)に当接する係合面(7)を外筒部(3)の内周面に設けた (I)ことを特徴とする請求項1記載の繰り出し容器。 2 本件特許発明の目的及び作用効果 明細書の記載によれば、本件特許発明は、被繰り出し物の用途に応じてリュースをしてはいけない場合や、衛生面に特に配慮が必要な部材を分別後、又は、部材洗浄後にも特定可能な構造の繰り出し容器を得ることを目的とするものである(段落番号【0008】の記載を参照。)。 そして、本件特許発明は、容器の分別後には突片部6が変形しているので使用済み部材であることを容易に確認することができる、との作用を奏することにより、一旦組み込まれた部材や使用済みの部材であることを知らせると共に、取扱に何らかの注意が必要であることを喚起し、また、確認することができるとの効果を奏するものである(段落番号【0010】及び【0015】の記載を参照。)。 さらに、本件特許発明2は、突片部6に当接する係合面7を外筒部3の内周面に設けているので外筒部3と内筒部4との間の相対回転に与える影響を最小限に抑えることができるとの作用効果を奏するものである(段落番号【0011】の記載を参照。)。 III イ号物件 イ号物件は本件請求書に添付された「イ号写真ならびに説明書」に写真として掲載された「繰り出し容器」である。 また、請求人は、イ号物件の現物として、未開封のもの(1個)、開封済みのもの(4個)及び解体したもの(2個)を提出している。 IV 当審の判断 1 イ号物件の特定について (1)判定請求書に添付された「イ号写真ならびに説明書」の写真及び甲第1号証の「中国から輸入されたイ号物件」をタイトルとする写真には、「WATER SHINY」との文字が写されているところ、被請求人は、「市販のWATER SHINY」には、「イ号写真ならびに説明書」の写真に示された突片部と称する突起が見あたらないから、本件判定請求は、「イ号写真ならびに説明書」に写真を示す「市販のWATER SHINY」を対象とするものではない、と主張している(答弁書2?3頁)。 (2)一方、請求人より提出されたイ号物件の現物には、「WATER SHINY」と印刷された包装を有するものがあり、それは「イ号写真ならびに説明書」の写真と同様の外観を有していることが窺える。 よって、「イ号写真ならびに説明書」の写真は、請求人から提出されたイ号物件の現物のひとつを撮影したものであり、また、請求人から提出されたイ号物件の現物はいずれも「イ号写真ならびに説明書」の写真に写された現物と同様の構成を有すると推認できることから、本件判定においては、イ号物件の構成は、請求人から提出されたイ号物件の現物により特定することとする。 (3)イ号物件の現物について イ号物件の現物は口紅等を収容する化粧料用容器であって、次の部材を有しているものと認められる。 (3-1)内周面に上下方向に2本の螺旋状凹部が設けられた筒状の外側部材を有すること。 (3-2)上下方向に2本のスリットを有する筒状の内側部材を有すること。 (3-3)内側部材は外側部材内に相対回転可能に収納されていること。 (3-4)2つの凸部材を側面に有する筒状の皿部材を有すること。 (3-5)皿部材は内側部材内に収容され、皿部材の2つの凸部材は内側部材のそれぞれのスリットを貫通し、外側部材の螺旋状凹部に係合すること。 (3-6)上記(3-5)の構造を有することにより、外側部材に対して内側部材を相対回転すると皿部材は内側部材内を螺旋状凹部に沿って上下方向に移動すること。 (3-7)内側部材は合成樹脂からなり、外側部材に収容される部分の外周面端部近傍に4つの突状部が内側部材に一体に設けられていること。 (3-8)内側部材の4つの突状部は容易に曲げることができるものであること。 (3-9)内側部材の4つの突状部は、内側部材が外側部材に収納されている状態において、外側部材の内周面に当接しかつ曲がっていること。 (3-10)外側部材の内周面に当接しかつ曲がっている、内側部材の4つの突状部は、内側部材が外側部材から取り出された時においても曲がっており、また、突状部の内側部材近傍には応力が作用した痕跡が見られること。 (3-11)外側部材内周面のうち、内側部材の4つの突状部が当接する部分に、内側摺接面が設けられていること。 なお、上記(3-1)?(3-11)は、請求人の提出したイ号物件の現物のうちの1つを当合議体が分解し認定した。 (4) イ号物件の構成 以上から、イ号物件は次の構成を具備するものである。 (a) 内周面に螺旋状凹部を設けた筒状の外側部材内に、上下方向にスリットを有した筒状の内側部材を相対回転可能に収容し、 (b) この内側部材内に、スリットを貫通し外側部材の螺旋状凹部に係合する凸部材を設けた筒状の皿部材を収容し、 (c) 外側部材に対して内側部材を相対回転させることにより皿部材が内側部材内を螺旋状凹部に沿って上下方向に移動可能とした化粧料用容器において、 (d) 内側部材の外周面に容易に曲げることができる突状部を設け、 (e)内側部材を外側部材に収容している状態で、突状部は外側部材の内周面に設けた内側摺接面に当接しかつ曲がっており、 (f)突状部は、内側部材が外側部材から取り出された時においても曲がっている (g)化粧料用容器。 2 本件特許発明1とイ号物件との対比・判断 (1)構成要件A?Cについて イ号物件の「外側部材」、「内側部材」、「皿部材」及び「化粧料用容器」がそれぞれ本件特許発明1の「外筒部」、「内筒部」、「受皿」及び「繰り出し容器」に該当することは明らかである。 また、イ号物件は、凸部材がスリットを貫通し螺旋状凹部に係合することにより、外側部材に対し内側部材を相対回転すると皿部材が内側部材内で上下方向に移動するものであるから、イ号物件の「凸部材」、「スリット」及び「螺旋状凹部」がそれぞれ本件特許発明1の「主導突起」、「ガイド孔」及び「螺旋溝」に該当する。 よって、イ号物件の構成a?cは構成要件A?Cを充足する。 (2)構成要件D?Gについて (a)本件特許発明1の「突片部」 (i) 本件明細書には、「突片部」について次のとおり記載されている。 (ア)「【請求項1】・・・内筒部(4)の外壁に変形可能な突片部(6)を設け、内筒部(4)を外筒部(3)に収容する際に、突片部(6)を変形させ、分別時の使用済み確認を可能にした・・・。」 (イ)「【0010】・・・容器の分別後には突片部6が変形しているので使用済み部材であることを容易に確認することができる。」 (ウ)「【発明を実施するための最良の形態】・・・ 【0019】 図3は、この発明に係る繰り出し容器の一部断面図を含む平面図である。図3(a)は、外筒部3に内筒部4を収容する前の状態を示す図で、(b)は、外筒部3に内筒部4を収容した状態を示す図である。図3(a)に示すように収容前、二対の突片部6は水平方向に突き出し、(b)に示すように外筒部3に内筒部4を収容すると突片部6は外筒部3に押し倒され係合面7に当接し斜め下方向に変形する。」 (ii) 以上から、本件特許発明1の「突片部」は、内筒部の外壁に変形可能に設けられたものであって、内筒部を外筒部に収容することにより変形され、分別後において変形された状態にあるため、内筒部が使用済みであることを容易に確認することができるものである。 (b)イ号物件の「突状部」 (i) イ号物件の突状部は、請求人が提出した「イ号写真ならびに説明書」の写真に示された矢印の先端に位置する突片部(6)であり、内側部材の外周面に形成されている。 この突片部(6)が容易に曲げることができるように設けられているものであることは、請求人が提出した上記III のイ号物件の現物により確認することができた。 そして、この突状部は内側部材が外側部材に収容されている状態において外側部材の内周面に設けた内側摺接面に当接しかつ曲がるものであるところ、内側部材が外側部材から取り出されたのちにおいて突状部の内側部材近傍に応力が作用し変形した痕跡が見られることから、当該突状部は内側部材を外側部材に収容することにより曲げられたものと考えられる。また、この突状部が内側部材を外側部材に収納することなく曲がる理由は見あたらない。 さらに、突状部は、内側部材が外側部材から取り出された時において曲がっていることから、その曲がった突状部を見ることにより、内側部材は外側部材に収容されていたと確認できるものである。 (ii) 以上から、イ号物件の突状部は、内側部材の外周面に容易に曲げることができるように設けられたものであって、内側部材を外側部材に収容することにより曲げられ、内側部材が外側部材から取り出された時において曲がっているから、内側部材は外側部材に収容されていたことを確認できるものと認められる。 (c)本件特許発明1とイ号物件との対比・判断 上記(a)(ii)及び(b)(ii)に記載したとおりであるから、イ号物件の「突状部」は本件特許発明1の「突片部」に該当する。 (c-1)構成要件Dについて イ号物件の「内側部材の外周面」、「容易に曲げることができる」はそれぞれ、本件特許発明1の「内筒部の外壁」、「変形可能」に該当することは明らかである。 したがって、イ号物件の構成dは本件特許発明1の構成要件Dを充足する。 (c-2)構成要件Eについて イ号物件の「内側部材を外側部材に収容している状態で、突状部は外側部材の内周面に設けた内側摺接面に当接しかつ曲がっており、」における「曲がっており」は、上記(b)(i)に記載したとおり、「突状部は内側部材を外側部材に収容することにより曲げられ」たものと考えられる。 したがって、イ号物件の「内側部材を外側部材に収容している状態で、突状部は外側部材の内周面に設けた内側摺接面に当接しかつ曲がっており、」は本件特許発明1の「内筒部(4)を外筒部(3)に収容する際に、突片部(6)を変形させ、」に該当する。 よって、イ号物件の構成eは本件特許発明1の構成要件Eを充足する。 (c-3)構成要件Fについて イ号物件の「内側部材が外側部材から取り出された時」は本件特許発明1の「分別時」に該当することは明らかである。 また、上記(b)(i)に記載したとおり、イ号物件の「突状部は、内側部材が外側部材から取り出された時においても曲がっている」ことは、内側部材は外側部材に収容されていたと確認できるものである。そして、このことが本件特許発明1の「使用済み」に該当することは明らかである。 したがって、イ号物件の「突状部は、内側部材が外側部材から取り出された時においても曲がっている」は本件特許発明1の「分別時の使用済み確認を可能にした」に該当する。 よって、イ号物件の構成fは本件特許発明1の構成要件Fを充足する。 (c-4)構成要件Gについて イ号物件の構成gは本件特許発明1の構成要件Gを充足する。 (3)小括 以上のとおり、イ号物件の構成a?gは本件特許発明1の構成要件A?Gを充足するものである。 3 本件特許発明2とイ号物件との対比・判断 イ号物件の「内側摺接面」が本件特許発明2の「係合面」に該当することは明らかである。 したがって、イ号物件の構成eは本件特許発明2の構成要件Hを充足する。 また、イ号物件の構成gは本件特許発明2の構成要件Iを充足する。 よって、イ号物件の構成e及びgは本件特許発明1の構成要件H及びIを充足するものである。 4 被請求人の主張に対して 被請求人は、イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属するかどうかに関して、次のとおり主張している。 「前記請求項1の記載と比較した場合、本件繰り出し機構は、少なくとも以下に記載する相違点を有しています。 相違点1: 請求項1には「内周面に螺旋溝(3a)を設けた筒状の外筒部」と記載されているのに対して、本件繰り出し機構では外筒部の内周面に螺旋溝が設けられているのか否か不明であること。 相違点2: 請求項1によれば、「内筒部(4)の外壁に変形可能な突片部(6)を設け」ているはずですが、甲第1号証、2ページ中段の写真に示された内筒には「突片部」に当たるものが見られません。甲第1号証、2ページ目上段右側の写真の右側に示された内筒には、「突片部」のようなものがわずかに認められますが、その作用効果は不明です。 相違点3: 請求項1によれば、「内筒部(4)を外筒部(3)に収容する際に、突片部(6)を変形させ、分別時の使用済み確認を可能にした」とのことですが、本件繰り出し機構においても、突片部を変形させて分別時の使用済み確認をすることが可能であるか否かは不明です。 以上を総合すると、甲第1号証2ページ目、上段、右側の写真の右側に記載された繰り出し機構のみが本件発明の技術的範囲に入る可能性があるようです。」(答弁書5頁下から10行?6頁6行) しかしながら、本件判定におけるイ号物件の構成は上記1(4)欄において記載したとおりのものであるから、被請求人の相違点1?3についての主張は理由のないものであり、これらの相違点を前提とする、被請求人の「甲第1号証2ページ目、上段、右側の写真の右側に記載された繰り出し機構のみが本件発明の技術的範囲に入る可能性があるようです。」との主張も理由がない。 V まとめ 以上のとおりであるから、イ号物件は本件特許発明1及び2の技術的範囲に属するものである。 よって、結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2010-10-29 |
出願番号 | 特願2007-89375(P2007-89375) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
YA
(A45D)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 永安 真 |
特許庁審判長 |
高木 彰 |
特許庁審判官 |
増沢 誠一 黒石 孝志 |
登録日 | 2009-08-14 |
登録番号 | 特許第4356901号(P4356901) |
発明の名称 | 繰り出し容器 |
代理人 | 園田 吉隆 |