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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B09B
管理番号 1227685
審判番号 不服2007-3652  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-07 
確定日 2010-11-24 
事件の表示 特願2002-352899「廃棄物埋立地の遮水基盤構造」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 2日出願公開、特開2004-181394〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年12月4日の出願であって、平成18年7月4日付けで拒絶理由が起案され、同年9月11日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成19年1月9日付けで拒絶査定が起案され、同年2月7日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年3月8日付けで明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成21年1月20日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され、同年3月25日付けで回答書が意見書として提出されたものである。

第2 平成19年3月8日付け手続補正について
平成19年3月8日付け手続補正は、補正前の請求項1における「該廃棄物投入空間底部の透水性地盤の上に造成された遮水基盤構造であって、
前記透水性地盤の表面に、含水比調整した粘土懸濁液に粘土鉱物及びゲル化剤を加えてゲル状に改質したものからなり、」を「該廃棄物投入空間底部の透水性地盤の表面に、含水比調整した粘土懸濁液に粘土鉱物、ゲル化剤を加えてゲル状に改質され、」と補正するもので、拒絶査定における指摘に対応するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号の「明りょうでない記載の釈明」に該当するので、補正要件を充足する。

第3 本願発明
本願の特許請求の範囲に記載された請求項1?4に係る発明は、平成19年3月8日付け手続補正によって補正された明細書および図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項を発明特定事項とするところ、その請求項1は次のとおりのものである。
「【請求項1】
水底面上に構築した護岸構造物で囲むことにより構成される内部空間を廃棄物投入空間とし、該廃棄物投入空間底部の透水性地盤の表面に、含水比調整した粘土懸濁液に粘土鉱物、ゲル化剤を加えてゲル状に改質され、敷設時に流動性を有するとともに敷設後に変形追従性を有する遮水材を、所望の遮水性能が得られる厚さの層状に敷設した変形追従性遮水材層を備え、
該変形追従性遮水材層の表面をジオテキスタイルからなる変形追従性遮水材層保護用のシート状材をもって覆い、
該シート状材の上に、シート状材を押さえ、かつ該シート状材及び前記遮水材層を廃棄物等の埋立物から保護するための、砂、砂礫及び/又はスラグを層状に敷設することによって造成された被覆材層を設置してなる廃棄物埋立地の遮水基盤構造。」(以下、「本願発明」という。)

第4 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は、「この出願については、平成18年7月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものである。」であり、平成18年7月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記(引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1-6
・引用文献等 1-2
・・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2002-327428号公報
2.特開2002-336811号公報」である。

第5 引用刊行物の記載事項
(1)引用文献2(特開2002-336811号公報(公開日平成14年11月26日)、以下、「引用例1」という。):
(ア)「 含水比100?300%の海成粘土懸濁液に、粘土鉱物を加え、これに珪酸塩類、アルカリ金属塩類、アルカリ土類金属塩類から選ばれた少くとも1種を加えてゲル状物質に改質してなる変形追従型遮水材。」(【請求項2】)、
(イ)「本発明は、海面における管理型廃棄物最終処分場の遮水構造物建造時に用いる遮水材に関し、とくに、ポンプ圧送時には流動性を有し、水中打設時には材料分離が小さく、打設後はゲル化し、低透水性および変形追従性を有する遮水材に関する。」(段落【0001】)、
(ウ)「従来、海岸、海面に設ける管理型廃棄物最終処分場の遮水工は、図1および図2に示すように、その多くは、遮水シート等を護岸背面と底面に敷設する方法や、鋼矢板や鋼管矢板を用い、その継ぎ手部分に止水処理を施す方法であった。図1は、遮水シートを用いる方法の1例を示し、図1Aにおいて、1は護岸、2は2重遮水シート、3は押え材料、4は透水性地盤である。」(段落【0002】)、
(エ)「海成粘土を用いる遮水材には、次の3つの特性が要求される。
1)低透水性:廃棄物処分場に収容した廃棄物中の有害物質が遮水材を通過しないよう、遮水材料には透水係数と施工厚みに基準値が設けられている。一般に必要とされる透水係数は、10^(-5)(cm/sec)以下であり、施工厚みは、透水係数が10^(-5)cm/secの場合には5.0m以上である。
2)水中分離抵抗性:海面における廃棄物処分場の遮水工では、トレーミー管を用いる水中打設工事が考えられる。この場合、打設される遮水材に、適当な粘着性が無ければ、打設中に海水と混合して、海水中に遮水材が分散し、施工を効率良く行うことができず、周辺海域を汚染することになる。
3)変形追従性:施工された遮水材は長期間(数十年)にわたって、加えられた外力の大きさに応じて変形し、亀裂および破断を生じない特性が必要となる。この特性がなければ、上記1)、2)の特性を満していても、廃棄物処分場の遮水工に用いる遮水材としての機能は発揮されない。」(段落【0004】)、
(オ)「次に本発明の変形追従遮水材を用いた、海面における管理型廃棄物処分場の遮水工事の施工方法について述べるが、必ずしもこの方法に限定されない。施工は図3に示すように、次の工程によって行なわれる。
<1>(当審注:<1>は、○の中に1を表す。以下、同じ。)解泥
原料土である海成粘土に水又は海水を加えスラリー状に解きほぐす。このとき、海成粘土中に含まれる大きなレキ、ゴミを取り除く。
<2>調泥
スラリー状の海成粘土に、所定量の水又は海水を加え、雑物を除去し、目的とする含水比及び密度に調整する。
<3>混練
得られた調整泥をプラント内のミキサーに送り込み、ベントナイト、ゲル化剤、繊維状物質等を加え、練り混ぜ、遮水材を製造する。
<4>圧送
遮水材を、圧送ポンプを用いて、圧送管により打設場所まで搬送する。
<5>打設
トレーミー管を使用して、所定の位置に遮水材を打設する。」(段落【0019】)、
(カ)図1(B)には処分場5が護岸1に囲われて設けられていることが見て取れる。(【図1】)

第6 引用発明の認定
引用例1の記載事項(ア)に「含水比100?300%の海成粘土懸濁液に、粘土鉱物を加え、これに珪酸塩類、アルカリ金属塩類、アルカリ土類金属塩類から選ばれた少くとも1種を加えてゲル状物質に改質してなる変形追従型遮水材」が記載され、同(イ)に「本発明は、海面における管理型廃棄物最終処分場の遮水構造物建造時に用いる遮水材に関」すること及び「ポンプ圧送時には流動性を有し、・・・打設後はゲル化し、・・・変形追従性を有する遮水材に関する」ことが記載され、同(ウ)に「海面に設ける管理型廃棄物最終処分場の遮水工は、図1および図2に示すように、その多くは、遮水シート等を護岸背面と底面に敷設する」こと、「図1は、遮水シートを用いる方法の1例を示し、図1Aにおいて、1は護岸、2は2重遮水シート、3は押え材料、4は透水性地盤である」ことが記載され、同(オ)に「所定の位置に遮水材を打設する」ことが記載され、同(カ)に「処分場5が護岸1に囲われて設けられていること」が見て取れる。
これらの記載事項を本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、
「海面に設けられた護岸によって囲われた管理型廃棄物最終処分場の透水性地盤に、含水比100?300%の海成粘土懸濁液に、粘土鉱物を加え、これに珪酸塩類、アルカリ金属塩類、アルカリ土類金属塩類から選ばれた少くとも1種を加えてゲル状物質に改質してなり、ポンプ圧送時には流動性を有し、打設後はゲル化し、変形追従性を有する変形追従型遮水材を打設する遮水構造物」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

第7 対比・検討
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「管理型廃棄物最終処分場」は、本願発明の「廃棄物投入空間」に相当することは明らかであるから、引用発明の「海面に設けられた護岸によって囲われた管理型廃棄物最終処分場の透水性地盤」は、本願発明の「水底面上に構築した護岸構造物で囲むことにより構成される内部空間を廃棄物投入空間とし、該廃棄物投入空間底部の透水性地盤」ということができる。そして、本願発明の「含水比調整した粘土懸濁液」及び「ゲル化剤」に関して、願書に最初に添付した明細書(以下、「本願当初明細書」という。)には「粘土懸濁液の含水比が50?300%であり、・・・ゲル化剤が、珪酸塩類、アルカリ金属塩類、アルカリ土類金属塩類から選ばれた少なくとも1種である」(【請求項3】)とあるから、引用発明の「含水比100?300%の海成粘土懸濁液に、粘土鉱物を加え、これに珪酸塩類、アルカリ金属塩類、アルカリ土類金属塩類から選ばれた少くとも1種を加えてゲル状物質に改質してなり」は、本願発明の「含水比調整した粘土懸濁液に粘土鉱物、ゲル化剤を加えてゲル状に改質され」に相当することは明らかである。そして、引用発明の「ポンプ圧送時には流動性を有し、打設後はゲル化し、変形追従性を有する」に関しては、本願当初明細書には「この遮水材を、圧送ポンプ29を用いて、圧送管30により打設場所まで搬送し(圧送工程)、作業台船31からトレーミー管32を使用して、所定の位置に遮水材を打設する(打設工程)。」(段落【0047】)と記載されるので、本願発明の「敷設時に流動性を有するとともに敷設後に変形追従性を有する」に相当する。さらに、引用発明も遮水構造物に関する発明であり、記載事項(エ)にも「遮水材料には透水係数と施工厚みに基準値が設けられている」から、本願発明の「遮水材を、所望の遮水性能が得られる厚さの層状に敷設」することは、引用発明に記載されているに等しい事項である。そして、本願発明と引用発明は、ともに「遮水構造」に関する点で共通し、引用発明の「透水性地盤」は、本願発明の「基盤」にも相当するから、引用発明の「遮水構造物」は、本願発明の「遮水基盤構造」に相当するということができる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「水底面上に構築した護岸構造物で囲むことにより構成される内部空間を廃棄物投入空間とし、該廃棄物投入空間底部の透水性地盤の表面に、含水比調整した粘土懸濁液に粘土鉱物、ゲル化剤を加えてゲル状に改質され、敷設時に流動性を有するとともに敷設後に変形追従性を有する遮水材を、所望の遮水性能が得られる厚さの層状に敷設した変形追従性遮水材層を備えてなる廃棄物埋立地の遮水基盤構造。」で一致し、次の点で相違する。
(A)本願発明は、「変形追従性遮水材層の表面をジオテキスタイルからなる変形追従性遮水材層保護用のシート状材をもって覆い、
該シート状材の上に、シート状材を押さえ、かつ該シート状材及び前記遮水材層を廃棄物等の埋立物から保護するための、砂、砂礫及び/又はスラグを層状に敷設することによって造成された被覆材層を設置し」と特定するのに対して、引用発明では、係る特定事項を有するものでない点。

相違点(A)について、以下で検討する。
本願発明の「ジオテキスタイルからなる変形追従性遮水材層保護用のシート状材」と「被覆材層」の技術的意義については、本願当初明細書において「シート状材14には、主に盛土の補強土工法に使われるジオテキスタイルを用いている。このジオテキスタイルは、変形追従性遮水材層13の上に敷設したことで、変形追従性遮水材層13を保護すること及び廃棄物投入に対する補強効果が得られるようになっている。
また、被覆材層15は、砂、砂礫又はスラグ等の被覆材を、変形追従性遮水材層13及びシート状材14の保護、及びシート状材14の押さえとして機能するのに必要な厚さ(50cm以上)となるように層状に敷設することによって形成されている。」(段落【0041】?【0042】)と記載されるように、「変形追従性遮水材層の保護及び強度を増すこと」にあると認められる。そして、原査定の拒絶の理由において引用文献1として提示された特開2002-327428号公報には、「従来、一般廃棄物および産業廃棄物が投棄される廃棄物処分場1の例では、例えば、図7(a)、(b)に示すように、廃棄物埋立用凹陥地2の底面部の基盤21上に、順次、遮水土層22と、遮水シート23と、不織布24と、および保護土層25とが重ねられて複合遮水構造に施工されている。この廃棄物処分場1の遮水土層22は、例えば、施工現場の凹陥地2の掘削によって生じたいわゆる現地発生土と、粘土鉱物のベントナイトとを混合して製造した遮水土からなっている。また、遮水シート23は、合成ゴム製や合成樹脂製、またはアスファルトを不織布に全層含浸あるいは積層したシートで形成されている。更に、遮水シート23の上には、遮水シートが廃棄物9によって破損することを防止するため不織布24を敷設し、最後に最上部の層として、同じく遮水シート23が廃棄物9によって破損防止するために保護土層25とを設けて施工されている。」(段落【0002】)と記載されるように、従来から本願発明と共通する技術分野において、廃棄物処分場の遮水シートすなわち遮水層が廃棄物によって破損することを防止するため不織布を敷設し、最後に最上部の層として、保護土層を設けて施工されることが行われているから、「遮水層の保護に不織布を敷設し、更にその上に保護土層を設ける」ことは、当業者が任意に採用することができる周知技術にすぎないということができる。そして、この不織布は、「廃棄物埋立用凹陥地2の底面部の基盤21上に、順次、遮水土層22と、遮水シート23と、不織布24と、および保護土層25とが重ねられて複合遮水構造に施工されている」から、土木用途の繊維材料であって、本願発明における「ジオテキスタイル」に相当することは明らかであり(ジオテキスタイルが廃棄物処分場の遮水シートの補強に用いられる点については、拒絶査定の備考欄において周知例として挙げられた特開平11-190027号公報の段落【0016】等を参照されたい。)、保護土層は、本願発明の砂、砂礫を層状に敷設することによって造成された被覆材層に相当することも明らかである。さらに、廃棄物処分場における遮水材層の保護及び強度の向上は、有害物質の漏洩を防止するという目的から、一般的な技術課題であり、そのために、前記の周知の不織布からなるジオテキスタイルを遮水層の一態様である変形追従性遮水材層に用い、その上に保護土層を設けることは、当業者であれば容易に想到し得る周知技術の採用にすぎない。
したがって、本願発明は、引用発明に前記周知技術を付加したにすぎないものであり、それによって奏する効果も格別とすることはできないので、本願発明は、当業者であれば引用発明に基づいて容易に発明することができたものである。

第8 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に記載された発明は、本願出願前に頒布された引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願は、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-10 
結審通知日 2010-09-21 
審決日 2010-10-05 
出願番号 特願2002-352899(P2002-352899)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 中澤 登
吉川 潤
発明の名称 廃棄物埋立地の遮水基盤構造  
代理人 田中 雅雄  
代理人 田中 雅雄  
代理人 田中 雅雄  

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