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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E01D
管理番号 1230322
審判番号 不服2008-17616  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-10 
確定日 2011-01-21 
事件の表示 特願2005-292820「橋梁におけるコンクリート床版裏面の補修構造」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 4月19日出願公開、特開2007-100423〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年10月5日に出願したものであって、平成20年6月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月10日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。
その後、当審において、平成21年12月28日付けで拒絶理由を通知したところ平成22年3月15日付けで意見書及び手続補正書が提出された。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成22年3月15日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである。
「コンクリート床版裏面の表層コンクリートを除去し、該表層コンクリート除去面域を補強用塗工材層で修復する橋梁におけるコンクリート床版裏面の補修構造において、1立方メートル当たり、
ポルトランドセメント 300? 600kg、
砂 600?1200kg、
ポリマー樹脂 10? 120kg、
補強樹脂繊維 10? 60kg、
を主成分とし上記補強樹脂繊維として、繊維長5?20mm、太さ10?200μmのビニロン繊維、又は同ポリエチレン繊維、又は同ビニロン繊維と同ポリエチレン繊維の混合繊維を用いた補強樹脂繊維入りポリマーセメントモルタルを上記表層コンクリート除去面域に塗布し上記補強用塗工材層を形成したことを特徴とする橋梁におけるコンクリート床版裏面の補修構造。」(以下、「本願発明」という。)

3.刊行物の記載事項
(1)当審における拒絶理由で引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭61-146904号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1a)「1.橋梁の床版の亀裂個所を有する表面を高圧水等を用いて清掃し、同表面に高分子複合樹脂エマルジョンにセメント、骨材、保助材を加えて生成した表面塗装剤を含浸し、塗装剤含浸後の表面に同表面塗装剤を塗布し、固定金具を用いて金網を取付け、さらに表面塗装剤を同金網上に塗布することを特徴とする橋梁床版等の補修補強工法。」(特許請求の範囲)、
(1b)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、亀裂を生じた橋梁床版や構造物の壁体を補修、補強するための工法に関する。」(1頁左下欄12?14行)、
(1c)「本発明は、床版の問題個所のみを補強することによって、安価に補修することができ、かつ強度も充分に確保することができる工法を提供することを目的とする。」(1頁右下欄13?16行)、
(1d)「第1図及び第2図は橋梁1の全体図であり、同全体図において破線で示す床版2に亀裂が発生しているものとする。
第3図から第5図にかかる床版2の詳細な構造が示されており、本発明にかかる補修工法は以下のごとくして、同床版2に適用される。
まず、床版2の下面を高圧水を用いて洗浄して第一次下地処理を行う。
同下地処理後、同表面に高分子複合樹脂エマルジョンにセメント、骨材、保助材を加えて生成した表面塗装剤を含浸して、第一次含浸層3を形成する。
次に、第一次含浸層3を含浸後、さらに表面塗装剤を床版2へ含浸し、第二次含浸層4を形成する。
これらの含浸層3,4は、後述する第一次、第二次塗膜層7,8の形成を容易に行うためである。
ホールインアンカー等の固定金具5を上記第一次、第二次含浸層3,4を貫通して床版2に打設し、同打設によって、金網6を床版2の下面に展設・固着する。
その後、金網6上に上記表面塗装剤からなる第一次表面塗膜層7を所定厚さ(例えば2mm以上)形成し、さらに同第一次塗膜層7の形成後、上記表面塗装剤からなる第二次塗膜層8を所定の厚さ(例えば3mm以上)形成する。」(2頁左上欄20行?左下欄5行)、
(1e)「〔発明の効果〕
本発明にかかる工法によって形成した補修層床板は上記した層状構成を有するので、以下の効果を奏することができる。
イ)床版を交換するのに比べ、表面塗装剤と金網を亀裂発生個所に取付けるのみでよいので、補修作業を極めて容易に行え、かつ工期を短縮でき、施工費を安価にすることができる。
口)表面塗装剤と金網の協働によって、極めて高強度の塗膜層を形成でき、長期間にわたって補修後の床版を使用することができる。」(2頁左下欄15行?右下欄3行)。
(1f)第3図には、橋梁の床版の裏面に補修を施すことが示されている。

刊行物1記載の「橋梁床版」が「コンクリート床版」であることは明らかであるから、上記記載によれば、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「コンクリート床版裏面の表層コンクリートを高圧水等を用いて清掃し、該表層コンクリート清掃面域を補強用塗工材層で修復する橋梁におけるコンクリート床版裏面の補修層床板において、
高分子複合樹脂エマルジョンにセメント、骨材、保助材を加えて生成した表面塗装剤を上記表層コンクリート除去面域に塗布して形成した第一次含浸層3、及び塗装剤含浸後の表面に同表面塗装剤を塗布して形成した第二次含浸層4を有し、第二次含浸層4の上に固定金具を用いて取り付けた金網6を有し、さらに同金網6上に表面塗装剤を塗布して形成した第一次塗膜層7及び第二次塗膜層8を有する橋梁におけるコンクリート床版裏面の補修層床板。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

(2)同じく特開2000-240297号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】コンクリート構造物の表面の少なくとも一部に増厚補強層を形成したコンクリート構造物の増厚補強構造であって、
前記増厚補強層がセメント、アモルファスシリカ、骨材、及び合成樹脂を含む層、セメント、アモルファスシリカ、骨材、合成樹脂、及び繊維材料を含む層の少なくとも1層にて構成されたものである、コンクリート構造物の増厚補強構造。」、
(2b)「【請求項3】前記増厚補強層が、さらに補強繊維層を中間層として備えた少なくとも3層構造を有するものである請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の増厚補強構造。」、
(2c)「【0015】増厚補強層を設ける部分は、橋梁を例とすれば、コンクリート床版の上面、下面、橋脚等であり、床版の下面と橋脚はコンクリート面が露出しており、そのまま施工可能である。・・・」、
(2d)「【0029】補強繊維層に使用する材料は、前記繊維材料と同様の素材の長繊維長材を織布もしくは不織布としたものであり、紗のように目の粗いものでもよい。・・・
【0030】増厚補強層を形成するためのセメント等を含む組成物に混入する繊維材料は、無機繊維、金属繊維、炭素繊維、有機繊維が使用可能である。かかる繊維材料は、施工するセメント、アモルファスシリカ、骨材等を含む組成物に混入して使用する場合は、十分な添加効果を得るためには、平均繊維長が0.03mm以上でアスペクト比が5以上のものを使用する。」、
(2e)「【0053】本発明において増厚補強層形成成分として使用するセメントとしては、気硬性セメント、水硬性セメント等(化学大辞典共立出版)のセメント類が使用可能である。特に、ポルトランドセメント、アルミナセメント等一般に広く用いられているセメントが使用できる。・・・」、
(2f)「【0055】骨材としては、天然石粉、陶砂、ケイ砂、砂等が使用でき、その粗さは10メッシュ以上の細かい粒子が好適である。・・・」、
(2g)「【0057】本発明の施工用組成物に混入する繊維材料としては補強効果のある、比較的繊維長の短い繊維(ウィスカーも含む)が使用でき、例えばポリエステル、ナイロン等の繊維、アラミド繊維等有機系高分子より得られる短繊維、チタン酸カリウムウィスカー(商品名ティスモ大塚化学製)、ガラス繊維、・・・等が使用できる。・・・これら繊維は複合材料の技術において知られているように、アスペクト比が5以上、繊維の長さとして0.3mm以上のものが使用でき、補強性、施工性を考慮すると、好ましくは繊維直径が10?500μm、平均繊維長が0.5?100mmである。」、
(2h)「【0058】本発明において添加する合成樹脂材料は耐候性に影響しない範囲で少量添加する。使用できる材料は水溶液または水分散液(一般に樹脂エマルジョンと呼ばれるもの)で、例えば、アクリル/スチレン共重合体エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、ポリウレタンエマルジョン、天然ゴムラテックス等のラテックス類等が使用できる。特に反応性エポキシエマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、アクリル/シリコンエマルジョン等が好ましい。これらのものを2種以上混合して使用することも支障ない。特に最低造膜温度が5℃以上、より好ましくは室温以上のアクリル/スチレン共重合体エマルジョン、その他の変性アクリル樹脂エマルジョンであって、自己架橋タイプの樹脂エマルジョンの使用が、増厚補強層の強度を高める作用が強く、好ましい。」、
(2i)「【0059】これらの材料の配合比率は、重量比率で、セメントを100とした場合、骨材は800?2400、アモルファスシリカは5?50、合成樹脂エマルジョンは樹脂分にて40?400程度の範囲であることが好ましい。有機バインダーである合成樹脂の量は繊維を含めた全無機質分に対し、固形分として20重量%以下であることが好ましい。これ以上になると耐候性が低下し、接着力も低下するからである。
【0060】また、繊維状材料はセメント100重量部に対し200重量部以下の範囲で添加することが好ましい。」。

(3)同じく特開平8-259294号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
(3a)「【請求項1】セメント、乾燥した骨材、粉末状水溶性樹脂、減水剤粉末、及び消泡剤粉末を含有した無水の混合粉末と水を混合することを特徴とするコンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物。
【請求項2】前記セメント、骨材、粉末状水溶性樹脂、減水剤粉末、及び消泡剤粉末は、セメントを1とした場合、それぞれの重量比は、1.0?2.5、0.03?0.2、0.005?0.05、0.0005?0.003である請求項1記載のコンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物。
【請求項3】更に、長さ3mm乃至30mmの繊維分を、セメント1に対し、重量比で0.002?0.06の範囲で含む請求項1又は2記載のコンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物。」、
(3b)「【0007】
【作用】本発明のコンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物で構成された躯体補修材は、ひび割れ箇所等の凹部に充填積層され、損傷したコンクリート構造物の機械的強度を回復し維持させるために使用される強度付与材であって、セメント、骨材、粉末状水溶性樹脂、減水剤粉末、及び消泡剤粉末を含有した無水の混合粉末と水を混合している。前記骨材は、珪砂、高炉水砕スラグ、アルミノシリケート質の中空粒子等の各種のものが使用できる。」、
(3c)「【0008】・・・本発明に用いるセメントは、通常のポルトランドセメントの他、鉄の精錬工程で発生するスラグを原料として製造されるアルカリ成分を多く含有する高炉セメント等の水硬性セメントが使用できる。・・・」、
(3d)「【0009】本発明に用いる粉末状水溶性樹脂とは、粉粒状で水に溶ける性質を有する合成樹脂をいい、これによってコンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物の強度を向上させるもので、例えば水分散型アクリル系樹脂粉末がある。この水分散型アクリル系樹脂粉末は、水溶性アクリル系樹脂のエマルジョンを乾燥固化させて粉末状としたもので、水溶性のアクリル系樹脂にはポリアクリレートが一般的である。・・・」、
(3e)「【0015】本発明のコンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物に、長さ3mm乃至30mm(より好ましくは、10?18mm程度)の繊維分を、セメント1に対し、重量比で0.002?0.06の範囲で添加したものは、コンクリート構造物の補修をすると添加しないものに比して剥離しにくいものになる。繊維分としては、カーボン繊維、耐アルカリガラス繊維、アルミナ繊維、アルミナシリカ繊維等の各種の無機繊維や、ビニロン等の有機繊維が使用できる。これは、繊維がヘアクラックの発生を妨げ、発生したヘアクラックについて成長を妨げることによるものと思われる。なお、繊維分が0.002未満であると強度アップ、剥離防止効果が期待できず、0.06を超えて添加すると、繊維の均一分散が困難となって、逆に強度が低下するので好ましくない。ここで、繊維分の長さが3mm未満であると、繊維分が粒と同じになって組成物を連結する力が働かないので強度が不足する。また、繊維分の長さが30mmを超えると繊維が絡まり易く、仕上げの場合に伸びないので強度が落ちひび割れ防止効果が低下し、混練する場合には繊維が切れ易く結果として強度が低下するので好ましくない。なお、実際的には繊維分の長さを10?18mmとすることによって、より強度を有するコンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物とすることができる。」。
(3f)【表1】には、Dとして、水分散型アクリル系樹脂粉末70重量部、高炉セメント1000重量部、珪砂からなる骨材1000重量部、カーボン繊維13重量部を主成分とするコンクリート構造物補修材を施工した結果が記載されている。

(4)同じく特開2005-133500号公報(以下、「刊行物4」という。)には、次の事項が記載されている。
(4a)「【0016】
本実施形態の面状構造物の補強工法の工程は、次の[1]乃至[4]の工程から成り立っている。以下、各工程を説明する。
【0017】
[1]まず、構造物の表面Wにスペーサ1を取り付ける。
【0018】
[2]そして、スペーサ1に格子状体であるグリッド2を取り付ける。
【0019】
グリッド2は、アラミド繊維によって、格子状に形成されている。・・・
【0020】
・・・さらに、グリッド2は、・・・構造物の表面Wに後述するモルタル等を確実に付着・固定させることができる。・・・
【0021】
・・・さらに、グリッド2は、吹き付け力を受けても振動することが少なく、吹き付けられたモルタル等3の落下を防止して、吹き付けられたモルタル等3を構造物の表面に確実に付着させることができる。」、
(4b)「【0022】
[3]その後、グリッド2に、短繊維である、長さの短いビニロン繊維を含んだモルタル等3を不図示の吹き付け装置によって吹き付ける。
【0023】
モルタル等3には、親水性を備えたビニロン繊維を混入してある。・・・
【0024】
ビニロン繊維は、親水性を備えているため、モルタル等に含まれている水を含んで多少膨張し、モルタル等になじみやすくなっている。また、ビニロン繊維は、長さをグリッド2の格子2aの長さLより短くしてあるので、グリッド2の格子2aに進入したり、グリッド2に絡んだりして、モルタル等3を均一に補強してモルタル等3に、ひび割れが生じにくくした靭性を持たせ、かつモルタル等が流れ落ちるのを阻止する役目をしている。
【0025】
このように、モルタル等3は、モルタル等3になじみやすいビニロン繊維を含有し、かつビニロン繊維によって靭性を向上させられているので、モルタル等3が固まるときに発生するモルタル等3のひび割れを小さくして少なくすることができる。しかも、グリッドに絡むことによって固まるときに引っ張り合う力をビニロン繊維によってグリッド2に伝えてグリッド2でもその引っ張り合う力を受けることになり、モルタル等3に発生するひび割れをより一層少なくすることができる。なお、モルタル等3の厚みが薄いほど、ひび割れが多く発生するが、本実施形態の面状構造物の補強工法によると、モルタル等3の厚みが薄くても、ひび割れの発生を防止することができる。また、モルタル等が硬化した後に外力を受けた場合や劣化した場合には、ビニロン短繊維の架橋効果によってひび割れは細密化して剥離・剥落が防止されるとともに靭性が大幅に向上する。なお、この靭性向上効果は、グリッドを併用することでさらに増大する。」、
(4c)「【0029】
さらに、モルタルでは、ビニロン繊維は、長さを約6mmにすると、練り混ぜ時にファイバーボールができにくく、吹き付け機に絡まることもない。また、ビニロン繊維を、体積比で約0.5%乃至約1.5%、モルタルに混入してあると、モルタルに靭性が増すことになる。」。

(5)同じく特開2002-201058号公報(以下、「刊行物5」という。)には、次の事項が記載されている。
(5a)「【請求項1】セメント100重量部当たり、細骨材を50?200重量部、有機繊維を0.05?2重量部、無機繊維を0.05?1重量部、ポゾランを1?20重量部、減水剤を0.01?2重量部及び膨張材を0.5?15重量部含有することを特徴とする鉄筋コンクリートの補修用セメント組成物。」、
(5b)「【0016】3)有機繊維
有機繊維は組成物のひび割れ防止、曲げタフネスの改善などを目的に添加するものである。好ましい有機繊維は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ビニロンおよびアラミド繊維等である。・・・繊維の分散性、組成物の添加水量の低減、ポンプ圧送性、施工性などの面から、有機繊維の繊維径は20μmが好ましく、繊維長については10mm以下が好ましい。」。

(2)対比、判断
本願発明と刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明の「第一次含浸層3」、「第二次含浸層4」、「第一次塗膜層7」及び「第二次塗膜層8」は、本願発明の「補強用塗工材層」に相当し、同じく「補修層床板」は、「補修構造」に相当する。
また、刊行物1記載の発明の「高分子複合樹脂エマルジョン」、「骨材」は、それぞれ本願発明の「ポリマー」、「砂」に相当し、刊行物1記載の発明の「セメント」と、本願発明の「ポルトランドセメント」とは、「セメント」で共通し、刊行物1記載の発明の「高分子複合樹脂エマルジョンにセメント、骨材、保助材を加えて生成した表面塗装剤」と、本願発明の特定の「補強樹脂繊維入りポリマーセメントモルタル」とは、「セメント、砂、ポリマーを含むポリマーセメントモルタル」で共通する。
また、刊行物1記載の発明の「表面を高圧水等を用いて清掃」と、本願発明の「表層コンクリートを除去」とは、「表層コンクリートの表面処理」で一致する。
したがって、両者は、
「コンクリート床版裏面の表層コンクリートの表面処理を行い、該表層コンクリートの表面処理面域を補強用塗工材層で修復する橋梁におけるコンクリート床版裏面の補修構造において、
セメント、砂、ポリマーを含むポリマーセメントモルタルを上記表層コンクリート表面処理面域に塗布し上記補強用塗工材層を形成した橋梁におけるコンクリート床版裏面の補修構造。」で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]表層コンクリートの表面処理が、本願発明では、表層コンクリートを除去するものであるのに対し、刊行物1記載の発明では、表面を高圧水等を用いて清掃するものである点。
[相違点2]
ポリマーセメントモルタルが、本願発明では、ポルトランドセメント、砂、ポリマー樹脂及び補強樹脂繊維を混合したものを主成分とし、1立方メートル当たりの各成分が決められた量である補強樹脂繊維入りポリマーセメントモルタルであり、補強樹脂繊維として、繊維長5?20mm、太さ10?200μmのビニロン繊維、又は同ポリエチレン繊維、又は同ビニロン繊維と同ポリエチレン繊維の混合繊維を用いるのに対し、
刊行物1記載の発明では、セメントが「ポルトランドセメント」に限定されておらず、また補強樹脂繊維を含んでおらず、1立方メートル当たりの各成分の量が限定されていない点。

上記相違点1について検討すると、高圧水により洗浄により、通常、亀裂が入ったり、劣化によりもろくなった表層コンクリートは除去されているものと認められ、刊行物1記載の発明において、表層コンクリートは実質的に除去されているものと認められる。
仮に、刊行物1記載の発明において、表層コンクリートが除去されていないとしても、補修に際し、高圧水により、劣化した部分及びその周辺域のはつり作業を行うことは周知であり(例えば、特開平9-256647号公報、特開2003-13411号公報)、刊行物1記載の発明において、高圧水により洗浄とともに、表層コンクリートの除去を行うことは当業者が容易になしうることである。

上記相違点2について検討する。
まず、「ポルトランドセメント」と「補強樹脂繊維」を用いたことについて検討すると、ポルトランドセメントはセメントとして、最も普通に採用されるものであり、また、セメントモルタルにおいて、補強のために合成樹脂繊維を添加することは刊行物2?4に記載されているように周知の技術であり、刊行物1記載の発明において、セメントとして、ポルトランドセメントを用い、補強樹脂繊維を添加することは当業者が容易になしうることである。

次に、本願発明における各成分の配合量について検討すると、本願発明における各成分の配合量を配合割合に換算すると、ポルトラントセメント1?2に対し、砂2?4、ポリマー樹脂0.03?0.4、補強樹脂繊維0.03?0.2となる。
ポリマーセメント組成物において、セメント、砂、ポリマー、補強樹脂繊維の量は、必要とされる強度、砂の種類や粒径、ポリマーの種類、繊維の材料等に応じて適宜配合されるものであり、刊行物3には、コンクリート構造物補修用のポリマーセメント組成物において、セメントを1とした場合、骨材は、1.0?2.5、粉末状水溶性樹脂0.03?0.2、繊維0.002?0.06と記載され、繊維がヘアクラックの発生を妨げ、発生したヘアクラックについて成長を妨げることが示されている。
そうすると、本願発明における各成分の配合量は、繊維を含む補修用のポリマーセメント組成物の配合割合を1立法メートルあたりの量で表したにすぎず、その各成分の配合割合は、通常採用される範囲のものであって、当業者が適宜調整しうることである。

さらに、補強樹脂繊維の種類、太さ、長さについて検討すると、刊行物3には、コンクリート構造物補修用ポリマーセメント組成物に含有させる補強繊維として、ビニロン等の有機繊維が使用できること、長さは3mm?30mmとし、10?18mmが好ましいことが記載され、刊行物4には、補強樹脂繊維入りポリマーセメントモルタルの繊維として、長さ6mmのビニロン繊維を用いることが記載され、刊行物5には、鉄筋コンクリートの補修用組成物のひび割れ防止し、曲げタフネスの改善のために、ポリエチレン、ビニロン等の繊維を用いること、繊維径は20μmが好ましく、繊維長は10mm以下が好ましいことが記載されている。
そうすると、本願発明の「繊維長5?20mm、太さ10?200μmのビニロン繊維、又は同ポリエチレン繊維、又は同ビニロン繊維と同ポリエチレン繊維の混合繊維」は、補強樹脂繊維入りポリマーセメントモルタルの繊維として普通に用いられているものであり、このような繊維を選択することは当業者が容易になしうることである。

そして、刊行物3ないし5には、コンクリート補修用組成物に繊維を配合することで、ひび割れの発生防止や成長を防止し、曲げタフネスを改善することが記載されており、本願発明の効果は全体として、刊行物1ないし5記載の発明から予測できる程度のことである。

なお、請求人は平成22年3月15日付け意見書において、本願発明は、1立方メートル当たりの各成分の配合量の上限と下限を限定すると共に、添加する補強繊維の長さ・太さの上限と下限を限定しており、この「配合量・配合比の上限と下限」及び「補強繊維の長さ・太さの上限と下限」の範囲で所期の効果を得るものであり、刊行物2?4・6記載の材料に基づき当業者が各成分を調節したとしても、本願請求項1の1立方メートル当たりの各成分の配合量の上限と下限を容易に推考できるとは到底考えられない旨主張しているが、上記のとおり、ポリマーセメント組成物において、セメント、砂、ポリマー、補強樹脂繊維の量は、必要とされる強度、砂の種類や粒径、ポリマーの種類、繊維の材料等に応じて適宜配合されるものであり、本願発明の1立方メートル当たりの各成分の配合量の上限と下限、補強繊維の長さ・太さの上限と下限を規定したことに臨界的意義は認められない。

したがって、本願発明は、刊行物1ないし5記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1ないし5記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-30 
結審通知日 2010-05-11 
審決日 2010-05-24 
出願番号 特願2005-292820(P2005-292820)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳元 八大  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 山本 忠博
伊波 猛
発明の名称 橋梁におけるコンクリート床版裏面の補修構造  
代理人 市橋 俊一郎  
代理人 三田 大智  
代理人 中畑 孝  

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