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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60K
管理番号 1227012
審判番号 不服2008-28550  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-07 
確定日 2010-11-11 
事件の表示 特願2004-214083「車輌用走行制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月 9日出願公開、特開2006- 35875〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成16年7月22日に特許出願されたものであって、平成20年5月29日付けで拒絶の理由が通知され、これに対し、同年7月28日付けで明細書、特許請求の範囲及び図面を補正する手続補正書並びに意見書がそれぞれ提出されたが、同年10月6日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、同年11月7日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年12月2日付けで明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書並びに審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書(方式)がそれぞれ提出され、当審において平成21年10月5日付けで書面による審尋がなされ、同年12月4日付けで回答書が提出され、その後、平成22年4月20日付けで平成20年12月2日付けの明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正が却下され、同年5月12日付けで当審より拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、これに対し、同年7月9日付けで明細書、特許請求の範囲及び図面を補正する手続補正書並びに意見書がそれぞれ提出され、同年7月16日付けで同年7月9日付けの手続補正のうち特許請求の範囲を補正対象とする補正を変更する手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 本願発明
本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、平成20年7月28日付けの手続補正及び平成22年7月9日付けの手続補正により補正された明細書、平成22年7月9日付けの手続補正を補正する平成22年7月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲、並びに、平成20年7月28日付けの手続補正及び平成22年7月9日付けの手続補正により補正された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
自動走行制御手段と、制動力制御手段とを有し、前記制動力制御手段は必要に応じてマスタシリンダと左右輪のホイールシリンダとの連通を遮断する遮断弁と、高圧の作動液体を供給する圧力源とを有し、所定の条件が成立していないときには前記遮断弁を開弁させ、前記所定の条件が成立すると運転者による制動操作の有無に関係なく前記遮断弁を閉弁させて前記圧力源よりの高圧の作動液体を使用してホイールシリンダ内圧力を制御する所定の制動力制御を行い、前記自動走行制御手段は前記所定の制動力制御とは異なる自動走行制御であって、運転者による制動操作が検出されると終了されるべき自動走行制御を行う車輌用走行制御装置に於いて、前記自動走行制御の実行中に前記左右輪の少なくとも一方について前記所定の条件が成立し前記制動力制御手段により前記遮断弁が閉弁されて前記マスタシリンダと左右の車輪のホイールシリンダとの連通が遮断されることによりブレーキペダルを踏み込むことができない状態にて前記所定の制動力制御が行われる場合には、前記自動走行制御を終了させることを特徴とする車輌用走行制御装置。」

第3 引用発明
(1)本件出願前に頒布され、当審拒絶理由に引用された刊行物である特開2000-108859号公報(以下、単に「引用文献」という。)には、次の(ア)ないし(カ)の事項が図面と共に記載されている。
(ア)「【請求項1】 ブレーキペダルの操作力に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、所定の液圧を発生させて蓄圧させる液圧源と、前記マスタシリンダ又は前記液圧源からホイールシリンダに液圧を伝達させる複数の液圧伝達経路上に配設された複数の制御弁と、前記制御弁を制御する弁制御手段と、車輌の走行状態を検出する走行状態検出手段と、前記走行状態検出手段の検出結果に基づいて前記液圧源に蓄圧された液圧を前記ホイールシリンダに伝達させて前記車輌を自動制動させる自動制動手段と、前記ブレーキペダルが操作されたことを検出するブレーキ操作検出手段とを備え、
前記弁制御手段が、前記自動制動手段による自動制動時に、所定輪の前記ホイールシリンダを前記マスタシリンダに連通させると共に、前記所定輪以外の車輪の前記ホイールシリンダを前記液圧源に連通させ、
前記自動制動手段が、前記ブレーキ操作検出手段によって前記ブレーキペダル操作を検出したときに、自動制動状態を解除することを特徴とするブレーキ制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(イ)「【0014】本実施形態のブレーキ制御装置は、先行車を検出して一定の車間距離を保持するために車輌を自動制動させることができるものである。また、衝突回避のための緊急的な自動制動を行うことも可能である。さらに、本実施形態のブレーキ制御装置は、いわゆるABS、トラクションコントロール(TRC)、車輌安定性制御(VSC)時に、車輌を制動させることもできる。
【0015】図1に示されるように、本実施形態のブレーキ制御装置は、いわゆるハイドロブースタアクチュエータ方式をとっている。制動時に必要となる液圧(本実施形態においては、ブレーキフルードとしてブレーキオイルを用いているため、以下油圧とも言う)を、マスタシリンダ兼ブレーキブースタ(以下単にマスタシリンダという)1と、液圧源であるポンプモータ3及びアキュミュレータ4とによって発生させる。
【0016】マスタシリンダ1によって発生された油圧やアキュミュレータ4に蓄圧された油圧は、ブレーキオイルを媒体として、液圧伝達経路であるブレーキ配管を介して各車輪のホイールシリンダ11に伝達される。ブレーキ配管内に充填されるブレーキオイルは、リザーバタンク2内に貯蔵されている。そして、このブレーキ配管上には、複数の制御弁10が配設されており、油圧の伝達経路を切り替えると共に、ホイールシリンダ11に伝達させる油圧の制御をも行っている。」(段落【0014】ないし【0016】)

(ウ)「【0018】マスタシリンダ1は、運転者のブレーキペダル5の操作踏力をブーストさせるブレーキブースタと一体的に構成されており、その内部にはリザーバタンク2からの配管を介してブレーキオイルが充填されている。
【0019】マスタシリンダ1の車輌客室側の内部には、ブレーキペダル5に接続されたオペレーティングロッド1aと、このオペレーティングロッド1aに結合されたパワーピストン1bと、このパワーピストン1bと当接されているマスタシリンダピストン1cとがスライド可能に配置されている。オペレーティングロッド1aとパワーピストン1bとマスタシリンダピストン1cとは、ブレーキペダル5が踏み込まれると一体となって図1中左方にスライドする。
【0020】また、マスタシリンダ1の他端側の内部には、第一リターンスプリング1d及びコネクティングロッド1eを介してマスタシリンダピストン1cに連結されたレギュレータピストン1fと、このレギュレータピストン1fに接続されたスプールバルブ1gとがスライド可能に配置されている。レギュレータピストン1fとスプールバルブ1gとは一体となってスライドするが、第二リターンスプリング1hによって図1中右方に常に付勢されている。
【0021】マスタシリンダピストン1cとレギュレータピストン1fとの間には、マスタシリンダ室1iが形成されており、通常はこのマスタシリンダ室1iの圧力が前輪のホイールシリンダ11伝えられる。また、レギュレータピストン1fのマスタシリンダ室1iとは反対側には、レギュレータ室1jが形成されており、通常はこのレギュレータ室1jの圧力が、パワーピストン1bの車輌客室側に形成されるブースタ室1kを介して、後輪のホイールシリンダ11に伝えられる。即ち、通常は、アキュミュレータ4の油圧が、レギュレータ室1jからブースタ室1kにかけてのレギュレータ部によって調整された後に、後輪のホイールシリンダ11に伝えられる。
【0022】スプールバルブ1gは、そのスライド位置によって、レギュレータ室1jをリザーバタンク2と連通させるかアキュミュレータ4と連通させるかを切り替えている。なお、第一リターンスプリング1dのバネ定数は第二リターンスプリング1hのバネ定数よりも大きく、ブレーキペダル5が踏み込まれたときには、まず第二リターンスプリング1hから縮められる。また、ブースタ室1kからのブレーキ配管上には、レギュレータ室1jからブースタ室1kにかけての油圧を検出するマスタシリンダ圧力センサ7が配設されている。
【0023】上述したブレーキペダル5には、このブレーキペダル5が操作されたことを検出するブレーキ操作検出手段であるストップランプスイッチ6が接続されている。ストップランプスイッチ6は、ブレーキペダル5のストローク量が所定値以上となったときに、車輌後部に取り付けられたストップランプを点灯させるスイッチとして機能すると共に所定の信号を後述する電子制御ユニット(ECU)13(図2参照)に送出する機能を有している。
【0024】液圧源を構成するポンプモータ3は、ECU13からの命令に従って、バッテリの電力によって駆動され、リザーバタンク2内に貯蔵されたブレーキオイルをアキュミュレータ4に対して送出する。液圧源のもう一つの構成要素であるアキュミュレータ4は、ポンプモータ3によって送出されたブレーキオイルを、その内部に高圧下で貯蔵する。」(段落【0018】ないし【0024】)

(エ)「【0028】液圧伝達経路となるブレーキ配管が、図1に示されるように配設されており、このブレーキ配管上には、伝達経路を切り替えると共にホイールシリンダ11に伝達させる油圧を調整するための複数の制御弁10が配設されている。図1に示された状態は、全ての制御弁10がオフにされた状態である。本実施形態においては、制御弁10はソレノイドバルブによって構成されているが、ブレーキオイルの伝達経路を切り替えると共に伝達させる油圧を調整できれば、どのような機構であっても良い。なお、以下の説明において、各制御弁10を図1中の各制御弁10に付した記号によって区別する。
【0029】マスタシリンダ室1iからのブレーキ配管は二つに分岐され、そのブレーキ配管上にそれぞれ制御弁SA1,SA2が配設されている。制御弁SA1,SA2からは各前輪へのブレーキ配管が配設されており、制御弁SA1,SA2は、それぞれ制御弁SFRH,SFLHを介して、各前輪のホイールシリンダ11に連通している。制御弁SA1,SA2は、前輪のホイールシリンダ11に伝達される油圧を、マスタシリンダ室1iからの油圧とするか、あるいはアキュミュレータ4からの油圧やレギュレータ部からの油圧とするかを切り替えている。ここで、アキュミュレータ4からの油圧やレギュレータ部からの油圧が伝達される際には、制御弁SA1,SA2の切替に加えて、制御弁STR及び制御弁SA3の切替も行われる。
【0030】制御弁SFRH,SFLHとホイールシリンダ11との間から、ブレーキ配管が更に分岐され、それぞれ制御弁SFRR,SFLRが配設されている。制御弁SFRR,SFLRは、リザーバタンク2に連通している。これらの制御弁SFRH,SFLH,SFRR,SFLRを用いて、ホイールシリンダ11内の油圧を増圧させる増圧モード、ホイールシリンダ11内の油圧を保持させる保持モード、ホイールシリンダ11内の油圧を減圧させる減圧モードを切り替える。
【0031】上述した各モードを、右前輪を例に説明する。増圧モードは、制御弁SFRH,SFRRの双方がオフの状態で、各ホイールシリンダ11に対して油圧を伝達させてホイールシリンダ11内の油圧を増圧させる状態である。保持モードは、制御弁SFRHがオンの状態で、ホイールシリンダ11へのブレーキ配管を全て遮断してホイールシリンダ11内の油圧を保持させる状態である。減圧モードは、制御弁SFRH,SFRRの双方がオンの状態で、ホイールシリンダ11をリザーバタンク2に連通させてホイールシリンダ11内の油圧を減圧させる状態である。左前輪の場合も同様である。
【0032】一方、レギュレータ部(レギュレータ室1jからブースタ室1kかけての調圧機構部)からのブレーキ配管上には制御弁SA3が配設されている。制御弁SA3からのブレーキ配管は、制御弁STRから制御弁SA1,SA2へのブレーキ配管と交差された後に二つに分岐され、そのブレーキ配管上にそれぞれ制御弁SRRH,SRLHが配設されている。制御弁SRRH,SRLHは、それぞれ各後輪のホイールシリンダ11に連通している。制御弁SA3は、制御弁STRと共に制御され、後輪のホイールシリンダ11に伝達させる油圧を、レギュレータ部からの油圧とするか、アキュミュレータ4からの油圧とするかを切り替える。
【0033】制御弁SRRH,SRLHとホイールシリンダ11との間から、ブレーキ配管が更に分岐され、それぞれ制御弁SRRR,SRLRが配設されている。制御弁SRRR,SRLRは、リザーバタンク2に連通している。これらの制御弁SRRH,SRLH,SRRR,SRLRを用いて、増圧モード、保持モード、減圧モードを切り替えるのは、前輪側と同様である。
【0034】これらの上述した制御弁10によって、通常制動時やABS、TRC、VSC時の制動制御が行われる。各制御時における制御弁10などの駆動状態については追って説明する。本実施形態においては、上述した通常制動時やABS、TRC、VSC時の制動制御以外にも、車輌を自動制動させるためのブレーキ配管が図1中左方に形成されている。」(段落【0028】ないし【0034】)

(オ)「【0042】上述した構成のブレーキ制御装置によって、自動制動が行われる場合について説明する。
【0043】上述した各種センサの検出結果はECU13に逐次取り込まれており、ECU13により算出された走行状態に基づいて自動制動を行う必要があるかどうかが、ECU13内に格納されたプログラムによって一定時間毎(例えば、数ミリ秒毎)に判定されている。例えば、設定した速度で定速走行を行うオートクルーズシステムの実行中に、レーザーレーダーセンサ14によって自車速度よりも低速走行を行っている先行車を検出した場合に、自動制動が必要であると判定される。なお、車輌状態がある条件を満たしたときのみ、この自動制動の要否判定を行うようにしても良いし、運転者が操作できるスイッチがオンにされたときにのみ、この自動制動の要否判定を行うようにしても良い。
【0044】ECU13によって自動制動を行う必要があると判定された場合は、制御弁10を図3に示される状態にして自動制動を行う。即ち、図1に示される非制御状態から制御弁SA3をオンにすると共に、制御弁SACCH1,SACCH2を所定のデューティ比で開閉させ、後輪のホイールシリンダ11に対してアキュミュレータ4に蓄圧された油圧を供給する。このときの、制御弁SACCH1,SACCH2の開閉状態を図4に示す。
【0045】図4に示されるように、制御弁SACCH1,SACCH2は、所定のデューティ比で、同時に開状態及び閉状態となるように開閉される。ここで、制御弁SACCH1,SACCH2が、一気に開状態とされずに所定のデューティ比で開閉されるので、アキュミュレータ4内の油圧を後輪のホイールシリンダ11に対して徐々に伝達させることができる。この結果、後輪によって発生される制動力の立ち上がりを、急激なものとせずに、ある程度穏やかなものとすることができる。
【0046】一方、自動制動中に制動力を減じる必要がある場合、即ち、後輪のホイールシリンダ11の油圧を減圧させる場合は、制御弁SA3をオンとしたまま、制御弁SACCRを所定のデューティ比で開閉させる。これにより、後輪のホイールシリンダ11の油圧をレギュレータ部に徐々に戻すことができる。この結果、後輪によって発生された制動力を、ある程度穏やかに抜くことができる。
【0047】この自動制動時に必要とされる制動力は、各種センサによって検出された車輌の走行状態に基づいて、ECU13によって算出される。この必要とされる制動力が得られるように制御弁SACCH1,SACCH2又は制御弁SACCRを開閉させるためのデューティ比が、ECU13によって算出される。ECU13は、制御弁SACCH1,SACCH2又は制御弁SACCRに対して制御信号を送出して、決定したデューティ比で制御弁SACCH1,SACCH2又は制御弁SACCRを開閉させる。
【0048】この自動制動中、前輪には制御弁SACCH1,SACCH2経由のアキュミュレータ4の油圧が伝達されず、前輪のホイールシリンダ11は、マスタシリンダ室1iと連通されている。このため、自動制動中に、運転者がブレーキペダル5を操作した場合は、マスタシリンダピストン1cが図1中左方にスライドされ、マスタシリンダ室1i内部の油圧を上昇させ、この油圧が前輪のホイールシリンダ11に伝達される。
【0049】このとき、ブレーキペダル5が確実にストロークするため、ブレーキペダルに取り付けられたストップランプスイッチ6によって、ブレーキペダルが操作されたことを確実に検出することができる。自動制動中にブレーキペダル5が操作されたことを検出したときは、運転者が自分の意志によって制動を行いたい場合(自動制動に加えて更なる制動力を得たい場合など)であると考えられるので、ECU13は制御弁10を制御して自動制動状態を解除する。
【0050】自動制動を解除する際は、制御弁SACCH1,SACCH2,SACCR,SA3の状態を図1に示される状態にすれば良い。このとき、自動制動中に後輪のホイールシリンダ11に加えられていた油圧は、制御弁SA3を介してレギュレータ部に戻される。このため、自動制動中にブレーキペダル5が操作された場合は、ブレーキペダル5の操作量に応じて、前輪のホイールシリンダ11にはマスタシリンダ室1iの油圧が伝達され、後輪のホイールシリンダ11には自動制動の解除と共に後輪のホイールシリンダ11から戻ってきた油圧と共に調整されたレギュレータ部の油圧が伝達され、通常制動状態へと移行する。
【0051】本実施形態のブレーキ制御装置によれば、自動制動中にブレーキペダル5を操作したときに、その操作を確実に検出することができ、この検出によって自動制動状態を速やかに解除することができる。特に、自動制動が車両前方の物体を検出した場合に行われているときは、自動制動状態下での制動状態が運転者の意図する制動状態と異なる場合に、運転者によってブレーキペダル5が操作され、このブレーキペダル5を操作するという自然な運転行為によって、自動制動状態を確実且つ速やかに解除させることができる。」(段落【0042】ないし【0051】)

(カ)「【0062】上述したように、本実施形態のブレーキ制御装置は、通常制動時はもちろん、ABS、TRC、VSC時にも制動制御を行うことができるものである。これらの時のブレーキ制御についても、以下に簡単に説明しておく。
【0063】通常制動時のマスタシリンダ1及び各制御弁10の状態を図6に示す。
【0064】通常制動時は、運転者のブレーキペダル5の操作に基づいて、油圧が各輪のホイールシリンダ11に伝達される。ブレーキペダル5のストロークに従って、マスタシリンダピストン1c及びレギュレータピストン1fがスライドされる。レギュレータピストン1fのスライドに伴ってスプールバルブ1gもスライドし、レギュレータ室1jに対して徐々にアキュミュレータ4に蓄圧された油圧が伝達される。レギュレータ室1j内の油圧は、ブースタ室1kを経由した後に、後輪のホイールシリンダ11に伝達される。
【0065】一方、ブレーキペダル5の操作によってマスタシリンダ室1i内部の容積は減少し、マスタシリンダ室1iの油圧は昇圧されて前輪のホイールシリンダ11に伝達される。また、このとき、ブースタ室1kにはアキュミュレータ4に蓄圧された圧力が導入されるので、運転者のブレーキペダル5の操作踏力がブーストされる。
【0066】このとき、レギュレータ室1jからブースタ室1kにかけてのレギュレータ部によって調整された油圧は、制御弁SR*H,SR*Rによって調節されることなく、後輪のホイールシリンダ11に伝達される。また、マスタシリンダ室1iの油圧も、制御弁SF*H,SF*Rによって調節されることなく、後輪のホイールシリンダ11に伝達される。。なお、ここで、制御弁SR*Hとは、制御弁SRRH,SRLHを指しており、制御弁SR*Rとは、制御弁SRRR,SRLRを指している。制御弁SF*H,SF*Rも同様である。
【0067】ABS作動時のマスタシリンダ1及び各制御弁10の状態を図7に示す。
【0068】ABS作動時も、運転者のブレーキペダル5の操作に基づいて、油圧が各輪のホイールシリンダ11に伝達されるが、レギュレータ部によって調節された油圧が前後輪の双方に伝達されると共に、その油圧は制御弁S**H,S**Rによって調節される。ここで、制御弁S**Hとは、制御弁SFRH,SFLH,SRRH,SRLHを指している。制御弁S**Rも同様である。
【0069】各種センサ類の検出結果に基づいてECU13によって車輌の走行状態(制動状態)を検討した結果、ABSを作動させる必要があるとECU13によって判断された場合は、制御弁SA1,SA2をオンにして、レギュレータ部によって調整された油圧を、後輪のホイールシリンダ11に対してだけでなく、前輪のホイールシリンダに対しても伝達させる。このとき、各輪のホイールシリンダ11に伝達される油圧は、制御弁S**H,S**Rによって調節される。即ち、各輪の回転状態が車輪速センサ15の検出結果に基づいてECU13により判断され、制御弁S**H,S**Rは、各車輪がロック状態を続けないように、ECU13によって上述した増圧モード、保持モード、減圧モードの何れかに切り替えられる。
【0070】TRC作動時及びVSCアンダーステア抑制時の各制御弁10の状態を図8に示す。
【0071】TRC作動時及びVSCアンダーステア抑制時は、車輌の走行状態を検出する各種センサ類の検出結果に基づいて、アキュミュレータ4に蓄圧されている油圧が後輪のホイールシリンダ11に伝達される。なお、ここでは、油圧による制動についてのみが示されているが、TRCやVSC作動時には、油圧による制動以外にもエンジン出力制御などの他の制御も並行して行われている。これらの他の制御についての説明は、ここでは省略する。
【0072】各種センサ類の検出結果に基づいてECU13によって車輌の走行状態を検討した結果、TRCを作動させる必要がある、あるいは、VSCにおけるアンダーステア抑制を行う必要があるとECU13によって判断された場合は、制御弁STR,SA3をオンにして、アキュミュレータ4に蓄圧されている油圧を後輪のホイールシリンダ11に伝達させる。
【0073】TRC作動時であれば、後輪(駆動輪)がスリップ状態を続けないように、後輪(駆動輪)のホイールシリンダ11に伝達される油圧が、制御弁S**H,S**Rによって制御される。また、VSCアンダーステア抑制時であれば、この後輪の制動によって、アンダーステアを打ち消すモーメントを車輌に発生させて、アンダーステアを抑制する。VSCアンダーステア抑制時においても、後輪のホイールシリンダ11に伝達される油圧は制御弁S**H,S**Rによって制御される。
【0074】VSCオーバーステア抑制時の各制御弁10の状態を図9に示す。
【0075】VSCオーバーステア抑制時は、車輌の走行状態を検出する各種センサ類の検出結果に基づいて、アキュミュレータ4に蓄圧されている油圧が旋回外側前輪のホイールシリンダに伝達される。また、このとき、アキュミュレータ4に蓄圧されている油圧は、必要に応じて後輪にも伝達される。VSC作動時には、油圧による制動以外にもエンジン出力制御などの他の制御も並行して行われているのは上で述べたとおりである。これらの他の制御についての説明は、ここでも省略する。
【0076】各種センサ類の検出結果に基づいてECU13によって車輌の走行状態を検討した結果、VSCにおけるオーバーステア抑制を行う必要があるとECU13によって判断された場合は、制御弁STR,SA3をオンにすると共に、旋回外側前輪に対応する制御弁10をオンにする。図9には左旋回中のオーバーステア抑制時を示してあり、右側前輪に対応する制御弁SA1がオンにされている。これにより、アキュミュレータ4に蓄圧されている油圧を旋回外側前輪と後輪のホイールシリンダ11に伝達させる。
【0077】この旋回外側前輪の制動と、必要時に行われる後輪の制動とによって、オーバーステアを打ち消すモーメントを車輌に発生させて、オーバーステアを抑制する。VSCオーバーステア抑制時においても、ホイールシリンダ11に伝達される油圧は制御弁S**H,S**Rによって制御される。」(段落【0062】ないし【0077】)

(2)上記(1)及び図面の記載から、引用文献には次の(サ)ないし(チ)の事項が記載されていることがわかる。
(サ)上記(1)(ア)ないし(カ)の記載から、引用文献に記載の「ブレーキ制御装置」は「車輌用」であることがわかる。

(シ)上記(1)(イ)、(エ)及び(オ)並びに図3の記載から、引用文献に記載の「ブレーキ制御装置」は、一定の車間距離を保持するために自動制動を行う手段(以下、「手段A」という。)を有していることがわかる。

(ス)上記(1)(イ)、(エ)及び(カ)並びに図7ないし9の記載から、引用文献に記載の「ブレーキ制御装置」は、ABS、TRC、VSCのいずれかの制動制御を行う手段(以下、「手段B」という。)を有していることがわかる。

(セ)上記(1)(イ)ないし(エ)及び(カ)並びに図7ないし9の記載から、「手段B」は、必要に応じてマスタシリンダ1のマスタシリンダ室1iとフロント右側の車輪のホイールシリンダ11との連通を遮断する「制御弁SA1」と、必要に応じてマスタシリンダ1のマスタシリンダ室1iとフロント左側の車輪のホイールシリンダ11との連通を遮断する「制御弁SA2」と、必要に応じてマスタシリンダ1のレギュレータ部(レギュレータ室1jからブースタ室1kにかけての調圧機構部)とリヤの左右輪のホイールシリンダ11との連通を遮断する「制御弁SA3」とを有していることから、必要に応じてマスタシリンダ1と左右輪のホイールシリンダ11との連通を遮断する制御弁SA1,SA2,SA3を有していることがわかる。また、上記(1)(ウ)の段落【0024】及び図7ないし9の記載から、「手段B」は、高圧のブレーキオイルを供給する「ポンプモータ3及びアキュミュレータ4」からなる「液圧源」を有することがわかる。

(ソ)一般的に、ABSを作動する条件(以下、「ABS作動条件」という。)が成立したときにABSが作動され、同様に、TRCを作動する条件(以下、「TRC作動条件」という。)が成立したときにTRCが作動され、VSCを作動する条件(以下、「VSC作動条件」という。)が成立したときにVSCが作動されるといえることから、上記(1)(エ)及び図1の記載から、「手段B」は、ABS作動条件、TRC作動条件及びVSC作動条件のいずれの条件も成立していないときには制御弁SA1,SA2,SA3を開弁させることがわかる。

(タ)上記(1)(エ)及び(カ)並びに図7の記載から、ABS作動条件が成立すると制御弁SA1及び制御弁SA2を閉弁させてアキュミュレータ4よりの高圧のブレーキオイルを使用してホイールシリンダ11内圧力を制御するABS時の制動制御を行うことがわかる。また、上記(1)(エ)及び(カ)並びに図8の記載から、TRC作動条件が成立すると制御弁SA3を閉弁させてアキュミュレータ4よりの高圧のブレーキオイルを使用してホイールシリンダ11内圧力を制御するTRC時の制動制御を行うことがわかる。さらに、上記(1)(エ)及び(カ)並びに図8及び9の記載から、VSC作動条件が成立すると、VSCアンダーステア抑制時には制御弁SA3を閉弁させて、また、VSCオーバーステア抑制時には制御弁SA3と制御弁SA1または制御弁SA2とを閉弁させて、アキュミュレータ4よりの高圧のブレーキオイルを使用してホイールシリンダ11内圧力を制御するTRC時の制動制御を行うことがわかる。
ここで、ABS時の制動制御は、上記(1)(カ)の段落【0068】の記載から、運転者によるブレーキペダル5の操作に基づいて行われると認められ、一方、TRC時の制動制御及びVSC時の制動制御は、一般的に、ブレーキペダル5の操作の有無に関係なく行われることから、全体として「手段B」は、ABS作動条件、TRC作動条件またはVSC作動条件のいずれかの条件が成立すると運転者によるブレーキペダル5の操作の有無に関係なく制御弁SA1,SA2,SA3のいずれかを閉弁させて前記液圧源(アキュミュレータ4)よりの高圧のブレーキオイルを使用してホイールシリンダ11内圧力を制御するABS、TRC、VSC時の制動制御を行うことがわかる。

(チ)上記(1)(エ)及び(オ)並びに図3の記載から、「手段A」は、ABS、TRC、VSC時の制動制御とは異なる自動制動の制御であることがわかり、また、上記(1)(オ)の段落【0049】の記載から、「手段A」による自動制動の制御は、運転者によるブレーキペダル5の操作が検出されると解除されるものであることがわかる。

(3)上記(1)及び(2)並びに図面の記載から、引用文献には次の発明(以下、単に「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「一定の車間距離を保持するために自動制動を行う手段Aと、ABS、TRC、VSCのいずれかの制動制御を行う手段Bとを有し、前記手段Bは必要に応じてマスタシリンダ1と左右輪のホイールシリンダ11との連通を遮断する制御弁SA1,SA2,SA3と、高圧のブレーキオイルを供給する液圧源とを有し、ABS作動条件、TRC作動条件及びVSC作動条件のいずれの条件もが成立していないときには前記制御弁SA1,SA2,SA3を開弁させ、前記ABS作動条件、TRC作動条件またはVSC作動条件のいずれかの条件が成立すると運転者によるブレーキペダル5の操作の有無に関係なく前記制御弁SA1,SA2,SA3のいずれかを閉弁させて前記液圧源よりの高圧のブレーキオイルを使用してホイールシリンダ11内圧力を制御するABS、TRC、VSC時の制動制御を行い、前記手段Aは前記ABS、TRC、VSC時の制動制御とは異なる自動制動の制御であって、運転者によるブレーキペダル5の操作が検出されると解除されるべき自動制動の制御を行う車輌用のブレーキ制御装置。」

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「一定の車間距離を保持するために自動制動を行う手段A」は、その機能、構造、技術的意義からみて、本願発明における「自動走行制御手段」に相当し、以下同様に、「ABS、TRC、VSCのいずれかの制動制御を行う手段B」は「制動力制御手段」に、「マスタシリンダ1」は「マスタシリンダ」に、「ホイールシリンダ11」は「ホイールシリンダ」に、「制御弁SA1,SA2,SA3」は「遮断弁」に、「ブレーキオイル」は「作動液体」に、「液圧源」は「圧力源」に、「ABS作動条件、TRC作動条件及びVSC作動条件のいずれの条件も成立していない」は「所定の条件が成立していない」に、「ABS作動条件、TRC作動条件またはVSC作動条件のいずれかの条件が成立する」は「所定の条件が成立する」に、「ブレーキペダル5の操作」は「制動操作」に、「ABS、TRC、VSCのいずれかの制動制御」は「所定の制動力制御」に、「自動制動の制御」は「自動走行制御」に、「解除」は「終了」に、「車輌用のブレーキ制御装置」は「車輌用走行制御装置」に、それぞれ相当する。
よって、本願発明と引用発明とは、次の<一致点>で一致し、<相違点>で相違する。

<一致点>
「自動走行制御手段と、制動力制御手段とを有し、前記制動力制御手段は必要に応じてマスタシリンダと左右輪のホイールシリンダとの連通を遮断する遮断弁と、高圧の作動液体を供給する圧力源とを有し、所定の条件が成立していないときには前記遮断弁を開弁させ、前記所定の条件が成立すると運転者による制動操作の有無に関係なく前記遮断弁を閉弁させて前記圧力源よりの高圧の作動液体を使用してホイールシリンダ内圧力を制御する所定の制動力制御を行い、前記自動走行制御手段は前記所定の制動力制御とは異なる自動走行制御であって、運転者による制動操作が検出されると終了されるべき自動走行制御を行う車輌用走行制御装置。」

<相違点>
本願発明においては、「(i)自動走行制御の実行中に左右輪の少なくとも一方について所定の条件が成立し」「(ii)制動力制御手段により遮断弁が閉弁されてマスタシリンダと左右の車輪のホイールシリンダとの連通が遮断されることにより」「(iii)ブレーキペダルを踏み込むことができない状態」にて「(iv)所定の制動力制御が行われる場合」には、「(v)自動走行制御を終了させる」のに対し、
引用発明においては、上記(ii)に相当する「手段Bにより制御弁SA1,SA2,SA3のいずれかが閉弁されてマスタシリンダ1と左右の車輪のホイールシリンダ11との連通が遮断される」ことにより上記(iv)に相当する「ABS、TRC、VSCのいずれかの制動制御が行われ」る場合に、上記(iii)に相当する「ブレーキペダル5を踏み込むことができない状態」があり得るのか、明らかでなく、また、上記(i)に相当する「自動制動の制御の実行中に左右輪の少なくとも一方についてABS作動条件、TRC作動条件またはVSC作動条件のいずれかの条件が成立し」た際に、上記(iv)に相当する「ABS、TRC、VSCのいずれかの制動制御が行われ」、上記(v)に相当する「自動制動の制御を終了させる」のか不明である点(以下、「相違点」という。)。

第5 当審の判断
上記相違点について、以下に検討する。
上記第3(2)(セ)及び(タ)において前述したように、引用文献の図7に記載のABS作動時においては、マスタシリンダ1のマスタシリンダ室1iとフロント右側の車輪のホイールシリンダ11との連通を遮断する「制御弁SA1」及び「制御弁SA2」を閉弁させてアキュミュレータ4よりの高圧のブレーキオイルを使用してホイールシリンダ11内圧力を制御するABS時の制動制御を行うものであって、「制御弁SA1」及び「制御弁SA2」が閉弁されることで「マスタシリンダ1のマスタシリンダ室1i」内のブレーキオイルは吐出されないことから、ABS作動条件が成立して「制御弁SA1」及び「制御弁SA2」が閉弁されると、「ブレーキペダル5を踏み込むことができない状態」になるといえる。
一方、引用文献の図8に記載のTRC作動時においては、上記第3(2)(セ)及び(タ)において前述したように、「制御弁SA3」を閉弁してアキュミュレータ4よりの高圧のブレーキオイルを使用して後輪の左右輪のホイールシリンダ11内圧力を制御するものであって、「制御弁SA1」及び「制御弁SA2」は開弁状態が維持されるものであるが、これは、引用文献の段落【0073】に記載されるように、後輪が駆動輪である後輪駆動車を前提としているからであって、引用発明を例えば前後輪が駆動輪となる周知の四輪駆動車に適用した場合には、駆動輪となる前輪の左右輪のホイールシリンダ11内圧力をも制御するべく、当然、「制御弁SA1」及び「制御弁SA2」も閉弁状態とするようにすることは、当業者であれば普通になし得ることである(必要であれば、後輪駆動車の後輪を制御する技術を四輪駆動車の駆動輪に適用する技術思想が開示された、実用新案登録第2586704号公報の段落【0062】の記載、また、四輪駆動車において、マスタシリンダから前後輪の左右輪への作動液体の連通を遮断する遮断弁を遮断する技術思想が開示された、実用新案登録第2558051号公報(特に、「切換制御弁9a,9a」を参照。)、特開平10-194107号公報(特に、段落【0038】に記載の「電磁切換弁SA1、SA2」を参照。)及び特開2004-90886号公報(公開日:平成16年3月25日、特に、段落【0046】、【0078】及び【0080】に記載の「制御弁SA1」を参照。)を参照されたい。)。
さらに、引用文献の図9に記載のVSCオーバーステア抑制時においては、上記第3(2)(セ)及び(タ)において前述したように、「制御弁SA1」または「制御弁SA2」の一方のみを閉弁させているが、「制御弁SA1」及び「制御弁SA2」を共に閉弁した上でホイールシリンダ11内圧力を制御することは、当業者であれば適宜なし得ることである(必要であれば、マスタシリンダから前後輪の左右輪への作動液体の連通を遮断する遮断弁を遮断する技術思想が開示された、実用新案登録第2558051号公報(特に、「切換制御弁9a,9a」を参照。)、特開平10-194107号公報(特に、段落【0038】に記載の「電磁切換弁SA1、SA2」を参照。)及び特開2004-90886号公報(公開日:平成16年3月25日、特に、段落【0046】、【0078】及び【0080】に記載の「制御弁SA1」を参照。)を参照されたい。)。

また、「定速走行制御、先行車輌追従走行制御、先行車輌に対する衝突防止制御、走行路確認走行制御等の制御」(以下、「制御A」という。)の実行中に、「車輪のスリップを低減するためのTRC、ABS、VSC等の制御」(以下、「制御B」という。)が行われる場合には、制御Aを終了させることで、当該「制御A」と「制御B」という異なる2つの制御の干渉を防止することは、例えば、特開平1-111540号公報(例えば、特許請求の範囲の記載を参照。)、特開平4-365661号公報(例えば、段落【0015】の記載を参照。)、特開平5-180030号公報(例えば、段落【0015】の記載を参照。)に記載されているように、本願出願前において周知の技術思想(以下、単に「周知の技術思想」という。)である。
そして、引用発明においても、2つの異なる「自動制動の制御」と「ABS、TRC、VSC時の制動制御」とが干渉する恐れがあることは、当該周知の技術思想と同様に、当業者であれば自明の事項であり、その課題を解決するための手法として、引用発明に当該周知の技術思想を適用することは、当業者であれば容易になし得ることである。

よって、引用発明に周知の技術思想を適用することで上記相違点に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

また、本願発明を全体として検討しても、引用発明及び周知の技術思想から予測される以上の格別な効果を奏するものとは認められない。

ところで、本件請求人は、平成22年7月9日付けの意見書において、本願発明が解決しようとする課題並びに本願発明が奏する作用・効果について、次の点を主張する。
「しかし本願発明は、(1)運転者の制動操作による制動、(2)運転者による制動操作の有無に関係なく行われる所定の制動力制御、(3)所定の制動力制御とは異なる自動走行制御の三つが実行される車輌に於いて、(3)の実行中に(2)が行われるときには制御干渉を回避するために(3)を終了させることを要旨とするものではありません。
本願発明は、(3)の実行中に(1)が行われると、運転者の制動意思を尊重して(3)を終了させんとするものですが、(2)が行われることによりマスタシリンダと各車輪のホイールシリンダとの連通が遮断されブレーキペダルを踏み込むことができない状態になる場合には、(3)の実行中に(2)が行われると、更に(1)が行われても(3)を終了させることができない問題を解消せんとするものであります。
貴引用文献には、上記問題については記載も示唆もされておらず、ましてやその問題を解決するための手段についても全く記載も示唆もされておらず、よって補正後の請求項1に記載の本願発明は貴引用文献の記載に基づいて当業者により容易に想到し得たものではありません。」
当該主張について検討するに、本願発明には、「ブレーキペダルを踏み込むことができない状態にて前記所定の制動力制御が行われる場合には、前記自動走行制御を終了させる」との発明特定事項は認められるものの、「ブレーキペダルを踏み込むことができる状態にて前記所定の制動力制御が行われる場合」も存在するのか否か、また、仮に「できる状態」にて制動力制御が行われる場合に「前記自動走行制御を終了させる」のか否か、について明確に特定していない以上、「ブレーキペダルを踏み込むことができる状態にて前記所定の制動力制御が行われる場合」にも「前記自動走行制御を終了させる」ものも本願発明の技術的範囲に包含されるといえ、この場合、当該請求人の主張は、本願発明に基づかない作用・効果の主張であると言わざるを得ない。
なお、仮に、本願発明の前提が「所定の制動力制御が行われる場合」には必ず「ブレーキペダルを踏み込むことができない状態」になるものであったとしても、「遮断弁が閉弁されてマスタシリンダと左右の車輪のホイールシリンダとの連通が遮断されることによりブレーキペダルを踏み込むことができない」との課題は、例えば、特開2000-344070号公報(例えば、段落【0004】の記載を参照。)、特開平10-264802号公報(例えば、段落【0002】及び【0003】の記載を参照。)、特開平10-53118号公報(例えば、段落【0019】の記載を参照。)に記載されているように、本願出願前において周知の技術課題であって、また、引用発明が「運転者によるブレーキペダル5の操作が検出されると解除されるべき自動制動の制御を行う」ものである以上、その解除条件を満足することができない運転状態が生じてしまうのであれば、車輌の運転上の安全を鑑み何かしらの対策を練る程度のことは、当業者であれば普通に行うことであるといえる。してみれば、ブレーキペダルを踏み込むことができない状態となるならば、その時点を以て「自動制動の制御」を解除する程度のことは、当業者であれば容易に想到し得たともいえる。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、 引用発明及び周知の技術思想に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-08 
結審通知日 2010-09-14 
審決日 2010-09-28 
出願番号 特願2004-214083(P2004-214083)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 悟史  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 鈴木 貴雄
加藤 友也
発明の名称 車輌用走行制御装置  
代理人 特許業務法人プロスペック特許事務所  

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