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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効2010800079 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 B65D 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 B65D 審判 全部無効 特29条の2 B65D |
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管理番号 | 1229672 |
審判番号 | 無効2009-800050 |
総通号数 | 134 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-02-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2009-02-27 |
確定日 | 2011-01-04 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3333151号「折畳コンテナ」の特許無効審判事件についてされた平成21年9月29日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において、審決を取り消す旨の判決(平成21年(行ケ)第10352号 平成22年2月25日判決言渡)がされ、この判決が確定したので、本件特許無効審判事件についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件特許第3333151号は、平成5年1月12日に出願した特願平5-3539号(以下、「原出願」という。)を、二以上の発明を包含する特許出願とし、特許法第44条第1項の規定によるものとして、平成11年8月26日に特許出願されたものであって、平成14年7月26日に、その特許権の設定登録がされ、これに対し、請求人東洋ユニコン株式会社から本件無効審判が請求されたものである。 以下に、請求以後の主な経緯を整理して示す。 平成21年2月27日付け 審判請求書の提出 平成21年5月29日付け 審判事件答弁書の提出 平成21年9月3日 第1回口頭審理の実施 平成21年9月29日付け 審決(以下、「一次審決」という。) 一次審決の結論:特許第3333151号の請求項1に係る発明につい ての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。 平成21年11月5日 被請求人による審決取消訴訟提起 平成22年2月25日 判決言渡 事件番号:平成21年(行ケ)第10352号 判決の主文:1 特許庁が無効2009-800050号事件について 平成21年9月29日にした審決を取り消す。(以下省略) 平成22年3月10日 請求人による上告提起 平成22年6月24日付け 上告を棄却する旨の最高裁判所の決定 事件番号:平成22年(行ツ)第210号 平成22年9月7日付け 通知書(審理事項通知書) 平成22年10月22日付け 口頭審理陳述要領書(第2回)の提出(請求人 より。以下、「請求人第2回陳述要領書」という。) 平成22年11月5日付け 口頭審理陳述要領書(第2回)の提出(被請求人 より。以下、「被請求人第2回陳述要領書」という。) 平成22年11月9日付け 通知書(第2回審理事項通知書) 平成22年11月16日付け 口頭審理陳述要領書(第3回)の提出(請求人 より。以下、「請求人第3回陳述要領書」という。) 平成22年11月18日 第2回口頭審理の実施 第2.請求人の主張 1.請求人は、審判請求書によれば、「本件特許である、特許請求の範囲請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の甲第1?14号証を証拠方法として提出している。また、請求人は、更に、甲第6号証に関連した以下の参考資料と、後記無効理由Fに関連した参考資料1及び参考資料2も提出している。 甲第1号証 ;特開平6-211240号公報(原出願の公開特許公報) 甲第2号証の1;特開平6-135440号公報 甲第2号証の2;特許第2594525号公報 甲第3号証 ;異議2003-70878の特許決定公報 甲第4号証の1;原出願の平成11年8月26日付け手続補足書 甲第4号証の2;上記手続補足書添付の事情説明書 甲第5号証 ;実願昭63-37653号(実開平1-141100号) のマイクロフィルム 甲第6号証 ;実願平3-89365号(実開平5-42121号)の CD-ROM 甲第7号証 ;実願昭63-5405号(実開昭63-131914号) のマイクロフィルム 甲第8号証 ;特開昭63-96031号公報 甲第9号証 ;特開平3-106641号公報 甲第10号証 ;実公平1-38027号公報 甲第11号証 ;特開平9-226758号公報 甲第12号証 ;特開2000-72141号公報 (本件出願の公開特許公報) 甲第13号証 ;特許第3333151号公報(本件出願の特許公報) 甲第14号証 ;原出願の平成11年8月26日付け手続補正書 参考資料;写真2枚 参考資料1;特開平2-500904号公報 参考資料2;実願昭61-5221号(実開昭62-118012号)の マイクロフィルム 2.請求人は、審理の全趣旨によれば、以下の無効理由E?Gを主張しているものと認める(第2回口頭審理調書参照)。 《無効理由E》本件特許発明は、甲第5号証又は甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 《無効理由F》本件特許発明は、本件出願の日前の、甲第6号証に係る出願である実願平3-89365号、の願書に最初に添附した明細書又は図面に記載された考案と同一であるから、本件特許発明の本件特許は、特許法第29条の2第1項の規定に違反してされたものである。 したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 《無効理由G》本件特許発明は、本件出願の日前の、甲第2号証の1及び2に係る出願である特願平4-308273号、の発明と同一であるから、本件特許発明の本件特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものである。 したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 第3.被請求人の主張 被請求人は、審判事件答弁書によれば、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の乙第1号証?乙第16号証を提出している。そして、審理の全趣旨によれば、無効理由E?Gに理由はないと主張している。 乙第1号証;特開平3-266630号公報 乙第2号証;特開平3-293897号公報 乙第3号証;実願平4-38773号(実開平5-95732号)のCD- ROM 乙第4号証;実願平5-57710号(実開平7-28012号)のCD- ROM 乙第5号証;特開2000-355064号公報 乙第6号証;特開2001-329635号公報 乙第7号証;特開2003-26157号公報 乙第8号証;特開2003-300575号公報 乙第9号証;特開2004-65436号公報 乙第10号証;特開2005-193919号公報 乙第11号証の1;株式会社アパックス 町野邦文が増田元昭に宛てた 平成21年5月22日付け証明願 乙第11号証の2;岐阜地方法務局中津川支局登記官 長屋芳昭 平成21 年5月22日作成の、ブラウン株式会社の印鑑証明書 乙第11号証の3;岐阜地方法務局中津川支局登記官 長屋芳昭 平成21 年5月22日作成の、ブラウン株式会社の現在事項全部証明書 乙第12号証;株式会社一六銀行恵那支店の増田元昭に対する平成3年3月 28日付け株式申込受付票 乙第13号証の1;株式会社アパックス、増田元昭の平成2年1月分 給与 台帳 乙第13号証の2;株式会社アパックス、増田元昭の平成20年12月分 給料明細書 乙第14号証;特願平11-239078号の平成11年8月27日付け上 申書 乙第15号証;実願平2-72615号(実開平4-32924号)のマイ クロフィルム 乙第16号証;実開昭63-126235号公報 第4.無効理由の判断 1.無効理由Eについて (1)当事者間に争いのない事実 審理の全趣旨によれば、以下の(1-1)ないし(1-3)で認定する事実は、当事者間において争いがない。 (1-1)本件特許発明 本件特許発明は、本件の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、次の構成要件1ないし構成要件5に分説されると認める。 構成要件1:高さの途中に水平なヒンジ部を形成して内側に折り畳まれるようになっている側板を有する折畳コンテナにおいて、次の(a)?(d)の要件を備えてなることを特徴とする。 構成要件2:(a)二枚の段ボールライナーの間に中芯を有するプラスチック段ボールで前記側板を形成する。 構成要件3:(b)前記プラスチック段ボールは、中芯の向きが側板の高さ方向に向かうように使用方向を設定する。 構成要件4:(c)前記ヒンジ部は、プラスチック段ボールの内側から中芯を横断状に切断することにより形成する。 構成要件5:(d)プラスチック段ボールの前記切断の切り口は、側板を起立させた状態で、寸断された中芯の端面同士が突き合わさる形態にする。 (1-2)甲7発明、及び甲7発明と本件特許発明との相違点 甲第7号証の明細書及び図面の記載から見て、甲第7号証には、次の甲7発明が記載されていると認める。そして、甲7発明と本件特許発明とは、次の相違点1ないし4で相違し、その余の点で一致すると認める。 《甲7発明》 構成要件1’:側壁面2の高さ方向中央部に、底部1に対して平行に延びる折曲げ罫線7を形成して、側壁面2が内側に折り畳まれるようになっている折りたたみ容器において、 構成要件2’:側壁面2は段ボールで形成されており、 構成要件4’:折曲げ罫線7は、型押しにより形成されている。 《相違点1》構成要件2に関して 本件特許発明は、側板をプラスチック段ボールで形成するのに対し、甲7発明の側壁面2は段ボールであるものの、プラスチック段ボールであるか否か不明な点。 《相違点2》構成要件3に関して 本件特許発明は、中芯の向きが側板の高さ方向に向かうように使用方向を設定するのに対し、甲7発明の側壁面2の中芯の向きは不明な点。 《相違点3》構成要件4に関して 本件特許発明は、プラスチック段ボールの内側から中芯を横断状に切断することによりヒンジ部を形成するのに対し、甲7発明は、型押しにより折曲げ罫線7を形成する点。 《相違点4》構成要件5に関して 本件特許発明は、プラスチック段ボールの切断の切り口は、側板を起立させた状態で、寸断された中芯の端面同士が突き合わさる形態にするのに対し、甲7発明では、切断の切り口自体が存在しないし、さらに、側板を起立させた状態で、折曲げ罫線7の部分において、端面同士が突き合わさる形態ではない点。 (1-3)甲第5号証の記載事項 甲第5号証は、「この考案は、絵やジグソパズルを組み合わせた図画、写真、ポスターなどを展示するための、パネルボードに関する。」(明細書2頁10?12行)考案について記載したものである。そして、甲第5号証の明細書及び図面の記載から見て、甲第5号証には、次の甲5-アないし甲5-ウに示す技術的事項が記載されていると認める。 《甲5-ア》段ボールの一方の面から切り込みを入れ、中芯を切断し、他方の表紙を切残すことでヒンジを形成し、該ヒンジを軸として回動させ折りたたみ、また、元どおりに伸ばすことができる技術。中芯を横断状に切断するので、伸ばしたときに切断面を互いに突き当てさせることができ、平面を保ち易い。 《甲5-イ》段ボールの一方の面から切り込みを入れ、中芯を切断すると強度が弱くなる。 《甲5-ウ》甲第5号証記載のパネルボードは、段ボールを用いた場合には、強度が弱いが、フレーム枠内に透明フイルム、図画類とともにセツトされる状況のように、大きな力がかからない状況であれば、段ボールで充分機能できる。 (2)請求人の主張 審理の全趣旨によれば、無効理由Eについての請求人の主張は、「甲7発明と本件特許発明との相違点1ないし相違点4は、いずれも当業者が容易に推考し得たことであり、本件特許発明の効果も当業者が予測し得たものであるから、本件特許発明は、甲7発明と甲5-アの技術的事項とに基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。」というものと認める。 特に、相違点3及び相違点4については、甲7発明の折曲げ罫線7に代えて、「段ボールの一方の面から切り込みを入れ、中芯を切断し、他方の表紙を切残すことでヒンジを形成」するという甲5-アのヒンジ構造を採用することにより、相違点3及び相違点4に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に推考し得たことであると主張しているものと認める(審判請求書の別紙25頁14ないし22行参照)。なお、甲7発明と、甲第5号証に記載された技術とは、その用途が異なり、強度の概念が異なることは、請求人も認めている(請求人第2回陳述要領書3頁2ないし3行参照)。 (3)被請求人の主張 審理の全趣旨によれば、無効理由Eについての被請求人の主張は、「本件特許発明は、甲7発明と甲第5号証の記載事項から当業者が容易に発明することができたものではない。」というものと認める。 特に、相違点3及び相違点4については、甲第5号証の技術は、甲5-ウのとおり、大きな力がかからない状況で使用されるパネルボードに関するものであり、一方、甲7発明は容器であり、強度が要求されるものであるから、両者は、ヒンジ部の強度に対する概念が極端に異なる全く関連のない技術分野に属する。さらに、甲5-アのヒンジ構造は、甲5-イのとおり強度が弱くなるものであるから、甲7発明に、甲5-アのヒンジ構造を採用することには、阻害要因があると主張しているものと認める(答弁書14頁4ないし14行、被請求人第2回陳述要領書2頁下から4ないし1行参照)。 (4)当審の判断 甲第5号証に記載された技術は、その明細書2頁10?12行に記載されているように、絵や写真、ポスターなどを展示するためのパネルボードに関する技術であるから、ボードに対して大きな力が掛かることを想定していないものである。一方、甲7発明は容器であり、容器内部に収納物を入れた状態で持ち上げることを想定しているものであるから、収納物の重量に応じた力が掛かることを想定しているものであり、それに応じた強度が要求されるものである。したがって、両者は、強度に対する概念が異なる別の技術分野に属するといえるから、一般的に、甲第5号証に記載された技術を甲7発明に適用することはできないものである。 そこで、強度に対する概念が異なる別の技術分野であっても、甲5-アのヒンジ構造を甲7発明に適用することができる、何らかの事情があるかについて検討する。すると、甲5-アのヒンジ構造は、上記のとおり元々大きな力が掛かることを想定していないうえ、甲5-イのとおり、強度が弱くなるものである。そうすると、甲5-アのヒンジ構造を強度が要求される甲7発明に適用できる事情があるとは認められないし、むしろ、甲7発明に、甲5-アのヒンジ構造を採用することには阻害要因があるというべきである。したがって、甲7発明に、甲5-アのヒンジ構造を採用して、相違点3及び相違点4に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に推考し得たことであるということはできないから、本件特許発明は、甲7発明と甲5-アの技術的事項とに基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。 さらに、本件特許発明は、その構成要件1ないし構成要件5を備えることにより、折畳コンテナに必要な強度を有するという作用効果を奏するものと認める。一方、構成要件4のように、プラスチック段ボールの内側から中芯を横断状に切断するヒンジ構造を用いた場合に、折畳コンテナに必要な強度を持たせることができることについては、本件特許出願時において知られていた事実は認められず、また、当業者に予測可能であったとする根拠も認めることができない。そうすると、仮に、甲7発明に、甲5-アのヒンジ構造を適用したとしても、そのようにして発明したものが、折畳コンテナに必要な強度を有するという作用効果を奏することは、当業者に予測可能であったということはできない。したがって、効果の予測性の観点から見ても、本件特許発明は、甲7発明と甲5-アの技術的事項とに基づいて、当業者が容易に発明することができたということはできない。 よって、無効理由Eを、理由があるとすることはできない。 2.無効理由Fについて (1)当事者間に争いのない事実 審理の全趣旨によれば、以下の(1-1)ないし(1-3)で認定する事実は、当事者間において争いがない。 (1-1)本件特許発明 本件特許発明は、上記1.(1)(1-1)に示したとおり、本件の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、構成要件1ないし構成要件5に分説されると認める。 (1-2)甲第6号証について認定する事実 ア.甲第6号証は、甲第6号証に係る出願である実願平3-89365号の、願書に最初に添附した明細書又は図面の内容を記録したものである。 イ.実用新案登録請求の範囲には次の記載がある。 「積層紙など厚手の紙で成形され、枠体を形成する側板部とこの側板部の上下に設けられた蓋部および底部からなる段ボール箱において、対向する上記側板部とこの側板部に設けられた上記蓋部および上記底部の内面側に、上記蓋部から上記底部まで連続する中心線に沿って切り込みを設けたことを特徴とする段ボール箱。」 ウ.図1には、側板部12の一面を上部、該一面に対向する側板部12の面を下部、側板部12の他の2面を左右に配置した状態で、段ボール箱1が図示されている。図1に図示された配置状態のまま段ボール箱1を組み立てると、蓋部13及び底部14は、側板部12の他の2面と同様に、図中で、上部から下部に延在する面(図中での側面)となる。 エ.側板部12の他の2面に、蓋部13から底部14まで連続する中心線に沿った切り込み19a?19cが図示されている。図1に図示した段ボール箱1の配置状態では、切り込み19a?19cは、水平である。 オ.側板部12の他の2面の中芯の向きは、図1に図示した段ボール箱1の配置状態では、高さ方向に向かう向きである。 (1-3)甲第6号証に記載された考案と、本件特許発明との相違点 甲第6号証に記載された考案は、側板が厚手の紙で形成された段ボールであり、本件特許発明は、側板がプラスチック段ボールであり、この点で甲第6号証に記載された考案と本件特許発明とは異なると認める。 (2)請求人の主張 審理の全趣旨によれば、無効理由Fについての請求人の主張は、「甲第6号証に係る出願である実願平3-89365号、の願書に最初に添附した明細書又は図面に記載された考案(以下、『先願2の考案』という。)は、側板が厚手の紙で形成された段ボールであるか、プラスチック段ボールであるかの点を除き、本件特許発明の構成要件1ないし構成要件5をすべて備えている。そして、『厚手の紙』の代わりに『プラスチック』を採用することは、単なる均等材料の置換であるから、本件特許発明と先願2の考案とは実質的に同一である。」というものと認める。 特に、構成要件1又は構成要件3については、先願2の考案は、甲第6号証の図1に示された配置状態と同じ向き(上下関係)で使用するものであるから、使用時に、切り込みは水平で、中芯の向きは、高さ方向に向かう向きであると主張しているものと認める(審判請求書の別紙21頁末行ないし22頁4行、請求人第2回陳述要領書3頁下から4ないし2行、請求人第3回陳述要領書の「陳述の要領」1頁9ないし10行及び同頁23ないし24行参照)。 (3)被請求人の主張 審理の全趣旨によれば、無効理由Fについての被請求人の主張は、「先願2の考案は、本件特許発明の構成要件1ないし構成要件5のいずれも備えていないから、本件特許発明と先願2の考案とは異なる。」というものと認める。 特に、構成要件1又は構成要件3については、先願2の考案は、底部14を下に、蓋部13を上にして使用するものであるから、使用時に、切り込みは高さ方向に向かう向きで、中芯の向きは、水平であると主張しているものと認める(答弁書12頁の図及び同頁下から15行ないし5行第1字、被請求人第2回陳述要領書4頁8ないし10行参照)。 (4)当審の判断 (4-1)素材の相違について 先願2の考案は、側板が厚手の紙で形成された段ボールであり、本件特許発明は、側板がプラスチック段ボールであり、この点で両者は異なると認められ、また、当事者間に争いはない。そこで、「厚手の紙」の代わりに「プラスチック」を採用することは、単なる均等材料の置換であるかどうかについて検討する。 先願2の考案は、全体が単一の素材(厚手の紙)でできているから、素材を何であるかは、発明の本質的部分である。そして、厚手の紙で形成された段ボールと、プラスチック段ボールとは、強度、耐久性、防水性などの点で顕著な相違があるから、「厚手の紙」の代わりに「プラスチック」を採用することが、単なる均等材料の置換であるということはできない。したがって、本件特許発明と先願2の考案とは、構成要件2ないし構成要件5の点で異なるから、実質的に同一であるということはできない。 (4-2)箱の使用時の向きについて 先願2の考案の段ボール箱は、通常の使用状態では、底部を下にし、蓋部を上にした状態で使用することが常識といえる。そして、この通常の使用状態では、先願2の考案の切り込みは高さ方向に向かう向きであり、中芯の向きは水平になることが明らかである。そうすると、本件特許発明と先願2の考案とは、構成要件1及び構成要件3の点で異なるから、同一であるということはできない。 (4-3)ヒンジ部と切り込みとの相違について 本件特許明細書の段落[0008]の「プラスチック段ボールの厚さの一部を切断して繰り返し折り曲げ可能としたヒンジ部」や「側板2bの中央部にプラスチック段ボールの内側から中芯を横断状に切断する態様で水平なヒンジ部2dが設けられ」という記載、及び図6、7、10の記載などからみて、本件特許発明の「ヒンジ部」は、繰り返し折り曲げ可能としたヒンジ部であり、コンテナとして繰り返し使用できるように構成したものであると認める。 一方、甲第6号証の明細書には、以下の記載がある。 ア.[0006][考案が解決しようとする課題]しかし、上述の段ボール箱1は剛直な厚手の積層紙で成形されているから、小さく折り畳むことは困難で、これを回収するのが容易でなく、また保管場所も広い面積が必要になる。 イ.[0009]ところで段ボール箱1を折り畳んだときの面積Sをさらに小さくすることができれば、回収作業の効率が向上するとともに、保管場所も狭いところで済むなどの利点がある。 ウ.[0013]この段ボール箱1を組み立てた後回収もしくは保管するときは、図1(a)に示す如く蓋部13および底部14を開いた後、切り込み19a?19cがあるところを外側から押し込むことにより、同図(b)に示すごとく従来(図7)の半分の面積に折り畳むことができる。」、 エ.[0018]また切り込み19a?19cは蓋部13、側板部12、底部14の連続する中心線に沿って一直線となるように設けられており、図3に示すように積層紙を貫通しないだけの深さd、例えば積層紙のほぼ半分程度になっている。 オ.[0019]このような展開形状の段ボール箱1は、隣接する各面が互いに直角となるように折り目18a?18cから折り曲げると共に、両端の側板部12を糊代部17で接続し、さらに各底部14を金具、接着剤、粘着テープなどで互いに強固に接続すれば相当頑丈な容器になる。 カ.[0021]そしてこの段ボール箱1を回収もしくは保管するために折り畳む場合は、図1(a)に示すように蓋部13および底部14を広げた後、図4に示すように切り込み19a?19cがあるところを外側から押し込めばよい。 キ.[0024]なお上述した実施例では切り込み19a?19cを連続的にしたが、切り込み19a?19cは断続的であってもよい。 これらの記載及び図面からみて、先願2の考案は、段ボール箱1を使用後に、回収及び保管する際に、蓋部13および底部14を広げた後、切り込み19a?19cで折り畳むものであるところ、上記オのように底部14は、金具、接着剤、粘着テープなどで互いに強固に接続して使用するものであるから、使用後に底部14を広げた際に、底部の接続部が破壊するから、段ボール箱を繰り返し使用することを想定していないといえる。さらに、切り込み19a?19cで折り畳むと、切り込み19a?19cに隣接する部分(波形紙の切り残された部分や、断続する切り込み相互間の切り込まれていない部分)が破壊して、切り込みに沿った部分の強度が低下する構成になっているから、これら切り込みを繰り返し折り曲げ、また、伸ばして、段ボール箱を繰り返し使用することを想定していないといえる。 そうすると、本件特許発明のヒンジ部と、先願2の考案の切り込みとは、繰り返し折り曲げ可能とし、コンテナ(箱)として繰り返し使用できる構成であるか否かの点で相違していると認められるから、本件特許発明と先願2の考案とは、構成要件1及び構成要件4の点で異なり、同一であるということはできない。 (4-4)まとめ 以上のとおり、本件特許発明と先願2の考案とは、構成要件1ないし構成要件5の点で異なるから、両者が同一であるということはできない。 よって、無効理由Fを、理由があるとすることはできない。 3.無効理由Gについて (1)当事者間に争いのない事実 審理の全趣旨によれば、以下の(1-1)ないし(1-2)で認定する事実は、当事者間において争いがない。 (1-1)本件特許発明 本件特許発明は、上記1.(1)(1-1)に示したとおり、本件の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、構成要件1ないし構成要件5に分説されると認める。 (1-2)先願1の発明 甲第2号証の1及び2に係る出願である特願平4-308273号の発明(以下、「先願1の発明」という。)は、甲第2号証の2の特許請求の範囲の請求項1に記載した事項によって特定されるとおりの、以下に示すものと認める。(審決注:以下の(1)ないし(6)で示す番号は、甲第2号証の2では、丸付き数字となっている。) 「次の(1)?(6)の構成要件を具備してなる折り畳み可能な箱。 (1) 箱1は、少なくとも、平面視四角形状の底板2と、該底板2の対向する2辺上に位置する2枚の揺動側板3と、底板2の残りの2辺上に位置する2枚の屈曲側板4とから構成される。 (2) 上記各板2,3,4は、2枚の合成樹脂製の基板8a,8bの間に合成樹脂製の芯部材8cを設けたプラスチック段ボールで形成する。 (3) 底板2は、前記芯部材8cと直交する向きの両端部に固定的な垂直板9を形成し、且つ、該垂直板9に係止部10を形成してなる。 (4) 揺動側板3は、前記プラスチック段ボールを、芯部材8cが垂直方向に向かう向きにして使用し、下端に芯部材8cと直交する向きの補強帯11を設けると共に、その補強帯11に前記垂直板9の係止部10に係合する係合部12を形成したものである。そして、揺動側板3の上端には、プラスチック段ボールの基板8bを1枚残して切り込んだ水平な内折り折曲線14aが形成されており、その残された基板8bがヒンジ部となって揺動側板3を箱1の内側に向かって揺動可能にする。 (5) 屈曲側板4は、前記プラスチック段ボールを、芯部材8cが垂直方向に向かう向きにして使用し、プラスチック段ボールの基板8bを1枚残して切り込んだ水平な内折り折曲線14b,14cを上下部に、また、プラスチック段ボールの基板8aを1枚残して切り込んだ水平な外折り折曲線14dを前記上下部の内折り折曲線14b,14cの中心に形成して横V字状に屈曲自在である。 (6) 揺動側板3と屈曲側板4は、最上部の内折り折曲線14a,14bより上の部分で連結される。」 (2)請求人の主張 審理の全趣旨によれば、無効理由Gについての請求人の主張は、「本件特許発明は、先願1の発明と同一である。」というものと認める。 (3)被請求人の主張 審理の全趣旨によれば、無効理由Gについての被請求人の主張は、「本件特許発明は、構成要件5において『プラスチック段ボールの前記切断の切り口は、側板を起立させた状態で、寸断された中芯の端面同士が突き合わさる形態にする。』と特定しているのに対し、先願1の発明は、『プラスチック段ボールの基板8aを1枚残して切り込んだ水平な外折り折曲線14dを前記上下部の内折り折曲線14b,14cの中心に形成し』とのみ特定しており、寸断された中芯の端面同士が突き合わさる形態であるとまでは踏み込んでいない。したがってプラスチック段ボールの切り口の形態については、先願1の発明が上位概念であり、本件特許発明が下位概念ということになる。よって、本件特許発明は、先願1の発明と同一ではなく、特許法第39条第1項に違反するものではない。」というものと認める。 (4)当審の判断 先願1の発明は、(5)として、次のように特定している。 「(5) 屈曲側板4は、前記プラスチック段ボールを、芯部材8cが垂直方向に向かう向きにして使用し、プラスチック段ボールの基板8bを1枚残して切り込んだ水平な内折り折曲線14b,14cを上下部に、また、プラスチック段ボールの基板8aを1枚残して切り込んだ水平な外折り折曲線14dを前記上下部の内折り折曲線14b,14cの中心に形成して横V字状に屈曲自在である。」 そして、甲第2号証の2の段落[0012]には次の記載がある。 「揺動側板3や屈曲側板4に形成した内折り折曲線や外折り折曲線は、実施例で示したように一文字状に切り込む構成が、ヒンジ部の強度、及び、一方向にのみ折れ曲がる特有の機能上最も好ましいのであるが、場合によってはV字状の溝で形成してもよい。」(甲第2号証の2の6欄42ないし47行参照) そうすると、先願1の発明が特定する「プラスチック段ボールの基板8aを1枚残して切り込んだ水平な外折り折曲線14d」は、「一文字状に切り込む」構成だけではなく、「V字状の溝で形成」構成をも含むと認める。そして、外折り折曲線をV字状の溝で形成した構成では、構成要件5で特定する「プラスチック段ボールの前記切断の切り口は、側板を起立させた状態で、寸断された中芯の端面同士が突き合わさる形態」にならないと認める。 すると、本件特許発明は、構成要件5で特定する事項に関して、先願1の発明の下位概念となっているから、本件特許発明と先願1の発明とが同一であるとはいえない。 この点につき、請求人は、甲第2号証の2の段落[0012]に、「なお、このV字状の溝を採用した場合、ヒンジ部を構成する基板は内外どちらでもよい。」(甲第2号証の2の6欄47ないし49行参照)と記載されているところ、外折り折曲線14dでは、V字状の溝を採用しても、ヒンジ部を構成する基板を内側の基板8bとすることはできないから、外折り折曲線14dにV字状の溝を採用することはできない旨主張している(請求人第3回陳述要領書の「陳述の要領」2頁8ないし12行参照)。しかしながら、甲第2号証の2の明細書及び図面の記載からみて、外折り折曲線14dのヒンジ部を構成する基板を外側の基板8aとした場合に、V字状の溝を採用できることは明らかであるから、請求人の上記主張を採用することはできない。 よって、無効理由Gを、理由があるとすることはできない。 第5.むすび 以上のとおりであって、請求人が主張する無効理由Eないし無効理由Gは、いずれについても理由があるとすることができない。 また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-09-15 |
結審通知日 | 2009-09-17 |
審決日 | 2010-11-25 |
出願番号 | 特願平11-239078 |
審決分類 |
P
1
113・
16-
Y
(B65D)
P 1 113・ 121- Y (B65D) P 1 113・ 113- Y (B65D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 一ノ瀬 覚 |
特許庁審判長 |
栗林 敏彦 |
特許庁審判官 |
熊倉 強 鳥居 稔 |
登録日 | 2002-07-26 |
登録番号 | 特許第3333151号(P3333151) |
発明の名称 | 折畳コンテナ |
代理人 | 武蔵 武 |
代理人 | 西 良久 |
代理人 | 高橋 利昌 |
代理人 | 森本 恵巨 |