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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1227023
審判番号 不服2009-4035  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-02-24 
確定日 2010-11-11 
事件の表示 特願2003- 28063「パターン層形成体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月26日出願公開、特開2004-240095〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成15年2月5日の出願であって、平成20年9月3日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年11月7日付けで手続補正がなされたが、平成21年1月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年2月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年3月10日付けで手続補正がなされたものである。
その後、当審にて、前置報告書の内容を送付する審尋がなされ、これに対する回答書が平成22年7月9日に提出されている。

第2.平成21年3月10日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年3月10日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の概要
平成21年3月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前、平成20年11月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1[補正前]を以下のとおり[補正後]とする補正事項を含むものである。

[補正前]
「 基板と、前記基板上に形成されたパターン層とを有し、前記パターン層がフォトリソグラフィー法により形成されたパターン層形成体であり、前記パターン層のパターニングを行う際の露光が、前記基板または露光する際に使用するフォトマスクの少なくとも一方を移動させながら行うパターン層形成体の製造方法であって、
前記基板上にフォトレジストが塗布された基板を準備する基板準備工程と、
光の透過を遮る遮光層と、前記パターン層のパターンを形成するための開口部とを有し、前記開口部の前記移動の方向における長さが、前記パターン層のパターンの前記移動の方向における長さよりも短い前記フォトマスクを準備し、前記フォトマスクを介して、前記基板または前記フォトマスクの少なくとも一方を移動させながら前記フォトレジストを露光する露光工程と、
前記露光されたフォトレジストを現像することにより所望のパターンが形成されたパターン層を形成する現像工程と、
を有し、
前記パターン層のチップの大きさが550mm×650mm以上であり、前記チップに形成されたパターンが線幅20μm以下、長さ30μm以下であることを特徴とするパターン層形成体の製造方法。」

[補正後]
「 基板と、前記基板上に形成されたパターン層とを有し、前記パターン層がフォトリソグラフィー法により形成されたパターン層形成体であり、前記パターン層のパターニングを行う際の露光が、前記基板または露光する際に使用するフォトマスクの少なくとも一方を移動させながら行うパターン層形成体の製造方法であって、
前記基板上にフォトレジストが塗布された基板を準備する基板準備工程と、
光の透過を遮る遮光層と、前記パターン層のパターンを形成するための開口部とを有し、前記開口部の前記移動の方向における長さが、前記パターン層のパターンの前記移動の方向における長さに対して25%?70%の範囲内である前記フォトマスクを準備し、前記フォトマスクを介して、前記基板または前記フォトマスクの少なくとも一方を移動させながら前記フォトレジストを露光する露光工程と、
前記露光されたフォトレジストを現像することにより所望のパターンが形成されたパターン層を形成する現像工程と、
を有し、
前記パターン層のチップの大きさが550mm×650mm以上であり、前記チップに形成されたパターンが線幅20μm以下、長さ30μm以下であることを特徴とするパターン層形成体の製造方法。」(下線は、請求人が補正箇所として付与したもの。)


2.補正の目的について
上記補正事項は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記パターン層のパターンの前記移動の方向における長さよりも短い前記フォトマスク」を「前記パターン層のパターンの前記移動の方向における長さに対して25%?70%の範囲内である前記フォトマスク」として、「短い」ことに対する程度を限定したものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開平11-237744号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。)

1a.「【請求項1】 複数の並行した直線状のパターン、または、それぞれの直線状のパターンの少なくとも一方の片端に任意の形状のパターンが描かれたフォトマスクを、感光材の層を表面に備えた基板に近接して配置し、前記フォトマスクを通して前記基板に光を照射することによって前記基板にパターンを転写するための露光装置であって、
前記フォトマスクの直線状のパターンは、前記基板に転写されるべきパターンの直線部を短くして描かれており、
前記フォトマスクと、前記フォトマスクを通して前記基板に光を照射するための光照射装置とが、前記基板を含む所定エリア内で相対的にX-Y方向に移動または停止する機能を有し、
前記フォトマスクの前記基板に対する相対的移動中または停止時に、露光によって前記パターンを基板に順次転写する、露光装置。」

1b.「【請求項17】 複数の並行した直線状のパターン、または、それぞれの直線状のパターンの少なくとも一方の片端に任意の形状のパターンが描かれたフォトマスクを、感光材の層を表面に備えた基板に近接して配置し、前記フォトマスクを通して前記基板に光を照射することによって前記基板にパターンを転写するための露光装置であって、
前記フォトマスクの直線状のパターンは、前記基板に転写されるべきパターンの直線部を短くして描かれており、
前記フォトマスクを通して前記基板に光を照射するための所定の照射領域を有する平行光束と、前記基板を保持する基板ホルダとは、前記フォトマスクの直線状のパターンと並行する方向に移動または停止する機能を有し、
前記フォトマスクの直線状のパターンの少なくとも一方の片端に描かれた前記任意形状パターンの前記基板への転写は、前記基板が前記フォトマスクに対し所定の位置に停止した状態で、前記平行光束を停止または移動させながら前記フォトマスクを通して前記基板に光を照射することによって行ない、
前記フォトマスクの直線状のパターンの前記基板への転写は、前記フォトマスクの上方に前記平行光束を停止させた状態で、前記基板を任意の速度で移動させながら前記フォトマスクを通して前記基板に光を照射することによって、前記フォトマスクに短く描かれた直線パターンを実質上引き伸ばし、所定の長さの直線状のパターンとなるように行なう、露光装置。」

1c.「【請求項23】 所定形状のパターンが描かれたフォトマスクを、感光材の層を表面に備えた基板に近接して配置し、前記フォトマスクを通して前記基板に光を照射することによって前記基板にパターンを転写するための露光装置であって、
前記フォトマスクと、前記フォトマスクを通して前記基板に光を照射するための光照射装置とが、前記基板を含む所定エリア内で相対的にX-Y方向に移動または停止する機能を有し、
前記フォトマスクの前記基板に対する相対的移動中または停止時に、露光によって前記パターンを基板に順次転写することにより、前記基板に転写されるべきパターンを描く露光装置。」

1d.「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は露光装置および露光方法に関し、より特定的には、複数の並行した直線状のパターン、または、それぞれの直線状のパターンの少なくとも一方の片端に任意の形状のパターンが描かれたフォトマスクを、感光材の層を表面に備えた基板に近接して配置し、フォトマスクを通して基板に光を照射することによって基板にパターンを転写するための露光装置、および露光方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどのガラス基板は、年々大型化する傾向にある。特に、プラズマディスプレイに用いられる基板は、その大きさが1m×1.5mにも達している。
【0003】こうした大型基板上に、所定のパターンを形成するための一括露光用フォトマスクも、当然大型化する必要がある。しかし、このような要求に応えるための大型のフォトマスクを製作することは、材料、加工およびパターン作画などにおいて、その精度を確保することが困難なことが多く、またコスト的にも高価なものとなる。
【0004】一方、上記要求を満たした大型のフォトマスクが製作された場合においても、これに伴い露光装置自体も非常に大型化・・(省略)・・・総合的な設備費および維持費が非常に高価なものとなってしまう。
【0005】また、フォトマスク上にごみ等が存在した場合、ごみがそのままパターンとなって転写され、製品の歩留を向上させることができない。そのため、フォトマスク上にごみ等が存在しないようにするために、現在極めて慎重なフォトマスクの取り扱いがなされている。
【0006】したがって、この発明の第1の目的は、所定のパターンを有する基板を製作するに際して、その基板が大型化した場合においても、その製造における操作が容易で、設備費および維持費を安価に抑えるとともに、精度の高い露光処理を行なうことのできる露光装置および露光方法を提供することにある。」

1e.「【0008】
【課題を解決するための手段】この発明に基づいた露光装置の1つの局面においては、複数の並行した直線状のパターン、または、それぞれの直線状のパターンの少なくとも一方の片端に任意の形状のパターンが描かれたフォトマスクを、感光材の層を表面に備えた基板に近接して配置し、上記フォトマスクを通して上記基板に光を照射することによって上記基板にパターンを転写するための露光装置であって、上記フォトマスクの直線状のパターンは、上記基板に転写されるべきパターンの直線部を短くして描かれており、上記フォトマスクと、上記フォトマスクを通して上記基板に光を照射するための光照射装置とが、上記基板を含む所定エリア内で相対的にX-Y方向に移動または停止する機能を有し、上記フォトマスクの上記基板に対する相対的移動中または停止時に、露光によって上記パターンを基板に順次転写する。
【0009】上記のように、基板に露光されるパターンの直線状部に対応する部分の長さが短縮されたパターンを有するフォトマスクを用いることによって、従来、フォトマスク上に全てのパターンを描いたフォトマスクに比べて、短縮された分フォトマスクの小型化を図ることが可能となり、フォトマスクを製造するときの精度の問題、コストに関する問題を解決することが可能となる。
【0010】また、このようなフォトマスクを用いて、フォトマスクの基板に対する相対的移動中または停止時に、露光によってパターンを基板に順次転写することによって、基板に、直線状に延びるパターンを精度よく転写することが可能となる。
【0011】さらに、基板に対してフォトマスクが相対的に移動しながらパターンの転写が行われるため、たとえフォトマスク上にごみ等が存在した場合においても、ごみ等がパターンとして基板に転写されることがない。」

1f.「【0045】[実施の形態1]まず、図1を参照して、本実施の形態におけるプラズマディスプレイのガラス基板について説明する。この基板1Aは、ガラス基板1と、このガラス基板1の表面にこのガラス基板1の一方向(図中X方向、以下本明細書において、この方向をX方向と称する)に直線状に延びるパターンを互いに並行に複数配置した、パターン2とが設けられている。
【0046】このパターン2の両端部には、それぞれ所定形状の端子パターンT1,T2が形成されている。・・・(省略)・・・
【0047】・・・(省略)・・・
【0048】次に、図2を参照して、露光によってパターン2を基板1Aに転写するためのフォトマスク10Aについて、説明する。
【0049】このフォトマスク10Aは、同じく透明なガラス基板10上に、基板1Aに露光されるパターン2の分割パターンP1?P4の一つの分割部の直線状部分を長さ方向に短縮した直線部11aと、その両端部に、端子パターンT1,T2に対応する端子パターンT11,T12とを有するパターン11が形成されている。・・・(省略)・・・
【0050】次に、上述した図2に示すフォトマスク10Aを用いて、露光によってパターン2を基板1Aの全面にわたり転写する露光方法について、図3?図8を参照して説明する。
【0051】まず、図3および図4を参照して、基本的な露光方法について説明する。なお図3は、フォトマスク10Aおよび感光材の層を表面に備えた基板1Aの平面図であり、図4は、側面図である。
【0052】両図を参照して、基板1Aの1つのコーナの所定の位置に、フォトマスク10Aが配置されており、パターン11を基板に転写するスタート位置を示している。
【0053】?【0054】・・・(省略)・・・
【0055】また、フォトマスク10Aは、基板1Aに対して、接触しない僅かな隙間(0.05?0.5mm)を保つように設けられている。
【0056】次に、フォトマスク10Aおよび照射光20は、X方向およびY方向に移動する機構を有している(詳細な機構については後述)。このような機構を用いて、フォトマスク10Aに設けられたパターン11を基板1Aに転写する方法を図5?図8に示す。
【0057】まず、図5を参照して、フォトマスク10Aを停止した状態で、第1光照射装置30を移動させながら、フォトマスク10Aの端子パターンT12の上方を移動させ、基板1Aにフォトマスク10Aを通して光を照射して、端子パターンT12を基板1Aに転写する。
【0058】その後、第1光照射装置30をさらに移動させながら、第1光照射装置30がフォトマスク10Aのパターン11の中央部上方に位置したときに、図6に示すように、フォトマスク10Aを第1光照射装置30とほぼ同期した速度でX方向に移動させて、基板1Aにパターン2の直線部分を転写する(図8の矢印A1→A2→A3参照)。
【0059】次に、図7を参照して、基板1Aに対してパターン2の直線部分を転写が終了した後、フォトマスク10Aを停止させて第1光照射装置30をフォトマスク10Aの端子パターンT11の上方においてさらに移動させながら、基板1Aにフォトマスク10Aを通して光を照射して、端子パターンT11を基板1Aに転写する。その後、第1光照射装置30を、基板1Aの外側へ移動し停止させる。」

1g.「【0091】また、本実施の形態においては、基板を固定し、フォトマスクのみが基板に対してX方向Y方向に移動可能な構成としたが、フォトマスクと基板とが相対的にX方向Y方向に移動すれば、上記露光方法の実現は可能であり、基板およびフォトマスクのいずれか一方がX方向いずれか一方がY方向に移動するような構成を採用することも可能である。」

1h.「【0092】[実施の形態2]次に、図15(a)、(b)を参照して、本実施の形態におけるプラズマディスプレイの基板101Aおよびフォトマスク110Aについて説明する。
【0093】まず、図15(a)を参照して、この基板101Aは、ガラス基板101を有し、このガラス基板101の表面にこのガラス基板101のX方向に直線状に延びるパターンを互いに並行に複数配置した、パターン102が設けられている。
【0094】このパターン102の両端部には、それぞれ所定形状の端子パターンT101,T102が形成されている。なお、端子パターンは一方の片端にのみ形成されいてもかまわない。さらに、ガラス基板101の四隅のコーナ部分には、積層露光するため、基板101Aとフォトマスクとの位置決めを行なうための基板用位置合わせマーク103が形成されている。
【0095】次に、図15(b)を参照して、露光によってパターン102をガラス基板101に転写するためのフォトマスク110Aについて、説明する。
【0096】このフォトマスク110Aは、同じく透明なガラス基板110上に、基板101に露光されるパターン102の直線状部分を長さ方向に短縮した直線部111aと、直線部111aの両端部に、端子パターンT101,T102に対応する端子パターンT111,T112とを有するパターン111が形成されている。また、ガラス基板110の四隅のコーナ部には、基板101Aとの位置決めを行なうためのフォトマスク用アライメントマーク112が設けられている。
【0097】なお、基板101Aおよびフォトマスク110Aの変形例として、図16(a)に示すような端子パターンT101,T102を有しない基板101B、および図16(b)に示すような端子パターンT111,T112を有しないフォトマスク110Bを用いることも可能である。
【0098】?【0100】・・・(省略)・・・
【0101】さらに、上記基板101Cおよびフォトマスク110Cの変形例として、図18(a)に示すような端子パターンT105,T106を有しない基板101D、および図18(b)に示すような端子パターンT115,T116を有しないフォトマスク110Dを用いることも可能である。
【0102】?【0106】・・・(省略)・・・
【0107】また、フォトマスク110Aは、上記実施の形態1の場合と同様に、ガラス基板101に対して、接触しない僅かな隙間(0.05?0.5mm)を保つように設けられている。
【0108】平行光束130Aを反射するための平面ミラー131およびガラス基板101は、X方向に移動する機構を有している(詳細な機構については後述する。)。
【0109】まず、図19(a)、(b)を参照して、ガラス基板101を停止した状態で、平面ミラー131をフォトマスク110Aの端子パターンT112の上方を移動しながら、ガラス基板101にフォトマスク110Aを通して光を照射して、端子パターンT112をガラス基板101に転写する。
【0110】このとき、平行光束130Aの照射領域は、平行光束130Aを得るための光源側の光学系により決定されているため、遮光板132は、不要な領域への平行光束130Aの照射を制限する目的で用いられる。
【0111】次に、図20(a)、(b)を参照して、平面ミラー131をフォトマスク110Aのパターン111aの中央部上方に固定させ、ガラス基板101のみをX方向に移動させながら、ガラス基板101にフォトマスク110Aのパターン111の直線部分111aを転写する。
【0112】次に、図21(a)、(b)を参照して、ガラス基板101に対してパターン111の直線部分111aの転写が終了した後、端子パターンT111が基板の所定の位置に転写される位置で、ガラス基板101を停止させて、ガラス基板101にフォトマスク110Aを通して光を照射して、端子パターンT111を基板110Aに転写する。その後、平面ミラー131をさらにX方向に移動させた後に停止させる。」

1i.「【0132】ここで、上記各実施の形態においては、直線状のパターンを基板に転写する場合について述べたが、たとえば、フォトマスクの直線状のパターンのガラス基板への転写時に、フォトマスクの直線状のパターンと並行した方向または異なる方向に複数回繰り返し転写を行なう転写ステップ、ガラス基板上の光学的にネガタイプまたはポジタイプの感光層を成膜する成膜ステップ、および、現像、エッチング、その他目的とする材料による薄膜を成形する薄膜成形工程などの薄膜成形工程の各工程を組合せることにより、ガラス基板上の目的とする材料によって平面的または立体的に複合したパターンを形成することも可能である。
【0133】さらに、以下に示す方法を採用することにより、格子状パターンまたは多数の角形パターンを有するパターンを基板に転写することが可能である。
【0134】図34を参照して、ガラス基板101の感光層に、直線パターン122を有するフォトマスク110Eを用いて、上記各実施の形態で述べた方法に基づき、直線パターン104が転写された感光層を有する基板101Eを作成する。
【0135】次に、直線パターン104が転写された感光層または直線パターン104が転写された感光層を現像した後にさらに成膜された他の感光層に対して、基板101Eの向きを90°回転させた後に、直線パターン123を有するフォトマスク110Fを用いて、パターンの転写を行う。
【0136】上記露光工程において、レジスト膜としてポジタイプのものを用いた場合には、格子状パターン105を有する基板101Fが作成でき、また、レジスト膜としてネガタイプのものを用いた場合には多数の角形パターン106を有するガラス基板101Gを作成することが可能になる。」

1j.「【0139】なお、上述した各実施の形態においては、フォトマスクに設けられるパターンは、直線パターンを用いた直線パターンのガラス基板上の目的とする層への転写の場合のみを説明したが、これに限らず、たとえば、フォトマスクに設けられるパターンは、矩形状、帯状その他様々な形状のパターンを用いて、様々な形状のパターンのガラス基板上の目的とする層への転写が可能である。
【0140】なお、上述した各実施の形態においては、プラズマディスプレイに用いられるガラス基板に直線状のパターンを転写する場合について説明したが、所定のパターンを有するプリント基板、カラーフィルタ、半導体、その他露光処理によって製造されるべきものに適用することが可能である。
【0141】したがって、今回開示した各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。」

1k.【図16】「

」ここで、この図から見て取れる長さによれば、120の長さは、102の長さの27%程度である。

1l.【図18】「

」 ここで、この図から見て取れる長さによれば、121の長さは、104の長さの58%程度である。

m.【図34】「

」特に、左3図までの工程参照。

これら記載(特に1a.?1m.)によれば、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「複数の並行した直線状のパターンが描かれたフォトマスクを、感光材の層を表面に備えた基板に近接して配置し、前記フォトマスクを通して前記基板に光を照射することによって前記基板にパターンを転写するための方法であって、
前記フォトマスクの直線状のパターンは、前記基板に転写されるべきパターンの直線部を短くして描かれており、
前記フォトマスクの前記基板に対する相対的移動中に、露光によって前記パターンを基板に転写する方法。」


4.対比、判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「感光材の層を表面に備えた基板」は、本願補正発明の「フォトレジストが塗布された基板」に相当するので、これを要件とする引用発明の方法は、「基板上にフォトレジストが塗布された基板を準備する基板準備工程」を備えたものである。
また、引用発明のフォトマスクは、「直線状のパターンが描かれ」たもので、「基板に転写されるべきパターンの直線部を短くして描かれており」、「前記フォトマスクの前記基板に対する相対的移動中に、露光によって前記パターンを基板に転写する方法」であるから、引用発明の方法は、
本願補正発明の「基板と、前記基板上に形成されたパターン層とを有し、前記パターン層がフォトリソグラフィー法により形成されたパターン層形成体であり、前記パターン層のパターニングを行う際の露光が、前記基板または露光する際に使用するフォトマスクの少なくとも一方を移動させながら行うパターン層形成体の製造方法」に相当する。
そして、引用発明の認定には明記しなかったが、感光層を露光したのちパターンとするには、現像する工程が伴うので、引用発明の方法には、本願補正発明の「露光されたフォトレジストを現像することにより所望のパターンが形成されたパターン層を形成する現像工程」に相当する工程を含むと認められる。

さらに、引用発明の、フォトマスクは、直線状のパターンが遮光層で、残部が透光性であるとは特定していないものの、そのようなものと認めることができる。そのような直線状のパターンが遮光層である引用発明の「フォトマスク」と、本願補正発明の「光の透過を遮る遮光層と、前記パターン層のパターンを形成するための開口部とを有」することとは、「透光性の異なる部位を有」するフォトマスクである点で共通する。
したがって、引用発明の方法が、「前記フォトマスクの直線状のパターンは、前記基板に転写されるべきパターンの直線部を短くして描かれており、前記フォトマスクの前記基板に対する相対的移動中に、露光によって前記パターンを基板に転写する」ものであることと、本願補正発明の方法が、「光の透過を遮る遮光層と、前記パターン層のパターンを形成するための開口部とを有し、前記開口部の前記移動の方向における長さが、前記パターン層のパターンの前記移動の方向における長さに対して25%?70%の範囲内である前記フォトマスクを準備し、前記フォトマスクを介して、前記基板または前記フォトマスクの少なくとも一方を移動させながら前記フォトレジストを露光する露光工程」を有することとは、
「前記パターン層のパターンを形成するための透光性の異なる部位を有し、前記部位の前記移動の方向における長さが、前記パターン層のパターンの前記移動の方向における長さよりも短いフォトマスクを準備し、前記フォトマスクを介して、前記基板または前記フォトマスクの少なくとも一方を移動させながら前記フォトレジストを露光する露光工程」を有する点で共通する。

そこで、本願補正発明と引用発明とは、下記一致点にて一致し、下記相違点1、2にて相違する。

[一致点]
「 基板と、前記基板上に形成されたパターン層とを有し、前記パターン層がフォトリソグラフィー法により形成されたパターン層形成体であり、前記パターン層のパターニングを行う際の露光が、前記基板または露光する際に使用するフォトマスクの少なくとも一方を移動させながら行うパターン層形成体の製造方法であって、
前記基板上にフォトレジストが塗布された基板を準備する基板準備工程と、
前記パターン層のパターンを形成するための透光性の異なる部位を有し、前記部位の前記移動の方向における長さが、前記パターン層のパターンの前記移動の方向における長さよりも短いフォトマスクを準備し、前記フォトマスクを介して、前記基板または前記フォトマスクの少なくとも一方を移動させながら前記フォトレジストを露光する露光工程と、
前記露光されたフォトレジストを現像することにより所望のパターンが形成されたパターン層を形成する現像工程と、
を有する、
パターン層形成体の製造方法。」

[相違点1]フォトマスクにおける、「パターン層のパターンを形成するための透光性の異なる部位」に関して、
本願補正発明は、「光の透過を遮る遮光層と、前記パターン層のパターンを形成するための開口部とを有し、前記開口部の前記移動の方向における長さが、前記パターン層のパターンの前記移動の方向における長さに対して25%?70%の範囲内である」のに対し、
引用発明では、フォトマスクの、直線状のパターンが遮光層で、残部が透光性であるから、開口部とはいえず、また、前記パターン層のパターンの前記移動の方向における長さに対して25%?70%の範囲内であるとの限定がない点。

[相違点2]
本願補正発明では、「パターン層のチップの大きさが550mm×650mm以上であり、前記チップに形成されたパターンが線幅20μm以下、長さ30μm以下である」のに対し、
引用発明では、そのような特定がない点。

はじめに相違点2について検討する。
「パターン層のチップの大きさ」については、引用例1(上記1d.)には、「液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどのガラス基板は、年々大型化する傾向にある。特に、プラズマディスプレイに用いられる基板は、その大きさが1m×1.5mにも達している」、「こうした大型基板上に、所定のパターンを形成するための・・・」と記載されているように、引用発明は、そのような基板にパターンを形成することを技術思想としたものであるから、実質的な相違点ではないと認められる。
また、一般に、フォトレジストリソグラフィー法で形成するパターンは、ある程度微細なものであることが想定されているものであるから、引用発明も、大型基板に微細パターンを設ける技術思想を有するものである。
具体的なパターンの大きさについては、例えば、大型ガラス基板に、フォトリソグラフィー法で設けたスペーサーとして、底面が1辺の長さ10μmの正方形(原査定の引用文献3である、特開2002-236371号公報【0150】)、柱断面積10μm×20μm(特開2003-15138号公報【0021】)が知られており、本願補正発明のパターンの大きさ程度のものは周知であるといえる。
よって、引用発明の、大型基板に微細パターンを設ける技術思想のもとに、本願補正発明の定める、「パターン層のチップの大きさが550mm×650mm以上であり、前記チップに形成されたパターンが線幅20μm以下、長さ30μm以下である」とすることは、設計的事項である。

そして、ディスプレイ基板は大きく、フォトリソグラフィー法によるパターンは小さいものとすることは、その技術分野において指向されることであって、本願補正発明において、当該チップの大きさの下限、パターンの大きさの上限を上のごとく定めることに格別顕著な作用効果は認められない。

次に相違点1について検討する。
まず、転写するパターンを開口部とするが、遮光パターンとするかは、フォトレジストの特にネガ、ポジの性質やフォトマスクに形成されるパターンの密度等の要素から適宜決定されることであって、引用発明において、パターン層のパターンを形成するための部位である、直線状のパターンを開口部とすることは適宜なし得ることである。

そして、引用発明において、「パターン層のパターンを形成するための部位」の前記移動の方向における長さの、前記パターン層のパターンの前記移動の方向における長さに対する比(以下、「長さ比」と言う。)は、所定の長さの直線状のパターンとなるように、適宜決定すべきことである。
これを補足するものとして、引用発明において、上記摘記1j.「矩形状、帯状その他様々な形状のパターンを用いて、様々な形状のパターンのガラス基板上の目的とする層への転写が可能」であるとあり、「直線状」に替えて、「矩形」、「帯状」等の所望のパターンとすることも適宜なし得ることであり、縦横比が長い場合のみを想定したものではない。
なお、図面は必ずしも、同じ縮尺で描かれているものとは限らないものであるとはいうものの、参考として、【図18】(上記1l.)を参照すると、明らかに、長さ比は、「50%?60%」程度、【図16】(上記1k.)を参照しても、本願補正発明の長さ比に包含される。

このようなことからみて、引用発明のフォトマスクにおいて、「長さ比」を適宜決定することは設計的事項である。

一方、本願補正発明の長さ比の範囲の根拠としても、本願明細書段落【0041】には、「短かく形成されているのであれば特に限定はされない」と記載されている程度であり、その範囲とすることに対し、根拠を示していない。例えば、同じく段落【0024】には、「また、移動距離を変更するだけで異なる長さを有するパターンを形成することができることから、線幅を同じくし、長さのみが異なるパターンに同一のフォトマスクを用いて幅広く対応することが可能」とあるように、長さ比が小さい場合について、技術的意義、臨界的意義が示されていない。

よって、引用発明において、フォトマスクを、「光の透過を遮る遮光層と、前記パターン層のパターンを形成するための開口部とを有し、前記開口部の前記移動の方向における長さが、前記パターン層のパターンの前記移動の方向における長さに対して25%?70%の範囲内である」ようにすることは当業者が適宜なし得ることである。

5.請求人の主張について
請求人は、請求の理由において、次のように主張する。
下記、主張における、「引用文献1」は、当審決での「引用例1」であり、発明特定事項C’は、本願補正発明の「前記開口部の前記移動の方向における長さが、前記パターン層のパターンの前記移動の方向における長さに対して25%?70%の範囲内である前記フォトマスク」、発明特定事項Eは、「前記パターン層のチップの大きさが550mm×650mm以上であり、前記チップに形成されたパターンが線幅20μm以下、長さ30μm以下であること」を示す。

『(iii)従来、上記パターンの大きさを有するパターン層を形成する際に、フォトマスクを移動させずにフォトレジストに露光を行った場合、フォトマスクの開口部を透過した光がフォトレジストに到達する間に、回折等の要因によって、所望するパターンよりもわずかに広がったパターン層が形成されてしまうといった問題がありました。
また、上記露光光の回折を回避する方法としては、フォトレジストとフォトマスクとの間隙を狭めるという方法がありましたが、パターンが形成される基板が大きい場合、用いられるフォトマスクも大きなものとなるので、フォトマスク自身の重さによってたわみが発生するため、上記間隙を狭めることが困難でありました。
上記の問題点から、従来においては、発明特定事項Eに示されるような大型の基板に対して、線幅が狭く、長さの長いパターン層形成体を形成することが非常に困難でありました((0053)参照)。
(iv)本発明は、露光時に、基板とフォトマスクとを相対的に移動させることによって、フォトマスクの開口部を越えて露光されたフォトレジストの領域に十分に反応し得る露光量が照射されることを抑制し、形成されたパターンが不都合に広がることを抑制するものであります。ここで、フォトマスクの開口部を越えて露光されたフォトレジストの領域に照射される露光量は、基板とフォトマスクとの相対的な移動距離により影響されるものであります。
本発明は、発明特定事項Eに示すような「前記パターン層のチップの大きさが550mm×650mm以上」の大型基板に、「前記チップに形成されたパターンが線幅20μm以下、長さ30μm以下」となるような線幅が狭く、長さの長いパターンを形成する際、発明特定事項C´に示されるようなフォトマスクを用いて、基板およびフォトマスクの相対的な移動距離に制限を設けて露光を行うことによって、初めて精度よくパターニングを行うことができることを見出した点に大きな特徴を有するものであります。
したがって、本発明は発明特定事項Eおよび発明特定事項C´を有することによって、初めて、従来の方法では製造することが困難であったサイズの「大型基板上に線幅が狭く長さの長いパターンが形成されたパターン形成体」を形成することが可能となるといった顕著な作用効果を奏するものであります。よって、上記発明特定事項Eおよび発明特定事項C´は単なる設計的事項ではありません。また、上述した作用効果は当業者であっても予測し得るものではありません。
(v)一方、引用文献1には、上述した発明特定事項Eおよび発明特定事項C´については一切開示されておりません。
ここで、引用文献1に記載された発明は、主に、基板の大型化に伴うフォトマスクおよび露光装置の大型化により製造コストが高くなることを問題としています。
この問題を解決するために、引用文献1においては、図5?図7に示されるように、形成される直線パターンの長さを短縮することで小型化したフォトマスクをX-Y方向に相対的に移動させながら露光を行っています。つまり、引用文献1に記載された発明は、「フォトマスクの相対的な移動距離を大きくすることによって、使用するフォトマスクをより小型化する」といった機能を有するものであります。
したがって、引用文献1に記載された発明は、課題および機能のいずれも本発明とは全く異なるものであります。よって、引用文献1に記載された発明からは、上記発明特定事項Eおよび発明特定事項C´は容易に想到し得るものではないと思料致します。
(vi)また、仮に、引用文献1において、フォトマスクの相対的な移動距離を発明特定事項C´に示されるような範囲に制限した場合、フォトマスクを小型化するためにフォトマスクの相対的な移動距離を自由に大きくすることができなくなるため、結果として、用いられるフォトマスクは本来の引用文献1の趣旨に沿ったフォトマスクに比べて大型化します。よって、本発明の発明特定事項C´は、引用文献1の「フォトマスクをより小型化する」という機能を阻害するものであります。このことからも、本発明の発明特定事項C´は、引用文献1から容易に想到し得えるものではないと思料致します。』

この主張に対して見解を述べる。
まず、引用例1には、大型基板に、線幅が狭く、長さの長いパターンを形成するものである。請求人が(iii)でいうところの、「・・・大型の基板に対して、線幅が狭く、長さの長いパターン層形成体を形成する」点で同じである。
よって、大型基板に対し、微細パターンを形成することに伴う問題に対する課題がない旨の請求人の主張は採用できない。
そして、その基板の大型の程度、パターンの線幅の程度、長さの程度を限定することは、そのような場合をもとに、「単なる設計事項でなない」と主張するが、上記で判断したように、大型基板に対する微細パターンを形成する点、マスクのパターンの長さ比を短くする点まで、引用例1に記載されている以上、その中での、数値範囲を決定することはやはり設計的事項と判断できる。
さらに、本願補正発明においても、基板の大きさは、従来より大判である程度の位置づけであり、そのサイズの下限に格別顕著な技術的意義を有するものでもないし、形成されるパターンのサイズ、マスクとのパターンの長さ比に関しても、なんら技術的意義、臨界的意義を有するものではないことも上記の判断のとおりである。

また、引用例1の課題はフォトマスクの小型化と主張するが、本願補正発明でも、フォトマスクが小型化されコストが抑えられるのは当然のことであって、本願明細書の段落【0038】においても、1つのフォトマスクを用いて形成することが可能なパターンの幅が広がるため、フォトマスクに要する費用の削減を図ることができる」とあり、「小型化」とは明記されていないものの、同様の作用も本願補正発明においても考慮されているといえる。そして引用例(【0041】上記で摘記はされていない)でも、「このようなフォトマスクを用いて、フォトマスクの基板に対する相対的移動中または停止時に、露光によってパターンを基板に順次転写することによって、基板に、直線状に延びるパターンを精度よく転写することが可能となる」として、精度よく転写することを考慮している。
さらに、「25%?70%」の制限があったとしても、その範囲でマスクに形成されるパターンを縮小することができ、ある程度の小型化が実現できるので、引用発明の、『「フォトマスクをより小型化する」という機能を阻害する』との主張も採用できない。

次に、回答書における請求人の主張についても検討する。
回答書で請求人は、「引用文献1明細書(0057)段落等の記載から明らかなように、端子パターンT12等は、フォトマスク10Aを停止した状態で露光を行っております。これは、明らかに停止した状態で露光を行っても回折等による、上述した本発明におけるものと同様の課題が生じないことを意味するものであり、上記本発明の発明特定事項Fで示される大きさのパターンより大きいパターンを対象とする発明であることを示しています。」としているが、この主張は採用できない。
なぜならば、引用発明は、端子パターンを備える場合も記載しているが、備えない直線パターンも具体的に記載されているので、引用発明の端子パターンの部分を以て差違を主張しても意味がないからである。
また、本願補正発明は、端子パターンも本願補正発明のフォトマスクで形成できるという主張であるとすれば、本願補正発明は、具体的には、長方形(矩形)のパターンを形成しているにすぎず、端子パターンのような、複雑なパターンを想定していないことは明らかであるので、これも採用できない。

さらに、回答書では、請求の理由に加え、再度、本発明は「パターンが線幅20μm以下、長さ30μm以下であるパターン層形成体を製造すること」に特徴を有するものではなく、上記範囲、すなわち本発明の発明特定事項Fで示される特定の用途における課題を解決したものであり、このような特定の用途(特定の条件)が開示もしくは示唆されていない引用文献1からは容易に発明できない旨を主張するが、上述のとおり、大型基板に微細パターンを形成する点は、引用例1に記載されているものであるから、同じく採用できない。

なお、請求人の主張する回折を考慮してマスクの開口を相対的に小さくする構成と作用効果の関係を突き詰めれば、例えば、マスクレスで、狭い開口で露光する場合に相当し、不要部には露光されず、精度が高いが、スループットが悪いというフォトリソグラフィー法の技術分野での一般的傾向に当たり、請求人の効果の主張は、この傾向に沿ったものであり、引用例1に直接に記載されていなくとも、当然の傾向であって、格別な技術的意義は認められない。
さらに、請求人は、明細書の段落【0007】に「露光量を低くした場合は、フォトレジストの反応性が低下するため、精度の高いパターンの形成には不向きであった」としているのに対して、移動しながら露光する構成を採用することにより、「移動しながらの露光であるため十分に反応が促進され得る程度の露光量が照射されにくくなる」、「露光量としては、フォトマスクまたは基板の少なくとも一方を移動させながら露光するため、露光時間が最も短くなるフォトレジストの部分において、露光による反応が起こり得る露光量とする」(【0043】)等の記載からみても、結局は、移動させながら露光して「露光量」を低くする作用を有するものである。
となれば、その精度は、回折の程度、フォトレジストの感度、反応速度、総露光量と露光時間とのバランスに依存して決定されるものであって、本願補正発明の長さ比の範囲とすることが、請求人の主張する精度を得るために必要十分な条件であるとも認められない。

以上、請求の理由、回答書における請求人の主張を考慮しても、チップの大きさ、パターンの大きさ、長さに比の範囲を決定することに対する技術的意義等を充足するものでなく、上記進歩性の判断に変わりはない。

6.まとめ
したがって、本願補正発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

7.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願の請求項1に係る発明
平成21年3月10日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成20年11月7日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)は、上記「第2.1」欄の「(補正前)」に示したとおりのものと認める。

2.引用例に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、上記引用例1;特開平11-237744号公報には、上記「第2.3.」欄に示したとおりの事項が記載されている。

3.対比、判断
本願発明1は、上記「第2. 1.」欄の「[補正後]」に示した本願補正発明における「前記パターン層のパターンの前記移動の方向における長さに対して25%?70%の範囲内である前記フォトマスク」を「前記パターン層のパターンの前記移動の方向における長さよりも短い前記フォトマスク」とした、より限定のないものである。

そうすると、本願発明1の特定事項を全て含み、さらに限定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2. 4.?6.」欄に記載したとおり、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1は、同様の理由により、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-09 
結審通知日 2010-09-14 
審決日 2010-09-29 
出願番号 特願2003-28063(P2003-28063)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03F)
P 1 8・ 575- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植木 隆和  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 伊藤 裕美
柏崎 康司
発明の名称 パターン層形成体の製造方法  
代理人 山下 昭彦  

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