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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) E04H
管理番号 1231510
判定請求番号 判定2010-600063  
総通号数 135 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2011-03-25 
種別 判定 
判定請求日 2010-10-22 
確定日 2011-02-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第3899354号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「免震建物」は、特許第3899354号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求人である黒沢建設株式会社は、判定請求書に添付のイ号図面及びイ号図面の説明書(甲第2号証、平成22年12月10日付け回答書により訂正)に示す「免震建物」(以下「イ号物件」という)が、特許第3899354号(以下、「本件特許」という。)発明の技術的範囲に属しないとの判定を求めるものである。

第2 本件特許発明
1 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
【請求項1】
建物本体と、この建物本体の荷重を地盤に伝達して支持する建物基礎と、この建物基礎に固定され前記建物本体を支持する免震装置とを備えた免震建物であって、
前記建物基礎は、地盤に貫入された複数の鋼管杭と、これら複数の鋼管杭の杭頭部同士を連結する連結部材とを有して構成され、前記鋼管杭の杭頭部上に前記免震装置が固定され、この免震装置上に前記建物本体の最下階の大梁が直接固定され、
前記免震装置は、前記鋼管杭の杭頭部に設置された固定部材を介して当該鋼管杭に固定されており、
前記固定部材は、前記免震装置が固定されるベースプレートと、このベースプレート下面に固定されたアンカー部材とを有して構成され、
前記鋼管杭の杭頭部に前記アンカー部材を挿入し、かつ前記ベースプレートを位置決めした状態で、前記杭頭部にコンクリートを注入して前記ベースプレート下面まで充填することで、硬化したコンクリートにより前記鋼管杭と前記固定部材とが一体化されることを特徴とする免震建物。
【請求項2】
請求項1に記載の免震建物において、
前記ベースプレートは、当該ベースプレート下面と前記杭頭上面との間に30?100mmの隙間を有した状態で位置決めされ、この隙間に前記コンクリートが充填されていることを特徴とする免震建物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の免震建物において、
前記建物本体は、プレキャスト鉄筋コンクリート製の柱および大梁を有して構成され、
これらの柱および大梁は、現場打ちコンクリート製の柱梁接合部を介して一体化されており、
前記柱および大梁の内部に配設された柱主筋および梁主筋は、それぞれ当該柱および大梁の端部から突出して前記柱梁接合部の現場打ちコンクリート内に定着され、
前記柱には、上下階に渡ってPC鋼線が配設され、前記大梁には、複数スパンに渡ってPC鋼線が配設され、これらのPC鋼線にポストテンションにより張力を導入することで、当該複数階の柱および複数スパンの大梁が互いに緊結されていることを特徴とする免震建物。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の免震建物において、
前記建物本体は、プレキャスト鉄筋コンクリート製の柱および大梁を有して構成され、
これらの柱および/または大梁には、PC鋼線が配設され、このPC鋼線にポストテンションにより張力を導入することで、当該柱と大梁とが互いに圧着されていることを特徴とする免震建物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の免震建物において、
前記建物本体は、複数の階数を有した倉庫であることを特徴とする免震建物。

2 本件特許発明の目的及び作用効果
本件特許発明の目的及び作用効果に関して、本件特許明細書には、次のような記載がある(甲第1号証)。
(a)目的について
「 本発明の目的は、建物基礎の施工手間や地盤掘削量を削減して短工期化およびコスト低減を図ることができる免震建物を提供することにある。」(段落【0005】)
(b)作用について
「以上の本発明によれば、免震装置を鋼管杭の杭頭部上に固定し、この免震装置上に建物本体を設けたことで、従来の基礎梁や基礎フーチングに要する施工手間や地盤の掘削量を削減することができ、基礎施工の短工期化およびコスト低減を実現することができる。
また、鋼管杭の杭頭部同士が連結部材で連結されているので、地震による水平力を受けた場合でも、複数の鋼管杭がばらばらに水平変位することなく同一方向に変位するので、複数の鋼管杭全体で水平力に抵抗することができ、耐震性を確保することができる。この際、連結部材としては、杭頭の変位を同一にできるものであればよいため、従来の基礎梁のように大きな梁成は必要なく、例えば、鉄筋コンクリート製の基礎スラブで構成されたものでもよく、また鉄骨製の梁やブレース等で構成されたものでもよい。」(段落【0008】)
「…ベースプレートを位置決めした状態で固定部材を鋼管杭の杭頭に一体化することで、鋼管杭の施工の際に若干の施工誤差があって杭頭位置が水平や鉛直方向にずれたとしても、この施工誤差を固定部材のセットの際に補正することができ、免震装置を設計上の正規の位置に容易に設置することができる。
また、杭頭部にアンカー部材を挿入した状態でコンクリートを注入するとともに、このコンクリートをベースプレート下面まで充填することによって、アンカー部材およびコンクリートを介してベースプレートが鋼管杭に一体化され、免震装置からベースプレートに作用する建物本体の鉛直荷重および水平荷重を適切に鋼管杭まで伝達することができる。…」(段落【0010】)

3 判定の対象とする発明
本件特許の請求項2ないし5に係る発明は、請求項1を引用し、請求項1に係る発明をさらに構成を限定した発明であり、判定請求人は、実質的に、イ号物件が、請求項1に係る発明の技術的範囲に属しないことを求めているので、以下、イ号物件が、本件特許の請求項1に係る発明の技術的範囲に属するか否かについて判定する(以下、「請求項1に係る発明」を「本件特許発明1」という。)。

本件特許発明1を、構成要件に分説すると次のとおりである。
「A 建物本体と、この建物本体の荷重を地盤に伝達して支持する建物基礎と、この建物基礎に固定され前記建物本体を支持する免震装置とを備えた免震建物であって、
B 前記建物基礎は、地盤に貫入された複数の鋼管杭と、これら複数の鋼管杭の杭頭部同士を連結する連結部材とを有して構成され、前記鋼管杭の杭頭部上に前記免震装置が固定され、この免震装置上に前記建物本体の最下階の大梁が直接固定され、
C 前記免震装置は、前記鋼管杭の杭頭部に設置された固定部材を介して当該鋼管杭に固定されており、
D 前記固定部材は、前記免震装置が固定されるベースプレートと、このベースプレート下面に固定されたアンカー部材とを有して構成され、
E 前記鋼管杭の杭頭部に前記アンカー部材を挿入し、かつ前記ベースプレートを位置決めした状態で、前記杭頭部にコンクリートを注入して前記ベースプレート下面まで充填することで、硬化したコンクリートにより前記鋼管杭と前記固定部材とが一体化されること
F を特徴とする免震建物。」
(以下、AないしFを「構成要件A」等という。)

第3 イ号物件
1 請求人の主張
請求人は、イ号物件は、請求人が平成22年12月10日付け回答書に添付して提出したイ号図面の説明書(別添参照)に記述したとおり、次の構成を備えるものであると主張している。
「k.建物の上部構造物A1と建物基礎A2である杭頭部との間に免震装置が設置された免震建物であって、
l.基礎構造物の杭頭部に仮設プレートまたはテンプレートに取り付けられたアンカー部材を挿入して位置決めし、
m.前記杭頭部に仮設プレートまたはテンプレートの上面レベルまでコンクリートを打設し硬化させてアンカー部材を鋼管杭と一体化させ、
n.仮設プレートを取り外した後のコンクリート4上面の凹部及び痘痕部分またはテンプレート周囲のコンクリート上面の荒れを埋めると共に水平レベルの調整を行うために塗布して硬化させた樹脂製の上面修正材を介在させ、
o.該上面修正材の上面に下部ベースプレートと免震装置とを一緒に設置し固定用ボルトを挿通してアンカー部材に連結して固定し、
p.免震装置の上部側は上部ベースプレートと一緒に別のアンカー部材を介して建物の上部構造物A1の最下階を構成する現場打ちコンクリートのフーチング部に取り付けた構成としたこと
q.を特徴とする免震建物。」

2 イ号図面の説明書の記載事項
イ号図面の説明書には、イ号物件に関して、次のように記載されている。
(1)「第1の取付方法に係る図1?6において、建物の上部構造物A1と建物基礎A2との間に免震装置7を取り付ける取付方法は、取り外し可能な仮設プレート1にアンカー部材2が取り付けられ、該アンカー部材2を杭頭部3または基礎の上面に挿入し設計上の正規位置に位置決めして前記仮設プレート1を設置し、前記杭頭部3内または基礎内にコンクリート4を注入し仮設プレート1の上面レベルまで打設して前記アンカー部材2を固定し、その後仮設プレート1を取り外して打設したコンクリート4上面に上面修正材5を塗布してコンクリート4上面の凹部及び痘痕部分を埋めると共に水平レベルの調整を行い、前記塗布した上面修正材5が硬化した後に下部ベースプレート6と免震装置7とを設置し固定用のボルト8を挿通して記アンカー部材と連結して一緒に固定する構造にしたものである。」(甲第2号証1頁11行?20行)、
(2)「第2の取付方法に係る図1?5において、建物の上部構造物A1と建物基礎A2との間に免震装置7を取り付ける取付方法は、所要幅の板材からなるテンプレート9にアンカー部材2が取り付けられ、該アンカー部材2を杭頭部3または基礎の上面に挿入し設計上の正規位置に位置決めして前記テンプレート9を設置し、前記杭頭部3内または基礎内にコンクリート4を注入してテンプレート9の上面レベルまで打設して前記アンカー部材2を固定し、前記テンプレート9及び打設したコンクリート4上面に上面修正材5を塗布してコンクリート4上面の荒れを埋めると共に水平レベルの調整を行い、前記塗布した上面修正材5が硬化した後に下部ベースプレート6と免震装置7とを設置し固定用のボルト8を挿通して前記アンカー部材2と連結して一緒に固定する構造にしたものである。」(同2頁20行?3頁1行)、
(3)「図7に示す免震建物の上部構造物A1は、プレキャストコンクリート大梁16を現場打ちのフーチング部13と一体に連結した構成であり、図6に示す建物は、フーチング部13と大梁14とを現場打ちコンクリートで一体に形成したものである。」(同4頁14行?17行)、
(4)「複数の杭頭部3側は鉄筋コンクリートスラブ19によって支持または連結されている。」(同4頁21行?22行)。

3 当審によるイ号物件の特定
上記「2」の記載事項(3)によれば、イ号物件は、免震装置上に、上部構造物A1の最下階を構成する大梁と一体に形成されたフーチング部が直接固定されていると認められ、記載事項(4)によれば、複数の杭頭部3が鉄筋コンクリートスラブ19によって連結されているものと認められる。
また、記載事項(1)の「第1の取付方法」における下部ベースプレート6、アンカー部材及び固定用のボルト、記載事項(2)の「第2の取付方法」における下部ベースプレート6、テンプレート9に取り付けられたアンカー部材及び固定用のボルト8は、いずれも、免震装置を鋼管杭の杭頭部に固定する「固定部材」といえる。

したがって、請求人の特定するイ号物件、及びイ号図面の説明書の記載によれば、イ号物件は、次の構成aないしfを有するものと特定される。
【イ号物件】
「a 建物の上部構造物A1と建物基礎A2の杭頭部との間に免震装置が設置された免震建物であって、
b 建物基礎A2は、地盤に貫入された複数の鋼管杭と、これら複数の鋼管杭の杭頭部同士を連結する鉄筋コンクリートスラブとを有して構成され、前記鋼管杭の杭頭部上に前記免震装置が固定され、この免震装置上に、前記上部構造物A1の最下階を構成する大梁と現場打ちコンクリートで一体に形成されたフーチング部が直接固定され、
c 前記免震装置は、前記鋼管杭の杭頭部に設置された固定部材を介して当該鋼管杭に固定されており、
d 前記固定部材は、下部ベースプレートとアンカー部材と固定用のボルト、或いは、下部ベースプレートとテンプレートに取り付けられたアンカー部材と固定用のボルト、とを有して構成され、
e 前記杭頭部に、アンカー部材を取り付けた仮設プレートまたはテンプレートを設置して位置決めし、
その上面レベルまでコンクリートを打設し硬化させてアンカー部材を鋼管杭と一体化させ、
仮設プレートを取り外した後のコンクリート4上面の凹部及び痘痕部分またはテンプレート周囲のコンクリート上面の荒れを埋めると共に水平レベルの調整を行うために塗布して硬化させた樹脂製の上面修正材を介在させ、
該上面修正材の上面に下部ベースプレートと免震装置とを一緒に設置し固定用ボルトを挿通してアンカー部材に連結して固定する
f 免震建物。」
(以下、aないしfを「構成a」等という。)

第4 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、判定請求書及び回答書において、次の理由によりイ号物件は、本件特許発明1の技術的範囲に属しない旨主張している。

(1)構成要件D、Eに関して、本件特許発明1とイ号物件は次の点で相違する。
相違点1:本件特許発明1は「固定部材は、免震装置が固定されているベースプレートと、このベースプレート下面に固定されたアンカー部材とを有して構成され、鋼管杭の杭頭部に前記アンカー材を挿入し、かつ前記ベースプレートを位置決めした状態で、前記杭頭部にコンクリートを注入して前記ベースプレート下面まで充填することで、硬化したコンクリートにより前記鋼管杭と前記固定部材とが一体化される」構成であるのに対して、
イ号物件は「基礎構造物である杭頭部または基礎のコンクリートに固定されたアンカー部材に対して、コンクリート上面に塗布して硬化した上面修正材を介在させて下部ベースプレートと免震装置とを一緒に固定ボルトで固定した」構成である点。
相違点2:本件特許発明1の固定構造では、最初からベースプレート下面にアンカー部材が固定された構成であるのに対して、イ号物件の構造では、「杭頭部に固定されたアンカー部材に対して、下部ベースプレートと免震装置とを一緒に固定ボルトで固定」した構成であり、しかも「コンクリート上面に塗布して硬化した上面修正材を介在させて固定した」点。

(2)そして、イ号物件は、下部ベースプレートは免震装置と一緒に固定ボルトによりアンカー部材に取り付けるのであり、本件特許発明1のように、ベースプレート下面に固定されたアンカー部材を充填させたコンクリートを硬化させることでベースプレートを鋼管杭に取り付けるのではないから、イ号物件は、本件特許発明1の技術範囲に属しない。

2 被請求人の主張
被請求人は、判定請求答弁書において、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件をすべて充足しており、本件特許発明1の技術的範囲に属するとの判定を求め、具体的理由として概略、次のように主張している。

(1)構成要件AないしC及びFについて
イ号物件は、本件特許発明1の構成要件AないしC及びFを充足している。
(答弁書5頁表の下2行?6頁10行、なお答弁書においては、構成要件AないしCは構成要件((1)ないし(3)(原文は丸数字、以下同様)、構成要件Fは構成要件(6)と標記されている。)

(2)構成要件Dについて
構成要件Dは、最終的な免震建物における構造の状態を規定するものであって、免震装置が固定部材を介して鋼管杭に固定される途中段階の態様である「下部ベースプレートと免震装置とを一緒に固定ボルトでアンカー部材に固定する」経過に関しては、何ら除外されるものではないと解される。してみると、イ号物件においても、杭頭部へ免震装置が固定された伏態では、アンカー部材はベースプレートの下面に固定され、かつベースプレートの上面に免震装置が固定されているのであるから、本件の固定部材の構成との相違点は認められない。
また、上面修正材はコンクリートと一体視できる部材であって、アンカー部材が固定用のボルトによってベースプレートの下面に固定されている構成であることに変わりはない。
したがって、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件Dを充足している。
(答弁書6頁13行?7頁14行、なお答弁書においては、構成要件Dは構成要件(4)と標記されている。)

(3)構成要件Eについて
ア イ号図面(第1の取付方法)図1及び2には、硬化したコンクリートによりアンカー部材2及び仮設プレート1を鋼管杭と一体化させる構造が開示されている。
同様に、イ号図面(第2の取付方法)図1及び2には、硬化したコンクリートによりアンカー部材2及びテンプレート9を鋼管杭と一体化させる構造が開示されている。
これらの構造は、本件構成要件Eに規定されるベースプレート及びアンカー部材が鋼管杭に固定される構造と一致するものである。
(答弁書7頁18行?8頁3行、なお答弁書においては、構成要件Eは構成要件(5)と標記されている。)

イ イ号物件では、コンクリートが仮設プレートまたはテンプレートの「上面レベルまで」充填されるとされているが、仮設プレートまたはテンプレートの下面とコンクリートが接する範囲では、仮設プレートまたはテンプレートの「下面まで」コンクリートが充填されているから、本件構成要件Eの充足性に影響を与えるものではない。
また、本件特許発明1の構成要件Eの構成は、「免震装置からベースプレートに作用する建物本体の鉛直荷重および水平荷重を適切に鋼管杭まで伝達する」という効果に結びつくものであり、構成要件Eにおける構造上の特徴が備えられている限り、たとえ、鋼管杭の直径よりも狭い幅のプレートを用いた際に当該直径内のプレート幅を超えた部分のコンクリートが、「上面レベルまで」充填されたとしても、このことは構成要件Eの充足性に全く影響を与えるものではない。
さらに、イ号物件においても、最終的に鋼管杭に固定される別体の下部ベースプレートとの関係では、下部ベースプレートの「下面まで」コンクリートが充填されていることに変わりはなく、本件構成要件Eの充足性に影響を与えるものではない。
(答弁書8頁4行?9頁20行)

ウ イ号物件の仮設プレートを用いたアンカー部材の固定の時点で構成要件E充足しているのであるから、それを一時的に除去する工程を付加するからといって、その後同様の下部ベースプレートを再度固定するものである以上、構成要件Eを充足することに変わりはない。
また、イ号物件のテンプレートについても本件特許発明1の「ベースプレート」になり得るものであり、これに加えてさらに別体のプレート(「下部ベースプレート」)を追加して設けたとしても、本件構成要件Eを充足することに変わりはない。
(答弁書9頁21行?10頁15行)

エ イ号物件が、「コンクリート上面に樹脂製の上面修正材を塗布する点」は、単なる周知・慣用の構成を付加的に追加するものであって、イ号の本件構成要件の充足性とは関連するものではない。
(答弁書11頁7行?12頁4行)

オ 本件特許発明1の「固定部材」とは、ベースプレートとそれに固定されたアンカー部材から構成されているところ、構成要件Eにおける「硬化したコンクリートにより前記鋼管杭と前記固定部材とが一体化される」とは、コンクリートの硬化によって鋼管杭とアンカー部材が一体化され、その結果としてアンカー部材が固定されているベースプレートまで含めた固定部材全体も鋼管杭と一体化されていることになるという固定構造を意味する。
したがって、イ号物件が、鋼管杭とアンカー部材とを先にコンクリートの硬化で一体化させてから、その後、アンカー部材に別体の下部ベースプレートを固定する構造であるとしても、その固定構造は構成要件Eの固定構造と何ら異なるものではない。
(答弁書12頁5行?21行)

カ 請求人の主張では、イ号物件において、一且鋼管杭に固定した仮設プレート又はテンプレートを除去した後に或いはこれに加えて、さらに別体の下部ベースプレートを免震装置と一緒に再度鋼管杭に固定するという、最終的な免震装置の固定に至る途中段階の過程を殊に強調して、「本件特許発明とは、技術的に本質的な部分で全く相違」するとする根拠にしているものと認められるが、本件特許発明1は、免震装置の設置における施工手順を改善するという効果も然ることながら、アンカー部材およびコンクリートを介してベースプレートが鋼管杭に一体化され、これにより免震装置と鋼管杭が直接的に接続されることによって、「免震装置からベースプレートに作用する建物本体の鉛直荷重及び水平荷重を適切に鋼管杭まで伝達することができる」といった効果をも奏するものである。
すなわち、イ号物件が請求人の強調する免震装置の固定に至る途中段階の過程において付加的な或いは迂回的な構成を仮に有するとしても、免震装置と鋼管杭が直接的に接続されるという最終的な構造が同一に帰着するのであるから、当該本件特許発明1の効果をイ号物件も奏するのであって、この点においては、むしろ技術的に本質的な部分で本件特許発明1とイ号物件は一致するものといえる。
(答弁書12頁26行?13頁16行)

キ したがって、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件Eを充足している。

(4)均等の主張
さらに被請求人は、仮にイ号物件が「仮設のベースプレート又はテンプレートを用いてアンカー部材を鋼管杭と一体化させた後、別体のベースプレートをアンカー部材に固定する点」において本件特許発明1と相違すると認められたとしても、イ号物件は本件特許発明1と均等なものである旨主張し、均等である理由として概略次のように主張している。

ア 本件特許発明1は、アンカー部材およびコンクリートを介してベースプレートが鋼管杭に一体化され、これにより免震装置と鋼管杭が直接的に接続された構造を有すること、及び、鋼管杭の杭頭部同士が連結部材で連結されている構造を有することを特徴とする免震建物である。
従って、最終的な免震建物が上記構造を具備する限り、まずアンカー部材を鋼管杭と一体化させた後に、免震装置の鋼管杭への固定に至るまでの段階において別体のベースプレートを追加してアンカー部材に固定する相違点は、本質的な部分ではない。

イ イ号物件は、アンカー部材およびコンクリートを介してベースプレートが鋼管杭に一体化され、これにより免震装置と鋼管杭が直接的に接続された構造、及び、鋼管杭の杭頭部同士が連結部材で連結されている構造を有しているため、本件特許発明1の目的を達することができ、作用効果において格別の際が生じるものではない。

ウ 当該技術分野においては、仮設プレート等を用いてアンカーセットを行い、コンクリートを打設した後、仮設プレート等を取り外し、当該プレート下部のコンクリート面の痘痕部の補修を行ったり、グラウト材でレベルを調整した後に鉄骨柱を取り付ける方法が、一般的な鉄骨構造のベースプレートを設置する際等に広く用いられているものであることに鑑みれば、上記相違点に置換することは当業者が容易に想到することができたものである。

エ 本件特許発明1の特徴が全て記載又は示唆されている文献等は存在しない。
従って、イ号物件が本件特許の出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではない。

オ 本件特許発明1の審査経緯において、イ号物件が本件特許の特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情もない。

第5 対比・判断
1 本件特許発明1とイ号物件との対比
(1)イ号物件の構成aないしcと本件特許発明1の構成要件AないしCとの対比
イ号物件の「建物の上部構造物A1」、「建物基礎A2」、「鋼管杭の杭頭部同士を連結する鉄筋コンクリートスラブ」は、それぞれ、本件特許発明1の「建物本体」、「建物基礎」、「連結部材」に相当し、「建物基礎A2」が、建物の上部構造物A1の荷重を地盤に伝達して支持していることは明らかである。
また、本件特許発明1の「最下階の大梁」に関して、本件特許明細書(甲第1号証)の段落【0018】には、「上部構造10は・・・柱11の下端(柱脚)に設けられたフーチング13と、フーチング13間に架設された最下階の大梁14とを備えて構成されている。フーチング13は、最下階の大梁14の一部であり、大梁14の端部をフカして形成されている。」と記載され、大梁14と連結されているフーチング13は、「大梁」の一部としているから、イ号物件の「上部構造物A1の最下階を構成する大梁と現場打ちコンクリートで一体に形成されたフーチング部」は、本件特許発明1の「大梁」に相当する。
したがって、イ号物件の構成aないしcは、本件特許発明1の構成要件AないしCを充足しており、この点において当事者間に争いはない。

(2)イ号物件の構成dと本件特許発明1の構成要件Dとの対比
イ号物件の「下部ベースプレート」は、本件特許発明1において、免震装置が固定される「ベースプレート」に相当する。
なお、イ号物件の「仮設プレート」は、コンクリート充填後取り外されるものであり、「テンプレート」は、アンカー部材を位置決めするためのものであって、いずれも、免震装置が固定される部材ではないから、本件特許発明1の「ベースプレート」には相当しない。
そして、本件特許発明1の構成要件Dにおいて「固定部材」は、「ベースプレートと、このベースプレート下面に固定されたアンカー部材とを有して構成され」ているものであるところ、イ号物件の構成dにおいて固定部材は、「ベースプレート」と「アンカー部材」とを有して構成されるものであるが、アンカー部材はベースプレート下面に固定されていない点で、構成要件Dと相違する。

なお、被請求人は、イ号物件は、杭頭部3へ免震装置7が固定された伏態では、アンカー部材2はベースプレート6の下面に固定されているから、この点は相違点ではないと主張している(上記「第4 2(2)」参照)。
しかし、上記「第2 2」の本件特許明細書の記載、及び構成要件Eによれば、本件特許発明1における構成要件Dの「固定部材」のベースプレートは、鋼管杭の杭頭部にアンカー部材とともに位置決めして設置され、その後杭頭部にコンクリートを注入することにより、硬化したコンクリートによって鋼管杭と一体化するものであるから、構成要件Cの「固定部材」とは、「ベースプレート下面にアンカー部材が固定されているもの」を意味していることは明らかであり、被請求人の主張は採用できない。

したがって、イ号物件の構成dは、本件特許発明1の構成要件Dを充足していない。

(3)イ号物件の構成eと本件特許発明1の構成要件Eとの対比
本件特許発明1の構成要件Eは、「鋼管杭の杭頭部にアンカー部材を挿入し、かつベースプレートを位置決めした状態で、杭頭部にコンクリートを注入してベースプレート下面まで充填することで、硬化したコンクリートにより鋼管杭と固定部材とが一体化されるものであり、硬化したコンクリートにより鋼管杭と、ベースプレートと、アンカーボルトが一体化される」ものである。
一方、イ号物件の構成eにおいては、杭頭部にアンカー部材を固定した仮設プレートまたはテンプレートを設置して、コンクリートを打設し硬化させることでアンカー部材を鋼管杭と一体化させ、その後、上面修正材を介在させて水平レベルの調整を行い、該上面修正材の上面にベースプレート(下部ベースプレート)と免震装置とを固定用ボルトを挿通してアンカー部材に連結して固定するものであり、コンクリートを打設し硬化させる際にベースプレートは設置されておらず、ベースプレートはコンクリート打設により鋼管杭、アンカー部材と一体化されるものではない。

なお、イ号物件の構成eにおいて、仮設プレートまたはテンプレートを位置決めした状態で、杭頭部にコンクリートを注入しているから、被請求人が上記「第4 2(3)ウ」で主張するように、コンクリートは仮設プレートまたはテンプレート下面まで充填され、硬化したコンクリートにより鋼管杭と仮設プレートまたはテンプレート、及びアンカーボルトが一体化されるものと認められるが、最終的な免震建物においてベースプレートとなる、仮設プレート取り外し後に固定される下部ベースプレート、あるいはテンプレート上に固定される下部ベースプレートは、硬化したコンクリートにより鋼管杭と一体化されているものではない。

また、被請求人は、構成要件Eにおける「硬化したコンクリートにより前記鋼管杭と前記固定部材とが一体化される」とは、コンクリートの硬化によって鋼管杭とアンカー部材が一体化され、その結果としてアンカー部材が固定されているベースプレートまで含めた固定部材全体も鋼管杭と一体化されていることになるという固定構造を意味すると主張している(上記「第4 2(3)オ」参照)。
しかし、構成要件Eは「ベースプレートを位置決めした状態で、杭頭部にコンクリートを注入して前記ベースプレート下面まで充填することで、硬化したコンクリートにより前記鋼管杭と前記固定部材とが一体化される」というものであり、ベースプレート下面まで充填された硬化したコンクリートにより、ベースプレートと、このベースプレート下面に固定されたアンカー部材とを有する固定部材が鋼管杭とが一体化される構造を示していることは明らかであり、コンクリートの硬化によって鋼管杭と一体化したアンカー部材に、アンカー部材とは別体のベースプレートを固定することまでも含むと解釈することはできない。

したがって、イ号物件の構成eは本件特許発明1の構成要件Eを充足していない。

(4)対比のまとめ
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件D、Eを充足していない。

2 均等の判断
最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡、民集52巻1号113頁)は、特許発明の特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という)と異なる部分が存在する場合であっても、以下の要件をすべての満たす対象製品等は、特許請求の範囲に記載された製品等と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当であるとしている。
積極的要件
(1)相違部分が、特許発明の本質的な部分でない。
(2)相違部分を対象製品等の対応部分と置き換えても、特許発明の目的を達することでき、同一の作用効果を奏する。
(3)対象製品等の製造時に、異なる部分を置換することを、当業者が容易に想到できる。
消極的要件
(4)対象製品等が、出願時における公知技術と同一又は当業者が容易に推考することができたものではない。
(5)対象製品等が特許発明の出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がない。

そこで、イ号物件が、前記要件を満たすか否かについて検討する。
(1)本質的部分か否かについて
上記本件特許明細書の記載(「第2 2」参照)によれば、本件特許発明1の作用効果は、次のとおりと認められる。
ア 免震装置を鋼管杭の杭頭部上に固定し、この免震装置上に建物本体を設けたことで、従来の基礎梁や基礎フーチングに要する施工手間や地盤の掘削量を削減することができ、基礎施工の短工期化およびコスト低減を実現することができる。
イ 鋼管杭の杭頭部同士が連結部材で連結されているので、地震による水平力を受けた場合でも、複数の鋼管杭がばらばらに水平変位することなく同一方向に変位するので、複数の鋼管杭全体で水平力に抵抗することができ、耐震性を確保することができる。
ウ ベースプレートを位置決めした状態で固定部材を鋼管杭の杭頭に一体化することで、鋼管杭の施工の際に若干の施工誤差があって杭頭位置が水平や鉛直方向にずれたとしても、この施工誤差を固定部材のセットの際に補正することができ、免震装置を設計上の正規の位置に容易に設置することができる。
エ 杭頭部にアンカー部材を挿入した状態でコンクリートを注入するとともに、このコンクリートをベースプレート下面まで充填することによって、アンカー部材およびコンクリートを介してベースプレートが鋼管杭に一体化され、免震装置からベースプレートに作用する建物本体の鉛直荷重および水平荷重を適切に鋼管杭まで伝達することができる。

上記ア、イの作用効果は、本件特許発明1の構成要件AないしCによるものであり、ウ、エの作用効果は、本件特許発明1の構成要件D及びEによるものである。
すなわち、イ号物件と本件特許発明1との相違点に係る構成である構成要件D及びEの技術的意義は、硬化したコンクリートにより鋼管杭と、ベースプレートとアンカー部材からなる固定部材とを一体化させ、鋼管杭の施工の際に若干の施工誤差があって杭頭位置がずれたとしても、この施工誤差を固定部材のセットの際に補正することができ、免震装置を、正確な位置に設置されたベースプレートに容易に設置することができ、建物基礎の施工手間や短工期化およびコスト低減を図ることができる点にあり、構成要件D及びEは、本件特許発明1の作用効果(上記ウ、エ)を奏するための本質的部分といえる。

(2)目的・作用効果について
上記(1)に示す本件特許発明1のア、イの作用効果は、イ号物件の構成aないしcによっても奏されるものである。
しかし、イ号物件の構成d、eにおいて、ベースプレートはコンクリートを介して鋼管杭に一体化されたものではなく、免震装置の設置の際に、免震装置とともにアンカー部材に固定用のボルトで固定するものであり、また、ベースプレートを正確に位置決めするために、コンクリート表面に設けられた上面修正材により水平レベルの調整がされるものであるから、イ号物件は、コンクリートの充填により、ベースプレートが正確な位置に位置決めされるという本件特許発明1の上記ウ、エの作用効果を奏さないものである。

(3)均等の判断のまとめ
したがって、イ号物件は、均等の判断にあたって上記要件(1)(2)を満たしていないから、他の要件について検討するまでもなく、本件特許発明1と均等なものとしてその技術的範囲に属するとすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明1の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2011-02-04 
出願番号 特願2004-296286(P2004-296286)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (E04H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 萩田 裕介  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 宮崎 恭
土屋 真理子
登録日 2007-01-05 
登録番号 特許第3899354号(P3899354)
発明の名称 免震建物  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 重森 一輝  
代理人 金山 賢教  
代理人 特許業務法人東京アルパ特許事務所  
代理人 小野 誠  
代理人 梅津 立  
代理人 坪倉 道明  
代理人 齋藤 宙治  
代理人 城山 康文  
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