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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) B60C
管理番号 1228198
判定請求番号 判定2010-600040  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2011-01-28 
種別 判定 
判定請求日 2010-07-08 
確定日 2010-12-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第3987978号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「締め付けロック」は、特許第3987978号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号図面及びその説明書に示す「締め付けロック」(以下、「イ号物件」という。)は、特許第3987978号発明の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。

2.本件特許発明
本件特許第3987978号発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)の構成要件を分説すると、次のとおりである。

A ハウジング(2a,2b)を備えた滑り止めチェーンのための締め付けロック(1)であって、
B 締め付けを行うためにハウジングの開口(4)を通じて前記ハウジング(2a,2b)内に引き込まれることが可能な締め付けロープ(3)が締め付け方向とは反対にロックされる係止位置と、前記締め付けロープ(3)がロックから解除される解除位置とを有する作動レバー(20)が前記ハウジング(2a,2b)に対して取り付けられた前記締め付けロック(1)において、
C 前記締め付けロープ(3)が前記ハウジング(2a,2b)の内部において巻き取り方向に予め付勢された巻き取り装置(6,9,12)に連結され、
D 前記巻き取り装置(6)に隣接して歯列(10)が配置され、その歯列(10)は、前記作動レバー(20)上に配置された係合部分(29)と噛み合うか、または、前記作動レバー(20)の係止位置で同作動レバー(20)により制御されることが可能であり、
E 前記締め付けロープ(3)が両方の移動方向に対してロックされる第3の位置に前記作動レバー(20)を動かすことも可能であり、
F 前記作動レバー(20)は、作動レバーに対して移動可能であるロックレバー(21)と協働し、前記両レバー(20,21)は、それぞれ回動可能に前記ハウジング(2a,2b)に対して取り付けられ、
G 前記ロックレバー(21)は、前記係止位置において前記歯列(10)と噛み合う前記係合部分(29)を有し、
H 前記作動レバー(20)は、使用者によりハウジングの外側から3つの位置に動かすことが可能であり、
I 前記作動レバー(20)は、ハウジングの外側より見た場合にくびき式に前記ロックレバー(21)に対して重なる
J ことを特徴とする締め付けロック

3.イ号物件
これに対し、イ号図面及びイ号説明書の記載によれば、イ号物件の構成を分説すると、次のとおりのものと認められる。

a ハウジング(2)を備えた滑り止めチェーンのための締め付けロック(1)であって、
b 締め付けを行うためにハウジングの開口(31)を通じて前記ハウジング(2)内に引き込まれることが可能な締め付けロープ(3)が、ロックレバー(10)の押込部(13)が押されていないときは締め付け方向とは反対にロックされると共に、前記押込部(13)が押されているときはロックから解除される。そのとき、作動レバー(20)は第1の位置のみをとる。そのような、作動レバー(20)が前記ハウジング(2)に対して取り付けられた前記締め付けロック(1)において、
c 前記締め付けロープ(3)が前記ハウジング(2)の内部において巻き取り方向に予め付勢された巻き取り装置(4)に連結され、
d 前記巻き取り装置(4)に隣接して歯列(32)が配置され、その歯列(32)は、前記ロックレバー(10)の係合部分(12)と噛み合い、
e 前記締め付けロープ(3)が両方の移動方向に対してロックされる第2の位置に前記作動レバー(20)を動かすことも可能であり、
f 前記ロックレバー(10)は、ロックレバーに対して移動可能である前記作動レバー(20)と協働し、前記ロックレバー(10)は回動可能に前記ハウジング(2)に対して取り付けられ、前記作動レバー(20)はスライド可能に前記ハウジング(2)に対して取り付けられ、
g 前記ロックレバー(10)は、押込部(13)が押されていないときの前記第1の位置において前記歯列(32)と噛み合う前記係合部分(12)を有し、
h 前記作動レバー(20)は、使用者によりハウジングの外側から2つの位置に動かすことが可能である、
j ことを特徴とする締め付けロック

4.対比・判断
イ号物件が本件特許発明に係る前記分説した各構成要件A?Jを充足するか否かについて両者を対比すると、イ号物件は、その構成a、c、g、jにおいて本件特許発明の構成要件A、C、G、Jを充足することは明らかであり、当事者間に争いはない。
したがって、イ号物件が本件特許発明のその余の構成要件B、D?F、H、Iを充足しているか否かについて検討する。

(1)構成要件Dについて
イ号物件の「巻き取り装置(4)」は、本件特許発明の「巻き取り装置(6)」に相当し、同様に「歯列(32)」は「歯列(10)」に相当する。
また、本件特許発明の「作動レバー(20)上に配置された係合部分(29)」は、平成19年4月16日付けの手続補正により、その補正前の請求項17に記載された構成及びその他の構成を補正前の請求項1に付加して補正後の請求項1とした経緯を鑑みれば、補正前の「作動レバー(20)」との語は「ロックレバー(21)」を包含した概念のものであったところ、当該手続補正により、ロックレバー(21)を包含しない作動レバー(20)自体を指し示すようになったものと認められる。また、補正後における係合部分(29)は作動レバー(20)自体ではなくロックレバー(21)に配置されているのであるから、構成要件Dに記載された「作動レバー(20)上に配置された係合部分(29)」は実質的に「ロックレバー(21)に配置された係合部分(29)」であると認める。そして、イ号物件の「ロックレバー(10)の係合部分(12)」は、本件特許発明の「ロックレバー(21)上に配置された係合部分(29)」に相当する。
よって、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Dを充足する。
なお、本件特許発明の構成要件Dに記載された「または、作動レバー(20)の係止位置で同作動レバー(20)により制御されることが可能であ」る点は、選択的記載であるから、この点の有無は上記充足するとの判断には影響しない。

(2)構成要件B、E、Hについて
イ号物件の「ハウジングの開口(31)」は、本件特許発明の「ハウジングの開口(4)」に相当し、以下同様に「ハウジング(2)」は「ハウジング(2a,2b)」に、「作動レバー(20)」は「作動レバー(20)」に、「ロックレバー(10)」は「ロックレバー(21)」に、それぞれ相当する。

ここで、本件特許発明の構成要件B、Eにおいて、締め付けロープ(3)が締め付け方向とは反対にロックされる「係止位置」、締め付けロープ(3)がロックから解除される「解除位置」、締め付けロープ(3)が両方の移動方向に対してロックされる「第3の位置」があることが示されており、作動レバー(20)はその3つの位置に動かすことが可能なものと認められる。
そして、イ号物件において、締め付けロープ(3)が締め付け方向とは反対にロックされる「係止位置」に相当するのは、作動レバー(20)がPGIの位置にあり、かつロックレバー(10)の押込部(13)が押されていない状態であり、締め付けロープ(3)がロックから解除される「解除位置」に相当するのは、作動レバー(20)がPGIの位置にあり、かつロックレバー(10)の押込部(13)が押されている状態であり、締め付けロープ(3)が両方の移動方向に対してロックされる「第3の位置」に相当するのは、作動レバー(20)がPGIIの位置にある状態であると認められるから(PGI、PGIIの位置については、イ号図面の第2図、第3図を参照。)、イ号物件における作動レバー(20)は2つの位置にのみ動かすことが可能なものである。

つまり、イ号物件においては、「ロックレバー(10)の押込部(13)が押されていないときは締め付け方向とは反対にロックされると共に、前記押込部(13)が押されているときはロックから解除される。そのとき、作動レバー(20)は第1の位置のみをとる。」(構成b)とあるように、本件特許発明でいう「係止位置」と「解除位置」においてその位置が変化する構成部材は、作動レバー(20)ではなくロックレバー(10)であって、「係止位置」と「解除位置」においてイ号物件の「作動レバー(20)」は位置を変えない。
したがって、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Bを充足しない。

また、イ号物件においては、本件特許発明でいう「係止位置」と「解除位置」における作動レバー(20)は第1の位置のみをとり、本件特許発明でいう「第3の位置」において前記第1の位置とは別の第2の位置をとるのであるから、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Eを充足しない。

さらに、本件特許発明における作動レバー(20)は3つの位置に動かすことが可能であるのに対して、イ号物件における作動レバー(20)は2つの位置にのみ動かすことが可能なものであるから、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Hを充足しない。

なお、被請求人は、答弁書において「イ号締め付けロックでは、作動レバー20が本件特許発明に係る作動レバー(20)の突起(32)に相当し、ロックレバー10の押込部13が本件特許発明に係る作動レバー(20)の突起(32)を除く部分に相当し、ロックレバー10の押込部13を除く部分が本件特許発明のロックレバー(21)に相当する。」(第4頁第8?12行)とし、「本件特許発明に係る作動レバー(20)はイ号締め付けロックに作動レバー20とロックレバー10の押込部13とを組み合わせたものに相当し、・・・(中略)・・・作動レバー20及びロックレバー10(押込部13)の各位置の組合わせに着目すべきであり、作動レバー20及びロックレバー10(押込部13)は、それらの位置の組合せからみて、本件特許発明に係る作動レバー(20)の「係止位置」、「解除位置」及び「第3の位置」の3つの位置に動かすことができる。」(第5頁第21?31行)と主張している。
しかし、イ号物件における「作動レバー(20)」と「ロックレバー(10)の押込部(13)」は各々別個に動くことが可能なものであり、この両部材をまとめて、1つの構成部材である本件特許発明における「作動レバー(20)」に相当するとするのは不適当である。また、イ号物件における「ロックレバー(10)の押込部(13)」と、「ロックレバー(10)の押込部(13)を除く部分」とは、1つの構成部材なのであるから当然に同一の動作をするものであるところ、仮に上記被請求人の主張のとおり認定できたとすると、本件特許発明におけるロックレバー(21)は、本件特許発明における作動レバー(20)の突起(32)と同一の動作をするものということになり、矛盾を生じることとなる。
したがって、被請求人の上記主張に首肯することはできない。

(3)構成要件Fについて
イ号物件における作動レバー(20)はスライド可能にハウジングに対して取り付けられているのに対し、本件特許発明における作動レバー(20)は回動可能にハウジングに対して取り付けられている。動作形態として、スライドと回動とは異なる動作であるから、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Fを充足しない。

なお、被請求人は、答弁書において「図2-図4に示すように、ハウジング2の縁部がロール部材33の円弧に沿って延びていることは明らかである。このことから、作動レバー20は、ロール部材33の中心を中心に回動可能であると解釈することができる。」(第6頁第21?24行)と主張している。
「回動」がどのような動作を含みうるのか明らかではないが、本件特許発明の明細書には、「作動レバーとロックレバーとがくびき式に重なり合う時、レバーのそれぞれはレバーの回動軸を中心とした回動を行うことが可能であるようにレバーの中央部分においてハウジング内に支持されることが好ましい。2個のレバーのそれぞれの回動軸の間の距離は、使用者が作動レバーを動かすことにおいてまた2個のレバーの相対的な配置において望ましい力学的関係が得られるように選択される。」(本件特許発明の明細書第6頁第14?18行)、「作動レバーはロックレバーに対向する面上において回動軸の両側に形成された2個の突起を備える。」(同明細書第6頁第21?22行)、「交叉部分はハウジング内に向かう回動方向に沿って湾曲するように突出し」(同明細書第6頁第34?35行)等の記載がある。これらの記載からみて、作動レバーは回動軸を有しその回動軸の両側に突起を形成可能であること、回動軸の間の距離という概念があることから回動軸はレバーごとに特定されうること、ハウジング内に向かう回動方向を有すること、が分かるから、少なくとも本件特許発明において意味する「回動」の動作は、回動する部材の中央部分に回動軸を有しており、ハウジング内に向かう回動方向を有しているものと認められ、本件特許発明の明細書にはそれ以外のものと解釈できるような記載も示唆もない。
ここで、イ号物件における作動レバー(20)は、ハウジング2の縁部に沿ってスライド可能なものであるが、その縁部が「円弧」であるかどうかは不明であり、回動軸を特定可能か否かも不明である。仮に回動軸が特定できたとしても、その回動軸は作動レバー(20)の中央部分に存在するものとは認められない。さらに、回動方向として、ハウジング2内に向かう回動方向を有しているものとも認められない。したがって、イ号物件における作動レバー(20)の動作は、本件特許発明において意味する「回動」の動作をしているものと認めることはできないから、被請求人の上記主張に首肯することはできない。

(4)構成要件Iについて
被請求人は、答弁書において「「くびき」とは、原文でいう「yoke」の訳語であり、例えば、航空機の操縦桿(ハンドル)を意味する」(第7頁第6?7行)と主張している。上記3.において、構成要件Iに相当するイ号物件の構成を分説していないが、イ号物件における作動レバー(20)はロックレバー(10)に対してくびき式(航空機の操縦桿式)に重なっているものとは認められないので、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Iを充足しない。

(5)対比結果
上記(1)?(4)に示すように、イ号物件は、本件特許発明の構成要件B、E、F、H、Iを充足しない。

5.むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
また、本件特許第3987978号発明の請求項2?20に係る発明は、本件特許発明に他の構成要件を付加したものであるから、イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属しない以上、イ号物件は本件特許第3987978号発明の請求項2?20に係る発明の技術的範囲にも属しないことは明らかである。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2010-11-25 
出願番号 特願平10-538113
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (B60C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 林 浩
特許庁審判官 小関 峰夫
田口 傑
登録日 2007-07-27 
登録番号 特許第3987978号(P3987978)
発明の名称 締め付けロック  
代理人 柳 康樹  
代理人 恩田 博宣  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 本田 淳  
代理人 城戸 博兒  
代理人 池上 美穂  
代理人 黒木 義樹  
代理人 恩田 誠  

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