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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63B
管理番号 1232014
審判番号 不服2008-24684  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-25 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 平成11年特許願第127151号「スリーピースソリッドゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月28日出願公開、特開2000- 84118〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成11年5月7日(優先日:平成10年7月13日、出願番号:特願平10-197085号)の出願であって、平成20年6月25日に手続補正がなされ、同年8月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月25日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年10月7日に手続補正がなされ、当審において、平成22年8月27日付けで拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)の通知がなされ、同年10月12日付けで手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年10月12日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される、次のとおりのものである。

「センター(1)上に中間層(2)を形成して成るコア(4)および該コアを被覆するカバー(3)から成るスリーピースソリッドゴルフボールにおいて、
該センターが直径29?38mmおよびJIS-C硬度による中心から表面までの任意の部分の硬度差0?1を有し、
該センターの比重が該中間層の比重以下であり、
JIS-C硬度による中間層表面硬度が該センター中のいずれの位置の硬度より大きく、該センター中のいずれの位置の硬度との差も3?20であり、
該コアが、初期荷重10kgfを負荷した状態から終荷重130kgfを負荷したときまでの圧縮変形量2.70?4.50mmを有し、
該カバーがショアーD硬度50以上60未満を有する
ことを特徴とするスリーピースソリッドゴルフボール。」

第3 記載不備についての当審拒絶理由の概要
平成14年改正前特許法第36条第4項違反
本願明細書の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲の請求項1に示された多数の数値限定で規定する範囲が発明の解決しようとする課題を達成するために有効であることが、当業者にとって理解できるように記載されていない。また、発明の解決しようとする課題との関係で多数の数値限定の範囲に設定することの技術的意義は、当業者といえども把握できるものでない。

第4 本願の発明の詳細な説明の記載について
1 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】ないし【0007】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来のスリーピースソリッドゴルフボールに対して、飛距離の欲しいドライバ-ショットやロングアイアンからミドルアイアンショットにおいて優れた飛行性能を有し、ショートアイアンからアプローチショットにおいてはグリーン上で良く止まるスピン性能を有するスリーピースソリッドゴルフボールを提供するという目的に対し、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された構成を採用することにより、上記目的を達成することができたとされることが開示されていると認められる。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に示された「センター(1)上に中間層(2)を形成して成るコア(4)および該コアを被覆するカバー(3)から成るスリーピースソリッドゴルフボールにおいて、
該センターが直径29?38mmおよびJIS-C硬度による中心から表面までの任意の部分の硬度差0?1を有し、
該センターの比重が該中間層の比重以下であり、
JIS-C硬度による中間層表面硬度が該センター中のいずれの位置の硬度より大きく、該センター中のいずれの位置の硬度との差も3?20であり、
該コアが、初期荷重10kgfを負荷した状態から終荷重130kgfを負荷したときまでの圧縮変形量2.70?4.50mmを有し、
該カバーがショアーD硬度50以上60未満を有する」との多数の数値限定で規定する範囲が発明の解決しようとする課題を達成するために有効であることが、当業者にとって理解できるように記載されていない。また、発明の解決しようとする課題との関係で多数の数値限定で規定する技術的意義は明らかでない。

2 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、平成14年改正前特許法第36条第4項でいう通商産業省令で定めるところによる記載がされていないから、本願は、同項に規定する要件を満たしていない。

第5 進歩性について
1 刊行物の記載事項
当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-57523号公報(以下「引用例」という。)には、以下の事項が図とともに記載されている。

(1) 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のような従来のスリーピースソリッドゴルフボールの有する問題点を解決し、ソリッドゴルフボールの特徴である良好な飛行性能および耐久性を損なうことなく、打球感および反発性能を向上させたスリーピースソリッドゴルフボールを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者等は上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、コアの直径、コアと中間層の比重差、また、コアと中間層との変形量を特定範囲に設定することにより、良好な飛行性能および耐久性を損なうことなく、優れた打球感および反発性能を有するスリーピースソリッドゴルフボールが得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】即ち、本発明は、コア(1)と該コア上に形成された中間層(2)と該中間層を被覆するカバー(3)とから成るスリーピースソリッドゴルフボールにおいて、該コアが直径30?36mmを有し、該コアの比重が該中間層の比重より小さく、該コアの130kg荷重時の変形量(mm)と該コアに中間層を被覆した状態での130kg荷重時の変形量(mm)との比(中間層被覆時の変形量/コアの変形量)が0.75?1であり、該ゴルフボールの130kg荷重時の変形量が2.3?3.5mmであることを特徴とするスリーピースソリッドゴルフボール。に関する。
【0008】本発明のスリーピースソリッドゴルフボールを図1を参照して説明する。図1は本発明のスリーピースソリッドゴルフボールの断面概略図である。本発明のスリーピースソリッドゴルフボールでは、コア(1)上に中間層(2)を形成し、該中間層(2)上にカバー(3)を形成する。」

(2) 「【0009】コア(1)および中間層(2)は、両者とも基本的に、基材ゴム、架橋剤、不飽和カルボン酸の金属塩、必要に応じて充填剤、老化防止剤等を含有するゴム組成物を、通常のソリッドコアに用いられる方法、条件を用いて加熱圧縮加硫することにより得られる。基材ゴムとしては、従来からソリッドゴルフボールに用いられている天然ゴムおよび/または合成ゴムが用いられ、特にシス-1,4-結合少なくとも40%以上、好ましくは80%以上を有するいわゆるハイシスポリブタジエンゴムが好ましく、所望により、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、EPDM等を配合してもよい。
【0010】架橋剤には、有機過酸化物、例えばジクミルパーオキサイドまたはt-ブチルパーオキサイドが挙げられ、ジクミルパーオキサイドが好適である。配合量は基材ゴム100重量部に対して、コア(1)では0.5?2.0重量部、中間層(2)では1.0?3.0重量部である。コア(1)での0.5重量部、中間層(2)での1.0重量部より少ないと軟らかくなり過ぎて反発が悪くなり飛距離が低下する。コア(1)での2.0重量部、中間層(2)での3.0重量部を越えると硬くなり過ぎ、打球感が悪くなる。
【0011】不飽和カルボン酸の金属塩は、共架橋剤として作用し、特にアクリル酸またはメタクリル酸等のような炭素数3?8のα,β-不飽和カルボン酸の、亜鉛、マグネシウム塩等の一価または二価の金属塩が挙げられるが、高い反発性を付与するアクリル酸亜鉛が好適である。配合量は基材ゴム100重量部に対して、コア(1)では15?30重量部、好ましくは20?30重量部であり、中間層(2)では20?35重量部、好ましくは25?35重量部である。コア(1)での30重量部、中間層(2)での35重量部を越えると硬くなり過ぎて打球感が悪くなる。コア(1)での15重量部、中間層(2)での20重量部より少ないと反発が悪くなり飛距離が低下する。
【0012】充填剤は、ゴルフボールのコアに通常配合されるものであればよく、例えば無機塩(具体的には、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム)、高比重金属粉末(例えば、タングステン粉末、モリブデン粉末等)およびそれらの混合物が挙げられる。配合量はカバーおよびコアの比重、大きさに左右され限定的ではないが基材ゴム100重量部に対して、コア(1)では3?15重量部、好ましくは3?10重量部であり、中間層(2)では5?25重量部である。コア(1)での3重量部、中間層(2)での5重量部より少ないと、コアが軽くなり過ぎてボールが軽くなり過ぎる。コア(1)での15重量部、中間層(2)での25重量部を越えるとコアが重くなり過ぎて、ボールが重くなり過ぎる。特に、上記中間層(2)はコア(1)より比重が高いことを要件としているので、中間層(2)には比重調節のために比重10以上、好ましくは15?25の高比重金属粉を配合するのが好ましい。比重10以下の金属粉では配合量が多くなり、配合全体におけるゴム分率が下がり反発性能が劣るという欠点を有する。金属粉の配合量は、金属粉の比重によって異なり限定的ではないが、基材ゴム100部に対して5?100部が好ましい。
【0013】更に本発明のゴルフボールのコアおよび中間層には、酸化防止剤またはしゃく解剤、その他ソリッドゴルフボールのコアの製造に通常使用し得る成分を適宜配合してもよい。尚、酸化防止剤は0.2?1.5重量部が好ましい。」

(3) 「【0014】コアの外径は30?36mm、好ましくは30?35mmである。30mmより小さいと慣性モーメントを大きくする効果が得られず、36mmより大きいと中間層の厚みが薄くなり過ぎて中間層の効果が得られない。また、コアの中心から表面までのJIS-C硬度計による硬度差が5以内であることが望ましく、硬度差が5より大きくなるとボールの耐久性が悪くなるという欠点を有する。本発明の場合、コアは荷重130kgを負荷したときの変形量が3.6?4.8mm、好ましくは3.8?4.6mmである。3.6mmより小さいと硬過ぎて打球感が悪くなり、4.8より大きいと反発が悪くなると共に、耐久性も悪くなる。
【0015】本発明の中間層の形成は、ゴルフボールのカバーの形成に使用されている一般に公知の方法を用いて行うことができ、特に限定されるものではない。中間層用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに成形し、それを2枚用いてソリッドコアを包み、加圧成形するか、または上記中間層用組成物を直接コア上に射出成形してコアを包み込む方法を用いてもよい。
【0016】中間層の比重は1.2以上、好ましくは1.2?1.4であり、コアの比重より大きい。中間層を形成後の直径は38.0?40.0mmが好ましく、前述のようにコア直径が30?36mmであることから、中間層の厚さは1.0?5.0mmとなり、好ましくは1.5?5.0mmである。1.0mmより小さいと打球感が悪くなり、4.0mmより大きいと軟らか過ぎて反発が低くなり飛行性能が悪くなる。また、中間層を形成後の130kg荷重時の変形量が3.0?4.5mm、好ましくは3.2?4.4mmである。3.0mmより小さいと硬過ぎて打球感が悪くなり、4.5より大きいと反発が悪くなると共に、耐久性も悪くなる。更に、JIS-C硬度計による表面硬度は、70?90、好ましくは73?87である。90より大きいと打球感が悪くなり、70より小さいと軟らか過ぎて反発が低くなり飛行性能が悪くなる。
【0017】ここで、コア(1)と中間層(2)の両者について見ると、前述のようにコアの比重が中間層の比重より小さく、またコア直径30?36mmであることが望ましい。これは、以下の理由による。ゴルフボールはクラブで打撃された後、あるスピン量を有して飛んでいくが、空気等の摩擦によりスピン量は徐々に減衰して行き、落下時のスピン量は打撃時のそれと比べて少なくなるのが普通である。しかし、落下時のスピン量があまりにも少ないと、ボールの揚力がなくなり、落下寸前でのボールの伸びがなく、飛距離が低下する。よって、スピン量の減衰をできるだけ少なくすることにより、落下寸前にボールがもうひと伸びし、飛距離を増加させることができる。そのためには、スピン量の減衰をできるだけ抑えることが必要となり、それにはボールの慣性モーメントを大きくし、スピン量の持続性を高めることが必要となり、より外側に重量を配分することが必要となってくる。以上のような理由により、比重の小さいコア直径はできるだけ大きく、比重の大きい中間層はできるだけ薄いことが好ましい。
【0018】また、コア(1)とこのコア上に中間層を被覆した状態とでの130kg荷重時の変形量については、両者の比(中間層被覆時の変形量/コアの変形量)が0.75?1であることが好ましい。両者の比が0.75より小さいと、中間層に比べてコアの変形量が大き過ぎて実用に耐え得るだけの耐久性が保持できなくなり、1より大きいと、コアの変形量に比べて中間層の変形量が大きく反発性能が低下する。
【0019】カバーはソリッドゴルフボールのカバー材として通常使用されるエチレン-(メタ)アクリル酸の共重合体中のカルボン酸の一部を金属イオンで中和したアイオノマー樹脂、またはその混合物が用いられる。上記の中和する金属イオンとしては、アルカリ金属イオン、例えばNaイオン、Kイオン、Liイオン等;2価金属イオン、例えばZnイオン、Caイオン、Mgイオン等;3価金属イオン、例えばAlイオン、Ndイオン等;およびそれらの混合物が挙げられるが、Naイオン、Znイオン、Liイオン等が反発性、耐久性等からよく用いられる。アイオノマー樹脂の具体例としては、それだけに限定されないが、ハイミラン1557、1605、1652、1705、1706、1707、1855、1856(三井デュポンポリケミカル社製)、IOTEC 7010、8000(エクソン(Exxon)社製)等を例示することができる。
【0020】また、本発明において、上記カバー用組成物には、主成分としての上記樹脂の他に必要に応じて、硫酸バリウム等の充填剤や二酸化チタン等の着色剤や、その他の添加剤、例えば分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤並びに蛍光材料または蛍光増白剤等を、ゴルフボールカバーによる所望の特性が損なわれない範囲で含有していてもよいが、通常、着色剤の配合量は0.1?0.5重量部が好ましい。
【0021】更に、カバーを被覆する方法も上記中間層を被覆する方法と同様の方法が用いられ、こうして形成されるカバーはショアーD硬度60?75を有することが好ましく、60より小さいと反発が低くなり飛距離が低下し、75より大きいと硬過ぎて打球感が悪くなる。カバー成形時、必要に応じて、ディンプルと呼ばれるくぼみを多数表面上に形成する。本発明のゴルフボールの130kg荷重時の変形量は2.3?3.5mm、好ましくは2.6?3.4mmであり、2.3mmより小さいと打球感が硬くなる欠点を有し、3.5mmより大きいと打撃時の変形量も大きくなり、耐久性が悪くなる欠点を有する。本発明のゴルフボールは美観を高め、商品価値を上げるために、通常ペイント仕上げ、マーキングスタンプ等を施されて市場に投入される。」

(4) 「【0022】
【実施例】本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0023】コアの作製
以下の表1(実施例)および表2(比較例)に示した配合のコア用ゴム組成物を混練し、上記表に示した加硫条件で加熱プレスすることによりコアを得た。得られたコアの中心から表面にかけてのJIS-C硬度を表1および表2に示し、コアの直径、130kg荷重時の変形量、比重を測定し、その結果を表4(実施例)および表5(比較例)に示した。試験方法は後記の通り行った。
【0024】中間層の形成
以下の表1(実施例)および表2(比較例)に示す中間層用配合材料を、上記コア上に射出成形することにより中間層を形成した(直径38.4mm)。使用した中間層配合、加硫条件および形成した中間層の表面硬度(JIS-C)を表1および表2に示し、中間層の130kg荷重時の変形量、比重を測定し、その結果を表4(実施例)および表5(比較例)に示した。試験方法は後記の通り行った。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】…(略)…
【0027】(実施例1?5および比較例1?8)以下の表3に示すカバー用組成物を、得られた中間層上に射出成形して、外径42.76mmを有するスリーピースソリッドゴルフボールを得た。得られたゴルフボールのカバー硬度(ショアーD)、130kg荷重時のボール変形量、慣性モーメント、耐久性、反発性能、飛行性能(打出角、スピン量、キャリー、トータルおよびラン)並びに打球感を評価し、その結果を以下の表4(実施例)および表5(比較例)に示した。試験方法は後記の通り行った。
【0028】
【表3】

【0029】(注1)日本合成ゴム社製のBR-18
(注2)三井デュポンポリケミカル(株)製の亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸系アイオノマー樹脂
(注3)三井デュポンポリケミカル(株)製のナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸系アイオノマー樹脂
(注4)三井デュポンポリケミカル(株)製のナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸系アイオノマー樹脂
(注5)三井デュポンポリケミカル(株)製の亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸体系アイオノマー樹脂
(注6)三井デュポンポリケミカル(株)製のアイオノマー樹脂
(注7)三井デュポンポリケミカル(株)製の亜鉛イオン中和エチレン-ブチルアクリレート-メタクリル酸三元共重合体系アイオノマー樹脂
(注8)三井デュポンポリケミカル(株)製の亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸系アイオノマー樹脂
(注9)三井デュポンポリケミカル(株)製のアイオノマー樹脂
(注10)エクソンケミカル社製のナトリウムイオン中和エチレン-アクリル酸系アイオノマー樹脂
【0030】(試験方法)
慣性モーメント
INERTIA DYNAMICS社製の、モデルNo.005-002シリーズNo.M99274を用いて測定した。
耐久性指数
筒の中にゴルフボールを入れ、エアーによりゴルフボールを衝突板に繰り返し衝突させることにより、ゴルフボールの割れるまでの回数を比較例5を100とした指数で表示した。100以上であれば実用上問題はない。
反発性能
金属製の筒をゴルフボールに40m/秒の速度で衝突させ、そのときの筒およびゴルフボールの衝突前後の速度変化からボールの反発を測定した。測定値が高いほど、反発が良いことを示す。
飛行性能
ツルーテンパー社製スイングロボットにウッド1番(W#1)クラブ(ドライバー)を取付け、ゴルフボールをヘッドスピード40m/sで打撃し、打出角(弾道高さ)、飛距離としてキャリー(落下点までの飛距離)およびトータルを測定し、打撃されたゴルフボールを連続写真撮影することによってスピン量を求めた。ランはトータルからキャリーを差し引いた距離である。
打球感(フィーリング)
プロゴルファー10人による実打テストで評価した。判定基準は以下の通りとした。
判定基準
◎ …非常に良好
〇 …良好
× …硬い
【0031】(試験結果)
【表4】


(5) 以上、摘記(1)ないし(4)を含む引用例全体、特に実施例1及び2から、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「コアと該コア上に形成された中間層と該中間層を被覆するカバーとから成るスリーピースソリッドゴルフボールにおいて、該コアが直径[30.5,31.5]mm、JIS-C硬度によるコアの中心の硬度[72,73]、JIS-C硬度によるコアの中心から5mmの硬度[72,73]、JIS-C硬度によるコアの中心から10mmの硬度[73,73]、JIS-C硬度によるコアの中心から15mmの硬度[73,73]を有し、JIS-C硬度による中間層表面硬度が[85,77]、該コア比重が[1.05,1.05]、該中間層の比重が[1.29,1.32]であり、カバーがショアーD硬度[65,69]を有するスリーピースソリッドゴルフボール。」
(審決注:上記[]内の数値は、左から順に引用例の実施例1?2の上記各項目に対応するものである。)

2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「コア」及び「コアと該コア上に形成された中間層」は、それぞれ、本願発明の「センター」及び「センター上に中間層を形成して成るコア」に相当する。
(2)引用発明の「センター(コア)」の直径は[30.5,31.5]mmであるから、引用発明は、本願発明の「センターが直径29?38mm」との事項を備えている。
(3)引用発明において、「センター(コア)」の比重は[1.05,1.05]であり、「中間層」の比重は[1.29,1.32]であるから、引用発明は、本願発明の「センターの比重が中間層の比重以下である」との事項を備えている。
(4)上記(1)ないし(3)から、本願発明と引用発明とは、
「センター上に中間層を形成して成るコアおよび該コアを被覆するカバーから成るスリーピースソリッドゴルフボールにおいて、該センターが直径29?38mmを有し、該センターの比重が該中間層の比重以下であるスリーピースソリッドゴルフボール。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願発明では、前記センターの「中心から表面までの任意の部分」のJIS-C硬度の差が「0?1」、前記中間層の「表面」のJIS-C硬度が、「センター中のいずれの位置の硬度より大きく、該センター中のいずれの位置の硬度との差も3?20」であるのに対して、
引用発明では、前記センターの中心のJIS-C硬度が[72,73]、前記センターの中心から5mmのJIS-C硬度が[72,73]、前記センターの中心から10mmのJIS-C硬度が[73,73]、前記センターの中心から15mmのJIS-C硬度が[73,73]、前記中間層の表面のJIS-C硬度が[85,77]である点。

相違点2:
前記カバーのショアーD硬度が、本願発明では、「50以上60未満」であるのに対して、引用発明では、[65,69]である点。

相違点3:
前記コアが、本願発明では、「初期荷重10kgfを負荷した状態から終荷重130kgfを負荷したときまでの圧縮変形量2.70?4.50mmを有」するものであるのに対して、引用発明では、そのようなものであるのか明らかでない点。

4 判断
上記相違点1ないし3について検討する。
(1)相違点1について
ア 引用例には、「コアの中心から表面までのJIS-C硬度計による硬度差が5以内であることが望ましく、硬度差が5より大きくなるとボールの耐久性が悪くなる」と記載されている(上記1(3)段落【0014】参照。)から、引用発明のゴルフボールにおいて、コアの中心から表面までのJIS-C硬度計による硬度差を1以内とすることは、当業者が引用例に記載された事項に基づいて適宜なし得た設計上のことである。
イ 中心から表面までのJIS-C硬度計による硬度差を1以内とした上記アの「センター(コア)」の中心から表面までの任意の部分のJIS-C硬度は、[72?73,73?74]となるから、上記アのゴルフボールの中間層の表面のJIS-C硬度[85,77]は、「センター」の中心から表面までの任意の部分のJIS-C硬度より[12?13,3?4]大きく、本願発明の「センター中のいずれの位置の硬度より大きく、該センター中のいずれの位置の硬度との差も3?20」との事項を備えたものとなる。
ウ 上記ア及びイから、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が引用例に記載された事項に基づいて適宜なし得た設計上のことである。

(2)相違点2について
ア ゴルフボールのカバーの硬さは、当業者が、所望するゴルフボールの特性等に応じて適宜決定すべき設計事項というべきところ、ショアーD硬度50以上60未満のカバーを有するスリーピースソリッドゴルフボールは、本願の優先日前に周知である(以下「周知技術1」という。例.特開平7-194735号公報特に「【0051】…(略)…上記実施例および比較例のうち、実施例1?10および比較例1?8はスリーピースソリッドゴルフボールに関するものであり、…(略)…」及び【0068】【表9】の実施例9の「カバー」の「ショアーD硬度」である「52」、特開平10-151225号公報特に「【0053】…(略)…スリーピースソリッドゴルフボール(実施例1?5、比較例1、2)を得た。…(略)…」及び【0057】【表3】の実施例4及び5の「カバー」の「硬度(ショアD)」である「50」参照。)。
イ 上記アから、引用発明において、カバーの硬さを、ショアーD硬度50以上60未満とし、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術1に基づいて適宜なし得た設計上のことである。

(3)相違点3について
ア 引用例には、「【0010】架橋剤には、有機過酸化物、例えばジクミルパーオキサイドまたはt-ブチルパーオキサイドが挙げられ、ジクミルパーオキサイドが好適である。配合量は基材ゴム100重量部に対して、コア(1)では0.5?2.0重量部、中間層(2)では1.0?3.0重量部である。コア(1)での0.5重量部、中間層(2)での1.0重量部より少ないと軟らかくなり過ぎて反発が悪くなり飛距離が低下する。コア(1)での2.0重量部、中間層(2)での3.0重量部を越えると硬くなり過ぎ、打球感が悪くなる。
【0011】不飽和カルボン酸の金属塩は、共架橋剤として作用し、特にアクリル酸またはメタクリル酸等のような炭素数3?8のα,β-不飽和カルボン酸の、亜鉛、マグネシウム塩等の一価または二価の金属塩が挙げられるが、高い反発性を付与するアクリル酸亜鉛が好適である。配合量は基材ゴム100重量部に対して、コア(1)では15?30重量部、好ましくは20?30重量部であり、中間層(2)では20?35重量部、好ましくは25?35重量部である。コア(1)での30重量部、中間層(2)での35重量部を越えると硬くなり過ぎて打球感が悪くなる。コア(1)での15重量部、中間層(2)での20重量部より少ないと反発が悪くなり飛距離が低下する。」(上記1(2)参照。)と記載されている。

イ また、引用例には、「【0014】・・(中略)・・本発明の場合、コアは荷重130kgを負荷したときの変形量が3.6?4.8mm、好ましくは3.8?4.6mmである。3.6mmより小さいと硬過ぎて打球感が悪くなり、4.8より大きいと反発が悪くなると共に、耐久性も悪くなる。」、「【0016】・・(中略)・・中間層を形成後の130kg荷重時の変形量が3.0?4.5mm、好ましくは3.2?4.4mmである。3.0mmより小さいと硬過ぎて打球感が悪くなり、4.5より大きいと反発が悪くなると共に、耐久性も悪くなる。更に、JIS-C硬度計による表面硬度は、70?90、好ましくは73?87である。90より大きいと打球感が悪くなり、70より小さいと軟らか過ぎて反発が低くなり飛行性能が悪くなる。」 及び「【0018】また、コア(1)とこのコア上に中間層を被覆した状態とでの130kg荷重時の変形量については、両者の比(中間層被覆時の変形量/コアの変形量)が0.75?1であることが好ましい。両者の比が0.75より小さいと、中間層に比べてコアの変形量が大き過ぎて実用に耐え得るだけの耐久性が保持できなくなり、1より大きいと、コアの変形量に比べて中間層の変形量が大きく反発性能が低下する。」(上記1(3)参照。)と記載されている。

ウ 上記ア及びイからも明らかなように、ゴルフボールのコアの変形量は、当業者が、所望するゴルフボールの特性等に応じて適宜決定すべき設計事項というべきところ、初期荷重10kgf、終荷重130kgfとしたときの圧縮変形量が2.70?4.50mmであるコアを有するスリーピースソリッドゴルフボールは、本願の優先日前に周知である(以下「周知技術2」という。例.特開平8-276033号公報特に「【0027】得られたコアに初期荷重10kgをかけた状態から終荷重130kg/cm^(2)をかけたときまでの圧縮変形量Aを測定した。その結果を表1に示す。」(ここで、上記「10kg」及び「130kg」は、本来「10kgf」及び「130kgf」と表記すべきものであることが、当業者に自明である。)、【0028】【表1】のコア「c」の「圧縮変形量A(mm)」である「4.3」、「【0034】上記のようにして調製されたカバー用組成物を前記コアに被覆し、ペイント仕上をして、外径42.7mmで、重量45.4gのソリッドゴルフボールを作製した。コアとカバーの組合せは表3に示す通りである。」、「【0035】なお、実施例3と実施例4は、カバーを内層カバーと外層カバーとの2層構造のものとした。カバーのコアへの被覆はいずれも射出成形により行った。」及び【0036】【表3】の「実施例3」の「コア」である「c」、特開平10-174728号公報特に「【0037】コア1はソリッドコアと呼ばれるもので、…(略)…」、「【0043】〔1〕(審決注:〔1〕は、丸付き数字を意味する。以下同じ。)コアの作製
表1に示す組成のコア用ゴム組成物AおよびBを調製し、それを金型に入れ、それぞれ表1に示す条件でプレス加硫することによって、直径35.3mmのコアを作製した。なお、表1中の各成分の配合量を示す数値は重量部によるものである。」、「【0044】得られたコアについて、重量、コンプレッション、硬度差を調べた。その結果も表1に示す。コンプレッションはコアに初期荷重10kgfを負荷した状態から終荷重130kgfを負荷した時までの変形量を測定することによって求めたものであり、…(略)…」、【0045】【表1】のコア「A」及び「B」の各「コンプレッション(mm)」である「3.51」及び「3.84」、「【0052】〔4〕ゴルフボールの作製
前記〔1〕で作製したコアの周囲に前記〔2〕で調製した中間層用組成物を射出成形することによって中間層を形成し、さらに上記〔3〕で調製したカバー用組成物を中間層の周囲に射出成形することによってカバーを形成した後、ペイントを塗装して、外径42.75mmのゴルフボールを作製した。」参照。)。

エ 上記アないしウから、引用発明において、コアを、初期荷重10kgf、終荷重130kgfとしたときの圧縮変形量が2.70?4.50mmであるものとし、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは、当業者が、引用例に記載された事項及び周知技術2に基づいて適宜なし得た設計上のことである。

(4)効果について
本願発明の奏する効果は、当業者が、引用発明の奏する効果、引用例に記載された事項並びに周知技術1及び2それぞれの奏する効果から予測できた程度のものである。

5 まとめ
したがって、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明、引用例に記載された事項並びに周知技術1及び2に基づいて容易に発明をすることができたものである。
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
上記第4のとおり、本願は、平成14年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
また、上記第5のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-03 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-20 
出願番号 特願平11-127151
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63B)
P 1 8・ 536- WZ (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤坂 祐樹  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 スリーピースソリッドゴルフボール  
代理人 田中 光雄  
代理人 山本 宗雄  
代理人 山田 卓二  

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