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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 G02B 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1230699 |
審判番号 | 不服2009-2978 |
総通号数 | 135 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-03-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-02-09 |
確定日 | 2011-01-17 |
事件の表示 | 特願2004-259938「ズームレンズ及び撮像装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月23日出願公開、特開2006- 78581〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成16年(2004年)年9月7日の出願(特願2004-259938号)であって、平成20年12月8日付けで手続補正がなされ、平成20年12月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成21年2月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年3月2日付けで手続補正がなされたものである。 第2 平成21年3月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定について [補正の却下の決定の結論] 平成21年3月2日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1及び4に係る発明は、それぞれ、平成20年12月8日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び4に記載の、 「【請求項1】 物体側より順に、負の屈折力を有する第1レンズ群と、正の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群とが配列されて成り、上記第1レンズ群が物体側より順に配列された、負レンズと、少なくとも1面の非球面を有する正レンズとで構成され、以下の条件式(1)を満足する ズームレンズ。 (1)0.4<D1/fw≦0.62 但し、 D1:第1レンズ群の最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの距離 fw:広角端での焦点距離 とする。」 及び 「【請求項4】 上記第2レンズ群中に正レンズと、少なくとも1枚の負レンズとで構成される接合レンズを有し、上記接合レンズが以下の条件式(2)及び(3)を満足する 請求項1に記載のズームレンズ。 (2)0.05<|Ndp-Ndn|<0.4 (3)2.0<|νdp-νdn|<50.0 但し、 Ndp:接合レンズを構成する正レンズのd線での屈折率 Ndn:接合レンズを構成する負レンズのd線での屈折率 νdp:接合レンズを構成する正レンズのアッベ数 νdn:接合レンズを構成する負レンズのアッベ数 とする。」が 「【請求項1】 物体側より順に、負の屈折力を有する第1レンズ群と、正の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群とが配列されて成り、上記第1レンズ群が物体側より順に配列された、負レンズと、少なくとも1面の非球面を有する正レンズとで構成され、 上記第2レンズ群が、物体側より順に配列された正の単レンズと、正レンズと負レンズの接合レンズとから成り、 上記正の単レンズの少なくとも1面が非球面であり、 以下の条件式(1)を満足する ズームレンズ。 (1)0.4<D1/fw≦0.62 但し、 D1:第1レンズ群の最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの距離fw:広角端での焦点距離 とする。」 及び 「【請求項4】 上記接合レンズが以下の条件式(2)及び(3)を満足する 請求項1に記載のズームレンズ。 (2)0.05<|Ndp-Ndn|<0.4 (3)2.0<|νdp-νdn|<50.0 但し、 Ndp:接合レンズを構成する正レンズのd線での屈折率 Ndn:接合レンズを構成する負レンズのd線での屈折率 νdp:接合レンズを構成する正レンズのアッベ数 νdn:接合レンズを構成する負レンズのアッベ数 とする。」と補正された。 補正後の特許請求の範囲の請求項1及び4に係る発明を、以下、それぞれ、「本願補正発明1」及び「本願補正発明4」という。 2 新規事項追加の違反についての検討 (1)本件補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1及び4に対して「第2レンズ群が、物体側より順に配列された正の単レンズと、正レンズと負レンズの接合レンズとから成り、上記正の単レンズの少なくとも1面が非球面であ」ることが追加して特定された。 そして、上記特定により、本願補正発明1及び4は、「負の屈折力を有する第1レンズ群と、正の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群」の構造に関して、第1レンズ群及び第2レンズ群の構造のみについて、 「第1レンズ群が物体側より順に配列された、負レンズと、少なくとも1面の非球面を有する正レンズとで構成され、 第2レンズ群が、物体側より順に配列された正の単レンズと、正レンズと負レンズの接合レンズとから成り、 上記正の単レンズの少なくとも1面が非球面」 であると特定され、第3レンズ群については特定されていない。 (2)これに対して、願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書の発明の詳細な説明及び図面には、本願補正発明1及び4の、第2レンズ群の各レンズ構造に関連した事項として、次の事項が認められる。 (i)「【請求項2】 上記各レンズ群中に、少なくとも1面の非球面を有する正レンズを有することを特徴とする請求項1に記載のズームレンズ。」 (同様の記載が、【請求項14】及び発明の詳細な説明の【0028】段落に認められる。) (ii)「【請求項4】 上記第2レンズ群中に正レンズと、少なくとも1枚の負レンズとで構成される接合レンズを有し、」 (同様の記載が、【請求項5】、【請求項6】、【請求項17】及び【請求項18】並びに発明の詳細な説明の【0021】及び【0031】の各段落に認められる。) (iii)「【0039】 図1は第1の実施の形態のレンズ構成を示す図である。第1の実施の形態にかかるズームレンズは、物体側より順に、負の屈折力を有する第1レンズ群GR1、正の屈折力を有する第2レンズ群GR2、正の屈折力を有する第3レンズ群GR3が配列されて成る。そして、第1レンズ群GR1は、像側に強い曲率の凹面を有する負レンズG1と、両面に非球面を有する正レンズG2とで構成される。第2レンズ群GR2は、両面に非球面を有する正レンズG3と、正レンズG4と負レンズG5の接合レンズとで構成されている。第3レンズ群GR3は、両面に非球面を有する正レンズG6で構成される。」 (上記【0039】段落の記載は「第1の実施の形態」に関する記載であるが、「第4の実施の形態」に関する上記【0039】段落の記載と同様の記載が【0065】の各段落に認められる。) (iv)「【表1】(第1の実施の形態に具体的数値を適用した数値実施例1の光学系のデータ) 」 (上記【表1】のデータは「第1の実施の形態」に関するデータであるが、「第4の実施の形態」に関する上記【表1】のデータと対応するデータが【表10】に認められる。) (v)「【表3】(非球面のデータ) 」 (上記【表3】のデータは「第1の実施の形態」に関するデータであるが、「第4の実施の形態」に関する上記【表3】のデータと対応するデータが【表12】に認められる。) (vi)「【図1】(本発明ズームレンズの第1の実施の形態のレンズ構成を示す概略図) 」 (上記【図1】は「第1の実施の形態」に関する図面であるが、「第4の実施の形態」に関する上記【図1】と対応する図面が【図13】に認められる。) (3)上記(2)の(i)ないし(vi)の記載について、本願補正発明1及び4の「負の屈折力を有する第1レンズ群と、正の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群」の各レンズ構造に関する上記の特定(以下単に「本願補正発明1及び4の各レンズ構造」という。)と照らし合わせることにより、本件補正による本願補正発明1及び4の各レンズ構造が、願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書の発明の詳細な説明及び図面に直接記載(開示)されている事項であるかについて検討する。 ア 上記(i)は、第1?3の全てのレンズ群が少なくとも1面の非球面を有する正レンズを含むことを意味しているから、第1レンズ群及び第2レンズ群の非球面についてのみの特定があり、第3レンズ群の構造については特定されない本願補正発明1及び4の各レンズ構造は、上記(i)によって直接開示されているということはできない。 イ 上記(ii)は、第2レンズ群が正レンズと、少なくとも1枚の負レンズとで構成される接合レンズを含むことまでは開示しているといえるが、それが、物体側より順に配列された正の単レンズと、正レンズと負レンズの接合レンズとから成るものとまでは、開示しているということはできず、また、第2レンズ群の単レンズの少なくとも1面が非球面であることは何ら開示していないのであるから、本願補正発明1及び4の各レンズ構造は、上記(ii)によって直接開示されているということはできない。 ウ 上記(iii)は、第1レンズ群ないし第3レンズ群の構造をまとめて特定することを前提としていることから、第3レンズ群の構造については特定されない本願補正発明1及び4の各レンズ構造は、上記(iii)によって直接開示されているということはできない。さらに、上記(iii)による第2レンズ群の非球面については、「両面に非球面を有する正レンズ」とされ、第2レンズ群の単レンズの少なくとも1面が非球面であると特定される本願補正発明1及び4の各レンズ構造は、上記(iii)によって直接開示されているということはできない。 エ 上記(iv)ないし(vi)は、全体として実施例1(及び実施例4)の第1レンズ群ないし第3レンズ群の各レンズ構造を開示するものであるから、第3レンズ群の構造については特定されない本願補正発明1及び4の各レンズ構造は、上記(iv)ないし(vi)によって直接開示されているということはできない。また、上記(v)から、第1ないし3群の非球面レンズはいずれも両面非球面レンズであるから、第1レンズ群及び第2レンズ群の非球面レンズについて「少なくとも1面が非球面である」と特定される本願補正発明1及び4の各レンズ構造は、上記(v)によって直接開示されているということはできない。 以上のとおりであるから、本件補正による本願補正発明1及び本願補正発明4の補正は、願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載に直接開示された事項に基づくものではないことは明らかである。 (4)次に、本件補正による本願補正発明1及び本願補正発明4の補正が、上記(2)の(iv)ないし(vi)の記載から、その一部の事項を抽出し、当該抽出事項を特定してなされた補正であるということもできるので、そのような補正が、新しい技術的事項を追加する補正であるか、すなわち、願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を逸脱したものといえるかについて、さらに、検討する。 この点に関して、本願補正発明4は 「上記第2レンズ群中に正レンズと、少なくとも1枚の負レンズとで構成される接合レンズを有し、上記接合レンズが以下の条件式(2)及び(3)を満足する 請求項1に記載のズームレンズ。 (2)0.05<|Ndp-Ndn|<0.4 (3)2.0<|νdp-νdn|<50.0 但し、 Ndp:接合レンズを構成する正レンズのd線での屈折率 Ndn:接合レンズを構成する負レンズのd線での屈折率 νdp:接合レンズを構成する正レンズのアッベ数 νdn:接合レンズを構成する負レンズのアッベ数 とする。」 という特定事項を含み、そして、上記事項の技術的意味について、本願明細書の発明の詳細な説明には次のように記載されている。 「【0032】 (2)0.05<|Ndp-Ndn|<0.4 (3)2.0<|νdp-νdn|<50.0 上記条件式(2)及び(3)は、第2レンズ群GR2に含まれる接合レンズを構成する各レンズの屈折率とアッベ数を規定したものである。各条件式に示す数値が規定した範囲を外れると、非点収差と倍率色収差を補正することが困難になってしまう。」 上記明細書の記載から、本願補正発明4における特定は、非点収差と倍率色収差を補正するための条件であることがわかる。そして、上記のような収差の補正に関しては、第2レンズ群の接合レンズの構造のみならず、第1レンズ群ないし第3レンズ群の各レンズ構造が影響を与えるものであることは技術常識から明らかである。 そうすると、本願補正発明4において、第1レンズ群ないし第3レンズ群の各レンズ構造は、相互に関連を有し、その全体の構造が記載された事項の中における一部の構造は、他の部分の構造との相互作用で初めて上記技術的意義を認めることができるものであるといえる。よって、上記(2)の(iv)ないし(vi)の記載から、その一部の事項を抽出し、当該抽出事項を特定してなされた補正は、願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を逸脱したものであるといえる。 (5)以上のとおり、本件補正による本願補正発明1及び本願補正発明4の補正が、願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載に直接開示された事項に基づく補正ではないこと、及び、相互に関連を有する構造のうちの一部を抽出して特定した補正であること、にかんがみれば、本件補正による本願補正発明1及び本願補正発明4の補正は、願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載された範囲内においてなされたものということができないから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下する。 3 独立特許要件違反についての検討 上記のように本件補正は新規事項を追加する補正であることは明らかであるが、念のため、本件補正が新規事項を追加する補正ではなく、特許請求の範囲について、いわゆる限定的に減縮することを目的とする補正、すなわち、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とする補正であるとした場合に、本願補正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。 (1)本願補正発明1 本願補正発明1は、平成21年3月2日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記「第2 平成21年3月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。) (2)引用例 ア 本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-4765号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(後述の「イ 引用例1に記載された発明の認定」において発明の認定に直接関係する記載に下線を付した。) 「【0001】 【技術分野】 本発明は、主に電子スチルカメラ(デジタルカメラ)に用いられる、ズーム比(変倍比)2?3倍程度で広角域(半画角30°以上)を含むズームレンズ系に関する。 【0002】 【従来技術及びその問題点】 近年、デジタルカメラの小型化と高精細化のニーズが高まり、CCD撮像素子の画素が微細化されている。そのためデジタルカメラの撮影レンズは、高解像度であることが要求される。さらにフィルター類を配置するために長いバックフォーカスも必要とされる。また、カラーCCD用の光学系は、シェーディングや色ずれ防止のために、レンズ最終面からの射出光が撮像面にできるだけ垂直に入射する、いわゆるテレセントリック性の良いことが求められる。 【0003】 コンパクトタイプのデジカメ用小型ズームレンズ系として、ズーム比2?3倍程度のものは、負レンズ先行型(ネガティブリード型)のレンズ系(テレフォトタイプ)が良く用いられる。これらのレンズ系では短焦点距離端の広角化とレンズ系の小型化、特に前玉(最も物体側のレンズ)の小径化ができるため、収納時にレンズ群の間隔を圧縮して収納するいわゆる沈胴ズーム用に適している。また、射出瞳位置を像面より十分遠方にする必要から、物体側から順に負正正の3成分からなるいわゆる3群ズームレンズ系がよく用いられる。このような3群ズームレンズ系は、例えば、特開平10‐213745号公報、同10‐170826号公報等で提案されている。 【0004】 しかし、特開平10‐213745号公報では、レンズ枚数を削減し小型化を図っているが、焦点距離に対して前玉径やレンズ全長が大きく、小型化が十分達成されているとは言えない。また、同10‐170826号公報では、小型化を達成したテレセントリック光学系が提案されているが、構成枚数が7枚と多いため、レンズ系の沈胴収納長が長くなり、カメラが大型化してしまう問題がある。小型沈胴式カメラ用のズームレンズ系は、カメラ本体の小型化のために前玉径とレンズ全長が小さいことに加えて、各レンズ群の厚さも小さいことが求められている。一般的にレンズ系の小型化や群厚を小さくするために構成枚数を削減すると、収差補正の難易度が増す。小型化を図りながら全変倍範囲に渡り諸収差を良好に補正するためには、適切な各レンズ群の屈折力配置やレンズ構成が必要とな る。 【0005】 【発明の目的】 本発明は、テレフォトタイプの3群ズームレンズ系であって、ズーム比が2?3倍程度の広角域(半画角30°以上)を含む小型のデジタルカメラ用ズームレンズ系を得ることを目的とする。また、本発明は、3群ズームレンズ系の2群レンズ中に両面非球面の正単レンズを含む構成において、該第2レンズ群の偏芯に起因する収差劣化の感度を低減することができるズームレンズ系を得ることを目的とする。 【0006】 【発明の概要】 本発明のズームレンズ系は、その第一の態様によると、物体側から順に、負の屈折力を有する第1レンズ群と、正の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群とからなり、短焦点距離端から長焦点距離端へのズーミングに際し、前記第1レンズ群と第2レンズ群の間隔は減少し、第2レンズ群と第3レンズ群の間隔は増大するように移動し、次の条件式(1)ないし(3)を満足することを特徴としている。 (1)0.4<(fw・ft)^(1/2)/|f1|<0.8 (f1<0) (2)0.7<(fw・ft)^(1/2)/f2<1.4 (3)0.4<(fw・ft)^(1/2)/f3<0.9 但し、 fw:短焦点距離端での全系焦点距離、 ft:長焦点距離端での全系焦点距離、 fi:第iレンズ群の焦点距離(i=1?3)、 である。 【0007】 第2レンズ群の最も像側のレンズは、像側に凹面を向けたレンズから構成するのが好ましく、さらに次の条件式(4)を満足させるのが好ましい。 (4)0.4<|Rs|/fw<0.8 但し、 Rs:上記像側に凹面を有するレンズの像側の面の曲率半径、 である。 【0008】 各レンズ群の具体的な構成としては、第1レンズ群は、物体側から順に、負レンズ1枚と正レンズ1枚で構成し、第2レンズ群は、物体側から順に、正レンズ2枚と負レンズ1枚で構成し、第3レンズ群は正レンズ1枚で構成することができる。」 「【0020】 沈胴収納時の長さを短くするためには、各レンズ群の構成枚数を減らす必要がある。具体的には、第1レンズ群10を負正の2枚で構成し、主なる変倍作用を担う第2レンズ群20は正レンズ2枚と負レンズ1枚で構成し、テレセントリック性を確保する役割の第3レンズ群30は正レンズ1枚で構成することが可能である。 【0021】 さらに、第1レンズ群中の正の屈折力の第2レンズは少なくとも1面を非球面とすると、短焦点距離端での歪曲収差やコマ収差・非点収差等の軸外収差を良好に補正することが可能となる。また上記非球面レンズは、ガラスまたはプラスチックで作製されるが、プラスチックレンズとするとコスト低減が可能となる。 【0022】 さらに収納時の長さを短くするためには、上記第2レンズ群20は、3枚構成に代えて、正負の2枚で構成することも可能である。この構成では、1枚の正レンズの屈折力が強くなるため、変倍に伴う球面収差等の収差変動を抑えるのが難しくなる。このとき、正レンズは少なくとも1面を非球面とすることが好ましく、両面を非球面とすると、変倍による変動する球面収差、コマ収差を小さくすることができる。さらに、条件式(5)を満足させることが好ましい。条件式(5)の下限を超えると、変倍に伴う軸上・倍率色収差の変動が大きくなり、良好な結像性能が保てなくなる。 【0023】 第2レンズ群20の最も物体側の正レンズは、非球面を設けるとさらに良好な結像性能となる。物体側面または像側面の少なくともいずれか一方を周辺に向かうに従って正の屈折力が弱くなる非球面にすることにより、全焦点距離範囲において球面収差の変動を小さくでき、また長焦点距離側でのコマ収差をさらに良好に補正することが可能となる。この非球面レンズはガラスまたはプラスチックのどちらでも作製可能であるが、屈折力が強いためにガラスレンズとすることが好ましい。 【0024】 第2レンズ群20の最も物体側の正レンズ21は、両面非球面レンズとするのがより好ましい。すなわち、第2レンズ群20は、物体側から順に、正の単レンズ21と、負の単レンズまたは全体として負の接合レンズ(22、23)とから構成し、正単レンズ21を両面とも非球面とする。そして、この両面非球面正単レンズに、条件式(6)と(7)を満足させる。」 「【0039】 [実施例1] 図1ないし図4は、本発明のズームレンズ系の実施例1を示す。図1はレンズ構成図であり、第1レンズ群10は、物体側から順に、負レンズ11と正レンズ12とからなり、第2レンズ群20は、物体側から順に、正レンズ21と、正レンズ22と負レンズ23の貼合せレンズとからなり、第3レンズ群30は、正の単レンズからなっている。CGは、撮像素子の前に位置するカバーガラス(フィルター類)である。絞りは第5面の前方(物体側)0.7の位置に配置されていて、ズーミングに際し第2レンズ群20と一体で移動する。図2、図3、図4はそれぞれ、このズームレンズ系の短焦点距離端、中間焦点距離、及び長焦点距離端における諸収差図、表1はその数値データである。」 「【0049】 [実施例6] 図21は、本発明のズームレンズ系の実施例6のレンズ構成図を示し、図22、図23及び図24は、それぞれ、このズームレンズ系の短焦点距離端、中間焦点距離、及び長焦点距離端における諸収差図、表6はその数値データである。基本的なレンズ構成は、実施例1と同様である。絞りは第5面の前方(物体側)0.50の位置に配置されていて、ズーミングに際し第2レンズ群20と一体で移動する。 【0050】 【表6】 FNO.=1:2.7‐3.5‐5.3 f=5.80‐9.60‐17.40(ズーム比=3.0) W=33.1‐20.7‐11.8 fB=0.00‐0.00‐0.00 面NO. r d Nd νd 1 1070.671 0.70 1.88300 40.8 2 7.320 1.50 3* 15.066 1.80 1.84666 23.8 4* 209.571 15.54‐7.68‐2.28 5* 6.208 1.80 1.58913 61.2 6* -16.525 0.20 7 9.199 1.80 1.83400 37.2 8 48.765 1.80 1.84666 23.8 9 3.565 3.20-6.92-14.19 10 16.660 1.90 1.65160 58.5 11 -15.068 2.40-2.27-2.02 12 ∞ 2.00 1.51633 64.1 13 ∞ *は回転対称非球面。 (以下略)」 「【図21】(本発明によるズームレンズ系の実施例6のレンズ構成図) 」 イ 引用例1に記載された発明の認定 【0050】段落の【表6】から、第1レンズ群の最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの距離は、D1=0.7+1.5+1.8=4.0、広角端での焦点距離は、fw=5.8であるから、D1/fw≒0.6897であり、0.4<D1/fw≦0.69を満たすことは明らかである。 上記記載(図面及び表のデータを含む)から、引用例1には、 「物体側から順に、負の屈折力を有する第1レンズ群10と、正の屈折力を有する第2レンズ群20と、正の屈折力を有する第3レンズ群30とからなり、 第1レンズ群10は、物体側から順に、負レンズ11と正レンズ12とからなり、第2レンズ群20は、物体側から順に、正レンズ21と、正レンズ22と負レンズ23の貼合せレンズとからなり、 第1レンズ群10の正レンズ12は少なくとも1面を非球面とし、 第2レンズ群20の最も物体側の正レンズ21は両面非球面レンズとし、 以下の条件式(1)を満足する ズームレンズ系。 (1)0.4<D1/fw≦0.69 但し、 D1:第1レンズ群の最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの距離fw:広角端での焦点距離とする。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 ウ 本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-191599号公報(以下「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。 「【0040】 3群ズームレンズにおいて非使用時の光学全長(レンズ系全体の最も物体側のレンズ面の頂点から固体撮像素子の撮像面までの距離)を短くするには、3つのレンズ群の全長を短くするとよい。そこで、後述のように、3つのレンズ群は、いずれも構成枚数を少なくするとともに、各レンズ群の全長を極力短くするようにしている。 【0041】 ここで、コンパクトタイプの電子スチルカメラでは、非使用時光学全長を短くするとともに、ズームレンズ鏡筒の外径を小さくすることが要望される。円筒カムの回転角は例えば120°以下と上限があるため、円筒カムの直径を小さくすると、カム溝の傾斜角が大きくなり、第1レンズ群10と第2レンズ群20を滑らかに移動させることが困難となる。 【0042】 また、鏡筒は1つの固定鏡筒と、1つ又は複数の移動鏡筒により構成され、沈胴時の光学全長を短くするには固定鏡筒と移動鏡筒を短くする必要がある。しかしながら、沈胴時光学全長に対して使用時光学全長の最大値の比が大きい場合には、第1レンズ群10と第2レンズ群20とが互いに偏心しやすくなり、レンズ系全体の結像特性が劣化する。これらの問題の解決には、使用時光学全長の最大値を短くすることが有効である。 【0043】 そこで、本発明は後述のように、広角端における光学全長と望遠端における光学全長との差を小さくすることにより、使用時光学全長の最大値を短くしている。また、第2レンズ群20の焦点距離と第3レンズ群30の焦点距離とを適切に設定し、第4レンズ4の焦点距離と第8レンズ8の焦点距離を適切に設定することにより、結像特性が良好になるようにした上で使用時光学全長を短くしている。 【0044】 負正の2群ズームレンズの使用時光学全長は、広角端又は望遠端で最長となり、途中のズーム位置で最短となる。2群ズームレンズの像側に正パワーで位置固定の第3レンズ群を配置すると、やはり、広角端又は望遠端で最長となり、途中のズーム位置で最短となる。 【0045】 本発明に係るズームレンズは、各レンズ群の全長を短くするために、以下のような特徴を備えている。図1に示したように、第1レンズ群10は、その全長を短くするために、物体側から順に、負レンズ(第レンズ1)、負レンズ(第2レンズ2)、正レンズ(第3レンズ3)の3枚のレンズで構成している。第1レンズは、曲率の強い面を像側に向けた負メニスカスレンズであり、第2レンズは、曲率の強い面を像側に向けた負メニスカスレンズであり、第3レンズは、曲率の強い面を物体側に向けた正レンズである。」 エ 本願の出願前に頒布された刊行物である特開2004-37700号公報(以下「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。 「【0036】 第2レンズ群L2は、物体側より順に、独立した正レンズと負レンズを有し、無限遠物体に合焦しているときの該第2レンズ群L2と第3レンズ群L3との広角端と望遠端における間隔を各々d23W、d23T、広角端における全系の焦点距離をfw、第2レンズ群L2の正レンズの像側のレンズ面から第2レンズ群L2の負レンズの像側のレンズ面までの距離をD2a、第2レンズ群L2の正レンズの材料のアッベ数をνp、負レンズの材料のアッベ数をνnとするとき、 0.2 < d23W/fw < 1.0 ・・・(1) 0.2 < d23T/fw < 1.0 ・・・(2) 0.1 < D2a/fw < 0.3 ・・・(3) 15 <νp-νn ・・・(4) の条件式の1以上を満足している。 【0037】 次に各条件式の意味について説明する。」 「【0043】 条件式(3)の上限値を超えて、距離D2aが大きくなり過ぎると、第2レンズ群L2全体の軸上厚が大きくなるので、沈胴厚が大きくなってしまうので良くない。」 (3)本願補正発明1と引用発明1の対比 ア 対比・一致点 本願補正発明1と引用発明1を対比すると、本願補正発明1の「条件式(1)0.4<D1/fw≦0.62」が引用発明1の「条件式(1)0.4<D1/fw≦0.69」に包含されることを勘案すれば、両者は、 「物体側より順に、負の屈折力を有する第1レンズ群と、正の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群とが配列されて成り、上記第1レンズ群が物体側より順に配列された、負レンズと、少なくとも1面の非球面を有する正レンズとで構成され、 上記第2レンズ群が、物体側より順に配列された正の単レンズと、正レンズと負レンズの接合レンズとから成り、 上記正の単レンズの少なくとも1面が非球面であり、 以下の条件式(1)を満足する ズームレンズ系。 (1)0.4<D1/fw≦0.69 但し、 D1:第1レンズ群の最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの距離fw:広角端での焦点距離とする。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。 イ 相違点 第1レンズ群について、本願補正発明1においては、条件式(1)において,上限が「D1/fw≦0.62」で特定されるのに対し、引用発明1においては、その点の限定がない点。 (4)当審の判断 ア 上記相違点について検討する。 引用例2、3には、ズームレンズにおいて沈胴時の光学全長を短くするために各レンズ群の光学全長を短くすることが記載されており、沈胴時の光学全長を短くために各レンズ群の光学全長を短くすることは、ズームレンズにおける周知の設計指針の1つであるといえる。 引用発明1においても、上記周知の設計指針に従って、 条件式におけるD1/fw小さくすることは、当業者が通常の創作活動の反復実施により到達し得たことである。そして、その際、本願明細書発明の詳細な説明を参酌しても、本願補正発明1の「0.62 」の臨界的意義は不明であり、条件式(1)の上限を0.62と特定することは単なる設計的事項に過ぎない。 イ 本願補正発明1の奏する作用効果 そして、本願補正発明1によってもたらされる効果は、引用発明1及び周知の設計指針から当業者が予測し得る程度のものである。 ウ まとめ 以上のとおり、本願補正発明1は、引用例1に記載された発明及び周知の設計指針に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3 むすび したがって、本願補正発明1は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成21年3月2日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成20年12月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成21年3月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。) 2 特許法第29条第2項の規定の違反について (1)引用例 ア 原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-372667号公報(以下「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。(後述の「イ 引用例4に記載された発明の認定」において発明の認定に直接関係する記載に下線を付した。) 「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、ズームレンズ、特にデジタルカメラやビデオカメラ等に用いられ、変倍比が2.5倍以上で広角端の画角が60°以上のコンパクトなCCD(電荷結合素子)用ズームレンズに関する。」 「【0004】 【課題を解決するための手段】本発明のズームレンズは、以下の構成を取ることによってその目的を達することが出来た。すなわち、本発明のズームレンズは、物体側から順に、負の屈折力を有する第1レンズ群、正の屈折力を有する第2レンズ群、正の屈折力を有する第3レンズ群から構成され、短焦点端から長焦点端への変倍に際し、各群の間隔を変えることにより変倍を行うズームレンズにおいて、前記第2レンズ群は物体側から順に、少なくとも正の2aレンズ、正の2bレンズ、負の2cレンズを含み、さらにその最も像側に位置するレンズが像側に凸面を向けたメニスカス形状で、少なくとも1面に非球面を有するレンズであることを特徴とする。また、前記第1レンズ群は3枚以下のレンズからなり、前記第2レンズ群が物体側から順に、少なくとも正の2aレンズ、正の2bレンズ、負の2cレンズを含み、さらにその最も像側に位置するレンズが少なくとも1面に非球面を有するレンズであることを特徴とする。さらに、物体側から順に、少なくとも正の2aレンズ、正の2bレンズ、負の2cレンズを含み、その最も像側に位置するレンズが少なくとも1面に非球面を有するプラスチックレンズであることを特徴とする。そして、前記2a、2b、2cレンズは研磨加工によるガラス球面レンズである。」 「【0015】第1レンズ群を物体側から順に、負レンズ、正レンズの2枚構成とすることにより、レンズ厚や前玉径の小さいコンパクトな光学系とすることが出来る。負レンズ、負レンズ、正レンズの3枚構成とすると、負のパワーを分割して小さくできるので、この群で発生する負の歪曲収差等を良好に補正することが出来る。 【0016】第1レンズ群にある負レンズの曲率の大きい面や、第3レンズ群に非球面を使用することにより、歪曲収差や非点収差等を効果的に補正することが出来る。さらにガラス球面レンズと非球面樹脂とを複合化することで、プラスチックレンズに比べ、硝種の選択幅が広がり、諸収差の補正効果が大きくなる。ただし、第3レンズ群ではプラスチックレンズ相当の屈折率でも良好に収差が補正される場合もあるため、この群にガラスより軽いプラスチックレンズを使用することにより、ズーミングやフォーカシングで第3レンズ群を移動させる際の駆動機構に与える負荷が少なくて済む。第3レンズ群にプラスチックレンズを使用した際、ここを通過する軸上光線の高さが低いので、温度変化による屈折率変化やレンズ形状変化が生じても、結像位置の変動は比較的小さくて済む。なお、第1、第3レンズ群に使用する非球面にガラスモールド非球面を使用しても良好な光学性能を保つことが出来る。」 「【0022】第1実施例のレンズデータを以下の表に示す。また、この実施例のレンズ断面を図1に、収差図を図7に示す。1aレンズは複合非球面レンズ(面No.1?3)、第2レンズ群中の非球面レンズはプラスチック非球面レンズ(面No.11?12)、3aレンズは複合非球面レンズ(面No.13?15)である。 f=8.25?23.35 絞り位置:第6面前方0.30mm 面No. r d nd νd 1 149.804 0.95 1.88300 40.8 2 8.946 0.05 1.50706 53.6 3 7.469 2.44 4 12.503 1.83 1.84666 23.8 5 33.629 d5(可変) 6 19.191 1.83 1.88300 40.8 7 -57.513 0.20 8 7.684 1.99 1.72916 54.7 9 -160.000 2.68 1.84666 23.8 10 6.023 1.68 11 -8.232 1.05 1.52500 56.0 12 -7.980 d12(可変) 13 41.287 2.35 1.58913 61.2 14 -17.932 0.05 1.50706 53.6 15 -21.599 d15(可変) 16 ∞ 1.35 1.54880 67.0 17 ∞ 0.39 18 ∞ 0.50 1.51633 64.1 19 ∞ 可変面間隔 f d5 d12 d15 8.25 17.84 4.20 3.16 14.22 7.64 10.31 2.95 23.35 1.96 19.13 2.95 (以下略)」 「【図1】(本発明のズームレンズの第1実施例の断面図) 」 イ 引用例4に記載された発明の認定 【0022】段落の表に示されたデータから、第1レンズ群の最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの距離は、D1=0.95+0.05+2.44+1.83=5.27、広角端での焦点距離は、fw=8.25であるから、D1/fw≒0.639であり、0.4<D1/fw≦0.64<0.66を満たすことは明らかである。 上記記載(図面及び表のデータを含む)から、引用例4には、 「物体側から順に、負の屈折力を有する第1レンズ群、正の屈折力を有する第2レンズ群、正の屈折力を有する第3レンズ群から構成され、 第1レンズ群を物体側から順に、負レンズ、正レンズの2枚構成とし、 第1レンズ群にある負レンズの曲率の大きい面に非球面を使用し、 以下の条件式(1)を満足するズームレンズ。 (1)0.4<D1/fw<0.66 但し、 D1:第1レンズ群の最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの距離fw:広角端での焦点距離とする。」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。 (2)本願発明と引用発明2との対比 ア 対比・一致点 本願発明と引用発明2とを対比すると、 (ア)本願発明の「上記第1レンズ群が物体側より順に配列された、負レンズと、少なくとも1面の非球面を有する正レンズとで構成され」ることと、引用発明2の「第1レンズ群を物体側から順に、負レンズ、正レンズの2枚構成とし、第1レンズ群にある負レンズの曲率の大きい面に非球面を使用」することとは、「上記第1レンズ群が物体側より順に配列された、負レンズと、正レンズとで構成され、第1レンズ群は非球面を有する」点で一致すること、及び、 (イ)本願発明の「条件式(1)0.4<D1/fw≦0.62」が引用発明2の「条件式(1)0.4<D1/fw<0.66」に包含されること、 を勘案すれば、両者は、 「物体側より順に、負の屈折力を有する第1レンズ群と、正の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群とが配列されて成り、上記第1レンズ群が物体側より順に配列された、負レンズと、正レンズとで構成され、第1レンズ群は非球面を有し、 以下の条件式(1)を満足するズームレンズ系。 (1)0.4<D1/fw<0.66 但し、 D1:第1レンズ群の最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの距離fw:広角端での焦点距離とする。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。 イ 相違点 (ア)相違点1 非球面を有する第1レンズ群について、本願発明においては、第1レンズ群の正レンズが「少なくとも1面の非球面を有する」のに対し、引用発明2においては、その点の限定がない点。 (イ)相違点2 第1レンズ群について、本願発明は、条件式(1)において,上限が「D1/fw≦0.62」で特定されるのに対し、引用発明2においては、その点の限定がない点。 (3)当審の判断 ア 上記相違点について検討する。 (ア)相違点1について 諸収差を補正する目的でレンズ系を構成するレンズの屈折面を非球面とすることは広く慣用されていることであり、レンズ系において諸収差を補正するために非球面を導入する面を増やすことは当業者が容易に想到し得ることである。 引用発明2においても、非球面を含む第1レンズ群について、非球面である「負レンズの曲率の大きい面」に加えて、正レンズについても「少なくとも1面の非球面を有する」として、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易になし得たことである。 (イ)相違点2について 相違点2の条件式(1)について、その技術的意義を検討すると、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1においては、条件式(1)は「0.4<D1/fw<0.66」とされ、明細書の発明の詳細な説明の記載においては、【0025】段落で、条件式(1)を「0.4<D1/fw<0.66」と特定した上で、【0027】段落において条件式(1)の上限の技術的意義について「条件式(1)の上限を上回ると第1レンズ群GR1の厚みが厚くなり沈胴時にコンパクトにすることが困難になる。」と説明している。一方で、平成20年12月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1においては、条件式(1)は「0.4<D1/fw<0.62」とされ、明細書の発明の詳細な説明の記載においては、【0025】段落で、条件式(1)を「0.4<D1/fw<0.62」と特定した上で、【0027】段落において条件式(1)の上限の技術的意義について「条件式(1)の上限を上回ると第1レンズ群GR1の厚みが厚くなり沈胴時にコンパクトにすることが困難になる。」と説明している。 上記の願書に最初に添付された明細書の記載、及び、平成20年12月8日付けの手続補正により補正された明細書の記載を比べると、条件式(1)の上限の「0.62」と「0.66」には何らの技術的意義の差もないことは明らかであり、条件式(1)の上限を「0.62」を特定するか「0.66」と特定するかは、単なる設計上の相違に過ぎず、両者は、技術的には、実質的に同じ事項であるといえる。 すなわち、上記相違点2は、単なる設計的事項に基づく相違であって、実質的な相違点ではない。 イ 本願発明の奏する作用効果 そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明2から当業者が予測し得る程度のものである。 ウ まとめ 以上のとおり、本願発明は、引用例4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3 特許法第29条の2の規定の違反について (1)引用先願 ア 原査定の拒絶理由に引用され、本願の出願前の平成16年6月15日(国内優先権主張、平成16年4月6日)に出願され、本願の出願後に公開された特許出願である特願2004-177470号(特開2005-321744号)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「先願明細書」という。)には、次の事項が記載されている。 「【0001】 本発明は、CCDやCMOS等の撮像素子上に結像した画像を読み取るための3群構成のズームレンズに関し、詳しくは、デジタルカメラやビデオカメラに好適に用いられ、変倍比が3倍を超える小型3群ズームレンズに関する。」 「【0011】 本発明の小型3群ズームレンズは、物体側から順に、負の屈折力を有する第1レンズ群、正の屈折力を有するとともに光量調節用の絞りを有する第2レンズ群、および正の屈折力を有する第3レンズ群を配設してなり、 広角端から望遠端に向かって変倍する際に、前記第1レンズ群は、前記第2レンズ群に相対的に近づくように移動させ、前記第2レンズ群は、単調に物体側へ移動させ、前記第3レンズ群は、物体側へ移動させた後に反転して像側へ向かって移動させることにより移動軌跡が物体側に凸弧状となるように移動させ、 無限遠から近距離へ向かってフォーカシングする際に、前記第3レンズ群を物体側へ向かって移動させてなる小型3群ズームレンズにおいて、 前記第1レンズ群は、物体側から順に、像側に凹面を向けた負レンズと、物体側に凸面を向けた、少なくとも1面に非球面を有する正レンズを配設してなることを特徴とするものである。」 「【0043】 実施例1に係る小型3群ズームレンズに関する各数値を下記表1?3に示す。 表1に、各レンズ面の曲率半径R(mm)、各レンズの中心厚および各レンズ間の空気間隔(以下、これらを総称して軸上面間隔という)D(mm)、各レンズのd線における、屈折率Nおよびアッベ数νの値を示す。 なお、表中の数字は物体側からの順番を表すものである。 また、表1の最上段に、広角端および望遠端各位置における焦点距離f(mm)、FNOおよび画角2ωの値を示す。 【0044】 また、表2に、上記各非球面について、上記非球面式(本実施例においては、上記nは10とされている)の各定数KA、A3、A4、A5、A6、A7、A8、A9、A10の値を示す。 また、表3の上段に、上述した軸上面間隔Dの欄における広角端(f=6.6mm)、中間位置(f=11.7mm)および望遠端(f=20.8mm)のD4(d1)、D10(d2)、およびD12(d3)の各値を示す。また、表3の下段に、本実施例における、前述した各条件式(1)および(2)に対応する値を示す。 【0045】 本実施例においては、前述した各条件式(1)および(2)は全て満足されている。 【0046】 【表1】 」 「【0048】 【表3】 」 「【図1】(本発明の実施例1に係る小型3群ズームレンズのレンズ構成図) 」 イ 先願明細書に記載された発明の認定 【0046】段落の【表1】及び【0048】段落の【表3】に示されたデータから、第1レンズ群の最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの距離は、D1=0.7+1.75+1.75=4.2、広角端での焦点距離は、fw=6.6であるから、D1/fw≒0.636であり、0.4<D1/fw≦0.64<0.66を満たすことは明らかである。 上記記載(図面及び表のデータを含む)から、先願明細書には、 「物体側から順に、負の屈折力を有する第1レンズ群、正の屈折力を有するとともに光量調節用の絞りを有する第2レンズ群、および正の屈折力を有する第3レンズ群を配設してなり、 前記第1レンズ群は、物体側から順に、像側に凹面を向けた負レンズと、物体側に凸面を向けた、少なくとも1面に非球面を有する正レンズを配設してなり、 以下の条件式(1)を満足するズームレンズ。 (1)0.4<D1/fw<0.66 但し、 D1:第1レンズ群の最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの距離fw:広角端での焦点距離とする。」の発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。 (2)本願発明と先願発明の対比 ア 対比・一致点 本願発明と先願発明を対比すると、本願発明の「条件式(1)0.4<D1/fw≦0.62」が先願発明の「条件式(1)0.4<D1/fw<0.66」に包含されることを勘案すれば、両者は、 「物体側より順に、負の屈折力を有する第1レンズ群と、正の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群とが配列されて成り、上記第1レンズ群が物体側より順に配列された、負レンズと、正レンズとで構成され、第1レンズ群は非球面を有し、 以下の条件式(1)を満足するズームレンズ系。 (1)0.4<D1/fw<0.66 但し、 D1:第1レンズ群の最も物体側のレンズ面から最も像側のレンズ面までの距離fw:広角端での焦点距離とする。」の発明である点で一致し、次の点で一応、相違する。 イ 一応の相違点 第1レンズ群について、本願発明は、条件式(1)において,上限が「D1/fw≦0.62」で特定されるのに対し、引用発明2においては、その点の限定がない点。 (3)当審の判断 ア 上記の一応の相違点について検討する。 上記の一応の相違点の条件式(1)について、その技術的意義を検討すると、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1においては、条件式(1)は「0.4<D1/fw<0.66」とされ、明細書の発明の詳細な説明の記載においては、【0025】段落で、条件式(1)を「0.4<D1/fw<0.66」と特定した上で、【0027】段落において条件式(1)の上限の技術的意義について「条件式(1)の上限を上回ると第1レンズ群GR1の厚みが厚くなり沈胴時にコンパクトにすることが困難になる。」と説明している。一方で、平成20年12月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1においては、条件式(1)は「0.4<D1/fw<0.62」とされ、明細書の発明の詳細な説明の記載においては、【0025】段落で、条件式(1)を「0.4<D1/fw<0.62」と特定した上で、【0027】段落において条件式(1)の上限の技術的意義について「条件式(1)の上限を上回ると第1レンズ群GR1の厚みが厚くなり沈胴時にコンパクトにすることが困難になる。」と説明している。 上記の願書に最初に添付された明細書の記載、及び、平成20年12月8日付けの手続補正により補正された明細書の記載を比べると、条件式(1)の上限の「0.62」と「0.66」には何らの技術的意義の差もないことは明らかであり、条件式(1)の上限を「0.62」を特定するか「0.66」と特定するかは、単なる設計上の相違に過ぎず、両者は、技術的には、実質的に同じ事項であるといえる。 すなわち、上記の一応の相違点は、単なる設計的事項に基づく相違であって、実質的な相違点ではなく、本願発明と先願発明は実質的に同一である。 イ まとめ 以上のとおりであり、本願発明は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 また、本願発明は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-11-15 |
結審通知日 | 2010-11-18 |
審決日 | 2010-11-30 |
出願番号 | 特願2004-259938(P2004-259938) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(G02B)
P 1 8・ 16- Z (G02B) P 1 8・ 121- Z (G02B) P 1 8・ 55- Z (G02B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 瀬川 勝久 |
特許庁審判長 |
北川 清伸 |
特許庁審判官 |
岡田 吉美 森林 克郎 |
発明の名称 | ズームレンズ及び撮像装置 |
代理人 | 岩田 雅信 |