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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  B22D
管理番号 1229351
審判番号 無効2007-800095  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-05-15 
確定日 2011-01-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第3492677号「溶融金属供給用容器及び安全装置」の特許無効審判事件についてされた平成20年3月6日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10123号、平成20年(行ケ)第10132号、平成20年6月26日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第3492677号についての手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成14年 2月14日 国内優先出願(特願2002-37509号)
平成14年 9月18日 国内優先出願(特願2002-272331号)
平成14年12月28日 原出願(特願2002-383795号)
平成15年 2月21日 本件分割出願(特願2003-45184号)
平成15年11月14日 特許権の設定登録
平成19年 5月15日 無効審判請求
平成19年 8月 6日 被請求人:答弁書、訂正請求書提出
平成19年 9月27日 請求人:弁駁書提出
平成19年12月27日 請求人:口頭審理陳述要領書提出
平成20年 1月11日 被請求人:口頭審理陳述要領書提出
平成20年 1月18日 口頭審理
平成20年 3月 6日 無効審決
平成20年 4月 2日 被請求人:知的財産高等裁判所出訴
(平成20年(行ケ)第10123号)
平成20年 4月 3日 被請求人:訂正審判請求
(訂正2008-390038号)
平成20年 4月 9日 請求人:知的財産高等裁判所出訴
(平成20年(行ケ)第10132号)
平成20年 5月 9日 訂正認容審決
平成20年 6月26日 判決言渡(無効審決取消)
(平成20年(行ケ)第10123号、同、第10132号)
平成20年 8月28日 請求人:弁駁書提出
平成20年11月20日 補正許否の決定

第2.本件発明
本件特許3492677号の請求項1?4、6?10、12?15に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明15」という。また、それらをまとめて、単に「本件発明」ということもある。)は、上記訂正認容審決の確定により、平成20年4月3日付けの訂正審判請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?4、6?10、12?15に記載された事項により特定される、次のとおりのものとなった。

「【請求項1】内外を連通し、容器内の加圧を行うための貫通孔を有し、溶融金属を収容することができ、加圧により圧力差を利用して内外で溶融金属を流通させることができる容器と、
前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を流通することが可能な第1の流路と、
前記貫通孔に通じる第2の流路に介在され、気体を通過させ、かつ、溶融金属の通過を規制する規制部材と、
前記貫通孔に取り付けられ、前記容器の上面部から上方に向けて突出し、所定の高さの位置で水平方向にて折り曲げられ、接続部が水平方向に導出された配管と、
前記配管の先端に取り付けられ、カプラを構成するプラグと、
前記カプラを構成するソケットからなり、前記規制部材が介在され、前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には当該規制部材の介在により前記配管の接続部を塞ぐ着脱可能な栓と
を具備することを特徴とする溶融金属供給用容器。」

「【請求項2】請求項1に記載の溶融金属供給容器であって前記容器は、
上部に第1の開口部を有する容器本体と、
前記容器の第1の開口部を覆うように配置され、前記第1の開口部よりも小径の第2の開口部を有する大蓋と、
前記第2の開口部に対して開閉可能に設けられ、前記貫通孔が設けられたハッチと
を具備することを特徴とする溶融金属供給用容器。」

「【請求項3】内外を連通し、容器内の加圧を行うための貫通孔を有し、溶融金属を収容することができ、加圧により圧力差を利用して内外で溶融金属を流通させることができ、上部に第1の開口部を有する容器本体と、前記容器の第1の開口部を覆うように配置され、前記第1の開口部よりも小径の第2の開口部を有する大蓋と、前記第2の開口部に対して開閉可能に設けられ、前記貫通孔が設けられたハッチとを具備する容器と、
前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を流通することが可能な第1の流路と、
前記貫通孔に通じる第2の流路に介在され、気体を通過させ、かつ、溶融金属の通過を規制する規制部材と、
前記貫通孔に対して着脱自在で、前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記規制部材の介在により前記貫通孔を塞ぐ栓と
を具備することを特徴とする溶融金属供給用容器。」

「【請求項4】内外を連通し、容器内の加圧を行うための貫通孔を有し、溶融金属を収容することができ、加圧により圧力差を利用して内外で溶融金属を流通させることができ、上部に第1の開口部を有する容器本体と、前記容器の第1の開口部を覆うように配置され、前記第1の開口部よりも小径の第2の開口部を有する大蓋と、前記第2の開口部に対して開閉可能に設けられ、前記貫通孔が設けられたハッチとを具備する容器と、
前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を流通することが可能な第1の流路と、
前記貫通孔に通じる第2の流路に介在され、気体を通過させ、かつ、溶融金属の通過を規制する規制部材と、
前記貫通孔に取り付けられ、カプラを構成するプラグと、
前記カプラを構成するソケットからなり、前記規制部材が介在され、前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には当該規制部材の介在により前記貫通孔に通じる第2の流路を塞ぐ着脱可能な栓と
を具備することを特徴とする溶融金属供給用容器。」

「【請求項6】溶融金属を収容することができる容器と、
前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を流通することが可能な第1の流路と、
前記容器の上部に設けられ、前記容器の内圧を逃がすことができ、容器内の加圧を行うための貫通孔と、
前記貫通孔に、前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記貫通孔を塞ぎ、気体を通過させ、かつ、前記溶融金属の流通を規制するように設けられた着脱可能な規制部材と、
を具備したことを特徴とする溶融金属供給容器。」

「【請求項7】溶融金属を収容することができる容器と、
前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を流通することが可能な第1の流路と、
前記容器の上部に設けられ、前記容器の内圧を逃がすことができ、容器内の加圧を行うための圧力開放管と、
前記圧力開放管に、前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記圧力開放管を塞ぎ、気体を通過させ、かつ前記溶融金属の流通を規制するように設けられた着脱可能な規制部材と、
を具備したことを特徴とする溶融金属供給容器。」

「【請求項8】溶融金属を収容することができる容器の安全装置であって、
前記容器の上部に設けられ、前記容器の内圧を逃がすことができ、容器内の加圧を行うための貫通孔と、
前記貫通孔に、前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記貫通孔を塞ぎ、気体を通過させ、かつ、前記溶融金属の流通を規制するように設けられた着脱可能な規制部材と
を具備したことを特徴とする安全装置。」

「【請求項9】請求項8に記載の安全装置であって、
前記貫通孔に対して着脱自在で、前記規制部材の介在により前記貫通孔を塞ぐ栓を更に具備することを特徴とする安全装置。」

「【請求項10】請求項9に記載の安全装置であって、
前記貫通孔に取り付けられ、カプラを構成するプラグと、
前記カプラを構成するソケットからなり、前記規制部材が介在され、当該規制部材の介在により前記貫通孔に通じる第2の流路を塞ぐ栓と
を更に具備することを特徴とする安全装置。」

「【請求項12】内圧を逃がすことができ、容器内の加圧を行うための貫通孔が上部に設けられ、溶融金属を収容して第1の工場から第2の工場へ搬送するための容器における前記貫通孔に取り付けられる安全保持用栓であって、
前記貫通孔に通じる配管と、
前記配管内に充填され、気体を通過させ、かつ、溶融金属の通過を規制する規制部材とを具備し、
前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記貫通孔に着脱可能に取り付けられることを特徴とする安全保持用栓。」

「【請求項13】請求項12に記載の安全保持用栓であって、
前記配管の一端部に設けられ、プラグとソケットとから構成されるカプラのうち一方であるプラグ又はソケットを更に具備することを特徴とする安全保持用栓。」

「【請求項14】請求項12又は請求項13に記載の安全保持用栓であって、
前記規制部材は、空気は通過させるが、溶融したアルミニウムを通過させない部材であることを特徴とする安全保持用栓。」

「【請求項15】請求項12、請求項13又は請求項14に記載の安全保持用栓であって、
前記規制部材は、セラミックファイバーを成形した部材、焼結金属の成型品、スヤキ又はメタルに細い貫通孔を若しくはオリフィスを設けた部材であることを特徴とする安全保持用栓。」

なお、本件出願は、特願2002-37509号及び特願2002-272331号を基礎出願とする国内優先権の主張を伴う、平成14年12月28日に出願した特願2002-383795号の一部を、平成15年2月21日に分割して新たな特許出願としたものであるが、上記基礎出願明細書には「規制部材」について記載がないので、その国内優先権の主張は認められず、本件発明の進歩性判断の基準日は、特願2002-383795号の出願日である平成14年12月28日(以下、「本件基準日」という。)となる。

第3.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件発明の特許を無効とするとの審決を求め、その理由として、本件発明に対応する本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?5、7?11、13?16(訂正後の請求項1?4、6?10、12?15)に係る発明は、本件基準日前に頒布された甲第1号証乃至甲4-2号証に記載の発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである旨主張し、その証拠方法として、審判請求書に添付して下記甲号各証、平成19年9月27日付弁駁書に添付して下記参考資料6?8、平成19年12月27日付口頭審理陳述要領書に添付して下記参考資料9?12-7、並びに平成20年8月28日付弁駁書に添付して下記参考資料13-1を提出している。
なお、請求人が審判請求書に添付して提出した甲第3号証-1?甲第5号証-3の甲号各証は、口頭審理の際に、表記がそれぞれ順に「甲第3-1号証」?「甲第5-3号証」と改められた(第1回口頭審理調書参照)。
また、請求人が弁駁書、口頭審理陳述要領書に添付して提出した甲6号証?甲12号証-7は、一般的な技術水準や周知技術を示すものであるから、口頭審理の際に、それぞれ順に「参考資料6」?「参考資料12-7」とされた(第1回口頭審理調書参照)。
さらに、請求人が平成20年8月28日付けで提出した弁駁書における、参考資料13-2?13-4の追加、及び同参考資料13-2?13-4により立証しようとする事実に基づく、同弁駁書の「第4 進歩性についての判断の誤り」の「1課題の認識」の(5)(第14頁26行?第15頁17行)に記載された請求の理由の補正については許可しないとの決定が、平成20年11月20日付けでなされた。その理由は次のとおりである。

(理 由)
請求人は、上記弁駁書において、参考資料13-2(アジア耐火株式会社のパンフレット)、参考資料13-3(「購入溶湯取鍋湯漏れ火災事故状況」と題する文書)、参考資料13-4(株式会社陽紀 代表取締役 小畑田竜也氏の陳述書)を提示し、同参考資料13-2の「4.乾燥」の項に説明されているように、当業者には容器内部を十分に乾燥させる必要があることが本件基準日前に認識されており、また、同参考資料13-3及び参考資料13-4により、搬送時の容器の溶融金属吐出用の配管から不意に溶融金属が吐出する事故が本件基準日前に発生しており、当該事故及びその原因については本件基準日前に公知となっているので、甲第1号証に、「加圧時」でない場合に容器内部の圧力が所定以上に上昇するという課題が示されている旨主張している。
しかしながら、搬送時の容器の溶融金属吐出用の配管から不意に溶融金属が吐出する事故が本件基準日前に発生しており、その事故原因が本件基準日前に公知となっていることは、本件無効審判請求書の請求の理由として具体的に主張されていなかった事項である。
そして、上記参考資料13-3及び参考資料13-4は、上記事故及びその原因の公知性をそれぞれ立証しようとするための個別の証拠であり、また、上記参考資料13-2は、キャスタブル耐火物を用いた容器内に水分が存在する可能性もあり、該水分が上記事故原因にもなり得ることを立証しようとする個別の証拠であるから、これらの証拠によって当該事故及びその原因の公知性をそれぞれ立証しようとし、それをもって当該事故の原因を排除して当該事故を防止する課題の公知性を立証しようとするとともに、本件発明の容易想到性を主張することは、これらの個別の証拠に基づいて新たな無効理由の根拠となる事実を主張することに実質的に等しく、単に周知技術、慣用技術、技術常識等についての証拠を例示的に提示して、周知の事実が存在することを追加的に主張、立証するものとは解されない。
そうすると、上記証拠の追加、及び同証拠に基づく主張は、請求の理由の要旨を変更するものというべきである。
また、上記参考資料13-2?13-4に基づく主張は、本件発明の訂正前の発明にも共通し、当該訂正に伴って新たに必要となったものとはいえない。そして、同参考資料13-2は、いつ頒布されたのか不明であり、また、同参考資料13-3は、頒布された刊行物であるか否か不明であり、また、同参考資料13-4は、請求人株式会社陽紀の代表者の陳述書であり、その信憑性が直ちにあるとすることはできないので、それらを確認し、さらに被請求人側の反論も必要とするものである。
そうすると、上記証拠の追加、及び同証拠に基づく主張は、審理を不当に遅延させる請求の理由の補正といわざるをえない。


甲号各証、参考資料:
(1)甲第1号証:特開平2002-254158号公報
(2)甲第2号証:実願昭61-176375号(実開昭62-159963号公報)のマイクロフィルム
(3)甲第3-1号証:カタログ「焼結ベント」
(4)甲第3-2号証:特開昭61-38767号公報
(5)甲第3-3号証:特開平6-47519号公報
(6)甲第3-4号証:特開平9-103865号公報
(7)甲第4-1号証:特開平3-197613号公報
(8)甲第4-2号証:特開平10-292452号公報
(9)甲第5-1号証:平成15年9月10日付拒絶理由通知書
(10)甲第5-2号証:優先権基礎出願2 特願2002-37509号
(11)甲第5-3号証:優先権基礎出願1 特願2002-272331号
(12)参考資料6:実願昭58-70831号(実開昭59-175787号)のマイクロフィルム
(13)参考資料7-1:実願昭57-182481号(実開昭59-87460号)のマイクロフィルム
(14)参考資料7-2:特開平7-243363号公報
(15)参考資料8:特開2002-307159号公報
(16)参考資料9:特公平4-6464号公報
(17)参考資料10:特開2002-19899号公報
(18)参考資料11-1:登録実用新案第3005237号公報
(19)参考資料11-2:実願平2-62995号(実開平4-21466号)のマイクロフィルム
(20)参考資料11-3:実願平1-141128号(実開平3-81868号)のマイクロフィルム
(21)参考資料11-4:特開平2-139362号公報
(22)参考資料11-5:実願昭62-51591号(実開昭63-158864号)のマイクロフィルム
(23)参考資料11-6:実願昭57-9429号(実開昭58-113641号)のマイクロフィルム
(24)参考資料12-1:「HARMAN 会社情報 会社沿革」と題するインターネットホームページの紙打ち出し(http://www.harman.co.jp/company/history.html)
(25)参考資料12-2:実公昭44-19737号公報
(26)参考資料12-3:実公昭45-12697号公報
(27)参考資料12-4:実公昭47-22736号公報
(28)参考資料12-5:実願昭62-82985号(実開昭63-189354号)のマイクロフィルム
(29)参考資料12-6:特開平11-223331号公報
(30)参考資料12-7:特開平8-20826号公報
(31)参考資料13-1:イソライト工業株式会社のパンフレット

第4.被請求人の主張
被請求人は、本件無効審判の請求は成り立たないとの審決を求め、答弁書において下記乙第1号証を提出し、本件発明はいずれの甲号各証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、本件発明の特許には、請求人が主張するような無効理由は存在しない旨主張している。


(1)乙第1号証:平成16年(ワ)24626号判決書

第5.甲号各証、参考資料の記載事項
(1)甲第1号証:特開平2002-254158号公報
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】溶融金属を収容することができる容器と、
前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を流通することが可能な流路と、
前記容器の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハッチとを具備することを特徴とする溶融金属供給用容器。
・・・
【請求項3】請求項1又は請求項2に記載の溶融金属供給用容器において、
前記貫通孔に取り付けられ、前記容器の上面部から上方に向けて突出し、所定の高さの位置で水平方向に折り曲げられ、水平方向に導出された配管を更に具備することを特徴とする溶融金属供給用容器。
・・・
【請求項5】溶融金属を収容することができ、内外を連通し、上面部のほぼ中心の位置に設けられた内圧調整用の貫通孔を有する容器と、
前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を流通することが可能な流路とを具備したことを特徴とする溶融金属供給用容器。
・・・
【請求項9】溶融金属を収容することができ、上部に第1の開口部を有する容器と、
前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を流通することが可能な流路と、
前記容器の第1の開口部を覆うように固定的に配置され、ほぼ中央に前記第1の開口部よりも小径の第2の開口部を有する蓋と、
前記蓋の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハッチとを具備することを特徴とする溶融金属供給用容器。」、
(1b)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、例えば溶融したアルミニウムの運搬に用いられる溶融金属供給用容器に関する。」、
(1c)「【0002】【従来の技術】多数のダイキャストマシーンを使ってアルミニウムの成型が行われる工場では、工場内ばかりでなく、工場外からアルミニウム材料の供給を受けることが多い。この場合、溶融した状態のアルミニウムを収容した取鍋を材料供給側の工場から成型側の工場へと搬送し、溶融した状態のままの材料を各ダイキャストマシーンへ供給することが行われている。
【0003】従来から用いられている取鍋は、溶融金属が貯留される容器本体の側壁に供給用の配管を取り付けたいわば急須のような構造で、かかる取鍋を傾けることにより配管から成型側の保持炉に溶融金属を供給することが行われている。
【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような取鍋では、例えば取鍋の傾斜をフォークリフトを用いて行っており、そのような作業は必ずしも安全なものとはいえなかった。また、取鍋を傾斜させるためにフォークリフトに回動機構を設ける必要があるため、構成が特殊となり、更にそのような操作のためにフォークリフトの操作に熟練した作業者が必要とされる、という課題があった。
【0005】そのため、本発明者等は、圧力差を利用した溶融金属の供給システムを提唱している。このシステムは、密閉された容器に外部に溶融金属を導出するための配管を設け、さらにこの容器に加圧気体を供給するための配管を接続し、容器内を加圧することで金属導出用の配管から外部の例えば成型側の保持炉に溶融金属を導出している。
【0006】しかしながら、上記構成の容器では、加圧気体供給用の配管が詰り易い、という問題がある。特に、上記のシステムでは、例えば容器はトラックに搭載され公道を介して工場から他の工場に運搬されるために揺れことが多く、このため容器内の溶融金属の液面が傾いたり、液滴が容器内で飛び散り、これらが加圧気体供給用の配管に付着する。そして、例えばこのような付着が度重なることで配管詰りが発生している。
【0007】以上の事情に鑑み、本発明の主たる目的は、内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを防止することができる溶融金属供給用容器を提供することにある。」、
(1d)「【0009】通常、かかる容器内に溶融金属を供給するに先立ちガスバーナ等の加熱器により容器を予熱している。この予熱は、ハッチを開けて加熱器の一部を容器内に挿入することで行われる。」、
(1e)「【0021】本発明の更に別の観点に係る溶融金属供給用容器は、溶融金属を収容することができ、上部に第1の開口部を有する容器と、前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を流通することが可能な流路と、前記容器の第1の開口部を覆うように固定的に配置され、ほぼ中央に前記第1の開口部よりも小径の第2の開口部を有する蓋と、前記蓋の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハッチとを具備するものである。
【0022】本発明では、このようなハッチに内圧調整用の貫通孔を設けているので、容器内に溶融金属を供給する度に内圧調整用の貫通孔に対する金属の付着を確認することができる。従って、本発明では、内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを未然に防止することができる。本発明では、ハッチに内圧調整用の貫通孔が設けられ、しかもそのハッチが上記のように液面の変化や液滴が飛び散る度合いが小さい位置に対応する容器の上面部のほぼ中央に設けられているので、金属が内圧調整に用いるための配管や孔に付着することが少なくなる。従って、本発明では、内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを防止することができる。更に、本発明では、ハッチが蓋の上面部に設けられているので、ハッチの裏面と液面との距離が蓋の裏面と液面との距離に比べて蓋の厚み分だけ長くなる。従って、貫通孔が設けられたハッチの裏面に金属が付着する可能性が低くなる。よって、本発明では、内圧調整に用いるための配管や孔の詰りを防止することができる。」、
(1f)「【0035】【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0036】図1は本発明の一実施形態に係る金属供給システムの全体構成を示す図である。
【0037】同図に示すように、第1の工場10と第2の工場20とは例えば公道30を介して離れた所に設けられている。
【0038】第1の工場10には、ユースポイントとしてのダイキャストマシーン11が複数配置されている。・・・
・・・
【0042】第2の工場20には、アルミニウムを溶融して容器100に供給するための第2の炉21が設けられている。・・・
【0043】この第2の炉21により溶融アルミニウムが供給された容器100は、フォークリフト(図示せず)により搬送用のトラック32に載せられる。トラック32は公道30を通り第1の工場10における受け入れ部の受け入れ台17の近くまで容器100を運び、これらの容器100はフォークリフト(図示せず)により受け入れ台17に受け入れられるようになっている。・・・
【0047】発送時刻に容器100を載せたトラック32が出発し、公道30を通り第1の工場10に到着すると、容器100がトラック32から受け入れ部の受け入れ台17に受け入れられる。
【0048】その後、受け入れられた容器100は、受け入れ台17と共に配送車18により所定のダイキャストマシーン11まで配送され、容器100から保持炉12に溶融アルミニウムが供給される。」、
(1g)「【0051】次に、このように構成されたシステムに好適な容器(加圧式溶融金属供給容器)100について、図3及び図4に基づき説明する。図3は容器100の断面図、図4はその平面図である。
【0052】容器100は、有底で筒状の本体50の上部開口部51に大蓋52が配置されている。本体50及び大蓋51の外周にはそれぞれフランジ53、54が設けられており、これらフランジ間をボルト55で締めることで本体50と大蓋51が固定されている。・・・
【0053】本体50の外周の1箇所には、本体50内部から配管56に連通する流路57が設けられた配管取付部58が設けられ、この配管取付部58の流路57に連通するように配管56が固定されている。・・・
【0054】上記の大蓋52のほぼ中央には開口部60が設けられ、開口部60には取っ手61が取り付けられたハッチ62が配置されている。ハッチ62は大蓋52上面よりも少し高い位置に設けられてる。ハッチ62の外周の1ヶ所にはヒンジ63を介して大蓋52に取り付けられている。これにより、ハッチ62は大蓋52の開口部60に対して開閉可能とされている。また、このヒンジ63が取り付けられた位置と対向するように、ハッチ62の外周の2ヶ所には、ハッチ62を大蓋52に固定するためのハンドル付のボルト64が取り付けられている。大蓋52の開口部60をハッチ62で閉めてハンドル付のボルト64を回動することでハッチ62が大蓋52に固定されることになる。また、ハンドル付のボルト64を逆回転させて締結を開放してハッチ62を大蓋52の開口部60から開くことができる。そして、ハッチ62を開いた状態で開口部60を介して容器100内部のメンテナンスや予熱時のガスバーナの挿入が行われるようになっている。
【0055】また、ハッチ62の中央、或いは中央から少しずれた位置には、容器100内の減圧及び加圧を行うための内圧調整用の貫通孔65が設けられている。この貫通孔65には加減圧用の配管66が接続されている。この配管66は、貫通孔65から上方に伸びて所定の高さで曲がりそこから水平方向に延在している。この配管66の貫通孔65への挿入部分の表面には螺子山がきられており、一方貫通孔65にも螺子山がきられており、これにより配管66が貫通孔65に対して螺子止めにより固定されるようになっている。
【0056】この配管66の一方には、加圧用又は減圧用の配管67が接続可能になっており、加圧用の配管には加圧気体に蓄積されたタンクや加圧用のポンプが接続されており、減圧用の配管には減圧用のポンプが接続されている。そして、減圧により圧力差を利用して配管56及び流路57を介して容器100内に溶融アルミニウムを導入することが可能であり、加圧により圧力差を利用して流路57及び配管56を介して容器100外への溶融アルミニウムの導出が可能である。なお、加圧気体として不活性気体、例えば窒素ガスを用いることで加圧時の溶融アルミニウムの酸化をより効果的に防止することができる。
【0057】本実施形態では、大蓋52のほぼ中央部に配置されたハッチ62に加減圧用の貫通孔65が設けられている一方で、上記の配管66が水平方向に延在しているので、加圧用又は減圧用の配管67を上記の配管66に接続する作業を安全にかつ簡単に行うことができる。また、このように配管66が延在することによって配管66を貫通孔65に対して小さな力で回転させることができるので、貫通孔65に対して螺子止めされた配管66の固定や取り外しを非常に小さな力で、例えば工具を用いることなく行うことができる。
【0058】ハッチ62の中央から少しずれた位置で前記の加減圧用の貫通孔65とは対向する位置には、圧力開放用の貫通孔68が設けられ、圧力開放用の貫通孔68には、リリーフバルブ(図示を省略)が取り付けられるようになっている。これにより、例えば容器100内が所定の圧力以上となったときには安全性の観点から容器100内が大気圧に開放されるようになっている。」と記載されている。

(2)甲第2号証:実願昭61-176375号(実開昭62-159963号公報)のマイクロフィルム
(2a)「2 実用新案登録請求の範囲
(1)高位の移湯側の容器に保持される溶融金属を低位の受湯側の容器に保持される溶融金属中に移送するため、頂上部となるわん曲を有し管口が移湯側溶融金属中に浸漬される移湯側パイプに対し管口が受湯側溶融金属中に浸漬される受湯側パイプを気密接続してサイフオンを構成し、移湯側パイプの頂上部に立上り大気開放用パイプを接続するとともにその受湯側寄りに頂上部の内径の下面より低い位置に立上り減圧用パイプを接続し、減圧用パイプおよび大気開放用パイプ内に耐熱スリーブを挿入したことを特徴とする溶融金属の移送装置。
(2)減圧用パイプおよび大気開放用パイプの上部に気体通過、溶湯不通過性の焼結ベントを接続した実用新案登録請求の範囲第1項記載の溶融金属の移送装置。」、
(2b)「3 考案の詳細な説明
(産業上の利用分野)
本考案は、アルミニウムまたはその合金の精錬を終えた熔湯をるつぼごと搬送用取鍋に移しクレーンにより搬送し低圧鋳造機の保持炉に移送する等の場合に有利に使用される溶融金属の移送装置に関する。その他、溶解炉から精錬用保持炉へ移湯する等の場合に広般に使用可能である。」(2頁8?15行)、
(2c)「移湯装置となるサイフオン管(9)はこの例では移湯側パイプ(10)と受湯側パイプ(11)との2分割式に構成され、両パイプ(10)(11)は耐熱パツキン(12)を挟みクランパーで結合して接続され、パツキン(12)は接続部の気密を保持する。」(6頁18行?7頁2行)、
(2d)「移湯を開始させるための減圧用パイプ(13)は頂上部(9a)の受湯側寄りに、第2図に示すように、頂上部(9a)の内径の下面(A)より低い取付位置に接続されて立上り、その上部にストツプバルブ(14)、真空ポンプ接続用パイプ(15)、真空ゲージ(16)を取付けて構成される。この取付位置で充分に溶湯のサイフオン作用を発起させることができる。
移湯を停止させるための大気開放用パイプ(17)は頂上部(9a)に接続されて立上り、その上端にストツプバルブ(18)を取付けて構成される。大気開放用パイプ(17)のこの取付位置は移湯停止の際の湯切れを迅速にする。」(7頁9行?8頁1行)
(2e)「またこれらパイプ(13)(17)の上端には、空気は流通するが溶湯は通過させない焼結ベント(20)を接続し上部装備との間に介在させるのがよい。この焼結ベント(20)は減圧時及び移湯初期に溶湯が外部に流出することを確実に防止する。」(8頁10?14行)、
(2f)「上記構成の本考案装置は次のように操作して使用される。
先づストツプバルブ(14)(18)とも閉として置く。真空ポンプ接続パイプ(15)に真空ポンプを接続して運転を開始する。ストツプバルブ(14)を徐々に開くとサイフオン管内の減圧が始まり、その圧力が89?100mmHgに達するとサイフオン作用による移湯が開始される。移湯側容器(2)内の湯面が低下し始め移湯開始が確認されると減圧用パイプのストツプバルブ(14)を閉とする。この状態で移湯は継続される。
移湯を停止するには大気開放用パイプのストツプバルブ(18)を開く。」(8頁15行?9頁7行)と記載されている。
(2g)第1図?第3図には、上記の記載に対応する溶融金属の移送装置が示されている。

(3)甲第3-1号証:カタログ「焼結ベント」
(3a)株式会社ファインシンターの「焼結ベント」と題するカタログであり、「P型焼結ベントとは、下の写真に見られるように、極めて多数の平行な直線状の孔をもった焼結品で、粉末冶金独特の溶浸法により作成したユニークな製品です。」(2頁2?3行)、「Al合金の重力・低圧鋳造のガス抜き」(3頁2行)と記載されている。

(4)甲第3-2号証:特開昭61-38767号公報
(4a)発明の名称を「円形状鋳物のダイカスト用鋳型」といい、特許請求の範囲には「投影した形状が略円形であるキャビティを有するダイカスト用鋳型であって、
キャビティの中心点を通り湯道からキャビティへ溶湯が流入する方向に平行する基準半径と、湯口を通る半径とのなす角度をα(0°≦α<90°)としたとき、
該基準半径から角度(180°+3/2α-10°)をなす半径と(180°+3/2α+10°)をなす半径にはさまれた扇形投影面内にあるとともに、キャビティ分離線から(0.1×半径)以上離れ、かつ分離線を含まないガス抜孔を形成した・・・ダイカスト用鋳型。」と記載されており、
(4b)発明の詳細な説明には、「[発明が解決しようとしている問題点及び目的]しかし、上述の方法ではしばしばガスが残存し、鋳巣を発生させている。
本発明は投影した形状が略円形状のダイカスト鋳型のガス抜孔の最適位置を明確にし、ガス巻込のない鋳造欠陥のない鋳物を得る鋳型を提供することを目的とする。」(1頁右下欄16行?2頁左上欄2行)、
(4c)第7図を参照し、「8はガス抜で、気体は通過出来るが溶湯は通過出来ない程度の寸法に刻設されている。」(3頁左上欄12?14行)、
(4d)実施例として第1図を参照し、「なお、第1図に示すような形状のガス抜きで、最終充填部に直径2mm未満(隙間の空洞総断面が3mm2未満)のガス抜きとすると、最終充填部のガスが充分に排出されず、多くの巻込み欠陥が存在し、約2mmの直径以上即ち約3mm2以上のガス抜孔総断面が必要である。
この場合、ガス抜孔は1個の貫通孔であってもよいし、より孔径の小さい複数個の孔の群であってもよい。この場合でも開孔部の総断面積は3mm2以上とする必要がある。ガス抜孔部材としては焼結ベント、押出ピン(2重シェルタイプ及び/又は、外周に溝又は細隙を有するもの)等が有効に使用できる。」(4頁右上欄13行?左下欄5行)と記載されている。

(5)甲第3-3号証:特開平6-47519号公報
(5a)発明の名称を「差圧鋳造装置」といい、特許請求の範囲には、
「【特許請求の範囲】
【請求項1】ゲートピストンの先端面を鋳型の下型表面に当接させて、前記先端面に形成された凹部を前記下型に形成された溶湯通路の一端に被せることにより、前記鋳型の湯口部を閉塞する構造の差圧鋳造装置において、
前記ゲートピストンに形成された凹部の壁面は断熱部材で被われており、前記ゲートピストンが前記湯口部を塞いだ状態で、前記断熱部材は前記下型に当接しないように、そのゲートピストンに固定されていること特徴とする差圧鋳造装置。
【請求項2】ゲートピストンの先端面を鋳型の下型表面に当接させて、前記先端面に形成された凹部を前記下型に形成された溶湯通路の一端に被せることにより、前記鋳型の湯口部を閉塞する構造の差圧鋳造装置において、
前記ゲートピストンに形成された凹部の壁面は、このゲートピストンと別体に製作された断熱部材で被われており、その断熱部材は前記凹部の底の部分で前記ゲートピストンに固定されていること特徴とする差圧鋳造装置。」と記載されており、
(5b)発明の詳細な説明には、実施例の説明として、図1、図2を参照し、
「【0007】前記キャビティ56の湯口部56aと前記溶湯通路58との接続部分には、前記湯口部56aを開閉するためのゲート機構70が設置されている。このゲート機構70はゲートピストン72と、このゲートピストン72を軸方向に変位させるための移動機構(図示されていない)および前記ゲートピストン72と前記移動機構とを連結するためのピン74を備えている。前記ゲートピストン72は、図1にその詳細断面図が示されているように、筒状に成形されてその上端部が上板72uによって蓋をされている。そしてこの上板72uの中央にゲートピストン72と移動機構とを連結するためのピン74の一端が接続されている。さらに上板72uの中心には貫通孔72kが形成されており、この貫通孔72kの部分に溶湯62を通過させることなく気体のみを通過させることができる焼結ベント76が取り付けられている。前記ピン74の内部には軸心方向に排気通路74cが形成されており、この排気通路74cの一端が通気性の前記焼結ベント76を介して前記ゲートピストン72の内部空間に連通している。また前記排気通路74cの他端が図示されていない減圧装置に接続されている。この構造によって、前記減圧装置が作動するとゲートピストン72の内部空間が排気通路74c、焼結ベント76を介して減圧される。」、
(5c)「【0012】このようにしてキャビティ56の内部に溶湯62が充填されると、ゲートピストン72が下降してキャビティ56の湯口部56aが再び閉鎖され、加圧ピストン52dによってキャビティ56内の溶湯62が所定圧力で加圧される。またこれと平行して前記排気通路74cが大気開放され、溶湯通路58および溶湯リザーバ80rに蓄えられていた溶湯62が溶解炉60内に戻されて、鋳造が終了する。・・・」と記載されている。

(6)甲第3-4号証:特開平9-103865号公報
(6a)発明の名称を「鋳造装置」といい、特許請求の範囲には、
「【請求項1】天井部を備える筒状のゲート部材を鋳型に形成された溶湯通路の開口部に被せ、その溶湯通路を塞ぐとともに、そのゲート部材の内側に溶湯を蓄える構造の鋳造装置において、
ゲート部材は、その外壁を構成するゲートピストンと、内壁を構成する断熱部材とを有しており、
前記断熱部材は、天井部で前記ゲートピストンに取付けられていること特徴とする鋳造装置。」と記載されている。
(6b)発明の詳細な説明には、「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、天井部を備える筒状のゲート部材を鋳型に形成された溶湯通路の開口部に被せ、その溶湯通路を塞ぐとともに、そのゲート部材の内側に溶湯を蓄える構造の鋳造装置に関する。」、
(6c)発明の実施の形態として図1、図2を参照し、
「【0007】前記キャビティ56の湯口部56aと前記溶湯通路58との接続部分には、前記湯口部56aを開閉するためのゲート機構70が設置されている。前記ゲート機構70はゲートピストン72と、このゲートピストン72を軸方向に変位させるための移動機構(図示されていない)および前記ゲートピストン72と前記移動機構とを連結するためのピン74を備えている。前記ゲートピストン72は、図1にその詳細断面図が示されているように、筒状に成形されてその上端部が上板72uによって蓋をされている。そして、この上板72uの中央にゲートピストン72と移動機構とを連結するためのピン74の一端が接続されている。さらに、上板72uの中心には貫通孔72kが形成されており、この貫通孔72kの部分に溶湯62を通過させることなく気体のみを通過させることができる焼結ベント76が取り付けられている。
【0008】前記ピン74の内部には軸心方向に排気通路74cが形成されており、この排気通路74cの一端が通気性の前記焼結ベント76を介して前記ゲートピストン72の内部空間に連通している。また、前記排気通路74cの他端が図示されていない減圧装置に接続されている。この構造によって、前記減圧装置が作動するとゲートピストン72の内部空間が排気通路74c、焼結ベント76を介して減圧される。」と記載されている。

(7)甲第4-1号証:特開平3-197613号公報
(7a)発明の名称を「ランス迅速交換装置」といい、特許請求の範囲には、
「(1)ランスとホースとの接続端において、ソケット部と該ソケット部に内挿嵌合するプラグ部とから成る接続カプラーを設けるとともに、前記プラグ部とソケット部との間にシール材を設け、さらに前記プラグ部に流体洩れ検知孔と、該検知孔に連結した流体漏れ検知装置とを備えたことを特徴とするランスの迅速交換装置。
(2)リンク機構を有しランス芯出し装置とを兼ねるランス把持装置を固定して有するランス昇降台車を備え、該ランス昇降台車の上面部に、前記ランス芯出し装置の駆動部を周囲雰囲気からシールして設けたことを特徴とする、請求項1記載のランス迅速交換装置。
(3)カプラー接続補助ガイドをさらに備えたことを特徴とする請求項1または2記載のランス迅速交換装置。」と記載されている。
(7b)発明の詳細な説明には、「(産業上の利用分野)
本発明は、製鉄所などにおける転炉設備の精錬用ランスの簡単かつ確実、迅速な取替ができるランスの迅速交換装置に関する。」(1頁右下欄2?5行)、
(7c)実施例として、第1図乃至第5図を参照し、「第1図に示すようにランス1およびホース2との接続端にランス側フランジ3およびホース側フランジ6を設け、このランス側フランジ3に接合締結され接続する雌形ソケット4をボルト・ナット9により締結して設け、雄形プラグ5をこれに嵌合する。ホース2のホース側フランジ6にはボルト・ナット9で前記雄形プラグ5が締結して設けられる。
ソケット4の胴中央部には雄形プラグ5との間での流体の漏洩を防止する例えば、Oリングあるいはバッキングであるシール材20を設ける。プラグ5にはソケット4とプラグ5との間からの流体洩れを検知するための流体洩れ検知孔7を設ける。この流体洩れ検知孔7の後端部に流体漏洩検知装置8が接続されており、漏洩流体圧力が異常上昇した場合の警報、ガスが噴出した場合の警報がでるようにしてある。
このようにランス側フランジ3にはソケット4を、またホース側フランジ6には、雄形プラグ5がそれぞれボルト・ナット9で締結されている。またこれらは逆であってもよい。ランス1とホース2の接続はソケット4とプラグ5より構成されたカプラー10で行われるものである。」(3頁右下欄19行?4頁右上欄1行)と記載されている。

(8)甲第4-2号証:特開平10-292452号公報
(8a)発明の名称を「給水栓」といい、特許請求の範囲には、
「【請求項1】流し台や洗面台等の天板に設けられた取付穴に挿通される脚部を有し、該脚部により天板に取付固定されると共に給水・給湯配管に接続される給水栓において、前記脚部に、配管側に設けられたカプラ又はプラグに差し込む又は差し込まれることにより係合固定されるプラグ又はカプラを設けたことを特徴とする給水栓。
【請求項2】請求項1の給水栓の脚部に設けられたプラグ又はカプラを、脚部の外径よりも小径としたことを特徴とする給水栓。」と記載されている。
(8b)発明の詳細な説明には、発明の実施の形態として図1、図2を参照し、
「【0008】・・・また、脚部10の下端側には、後述するブレードホースユニット4の一端に設けられたカプラ30に係合固定されるプラグ12が一体に設けられている。・・・
【0009】・・・ブレードホースユニット4には、ブレードホース7上端にカシメ金具6により固定接続された別体のカプラ30が設けられている。このカプラ30は、略円筒状に設けられたソケット本体31から主として構成され、略円筒状のスリーブ33がソケット本体31の軸方向外周面に摺動自在に設けられており、さらにソケット本体31の外周に巻着されたスプリング35により環状の座金34及び二本の平行ピン32を介してソケット本体31の軸上端方向に付勢されて取り付けられている。・・・」と記載されている。

(9)甲第5-1号証:平成15年9月10日付拒絶理由通知書
(9a)平成15年9月10日付拒絶理由通知書の内容が示されている。

(10)甲第5-2号証:優先権基礎出願2 特願2002-37509号
(10a)本件の優先権主張の基礎出願である特願2002-37509号の明細書が示されている。

(11)甲第5-3号証:優先権基礎出願1 特願2002-272331号
(11a)本件の優先権主張の基礎出願である特願2002-272331号の明細書が示されている。

(12)参考資料6:実願昭58-70831号(実開昭59-175787号)のマイクロフィルム
(12a)「液化天然ガスを収容したタンクに具えた配管1の端部に、スリーブ7を操作してキャップ本体4を嵌合固定して配管1の開口端部2を閉鎖する。・・・キャップ本体4を外せなくなった場合、キャップ本体4から外方に突出している操作杆13を押圧してバルブ11を開動させ・・・配管1の端部からキャップ本体4を簡単に外せる。」(4頁13行?5頁9行)と記載されている。

(13)参考資料7-1:実願昭57-182481号(実開昭59-87460号)のマイクロフィルム
(13a)考案の名称を「液体タンクのエアブリーザ」といい、実用新案登録請求の範囲には、
「蓋体に押え金を取付け、その押え金に通気孔を設け、上記蓋体と上記押え金との間に多孔質材料を設けた土木機械、建築機械の液体タンクのエアブリーザにおいて、上記押え金に凹部を設け、上記蓋体に筒状の仕切板を取付け、その仕切板と上記押え金の上記凹部との間に間隙を設け、上記仕切板に通気孔を設け、上記仕切板内に多孔質材料を設けた・・・液体タンクのエアブリーザ。」、
(13b)発明の詳細な説明には、「この考案は土木機械、建築機械の燃料タンク等の液体タンクのエアブリーザに関するものである。」(1頁14?15行)と記載されている。

(14)参考資料7-2:特開平7-243363号公報
(14a)発明の名称を「ブリーザ」といい、特許請求の範囲には、
「【請求項1】燃料タンク(1)の口部(21)を仕切ると共に通孔(10)を有する保持板(5)、前記保持板(5)に取り付けられて前記通孔(10)と外部との間を仕切ると共に気体は通過するが液体は通過しないフィルタ部材(14)、前記保持板(5)より内方の前記口部(21)を仕切ると共にオリフィス(9)を有する仕切板(6)、および前記仕切板(6)のオリフィス(9)を通過した前記燃料タンク(1)内の正圧に応動して前記オリフィス(9)の流通を開閉するチェックバルブ(18)を具えた・・・ブリーザ。」、
(14b)発明の詳細な説明には、「【0001】【産業上の利用分野】・・・可搬式の汎用エンジン等におけるガソリンタンクに使用されるのに好適なブリーザに関するものである。」と記載されている。

(15)参考資料8:特開2002-307159号公報
(15a)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、例えば溶融したアルミニウムの運搬に用いられる溶融金属供給用容器に関する。」、
(15b)「【0005】そのため、本発明者等は、圧力差を利用した溶融金属の供給システムを提唱している。このシステムは、密閉された容器に外部に溶融金属を導出するための配管を設け、さらにこの容器に加圧気体を供給するための配管を接続し、容器内を加圧することで金属導出用の配管から外部の例えば成型側の保持炉に溶融金属を導出している。」、
(15c)「【0099】本発明の更に別の実施形態を説明する。
【0100】図7は本発明の第2の実施形態に係る容器の断面図である。・・・
【0101】同図に示す容器2100は、容器本体2110と、容器本体2110の中心2111からずれた位置2112から容器本体2110外に配設された配管2130とを具備する。
・・・
【0107】更に、蓋2114には、容器本体2110の中心2111からずれた位置2112から容器本体2110外に配設された配管2130が取り付けられている。配管2130の下端2131は容器本体2110内の底部付近まで位置している。この下端2131を開閉自在とする機構を設けても構わない。これにより、容器が倒れたときに湯が流出することを防止することが可能となる。・・・
【0109】このような容器2100では、まず水平状態で、導入口2123から加圧気体を導入し、容器本体2110内の溶湯2120を配管2130から外部に圧送する。・・・」と記載されている。

(16)参考資料9:特公平4-6464号公報
(16a)「〔産業上の利用分野〕
本発明はアルミニウム等の溶融金属を公道など一般道路を通つて遠隔地運搬、長時間運搬、坂道などの傾斜面運搬ができ、溶湯のまま使用者側に配送ができるようにしたトラツク等、道路上を運行する運搬用車輌による溶融金属の運搬方法に関するものである。」(1頁2欄9?15行)、
(16b)「〔解決すべき問題点〕・・・
即ち従来の方法で溶湯を一般道路上を運搬する場合は、公道など一般道路が工場内と異なり、坂道があつたり、車の振動が激しくなる舗装状態の悪い道路面があつたりすることから、溶湯がこぼれたり、積込んだ取鍋が横転したり、また放冷により溶湯が凝固する等の困難が予想され、実現ができなかつた。」(2頁3欄13行?4欄2行)と記載されている。

(17)参考資料10:特開2002-19899号公報
(17a)発明の名称を「過酸化水素用圧送容器」といい、特許請求の範囲には、
「【請求項1】抜き出し口、充填口及びガス導入口を有し、ガス導入口にガス放出口付保護キャップが装着された過酸化水素用圧送容器。
【請求項2】ガス導入口にカプラが装着されており、該カプラに嵌合することでカプラ内部の弁が解放される構造を持ち、かつフィルターが装着されているガス放出口付保護キャップがカプラに装着されている請求項1記載の圧送容器。」、
(17b)発明の詳細な説明には、
「【0004】過酸化水素水を容器から抜き出す方法として、容器内を窒素等のガスで加圧して押し出すことのできる圧送容器を用いる方法がある。この圧送容器の例として、小型容器を図1に示す。小型容器としては5?200kg程度の容量であり、一方大型容器としては200kg?20t程度の容量である。このような容器には、過酸化水素水抜き出し管(1)、ガス放出口付充填口キャップ(2)、加圧するためのガス導入口(3)、過酸化水素水抜き出し口(4)、過酸化水素水充填口(5)が装備されている。
【0005】このうちガス導入口(3)、過酸化水素水抜き出し口(4)を顧客側の設備とつなげる時、不純物の混入が無くかつ漏れが無く接続できるようこれらには、継手、すなわちソケット(メスタイプ)、もしくはプラグ(オスタイプ)が装着されている。これらのプラグ、ソケットは両者をはめ込み嵌合させることでワンタッチで配管を結合できるいわゆるカプラと呼ばれるものである。また、これらのソケットもしくはプラグには弁が内蔵されており、それぞれに対応する相手をつながない限り閉止状態を保つ構造となっている。保管、輸送時は閉止状態でありここを通っての外部からの汚染はない。」、
「【0012】ガス導入口(3)には、ガス放出口が装着されたガス放出口付保護キャップ(6)が設置される。ガス放出口付保護キャップ(6)は、ガス導入口がプラグタイプの場合はソケットタイプ、ソケットタイプの場合はプラグタイプのものが使用される。ガス放出口付保護キャップ(6)は嵌合するとその底面でカプラ内部の弁を押すことで弁を解放し、容器内部にガスがあった場合ガス放出口を通して容器外部にガスを放出される構造を持つ。」と記載されている。

(18)参考資料11-1:登録実用新案第3005237号公報
(18a)考案の名称を「活性酒壜用王冠」といい、実用新案登録請求の範囲の請求項1には、
「【請求項1】活性酒を詰めた壜(10)の口部(11)との間にガス抜き孔(31)を開けた内栓(30)を介して、壜(10)の口部(11)に被せるところの、天面にガス抜き孔(21)を開けた外栓(20)を有する王冠であって、外栓(20)と内栓(30)との間に微多孔質フィルム(40)を挟んでなる活性酒壜用王冠。」、
(18b)考案の効果として、「【0014】・・・本考案は以上のように構成されるため、活性酒から発酵したガスを抜くことが出来、しかも、壜10の転倒・揺動・反転による酒の漏れを完全に防ぐことが出来る。」と記載されている。

(19)参考資料11-2:実願平2-62995号(実開平4-21466号)のマイクロフィルム
(19a)考案の名称を「気化性液体容器のガス抜き蓋」といい、実用新案登録請求の範囲には、
「天井部に貫通孔を設けた、螺着締め付け型の蓋体を、その天井部内面の全面に液体不透過、ガス透過性の多孔質フィルムを拡張し、その内面に上記貫通孔に相応する個所に貫通孔を有する板状パッキング兼押さえ板を介して容器開口部に螺着固定する・・・気化性液体容器のガス抜き蓋。」と記載されている。

(20)参考資料11-3:実願平1-141128号(実開平3-81868号)のマイクロフィルム
(20a)考案の名称を「缶口閉鎖装置」といい、実用新案登録請求の範囲には、
「缶口(1)と弾性鉤止方キャップ(2)との間に閉鎖部材(3)を介在してなる缶口閉鎖装置において、前記閉鎖部材(3)を気体を流通させ、且つ、缶内液体の流通を阻止する多孔質材とすると共に、前記缶口(1)と前記閉鎖部材(3)との間に柔かい気密部材(14)を介在させた・・・缶口閉鎖装置。」、
(20b)考案の詳細な説明には、「(イ)産業上の利用分野
本考案は石油缶、塗料缶、飲料缶等の缶口閉鎖装置に関する。」(1頁12?14行)と記載されている。

(21)参考資料11-4:特開平2-139362号公報
(21a)特許請求の範囲には、
「揮発性の液体を貯蔵可能に形成されてなり、液体からの蒸散気体の放出口を所定の開閉手段によって開閉自在に備えてなる容器において、前記放出口に気体及び蒸気のみが流通可能な多孔質材からなる栓体を着脱可能に装着した・・・容器。」と記載されている。

(22)参考資料11-5:実願昭62-51591号(実開昭63-158864号)のマイクロフィルム
(22a)考案の名称を「気化性液体容器用キャップ」といい、実用新案登録請求の範囲には、
「容器の開口部に装着されるキャップ本体にガス抜き孔を形成すると共に該ガス抜き孔に連結せしめて上記キャップ本体の底面からフィルター収容部を形成し、該フィルター収容部に取付けたフィルターケースの中央部に通孔を凹入形成すると共に前記ガス抜き孔との間および前記通孔の奥部と該ガス抜き孔との間に通液部を形成して夫々疎水性多孔質フィルター膜を取付け、しかも前記フィルターケース内にフィルター液を収容させるようにした・・・気化性液体容器用キャップ。」と記載されている。

(23)参考資料11-6:実願昭57-9429号(実開昭58-113641号)のマイクロフィルム
(23a)考案の名称を「燃料タンクの注入口蓋」といい、実用新案登録請求の範囲には、
「燃料タンク(3)の注入口(5)の外周に嵌合する注入口蓋本体(1)の内部に、上方の開口部(11)の外周に鍔部(13)を備えた凹形のインナーキャップ(9)を嵌合し、前記鍔部(13)の上面に外周と内径部と連通する通気溝(15)を設けるとともに、前記インナーキャップ(9)の内部に収容された多孔性のフイルター材(17)の上面に押え板(19)を保持して設け、前記押え板(19)の上面と前記注入口蓋本体(1)の内面との間に間隙部(21)を形成するとともに、前記インナーキャップ(9)および前記押え板(19)にそれぞれ通気路(25)(33)を設け、前記通気路(25)(33)および前記通気溝(15)を介して前記燃料タンク(3)の内部を大気に連通して設けた・・・燃料タンクの注入口蓋。」と記載されている。

(24)参考資料12-7:特開平8-20826号公報
(24a)「【0001】【産業上の利用分野】この発明は金属の溶湯を真空脱ガスする方法、および真空脱ガスをおこなう取鍋式真空脱ガス装置に関する。」、
(24b)「【0018】【実施例】以下図1乃至図4によりこの発明の一実施例を説明する。・・・脚部7には、フォ-クリフトによる運搬用のフォ-ク穴7aが設けてある。・・・
【0019】・・・保持筒17の上部にはフランジ式の吸配湯管接続口(以下単に接続口という)18が形成され、図1においては運搬時密封用の円板状のキャップ19が、レバ-式のクランプ装置20によって接続口18を密封している。・・・
【0022】また取鍋1の給気接続口34には、給気用のホ-ス50を介して窒素ガス供給装置51を接続する。この窒素ガス供給装置51は、窒素ガスボンベ52に減圧弁53と電磁開閉弁54を接続して成る。さらに取鍋1の排気接続口33には、排気用のホ-ス60を介して真空排気装置61を接続する。この真空排気装置61は、真空タンク62に真空ポンプ63を接続して成り、64は電磁開閉弁である。
・・・
【0024】その後、開閉弁35を閉じ、ホ-ス60を排気接続口33から切離したのち、給気接続口34部の開閉弁36を開いて窒素ガス供給装置51から窒素ガスを供給して、大気の侵入を阻止するために取鍋1内をたとえば50?200mmAq程度の圧力に加圧し、開閉弁36を閉じホ-ス50を給気接続口34から切離す。この状態(図1に示す状態)で、取鍋1をフォ-クリフト等により運搬し、図4に示すように溶湯使用装置である鋳造装置の保持炉71の近傍へ、取鍋1を置く。
・・・
【0026】そして開閉弁36を開き、窒素ガスを取鍋1内に送入して該取鍋1内をたとえば0.1?0.5Kgf /cm2 程度に加圧し、該取鍋1内の溶湯40を配湯管91を経て保持炉71のるつぼ74内に配湯する。所定量の配湯後、図示しない他の保持炉に対して同様にして配湯をおこない、取鍋1内の溶湯40が不足状態となったら、前記の工程により溶解炉41内から新たな溶湯40を取鍋1内に吸湯し、以下同様の工程を繰返せばよい。」と記載されている。

(25)参考資料13-1:イソライト工業株式会社のパンフレット
(25a)アルミ溶湯用耐火断熱材を使用した取鍋について、ガスの発生の心配がないこと、操業当初に予熱を行う必要があることが記載されている。

第6.当審の判断
1.甲第1号証記載の発明
(イ)上記摘記事項(1g)によれば、甲第1号証には、容器本体の上部開口部に大蓋が配置されていること、該大蓋のほぼ中央には開口部が設けられ、開口部には開閉可能とされたハッチが配置されていること、ハッチの中央には、容器内の減圧及び加圧を行うための内圧調整用の貫通孔が設けられていることが記載されている。
(ロ)上記摘記事項(1g)によれば、甲第1号証には、該貫通孔には加減圧用の配管が接続され、該配管は貫通孔から上方に伸びて所定の高さで曲がり、そこから水平方向に延在することが記載されている。
(ハ)上記摘記事項(1g)によれば、甲第1号証には、前記配管の一方に加圧用又は減圧用の配管が接続可能になっていること、加圧気体による加圧により、圧力差を利用して流路を介して容器の外へ溶融金属の導出が可能であることが記載されている。
(ニ)上記摘記事項(1e)によれば、甲第1号証には、溶融金属供給用容器が上部に第1の開口部を有し、前記容器の第1の開口部を覆うように固定的に配置され、ほぼ中央に前記第1の開口部よりも小径の第2の開口部を有する蓋と、前記蓋の上面部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハッチとを具備することが記載され、さらに、上記摘記事項(1g)には、ハッチは蓋の開口部に対して開閉可能に配置されることが記載されている。

以上(イ)?(ニ)の点を考慮し、上記摘記事項(1a)?(1g)を総合すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「容器内の減圧及び加圧を行うための内圧調整用の内外を連通する貫通孔を有し、溶融金属を収容することができ、加圧により圧力差を利用して容器外へ溶融金属の導出が可能である容器と、
前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を流通することが可能な流路と、
前記貫通孔は気体が流通可能であり、
前記貫通孔には配管が接続され、該配管は、前記貫通孔から上方に伸びて所定の高さで曲がりそこから水平方向に延在し、
該配管には、加圧用又は減圧用の配管が接続可能であり、
前記容器は、上部に第1の開口部を有し、
前記容器の第1の開口部を覆うように配置され、前記第1の開口部よりも小径の第2の開口部を有する蓋と、
前記蓋の上面部の第2の開口部に開閉可能に設けられ、前記容器の内外を連通する内圧調整用の貫通孔が設けられたハッチと、
を具備する溶融金属を貯留して搬送する溶融金属供給用容器。」(以下、「甲第1号証記載発明」という。)

2.本件発明1について
本件発明1と甲第1号証記載発明とを対比する。
(ホ)甲第1号証記載発明の「内圧調整用の・・・貫通孔」、「容器外へ溶融金属の導出が可能」、「流路」は、それぞれ、本件発明1の「貫通孔」、「内外で溶融金属を流通させることができる」、「第1の流路」に相当する。
(ヘ)甲第1号証記載発明における「配管」は、「前記貫通孔に」接続され、該配管は「前記貫通孔から上方に伸びて所定の高さで曲がりそこから水平方向に延在」し、貫通孔は容器の上面部に設けられ、さらに、該配管に「加圧用又は減圧用の配管が接続可能」であることから、本件発明1における「前記貫通孔に取り付けられ、前記容器の上面部から上方に向けて突出し、所定の高さの位置で水平方向に折り曲げられ、接続部が水平方向に導出された配管」に相当する。
(ト)甲第1号証記載発明における「容器内の減圧及び加圧を行うための」は、その態様として容器内の加圧を含んでいる。

そうすると、両者は
「内外を連通し、容器内の加圧を行うための貫通孔を有し、溶融金属を収容することができ、加圧により圧力差を利用して内外で溶融金属を流通させることができる容器と、
前記容器の内外を連通し、前記溶融金属を流通することが可能な第1の流路と、
前記貫通孔に通じる第2の流路は、加圧気体が流通可能であり、
前記貫通孔に取り付けられ、前記容器の上面部から上方に向けて突出し、所定の高さの位置で水平方向に折り曲げられ、接続部が水平方向に導出された配管と、
を具備する、溶融金属を貯留して搬送する溶融金属供給用容器」である点で一致し、次の点で相違している。

相違点1:本件発明1では、「貫通孔に通じる第2の流路に介在され、気体を通過させ、かつ、溶融金属の通過を規制する規制部材」を具備し、「前記規制部材が介在され、前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には当該規制部材の介在により前記配管の接続部を塞ぐ着脱可能な」栓を具備するのに対し、甲第1号証記載発明では、それらを具備していない点。

相違点2:本件発明1では、相違点1における「栓」は「カプラを構成するソケットからなり」、配管の先端に「カプラを構成するプラグ」を取り付けることにより、栓を着脱可能にするのに対し、甲第1号証記載発明では、そうでない点

そこで、上記相違点について以下検討する。

相違点1について:
(1)まず、本件発明1の課題、作用効果についてみるに、本件特許明細書には、
「【0007】【発明が解決しようとする課題】例えば上記特許文献1に記載された容器を運搬するような場合、加給器が接続される孔から溶融金属が漏れ出ないようにこの孔を塞ぐ必要がある。
【0008】しかしながら、このよう孔を塞いで容器を密閉した場合には、容器内の気体が温度上昇により膨張し、溶融金属吐出用の配管から不意に溶融金属が吐出する、という問題が生じた。容器のライニングの乾燥が不十分な場合にはこのような問題はさらに顕著なものとなる。
【0009】本発明は、かかる事情に基づきなされてもので、溶融金属が漏れ出ないように貫通孔を塞ぐことができ、しかも配管から不意に溶融金属が吐出する事態を防止することができる溶融金属供給用容器を提供することを目的としている。」と記載されている。
すると、本件発明1は、加圧式の溶融金属供給用容器に溶融金属を貯留して搬送する場合に、溶融金属が貫通孔から漏れ出ないように塞ぐと同時に、溶融金属が吐出用配管から不意に吐出しないようにすることを課題とするものであって、容器内の気体の膨張により溶融金属が吐出することは、密閉した加圧式の溶融金属供給用容器に特有の課題であることが理解できる。
そして、「気体を通過させ、かつ、溶融金属の通過を規制する規制部材」を設けることにより、「【0177】【発明の効果】・・・本発明によれば、溶融金属が漏れ出ないように貫通孔を塞ぐことができ、しかも配管から不意に溶融金属が吐出する事態を防止することができる。」という本件特許明細書記載の効果を達成するものである。

(2)他方、甲号各証において、加圧式容器に溶融金属を貯留して搬送する場合に溶融金属が貫通孔から漏れ出ないようにすると同時に、該容器の内圧上昇により溶融金属が吐出用配管から不意に吐出しないようにすることを課題として認識していたことを伺わせる記載はない。
即ち、甲第1号証には、「【0058】・・・圧力開放用の貫通孔68が設けられ、圧力開放用の貫通孔68には、リリーフバルブ(図示を省略)が取り付けられるようになっている。これにより、例えば容器100内が所定の圧力以上となったときには安全性の観点から容器100が大気圧に開放されるようになっている。」と記載されているが、同記載の「容器100内が所定の圧力以上となったとき」について、甲第1号証には、「加圧用の配管には加圧気体に蓄積されたタンクや加圧用のポンプが接続されており、・・・加圧により圧力差を利用して流路57及び配管56を介して容器100外への溶融アルミニウムの導出が可能」な場合のことが述べられているだけであり(摘記(1g)参照)、それ以外の容器内の圧力上昇が生じるときのことは記載されていない。また、溶融金属供給用容器の搬送時に、該容器内部に圧力上昇が生じることが本件基準日前に知られていたとする証拠は示されていない。しかも、溶融金属を容器外へ導出する際の通常の圧力でリリーフバルブにより容器が開放すれば、容器内外の圧力差はなくなり、加圧による圧力差を利用した溶融金属の容器外への導出が不可能となることは明らかであるから、上記リリーフバルブは、溶融金属を容器外へ導出する際の通常の圧力を超える異常な圧力のとき(例えば、溶融金属の吐出用配管が詰まっているにも拘わらず、溶融金属を容器外への導出しようとして容器に許される圧力を超えて加圧圧力を高めたとき)に容器を開放するように設定されているものといえる。
してみると、上記リリーフバルブにより容器を開放するときとは、溶融金属を容器外へ導出する場合において、溶融金属を容器外へ導出する際の通常の圧力を超える異常な圧力となるときであると解されるので、上記の甲第1号証の記載をもって、溶融金属を貯留して搬送する場合の容器の内圧上昇による溶融金属の不意の吐出を防ぐことが課題として認識されていたとすることはできない。

(3)請求人は、平成20年8月28日付け弁駁書において、上記リリーフバルブは、本件特許明細書の段落【0132】に記載されているリリーフバルブと同様、容器に設けられているので、同明細書の段落【0105】?【0107】に記載されている、容器を加圧して溶融金属を吐出させる際に、該容器内が所定の圧力以上となった場合に圧力を開放するためにフォークリフト側に装備されるリーク弁やリリーフ弁とは異なり、搬送時の容器内の圧力を開放するためのものであり、甲第1号証には、容器内部の圧力が所定以上に上昇することについての課題が示されている旨主張している。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0112】には、「本実施形態では、接続機構73とレシーバタンク71との間に、すなわち、フォークリフト40側にリリーフ弁82やリーク弁86等の制御弁を設ける構成としたので、圧力調整のためにこれらの弁を当該容器100ごとに設ける必要がなく、高温の溶融金属を収容する容器100の熱等による弁の損壊及び老朽化を防止でき、溶融金属を取り扱う際の安全性を向上させることができる。」と記載されており、同記載によれば、フォークリフト側に設けられる「リリーフ弁82・・・等の制御弁」と、容器ごとに設けられる弁とは、熱の影響による損壊、老朽化、安全性等の差はあるものの、圧力調整の制御弁として同様の目的で、フォークリフト側と容器ごとのどちらかに設けられるものと解される。そして、同明細書の段落【0132】及び甲第1号証の段落【0058】にはそれぞれ、「圧力開放用の貫通孔168(甲第1号証では「貫通孔68」)には、リリーフバルブ(図示を省略)が取り付けられるようになっている。」と記載されており、同記載によれば、両「リリーフバルブ」は共に、圧力調整のために容器ごとに設けられる制御弁といえるから、どちらの「リリーフバルブ」も、フォークリフト側に設けられるリリーフ弁等の制御弁と同様、溶融金属を吐出又は導入するための容器内の加圧時に、該容器内の圧力を開放するためのものと理解できる。また、そのことは、本件発明において、搬送時の容器内の圧力開放が、該「リリーフバルブ」とは別個に、気体を通過させ、かつ、溶融金属の通過を規制する規制部材を設けて行われることからも明らかである。
そうすると、本件特許明細書の段落【0132】に記載されているリリーフバルブと同様のリリーフバルブが甲第1号証に記載されていることをもって、甲第1号証に、搬送時の容器内部の圧力が所定以上に上昇するのを防ぐという課題が示されているとはいえない。

(4)また、請求人は、同弁駁書において、甲第1号証の段落【0009】、及び参考資料13-1には、溶融金属の容器に溶融金属を入れる前に該容器内をバーナー等で予熱することが記載されており、その過剰な予熱が容器の内圧上昇の原因となるので、搬送時の容器内の圧力上昇による溶融金属の吐出を防止するという課題は、本件基準日前に認識されていた旨主張している。
しかしながら、甲第1号証及び参考資料13-1には、上記予熱を必要とする旨の記載はあるものの、その過剰な予熱が容器の内圧上昇の原因となり、搬送時の該内圧上昇により溶融金属の吐出が生じる旨の記載はないので、同記載をもって、溶融金属を密閉容器内に貯留して搬送する場合の該容器内の圧力上昇による溶融金属の吐出を防止するという課題が本件基準日前に認識されていたとすることはできない。また、他の甲号各証及び参考資料にも、密閉容器の内圧上昇による溶融金属の突然の吐出を課題として認識していたことを伺わせる記載はないので、甲第1号証記載発明の容器において、溶融金属を密閉容器内に貯留して搬送する場合の該容器の内圧上昇により溶融金属が吐出用配管から不意に吐出しないようにすることが課題として認識されていたとはいえないし、ましてや、該容器の貫通孔から溶融金属が漏れ出ないように塞ぐと同時に、該容器の内圧上昇により溶融金属が吐出用配管から不意に吐出しないようにすることが課題として認識されていたとはいえない。
また、たとえ、溶融金属供給用容器の転倒や該容器を運搬する際の揺れ等による貫通孔からの溶融金属の漏れ出しを防止することが課題として認識されるとしても、当該課題を解決するためには、該容器の貫通孔の流路を完全に塞ぐように気密に栓をすることを当業者はまず想起するものであって、甲第1号証記載発明の容器において、「気体を通過させ、かつ、溶融金属の通過を規制する規制部材」をその流路に設けることまでを想起できるものではない。
即ち、上記(2)(3)で述べたように、甲第1号証には、リリーフバルブを容器に取り付けることが記載されているものの、該リリーフバルブは、該容器の搬送時に気体のみを選択的に通過させるためのものではなく、加圧用の貫通孔から溶融金属が漏れ出ないように該貫通孔の流路を塞ぐと同時に、溶融金属の吐出用配管からの不意の吐出を防ぐためのものでもなく、該貫通孔に接続する配管に上記規制部材を着脱可能に介在させ、該配管の流路を通して搬送時の容器内で生じる内圧を低減して溶融金属の不意の吐出を防止することは、甲第1号証には記載も示唆もされていない。また、上記規制部材を溶融金属供給用容器の配管に着脱可能に介在させ、搬送中に該容器内で生じた内圧を外気に開放することは、それが本件基準日前に知られていたことを示す証拠が提示されておらず、本件基準日前に公知の技術であったとは認められないことに加えて、上述したように、甲第1号証記載発明の容器において、溶融金属を貯留して搬送する場合の該容器の貫通孔から溶融金属が漏れ出ないように塞ぐと同時に、該容器の内圧上昇により溶融金属が吐出用配管から不意に吐出しないようにすることが課題として認識されていないのであるから、甲第1号証記載発明の容器において、溶融金属を貯留して搬送する場合の該容器の加圧用の貫通孔に接続する配管に上記規制部材を着脱可能に介在させることを動機付けることはできず、該規制部材の介在により該容器の内圧を開放して溶融金属の不意の吐出を防止することは、甲第1号証の記載からは導き出せない。

(5)甲第2号証には、溶融金属をサイフォン効果を利用して移送する装置において、移送装置に設けられた減圧用パイプや大気開放用パイプの上端に焼結ベントを設けることにより、移湯初期の減圧時及び移湯終了の大気開放時に溶融金属が流路を通じて外部へ流出することを防止する技術が開示されているが、上記減圧用パイプや大気開放用パイプは、溶融金属を貯留して搬送する場合の容器に接続されるものではなく、上記焼結ベントは、該容器内で生じた内圧を開放するためのものではない。また、上記焼結ベントによる溶融金属の外部への流出を防止する時間は、移湯初期の減圧時又は移湯終了の大気開放時の僅かな時間に限られる。
これに対し、本件発明1では、上記規制部材を、容器の加圧用の貫通孔に通じる流路の配管に着脱可能に介在させることで、該容器の搬送中を通して、溶融金属と接触しても、溶融金属を通過させず、溶融金属が気体の通路を塞ぐことなく、該容器内を外気と連通する状態に保持でき、該容器の内圧を溶融金属の不意の吐出がないように低減し得るものであるから、該規制部材と上記焼結ベントの使用目的、機能は異なるものといえる。

請求人は、「加圧式取鍋においては、『・・・圧力開放用の貫通孔68が設けられ、圧力開放用の貫通孔68には、リリーフバルブ(図示を省略)が取り付けられるようになっている。これにより、例えば容器100内が所定の圧力以上となったときには安全性の観点から容器100が大気圧に開放されるようになっている。』(甲第1号証の段落【0058】)として、容器内が所定の圧力以上となり、溶融金属が外部に流出する可能性のあることは知られていた(加圧式取鍋であるから、内部の圧力が高まると、当然、溶融金属が第1の流路等から外部に流出される。)
言い換えれば、甲2考案の焼結ベントを適用する動機付けがある。」(審判請求書21頁17?25行)と主張する。
しかしながら、甲第1号証における当該記載が、単に溶融金属を吐出させるために容器内を加圧した際に、容器内の圧力が通常の圧力を超える異常な圧力となる可能性について記載されているものと解されることは、上記(2)(3)で述べたとおりである。
また、たとえ、容器内を加圧していない場合における容器内の不測の圧力上昇により、該容器の吐出用配管から外部へ溶融金属が不意に吐出することが示唆されるとしても、当該示唆に基づけば、容器内が所定の圧力以上とならないように加圧用の流路を弁の開閉により制御することや、溶融金属の流出を防ぐために吐出用配管を塞ぐことを、当業者はまず想起するものである。
そして、上記(4)で述べたように、甲第1号証記載発明の容器において、溶融金属を貯留して搬送する場合の該容器の内圧上昇により溶融金属が吐出用配管から不意に吐出しないようにすることが課題として認識されていたとはいえないし、また、該容器の加圧用の貫通孔に接続する配管に、気体のみを通過させる規制部材を着脱可能に介在させ、該配管の流路を通して搬送時の容器内で生じる内圧を低減することは、甲第1号証の記載からは示唆されない。
さらに、上記焼結ベントは、上述したように、溶融金属をサイフォン効果を利用して移送する移送装置の減圧用パイプや大気開放用パイプの上端に設けられ、移湯初期の減圧時又は移湯終了の大気開放時の僅かな時間、溶融金属が外部へ流出することを防止するものであって、溶融金属を貯留して搬送する容器の配管に設けられるものではないので、該焼結ベントを、甲第1号証記載発明の容器の加圧用の貫通孔に接続する配管に着脱可能に介在させることで、該容器の搬送中を通して、溶融金属と接触しても、溶融金属を通過させず、溶融金属が気体の通路を塞ぐことなく、該容器内を外気と連通する状態に保持でき、該容器の内圧を溶融金属の不意の吐出がないように低減でき、しかも、溶融金属の貯留、搬送に支障が生じないことは、当業者が普通に予測可能なことではない。
そうすると、甲第1号証記載発明における溶融金属を貯留して搬送する場合の容器に、甲第2号証開示の上記技術を適用することを動機付けることはできず、該容器の加圧用の貫通孔に接続する配管に上記焼結ベントを介在させることは、甲第1号証及び甲第2号証の記載からは導き出せない。

(6)甲第3-1?3-4号証には、鋳造において、鋳型にガス抜き用の部材として焼結ベント等を設けることが記載されており、同記載によれば、当該焼結ベント等の部材は、鋳型に溶融金属を流入させる際に、鋳型内のガスを速やかに排出することにより、鋳造時の巣の発生を防止しようとするものであって、鋳型内のガスを透過させて速やかに排出した後、鋳型に流入してくる溶融金属を透過させず、鋳型内で全て固化させるものである。
これに対し、本件発明1における規制部材は、溶融金属を貯留して搬送する場合の容器の配管に着脱可能に設けられ、該容器の搬送中を通して、溶融金属と接触しても、溶融金属を通過させず、気体のみ通過し得る状態を保持し、該容器内で生じる内圧を開放するものであるから、両者は、使用目的、機能において異なるものといえる。
また、上記(4)で述べたように、甲第1号証記載発明の容器において、溶融金属を貯留して搬送する場合の該容器の内圧上昇により溶融金属が吐出用配管から不意に吐出しないようにすることは課題として認識されておらず、また、該容器の加圧用の貫通孔に接続する配管に、気体のみを通過させる規制部材を着脱可能に介在させ、該配管の流路を通して搬送時の容器内で生じる内圧を開放することは、甲第1号証の記載からは示唆されない。
さらに、上記焼結ベント等の部材を、気体のみを通過させる規制部材として、甲第1号証記載発明の容器の加圧用の貫通孔に接続する配管に介在させることで、該容器の搬送中を通して、溶融金属と接触しても、溶融金属を通過させず、溶融金属が気体の通路を塞ぐことなく、該容器内を外気と連通する状態に保持でき、該容器の内圧を溶融金属の不意の吐出がないように低減でき、しかも、溶融金属の貯留、搬送に支障を生じないことは、当業者が普通に予測可能なことではない。
してみれば、甲第1号証記載発明における溶融金属を貯留して搬送する場合の容器に、甲第第3-1?3-4号証開示の上記技術を適用することは動機付けられず、該容器の加圧用の貫通孔に接続する配管に上記焼結ベント等の部材を介在させることは、甲第1号証及び甲第第3-1?3-4号証の記載からは導き出せない。

(7)つぎに、参考資料6、参考資料7-1?7-2、参考資料10、参考資料11-1?11-6には、種々の液体を収容する容器において、収容された液体が横転等で漏れないようにするとともに、容器内の圧力等が変動する場合は、外部との気体の流通を可能にし、容器内部を液密状態にするため、多孔質フイルムや多孔質材を用いることが記載されている。
しかしながら、参考資料6、参考資料7-1?7-2、参考資料10、参考資料11-1?11-6に記載の技術は、液体を収容する容器ではあるものの、各収容する液体は、液化天然ガス等(参考資料6)、燃料(参考資料7-1)、ガソリン(参考資料7-2)、過酸化水素水(参考資料10)、ガスを発生する活性酒(参考資料11-1)、気化性の液体(参考資料11-2)、石油、塗料、飲料等(参考資料11-3)、揮発性の液体(参考資料11-4)、気化性液体(参考資料11-5)、燃料(参考資料11-6)と、いずれも常温以下の液体であり、溶融金属のような高温液体の容器における高温液体の漏れ出しを防ぎ、高温を保持しつつ内圧の開放を意図したものではなく、外部との気体の流通を可能にし、容器内部を液密状態にするための機構について、溶融金属を貯留して搬送する容器に適用する示唆もない。
他方、甲第1号証記載発明は、高温の溶融金属を貯留し、熱の放散や該溶融金属の固化、固着を防ぎつつ搬送する容器であるから、該参考資料6、参考資料7-1?7-2、参考資料10、参考資料11-1?11-6に記載の容器とは構造、使用目的、使用条件等が全く異なる上、上記(4)で述べたように、甲第1号証記載発明の容器において、溶融金属を貯留して搬送する場合の該容器の内圧上昇により溶融金属が吐出用配管から不意に吐出しないようにすることは課題として認識されておらず、また、該容器の加圧用の貫通孔に接続する配管に、気体のみを通過させる規制部材を着脱可能に介在させ、該配管の流路を通して搬送時の容器内で生じる内圧を低減することは、甲第1号証の記載からは示唆されない。
また、上記(5)(6)で述べたように、甲第2号証に記載される減圧用パイプや大気開放用パイプに設けられる焼結ベント、甲第3-1?3-4号証に記載される鋳型の焼結ベント等の部材を、溶融金属を貯留して搬送する場合の容器の加圧用の貫通孔に接続する配管に、気体のみを通過させる規制部材として介在させることは、上記甲号各証の記載により動機付けられず、また、上記各参考資料に記載された周知技術は、上述したように、常温以下の液体の容器についてのものであり、溶融金属を貯留して搬送する場合の容器に適用する示唆はないので、該周知技術を参酌しても、上記焼結ベント、焼結ベント等の部材を該容器の加圧用の貫通孔に接続する配管に上記規制部材として介在させることは、上記甲号各証の記載からは導き出せない。
さらに、上記の規制部材の介在により、該容器の搬送中を通して、溶融金属と接触しても、溶融金属を通過させず、溶融金属が気体の通路を塞ぐことなく、該容器内を外気と連通する状態に保持でき、該容器の内圧を溶融金属の不意の吐出がないように低減でき、しかも、溶融金属の貯留、搬送に支障が生じないことは、当業者が普通に予測可能なことではない。

(8)以上によれば、甲第1号証記載発明における、溶融金属を貯留して搬送する場合の容器の加圧用の貫通孔に接続する配管に、気体のみを通過させ、かつ、溶融金属の通過を規制する規制手段を着脱可能に介在させることを動機付けるものはなく、上記甲号各証に記載された発明及び上記各参考資料記載の周知技術を寄せ集めても、上記の配管に当該規制部材を着脱可能に介在させることを当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

そして、本件発明1は、上記相違点1に係る構成を具備することにより、搬送中の溶融金属が漏れ出ないように貫通孔を塞ぐことができ、しかも配管から不意に溶融金属が吐出する事態を防止することができるという、本件明細書記載の効果を奏するものである。

以上の通りであるから、本件発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく、甲第1号証?甲第4-2号証に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明とすることはできない。

3.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2は、本件発明1と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができた発明とすることはできない。

4.本件発明3について
本件発明3と甲第1号証記載発明とを対比すると、以下の点で相違する。

相違点3:本件発明3では、「貫通孔に通じる第2の流路に介在され、気体を通過させ、かつ、溶融金属の通過を規制する規制部材と、前記貫通孔に対して着脱自在で、前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記規制部材の介在により前記貫通孔を塞ぐ栓」を具備するのに対し、甲第1号証記載発明では、当該構成を有さない点

そこで、上記相違点について検討するに、甲第2号証には、溶融金属をサイフォン効果を利用して移送する装置において、移送装置に設けられた減圧用パイプや大気開放用パイプに焼結ベントを設けることが記載され、また、甲第3-1?3-4号証には、鋳造において、鋳型にガス抜き用の部材として焼結ベント等を設けることが記載され、さらに、上記各参考資料に記載されるように、常温以下の温度で運搬される種々の液体を収容する容器において、多孔質フイルムや多孔質材を用いて外部との気体の流通を可能にし、容器内部を液密状態にすることが知られているものの、甲第1号証記載発明の容器の搬送時に、該容器の加圧用の貫通孔に接続される配管に上記焼結ベント等の規制部材を介在させることを当業者が容易に想到できないことは、上記2.で述べたとおりである。そして、上記の規制部材を、上記貫通孔に接続される配管に介在させることと該貫通孔を塞ぐ栓に介在させることとに格別な差異はない。
そうすると、甲第1号証記載発明の容器の搬送時に、該容器の加圧用の貫通孔に接続される配管に上記規制部材を介在させることと同様、該貫通孔を塞ぐ栓に同規制部材を介在させることも、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明3は、搬送時の上記容器の貫通孔に上記規制部材を介在させて該貫通孔を塞ぐ栓を設けること、即ち、「気体を通過させ、かつ、溶融金属の通過を規制する規制部材と、前記貫通孔に対して着脱自在で、前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記規制部材の介在により前記貫通孔を塞ぐ栓」を具備することにより、溶融金属が漏れ出ないように貫通孔を塞ぐことができ、しかも配管から不意に溶融金属が吐出する事態を防止するという、本件特許明細書記載の効果を奏するものといえる。
したがって、本件発明3は、本件発明1と同じく、甲第1号証?甲第4-2号証に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明とすることはできない。

5.本件発明4について
本件発明4と甲第1号証記載発明とを対比すると、以下の点で相違する。

相違点4:本件発明4では、「貫通孔に通じる第2の流路に介在され、気体を通過させ、かつ、溶融金属の通過を規制する規制部材と」、「前記規制部材が介在され、前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記規制部材の介在により前記貫通孔に通じる第2の流路を塞ぐ着脱可能な栓」を具備するのに対し、甲第1号証記載発明においては、当該構成を有さない点

相違点5:本件発明4では、栓を着脱可能にするために、「前記貫通孔に取り付けられ、カプラを構成するプラグと、前記カプラを構成するソケット」を有するのに対し、甲第1号証記載発明では、当該構成を有さない点

そこで、上記相違点について検討するに、相違点4は、相違点1と表現ぶりは異なるものの、実質的に同じものであるから、上記2.で検討したとおり、本件発明1と同様の理由により、本件発明4は、当業者が容易に発明をすることができた発明とすることはできない。

6.本件発明6について
本件発明6と甲第1号証記載発明とを対比すると、以下の点で相違する。

相違点6:本件発明6では、「貫通孔に、前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記貫通孔を塞ぎ、気体を通過させ、かつ、前記溶融金属の流通を規制するように設けられた着脱可能な規制部材」を具備するのに対し、甲第1号証記載発明では、当該構成について記載がない点。

そこで、上記相違点について検討するに、甲第2号証には、溶融金属をサイフォン効果を利用して移送する装置において、移送装置に設けられた減圧用パイプや大気開放用パイプに焼結ベントを設けることが記載され、また、甲第3-1?3-4号証には、鋳造において、鋳型にガス抜き用の部材として焼結ベント等を設けることが記載され、さらに、上記各参考資料に記載されるように、常温以下の温度で運搬される種々の液体を収容する容器において、多孔質フイルムや多孔質材を用いて外部との気体の流通を可能にし、容器内部を液密状態にすることが知られているものの、甲第1号証記載発明の容器の搬送時に、該容器の加圧用の貫通孔に接続される配管に上記焼結ベント等の規制部材を介在させることを当業者が容易に想到できないことは、上記2.で述べたとおりである。そして、上記の規制部材を、上記貫通孔に接続される配管に介在させることと該貫通孔に設けることとに格別な差異はない。
そうすると、甲第1号証記載発明の容器の搬送時に、該容器の加圧用の貫通孔に接続される配管に上記規制部材を介在させることと同様、該貫通孔に同規制部材を設けることも、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明6は、上記容器の貫通孔に上記規制部材を設けること、即ち、「貫通孔に、前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記貫通孔を塞ぎ、気体を通過させ、かつ、前記溶融金属の流通を規制するように設けられた着脱可能な規制部材」を具備することで、溶融金属が漏れ出ないように貫通孔を塞ぐことができ、しかも配管から不意に溶融金属が吐出する事態を防止するという、本件特許明細書記載の効果を奏するものといえる。
したがって、本件発明6は、本件発明1と同じく、甲第1号証?甲第4-2号証に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明とすることはできない。

7.本件発明7について
本件発明7と甲第1号証記載発明とを対比すると、以下の点で相違する。

相違点7:本件発明7では、「圧力開放管に、前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記圧力開放管を塞ぎ、気体を通過させ、かつ、前記溶融金属の流通を規制するように設けられた着脱可能な規制部材」を具備するのに対し、甲第1号証記載発明では、当該構成について記載がない点。

そこで、上記相違点について検討するに、本件発明7における「圧力開放管」は、本件発明1における「貫通孔に通じる第2の流路」に該当し、また、本件発明7における「圧力開放管を塞ぎ、・・・溶融金属の流通を規制するように設けられた着脱可能な規制部材」は、溶融金属の容器の栓を構成するといえるので、相違点7は、相違点1と表現ぶりは異なるものの、実質的に同じものであるから、上記2.で検討したとおり、本件発明1と同様の理由により、本件発明7は、当業者が容易に発明をすることができた発明とすることはできない。

8.本件発明8について
本件発明8は、本件発明6における容器の規制部材を具備した部分に着目し、当該部分の構成を「安全装置」の発明として特定したものであるから、甲第1号証記載発明に対し、先の相違点6と同様の相違点を有する。
したがって、本件発明8は、上記6.で検討したとおり、本件発明6と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができた発明とすることはできない。

9.本件発明9、10について
本件発明9、10は、本件発明8の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明9、10は、本件発明8と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができた発明とすることはできない。

10.本件発明12について
本件発明12と甲第1号証記載発明とを対比する。
甲第1号証の「溶融金属を貯留して搬送する」ことの態様には、溶融金属を収容して第1の工場から第2の工場へ搬送することが含まれるから、本件発明12と甲第1号証記載発明とは、「容器内の加圧を行うための貫通孔が上部に設けられ、溶融金属を収容して第1の工場から第2の工場へ搬送するための容器」で一致し、以下の点で相違する。

相違点8:本件発明12は、上記容器の貫通孔に取り付けられる、「内圧を逃がすことができ・・・る前記貫通孔に取り付けられる安全保持用栓であって、前記貫通孔に通じる配管と、前記配管内に充填され、気体を通過させ、かつ、溶融金属の通過を規制する規制部材とを具備し、前記容器に溶融金属を貯留して搬送する場合には前記貫通孔に着脱可能に取り付けられる・・・安全保持用栓」であるのに対し、甲第1号証記載発明では、当該栓についての構成が記載されていない点

そこで、上記相違点について検討する。
相違点8は、先の相違点3における「栓」を「安全保持用栓」と表現したものであって、表現ぶりは異なるものの、当該相違点3と実質上同じものであるから、本件発明12は、上記4.で検討したとおり、本件発明3と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができた発明とすることはできない。

11.本件発明13?15について
本件発明13?15は、本件発明12の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明13?15は、本件発明12と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができた発明とすることはできない

第7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠によっては、本件請求項1?4、請求項6?10、請求項12?15に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-02-13 
結審通知日 2008-02-15 
審決日 2008-03-06 
出願番号 特願2003-45184(P2003-45184)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (B22D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中澤 登  
特許庁審判長 綿谷 晶廣
特許庁審判官 國方 康伸
市川 裕司
登録日 2003-11-14 
登録番号 特許第3492677号(P3492677)
発明の名称 溶融金属供給用容器及び安全装置  
代理人 大森 純一  
代理人 川田 篤  
代理人 松本 司  
代理人 折居 章  
代理人 田上 洋平  
代理人 森脇 正志  
代理人 竹田 稔  
代理人 森 義明  
代理人 松本 尚子  
代理人 眞下 晋一  
代理人 三枝 英二  

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