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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A63B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63B |
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管理番号 | 1229645 |
審判番号 | 不服2008-18030 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-07-14 |
確定日 | 2011-01-04 |
事件の表示 | 特願2003-539785「DVTを予防する運動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月 8日国際公開、WO03/37446、平成17年 3月17日国内公表、特表2005-507292〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I 手続の経緯 本願は、日本国を指定国として、パリ条約に基づく優先権主張(英国、優先権主張の日平成13年10月31日)を伴って、平成14年10月31日に出願された国際出願であって、本願について、平成19年9月4日付け拒絶理由通知によって拒絶理由が通知され、それに対して平成20年2月8日付けで意見書ならびに手続補正書が提出されたものの、同年4月9日付けで拒絶査定がなされた。 本件審判は、前記拒絶査定を不服として、平成20年7月14日に請求された拒絶査定不服審判であって、同年8月13日付けで手続補正がなされている。 その後、当審において平成21年11月19日付けで審尋がなされ、平成22年5月24日付けで回答書が提出されている。 II 平成20年8月13日付け手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 平成20年8月13日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 〔理由〕 1.本件補正の目的 本件補正は、特許請求の範囲および明細書を補正するものであって、その補正は、補正前(平成20年2月8日付け手続補正によって補正。以下、同じ。)の請求項1の、 「【請求項1】 足を持ち上げ、且ついずれかの方向において揺り動かされる際に足首に回転を与えるよう、前記足の中間部の下方において使用する、運動装置であって、 ユーザの前記足の前記中間部に接触する第1の面と、床面に接触する第2の面とを有する、固体又は中空の本体を有し、 当該運動装置の外形は、実質的に対称の楕円、非対称の楕円、卵形、前記第1の面及び前記第2の面が曲線を描く長楕円形、又は、前記第1の面及び第2の面が曲線を描く縁が丸められた多角形に対応し、 前記第1の面及び前記第2の面は、前記第2の面を床面上で揺り動かすことによって、前記第1の面の少なくとも一部が前記床面に対し上がるよう構成され、 前記第1の面及び前記第2の面は、握りを向上するようテクスチャード加工され、また、曲線を描く前記第1の面及び前記第2の面は、実質的に同一の形状を有して、前記装置がいずれかの面を床又は前記足と接触させて用いられ得るようにする、 ことを特徴とする運動装置。」 なる記載を、 「【請求項1】 足を持ち上げ且ついずれかの方向において揺り動かされる際に足首に回転を与えるよう前記足の中間部の下方において使用され、また、腓筋を収縮及び弛緩させ得る、運動装置であって、 ユーザの前記足の前記中間部に接触する第1の面と、床面に接触する第2の面とを有する、固体又は中空の本体を有し、 当該運動装置の外形は、実質的に対称の楕円、非対称の楕円、卵形、前記第1の面及び前記第2の面が曲線を描く長楕円形、又は、前記第1の面及び第2の面が曲線を描く縁が丸められた多角形に対応し、 前記第1の面及び前記第2の面は、前記第2の面を床面上で揺り動かすことによって、前記第1の面の少なくとも一部が前記床面に対し上がるよう構成され、 前記第1の面及び前記第2の面は、握りを向上するようテクスチャード加工され、また、曲線を描く前記第1の面及び前記第2の面は、実質的に同一の形状を有して、前記装置がいずれかの面を床又は前記足と接触させて用いられ得るようにし、足接触領域における当該装置の断面は、50乃至150mmの範囲にある最大寸法を有し、 当該装置は、成人の少なくとも脚の重量に耐えることができるよう十分な強度を有する、 ことを特徴とする運動装置。」 とする補正を含むものである。 ここで、当該補正は、補正前の請求項1の「運動装置」について、「腓筋を収縮および弛緩させ得る」と作用に関する限定を加え、補正前の請求項1の「装置」について、「足接触領域における当該装置の断面は、50乃至150mmの範囲にある最大寸法を有」するという限定、「成人の少なくとも脚の重量に耐えることができるよう十分な強度を有する」という限定を加えたものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下、単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。 そこで、本件補正後の請求項1に記載されている発明特定事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか否かについて、以下に検討する。 2.本件補正発明 本件補正発明は、上記「1.」に記載した本件補正後の請求項1記載のとおりのものである。 3.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、実願昭47-112440号(実開昭49-69589号)のマイクロフィルム(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の技術的事項の記載がある(下線は当審で付した)。なお、原文のまる1?まる2は、「(1)」?「(2)」で代用した。 a.明細書第1ページ第9行目?第2ページ第5行目 「3.考案の詳細な説明 足の裏(土ふまず)を刺激すると健康によいということは古来の青竹健康法として有名であり、現在各種の土ふまず用指圧器が市販されている。本考案はそれらを改良したものであつて、上下両面が使えるとともに強弱の使いわけができ、さらに土ふまずによくフィットするようにテーパーをつけたものである。なお本考案は片足づつ一対(2個一組)で使用する。 図において説明すれば、大きい曲率半径を有する曲面1と小さい曲率半径を有する曲面2を上下に対向させるとともに一端4を他端3より低くして、テーパーを有し、断面が貝がら状の変形円の円柱体を形成したものである。横幅は足の幅と同じ程度にする。」 b.明細書第2ページ第11?17行目 「本考案の構造、形状によつて次のような効果が生じた。 ・二つの曲面を有することによつて (1)強弱の使いわけができる (Rの大きい曲面1が強、小さい曲面2が弱) (2)矢印のように前後にローリングできる。 (一枚歯下駄の原理で足首の鍛錬によい)」 c.第1?5図 〔摘記事項からの認定事項〕 上記摘記事項b.の「(2)矢印のように前後にローリングできる。」という記載および上記摘記事項c.における第3図の図示内容(第3図に前記「矢印」は明示されていないが、技術常識を参酌すれば、前記「前後にローリング」が、第3図の足5の指先側とかかと側の「前後」の方向で「ローリング」することを意味するのは明らかである。)からして、引用例には、足の土ふまずを乗せた状態で土ふまず用指圧器を前後にローリングさせることが示されている。 また、第3図に示されているような状態で前後にローリングすると、曲面2は床面に対して揺動し、曲面1の一部は床面に対して持ち上がることも明らかである。 さらに、第3図等に図示されているように、土ふまず用指圧器には使用者の脚が乗せられて使用されるから、当該土ふまず用指圧器は使用者の脚の荷重がかかっても壊れない程度の強度を有するものであることは明らかである。 これらの記載事項および認定事項からして、引用例1には、 「足の土ふまずを乗せた状態で前後にローリングできる土ふまず用指圧器であって、 大きい曲率半径を有する曲面1と、小さい曲率半径を有する曲面2とを有する円柱体を有し、 円柱体の断面は貝がら状の変形円となっており、 前後にローリングすると、曲面2は床面に対して揺動し、曲面1の一部は床面に対して持ち上がり、 上下両面が使え、曲面1または曲面2のどちらかの面に足の土ふまずを乗せて用いられ、 使用者の脚の荷重に耐える強度を有する土ふまず用指圧器。」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 4.本件補正発明と引用発明との対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 なお、本件補正発明において、「当該運動装置の外形は、実質的に対称の楕円、非対称の楕円、卵形、前記第1の面及び前記第2の面が曲線を描く長楕円形、又は、前記第1の面及び第2の面が曲線を描く縁が丸められた多角形に対応し」という発明特定事項の意味は必ずしも明りょうであるとはいえないが、本願の明細書中の記載を参酌すると、上記発明特定事項は、「当該運動装置」の「本体」の断面形状が、「実質的に対称の楕円、非対称の楕円、卵形」、「長楕円形」、又は、「縁が丸められた多角形」に対応するという程度の意味であると認められる。 <対応関係A> 引用発明の「土ふまず用指圧器」は、足の土ふまずを乗せた状態で使用される、すなわち、足の中間部に位置する土ふまずの下方において使用されるものであり、足を乗せた状態で前後にローリングするものであるから、技術常識を踏まえると、前後のローリング時には足首に回転が生じるものである。 そうすると、引用発明の「足の土ふまずを乗せた状態で前後にローリングできる土ふまず用指圧器」は、本件補正発明の「足を持ち上げ且ついずれかの方向において揺り動かされる際に足首に回転を与えるよう前記足の中間部の下方において使用され、また、腓筋を収縮及び弛緩させ得る、運動装置」と、「足を持ち上げ且ついずれかの方向において揺り動かされる際に足首に回転を与えるよう前記足の中間部の下方において使用される運動装置」である点で共通する。 <対応関係B> 引用発明の「円柱体」は「大きい曲率半径を有する曲面1と、小さい曲率半径を有する曲面2」とを有し、かつ、その「上下両面が使え、曲面1または曲面2のどちらかの面に足の土ふまずを乗せて」用いられるものである。 また、当該「円柱体」は固体であることは明らかである。 そうすると、引用発明の「大きい曲率半径を有する曲面1と、小さい曲率半径を有する曲面2とを有する円柱体」は、本件補正発明の「ユーザの前記足の前記中間部に接触する第1の面と、床面に接触する第2の面とを有する、固体・・・の本体」に相当する。 <対応関係C> 引用発明の「円柱体の断面は貝がら状の変形円」であることと、本件補正発明の「運動装置の外形は、実質的に対称の楕円、非対称の楕円、卵形、前記第1の面及び前記第2の面が曲線を描く長楕円形、又は、前記第1の面及び第2の面が曲線を描く縁が丸められた多角形に対応」することとは、「運動装置の本体の断面形状が、真円とは異なる形状に対応」する点で共通する。 <対応関係D> 引用発明の「前後にローリングすると、曲面2は床面に対して揺動し、曲面1の一部は床面に対して持ち上が」ることは、本件補正発明の「前記第1の面及び前記第2の面は、前記第2の面を床面上で揺り動かすことによって、前記第1の面の少なくとも一部が前記床面に対し上がるよう構成」されていることに相当する。 <対応関係E> 引用発明の「上下両面が使え、曲面1または曲面2のどちらかの面に足の土ふまずを乗せて用い」ることと、本件補正発明の「曲線を描く前記第1の面及び前記第2の面は、実質的に同一の形状を有して、前記装置がいずれかの面を床又は前記足と接触させて用いられ得るようにし」ていることとは、「曲線を描く前記第1の面及び前記第2の面は、前記装置がいずれかの面を床又は前記足と接触させて用いられ得るようにし」ている点で共通する。 <対応関係F> 引用発明の「土ふまず用指圧器」が「使用者の脚の荷重に耐える強度を有する」ことは、本件補正発明の「当該装置は、成人の少なくとも脚の重量に耐えることができるよう十分な強度を有する」ことに相当する。 以上の対応関係からして、本件補正発明と引用発明とは、 「足を持ち上げ且ついずれかの方向において揺り動かされる際に足首に回転を与えるよう前記足の中間部の下方において使用される運動装置であって、 ユーザの前記足の前記中間部に接触する第1の面と、床面に接触する第2の面とを有する、固体の本体を有し、 当該運動装置の本体の断面形状が、真円とは異なる形状に対応し、 前記第1の面及び前記第2の面は、前記第2の面を床面上で揺り動かすことによって、前記第1の面の少なくとも一部が前記床面に対し上がるよう構成され、 曲線を描く前記第1の面及び前記第2の面は、前記装置がいずれかの面を床又は前記足と接触させて用いられ得るようにし、 当該装置は、成人の少なくとも脚の重量に耐えることができるよう十分な強度を有する運動装置。」 の点で一致し、以下の相違点1?5の点で相違する。 (相違点1) 「運動装置」の作用に関して、本件補正発明では、「運動装置」が「腓筋を収縮及び弛緩させ得る」という作用を奏するのに対して、引用発明は当該作用を奏するのか否かが明確ではない点。 (相違点2) 「運動装置の本体の断面形状」に関して、本件補正発明では、「実質的に対称の楕円、非対称の楕円、卵形」、「長楕円形」、又は、「縁が丸められた多角形」に対応するのに対して、引用発明は「貝がら状の変形円」に対応する点。 (相違点3) 「第1の面」と「第2の面」の表面について、本件補正発明では、「握りを向上するようテクスチャード加工」されるものであるのに対して、引用発明はそのような加工が施されていない点。 (相違点4) 「第1の面」と「第2の面」の形状に関して、本件補正発明では、「実質的に同一の形状」を有しているのに対して、引用発明はそのような形状になっていない点。 (相違点5) 「足接触領域における当該装置の断面」の寸法に関して、本件補正発明では、「50乃至150mmの範囲にある最大寸法を有し」ているのに対して、引用発明はそのような限定事項を有さない点。 5.検討・判断 上記各相違点について検討する。 (1)相違点1について 引用発明において、土ふまず用指圧器に足を乗せて前後にローリングした場合、人間の脚部の構造からして、その前後のローリング運動およびそれに伴う足首の回転や足の上下運動のために腓筋が使用されることになるから、その腓筋の使用に応じて、「腓筋を収縮及び弛緩」することは明らかであるので、この点は実質的には相違点ではない。 なお、足を運動具に乗せて前後のローリングを伴う運動を行うと、脚部の腓腹筋(腓筋)の疲労回復効果があることはよく知られており(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である実願昭55-15536号(実開昭56-118668号)のマイクロフィルム、明細書第2ページ第14?19行目「第2図は第1図例の使用法の一例を示したものである。・・・(中略)・・・その面2に使用者が両足6を揃えて載り、円曲状の面3の前後ローリングを行なうのである。このような運動は脚部の下肢筋殊に腓腹筋の疲労の回復に役立つ。」の記載等を参照されたい。)、技術常識を踏まえると、当該疲労回復効果は、前後ローリングにより腓腹筋に収縮および弛緩させる作用を生じさせたことによる血流の増加効果に起因すると考えられ、同種の運動である引用発明における前後のローリングを伴う運動においても同種の作用・効果が奏されることは明らかである。 (2)相違点2について 引用発明において、二つの曲面1,2は異なる曲率半径を有するものであるが、円柱体の断面の形状は特定の形状に限定されるものではないので、断面の形状は土ふまず指圧器としての機能を阻害しない範囲内で当業者が適宜に定め得る設計的事項である。 そうすると、引用発明の「円柱体の断面」の「貝がら状の変形円」という形状を楕円や卵形等の形状に変更することで相違点2に係る構成を得ることは、当業者にとって格別の創意を必要とすることではない。 なお、ここでは一応の相違点として判断を行ったが、引用発明の「円柱体の断面」の「貝がら状の変形円」は、曲率の異なる曲面を構成する曲線を上下に組み合わせて得られるものなので上下非対称なものであり、かつ、円は楕円の2つの焦点が一致した場合のものであって、楕円の一種であるから、当該「貝がら状の変形円」は「非対称な楕円」形状に該当するといえる。 そうしてみると、引用発明の「円柱体の断面」の「貝がら状の変形円」は、本件補正発明における「非対称な楕円」に相当するので、この解釈の下では、この点は実質的には相違点ではない。 (3)相違点3について 足を乗せて用いる運動装置の技術分野において、足を乗せる面に滑り止め効果のある形状加工を施すことは、周知の技術である。例えば、特開昭62-101265号公報(第3ページ右上欄第20行目?同ページ左下欄第3行目の記載参照。)、特開平10-295847号公報(【0008】の記載参照。)、特開2001-170207号公報(【0036】の記載参照。)等を参照されたい。 そして、引用発明の土ふまず用指圧器は足を乗せて前後にローリングさせるものであるから、足を乗せて運動を行う運動具の一種であるので、上記周知の滑り止め効果のある形状加工を施す技術を付加することは、当業者にとって格別の創意を必要とすることではない。 そうすると、引用発明において、足を乗せる円柱体の曲面1,2に上記周知の滑り止め効果のある形状加工を施す技術を付加することで相違点3に係る構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。 (4)相違点4について 引用発明において、円柱体の曲面1と曲面2とで曲率半径が異なるのは、強弱の使いわけができるようにするためのものであるが、この構成は土ふまず用指圧器としての本来の指圧機能や前後にローリングするために必須のものではなく、指圧の強度を二通りにするための付加的技術であることは、当業者にとって明らかなことである。 そうしてみると、使用者が本来の指圧機能や前後にローリングする運動は所望するが、指圧の強弱の使いわけは必要としない場合等、曲面1と曲面2の曲率半径を等しくして両者を同一の形状とすることは、用途に応じた設計変更に過ぎず、当業者にとって格別の創意を必要としないことである。 また、製造コストを引き下げるため、円柱体の成形が容易となるように、曲面1と曲面2を同一の形状とすること等も、当業者が所与の条件に応じて適宜になし得る設計変更に過ぎず、当業者にとって格別の創意を必要としないことである。 さらに、引用発明の土ふまず用指圧器は、本来、上下両面が使え、円柱体の曲面1または曲面2のどちらかの面に足の土ふまずを乗せて用いることができるから、曲面1と曲面2を同一の形状としたことによって格別の技術的効果が奏されることもない。請求人はこの点に関して、平成22年5月24日付け回答書において、引用発明で曲面1と曲面2とを同一の形状とした場合、所望する運動効果を得られないものがある、例えば、純粋な円形断面は偏心をもたらさず、所望する運動効果を得られないという趣旨の主張をしているが、純粋な円形断面であっても、足の土踏まずを円柱体に乗せた状態で前後にローリングすれば、円柱体のローリングに応じて、足のかかとやつま先の上下動を伴う動きが生じるから、必然的に腓筋の収縮および弛緩という作用が生じて血流増大効果が奏されるので当該主張は妥当なものではない。また、請求人は同回答書において、曲率半径の大きい曲面とした場合には厚さが大変薄くなると主張しているが、引用発明は土ふまず用指圧器であるから、技術常識からして、指圧効果のために必要な厚さを確保する必要があるので、請求人が想定するような「大変薄い厚さ」の採用は、引用発明の技術的範囲を逸脱することになるため、当該主張も妥当なものではない。 したがって、用途や所与の条件に応じた設計変更を行い、引用発明の円柱体の曲面1と曲面2を同一の形状とすることにより、相違点4に係る構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。 なお、ここでは一応の相違点として判断を行ったが、本件補正発明において、「曲線を描く前記第1の面及び前記第2の面は、実質的に同一の形状を有して」いることは、請求人が請求の理由等でも述べているように、「第1の面」および「第2の面」のどちらを床または足と接触させても、本件補正発明の運動装置が使用可能であるようにするための構成である。 また、「実質的に同一」とは、完全に同一ではなくても、同一である場合と同様の特性・傾向を示し同一とみなせるものは包含する概念である。 つまり、本件補正発明における「実質的に同一の形状」は、完全に同一の形状であるものだけではなく、「第1の面」および「第2の面」のどちらを床または足と接触させても運動装置が使用可能である範囲内で多少形状に相違があるものを包含していると解釈できる。 そして、引用発明の土ふまず用指圧器は、本来、上下両面が使え、円柱体の曲面1または曲面2のどちらかの面に足の土ふまずを乗せて用いられるものであり、かつ、曲面1と曲面2とは、曲率半径こそ異なるが類似形状の曲面で構成されるものであるから、曲面1と曲面2の形状は、そのどちらを床または足と接触させても土ふまず用指圧器が使用可能である範囲になっているので、本件補正発明における技術的意味で「実質的に同一の形状」となっているといえる。 そうしてみると、この解釈の下では、この点は実質的には相違点ではない。 (5)相違点5について 引用発明において、上記摘記事項c.の第3図に示される円柱体の断面の最大寸法は、土ふまず指圧器の機能を阻害しない範囲内で当業者が適宜に定め得る設計的事項である。 また、技術常識からして、前後にローリングする運動を行う土ふまず指圧器として用いるのに適当なサイズに上限や下限があることは明らかである。 例えば、前後にローリングさせる際、最大寸法が小さすぎるとローリングしても足が動き得る範囲が狭くなるので不適当であり、最大寸法が大きすぎると足で動かすのが困難になることに加え、足との接触面積が拡がりすぎて指圧の圧力が分散してしまい、土ふまず指圧器としての本来の機能を阻害するので不適当であるから、最大寸法に上限と下限の目安を定めることは当業者であれば容易に想到することである。 さらに、その目安について、上限を50mm、下限を150mmと特定の値にしたことにより、格別の技術的効果が奏されることもない。 したがって引用発明の「円柱体」の断面の最大寸法について、上限と下限の適当な目安を設定することにより、相違点5に係る構成を得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。 そして、本件補正発明が奏する作用効果は、引用発明および周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。 よって、本件補正発明は、引用発明および周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 6.本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 III 本願発明について 1.本願発明 平成20年8月13日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成20年2月8日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 足を持ち上げ、且ついずれかの方向において揺り動かされる際に足首に回転を与えるよう、前記足の中間部の下方において使用する、運動装置であって、 ユーザの前記足の前記中間部に接触する第1の面と、床面に接触する第2の面とを有する、固体又は中空の本体を有し、 当該運動装置の外形は、実質的に対称の楕円、非対称の楕円、卵形、前記第1の面及び前記第2の面が曲線を描く長楕円形、又は、前記第1の面及び第2の面が曲線を描く縁が丸められた多角形に対応し、 前記第1の面及び前記第2の面は、前記第2の面を床面上で揺り動かすことによって、前記第1の面の少なくとも一部が前記床面に対し上がるよう構成され、 前記第1の面及び前記第2の面は、握りを向上するようテクスチャード加工され、また、曲線を描く前記第1の面及び前記第2の面は、実質的に同一の形状を有して、前記装置がいずれかの面を床又は前記足と接触させて用いられ得るようにする、 ことを特徴とする運動装置。」 2.引用例 原査定の拒絶の理由で引用された引用例およびその記載事項は、上記「II 〔理由〕 3.引用例」に記載したとおりである。 3.本願発明と引用発明との対比、検討・判断 本願発明は、本件補正発明の発明特定事項において、「運動装置」についての「腓筋を収縮および弛緩させ得る」という作用に関する限定的事項を省き、「装置」についての「足接触領域における当該装置の断面は、50乃至150mmの範囲にある最大寸法を有」するという限定的事項を省き、「装置」についての「成人の少なくとも脚の重量に耐えることができるよう十分な強度を有する」という限定的事項を省いたものに相当する。 そして、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を追加したものに相当する本件補正発明は、上記「II 〔理由〕 5.検討・判断」に記載したとおり、引用発明および周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 してみると、本件補正発明から追加的な発明特定事項を省いた本願発明も同様の理由により、引用発明および周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-08-02 |
結審通知日 | 2010-08-03 |
審決日 | 2010-08-16 |
出願番号 | 特願2003-539785(P2003-539785) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A63B)
P 1 8・ 572- Z (A63B) P 1 8・ 121- Z (A63B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中澤 真吾 |
特許庁審判長 |
北川 清伸 |
特許庁審判官 |
村田 尚英 橋本 直明 |
発明の名称 | DVTを予防する運動装置 |
代理人 | 伊東 忠彦 |