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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1232304
審判番号 不服2008-598  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-10 
確定日 2011-02-17 
事件の表示 特願2000-132352「フォギング性の良好なオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物及びそれを成形して得られる自動車内装部品」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月16日出願公開、特開2001-316535〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成12年5月1日の特許出願であって、平成19年6月8日付けで拒絶理由が通知され、同年7月27日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年12月7日付けで拒絶査定がなされ、平成20年1月10日に拒絶査定不服審判が請求され、同年2月12日に手続補正書が提出され、同年3月27日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年4月23日付けで前置報告がなされ、当審で平成22年5月19日付けで審尋がなされ、同年7月13日に回答書が提出されたものである。



第2 平成20年2月12日付けの手続補正についての補正却下の決定

[結論]
平成20年2月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成20年2月12日付けの手続補正(以下、「当審補正」という。)は、平成19年7月27日付け手続補正により補正された特許請求の範囲について
「【請求項1】
エチレン系共重合体ゴム(A)40?85重量部、オレフィン系樹脂(B)60?15重量部及び軟化剤(C)45重量部以下[成分(A)、(B)及び(C)の合計量は100重量部とする]を含む混合物を、架橋剤の存在下で動的に熱処理した後、以下の条件:
Q≧0.1 かつ t≧2^(-(T-110)/10)(但し、Qは乾燥時に供給される被処理物単位重量当たりの熱風の量(m^(3)/(時間・kg))、tは熱処理時間(時間)、Tは被処理物に当たる直前の熱風の温度(℃)を表す。)
で静的に熱処理して得られ、10gのペレットを用いてDIN 75201のA法に基づき100℃、3時間の条件でフォギング試験した時のガラス板のグロス値が80%以上であり、かつヘーズ値が10%以下であるオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
架橋剤が1分子内に2つのペルオキシド結合を有する2官能性の有機過酸化物であって、その分解物であるジオールがペレット中に残存している濃度が30ppm以下である請求項1記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる成形体。
【請求項4】
自動車内装部品である請求項3記載の成形体。
【請求項5】
エチレン系共重合体ゴム(A)40?85重量部、オレフィン系樹脂(B)60?15重量部及び軟化剤(C)45重量部以下[成分(A)、(B)及び(C)の合計量は100重量部とする]を含む混合物を、架橋剤の存在下で動的に熱処理した後、以下の条件:
Q≧0.1 かつ t≧2^(-(T-110)/10)(但し、Qは乾燥時に供給される被処理物単位重量当たりの熱風の量(m^(3)/(時間・kg))、tは熱処理時間(時間)、Tは被処理物に当たる直前の熱風の温度(℃)を表す。)
で静的に熱処理することを特徴とするオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。」
を、
「【請求項1】
エチレン系共重合体ゴム(A)40?53.6重量部、オレフィン系樹脂(B)40?15重量部及び軟化剤(C)17.1?45重量部[成分(A)、(B)及び(C)の合計量は100重量部とする]を含む混合物を、架橋剤の存在下で動的に熱処理した後、以下の条件:
Q≧0.1 かつ t≧2^(-(T-110)/10)(但し、Qは乾燥時に供給される被処理物単位重量当たりの熱風の量(m^(3)/(時間・kg))、tは熱処理時間(時間)、Tは被処理物に当たる直前の熱風の温度(℃)を表す。)
で静的に熱処理して得られ、10gのペレットを用いてDIN 75201のA法に基づき100℃、3時間の条件でフォギング試験した時のガラス板のグロス値が80%以上であり、かつヘーズ値が10%以下であるオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
架橋剤が1分子内に2つのペルオキシド結合を有する2官能性の有機過酸化物であって、その分解物であるジオールがペレット中に残存している濃度が30ppm以下である請求項1記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる成形体。
【請求項4】
自動車内装部品である請求項3記載の成形体。
【請求項5】
エチレン系共重合体ゴム(A)40?53.6重量部、オレフィン系樹脂(B)40?15重量部及び軟化剤(C)17.1?45重量部[成分(A)、(B)及び(C)の合計量は100重量部とする]を含む混合物を、架橋剤の存在下で動的に熱処理した後、以下の条件:
Q≧0.1 かつ t≧2^(-(T-110)/10)(但し、Qは乾燥時に供給される被処理物単位重量当たりの熱風の量(m^(3)/(時間・kg))、tは熱処理時間(時間)、Tは被処理物に当たる直前の熱風の温度(℃)を表す。)
で静的に熱処理することを特徴とするオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。」
とするものである。

2.新規事項の有無及び補正の目的について
当審補正は、請求項1及び5において、下記補正事項1ないし3の補正をするものである。
<補正事項1>エチレン系共重合体ゴム(A)の含有量を、「40?85重量部」から、「40?53.6重量部」に変更する補正。
<補正事項2>オレフィン系樹脂(B)の含有量を、「60?15重量部」から、「40?15重量部」に変更する補正。
<補正事項3>軟化剤(C)の含有量を、「45重量部以下」から、「17.1?45重量部」に変更する補正。

補正事項1は、当審補正前の請求項1及び5において、発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「エチレン系共重合体ゴム(A)の含有量」について、その数値限定範囲をさらに限定するものであって、これは願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の記載(段落【0040】及び【0053】)に基くものであり、補正事項1は、当初明細書に記載した事項の範囲内でしたものである。
補正事項2は、当審補正前の請求項1及び5において、発明特定事項である「オレフィン系樹脂(B)の含有量」について、その数値限定範囲をさらに限定するものであって、これは当初明細書の記載(段落【0042】及び【0053】)に基くものであり、補正事項2は、当初明細書に記載した事項の範囲内でしたものである。
補正事項3は、当審補正前の請求項1及び5において、発明特定事項である「軟化剤(C)の含有量」について、その数値限定範囲をさらに限定するものであって、これは当初明細書の記載(段落【0042】及び【0053】)に基くものであり、補正事項3は、当初明細書に記載した事項の範囲内でしたものである。
そして、補正事項1ないし3により、この補正の前後で発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題に変更はない。
そうすると、補正事項1ないし3は、いわゆる限定的減縮を目的とするものと認められる。

3.独立特許要件について
上記第2 2.に記載したとおり、補正後の請求項5に係る当審補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、補正後の請求項5に係る当審補正が、同条第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものか否かについて以下検討する。

(1)請求項5に係る発明
請求項5に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項5】
エチレン系共重合体ゴム(A)40?53.6重量部、オレフィン系樹脂(B)40?15重量部及び軟化剤(C)17.1?45重量部[成分(A)、(B)及び(C)の合計量は100重量部とする]を含む混合物を、架橋剤の存在下で動的に熱処理した後、以下の条件:
Q≧0.1 かつ t≧2^(-(T-110)/10)(但し、Qは乾燥時に供給される被処理物単位重量当たりの熱風の量(m^(3)/(時間・kg))、tは熱処理時間(時間)、Tは被処理物に当たる直前の熱風の温度(℃)を表す。)
で静的に熱処理することを特徴とするオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。」

(2)引用刊行物
刊行物1:特開平7-113025号公報(平成19年6月8日付け拒絶理由通知書における引用文献1)

(3)引用刊行物の記載事項
本願出願前に頒布されたことが明らかな刊行物1には、以下のことが記載されている。
[刊行物1]
摘示1-ア 「【請求項1】結晶性ポリオレフィン樹脂(A)15?70重量部と、
オレフィン系ゴム(B)30?85重量部[成分(A)および(B)の合計量は、100重量部とする]とからなる混合物を、有機ペルオキシドの存在下で動的に熱処理して得られる部分的に架橋された熱可塑性エラストマーであって、
該有機ペルオキシドが、
分子中に1個または2個のパーオキサイド結合を有し、かつ、分子量を1分子中のパーオキサイド結合の数で割った値が200以下の飽和脂肪族化合物であることを特徴とするオレフィン系熱可塑性エラストマー。
【請求項2】前記有機ペルオキシドが、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサンであることを特徴とする請求項1に記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー。
【請求項3】熱可塑性エラストマー100重量部中に、1?20重量部の軟化剤を含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー。」(特許請求の範囲請求項1?3)

摘示1-イ 「本発明に係るオレフィン系熱可塑性エラストマーは、たとえば上記のような動的な熱処理により得られたペレットを、高温雰囲気中で熱処理してペレット中に残存する有機過酸化物(架橋剤)およびその分解生成物を揮発させて取り除くことにより得られる。この熱処理温度は、通常70℃ないしこのペレットの融点未満の温度範囲である。また、この熱処理に要する時間は、熱処理温度にもよるが、通常1?10時間の範囲である。この熱処理は、常圧下または減圧下で行なわれる。この熱処理を上記のような条件で行なうと、耐フォギング性に優れたオレフィン系熱可塑性エラストマーが得られる。」(段落【0039】)

摘示1-ウ 「【発明の効果】本発明に係るオレフィン系熱可塑性エラストマーは、結晶性ポリオレフィン樹脂(A)とオレフィン系ゴム(B)とからなる混合物が、特定の有機ペルオキシドの存在下で動的に熱処理されてなり、部分的に架橋されているので、耐フォギング性に優れるとともに、軽量でリサイクルが容易であり、焼却しても有害なガスが発生することがなく、しかも、比較的安全に製造することができる。
したがって、上記のような効果を有する本発明に係るオレフィン系熱可塑性エラストマーは、特に耐フォギング性が要求される自動車内装材などの用途に利用することができる。」(段落【0046】?【0047】)

摘示1-エ 「【実施例1】ポリプロピレン[メルトフローレート(ASTM D 1238-65T、230℃):13g/10分、密度:0.91g/cm^(3)、結晶化度:72%]25重量部と、エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体ゴム[エチレン含有量:70モル%、ヨウ素価:12、ムーニー粘度ML_(1+4)(100℃ ):120]75重量部とを、バンバリーミキサーを用いて窒素雰囲気下、180℃で5分間混練した後、この混練物をロールに通してシート状とし、シートカッターで裁断して角ペレットを製造した。
この角ペレット100重量部に、ジビニルベンゼン(DVB)0.5重量部と、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(分子量290.4、パーオキサイド結合の数2)0.25重量部を添加してヘンシェルミキサーで攪拌混合した。
次いで、この混合物を、L/D=30、スクリュー径50mmの一軸押出機を用いて窒素雰囲気下に220℃の温度で押出して造粒した後、得られたペレット(サイズ:3mmφ×3mm)を110℃に保たれたオーブン中で3時間乾燥し、オレフィン系熱可塑性エラストマーを得た。・・・
次いで、上記のようにして得られたオレフィン系熱可塑性エラストマーのペレット10gを、ガラス製シャーレ(直径12cm、高さ3cm)に入れ、15cm角のガラス板でシャーレの蓋をした。その状態で120℃に保たれた鉄板上に3時間放置した後、室温で1時間放置し冷却した。そして、耐フォギング性の指標となる蓋のガラス板の光沢度およびヘーズを、JIS K 7105に従って測定した。
その結果を第1表に示す。
・・・
【実施例2】実施例1において、ポリプロピレンおよびエチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体ゴムの配合量をそれぞれ30重量部、40重量部とし、これらの成分のほかに、プロピレン・エチレン共重合体ゴム(エチレン含量:40モル%、ムーニー粘度ML_(1+4) (100℃):65)20重量部および軟化剤[鉱物油系プロセスオイル;出光興産社製、PW-380]10重量部を配合した以外は、実施例1と同様にして、オレフィン系熱可塑性エラストマーのペレットを得た。得られた熱可塑性エラストマーのゲル含量は72重量%であった。また、実施例1と同様にガラス板の光沢度およびヘーズを測定した。
その結果を第1表に示す。」(段落【0049】?【0057】)

摘示1-オ 「【表1】


」(段落【0064】の【表1】)

(4)刊行物に記載された発明
刊行物1には、「結晶性ポリオレフィン樹脂(A)15?70重量部と、オレフィン系ゴム(B)30?85重量部[成分(A)および(B)の合計量は、100重量部とする]とからなる混合物を、有機ペルオキシドの存在下で動的に熱処理して得られる部分的に架橋された熱可塑性エラストマー」(摘示1-ア)が記載されており、当該有機ペルオキシドとして「2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン」(摘示1-ア)が記載されており、さらに、「熱可塑性エラストマー100重量部中に、1?20重量部の軟化剤を含んでいる」(摘示1-ア)ことも記載されている。
そして、刊行物1には、オレフィン系熱可塑性エラストマーを得るに際して、動的な熱処理により得られたペレットを、高温雰囲気中で熱処理してペレット中に残存する有機過酸化物(架橋剤)およびその分解生成物を揮発させて取り除くこと(摘示1-イ)が記載されており、その具体的な条件として、「この熱処理温度は、通常70℃ないしこのペレットの融点未満の温度範囲である。また、この熱処理に要する時間は、熱処理温度にもよるが、通常1?10時間の範囲である。この熱処理は、常圧下または減圧下で行なわれる。」(摘示1-イ)とも記載されている。
そうすると、刊行物1には、「結晶性ポリオレフィン樹脂(A)15?70重量部と、オレフィン系ゴム(B)30?85重量部[成分(A)および(B)の合計量は、100重量部とする]とからなる混合物100重量部中に1?20重量部の軟化剤を含んでいる熱可塑性エラストマーを、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサンの存在下で動的に熱処理して得られたペレットを、70℃ないしペレットの融点未満の温度範囲で1?10時間の範囲で高温雰囲気中で熱処理してなる、部分的に架橋された熱可塑性エラストマーの製造方法」の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているといえる。

(5)対比
補正発明と刊行物発明とを対比する。
刊行物発明における「オレフィン系ゴム(B)」、「結晶性ポリオレフィン樹脂(A)」及び「部分的に架橋された熱可塑性エラストマー」は、補正発明における「エチレン系共重合体ゴム(A)」、「オレフィン系樹脂(B)」及び「オレフィン系熱可塑性エラストマー組成物」に相当する。
そして、刊行物発明における「2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン」は、補正発明における「架橋剤」に相当し、当初明細書の実施例1及び2において用いられている「2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン」と一致する。
また、刊行物発明における「高温雰囲気中で熱処理」について、刊行物1には「得られたペレット(サイズ:3mmφ×3mm)を110℃に保たれたオーブン中で3時間乾燥し、オレフィン系熱可塑性エラストマーを得た」(摘示1-エ)と記載されており、この記載と当初明細書における「『静的に熱処理する』とは、静置又は撹拌した状態で融点以下の温度に一定時間おくことをいう。」(段落【0031】)との記載とを照らし合わせると、刊行物発明における「高温雰囲気中で熱処理」は、補正発明における「静的に熱処理」に相当するということができる。
さらに、刊行物発明における結晶性ポリオレフィン樹脂(A)とオレフィン系ゴム(B)と軟化剤の含有量についてみると、結晶性ポリオレフィン樹脂(A)15?70重量部と、オレフィン系ゴム(B)30?85重量部[成分(A)および(B)の合計量は、100重量部とする]とからなる混合物100重量部中に1?20重量部の軟化剤を含んでいると規定されており、これは、補正発明における「エチレン系共重合体ゴム(A)40?53.6重量部、オレフィン系樹脂(B)40?15重量部及び軟化剤(C)17.1?45重量部[成分(A)、(B)及び(C)の合計量は100重量部とする]」の範囲と重複する範囲を含むものである。
そうすると、両者は、「エチレン系共重合体ゴム(A)40?53.6重量部、オレフィン系樹脂(B)40?15重量部及び軟化剤(C)17.1?45重量部[成分(A)、(B)及び(C)の合計量は100重量部とする]を含む混合物を、架橋剤の存在下で動的に熱処理した後、静的に熱処理するオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法」である点で一致し、以下の相違点で相違する。

<相違点>
静的に熱処理する際の条件が、補正発明では、
「Q≧0.1 かつ t≧2^(-(T-110)/10)(但し、Qは乾燥時に供給される被処理物単位重量当たりの熱風の量(m^(3)/(時間・kg))、tは熱処理時間(時間)、Tは被処理物に当たる直前の熱風の温度(℃)を表す。)」であるのに対し、刊行物発明では、「70℃ないしペレットの融点未満の温度範囲で1?10時間の範囲」である点

(6)相違点に対する判断
補正発明における静的な熱処理条件の式について検討する。
まず、「t≧2^(-(T-110)/10)」との式(以下、「式2」という。)は、例えば、Tが80℃の場合、t≧8すなわち8時間以上の熱処理時間を必要とし、Tが90℃の場合、t≧4すなわち4時間以上の熱処理時間を必要とし、Tが100℃の場合、t≧2すなわち2時間以上の熱処理時間を必要とし、Tが110℃の場合、t≧1すなわち1時間以上の熱処理時間を必要とし、Tが120℃の場合、t≧1/2すなわち0.5時間以上の熱処理時間を必要とすることを表すものである。そうすると、式2で表される範囲は、刊行物発明における範囲と重複する部分を含むものであることは明らかである。
そして、刊行物1の実施例1においては、具体的な熱処理条件として、110℃に保たれたオーブン中で3時間熱処理したことが記載されている(摘示1-エ)から、かかる熱処理温度及び熱処理時間は、上記のとおり式2を満足するものであって、かかる式2の条件が特別な範囲であるということもできない。
次に、「Q≧0.1」との式(以下、「式1」という。)は、静的な熱処理において、乾燥時に供給される被処理物単位重量当たりの熱風の量を0.1(m^(3)/(時間・kg))以上とすることを表すものである。
ここで、一般に、未反応モノマーや低分子量体、溶媒等を除去することを目的として、樹脂ペレットなどに熱風を当てて熱処理することは、本願出願時において周知の技術事項であると認められる(例えば、特開昭56-118411号公報、特開平9-52918号公報、特開平9-66524号公報及び特開平9-77864号公報を参照のこと。)。
してみると、刊行物1において、耐フォギング性が要求される自動車内装材などの用途に利用することができるオレフィン系熱可塑性エラストマー(摘示1-ウ)を得るに際して、さらに耐フォギング性の向上を目的として、動的に熱処理した後のペレットをさらに静的に熱処理することにより、ペレット中に残存する有機過酸化物(架橋剤)およびその分解生成物を揮発させて取り除くことが記載されている(摘示1-イ)のであるから、ペレット中に残存する揮発性物質のさらなる除去を目的として、熱処理に際して、熱風を当てて熱処理することは、上記周知の技術事項から、この発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば容易になし得ることにすぎないといわざるを得ない。
そして、静的熱処理に際しては、熱風の量が多ければ多いほど、そして熱風の温度が(融点未満の温度で)高ければ高いほど、また熱処理時間が長ければ長いほど、いずれも熱処理による揮発性物質の揮散効果が向上することは明らかであることから、その際に供給される熱風の量、熱処理温度及び熱処理時間は、必要な耐フォギング性が達成され、他の性能が阻害されず、製造工程における生産性や経済性を考慮して、当業者であれば適宜設定できることにすぎず、それらの条件を具体的に、式1かつ式2、すなわち
「Q≧0.1 かつ t≧2^(-(T-110)/10)(但し、Qは乾燥時に供給される被処理物単位重量当たりの熱風の量(m^(3)/(時間・kg))、tは熱処理時間(時間)、Tは被処理物に当たる直前の熱風の温度(℃)を表す。)」と設定することについても、格別の困難性があるものともいえない。
また、補正発明における、特に耐フォギング性に優れるという効果については、刊行物1における、摘示1-イ、ウ及びエ?オの記載から当業者であれば予測できるものであると認められるから、補正発明によりもたらされる効果が格別顕著であるとすることもできない。

(7)まとめ
したがって、補正発明は刊行物発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、当審補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法126条第5項の規定に違反しており、同法159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 原査定の妥当性についての判断

1.本願発明
上記のとおり、当審補正は却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成19年7月27日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項5】
エチレン系共重合体ゴム(A)40?85重量部、オレフィン系樹脂(B)60?15重量部及び軟化剤(C)45重量部以下[成分(A)、(B)及び(C)の合計量は100重量部とする]を含む混合物を、架橋剤の存在下で動的に熱処理した後、以下の条件:
Q≧0.1 かつ t≧2^(-(T-110)/10)(但し、Qは乾燥時に供給される被処理物単位重量当たりの熱風の量(m^(3)/(時間・kg))、tは熱処理時間(時間)、Tは被処理物に当たる直前の熱風の温度(℃)を表す。)
で静的に熱処理することを特徴とするオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由2の概要は、本願の請求項5に係る発明は、引用文献1(特開平7-113025号公報)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

3.引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
引用文献1は、上記第2 3.(2)の刊行物1と同じであるから、引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明は、上記第2 3.(3)及び(4)に記載したとおりである。
以下、引用文献1に記載された発明を刊行物発明ともいう。

4.対比
本願発明と刊行物発明とを対比する。
本願発明は、上記第2 2.に記載したとおり、補正発明における、成分(A)の含有量を「40?53.6重量部」から、「40?85重量部」に拡張し、成分(B)の含有量を「40?15重量部」から「60?15重量部」に拡張し、成分(C)の含有量を「17.1?45重量部」から「45重量部以下」に拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに成分(A)ないし(C)の配合割合を各々限定したものに相当する補正発明は、上記第2 3.に記載したとおり、刊行物発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。



第4 請求人の主張の検討

1.請求人は、平成19年7月27日に提出した意見書及び平成20年3月27日に提出した審判請求書の手続補正書(方式)において、「本願明細書の比較例1、3及び4は、いずれも引用文献1【0039】に記載された熱処理温度及び熱処理時間にしたがって静的に熱処理しているにもかかわらず、グロス値及びヘーズ値(フォギング試験性能)、並びにペレット中のジオール成分の残量はいずれも実施例1及び2より明らかに劣っている。
本願発明における条件『Q≧0.1 かつ t≧2^(-(T-110)/10)』にしたがって静的に熱処理することにより、グロス値及びヘーズ値(フォギング試験性能)、並びにペレット中のジオール成分の残量が向上することは引用文献1の開示内容からは到底予測できない。
よって、本願の補正後の請求項1?5に係る発明は進歩性を有するものと信じる。」と主張している。
しかしながら、上記「第2 3.(6)相違点に対する判断」で述べたとおり、そもそも刊行物1においては、耐フォギング性の向上を図るために、動的架橋後に静的に熱処理することが記載されており、一方、未反応モノマーや低分子量体、溶媒等を除去することを目的として、樹脂ペレットなどに熱風を当てて熱処理することは、本願出願時において周知の技術事項であると認められることから、静的に熱処理するに際して、かかる周知技術を適用し、その具体的な条件を設定することは、当業者が容易になし得る程度のことにすぎないといわざるを得ない。
そして、それによりもたらされる効果について検討しても、上記のとおり、そもそも刊行物1においては、耐フォギング性のさらなる向上を図るために、動的架橋後に静的に熱処理することが記載されているのであるから、さらに熱風を用いて熱処理することにより得られた部分的に架橋された熱可塑性エラストマーの耐フォギング性が、熱風を用いない場合よりも良好であることも当然に予測し得る範囲内のことにすぎない。
したがって、上記請求人の主張は採用することができない。

2.請求人は、平成22年7月13日に提出した回答書において、「刊行物1は、耐フォギング性に優れるエラストマーを得るために、有機ペルオキシドを飽和脂肪族系のものに限定しています。
したがって、刊行物1の請求項1には、『該有機ペルオキシドが、分子中に1個または2個のパーオキサイド結合を有し、かつ、分子量を1分子中のパーオキサイド結合の数で割った値が200以下の飽和脂肪族化合物であることを特徴とするオレフィン系熱可塑性エラストマー。』と記載されています。
実際に、刊行物1の比較例1?3では、飽和脂肪族化合物でない有機ペルオキシドが使用されており、110℃のオーブン中で3時間乾燥した後も光沢度やヘーズ値は実施例よりも劣っています。
具体的には、刊行物1の比較例1及び2では1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(ベンゼン環を有し、脂肪族系ではない)を使用し、比較例3では2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3(不飽和結合を有し、飽和脂肪族系ではない)を使用しています。
一方、本願発明は、乾燥条件を新たに規定したものであり、実施例では、ベストモードを開示するために、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサンを使用していますが、本願明細書段落0025において、『これらのうち、反応性、臭気性、スコーチ安定性の点で、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルペルオキシ)バレレート等の1分子内に2つのペルオキシド結合(-O-O-)を有する2官能性の有機過酸化物が好ましく、なかでも、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサンが最も好ましい。』と記載されているように、刊行物1記載の発明では使用しうる有機ペルオキシドから除外されている『2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3』及び『1,3-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン』も好ましい具体例として記載されています。
すなわち、本願発明にしたがって、適切な乾燥条件を規定すれば、刊行物1記載の発明で不適とされる有機ペルオキシドを用いても、フォギング性が良好な熱可塑性エラストマーを得ることができます。
このように、本願発明と刊行物1記載の発明は、技術思想として明らかに相違します。」と主張している。
しかしながら、上記で述べたとおり、刊行物発明における「2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン」は、補正発明における「架橋剤」に相当し、当初明細書の実施例1及び2において用いられている「2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン」と一致しているのであるから、この点で両者が相違するとはいえない。
したがって、上記請求人の主張は採用することができない。



第5 むすび

以上のとおり、本願発明、すなわち、平成19年7月27日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項5に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-12-17 
結審通知日 2010-12-21 
審決日 2011-01-05 
出願番号 特願2000-132352(P2000-132352)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守安 智三谷 祥子  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 藤本 保
小野寺 務
発明の名称 フォギング性の良好なオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物及びそれを成形して得られる自動車内装部品  
代理人 平木 祐輔  
代理人 島村 直己  
代理人 石井 貞次  
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