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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1231209
審判番号 不服2009-9683  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-04-15 
確定日 2011-02-17 
事件の表示 平成11年特許願第376725号「直噴エンジン」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 8月29日出願公開、特開2000-234569〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成11年12月15日(優先日:平成10年12月15日、以下、「本願優先日」という。)の出願であって、平成13年1月16日付けで手続補正書が提出され、さらに、平成14年6月24日付けで手続補正書が提出され、平成20年10月31日付けの拒絶理由通知に対して平成21年1月5日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成21年3月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年4月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けの手続補正書によって明細書について補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成21年11月30日付けの書面による審尋がなされ、これに対し、平成22年2月3日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成21年4月15日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成21年4月15日付けの手続補正を却下する。
〔理 由〕
1.本件補正の内容
(1)平成21年4月15日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成21年1月5日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記(a)に示す請求項1を、下記(b)に示す請求項1と補正するものを含むものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 過給機による加圧空気にて燃焼室内の排気を強制排気し、さらに燃焼室を加圧し、ピストンで加圧して成る。排気工程でピストン下死点で排気弁を開き排気開始、ピストン上昇、吸気弁を開き、過給機で加圧した空気を燃焼室に押し込むことで強制排気し、ピストンが下死点から上昇する途中で排気弁を閉め、さらに加圧後、吸気弁を閉め、さらにピストンで圧縮する。これに液体燃料及び液体ガス燃料に熱を加え高温の蒸気状にしたものを、燃焼室に直接噴射し、自己着火及び/又は電気点火する事を特徴とする直噴エンジン。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】過給機による加圧空気にて燃焼室内の排気を強制排気し、さらに燃焼室を加圧し、ピストンで加圧して成る。排気工程でピストン下死点で排気弁を開き排気開始、ピストン上昇、吸気弁を開き、過給機で加圧した空気を燃焼室に押し込むことで強制排気し、ピストンが下死点から上昇する途中で排気弁を閉め、さらに加圧後、吸気弁を閉め、さらにピストンで圧縮する。これに液体燃料及び液体ガス燃料に熱を加え高温の蒸気状にしたものを、燃焼室に直接噴射し、自己着火及び/又は電気点火する事を特徴とする2サイクル直噴エンジン。」(なお、下線は補正箇所を明示するために請求人が付した。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、本件補正後の特許請求の範囲においては、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「直噴エンジン」に「2サイクル」を付加することで、「直噴エンジン」を「2サイクル直噴エンジン」と限定するものを含むものであることから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正における特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2.-1 引用文献
(1)引用文献の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開平1-121517号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次のような記載がある。

ア.「2.特許請求の範囲
(1)燃焼空気の吸入後動力用燃料をピストンエンジンのシリンダ室に供給する方法において、上部のピストン死点に到達する前に、前に圧縮された燃焼空気に燃料蒸気/水蒸気-混合物を導入することを特徴とする方法。
(2)燃料蒸気/水蒸気-混合物が、音速にまで達する高い速度でシリンダ室に入ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
(3)燃料蒸気/水蒸気-混合物が、1:1から3:1までの水蒸気対燃料蒸気の量の比を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
(4)燃料蒸気/水蒸気-混合物を、燃料蒸気/水蒸気-混合物の燃料の露点温度より上の温度で導入することを特徴とする、請求項1から請求項3までのうちのいずれか一つに記載の方法。
(5)燃料蒸気/水蒸気-混合物の燃料蒸気に対してほとんど化学量論的な量の比の燃焼空気がシリンダ室に入ることを特徴とする、請求項1から請求項4までのうちのいずれか一つに記載の方法。
(6)シリンダヘッドが、吸気弁と、排気弁と、燃焼室に上部ピストン死点で開口しかつ調整可能な燃料用入口弁を有する入口とを有し、前記入口弁(10)が、燃料蒸気/水蒸気-混合物を導く混合圧力導管(9)と連結され、この混合圧力導管では、燃料蒸気/水蒸気-混合物が、シリンダ室(14)で圧縮される燃焼空気の圧縮圧力より上の圧力下にあることを特徴とする、請求項1に記載の方法を実施するためのピストンエンジン用シリンダヘッド。
(7)混合圧力導管(9)が、燃料蒸気/水蒸気-混合物を発生させるために蒸発装置(11)の出口(13)に接続されていることを特徴とする、請求項6に記載のシリンダヘッド。
(8)蒸発装置(11)には、圧力水を導く水導管(16a)と燃料導管(15a)が開口しており、これらの導管は圧力側で水ポンプ(16)または燃料ポンプ(15)に接続されていることを特徴とする、請求項7に記載のシリンダヘッド。
(9)燃料蒸気/水蒸気-混合物を気化させるために蒸発装置(11)が、熱いエンジン排気ガ スにより温められることを特徴とする、請求項7または8に記載のシリンダヘッド。
(10)シリンダ室(14)が燃料蒸気/水蒸気-混合物のための電気的点火装置(17)を有することを特徴とする、請求項6から請求項9までのうちのいずれか一つに記載のシリンダヘッド。」(公報第1ページ左下欄第5行ないし第2ページ左上欄第17行)

イ.「燃料蒸気/水蒸気-混合物は、自己点火であることができるが、また火花点火であることもできる。最後に述べた場合において、請求項10により、燃焼室には燃料蒸気/水蒸気-混合物のための電気的点火装置が存在している。
〔実施例〕
以下、本発明を、図面に概略的に示した実施例により詳細に説明する。
図面には、連接棒2により動かされかつピストンリング4を有するピストン3と共にシリンダヘッド1が示されている。シリンダヘッド蓋5には、吸入すべき燃焼空気のための吸気弁6と流れ去る排気ガスのための排気弁7が設けられている。シリンダヘッド蓋5には別の入口8が取りつけられており、この入口には、燃料蒸気/水蒸気-混合物のための調整可能な入口弁10を有する混合導管9が接続されている。燃料蒸気/水蒸気-混合物は、コイル管として形成されている蒸発装置11で発生し、このコイル管で液体状燃料と水が気化する。この種の蒸発装置は、公開されていない特許出願P 36 26933.6-13 に記載されている。蒸発装置11は、ピストンエンジンから来る排気ガス導管12に挿入され、蒸発装置の周りをシリンダ室から流れ去る排気ガスが洗い流れる。排気ガスの熱は、燃料蒸気/水蒸気-混合物を発生させるためにこのように有利な仕方ですっかり利用される。
発生した燃料蒸気/水蒸気-混合物は、蒸発装置出口13から混合導管9および入口弁10を経てシリンダ室14へ導かれる。シリンダ室14は、図面に概略的に示してある。シリンダ室14は、例えばジーゼルエンジンで周知のように、場合によっては別々に形成される燃焼室も含む。入口弁10の開放は、エンジン回転数を介して制御される。
実施例では、燃料蒸気/水蒸気-混合物が燃焼行程の終わりに上部死点の近くでシリンダ室14に入るように入口弁10が制御される。燃料蒸気/水蒸気-混合物は、ほぼ220℃に温められた燃料蒸気/水蒸気-混合物でほぼ毎秒440メートルになる音速で吹き入れられる。このために必要な混合導管9内の圧力は流体ポンプ15、16により発生されるが、これらの流体ポンプのうち、一方では液体状燃料を燃焼ポンプ15が、他方では水を水ポンプ16が燃料導管15aまたは水導管16aを介して蒸発装置11に導入する。蒸発装置から過熱された水蒸気を有する燃料蒸気/水蒸気-混合物が出る。
燃料蒸気/水蒸気-混合物をシリンダ室14に供給後、入口弁10が閉じ、そして燃焼空気と混合された燃料蒸気/水蒸気-混合物が点火装置17を介して点火される。
この方法の燃料としては、特にジーゼル-動力用燃料および重油が適するが、植物油のようなバイオ-動力用燃料でもよい。」(公報第3ページ左上欄第8行ないし同右下欄第2行)

(2)引用文献記載の事項
上記(1)ア.及びイ.並びに図面の記載から、以下の事項がわかる。

ウ. ピストンエンジンにおいて、燃料蒸気/水蒸気-混合物が燃焼行程の終わりに上部死点の近くでシリンダ室14に入るように入口弁10が制御され、燃料蒸気/水蒸気-混合物は、ほぼ220℃に温められた燃料蒸気/水蒸気-混合物でほぼ毎秒440メートルになる音速で吹き入れられことから、ほぼ220℃に温められた燃料蒸気/水蒸気-混合物を、シリンダ室14に直接噴射している直噴ピストンエンジンであることがわかる。

エ.燃料蒸気/水蒸気-混合物は、自己点火であることができるが、また火花点火であることもでき、シリンダ室14に供給後、入口弁10が閉じ、そして燃焼空気と混合された燃料蒸気/水蒸気-混合物が電気的点火装置を介して点火されることから、点火は、自己点火又は電気的点火する直噴ピストンエンジンであることがわかる。

オ.連接棒2により動かされるピストン3があり、シリンダヘッド蓋5には、吸入すべき燃焼空気のための吸気弁6と流れ去る排気ガスのための排気弁7が設けられてシリンダ室14を形成していることから、シリンダ室14内の排気をし、シリンダ室14を加圧し、ピストン3で加圧して成ること、及び排気行程で排気弁を開き、吸気行程で吸気弁を開いて成るピストンエンジンであることがわかる。

(3)引用文献記載の発明
以上、上記(1)ア.及びイ.、(2)ウ.ないしエ.並びに図面の記載から、引用文献には以下の発明が記載されているといえる。
「シリンダ室14内の排気をし、シリンダ室14を加圧し、ピストン3で加圧して成る。排気行程で排気弁を開き、吸気行程で吸気弁を開く。これにほぼ220℃に温められた燃料蒸気/水蒸気-混合物を、シリンダ室14に直接噴射し、自己点火及び/又は電気的点火する直噴ピストンエンジン。」(以下、「引用文献記載の発明」という。)

2.-2 対比

本願補正発明と引用文献記載の発明とを対比すると、引用文献記載の発明における「シリンダ室14」は、その機能及び構成からみて、本願補正発明における「燃焼室」に相当し、同様に、「ピストン3」は「ピストン」に、「排気行程」は「排気工程」に、「排気弁7」は「排気弁」に、「吸気弁6」は「吸気弁」に、「ほぼ220℃に温められた燃料蒸気/水蒸気-混合物」は「液体燃料及び液体ガス燃料に熱を加え高温の蒸気状にしたもの」に、「自己点火及び/又は電気的点火」は「自己着火及び/又は電気点火」に各々相当する。また、引用文献記載の発明における「直噴のピストンエンジン」は、本願補正発明における「2サイクル直噴エンジン」に、「直噴エンジン」である限りにおいて相当することから、本願補正発明と引用文献記載の発明とは、
「燃焼室内の排気をし、燃焼室を加圧し、ピストンで加圧して成る。排気工程で排気弁を開き、吸気弁を開く。これに液体燃料及び液体ガス燃料に熱を加え高温の蒸気状にしたものを、燃焼室に直接噴射し、自己着火及び/又は電気点火する直噴エンジン。」の点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点」という。)
〈相違点〉
本願補正発明においては、「過給機による加圧空気にて燃焼室内の排気を強制排気し、さらに燃焼室を加圧し、ピストンで加圧して成る。」、「排気工程でピストン下死点で排気弁を開き排気開始、ピストン上昇、吸気弁を開き、過給機で加圧した空気を燃焼室に押し込むことで強制排気し、ピストンが下死点から上昇する途中で排気弁を閉め、さらに加圧後、吸気弁を閉め、さらにピストンで圧縮する。」及び「2サイクル直噴エンジン。」であるのに対して、引用文献記載の発明においては、「吸気弁」、「排気弁」、「ピストン」及び本願補正発明における「燃焼室」に相当する「シリンダ室14」がある「直噴エンジン」であるものの、上記本願補正発明のように特定されていない点(以下、「相違点」という。)。

2.-3 判断
相違点について検討すると、
「過給機による加圧空気にて燃焼室内の排気を強制排気し、さらに燃焼室を加圧し、ピストンで加圧して成る。排気行程で排気弁を開き排気開始、ピストン上昇、吸気弁を開き、過給機で加圧した空気を燃焼室に押し込むことで強制排気し、ピストンが下死点から上昇する途中で排気弁を閉め、さらに加圧後、吸気弁を閉め、さらにピストンで圧縮する2サイクルエンジン。」は周知(例えば、拒絶査定時において示した特開平5-280344号公報、特開平4-325713号公報参照、以下、「周知技術1」という。)であり、引用文献記載の発明に上記周知技術1を適用するにあたって、排気行程で排気弁の開く時期をどこにするかは適宜なし得る設計上の問題であって、下死点付近までを膨張行程とし、その後下死点から上死点に向かう中ごろまでを排気行程とすることも周知(例えば、特開平10-246116号公報参照、以下、「周知技術2」」という。)であることから、相違点に係る発明のように特定することは、当業者が容易になし得るものである。
しかも、本願補正発明は、全体構成でみても、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び周知技術2から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。

以上のように、本願補正発明は、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

よって、本願補正発明は、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2.-4 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成21年4月15日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成21年1月5日付けの手続補正書により補正された明細書及び願書に最初に添付された図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであって、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2.の〔理 由〕1.(1)の(a)の請求項1に記載したとおりのものである。

2.引用文献の記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献記載の発明は、前記第2.の〔理 由〕2.-1に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.の〔理 由〕1.(1)及び(2)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部の構成を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の〔理 由〕2.-1ないし2.-4に記載したとおり、引用文献記載の発明並びに周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前日本国内において頒布された引用文献記載の発明並びに周知技術1及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-02 
結審通知日 2010-06-08 
審決日 2010-06-21 
出願番号 特願平11-376725
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02M)
P 1 8・ 575- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 水野 治彦  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 加藤 友也
鈴木 貴雄
発明の名称 直噴エンジン  

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