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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1230374
審判番号 不服2006-16462  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-31 
確定日 2011-01-20 
事件の表示 特願2002-109052「磁気カード読み取りシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月 7日出願公開、特開2003-317202〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成14年4月11日に出願したものであって、平成17年11月25日付け拒絶理由通知に対して平成18年2月16日付けで手続補正がなされたが、同年4月25日付けで拒絶査定がされた。これに対し、同年7月31日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年8月29日付けで手続補正がなされた。
その後、平成20年12月3日付けで前置報告書を利用した審尋がなされ、平成21年3月6日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成18年8月29日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成18年8月29日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.平成18年8月29日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)について

本件補正は、明細書についてするもので、特許請求の範囲については、本件補正前に、
「 【請求項1】 磁性体を利用して所定のデータを記憶した磁気カードと、前記磁気カードから前記データを読み取る磁気ヘッドを備えた磁気カードリーダと、前記磁気カードリーダにインターフェイスを介して接続されたコンピュータとから形成された磁気カード読み取りシステムにおいて、
前記磁気ヘッドが、前記磁気カードに記憶されたデータをアナログ信号に変換するコイルを備えたコアと、前記コイルに電気的に接続され、前記アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換チップと、前記A/D変換チップに電気的に接続され、作成したアルゴリズムに基づいて前記デジタル信号を暗号化するICとから形成され、前記コアと前記A/D変換チップと前記ICとが、前記磁気ヘッドの外周面を包被するハウジングの内部に収納され、前記A/D変換チップと前記ICとが、前記ハウジングの内部に合成樹脂を介して固定され、
前記コンピュータが、前記ICに電気的に接続され、前記磁気カードリーダからの前記磁気カードのカード読み取り信号の入力にともなって、前記磁気カードに記憶されたデータを暗号化するための公開鍵と暗号化されたデータを復号化するための秘密鍵とを生成する鍵生成手段と、前記鍵生成手段を介して生成した前記公開鍵を前記磁気ヘッドのICへ出力する鍵出力手段とを有し、
前記システムでは、前記カード読み取り信号が前記磁気カードリーダから前記コンピュータに入力されると、前記コンピュータが前記公開鍵と前記秘密鍵とを生成かつ出力し、前記デジタル信号が前記A/D変換チップから前記ICに入力されると、前記ICが前記コンピュータから入力された前記公開鍵を使用してアルゴリズムを作成し、作成したアルゴリズムに基づいて前記デジタル信号を暗号化するとともに、暗号化した前記デジタル信号を前記コンピュータへ出力し、前記コンピュータが前記秘密鍵を使用してアルゴリズムを作成し、作成したアルゴリズムに基づいて暗号化された前記デジタル信号を復号化することを特徴とする前記磁気カード読み取りシステム。
【請求項2】 前記ICによる前記デジタル信号の暗号化方式が、RSA暗号方式(公開鍵暗号化方式)とDES暗号方式(共通鍵暗号化方式)とのうちの少なくとも一方であり、前記ICが作成するアルゴリズムが、RSAアルゴリズムとDESアルゴリズムとのうちの少なくとも一方である請求項1記載の磁気カード読み取りシステム。」
とあったところを、

本件補正後、
「 【請求項1】 磁性体を利用して所定のデータを記憶した磁気カードと、前記磁気カードから前記データを読み取る磁気ヘッドを備えた磁気カードリーダと、前記磁気カードリーダにインターフェイスを介して接続されたコンピュータとから形成された磁気カード読み取りシステムにおいて、
前記磁気ヘッドが、前記磁気カードに記憶されたデータをアナログ信号に変換するコイルを備えたコアと、前記コイルに電気的に接続され、前記アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換チップと、前記A/D変換チップに電気的に接続され、作成したアルゴリズムに基づいて前記デジタル信号を暗号化するICとから形成され、前記コアと前記A/D変換チップと前記ICとが、前記磁気ヘッドの外周面を包被するハウジングの内部に収納され、前記A/D変換チップと前記ICとが、前記ハウジングの内部に合成樹脂を介して固定され、
前記コンピュータが、前記ICに電気的に接続され、前記磁気カードリーダから前記磁気カードのカード挿入信号が入力されると、前記磁気カードに記憶されたデータの読み取り開始指令を前記ICに出力しつつ、前記磁気カードに記憶されたデータを暗号化するための公開鍵と暗号化されたデータを復号化するための秘密鍵とを生成する鍵生成手段と、前記鍵生成手段を介して生成した前記公開鍵を前記磁気ヘッドのICへ出力する鍵出力手段とを実行し、前記磁気カードリーダから前記磁気カードのカード通過信号が入力されると、前記磁気カードに記憶されたデータの読み取り停止指令を前記ICに出力し、
前記システムでは、前記カード挿入信号が前記磁気カードリーダから前記コンピュータに入力される度毎に、前記コンピュータが前記公開鍵と前記秘密鍵とを生成かつ出力し、前記デジタル信号が前記A/D変換チップから前記ICに入力されると、前記ICが前記コンピュータから入力された前記公開鍵を使用してアルゴリズムを作成し、作成したアルゴリズムに基づいて前記デジタル信号を暗号化するとともに、暗号化した前記デジタル信号を前記コンピュータへ出力し、前記コンピュータが前記秘密鍵を使用してアルゴリズムを作成し、作成したアルゴリズムに基づいて暗号化された前記デジタル信号を復号化することを特徴とする前記磁気カード読み取りシステム。
【請求項2】 前記ICによる前記デジタル信号の暗号化方式が、RSA暗号方式(公開鍵暗号化方式)とDES暗号方式(共通鍵暗号化方式)とのうちの少なくとも一方であり、前記ICが作成するアルゴリズムが、RSAアルゴリズムとDESアルゴリズムとのうちの少なくとも一方である請求項1記載の磁気カード読み取りシステム。」
とするものである。

上記本件補正の内容は、概略、請求項1について、発明特定事項である「カード読み取り信号」を「カード挿入信号」と限定し、発明特定事項である「コンピュータ」について「前記磁気カードに記憶されたデータの読み取り開始指令を前記ICに出力しつつ、」及び「前記磁気カードリーダから前記磁気カードのカード通過信号が入力されると、前記磁気カードに記憶されたデータの読み取り停止指令を前記ICに出力し、」と限定したものである。
要するに、本件補正は、発明特定事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすか)否かについて、以下検討する。

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された、特開2001-143213号公報(平成13年5月25日公開、以下「引用例」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【0002】
【従来の技術】クレジットカードで商品を販売したりサービスを提供する場合、支払金額が多額の場合、そのクレジットカードに対する信用照会を実施する。この信用照会を行うための装置としてCAT端末が普及している。このCAT端末内には、磁気カードリーダが組込まれており、この磁気カードリーダでクレジットカードに磁気記録された、カード種別、カード発行会社、カード番号、有効期限等のカードデータが読取られ、通信回線(電話回線)を介してカードセンタへ送信される。」

(2)「【0034】
【発明の実施の形態】以下、本発明の各実施形態を図面を用いて説明する。
(第1実施形態)図1は本発明の第1実施形態に係る磁気ヘッドが組込まれた例えばCAT端末等のカード処理装置の電気回路構成を示すブロック図である。
【0035】このカード処理装置は、例えばクレジットカード等のカード1に磁気記録されたカードデータを読取る磁気ヘッド2と、この磁気ヘッド2で読取られたカードデータを用いて信用照会を含む各種情報処理を実施する情報処理部3とで構成されている。
【0036】磁気ヘッド2において、例えば、金属等で形成されたヘッド容器4内に、ヘッド本体5、増幅器6、A/D変換器8を内蔵する例えば1チップマイクロコンピユータからなる制御部7、この制御部7に接続されたROM9、同じく制御部7に接続されたRAM10が収納されている。さらに、このヘッド容器4内における上述した各部材5?10相互間には、エポキシ樹脂等からなる不透明の充填材11が充填されている。
【0037】また、情報処理部3内には、マイクロコンピユータからなる本体制御部12、この本体制御部12に接続されたROM13、RAM14、表示器15、キーボード16、及び直流電圧Vcを出力する電源17が組込まれている。
【0038】磁気ヘッド2と情報処理部3との間には、情報処理部3の電源17から磁気ヘッド2の制御部7へ直流電圧Vcを供給するための電源供給線18と、磁気ヘッド2と情報処理部3との間で半二重方式で相互に情報交換を行うための半二重双方向信号線としての信号線19と、磁気ヘッド2と情報処理部3との間で接地電位を共通化するための接地線20とが存在する。」

(3)「【0041】カード1の磁気ストライプには、図2に示すように[1]又は[0]の2進で示されるデジタルのカードデータaに対して、[1]のシンボル期間内においては、[S]、[N]の磁化レベルが1回変化し、[0]のシンボル期間内においては、[S]又は[N]の同一磁化レベルを継続するMFM(modified frequency modulation)で磁気記録されている。したがって、カード1の磁気ストライプには、図2に示すパターンのカード磁気記録bとなる。
【0042】したがって、矢印方向にカード1が移動すると、ヘッド本体5がこのカード1に磁気記録されたカード磁気記録bを読取り、読取信号を増幅器6へ送出する。増幅器6は読取信号を増幅して、新たな読取信号cとして制御部7のA/D変換器8へ送出する。この読取信号cの信号波形は、図2に示すように、カード磁気記録bに対応して波長が2種類に変化する正弦波形状となる。
【0043】制御部7のA/D変換器8は、増幅器6から入力された読取信号cをデジタルの読取信号にA/D変換する。制御部7はこのA/D変換された読取信号の波形から、デジタル信号(元のカードデータe)に変換する。具体的には、図2に示すデジタルの読取信号cの正側ピーク位置と負側ピーク位置とをピーク検出して、ピーク検出波形dを作成する。そして、一つのシンボル周期Tsに1個のピークのみが存在するとそのシンボル周期Tsは[0]であると判定する。」

(4)「【0045】ROM9内には制御部7の制御プログラムが記憶されている。制御部7は変換したデジタル信号(カードデータe)を一方向性関数で暗号化する。具体的には、RAM10内には、例えば、データ暗号化規格(DES:Data Encryption Standard)に基づく前述した一方向性関数でデジタル信号(カードデータe)を暗号化するためのファンクション(関数)とキー(鍵)が書込まれている。そして、制御部7はこのファンクション(関数)とキー(鍵)とを用いてデジタル信号(カードデータe)を暗号化する。
【0046】なお、カードデータeの安全性(セキュリティ)をさらに向上させるために、RAM10内に書込まれているキー(鍵)を、1個の暗号化されたカードデータeを情報処理部3へ送信する毎に、情報処理部3から送信されたキー(鍵)に書替(更新)える。また、RAM10内に書込まれているファンクション(関数)も操作者の指示操作にて適宜書替えられる。
【0047】制御部7は暗号化されたカードデータeを半二重通信方式で信号線19を介して情報処理部3へ送信する。
【0048】次に、情報処理部3に組込まれた各部の動作を説明する。
【0049】ROM13内には本体制御部12の制御プログラムが記憶されている。また、RAM14内には、暗号化されたカードデータeを復号化するためのキー(鍵)が記憶されている。
【0050】本体制御部12は、信号線19を介して半二重通信方式で受信した暗号化されたカードデータeをRAM14内に書込まれたキー(鍵)を用いて元のカードデータeに復号する。そして、このカードデータeの中のカード番号を含む必要なデータを組込んだ信用照会の電文を作成して、図示しないモデム、通信回線21を介してカードセンタへ送信する。本体制御部12は、カードセンタから信用照会結果を受信すると、この信用照会結果を表示器15に表示する。
【0051】また、本体制御部12は、磁気ヘッド2から受信した暗号化されたカードデータeが正常に復号されると、新たにキー(鍵)を生成して、この生成したキー(鍵)を、半二重通信方式で信号線19を介して磁気ヘッド2へ送信する。さらに、磁気ヘッド2へ送信したキー(鍵)でRAM14に記憶されたキー(鍵)を更新する。」

(5)「【0071】なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。各磁気ヘッド2内の各制御部7、7a、7bがカードデータeを一方法性関数を用いて暗号化する手法としてデータ暗号化規格(DES)を用いたが、RSA暗号化方式、FEAL暗号化方式等を採用してもよい。」

上記摘示事項及び図面の記載を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「カードに磁気記録されたカードデータを読取る磁気ヘッドと、この磁気ヘッドで読取られたカードデータを用いて各種情報処理を実施する情報処理部とで構成されており、磁気カードリーダが組込まれているカード処理装置において、
磁気ヘッドにおいて、ヘッド容器内に、ヘッド本体、増幅器、A/D変換器を内蔵する1チップマイクロコンピユータからなる制御部、この制御部に接続されたROM、同じく制御部に接続されたRAMが収納され、さらに、このヘッド容器内における各部材相互間には、エポキシ樹脂等からなる不透明の充填材が充填され、
情報処理部内には、マイクロコンピユータからなる本体制御部、この本体制御部に接続されたROM、RAM、表示器、キーボード、及び直流電圧Vcを出力する電源が組込まれ、
磁気ヘッドと情報処理部との間には、相互に情報交換を行うための信号線が存在し、
カードの磁気ストライプには、デジタルのカードデータに対して、MFM(modified frequency modulation)で磁気記録され、カード磁気記録となり、
カードが移動すると、ヘッド本体がこのカードに磁気記録されたカード磁気記録を読取り、読取信号を増幅器へ送出し、増幅器は読取信号を増幅して、新たな読取信号として制御部のA/D変換器へ送出し、制御部のA/D変換器は、増幅器から入力された読取信号をデジタルの読取信号にA/D変換し、制御部はこのA/D変換された読取信号の波形から、デジタル信号(元のカードデータ)に変換し、
制御部に接続されたRAM内には、データ暗号化規格(DES:Data Encryption Standard)に基づく一方向性関数でデジタル信号(カードデータ)を暗号化するためのファンクション(関数)とキー(鍵)が書込まれており、
制御部はこのファンクション(関数)とキー(鍵)とを用いてデジタル信号(カードデータ)を暗号化し、暗号化されたカードデータを信号線を介して情報処理部へ送信し、
制御部に接続されたRAM内に書込まれているキー(鍵)を、1個の暗号化されたカードデータを情報処理部へ送信する毎に、情報処理部から送信されたキー(鍵)に書替(更新)え、
本体制御部は、信号線を介して受信した暗号化されたカードデータを本体制御部に接続されたRAM内に書込まれたキー(鍵)を用いて元のカードデータに復号し、磁気ヘッドから受信した暗号化されたカードデータが正常に復号されると、新たにキー(鍵)を生成して、この生成したキー(鍵)を、信号線を介して磁気ヘッドへ送信し、さらに、磁気ヘッドへ送信したキー(鍵)で本体制御部に接続されたRAMに記憶されたキー(鍵)を更新するカード処理装置。」


3.対比

そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「カードデータ」「カード」及び「信号線」は、本願補正発明の「データ」「磁気カード」及び「インターフェイス」にそれぞれ相当し、引用発明と本願補正発明の「磁気ヘッド」及び「磁気カードリーダ」はそれぞれ共通する。また、引用発明において、「磁気カードリーダ」が「磁気ヘッド」を備えていることは明らかである。さらに、引用発明の「情報処理部」は、「磁気ヘッド」に「信号線」を介して接続されており、「マイクロコンピユータからなる本体制御部、この本体制御部に接続されたROM、RAM、表示器、キーボード、及び直流電圧Vcを出力する電源が組込まれ」ているから、本願補正発明の「磁気カードリーダにインターフェイスを介して接続されたコンピュータ」に相当する。したがって、引用発明と本願補正発明とは、「磁性体を利用して所定のデータを記憶した磁気カードと、前記磁気カードから前記データを読み取る磁気ヘッドを備えた磁気カードリーダと、前記磁気カードリーダにインターフェイスを介して接続されたコンピュータとから形成された磁気カード読み取りシステム」で共通する。
(2)引用発明の「読取信号」「デジタルの読取信号」及び「ヘッド容器」は、本願補正発明の「アナログ信号」「デジタル信号」及び「ハウジング」にそれぞれ相当する。また、引用発明において、「ヘッド本体」が「カードデータ」を「読取信号」に変換するコイルを備えたコアからなること、「A/D変換器」が「増幅器」を介してコイルに電気的に接続されていること、及び、「制御部」が「A/D変換器」に電気的に接続されていることは、いずれも明らかである。さらに、引用発明の「制御部」は、「1チップマイクロコンピユータからな」り、「デジタルの読取信号」を「カードデータ」に「変換し」、「ファンクション(関数)とキー(鍵)とを用いて」「暗号化する」ものであるから、本願補正発明の「IC」に相当する。したがって、引用発明と本願補正発明とは、「前記磁気ヘッドが、前記磁気カードに記憶されたデータをアナログ信号に変換するコイルを備えたコアと、前記コイルに電気的に接続され、前記アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器と、前記A/D変換器に電気的に接続され、作成したアルゴリズムに基づいて前記デジタル信号を暗号化するICとから形成され、前記コアと前記A/D変換器と前記ICとが、前記磁気ヘッドの外周面を包被するハウジングの内部に収納され、前記A/D変換器と前記ICとが、前記ハウジングの内部に合成樹脂を介して固定され」る点で共通する。
(3)引用発明において、「情報処理部」が「制御部」に電気的に接続されていることは明らかである。また、引用発明の「情報処理部」に「組込まれ」た「本体制御部」は、「暗号化されたカードデータを本体制御部に接続されたRAM内に書込まれたキー(鍵)を用いて元のカードデータに復号し、」「新たにキー(鍵)を生成して、この生成したキー(鍵)を、信号線を介して磁気ヘッドへ送信し、さらに、磁気ヘッドへ送信したキー(鍵)で本体制御部に接続されたRAMに記憶されたキー(鍵)を更新する」ものである。したがって、引用発明と本願発明とは、「前記コンピュータが、前記ICに電気的に接続され、前記磁気カードに記憶されたデータを暗号化するための鍵と暗号化されたデータを復号化するための鍵とを生成する鍵生成手段と、前記鍵生成手段を介して生成した前記(磁気カードに記憶されたデータを暗号化するための)鍵を前記磁気ヘッドのICへ出力する鍵出力手段とを実行」する点で共通する。
(4)引用発明は、「制御部に接続されたRAM内には、データ暗号化規格(DES:Data Encryption Standard)に基づく一方向性関数でデジタル信号(カードデータ)を暗号化するためのファンクション(関数)とキー(鍵)が書込まれており、制御部はこのファンクション(関数)とキー(鍵)とを用いてデジタル信号(カードデータ)を暗号化し、暗号化されたカードデータを信号線を介して情報処理部へ送信し、制御部に接続されたRAM内に書込まれているキー(鍵)を、1個の暗号化されたカードデータを情報処理部へ送信する毎に、情報処理部から送信されたキー(鍵)に書替(更新)え、本体制御部は、信号線を介して受信した暗号化されたカードデータを本体制御部に接続されたRAM内に書込まれたキー(鍵)を用いて元のカードデータに復号し、磁気ヘッドから受信した暗号化されたカードデータが正常に復号されると、新たにキー(鍵)を生成して、この生成したキー(鍵)を、信号線を介して磁気ヘッドへ送信し、さらに、磁気ヘッドへ送信したキー(鍵)で本体制御部に接続されたRAMに記憶されたキー(鍵)を更新する」ものである。したがって、引用発明と本願補正発明とは、「前記システムでは、前記コンピュータが前記(磁気カードに記憶されたデータを暗号化するための)鍵と前記(暗号化されたデータを復号化するための)鍵とを生成かつ出力し、前記デジタル信号が前記A/D変換器から前記ICに入力されると、前記ICが前記コンピュータから入力された前記(磁気カードに記憶されたデータを暗号化するための)鍵を使用してアルゴリズムを作成し、作成したアルゴリズムに基づいて前記デジタル信号を暗号化するとともに、暗号化した前記デジタル信号を前記コンピュータへ出力し、前記コンピュータが前記(暗号化されたデータを復号化するための)鍵を使用してアルゴリズムを作成し、作成したアルゴリズムに基づいて暗号化された前記デジタル信号を復号化する」点で共通する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「磁性体を利用して所定のデータを記憶した磁気カードと、前記磁気カードから前記データを読み取る磁気ヘッドを備えた磁気カードリーダと、前記磁気カードリーダにインターフェイスを介して接続されたコンピュータとから形成された磁気カード読み取りシステムにおいて、
前記磁気ヘッドが、前記磁気カードに記憶されたデータをアナログ信号に変換するコイルを備えたコアと、前記コイルに電気的に接続され、前記アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換(器)と、前記A/D変換(器)に電気的に接続され、作成したアルゴリズムに基づいて前記デジタル信号を暗号化するICとから形成され、前記コアと前記A/D変換チップと前記ICとが、前記磁気ヘッドの外周面を包被するハウジングの内部に収納され、前記A/D変換(器)と前記ICとが、前記ハウジングの内部に合成樹脂を介して固定され、
前記コンピュータが、前記ICに電気的に接続され、前記磁気カードに記憶されたデータを暗号化するための鍵と暗号化されたデータを復号化するための鍵とを生成する鍵生成手段と、前記鍵生成手段を介して生成した前記(磁気カードに記憶されたデータを暗号化するための)鍵を前記磁気ヘッドのICへ出力する鍵出力手段とを実行し、
前記システムでは、前記コンピュータが前記(磁気カードに記憶されたデータを暗号化するための)鍵と前記(暗号化されたデータを復号化するための)鍵とを生成かつ出力し、前記デジタル信号が前記A/D変換(器)から前記ICに入力されると、前記ICが前記コンピュータから入力された前記(磁気カードに記憶されたデータを暗号化するための)鍵を使用してアルゴリズムを作成し、作成したアルゴリズムに基づいて前記デジタル信号を暗号化するとともに、暗号化した前記デジタル信号を前記コンピュータへ出力し、前記コンピュータが前記(暗号化されたデータを復号化するための)鍵を使用してアルゴリズムを作成し、作成したアルゴリズムに基づいて暗号化された前記デジタル信号を復号化する前記磁気カード読み取りシステム。」

そして、次の点で相違する。

<相違点>

(a)「A/D変換器」について、本願補正発明は、「チップ」であるのに対し、引用発明は、「1チップマイクロコンピユータからなる制御部」に「内蔵」されたものである点。

(b)「コンピュータ」について、本願補正発明は、「前記磁気カードリーダから前記磁気カードのカード挿入信号が入力されると、前記磁気カードに記憶されたデータの読み取り開始指令を前記ICに出力し」、「前記磁気カードリーダから前記磁気カードのカード通過信号が入力されると、前記磁気カードに記憶されたデータの読み取り停止指令を前記ICに出力」するのに対し、引用発明は、そのようになされていない点。

(c)「鍵」について、本願補正発明は、「前記磁気カードに記憶されたデータを暗号化するための公開鍵と暗号化されたデータを復号化するための秘密鍵と」を用いるのに対し、引用発明は、「前記磁気カードに記憶されたデータを暗号化するための鍵と暗号化されたデータを復号化するための鍵と」が共通である点。

(d)「コンピュータ」について、本願補正発明は、「前記カード挿入信号が前記磁気カードリーダから前記コンピュータに入力される度毎に、」「鍵」を「生成かつ出力」するのに対し、引用発明は、「磁気ヘッドから受信した暗号化されたカードデータが正常に復号されると、」「鍵」を「生成かつ出力」する点。

4.判断

そこで、上記各相違点について検討する。

相違点(a)について
「A/D変換器」を「1チップマイクロコンピユータからなる制御部」に「内蔵」させるか、別個の「チップ」で構成するかは、当業者が適宜選択し得ることであるから、引用発明において、「A/D変換器」を別個の「チップ」で構成するようにすることは当業者が容易に想到できたものである。


相違点(b)について
カードの挿入検知センサ及び通過検知センサが設けられたカード処理装置において、カードを通過検知センサで検知することによりデータの読み取りを制御することは周知である(例えば、前置報告書において提示された特許第2695482号公報7欄5?12行の記載等参照)から、引用発明において、磁気カードの挿入、通過を検出するセンサを設けて、「コンピュータ」が「前記磁気カードリーダから前記磁気カードのカード挿入信号が入力されると、前記磁気カードに記憶されたデータの読み取り開始指令を前記ICに出力し」、「前記磁気カードリーダから前記磁気カードのカード通過信号が入力されると、前記磁気カードに記憶されたデータの読み取り停止指令を前記ICに出力」するようにすることは当業者が容易に想到できたものである。

相違点(c)について
引用例には、カードデータを暗号化する手法としてデータ暗号化規格(DES)に換えて、RSA暗号化方式を採用してもよいこと(上記摘示事項(5))が記載されているから、引用発明において、「前記磁気カードに記憶されたデータを暗号化するための公開鍵と暗号化されたデータを復号化するための秘密鍵と」を用いるようにすることは当業者が容易に想到できたものである。

相違点(d)について
引用発明は、「キー(鍵)を、1個の暗号化されたカードデータを情報処理部へ送信する毎に」「更新」するものであるが、「新たにキー(鍵)を生成」するタイミングを「1個の暗号化されたカードデータを情報処理部へ送信する」前後のいずれにするかは、当業者が適宜選択し得ることであるから、当該タイミングを「1個の暗号化されたカードデータを情報処理部へ送信する」前である、磁気カードに記憶されたデータの読み取り開始時とし、「前記カード挿入信号が前記磁気カードリーダから前記コンピュータに入力される度毎に、前記コンピュータが」「鍵」を「生成かつ出力」するようにすることは当業者が容易に想到できたものである。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても、本願補正発明が奏する効果は引用例、周知技術及び技術常識から、当業者が十分に予測できたものであって、格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.本件補正についてのむすび

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

1.本願発明

平成18年8月29日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至2にかかる発明は、平成18年2月16日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至2に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1にかかる発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1.」に本件補正前の請求項1として記載したとおりである。

2.引用例及びその記載

現査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2[理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記「第2[理由]3.4.」で検討した本願補正発明から、概略、発明特定事項である「カード挿入信号」を「カード読み取り信号」と上位概念化し、「コンピュータ」について「前記磁気カードに記憶されたデータの読み取り開始指令を前記ICに出力しつつ、」及び「前記磁気カードリーダから前記磁気カードのカード通過信号が入力されると、前記磁気カードに記憶されたデータの読み取り停止指令を前記ICに出力し、」との構成を削除したものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2[理由]3.4.」に記載したとおり、引用例に記載された発明、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例に記載された発明、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-09 
結審通知日 2009-10-13 
審決日 2009-10-26 
出願番号 特願2002-109052(P2002-109052)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 富澤 哲生  
特許庁審判長 小松 正
特許庁審判官 関谷 隆一
▲吉▼澤 雅博
発明の名称 磁気カード読み取りシステム  
代理人 小林 義孝  

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