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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B09B
管理番号 1231978
審判番号 不服2008-1370  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-17 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 特願2002-374813「遮水構造並びに遮水構造の施工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月22日出願公開、特開2004-202379〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年12月25日の出願であって,平成19年8月17日付けで拒絶理由が通知され(発送日は同年同月21日)、同年10月17日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、同年12月10日付けで拒絶査定がなされ(発送日は同年同月18日)、これに対して、平成20年1月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年2月15日付けで請求の理由に係る手続補正がなされ、同日付で明細書の記載に係る手続補正書が提出され、その後、平成22年8月10日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され(発送日は同年同月17日)、これに対する回答書が同年10月18日に提出されたものである。

2.本願発明について
2-1.平成20年2月15日付けの明細書の記載に係る手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正は、本件補正前の請求項1?4を削除し、本件補正前の請求項1?4の何れかを引用していた請求項5を、本件補正後の請求項1?4となし、本件補正前の請求項1?4の何れかを引用していた請求項6の内から請求項1を引用して独立形式で記載して本件補正後の請求項5とし、また、本件補正前の【0013】を削除し、本件補正前の【0009】、【0014】を請求項の記載と文言を整合させるものであり、これは請求項の削除とこれに伴う明細書の発明の詳細な説明の記載の補正ということができ、特許法第17条の2第4項第1号に規定される請求項の削除を目的とする補正に該当する。
したがって、本件補正はこれを適法なものと認める。

2-2.本願発明の認定
上記のように本件補正が認められるので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成20年2月15日付けの明細書の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「略水平の底面と、この底面から少なくとも勾配50%で斜め上方へ延在する吹き付けコンクリート処理された法面とを備えた凹所に対し、前記底面及び前記法面上に遮水シートを敷設することにより施工される遮水構造であって、
ポリオレフィン系の樹脂からなる遮水層と、該遮水層に積層される織布、不織布等からなる支持層と、該支持層に設けられて前記法面に固定される固定片とを備えてなり、前記支持層が、支持層の幅方向の両端から遮水層の幅方向の両端部が所定の幅ではみ出るように遮水層に積層されている遮水シートを前記法面上に敷設し、前記遮水シートの支持層に設けられた固定片をコンクリート釘等の固定金具で固定し、隣接した遮水シート同士を溶着することを特徴とする法面の遮水構造。」

3.刊行物の記載
3-1.原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され本願出願日前である平成14年12月17日に頒布された刊行物である特開2002-361196号公報 (以下「刊行物1」という。)には以下の事項が記載されている。
(刊1-ア)「【請求項1】遮水シート2の一方の表面に繊維性基布1を積層し一体化し、その一方の端部において遮水シートを所定の幅だけ露出したことを特徴とする複合遮水シートユニット。」(【特許請求の範囲】)
(刊1-イ)「【従来の技術】従来から、一般及び産業廃棄物の埋立、ダム及び溜池の漏水防止、水路(河川、用水路)のライニング、港湾の埋立、防波堤などの洗掘防止、河川の堤防、海岸護岸の吸出し防止、連結ブロック護岸の裏込め、鉄道、道路の噴泥の防止、地下鉄、トンネルの止水、建造物の屋上防水等の土木工事に各種の遮水・防止シート類が使用されている。」(【0002】)
(刊1-ウ)「また、法面に設置することがあるため、遮水シートの表面は滑りにくい形状、構造にする必要性がある。このように、各種の土木工事に遮水材が使用されている。この土木工事に使用される遮水材の主要構成要素として遮水シートが使用されている。」(【0010】)
(刊1-エ)「発明が解決するための他の課題は、遮水シートと土が接する部分からのスベリが発生する点である。発明が解決するための他の課題及び利点は、以下逐次明らかにされる。
本発明は、上記課題を解決するために、遮水シートの一方または両方の面に繊維性基布を積層し一体化し、その少なくとも一方の端部において遮水シートを所定の幅だけ露出することとした。
【発明の実施の形態】図1Aは、本発明の複合遮水シートの1例を示す平面図、同Bは側面図である。1は、繊維性基布、2は遮水シートである。図1からも分かるように、本発明の複合遮水シートは、遮水シート1の一方の面に繊維性基布1を積層し一体化し、その少なくとも一方の端部において遮水シートを所定の幅だけ露出したものである。本発明の複合遮水シートは、予め複数枚が接合されるような構造になっているので、いわゆるユニットである。」(【0016】?【0018】)
(刊1-オ)「本発明において、繊維性基布とは、繊維で製造された織布或いは不織布である。本発明の繊維性基布の原料は、綿、レーヨン、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン、アクリル、ビニロン、ガラス繊維、パルプ、炭素繊維などである。」(【0019】)
(刊1-カ)「本発明の遮水シートとしては、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴムなどの加硫系ゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム等の非加硫系ゴム、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル重合体等の塩化ビニル樹脂系、エチレン酢酸ビニル系重合樹脂等エチレン酢酸ビニル樹脂系、ベントナイト等微細粘度が使用される。
また、アメリカでは環境保護庁では、遮水シートの材料として、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM),ネオプレンゴム(CR)等ゴム系、塩素化ポリエチレン(CPE),クロロスルホン化ポリエチレン(CSPE),塩化ビニル樹脂(PVC),高密度ポリエチレン(HDPE),直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)を挙げているが、本発明ではそれを使用することもできる。」(【0021】、【0022】)
(刊1-キ)「【発明の効果】請求項1に記載した発明により、遮水シート2の一方の表面に繊維性基布1が積層され一体化され、その一方の端部において遮水シートが所定の幅だけ露出しているので、遮水シート2単品の場合に比べて自重が増加し、且つその独特の端部構造を利用して複数枚が相互に容易に組合せられるユニットとして機能するので、現場施工においても容易に施工できる。さらに、繊維性基布は、遮水シートより、摩擦力が大きいため、土の間に埋設する時に上下面両面の土がスベリにくい。」(【0030】)
(刊1-ク)「図2は、図1の複合遮水シートを製造するための3本ロール構成体を示す概念図である。図2において、1は繊維性基布、2は遮水シート、3はトップロール、4はミドルロール、5はボトムロール、6は嵩上げリングで、露出させる遮水シート2の幅と同じ幅を有している。この嵩上げリング6をボトムロール5の端部にボルト止め等任意の手段で締結し、所定の方法で繊維性基布1と遮水シート2をロールにより熱圧着すれば、図1に示したような一方の端部において遮水シートの一部が露出している複合遮水シートが製造される。」(【0025】)
(刊1-ケ)「本発明の複合遮水シートの1実施例の平面図」、「本発明の複合遮水シートの1実施例の側面図」(【図面の簡単な説明】)とそれぞれ題された【図1A】、【図1B】(5頁)から、上記(刊1-オ)で摘示される「遮水シート1の一方の面に繊維性基布1を積層し一体化し、その少なくとも一方の端部において遮水シートを所定の幅だけ露出」した「複合遮水シート」の構造がみてとれる。
(刊1-コ)「本発明の1実施例の複合遮水シートを製造するロール構成体の概念図」(【図面の簡単な説明】)と題された【図2】(5頁)から、上記(刊1-ク)で摘示されるように、「図1の複合遮水シート」を製造するための3本ロール構成体をみてとれ、その構造の一部として「露出させる遮水シート2の幅と同じ幅を有して」いる符号「6」で示される「嵩上げリング」をみてとることができる。さらに、符号「3」、「4」、「5」でそれぞれ示される「トップロール」、「ミドルロール」、「ボトムロール」が長方形と見てとることができ、符号「2」、「1」でそれぞれ示される「遮水シート」、「繊維性基布」が扁平な長方形と見てとることができることから、同図には「遮水シート」、「繊維性基布」が「複合遮水シート」として上記各ロール間を通して熱圧着されて同図の紙面に垂直方向にでてくることが視認される。

3-2.原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され本願出願日前である平成2年5月21日に頒布された刊行物である実願昭63-146734号(実開平2-66825号)のマイクロフィルム(以下「刊行物2」という。)には以下の事項が記載されている。
(刊2-ア)「本考案は一般廃棄物や産業廃棄物を処分するため主として内陸に設置される埋立て処分地の側面および底面に亘って敷設される被覆シートに関するものである。
[従来の技術]
一般廃棄物や産業廃棄物を処分するため海面や内陸に埋立て処分地を設置し、そこへ廃棄物を投入することが広く行われている。これらの処分地においては、廃棄物中の有害成分が浸出して周囲を汚染することがないよう底面および側面をコンクリート、アスファルト、ゴムシート、合成樹脂シートなどで被覆して遮水性を付与する必要がある。」(1頁下から4行?2頁9行)
(刊2-イ)「第1図は本考案の一実施例を示すものであり、被覆シート1は柔軟性ならびに遮水性を有し、適宜の厚さ、幅ならびに長さを有する帯状の軟質ポリ塩化ビニルからなり、埋立て処分地の側面を被覆する部分に例えば被覆シート1と同材質により形成された竪幅0.5?1m程度で被覆シート1の全横幅に亘る長さの帯状を呈する多数枚の固定部材2が、それぞれの上端縁を溶着することで上下方向へ亘って所定の間隔、例えば10m間隔で配設されている。
このような構成を有する被覆シート1は、従来と同様に多数枚を互いの側端縁を重ねて敷き並べ、その重ね部を溶着により互いに接合することによって埋立て処分地の全面に隙間なく敷設される。この際、第2図に示すように、先ず、巻回された状態の被覆シート1を埋立て処分地4の側面5に沿って底面6へ向かって転がした際に展開するように天端7に配置し、終端を従来と同様な手段により天端7に固定する。次に、固定部材2の取付部が露出するまで巻回物9を側面5に沿って底面6方向へ転がし展開させ、露出しているそれぞれの固定部材2の下端縁に沿って適宜の間隔で、例えば長さが50?60cm程度の止着杆8の多数本を側面5に向かって打込むことによって側面5に固定する。そして、同様にして順次巻回物9を転がし展開して全ての固定部材2を側面5に固定し、第3図に示すように被覆シート1を底面6まで展開して側面5および底面6の全面に亘って敷き並べ、隣り合う被覆シート1との重ね部を溶着して敷設作業を終了する。」(5頁9行?7頁7行)
(刊2-ウ)「本考案の一実施例を示す一部を切截した斜視図」、「使用状態を示す説明図」、「使用状態を示す断面図」とそれぞれ題された第1図、第2図ならびに第3図、第4図から、上記摘示事項(刊2-イ)で摘示されるように、符号「1」で示される「被覆シート」には、符号「2」で示される「被覆シート1の全横幅に亘る長さの帯状を呈する多数枚」の「固定部材」が、「それぞれの上端縁を溶着することで上下方向へ亘って所定の間隔、例えば10m間隔で配設」され、「それぞれの固定部材2の下端縁に沿って適宜の間隔」で「止着杆8の多数本」を「側面5に向かって打込むことによって側面5に固定」されることが視認される。

3-3.原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され本願出願日前である平成14年5月8日に頒布された刊行物である特開2002-126681号公報には以下の事項が記載されている。
(刊3-ア)「【従来の技術】用水を貯留する溜め池や廃棄物を投棄する廃棄物処分場は、図3に一部破断斜視図にて示すように、地山たる地盤1に掘削形成された地盤凹部3を基盤3として、その表面3aに所定の遮水工5を施して構成される。この遮水工5は、前記基盤表面3aに主に遮水シート7を敷設してなされるが、その敷設の前には、基盤表面3aを平滑化する下地処理が施されて、基盤表面3aのデコボコをなくし、その後に敷設する遮水シート7の破損を防ぐとともに敷設時の密着性を良くするようにしている。
この下地処理には、通常コンクリートやモルタルなどのセメント系材料が使用され、該材料にて形成された下地層9は、基盤3表層部の崩落を防止する補強部材としても機能し、特に急勾配の法面や鉛直な壁面に有効に作用する。」(【0002】、【0003】)
(刊3-イ)「尚、これらの施工を、急勾配の法面や鉛直面に対して実施する場合は、ショットクリート、すなわち吹付けコンクリート工法が好適である。すなわち、該工法によれば、圧縮空気により管路を輸送した、混練後のポーラスコンクリートを、その管路先端のノズルから高速で地盤凹部3の表面3aに吹き付けて容易に該表面3aに下地層19を成形できる。」(【0017】)
(刊3-ウ)「従来の遮水構造を示すための、該遮水構造の一部を切り欠いて示す廃棄物処分場の一部破断斜視図」(【図面の簡単な説明】)と題された【図3】(5頁)から、上記摘示事項(刊3-ア)で摘示されるように、符号「3」で示される「地盤凹部」の法面と底面の全体に亘って、符号「9」、「7」でそれぞれ示される「下地層」、「遮水シート」が積層され敷設されていることが見てとれる。

4.対比・検討
4-1.引用発明の認定
刊行物1の記載事項について検討する。
a)刊行物1には、上記摘示事項(刊1-ア)の記載から、「遮水シートの一方の表面に繊維性基布を積層し一体化し、その一方の端部において遮水シートを所定の幅だけ露出したことを特徴とする複合遮水シートユニット」の発明が記載されている。
b)そして、上記「複合遮水シートユニット」は、同(刊1-イ)、同(刊1-ウ)から、「一般及び産業廃棄物の埋立」において「遮水材の主要構成要素」として使用されるものであることが記載されている。
c)また、同(刊1-エ)には「発明が解決するための他の課題は、遮水シートと土が接する部分からのスベリが発生する点である。発明が解決するための他の課題及び利点は、以下逐次明らかにされる。本発明は、上記課題を解決するために、遮水シートの一方または両方の面に繊維性基布を積層し一体化」したことが記載され、また、同(刊1-ウ)には上記「複合遮水シートユニット」は「法面に設置することがあるため、遮水シートの表面は滑りにくい形状、構造にする必要性がある」と記載されることから、上記「複合遮水シートユニット」は「法面に設置する」ことがあり、そのために「遮水シートの表面は滑りにくい形状、構造」とする必要から、「遮水シートの一方または両方の面に繊維性基布を積層し一体化」していることが理解される。
d)そこで、「滑りにくい形状、構造」である「複合遮水シートユニット」の材質についてみると、同(刊1-オ)には、「繊維性基布」として「繊維で製造された織布或いは不織布」を用いることが記載され、該「織布或いは不織布」として「ポリエステル」を用い得ることも記載され、また、同(刊1-カ)には、「遮水シート」として「高密度ポリエチレン(HDPE)」または「直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)」を用い得ることが記載されている。
e)また、摘示事項(刊1-エ)に「図1Aは、本発明の複合遮水シートの1例を示す平面図、同Bは側面図である。1は、繊維性基布、2は遮水シートである。図1からも分かるように、本発明の複合遮水シートは、遮水シート1の一方の面に繊維性基布1を積層し一体化し、その少なくとも一方の端部において遮水シートを所定の幅だけ露出したものである」と記載されている。そして、視認事項(刊1-ケ)からも確認されるように、「複合遮水シート」は「遮水シート1の一方の面に繊維性基布を積層し一体化」し、「一方の端部において遮水シートを所定の幅だけ露出」した構造を有するものが一実施例として示されているといえる。
ところで、上記摘示事項(刊1-エ)には「その少なくとも一方の端部において遮水シートを所定の幅だけ露出したものである」と記載されていることから、「その少なくとも一方」は「両方」を含むことは文意から明らかであるので、上記「複合遮水シートユニット」においては、「複合遮水シート」は「遮水シート1の一方の面に繊維性基布を積層し一体化」し、その「両方の端部において遮水シートを所定の幅だけ露出」した構造を有するものも含むということができる。
f)そして、摘示事項(刊1-ク)、視認事項(刊1-コ)から、「遮水シート」、「繊維性基布」が「複合遮水シート」として上記各ロール間を通して熱圧着されて同図の紙面に垂直方向にでてくることが理解されるので、同図の紙面に垂直方向が「複合遮水シート」の長さ方向であり、これに垂直な紙面上の左右方向が「複合遮水シート」の幅方向といえるものであり、「露出させる遮水シート2の幅と同じ幅を有して」いる符号「6」で示される「嵩上げリング」をみてとることができることから、「複合遮水シート」はその幅方向に「端部において遮水シートを所定の幅だけ露出」した構造を有するものということができる。
g)さらに、「複合遮水シートユニット」について、摘示事項(刊1-エ)に「本発明の複合遮水シートは、予め複数枚が接合されるような構造になっているので、いわゆるユニットである」と記載され、同(刊1-キ)に「その独特の端部構造を利用して複数枚が相互に容易に組合せられるユニットとして機能する」と記載されていることから、「複合遮水シートユニット」は端部構造を利用して相互に組合せられる複数枚の複合遮水シートのことを言うものであると理解される。
そして、複数枚の複合遮水シートがそれらの端部構造を利用して相互に組合せられて設置された状態は、設置される場所も併せて遮水構造ということができる。
h)上記a)?g)の検討結果から、上記記載事項(刊1-ア)?(刊1-コ)を本願発明の記載ぶりに則して表現すると、刊行物1には、

「高密度ポリエチレン(HDPE)または直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)からなる遮水シートの一方の表面に、繊維で製造された織布或いは不織布を積層し一体化し、その両端部において遮水シートをその幅方向に所定の幅だけ露出した端部構造を利用して相互に組合せられた複数枚の複合遮水シートを法面に設置した遮水構造」の発明(以下、「引用発明」という。)

が記載されていると認められる。

4-2.本願発明と引用発明との対比
i)引用発明の「高密度ポリエチレン(HDPE)または直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)」は、本願発明の「ポリオレフィン系の樹脂」に相当する。
ii)引用発明の「遮水シート」、「繊維で製造された織布或いは不織布」、「複合遮水シート」は、「滑りにくい形状、構造」として「遮水シート」に「繊維で製造された織布或いは不織布」を積層して「複合遮水シート」とするものであるから、これらは本願発明の「遮水層」、「織布、不織布等からなる支持層」、「遮水シート」にそれぞれ相当する。
iii)引用発明の「複合遮水シート」が「その両端部において遮水シートをその幅方向に所定の幅だけ露出した端部構造」を有することは、上記ii)の検討から、本願発明の「遮水シート」が「支持層が、支持層の幅方向の両端から遮水層の幅方向の両端部が所定の幅ではみ出るように遮水層に積層されている」構造を有することに相当する。
iv)引用発明の「法面に設置」は本願発明の「法面上に付設」することに相当することは明らかである。
v)以上から本願発明と引用発明とは
「ポリオレフィン系の樹脂からなる遮水層と、該遮水層に積層される織布、不織布等からなる支持層と、支持層の幅方向の両端から遮水層の幅方向の両端部が所定の幅ではみ出るように遮水層に積層されている遮水シートを法面上に敷設した遮水構造」の点(一致点)で一致し、次の点で両者は相違する。

(相違点1)本願発明では「遮水シート」が「略水平の底面と、この底面から少なくとも勾配50%で斜め上方へ延在する吹き付けコンクリート処理された法面とを備えた凹所に対し、前記底面及び前記法面上」に敷設されることにより施工される「遮水構造」を形成するのに対して、引用発明の「遮水構造」はそのような特定を有さない点。
(相違点2)本願発明では「遮水シート」が「支持層に設けられて前記法面に固定される固定片」を備え、該「固定片」を「コンクリート釘等の固定金具で固定」し、「隣接した遮水シート同士を溶着」することで「遮水構造」を形成するのに対して、引用発明の「遮水構造」はそのような特定を有さない点。

4-3.相違点の検討
4-3-1.相違点1について
i)例えば、刊行物2の摘示事項(刊2-ア)には、「被覆シート」が「一般廃棄物や産業廃棄物を処分するため主として内陸に設置される埋立て処分地の側面および底面に亘って敷設される・・・底面および側面を・・・合成樹脂シートなどで被覆して遮水性を付与する必要がある」ことが記載され、また、刊行物3の摘示事項(刊3-ア)、視認事項(刊3-ウ)から、「廃棄物を投棄する廃棄物処分場」では「地盤凹部」の法面と底面の全体に亘って「遮水シート」が敷設されることが分かるように、廃棄物を埋め立てる処分場では、遮水シートを底面と法面の処分場全体に亘って設けることは周知技術ということができる。また、遮水シートを設けた構造は「遮水構造」ということができる。
ii)そして、刊行物3の摘示事項(刊3-ア)には「廃棄物を投棄する廃棄物処分場は・・・地盤凹部3を基盤3として、その表面3aに所定の遮水工5を施して構成される。この遮水工5は、前記基盤表面3aに主に遮水シート7を敷設してなされるが、その敷設の前には、基盤表面3aを平滑化する下地処理が施されて、基盤表面3aのデコボコをなくし、その後に敷設する遮水シート7の破損を防ぐとともに敷設時の密着性を良くするようにしている。
この下地処理には、通常コンクリートやモルタルなどのセメント系材料が使用され、該材料にて形成された下地層9は、基盤3表層部の崩落を防止する補強部材としても機能し、特に急勾配の法面や鉛直な壁面に有効に作用する」と記載されるように、底面と法面を有する「地盤凹部」の表面に、表面の「デコボコをなくし、その後に敷設する遮水シート7の破損を防ぐとともに敷設時の密着性を良く」し、また、「表層部の崩落を防止する」ために、「特に急勾配の法面や鉛直な壁面に有効に作用」する「コンクリートやモルタルなどのセメント系材料」で「遮水シート」の「下地層」を設けることが知られており、その施工法についても同(刊3-イ)に「これらの施工を、急勾配の法面や鉛直面に対して実施する場合は、ショットクリート、すなわち吹付けコンクリート工法が好適・・・圧縮空気により管路を輸送した、混練後のポーラスコンクリートを、その管路先端のノズルから高速で地盤凹部3の表面3aに吹き付けて容易に該表面3aに下地層19を成形できる」と記載されるように、「吹付けコンクリート」処理が知られている。
iii)さらに、「法面」の「勾配」について、本願発明では「略水平の底面と、この底面から少なくとも勾配50%で斜め上方へ延在する吹き付けコンクリート処理された法面」なので、本願発明の「法面」の「勾配」は「50%以上」といえる。そして、本願明細書【0023】に「法面13は、特に勾配50%(水平方向2単位長さに対して、垂直方向1単位長さである勾配)以上の急勾配である場合、吹き付けコンクリート処理が必要である」と記載されることから、「勾配」が「50%以上」であるということは、勾配の角度をθとすると、θは「水平方向2単位長さ」に対して「垂直方向1単位長さ」となる以上の急勾配を形成する角度だから、tanθ≧1/2といえるので、θ=Tan^(-1)(1/2)≧26.7°となる。
すなわち、本願発明の「法面」の「勾配」は26.7°以上といえる。
一方で、「法面」の「勾配」について、例えば特開2002-11427号公報の【0022】には、廃棄物処分場や貯水池の法面の勾配として「1割勾配(45°勾配)」とすることが記載され、特開2002-115244号公報の【0002】には、廃棄物処分場造成工事等において「造成勾配を2割以上」とすることが記載され、これは、例えば特開平11-303089号公報の【0015】に「1割勾配に相当する45度、5分勾配に相当する約63度」とあることから、
θ=Tan^(-1)(1/1)=45°、
θ=Tan^(-1)(1/0.5)=63.4°であるので、
上記「造成勾配を2割以上」は
θ=Tan^(-1)(1/2)=26.7°以上を意味するといえる。
すなわち、廃棄物処分場の「法面」の「勾配」を「50%以上」(26.7°以上)とすることは上記各公報に開示されるように周知の技術事項であるといえる。
そして、本願明細書【0023】に「勾配50%・・・以上の急勾配である場合、吹き付けコンクリート処理が必要である」旨記載があることから、「勾配50%以上」とすることの技術的意義が「吹き付けコンクリート処理」を要することにあるようにも解されるが、上記ii)で述べたように「吹き付けコンクリート処理」は急勾配の法面で普通の処理であることは明らかだから、本願発明で「法面」の「勾配」を「50%以上」(26.7°以上)とすることに格別の技術的意義は見いだせず、そのようにすることは必要に応じて適宜採用される設計的な事項に過ぎない。
iv)すると、引用発明の「遮水構造」における「複合遮水シート」は、上記「4-1.b)」で述べたように「一般及び産業廃棄物の埋立」において「遮水材の主要構成要素」として使用されるものであるから、これを上記周知の廃棄物処分場の底面と法面に亘って遮水シートを設ける遮水構造の遮水シートとして適用し、「略水平の底面と、この底面から少なくとも勾配50%で斜め上方へ延在する吹き付けコンクリート処理された法面とを備えた凹所に対し、前記底面及び前記法面上」に「敷設」して施工される「遮水構造」を形成することに格別の困難性は見いだせない。

4-3-2.相違点2について
i)刊行物2の摘示事項(刊2-イ)、視認事項(刊2-ウ)からは、「遮水性」を有する「被覆シート1」に、「被覆シート1の全横幅に亘る長さの帯状を呈する多数枚」の「固定部材2」が、「それぞれの上端縁を溶着することで上下方向へ」亘って「配設」され、「それぞれの固定部材2の下端縁に沿って適宜の間隔」で「止着杆8の多数本」を「側面5に向かって打込む」ことによって、「被覆シート1」が「埋立て処分地4」の「側面5に固定」される遮水構造が示されていることが理解される。
ii)そして、「固定部材」は本願発明の「固定片」に相当することは明らかであり、「止着杆」は「固定部材」を「埋立て処分地」の「側面に固定」するものだから本願発明の「コンクリート釘等の固定金具」に相当し、たとえ相当しないとしても「止着杆」に代えて「コンクリート釘等の固定金具」を採用することは「固定」機能の代替物の選択にすぎないから設計的になし得る事項に過ぎないものと言い得る。
iii)ここで、刊行物2の「遮水性」を有する「被覆シート1」は摘示事項(刊2-イ)の記載から「被覆シート1は柔軟性ならびに遮水性を有し、適宜の厚さ、幅ならびに長さを有する帯状の軟質ポリ塩化ビニルからな」るものであるところ、「ポリ塩化ビニル」は塩素を含むから環境問題を生じる恐れがあることは周知の事実であり、また、「塩化ビニル樹脂」の比重は1.16?1.45程度であり、「ポリエチレン」の比重は0.910?0.965程度であることが、例えば新版プラスチック読本、桜内雄二郎 著、(株)工業調査会 発行、1981年6月10日第15版発行、355頁、357頁に記載されているように、ポリ塩化ビニルはポリエチレンなどと比較した場合にその重量がかさみ、ポリ塩化ビニル製の被覆シートはその重量が大きいので施工性に問題があることも周知のことと言える。
そして、より軽いポリエチレン製の被覆シートであっても、法面等への施工に際して、施工面への固定を確実にするために「固定部材」、「止着杆」を用いることは何ら格別なこととはいえない。
iv)さらに、引用発明では、摘示事項(刊1-エ)から、「遮水シート」の「所定の幅」だけ露出された「端部」で「複数枚が接合」されるものであり、刊行物2の遮水構造は、摘示事項(刊2-イ)に「被覆シート1は、従来と同様に多数枚を互いの側端縁を重ねて敷き並べ、その重ね部を溶着により互いに接合することによって埋立て処分地の全面に隙間なく敷設される」と記載され、「被覆シート1」の端部同士を「溶着」で互いに接合するものといえるので、引用発明でも「複合遮水シート」の端部同士を「溶着」によって接合することは何ら格別なものではない。
v)すると、引用発明の「遮水構造」は、「一般及び産業廃棄物」の埋立に用いられ、ポリ塩化ビニルより軽量で環境問題を引き起こすものでないポリエチレンでなる「複合遮水シート」を設置してなるものだから、刊行物2に記載の「一般廃棄物や産業廃棄物」の「埋立て処分地」の「遮水シート」を用いる遮水構造を、引用発明の「遮水構造」に適用して、ポリエチレンでなる「複合遮水シート」を、「固定片」、「コンクリート釘等の固定金具」を用いて「法面上に敷設」し、隣接する「複合遮水シート」同士を溶着して接合して「遮水構造」を形成することに格別の困難性は見いだせない。

以上のように各相違点について判断され、また、各相違点に基づく作用効果も刊行物1?3に記載される事項から想定される範囲を超えるものでもない。

5.請求人の主張について
請求人は回答書(6?7頁)において、「刊行物3に記載の発明でいうところの表面の滑りにくさとは、刊行物3の[発明の効果]欄にも記載されているように、遮水シートの表面に被せられた土の滑りにくさであり、刊行物1に記載の発明の被覆シートのように、「その自重ならびに投入される廃棄物の重量により底面方向へと引張られる」(刊行物1の第3頁)場合に要求される、シート自体の滑りにくさとは異質のものです。
よって、依然として、刊行物3に記載された発明の複合遮水シートユニットは、地中等に埋設されることを前提とされたものであり、刊行物3の内容には、地中等に埋設されることがない刊行物1に記載された発明の被覆シートの代わりに刊行物3に記載された発明の複合遮水シートユニットを用いることの動機付けとなるものはありません。」(「刊行物1」は本審決の「刊行物2」であり、「刊行物3」は本審決の「刊行物1」であり、以下、本審決での名称を用いる。)旨を主張する。
この主張について検討するに、まず、上記「4-1.b)」で述べたように、刊行物1の「複合遮水シートユニット」は、同(刊1-イ)、同(刊1-ウ)から、「一般及び産業廃棄物の埋立」において「遮水材の主要構成要素」として使用されるものであり、請求人の主張するように「地中等に埋設されることを前提とされた」ものとはいえない。
たしかに、刊行物1の図面には「地中等に埋設されることを前提とされた」実施例も示されているが、刊行物1の「複合遮水シートユニット」が「一般及び産業廃棄物の埋立」に用いられるものであることは明記されており、そのような用途の場合に、他の用途と同様の「地中等に埋設されることを前提とされた」ものとまでは言えないことは明らかである。
そして、請求人の主張する箇所である刊行物1の[発明の効果]欄には「請求項1に記載した発明により、遮水シート2の一方の表面に繊維性基布1が積層され一体化され、その一方の端部において遮水シートが所定の幅だけ露出しているので、遮水シート2単品の場合に比べて自重が増加し・・・現場施工においても容易に施工できる。さらに、繊維性基布は、遮水シートより、摩擦力が大きいため、土の間に埋設する時に上下面両面の土がスベリにくい。」(【0030】)と記載されている。
ここで、「スベリにくい」理由は「摩擦力が大きい」「繊維性基布」にあるといえるから、「遮水シート」の「上下面両面の土がスベリにくい」のであれば、「遮水シート」の両面に「繊維性基布」があるはずである。
しかし、上記【0030】の記載は「遮水シート」の片面に「繊維性基布」がある請求項1に記載した発明についての記載であるから、そのように解釈することは出来ず、また、繊維性基布だけを土の間に埋設すれば「上下面両面の土がスベリにくい」は当然であるが、繊維性基布だけを土の間に埋設しても遮水性は期待できないから、そのようなことも考えられず、したがって、上記箇所の「さらに、繊維性基布は、遮水シートより、摩擦力が大きいため、土の間に埋設する時に上下面両面の土がスベリにくい」はその意味が明らかでない。
したがって、上記箇所の記載を根拠に、刊行物1の「複合遮水シートユニット」の滑りにくさは、シート表面の土に対するものとすることはできない。
そこで他に「複合遮水シートユニット」の「スベリ」について記載されている箇所をみると、刊行物1には「請求項3に記載した発明により、遮水シート2の両方の表面に繊維性基布1が積層され一体化され、その両方の端部において遮水シートが所定の幅だけ露出しているので、遮水シート2単品の場合に比べてもさらに請求項1に記載した発明の複合遮水シートに比べても自重が一層増加しているので、請求項1に記載した発明の複合遮水シートよりも急峻な施工箇所に施工できる。また、遮水シートの地面側も土によるスベリの恐れが低減できたため、護岸表面を植生とすることも可能になった」(【0032】)とも記載されている。
ここで、「植生とすること」ができるということは、遮水シートに対して土が滑って無くならないので、その位置に植物などを植栽できるということであり、この「スベリの恐れが低減」できるのは、「遮水シート2」の「地面側」(植生のある地表側)の「繊維性基布1」によるものであるといえるものの、その反対側での遮水シートと土との間の「すべる」「すべらない」についての記載は見いだせない。
その一方で、刊行物1には「法面に設置することがあるため、遮水シートの表面は滑りにくい形状、構造にする必要性がある。」(【0010】)、「以上を要すれば、遮水シートには・・・狭隘な施工場所でも、成る可く容易に施工できるような構造になっていることが好ましい。」(【0011】)等の記載があり、これらの記載は、「複合遮水シートユニット」の施工時に、「複合遮水シートユニット」が施工面から滑り落ちないことを要求するものと考えることが出来る。
すなわち、刊行物1の「複合遮水シートユニット」は、施工時に法面から滑りにくくするための機能を有するものであり得るということができる。
すると、「固定部材2」「止着杆8」で法面に滑らないように固定される刊行物2の被覆シートの代わりに刊行物1の複合遮水シートユニットを用いることの動機付けは存在するものというべきであり、「刊行物2に記載された発明の被覆シートの代わりに刊行物1に記載された発明の複合遮水シートユニットを用いることの動機付けはとなるものはありません。」とする上記請求人の主張はこれを採用することができない

6.むすび
したがって、本願発明は、刊行物1-3に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に記載された発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-06 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-20 
出願番号 特願2002-374813(P2002-374813)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 中澤 登
吉川 潤
発明の名称 遮水構造並びに遮水構造の施工方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 渡邊 隆  
代理人 西 和哉  
代理人 志賀 正武  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  
代理人 渡邊 隆  
代理人 西 和哉  
代理人 高橋 詔男  
代理人 村山 靖彦  
代理人 西 和哉  
代理人 鈴木 三義  
代理人 村山 靖彦  
代理人 高橋 詔男  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  
代理人 高橋 詔男  

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