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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て成立) E05B
管理番号 1229899
判定請求番号 判定2010-600066  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2011-02-25 
種別 判定 
判定請求日 2010-10-29 
確定日 2011-01-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第3559501号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「パソコン等の器具の盗難防止用連結具」は、特許第3559501号発明の技術的範囲に属する。 
理由 第1 請求の趣旨と手続の経緯
本件判定請求の趣旨は、判定請求書に添付した甲第6号証のイ号説明書及び甲第7号証のイ号図面に示す「パソコンの盗難防止用連結具」(以下「イ号物件」という。)は、特許第3559501号の請求項1の特許発明の技術的範囲に属するとの判定を求めたものである。
これに対して、当審において平成22年11月15日付けで被請求人に判定請求書副本を送達するとともに、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたところ、同年12月20日付けで答弁書が提出された。

なお、本件特許は請求人の所有する特許であり、イ号物件は被請求人が販売していると請求人が主張しているものである。

第2 本件特許発明
本件特許発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、当該明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、このうち請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本件特許発明1」という。)を、構成要件ごとに分説すると次のとおりである(以下、それぞれ「構成要件A」等という。)。

「【請求項1】
A.パソコン(80)等の器具の本体ケーシング(84)に開設された盗難防止用のスリット(82)に挿入される盗難防止用連結具であって、
B.主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され、
C.主プレート(20)は、ベース板(22)と、該ベース板(22)の先端に突設した差込片(24)と、該差込片(24)の先端に側方へ向けて突設された抜止め片(26)とを具え、
D.補助プレート(40)は、主プレート(20)に対して、前記主プレート(20)の差込片(24)の突出設方向に沿ってスライド可能に係合したスライド板(42)と、該スライド板(42)を差込片(24)の突出方向にスライドさせたときに、差込片(24)と重なり、逆向きにスライドさせたときに、差込片(24)との重なりが外れるように突設された回止め片(44)とを具え、
E.主プレート(20)と補助プレート(40)には、補助プレート(40)を前進スライドさせ、差込片(24)と回止め片(44)とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部(28)(48)が形成されていることを特徴とする
F.パソコン等の器具の盗難防止用連結具。」

第3 イ号物件

1.イ号説明書により示される事項
イ号説明書から、イ号物件に関して以下の事項が認められる。なお、各部材の名称及び符号等は、基本的にイ号説明書におけるイ号構成の説明の欄に使用されているものを採用する。

ただし、請求人が「ピン(58')」としたものは、イ号図面の記載を参酌して、「ピン(60')」の誤記であるものとし、「主プレート(20')と補助プレート(40')とを、ピン(60')によって一端を枢止することにより、パソコンのスリット(82')へ向けて相対的にずらし可能に係合して構成され」は、イ号図面の記載を参酌した上で実際の動作方向を勘案して、「主プレート(20')と補助プレート(40')とを、ピン(60')によって一端を枢止することにより、パソコンのスリット(82')へ向けて、枢止部分を中心として回転して、相対的にずらし可能に係合して構成され」とし、その他「ベース板(22')の先端に突設した差込片(24')」、「スライド板(42')」、「回止め片(44')」については、イ号図面の記載を勘案して、それぞれ「ベース板(22')の一辺に突設した差込片(24')」、「板(42')」、「突起部(44')」とした。
また、「差込片(24')の突設方向」、「差込片(24')の突設方向に接近離間可能」については、属否の検討において検討することとして、ここでは認定しない。

イ号図面の図1に示すように、パソコンの本体ケーシング(84')に開設された盗難防止用のスリット(82')に挿入される盗難防止用連結具であって、主プレート(20')と補助プレート(40')とを、ピン(60')によって一端を枢止することにより、パソコンのスリット(82')へ向けて、枢止部分を中心として回転して、相対的にずらし可能に係合して構成され、主プレート(20')は、ベース板(22')と、該ベース板(22')の一辺に突設した差込片(24')と、該差込片(24')の先端に側方へ向けて突設された抜止め片(26')とを具え、補助プレート(40')は、主プレート(20')に対してずらすことが可能な板(42')と、該板(42')をずらしたときに、差込片(24')と重なったり、その逆方向にずらしたときに重なりが外れるように突設された突起部(44')とを具え、主プレート(20')と補助プレート(40')には、差込片(24')と突起部(44')とを重ねた状態で、互いに対応一致する係止部(28')(48')が形成されている。

2.イ号物件の特定
上記の事項より、イ号説明書により示されるイ号物件は、各構成ごとに符号を付し分節して記載すると次のとおりである。(以下、それぞれ「構成a」等という。)

「a.パソコンの本体ケーシング(84')に開設された盗難防止用のスリット(82')に挿入される盗難防止用連結具であって、
b.主プレート(20')と補助プレート(40')とを、ピン(60')によって一端を枢止することにより、パソコンのスリット(82')へ向けて、枢止部分を中心として回転して、相対的にずらし可能に係合して構成され、
c.主プレート(20')は、ベース板(22')と、該ベース板(22')の一辺に突設した差込片(24')と、該差込片(24')の先端に側方へ向けて突設された抜止め片(26')とを具え、
d.補助プレート(40')は、主プレート(20')に対してずらすことが可能な板(42')と、該板(42')をずらしたときに、差込片(24')と重なったり、その逆方向にずらしたときに重なりが外れるように突設された突起部(44')とを具え、
e.主プレート(20')と補助プレート(40')には、差込片(24')と突起部(44')とを重ねた状態で、互いに対応一致する係止部(28')(48')が形成されている
f.パソコンの盗難防止用連結具。」

第4 属否の検討
1.本件特許発明1とイ号物件との対比・判断
(1)構成要件A,Fについて
イ号物件の「パソコン」が本件特許発明1の「パソコン等」に該当することは明らかであるから、イ号物件の構成a及びfは、本件特許発明1の構成要件A及びFをそれぞれ充足している。

(2)構成要件Bについて
まず、本件特許発明1の「スリット(82)への挿入方向に沿って」について検討する。
「広辞苑」(岩波書店)によると、「沿う」は、「線条的なもの、または線条的に移動するものに、近い距離を保って離れずにいる」の意味である。これらの記載から、「スリットへの挿入方向に沿って」は、スリットへの挿入方向と完全に一致する必要はなく、かかる方向と近い距離を保って離れずにいる方向であるものも含まれることが把握できる。
また、本件特許発明1には、「スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し」と規定されているのみであり、主プレートと補助プレートが相対的にスライドする区間の全体に渡って、スリットの挿入方向に沿っていることまでは言及されていないのであるから、スライドする区間の一部のみスリット挿入方向に沿ってスライド可能に係合しているものを除外しているものとは認められない。
ここで、イ号図面の図2及び図4等を見ると、補助プレートに設けられた回止め片(44')は、主プレートの差込片(24')と補助プレートの回止め片(44')とが重なった状態となったときに、パソコンのスリット(82')へ係合するようになっているものであるから、少なくとも、補助プレートの回止め片(44')がパソコンのスリット(82')へ係合する近辺の移動方向については、主プレートの差込片(24')のスリットへの挿入方向である直線とは完全には一致しないものの、近い距離を保った方向であるとはいえる。
よって、イ号物件の構成bの「パソコンのスリット(82')へ向けて、枢止部分を中心として回転して、相対的にずらし可能に係合」する構成は、本件特許発明1の構成要件Bの「スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合」する構成であるといえ、イ号物件の構成bは、本件特許発明1の構成要件Bを充足している。

(3)構成要件Cについて
イ号物件の差込片(24')は、主プレートのベース板の一辺に突設してはいるものの、かかる突設箇所がベース板の先端であるという特定はなく、本件特許の図面とイ号図面を見ると、本件特許発明1の差込片は、ベース板の短辺部に設けられているのに対し、イ号物件の差込片は、ベース板の長辺部に設けられており、一見相違しているようにも見える。
しかしながら、両者の差込片は、いずれもパソコンのスリットに挿入した後に、補助プレートを主プレートと重なるように移動させるという同様の機能を有しており、本件特許発明1には、主プレートの形状や辺の長さの関係についての特段の限定はなく、また「先端部」についての特段の定義もみられないことから、差込片をパソコンのスリットへの挿入する方向と差込片の設置部位との関係を勘案して、パソコンのスリットに最も近い部位である差込片の設置部位が、実質的にベース板の先端部と考えたところで、本件特許発明1となんら異なるものではない。
よって、イ号物件の構成cは、本件特許発明1の構成要件Cを充足している。

(4)構成要件D,Eについて
まず、本件特許発明1の「スライド」について検討する。
「広辞苑」(岩波書店)によると、「スライド」は、「滑ること。滑らせること。ずらすこと。」の意味である。これらの記載から、「スライド」には、滑ることやずらすことの意味はあるものの、それが直線的に滑ったりずらしたりするものだけを意味するものではない。
また、本件特許発明1の「差込片の突出設方向」、「差込片の突出設方向にスライド可能」、「差込片の突出方向にスライド」については、構成要件Bについてにおいて検討したように、「沿う」が、完全に一致するものばかりでなく、近い距離を保って離れずにいる方向を含むものであること、及び、スライドする区間の全体に渡って、方向に沿っている必要はなく、かかる方向にスライドすることが可能な区間が一部含まれるものも含むことを考慮すると、イ号物件における補助プレートの動きは、本件特許発明1の「差込片の突出設方向」、「差込片の突出設方向にスライド可能」、「差込片の突出方向にスライド」を充足するものである。
次に、本件特許発明1の「前進スライド」について検討する。
「前進スライド」の意味は必ずしも明確ではないが、本件の明細書を参酌しても「前進スライド」についての特段の定義等は記載されていない。そこで、一般的な用語の意味として、「広辞苑」(岩波書店)の記載を参酌すると、「前進」は、「前へ進むこと」の意味である。このことから、「前進スライド」は、いずれかに向かって前に進むように滑ったりずらしたりという意味と解釈するのが妥当であり、それが直線的であるものだけを意味するものではない。
また、かかる箇所は、原審の平成15年12月12日付け拒絶理由通知書に対する補正として、平成16年3月15日付け手続補正により追加されたものであるが、同日付で提出された意見書において、「その他の補正箇所は、・・・本願発明の構成をより明確化するために明細書又は図面に基づいて行ったもの」である旨主張しており、拒絶理由通知書で引用された刊行物との差別化を図って、直線的な移動であるものと限定的に解釈するために行った補正であるものとも認められない。
してみると、イ号物件の「補助プレート(40')は、主プレート(20')に対してずらす」、「板(42')」は、それぞれ本件特許発明1の「補助プレートは、主プレートに対して、・・・スライド」、「スライド板」に該当し、イ号物件の、「差込片(24')と重な」るように「該板(42')をずらす」ことは、板をずらして差込片と重なるような動作をすることによって、補助プレートはパソコンのスリットに向かった動作、すなわち前進動作をするものであるから、本件特許発明1の「前進スライド」に該当するといえる。
また、イ号物件の「突設部(44')」は、イ号図面を参酌すると、主プレートの差込片と重なるときに、パソコンのスリットに係合するものであるから、本件特許発明1の「回止め片」に該当する。
さらに、本件特許発明1の効果としては、本件明細書の段落【0007】及び【0008】に記載された以下のとおりである。
「【0007】
【作用及び効果】
本発明の主プレート(20)と補助プレート(40)は、スライド可能に係合して構成されているから、片手で連結具(10)を掴んで、主プレート(20)の抜止め片(26)をスリット(82)に挿入して90度回転させ、そのまま、補助プレート(40)の回止め片(44)を差込片(24)と重なるようにスリット(82)に押し込むだけで、連結具(10)をスリット(82)に取付けでき、作業性が良好である。
連結具(10)をスリット(82)に取り付けた後、係止部(28)(48)に錠(70)などを通し、主プレート(20)と補助プレート(40)が相対的にスライドしないように固定すると共に、ケーブル(72)等を連結すればよい。
【0008】
抜止め片(26)がスリット(82)の内側に当接しているので、主プレート(20)がスリット(82)から抜け落ちることはなく、また、差込片(24)と回止め片(44)が重なった状態でスリット(82)に挿入されているので、連結具(10)は回転せず、連結具(10)をスリット(82)から取り外すことはできない。」
これらの効果はいずれも、主プレートと補助プレートとの互いの移動方向が、終始直線方向でなければ奏しない効果ではなく、イ号物件についても同様に奏する効果であると認められる。
よって、イ号物件の構成d及びeは本件特許発明1の構成要件D及びEを充足している。

(5)小活
したがって、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件A?Fを全て充足するものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明1の技術的範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2011-01-12 
出願番号 特願2000-139328(P2000-139328)
審決分類 P 1 2・ 1- YA (E05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 辻野 安人  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 一宮 誠
柏崎 康司
登録日 2004-05-28 
登録番号 特許第3559501号(P3559501)
発明の名称 パソコン等の器具の盗難防止用連結具  
代理人 森 寿夫  
代理人 丸山 敏之  
代理人 長塚 俊也  
代理人 森 廣三郎  
代理人 宮野 孝雄  
代理人 木村 厚  
代理人 久徳 高寛  
代理人 松浦 瑞枝  

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