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審決分類 審判 全部無効 特29条の2  C09K
審判 全部無効 2項進歩性  C09K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
管理番号 1228638
審判番号 無効2009-800229  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-11-04 
確定日 2010-11-08 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4277666号発明「サイアロン系蛍光体の製造方法およびサイアロン系蛍光体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4277666号の請求項5に係る発明についての特許を無効とする。 特許第4277666号の請求項1ないし4に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その5分の4を請求人の負担とし、5分の1を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1 特許第4277666号の手続の経緯の概要
特許第4277666号の設定登録までの手続の経緯の概要は、次のとおりである。
平成15年12月1日に出願
出願番号 :特願2003-401202号
(以下、「本件出願」という。)
平成21年3月19日に設定登録
特許番号 :特許第4277666号
(以下、「本件特許」という。)
発明の名称:サイアロン系蛍光体の製造方法およびサイアロン系蛍光体
特許権者 :宇部興産株式会社
請求項数 :5(設定登録時)

2 無効審判の手続の経緯の概要
本件無効審判は、小松徹郎(以下、「請求人」といい、特許権者である宇部興産株式会社を「被請求人」という。)が、請求の趣旨を「特許第4277666号の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」として請求したものである。
その手続の経緯の概要は、次のとおりである。
平成21年11月 4日 無効審判請求書及び
甲第1号証ないし甲第7号証を提出(請求人)
平成22年 3月19日 答弁書、訂正請求書及び
乙第1号証、乙第2号証を提出(被請求人)
平成22年 4月30日 弁駁書及び甲第8号証を提出(請求人)
平成22年 6月 1日 審理事項通知
平成22年 6月25日 口頭審理陳述要領書を提出(請求人)
平成22年 7月 9日 口頭審理陳述要領書、
乙第3号証ないし乙第5号証及び
参考資料1を提出(被請求人)
平成22年 7月23日 口頭審理
平成22年 8月 6日 上申書及び
甲第9号証ないし甲第23号証を提出
(請求人)
平成22年 8月20日 上申書を提出(被請求人)
平成22年 9月 3日 結審通知

第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
平成22年3月19日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正することを求める、というものであり(審決注:「5.請求の趣旨」中「本件請求項」は「本件請求書」の誤記である(第1回口頭審理調書参照)から、上記のとおりのものとした。)、その訂正内容は、以下の「(1)特許請求の範囲についての訂正」及び「(2)明細書についての訂正」からなるものと認められる(以下、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5を、それぞれ「訂正前請求項1」、「訂正前請求項2」…という。)。

(1)特許請求の範囲についての訂正
ア 訂正1
訂正前請求項1における、「混合し」を、「混合して、得られる混合粉末を」に訂正する。
イ 訂正2
訂正前請求項1における、「α-サイアロン系蛍光体の製造方法」を、「α-サイアロン系蛍光体粉末の製造方法」に訂正する。
ウ 訂正3
訂正前請求項5における、「50%径が8μmより大きく19μm以下である」を、「50%径が8μmより大きく19μm以下であり、10%径が1.3μm以上であり、90%径が83μm以下である」に訂正する。
エ 訂正4
訂正前請求項2ないし訂正前請求項4において、上記訂正1、2のとおりの訂正をする。
(審決注:訂正前請求項2ないし訂正前請求項4は、訂正前請求項1を直接又は間接に引用するものである。そうすると、上記訂正1、2に伴い、訂正後請求項2ないし4についても、上記訂正1、2のとおりの訂正をすることになる。)

(2)明細書についての訂正
ア 訂正5
本件特許明細書の段落【0009】における、「混合し」を、「混合して、得られる混合粉末を」に訂正する。
イ 訂正6
本件特許明細書の段落【0009】における、「α-サイアロン系蛍光体の製造方法」を、「α-サイアロン系蛍光体粉末の製造方法」に訂正する。
ウ 訂正7
本件特許明細書の段落【0013】における、「50%径が8μmより大きく19μm以下である」を、「50%径が8μmより大きく19μm以下であり、10%径が1.3μm以上であり、90%径が83μm以下である」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)特許請求の範囲についての訂正の適否
ア 訂正1について
(ア)訂正1は、訂正前請求項1において、「混合し」を、「混合して、得られる混合粉末を」として、混合して得られるものの性状を明確化又は限定するものであるといえる。
したがって、訂正1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮又は同第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)そして、本件特許明細書には、例えば、(実施例1?6)として「窒化ケイ素粉末を得た。…。この粉末類を用いて窒化アルミニウム粉末、炭酸カルシウム粉末、酸化ユーロピウム粉末を…秤量し、…混合した。混合粉末を…、窒素ガス雰囲気下に、室温から1200℃までを1時間、1200℃から1400℃までを4時間、1400℃から1600℃までを2.5時間の昇温スケジュールで加熱し、サイアロン粉末を得た。」と記載されている。
そうすると、混合して得られるものの性状が「混合粉末」であることは本件特許明細書に記載されていたことであるといえるから、「混合し」を、「混合して、得られる混合粉末を」とすることは、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(ウ)また、訂正1は、混合して得られるものの性状を明確化又は限定するものであるといえるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、訂正前請求項1に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるといえるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
(エ)したがって、訂正1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は同第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

イ 訂正2について
(ア)訂正2は、訂正前「α-サイアロン系蛍光体の製造方法」を、「α-サイアロン系蛍光体粉末の製造方法」と、製造される「α-サイアロン系蛍光体」の性状を明確化ないし限定するものであるといえるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮又は同第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)そして、本件特許明細書には、例えば上記ア(イ)において摘示したとおりの実施例の記載がある。
そうすると、製造される「α-サイアロン系蛍光体」の性状が「粉末」であることは本件特許明細書に記載されていたことであるといえるから、「α-サイアロン系蛍光体」を、「α-サイアロン系蛍光体粉末」とすることは、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(ウ)また、訂正2は、製造される「α-サイアロン系蛍光体」の性状を明確化ないし限定するものであるといえるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、訂正前請求項2に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるといえるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
(エ)したがって、訂正2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は同第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

ウ 訂正3について
(ア)訂正3は、訂正前請求項5において、サイアロン系蛍光体粉末の粒径を「50%径が8μmより大きく19μm以下」としていたものを、粒径及び粒径分布を「50%径が8μmより大きく19μm以下であり、10%径が1.3μm以上であり、90%径が83μm以下である」に限定するものであるといえる。
したがって、訂正3は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)そして、本件特許明細書の【表1】(後記第7 1(1)の摘示l参照)には、「50%径が8μmより大きく19μm以下」であり、「10%径が1.3μm以上」であり、「90%径が83μm以下」であるサイアロン粉末が記載されていることが認められるから、サイアロン系蛍光体粉末の粒径及び粒径分布を「50%径が8μmより大きく19μm以下であり、10%径が1.3μm以上であり、90%径が83μm以下である」とすることは、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
(ウ)また、訂正3は、サイアロン系蛍光体粉末の粒径及び粒度分布を限定するものであるといえるから、実質上特許請求の範囲を拡張するものではないし、訂正前請求項5に記載の発明と同じ目的の範囲内において技術的事項を減縮するものであるといえるから、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない。
(エ)したがって、訂正3は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

エ 訂正4について
訂正4は、訂正前請求項2ないし4について、これらが訂正前請求項1を直接又は間接に引用するものであるから、訂正前請求項1についてするのと同じ内容の訂正をするものである。
そして、訂正4について上記ア及びイと同じ理由が適用できるから、訂正4は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は同第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものであるといえる。

(2)明細書についての訂正
ア 訂正5ないし訂正7は、それぞれ、本件特許明細書の訂正前請求項1及び訂正前請求項5を引き写した記載部分である、段落【0009】、段落【0013】において、訂正1ないし訂正3に対応する箇所について、それぞれ訂正1ないし訂正3と同じ内容の訂正をするものである。
そうすると、これら訂正5ないし訂正7は、訂正1ないし訂正3に伴い不整合となって明りょうでない記載となる段落【0009】、段落【0013】の記載を明りょうにするためのものであるといえ、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるといえる。
イ そして、訂正5ないし訂正7は、上記(1)のとおり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張するものでもない。
ウ したがって、訂正5ないし訂正7は、特許法第134条の2第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。

(3)請求人の主張
請求人は、弁駁書において訂正の適否についてした主張(4頁下から4行ないし5頁6行)を撤回した(第1回口頭審理調書参照)ため、本件訂正の適否についての主張はないこととなった。

3 訂正請求についてのまとめ
上記のとおり、訂正1ないし訂正7は、特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、本件特許明細書(本件特許に係る願書に添付した明細書)に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項に規定する要件に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件訂正発明
特許第4277666号の請求項1ないし5に係る発明は、本件訂正が第2のとおり認められるものであるから、本件訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された以下のとおりのものである。

【請求項1】
窒化ケイ素原料と、AlNを含むアルミニウム源となる物質と、金属M(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属)の酸化物または熱分解により金属Mの酸化物となる前駆体物質と、ランタニド金属Lnの酸化物または熱分解によりランタニド金属Ln酸化物となる前駆体物質とを混合して、得られる混合粉末を、窒素を含有する不活性ガス雰囲気中1400?2000℃で焼成することによる、一般式、
M_(x)Ln_(y)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n)
(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属、Lnは、Eu,Dy,Er,Tb,Yb,Ceから選ばれる少なくとも1種のランタニド金属であり、金属Mの価数をa、ランタニド金属Lnの価数をbとすると、ax+by=mであり、xが0<x≦1.5であり、0.3≦m<4.5、0<n<2.25である)
で表されるα-サイアロン系蛍光体粉末の製造方法において、前記窒化ケイ素原料は、非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%であることを特徴とするサイアロン系蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記窒化ケイ素原料の比表面積が15?300m^(2)/gであることを特徴とする請求項1記載のサイアロン系蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記窒化ケイ素原料が、非晶質窒化ケイ素粉末を加熱処理することにより得られた窒化ケイ素粉末であることを特徴とする請求項1記載のサイアロン系蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記非晶質窒化ケイ素粉末が、シリコンジイミド(Si(NH)_(2))を熱分解することにより得られた非晶質窒化ケイ素粉末であることを特徴とする請求項3記載のサイアロン系蛍光体の製造方法。
【請求項5】
蛍光体粒子のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定した粒度分布曲線における50%径が8μmより大きく19μm以下であり、10%径が1.3μm以上であり、90%径が83μm以下であることを特徴とする一般式、
M_(x)Ln_(y)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n)
(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属、Lnは、Eu,Dy,Er,Tb,Yb,Ceから選ばれる少なくとも1種のランタニド金属であり、金属Mの価数をa、ランタニド金属Lnの価数をbとすると、ax+by=mであり、xが0<x≦1.5であり、0.3≦m<4.5、0<n<2.25である)
で表されるα-サイアロン系蛍光体。
(以下、これらの請求項に係る発明を、それぞれ「訂正発明1」…「訂正発明5」といい、これらの発明を併せて「訂正発明」という。また、「訂正発明1」…「訂正発明5」についての特許を、それぞれ「本件特許1」…「本件特許5」という。さらに、本件訂正後の明細書を、「本件訂正明細書」という。)

第4 特許を無効とすべきとする理由の要点及び証拠方法
審判請求書、弁駁書、口頭審理陳述要領書、甲第1号証ないし甲第23号証、第1回口頭審理、上申書によれば、審判請求人が主張する本件特許を無効とすべき理由の要点は、以下の1ないし4のとおりであると認められ、提出された証拠方法等は5のとおりである(主な主張の具体的な内容は、以下の「第7 当審の判断」において記載する。)。
なお、弁駁書において主張された新たな無効理由及び、新規性についての無効理由は、第1回口頭審理において、撤回された(第1回口頭審理調書参照)。

1 訂正発明1及び訂正発明5は、甲第1号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
そうすると、本件特許1及び本件特許5は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである(この理由を「無効理由1」という。)。

2 訂正発明1及び訂正発明5は、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そうすると、本件特許1及び本件特許5は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきものである(この理由を、「無効理由2」という。)。

3 本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、訂正発明1ないし訂正発明5を当業者がその実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではない。
そうすると、本件特許1ないし5は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきものである(この理由を「無効理由3」という。)。

4 訂正発明は本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
そうすると、本件特許1ないし5は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきものである(この理由を「無効理由4」という。)。

5 請求人が提出した証拠方法
甲第1号証:特開2004-67837号公報
甲第2号証:特開2002-363554号公報
甲第3号証:特開2001-214162号公報
甲第4号証:特開平10-247750号公報
甲第5号証:特開昭59-207813号公報
甲第6号証:特開昭58-199707号公報
甲第7号証:特開昭59-21506号公報
甲第8号証:特開平4-209706号公報
(以上、審判請求書に添付)
甲第9号証:特開平9-156912号公報
(以上、弁駁書に添付)
甲第10号証:特開2000-345052号公報
甲第11号証:特開平10-53760号公報
甲第12号証:特開2003-34787号公報
甲第13号証:特開2003-34788号公報
甲第14号証:特開2003-34789号公報
甲第15号証:特開2003-34790号公報
甲第16号証:特開2004-238505号公報
甲第17号証:特開2004-238506号公報
甲第18号証:山本英夫他編集「粒子径計測技術」(日刊工業新聞社1999年10月29日発行)第1章(除く2?3頁)及び第8章
甲第19号証:特開昭61-253796号公報
甲第20号証:特開平5-263075号公報
甲第21号証:特開2002-322469号公報
甲第22号証:特開2002-322470号公報
甲第23号証:特開2002-322471号公報
(以上、上申書に添付)
以下、甲第1号証ないし甲第23号証として提出された書証を、その証拠番号により、それぞれ「甲1」、「甲2」などという。

第5 被請求人の主張の要点
審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書、乙第1号証ないし乙第5号証、第1回口頭審理、上申書によれば、被請求人は、上記無効理由はいずれも理由がなく、本件特許は、同法第123条第1項第2号又は第4号の規定により無効とすべきものではないから、「審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める」と主張すると認められる(主な主張の具体的な内容は、以下の「第7 当審の判断」において記載する。)。

被請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである
乙第1号証:「セラミックデータブック‘93」(工業製品技術協会 平成5年(1993年)発行)53?58頁「高品質窒化ケイ素粉末の開発とその焼結特性について」
乙第2号証:Journal of the American Ceramic Society,Vol.85,No.5 1229?1234頁(2002)
(以上、答弁書に添付)
乙第3号証:日本学術振興会 先進セラミックス 第124委員会「窒化ケイ素系セラミック新材料 最近の展開」(内田老鶴圃 2009年10月30日第1版発行)109?117頁「4.1直接窒化法」
乙第4号証:特許第4075321号
乙第5号証:窯業協会誌vol.,73,no.6(1965)35?42頁「粉砕生成物の粒度分布と粉砕機構」
(以上、口頭審理陳述要領書に添付)
以下、乙第1号証ないし乙第5号証として提出された書証を、その証拠番号により、それぞれ「乙1」、「乙2」などという。

被請求人は、さらに以下の参考資料を提出した。
参考資料1:窒化ケイ素の結晶化度の測定

第6 各書証の主な記載事項
1 請求人が提出した書証
(1)甲1(特開2004-67837号公報)
1a「【請求項1】
一般式:
M_(x)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n)
(但し、Mは、Li、Mg、Ca、Y、並びにLa及びCeを除く希土類元素の中から選ばれる1種又は2種以上の金属元素。x=m/δ。δは、金属元素Mの平均価数。0.15≦x≦1.5。1.8≦m/n≦2.2。)
で表されるα-サイアロンを母体材料とし、
前記α-サイアロンに固溶する前記金属元素Mの一部を、電荷の中性を保ちながらEuで置換したものからなるα-サイアロン蛍光体。

【請求項4】
一般式:
([Ca^(2+)]_(1-y)[Eu^(2+)]_(y))_(x)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n)
(但し、x=m/2。0.30≦x≦0.75。0.05≦y≦0.4。1.8≦m/n≦2.2。)
で表されるものからなるα-サイアロン蛍光体。」
1b「【0026】
また、本実施の形態に係るα-サイアロン蛍光体は、化1の式で表されるα-サイアロンに固溶する金属元素Mの一部を、電荷の中性を保ちながらEuで置換したものからなる。α-サイアロン中に固溶したEuは、2価のイオンとなっていると考えられている。また、電荷の中性は、α-サイアロンに含まれる酸素と窒素が所定の元素比となることによって保たれると考えられている。」
1c「【0029】
本実施の形態に係るα-サイアロン蛍光体は、種々の用途に供することができるが、LED用の蛍光体として用いる場合には、通常、粉末の状態で使用される。粉末状にした蛍光体は、適当な樹脂と混合され、この混合物がLEDの表面に塗布される。良好な塗布性を得るためには、粉末の重量平均粒径は、0.5μm以上50μm以下が好ましく、さらに好ましくは、2μm以上10μm以下である。」
1d「【0042】
さらに、本実施の形態に係る蛍光体を粉末として用いる場合において、良好な塗布性を得るためには、粉末の重量平均粒径は、0.5μm以上50μm以下が好ましく、さらに好ましくは、2μm以上10μm以下である。」
1e「【0048】
次に、本発明に係るα-サイアロン蛍光体の製造方法について説明する。本発明に係るα-サイアロン蛍光体は、成分元素を含む化合物を所定の比率になるように混合し、得られた混合物を所定の条件下で焼成することにより得られる。」
1f「【0052】
また、例えば、出発原料としてCaCO_(3)、Eu_(2)O_(3)、Si_(3)N_(4)及びAlNを用いて化4の式で表される組成を有する蛍光体を作成する場合、CaCO_(3)をCaO換算で3mol%以上12mol%以下、Eu_(2)O_(3)を0.15mol%以上2.5mol%以下、Si_(3)N_(4)を51mol%以上77mol%以下、AlNを17mol%以上38mol%以下であって、合計100mol%となるように配合するのが好ましい。他の出発原料を用いる場合も同様である。」
1g「【0053】
配合された出発原料は、所定の条件下で焼成する。焼成時の雰囲気は、ゲージ0.1気圧以上の窒素ガス雰囲気が好ましい。窒素ガスの圧力がゲージ0.1気圧未満になると、α-サイアロンの分解が生ずるので好ましくない。窒素ガスの圧力は、さらに好ましくは、ゲージ0.5気圧以上である。
【0054】
焼成温度は、1650℃以上1900℃以下が好ましい。焼成温度が1650℃未満であると、出発原料の固相反応の反応速度が遅くなるので好ましくない。一方、焼成温度が1900℃を越えると、α-サイアロンの分解が生ずるので好ましくない。焼成温度は、さらに好ましくは、1700℃以上1850℃以下である。
【0055】…
【0056】
このような条件下で焼成すると、固相反応によって、所定量の金属元素M及びEuが固溶した粉末状のα-サイアロン蛍光体が得られる。焼成直後は、通常、粉末が凝集した状態となっているので、これをLED用の蛍光体として用いる場合には、合成された粉末状蛍光体を所定の粒度となるように粉砕する。」
1h「【0057】
【実施例】
(実施例1?9)
出発原料としてCaCO_(3)、Eu_(2)O_(3)、Si_(3)N_(4)及びAlNを用い、これらを最終組成が化2の式の範囲内となるように秤量し、窒化ケイ素製乳鉢中で混合した。なお、本実施例においては、m=0.5?3.0、(m/n)比=2.0、Ca置換率y=0.1?0.38とした。
【0058】
次に、この混合物を約2cm角のMo容器に入れ、黒鉛抵抗加熱式加圧焼結炉を用いて焼成した。焼成は、ゲージ1.0?8.5気圧の窒素ガス中において、焼成温度:1650℃?1830℃、焼成時間:2?4時間の条件下で行った。さらに、得られた粉末を窒化ケイ素製乳鉢中で粉砕し、蛍光体試料とした。」
1i「【0064】
さらに、これらの蛍光体試料について、X線回折法により生成相を同定し、レーザ回折式粒度分布装置を用いて平均粒径(重量平均粒径)を測定した。表1に、各蛍光体試料の組成、合成条件、粉末特性及び励起・発光特性を示す。」
1j「【0065】


1k「【0066】
実施例1?12及び比較例1?6で得られた蛍光体試料の主たる生成相は、いずれもα相であった。また、平均粒径は、焼成温度を1650℃とした実施例6(3μm)及び焼成温度を1830℃とした実施例9(7μm)を除き、いずれも5μmであった。」

(2)甲2(特開2002-363554号公報)
2a「【請求項1】一般式:Me_(x)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n):Re1_(y)Re2_(z)で示され、アルファサイアロンに固溶する金属Me(Meは、Ca、Mg、Y、又はLaとCeを除くランタニド金属の一種若しくは二種以上)の一部若しくは全てが、発光の中心となるランタニド金属Re1(Re1は、Ce、Pr、Eu、Tb、Yb、又はErの一種若しくは二種以上)又は二種類のランタニド金属Re1及び共付活剤としての Re2(Re2はDy)で置換された蛍光体であることを特徴とする希土類元素を付活させた酸窒化物蛍光体。」
2b「【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、希土類元素を付活させた酸窒化物蛍光体に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、青色発光ダイオード(青色LED)を光源とする白色発光ダイオード(白色LED)の高輝度化を可能とする、希土類元素を付活させた酸窒化物蛍光体に関するものである。」
2c「【0006】このような白色LEDに適当な蛍光体としては、組成式:(Y,Gd)_(3)(Al,Ga)_(5)O_(12)で示されるYAG系酸化物にCeをドープした蛍光体が最もよく用いられている。この蛍光体は、発光源である前記InGaN系の青色LEDチップの表面に薄くコーティングされる。」
2d「【0031】
【実施例】希土類元素を付活させた酸窒化物蛍光体を、ホットプレス装置を用い、20MPaの加圧下、1700℃、1atmの窒素雰囲気中で1時間反応させて、以下に示す八つの原料粉末を作製した。この原料の出発原料として用いた化学試薬のモル比も以下の通りとした。
1○(審決注:○に中に1の意味。以下同じ)Ca-アルファサイアロン(Ca_(0.75)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))
窒化ケイ素(Si_(3)N_(4)):窒化アルミニウム(AlN):酸化カルシウム(CaO)=13:9:3
2○ Eu-アルファサイアロン(Eu_(0.5)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))
窒化ケイ素(Si_(3)N_(4)):窒化アルミニウム(AlN):酸化ユーロピウム(Eu_(2)O_(3))=13:9:1」
2e「(実施例1)Eu^(2+)イオンの付活量を変化させたCa-アルファサイアロン蛍光体を、上記及びの原料粉末を用いて七種類作製した。作製条件は、原料粉末を以下のモル比に混合し、ホットプレス装置を用い、20MPaの加圧下、1700℃、1atmの窒素雰囲気中で1時間反応させた。
[1] Ca(0%Eu)-アルファサイアロン蛍光体(Ca_(0.75)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))
Ca-アルファサイアロンのみを原料とした。
[2] Ca(5%Eu)-アルファサイアロン蛍光体(Ca_(0.71)Eu_(0.025)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))
Ca-アルファサイアロン: Eu-アルファサイアロン=95:5
[3] Ca(10%Eu)-アルファサイアロン蛍光体(Ca_(0.68)Eu_(0.05)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))
Ca-アルファサイアロン: Eu-アルファサイアロン=90:10
[4] Ca(20%Eu)-アルファサイアロン蛍光体(…)

[7] Ca(70%Eu)-アルファサイアロン蛍光体(…)
Ca-アルファサイアロン: Eu-アルファサイアロン=30:70
図1は、これら[1]?[7]の蛍光体の赤色発光に関するスペクトルを示したチャートである。」
2f「【0033】励起スペクトルに現れた二つのピークの内、280nmのピークは、母体材料Ca-アルファサイアロンが励起されたピークに帰属し、400?450nmのピークは、Eu-(N又はO)の電荷移動吸収帯に帰属する。後者のEu-(N,O)の電荷移動吸収帯に帰属するピークは、Eu^(2+)イオンの付活量の増加にともない長波長側にシフトしていることから、InGaN系青色LEDの励起光(450?550nm)として利用可能である。」

(3)甲3(特開2001-214162号公報)
3a「【請求項1】モル%表示で、CaCO_(3)をCaOに換算して:20?50モル%、Al_(2)O_(3):0?30モル%、SiO:25?60モル%、AlN:5?50モル%、希土類酸化物または遷移金属酸化物:0.1?20モル%で、5成分の合計が100モル%となるオキシ窒化物ガラスを母体材料とした蛍光体。」

(4)甲4(特開平10-247750号公報)
4a「【0007】
【発明の実施の形態】本願発明は、半導体発光素子からの光をセリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・酸化物系蛍光物質によって色変換させるLEDランプにおいて、イットリウム・アルミニウム酸化物にBa、Sr、Mg、Ca、Znの少なくとも一種及び/又はSiを含有させることによりLEDランプの輝度、均一性が向上させるものである。その理由は定かではないが、上記元素成分の少なくとも一種が窒化物系化合物半導体から放出される光に対して反応性の良い蛍光物質の種結晶などとなり、結晶性が著しく向上するためと考えられる。特に、半導体発光素子から放出された光は、蛍光物質によって、吸収、反射や散乱が高密度に生ずるため蛍光物質の結晶性や粒径などがLEDランプの発光特性に大きく寄与するものと考えられる。」
4b「【0009】以下、本願発明の構成部材について詳述する。
(蛍光物質)本願発明に用いられる蛍光物質は、窒化物系化合物半導体を発光層とする半導体発光素子から発光された光で励起されて発光できるセリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光物質をベースとしたものである。具体的なイットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光物質としては、YAlO_(3):Ce、Y_(3)Al_(5)O_(12):CeやY_(4)A_(12)O_(9):Ce、更には、これらの混合物などが挙げられる。」
4c「【0012】また、セリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム酸化物系化合物にSiを含有させることによって、結晶成長の反応を抑制し蛍光物質の粒子を揃えることができる。本願発明においては、Ba、Sr、Mg、CaおよびZnからなる群から選ばれる少なくとも一種の添加により結晶性の優れた蛍光物質を形成することを主眼とするが、結晶粒径が大きすぎると半導体発光素子からの光量を増やしても蛍光物質からの光量が増加しにくくバラツキが大きくなる傾向がある。」
4d「【0014】本願発明に利用される蛍光物質の平均粒径は、よりすぐれた発光特性とするために1.0から20μmが好ましく、3.0から15.0μmがより好ましい。」

(5)甲5(特開昭59-207813号公報)
5a「非晶質窒化ケイ素粉末を、窒素ガスおよび/またはアンモニアガス雰囲気下に焼成して、結晶質窒化ケイ素粉末を製造するに際し、非晶質窒化ケイ素粉末100重量部部当り、平均粒径1μm以下の金属シリコン粉末0.5?50重量部が配合されていること、および昇温過程において,被焼成物を1250?1430℃の範囲の温度に1時間以上保持することを特徴とする結晶質窒化ケイ素粉末の製法。」(特許請求の範囲)
5b「本発明は超硬耐熱材料として有用な窒化ケイ素焼結体の製造に適した結晶質窒化ケイ素粉末の製法に関する。」(1頁左下欄下から6?4行)
5c「本発明の目的は、微細で等軸的な粒状粒子からなる高純度の結晶質窒化ケイ素粉末の製法を提供することにある。」(1頁右下欄6?8行)
5d「本発明で使用される非晶質窒化ケイ素粉末は、公知方法、たとえば、シリコンジイミド、…を窒素またはアンモニアガスの雰囲気下に、600?1200℃の範囲の温度で加熱分解する方法…などによつて製造することができる。」(2頁左上欄8?15行)
5e「実施例1?3
シリコンジイミドを1000℃で加熱分解して得られた非晶質窒化ケイ素粉末38gと…焼成して、主として結晶質の窒化ケイ素粉末を得た。その性状を第1表に示す。」(3頁左上欄末行?13行)
5f「

」(7頁)
(6)甲6(特開昭58-199707号公報)
6a「非晶質窒化ケイ素粉末を,不活性ガス雰囲気下または還元性ガス雰囲気下に焼成して,結晶質窒化ケイ素粉末を製造するに際し,昇温過程において,被焼成物を1330?1430℃の範囲の温度に1時間以上保持することを特徴とする結晶質窒化ケイ素粉末の製法。」(特許請求の範囲)
6b「本発明は超硬耐熱材料として有用な窒化ケイ素焼結体の製造に適した結晶質窒化ケイ素粉末の製法に関する。」(1頁左下欄下から9?7行)
6c「本発明の目的は,微細で等軸的な粒状粒子からなる高純度の結晶質窒化ケイ素粉末の製法を提供することにある。」(1頁右下欄3?5行)
6d「本発明で使用される非晶質窒化ケイ素粉末は,公知方法,たとえば,シリコンジイミド,…を窒素またはアンモニアガス雰囲気下に,600?1200℃の範囲の温度で加熱分解する方法…などによって製造することができる。」(2頁左上欄1?8行)
6e「実施例1?4
シリコンジイミドを1000℃で加熱分解して得られた非晶質窒化ケイ素粉末10gを…焼成して,主として結晶質の窒化ケイ素粉末を得た。その性状を第1表に示す。」(2頁左下欄下から2行?右下欄6行)
6f「

」(3頁左上欄)
6g「

」(3頁右下欄)

(7)甲7(特開昭59-21506号公報)
7a「非晶質窒化ケイ素粉末を,不活性ガス雰囲気下または還元性ガス雰囲気下に焼成して,結晶質窒化ケイ素粉末を製造するに際し,焼成前に…摩砕すること,および昇温過程において,被焼成物を1250?1430℃の範囲の温度に1時間以上保持することを特徴とする結晶質窒化ケイ素粉末の製法。」(特許請求の範囲)
7b「本発明は超硬耐熱材料として有用な窒化ケイ素焼結体の製造に適した結晶質窒化ケイ素粉末の製法に関する。」(1頁左下欄下から8?6行)
7c「本発明の目的は,微細で等軸的な粒状粒子からなる高純度の結晶質窒化ケイ素粉末の製法を提供することにある。」(1頁右下欄4?6行)
7d「本発明で使用される非晶質窒化ケイ素粉末は,公知方法,たとえば、シリコンジイミド,…を窒素またはアンモニアガス雰囲気下に,600?1200℃の範囲の温度で加熱分解する方法…などによって製造することができる。」(2頁左上欄4?11行)
7e「実施例1?3
シリコンジイミドを1000℃で加熱分解して得られた非晶質窒化ケイ素粉末30gを…焼成して,主として結晶質の窒化ケイ素粉末を得た。その性状を第1表に示す。」(3頁右上欄7?18行)
7f「

」(3頁右下欄)
7g「

」(4頁右下欄)

(8)甲8(特開平4-209706号公報)
8a「【請求項1】非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を窒素含有不活性ガス雰囲気下又は窒素含有還元性ガス雰囲気下に焼成して、結晶質窒化ケイ素粉末を製造するに際し、非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を圧縮成形して、嵩密度0.3?0.8g/cm^(3)、短軸径1mm以上、かつ長軸径20mm以下の顆粒状物とすること、及び昇温過程において、1200?1400℃の温度範囲全域における昇温速度を10℃/分以下とすることを特徴とする結晶質窒化ケイ素粉末の製造法。」
8b「[0001]
【産業上の利用分野】本発明は、高温構造材料として有用な窒化ケイ素質焼結体の製造用原料として好適な粒状結晶のみから成る高純度な結晶質窒化ケイ素粉末の製造法に関するものである。
[0002]
【従来技術及びその問題点】非晶質窒化ケイ素粉末及び/又は含窒素シラン化合物を不活性ガス雰囲気下又は還元性ガス雰囲気下に焼成して、結晶質窒化ケイ素粉末を製造する方法は、既に知られている。」
8c「[0010]本発明における含窒素シラン化合物としては、シリコンジイミド、…が用いられる。これらは、公知方法…によって製造される。また、非晶質窒化ケイ素粉末は、公知方法、例えば、前記含窒素シラン化合物を窒素又はアンモニアガス雰囲気下に600?1200℃の範囲の温度で加熱分解する方法…などによって製造されたものが用いられる。非晶質窒化ケイ素粉末及び含窒素シラン化合物の平均粒子径は、通常、0.005?0,05μmである。」
8d「[0025]実施例1?5及び比較例1シリコンジイミドを1000℃で加熱分解して得られた比表面積320m^(2)/g、酸素含有量0.8wt%の非晶質窒化ケイ素粉末を、…1500℃まで昇温して、同温度に1時間保持した後、炉内放冷した。得られた窒化ケイ素粉末の化学組成、結晶化度、α相含有率、比表面積、プレス密度、粒子形状などの特性値を表1に示す。」

(9)甲9(特開平9-156912号公報)
9a「【発明の属する技術分野】本発明は、構造用セラミックスとして使用される窒化ケイ素セラミックスの中で、特に高靱性高信頼性の窒化ケイ素セラミックスの製造用原料として適している易焼結性の窒化ケイ素粉末を製造するために好適に用いられるシリコンジイミドに関するものである。

【0003】従来、窒化ケイ素粉末の製法として、ハロゲン化ケイ素とアンモニアとを反応させるイミド分解法が知られており、この方法で製造された窒化ケイ素粉末は、易焼結性であり、かつ優れた焼結体性能を示すと言われている。」
9b「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、窒化ケイ素の粉体特性と焼結性及び焼結体特性との関係について種々検討した結果、焼結性及び焼結体特性を支配する因子としては、相組成(β相分率、α相分率及び非晶質分率)、結晶子径、炭素含有量、内部酸素量、表面酸素量、比表面積、凝集度及び粒度分布があり、特に、相組成、結晶子径及び炭素含有量がそれぞれ特定範囲にある窒化ケイ素粉末が、高靱性高信頼性の窒化ケイ素セラミックスを再現性良く安定して製造できることを知見した。即ち、該窒化ケイ素粉末の満足すべき特性は、β相分率0.2?1.8重量%、α相分率93.2?99.8重量%であり、結晶子径が0.10μm以下、非晶質分率が5.0重量%以下、炭素含有量が0.10重量%以下であることを見出した。そして、このような粉末特性を有する窒化ケイ素粉末を製造するためには、その出発原料であるシリコンジイミドの粉末特性が重要であることを見出し、本発明に到達した。」

(10)甲10(特開2000-345052号公報)
10a「【請求項13】 粒径分散係数δが1.0以下である請求項12に記載の蛍光性重合体微粒子。(粒径分散係数δは、粒径分布の小粒径側からの積算体積がA%となる粒径D_(A)を用いて下記式(I)により定義される量である。)
【数1】δ=(D_(90)-D_(10))/D_(50) (I)」

(11)甲11(特開平10-53760号公報)
11a「【0005】蛍光体の特性は、蛍光体粒子の一次粒子径に影響を受け、発光効率は蛍光体粒子が大きいほうが高いことはよく知られているが、一方、実用蛍光体は発光特性に加え塗布性にも優れていることが必要であり、その点から通常4から10μmの一次粒子径の蛍光体が使用されている。」
11b「【0006】さらに、蛍光体の発光特性は微量不純物に大きく影響を受けることはよく知られている。…これら高純度アルミナ粉末は、一次粒子径が微細で通常1μm未満であり凝集が強いため堅い凝集粒子を形成する。
【0007】一方、この堅い凝集粒子を粉砕により低減することもできるが、凝集粒子の残留や粉砕にともなう微粒子の生成により粉砕後の粒度分布は広いものとなる。そのためこれらの高純度アルミナ粉末を用いて合成された蛍光体は、サブミクロンから約100μmの広い粒子径分布からなる粉末である。」
11c「【0008】すなわち、アルミン酸塩系蛍光体は、原料アルミナとして一次粒子径が1μm未満の微細な高純度アルミナ原料を用い、高温焼成によりサブミクロンから約100μmの蛍光体粒子に成長する。そのため、焼成後の蛍光体粒子は粒度分布が広くかつ強く凝集しており粉砕する必要がある。加えて分級により微粒子および粗大粒子を除去することが必須である。その結果、粉砕による一次粒子の破壊や結晶性の不均一化を原因とする発光特性の低下、さらには蛍光体粒子としての歩留まりが低い等大きな問題があった。」
11d「【0035】1.α-アルミナ粉末の特性評価
(1)…
(2)…α-アルミナ粉末の平均粒子径(D50)及び粒度分布(D90/D10)は、レーザー散乱法を測定原理とするマスターサイザー(マルバーン社製)を用いて測定した。」
11e「【0049】上記結果の通り、本発明によるアルミン酸塩系蛍光体は、従来用いられていた高純度アルミナRA-40を原料に用いた蛍光体に比較し粉砕が容易でかつシャープな粒度分布を有する。しかも高い発光強度を示し、極めて優れたアルミン酸塩系蛍光体である。」

(12)甲12(特開2003-34787号公報)
12a「【請求項11】 蛍光体の粒子の最大直径(D_(L))に対する最小直径(D_(S))の比(D_(S)/D_(L))が0.8≦(D_(S)/D_(L))≦1.0なる関係を満足する粒子の個数が全体の90%以上であり、メディアン径(D_(50))が0.1?30μmの範囲にあり、請求項1?8のいずれか一項に記載の製造方法により製造されることを特徴とする蛍光体。」
12b「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ブラウン管、蛍光ランプ、プラズマディスプレーパネル(PDP)などの蛍光膜として用いることが可能な蛍光体及びその製造方法に関する。」
12c「【0002】
【従来の技術】ブラウン管、蛍光ランプ、PDPなどに用いられる蛍光体は、従来、原料粉末を混合したものを坩堝などの焼成容器に入れた後、高温で長時間加熱することにより固相反応を起こさせ、それをボールミルなどで微粉砕することにより製造されてきた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、この方法で製造された蛍光体は不規則形状粒子が凝集した粉末からなっており、この蛍光体を上記用途に使用した場合には、塗布して得られる蛍光膜が不均質で充填密度の低いものとなるために発光強度が低かった。…
【0005】本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、粒度分布が狭く、凝集粒子が少なく、球状であるために、ブラウン管、蛍光ランプ、PDPなどの蛍光膜として用いる際に均質で緻密な高輝度蛍光膜を形成することが可能であり、しかも、高純度で化学組成が均一であるために発光強度の優れた蛍光体及びこれを安価に製造する方法を提供することを目的とする。」

(13)甲13(特開2003-34788号公報)
13a「【0009】以上のような蛍光体合成工程により得られた蛍光体粒子は、結晶成長により合成されているため、蛍光体粒子同士の凝集が強く発生しており、粉砕(粉砕工程)してふるいわけ(分級工程)を行ってから使用している。
【0010】蛍光体粒子を粉砕、ふるいわけ(分級)する理由は、一般にPDPに蛍光体層を形成する場合において各色蛍光体粒子をペーストにしてスクリーン印刷する手法が用いられており、ペーストを塗布した際に蛍光体の粒子径が小さく、均一である(粒度分布がそろっている)方がよりきれいな塗布面を得易いためである。つまり、蛍光体の粒子径が小さく、均一で形状が球状に近いほど、塗布面がきれいになり、蛍光体層における蛍光体粒子の充填密度が向上するとともに粒子の発光表面積が増加し、アドレス駆動時の不安定性も改善される。理論的にはPDP表示装置の輝度を上げることができると考えられるからである。」

(14)甲14(特開2003-34789号公報
省略
(15)甲15(特開2003-34790号公報)
省略
(審決注:甲14,甲15は、甲13の関連出願に係るものであって、それらには上記甲13の摘示と同等の記載がある。)

(16)甲16(特開2004-238505号公報)
16a「【0039】
【実施例】以下では具体的例を示し、本発明を更に詳細に説明する。
実施例1?6
四塩化ケイ素とアンモニアとを室温以下の温度で反応させることにより得られた比表面積750m^(2)/gのシリコンジイミドを700?1200℃で加熱分解して、比表面積60?460m^(2)/gの含窒素シラン化合物および/またはアモルファス窒化ケイ素粉末を得た。」
16b「【0048】比較例1?4
先ず、比表面積800m^(2)/gのシリコンジイミドを400?1200℃で加熱分解して、比表面積62?630m^(2)/gの含窒素シラン化合物および/またはアモルファス窒化ケイ素粉末を得た。」

(17)甲17(特開2004-238506号公報)
省略
(審決注:甲17は、甲16の関連出願に係るものであって、それには上記甲16の摘示と同等の記載がある。)

(18)甲18(「粒子径計測技術」)
18a「1.4.2レーザ回折散乱法
粒子に光があたると,光が回折したり散乱する.その回折/散乱光の強度パターンは粒子の大きさに依存するので,これらを観測し,フランホーファ回折理論やミーの散乱理論を用いて粒子径分布を求めるのがレーザ回折散乱法である.」(22頁「第1章 粒子径計測法概論」の「1.4各種粒度測定装置の概略と特徴」の項)
18b「第8章
レーザ回折・散乱法
この方法では,粒子群によって前方から側方の角度領域に散乱される光の強度の角度依存性(散乱パターン)が粒子径分布の決定に利用される。」(145頁)

(19)甲19(特開昭61-253796号公報)
19a「硫化亜鉛セラミツクのふた(6)をした本発明の方法を示した。硫化亜鉛セラミツクのふた(6)は硫化亜鉛粉末を1100℃で数十kg/cm^(2)以上の圧力でカーボン製金型を用いてホツトプレスして作成した。またホツトプレス法を用いなくとも焼結助剤としてBaCl_(2)を硫化亜鉛粉末に対し0.3モル%加えて通常のセラミツク製造方法によつて1000?1200℃で焼結して製造できる。」(2頁右上欄7?15行)

(20)甲20(特開平5-263075号公報)
20a「【0006】本発明の熱蛍光体は、窒化アルミニウム粉末単独、又は窒化アルミニウム粉末に焼結助剤を添加し、常圧もしくは加圧下で焼結もしくはホットプレス等により緻密化させることにより製造することが出来る。この際、MnO_(4)、Fe_(2)O_(3)等を微量添加することもできる。」

(21)甲21(特開2002-322469号公報)
21a「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、ブラウン管、蛍光ランプ、PDPなどに適用するときに均質で緻密な高輝度蛍光膜を形成することのでき、粒度分布が狭く、凝集粒子が少なく、球状で、しかも、高純度で化学組成の均一な優れた発光特性を有する蛍光体を安価に提供しようとするものである。」
21b「【0043】得られた蛍光体の粉末X線回折パターンを調べたところ、不純物相の存在しない単相の蛍光体が生成していることが分かった。また、この粒子の形状は、表面が滑らかで粒径の揃った球状で、その平均粒径は1μmであり、(最小粒径/最大粒径)の値が0.8?1.0の範囲にある蛍光体の個数は95%であった。この蛍光体について波長254nm紫外線照射下での発光スペクトルを測定したところ、良好な赤色発光を示し、その発光強度は、同1条件で測定された下記の比較例1の蛍光体の発光強度を80とするときに102であった。」

(22)甲22(特開2002-322470号公報)
省略
(23)甲23(特開2002-322471号公報)
省略
(審決注:甲22,甲23は、甲21の関連出願に係るものであって、それらには上記甲21の摘示と同等の記載がある。)

2 被請求人が提出した書証
(1)乙1(「セラミックデータブック‘93」「高品質窒化ケイ素粉末の開発とその焼結特性」)
1’a「本稿においては,主としてイミド熱分解法による高品質Si_(3)N_(4)粉末の製造プロセス,及び生成したSi_(3)N_(4)粉末の焼結特性について解説したい.」(54頁左欄28?30行)
1’b「

」(54頁右欄)
1’c「2.2 イミド熱分解法によるSi_(3)N_(4)粉末の製造プロセス^(7))
当社独自の開発技術によるSi_(3)N_(4)粉末の製造プロセスは,図2に示すように,イミド合成工程,仮焼熱分解工程及び結晶化焼成工程より構成されている.
イミド合成工程:出発原料は、精製されたSiCl_(4)とNH_(3)である.…


仮焼工程:生成したSi(NH)_(2)を,1000℃前後の温度で熱分解して,粒径10nm以下の非晶質S_(3)N_(4)粉末に変える.この非晶質S_(3)N_(4)は,非常に活性が高い為,その取り扱いには,種々の工夫を凝らしている.…
結晶化焼成工程:超微細な非晶質Si_(3)N_(4)粉末を焼成して,結晶化させつつ成長させる.…非晶質Si_(3)N_(4)は,1360℃付近より徐々にα相に結晶化し始め,1430℃以上の温度では,極めて短時間に結晶化を完了した.」(54頁左欄下から6行?55頁右欄図下1行)
1’d「

」(56頁右欄)

(2)乙2(Journal of the American Ceramic Society,Vol.85,No.5 1229?1234頁)
(摘示箇所を日本語訳で示す)
2’a「カルシウム及び希土類(R=Eu,Tb,Pr)コドープα-SiAlONセラミックスの調製と発光スペクトル」(1229頁 表題)
2’b「ロン・チン・シエ、三友護、上田恭太、ファン・ファン・シュ、アキムネヨシオ
産業総合研究所(筑波、日本)」
2’c「本研究で調製した試料は、単相α-SiAlON領域の…組成を有するように設計した。Ca/Eu コドープα-SiAlONについては、8個のバッチを作成し、それぞれは0,5,10,20…100%のユーロピウムSi_(3)N_(4)(UBE-10,宇部興産、山口、日本)、AlN…、CaCO_(3)…、R_(2)O_(3)…を出発原料として用いた。20gの混合粉末バッチを…ボールミル処理した。…緩やかな粉末混合物を1気圧の窒素雰囲気中の窒化ホウ素被覆グラファイトダイで1750℃1時間ホットプレスした。ホットプレスの間、20MPaの一定圧力で加圧して緻密化を促進させた。」(1230頁左欄「II.Experimental Procedures」1?19行)

(3)乙3(「窒化ケイ素系セラミック新材料」)
(審決注:発行年(2009年)は、本件出願日2003年12月1日の後である。)
3’a「4.1 直接窒化法
窒化ケイ素(Si_(3)N_(4))セラミックスは,耐摩耗性,耐熱衝撃性などに優れ,高温強度・高破壊靱性のエンジニアリングセラミックスとして,機械的特性のバランスに優れており…検討されてきたが,大きな実績には結びつかなかった。
しかしながら,…最近では,本来の良好な機械的特性,並びに耐絶縁性に加えて高熱伝導性を付与した半導体素子基板の実用化やLED発光材料の一つであるSIAlON蛍光体^(2))の原料として,…応用展開も拓けてきている.」(109頁)
3’b「4.1.1 窒化ケイ素粉末の特徴
代表的な窒化ケイ素粉末の製造プロセスを表4.1.1に示す.各製法ともにそれぞれ特徴を有するが,現在,市販されている製法は,直接窒化法,並びにイミド熱分解法である.」(109頁)
3’c「参考文献

2)解説として,山本明,応用物理76,[3](2007)214-251」(116頁)

(4)乙4(特許第4075321号)
(審決注:発行年(2008年)は、本件出願日2003年12月1日の後である。なお、当該公開公報の発行は、本件出願日前である。)
4’a「【0074】
本願発明の発光ダイオードにおいて、このようなフォトルミネセンス蛍光体は、2種類以上のセリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット蛍光体や他の蛍光体を混合させてもよい。
【0075】
また、本発明で用いられる蛍光体の粒径は10μm?50μmの範囲が好ましく、より好ましくは15μm?30μmである。これにより、光の隠蔽を抑制し集積型窒化物半導体発光素子の輝度を向上させることができる。また上記の粒径範囲の蛍光体は、光の吸収率及び変換効率が高く且つ励起波長の幅が広い。このように、光学的に優れた特徴を有する大粒径蛍光体を含有させることにより、発光素子の主波長周辺の光をも良好に変換し発光することができ、集積型窒化物半導体発光素子の量産性が向上される。
【0076】
これに対し、15μmより小さい粒径を有する蛍光体は、比較的凝集体を形成しやすく、液状樹脂中において密になって沈降する傾向にあり、光の透過効率を減少させてしまう。」
4’b「【0077】
ここで本発明において、粒径とは、体積基準粒度分布曲線により得られる値である。前記体積基準粒度分布曲線は、レーザ回折・散乱法により粒度分布を測定し得られるもので、具体的には、気温25℃、湿度70%の環境下において、濃度が0.05%であるヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液に各物質を分散させ、レーザ回折式粒度分布測定装置(SALD-2000A)により、粒径範囲0.03μm?700μmにて測定し得られたものである。この体積基準粒度分布曲線において積算値が50%のときの粒径値を中心粒径と定義すると、本発明で用いられる蛍光体の中心粒径は15μm?50μmの範囲であることが好ましい。また、この中心粒径値を有する蛍光体が頻度高く含有されていることが好ましく、頻度値は20%?50%が好ましい。このように粒径のバラツキが小さい蛍光体を用いると色むらを抑制することができ良好な色調を有する集積型窒化物半導体発光素子が得られる。」

(5)乙5(窯業協会誌vol.,73,no.6(1965)35?42頁「粉砕生成物の粒度分布と粉砕機構」)
5’a「多くの分布が頻度分布曲線で示して2つもしくはそれ以上の極大値(山)をもつために直線性を示さない…この分布の2成分性(厳密には多成分性)はじつは非常に古くから認められていたことで…Heywoodは,図-1に示すように,ジョー・クラッシャの破砕物が2成分分布となることを指摘し,粗粒部分…分布を…,微粒部分…分布の方を…と名づけ,2成分説に1つの物理的解釈を加えようとした」(35頁右欄下から3行?36頁左欄22行)
5’b「

」(36頁左欄)
5’c「そこでまずはじめに,…,全く粒子の大きさの分布のみに注目したモデルを考える必要がある.

この粉砕のモデルとしては,…,図式的にいって図9に示すような3つの形式が考えられる.…
これらのモデルを粒度分布(累積分布および頻度分布)の形で模型的に示すと図-10のようになる」(38頁右欄「§4.2成分説とそのモデル」4行?同欄下から3行)
5’d「


…従って実際の粉砕では[A]と[B]が重なりあって,2つの分布成分を示すものと考えられる.」(39頁左欄冒頭?図-10の下11行)

第7 当審の判断
当審は、本件特許5は無効理由2によって無効にすべきものであり、本件特許1ないし4は、無効理由1ないし4によっては無効にすべきものであるとはいえない、と判断する。その理由は、以下のとおりである。
事案にかんがみ、まず、訂正発明の課題等について検討し、次いで、無効理由2、さらに無効理由1,3,4の順に検討することとする。

1 訂正発明の課題等について
訂正発明は、上記第3のとおりのものである。
無効理由の検討に当たり、まず、訂正発明の課題及び技術的意義、作用・効果について、検討する。

(1)本件訂正明細書の記載
本件訂正明細書には、訂正発明及びその窒化ケイ素原料に関して、以下の記載がある。
a「【技術分野】
【0001】
本発明は、照射光の一部を、それとは異なる波長の光に変換すると共に、変換しなかった照射光と混合して、色合いの異なる光に変換する機能を有する材料の製造方法に関するものである。具体的には、青色発光ダイオード(青色LED)を光源とする白色発光ダイオード(白色LED)に用いる、希土類金属元素で賦活されたサイアロン系蛍光体の製造方法に関するものである。また、その製造方法により得られるサイアロン系蛍光体に関する。」
b「【0004】
これに対し、希土類元素を賦活させたサイアロン系の蛍光体は、CeをドープしたYAGの蛍光波長よりもさらに長い(赤色側にシフトした)蛍光を発生することが知られている(特許文献1参照)。このサイアロン系の蛍光体と青色LEDの光を混合することで、より良好な白色光を得ることができるようになる。このように、新たな蛍光体材料としてサイアロン系の蛍光体材料の実用化が期待されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002-363554公報」
c「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている組成の蛍光体は、結晶質の窒化ケイ素を原料としており、ホットププレス法を用いて粉体を圧縮しながらサイアロンへの反応を進めている。この方法で得られるサイアロン蛍光体は塊状となり、蛍光体粉末として利用するには適さない。」
d「【0007】
そこで、本発明者等は、結晶質の窒化ケイ素粉末とカルシウム源、希土類源、アルミニウム源を混合し、常圧の雰囲気炉で焼成しサイアロン系蛍光体を得ることを試みた。その結果、窒化ケイ素の粒子サイズと反応条件を適切に選ぶと粉末状態の蛍光体を得ることができるものの、粉末が強く凝集した集合粉末(以後凝集粒子と呼ぶ)になり、かつ凝集粒子の径は大きく、粒子径の分布を広く不均一であることが確認された。このような凝集粒子からなる蛍光体は、樹脂と混合して薄膜を形成するには不適当であり、また、蛍光が不均一で、蛍光強度の十分でない。」
e「【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造する方法を提供することを目的とする。また、本発明の目的は、その方法で得られた、薄膜を形成することができ、蛍光が均一で発光強度の大きいサイアロン系蛍光体を提供することである。」
f「【0013】
さらに、本発明は、蛍光体粒子のレーザー回折/ 散乱式粒度分布測定装置で測定した粒度分布曲線における50%径が8μmより大きく19μm以下であり、10%径が1.3ミクロン以上であり、90%径が83%であることを特徴とする…」
g「【発明の効果】
【0012】(審決注:【0013】直後のもの。【0014】の誤記と認める。)
本発明の蛍光体の製造方法では、原料として、結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である窒化ケイ素を用いることにより、製造したサイアロン系蛍光体の粒子は、凝集が大きくなく、そのため、適当な大きさと分布を有し、蛍光体材料として樹脂と混合して薄膜を形成するのに適しており、また、蛍光が均一で、発光強度の大きい蛍光材料が得られる。」
h「【0015】(審決注:【0021】の直後のもの。【0022】の誤記と認める。)
原料の窒化ケイ素に結晶質の窒化ケイ素を用いると、反応性が低く、原料を混合して坩堝で焼成するという通常の粉末焼成法では未反応の窒化ケイ素が多く生成し効率良くサイアロン粉末を作製することができない。反応をより促進するためには、ホットプレスなどの反応を促進させる方法を採用する必要がある。この方法では、得られるサイアロンは焼結体のような塊状となる。塊状物を蛍光体粉末にするには粉砕の工程が必要となるが、粉砕工程では不純物の混入が起こるため、蛍光体に有害な鉄などの混入が起こり、蛍光強度を低下させることが起こる。このような問題を回避するために、原料として、部分的に結晶化させることにより得られた非晶質成分と結晶質成分の両方を含有する窒化ケイ素粉末を用いることは重要なことである。部分的に結晶化した窒化ケイ素粉末は反応性が高いので、原料を混合し坩堝中で焼成するという簡便な方法で凝集の大きくないサイアロン粉末を得ることができる。非晶質と結晶質の窒化ケイ素とからなる窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合は5?95重量%が好ましい。結晶質窒化ケイ素の割合が5%より小さいと結晶粒子が小さくなりすぎてかえって蛍光強度が低下する傾向にある。また、95%を超えると製造したサイアロン粉末の凝集が著しくなる。
【0016】
また、非晶質と結晶質の窒化ケイ素とからなる窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%であると、原料窒化ケイ素の比表面積は15?300m^(2)/g程度であり、この範囲内であれば、簡便で凝集の大きくなく、発光強度の大きいサイアロン蛍光粉末を得ることができるので好ましい。
【0017】
非晶質成分と結晶成分の両方を含有する窒化ケイ素粉末は、非晶質の窒化ケイ素粉末を加熱処理することにより、効率的に得ることができる。非晶質の窒化ケイ素粉末を加熱処理することにより得られた窒化ケイ素粉末中の結晶粒子は小さく、反応が均一に進みやすく好ましい。非晶質成分と結晶成分の両方を含有する窒化ケイ素粉末は、非晶質の窒化ケイ素粉末と結晶の窒化ケイ素粉末を混合して調整してもよい。」
i「【0023】(審決注:(実施例1?6)の2つ前の段落)
本発明のα-サイアロン系蛍光体は、結晶質の窒化ケイ素を原料に用いたものに比べて、凝集が少なく、粒度分布が狭いという特徴がある。本発明のα-サイアロン系蛍光体の粒度分布曲線における50%径は2?19μm、好ましくは3.5?17.5μmである。50%径が2μm未満になると、発光強度が著しく低下する。これは、粒子表面の欠陥が増大するためと考えられる。また、50%径が19μmを超えると、粒子の凝集により発光強度が著しく不均一になるので好ましくない。」
j「(実施例1?6)
四塩化ケイ素とアンモニアを室温を反応させることにより得られたシリコンジイミドを1150℃?1350℃の範囲で加熱分解して、非晶質成分と結晶質成分の両方を含有する6種類の窒化ケイ素粉末を得た。シリコンジイミドの加熱温度と結晶化度、及び、粉体の比表面積を表1に示した。なお結晶化度は、非晶質原料を加水分解し、残さの重量より求めた。この粉末類を用いて窒化アルミニウム粉末、炭酸カルシウム粉末、酸化ユーロピウム粉末をCa_(0.525)Eu_(0.15)Si_(9.75)A_(l2.25)O_(0.75)N_(15.25)の組成になるように秤量し、窒素雰囲下において、1時間振動ミルによって混合した。混合粉末をカーボン製坩堝に充填し、高周波加熱炉にセットし、窒素ガス雰囲気下に、室温から1200℃までを1時間、1200℃から1400℃までを4時間、1400℃から1600℃までを2.5時間の昇温スケジュールで加熱し、サイアロン粉末を得た。これらの粉末を、蛍光測定装置によって、励起波長を450nmとして、蛍光特性を評価した。発光スペクトルを図1に示した。また、得られたサイアロン粉末の粒度分布を表1に示した。」
k「(比較例1)
四塩化ケイ素とアンモニアを室温を反応させることにより得られたシリコンジイミドを1550℃で加熱分解して結晶化した窒化ケイ素粉末を得た。この原料と窒化アルミニウム粉末、炭酸カルシウム粉末、酸化ユーロピウム粉末をCa_(0.525)Eu_(0.15)Si_(9.75)Al_(2.25)O_(0.75)N_(15.25)の組成になるように秤量し、窒素雰囲下において、1時間振動ミルによって混合した。混合粉末をカーボン製坩堝に充填し、高周波加熱炉にセットし、窒素ガス雰囲気下に、室温から1200℃までを1時間、1200℃から1400℃までを4時間、1400℃から1600℃までを2.5時間の昇温スケジュールで加熱し、サイアロン粉末を得た。この粉末は強く凝集して、坩堝に入れた原料は1つの塊になった。これを、メノウ乳鉢で解砕し、蛍光測定装置によって、励起波長を450nmとして、蛍光特性を評価した。発光スペクトルを図1に示した。得られたサイアロン粉末の粒度分布を表1に示した。表1および図1より、原料として部分的に結晶化した非晶質窒化ケイ素を用いた方が、大きい凝集粒子が少なく、粒度分布が狭く、蛍光強度が高いことがわかる。」
l「【表1】



m「【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の製造方法によれば、凝集粒子の大きさが制限され、粒度分布の狭い蛍光体粉末を得ることができ、樹脂等と混合して青色LEDに塗布しやすく、容易に高輝度の白色LEDを得ることができる。」
n「【図1】



(2)発明の課題
以上の摘示によれば、本件出願の発明は、「希土類金属元素で賦活されたサイアロン系蛍光体の製造方法及びその製造方法により得られるサイアロン系蛍光体に関する」(摘示a)ものである。
従来知られた「特許文献1(審決注:甲2である、特開2002-363554公報)に開示されている組成の蛍光体は、結晶質の窒化ケイ素を原料としており、ホットププレス法(審決注:ホットプレスの誤記と認める。)を用いて粉体を圧縮しながらサイアロンへの反応を進めている」(摘示c)ものであるところ、「この方法で得られるサイアロン蛍光体は塊状となり、蛍光体粉末として利用するには適さない」(摘示c)、「塊状物を蛍光体粉末にするには粉砕の工程が必要となるが、粉砕工程では不純物の混入が起こるため、蛍光体に有害な鉄などの混入が起こり、蛍光強度を低下させることが起こる」(摘示h)という問題があるものであった。
そこで、結晶質の窒化ケイ素粉末を含む原料混合粉末を「常圧の雰囲気炉で焼成しサイアロン系蛍光体を得ることを試みた」(摘示d)ところ、得られるサイアロン系蛍光体は「強く凝集した集合粉末(以後凝集粒子と呼ぶ)になり、かつ凝集粒子の径は大きく、粒子径の分布を(審決注:「分布が」の誤記と認められる。)広く不均一」(摘示d)なものであった。そして、「このような凝集粒子からなる蛍光体は、樹脂と混合して薄膜を形成するには不適当であり、また、蛍光が不均一で、蛍光強度の(審決注:「蛍光強度が」の誤記と認められる。)十分でない」(摘示d)ものであった。
そこで、本件出願の発明は、「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造する方法を提供すること」(摘示e)、「その方法で得られた、薄膜を形成することができ、蛍光が均一で発光強度の大きいサイアロン系蛍光体を提供する」(摘示e)ことを課題とするものであるとされている。
そうすると、本件出願の製造方法の発明の課題は、「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造する方法を提供すること」(摘示e)であると認められ、本件出願の蛍光体の発明の課題は、その方法で得られた、薄膜を形成することができ、蛍光が均一で発光強度の大きいサイアロン系蛍光体を提供することとされているものである。

(3)本件出願の発明の技術的意義、作用・効果
ア 本件出願の製造方法の発明について
本件訂正明細書の摘示gに「本発明の蛍光体の製造方法では、原料として、結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である窒化ケイ素を用いることにより、製造したサイアロン系蛍光体の粒子は、凝集が大きくなく、そのため、適当な大きさと分布を有し、蛍光体材料として樹脂と混合して薄膜を形成するのに適しており、また、蛍光が均一で、発光強度の大きい蛍光材料が得られる。」と記載されている。そうすると、「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造する方法を提供すること」との課題は、窒化ケイ素原料を、結晶質の窒化ケイ素粉末に代えて、上記特定の窒化ケイ素、すなわち、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」とすることより解決しようとするものと認められる。
サイアロン系蛍光体を製造する方法において、窒化ケイ素原料を、この特定の窒化ケイ素原料とする技術的意義は、窒化ケイ素原料に「結晶質の窒化ケイ素を用いると、反応性が低く、原料を混合して坩堝で焼成するという通常の粉末焼成法では未反応の窒化ケイ素が多く生成し効率良くサイアロン粉末を作製することができな」(摘示h)かったため、窒化ケイ素原料を「部分的に結晶化させることにより得られた非晶質成分と結晶質成分の両方を含有する窒化ケイ素粉末」とすることが「重要」(摘示h)であって、この「部分的に結晶化させることにより得られた非晶質成分と結晶質成分の両方を含有する窒化ケイ素粉末」は「反応性が高い」(摘示h)ため、「原料を混合し坩堝中で焼成するという簡便な方法で凝集の大きくないサイアロン粉末を得ることができる」(摘示h)と説明されている。
すなわち、本件出願に係る製造方法においては、窒化ケイ素原料として、結晶質のものに代えて、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」するものを使用したので、結晶質のものよりも「反応性が高」いことに起因して、「坩堝で焼成するという通常」の「簡便な方法」で、所期の課題である「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造する方法を提供すること」との課題が解決できるというものであると認められる。
そして、窒化ケイ素原料として、結晶質の窒化ケイ素に代えて、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」するものを使用したので所期の課題が解決できることは、本件訂正明細書の具体例等の記載等により認めることができる。
すなわち、本件訂正明細書の摘示j,摘示kには、シリコンジイミド粉末を温度を変えて焼成することにより製造した、「結晶化度」(%)(摘示h【0023】等の記載からみて、重量%であると認められる。)が11.8、35.4、50.3、76.5、84.6、89.4及び100の「非晶質成分と結晶質成分の両方を含有」する窒化ケイ素粉末(実施例1?6)又は結晶質(比較例)の窒化ケイ素粉末を窒化ケイ素原料とし、「窒化アルミニウム粉末、炭酸カルシウム粉末、酸化ユーロピウム粉末をCa_(0.525)Eu_(0.15)Si_(9.75)Al_(2.25)O_(0.75)N_(15.25)の組成になるように…混合し…混合粉末を…窒素ガス雰囲気下に、室温から1200℃までを1時間、1200℃から1400℃までを4時間、1400℃から1600℃までを2.5時間の昇温スケジュールで加熱し」(実施例、比較例)た、サイアロン粉末の製造例が記載されている。
そして、これらの製造例において製造されたサイアロンの粉体特性が表1(摘示l)に示され、これらの粉末を、「蛍光測定装置によって、励起波長を450nmとした」発光スペクトルが、図1(摘示n)に示されている。ここで、表1の「粉体特性」の「10%径」、「50%径」、「90%径」の欄に記載された数値は、摘示fの記載から、蛍光体粒子のレーザー回折/ 散乱式粒度分布測定装置で測定した粒度分布曲線における、10%、50%、90%である粒径(μm)であると認められる(以下、これらを「D10」、「D50」、「D90」と略記する。また、甲11摘示11dにならい、「D50」を「平均粒子径」と、D90/D10を「粒度分布」ともいう。)。
これら製造例によって製造された7つサイアロン粉末について、窒化ケイ素粉末の「結晶化度」が、実施例1の11.8から実施例6の89.4、さらに比較例の100と高まるにつれて、「平均粒子径」(D50)が2.5から19.1、さらに30.2と順次大きくなること、また、「粒度分布」(D90/D10)の計算値が24から44、さらに比較例の62と拡がる傾向にあることが、認められる(摘示l。表1)。また、それらのサイアロン粉末の相対発光強度は実施例1から実施例6、さらに比較例と順次低下していることが認められる(摘示n。図1)。
すなわち、「平均粒子径」「粒度分布」は、比較例も含め、窒化ケイ素原料における結晶質窒化ケイ素の割合に応じて、概ね連続的に変化するものであることが認められ、また、窒化ケイ素原料の「反応性」の高さは、「平均粒子径」「粒度分布」、すなわち、蛍光体粒子の凝集性に影響することは技術常識にかなうことからすれば、これらの製造例によって、窒化ケイ素原料として、結晶質のものに代えて、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」するものを使用すると、結晶質のものを使用した場合に比し、「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造する」ことができることが裏付けられているということがきる。
また、窒化ケイ素原料を「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」するものを用いた6例の製造方法においては、特段の粉砕をしたことについて記載されていないことから、ホットプレスにおいて必要とされるような粉砕を経ることなく、表1(摘示l)のサイアロンの粉末が、坩堝に充填し焼成することによって得られたことが具体例によって裏付けられているといえる。この製造方法によれば、粉砕工程の付加の手間がないから簡便であること、さらに、それに伴う「不純物の混入」(摘示h)の問題がないことは、技術常識から予測されることである。
以上によれば、本件出願の製造方法の発明は、α-サイアロン系蛍光体粉末の製造方法において窒化ケイ素原料を「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」するものとしたことにより、簡便な方法で、「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造する方法を提供すること」ができるものである、と認められる。
なお、この窒化ケイ素原料における結晶質窒化ケイ素の割合について、「5?95重量%が好ましい。結晶質窒化ケイ素の割合が5%より小さいと結晶粒子が小さくなりすぎてかえって蛍光強度が低下する傾向にある。また、95%を超えると製造したサイアロン粉末の凝集が著しくなる。」(摘示h)との記載があり、訂正発明1ないし4は、この範囲に限定されるものである。しかし、この範囲は、製造したサイアロン粉末の「平均粒子径」「粒度分布」が、窒化ケイ素原料における結晶質窒化ケイ素の割合に相関して順次変化する特性であることからすれば、この範囲外において直ちに、上記「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造する方法を提供すること」という課題を解決できなくなるというような臨界的な範囲であるとは認められない。

イ 本件出願の蛍光体の発明について
本件訂正明細書には、上記(1)に摘示した記載があり、これらの記載によれば、本件出願の製造方法の発明は、「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造する方法を提供すること」ができるものである。そして、本件出願の蛍光体の発明は、「その方法で得られた、薄膜を形成することができ、蛍光が均一で発光強度の大きいサイアロン系蛍光体を提供する」こととされているものであることは、上記(2)のとおりである。
本件訂正明細書の摘示dによれば、蛍光体の粒子特性について従来の凝集粒子からなる蛍光体は「凝集粒子の径は大きく、粒子径の分布を広く不均一である」とされ、「樹脂と混合して薄膜を形成するには不適当であり、また、蛍光が不均一で、蛍光強度の(が)十分でない」との問題があったことが認められる。
そして、本件出願の製造方法により得られる「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体」は、上記問題がないもの、すなわち「凝集が大きくなく、そのため、適当な大きさと分布を有」し、「蛍光体材料として樹脂と混合して薄膜を形成するのに適しており、また、蛍光が均一で、発光強度の大きい蛍光材料が得られ」(摘示g)、「凝集粒子の大きさが制限され、粒度分布の狭い蛍光体粉末」は、「樹脂等と混合して青色LEDに塗布しやすく、容易に高輝度の白色LEDを得ることができる」(摘示m)とされている。
すなわち、本件出願の蛍光体の発明は、凝集粒子の大きさが制限され、粒度分布の狭いものであることにより、樹脂と混合して塗布しやすく、薄膜を形成するのに適し、また蛍光が均一で、発光強度が大きいというものである。なお、ここにおける「蛍光が均一」は、形成した薄膜の発光特性をいうと認められ、「発光強度の大きい」も文脈からみれば、同様に形成した薄膜の発光特性をいうのが自然であるが、間接的に蛍光体自体の発光特性が大きいことをいうといえなくもない。
そして、具体例としては、上記アにおいて示したとおりの製造例によって「結晶化度」が11.8から100の窒化ケイ素粉末を使用して「平均粒子径」(D50)、「粒度分布」(D90/D10)について表1(摘示l)に示されたサイアロン蛍光体粒子が製造できたこと、これらのサイアロン蛍光体粒子「大きい凝集粒子が少なく、粒度分布が狭く、蛍光強度が高い」(摘示k)ものと評価されていることが認められる。
以上によれば、本件訂正明細書には、「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体」が示されていることは認められるが、これらの蛍光体粒子が、樹脂と混合して塗布しやすいものであるのか、薄膜を形成するのに適しているのか、形成した薄膜の蛍光が均一であるのか、さらに、「発光強度の大きい」が形成した薄膜の発光特性をいうとすれば、形成した薄膜の発光強度が大きいのか、について具体的に裏付けるデータは何ら記載されてはいない。ただ、蛍光体の粒径や粒度分布と塗布性とが関連することは技術常識ではある(後記第7 2(5)イ)。
そして、訂正発明5の蛍光体は、大きい凝集粒子が少なく、粒度分布が狭く、蛍光強度が高い程度が、「蛍光体粒子のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定した粒度分布曲線における50%径が8μmより大きく19μm以下であり、10%径が1.3μm以上であり、90%径が83μm以下である」と限定されているものである。
この点について、本件訂正明細書には、「本発明のα-サイアロン系蛍光体は、結晶質の窒化ケイ素を原料に用いたものに比べて、凝集が少なく、粒度分布が狭いという特徴がある。」(摘示i)、「本発明のα-サイアロン系蛍光体の粒度分布曲線における50%径は2?19μm、好ましくは3.5?17.5μmである。50%径が2μm未満になると、発光強度が著しく低下する。これは、粒子表面の欠陥が増大するためと考えられる。また、50%径が19μmを超えると、粒子の凝集により発光強度が著しく不均一になるので好ましくない。」(摘示i)との記載はあるものの、「発光強度が著しく低下する」(形成した薄膜のものをいうのか、蛍光体自体のものをいうのかは明らかではない。)ことや、「発光強度が著しく不均一になる」ことについて、具体的なデータ(表1及び図1)からは確認することはできない。そうすると、「蛍光体粒子のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定した粒度分布曲線における50%径が8μmより大きく19μm以下であり、10%径が1.3μm以上であり、90%径が83μm以下である」との規定の技術的意義は、大きい凝集粒子が少なく、粒度分布が狭い程度のことをいうものであって、その作用・効果も、塗布しやすく、薄膜を形成するのに適している程度のものであると認めざるをえない。

2 無効理由2について
無効理由2の概要は、訂正発明1及び5が、甲2ないし甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。

(1)甲2ないし甲4の記載
その出願前頒布された刊行物であることが明らかな甲2ないし甲4には、第6(2)ないし(4)において摘示した事項が記載されている。

(2)甲2に記載された発明
甲2は、「一般式:Me_(x)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n):Re1_(y)Re2_(z)で示され、アルファサイアロンに固溶する金属Me(Meは、Ca、Mg…)の一部…が、発光の中心となるランタニド金属Re1(Re1は、…Eu…)…で置換された蛍光体であることを特徴とする希土類元素を付活させた酸窒化物蛍光体。」(摘示2a)に関し記載するものである。
その蛍光体を製造する方法として、例えば、「(実施例1)」(摘示2e)においては、Eu^(2+)イオンで付活されたCa-アルファサイアロン蛍光体を、「Ca-アルファサイアロン」粉末と「Eu-アルファサイアロン」粉末を所定の「モル比に混合し、ホットプレス装置を用い、20MPaの加圧下、1700℃、1atmの窒素雰囲気中で1時間反応させ」(摘示2e)る方法が記載されている。この「Ca-アルファサイアロン」粉末とは、摘示2dにおける1○のCa-アルファサイアロン(Ca_(0.75)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))であり、「Eu-アルファサイアロン」粉末とは、摘示2dにおける2○のEu-アルファサイアロン(Eu_(0.5)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))の各原料粉末である。「Ca-アルファサイアロン(Ca_(0.75)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))」粉末は、「出発原料として用いた化学試薬のモル比」が「窒化ケイ素(Si_(3)N_(4)):窒化アルミニウム(AlN):酸化カルシウム(CaO)=13:9:3」であり、「Eu-アルファサイアロン(Eu_(0.5)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))」粉末は、「化学試薬のモル比」が「窒化ケイ素(Si_(3)N_(4)):窒化アルミニウム(AlN):酸化ユーロピウム(Eu_(2)O_(3))=13:9:1」であり(摘示2d)、これら化学試薬を、それぞれ「ホットプレス装置を用い、20MPaの加圧下、1700℃、1atmの窒素雰囲気中で1時間反応させ」(摘示2d)て作製されたものである。これら「化学試薬」の窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化ユーロピウムは、ホットプレスにより反応させるのであるから、それぞれ粉体であり、それらを混合した混合粉体としてホットプレス装置に供給され加熱加圧処理されると認められる。
そして、そのホットプレス処理の結果得られた「Ca-アルファサイアロン」や「Eu-アルファサイアロン」は、プレス型に応じた塊状体となっていると認められるから、「(実施例1)」における、Eu^(2+)イオンで付活されたCa-アルファサイアロン蛍光体を「混合し、ホットプレス装置を用い、20MPaの加圧下、1700℃、1atmの窒素雰囲気中で1時間反応させ」製造するために、それぞれは粉砕されたと認められる。
以上の記載及び認定によれば、甲2には、
「窒化ケイ素とAlNとCaの酸化物とを混合して得られる混合粉末をホットプレス装置を用い、20MPaの加圧下、1700℃、1atmの窒素雰囲気中で反応させることによって得られた、Ca_(0.75)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)、及び窒化ケイ素とAlNとEuの酸化物とを混合して得られる混合粉末をホットプレス装置を用い、20MPaの加圧下、1700℃、1atmの窒素雰囲気中で反応させることによって得られた、Eu_(0.5)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)を、それぞれ粉砕して得られた粉末を混合して、得られる混合粉末を、ホットプレス装置を用い、20MPaの加圧下、1700℃、1atmの窒素雰囲気中で反応させることによって得られた、Eu^(2+)イオンで付活されたCa-アルファサイアロン蛍光体の製造方法」
の発明が記載されていると認められる。
そして、その製造方法によって製造された「Eu^(2+)イオンで付活されたCa-アルファサイアロン蛍光体」として「(実施例1)」においてはさまざまなEu^(2+)イオンの付活量のものが記載され、例えば、[3]として、「Ca(10%Eu)-アルファサイアロン蛍光体(Ca_(0.68)Eu_(0.05)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75))」が記載されている。
そうすると、甲2には、例えば、この[3]の「Eu^(2+)イオンで付活されたCa-アルファサイアロン蛍光体」の製造方法として、
「窒化ケイ素とAlNとCaの酸化物とを混合して得られる混合粉末をホットプレス装置を用い、20MPaの加圧下、1700℃、1atmの窒素雰囲気中で反応させることによって得られた、Ca_(0.75)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)、及び、窒化ケイ素とAlNとEuの酸化物とを混合して得られる混合粉末をホットプレス装置を用い、20MPaの加圧下、1700℃、1atmの窒素雰囲気中で反応させることによって得られた、Eu_(0.5)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)を、それぞれ粉砕して得られた粉末を混合して、得られる混合粉末を、ホットプレス装置を用い、20MPaの加圧下、1700℃、1atmの窒素雰囲気中で反応させることによって得られた、Ca_(0.68)Eu_(0.05)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)であるアルファサイアロン蛍光体の製造方法」
の発明(以下「甲2-1発明」という。)が記載されているといえ、
「Ca_(0.68)Eu_(0.05)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)であるアルファサイアロン蛍光体」
の発明(以下「甲2-2発明」という。)が記載されているといえる。

(3)訂正発明1について
ア 訂正発明1と甲2-1発明との対比
訂正発明1と甲2-1発明とを対比すると、蛍光体の原料について、甲2-1発明の「窒化ケイ素」、「AlN」、「Caの酸化物」、「Euの酸化物」は、それぞれ訂正発明1における「窒化ケイ素原料」、「AlNを含むアルミニウム源となる物質」(以下、「Al源」ともいう。)、「金属M(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属)の酸化物または熱分解により金属Mの酸化物となる前駆体物質」(以下、「M源」ともいう。)、「ランタニド金属Lnの酸化物または熱分解によりランタニド金属Ln酸化物となる前駆体物質」(以下、「Ln源」ともいう。)に相当する。
さらに、甲2-1発明の蛍光体の組成「Ca_(0.68)Eu_(0.05)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)」は、訂正発明1のα-サイアロン系蛍光体の組成、
「M_(x)Ln_(y)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n )
(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属、Lnは、Eu,Dy,Er,Tb,Yb,Ceから選ばれる少なくとも1種のランタニド金属であり、金属Mの価数をa、ランタニド金属Lnの価数をbとすると、ax+by=mであり、xが0<x≦1.5であり、0.3≦m<4.5、0<n<2.25である)」において、MがCa(2価)、LnがEu(2価)であり、a、b、x、y、nがそれぞれ2、2、0.68、0.05、0.75で、ax+by=mが1.46であるから、これらx、m、nの値は訂正発明1において規定するx、m、nの範囲に包含される。
そうすると、甲2-1の「Ca_(0.68)Eu_(0.05)Si_(9.75)Al_(2.25)N_(15.25)O_(0.75)であるアルファサイアロン蛍光体」は、訂正発明1において特定される「α-サイアロン系蛍光体」に包含されるといえる。
さらに、甲2-1発明の各ホットプレス条件「1700℃、1atmの窒素雰囲気中」の加熱条件及び雰囲気は、訂正発明1の「窒素を含有する不活性ガス雰囲気中1400?2000℃」に包含される。
そうすると、訂正発明1と甲2-1発明とは、
「窒化ケイ素原料と、AlNを含むアルミニウム源となる物質と他の物質とを含む粉末を混合して、得られる混合粉末を原料として用い、窒素を含有する不活性ガス雰囲気中1400?2000℃の加熱条件及び雰囲気で処理する、
一般式、
M_(x)Ln_(y)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n)
(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属、Lnは、Eu,Dy,Er,Tb,Yb,Ceから選ばれる少なくとも1種のランタニド金属であり、金属Mの価数をa、ランタニド金属Lnの価数をbとすると、ax+by=mであり、xが0<x≦1.5であり、0.3≦m<4.5、0<n<2.25である)
で表されるα-サイアロン系蛍光体粉末の製造方法」
において一致するが、以下の点において相違するといえる。
(i)窒化ケイ素原料は、訂正発明1において、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」のに対して、甲2-1発明においては、そのようなものであるか明らかではない点
(ii)特定加熱条件及び雰囲気で処理する方法が、訂正発明1において、窒化ケイ素原料、AlNを含むアルミニウム源となる物質、M源、及びLn源、の混合粉末を焼成する方法であるのに対して、甲2-1発明では窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化カルシウムの混合粉末をホットプレス・粉砕して得られた粉末と、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化ユーロピウムの混合粉末をホットプレス・粉砕して得られた粉末、の混合粉末をホットプレス装置を用い、20MPaの加圧下で反応させる方法である点
(以下、それぞれ「相違点(i)」,「相違点(ii)」という。)

イ 相違点についての検討
まず、相違点(i)について検討する。
相違点(i)について検討するに先立ち、甲2-1発明の窒化ケイ素原料が、どのようなものであるかについて検討する。
甲2には、用いられた窒化ケイ素原料については上記第6(2)に摘示の記載があるのみであり、甲2の「化学試薬」である窒化ケイ素原料の結晶性について何ら記載されてはいない。まして、甲2の「化学試薬」である窒化ケイ素原料が「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」するものであることについても、さらに「前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」ことについても、何らの記載も示唆もない。
そこで、窒化ケイ素粉末についての技術常識について検討する。
甲5ないし甲8には、非晶質窒化ケイ素を熱処理して結晶質窒化ケイ素を製造する方法が記載されていると認められ、目的物の結晶質窒化ケイ素は「超硬耐熱材料として有用な窒化ケイ素焼結体の製造に適した」(摘示5b,6b,7b)、「高温構造材料として有用な窒化ケイ素質焼結体の製造用原料として好適な」(摘示8b)ものであり、具体的に得られた結晶質窒化ケイ素は結晶化度(wt%)が100%のものがほとんどであることが認められる。しかし、一部に75(甲5摘示5eの実施例3)、94,85,92(甲6摘示6dの実施例2,3、摘示6eの実施例8)、85,92(甲7摘示7dの実施例3、摘示7eの実施例9)のものもあることも記載されている。そうすると、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」する窒化ケイ素や、「前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」窒化ケイ素を製造することができることは、認められる。
しかしながら、このような窒化ケイ素を製造することができることが、蛍光体原料の窒化ケイ素として、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」するもの、まして「前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」ものを使用していること、又は、さらに、このような窒化ケイ素を使用することが容易想到であることまでを示すわけではない。
甲5ないし甲8は、窒化ケイ素焼結体の製造に適した高い結晶化度の結晶質窒化ケイ素の製造を目的とするものであり、具体的に得られた窒化ケイ素は結晶化度(wt%)が100%のものがほとんどであること、さらに、非晶質窒化ケイ素は活性が高いことから「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」する窒化ケイ素は活性が高く「取り扱いには,種々の工夫」(乙1摘示1’c)を要すると認められること、製品である「窒化ケイ素粉末」の「α化率」は97%以上(したがって、結晶化度は少なくとも97%)(摘示1’a)と高いものであること等、を考慮すれば、甲2出願当時、さらに本件出願当時、蛍光体の原料として入手できた窒化ケイ素粉末は、結晶化度が100%ないしそれに近いものであると認められる。
そして、甲3をはじめその他提出された全証拠をみても、それらのいずれにも、α-サイアロン系蛍光体の窒化ケイ素原料として「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し」た窒化ケイ素粉末を用いることについての記載や示唆、まして、「前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」窒化ケイ素粉末を用いることについての記載や示唆、その他上記認定に反するものはない。
そして、α-サイアロン系蛍光体粉末の製造方法において窒化ケイ素原料を「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」するものとしたことにより、ホットプレス・粉砕という製造方法よりも簡便な焼成方法によって、粉砕工程の付加やそれに伴う「不純物の混入」(摘示h)の問題もなく、「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造する方法を提供すること」ができるという作用・効果を予測することができたということもできない。

ウ 小括
したがって、訂正発明1は、相違点(ii)について検討するまでもなく、甲2に記載された発明、さらに、甲3に記載された発明、その他の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 請求人の主張
(ア)請求人は、訂正発明1において窒化ケイ素原料を「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」とするとの構成によってどのような効果が得られるかについて、本件訂正明細書に実験的な裏付けが記載されているとはいえないから、この構成によって「発光が均一で発光強度の大きい」蛍光体が得られるとされる効果は、甲2に記載された発明との進歩性を主張する理由にならない旨、訂正発明1はいわゆる数値限定発明であり、そのような発明が進歩性を有するためにはその範囲において格別顕著な効果を有することを要する旨を、主張する。

(イ)請求人の主張は、訂正発明1の製造方法の課題ないし作用・効果を「発光が均一で発光強度の大きい」蛍光体を製造する方法の提供である、とすることを前提とするものである。しかし、訂正発明1の製造方法の課題ないし作用・効果は、上記1(2)ないし(3)アのとおりであるから、請求人の主張は、訂正発明1を正しく理解しないでする主張であり採用することはできない。
そして、上記イのとおり、訂正発明1の製造方法は、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」する窒化ケイ素を蛍光体の窒化ケイ素原料として用いることによって、提示された文献等には記載も示唆もない、上記作用・効果を奏すると認められるものである。
よって、請求人の主張は、上記判断を左右するものではない。

オ 訂正発明1についてのまとめ
したがって、訂正発明1は、甲2に記載された発明、さらに、甲3に記載された発明、その他の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、ということはできない。

(4)訂正発明5について
ア 訂正発明5と甲2-2発明との対比
訂正発明5と甲2-2発明とを対比すると、これらの発明における蛍光体組成は、それぞれ、訂正発明1と訂正発明5、甲2-1発明と甲2-2発明とで異ならないから、上記(3)アの「訂正発明1と甲2-1発明と対比」において述べたとおり、甲2-2発明と訂正発明5は、蛍光体組成について一致するといえる。
そうすると、訂正発明5と甲2-2発明とは、
「一般式、
M_(x)Ln_(y)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n)
(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属、Lnは、Eu,Dy,Er,Tb,Yb,Ceから選ばれる少なくとも1種のランタニド金属であり、金属Mの価数をa、ランタニド金属Lnの価数をbとすると、ax+by=mであり、xが0<x≦1.5であり、0.3≦m<4.5、0<n<2.25である)
で表されるα-サイアロン系蛍光体。」
において一致するが、以下の点において相違する。
(iii)蛍光体粒子が、訂正発明5の「レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定した粒度分布曲線における50%径が8μmより大きく19μm以下であり、10%径が1.3μm以上であり、90%径が83μm以下である」のに対して、甲2-2発明においては、そのような粒径・粒度分布のものであるかは明らかではない点
(以下、「相違点(iii)」という。)

イ 判断
相違点(iii)について検討するに先立ち、甲2-2発明の蛍光体の粒径や粒度分布が、どのようなものであるかについて検討する。
甲2には、甲2-2発明の蛍光体の粒径や粒度分布について何らの記載もされておらず、そもそも摘示2eの蛍光体がホットプレス後に粉砕されたものであるか否かすらも明らかではない。
ただ、甲2-2発明の蛍光体は、「青色発光ダイオード(青色LED)を光源とする白色発光ダイオード(白色LED)の高輝度化を可能とする、希土類元素を付活させた酸窒化物蛍光体」(摘示2b)であり、「青色発光ダイオード(青色LED)を光源とする白色発光ダイオード(白色LED)」において、「蛍光体は、発光源である前記InGaN系の青色LEDチップの表面に薄くコーティングされる」(摘示2c)ものであることからすれば、甲2-2発明の蛍光体が塊状体のままであるときは、「表面に薄くコーティング」する材料中に配合できるように、粉砕され粒子とすることは、当然のことである。
一般に、粉砕によって得られた粒子の粒径は、乙5摘示5’aないし5’dに示すとおり、「粗粒部分」のと「微粒部分」2つもしくはそれ以上の極大値(山)をもつ分布を示すものとなると認められるから、このとき得られる、粉砕された後の蛍光体粒子の粒度分布も、そのような分布のものであると認められる。
他方、蛍光体の「膜を形成する」ために用いられる蛍光体粒子において、適当な蛍光体の膜を形成するために、適当な粒径と狭い粒度分布が望まれることは、本件出願時における技術常識であると認められる。
すなわち、甲4は、「蛍光物質によって色変換させるLEDランプ」(摘示4a)に用いられる蛍光体体について記載されるものであるから、そこにおける蛍光体粒子は、甲2-2発明の蛍光体粒子と同様、「LED表面に薄くコーティング」する材料等に配合するものと認められる。そして、その蛍光体粒子について、「蛍光物質の結晶性や粒径などがLEDランプの発光特性に大きく寄与する」(摘示4a)、「結晶粒径が大きすぎる」と「半導体発光素子からの光量を増やしても蛍光物質からの光量が増加しにくくバラツキが大きくなる傾向がある」(摘示4c)こと、「結晶成長の反応を抑制し蛍光物質の粒子を揃える」(摘示4c)ことが好ましいことが示されている。また、具体的な粒径について、「よりすぐれた発光特性とするために1.0から20μmが好ましく、3.0から15.0μmがより好ましい。」(摘示4d)と記載されている。
すると、甲4には、「LED表面に薄くコーティング」する材料等に配合する蛍光体粒子として、好適な粒径範囲(甲4の蛍光体では3.0から15.0μm程度)があること、その粒子は揃っていることが好ましいことが示されていると認められる。
また、甲11には、「実用蛍光体は発光特性に加え塗布性にも優れていることが必要であり、その点から通常4から10μmの一次粒子径の蛍光体が使用されている。」(摘示11a)と、「シャープな粒度分布…高い発光強度を示し」たものが「極めて優れたアルミン酸塩系蛍光体」(摘示11e)であることが記載されている。さらに、甲11には、「高温焼成によりサブミクロンから約100μmの蛍光体粒子に成長する。そのため、焼成後の蛍光体粒子は粒度分布が広くかつ強く凝集しており粉砕する必要がある。加えて分級により微粒子および粗大粒子を除去することが必須である」(摘示11c)と記載されている。
すると、甲11には、ランプ用ではあるが、蛍光体には塗布性の観点から、好ましい粒径(4から10μmの一次粒子径)があること、その粒子は「シャープな粒度分布」が好ましいことが示されていると認められ、甲11の「分級により微粒子および粗大粒子を除去することが必須である」の分級は、粉砕後の蛍光体粒子を所望の適当な粒径とし、より狭い粒度分布に調整するための操作であると認められる。
加えて、甲12には、蛍光膜として用いる蛍光体について、「粒度分布が狭く、凝集粒子が少なく、球状である」と「均質で緻密な高輝度蛍光膜を形成することが可能」(摘示12c)であることも記載されている。
すなわち、蛍光体の「膜を形成する」ために用いられる蛍光体粒子においては、適当な粒径と狭い粒度分布が望まれることは、本件出願時における技術常識であると認められる。また、そのために、粉砕後の蛍光体粒子を「分級により微粒子および粗大粒子を除去することが必須」であるとの技術常識があったことも認められる。
そうすると、適当な蛍光体膜を形成するために、甲2-2発明の蛍光体(塊状体のままであるときは粉砕し、粉砕後の)粒子、これは「サブミクロンから約100μm」という「広くかつ強く凝集し」た(摘示11c)、広い粒度分布のものと認められるところ、これをより狭い粒度分布とし、適当な粒径に分級することは当業者が当然になすべきことである。そして、このときの粒径や粒度分布は、当業者がコーティング材や塗膜の厚み等諸条件を勘案して、例えば、甲4,甲11に好適とされるような数μmから数十μm、例えば、10μm程度の粒径であって、「サブミクロン」よりやや大きい程度の粒径の微粒子(例えば1.5μm程度以下)及び「約100μm」より小さい所定粒径の粗大粒子(例えば80μm程度以上)の粒子を除去することは、当業者が適宜なし得る技術事項である(この例示の場合、分級後の蛍光体粒子のD10は1.5μm超であり、D90は80μm未満となり、これは、「10%径が1.3μm以上であり、90%径が83μm以下」の「粒度分布」に包含されるものである。)。
そうすると、甲2-2発明の蛍光体の粒径及び粒度分布を、適当な蛍光体膜を形成するために、適当な大きさと粉砕時より狭い分布として、「蛍光体粒子のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定した粒度分布曲線における50%径が8μmより大きく19μm以下であり、10%径が1.3μm以上であり、90%径が83μm以下である」ものとすることは、当業者が容易になし得る技術事項に過ぎないといえる。
そして、訂正発明5の蛍光体粒子の粒度及び粒度分布の技術的意義が、1(3)イのとおり、大きい凝集粒子が少なく、粒度分布が狭い程度のことをいうものであって、その作用・効果が、塗布しやすく、薄膜を形成するのに適している程度のものであると認められるのであるから、その効果も、技術常識から予測される範囲を超える格別のものである、ということはできない。

ウ 小括
したがって、訂正発明5は、甲2、甲4に記載された発明、さらに、技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ 被請求人の主張
(ア)被請求人は、主に平成22年8月20日付け上申書において、訂正発明5のα-サイアロン系蛍光体は、本件出願の製造方法によって初めて提供されたもので、甲2の開示からは、訂正発明5のα-サイアロン系蛍光体は得られないし、この蛍光体は、甲2開示のものでは得られない特異で有用な効果を奏するものである旨主張する。

(イ)訂正発明5は、塗布しやすく、薄膜を形成するのに適している粒径と粒度分布である、特定組成のα-サイアロン系蛍光体であるに過ぎないものであると認められることは、1(3)イのとおりである。
そして、その蛍光体組成は、甲2に開示されたものと重複するように範囲の普通のα-サイアロン系蛍光体組成であり、また、その粒径と粒度分布も、上記イのとおり、例えば、ホットプレスにより製造された塊状体から通常の粉砕、分級操作によって容易に製造することができる範囲のものであると認められる。
すると、被請求人が主張するように、訂正発明5のα-サイアロン系蛍光体は、本件出願の製造方法によって得られるものであるとしても、それでなくては提供され得ないものということはできない。
また、その効果が特異で有用であるとも主張するが、その作用・効果と認められる、塗布しやすく、薄膜を形成するのに適している程度のことは、技術常識から予測される範囲を超える格別のものである、ということはできない。

オ 訂正発明5についてのまとめ
したがって、訂正発明5は、甲2に記載された発明及び甲第4号証及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

(5)無効理由2についてのまとめ
以上のとおり、訂正発明1は、請求人が主張する理由によっては、特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができないものである、ということはできない。
また、訂正発明5は、特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができないものである。
したがって、無効理由2は、訂正発明1については理由がなく、訂正発明5については理由があるから、本件特許5は、無効にすべきものであり、また、本件特許1は、請求人の主張する無効理由2によっては、無効とすべきものであるとはいえない。

3 無効理由1について
無効理由1の概要は、訂正発明1及び訂正発明5が、甲1に係る出願の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載された発明と同一であるから特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない、というものである。
上記2のとおり、無効理由2は訂正発明5については理由があり本件特許5は無効とすべきものであるから、無効理由1については、訂正発明1についてのみ検討することとする。

(1)甲1に係る出願の願書に最初に添付した明細書及び図面の記載
甲1には、第6(1)において摘示した事項が記載されている。
なお、甲1(特開2004-67837号公報)は、甲1に係る出願(甲1出願)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「甲1明細書等」という。)に記載事項を掲載した特許公報であるから、甲1に係る出願の願書に最初に添付した明細書及び図面の記載事項は、甲1の記載事項により示すこととした。

(2)甲1明細書等に記載された発明
甲1明細書等はα-サイアロン蛍光体について記載されており、そのα-サイアロン蛍光体は、請求項1ないし請求項4(摘示1a)に記載されたものである。
その蛍光体は、「成分元素を含む化合物を所定の比率になるように混合し、得られた混合物を所定の条件下で焼成することにより得られる」(摘示1e)ものであり、その「成分元素を含む化合物」として、具体的に、その実施例1?9に「出発原料としてCaCO_(3)、Eu_(2)O_(3)、Si_(3)N_(4)及びAlN」(摘示1h)が記載されている。またその「所定の条件下で焼成」については、「焼成時の雰囲気は、ゲージ0.1気圧以上の窒素ガス雰囲気」、「焼成温度は、1650℃以上1900℃以下」が好ましい(摘示1g)ことが記載され、このような条件下で焼成すると、「固相反応によって、所定量の金属元素M及びEuが固溶した粉末状のα-サイアロン蛍光体が得られる。焼成直後は、通常、粉末が凝集した状態となっているので、これをLED用の蛍光体として用いる場合には、合成された粉末状蛍光体を所定の粒度となるように粉砕する」(摘示1g)ことが記載されている。
そして、α-サイアロン蛍光体の具体的な組成が実施例1ないし9に記載され、例えば実施例2のサイアロンの組成は、係数x,m,n,yがそれぞれ、0.45,0.90,0.45,0.10である(摘示1j【表1】)。ここで、原料は「Eu_(2)O_(3)」と3価であるが、「α-サイアロン中に固溶したEuは、2価のイオンとなっていると考えられ」(摘示1b)、また、Caは2価であることは明らかである。そうすると、この実施例2のα-サイアロン蛍光体は、係数x,m,n,yをそれぞれ請求項4の式([Ca^(2+)]_(1-y)[Eu^(2+)]_(y))_(x)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n)から、
Ca_(0.405)Eu_(0.045)Si_(11.25)Al_(0.65)O_(0.45)N_(15.55)
(=(Ca_((1-0.1))Eu_(0.1))_(0.45)Si_(12-(0.90+045))Al_((0.90+045))O_(0.45)N_((16-0.45)))と表すことができる。
以上によれば、甲1明細書等には、
「CaCO_(3)、Eu_(2)O_(3)、Si_(3)N_(4)及びAlNを所定の比率になるように混合し、得られた混合物を窒素ガス雰囲気、1650℃以上1900℃以下の条件下で焼成し、粉砕することによる、
Ca_(0.405)Eu_(0.045)Si_(11.25)Al_(0.65)O_(0.45)N_(15.55)で表されるα-サイアロン蛍光体粉末の製造方法」
の発明(以下「先願発明1」という。)が記載されているといえる。

(3)訂正発明1と先願発明1との対比
訂正発明1と先願発明1とを対比する。
蛍光体の原料について、先願発明1における「CaCO_(3)」は熱分解してCaOとなる物質であり、「Eu」は訂正発明1の「ランタニド金属Ln」が「Eu,Dy,Er,Tb,Yb,Ceから選ばれる少なくとも1種」であることから、先願発明1の「Si_(3)N_(4)」、「AlN」、「CaCO_(3)」、「Eu_(2)O_(3)」は、それぞれ訂正発明1の「窒化ケイ素原料」、「AlNを含むアルミニウム源となる物質」(Al源)、「金属M(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属)の酸化物または熱分解により金属Mの酸化物となる前駆体物質」(M源)、「ランタニド金属Lnの酸化物または熱分解によりランタニド金属Ln酸化物となる前駆体物質」(Ln源)に相当する。
また、先願発明1のα-サイアロン蛍光体の組成「Ca_(0.405)Eu_(0.045)Si_(11.25)Al_(0.65)O_(0.45)N_(15.55)」は、訂正発明1のα-サイアロン系蛍光体の組成、
「M_(x)Ln_(y)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n )
(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属、Lnは、Eu,Dy,Er,Tb,Yb,Ceから選ばれる少なくとも1種のランタニド金属であり、金属Mの価数をa、ランタニド金属Lnの価数をbとすると、ax+by=mであり、xが0<x≦1.5であり、0.3≦m<4.5、0<n<2.25である)」において、MがCa(2価)、LnがEu(2価)であり、a,b,x,y,nがそれぞれ2、2、0.408、0.045、0.45で、ax+by=mが0.9であるから、これらの値は、訂正発明1において規定するx,m,nの範囲に包含される。
そうすると、先願発明1の「Ca_(0.405)Eu_(0.045)Si_(11.25)Al_(0.65)O_(0.45)N_(15.55)で表されるα-サイアロン蛍光体」は、訂正発明1において特定される「α-サイアロン系蛍光体」に包含されるといえる。
さらに、先願発明1の焼成条件「窒素ガス雰囲気、1650℃以上1900℃以下」は、訂正発明1の「窒素を含有する不活性ガス雰囲気中1400?2000℃」に包含される。
そうすると、訂正発明1と先願発明1とは、
「窒化ケイ素原料と、AlNを含むアルミニウム源となる物質と、金属M(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属)の酸化物または熱分解により金属Mの酸化物となる前駆体物質と、ランタニド金属Lnの酸化物または熱分解によりランタニド金属Ln酸化物となる前駆体物質とを混合して、得られる混合粉末を、窒素を含有する不活性ガス雰囲気中1400?2000℃で焼成することによる、一般式、
M_(x)Ln_(y)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n)
(ただし、Mは、Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属、Lnは、Eu,Dy,Er,Tb,Yb,Ceから選ばれる少なくとも1種のランタニド金属であり、金属Mの価数をa、ランタニド金属Lnの価数をbとすると、ax+by=mであり、xが0<x≦1.5であり、0.3≦m<4.5、0<n<2.25である)
で表されるα-サイアロン系蛍光体粉末の製造方法」
において一致するが、以下の点において相違するといえる。
(i’)窒化ケイ素原料は、訂正発明1において、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」のに対して、先願発明1においては、そのようなものであるかは明らかではない点
(以下、「相違点(i’)」という。)

(4)相違点(i’)についての検討
ア 先願発明1の窒化ケイ素原料の結晶性
相違点(i’)について検討するに先立ち、先願発明1の窒化ケイ素原料が、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」といえるかについて、まず検討する。
先願明細書等には、窒化ケイ素原料について、上記第6(1)に摘示の記載があるのみであり、先願発明1の窒化ケイ素原料の結晶性について何ら記載されてはいない。まして、先願発明1の窒化ケイ素原料が「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」するものであることについても、さらに「前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」ことについても、何らの記載も示唆もない。
そこで、先願明細書等に記載された窒化ケイ素原料が、技術常識等から「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」するものであるといえるか、さらに「前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」ものであるといえるか、について検討する。
甲5ないし甲8の記載によれば「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」する窒化ケイ素や、「前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」窒化ケイ素を製造することができることは、認められるとしても、蛍光体原料の窒化ケイ素として、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」するもの、まして「前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」ものを使用していることを示すものではなく、むしろ、甲5ないし甲8において具体的に得られた窒化ケイ素は結晶化度が100%のものがほとんどであること、さらに、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」する窒化ケイ素は活性が高く「取り扱いには,種々の工夫」を要すると認められること、製品である「窒化ケイ素粉末」の「α化率」は97%を超える高いものであること等、を考慮すれば、甲1出願当時、蛍光体の原料として入手できた窒化ケイ素粉末は、結晶化度が100%ないしそれに近いものであると認められることは、2(3)イのとおりである。
そして、その他提出された全証拠をみても、それらのいずれにも、α-サイアロン系蛍光体の窒化ケイ素原料として「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し」た窒化ケイ素粉末を用いることの記載や示唆、まして、「前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」窒化ケイ素粉末を用いることについての記載や示唆、その他上記認定に反するものがないことも、2(3)イのとおりである。
そうすると、先願発明1の窒化ケイ素原料が、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」ということはできない。

イ 課題解決のための具体化手段における微差であるか
ただ、両発明に相違点があったとしても、その相違点が本質的なものではないとき、すなわち、その相違点が課題解決のための具体化手段における微差(「周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等」かつ「新たな効果を奏するものではないもの」)であるときに、両発明が同一発明であるといえることがあり得る。
そこで、相違点(i’)に係る訂正発明1の「α-サイアロン系蛍光体粉末の製造方法」における「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」ことが、発明の課題を解決するための具体化手段における微差であるかについても検討する。
上記1(3)アにおいて検討したとおり、本件出願のα-サイアロン系蛍光体粉末の製造方法において窒化ケイ素原料を「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」するものとしたことにより、簡便な方法で、「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造する方法を提供すること」ができるという作用・効果があることが認められる。
そうすると、相違点(i’)に係るα-サイアロン系蛍光体粉末の製造方法において窒化ケイ素原料を「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」する点により、「新たな効果を奏する」ということができる。
したがって、すくなくもと効果の点から、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有」という点、さらに加えて、「前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」という点は、発明の課題を解決するための具体化手段における微差(「周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等」かつ「新たな効果を奏するものではないもの」)であるということはできない。

ウ 小括
以上のとおり、先願発明1の窒化ケイ素原料が「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」ということはできず、また、この点が発明の課題解決のための具体化手段における微差ということはできない。

エ 請求人の主張
(ア)請求人は、訂正発明1において窒化ケイ素原料を「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」とすることは、周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等に該当する旨主張する。
しかし、窒化ケイ素を上記構成のものとすることが周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であると主張する根拠として提出される証拠を始めその他提出された全証拠をみても、それらのいずれにも、α-サイアロン系蛍光体の窒化ケイ素原料として「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し」た窒化ケイ素粉末を用いることについての記載や示唆、まして、「前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」窒化ケイ素粉末を用いることについての記載や示唆はない。
そうすると、α-サイアロン系蛍光体の窒化ケイ素原料を「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」ものとすることが、周知技術、慣用技術の付加ないし転換等であるということはできない。

(イ)また、請求人は、「新たな効果を奏する技術的特徴」がないとする根拠として、この構成によって、「発光強度の大きいサイアロン蛍光粉末を得ることができる」ことは、本件訂正明細書に具体的に記載されているといえないから、この構成を有するが故に「新たな効果を奏する技術的特徴」を有するとはいえない旨主張する。
しかし、請求人のこの主張は、2(3)エの主張と同様、訂正発明1の製造方法の課題ないし作用・効果が「発光が均一で発光強度の大きい」蛍光体を製造する方法の提供である、とすることを前提とするものである。しかし、訂正発明1の製造方法の課題ないし作用・効果は上記1(2)ないし(3)アのとおりであるから、請求人のこの主張は、訂正発明1を正しく理解しないでする主張であり、採用することはできない。

(5)無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、先願発明1の窒化ケイ素原料が「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である」ものということはできず、また、この点が発明の課題解決のための具体化手段における微差であるということもできない。
したがって、訂正発明1は、先願発明1と同一発明であるということはできないから特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである、ということはできない。
よって、本件特許1は、請求人の主張する無効理由1によっては、無効とすべきものであるとはいえない。

4 無効理由3について
無効理由3は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、訂正発明1ないし5を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではない、すなわち、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載はいわゆる実施可能要件を満たさない、というものである。
具体的な主張は、化学分野の発明に関しては、構成からその効果を予測することが一般に困難であるから、実験によりその効果を立証することが必要であるにもかかわらず、本件特許の技術的特徴及び当該技術的特徴によって得られる効果と主張されている発光強度に関して、発明の詳細な説明には何ら実験的な裏付けが開示されていない、また、特定窒化ケイ素製造の原料として用いるシリコンジイミドの粒子特性が重要であるところ、発明の詳細な説明にはシリコンジイミドの粒子特性について何ら記載されていないから、訂正発明1ないし5を当業者は実施することができない、というものである。
上記2のとおり、無効理由2は訂正発明5については理由があり本件特許5は無効とすべきものであるから、無効理由3については、訂正発明1ないし4の製造方法の発明についてのみ検討することとする。

(1)実施可能要件について
発明の詳細な説明の記載が当業者が請求項1ないし4に記載された発明を実施することができる程度に明確にかつ十分に記載したものであるかについて、当業者がその発明を実施することができる程度とは、発明の詳細な説明の記載によって、技術的にも、時間的にも容易に、多大な試行錯誤を要することなく、当業者がその発明を実施できる程度というべきである。
以下、この観点から、検討する。

(2)訂正発明1ないし4についての実施可能要件の検討
ア 本件出願の製造方法の発明の課題は、1(2)に示すとおり、「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造する方法を提供すること」であると認められる。
そして、その課題を解決するために、訂正発明1ないし4においては、窒化ケイ素原料と、Al源と、M源と、Ln源とを混合して、得られる混合粉末を、特定雰囲気中特定温度範囲で焼成することによるα-サイアロン系蛍光体粉末の製造方法において、窒化ケイ素原料を特定のものとしたものである。
その特定の窒化ケイ素原料は、訂正発明1では「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%」のものであり、訂正発明2では、訂正発明1の特定に加えて「比表面積が15?300m^(2)/g」のものであり、訂正発明3では、「非晶質窒化ケイ素粉末を加熱処理することにより得られた窒化ケイ素粉末」であり、訂正発明4では、訂正発明3の非晶質窒化ケイ素粉末が、「シリコンジイミド(Si(NH)_(2))を熱分解することにより得られた」ものである。
そして、これらα-サイアロン系蛍光体の製造方法によれば、1(3)アに示すとおり、簡便な方法で、「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造する方法を提供すること」ができるものである、と認められる。

イ 本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、1(1)に摘示したaないしnの記載に加え、以下の記載がある。
o「ここで、AlNを含むアルミニウム源となる物質とは、AlN粉末単独、AlN粉末とAl粉末、あるいはAlN粉末とAlの酸化物または熱分解によりAlの酸化物となる前駆体物質の粉末のいずれかであり、α-サイアロンのAl源および/または、窒素または酸素源となる。
【0020】
熱分解によりAlの酸化物となる前駆体物質、金属Mの酸化物となる前駆体物質、ランタニド金属Lnの酸化物となる前駆体物質としては、それぞれの元素の窒化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。
【0021】
さらに、具体的には、Alの酸化物または熱分解によりAlの酸化物となる前駆体物質としては、例えば、Al_(2)O_(3)、Al(OH)_(3)などが挙げられる。また、金属Mの酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質としては、例えば、MがCaの場合、CaCO_(3)、Ca(OH)_(2)、CaCl_(2)などが挙げられる。さらに、ランタニド金属Lnの酸化物または熱分解によりランタニド金属Lnの酸化物となる前駆体物質としては、例えば、LnがEuの場合、Eu_(2)O_(3),EuCl_(3)、Eu(NO_(3))_(3)がある。Alの酸化物または熱分解によりAlの酸化物となる前駆体物質、金属Mの酸化物または熱分解により金属Mの酸化物となる前駆体物質、ランタニド金属Lnの酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質は、粉末の状態で用いるのが好ましい。」
p「【0018】
非晶質の窒化ケイ素粉末は、シリコンジイミド(Si(NH)_(2))を窒素雰囲気中、約700?1100℃で熱分解することにより得ることができる。」(審決注:摘示hに続く段落)
q「【0019】
前記した各出発原料を混合する方法については、特に制約は無く、それ自体公知の方法、例えば、乾式混合する方法、原料各成分と実質的に反応しない不活性溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法などを採用することができる。混合装置としては、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミル、媒体攪拌ミルなどが好適に使用される。但し、部分的に結晶化した非晶質窒化ケイ素粉末は、水分、湿気に対して極めて敏感であるので、出発原料の混合は、制御された不活性ガス雰囲気下で行うことが必要である。
【0020】
出発原料の混合物は、1気圧の窒素含有不活性ガス雰囲気中1400?1800℃、好ましくは1500?1800℃で焼成され、目的とするα-サイアロン粉末が得られる。焼成温度が1400℃よりも低いと、所望のα-サイアロン粉末の生成に長時間の加熱を要し、実用的でない。また、生成粉末中におけるα-サイアロン相の生成割合も低下する。焼成温度が1800℃を超えると、窒化ケイ素およびサイアロンが昇華分解し、遊離のシリコンが生成する好ましくない事態が起こる。
【0021】
出発原料混合粉末を、加圧窒素ガス雰囲気下では、1600?2000℃、好ましくは1600?1900℃の温度範囲で焼成することもできる。この場合には、窒素ガス加圧により、高温下での窒化ケイ素およびサイアロンの昇華分解が抑制され、短時間で所望のα-サイアロン系蛍光体を得ることができる。窒素ガス圧を高くすることで焼成温度を上げることができるが、例えば5気圧の窒素ガス加圧下では1600?1850℃、10気圧の窒素ガス加圧下では1600?2000℃で焼成することができる。
【0022】
粉末混合物の焼成に使用される加熱炉については、とくに制約は無く、例えば、高周波誘導加熱方式または抵抗加熱方式によるバッチ式電気炉、ロータリーキルン、流動化焼成炉、プッシャ-式電気炉などを使用することができる。」(審決注:摘示p続く段落)

ウ 以上の摘示oないしq及び1(1)に摘示したaないしnの記載によれば、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、窒化ケイ素原料、Al源、M源、Ln源とを混合して、得られる混合粉末を、特定雰囲気中に特定温度範囲で焼成することによりα-サイアロン系蛍光体粉末を製造する方法において、必要な各原料、必要な器具や装置、及び操作条件が具体的に記載されている。
すなわち、シリコンジイミドを、例えば摘示pに示す条件において、熱分解することにより非晶質窒化ケイ素粉末を製造し、これらを例えば、実施例において示された条件で加熱することにより、「非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%」の、或いは、さらに「比表面積が15?300m^(2)/g」の窒化ケイ素原料を製造し、これらの窒化ケイ素原料と摘示mや実施例に示されるAl源、M源、Ln源の化合物とを摘示pや実施例に具体的に示される装置、条件により混合、焼成することにより、凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造することができることが記載されている。
これらの記載によれば、当業者は多大な試行錯誤を要することなく、容易に、凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を、ホットプレス・粉砕という製造方法よりも簡便な焼成方法によって、粉砕工程の付加やそれに伴う不純物の混入の問題もなく製造することができる、と認められる。

エ 請求人の主張
(ア)請求人は、本件訂正明細書において得られる効果とされる「所望の発光強度が得られる」という効果が発明の詳細な説明には何ら実験的な裏付けが開示されていないから、訂正発明1ないし4の製造方法の実施に過度な試行錯誤を要する旨主張する。
しかし、請求人のこの主張は、2(3)エ及び3(4)エ(イ)の主張と同様、訂正発明1ないし4の製造方法の課題ないし作用・効果を「発光が均一で発光強度の大きい」蛍光体を製造する方法の提供である、とすることを前提とするものである。しかし、訂正発明1ないし4の製造方法の課題ないし作用・効果は、上記1(2)ないし(3)アのとおりであるから、請求人のこの主張は、訂正発明1ないし4を正しく理解しないでする主張であり、採用することはできない。

(イ)また、請求人は、シリコンジイミド(Si(NH)_(2))の粒子特性が明らかでないから、当業者が訂正発明1ないし4の製造方法は実施し得ない旨主張する。
確かに、発明の詳細な説明には、シリコンジイミドの粒子特性についての記載はない。
しかし、実施例及び比較例において、あるシリコンジイミドを加熱温度を順次変えて熱分解して得た窒化ケイ素粉末を用いて、順次「平均粒子径」や「粒度分布」を変えた所期の「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体」を得ることができる製造例が示されており、凝集の程度を示すと認められる「平均粒子径」や「粒度分布」が反応条件の変動に応じ順次変化するものであることが示されている。そこで用いられたシリコンジイミドは、その粒子特性等について特に記載されていないことからすれば、通常入手される範囲のものであると認められ、通常入手されるものを用いることにより当業者は容易に「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体」を得ることができると認められる。そして、たとえ通常入手されるシリコンジイミドの粉体特性にある程度の幅があるとしても、そして、その特性の幅によって得られる窒化ケイ素、さらに、サイアロンの凝集の程度(「平均粒子径」や「粒度分布」)に実施例のものと差異が出るとしても、実施例の製造例の反応条件及び得られたサイアロンの粒子特性を参考にして、使用するシリコンジイミドにおける結果との凝集の程度の差異をみて、その使用するシリコンジイミドに応じて反応条件などを調整することにより凝集の程度を調整して、技術的にも、時間的にも容易に、多大な試行錯誤を要することなく、「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たない」サイアロン系蛍光体を製造できるというべきである。
そうすると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明にシリコンジイミドの粒子特性についての記載がないとしても、当業者は、訂正発明1ないし訂正発明4の製造方法により「凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体」を製造することができるということができる。

(3)無効理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求人の主張によっては、訂正発明1ないし4を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないものである、ということはできない。
したがって、無効理由3は、訂正発明1ないし4については理由がないから、本件特許1ないし4は、請求人の主張する無効理由3によっては、無効とすべきものであるとはいえない。

5 無効理由4について
無効理由4は、訂正発明1ないし5は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではない、すなわち、特許請求の範囲の記載はいわゆるサポート要件を満たさない、というものである。
具体的な主張は、本件特許の効果は「蛍光が均一で発光強度が大きい」蛍光体が得られると記載されているのみであって、「ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%」である構成と効果との関係を示す実験結果は明細書に記載されていない、また、「蛍光体粒子のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定した粒度分布曲線における50%径が8μmより大きく19μm以下であり、10%径が1.3μm以上であり、90%径が83μm以下である」の数値範囲は実施例からランダムに選択した値の集合であり、このような規定に意味はない、というものである。
上記2のとおり、無効理由2は訂正発明5については理由があり本件特許5は無効とすべきものであるから、無効理由4についても、訂正発明1ないし4の製造方法の発明についてのみ検討することとする。

(1)サポート要件について
特許請求の範囲記載された発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるか否かは、その発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかを検討して判断すべきである。
以下、この観点から、検討する。

(2)訂正発明1ないし4についてのサポート要件の検討
ア 本件出願の製造方法の発明の課題は、1(2)のとおりであり、本件出願の製造方法の発明の課題が本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、或いは、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえることは、1(3)アのとおりである。
よって、訂正発明1ないし4は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものである、ということができる。

イ 請求人は、明細書に「蛍光が均一で発光強度が大きい」蛍光体が得られると記載されているのみであって、「ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%」である構成と効果との関係を示す実験結果は記載されていないから、本件特許に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない旨主張する。
しかし、請求人のこの主張も、2(3)エ、3(4)エ(イ)及び4(2)エ(ア)の主張と同様、訂正発明1ないし4の製造方法の課題ないし作用・効果が「発光が均一で発光強度の大きい」蛍光体を製造する方法の提供である、とすることを前提とするものである。しかし、訂正発明1ないし4の製造方法の課題ないし作用・効果は上記1(2)ないし(3)アのとおりであるから、請求人のこの主張は、訂正発明1ないし4を正しく理解しないでする主張であり、採用することはできない。

(3)無効理由4についてのまとめ
以上のとおり、特許請求の範囲の記載は、請求人の主張によっては、訂正発明1ないし4が本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものである、ということはできない。
したがって、無効理由4は、訂正発明1ないし4については理由がないから、本件特許1ないし4は、請求人の主張する無効理由4によっては、無効とすべきものであるとはいえない。

6 当審の判断のまとめ
以上のとおり、本件特許5は無効理由2によって無効にすべきものであり、本件特許1ないし4は、請求人の主張する無効理由1ないし4によっては無効にすべきものとはいえない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、訂正発明5についての特許は、無効にすべきものである。
また、訂正発明1ないし4についての特許は、請求人の主張する理由によっては、無効とすべきものであるとはいえないから、それらの発明についての審判請求は、成り立たない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、その5分の4を請求人の負担とし、5分の1を被請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
サイアロン系蛍光体の製造方法およびサイアロン系蛍光体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素原料と、AlNを含むアルミニウム源となる物質と、金属M(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属)の酸化物または熱分解により金属Mの酸化物となる前駆体物質と、ランタニド金属Lnの酸化物または熱分解によりランタニド金属Ln酸化物となる前駆体物質とを混合して、得られる混合粉末を、窒素を含有する不活性ガス雰囲気中1400?2000℃で焼成することによる、一般式、
M_(x)Ln_(y)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n)
(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属、Lnは、Eu,Dy,Er,Tb,Yb,Ceから選ばれる少なくとも1種のランタニド金属であり、金属Mの価数をa、ランタニド金属Lnの価数をbとすると、ax+by=mであり、xが0<x≦1.5であり、0.3≦m<4.5、0<n<2.25である)
で表されるα-サイアロン系蛍光体粉末の製造方法において、前記窒化ケイ素原料は、非晶質窒化ケイ素と結晶質窒化ケイ素を含有し、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%であることを特徴とするサイアロン系蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記窒化ケイ素原料の比表面積が15?300m^(2)/gであることを特徴とする請求項1記載のサイアロン系蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記窒化ケイ素原料が、非晶質窒化ケイ素粉末を加熱処理することにより得られた窒化ケイ素粉末であることを特徴とする請求項1記載のサイアロン系蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記非晶質窒化ケイ素粉末が、シリコンジイミド(Si(NH)_(2))を熱分解することにより得られた非晶質窒化ケイ素粉末であることを特徴とする請求項3記載のサイアロン系蛍光体の製造方法。
【請求項5】
蛍光体粒子のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定した粒度分布曲線における50%径が8μmより大きく19μm以下であり、10%径が1.3μm以上であり、90%径が83μm以下であることを特徴とする一般式、
M_(x)Ln_(y)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n)
(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属、Lnは、Eu,Dy,Er,Tb,Yb,Ceから選ばれる少なくとも1種のランタニド金属であり、金属Mの価数をa、ランタニド金属Lnの価数をbとすると、ax+by=mであり、xが0<x≦1.5であり、0.3≦m<4.5、0<n<2.25である)
で表されるα-サイアロン系蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射光の一部を、それとは異なる波長の光に変換すると共に、変換しなかった照射光と混合して、色合いの異なる光に変換する機能を有する材料の製造方法に関するものである。具体的には、青色発光ダイオード(青色LED)を光源とする白色発光ダイオード(白色LED)に用いる、希土類金属元素で賦活されたサイアロン系蛍光体の製造方法に関するものである。また、その製造方法により得られるサイアロン系蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、青色LEDが実用化されたことにより、この青色LEDを利用した白色LEDの開発が精力的に行われている。白色LEDは、既存の白色光源に較べ消費電力が低く長寿命であるため、液晶パネル用バックライト、室内外の照明機器等への用途展開が進行している。
【0003】
現在、開発されている白色LEDは、青色LEDの表面にCeをドープしたYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)を塗布したものである。しかし、CeをドープしたYAGの蛍光波長は530nm付近にあり、この蛍光の色と青色LEDの光を混合して白色光にすると、やや青みの強い光となり、良好な白色を得ることができない。
【0004】
これに対し、希土類元素を賦活させたサイアロン系の蛍光体は、CeをドープしたYAGの蛍光波長よりもさらに長い(赤色側にシフトした)蛍光を発生することが知られている(特許文献1参照)。このサイアロン系の蛍光体と青色LEDの光を混合することで、より良好な白色光を得ることができるようになる。このように、新たな蛍光体材料としてサイアロン系の蛍光体材料の実用化が期待されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2002-363554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている組成の蛍光体は、結晶質の窒化ケイ素を原料としており、ホットププレス法を用いて粉体を圧縮しながらサイアロンへの反応を進めている。この方法で得られるサイアロン蛍光体は塊状となり、蛍光体粉末として利用するには適さない。
【0007】
そこで、本発明者等は、結晶質の窒化ケイ素粉末とカルシウム源、希土類源、アルミニウム源を混合し、常圧の雰囲気炉で焼成しサイアロン系蛍光体を得ることを試みた。その結果、窒化ケイ素の粒子サイズと反応条件を適切に選ぶと粉末状態の蛍光体を得ることができるものの、粉末が強く凝集した集合粉末(以後凝集粒子と呼ぶ)になり、かつ凝集粒子の径は大きく、粒子径の分布を広く不均一であることが確認された。このような凝集粒子からなる蛍光体は、樹脂と混合して薄膜を形成するには不適当であり、また、蛍光が不均一で、蛍光強度の十分でない。
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、凝集粒子が大きすぎることなく、また、広い粒度分布を持たないサイアロン系蛍光体を製造する方法を提供することを目的とする。また、本発明の目的は、その方法で得られた、薄膜を形成することができ、蛍光が均一で発光強度の大きいサイアロン系蛍光体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、窒化ケイ素原料と、AlNを含むアルミニウム源となる物質と、金属M(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属)の酸化物または熱分解により金属Mの酸化物となる前駆体物質と、ランタニド金属Lnの酸化物または熱分解によりランタニド金属Ln酸化物となる前駆体物質とを混合して、得られる混合粉末を、窒素を含有する不活性ガス雰囲気中1400?2000℃で焼成することによる、一般式、
M_(x)Ln_(y)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n)
(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属、Lnは、Eu,Dy,Er,Tb,Yb,Ceから選ばれる少なくとも1種のランタニド金属であり、金属Mの価数をa、ランタニド金属Lnの価数をbとすると、ax+by=mであり、xが0<x≦1.5であり、0.3≦m<4.5、0<n<2.25である)
で表されるα-サイアロン系蛍光体粉末の製造方法において、前記窒化ケイ素原料は、非晶質と結晶質の窒化ケイ素とからなり、前記窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%であるサイアロン系蛍光体の製造方法に関する。
【0009】
本発明のサイアロン系蛍光体の製造方法において、前記窒化ケイ素原料の比表面積が15から300m^(2)/gであることが好ましい。
【0010】
また、前記窒化ケイ素原料は、シリコンジイミド(Si(NH)_(2))を熱分解することにより得られた窒化ケイ素粉末であるが好ましい。
【0011】
さらに、本発明のサイアロン系蛍光体の製造方法は、前記窒化ケイ素原料が、非晶質窒化ケイ素粉末を加熱処理することにより得られた非晶質成分と結晶質成分の両方を含有する窒化ケイ素粉末であることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明は、蛍光体粒子のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置で測定した粒度分布曲線における50%径が8μmより大きく19μm以下であり、10%径が1.3μm以上であり、90%径が83μm以下であることを特徴とする一般式、
M_(x)Ln_(y)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n)
(ただし、Mは,Ca,Mg,Y,Liのうち少なくとも1種の金属、Lnは、Eu,Dy,Er,Tb,Yb,Ceから選ばれる少なくとも1種のランタニド金属であり、金属Mの価数をa、ランタニド金属Lnの価数をbとすると、ax+by=mであり、xが0<x≦1.5であり、0.3≦m<4.5、0<n<2.25である)
で表されるα-サイアロン系蛍光体に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の蛍光体の製造方法では、原料として、結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%である窒化ケイ素を用いることにより、製造したサイアロン系蛍光体の粒子は、凝集が大きくなく、そのため、適当な大きさと分布を有し、蛍光体材料として樹脂と混合して薄膜を形成するのに適しており、また、蛍光が均一で、発光強度の大きい蛍光材料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。α-サイアロンは、下記一般式(1)
M_(x)Ln_(y)Si_(12-(m+n))Al_((m+n))O_(n)N_(16-n) (1)
で表されるSi、Al、O、Nからなる組成物に少量の金属Mが固溶したものであり、α-サイアロン系蛍光体は、固溶した金属Mの一部を発光の中心となるランタニド金属Lnで置換したものである。
【0014】
固溶させる金属Mは、Ca,Mg,Y、Liのうち少なくとも1種の金属であり、発光の中心となるランタニド金属Lnは、Eu,Dy,Er,Tb,Yb,Ceから選ばれる少なくとも1種である。上記一般式(1)において、金属Mの価数をa、ランタニド金属Lnの価数をbとすると、ax+by=mである。
【0017】
また、一般式(1)中の係数mおよびnは、0.3≦m<4.5、0<n<2.25である。mおよびnがこの範囲を外れると、α-サイアロンを形成しにくくなるので、好ましくない。
【0018】
本発明のα-サイアロンに固溶させる金属MとしてCa、ランタニド金属LnとしてEuを用いた蛍光体は、色が黄色(波長約560?590nm程度)となり、白色LEDを得るには最適である。
【0019】
本発明のα-サイアロン系蛍光体の製造方法について説明する。本発明のα-サイアロン系蛍光体の粉末は、(a)非晶質成分と結晶質成分の両方を含有する窒化ケイ素と、(b)AlNを含むアルミニウム源となる物質と、(c)前記金属Mの酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質と、(d)ランタニド金属Lnの酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質とを所望のα-サイアロン組成になるように混合し、得られた混合粉末を不活性ガス雰囲気中1400?2000℃で焼成することにより得られる。ここで、AlNを含むアルミニウム源となる物質とは、AlN粉末単独、AlN粉末とAl粉末、あるいはAlN粉末とAlの酸化物または熱分解によりAlの酸化物となる前駆体物質の粉末のいずれかであり、α-サイアロンのAl源および/または、窒素または酸素源となる。
【0020】
熱分解によりAlの酸化物となる前駆体物質、金属Mの酸化物となる前駆体物質、ランタニド金属Lnの酸化物となる前駆体物質としては、それぞれの元素の窒化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。
【0021】
さらに、具体的には、Alの酸化物または熱分解によりAlの酸化物となる前駆体物質としては、例えば、Al_(2)O_(3)、Al(OH)_(3)などが挙げられる。また、金属Mの酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質としては、例えば、MがCaの場合、CaCO_(3)、Ca(OH)_(2)、CaCl_(2)などが挙げられる。さらに、ランタニド金属Lnの酸化物または熱分解によりランタニド金属Lnの酸化物となる前駆体物質としては、例えばLnがEuの場合、Eu_(2)O_(3),EuCl_(3)、Eu(NO_(3))_(3)がある。Alの酸化物または熱分解によりAlの酸化物となる前駆体物質、金属Mの酸化物または熱分解により金属Mの酸化物となる前駆体物質、ランタニド金属Lnの酸化物または熱分解により酸化物となる前駆体物質は、粉末の状態で用いるのが好ましい。
【0015】
原料の窒化ケイ素に結晶質の窒化ケイ素を用いると、反応性が低く、原料を混合して坩堝で焼成するという通常の粉末焼成法では未反応の窒化ケイ素が多く生成し効率良くサイアロン粉末を作製することができない。反応をより促進するためには、ホットプレスなどの反応を促進させる方法を採用する必要がある。この方法では、得られるサイアロンは焼結体のような塊状となる。塊状物を蛍光体粉末にするには粉砕の工程が必要となるが、粉砕工程では不純物の混入が起こるため、蛍光体に有害な鉄などの混入が起こり、蛍光強度を低下させることが起こる。このような問題を回避するために、原料として、部分的に結晶化させることにより得られた非晶質成分と結晶質成分の両方を含有する窒化ケイ素粉末を用いることは重要なことである。部分的に結晶化した窒化ケイ素粉末は反応性が高いので、原料を混合し坩堝中で焼成するという簡便な方法で凝集の大きくないサイアロン粉末を得ることができる。非晶質と結晶質の窒化ケイ素とからなる窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合は5?95重量%が好ましい。結晶質窒化ケイ素の割合が5%より小さいと結晶粒子が小さくなりすぎてかえって蛍光強度が低下する傾向にある。また、95%を超えると製造したサイアロン粉末の凝集が著しくなる。
【0016】
また、非晶質と結晶質の窒化ケイ素とからなる窒化ケイ素原料中の結晶質窒化ケイ素の割合が5?95重量%であると、原料窒化ケイ素の比表面積は15?300m^(2)/g程度であり、この範囲内であれば、簡便で凝集の大きくなく、発光強度の大きいサイアロン蛍光粉末を得ることができるので好ましい。
【0017】
非晶質成分と結晶成分の両方を含有する窒化ケイ素粉末は、非晶質の窒化ケイ素粉末を加熱処理することにより、効率的に得ることができる。非晶質の窒化ケイ素粉末を加熱処理することにより得られた窒化ケイ素粉末中の結晶粒子は小さく、反応が均一に進みやすく好ましい。非晶質成分と結晶成分の両方を含有する窒化ケイ素粉末は、非晶質の窒化ケイ素粉末と結晶の窒化ケイ素粉末を混合して調整してもよい。
【0018】
非晶質の窒化ケイ素粉末は、シリコンジイミド(Si(NH)_(2))を窒素雰囲気中、約700?1100℃で熱分解することにより得ることができる。
【0019】
前記した各出発原料を混合する方法については、特に制約は無く、それ自体公知の方法、例えば、乾式混合する方法、原料各成分と実質的に反応しない不活性溶媒中で湿式混合した後に溶媒を除去する方法などを採用することができる。混合装置としては、V型混合機、ロッキングミキサー、ボールミル、振動ミル、媒体攪拌ミルなどが好適に使用される。但し、部分的に結晶化した非晶質窒化ケイ素粉末は、水分、湿気に対して極めて敏感であるので、出発原料の混合は、制御された不活性ガス雰囲気下で行うことが必要である。
【0020】
出発原料の混合物は、1気圧の窒素含有不活性ガス雰囲気中1400?1800℃、好ましくは1500?1800℃で焼成され、目的とするα-サイアロン粉末が得られる。焼成温度が1400℃よりも低いと、所望のα-サイアロン粉末の生成に長時間の加熱を要し、実用的でない。また、生成粉末中におけるα-サイアロン相の生成割合も低下する。焼成温度が1800℃を超えると、窒化ケイ素およびサイアロンが昇華分解し、遊離のシリコンが生成する好ましくない事態が起こる。
【0021】
出発原料混合粉末を、加圧窒素ガス雰囲気下では、1600?2000℃、好ましくは1600?1900℃の温度範囲で焼成することもできる。この場合には、窒素ガス加圧により、高温下での窒化ケイ素およびサイアロンの昇華分解が抑制され、短時間で所望のα-サイアロン系蛍光体を得ることができる。窒素ガス圧を高くすることで焼成温度を上げることができるが、例えば5気圧の窒素ガス加圧下では1600?1850℃、10気圧の窒素ガス加圧下では1600?2000℃で焼成することができる。
【0022】
粉末混合物の焼成に使用される加熱炉については、とくに制約は無く、例えば、高周波誘導加熱方式または抵抗加熱方式によるバッチ式電気炉、ロータリーキルン、流動化焼成炉、プッシャ-式電気炉などを使用することができる。
【0023】
本発明のα-サイアロン系蛍光体は、結晶質の窒化ケイ素を原料に用いたものに比べて、凝集が少なく、粒度分布が狭いという特徴がある。本発明のα-サイアロン系蛍光体の粒度分布曲線における50%径は2?19μm、好ましくは3.5?17.5μmである。50%径が2μm未満になると、発光強度が著しく低下する。これは、粒子表面の欠陥が増大するためと考えられる。また、50%径が19μmを超えると、粒子の凝集により発光強度が著しく不均一になるので好ましくない。
【0024】
本発明の、希土類元素で賦活させたα-サイアロン系蛍光体は、公知の方法でエポキシ樹脂やアクリル樹脂等の透明樹脂と混練されてコーティング剤が製造され、該コーティング剤で表面をコーティングされた発光ダイオードは、光変換素子として使用される。
【実施例】
【0025】
(実施例1?6)
四塩化ケイ素とアンモニアを室温を反応させることにより得られたシリコンジイミドを1150℃?1350℃の範囲で加熱分解して、非晶質成分と結晶質成分の両方を含有する6種類の窒化ケイ素粉末を得た。シリコンジイミドの加熱温度と結晶化度、及び、粉体の比表面積を表1に示した。なお結晶化度は、非晶質原料を加水分解し、残さの重量より求めた。この粉末類を用いて窒化アルミニウム粉末、炭酸カルシウム粉末、酸化ユーロピウム粉末をCa_(0.525)Eu_(0.15)Si_(9.75)Al_(2.25)O_(0.75)N_(15.25)の組成になるように秤量し、窒素雰囲下において、1時間振動ミルによって混合した。混合粉末をカーボン製坩堝に充填し、高周波加熱炉にセットし、窒素ガス雰囲気下に、室温から1200℃までを1時間、1200℃から1400℃までを4時間、1400℃から1600℃までを2.5時間の昇温スケジュールで加熱し、サイアロン粉末を得た。これらの粉末を、蛍光測定装置によって、励起波長を450nmとして、蛍光特性を評価した。発光スペクトルを図1に示した。また、得られたサイアロン粉末の粒度分布を表1に示した。
【0026】
(比較例1)
四塩化ケイ素とアンモニアを室温を反応させることにより得られたシリコンジイミドを1550℃で加熱分解して結晶化した窒化ケイ素粉末を得た。この原料と窒化アルミニウム粉末、炭酸カルシウム粉末、酸化ユーロピウム粉末をCa_(0.525)Eu_(0.15)Si_(9.75)Al_(2.25)O_(0.75)N_(15.25)の組成になるように秤量し、窒素雰囲下において、1時間振動ミルによって混合した。混合粉末をカーボン製坩堝に充填し、高周波加熱炉にセットし、窒素ガス雰囲気下に、室温から1200℃までを1時間、1200℃から1400℃までを4時間、1400℃から1600℃までを2.5時間の昇温スケジュールで加熱し、サイアロン粉末を得た。この粉末は強く凝集して、坩堝に入れた原料は1つの塊になった。これを、メノウ乳鉢で解砕し、蛍光測定装置によって、励起波長を450nmとして、蛍光特性を評価した。発光スペクトルを図1に示した。得られたサイアロン粉末の粒度分布を表1に示した。表1および図1より、原料として部分的に結晶化した非晶質窒化ケイ素を用いた方が、大きい凝集粒子が少なく、粒度分布が狭く、蛍光強度が高いことがわかる。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の製造方法によれば、凝集粒子の大きさが制限され、粒度分布の狭い蛍光体粉末を得ることができ、樹脂等と混合して青色LEDに塗布しやすく、容易に高輝度の白色LEDを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】非晶質成分と結晶質成分の両方を含有する窒化ケイ素を用いて作製したサイアロン系蛍光体の蛍光スペクトルを示す図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2010-09-03 
結審通知日 2010-09-07 
審決日 2010-09-28 
出願番号 特願2003-401202(P2003-401202)
審決分類 P 1 113・ 537- ZD (C09K)
P 1 113・ 16- ZD (C09K)
P 1 113・ 121- ZD (C09K)
P 1 113・ 536- ZD (C09K)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 木村 伸也  
特許庁審判長 柳 和子
特許庁審判官 橋本 栄和
細井 龍史
登録日 2009-03-19 
登録番号 特許第4277666号(P4277666)
発明の名称 サイアロン系蛍光体の製造方法およびサイアロン系蛍光体  
代理人 永坂 友康  
代理人 石田 敬  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 園田 吉隆  
代理人 小林 良博  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 永坂 友康  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 小林 義教  
代理人 小林 良博  

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