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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01P
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 F01P
管理番号 1227093
審判番号 不服2009-22588  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-18 
確定日 2010-11-11 
事件の表示 特願2008-130750「サーモスタット装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月 7日出願公開、特開2010- 1739〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件出願は、平成20年5月19日の出願(国内優先権主張 平成20年2月20日)であって、平成21年5月13日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成21年7月17日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成21年8月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成21年11月18日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同時に明細書及び特許請求の範囲について手続補正がなされ、その後、当審において平成22年3月16日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成22年5月24日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成21年11月18日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成21年11月18日付けの手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成21年11月18日付けの明細書及び特許請求の範囲についての手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関しては、本件補正により補正される前の(すなわち、平成21年7月17日付けの手続補正により補正された)下記の(a)に示す請求項1ないし9を下記の(b)に示す請求項1ないし9と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲

「【請求項1】
内燃機関の冷却水が流通するバルブハウジング内に組み込まれ、冷却水の温度変化により移動する温度感知可動部を有し、この温度感知可動部の移動に伴って、上記バルブハウジング内に形成した弁座に対して弁体を開閉動作させることにより内燃機関に導入される冷却水の温度を制御するようにしたサーモスタット装置において、
上記温度感知可動部の移動方向と略直交する上記バルブハウジングの側方位置には、上記内燃機関により加熱されて冷却部をバイパスしたバイパス通路からの冷却水を導入する導入口が設けられているとともに、上記バルブハウジングにおける上記温度感知可動部よりも上記弁体の開弁方向側端には、ヒータコアに供給されたヒータ通路からの冷却水を導入するヒータ通路導入部が設けられており、
上記導入口には、この導入口から導入された冷却水を上記温度感知可動部に向けて案内する案内部が設けられ、当該案内部は、前記導入口の周縁から前記温度感知可動部側に突出して形成されてなることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項2】
内燃機関の冷却水が流通するバルブハウジング内に組み込まれ、冷却水の温度変化により移動する温度感知可動部を有し、この温度感知可動部の移動に伴って、上記バルブハウジング内に形成した弁座に対して弁体を開閉動作させることにより内燃機関に導入される冷却水の温度を制御するようにしたサーモスタット装置において、
上記温度感知可動部の移動方向と略直交する上記バルブハウジングの側方位置には、上記内燃機関により加熱されて冷却部をバイパスした冷却水とヒータコアに供給された冷却水とが混合されたバイパス通路からの冷却水を導入する導入口が設けられており、
上記導入口には、この導入口から導入された冷却水を上記温度感知可動部に向けて案内する案内部が設けられ、当該案内部は、前記導入口から前記温度感知可動部側に突出して形成されてなることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のサーモスタット装置において、
上記バルブハウジングは、金型内にキャビティを形成する複数の可動中子を用いた鋳造により成形され、
上記案内部は、上記導入口の周囲から上記可動中子の引き抜き方向後端が位置する上記バルブハウジングの型割り線に沿って形成されていることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項4】
請求項3に記載のサーモスタット装置において、
上記各可動中子のうちの上記金型内から最後に引き抜かれる可動中子は、上記金型内から先に後退方向へ引き抜かれた可動中子により空いた空きスペース側へ移動させてから後退方向へ引き抜かれており、
上記案内部は、上記金型内から最後に引き抜かれる可動中子の上記空きスペース側への移動方向に向けて上記導入口の周囲より突出していることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項5】
請求項1?請求項4のいずれか1つに記載のサーモスタット装置において、
上記温度感知可動部と上記案内部との間には、上記案内部により案内された冷却水を上記温度感知可動部のより近くまで案内する近接案内部が設けられていることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項6】
請求項1?請求項5のいずれか1つに記載のサーモスタット装置において、
上記案内部は、上記導入口から導入された冷却水をその導入口周縁のうちの上記弁体の開閉動作方向と略直交する両側方縁側から区画しつつ上記温度感知可動部に向けて案内する側方案内片をそれぞれ備えていることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項7】
請求項1?請求項6のいずれか1つに記載のサーモスタット装置において、
上記案内部は、上記導入口から導入された冷却水をその導入口周縁のうちの上記弁体の開弁方向縁側から区画しつつ上記温度感知可動部に向けて案内する開弁側案内片を備えていることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項8】
請求項7に記載のサーモスタット装置において、
上記導入口の開弁方向縁には、上記弁体を閉弁方向に付勢する付勢手段を支持するための支持部材が配置され、上記導入口の開弁方向縁と上記支持部材とが互いに略面一状に連続しており、
上記開弁側案内片は、上記支持部材に設けられていることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のサーモスタット装置において、
上記開弁側案内片は、上記各側方案内片同士の間に亘って配されていることを特徴とするサーモスタット装置。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲

「【請求項1】
内燃機関の冷却水が流通するバルブハウジング内に組み込まれ、冷却水の温度変化により移動する温度感知可動部を有し、この温度感知可動部の移動に伴って、上記バルブハウジング内に形成した弁座に対して弁体を開閉動作させることにより内燃機関に導入される冷却水の温度を制御するようにしたサーモスタット装置において、
上記温度感知可動部の移動方向と略直交する上記バルブハウジングの側方位置には、上記内燃機関により加熱されて冷却部をバイパスしたバイパス通路からの冷却水を導入する導入口が設けられているとともに、上記バルブハウジングにおける上記温度感知可動部よりも上記弁体の開弁方向側端には、ヒータコアに供給されたヒータ通路からの冷却水を導入するヒータ通路導入部が設けられており、
上記導入口には、この導入口から導入された冷却水を上記温度感知可動部に向けて案内する案内部が設けられ、当該案内部は、前記導入口の周縁から前記温度感知可動部側への方向に対して平行に突出された板状の形状に突出して形成されてなることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項2】
内燃機関の冷却水が流通するバルブハウジング内に組み込まれ、冷却水の温度変化により移動する温度感知可動部を有し、この温度感知可動部の移動に伴って、上記バルブハウジング内に形成した弁座に対して弁体を開閉動作させることにより内燃機関に導入される冷却水の温度を制御するようにしたサーモスタット装置において、
上記温度感知可動部の移動方向と略直交する上記バルブハウジングの側方位置には、上記内燃機関により加熱されて冷却部をバイパスした冷却水とヒータコアに供給された冷却水とが混合されたバイパス通路からの冷却水を導入する導入口が設けられており、
上記導入口には、この導入口から導入された冷却水を上記温度感知可動部に向けて案内する案内部が設けられ、当該案内部は、前記導入口から前記温度感知可動部側への方向に対して平行に突出された板状の形状に突出して形成されてなることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のサーモスタット装置において、
上記バルブハウジングは、金型内にキャビティを形成する複数の可動中子を用いた鋳造により成形され、
上記案内部は、上記導入口の周囲から上記可動中子の引き抜き方向後端が位置する上記バルブハウジングの型割り線に沿って形成されていることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項4】
請求項3に記載のサーモスタット装置において、
上記各可動中子のうちの上記金型内から最後に引き抜かれる可動中子は、上記金型内から先に後退方向へ引き抜かれた可動中子により空いた空きスペース側へ移動させてから後退方向へ引き抜かれており、
上記案内部は、上記金型内から最後に引き抜かれる可動中子の上記空きスペース側への移動方向に向けて上記導入口の周囲より突出していることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項5】
請求項1?請求項4のいずれか1つに記載のサーモスタット装置において、
上記温度感知可動部と上記案内部との間には、上記案内部により案内された冷却水を上記温度感知可動部のより近くまで案内する近接案内部が設けられていることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項6】
請求項1?請求項5のいずれか1つに記載のサーモスタット装置において、
上記案内部は、上記導入口から導入された冷却水をその導入口周縁のうちの上記弁体の開閉動作方向と略直交する両側方縁側から区画しつつ上記温度感知可動部に向けて案内する側方案内片をそれぞれ備えていることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項7】
請求項1?請求項6のいずれか1つに記載のサーモスタット装置において、
上記案内部は、上記導入口から導入された冷却水をその導入口周縁のうちの上記弁体の開弁方向縁側から区画しつつ上記温度感知可動部に向けて案内する開弁側案内片を備えていることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項8】
請求項7に記載のサーモスタット装置において、
上記導入口の開弁方向縁には、上記弁体を閉弁方向に付勢する付勢手段を支持するための支持部材が配置され、上記導入口の開弁方向縁と上記支持部材とが互いに略面一状に連続しており、
上記開弁側案内片は、上記支持部材に設けられていることを特徴とするサーモスタット装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のサーモスタット装置において、
上記開弁側案内片は、上記各側方案内片同士の間に亘って配されていることを特徴とするサーモスタット装置。」
(なお、下線は補正箇所を示す。)

[2]本件補正の目的

本件補正は、請求項2に関しては、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明の発明特定事項である「導入口から温度感知可動部側に突出して形成されてなる」「案内部」を「(導入口から温度感知可動部側)への方向に対して平行に突出された板状の形状(に突出して形成されてなる)」とすることを含むものであるから、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明特定事項に限定を加えたものといえ、特許請求の範囲の請求項2についての本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物に記載された発明及び技術

(1)刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-263587号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「【請求項1】
冷媒によって車外への放熱を行う車両冷却装置において、
ラジエータへの冷媒流量と前記ラジエータを迂回して冷媒が流れる各流路のうち少なくとも一つの流路への冷媒流量との流量配分をバルブ開度に応じて制御するメインバルブと、冷媒の温度に応じてバルブ開度を変化させるサーモエレメントとを有し、
前記メインバルブを介し、冷媒を循環させるウォータポンプの入口と前記ラジエータ下流のラジエータ流路とが前記メインバルブの作動方向に沿って対向配置されるとともに、
前記サーモエレメントの感温部が、前記メインバルブに対し前記ウォータポンプの入口側に配置されることを特徴とする車両冷却装置。
【請求項2】
前記メインバルブの下流側のメインバルブ後流室を流れる冷媒の一部を、前記感温部の外周面に導流する第1導流機構が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両冷却装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】)

b)「【請求項5】
前記サーモエレメントを内部に有するハウジングに、前記ラジエータを迂回して冷媒が流れる流路が複数接続され、それら流路のうち少なくとも一つが前記メインバルブ後流室に連通されていることを特徴とする請求項2?請求項4のうちいずれか一項に記載の車両冷却装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項5】)

c)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両冷却装置に係り、詳しくは、ラジエータへの流路及びラジエータを迂回して冷媒が流れる各流路に冷媒流量を分配するメインバルブの構成と、ウォータポンプの入口の構成とに関するものである。」(段落【0001】)

d)「【0011】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記メインバルブの下流側のメインバルブ後流室を流れる冷媒の一部を、前記感温部の外周面に導流する第1導流機構が設けられていることを要旨とする。この発明においては、メインバルブ後流室を流れる冷媒の一部が第1導流機構によって感温部の外周面に導流される。よって、サーモエレメントは冷媒の温度変化を確実に検出するため、車両冷却装置によって冷媒の水温を制御することができる。」(段落【0011】)

e)「【0014】
請求項5に記載の発明では、請求項2?請求項4のうちいずれか一項に記載の発明において、前記メインバルブ及び前記サーモエレメントを内部に有するハウジングに、前記ラジエータを迂回して冷媒が流れる流路が複数接続され、それら流路のうち少なくとも一つが前記メインバルブ後流室に連通されていることを要旨とする。この発明においては、ラジエータを迂回して冷媒が流れる各流路のうち少なくとも一つの流路からの冷媒が感温部の外周面に導流され易くなるため、サーモエレメントによって冷媒の温度変化をより精密に検出することができる。」(段落【0014】)

f)「【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1?図4に従って説明する。
図1に示すように、車両冷却装置としてのエンジン冷却装置1は、ラジエータ2、サーモスタット3、エンジン4に駆動される機械駆動式のウォータポンプ(W/P)5及び車室内の暖房を行うヒータ6を備えている。ラジエータ2には、図示しない冷却ファン、ラジエータキャップ7及びリザーブタンク8が設けられている。冷却ファンは、ラジエータ2への送風により、ラジエータ2内の冷媒としての冷却水を冷却して車外への放熱を行うためのものである。ラジエータキャップ7は、エンジン冷却装置1内を流れる冷却水の圧力を一定に保持するためのものである。リザーブタンク8は、水温変化によって冷却水の体積が大きくなった場合に、冷却水の一部を貯蔵するためのものである。
【0019】
ラジエータ2は、ラジエータ冷却水導入口9及びラジエータ冷却水導出口10を備えている。ラジエータ冷却水導入口9は、接続流路11を介してエンジン4に設けられたエンジン冷却水導出口12に接続されている。ラジエータ冷却水導出口10は、ラジエータ流路としての第1流路13を介してサーモスタット3に接続されている。第1流路13にはラジエータ冷却水導出口10側からの冷却水が流れるようになっている。サーモスタット3は、ウォータポンプ5を介してエンジン冷却水導入口14に接続されている。
【0020】
サーモスタット3は、接続流路11から分岐した流路としての第2流路15及び接続流路11を介してエンジン4のエンジン冷却水導出口12に接続されている。また、サーモスタット3は、接続流路11から分岐した流路としてのヒータ流路17及び接続流路11を介してエンジン冷却水導出口12に接続され、ヒータ流路17には前記ヒータ6が介装されている。第2流路15及びヒータ流路17にはエンジン冷却水導出口12側からの冷却水が流れるようになっている。
【0021】
前記ウォータポンプ5は、サーモスタット3の下流側とエンジン4のエンジン冷却水導入口14との間に配置されている。ウォータポンプ5は、エンジン冷却装置1内の冷却水を循環させるための装置となっている。従って、エンジン4が稼働しているとき、ヒータ6には常時冷却水が流れ、冷却水がヒータ6を通過するときに、熱交換によって車室内の暖房が行われる。
【0022】
また、サーモスタット3は、エンジン冷却水の温度に応じて第1流路13、第2流路15及びヒータ流路17の流量配分を制御する。本実施形態において、エンジン冷却装置1はエンジン入口水温感温して冷却水を分配制御するように構成されている。
【0023】
図2に示すように、サーモスタット3はハウジング18及びバルブ駆動部19を備えている。ハウジング18は、エンジン4によって高温化した冷却水の温度よりも融点が高い耐熱プラスチック等の合成樹脂によって形成されている。なお、ハウジング18は金属によって形成されていてもよい。
【0024】
ハウジング18内には、前記第1流路13に連通するメイン流路22が形成されている。メイン流路22は、ラジエータ2のラジエータ冷却水導出口10側から導入される冷却水を、後記するメインバルブ29の下流側のメインバルブ後流室23に導入するためのものである。また、ハウジング18には、前記第2流路15及び前記ヒータ流路17が接続されている。第2流路15及びヒータ流路17は、エンジン4のエンジン冷却水導出口12側から導入される冷却水をメインバルブ後流室23に導入するためのものである。
【0025】
第2流路15及びヒータ流路17は、メインバルブ後流室23の合流部23aにおいてメイン流路22と合流するようになっている。つまり、合流部23aには第2流路15及びヒータ流路17の開口端が位置している。従って、第2流路15、ヒータ流路17及びメイン流路22からの冷却水が合流部23aにおいて混合される。合流部23aに導入された冷却水は、ウォータポンプ5を介してエンジン4側へ導出されるようになっている。なお、メインバルブ後流室23は、ハウジング18の内周面と後記するサーモエレメント24の外周部とによって囲まれる部分であり、合流部23aは、メインバルブ後流室23の周方向における一部分である。
【0026】
ハウジング18の下流側開口端には、ウォータポンプ5の入口としての吸込流路5aがガスケット5bを介して接続されている。吸込流路5aはメインバルブ後流室23に連通している。吸込流路5aは、ハウジング18においてピストン26の出没方向、即ち後記するメインバルブ29の作動方向に沿ってメイン流路22と対向配置されている。吸込流路5aは、ハウジング18においてメイン流路22と同軸上に配置されている。
【0027】
前記バルブ駆動部19を構成するサーモエレメント24は、略円筒状をなす感温部としての水温感温部25を備えている。水温感温部25は、メインバルブ29に対し吸込流路5a側、即ち、メインバルブ後流室23内に配置されている。水温感温部25は、ハウジング18に係止された後記するフレーム33によって摺動可能に支持されている。水温感温部25内には図示しないワックスが収容されている。ワックスは、水温感温部25に接触
する冷却水の温度に応じて膨張または収縮するようになっている。
【0028】
サーモエレメント24には、棒状をなすピストン26が円筒状をなすガイド部27から出没可能に設けられている。ガイド部27の先端部及びピストン26はメイン流路22内に配置されている。ピストン26の先端部は、ハウジング18の内側面に形成された嵌合凹部18a内に嵌合されている。ピストン26は、ワックスの膨張によってガイド部27から突出し、ワックスの収縮によってガイド部27内に没入するようになっている。よって、ガイド部27は、ピストン26の突出時にウォータポンプ5の吸込流路5a側に移動し、ピストン26の没入時にメイン流路22側に移動するようになっている。
【0029】
ガイド部27の基端には、ピストン26の出没方向から見て円形状をなすメインバルブ29が設けられている。メインバルブ29は、メインバルブ後流室23とメイン流路22との連通部分に設けられており、ガイド部27に対して一体的に固定されている。メインバルブ29は、閉状態においてメイン流路22を遮断し、図4に示す開状態においてメイン流路22からの冷却水をメインバルブ後流室23に導出させるようになっている。」(段落【0018】ないし【0029】)

g)「【0033】
図3に示すように、フレーム33の外周部分には、第1導流機構としての一対の導流部39が一体形成されている。各導流部39は、フレーム33において前記各係止片34と捨て巻き部収容部36との間に配置されている。各導流部39は各係止片34よりも幅広に形成されている。図2に示すように、各導流部39は、略円弧状に形成されており、下流側に向かって凸状をなしている。一方の導流部39は、ハウジング18の周方向において合流部23aの下流側に配置されている。導流部39は、合流部23aを流れる冷却水の一部を導流部39に沿って導流させることにより、捨て巻き部収容部36の近傍に導流するようになっている。そして、捨て巻き部収容部36近傍に導流された冷却水は、フレーム33の内周部分に沿って上流側に導流され、水温感温部25の外周面25aに導流されるようになっている。その後、外周面25aに導流された冷却水は、メインバルブ29の前記導流部32によってメインバルブ29とハウジング18との隙間及び合流部23aを流れる冷却水に合流する。従って、フレーム33及び導流部32によって導流される冷却水は、ハウジング18の内側面、係止片34、導流部39、水温感温部25の外周面25a及び導流部32の順に流れるタンブル流れとなる。なお、導流部39に導流されない冷却水は、ウォータポンプ5の吸込流路5aに導流される。」(段落【0033】)

h)「【0035】
そして、エンジン冷却水温が上昇し、水温感温部25の外周面25aに導流された冷却水が冷却水制御温度近傍になると、水温感温部25内のワックスが膨張することにより、図4に示すように、サーモエレメント24のピストン26が温度に応じて突出し、メインバルブ29が開状態となる。このとき、メイン流路22からの冷却水が、リターンスプリング37の外周部においてピストン26の出没方向に沿って流れ、合流部23aにおいて第2流路15及びヒータ流路17からの冷却水と混合される。そして、混合された冷却水の一部が、導流部39によりフレーム33を介して水温感温部25の外周面25aに導流され、水温感温部25によって感温される。このピストン26の突出量によって、メインバルブ29のバルブ開度が大きくなるのに伴い、第1流路13及びラジエータ2を通過する冷却水の流量は徐々に増加する。よって、エンジン4を通過した冷却水は、第2流路15及びヒータ流路17に加え、第1流路13を循環する。」(段落【0035】)

i)「【0042】
(3)第2流路15及びヒータ流路17は合流部23aに連通されている。そのため、第2流路15及びヒータ流路17からの冷却水がメインバルブ後流室23に流れ易くなる。よって、混合された冷却水が導流部39から水温感温部25の外周面25aに導流され易くなるため、サーモエレメント24によって冷却水の温度変化をより精密に検出することができる。」(段落【0042】)

j)「【0052】
なお、前記実施形態は以下のように変更してもよい。
・フレーム33の一部に導流部39を形成する代わりに、ハウジング18の内側面に、冷却水を水温感温部25の外周面25aに導流する導流壁を形成してもよい。また、フレーム33を、水温感温部25を支持する支持部材とリターンスプリング37を支持するスプリング支持部材とに分割し、支持部材またはスプリング支持部材に導流部39を形成してもよい。さらに、導流部39が形成されるフレーム33を水温感温部25に一体化させてもよい。」(段落【0052】)

(2)上記(1)a)ないしj)及び図面の記載から分かること

イ)上記(1)d)及びg)の記載によれば、メインバルブ後流室を流れる冷却水の一部が第1導流機構としての導流部39によって水温感温部25の外周面25aに導流されることにより、冷却水の温度変化を確実に検出するものであることが分かる。

ロ)上記(1)f)及びh)並びに図2及び4の記載によれば、水温感温部25は、図2において、上下方向に移動するものであることから、水温感温部25は可動であることが分かる。

ハ)上記(1)f)の記載によれば、メインバルブ29は、閉状態においてメイン流路22を遮断し、開状態においてメイン流路22からの冷却水をメインバルブ後流室23に導出させるようになっていることから、メインバルブ29は、開閉動作するものであることが分かる。

ニ)上記(1)f)の記載によれば、ラジエータ冷却水導入口9は、接続流路11を介してエンジン4に設けられたエンジン冷却水導出口12に接続されており、また、サーモスタット3は、接続流路11から分岐した流路としての第2流路15を介してエンジン4のエンジン冷却水導出口12に接続されていることから、第2流路15は、ラジエータ2を迂回した流路であることが分かる。

ホ)上記(1)f)及びh)並びに図2及び4の記載によれば、水温感温部25の移動方向と略直交するハウジング18の側方位置に、第2流路15及びヒータ流路17の開口端が設けられていることが分かる。
また、上記(1)f)及びh)並びに図2及び4の記載によれば、第2流路15及びヒータ流路17の開口端の上流側部分(図2において、開口端の左側部分)で、第2流路15及びヒータ流路17からの冷却水が混合されており、少なくとも第2流路15開口端は、当該混合された冷却水をハウジング18のメインバルブ後流室23に導入する導入口となっているといえる。

ヘ)上記(1)f)及びh)並びに図2及び4の記載によれば、メインバルブ29と接離するハウジング18の内壁面は、弁座として機能しているといえる。

ト)上記(1)j)の記載によれば、フレーム33の一部に導流部39を形成する代わりに、ハウジング18の内側面に、冷却水を水温感温部25の外周面25aに導流する導流壁を形成してもよいことが分かる。

(3)刊行物1に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物1に記載された発明>

「エンジン4の冷却水が流通するハウジング18内に組み込まれ、冷却水の温度変化により移動する水温感温部25を有し、この水温感温部25の移動に伴って、上記ハウジング18内に形成した弁座に対してメインバルブ29を開閉動作させることによりエンジン4に導入される冷却水の温度を制御するようにしたサーモスタット3において、
上記水温感温部25の移動方向と略直交する上記ハウジング18の側方位置には、上記エンジンにより加熱されてラジエータ2を迂回した冷却水とヒータ6に供給された冷却水とが混合された第2流路15からの冷却水を導入する導入口が設けられており、
ハウジング18の内側面には、導入口から導入された冷却水を水温感温部25に向けて導流する導流壁が形成されてなるサーモスタット3。」

(4)刊行物2の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2007/108273号(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「[0001]
本発明は、主に自動車のエンジンを冷却する冷却液温度の自動制御を行うサーモスタット装置に関する。」(段落[0001])

b)「[0020]
以上の構成からなる本発明は、以下の効果を奏する。
[0021]
(1)高温冷却液ポートに連絡されて、該高温冷却液ポートからの高温冷却液をその温度や流速を大きく損なうことなく確実に温度感知可動部の周囲(底面・側面)に接触させ伝熱させるようにする。前記温度感知可動部の全部または一部を覆い該温度感知可動部に近接する部位にその開口部位を位置させてなる高温冷却液整流部が設けられ、開口部位より手前では高温冷却液整流部の内側で温度感知可動部との隙間部分が高温冷却液の循環通路を形成し、開口部位の先では温度感知可動部の周囲を高温冷却液が取り巻き支配する状態になっている。以上により前記温度感知可動部が配置される域を高温冷却液が支配する領域とする高温冷却液整流構造を形成するので次に述べるような効果を奏する。
[0022]
本発明では、殆ど高温冷却液の温度のみによって温度感知可動部の可動を制御することができる。高温冷却液の温度感知可動部への温度支配率を十分に高め該高温冷却液の温度の影響を受けて該温度感知可動部の可動状態を制御できる状態を実現することができる。」(段落[0020]ないし[0022])

c)「[0057]
温度感知可動部39は、カップと、このカップ内に密封された熱膨張材と、ピストンシャフト34と熱膨張材との間に設けられる図示しないスリーブと、キャップやシール等により構成されている。この温度感知可動部39を構成する熱膨張材は、高温冷却液Bの温度を感知し、これに応じて体積が増減することにより、ピストンシャフト34に対して上下に駆動させることができる。なお、ここでいう上下における上方とは、低温冷却液ポート31側に相当し、下方とは、高温冷却液ポート33側に相当する。以下の説明においても同様とする。
[0058]
高温冷却液整流部42は、高温冷却液ポート33から低温冷却液ポート31に向けて上方に突出された形状とされている。この高温冷却液整流部42の材質は、例えば樹脂製であるが、これに限定されるものではない。高温冷却液整流部42の上端は、図1(a)に示すように、温度感知可動部39の下端よりも上方に位置する。その結果、温度感知可動部39の下端は、この筒形としての高温冷却液整流部42内に入り込む形となる。
[0059]
なお、この高温冷却液整流部42の内径は、温度感知可動部39の外径よりも広めに設定されている。その結果、この高温冷却液整流部42を構成する筒内に、温度感知可動部39の先端を挿入する際には、この高温冷却液整流部42の内壁と、温度感知可動部39の外壁とが互いに空間的に余裕を持った状態で挿入される、いわゆる遊挿可能な状態とされることになる。」(段落[0057]ないし[0059])

d)「[0062]
次に、上述の如き構成からなるサーモスタット装置3の動作について説明をする。エンジン51により熱せられた高温の高温冷却液Bが高温冷却液ポート33へと供給されてきた場合に、当該高温冷却液Bは支持案内部44を介して高温冷却液整流部42へと送られる。この高温冷却液整流部42は、送られてきた高温冷却液Bを温度感知可動部39の周囲へ整流させる。即ち、この筒形で構成されている高温冷却液ポート33の内壁に沿って高温冷却液Bを導くことができる。その結果、この高温冷却液Bは、図1中の矢印の方向に沿って整流されることになる。ちなみに、この高温冷却液整流部42内には、温度感知可動部39が予め遊挿された状態で静止していることから、この温度感知可動部39と、高温冷却液整流部42との間に所定の隙間が予め形成されていることになる。高温冷却液Bは、この温度感知可動部39と高温冷却液整流部42との間に形成された隙間を通って混合室32へと流出していくことになる。これにより、高温冷却液Bの温度感知可動部39周囲への整流を実現することが可能となる。また、これに伴って温度感知可動部39は、高温冷却液Bの温度を高効率に感知することができる。なお、この温度感知可動部39には、高温冷却液B以外の液体も接触する可能性はあるが、本発明では、この温度感知可動部39に対して主に高温冷却液Bを中心に接触させることができ、当該高温冷却液Bの液温に応じてこの温度感知可動部39を可動させることが可能となる。
[0063]
また開口46から混合室32へと流出した高温冷却液Bも、最初は温度感知可動部39の周囲を取り巻くようにして流れることになるため、結果として温度感知可動部39周囲に整流されることになる。」(段落[0062]及び[0063])

(5)上記(4)a)ないしd)及び図面の記載から分かること

イ)上記(4)c)の記載によれば、「高温冷却液整流部42は、高温冷却液ポート33から低温冷却液ポート31に向けて上方に突出された形状とされて」おり、上記(4)b)の記載によれば、「温度感知可動部の全部または一部を覆い該温度感知可動部に近接する部位にその開口部位を位置させてなる高温冷却液整流部が設けられ」ているのであるから、図1(a)の記載を併せて参酌すれば、「高温冷却液ポート33」には、「高温冷却液ポート33」から「温度感知可動部39」に向けて、「高温冷却液整流部42」が突出して設けられていることが分かる。

ロ)上記(4)c)の記載によれば、「高温冷却液整流部42の内径は、温度感知可動部39の外径よりも広めに設定されて」いるのであるから、図1(a)の記載を併せて参酌すれば、「温度感知可動部39」は、円筒形状であるものといえる。

ハ)上記(1)d)の記載によれば、「高温冷却液整流部42は、送られてきた高温冷却液Bを温度感知可動部39の周囲へ整流させる」機能を有し、これにより、「温度感知可動部39は、高温冷却液Bの温度を高効率に感知することができる」との効果を奏するものであることが分かる。

ニ)上記(1)d)の記載によれば、「高温冷却液整流部42は、送られてきた高温冷却液Bを温度感知可動部39の周囲へ整流させ」、即ち、「この筒形で構成されている高温冷却液ポート33の内壁に沿って高温冷却液Bを導く」のであり、図1(a)の記載を併せて参酌すれば、「高温冷却液整流部42」は、「高温冷却液B」を「温度感知可動部39」に向けて案内しているといえる。

(6)刊行物2に記載された技術

したがって、上記(4)及び(5)を総合すると、刊行物2には次の技術(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物2に記載された技術>
「高温冷却液ポート33には、この高温冷却液ポート33から送られてきた高温冷却液Bを温度感知可動部39に向けて案内する高温冷却液整流部42が設けられ、当該高温冷却液整流部42は、高温冷却液ポート33から、円筒形状の温度感知可動部39に向けて、筒形の形状に突出して設ける技術。」

2.対比・判断

本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明における「エンジン4」、「ハウジング18」、「水温感温部25」、「メインバルブ29」、「サーモスタット3」、「ラジエータ2」、「第2流路15」及び「導流壁」は、その構造及び機能からみて、それぞれ、本件補正発明における「内燃機関」、「バルブハウジング」、「温度感知可動部」、「弁体」、「サーモスタット」、「冷却部」、「バイパス通路」及び「案内部」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明における「導流」及び「迂回した」は、その技術的意義からみて、本件補正発明における「案内」及び「バイパスした」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明における「ヒータ6」は、「ヒータ部」という限りにおいて、本件補正発明における「ヒータコア」に相当する。

してみると、本件補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「内燃機関の冷却水が流通するバルブハウジング内に組み込まれ、冷却水の温度変化により移動する温度感知可動部を有し、この温度感知可動部の移動に伴って、上記バルブハウジング内に形成した弁座に対して弁体を開閉動作させることにより内燃機関に導入される冷却水の温度を制御するようにしたサーモスタット装置において、
上記温度感知可動部の移動方向と略直交する上記バルブハウジングの側方位置には、上記内燃機関により加熱されて冷却部をバイパスした冷却水とヒータ部に供給された冷却水とが混合されたバイパス通路からの冷却水を導入する導入口が設けられており、
この導入口から導入された冷却水を温度感知可動部に向けて案内する案内部が形成されてなるサーモスタット装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>

導入口から導入された冷却液を温度感知可動部に向けて案内する「案内部」が、本件補正発明においては、導入口に形成されており、かつ、温度感知可動部側への方向に対して平行に突出された板状の形状であるのに対して、刊行物に記載された発明においては、ハウジング18(本件補正発明における「バルブハウジング」に相当。)の内側面に設けられているものの、導入口に形成されているか否か不明であり、また、どのような形状であるのか不明である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>

「ヒータ部」について、本件補正発明においては、「ヒータコア」であるのに対して、刊行物1に記載された発明においては、「ヒータ」である点(以下、「相違点2」という。)。

上記相違点1について検討する。

本件補正発明と刊行物2に記載された技術とを対比すると、刊行物2に記載された技術における「高温冷却液ポート33」、「温度感知可動部39」及び「高温冷却液整流部42」は、その構造及び機能からみて、それぞれ、本件補正発明における「導入口」、「温度感知可動部」及び「案内部」に相当する。
また、刊行物2に記載された技術における「高温冷却液B」及び「送られてきた」は、技術的意義からみて、本件補正発明における「冷却液」及び「導入された」に相当する。

そうすると、刊行物2に記載された技術は、本件補正発明の用語で書き換えると、以下のようになる。
「導入口には、この導入口から導入された冷却液を温度感知可動部に向けて案内する案内部が設けられ、当該案内部は、導入口から、円筒形状の温度感知可動部に向けて、筒形の形状に突出して設ける技術。」

ここで、刊行物2に記載された技術は、「温度感知可動部39」が、高温冷却液Bの温度を高効率に感知することができるとの効果を奏する(上記1.(5)ハ)の記載参照。)ために、「円筒」形状の「温度感知可動部39」に対して、「円筒」形状の「高温冷却液整流部42」を設けるのであるから、刊行物2に記載された技術から、次の技術思想(以下、「刊行物2に記載された技術思想」という。)を導き出すことができる。
「導入口に、導入口から温度感知可動部側に向けて、温度感知可動部の外形形状に合わせた案内部を設ける技術。」

一方、刊行物1に記載された発明における「水温感温部25(本件補正発明における「温度感知可動部」に相当。)」の外形形状は、導入口からみて(すなわち、【図2】の左側からの側面視で)互いに平行な辺をもつ四角形状であることから、刊行物1に記載された発明における「導流壁(本件補正発明における「案内部」に相当。)」について、刊行物2に記載された技術思想を適用すれば、その形状について角筒形状のものが得られ、また、「導流壁」は冷却水を「水温感温部25」に向けて導流するのであるから、得られた角筒形状の「導流壁」は、「水温感温部25」側への方向に対して平行な板状部分を含むものとなり、かつ、導入口に設けられるものとなる。
そして、刊行物1に記載された発明における「導流壁」は、「水温感温部25の外周面25aに導流されることにより、冷却水の温度変化を確実に検出するもの」であって、刊行物2に記載された技術思想における「案内部」と同様の機能を有するものであり、しかも、刊行物1に記載された発明も、刊行物2に記載された技術思想も、ともに、車両用冷却装置に用いられるサーモスタット装置の技術分野に属するものであるから、刊行物1に記載された発明の備える「案内部」について、刊行物2に記載された技術思想を適用して、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば、容易に想到することができたことである。

上記相違点2について検討する。

上記1.(1)f)の記載によれば、「エンジン4が稼働しているとき、ヒータ6には常時冷却水が流れ、冷却水がヒータ6を通過するときに、熱交換によって車室内の暖房が行われる。」のであるから、刊行物1に記載された発明における「ヒータ」は、車室内の暖房用の熱交換器として機能していることが明らかである。
一方、車両の暖房用の熱交換器において、冷却水が供給される「ヒータ部」として、「ヒータコア」を用いることは、本件出願の優先日前周知の技術(例えば、特開平9-195768号公報[特に、段落【0018】]及び特開平11-107755号公報[特に、段落【0018】]等参照。(以下、「周知技術」という。)である。
よって、刊行物1に記載された発明の備える「ヒータ部」について、上記周知技術を適用して、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば、容易に想到することができたことである。

そして、本件補正発明を全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術思想及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

3.まとめ

したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術思想及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

[4]むすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明

平成21年11月18日付けの明細書及び特許請求の範囲についての手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし9に係る発明は、平成21年7月17日付けの手続補正により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項2に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項2に記載されたとおりのものと認める。

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願のの優先日前に頒布された刊行物1及び2には、上記第2[理由][3]1.(1)ないし(6)のとおりのものが記載されている。

3.対比・判断

本件発明は、上記第2[理由][3]で検討した本件補正発明の発明特定事項のうち、「(導入口から温度感知可動部側)への方向に対して平行に突出された板状の形状(に突出して形成されてなる)」という発明特定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術思想及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術思想及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本件発明を全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術思想及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術思想及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-08 
結審通知日 2010-09-14 
審決日 2010-09-28 
出願番号 特願2008-130750(P2008-130750)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (F01P)
P 1 8・ 121- Z (F01P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 粟倉 裕二  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 鈴木 貴雄
中川 隆司
発明の名称 サーモスタット装置  
代理人 特許業務法人あーく特許事務所  

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