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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部無効 2項進歩性  C08J
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1228635
審判番号 無効2009-800139  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-06-29 
確定日 2010-10-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4198113号発明「発泡性ポリスチレンの製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4198113号の請求項1?9に係る発明についての特許を無効とする。 特許第4198113号の請求項10に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その10分の1を請求人の負担とし、10分の9を被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第4198113号の請求項1?14に係る発明についての特許出願(特願2004-513367号)は、平成15年6月6日(パリ条約による優先権主張、2002年6月14日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする国際特許出願であって、平成20年10月10日に特許権の設定登録(請求の数14)がなされた。

これに対して、平成21年6月29日に、請求項1?14に係る発明の特許について、積水化成品工業株式会社から、本件無効審判が請求され、同年10月20日付けで、被請求人ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアから答弁書及び訂正請求書が提出され、同年11月30日付けで請求人から弁駁書が提出され、平成22年2月12日付けで被請求人から口頭審理陳述要領書が提出され、同年2月26日付けで請求人から口頭審理陳述要領書、口頭審理陳述要領書2及び上申書が提出され、同日に第1回口頭審理が行われ、その後、請求人からは同年3月19日付けの上申書が提出され、被請求人からは同年3月19日付けの上申書及び同年3月23日付けの上申書2が提出されたものである。

なお、第1回口頭審理において、以降の審理は書面審理とすることが宣せられている。

第2.訂正の請求の可否についての判断

1.訂正の内容

平成20年10月20日付けの訂正請求書による訂正の請求は、本件特許明細書を本件訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり(以下、「本件訂正」という。)、その訂正の内容は、以下の訂正事項1?2からなるものである。

(1)訂正事項1

本件特許明細書における特許請求の範囲を下記のとおり訂正する。

「【請求項1】
分子量M_(w)が220000?300000の範囲にある発泡性スチレンポリマーを製造する方法であって、
160?240℃の温度を有する発泡剤含有スチレンポリマー溶融物を、ダイ出口の孔径が0.2?1.2mmの孔を有するダイプレートを介して搬送し、ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され、次いで押出物を顆粒化することを特徴とする方法。
【請求項2】
発泡性スチレンポリマーの分子量分布が、3.5以下の多分散度M_(w)/M_(n)を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スチレンポリマーとして、透明ポリスチレン(GPPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンポリマー(ABS)、スチレン-アクリロニトリル(SAN)又はこれらの混合物、或いはこれらとポリフェニレンエーテル(PPE)との混合物を使用する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
発泡剤含有スチレンポリマー溶融物が、炭素原子数2?7個の脂肪族炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル又はハロゲン化炭化水素からなる群から選択される1種以上の発泡剤を2?10質量%、均一分布状態で含んでいる請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
発泡剤含有スチレンポリマー溶融物が、鉱物油、オリゴマー性スチレンポリマー及びフタル酸エステルの可塑剤を、スチレンポリマーに対して0.05?10質量%の範囲の割合で含んでいる請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ダイプレートの孔が、少なくとも2のL/D比(ダイ出口の直径(D)に対する、直径が最大でダイ出口の直径に対応するダイ領域の長さ(L)の比)を有する請求項1?5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ダイプレートのダイ入口における孔の直径(E)が、ダイ出口における直径(D)の少なくとも2倍の大きさである請求項1?6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ダイプレートの孔が、180°未満のゲート角αを有する円錐形のゲートを有する請求項1?7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ダイプレートが、異なる出口直径(D)を有する複数の孔を有する請求項1?8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
発泡剤含有スチレンポリマー溶融物が、スチレンポリマーに対して0.05?1.5質量%の水を含んでいる請求項1?9のいずれかに記載の方法。」

(2)訂正事項2

本件特許明細書における発明の詳細な説明の段落【0009】に係る
「剪断力及び/又は温度の影響により分子量の低下を起こすために、発泡性ポリスチレンの分子量は、一般に使用されるポリスチレンの分子量より低いおよそ10000(g/モル)である。」を、
「剪断力及び/又は温度の影響により分子量の低下を起こすために、発泡性ポリスチレンの分子量は、一般に使用されるポリスチレンの分子量よりおよそ10000(g/モル)低くなる。」
と訂正する。

2.訂正の目的の検討

まず、特許請求の範囲に係る訂正である上記訂正事項1について、訂正の目的について検討する。
上記訂正事項1は、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である、「分子量M_(w)」について、「190000?400000」との範囲を「220000?300000」との範囲にするものであり、「発泡剤含有スチレンポリマー溶融物」の温度について、「140?300℃」との範囲を「160?240℃」との範囲にするものであり、「ダイ出口の孔径」について、「1.5mm以下」との範囲を「0.2?1.2mmとの範囲にするものであり、「ダイプレート」の加熱温度について、「少なくとも前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度」との範囲を「前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く」との範囲にするとともに、訂正前の請求項2及び7?9を削除するものであり、これらの訂正により特許請求の範囲が減縮されることは明らかであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

また、発明の詳細な説明に係る訂正である上記訂正事項2については、国際出願日における国際特許出願の明細書に基づき、誤った翻訳を正しい翻訳に訂正することを目的とするものである。

3.新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の実質的拡張又は変更の有無の検討

上記訂正事項1により発明特定事項となる、「分子量M_(w)が220000?300000」については、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載されており、「160?240℃の温度を有する発泡剤含有スチレンポリマー溶融物」については、同請求項7に記載されており、「ダイ出口の孔径が0.2?1.2mmの孔」については、同請求項9に記載されており、「ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され」については、同請求項8に記載されていることから、上記訂正事項1が特許明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

また、上記訂正事項2については、特許法第184条の4第1項の国際出願日における国際特許出願の明細書には、

「Aufgrund des Molekulargewichtsabbau durch Scherung und/oder Temperatureinwirkung liegt das Molekulargewicht des expandierbaren Polystyrols in der Regel etwa 10.000 g/mol unter dem Molekulargewicht des eingesetzten Polystyrols.」

と記載されており、上記訂正事項2に係る訂正は、この適正な翻訳と認められることから、国際出願日における国際特許出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

4.まとめ

したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とし、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものであるから、本件訂正を認める。
なお、審判請求人は、平成22年2月26日付け口頭審理陳述要領書2において、本件訂正を認める旨陳述している。

第3.本件発明

上記「第2.訂正の請求の可否についての判断」で述べたとおり、本件訂正は認められることから、本件特許の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」という。)は、訂正後の特許明細書及び図面(以下、「本件訂正明細書」という。)の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される上記「1.(1)訂正事項1」に記載のとおりのものである。

第4.請求人の主張

請求人は、「特許第4198113号の請求項1?14に係る特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、第1回口頭審理調書に記載のとおり、以下の無効理由1乃至5を主張し、証拠方法として甲第1号証乃至甲第36号証(甲第1号証乃至甲第13号証の2及び甲第14号証乃至甲第34号証の2は審判請求書に、甲第13号証の3及び甲第35号証乃至甲第36号証は平成22年2月26日付け上申書に添付したものである。)を提出している。

1.無効理由の概要

(1)無効理由1

本件請求項1乃至4に係る発明は、甲第31号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反し、特許を受けることができない。

(2)無効理由2

本件請求項1乃至10に係る発明は、甲第4号証乃至甲第31号証及び甲第34号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。

(3)無効理由3

本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が不備であるため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(4)無効理由4

本願は、明細書の特許請求の範囲の記載が不備であるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(5)無効理由5

本願は、明細書の特許請求の範囲の記載が不備であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2.証拠方法

甲第1号証:特許第4198113号公報
甲第2号証:高分子学会編「高分子工学講座 化学繊維の紡糸とフィルム成形(I)」初版発行、株式会社地人書館、1968年2月10日、160?161ページ
甲第3号証:森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー 高分子の高速液体クロマトグラフィー」初版2刷発行、共立出版株式会社、1992年10月10日、12?13ページ、44?49ページ、88?93ページ及び100?103ページ
甲第4号証:特開昭59-221340号公報
甲第5号証:久布白兼三著「発泡ポリスチレンのすべて -技術とビジネスの基礎知識-」、マーテック株式会社、1995年5月1日、2ページ及び35?36ページ
甲第6号証:「ENCYCLOPEDIA OF POLYMER SCIENCE AND ENGINEERING, VOLUME 16 SECOND EDITION」、John Wiley & Sons, Inc.、1989年、62?65ページ
甲第6号証の2:甲第6号証の64ページの「Table 2」の翻訳文
甲第6号証の3:甲第6号証の65ページ第3?5行及び第12?14行の翻訳文
甲第7号証:特開平9-208734号公報
甲第8号証:村上健吉監修「押出成形」第7版改訂、株式会社プラスチックス・エージ、1989年12月10日、36?37ページ、107ページ及び210?216ページ
甲第9号証:佐々木昌治著「水中カットペレタイザー」、合成樹脂、Vol.37、No.4、1991年4月、23?26ページ
甲第10号証:特開平7-178726号公報
甲第11号証:Martin Mack et.al. "Trend in Underwater Pelletizer Technology: Considering New Types of Polyolefin Resins"、「POLYOLEFINS XI RETEC, Houston, Texas」、1999年2月、215?220ページ
甲第11号証の2:甲第11号証の219ページの「FIGURE 4」の説明の翻訳文
甲第12号証:中村和之著「2.大型混練造粒装置の技術動向」、「PLASTICS AGE ENCYCLOPEDIA<進歩編>2001」、株式会社プラスチックス・エージ、2000年10月10日、158?164ページ
甲第13号証:J.Iwai "RECENT UNDER WATER CUTTING TECHNOLOGY"、「POLYOLEFINS VIII, INTERNATIONAL CONFERENCE」Huston,Texas、1993年2月21-24日、110-131ページ
甲第13号証の2:甲第13号証の123ページの「Fig.5」の説明の翻訳文
甲第13号証の3:甲第13号証の116ページ第6?19行の翻訳文
甲第14号証:特開平9-141652号公報
甲第15号証:特開2002-166417号公報
甲第16号証:特開2002-166418号公報
甲第17号証:特開平1-110911号公報
甲第18号証:特開平6-31726号公報
甲第19号証:特開平6-136176号公報
甲第20号証:特開平6-32932号公報
甲第21号証:占部誠亮著「ポリマーの押出挙動に及ぼす温度の影響 ゴムの混練理論シリーズ」、ポリマーダイジェスト、1992年8月、99?110ページ
甲第22号証:CHANG DAE HAN "Chapter 5 Flow of Molten Polymers through Circular and Slit Dies"、「Rheology in Polymer Processing」、ACADEMIC PRESS、1976年、89ページ及び111?114ページ
甲第22号証の2:甲第22号証の112ページの「FIG.5.24」の説明の翻訳文
甲第22号証の3:甲第22号証の113ページの「FIG.5.25」の説明の翻訳文
甲第22号証の4:甲第22号証の113ページ本文第6行?114ページ第4行の翻訳文
甲第23号証:WILLIAM W.GRAESSLEY et.al.「Die Swell in Molten Polymers」、TRANSACTIONS OF THE SOCIETY OF RHEOLOGY、vol.14、No.4、1970年、519?531ページ
甲第23号証の2:甲第23号証の524ページ下から2行?下から1行及び526ページの「FIG.4」の説明の翻訳文
甲第24号証:A.M.HENDERSON et.al. "Effects of Die Temperature on Extrudate Swell in Screw Extrution"、Journal of Applied Polymer Science、vol.31、1986年、353?365ページ
甲第24号証の2:甲第24号証の361ページの「Fig.7」の説明の翻訳文
甲第24号証の3:甲第24号証の353ページの「INTRODUCTION」の第1?7行の翻訳文
甲第25号証:特開平9-221562号公報
甲第26号証:「特許庁公報 周知・慣用技術集(発泡成形)」、1982年8月3日、33ページ
甲第27号証:特開昭62-104845号公報
甲第28号証:特開昭61-195808号公報
甲第29号証:桜内雄二郎著「新版 プラスチック材料読本」新版初版発行、株式会社工業調査会、1987年5月15日、78?83ページ
甲第30号証:特開平6-298983号公報
甲第31号証:特表2001-525001号公報
甲第32号証:東京高等裁判所 平成13年(行ケ)第209号 審決取消請求事件 判決文
甲第33号証:森定雄他「サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子平均分子量共同測定 VII.第4回ラウンドロビンテスト結果報告(その1)」、分析化学、第46巻、第10号、1997年10月5日、837?844ページ
甲第34号証:米国特許第3981959号明細書
甲第34号証の2:甲第34号証の9欄第13?21行の翻訳文
甲第35号証:欧州特許第1517947号に対する審判事件(審判番号:T0541/09-3309)において、BASF SE(特許権者)が欧州特許庁に提出した2009年11月25日付け答弁書
甲第35号証の2:甲第35号証の翻訳文
甲第36号証:特公昭42-24072号公報

なお、第1回口頭審理調書に記載のとおり、被請求人は甲第1号証乃至甲第34号証の2の成立を認めており、また、平成22年3月19日付け上申書において、被請求人は甲第13号証の3、甲第35号証及び甲第36号証の成立を認めている。

第5.被請求人の主張

被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として乙第1号証乃至乙第4号証(平成21年10月20日付け答弁書に添付したもの)を提出している。

乙第1号証:本件審判事件における平成21年10月20日付け訂正請求書の写し
乙第2号証:Hans-Georg Elias「An Introduction to Plastics, Second,Completely Revised Edition」、WILEY-VCH GmbH & Co.KGaA、22?23ページ
乙第2号証の2:乙第2号証の抜粋翻訳文
乙第3号証:特表2008-529859号公報
乙第4号証:国際公開第2005/28173号

なお、第1回口頭審理調書に記載のとおり、請求人は乙第1号証乃至乙第4号証の成立を認めている。

第6.無効理由2についての判断

1.本件発明1についての検討

1-1.本件発明1

本件発明1は、上記「第3.本件発明」において述べたとおり、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項を発明特定事項とするものと認められる。

1-2.甲第4号証の記載事項

甲第4号証には以下の事項が記載されている。

ア-1.「a)発泡剤配合重合体をダイヘッド部より押出す工程
b)重合体をダイヘッドで即時切断し、得られる顆粒の取出しと冷却を、発泡性重合体のTg値以上の高温で保持する水浴又は流体浴中で行う工程
c)得られた顆粒を、発泡性重合体のTg値の少なくとも+5℃と同値の少なくとも-5℃との温度範囲で除冷する工程
の連続する工程からなり、重合体の切断顆粒化、顆粒の冷却処理はともに2Bar.以上の高圧下に行う熱可塑性重合体の発泡性顆粒の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

ア-2.「上記欠点の除去のためには、逆に、重合体のTg値以上の高温で作業を行い徐冷する必要がある。この方法では、使用材料が発泡すると言う望ましくない危険が伴う。」(3ページ右上欄5?8行)

ア-3.「本発明の目的たる方法により得られる発泡性顆粒のグラニユメトリー分布範囲は狭く、また後日の発泡、成形等の加工操作における挙動と言う観点から見る場合、懸濁重合中に発泡剤を配合して得られる周知の発泡性ビーズとも類似の発泡性顆粒が得られる。
重合体の押出し温度は、発泡剤配合重合体組成物の軟化温度に依存する。重合体が押出し孔中に固まつたり詰まつたりする現象を避けるために、押出し温度は常に軟化点よりも一段と高い値に保つようにする。
押出し所要温度は、周知のように、更に、ダイヘッド孔の大きさに依存し、本発明の場合には、また、押出された重合体を冷却する水温にも依存している。従つて、例えば、ポリスチレンが1ないし4重量パーセントのペンタンを発泡剤として含有するものを使用する場合には、押出し温度範囲は、押出し用孔径2ないし4mmとして、100ないし130℃となる。孔径が小さくなると押出し温度は高くなる。一般的に、押出し用孔径が1mm以下の場合、使用押出し温度は200℃以下である。」(3ページ右下欄18行?4ページ左上欄19行)

ア-4.「本発明の方法に特に適している熱可塑性重合体中、ポリスチレンが第一位を占めるが、他の熱可塑性化合物、例えば、ポリオレフィン類、ポリビニル芳香族、ポリビニリデン芳香族化合物、同化合物の共重合体なども使用することが出来る。また、熱可塑性重合体混合物も使用出来る。
気化性発泡剤は液状有機物質で、重合体に対して溶剤作用をもたないものである。好ましくは、発泡剤は標準圧力で沸点10℃ないし90℃、好ましくは20℃ないし80℃の有機液体である。一般にはn-ペンタン、イソ-ペンタンのような脂肪族飽和炭化水素或はその混合物が好ましい。またブタン、ヘキサン、石油エーテル、シクロペンタン、或はフルオロ-クロル-炭化水素類も使用し得る。」(4ページ右上欄14行?左下欄8行)

ア-5.「実施例1
メルト・インデックス10g/10’のポリスチレンをホッパー(1)より押出し機(2)に給送する。ポンプ(5)及び管路(4)より、重量比70対30のn-ペンタン-イソ-ペンタン混合物約6.2重量%の量で溶融重合体に添加する。生成する発泡性融塊は温度約160℃で、これを各孔径が0.7mmの孔20個を装備した押出しダイヘッド(3)中から引き通す。ダイヘッドより出て来る重合体はダイヘッド(3)の表面に接触回転する切断ナイフ(7)により切断して、直径約1.2mmの球状顆粒を得る。
ダイヘッド部(3)は、水が圧力9Bar.温度62℃で循環する切断室(8)に突出している。
切断を終えた顆粒は、水流により、焼き戻し塔(10)の上部へと運ばれる。焼き戻し塔(10)中では、塔の底部から、交換器(11)により約40℃に加熱された水を注入することにより、顆粒を約42℃迄徐冷する。顆粒の落下及び定時弁(13)は、顆粒の塔(10)中滞留時間が約15分となるように調節する。顆粒はふるい(14)中で分け、(17)の空気により25℃で乾燥して、容器(19)に回収する。
発泡剤約6重量%含有発泡性顆粒を1l当り18gの密度となるよう蒸気圧0.2Ateで連続式予備発泡機で予備発泡する。予備発泡粒子は閉鎖気泡の平均直径が約50mμで、均一気泡構造を有していた。
比較例1
実施例1にならい、水を圧力2Bar.で切断室(8)に給送する。
得られた顆粒は、予備発泡前にも、一部発泡していた。予備発泡後は、同粒子は非常に不均一かつ不規則な気泡構造を呈した。」(5ページ右上欄10行?右下欄1行)

ア-6.「

」(6ページの図面)

1-3.甲第4号証に記載された発明

甲第4号証には、押出し用孔径が1mm以下の場合、使用押出し温度は200℃以下であること(記載事項ア-3)、及び実施例1において生成する発泡性融塊は温度約160℃で、これを各孔径が0.7mmの孔20個を装備した押出しダイヘッド中から引き通すこと(記載事項ア-5)が記載されていることから、押出用孔径が0.7?1mmの範囲、及び発泡性融塊の温度が約160℃?200℃の範囲がそれぞれ示唆されていることは明らかである。
そうすると、記載事項ア-1?ア-5からみて、甲第4号証には、下記の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
「発泡剤配合重合体をダイヘッド部より押出す工程、重合体をダイヘッドで即時切断し、得られる顆粒の取出しと冷却を、発泡性重合体のTg値以上の高温で保持する水浴又は流体浴中で行う工程、得られた顆粒を、発泡性重合体のTg値の少なくとも+5℃と同値の少なくとも-5℃との温度範囲で徐冷する工程の連続する工程からなり、重合体の切断顆粒化、顆粒の冷却処理はともに2Bar.以上の高圧下に行うポリスチレンである熱可塑性重合体の発泡性顆粒の製造方法であって、温度約160℃?200℃の発泡性融塊を、押出用孔径が0.7mm?1mmである孔を装備した押出しダイヘッド中から引き通す、前記発泡性顆粒の製造方法。」の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。

1-4.本件発明1と甲4発明との対比

甲4発明における「ポリスチレンである熱可塑性重合体の発泡性顆粒」は、本件発明1における「発泡性スチレンポリマー」に相当し、甲4発明における「発泡剤配合重合体」及び「発泡性融塊」は、本件発明1における「発泡剤含有スチレンポリマー溶融物」に相当し、甲4発明における「ダイヘッド」は、本件発明1における「ダイプレート」に相当する。

また、甲4発明における「発泡性融塊を、押出用孔径が0.7mm?1mm以下である孔を装備した押出しダイヘッド中から引き通す」ことは、本件発明1における「発泡性含有スチレンポリマー溶融物を、ダイ出口に孔を有するダイプレートを介して搬送」することに相当し、甲4発明における「重合体をダイヘッドで即時切断」することは、本件発明1における「押出物を顆粒化すること」に相当する。

そして、発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度についてみれば、甲4発明における「約160℃?200℃」と、本件発明1における「160?240℃」とは、その範囲が重複する部分を有している。

さらに、ダイ出口の孔径についてみれば、甲4発明における「0.7mm?1mm」と、本件発明1における「0.2?1.2mm」とは、その範囲が重複する部分を有している。

そうすると、本件発明1と甲4発明とは、「発泡性スチレンポリマーを製造する方法であって、160?240℃の温度を有する発泡剤含有スチレンポリマー溶融物を、ダイ出口の孔径が0.2?1.2mmの孔を有するダイプレートを介して搬送し、次いで押出物を顆粒化することを特徴とする方法。」である点で一致しているが、以下の点で相違している。

相違点1:発泡性スチレンポリマーの分子量M_(w)について、本件発明1は、「220000?300000」と規定しているのに対し、甲4発明は、分子量M_(w)に関する規定がない点。

相違点2:本件発明1は、「ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され」ているのに対し、甲4発明は、タイプレートの加熱に関する規定がない点。

1-5.相違点1についての検討

甲第5号証には以下のとおり記載されている。

イ-1.「EPSとはexpandable polystyrene(発泡性ポリスチレン)の略称であって」(2ページ13行)

イ-2.「日本で生産されているEPSの重量平均分子量は一般のポリスチレンより高く、25万を超えるものが多いが、需要構造と品質に対する考え方が異なる欧米製品では20万程度が多い。」(36ページ3?5行)

また、甲第7号証には以下のとおり記載されている。

ウ-1.「本願発明において再生された発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて得られる発泡スチレン系樹脂成形体の外観が良好で、且つ強度に優れた成形品を得る為には、押出機に導入されるスチレン系樹脂全体の重量平均分子量が180,000?400,000であることが好ましい。即ち、重量平均分子量が180,000以上において発泡体の気泡(セル)が均一となり、成形品外観が良好となる他、成形品強度も向上する。一方、重量平均分子量が400,000以下においては発泡性が良好となる。同様に最終的に得られる成形品を形成する樹脂相の重量平均分子量が、160,000?350,000の範囲にあることが成形品外観並びに成形品強度の点から好ましい。」(段落【0015】)

また、甲第26号証には以下のとおり記載されている。

エ-1.「スチレン重合体または共重合体および発泡剤を含有してなる発泡性スチレン系樹脂粒子において,上記スチレン重合体または共重合体の重量平均分子量は10万?30万である。
分子量が小さい方が発泡成形時粒子間の融着が容易になり,分子量が大きい方が発泡成形体の強度が優れる。」(33ページ)

そうすると、発泡性スチレンポリマーの分子量M_(w)が220000?300000の範囲のものについては、記載事項イ-1?イ-2、ウ-1及びエ-1より、発泡性スチレンポリマーとして周知の事項であったことが理解できる。
そうすると、甲4発明における発泡性顆粒の分子量M_(w)を、上記周知の範囲に規定することについては、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に想到しうるものである。

そして、本件発明1の上記相違点1に係る発明特定事項を備えることにより奏される効果について、本件訂正明細書の段落【0009】には、「分子量M_(w)が170000未満のスチレンポリマーは顆粒化中にポリマー磨損を起こすことが分かった。発泡性スチレンポリマーは、190000?400000(g/モル)、特に220000?300000(g/モル)の範囲の分子量M_(w)を有することが好ましい。」と記載されているが、実施例には、M_(w)が280000g/モルと190000g/モルの発泡剤含有ポリスチレンを用いたものしか記載されておらず(本件訂正明細書の特許請求の段落【0031】及び【0050】)、しかもこれら280000g/モルと190000g/モルの発泡剤含有ポリスチレンは本件発明の実施例として記載されていることからみて、当該実施例の結果は、本件発明1において、発泡性スチレンポリマーの分子量M_(w)を220000?300000と規定することの臨界的意義を示すものではなく、よって、当該実施例の結果をもって上記効果を格別顕著なものとすることはできない。

なお、被請求人は、「製造対象である220000?300000の分子量Mwを有する発泡性スチレンポリマー自体は、議論するまでもなく特別新たな概念ではなく、公知のものである。」(平成21年10月20日付け答弁書7ページ9?11行)、「そもそも構成A)の『分子量M_(w)が220000?300000の範囲にある発泡性スチレンポリマーを製造する』という事項については、本件特許発明1の製造対象を特定しているものであり、この構成A)が自体が新規な特徴を有する構成であるとは被請求人においても考えていないので、特に反論は要しないと考える。」(同答弁書16ページ20?24行)、さらには「得られた発泡性スチレンポリマーの分子量についても、市販されている『PS-158K』を原料としていることが本件特許明細書に明示されていることから、当業者が自明の範囲として認識可能である。」(被請求人が提出した平成22年2月12日付け口頭審理陳述要領書3ページ下から2行?4ページ2行)と主張しており、上記相違点1に係る事項は当業者において自明のものであることを、被請求人自身も認めている。

1-6.相違点2についての検討

甲第8号証には以下のとおり記載されている。

オ-1.「従って水中カット方式では,目詰まりを生じないダイ構造を選択することが重要で,ダイの加熱,断熱構造に工夫がされている.・・・図4.146(a)?(d)に水中カット用ダイ構造を示した.いずれも樹脂通路の加熱を極力ダイ出口まで有効に行えるように,蒸気加熱又は熱媒加熱を使用する.樹脂の冷却による詰まりがノズルのテーパ部で発生すると,この復元は困難なので,テーパ部までの加熱に特に注意が払われる.」(215ページ左欄16行?右欄6行)

オ-2.「

」(215ページの図4.146)

また、甲第10号証には以下のとおり記載されている。

カ-1.「従来の造粒用ダイスは、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。すなわち、ダイス表面は常に冷却水にさらされるため、図5で示されるようにダイスの外径部に設けられたヒータでは、ノズル近辺の温度は冷却水の温度の影響を強く受け、ダイスのノズル近辺の温度が低下するとともに、樹脂温度が下がり、粘度が高くなり、部分的に目詰まりを生じることがある。それゆえ、このような加熱方法は粘度変化の少ない限られた樹脂材料のみにしか採用出来ない欠点があった。また、図6及び図7に示される従来例ではノズル近辺を加熱する方法として、棒状のヒータが放射状に複数配置されているが、ヒータと各ノズルとの距離が異なるためヒータの近辺は高温でもそれから遠ざかると温度は低くなり、温度が低い部分で目詰まり現象が生じていた。」(段落【0007】)

カ-2.「また、棒状ヒータ6Aがダイス5の吐出面5a近くまで挿入されているので、ノズル7の吐出面5a近くの溶融材料は吐出面5aから冷却水12Aへ放熱される熱量を補って充分に加熱され、常時吐出可能状態に維持される。すなわち、溶融樹脂は複数のノズル7内で均一に加熱され、冷却水12Aによる冷却効果に対しても、吐出可能状態に充分加熱される。」(段落【0020】)

カ-3.「【図1】

」(6ページの【図1】)

また、甲第11号証には以下のとおり記載されている。

キ-1.「

」(219ページのFIGURE 4[なお、英文の訳は甲第11号証の2による])

また、甲第12号証には以下のとおり記載されている。

ク-1.「図7にダイの熱解析結果を示す.
従来のダイに比べて高熱効率型ヒートチャンネルダイでは,水中にさらされているダイ表面からのノズル穴壁面の温度は常に高く維持されている.これはダイ表面を高温に保つ特殊断熱構造と,ヒートジャケットの最適設計による伝熱面積の拡大効果によるものである.」(162ページ左欄下から9?4行)

ク-2.「

」(162ページの図7)

また、甲第13号証には以下のとおり記載されている。

ケ-1.「

」(123ページのFIG.5[なお、英文の訳は甲第13号証の2による])

また、甲第15号証には以下のとおり記載されている。

コ-1.「水中カット方式により、球換算平均粒子径700μm以下の熱可塑性エラストマー組成物パウダーを製造する方法であって、下記の(a)及び(b)の条件を充足する熱可塑性エラストマー組成物パウダーの製造方法。
(a):ダイス通過直前の熱可塑性エラストマー組成物の温度が120?220℃であること
(b):ダイスの温度が230?350℃であること」(特許請求の範囲の請求項1)

コ-2.「本発明の熱可塑性エラストマー組成物パウダーを製造する場合、ダイスを通過する直前の熱可塑性エラストマー組成物の温度は、120?220℃で調整する必要があり、160?200℃に調整することが好ましい。 ・・・
本発明の熱可塑性エラストマー組成物パウダーを製造する場合、ダイスの温度は230?350℃に調整する必要があり、250?310℃に調整することが好ましい。該温度が低すぎると、目詰まりを生じるため、生産性が低下する。一方、該温度が高すぎると、パウダー粒子が融着してしまうため、パウダーを製造することが不可能である。」(段落【0058】?【0059】)

また、甲第16号証には以下のとおり記載されている。

サ-1.「水中カット方式により、球換算平均粒子径500μm以下の熱可塑性エラストマー組成物パウダーを製造する方法であって、下記の(a)?(c)の条件を充足する熱可塑性エラストマー組成物パウダーの製造方法。
(a):ダイス通過直前の熱可塑性エラストマー組成物の温度が120?220℃であること
(b):ダイスの温度が230?350℃であること
(c):ダイス孔径が0.36mm以下であること」(特許請求の範囲の請求項1)

サ-2.「本発明の熱可塑性エラストマー組成物パウダーを製造する場合、ダイスを通過する直前の熱可塑性エラストマー組成物の温度は、120℃?220℃で調整する必要があり、160℃?200℃に調整することが好ましい。 ・・・
本発明の熱可塑性エラストマー組成物パウダーを製造する場合、ダイスの温度は230℃?350℃に調整する必要があり、250℃?310℃に調整することが好ましい。該温度が低すぎると、目詰まりを生じるため、生産性が低下する。一方、該温度が高すぎるとパウダー粒子が融着してしまうため、パウダーを製造することが不可能である。」(段落【0060】?【0061】)

また、甲第17号証には以下のとおり記載されている。

シ-1.「(1)(a)ポリマー性組成物をエクストルーダー内に供給し、
(b)前記ポリマー性組成物を加熱して溶融し、
(c)前記ポリマー性組成物中に発泡剤を導入して前記エクストルーダー内で混合物を形成し、
(d)前記混合物を加熱されたダイに供給し(ただし、この加熱ダイは、そのダイ面上でポッド内に組分けされた複数個の比較的小さい押出孔を含んでいる)、
(e)前記混合物を、前記押出孔を通して水中ペレタイザー内に押出し(場合により、加圧流体系を利用してもよい)、
(f)こうして押出された混合物を切断してペレットまたはビーズを形成し、
(g)前記ペレットまたはビーズを水から取出し、
(h)前記ペレットまたはビーズを乾燥する
ことからなる、均一で比較的極めて小さく実質的に球状の発泡または膨張可能なペレットまたはビーズの製造方法。
(2)エクストルーダー内に供給される前記ポリマー性組成物が、アルケニル芳香族ポリマーもしくはコポリマー、エンジニアリング熱可塑性樹脂、またはこれらの組合せからなる請求項1記載の方法。
(3)アルケニル芳香族ポリマーが、主としてスチレン単位または置換スチレン単位からなるホモポリマーまたはコポリマーである請求項2記載の方法。
・・・
(5)前記エンジニアリング熱可塑性樹脂がポリフェニレンエーテル樹脂からなる請求項2記載の方法。」(特許請求の範囲の請求項1?5)

シ-2.「例を挙げると、ポリスチレン成分は、天然もしくは合成のゴム、たとえばポリブタジエン、ポリイソプレン、EPDMゴムもしくはシリコーンゴムと混合したり相互作用させたりして改質されているホモポリスチレンまたは他のアルケニル芳香族ホモポリマーであることもできる。あるいは、・・・アクリロニトリル、スチレンおよびブタジエンのターポリマー(ABS)、スチレン-アクリロニトリルコポリマー(SAN)、・・・などであることもできる。」(7ページ左上欄8行?右上欄6行)

シ-3.「この押出出口18のサイズが小さく、しかもダイ前面20に接する水によってメルト混合物が冷却されるために、メルト混合物を流体に保ちダイ10を通して移動させ続けるにはダイ10の加熱が必要である。ダイ10全体に亘ってメルト混合物の均一な流れを得るためにダイを加熱する際の好ましい方法は、チャンネル22にホットオイルを循環させることである。」(8ページ右下欄12?19行)

記載事項オ-1?オ-2、カ-1?カ-3、コ-1?コ-2、サ-1?サ-2及びシ-1?シ-3からは、水中カット法による押出物の顆粒化方法において、溶融物の温度が低下することによるダイプレートの押出孔の目詰まりを防止する目的で、ダイプレートを加熱することについては、当業者に周知の技術であることが理解できる(以下、「周知技術1」という。)。
また、記載事項キ-1、ク-1?ク-2及びコ-1からは、水中カット法による押出物の顆粒化方法において、溶融物が接触するダイプレート壁面の温度は、ダイプレートの加熱温度に比べて低くなること、すなわちダイプレート壁面を所望の温度にするために、当該所望の温度よりもダイプレートの加熱温度を高くする必要があることが、当業者に周知の事項であることが理解できる(以下、「周知技術2」という。)。
一方、甲第4号証には、発泡剤配合重合体組成物における重合体が押出し孔中に固まったり詰まったりする現象を避けるために、押出し温度は常に軟化点よりも一段と高い値に保つようにすること(記載事項ア-3)が記載されている。
そうすると、甲4発明において、発泡剤配合重合体が押出し孔中に固まったり詰まったりする現象を避けるために、押出し温度を常に軟化点よりも一段と高い値に保つようにする手段として、周知技術1にかんがみて、ダイプレートを加熱する手段を適用した上で、周知技術2にかんがみ、ダイプレートの加熱条件として、発泡剤配合重合体の温度に直接影響を与えるダイプレート壁面の温度よりも高い温度範囲に設定すること、すなわち、ダイプレート壁面の温度を、発泡剤配合重合体の温度低下に起因する発泡剤配合重合体が押出し孔中に固まったり詰まったりする現象を避けるために、その溶融物の温度以上に設定し、それに伴い、ダイプレートを加熱する温度を、その温度以上に設定することについては、当業者が容易に想到しうるものである。
そして、ダイプレートの加熱条件として、発泡剤配合重合体の溶融物の温度以上に設定するにあたり、発泡剤配合重合体の溶融物の温度より20?100℃高い温度範囲内とすることについては、当業者が通常設定しうる温度範囲を採用した程度のことに過ぎない。

ところで、本件発明1の上記相違点2に係る発明特定事項を備えることにより奏される効果について、本件訂正明細書の段落【0021】には、「ダイプレートの温度は、発泡剤含有ポリスチレン溶融物の温度より20?100℃高い範囲にあることが好ましい。これにより、ダイ中のポリマー堆積を防止することができ、塩を含まない顆粒化が保証される。」(なお、被請求人は「塩を含まない顆粒化」については、平成22年2月12日付け口頭審理陳述要領書の29ページにて「問題のない顆粒化」の誤記であった旨述べている。)と記載されるとともに、本件訂正明細書の段落【0007】には、「前述の不利を解消すること、及び小さい顆粒サイズ及び均一な顆粒サイズ分布を有する発泡スチレンポリマー、特に発泡により均一な構造及び高いセル数を備えたフォームを得ることができる発泡性スチレンポリマーの経済的な製造方法を提供することにある。」と記載され、本件訂正明細書の段落【0035】?【0036】には、実施例2において、溶融物の温度が200℃であるとき、ダイプレート温度が180℃、200℃、220℃及び240℃である場合に、顆粒径が0.80mm、0.65mm、0.60mm、0.55mmと減少することが示されている。
しかしながら、本件訂正明細書には、発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度(段落【0032】?【0034】の実施例1)、ダイプレート温度(段落【0035】?【0036】の実施例2)、円錐形ゲート角を有するダイプレートにおけるゲート角(段落【0037】?【0038】の実施例3)、ダイプレートのダイ形状(段落【0039】?【0040】の実施例4)、添加剤(段落【0041】?【0042】の実施例5)及びスチレンポリマーの多分散度M_(w)/M_(n)(段落【0043】?【0045】の実施例6)が、顆粒径を制御する因子として記載されているが、さらにダイプレートの孔径、搬送速度、顆粒化する際の水圧及び水温、並びに顆粒化する際の切断速度が、顆粒径を制御する因子であることも水中カット法による押出物の顆粒化方法における技術常識であるところ、実施例2には、これらの条件のうち、発泡剤含有ポリスチレン溶融物の温度が200℃のときに、ダイプレートの温度を該溶融物の温度より-20℃?40℃高く加熱するとの条件が示されているのみであり、その他の顆粒径を制御する因子、特に図1の形状Aに相当するダイプレートの孔の長さL、入口の孔の大きさ、ダイプレート自体の長さ、顆粒化する際の水圧、水温及び切断速度などの製造条件をどのように設定したのかについては記載されていない。

一方、甲第18号証には以下のとおり記載されている。

ス-1.「ダイより押出した発泡剤含有溶融樹脂を回転カッターにより切断して樹脂粒子とする発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造方法において、表面が断熱されたダイを使用し、かつダイ表面と非接触状態に回転カッターを配置することを特徴とする発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

ス-2.「そこで、形状、粒径の均質な球状粒子を製造することができる水中カット方式、ホットカット方式による発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造方法が試みられている。
しかし、これら方式においてはダイ外表面に冷却水を直接接触して流動させるため、ノズル中において溶融樹脂の温度が急激に低下して固化してしまい、ノズルの目詰まりが発生し易い。
これを防止するにはダイ及び冷却水の温度を高くすればよいが、これに伴い溶融樹脂の温度も高くなるため、若干発泡して偏平状、円柱状の樹脂粒子となってしまう。又、ダイ出口部で溶融樹脂の冷却が不十分となり発泡したり、ノズルより吐出される樹脂が柔軟であるため、回転カッタ-による切断は良好ではなく、ヒゲ状突起物を有する樹脂粒子、扁平状の樹脂粒子となってしまうのである。」(段落【0004】?【0006】)

ス-3.「【表1】

」(段落【0022】の【表1】)

記載事項ス-2からは、発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造においては、ダイ及び冷却水の温度を高くすれば、ノズルの目詰まりは防止できるものの、樹脂粒子の発泡等の別の問題を生じることが理解でき、記載事項ス-3からは、ダイ温度が160℃において粒子が発泡する(比較例2,6)一方、ダイ温度が130℃において無発泡の発泡性粒子が得られること(実施例1)が理解できる。
すなわち、記載事項ス-1?ス-3からは、発泡性スチレンポリマーを押出物の顆粒化により製造する方法においては、ダイプレートの温度以外の顆粒化の際の条件によっては、ダイプレートの温度を高くした場合に、形状、粒径の均質な球状粒子が得られなくなるケースが存在することが、当業者に周知の事項であったことが理解できる。

前記技術常識や甲第18号証における記載にかんがみれば、本件訂正明細書の図1の形状Aに相当するダイプレートの孔の長さL、入口の孔の大きさ、ダイプレート自体の長さ、顆粒化する際の水圧、水温及び切断速度などの製造条件について何ら特定されていない実施例2において、発泡剤含有ポリスチレン溶融物の温度が200℃のときに、ダイプレートの温度が該溶融物の温度より-20℃?40℃高く加熱される場合に、ダイプレートの温度を上昇させることによる顆粒径の減少が示されているとしても、発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度が160?240℃の範囲であり、さらにダイプレートの加熱温度が発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高い範囲であれば、実施例2と同様の結果をもたらすことが当業者において容易に予測しうるものであるということはできない。
よって、本件発明1においては、発泡剤含有ポリスチレン溶融物の温度が200℃のときに、ダイプレートの温度が該溶融物の温度より-20℃?40℃高く加熱されることが示されているにすぎない実施例2の結果のみをもって、直ちに、発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度が160?240℃のすべての範囲において、ダイプレートの加熱温度が発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高い範囲で、ダイプレートの加熱温度を上昇させることにより顆粒径の減少がもらたされるという効果を奏するものであるということはできない。
したがって、本件発明1の上記相違点2に係る発明特定事項を備えることにより奏される効果として示された、ダイプレートの温度を上昇させることによる顆粒径の減少については認めることができない。

1-7.被請求人の主張についての検討

1-7-1.被請求人の主張

被請求人は上記相違点2に関連して、概略、以下の主張を述べている。

主張1:
発泡剤含有ポリマー溶融物は、通常のポリマーの溶融物とは大いに異なり、ポリマー中への発泡剤の溶解性には、強い温度依存性が有ります。そして、高温では、ポリマーと発泡剤との強い相分離が観察される傾向があり、大小様々な気泡がポリマーの溶融物において増加する傾向があります。このような気泡は、ダイ孔を通過する際に圧力低下するため、自然に膨張します。このため、長時間の安定した顆粒化ができなくなる可能性があります。従って、当業者は、発泡剤含有ポリマー溶融物については、甲第8?18号証の技術を考慮することは有りません。(平成22年2月12日付け口頭審理陳述要領書の30ページ2?9行)
したがいまして、上記問題を考慮する必要がない、発泡剤を「含有しない」ポリスチレンの押出し成形に関するダイの加熱技術を発泡剤含有のポリスチレンの押出しの際のダイに適用することは、当業者は考えないことです。(平成22年2月12日付け口頭審理陳述要領書の31ページ3?5行)
請求人は、2月26日付け提出の上申書、第13頁下から6行からの「第7」において、甲号証13、13の3、36を提出して、主張している事項は、発泡剤含有のスチレンポリマーの製造に関して、ダイを高く加熱することで問題が起こりえたとしても、冷却水の加圧などによってこの問題を解消できるものであるから、そのような事情は阻害要因になり得ないというものであると考える。しかしながら、ダイを高く加熱した場合に問題が生じると一般に認識されていることは、当方被請求人における当業者が開陳した事情だけでなく、上述した甲第18号証や甲第17号証からも理解されるものである。(平成22年3月19日付け上申書の15ページ15?22行)
そのような発泡を押さえる技術が存在するとしても、逆に、これまでの技術では、そのような技術を付加しなければ良好な顆粒化が達成できないということを意味しているに過ぎない。したがって、請求人の主張(上記上申書第7(1))は、阻害要因を打ち消す理由にはならないと思料する。すなわち、発泡剤入りのスチレンポリマーの製造過程において、ダイから押し出された後に複雑な付加的な作業を行うことなく良好な顆粒状態を得ることのできる本件特許発明の進歩性を否定する根拠にはなり得ないと思料する。(平成22年3月19日付け上申書の16ページ1?7行)

主張2:
段落【0021】に、「ダイプレートは、少なくとも発泡剤含有ポリスチレン溶融物の温度に加熱される。ダイプレートの温度は、発泡剤含有ポリスチレン溶融物の温度より20?100℃高い範囲にあることが好ましい。これにより、ダイ中のポリマー堆積を防止することができ、塩を含まない(正しくは『問題のない』)顆粒化が保証される。」と記載されています。この記載は、構成C)、D)に対応しています。そして、上記製造方法に対応する実施例が、実施例2に示されており、そこに記載されたデータ及び記載から微細な粒径の発泡性ポリスチレン顆粒が均一に得られていることが理解できると思料します。また、このようにして得られた発泡性ポリスチレン顆粒により、本件特許発明の目的に示したように、発泡により均一な構造及び高いセル数を備えたフォームを得ることができるものです。(平成22年2月12日付け口頭審理陳述要領書の31ページ14?24行)

1-7-2.主張1について

確かに、被請求人が主張するとおり、発泡剤含有ポリマー溶融物をより高温にさらすことにより、得られるポリマー顆粒が発泡等の問題を起こすことについては、記載事項ス-1?ス-3より、当業者に周知の事項であったと認められるが、甲第4号証には、重合体のTg値以上の高温で作業を行い徐冷する方法では、使用材料が発泡するという望ましくない危険が伴うことが記載されていることから(記載事項ア-2)、甲4発明においても、同様の問題を認識していたことは明らかであるといえる。
そして、甲4発明は、上記問題を認識した上で、重合体の切断顆粒化、顆粒の冷却処理はともに2Bar.以上の高圧下に行うことを発明特定事項としたものであり、切断室を循環する水の圧力が9Bar.である実施例1において無発泡の顆粒が得られ、圧力が2Bar.である比較例1において一部発泡した顆粒が得られていることからも(記載事項ア-5)、甲4発明は、切断室を循環する水の圧力を高くすれば、発泡剤含有ポリマー溶融物の温度をより高くしても無発泡の顆粒を得ることができることが裏付けられているといえる。
そうすると、発泡剤含有ポリマー溶融物をより高温にさらすことにより、得られるポリマー顆粒が発泡等の問題を起こすことが当業者に周知の事項であるとしても、甲4発明においては、重合体の切断顆粒化、顆粒の冷却処理はともに2Bar.以上の高圧下に行うことで、上記問題を解決したものであり、さらに、甲第4号証には、押出し温度は常に軟化点よりも一段と高い値に保つようにすること(記載事項ア-3)が記載されているように、甲4発明は、押出し温度を高い値にすることを妨げるものではないことが明らかであることから、ダイプレートの押出孔の目詰まりを防止する目的でダイプレートを加熱するというポリマー溶融物の押出し顆粒化における周知の技術を、甲4発明に係るダイに適用することに対する阻害要因となるとはいえない。

1-7-3.主張2について

本件特許明細書の段落【0035】?【0036】には、実施例2において、溶融温度が200℃であるとき、ダイプレート温度を180℃、200℃、220℃及び240℃と上昇させることにより、顆粒径が0.80mm、0.65mm、0.60mm、0.55mmと減少することが記載されており、実施例2の結果から、溶融温度が200℃であるとき、ダイプレート温度を180℃から240℃へと高くすると得られる発泡性ポリスチレン顆粒の顆粒径を小さくすることができることが確認できるが、得られる発泡性スチレンポリマーを発泡させてフォームを得ることについては何ら実証されておらず、さらに本件明細書の段落【0046】?【0049】には、実施例7?10において、実施例2における溶融温度が200℃でダイプレート温度が180℃の場合の顆粒径(0.80mm)よりも大きい1.0mm顆粒径を有する発泡性ポリスチレン顆粒が、発泡により均一な構造及び高いセル数を備えたフォームを得ることが実証されていることからみて、得られる発泡性スチレンポリマーの顆粒径と、「特に発泡により均一な構造及び高いセル数を備えたフォームを得ることができる」(本件特許明細書の段落【0007】)という本件発明の課題を解決することとの関連性を認めることができないことから、実施例2の結果をもって、本件発明1に係る「ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され」ると規定することによって奏される効果が、直ちに「発泡により均一な構造及び高いセル数を備えたフォームを得ることができる」ことであるということはいえない。
なお、被請求人が主張する「微細な粒径の発泡性ポリスチレン顆粒が均一に得られていること」が、ダイプレートの温度を上昇させることによる顆粒径の減少と同義であるとすれば、上記1-6.で述べたとおり、本件発明1に係る「ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され」の規定により奏される効果であるとはいえない。

1-7-4.被請求人の主張についてのまとめ

上記のとおりであるから、被請求人の主張はいずれも採用できない。

1-8.本件発明1についてのまとめ

本件発明1は、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない。

2.本件発明2についての検討

2-1.本件発明2

本件発明2は、上記「第3.本件発明」において述べたとおり、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項を発明特定事項とするものと認められる。

本件発明1において、「発泡性スチレンポリマー」について、その多分散度の上限を規定したものである。

2-2.本件発明2と甲4発明との対比

本件発明2と甲4発明とを対比すると、本件発明2は、本件発明1において検討した上記相違点1?2に加え、以下の点で相違している。

相違点3:発泡性スチレンポリマーの分子量分布について、本件発明2は、「3.5以下の多分散度M_(w)/M_(n)」と規定しているのに対し、甲4発明は、多分散度に関する規定がない点。

2-3.相違点3についての検討

甲第26号証には以下のとおり記載されている。

エ-2.「発泡性ポリスチレン粒子の分子量は通常相対粘度(トルエン,30℃,1wt%濃度)1.5?3.0,最も一般的には1.6?2.3のポリスチレンが使用される。
分子量分布はGPC分子量分布でM_(w)/M_(n)(重量平均分子量/数平均分子量)が2.0?4.0,最も一般的には2,3?3.0のポリスチレンが使用されている。」(33ページ)

発泡性スチレンポリマーの分子量分布が3.5以下の多分散度M_(w)/M_(n)を有するものについては、記載事項エ-2より、発泡性スチレンポリマーとして周知の事項であったことが理解できる。
そうすると、甲4発明における発泡性顆粒の分子量分布を、上記周知の範囲に規定することについては、当業者が容易に想到しうるものである。

ところで、本件発明1の上記相違点3に係る発明特定事項を備えることにより奏される効果について、本件訂正明細書の段落【0010】には、「極めて小さい顆粒粒子を得るために、ダイ出口の後のダイ型張り(膨潤)はできるだけ低く抑えるべきである。ダイ型張りは、特にスチレンポリマーの分子量分布により影響され得ることが分かっている。このため、発泡性スチレンポリマーは、分子量分布として、3.5以下、特に1.5?2.8、極めて好ましくは1.8?2.6の多分散度M_(w)/M_(n)を持たなければならない」と記載され、本件訂正明細書の実施例6において、発泡剤含有ポリスチレン溶融物のM_(w)/M_(n)を3、2、1.5と小さくすることにより、顆粒径が0.8mm、0.6mm、0.5mmと減少することが記載されている(段落【0043】?【0045】)。

ここで、甲第8号証には以下のとおり記載されている。

オ-3.「バラス効果 粘弾性流体である高分子の溶融物は細管から吐出すると細管の口径に対し直径が1?2倍に膨張する。このような現象をバラス効果と言い,ふくらみ比をメモリーエフェクト(ME)などと呼んでいる. ・・・
LD-8(B-LDPE;押出コーティング用グレード)はLD-6(同;フィルム用グレード)に比べ分子量分布が広く,その高分子部分のために溶融樹脂の弾性が高いのでMEの値が大きく,押出コーティングの際ネックインが小さいと考えられる(図3.58).」(107ページ左欄9行?右欄1行)

また、甲第22号証の4には下記のとおり記載されている。

セ-1.「実際、いくつかの調査員(21,80)が重量平均分子量の増加に伴ってダイスウェルの割合が増加すること、また、広い分子量分布(数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの割合で定義される。)のポリマーは、同じ重量平均分子量で狭い分子量分布のそれよりもダイスウェルの割合が大きくなることを見いだしている。」(3?7行)

記載事項オ-3及びセ-1から、ポリマー溶融物を押し出すにあたり、分子量分布を小さくすれば、ダイスウェルが小さくなることは、当業者に周知の事項であることが理解できる。
そして、発泡剤含有ポリマー溶融物においても、発泡剤を含有しないポリマー溶融物に関する上記周知の事項と同様の挙動を示すと解するのが自然であることから、分子量分布を特定の多分散度M_(w)/M_(n)とすることによる顆粒径の減少効果については、上記周知の事項にかんがみれば、当業者が容易に予測しうるものであるといえる。

2-4.本件発明2についてのまとめ

本件発明2は、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない。

3.本件発明3についての検討

3-1.本件発明3

本件発明3は、上記「第3.本件発明」において述べたとおり、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載された事項を発明特定事項とするものと認められる。

本件発明1?2において、使用する「スチレンポリマー」について、その具体的な種類を特定したものである。

3-2.本件発明3と甲4発明との対比

本件発明3と甲4発明とを対比すると、本件発明3は、本件発明1において検討した上記相違点1?2、及び本件発明2において検討した上記相違点3に加え、以下の点で相違している。

相違点4:スチレンポリマーについて、本件発明3は、その具体的な種類を特定しているのに対し、甲4発明は、そのような規定がない点。

3-3.相違点4についての検討

甲第25号証には以下のとおり記載されている。

ソ-1.「熱可塑性樹脂(A)と、発泡剤(B)とを溶融混練し(工程1)、これをダイヘッドの押出孔から、熱可塑性樹脂(A)と発泡剤(B)との溶融混練物が発泡しない温度圧力に加熱加圧された加熱加圧液中に吐出して、即時切断し(工程2)、得られた樹脂粒子を加圧下で、かつ、分散剤及び/又は界面活性剤の存在下に、更に加熱(工程3)した後、冷却、除圧して取り出す(工程4)ことを特徴とする発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1)

ソ-2.「本発明で用いる熱可塑性樹脂(A)としては、特に制限はなく、発泡剤により発泡可能な樹脂であればよく、例えばポリスチレン、スチレンーブタジェン共重合体(耐衝撃性ポリスチレン)、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、AS樹脂、ABS樹脂等の芳香族ビニル系樹脂、・・・、ポリフェニレンエーテル等の単独あるいは混合物が挙げられ、・・・、特に芳香族ビニル系樹脂が好ましい。」(段落【0008】)

記載事項シ-1?シ-2及びソ-1?ソ-2から、発泡性スチレンポリマーに用いられるスチレンポリマーとして、本件発明3で特定するポリマーとすることについては、当業者に周知の事項であることが理解できる。
そうすると、甲4発明にかかるポリスチレンとして、上記周知のスチレンポリマーを採用することについては、当業者が容易に想到しうるものである。
そして、上記相違点4に係る発明特定事項を備えることにより奏される効果も、当業者が容易に予測しうる程度のことにすぎず、格別顕著なものであるとはいえない。

3-4.本件発明3についてのまとめ

本件発明3は、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない。

4.本件発明4についての検討

4-1.本件発明4

本件発明4は、上記「第3.本件発明」において述べたとおり、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項4に記載された事項を発明特定事項とするものと認められる。

本件発明1?3において、「発泡剤」について、その種類、配合量及び均一分布状態で含んでいることを限定したものである。

4-2.本件発明4と甲4発明との対比

本件発明4と甲4発明とを対比すると、甲第4号証には、発泡剤としてn-ペンタン、イソ-ペンタンのような脂肪族飽和炭化水素、ブタン、ヘキサン、石油エーテル、シクロペンタン、あるいはフルオロ-クロル-炭化水素類(記載事項ア-4)が記載されていることから、甲4発明における「発泡剤」は、本件発明4における「炭素原子数2?7個の脂肪族炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル又はハロゲン化炭化水素からなる群から選択される1種以上の発泡剤」に相当し、発泡剤の含有量についてみれば、甲第4号証には、重量比70対30のn-ペンタン-イソ-ペンタン混合物約6.2重量%の量で溶融重合体に添加すること(記載事項ア-5)が記載されていることから、甲4発明における配合量である「約6.2重量%」と、本件発明4における配合量である「2?10質量%」とは、その範囲が重複する部分を有していることから、本件発明4は、本件発明1において検討した上記相違点1?2、本件発明2において検討した上記相違点3、及び本件発明3において検討した上記相違点4に加え、以下の点で相違している。

相違点5:本件発明4は、発泡剤を「均一分布状態で含んでいる」のに対し、甲4発明は、当該規定がない点。

4-3.相違点5についての検討

甲第4号証には、実施例1において予備発泡粒子が均一気泡構造を有していること(記載事項ア-5)が記載されていることから、甲4発明において、予備発泡粒子とする前の発泡剤含有発泡性顆粒の発泡剤の分布状態が均一であることは明らかであり、そうすると、発泡剤含有発泡性顆粒とする前の発泡剤含有発泡性融塊の状態においても発泡剤の分布状態が均一であることは明らかであるといえる。
よって、上記相違点5は実質的な相違点ではない。

4-4.本件発明4についてのまとめ

本件発明4は、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない。

5.本件発明5についての検討

5-1.本件発明5

本件発明5は、上記「第3.本件発明」において述べたとおり、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項5に記載された事項を発明特定事項とするものと認められる。

本件発明1?4において、さらに「可塑剤」を含むことに加えて、その種類及び配合量を特定したものである。

5-2.本件発明5と甲4発明との対比

本件発明5と甲4発明とを対比すると、本件発明5は、本件発明1において検討した上記相違点1?2、本件発明2において検討した上記相違点3、本件発明3において検討した上記相違点4、及び本件発明4において検討した実質的な相違点ではない上記相違点5に加え、以下の点で相違している。

相違点6:本件発明5は、可塑剤を配合するとともに、その種類及び配合量を特定しているのに対し、甲4発明は、可塑剤に関する規定がない点。

5-3.上記相違点6についての検討

甲第27号証には以下のとおり記載されている。

タ-1.「発泡剤を含有するポリビニル(ビニリデン)芳香族化合物の熱発泡性粒子であって、その粒子がポリビニル(ビニリデン)芳香族化合物と可塑剤の全重量に基づいて少なくとも0.6%の可塑剤を含有し、且つその粒子が脂肪酸の一種以上のグリセリド類及び/又は油により少なくとも部分的に被覆されていることを特徴とする粒子。」(特許請求の範囲の請求項1)

タ-2.「低分子量の公知の可塑剤が有用である。好ましい可塑剤は低分子量芳香族化合物例えばスチレン或いはアルファ-メチルスチレンなどの芳香族化合物のモノマー或いはオリゴマーである。好ましいオリゴマーは二量体及び/又は三量体である。
その他の有用な可塑剤は例えば、フタレートエステル類、例えばジ-n-オクチルフタレートのジアルキルフタレート類;・・・などが挙げられる。
標準条件即ち25℃及び1バールにおいて、液状である油類も可塑剤として有用である。好ましくは鉱油が用いられる。」(5ページ右下欄14行?6ページ左上欄11行)

また、甲第31号証には以下のとおり記載されている。

チ-1.「1.処理により35g/l又はこれより小さい密度を有する発泡体をもたらすことができ、かつ均斉に分布されたグラファイト粉末を含有することを特徴とする粒子状膨張性スチレン重合体。
・・・
10.グラファイト粉末及び発泡剤を、押出機中において、溶融ポリスチレンと混合し、次いで溶融体を押出し、冷却し、顆粒化することを特徴とする、請求項1の膨張性スチレン重合体の製造方法。」(特許請求の範囲の請求項1及び10)

チ-2.「このスチレン重合体は、慣用で周知の助剤、添加剤、例えば難燃化剤、核形成剤、UV安定剤、連鎖転移剤、発泡剤、可塑剤、ピグメント、酸化防止剤などを含有し得る。」(6ページ7?9行)

記載事項タ-1?タ-2及びチ-1?チ-2から、発泡性スチレンポリマー溶融物に、公知の可塑剤を配合することについては、当業者に周知の事項であることが理解できる。
そうすると、甲4発明にかかる発泡剤配合重合体に、可塑剤を配合するとともに、その配合量について最適化を図ることについては、当業者が容易に想到しうるものである。
そして、上記相違点6に係る発明特定事項を備えることにより奏される効果も、当業者が容易に予測しうる程度のことにすぎず、格別顕著なものであるとはいえない。

5-4.本件発明5についてのまとめ

本件発明5は、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない。

6.本件発明6についての検討

6-1.本件発明6

本件発明6は、上記「第3.本件発明」において述べたとおり、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項6に記載された事項を発明特定事項とするものと認められる。

本件発明1?5において、さらに「ダイプレートの孔が、少なくとも2のL/D比(ダイ出口の直径(D)に対する、直径が最大でダイ出口の直径に対応するダイ領域の長さ(L)の比)を有する」と限定したものである。

6-2.本件発明6と甲4発明との対比

本件発明6と甲4発明とを対比すると、本件発明6は、本件発明1において検討した上記相違点1?2、本件発明2において検討した上記相違点3、本件発明3において検討した上記相違点4、本件発明4において検討した実質的な相違点ではない上記相違点5、及び本件発明5において検討した上記相違点6に加え、以下の点で相違している。

相違点7:本件発明6は、ダイプレートの孔が、少なくとも2のL/D比(ダイ出口の直径(D)に対する、直径が最大でダイ出口の直径に対応するダイ領域の長さ(L)の比)を有するのに対し、甲4発明は、L/D比に関する規定がない点。

6-3.上記相違点7についての検討

甲第19号証には以下の事項が記載されている。

ツ-1.「【請求項1】 発泡剤含有熱可塑性樹脂の溶融混練物を、ペレタイズ用ダイス内に導入してダイスの押出孔に向けて流路を流動させ、次いでこの流路よりも流路断面積の大きい流路に流入させた後、押出孔を通過させ、その出口から加圧液中に押出し、即時切断して粒子とし、次いで冷却することを特徴とする発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造法。
・・・
【請求項5】 熱可塑性樹脂が、スチレン系樹脂である請求項1、2又は3記載の製造法。」(特許請求の範囲の請求項1及び5)

ツ-2.「【課題を解決するための手段】本発明者等は、この様な状況に鑑みて鋭意検討した結果、発泡剤含有熱可塑性樹脂の溶融混練物を、ペレタイズ用ダイス内に導入してダイスの押出孔に向けて流路を流動させ、次いでこの流路よりも流路よりも流路断面積の大きい流路に流入させると、流入時に溶融混練押出で受けた応力が大きく緩和されるため、これを造粒することにより、残留応力が少なく、均一な発泡ができ、良好な予備発泡粒子や発泡成形品が安定して得られる発泡性熱可塑性樹脂粒子を容易に製造できることを見い出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0005】)

ツ-3.「図1において、それぞれ1はペレタイズ用ダイス、2は発泡剤含有熱可塑性樹脂溶融混練物の導入のための流路、3は該流路2より流路断面積の大きい流路、4は押出孔、5は押出孔の出口、6は押出孔の出口5を構成する硬化剤層である。また図2において、1、2、4、5および6は図1と同様で、7は導入路2から続く複数の流路、8は該流路7より流路断面積の大きい流路である。さらに図3において、1、2、4、5および6は図1と同様で、7は導入路2から続く複数の流路である。
本発明で用いるこのようなペレタイズ用ダイスにおいて、流路3又は流路8のような流路断面積の大きい流路の断面積の大きさは、通常流路2又は流路7のようなその前の流路の流路断面積の2倍以上、好ましくは2?10倍であり、また押出孔の大きさは、通常直径0.3?3mm、好ましくは0.5?1mmである。また、押出孔の長さ(流路断面積の大きい流路の終点から押出孔の出口までの距離)は、20mm以下が好ましい。」(段落【0015】?【0016】)

ツ-4.「【図1】

」(6ページの【図1】)

甲第19号証には、押出孔の大きさは、通常直径0.3?3mmであり、押出孔の長さ(流路断面積の大きい流路の終点から押出孔の出口までの距離)は、20mm以下が好ましいことが記載されており(記載事項ツ-3)、ペレタイズ用ダイスの孔が、少なくとも2のL/D比の範囲を含むことが明らかであることから、記載事項ツ-1?ツ-4から、均一な発泡ができ、良好な予備発泡粒子や発泡成形品を安定して得られる発泡性熱可塑性樹脂粒子を得ることを目的とした発泡剤含有熱可塑性樹脂粒子の製造法において、ペレタイズ用ダイスの押出孔が、少なくとも2のL/D比の範囲有するものを用いることについては、本願出願前に公知の技術であることが理解できる。
そうすると、甲4発明にかかる押出しダイヘッドとして、当該公知のペレタイズ用ダイスを適用することについては、当業者が容易に想到しうるものである。
そして、上記相違点7に係る発明特定事項を備えることにより奏される効果も、当業者が容易に予測しうる程度のことにすぎず、格別顕著なものであるとはいえない。

6-4.本件発明6についてのまとめ

本件発明6は、甲第4号証に記載された発明及び甲第19号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない。

7.本件発明7についての検討

7-1.本件発明7

本件発明7は、上記「第3.本件発明」において述べたとおり、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項7に記載された事項を発明特定事項とするものと認められる。

本件発明1?6において、さらに「ダイプレートのダイ入口における孔の直径(E)が、ダイ出口における直径(D)の少なくとも2倍の大きさである」と限定したものである。

7-2.本件発明7と甲4発明との対比

本件発明7と甲4発明とを対比すると、本件発明7は、本件発明1において検討した上記相違点1?2、本件発明2において検討した上記相違点3、本件発明3において検討した上記相違点4、本件発明4において検討した実質的な相違点ではない上記相違点5、本件発明5において検討した上記相違点6、及び本件発明6において検討した上記相違点7に加え、以下の点で相違している。

相違点8:本件発明7は、ダイプレートのダイ入口における孔の直径(E)が、ダイ出口における直径(D)の少なくとも2倍の大きさであるのに対し、甲4発明は、当該規定がない点。

7-3.上記相違点8についての検討

上記6-3.で検討したとおり、甲4発明にかかる押出しダイヘッドとして、記載事項ツ-1?ツ-4から本願出願前に公知であるペレタイズ用ダイスを適用することについては、当業者が容易に想到しうるものであるが、その際、ダイス入口の流路を、押出孔の直径より大きく設定することについては、ツ-4の図1の記載からも明らかであり、当業者が容易に想到しうるものである。
そして、上記相違点8に係る発明特定事項を備えることにより奏される効果も、当業者が容易に予測しうる程度のことにすぎず、格別顕著なものであるとはいえない。

7-4.本件発明7についてのまとめ

本件発明7は、甲第4号証に記載された発明及び甲第19号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない。

8.本件発明8についての検討

8-1.本件発明8

本件発明8は、上記「第3.本件発明」において述べたとおり、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項8に記載された事項を発明特定事項とするものと認められる。

本件発明1?7において、さらに「ダイプレートの孔が、180°未満のゲート角αを有する円錐形のゲートを有する」と限定したものである。

8-2.本件発明8と甲4発明との対比

本件発明8と甲4発明とを対比すると、本件発明8は、本件発明1において検討した上記相違点1?2、本件発明2において検討した上記相違点3、本件発明3において検討した上記相違点4、本件発明4において検討した実質的な相違点ではない上記相違点5、本件発明5において検討した上記相違点6、本件発明6において検討した上記相違点7、及び本件発明7において検討した上記相違点8に加え、以下の点で相違している。

相違点9:本件発明8は、ダイプレートの孔が、180°未満のゲート角αを有する円錐形のゲートを有するのに対し、甲4発明は、当該規定がない点。

8-3.上記相違点9についての検討

甲第19号証には、発泡剤含有熱可塑性樹脂溶融混練物の導入のための流路2、流路2より流路断面積の大きい流路3、及び押出孔4を有するペレタイズ用ダイスが記載されており(記載事項ツ-3及びツ-4)、上記流路3の押出孔4側が円錐形部分であり、この部分が本件発明8に係る「180°未満のゲート角αを有する円錐形のゲート」に相当することがツ-4の図1の記載からも明らかであることから、記載事項ツ-1?ツ-4から、均一な発泡ができ、良好な予備発泡粒子や発泡成形品を安定して得られる発泡性熱可塑性樹脂粒子を得ることを目的とした発泡剤含有熱可塑性樹脂粒子の製造法において、ペレタイズ用ダイスの押出孔が、180°未満のゲート角αを有する円錐形のゲートを有することについては、本願出願前に公知の技術であることが理解できる。
そうすると、甲4発明にかかる押出しダイヘッドとして、当該公知のペレタイズ用ダイスを適用することについては、当業者が容易に想到しうるものである。

そして、上記相違点9に係る発明特定事項を備えることにより奏される効果について、本件訂正明細書の段落【0037】?【0038】には、実施例3において、図1の形状Bに相当する円錐形ゲート角を有するダイプレートのゲート角αが180°、90°、45°、30°である場合に、顆粒径が0.8mm、0.7mm、0.65mm、0.60mmと減少することが示されている。
しかしながら、実施例3には、ダイプレートを加熱する温度について記載されておらず、実施例3が、「ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され」の発明特定事項を含む本件発明8に係る態様であるとはいえないことから、実施例3の結果をもって、上記相違点9に係る発明特定事項を備えることにより奏される効果が、ゲート角αを小さくすることによる顆粒径の減少効果であるとはいえず、よって格別顕著な効果であるとはいえない。

8-4.本件発明8についてのまとめ

本件発明8は、甲第4号証に記載された発明及び甲第19号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない。

9.本件発明9についての検討

9-1.本件発明9

本件発明9は、上記「第3.本件発明」において述べたとおり、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項9に記載された事項を発明特定事項とするものと認められる。

本件発明1?8において、さらに「ダイプレートが、異なる出口直径(D)を有する複数の孔を有する」と限定したものである。

9-2.本件発明9と甲4発明との対比

本件発明9と甲4発明とを対比すると、甲第4号証には、各孔径が0.7mmの孔20個を装備した押出しダイヘッド中から引き通すこと(記載事項ア-5)が記載されていることから、甲4発明における「孔」は、本件発明9における「複数の孔」に相当する。
そうすると、本件発明9は、本件発明1において検討した上記相違点1?2、本件発明2において検討した上記相違点3、本件発明3において検討した上記相違点4、本件発明4において検討した実質的な相違点ではない上記相違点5、本件発明5において検討した上記相違点6、本件発明6において検討した上記相違点7、及び本件発明7において検討した上記相違点8に加え、以下の点で相違している。

相違点10:ダイプレートの複数の孔について、本件発明9は、異なる出口直径を有するのに対し、甲4発明は、当該規定がない点。

9-3.相違点10についての検討

ダイプレートの複数の孔の出口直径を異ならせることについては、所望とする粒径範囲に応じて当業者が適宜変更しうることであり、当業者が容易に想到しうるものである。
そして、上記相違点10に係る発明特定事項を備えることにより奏される効果も、当業者が容易に予測しうる程度のことにすぎず、格別顕著なものであるとはいえない。

9-4.本件発明9についてのまとめ

本件発明9は、甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない。

10.本件発明10についての検討

10-1.本件発明10

本件発明10は、上記「第3.本件発明」において述べたとおり、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項10に記載された事項を発明特定事項とするものと認められる。

本件発明1?9において、「発泡剤含有スチレンポリマー溶融物」について、「スチレンポリマーに対して0.05?1.5質量%の水を含んでいる」と限定したものである。

10-2-1.本件発明10と甲4発明との対比

本件発明10と甲4発明とを対比すると、本件発明8は、本件発明1において検討した上記相違点1?2、本件発明2において検討した上記相違点3、本件発明3において検討した上記相違点4、本件発明4において検討した実質的な相違点ではない上記相違点5、本件発明5において検討した上記相違点6、本件発明6において検討した上記相違点7、本件発明7において検討した上記相違点8、本件発明8において検討した上記相違点9、本件発明9において検討した上記相違点10に加え、以下の点で相違している。

相違点11:本件発明10は、スチレンポリマーに対して0.05?1.5質量%の水を含んでいるのに対し、甲4発明は、当該規定がない点。

10-2-2.上記相違点11についての検討

請求人は審判請求書の「5)新規性進歩性の欠如」の「5)-1 その1」における「III-14 本件発明14について」において、
「掲記した甲30の記載30aには、発泡性ポリスチレン粒子の含水率が0.1部、2.0部であることが記載されている。
ここで、甲4発明と甲30に記載の技術とは、関連する技術分野に属するものである。よって、甲4発明に、甲30に記載された技術的事項を採用することは十分に動機付けられる。
更に、本件明細書からは、含水率を0.05?1.5質量%とすることによって、何らかの特別顕著な効果が奏されたとも認められない。
従って、本件発明14は、甲4発明、甲30に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易になしえたものというべきである。」と主張している。

ここで、甲第30号証には以下のとおり記載されている。

テ-1.「【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記特公昭42-24072号公報には、実施例において無機質粉末を熱可塑性樹脂100重量部に対して2重量部と多量に使用しているため、ダイス孔より加圧水中に押し出されて切断された粒子は、粒子内に内部発泡によるボイドが発生し、粒子表面より発泡剤が逸散するとともに、粒子内部に水分を巻き込みやすくなる。このため、発泡成形品においても、発泡倍率の低下、含水率の増大を招き、強度も悪化してしまう危険性がある。」(段落【0004】)

テ-2.「【表1】

」(段落【0036】の【表1】)

甲第30号証には、比較例2において含水率が0.1部の発泡性ポリスチレン粒子が、比較例3において含水率が2.0の発泡性ポリスチレン粒子が、それぞれ記載されているが(記載事項テ-2)、この含水率は発泡剤含有ポリスチレン溶融物中の含水率を示すものではなく、記載事項テ-1からみて、かかる含水率は冷却加圧水を巻き込んだために含有されることとなったものであって、甲第30号証には、当該箇所を含めて発泡剤含有ポリスチレン溶融物中の含水率については記載されていない。そして、甲第30号証記載の発泡性ポリスチレン粒子中の含水率から、発泡剤含有ポリスチレン溶融物中の含水率が本件発明10に係る規定の範囲内であったということもいえない。したがって、甲第30号証には、発泡剤含有スチレンポリマー溶融物が、スチレンポリマーに対して0.05?1.5質量%の水を含んでいることについては記載されているとはいえない。
よって、上記相違点11に係る発明特定事項を備えた本件発明10については、甲第4号証に記載された発明及び甲第30号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明ができたものであるとはいえない。

10-3-1.甲第25号証に記載された発明

甲第25号証には前記した記載事項ソ-1及びソ-2に加え以下の事項が記載されている。

ソ-3.「以上詳述した本発明の製造方法において、その一連の製造工程の一例を第1図に示す工程図を基に説明する。連結管5で結ばれた二台よりなるタンデム型押出機の内、第1番目の押出機2のホッパー1に熱可塑性樹脂成分を供給し、スクリューにより溶融した頃を見計らい3及び4のラインより発泡剤がポンプにより圧入され、混練性の良好な構造のスクリュ-で充分に溶融混練される(工程1)、次いで、発泡剤が混練された溶融樹脂は連結管5を通り第2番目の押出機6に移動し発泡剤の混練を継続しながら最適な温度に冷却され多数の細孔を有するダイヘッド7より吐出される。」(段落【0030】)

ソ-4.「【図1】

」(9ページの【図1】)

そうすると、記載事項ソ-1?ソ-4からみて、甲第25号証には、下記の発明(以下、「甲25発明」という。)が記載されているといえる。
「ポリスチレンである熱可塑性樹脂(A)と、発泡剤(B)とを溶融混練し(工程1)、これをダイヘッドの押出孔から、熱可塑性樹脂(A)と発泡剤(B)との溶融混練物が発泡しない温度圧力に加熱加圧された加熱加圧液中に吐出して、即時切断し(工程2)、得られた樹脂粒子を加圧下で、かつ、分散剤及び/又は界面活性剤の存在下に、更に加熱(工程3)した後、冷却、除圧して取り出す(工程4)ことを特徴とする発泡性熱可塑性樹脂粒子の製造方法。」

10-3-2.本件発明10と甲25発明との対比・検討

請求人は審判請求書の「5)新規性進歩性の欠如」の「5)-2 その2」における「III-14 本件発明14について」において、
「掲記した甲30の記載30aには、発泡性ポリスチレン粒子の含水率が0.1部、2.0部であることが記載されている。
ここで、甲25発明と甲30に記載の技術とは、関連する技術分野に属するものである。よって、甲25発明に、甲30に記載された技術的事項を採用することは十分に動機付けられる。
更に、本件明細書からは、含水率を0.05?1.5質量%とすることによって、何らかの特別顕著な効果が奏されたとも認められない。
従って、本件発明14は、甲25発明、甲30に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易になしえたものというべきである。」と主張している。

ここで、甲25発明と本件発明10とを対比すると、両者は少なくとも上記10-2-2.において検討した上記相違点11について相違している。
そして、相違点11については、上記したとおり甲第30号証には記載されていないことから、本件発明10は、甲第25号証に記載された発明及び甲第30号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明ができたものであるとはいえない。

10-4-1.甲第31号証に記載された発明

甲第31号証には前記した記載事項チ-1及びチ-2に加え以下の事項が記載されている。

チ-3.「実験例15-18
加熱された二軸押出機中において、グラファイト2%と、n-ペンタン80%及び20%イソペンタンの混合物5.0%を、平均分子量(Mw)220000、2.1%のHBCD及び0.42%ビクミルを含有する溶融ポリスチレン中に約160℃で計量給送し、この均質混合物を、180℃の溶融温度において、0.8mm径オリフィスの穿設されたダイプレートから押出し、このダイプレートに装着された水中顆粒化装置中に5バールの圧力下に押圧された紐状体は、回転ブレードにより1.5mm径の顆粒ないしビーズになされた。」(13ページ15?22行)

そうすると、記載事項チ-1?チ-3からみて、甲第31号証には、下記の発明(以下、「甲31発明」という。)が記載されているといえる。
「グラファイト粉末及び発泡剤を、押出機中において、溶融ポリスチレンと混合し、次いで溶融体を180℃の溶融温度において、0.8mm径オリフィスの穿設されたダイプレートから押出し、冷却し、顆粒化することを特徴とする、35g/l又はこれより小さい密度を有する発泡体をもたらすことができ、かつ均斉に分布されたグラファイト粉末を含有する粒子状膨張性スチレン重合体の製造方法。」

10-4-2.本件発明10と甲31発明との対比・検討

請求人は審判請求書の「5)新規性進歩性の欠如」の「5)-3 その3」における「III-14 本件発明14について」において、
「掲記した甲30の記載30aには、発泡性ポリスチレン粒子の含水率が0.1部、2.0部であることが記載されている。
ここで、甲31発明と甲30に記載の技術とは、関連する技術分野に属するものである。よって、甲31発明に、甲30に記載された技術的事項を採用することは十分に動機付けられる。
更に、本件明細書からは、含水率を0.05?1.5質量%とすることによって、何らかの特別顕著な効果が奏されたとも認められない。
従って、本件発明14は、甲31発明、甲30に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易になしえたものというべきである。」と主張している。

ここで、甲31発明と本件発明10とを対比すると、両者は少なくとも上記10-2-2.において検討した上記相違点11について相違している。
そして、相違点11については、上記したとおり甲第30号証には記載されていないことから、本件発明10は、甲第31号証に記載された発明及び甲第30号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明ができたものであるとはいえない。

10-5.本件発明10についてのまとめ

以上のとおり、請求人の審判請求書における上記主張はいずれも採用できるものではないから、本件発明10は、甲第4号証、甲第25号証又は甲第31号証に記載された発明並びに甲第30号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、その余の甲各号証の記載からみても、本件発明10は、甲第4号証乃至甲第31号証及び甲第34号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

11.無効理由2についてのまとめ

以上のとおりであるから、本件発明1?9は、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本件発明10は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

第7.無効理由3についての判断

請求人は、無効理由3について、(1)本件訂正明細書において、分子量M_(w)の測定方法が一切記載されておらず、分子量M_(w)は測定方法及び測定条件によって、その値が大きく異なるものであること、(2)本件訂正明細書において、ダイプレートの温度が如何なる加熱方式が採用されたダイプレートの如何なる部位における温度を意味するのかが明確ではなく、ダイプレートには温度勾配があり、その温度勾配も加熱方式によって異なるものであること、(3)本件発明1?10は、「ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され」ることを発明特定事項として備えるものであるが、本件訂正明細書において、溶融物温度を基準としてダイプレートの温度を規定する発明特定事項の技術的意義が当業者に理解できるように記載されていないこと、を挙げて、本件特許に係る出願は、その明細書の発明の詳細な説明の記載が不備であるため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、と主張する。

1.本件訂正明細書の記載事項

本件訂正明細書には以下の事項が記載されている。

a.「分子量M_(w)が170000未満のスチレンポリマーは顆粒化中にポリマー磨損を起こすことが分かった。発泡性スチレンポリマーは、190000?400000(g/モル)、特に220000?300000(g/モル)の範囲の分子量M_(w)を有することが好ましい。剪断力及び/又は温度の影響により分子量の低下を起こすために、発泡性ポリスチレンの分子量は、一般に使用されるポリスチレンの分子量よりおよそ10000(g/モル)低くなる。」(段落【0009】)

b.「ダイプレートは、少なくとも発泡剤含有ポリスチレン溶融物の温度に加熱される。ダイプレートの温度は、発泡剤含有ポリスチレン溶融物の温度より20?100℃高い範囲にあることが好ましい。これにより、ダイ中のポリマー堆積を防止することができ、塩を含まない顆粒化が保証される。」(段落【0021】)

c.「分子量M_(w)が170000(g/モル)を超える発泡性スチレンポリマーを製造する特に好ましい方法は、下記の工程:
a)スチレンモノマー及び所望により共重合可能なモノマーを重合する工程、
b)得られたスチレンポリマー溶融物を脱気する工程、
c)発泡剤及び所望により添加剤を、静的又は動的混合機を用いて少なくとも150℃の温度でスチレンポリマー溶融物に導入混合する工程、
d)発泡剤含有スチレンポリマー溶融物を少なくとも120℃の温度に冷却する工程、
e)ダイ出口の直径が1.5mm以下である孔を有するダイプレートを介して排出する工程、及び
f)発泡剤含有溶融物を顆粒化する工程
を含んでいる。
工程f)において、顆粒ダイプレートの直ぐ後で、1?10バールの水圧下に行うこと
ができる。」(段落【0026】?【0027】)

d.「実施例において特に断らない限り、実施例は、粘度数VNが98ml/g(M_(w)=280000g/モル、多分散度M_(w)/M_(n)=3.0)のPS-158K(BASF Aktiengesellschaft社製)及び6質量%のペンタンを含む発泡剤含有ポリスチレン溶融物を用いて行った。」(段落【0031】)

e.「【表2】

」(段落【0036】の【表2】)

2.上記(1)についての検討

本件発明1?10は、発泡性スチレンポリマーを製造する方法であって、「分子量M_(w)が220000?300000の範囲」を発明特定事項として備えるものである。

ところで、請求人が主張するとおり、本件訂正明細書には、分子量M_(w)の測定方法及び測定条件については記載されていない。そして、分子量M_(w)が測定方法及び測定条件により、その値が異なることについては、文献を提示するまでもなく、ポリマーの分子量測定に関する技術分野における周知の事項である。
しかしながら、本件訂正明細書には、実施例においてM_(w)=280000g/モルである市販品のPS-158Kをポリスチレンとして用いること(記載事項d)が記載されていることから、発泡性スチレンポリマーを製造する方法に供するスチレンポリマーとして、少なくとも分子量M_(w)=280000のものについては、その測定方法及び測定条件の記載の有無に関わらず、当業者が容易に入手可能である、すなわち当業者が容易に実施可能であるといえる。
また、本件訂正明細書には、剪断力及び/又は温度の影響により分子量の低下を起こすために、発泡性ポリスチレンの分子量は、一般に使用されるポリスチレンの分子量よりおよそ10000(g/モル)低くなること(記載事項a)が記載されているとともに、発泡性スチレンポリマーを製造する特に好ましい方法として、工程a)?f)を有すること(記載事項c)が記載されており、さらに、分子量M_(w)が220000?300000の範囲の発泡性スチレンポリマーについては、記載事項イ-1?イ-2、ウ-1及びエ-1より、当業者に周知の事項である。
そうすると、分子量M_(w)=280000g/モルである市販品のポリスチレンから、剪断力及び/又は温度の影響を考慮して、工程a)?f)の製造条件を適宜変更することにより、発泡性スチレンポリマーとして周知の分子量M_(w)範囲である、本件発明1?10に係る「分子量M_(w)が220000?300000の範囲」を発明特定事項として備える発泡性スチレンポリマーを製造することは、分子量M_(w)の測定方法及び測定条件の記載の有無に関わらず、当業者が容易に実施可能であるといえる。

なお、請求人は平成22年2月26日付けの上申書において、上記(1)に関して、「尚、付言するならば、「PS-158K」は、民間企業により市販されている原料であり、今後継続して、供給及び品質変わらないとは言い難い(メーカーの都合により製造停止、品質変更の可能性がある)。このような将来の不安のある原料(「PS-158K」)をもって、「PS-158Kの分子量を手がかりに分子量の測定方法及び条件を選定することは容易である」ということは、全く乱暴な主張と言わざるを得ない。」(7ページ7?12行)と主張しているが、PS-158Kが将来供給及び品質が変わるか否かに関わらず、記載事項dは、分子量M_(w)=280000のポリスチレンの入手が当業者に容易に実施可能であることが明らかであることを示していることから、さらに分子量の測定方法及び測定条件を特定する必要はない。
よって請求人の当該主張は採用することができない。

3.上記(2)についての検討

本件発明1?10は、発泡性スチレンポリマーを製造する方法であって、「ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され」ることを発明特定事項として備えるものである。

ところで、請求人が主張するとおり、本件訂正明細書には、ダイプレートの加熱方式及び如何なる部位の温度であるのかについては記載されていない。そして、ダイプレートには温度勾配があり、またその温度勾配が加熱方式によって異なることについては、記載事項オ-1?オ-2及びカ-1?カ-3から、水中カット法における押出物の顆粒化方法における周知の事項である。
しかしながら、記載事項オ-1?オ-2及びカ-1?カ-3からは、目的に応じてダイプレートの所望の位置における温度制御を行うことが、水中カット法における押出物の顆粒化方法における周知の事項であることを示すものでもあり、さらに、ダイプレートの加熱温度として、溶融物の温度より20?100℃高い範囲が、決して実施不可能な温度範囲ではないことは、例えば記載事項コ-1?コ-2及びサ-1?サ-2からも明らかである。
そうすると、ダイプレートの加熱方式及び如何なる部位の温度かが記載されておらず、ダイプレートに温度勾配があるとしても、上記周知の事項からダイプレートの温度を制御することは当業者が容易に実施可能であることにかんがみれば、本願発明1?10に係る「ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され」ることを発明特定事項として備える発泡性スチレンポリマーを製造する方法が、当業者が容易に実施できないとまではいえない。

なお、請求人は平成22年3月19日付けの上申書において、上記(2)に関して、「溶融樹脂の温度に関しても、ダイプレートを通る前、ダイプレート進入直後及びダイプレート排出直前等によって温度が変わるものであり、この溶融樹脂の温度が不明確であればこの温度よりも20℃から100℃高い温度にダイプレートを加熱すること自体が実施不可能であり、不明確な記載である」(13ページ下から4?1行)と主張しているが、ダイプレートを通る前、ダイプレート進入直後及びダイプレート排出直前等の溶融樹脂の温度が変わるとしても、この溶融樹脂の温度自体の測定が不可能であるとはいえないことから、この溶融樹脂の温度がどの時点の温度であっても、その温度より20℃から100℃高い温度にダイプレートを設定することが、当業者に実施できないとまではいえず、よって請求人の当該主張は採用できない。

4.上記(3)についての検討

本件訂正明細書には、ダイプレートの温度が、発泡剤含有ポリスチレン溶融物の温度より20?100℃高い範囲にあることにより、ダイ中のポリマー堆積を防止することができること(記載事項b)が記載されており、実施例2において、溶融温度が200℃であるとき、ダイプレート温度を180℃、200℃、220℃及び240℃と上昇させたときに、均一な顆粒径の発泡性ポリスチレン顆粒が得られていることからも(記載事項e)、ダイ中のポリマー堆積が防止されていることが裏付けられているといえる。
したがって、本件訂正明細書には、溶融物温度を基準としてダイプレートの温度を規定する発明特定事項の技術的意義が当業者に理解できるように記載されていないということはできない。

5.請求人の主張についてのまとめ

上記のとおりであるから、無効理由3についての請求人の主張は採用できない。

6.まとめ

本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載について、特許法第36条第4項第1号の規定に違反して特許されたものではない。

第8.無効理由4についての検討

請求人は、無効理由4について、(4)本件発明1?10は、「分子量M_(w)が220000?300000の範囲」を発明特定事項として備えるものであるが、本件訂正明細書において、製造されたスチレンポリマーの分子量M_(w)を具体的に開示した実施例が一切記載されておらず、また、出願時の技術常識に照らしても、分子量M_(w)に関して規定される範囲にまで一般化できるものでもないこと、(5)本件発明1?10は、「ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され」ることを発明特定事項として備えるものであるが、本件訂正明細書において、溶融物温度を基準としてダイプレートの温度を規定する発明特定事項の技術的意義が当業者に理解できるように記載されていないこと、を挙げて、本件特許に係る出願は、その明細書の特許請求の範囲の記載が不備であるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、と主張する。

1.上記(4)についての検討

請求人が主張するとおり、本件訂正明細書には、発泡性スチレンポリマーの分子量M_(w)を具体的に開示した実施例が記載されていないが、本件訂正明細書には、実施例においてM_(w)=280000g/モルのポリスチレンを原料として用いること(記載事項d)、剪断力及び/又は温度の影響により分子量の低下を起こすために、発泡性ポリスチレンの分子量は、一般に使用されるポリスチレンの分子量よりおよそ10000(g/モル)低くなること(記載事項a)が記載されており、これら記載事項a及びdから、実施例において、得られる発泡性スチレンポリマーの分子量M_(w)は270000程度であり、本件発明1?10に係る「分子量M_(w)が220000?300000の範囲」の規定の範囲内であるということができる。
一方、本件訂正明細書には、発泡性スチレンポリマーを製造する特に好ましい方法として、工程a)?f)を有すること(記載事項c)が記載されており、当該工程a)?f)の製造条件を適宜変更することにより、分子量M_(w)の低下を調節できることが当業者にとり明らかであることから、記載事項a、c及びdからは、発泡性スチレンポリマーの分子量M_(w)として、270000程度のみならず、それより広範囲の分子量M_(w)を有する発泡性スチレンポリマーについても示唆されているといえる。
そして、記載事項イ-1?イ-2、ウ-1及びエ-1から、分子量M_(w)が220000?300000の範囲の発泡性スチレンポリマーが当業者に周知の事項であることにかんがみれば、分子量M_(w)が270000程度の実施例から、発泡性スチレンポリマーとして周知の分子量M_(w)範囲である、本件発明1?10に係る「分子量M_(w)が220000?300000の範囲」まで拡張ないし一般化できないとまではいえない。

なお、請求人は平成22年2月26日付けの上申書において、上記(4)に関して、「しかしながら、被請求人が本件特許第4198113号に対応する欧州特許EP1517947B1の審判請求(審判番号:T0541/09-3309)において、欧州特許庁に提出した2009年11月25日付け答弁書に添付した実験レポート(甲35)によれば、分子量が39000も低下しており、分子量の低下は押出条件等によってどのような値になるのかは到底把握できないものと思料される。
従って、実施例のスチレンポリマーが分子量270000程度であると認識できるとする被請求人の主張は、自ら提出した実験レポートと矛盾するものであり、失当というほかない。
仮に分子量270000程度であると認識できたとしても、依然として、僅かこの一点の実施例のみをもって、分子量220000?300000の範囲において、【0004】に記載されたような分子量の顕著な低下もなく、分子量170000のもののようなポリマー磨損の問題もないもので、均一な顆粒サイズ分布のものが得られることは全くサポートされていないのである。」(4ページ3?16行)と主張している。
しかしながら、甲第35号証は、分子量の低下が押出条件等によってその程度が変化することを裏付ける証拠であるといえることから、この点において被請求人の主張は適切でないとしても、そのことをもって、本件発明について直ちにサポート要件違反ということはできず、さらに、被請求人は、「製造対象である220000?300000の分子量Mwを有する発泡性スチレンポリマー自体は、議論するまでもなく特別新たな概念ではなく、公知のものである。」(平成21年10月20日付け答弁書7ページ9?11行)、「そもそも構成A)の『分子量M_(w)が220000?300000の範囲にある発泡性スチレンポリマーを製造する』という事項については、本件特許発明1の製造対象を特定しているものであり、この構成A)が自体が新規な特徴を有する構成であるとは被請求人においても考えていないので、特に反論は要しないと考える。」(同答弁書16ページ20?24行)、さらには「得られた発泡性スチレンポリマーの分子量についても、市販されている『PS-158K』を原料としていることが本件特許明細書に明示されていることから、当業者が自明の範囲として認識可能である。」(被請求人が提出した平成22年2月12日付け口頭審理陳述要領書3ページ下から2行?4ページ2行)と主張しており、本件発明1?10に係る発明特定事項である「分子量M_(w)が220000?300000の範囲」の規定が、発泡性スチレンポリマーの分子量M_(w)として一般的な範囲であることを、被請求人自身も認めていることから、発泡性スチレンポリマーとして一般的な範囲としての本件発明1?10に係る発明特定事項である「分子量M_(w)が220000?300000の範囲」は、分子量M_(w)が270000程度である一点の実施例によってサポートされているということができ、よって請求人の当該主張は採用できない。

2.上記(5)についての検討

上記第7の4.「上記(3)についての検討」のとおり、本件訂正明細書には、溶融物温度を基準としてダイプレートの温度を規定する発明特定事項の技術的意義が当業者に理解できるように記載されていないということはできないことから、本件発明1?10に係る「ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され」るとの規定が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。

3.請求人の主張についてのまとめ

上記のとおりであるから、無効理由4についての請求人の主張は採用できない。

4.まとめ

本願は、明細書の特許請求の範囲の記載について、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものではない。

第9.無効理由5についての検討

請求人は、無効理由5について、(6)本件発明1?10は、「ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され」ることを発明特定事項として備えるものであるが、本件訂正明細書においてダイプレートの温度が如何なる加熱方式が採用されたダイプレートの如何なる部位における温度を意味するのかが明確ではなく、ダイプレートには温度勾配があり、その温度勾配も加熱方式によって異なるものであること、を挙げて、本件特許に係る出願は、その明細書の特許請求の範囲の記載が不備であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、と主張する。

1.上記(6)についての検討

上記第7の3.「上記(2)についての検討」のとおり、本件訂正明細書には、ダイプレートの加熱方式及び如何なる部位の温度であるのかについては記載されておらず、そして、ダイプレートには温度勾配があり、またその温度勾配が加熱方式によって異なることについては、水中カット法における押出物の顆粒化方法における周知の事項である。
しかしながら、本件発明1?10は、「ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され」ることを発明特定事項として備えるものであり、加熱方式やダイプレートの特定部位に限定した温度を発明特定事項として備えているものではないことから、ダイプレートには温度勾配があることが周知の事項であるとしても、「ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され」の規定は、ダイプレートの加熱条件に関する規定として明確であり、このことは加熱方式が明確であるか又はダイプレートに温度勾配があるか否かによって左右されるものではない。
よって、本件発明1?10に係る「ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され」るとの規定が明確でないとはいえない。

2.請求人の主張についてのまとめ

上記のとおりであるから、無効理由5についての請求人の主張は採用できない。

3.まとめ

本願は、明細書の特許請求の範囲の記載について、特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されたものではない。

第10.むすび

以上のとおりであるから、本件発明1?9の特許は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当するので、無効にすべきものである。
また、請求人の主張および証拠方法によっては、本件発明10の特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人がその10分の1を、そして被請求人がその10分の9を負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
発泡性スチレンポリマーの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量M_(w)が220000?300000の範囲にある発泡性スチレンポリマーを製造する方法であって、
160?240℃の温度を有する発泡剤含有スチレンポリマー溶融物を、ダイ出口の孔径が0.2?1.2mmの孔を有するダイプレートを介して搬送し、ダイプレートは前記発泡剤含有スチレンポリマー溶融物の温度より20?100℃高く加熱され、次いで押出物を顆粒化することを特徴とする方法。
【請求項2】
発泡性スチレンポリマーの分子量分布が、3.5以下の多分散度M_(w)/M_(n)を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スチレンポリマーとして、透明ポリスチレン(GPPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンポリマー(ABS)、スチレン-アクリロニトリル(SAN)又はこれらの混合物、或いはこれらとポリフェニレンエーテル(PPE)との混合物を使用する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
発泡剤含有スチレンポリマー溶融物が、炭素原子数2?7個の脂肪族炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル又はハロゲン化炭化水素からなる群から選択される1種以上の発泡剤を2?10質量%、均一分布状態で含んでいる請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
発泡剤含有スチレンポリマー溶融物が、鉱物油、オリゴマー性スチレンポリマー及びフタル酸エステルの可塑剤を、スチレンポリマーに対して0.05?10質量%の範囲の割合で含んでいる請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ダイプレートの孔が、少なくとも2のL/D比(ダイ出口の直径(D)に対する、直径が最大でダイ出口の直径に対応するダイ領域の長さ(L)の比)を有する請求項1?5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ダイプレートのダイ入口における孔の直径(E)が、ダイ出口における直径(D)の少なくとも2倍の大きさである請求項1?6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ダイプレートの孔が、180°未満のゲート角αを有する円錐形のゲートを有する請求項1?7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ダイプレートが、異なる出口直径(D)を有する複数の孔を有する請求項1?8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
発泡剤含有スチレンポリマー溶融物が、スチレンポリマーに対して0.05?1.5質量%の水を含んでいる請求項1?9のいずれかに記載の方法。
に記載された発明にある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子量M_(w)が170000g/モルを超える発泡性スチレンポリマーを製造する方法であって、
少なくとも120℃の温度を有する発泡剤含有スチレンポリマー溶融物を、ダイ出口の孔径が1.5mm以下の孔を有するダイプレートを介して搬送し、次いで押出物を顆粒化して、0.05?1.5質量%の内部水を含み、分子量M_(w)が170000g/モルを超える発泡性スチレンポリマーを得ることを特徴とする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡性スチレンポリマー(例、発泡性ポリスチレン(EPS))の懸濁重合による製造方法は、以前から知られている。これらの方法では、大量の水が生成して、これを排出しなければならないとの不利がある。得られたポリマーは内部水を除去するために乾燥させる必要がある。さらに、懸濁重合は一般に、広いビーズ径(粒度)分布をもたらすので、複雑な方法でふるい分けして異なるビーズ画分に分ける必要がある。
【0003】
さらに、発泡(した)スチレンポリマー(例えば、特許文献1(US3817669))及び発泡性スチレンポリマー(例えば、特許文献2(GB-A-1062307))は、押出法で製造することができる。特許文献3(EP-A-668139)には、発泡剤含有溶融物を静的混合素子により分散、保持及び冷却することにより製造し、次いで顆粒化するとの、発泡性スチレンポリマーの経済的な製造方法が記載されている。溶融物を固化温度より数度上まで冷却するために、大量の熱を放散させることが必要である。
【0004】
特許文献4(WO98/51735)には、グラファイト粒子を含み、低い熱伝導性を有する発泡性スチレンポリマーが記載されており、これらのポリマーは懸濁重合により又は二軸スクリュー押出機における押出により得ることができる。二軸スクリュー押出機の高い剪断力は、使用されるポリマーの分子量の顕著な低下及び/又は難燃剤等の添加剤の分解をもたらす。
【0005】
発泡性スチレンポリマー(EPS)の発泡中に得られるセル数及びフォーム構造は、理想的な断熱性及びフォームの良好な表面を達成する上で決定的に重要である。押出により製造されるEPS顆粒は、屡々発泡が不可能であり、理想的なフォーム構造が得られない。
【0006】
【特許文献1】US3817669
【特許文献2】GB-A-1062307
【特許文献3】EP-A-668139
【特許文献4】WO98/51735
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前述の不利を解消すること、及び小さい顆粒サイズ及び均一な顆粒サイズ分布を有する発泡性スチレンポリマー、特に発泡により均一な構造及び高いセル数を備えたフォームを得ることができる発泡性スチレンポリマーの経済的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明等は、上記目的は、冒頭に記載した方法、及び分子量M_(w)が170000g/モルを超え、0.05?1.5質量%の内部水を含む発泡性スチレンポリマーにより達成されることを見いだした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
分子量M_(w)が170000未満のスチレンポリマーは顆粒化中にポリマー磨損を起こすことが分かった。発泡性スチレンポリマーは、190000?400000(g/モル)、特に220000?300000(g/モル)の範囲の分子量M_(w)を有することが好ましい。剪断力及び/又は温度の影響により分子量の低下を起こすために、発泡性ポリスチレンの分子量は、一般に使用されるポリスチレンの分子量よりおよそ10000(g/モル)低くなる。
【0010】
極めて小さい顆粒粒子を得るために、ダイ出口の後のダイ型張り(膨潤)はできるだけ低く抑えるべきである。ダイ型張りは、特にスチレンポリマーの分子量分布により影響され得ることが分かっている。このため、発泡性スチレンポリマーは、分子量分布として、3.5以下、特に1.5?2.8、極めて好ましくは1.8?2.6の多分散度M_(w)/M_(n)を持たなければならない。
【0011】
スチレンポリマーとしては、透明ポリスチレン(GPPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アニオン性重合のポリスチレン又は耐衝撃性ポリスチレン(A-IPS)、スチレン-α-メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン重合体(ABS)、スチレン-アクリロニトリル(SAN)、アクリロニトリル-スチレン-アクリレート(ASA)、メタクリレート-ブタジエン-スチレン(MBS)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(MABS)重合体、又はこれらの混合物、或いはこれらとポリフェニレンエーテル(PPE)との混合物を使用することが好ましい。
【0012】
機械特性又は熱安定性を改善するために、上述のスチレンポリマーを、適宜、相溶化剤(compatibilizer)を用いて、熱可塑性ポリマー、例えばポリアミド(PAs)、ポリオレフィン(例、ポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE))、ポリアクリレート(例、ポリメチルメタクリレート(PMMA))、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリブチレンテレフタレート(PBT))、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルケトン又はポリエーテルスルフィド(PES)或いはこれらの混合物と混合しても良く、一般にポリマー溶融物に対して30質量%以下、好ましくは1?10質量%で使用される。上述の量範囲以内の混合物は、例えば、疎水変性又は官能化ポリマー又はオリゴマー、ゴム、例えばポリアクリレート又はポリジエン(例、スチレン-ブタジエンブロック共重合体)、生物分解性脂肪族共重合体又は脂肪族/芳香族共重合体と一緒に使用することもできる。
【0013】
上述の熱可塑性ポリマー、特にスチレンポリマー及び発泡性スチレンポリマー(EPS)を含む再利用ポリマーは、スチレンポリマー溶融物と予備混合することもでき、その際その使用量は、特性を実質的に損なわない量、一般に30質量%以下、好ましくは1?10質量%である。
【0014】
発泡剤含有スチレンポリマー溶融物は、一般に一種以上の発泡剤を均一分布状態で、発泡剤含有スチレンポリマー溶融物に対して2?10質量%の合計割合で含んでいる。好適な発泡剤は、EPSに通常使用される物理発泡剤、例えば炭素原子数2?7個の脂肪族炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル又はハロゲン化炭化水素であり、イソブタン、n-ブタン、イソペンタン及びn-ペンタンが好ましい。
【0015】
発泡性を改善するため、内部水の微細に分散された滴(分散細滴)をスチレンポリマーマトリックス内に導入することができる。これは、例えば、水を溶融スチレンポリマーマトリックスに添加することにより行うことができる。この水の添加は、発泡剤の供給前に行うことが好ましい。混練素子又はスタチック(静的)混合機を使用することにより、水の均一分布を達成し得る。
【0016】
添加する水の量は、発泡性ポリスチレン(EPS)が、発泡前の嵩密度/発砲後の嵩密度として定義される膨張可能性αが125以下となるように、選択される。水の量は一般にスチレンポリマーに対して0.05?1.5質量%で十分である。
【0017】
発泡時に、直径が0.5?15μmの範囲にある内部水分滴形状の内部水を少なくとも90%有する発泡性スチレンポリマー(EPS)が、適当なセル数及び均一なフォーム構造を有するフォームを形成する。
【0018】
本発明の発泡性スチレンポリマー顆粒(EPS)は、一般に700g/L以下の嵩密度を有している。
【0019】
スチレンポリマー溶融物は、さらに添加剤、核剤、可塑剤、難燃剤、可溶性及び不溶性の無機染料及び/又は有機染料、及び顔料、例えばIR吸収剤(例、カーボンブラック、グラファイト)又はアルミニウム粉を含んでいても良く、これらは一緒に或いは別の場所で添加される。染料及び顔料の添加量は、一般に0.01?30質量%、好ましくは1?5質量%である。スチレンポリマー中における顔料の均一で微分散された分布を得るためには、分散剤、例えばオルガノシラン又は無水マレイン酸グラフトスチレンポリマーを使用すること、そしてこの材料を低剪断速度、例えば30/秒未満で、補助押出機又はスタチック混合機により混合することによって一体化することが、特に極性顔料の場合に、有利である。好ましい可塑剤は、鉱物油、オリゴマー性スチレンポリマー、及びフタル酸エステルであり、使用量はスチレンポリマーに対して0.05?10質量%が好ましい。
【0020】
比較的高分子量のスチレンポリマーにより、発泡剤含有スチレンポリマーを140?300℃の範囲、好ましくは160?240℃の範囲の温度でダイプレートを介して搬送することが可能となる。ガラス転移温度の範囲に冷却することは必要としない。
【0021】
ダイプレートは、少なくとも発泡剤含有ポリスチレン溶融物の温度に加熱される。ダイプレートの温度は、発泡剤含有ポリスチレン溶融物の温度より20?100℃高い範囲にあることが好ましい。これにより、ダイ中のポリマー堆積を防止することができ、塩を含まない顆粒化が保証される。
【0022】
市場性のある顆粒サイズを得るには、ダイ出口のダイ孔の直径(D)を、0.2?1.5mmの範囲、好ましくは0.3?1.2mmの範囲、特に0.3?0.8mmの範囲とすべきである。従って、ダイ型張り(膨潤)後でさえ、2mm未満、特に0.4?0.9mmの範囲の顆粒サイズを、特に設定することができる。
【0023】
分子量分布以外に、ダイ型張りは、ダイの外形により影響され得る。好適なダイ外形の例が図1に示されている。長さ(L)は、直径が最大でもダイ出口の直径(D)に対応するダイ領域を示している。ダイプレートは、少なくとも2のL/D比を有する孔を持つことが好ましい。L/D比は3?10の範囲が好ましい。
【0024】
一般に、ダイプレートのダイ入口における孔の直径(E)は、出口の直径(D)の少なくとも2倍の大きさとすべきである。
【0025】
好適態様のダイプレートは、円錐形ゲート(インレット)と180°未満、好ましくは30?120°のゲート角αとを有する孔を持っている。別の態様では、ダイプレートは、円錐形流出口(アウトレット)と90°未満、好ましくは15?45°の流出口角βとを有する孔を持っている。スチレンポリマーの特定の顆粒サイズ分布(顆粒粒度分布)を製造するために、ダイプレートは異なる流出口径(D)の複数の孔を備えることができる。ダイの外形の種々の態様を、相互に結合させることも可能である。
【0026】
分子量M_(w)が170000(g/モル)を超える発泡性スチレンポリマーを製造する特に好ましい方法は、下記の工程:
a)スチレンモノマー及び所望により共重合可能なモノマーを重合する工程、
b)得られたスチレンポリマー溶融物を脱気する工程、
c)発泡剤及び所望により添加剤を、静的又は動的混合機を用いて少なくとも150℃の温度でスチレンポリマー溶融物に導入混合する工程、
d)発泡剤含有スチレンポリマー溶融物を少なくとも120℃の温度に冷却する工程、
e)ダイ出口の直径が1.5mm以下である孔を有するダイプレートを介して排出する工程、及び
f)発泡剤含有溶融物を顆粒化する工程
を含んでいる。
【0027】
工程f)において、顆粒ダイプレートの直ぐ後で、1?10バールの水圧下に行うことができる。
【0028】
工程a)における重合及び工程b)における脱気に続いて、工程c)においてポリマー溶融物に発泡剤を含浸させるが、スチレンポリマーの溶融は必要としない。これにより、コストに有効であるだけでなく、スチレンモノマー含有量の低い発泡性スチレンポリマー(EPS)が得られる。なぜなら、押出機の均一化部分における剪断力の機械作用(一般にポリマーの分解によりモノマーをもたらす曝露)が回避される。スチレンモノマー含有量を低く、特に500ppm未満に保つために、この方法の続いて行われる工程の全てで導入される機械及び熱エネルギーの量を最小にすることも有利である。このため、30/秒未満の剪断速度及び260℃未満の温度に維持することが好ましく、工程c)?e)において1?10分間、特に2?5分間の短い滞留時間にすることが好ましい。全ての工程において、専らスタチック混合機を使用することが特に好ましい。ポリマー溶融物は、圧力ポンプ(例、ギアポンプ)により移動され、排出され得る。
【0029】
スチレンモノマー含有量及び/又は残留溶剤(例、エチルベンゼン)の含有量を低減させる別の方法として、工程b)で添加溶剤(entrainer)、例えば水、窒素又は二酸化炭素により脱気を高いレベルにすること、又は重合工程a)をアニオン性ルートで行うことを挙げることができる。スチレンのアニオン重合は、低いスチレンモノマー含有量のスチレンポリマーを得られるのみならず、極めて低いスチレンオリゴマー含有量をもたらす。
【0030】
加工特性を改良するために、完成した発泡性スチレンポリマー顆粒を、グリセロールエステル、帯電防止剤、又は不粘着剤で被覆することができる。
【実施例】
【0031】
実施例において特に断らない限り、実施例は、粘度数VNが98ml/g(M_(w)=280000g/モル、多分散度M_(w)/M_(n)=3.0)のPS-158K(BASF Aktiengesellschaft社製)及び6質量%のペンタンを含む発泡剤含有ポリスチレン溶融物を用いて行った。
【0032】
[実施例1]
発泡剤含有ポリスチレン溶融物(6質量%のn-ペンタン)を、300孔有するダイプレート(ダイ出口(D)の直径0.4mm、図1の形状Aに相当)を介して100kg/hの処理量で搬送した。溶融物の温度は160℃であった。得られた発泡性ポリスチレン顆粒は、1.0mmの均一な顆粒径を有していた。スチレンモノマー含有量は、測定により400ppmであった。
【0033】
溶融物温度の上昇により、顆粒径の減少がもたらされた。
【0034】
【表1】

【0035】
[実施例2]
発泡剤含有ポリスチレン溶融物(6質量%のn-ペンタン)を、300孔有するダイプレート(ダイ出口(D)の直径0.4mm、図1の形状Aに相当)を介して100kg/hの処理量で搬送した。溶融物の温度及びダイプレートの温度は、それぞれ200℃であった。得られた発泡性ポリスチレン顆粒は、0.65mmの均一な顆粒径を有していた。
【0036】
【表2】

【0037】
[実施例3]
発泡剤含有ポリスチレン溶融物(6質量%のn-ペンタン)を、300孔有するダイプレート(ダイ出口(D)の直径0.4mm、図1の形状Bに相当する円錐形ゲート角を有する)を介して100kg/hの処理量で搬送した。溶融物の温度は180℃であった。
【0038】
【表3】

【0039】
[実施例4]
発泡剤含有ポリスチレン溶融物(6質量%のn-ペンタン)を、150孔有するダイプレート(ダイ出口(D)の直径0.6mm)を介して100kg/hの処理量で搬送した。溶融物の温度は180℃であった。
【0040】
【表4】

【0041】
[実施例5]
発泡剤含有ポリスチレン溶融物(6質量%のn-ペンタン)を、150孔有するダイプレート(ダイ出口(D)の直径0.6mm、形状Aに相当)を介して100kg/hの処理量で搬送した。溶融物の温度は180℃であった。
【0042】
【表5】

【0043】
[実施例6]
実施例1の特性を有するが、多分散度M_(w)/M_(n)の異なるポリスチレンを用いた。
【0044】
発泡剤含有ポリスチレン溶融物(6質量%のn-ペンタン)を、300孔有するダイプレート(ダイ出口(D)の直径0.4mm、図1の形状Aに相当)を介して100kg/hの処理量で搬送した。溶融物の温度は180℃であった。
【0045】
【表6】

【0046】
[実施例7]
0.1質量%の水及び6質量%のn-ペンタンを、ポリスチレン溶融物(PS-158K)に添加し、この材料を、300孔有するダイプレート(ダイ出口(D)の直径0.4mm、図1の形状Aに相当)を介して100kg/hの処理量で搬送した。溶融物の温度は160℃であった。得られた発泡性ポリスチレン顆粒は、1.0mmの均一な顆粒径を有していた。得られた発泡性ポリスチレン顆粒を、蒸気流中で発泡させ、微細セルのフォーム構造を有するフォーム粒子(顕微鏡で評価した)を得た。セル数は約4?4.5セル/mmであった。内部水滴の90%を超えるものが1.5μmの直径を有していた。
【0047】
[実施例8]
実施例7において0.6質量%の水を、ポリスチレン溶融物に添加した以外、実施例7を繰り返し行った。得られた発泡性ポリスチレン顆粒は、1.0mmの均一な顆粒径を有していた。得られた発泡性ポリスチレン顆粒を、蒸気流中で発泡させ、微細セルのフォーム構造を有するフォーム粒子(顕微鏡で評価した)を得た。セル数は約8?8.5セル/mmであった。内部水滴の90%を超えるものが10.5μmの直径を有していた。
【0048】
[実施例9]
6質量%のn-ペンタン、0.3質量%の分散剤としてのポリスチレン-無水マレイン酸グラフト共重合体、及び0.8質量%の金属銀顔料(それぞれポリマー溶融物にする量)を、ポリスチレン溶融物(PS-158K)に添加し、この材料を、300孔有するダイプレート(ダイ出口(D)の直径0.4mm、図1の形状Aに相当)を介して100kg/hの処理量で搬送した。溶融物の温度は160℃であった。得られた発泡性ポリスチレン顆粒は、1.0mmの均一な顆粒径を有していた。得られた発泡性ポリスチレン顆粒を、蒸気流中で発泡させ、均一なフォーム構造を有するフォーム粒子を得た。
【0049】
[実施例10]
実施例9において0.8質量%の金属金着色顔料及び0.3質量%の分散剤としてのオルガノシランを添加した以外、実施例9を繰り返し行った。得られた発泡性ポリスチレン顆粒は、1.0mmの均一な顆粒径を有していた。得られた発泡性ポリスチレン顆粒を、蒸気流中で発泡させ、均一なフォーム構造を有するフォーム粒子を得た。
【0050】
[実施例11]
発泡剤を含むポリマー溶融物(粘度数VN=74ml/g、平均分子量M_(w)=190000g/モル及び多分散度M_(w)/M_(n)=3.0、且つ6質量%のペンタン)を、オイル加熱された調節可能なコンストリクターを備えたスタートアップ(スタートアップ溶融圧力:約180バール)により、ダイ出口の直径が0.6mmの孔を300個有するダイプレートを介して300kg/hの処理量で搬送した。得られた発泡性ポリスチレン顆粒は狭い顆粒サイズ分布を有し、顆粒の80%が、0.62?0.8mmの直径を有していた。残留モノマー含有量は測定され、325ppmであった。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明において好適なダイ外形の例である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2010-05-28 
結審通知日 2010-06-02 
審決日 2010-06-21 
出願番号 特願2004-513367(P2004-513367)
審決分類 P 1 113・ 121- ZD (C08J)
P 1 113・ 537- ZD (C08J)
P 1 113・ 113- ZD (C08J)
P 1 113・ 536- ZD (C08J)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
松浦 新司
登録日 2008-10-10 
登録番号 特許第4198113号(P4198113)
発明の名称 発泡性ポリスチレンの製造方法  
代理人 小山 雄一  
代理人 藤本 昇  
代理人 中谷 寛昭  
復代理人 野村 悟郎  
代理人 江藤 聡明  
復代理人 野村 悟郎  
代理人 江藤 聡明  

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