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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1232027
審判番号 不服2008-32383  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-24 
確定日 2011-02-10 
事件の表示 特願2002-315964「密封封入構造を持つ積層体」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 5月27日出願公開、特開2004-151334〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年10月30日の出願であって、平成20年11月18日付で拒絶査定がなされ、これに対して同年12月24日に拒絶査定の不服の審判がなされるとともに、平成21年1月22日付で手続補正書が提出されたものである。
さらに、審査官により作成された前置報告書について当審より審尋したところ、平成22年5月26日付で回答書が提出されたものである。

2.平成21年1月22日付手続補正について
平成21年1月22日付手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1において着色の方法を「蛍光着色剤によって」いることを明らかにしたものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当する。
また、上記補正事項は新規事項を追加するものではない。そして、上記補正事項は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
したがって、本件補正は適法な補正であると認められる。

3.本願発明
本願の請求項1?8に係る発明は、平成21年1月22日付手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「少なくとも表面保護層、結合剤層及び結合剤層による密封封入構造による空気層が設置されている密封封入構造を持つ積層体において、結合剤層及び/又は結合剤層を担持する支持体層が、XYZ表色系の色度図でx,yが(0.303,0.300)(0.368,0.366)(0.340、0.393)(0.274,0.329)の4点を結ぶ範囲外の色、または、(0.303,0.300)(0.368,0.366)(0.340、0.393)(0.274,0.329)の4点を結ぶ範囲内の色でラージYが40未満の色に蛍光着色剤によって着色されていることを特徴とする密封封入構造を持つ積層体。」

4.引用例の記載
4-1.原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物である特開平8-234006号公報(原査定における引用文献1。以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。(以下、下線は当審にて付与。)

(1a)「【0003】一般に、カプセル型再帰反射シートには、レンズ型再帰反射性要素を配置したカプセルレンズ型再帰反射シートと、キューブコーナー型再帰反射性要素を配置したカプセルキューブコーナー型再帰反射シートがある。
【0004】カプセルレンズ型再帰反射シートは一般に、図1に示すとおり、狭い気体層を介して対向する光透過性保護フィルム(1)と支持体フィルム(2)及びこれら両者を結合するために支持体フィルムを部分的に加熱溶融成形した連続線状の連結壁(3)より構成されており、該連結壁によって囲まれた多数の密封小区画空室(4)の支持体フィルム上には、ほぼ下半球面が光反射膜である金属蒸着膜(5)で覆われたガラスビーズ(6)が実質的に単層で且つビーズの下半球面が該支持体フィルム中に埋没するように埋設されている。
【0005】カプセルキューブコーナー型再帰反射シートは一般に、図2に示すように、狭い気体層を介して対向する光透過性保護フィルム(7)と支持体フィルム(9)及びこれら両者を結合するために支持体フィルムを部分的に加熱溶融成形した連続線状の連結壁(10)より構成されており、該連結壁によって囲まれた多数の密封小区画空室(11)の光透過性保護フィルム表面にはキューブコーナー型再帰反射性要素(8)が全面にわたって均一に且つ密に配置されている。
【0006】このようなカプセル型再帰反射シートに対しては、その再帰反射性能の高さが最も重要な機能として要望されているが、加えて、屋外使用等過酷な条件で使用した場合でも、その高度の再帰反射性能を長期間維持することのできる優れた耐候性や、視認性を高めるための再帰反射シートの色の鮮やかさ等も重要な機能として要求される。」

(1b)「【0024】本発明のカプセル型再帰反射シートは、均一な構造で均一な形状の連結壁を形成させるため、支持体フィルムとして、架橋反応前の剪断応力が従来のものと比べて極めて小さい熱溶融性樹脂と架橋剤とを含有してなる樹脂組成物を用いることに大きな特徴を有しており、該支持体フィルムは、部分的に加熱溶融成形して、光透過性保護フィルムと支持体フィルムとを両フィルム間に間隙を残したまま部分的に連結する連結壁を形成した後、架橋反応を進行させることにより、従来のものと比べ同等又はそれ以上の強度を有する不融性の架橋した樹脂層を形成する。
【0025】支持体フィルムに用いられる熱溶融性樹脂は、その架橋反応前の剪断応力が180℃において9×10^(3)?1×10^(5)dyne/cm^(2)、好ましくは9.5×10^(3)?9.5×10^(4)dyne/cm^(2)、特に好ましくは1.4×10^(4)?9×10^(4)dyne/cm^(2)の範囲内にあるものであり、そして架橋反応により180℃における剪断応力が1×10^(6)dyne/cm^(2)以上、好ましくは2×10^(6)dyne/cm^(2)以上、特に好ましくは3×10^(6)?3×10^(7)dyne/cm^(2)の範囲内の不融性の架橋した樹脂を形成するものである。
【0026】架橋反応前の剪断応力が上記上限値を超える熱溶融性樹脂は、連結壁の加熱溶融成形時に好適な流動特性を示さないため、均一な構造及び形状を有する連結壁を形成することが困難となるので好ましくなく、他方、上記下限値未満の小さい剪断応力しかもたない熱溶融性樹脂は、形成された連結壁の形状保持性が不十分となるので好ましくない。また、架橋反応後の架橋した樹脂の剪断応力が1×10^(6)dyne/cm^(2)より小さいと、連結壁の強度を向上させることができず、得られるカプセル型再帰反射シートの耐久性が不十分となるので好ましくない。
【0027】さらに、架橋反応後の支持体フィルムは、70℃における引張強度が10kg/cm^(2)以上、より好ましくは20kg/cm^(2)以上、より一層好ましくは30?150kg/cm^(2)の範囲内であり、且つ、0℃における破断伸度が5%以上、より好ましくは10%以上、さらに一層好ましくは20?50%であるという引張特性を有していることが望ましい。
【0028】ここで、熱溶融性樹脂及び架橋反応後の支持体フィルムの剪断応力並びに架橋反応後の支持体フィルムの引張特性は以下の方法により測定される。
【0029】熱溶融性樹脂及び架橋した樹脂の剪断応力:(株)東洋精機製作所製「キャピログラフ」を用いてJISK7199記載の流れ特性試験方法により、熱溶融性樹脂の剪断応力、及び該熱溶融性樹脂に架橋剤、後記のその他の添加剤(セルロース誘導体、酸化チタンなど)を配合した樹脂組成物が架橋反応により形成する架橋した樹脂の剪断応力を、測定温度は180℃、押出速度は5mm/分にて測定する。
【0030】
架橋した樹脂の引張特性:上記樹脂組成物を所定条件で架橋反応させて得た架橋した樹脂を測定試料として、これを幅10mm、長さ46mmにカットし、(株)オリエンテック製「テンシロン」を用いて、つかみ間隔10mm、引張速度100mm/分、測定温度70℃及び0℃で引張試験を行い、測定温度70℃での最大応力を引張強度とし、0℃での破断時の伸びを破断伸度とする。
【0031】なお、本発明のカプセル型再帰反射シートにおいて、支持体フィルムは必ずしも一層である必要はなく、必要に応じて、種類及び/又は架橋度の相異なる二層以上の構造をもつ支持体フィルムを用いることもでき、また、該シートの強度を向上させる等の目的で、必要に応じて、例えば支持体フィルムの背面に一層以上の補強層を設けてもよい。」

(1c)「【0050】本発明において支持体フィルムを構成する前記樹脂組成物には、必要に応じてさらに、例えば、酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、黄鉛、シアニンブルー、シアニングリーン等の体質顔料ないし着色顔料;例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;例えば、ヒンダードアミン系光安定剤、ヒンダードフェノール系光安定剤等の光安定剤;例えば、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等の酸化防止剤;例えば、イミダゾール誘導体、ジアミノスチルベンジスルホン酸誘導体、クマリン誘導体、イミダゾロン誘導体等の蛍光漂白剤などその他の添加剤を通常の量で配合することができる。」

(1d)「【0059】このような複層の支持体フィルムをつくるための熱溶融性樹脂としては、前記と同様、例えば、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂等の樹脂等が使用され、これらはそれぞれ単独で或いは2種以上の樹脂成分と共重合された形で又はブレンドした形で用いることができる。これら熱溶融性樹脂のTg、Mw、官能基の種類と含有量、良好な架橋剤の組合わせと添加量及びその他の添加剤(セルロース誘導体、体質顔料ないし着色顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、蛍光漂白剤等)などは、前記支持体フィルムについて述べたと同様のものとすることができ、複層の互いに隣接する層は、それぞれ異なる種類の熱溶融性樹脂、異なる種類の架橋剤、異なる配合組成及び/又は異なる架橋度の層とすることができる。各層の厚みは設ける層の数に応じて広範囲にわたって変えることができるが、通常は、支持体フィルム全体の厚みが前記のとおり20?200μmの範囲内になるように設定するのが好都合である。
【0060】また、本発明のカプセル型再帰反射シートにおいて、その強度を向上させる等の目的で、必要に応じて、例えば支持体フィルムの背面に一層以上の補強層を設けることもできる。このような補強層も、前記と同様、架橋剤と反応しうる官能基を含有する熱溶融性樹脂と架橋剤とを含有してなり、架橋反応後に不融性の架橋した樹脂を形成しうる樹脂組成物により形成することができるが、通常、支持体フィルムより架橋度を高くするなど相対的に強靭なものとするのが好ましい。該補強層の厚みは、一般に10?100μm、特に30?80μmの範囲内に設定するのが好都合である。
【0061】さらに、光透過性保護フィルムとの密着性の向上、連結壁の強度向上等の観点から、場合により、支持体フィルムの層のうちビーズを埋設支持する側の表面の層を低架橋度に設定し、補強層に近くなるに従って熱溶融性樹脂の官能基含有量及び/又は架橋剤添加量を増して架橋度を増加させた層を順番に積層して支持体フィルム及び支持体フィルム-補強層積層物を形成することもできる。
【0062】次に、工程基材上の支持体フィルムと前記仮支持体上のガラスビーズの金属蒸着された面とが対向するように重ね合わされた積層物から、該仮支持体を剥離し、露呈したガラスビーズ面に光透過性保護フィルムを重ね合わせる」

(1e)「【図1】



(1f)「【図2】



以上の記載事項から、引用例1には、以下の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。

「狭い気体層を介して対向する光透過性保護フィルムと支持体フィルム及びこれら両者を結合するために支持体フィルムを部分的に加熱溶融成形した連続線状の連結壁より構成されており、
支持体フィルムを構成する前記樹脂組成物には、酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、黄鉛、シアニンブルー、シアニングリーン等の体質顔料ないし着色顔料;例えば、イミダゾール誘導体、ジアミノスチルベンジスルホン酸誘導体、クマリン誘導体、イミダゾロン誘導体等の蛍光漂白剤などその他の添加剤を通常の量で配合し、
支持体フィルムと光透過性保護フィルムを重ね合わせた積層物」

4-2.原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物である特開平9-1715号公報(原査定における引用文献2。以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(2a)「【0022】本発明による再帰反射性構造体において・・・
【0028】プラスチックフィルムは、透明フィルムまたは着色フィルムのいずれであってもよく、好ましくは、白色に着色されたフィルムである。これは、光透過性を有するプリズム型反射シートの場合に、壁面の色を反射することによる外観を損なうこと、および反射輝度が低下することを防止できるからである。フィルムの白色度は、明度Y値で表した場合、80?90の範囲が好ましい。このような白色プラスチックフィルムは、ポリマーと白色顔料とを含む材料から形成できる。白色顔料には、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、シリカ等の無機粉末が使用できる。」

4-3.本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である「視覚情報処理ハンドブック」 朝倉書店 2000年9月20日発行 168頁右欄12末行?170頁左欄6行(以下、「参考文献1」という。)には、以下の記載がある。

(3a)「4.2.2 CIE 表色系
RGB表色系は実際の色光を原刺激に用いているので、等色の原理や表色系の原理を理解するには便利であるが、実際にこれを活用するとなると、種々不便な点もある。・・・第2点は、測色値と測光量との関係が直接的でないことである。三刺激値から輝度Lvを求めるには、式(4.2.16)の明度係数を利用して
Lv=R+4.5907G+0.0601B(4.2.23)
という変換をしなければならない。そこで、CIEでは1931年に、利便性を考えた表色系としてRGB表色系に数学的変換を施したXYZ表色系を制定された。これは一般にCIE1931表色系と呼ばれている。
・・・
第2の問題については、2つの原刺激を輝度が0の面にとることにした。この面は式(4.2.23)の値が0となる面であり、無輝面と呼ばれる。このようにすると、1つの三刺激値だけで輝度が表せることになる。具体的には、X原刺激とZ原刺激を無輝面にとり、Y原刺激を輝度の軸にとることによって、三刺激値Yだけで輝度を表すことにした。
・・・このY値が100となるように正規化する。この場合のYの値はルミナンスファクターと呼ばれる。
また、色度座標は次式で求められる。
x=X/(X+Y+Z)
y=Y/(X+Y+Z)
z=Z/(X+Y+Z)
色度図は図4.12に示すように、色度座標のxを横軸にとり、yを縦軸にとって表現する。これは、xy色度図と呼ばれる。一般にXYZ表色系で色を標記する場合、Yと(x,y)が用いられる。」

4-4.本願出願前に日本国内において頒布された刊行物である「写真工業臨時増刊 コンピュータイメージング」写真工業出版社 昭和58年12月20日発行 16頁右欄末行?17頁左欄18行(以下、「参考文献2」という。)には、以下の記載がある。

(4a)「人間の目を通して感じる色はスペクトルの個個を分解してみることはできない。たとえば赤色と緑の光が単独の光源から入ったとしても、目には黄色に見えるのである。また、このように見えた黄色と単色光としての黄色は全く同じように見えるのである。3原色という原理があるが、この原理は人間の目の色覚は3つの独立した受光が行われていて,赤に感じるもの,緑に感じるもの,青に感じるものがある。これらは3刺激値と呼ばれる。これらを表す色度図が一般に使われていて、スペクトル色を決めるのに都合良くできている。・・・視覚に関しては色度図を利用することが多い。実験的にも3色混合の結果は色度図用の3色の点状に結んだ内部の色しか表現できない。」

4-5.原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物である特開2001-296413号公報(原査定における引用文献6。以下「引用例3」という。)には、以下の記載がある。

(5a)「【0044】
表面保護層(1)には再帰反射素子層(3)に用いたのと同じ樹脂を用いることができ、また、耐候性を向上する目的で、紫外線吸収剤、光安定剤及び酸化防止剤などの添加剤をそれぞれ単独あるいは組み合わせて配合することができる。さらに、着色剤として各種の有機顔料、無機顔料、蛍光顔料、非蛍光染料、式(1)及び(2)以外の蛍光染料などを含有させることができる。また、表面保護層(1)は2層以上の層に分割されていてもよく、各層にそれぞれ単独であるいは組み合わせた形で上記の各種添加剤、着色剤を含有させることができる。」

5.対比
引用例発明の「光透過性保護フィルム」は、本願発明の「表面保護層」に相当し、引用例発明の「支持体フィルム」は、本願発明の「結合剤層」に相当し、引用例発明の「気体層」は本願発明の「空気層」に相当し、引用例発明の「積層物」は本願発明の「積層体」に相当する。
そして、引用例発明の「支持体フィルムと光透過性保護フィルムを重ね合わせ」、「狭い気体層を介して対向する光透過性保護フィルムと支持体フィルム及びこれら両者を結合するために支持体フィルムを部分的に加熱溶融成形した連続線状の連結壁より構成され」ることは、本願発明の「「少なくとも表面保護層、結合剤層及び結合剤層による密封封入構造による空気層が設置されている密封封入構造を持つ」ことに相当する。
また、引用例発明の「支持体フィルムを構成する前記樹脂組成物には、酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、黄鉛、シアニンブルー、シアニングリーン等の体質顔料ないし着色顔料;例えば、イミダゾール誘導体、ジアミノスチルベンジスルホン酸誘導体、クマリン誘導体、イミダゾロン誘導体等の蛍光漂白剤などその他の添加剤を通常の量で配合」したことは、本願発明の「結合剤層が、XYZ表色系の色度図でx,yが(0.303,0.300)(0.368,0.366)(0.340、0.393)(0.274,0.329)の4点を結ぶ範囲外の色、または、(0.303,0.300)(0.368,0.366)(0.340、0.393)(0.274,0.329)の4点を結ぶ範囲内の色でラージYが40未満の色に蛍光着色剤によって着色されている」ことと、着色剤によって着色されている点で共通する。

以上のことから、本願発明と引用例発明とは、
「少なくとも表面保護層、結合剤層及び結合剤層による密封封入構造による空気層が設置されている密封封入構造を持つ積層体において、結合剤層が、着色剤によって着色されている密封封入構造を持つ積層体。」
で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明では「結合剤層が、XYZ表色系の色度図でx,yが(0.303,0.300)(0.368,0.366)(0.340、0.393)(0.274,0.329)の4点を結ぶ範囲外の色、または、(0.303,0.300)(0.368,0.366)(0.340、0.393)(0.274,0.329)の4点を結ぶ範囲内の色でラージYが40未満の色に着色されている」のに対して、引用例発明では、着色が色度図のxyでどのような値をとるのか不明である点。

(相違点2)
本願発明では「結合剤層が、蛍光着色剤によって着色されている」のに対して、引用例発明では蛍光着色剤を用いているかどうか不明である点。

6.判断
6-1.(相違点1について)
一般に色を標記するには、xy座標により表される色度図と輝度を表すYとが用いられる(前記参考文献1 (3a)参照。)。そして、RGBの3原色を用いた混色の結果は、原理的に、RGBの3色に対応する色度図上にある3点を結ぶ3角形の内部のxyをとる色しか、表現することができない(前記参考文献2 (4a)参照。)。

そこで検討するに、上記の色度図によれば、本願発明の「色度図でx,yが」「(0.303,0.300)(0.368,0.366)(0.340、0.393)(0.274,0.329)の4点を結ぶ範囲内の色」であることは、白色付近の色を意味することは明らかである。これに対して、引用例発明では、色の種類は不明であるものの着色されていることは明らかである。そして、色の種類としてありふれた白色またはそれに似た色を選択することは、当業者が適宜なし得たことである。

他方、本願発明の「色度図でx,yが」「(0.303,0.300)(0.368,0.366)(0.340、0.393)(0.274,0.329)の4点を結ぶ範囲外の色」とは、上記の色度図上のRGBの3原色を用いた混色であって白色付近の色ではない色を意味することは明らかである。これに対して、引用例発明では、色の種類は不明であるものの、着色されているものであるから、色度図上における表現可能な色であることは明らかである。そして、色の種類をどのようにするかは、当業者が適宜なし得たことである。
また、Y値はXYZ表色系において輝度を表すものである(前記参考文献1 (3a)参照。)ところ、再帰反射性構造体では明るさをどの程度にするかを考慮するものであるから、Y値をどの程度にするかは当業者が適宜設計し得た事項である。また、本願発明のように「ラージYが40未満の色」にしたとしても、引用例2に示されたY値80?90(前記(2a)参照。)と比べて半分程度であって格別なものであるとも言えない。

以上のことから、引用例発明において相違点1のように構成することに、格別の困難性はない。

6-2.(相違点2について)
引用例発明では、支持体フィルムを着色している。また、蛍光剤により着色することは従来周知(前記引用例3 (5a)参照)である。
したがって、引用例発明において相違点2のように構成することに、格別の困難性はない。

6-3.(請求人の主張について)
平成22年5月26日付回答書で、請求人は以下のように主張している。
『確かに審査官殿がご指摘されますように、引用文献1には、支持体フィルムを着色する旨の記載がございます。また、引用文献6においては、蛍光剤により、表面保護層を着色する記載がございます。しかし、引用文献6におきましては、蛍光剤により着色されているのは、表面保護層であり、蛍光剤により、本願の結合剤層や支持体層に相当する部分を着色する記載はございません。引用文献6に記載の再帰反射シートのように、表面保護層を着色すると、表面保護層を着色しない場合に比べて光の透過性が悪くなる虞がございます。これに対して、本願発明1におきましては、結合剤層や支持体層を蛍光剤に着色することにより、濃度の高い蛍光剤を用いることができ、さらに、表面保護層を透明にすることができるため、再帰反射能を向上させることができます。また、結合剤層や支持体層が蛍光剤により着色されることで、強度の強い光が蛍光剤に直接的に照射されることを防止することができ、耐候性を向上させることができます。従いまして、色あせ等を抑制することができます。このように引用文献1に記載の着色剤よりも比較的耐候性が劣る蛍光剤を光から保護することができます。
このように本願発明1は、結合剤層や支持体層を蛍光剤により着色することにより、再帰反射能を低下させずに、耐候性を向上させる効果を有するものでございます。従いまして、引用文献1のように結合剤層や支持体層を他の色で着色する内容の発明と、表面保護層が蛍光剤により着色されている発明とを組み合わせても、当業者であっても本願発明1には容易に想到しないものと思慮いたします。』

しかし、引用例発明では支持体フィルムにおいて蛍光漂白剤も配合されており、蛍光剤をどの部分に用いるかは、当業者が適宜設計し得た事項である。したがって、上記主張は採用できない。

6-4.(補正案について)
請求人は、上記回答書において以下の補正案を提案している。
『なお、本出願人は、本願発明1を、次のように補正する用意がございます。
「少なくとも表面保護層、結合剤層及び結合剤層による密封封入構造による空気層が設置されている密封封入構造を持つ積層体において、結合剤層及び/又は結合剤層を担持する支持体層が、XYZ表色系の色度図でx,yが(0.303,0.300)(0.368,0.366)(0.340、0.393)(0.274,0.329)の4点を結ぶ範囲外の色に蛍光着色剤によって着色されていることを特徴とする密封封入構造を持つ積層体。」
これは、本願発明1の「または、(0.303,0.300)(0.368,0.366)(0.340、0.393)(0.274,0.329)の4点を結ぶ範囲内の色でラージYが40未満の色」を削除することで、さらに技術的範囲を限定的に減縮するものです。この補正により、結着剤層や支持体層が、濃色に着色されていることが、より明確になると思慮いたします。』

しかしながら「XYZ表色系の色度図でx,yが(0.303,0.300)(0.368,0.366)(0.340、0.393)(0.274,0.329)の4点を結ぶ範囲外の色」とは、上記の色度図上のRGBの3原色を用いた混色であって白色付近の色ではない色を意味することは明らかである。これに対して、引用例発明では、色の種類は不明であるものの、着色されているものであるから、色度図上における表現可能な色であることは明らかである。そして、色の種類をどのようにするかは、当業者が適宜なし得たことである。

6-5.(まとめ)
上述したとおり、引用例発明において、相違点1ないし相違点2に係る構成を有するものとすることは、いずれも格別困難なことではない。また、相違点1ないし相違点2に係る構成を組み合わせたことにより、当業者が予期できない格別の効果が奏せられるものとすることもできない。
したがって、本願発明は、引用例発明、引用例2に記載された技術的事項、並びに従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
以上のことから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-01 
結審通知日 2010-12-07 
審決日 2010-12-22 
出願番号 特願2002-315964(P2002-315964)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 柏崎 康司
特許庁審判官 木村 史郎
磯貝 香苗
発明の名称 密封封入構造を持つ積層体  
代理人 青木 博昭  
代理人 森村 靖男  

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