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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A61C
管理番号 1229898
判定請求番号 判定2010-600058  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2011-02-25 
種別 判定 
判定請求日 2010-10-04 
確定日 2011-01-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第3706938号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 META社ないしインプラテックス社作製のイ号パンフレット、イ号図面、イ号SinCrest器具取り扱い説明書の一部に示されるSinCrest製品は、特許第3706938号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 I.請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、META社ないしインプラテックス社作製のイ号パンフレット、イ号図面、イ号SinCrest器具取り扱い説明書の一部に示されるSinCrest製品(以下、「イ号物件」という。)が、特許第3706938号発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。

II.本件特許発明
(1)本件特許第3706938号発明は、特許明細書及び特許図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものであって、請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)を構成要件に分説すると、次のとおりである。なお、構成要件の分説は、便宜上当審により行った。

【請求項1】
1)上顎洞底挙上術を必要とする症例で、歯槽頂側から侵襲の少ない上顎洞底挙上術を可能とするドリル装置において、
2)それぞれ外径、高径目盛りおよび除圧溝が調整された3本のドリルであって、
3)上顎洞底部に皮質骨を一層残し正確な円筒平底穴を造る機能を持つ成形ドリルである第1ドリル、
4)上記穴洞底部に上顎洞粘膜を付着させたまま円板状皮質骨を切り離す機能を持つ切開ドリルである第2ドリル
5)および上顎洞底部円板状皮質骨に当接させて当該円板状皮質骨とともに上顎洞粘膜を押し上げる機能を持つ挙上ドリルである第3ドリルからなる、
6)形状、機能を分離して組み合わせて使用するドリル装置。

また、本件特許の請求項2,3に係る発明(以下、「本件特許発明2,3」という。)は、次のとおりのものである。
【請求項2】
高径目盛り、除圧溝および螺旋刃を持ったドリル前面に、外径よりもやや小さい薄肉円筒状の切削刃を有し、成形された平底穴の平底部から平底底部内径よりもやや小さい円板状骨片を平底穴から分離させる機能を持つことを特徴とする請求の範囲1に記載する第2の切開ドリル。
【請求項3】
高径目盛り、除圧溝および前面に切開ドリルの切開面と同一もしくはそれ以下の外径と、前面に押し上げのための凸形状を持つことで円板状皮質骨と上顎洞底粘膜をともに押し上げる機能を持った事を特徴とする請求の範囲1に記載する第3の挙上ドリル。

(2)上記の点につき、請求人は、「本件特許3706938号発明は特許明細書及び図面の記載から請求の範囲より構成要件に分節すると以下のとおりのものである。
・・・前面に、外径よりもやや小さい薄肉円筒状の切削刃と、
・・・切開面と同一もしくはそれ以下の外径の凸形状が形成された
・・・切開、挙上ドリル。」と主張する(平成22年11月5日付けの手続補正書及び平成22年11月6日付けの手続補正書により補正された平成22年10月4日付け判定請求書(以下、「判定請求書」という。)11頁12?16行)とともに、分説された上記構成要件を前提として、本件特許発明とイ号物件との技術的対比を行い、イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属する旨主張する。

しかしながら、本件特許の特許請求の範囲の請求項1(以下、「本件特許の請求項1」という。)には、ドリルの「前面に、外径よりもやや小さい薄肉円筒状の切削刃と、切開面と同一もしくはそれ以下の外径の凸形状が形成された」ことは規定されていない。
本件特許の特許請求の範囲の請求項2(以下、「本件特許の請求項2」という。)には、「請求の範囲1に記載する第2の切開ドリル」であって「ドリル前面に、外径よりもやや小さい薄肉円筒状の切削刃を有」することは規定されているものの、「切開面と同一もしくはそれ以下の外径の凸形状が形成された」ことは規定されていない。
本件特許の特許請求の範囲の請求項3(以下、「本件特許の請求項3」という。)には、「請求の範囲1に記載する第3の挙上ドリル」であって「前面に切開ドリルの切開面と同一もしくはそれ以下の外径と、前面に押し上げのための凸形状を持つこと」は規定されているものの、「前面に、外径よりもやや小さい薄肉円筒状の切削刃」が形成されたことは規定されていない。
してみると、本件特許発明1?3は、いずれも「前面に、外径よりもやや小さい薄肉円筒状の切削刃と、切開面と同一もしくはそれ以下の外径の凸形状が形成された」ことを構成要件とするものではない。
しかも、本件特許発明1?3は、「2)それぞれ外径、高径目盛りおよび除圧溝が調整された3本のドリルであって」、「6)形状、機能を分離して組み合わせて使用するドリル装置」であること等を構成要件とするものであり、これらの構成要件を省いて本件特許発明1?3とイ号物件との技術的対比を行うべき合理的理由も見出せない。

以上によれば、請求人の主張はその前提において理由を欠くものであるから、採用することはできない。

III.イ号物件
(1)シンクレストキットについて
ア:イ号図面3には「Kit for maxillary sinus lift with crestal approach」(歯槽頂からの上顎洞挙上術用キット)((B)イ号図面等の簡約:21頁3?4行)と記載されている。

イ:イ号図面2(「裏」の欄の左方)には、
「シンクレストとは・・・
術者の感覚や技術に左右されず、確実な洞底挙上を行えます。」と記載されている。

ウ:上記ア、イ及びイ号パンフレット、イ号図面、イ号SinCrest器具取り扱い説明書の一部(以下、「イ号説明資料」という。)の記載を総合すると、イ号物件は、歯槽頂からの上顎洞底挙上術用キットといえる。

(2)SinCrestドリルについて
カ:被請求人は、SinCrestドリルについて、
「・4の工程を行うシンクレストドリル
(用途)2の工程に用いたものと同じ長さ寸法のストッパが装着され、上記案内部分に螺合され、さらに上記先行穴に沿ってストッパが当接するまで植立部歯槽骨を円形に摘出除去することにより、上顎洞底部に皮質骨を一層残した先端が平坦な植立窩を形成するためのものである。
(構成)外径が形成すべき植立窩の内径に調整されるとともに、レーザーマーキングによる高径目盛りおよび除圧溝を有している。また、先端面は、平坦である。」
(平成22年10月29日付け答弁書(以下、「答弁書」という。)で援用する平成22年7月29日付け判定(以下、「前回判定」という。)の「III.イ号物件(2)SinCrestドリルについて」の項)と説明する。

キ:イ号図面2(「裏」の欄の右方)の「術式チャート」には、「4」の工程について「シンクレストドリルφ3.0 所定の深度のストップを装着し、ドリリングします。・・・」と記載されているとともに、「4」の工程には、SinCrestドリルにより植立窩が形成されている態様が図示されている。

ク:上記キからして、上記カのSinCrestドリルについての「外径が形成すべき植立窩の内径に調整される」は、SinCrestドリルの外径が形成すべき植立窩の内径と同一であることを意味するといえる。

(3)SinCrestについて
サ:イ号図面2(「裏」の欄の中央)には、
「サイナスリフトにおける次世代システム
臨床に基づく人間工学やマイクロ技術を駆使した、シンクレストの3つの機能
1.脆弱な骨質でも確実に固定されるよう、微細なスレッド形状になっています。
2.上顎洞底骨折を制御するよう、刃先が段階的に僅かずつ進行する構造です。
3.洞底骨の骨折を予定に従い確実に行え、シュナイダー膜の穿孔も防止します。」と記載されている。

シ:上記サ及びイ号図面8の17頁((B)SinCrest器具取扱説明書14頁)のFig.16の図示内容からして、SinCrestの操作用把持部に微細なスレッド形状が側面に形成された棒状部材が設けられるとともに、該棒状部材の先端側に刃部が配置されているといえる。

ス:イ号図面2(「裏」の欄の左方)には、イ号説明資料の記載を総合すると、SinCrestが、「ADVANCE」から「PROBING」にかけ、刃部の先端から突出させたプローべを上顎洞底部円板状皮質骨に当接させて当該円板状皮質骨とともに上顎洞粘膜を押し上げる態様が図示されているといえる。

セ:イ号図面2(「裏」の欄の右方)の「術式チャート」には、「4」の工程について「シンクレストドリルφ3.0 所定の深度のストップを装着し、ドリリングします。先端が平坦で鋭利に加工されているため、シンクレスト使用の前段階として、骨孔底部を平坦に形成します。」と記載され、「5」の工程について「シンクレストφ3.0 ドリルによって達した深さまで手動で回してスクリューイングしていきます。骨底に到達したところでボタンが浮き上がります。」と記載されているとともに、「4」、「5」の工程には、SinCrestがSinCrestドリルにより形成された上顎洞底部の植立窩に螺合される態様が図示されているといえる。

ソ:上記セの「シンクレストドリルφ3.0」、「シンクレストφ3.0」との記載を含む「4」、「5」の工程についての記載事項及びSinCrestの螺合の態様からして、上記ウのSinCrestの棒状部材は、外径がSinCrestドリルの外径と同一で、側面に微細なスレッド形状が形成されているといえる。

タ:請求人は、SinCrestについて、「イ号はSinCrestで夫々ADVANCE(切開)およびPROBING(挙上)工程を1本で兼用する。」(判定請求書18頁31?32行)と説明する。

チ:被請求人は、SinCrestについて、
「・5?7の工程を行うシンクレスト
(用途)4の工程で形成された植立窩に螺合される工程と、穴洞底部に上顎洞粘膜を付着させたまま円板状皮質骨を切り離す工程と、上顎洞底部円板状皮質骨に当接させて当該円板状皮質骨と共に上顎洞粘膜を押し上げる挙上工程を1本で行うものである。」(答弁書で援用する前回判定の「III.イ号物件(3)SinCrestについて」の項)と説明する。

ツ:上記シ、タ、チ及びイ号図面8の14頁((B)SinCrest器具取扱説明書12頁)のFig.9についての
「Step 1 Turn the handle anti-clockwise by 1/2 revolution and at the same time implement an axial pressure, start the osteotomy with "back and forth" turning movements by 1/2 turn until the distance(0.5mm) between the tooth and the stroke is zero(see figure n.9). The SinCrest device has progressed by 0.5mm in the apical direction」
『Step1 ハンドルを1/2逆時計方向に回転すると同時に軸方向に圧力をかけ、歯とストローク(stroke)との間隔(0.5mm)が0(図9参照)になるまで1/2回転による「前後」の回転運動で骨切離を始める。SinCrest器具は根尖方向に進みます。』(当審による仮訳)
との記載からして、SinCrestは、先端に配置された刃部を回転させて植立窩底部を穿孔する切開ドリルといえるとともに、挙上を行うから、挙上ドリルともいえる。

テ:上記ウ、カ、ス、セ、タ?ツからして、イ号物件の上顎洞底挙上術用キットは、SinCrestドリルとSinCrestとを組み合わせて使用する上顎洞底挙上術用キットといえる。

以上の事項を総合すると、イ号物件は次のとおりのものといえる。
i.歯槽頂からの上顎洞底挙上術用キットにおいて、
ii.外径が形成すべき植立窩の内径と同一で、高径目盛りおよび除圧溝を有するSinCrestドリルと、
外径がSinCrestドリルの外径と同一で、側面に微細なスレッド形状が形成された棒状部材と、
該棒状部材の先端側に配置された刃部と、
該刃部の先端から突出可能なプローべと、
骨底に到達したところで浮き上がるボタンとを備え、
前記刃部により植立窩底部を穿孔するSinCrestと、
の2本のドリルであって、
iii.上顎洞底部に皮質骨を一層残した先端が平坦な植立窩を形成するSinCrestドリル、
iv.上顎洞底部に上顎洞粘膜を付着させたまま円板状皮質骨を切り離す機能を持つ切開ドリルであるとともに、その先端から突出させたプローべを上顎洞底部円板状皮質骨に当接させて当該円板状皮質骨とともに上顎洞粘膜を押し上げる機能を持つ挙上ドリルであるSinCrestからなる、
v.SinCrestドリルとSinCrestとを組み合わせて使用する上顎洞底挙上術用キット。

IV.対比、判断
1.イ号物件の構成が本件特許発明1の構成要件を充足するか否か
1-1.構成要件1)について
(1)イ号物件の「i.歯槽頂からの上顎洞底挙上術用キット」は、イ号物件の構成ii.?v.からして、SinCrestドリルと切開ドリルであるとともに挙上ドリルであるSinCrestとを組み合わせて使用する上顎洞底挙上術用キットであるから、「ドリル装置」といえる。
また、上記「i.歯槽頂からの上顎洞底挙上術用キット」が「上顎洞底挙上術を必要とする症例で、歯槽頂側から侵襲の少ない上顎洞底挙上術を可能とする」ものであることは明らかだから、イ号物件の構成i.は本件特許発明1の構成要件1)を充足するといえる。

1-2.構成要件2)について
(1)本件特許発明1の構成要件2)は、「2)それぞれ外径、高径目盛りおよび除圧溝が調整された3本のドリルであって」というものである。
本件特許明細書の「発明の詳細な説明」及び特許図面には、3本のドリル(成形ドリル、切開ドリル、挙上ドリル)が外径を有するとともに、それぞれに高径目盛り及び除圧溝を設けることは記載されていても、それらの外径、高径目盛り及び除圧溝を「調整」するという記載は存在しない。
そこで、「調整」は、日本語として、普通、「調子を整え過不足をなくし、程よくすること。」(広辞苑第6版)を意味するから、この語義を参酌しつつ、「3本のドリル」に「それぞれ外径、高径目盛りおよび除圧溝」を「調整」することの技術的意義を確認するために、本件特許明細書(特許請求の範囲、発明の詳細な説明)及び特許図面の記載を検討する。

(1-1)本件特許の請求項1には、「・・・ドリル装置において、それぞれ外径、高径目盛りおよび除圧溝が調整された3本のドリルであって、・・・成形ドリルである第1ドリル、・・・切開ドリルである第2ドリルおよび・・・挙上ドリルである第3ドリルからなる、形状、機能を分離して組み合わせて使用するドリル装置。」と記載されている。

また、本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の「発明の開示」の欄には、「3本一組みのドリルセットであり」との記載に引き続き、特許請求の範囲の請求項1?3と同旨の事項が記載されるとともに、「機能を分離した3本一組の特殊形状を持ったドリル群を使用することにより」歯槽頂側から安全で確実な上顎洞底挙上術が可能となる旨記載されている。

本件特許の請求項1及び発明の詳細な説明の「発明の開示」の欄の記載からして、本件特許発明1は、「形状、機能を分離し」た、「成形ドリルである第1ドリル」、「切開ドリルである第2ドリル」及び「挙上ドリルである第3ドリル」を「組み合わせて使用」し、歯槽頂側から安全で確実な上顎洞底挙上術を可能とするように、「それぞれ外径、高径目盛りおよび除圧溝が調整された」「3本のドリル」からなる「ドリル装置」といえる。
してみると、「3本のドリル」に「それぞれ外径、高径目盛りおよび除圧溝」を「調整」することは、「成形ドリルである第1ドリル」、「切開ドリルである第2ドリル」及び「挙上ドリルである第3ドリル」の「外径、高径目盛りおよび除圧溝」を、「3本一組みのドリルセット」として歯槽頂側から安全で確実な上顎洞底挙上術を可能とするように、それぞれ整え過不足をなくし、程よくすることを意味するといえる。

(1-2)さらに、発明の詳細な説明の「発明を実施するための最良の形態」の欄には、
成形ドリルによる植立窩の成形について、
「まず高径目盛り、除圧溝および螺旋刃形状をもつことで歯槽頂を基準面として正確に洞底粘膜下1m(「1mm」の誤記と解される:当審注)までの平底植立窩骨内面成形効果を有することを特徴とする成形ドリル(図4)にて植立窩を骨内に成形する。」(特許公報3頁48?50行)と記載されている。
上記記載に引き続き、切開ドリルによる上顎洞底部皮質骨の骨切開について、
「次に、高径目盛り、除圧溝および螺旋刃形状を持ち、かつ同一外径棒状物前面にそれ以下の外径で、所定の高さの肉薄円筒状切削刃形状をもつ切開ドリル(図5)にて基準面より成形ドリルと同一深度まで回転挿入し、上顎洞底部皮質骨に所定のリング状切り込みを刻設する。ここで上顎洞部粘膜に所定高さの円盤状皮質骨が付着した状態で骨切開が完了する。」(特許公報4頁1?5行)と記載されている。
上記「同一外径棒状物」という記載の「同一外径」は、切開ドリルが成形ドリルにより成形された植立窩に挿入されることからして、切開ドリルの外径が成形ドリルの外径と同一であることを意味するといえる。
さらに、上記記載に引き続き、挙上ドリルによる上顎洞底粘膜部及び円盤状皮質骨の挙上について、
「最後に高径目盛り、除圧溝および同一もしくはそれ以下の外径を有する円柱前面に、切削刃と同一もしくはそれ以下の外径を有する1,2および3mm高くした凸形状を持つ挙上ドリル(図6)を基準面より成形、切開ドリルと同一深度まで回転挿入すれば、上顎洞底粘膜部が円盤状皮質骨とともにそれぞれ1,2,および3mm挙上される。従って必要な挙上高さの凸形状になる量の挙上ドリルを用いる事になる。」(特許公報4頁6?10行)と記載されている。
上記「同一もしくはそれ以下の外径を有する円柱」という記載の「同一もしくはそれ以下の外径」は、挙上ドリルが成形ドリルにより成形された植立窩に挿入されることからして、挙上ドリルの外径が成形ドリルの外径と同一もしくはそれ以下であることを意味するといえる。
以上によれば、まず、成形ドリルにより「歯槽頂を基準面として正確に洞底粘膜下1mmまでの平底植立窩骨内面成形」し、次に、成形ドリルと「同一外径」の切開ドリルにより「基準面より成形ドリルと同一深度まで回転挿入し、上顎洞底部皮質骨に所定のリング状切り込みを刻設」し、最後に、成形ドリルと「同一もしくはそれ以下の外径」の挙上ドリルにより「基準面より成形、切開ドリルと同一深度まで回転挿入すれば、上顎洞底粘膜部が円盤状皮質骨とともにそれぞれ1,2,および3mm挙上」されるといえる。
そして、上記記載に引き続き、「この発明によれば、上顎洞挙上し平底穴を形成する際、本発明によるドリルを順次歯槽頂から上顎洞底部までの骨厚さまで回転挿入することにより上顎洞底部を挙上出来、インプラント体に適合する平底穴が形成され」と記載されているとともに、本件特許図面の図4?6には、成形ドリル、切開ドリル、挙上ドリルに同一の値(4,6,8,10mm)の高径目盛りが形成されるとともに、成形ドリルと切開ドリルには除圧溝が軸方向に対して斜めに形成され、挙上ドリルには除圧溝が軸方向に形成されている態様が図示されている。
してみると、発明の詳細な説明の「発明を実施するための最良の形態」の欄及び特許図面には、3本のドリル(成形ドリル、切開ドリル、挙上ドリル)の外径、高径目盛り及び除圧溝を、
外径:切開ドリルの外径を成形ドリルの外径と同一とするとともに、挙上ドリルの外径を成形ドリルの外径と同一もしくはそれ以下とし、
高径目盛り:成形ドリル、切開ドリル、挙上ドリルを基準面より同一深度まで挿入できるように、3本のドリルに同一の値(4,6,8,10mm)の高径目盛りを形成し、
除圧溝:成形ドリルと切開ドリルには除圧溝を軸方向に対して斜めに形成し、挙上ドリルには除圧溝を軸方向に形成する
ことにより、3本のドリル(成形ドリル、切開ドリル、挙上ドリル)を順次歯槽頂から上顎洞底部までの骨厚さまで回転挿入して上顎洞底部を挙上出来ることが記載されているといえる。

(2)本件特許明細書及び特許図面の記載並びに「調整」の日本語としての語義を総合すると、本件特許発明1の構成要件2)における「3本のドリル」に「それぞれ外径、高径目盛りおよび除圧溝」を「調整」することは、「成形ドリルである第1ドリル」、「切開ドリルである第2ドリル」及び「挙上ドリルである第3ドリル」の「外径、高径目盛りおよび除圧溝」を、「3本一組みのドリルセット」として、歯槽頂側から安全で確実な上顎洞底挙上術を可能とするように、例えば発明の詳細な説明の「発明を実施するための最良の形態」の欄及び特許図面に記載されているような関係にそれぞれ整え過不足をなくし、程よくすることを意味するといえる。

(3)本件特許発明1の構成要件2)についての上記理解を前提に、本件特許発明1の構成要件2)とイ号物件の構成ii.とを対比する。
イ号物件の「SinCrest」は「外径がSinCrestドリルの外径と同一」であって、「SinCrestドリル」と「SinCrest」の外径は所定の関係を有するといえるものの、両者は2本のドリルであって、「3本のドリル」とはいえない。
また、「SinCrest」は「高径目盛りおよび除圧溝」を有していないから、「SinCrestドリル」の「高径目盛りおよび除圧溝」は、「SinCrest」の「高径目盛りおよび除圧溝」と特定の関係に整えられたものでもない。
してみると、イ号物件の「SinCrestドリル」と「SinCrest」とは、「3本一組みのドリルセット」として、歯槽頂側から安全で確実な上顎洞底挙上術を可能とするように、「それぞれ高径目盛りおよび除圧溝が調整された3本のドリル」とはいえないから、イ号物件の構成ii.は本件特許発明1の構成要件2)を充足しない。

1-3.構成要件3)について
(1)本件特許発明1の構成要件3)とイ号物件の構成iii.とを対比する。
イ号物件の構成iii.は、「iii.上顎洞底部に皮質骨を一層残した先端が平坦な植立窩を形成するSinCrestドリル」であって、イ号物件の「先端が平坦な植立窩」は「正確な円筒平底穴」といえる。
してみると、イ号物件の「上顎洞底部に皮質骨を一層残した先端が平坦な植立窩を形成するSinCrestドリル」は、「上顎洞底部に皮質骨を一層残し正確な円筒平底穴を造る機能を持つ成形ドリル」といえる。
しかしながら、本件特許発明1の構成要件3)の「成形ドリル」が構成要件2)で規定されているように、「それぞれ外径、高径目盛りおよび除圧溝が調整された3本のドリル」であることを前提とした「第1ドリル」であること及びイ号物件の「SinCrestドリル」が「3本一組みのドリルセット」として、「高径目盛りおよび除圧溝が調整された」ものといえないことは、上記「1-2.構成要件2)について」において検討したとおりであるから、イ号物件の「SinCrestドリル」は、本件特許発明1の構成要件3)の「第1ドリル」とはいえない。
したがって、イ号物件の構成iii.は本件特許発明1の構成要件2)を充足しない。

1-4.構成要件4)、5)について
(1)本件特許発明1の構成要件4)、5)とイ号物件の構成iv.とを対比する。
イ号物件の「SinCrest」は、「・・・切開ドリルであるとともに、・・・挙上ドリルである」ものの、本件特許発明1の構成要件4)の「成形ドリル」、構成要件5)の「挙上ドリル」が構成要件2)で規定されているように、「それぞれ外径、高径目盛りおよび除圧溝が調整された3本のドリル」であることを前提とした「第2ドリル」、「第3ドリル」であること及びイ号物件の「SinCrest」が「3本一組みのドリルセット」として、「高径目盛りおよび除圧溝が調整された」ものといえないことは、上記「1-2.構成要件2)について」において検討したとおりであるから、イ号物件の「SinCrest」は、本件特許発明1の構成要件4)、5)の「第2ドリル」、「第3ドリル」とはいえない。
したがって、イ号物件の構成iii.は本件特許発明1の構成要件4)、5)を充足しない。

1-5.構成要件6)について
(1)本件特許発明1の構成要件6)とイ号物件の構成v.とを対比する。
上記「1-2.構成要件2)について」の検討結果からして、本件特許発明1の構成要件6)は、構成要件2)で規定されているように、「それぞれ外径、高径目盛りおよび除圧溝が調整された3本のドリル」について「形状、機能を分離して組み合わせて使用するドリル装置」であるといえる。
他方、イ号物件の「上顎洞底挙上術用キット」も、「SinCrestドリル」と「SinCrest」という2本のドリルについて、「形状、機能を分離して組み合わせて使用する」ものといえるが、それらが、「それぞれ外径、高径目盛りおよび除圧溝が調整された3本のドリル」といえないことは、上記「1-2.構成要件2)について」において検討したとおりであるから、イ号物件の「SinCrestドリル」と「SinCrest」は、「3本のドリル」について「形状、機能を分離して組み合わせて使用するドリル」とはいえない。
してみると、イ号物件の構成v.は本件特許発明1の構成要件6)を充足しない。

1-6.以上によれば、イ号物件の構成は、本件特許発明1の構成要件2)、3)、4)、5)、6)を充足しない。
よって、イ号物件の構成は、少なくとも文言上、本件特許発明1の構成要件を充足しない。

2.均等の判断
(1)請求人は、器具先端部のドリル本体のスレッド形状、螺旋歯、除圧溝、高径目盛やSinCrestと切開・挙上時の器具数等の点が、以下の理由で非本質的部分であって、イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属する旨主張する(判定請求書「5請求の理由 (F)イ号が本件発明の技術的範囲に属するとの説明・非本質的部分」の項)ので、請求人の該主張を参酌しつつ、イ号物件の構成が充足しない本件特許発明1の構成要件2)、3)、4)、5)、6)が本質的部分であるか否かについて検討する。

ア:イ号は洞底部に上顎洞粘膜を付着させたさせたまま円板状に骨を切り離す工程と上顎洞円板状皮質骨に当接させ当該円板状骨と共に上顎洞粘膜を押上げる二つの工程を一個の器具の同一部材の同一個所を同一解剖学的位置では使用せず、術中条件では器具をも加え手術を行っている。
イ号先端切り歯は切開(ADVANCE)、プローベ凸形状は挙上(PROBING)とに分担、組み合わせ本件特許の如く器具先端部分をそれぞれ切削刃及び凸形状として切開と挙上術を分離・組み合わせ、変化させた部材形状は本件特許と差異が無く、切開や挙上態様そのときの器具先端の解剖学的操作部位にも本件特許と差がない。
器具個数の数に差があったとしても均等の範囲に含まれる。

イ:本件特許発明は歯槽頂から安全な上顎洞挙上術を行うために器具前面に切削刃と凸形状を設置形成したことが最大の特徴である。
したがって、電・手動の器具操作法、高径目盛、除圧溝、螺旋歯については本質的部分でない。

ウ:本件米国特許1(米国特許第7125253号)4桁62-65行、本件米国特許2(米国特許第7364430号)4桁65-68行記載の如く本件特許切開器具中央陥凹部に骨片を貯留させ上顎洞底部骨内に押す(参考文献03Summers702頁、図3E)と記載され切開と挙上の兼用を示唆している。

(2)本件特許明細書及び特許図面の記載並びに「調整」の日本語としての語義を総合した上記「1-2.構成要件2)について」の検討結果からして、本件特許発明1は、「それぞれ外径、高径目盛りおよび除圧溝が調整された3本のドリルであ」(構成要件2)ることを前提とした「成形ドリルである第1ドリル」(構成要件3)、「切開ドリルである第2ドリル」(構成要件4)、「挙上ドリルである第3ドリル」(構成要件5)からなる「形状、機能を分離して組み合わせて使用するドリル装置」(構成要件6)とすることにより、歯槽頂側から安全で確実な上顎洞底挙上術を可能とするものといえる。

(3)さらに、本件特許発明1の各構成要件の技術的意義を確認するために、本件特許発明の出願経緯について検討する。
審判請求書の「7 添付書類又は添付物件の目録」にある資料から、以下の出願経緯を理解できる。
平成17年3月14日付けの拒絶理由通知書に対し、請求人は、平成17年5月13日付けの手続補正書により、特許請求の範囲の請求項1?3を本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1?3のように補正するとともに、同日付けの意見書において
「1.ご指摘やむを得ずと判断致し請求の範囲1を撤回し、内容をドリル装置概念の権利請求とさせていただきます。
2.基本的な考え方である3本一組の低侵襲上顎洞底挙上術を可能とするドリルセットを本願権利主張と考え、請求の範囲1として、あらためて設定申し上げますが、ドリルセットとしての考え方は本願明細書記載の如く随所に繰り返し申し述べ、これを請求項としてまとめたものであり、・・・」(【意見の内容】の欄)
と主張する。
上記出願経緯からすれば、本件特許発明の「基本的な考え方」は「3本一組の低侵襲上顎洞底挙上術を可能とするドリルセット」であるといえる。

(4)そして、請求人が、上記アにおいて指摘するイ号物件のSinCrestの切開と挙上の態様に関する事項、上記イにおいて指摘する本件特許発明の特徴に関する事項、上記ウにおいて指摘する本件特許と関連する米国特許公報の記載及び参考文献の記載に関する事項を検討しても、本件特許発明1の各構成要件及び本件特許発明の出願経緯についての以上の検討結果を否定する程の根拠は見出せない。

(5)以上の本件特許明細書及び特許図面の記載並びに「調整」の日本語としての語義、さらには本件特許発明の出願経緯を総合すると、本件特許発明1の構成要件2)、3)、4)、5)、6)は、本件特許発明1の構成のうちで、当該特許発明特有の作用効果を生じるための部分、換言すれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体としての当該発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分である、本件特許発明1の本質的部分に関するものといえる。
したがって、本件特許発明1とイ号物件とは発明の本質的な部分において相違する。

(6)以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明1と発明の本質的な部分において構成が異なるものであり、均等を判断するための他の要件を判断するまでもなく、イ号物件の構成が、本件特許発明1の構成要件と均等なものであるということはできない。

V.むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明1の技術的範囲に属しない。
また、本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を引用するものであって、イ号物件が本件特許発明1の技術的範囲に属しない以上、本件特許発明2及び3の技術的範囲にも属しないことは明らかである。
よって、結論のとおり判定する。

 
判定日 2011-01-04 
出願番号 特願2003-581671(P2003-581671)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (A61C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 直  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 内山 隆史
関谷 一夫
登録日 2005-08-12 
登録番号 特許第3706938号(P3706938)
発明の名称 インプラント体植立用ドリル装置  
代理人 清水 千春  
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