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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1231313
審判番号 不服2008-9110  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-03-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-04-11 
確定日 2011-02-07 
事件の表示 特願2004-319511「バイオセンサおよびそれに用いる電極セット、ならびにバイオセンサを形成するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年2月10日出願公開、特開2005-37406〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成13年10月1日に出願された特願2001-305459号(パリ条約による優先権主張 平成12年10月6日 米国)の一部を平成16年11月2日に新たな出願としたものであって、その請求項1ないし4に係る発明は、平成19年9月26日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)
「【請求項1】
第1の表面と、該第1の表面上の所定の反応域、および該第1の表面において該反応域に隣接し、かつ少なくとも外接して配置された凹部を包含して形成された下部プレート要素と、前記反応域の少なくとも一部に被覆された試薬と、前記試薬を横切って延び、隙間を画定するために前記下部プレート要素と共同する上部プレート要素とを備え、
前記隙間が開口を有し、液体サンプルを該開口から試薬に移送する寸法を有し、
前記開口と試薬との間の隙間に前記凹部の少なくとも一部が配置され、当該凹部の少なくとも1つが1000μmの幅を有してなるバイオセンサであって、
前記上部プレート要素と下部プレート要素との間に、第1の部分(70)と第2の部分(72)とを含むスペーサ(15)を備え、該第1の部分(70)および第2の部分(72)のそれぞれの両端(60、62)間に延び、対向する縁(64)が前記隙間を共同して形成し、該第1の部分および第2の部分の各端(62)が、前記反応域に形成された電極アレイから間隔をおいて配置されてなるバイオセンサ。」
なお、請求項1には、「当該凹部の少なくもと1つが」と記載されているが、「当該凹部の少なくとも1つが」の誤記であることが明らかであるから、上記のとおり認定した。

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物1(原査定の引用文献2)及び刊行物2(原査定の引用文献3)には、以下の事項がそれぞれ記載されている。以下、下線は当審で付与した。

(1)刊行物1:特開平7-275251号公報の記載事項
(1a)「【請求項1】少なくとも絶縁性基板と、該基板に設けられた電極系と、2枚の絶縁性基板間に形成された空間部に面する反応層とを有するバイオセンサにおいて、
2枚の絶縁性基板は、少なくとも一方の絶縁性基板に印刷又は部分的塗布で形成されたスペーサを介して積層されていることを特徴とするバイオセンサ。」
(1b)「【0008】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しながら本発明のバイオセンサ及びその製造方法について、実施の形態を説明する。図1は、本発明のバイオセンサの一実施例を示す図であり、図1(a)分解斜視図、図1(b)は外観図、図1(c)は図1(b)のA-A線での断面図である。同図のバイオセンサ10は、2枚の絶縁性基板1a及び1bがスペーサ4を介して反応層3が面する空間部6を残す様に積層された構造であり、積層前の状態で、下側の絶縁性基板1aに、全ての電極系と、反応層及びスペーサが印刷又は塗工により形成されており、これにカバーシートとして、接続端子が露出する様な切欠き部11及び排出口62を有する上側の絶縁性基板1bがスペーサにより接着・積層したものである。下側の絶縁性基板1aに形成される電極系は、リード21、電極22、接続端子23、及び絶縁層5から構成される。酵素等の生体関連物質を含む反応層3は、互いに入り込んだ櫛形形状の2対の電極上に設けられている。また、電極及びリードの露出不要部は絶縁層5で覆われている。なお、この様な一対の対向する櫛形電極上に反応層を形成したバイオセンサとすると、酵素反応の応答が速く定常状態に速く達する、微量分析が可能、等の点で優れたものとなる。そして、スペーサ4は反応層を試料液に接触させるための空間部6、導入口61及び導入口とは反対側の側端面部も開口する様に、両側に直線状のパターンとして下側の絶縁性基板に、印刷又は部分的塗布により形成されたものが使われている。また、上側絶縁性基板1bは空間部の気体を排出する排出口62が開口し、排出口62より接続端子側の空間部まで試料液が導入されるの防ぎ、接続端子側の開口部から不意に試料液がオーバーフローしない様にしてある。」
(1c)「【0009】なお、絶縁性基板、電極系、反応層等の材料及びそれらの形成は、従来公知の材料、方法より用途に合ったものを適宜選択すれば良い。例えば、・・・形成すれば良い。反応層は酵素センサでグルコースセンサとするならば、グルコースオキシダーゼを固定した層とすれば良く、酵素含有インキのスクリーン印刷で、或いは塗液のディスペンサによる塗布で形成する。また、この他、例えば検体試料液の滲み込みを制御する等の層があっても良い。」
(1d)図1には、下側の絶縁性基板(1a)と上側の絶縁性基板(1b)との間にスペーサ(4,4)が、反応層(3)の両側に配置され、スペーサ(4,4)の対向する縁が、上下の2枚の絶縁性基板と共同して空間部(6)形成し、空間部(6)は、一端に導入口(61)を有し、スペーサ(4)の周囲の各端が、反応層に形成された櫛形形状の2対の電極にから間隔をおいて配置されていることが、図示されている。(5頁【図1】)

(2)刊行物2:特開平2-1535号公報の記載事項
(2a)「1.キャリヤーおよび少なくとも2つの電極からなり、脱水素に対して感受性の選択した化学的種のレベルをその溶液中においてそのためのデヒドロゲナーゼ酵素の存在下に、アンペア測定的に、検出できる臨床化学的分析装置と一緒に使用するための1回使用の感知装置において、前記電極の1つは、メチレンブルー、NAD^(+)、パーフルオロスルホン酸ポリマーおよび前記選択した化学的種の脱水素のための酵素からなる組成物でコーティングされていることを特徴とする前記感知装置。」(1頁左下欄)
(2b)「第1図は、本発明の感知装置l0の全体の構成を示す。この装置は、強靭な、非導電性プラスチック材料、例えば、アクリロニトリル-ブタジェン-スチレン-コポリマー(ABS)から作られた、剛性のカードの形態キャリヤー11、およびその一端をカバーする板12を含む。板12は、一般に、透明なプラスチック材料から作られるが、透明性は必須ではない。
キャリヤーの一端に、板より下に、毛管通路13が存在し、これはS字形であり、そしてキャリヤー11の上表面と実質的に平担なS字形カバーの下表面との間の狭い空間によって定められる。毛管通路13は入口端14と出口端16との間を走行する。入口端に、「プラウ(plow)と呼ぶ、S字形の毛管通路のカバーの上昇した部分17が存在する。そのプラウの機能は、後述するように、目盛り定め剤および試験溶液を保持するはくに孔を開け、そしてこれらの溶液を、連続適に、毛管通路の入口14に入らせることである。バックグラウンドアノード18、カソード19および測定アノード21は、毛管通路内に、その入口に隣接して、存在し、そして各々は、測定アノ-ド21について第2図に示すように、「モート(moat)」33によって取囲まれている。
円筒形ガイドスリーブ22は、入口17より上に板18の1つの角に取り付けられている。多室シリンダー23はスリーブ22内に回転するように取り付けられており、そして内部の壁24を有し、この壁はシリンダーを、目盛り定め剤液体を含有する目盛り定め剤室26と血液または他の体液の試料を受取る試料室27とに分割する。目盛り定め剤溶液は室26内に工場で密閉され、そしてセンサーによって測定すべき、既知濃度のグルコースを含有する。キャップ28は、ウェブ29によってシリンダー23へ接続されており、そして試料室27が体液試料を受取った後、シリンダー23の上端より上に配置される。」(4頁左上欄14行?左下欄10行)
(2c)「測定アノード21は、第2図に断面図で示されており、グラファイトプラグ31、好ましくはグラファイトプラグから切ったシリンダーからなり、このプラグはカソード11のプラスチック材料中に孔を通して延びている。膜またはコーティング32は、プラグ31の1つの表面をカバーし、そしてそこから短い距離でプラグを取囲むモート33に至る。キャリヤー11の両方の面における導電性トラック34は、測定アノードにおいて発生した電子を感知装置内の接点へ導き、そして究極的に所望の読みを提供するマイクロプロセッサへ導く。
バックグラウンドアノード18は、コーティングまたは膜をもたない以外、測定アノード21に類似する。カソード19はキャリヤー11を通して延びる銀のプラグであり、その上表面は塩化銀の薄い層でコーティングされている。
コーティング32は、前述のように、少なくともグルコースデヒドロゲナーゼ(グルコースが測定すべき化学種でるとき)、メチレンブルー[3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン-5-イウムクロライド]およびパーフルオロスルホン酸ポリマーからなる。」(4頁左下欄11行?右下欄13行)
(2d)「コーティング組成物を測定電極の上表面に適用し、次いで乾燥させる。測定電極を取囲むモートは、電極のへりにおいて鋭い表面を形成し、これによって、表面張力により、コーティング組成物のための鋭い境界を形成し、その広がりを精確に電極の区域に限定する。」(5頁右上欄17行?左下欄2行)
(2e)第2図には、「モート33」としてキャリアの1つの表面に設けられた凹部が示されている。(10頁FIG.2)

3 対比・判断
上記刊行物1の記載事項(上記(1a)?(1d))から刊行物1には、
「2枚の絶縁性基板(1a)(1b)が、スペーサ(4)を介して反応層(3)が面する空間部(6)を残すように積層された構造のバイオセンサであって、下側の絶縁性基板(1a)に、全ての電極系と、反応層及びスペーサが形成され、接続端子が露出するような切欠き部(11)及び排出口(62)を有する上側の絶縁性基板(1b)が、スペーサ(4)により接着・積層され、下側の絶縁性基板(1a)上に形成される電極系は、リード(21)、電極(22)、接続端子(23)、及び絶縁層(5)から構成され、酵素等の生体関連物質を含む反応層(3)は、塗液のディスペンサによる塗布で電極(22)上に設けられ、電極及びリードの露出不要部は絶縁層(5)で覆われ、スペーサ(4)は反応層を試料液に接触させるための空間部(6)、導入口(61)及び導入口とは反対側の側端面部も開口するように、両側に直線状のパターンとして下側の絶縁性基板に、部分的塗布により形成されたものである、バイオセンサ」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「下側の絶縁性基板(1a)」とその上に形成される「電極系と、反応層及びスペーサ」は併せて、本願発明の「第1の表面と、該第1の表面上の所定の反応域」が形成された「下部プレート要素」に相当する。
また、刊行物1発明の「上側の絶縁性基板(1b)」は、本願発明の「上部プレート要素」に相当する。
(イ)刊行物1発明の「反応層(3)」は、酵素等の生体関連物質を含む塗液をディスペンサにより塗布した層であるから、本願発明の「反応域」と「反応域の少なくとも一部に被覆された試薬」に相当する。
(ウ)刊行物1発明の「電極(22)」、「空間部(6)」は、本願発明の「電極アレイ」、「隙間」、にそれぞれ相当する。
(エ)刊行物1発明の「導入口(61)」は、本願発明の「開口」に相当し、その機能からみて、液体サンプルを反応層へ移送できる寸法を有していることは明らかである。
(オ)刊行物1発明の「スペーサ(4)」は、反応層を試料液に接触させるための空間部(6)、導入口(61)、及び導入口とは反対側の側端面部も開口するように、両側に直線状のパターンとして下側の絶縁性基板に、部分的塗布により形成されたものであり、図1にスペーサ(4)が電極と間隔を置いて設けられていることから、本願発明の「上部プレート要素と下部プレート要素との間に、第1の部分(70)と第2の部分(72)とを含」み、「該第1の部分(70)および第2の部分(72)のそれぞれの両端(60、62)間に延び、対向する縁(64)が前記隙間を共同して形成し、該第1の部分および第2の部分の各端(62)が、前記反応域に形成された電極アレイから間隔をおいて配置され」た「スペーサ(15)」に相当する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
第1の表面と、該第1の表面上の所定の反応域が形成された下部プレート要素と、前記反応域の少なくとも一部に被覆された試薬と、前記試薬を横切って延び、隙間を画定するために前記下部プレート要素と共同する上部プレート要素とを備え、
前記隙間が開口を有し、液体サインプルを該開口から試薬に移送する寸法を有してなるバイオセンサであって、
前記上部プレート要素と下部プレート要素との間に、第1の部分と第2の部分とを含むスペーサを備え、該第1の部分および第2の部分のそれぞれの両端間に延び、対向する縁が前記隙間を共同して形成し、該第1の部分および第2の部分の各端が、前記反応域に形成された電極アレイから間隔をおいて配置されてなるバイオセンサである点。

(相違点)
本願発明では、下部プレート要素が、第1の表面において反応域に隣接し、かつ少なくとも外接して配置された凹部を包含して形成されたものであって、開口と試薬との間の隙間に凹部の少なくとも一部が配置され、当該凹部の少なくとも1つが1000μmの幅を有しているものであるのに対し、刊行物1発明は、このような凹部を有さない点。

そこで、上記相違点について検討する。
刊行物2(上記(2a)?(2e))には、酵素等の試薬のコーテイング(32)を測定電極(21)上に形成した感知装置、つまりバイオセンサであって、測定電極(21)が、第2図に示すように、「モート」(33)によって取囲まれたものが記載され、第2図及び「コーティング32は、プラグ31の1つの表面をカバーし、そしてそこから短い距離でプラグを取囲むモート33に至る 」(上記(2c))との記載からみて、モートは、電極と接触しないように電極を取り囲んで形成された凹部であるといえる。さらに、モートの機能として、表面張力により、コーティング組成物のための鋭い境界を形成し、その広がりを精確に電極の区域に限定することが記載されている(上記(2d))。
そして、電極上に試薬を含む塗液を被覆して反応域を形成したバイオセンサにおいて、電極上に塗液を供給し広げてた際に、塗液が電極上全体に広がらず、被覆される塗液の厚みが不均一となれば、電極上に試薬が不均一な状態で存在することとなり、正確な分析が行えないことは、当業者であれば当然認識している技術常識である。
そうすると、刊行物1発明において、電極上の反応域にディスペンサによる塗布が均一になされるように、電極の周囲に、刊行物2に記載されるような凹部を形成して、反応域に隣接し、かつ少なくとも外接して配置された凹部を、液体サンプルを導入する開口と反応域との間の隙間も含めて形成されたものとし、その際に、凹部の幅を、反応域の大きさ等のバイオセンサの構造に応じて、最適化し、1000μmとすることは、当業者が容易になし得たものといえる。
そして、本願発明の効果も、刊行物1及び2の記載事項から予測されるものであり、格別顕著なものとはいえない。

(請求人の主張について)
なお、請求人は請求の理由において、本願明細書の段落【0020】の「・・・試薬が凹部34の端部に到達すると、アレイ44と上部プレート要素12とのあいだの界面エネルギーは試薬20の表面張力よりも下がり、試薬20はアレイ44上に保持されると考えられる。さらに、試薬20は凹部34の両縁に沿って引き寄せられ、これがアレイ44の境界内部における試薬20の拡散を補助する。凹部34の両縁はブロックのように作用し、アレイ44の周辺におよぶ試薬の拡散を助けるものと考えられる。したがって、所定の適正量の薬液がプレート要素14上に配置されると、試薬20は表面一杯に拡散して凹部34に到達し、略均一な化学反応となる厚さを有する試薬分布を形成し、正確な分析を可能にする。・・・」との記載と、本願発明の要件である技術的特徴A「上部プレート要素が試薬を横切って延び、下部プレート要素と共同して液体サンプルの開口を有する隙間を形成し、少なくとも1つの凹部の少なくとも一部が液体サンプルの開口と試薬との間に配置されるように、下部プレート要素に上部プレート要素を結合する」こと、及び技術的特徴B「反応域に電極アレイを形成する」こととを関連付けて、電極アレイ上に試薬液として置かれた試薬が未だ流動性を失わない間に、上部プレート要素が試薬と接触し、アレイの境界内部における試薬の拡散を助け、凹部だけでなく上部プレート要素が、略均一な化学反応となる厚さを有する試薬分布を形成することに関係する旨主張しているが、請求項1はバイオセンサの発明であり、電極アレイ上に試薬液として置かれた試薬が未だ流動性を失わない間に上部プレート要素を利用したというバイオセンサの形成方法の発明でないし、本願発明のバイオセンサは、このような方法で形成しされたものであることが反映された構成を有するものではないから、請求人の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
さらに、請求項3,4のバイオセンサを形成する方法にも、請求人が主張するような構成は特定はされていない。

4 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について判断するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-03 
結審通知日 2009-12-08 
審決日 2009-12-21 
出願番号 特願2004-319511(P2004-319511)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷垣 圭二  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 松本 征二
郡山 順
発明の名称 バイオセンサおよびそれに用いる電極セット、ならびにバイオセンサを形成するための方法  
代理人 朝日奈 宗太  

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