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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01D
管理番号 1231967
審判番号 不服2007-22626  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-08-16 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 平成10年特許願第101244号「海水による排ガス中の酸性成分の除去装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月26日出願公開、特開平11-290643〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年4月13日の出願であって、平成18年9月15日付けで刊行物等提出書が提出され、平成19年4月6日付けで拒絶理由が起案され、平成19年6月11日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、平成19年7月11日付けで拒絶査定が起案され、平成19年8月16日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成19年9月14日付けで明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、平成20年5月1日付けで上申書の提出がなされたものである。その後、平成22年1月6日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され、平成22年3月15日付けで回答書の提出がなされ、さらに、当審において同年8月23日付けで拒絶理由が起案され、同年10月25日付けで意見書及び明細書に係る手続補正書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1に係る発明は、平成22年10月25日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「少なくとも1段の漏れ棚を内部に配した漏れ棚塔からなる気液接触装置と、該気液接触装置に海水を導入する装置と、該気液接触装置における気液接触後の海水に非接触海水を混合させ、海水を酸化する装置を用いて酸性成分を含むガスと海水とを気液接触させる際に、塔上部より被処理ガスの流量G(kg/m^(2)・hr)に対する海水の流量L(kg/m^(2)・hr)の比L/Gが7?25であり、かつ海水の流量Lが10^(4) ?25×10^(4)kg/m^(2)・hrであるような量で海水を供給するとともに、該気液接触装置の塔下部より装置内におけるガス空塔速度U_(g)が1.5?8(m/sec )で被処理ガスを導入することにより、被処理ガスと海水を向流的に気液接触させるガス中に含まれる酸性成分を除去することを特徴とするガス中に含まれる酸性成分の除去方法。」

2.当審の拒絶理由
2-1.拒絶理由の概要
当審の拒絶の理由の「3.特許法第29条第2項違反について」の概要は、本願発明は、本願の出願前の昭和50年9月11日に頒布された特開昭50-116375号公報(以下、「引用文献1」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許を受けることができない、というものである。
2-2.引用文献1の記載事項
引用文献1には、「海水による排煙脱硫方法」に関し、以下の記載がある。
(ア)「すなわち、海水と排煙中の亜硫酸ガスを直接接触させ亜硫酸ガスを海水に吸収、除去する脱硫方法において」(第2頁左上欄第2?4行)
(イ)「次に本発明の実施例の一つを添付図を参照して説明する。
図において、1はボイラー、2は脱硫装置、3は酸化脱炭酸装置、4は酸化脱炭酸用送風機、5は海水ポンプ、6は集塵器、7は煙突を示す。また8は海水ポンプより脱硫装置へ海水を供給する脱硫用配水管、9は脱硫海水が酸化脱炭酸装置3に導入される前に通常海水を混合合流せしめるバイパス管であり、12は処理後の排水管である。
本発明方法によれば、ボイラー1からの排煙ガスが導かれている脱硫装置に供給する海水量は、流量調節装置10によって、海水全アルカリ当量の2?4倍のSO_(2)を吸収するに充分な程度に低減させ、一方、脱硫装置から排出される高SO_(3)^(--)含有海水に通常海水を海水バイパス管9を経て混合合流せしめる。従って、高SO_(3)^(--)含有海水は通常海水で希釈されて酸化脱炭酸装置3に送り込まれ、この酸性域の海水は送風機4から導入される空気と接触して酸化脱炭酸が行われ、化学的に安定な硫酸塩に変換されると同時に炭酸分の放散が行われてpHが回復される。」(第2頁右上欄第11行?同頁左下欄第11行)
(ウ)第1図(第3頁右上欄)
2-3.引用発明の認定
記載事項(ア)は「海水と排煙中の亜硫酸ガスを直接接触させ亜硫酸ガスを海水に吸収、除去する脱硫方法」について記載したもので、同(イ)は「本発明の実施例の一つを添付図を参照して説明する」として、「図において、1はボイラー、2は脱硫装置、3は酸化脱炭酸装置、4は酸化脱炭酸用送風機、5は海水ポンプ、6は集塵器、7は煙突を示す」こと、「8は海水ポンプより脱硫装置へ海水を供給する脱硫用配水管、9は脱硫海水が酸化脱炭酸装置3に導入される前に通常海水を混合合流せしめるバイパス管であり、12は処理後の排水管である」こと、「ボイラー1からの排煙ガスが導かれている脱硫装置に供給する海水量は、・・・、海水全アルカリ当量の2?4倍のSO_(2)を吸収するに充分な程度に低減させ、一方、脱硫装置から排出される高SO_(3)^(--)含有海水に通常海水を海水バイパス管9を経て混合合流せしめる」こと、「高SO_(3)^(--)含有海水は通常海水で希釈されて酸化脱炭酸装置3に送り込まれ、この酸性域の海水は送風機4から導入される空気と接触して酸化脱炭酸が行われ、化学的に安定な硫酸塩に変換されると同時に炭酸分の放散が行われてpHが回復される」ことが、添付図である第1図と共に記載されており、これらの記載事項によれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用1発明」という。)が記載されていると認められる。
「海水と排煙中の亜硫酸ガスを直接接触させ亜硫酸ガスを海水に吸収する脱硫装置2と、脱硫装置2に海水を供給する海水ポンプ5と、脱硫装置2から排出される高SO_(3)^(--)含有海水に通常海水を混合合流せしめ、通常海水で希釈された高SO_(3)^(--)含有海水を酸化脱炭酸する酸化脱炭酸装置3を備え、海水と排煙中の亜硫酸ガスを直接接触させ亜硫酸ガスを海水に吸収、除去する方法。」

3.対比
本願発明と引用1発明とを対比すると、引用1発明の「脱硫装置2」は、「海水と排煙中の亜硫酸ガスを直接接触させ亜硫酸ガスを海水に吸収する」るものであるから、本願発明の「気液接触装置」に相当し、引用1発明の「海水ポンプ5」は、本願発明の「該気液接触装置に海水を導入する装置」に相当する。
また、引用1発明の「脱硫装置2から排出される高SO_(3)^(--)含有海水」、「通常海水」は、それぞれ、本願発明の「該気液接触装置における気液接触後の海水」、「非接触海水」に相当し、引用1発明の「酸化脱炭酸装置3」は、本願発明の「該気液接触装置における気液接触後の海水に非接触海水を混合させ、混合後の海水を酸化する装置」に相当する。
そして、引用1発明の「亜硫酸ガス」は、本願発明の「酸性成分」に含まれるものであるから、引用1発明の「海水と排煙中の亜硫酸ガスを直接接触させ亜硫酸ガスを海水に吸収、除去する方法」は、「酸性成分を含むガスと海水とを気液接触させてガス中に含まれる酸性成分を除去する方法」といえるものである。
してみると、両者は、
「気液接触装置と、該気液接触装置に海水を導入する装置と、該気液接触装置における気液接触後の海水に非接触海水を混合させ、海水を酸化する装置を用いて酸性成分を含むガスと海水とを気液接触させるガス中に含まれる酸性成分を除去する方法」
で一致し、以下の点で相違する。
相違点a:本願発明は、「気液接触装置」が、「少なくとも1段の漏れ棚を内部に配した漏れ棚塔からなる」ものであるのに対し、引用1発明は、「気液接触装置」についてかかる特定がない点
相違点b:本願発明は、「塔上部より被処理ガスの流量G(kg/m^(2)・hr)に対する海水の流量L(kg/m^(2)・hr)の比L/Gが7?25であり、かつ海水の流量Lが10^(4) ?25×10^(4)kg/m^(2)・hrであるような量で海水を供給するとともに、該気液接触装置の塔下部より装置内におけるガス空塔速度U_(g)が1.5?8(m/sec )で被処理ガスを導入することに」よるものであるのに対し、引用1発明は、かかる特定がない点
相違点c:本願発明は、「気液接触装置」が、「被処理ガスと海水を向流的に気液接触させる」ものであるのに対し、引用1発明は、「気液接触装置」についてかかる特定がない点

4.当審の判断
まず、気液接触装置に関する相違点a及びcについて検討すると、
ガスと液体を接触させてガス中に含まれる特定成分を液体に吸収させるために用いる気液接触装置として、少なくとも1段の漏れ棚を内部に配した漏れ棚塔からなる気液接触装置は、本願出願前当該技術分野において広く用いられていたものである。例えば、当審の拒絶理由において引用した本願の出願前の昭和59年11月1日に頒布された特開昭59-193114号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「0.3乃至0.6の開口比Fcを有する漏れ棚を少なくとも1段以上装填して成る気液接触装置の上部より処理液を被処理ガスの流量G(kg/m^(2)・hr)に対する処理液の流量L(kg/m^(2)・hr)の比L/Gが3以上であり、しかも処理液の流量Lが11×10^(4)超乃至17×10^(4)kg/m^(2)・hrであるような割合で供給すると共に該接触装置の下部より前記被処理ガスを装置内に於けるガス空塔速度U_(g)が以下に定義するU_(gm)(m/sec)超から10(m/sec)までの範囲となるように導入することによって被処理ガスと処理液とを向流的に気液接触させることを特徴とするガス中に含まれる特定成分の湿式除去法。」(特許請求の範囲)、「堰及び溢流部などを有していない多孔板もしくは格子板から成る濡れ棚を少なくとも1段以上、装置内に装填した気液接触装置を用いることによってガス中に含有する特定成分、即ちガス中に含有する特定ガス成分や特定固形成分等を湿式的に除去する方法」(第2頁左上欄下から8行?下から3行)及び「a) 多孔板から成る漏れ棚を使用し、処理液の密度ρ_(l)(kg/m^(3))に対する被処理ガスの密度ρ_(g)(kg/m^(3))の比ρ_(g)/ρ_(l)が0.838×10^(-5)以上である場合:
U_(gm)=49.14Fc^(0.7)・(ρ_(g)/ρ_(l)×10^(3))^(-0.5)・(L/G)^(-1/3)・(g・l)^(1/2)」(第3頁左上欄下から2行?右上欄3行)について記載されているところであって、引用1発明において、気液接触装置として少なくとも1段の漏れ棚を内部に配した漏れ棚塔からなる気液接触装置を用いること及びそれに伴って、被処理ガスと海水を向流的に気液接触させることは当業者が容易に想到し得たことである。
次に、相違点bについて検討する。本願の当初明細書の段落【0008】には、海水の密度ρ_(L)(kg/m^(3))=1030に対して被処理ガスの密度ρ_(g)(kg/m^(3))の比ρ_(G)/ρ_(l)が0.838×10^(-3)以上である場合が記載されており、上記引用文献2の特許請求の範囲における「気液接触装置の上部より処理液を被処理ガスの流量Gに対する処理液の流量Lの比L/Gが3以上であり、しかも処理液の流量Lが11×10^(4)超乃至17×10^(4)kg/m^(2)・hrであるような割合で供給すると共に接触装置の下部より前記被処理ガスを装置内に於けるガス空塔速度Ugが以下に定義するU_(gm)(m/sec)超から10(m/sec)までの範囲となるように導入すること」が相違点bに係る特定事項に対応し、本願の図1からみてLが11×10^(4)超乃至17×10^(4)kg/m^(2)・hrの範囲でU_(gm)>1.5であると認められるから、相違点bと対比すると、L/Gが7?25、Lが11×10^(4)超乃至17×10^(4)kg/m^(2)・hr、U_(g)がU_(gm)?8の範囲で処理液を供給し、被処理ガスを導入する点で引用文献2の気液接触装置は、相違点bに係る特定事項と共通するということができ、引用文献2の気液接触装置は、海水を処理液とすることを排除するものではないので、引用文献2に記載されたL、G、U_(g)の条件を海水を用いる引用1発明に適用することは、当業者であれば適宜なし得る操業条件というべきである。
そして、本願明細書及び図面の記載を検討しても、相違点a乃至cに係る特定事項を採用することにより、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。

したがって、本願発明は、引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.当審の拒絶理由に対する意見書の主張について
請求人は、平成22年10月25日付けの意見書において、「確かに、『少なくとも1段の漏れ棚を内部に配した漏れ棚塔からなる気液接触装置は、本願出願前当該分野において広く用いられていたものである。』しかしながら、上記のように、段落[0017]に記載されるように、「漏れ棚塔を用いる排ガス処理技術については、特公昭51-31036号公報及び特公昭60-18208号公報(審決注:特公昭60-18206号公報の誤記)に記載されているが、本発明者らはそこに示された運転操作範囲A及びB(図1参照)は、海水を利用する排ガス処理には相応しくない」(審判長が引用された上記特開昭59-193114号公報も海水を利用するものではない。)。これに対し、本願発明は、請求項1に規定する運転条件を採用することにより、意外にも漏れ棚塔を用いて海水を利用する排ガス処理を顕著に効果的に行うことができたものである。引用1発明において、少なくとも1段の漏れ棚を内部に配した漏れ棚塔からなる気液接触装置を用い得たとしても、当業者は本願発明に到達することはできないと思料する。
したがって、請求項1に係る本願発明は、引用文献1記載の発明に対して進歩性を有するものであると思料する。」と主張するが、特開昭59-193114号公報(引用文献2)には、海水を利用することが明記されていないだけで、海水の利用を阻害するような記載も認められず、しかも、引用文献2には、本願発明と重複するL、G、U_(g)の条件が開示されているので、本願発明は、海水に特有なL、G、U_(g)の範囲を新たに特定したものとはいえない。
したがって、上記主張を採用することはできない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-06 
結審通知日 2010-12-14 
審決日 2010-12-27 
出願番号 特願平10-101244
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 神田 和輝本間 友孝  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 小川 慶子
吉川 潤
発明の名称 海水による排ガス中の酸性成分の除去装置  
代理人 西山 雅也  
代理人 樋口 外治  
代理人 石田 敬  

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