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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B05C
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B05C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B05C
審判 全部無効 2項進歩性  B05C
管理番号 1232361
審判番号 無効2010-800057  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-04-01 
確定日 2011-02-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第3597870号発明「コーティング・ブレード」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3597870号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし14に係る発明についての出願は、平成9年12月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1996年12月20日、スウェーデン)の国際出願であって、平成16年9月17日にその発明について特許権の設定の登録がなされたものである。
これに対して、平成22年3月31日付けで審判請求人株式会社野村鍍金(以下、「請求人」という。)より、本件特許無効審判が請求され、これに対して、審判被請求人ベー・テー・ゲー・エクレパン・ソシエテ・アノニム(以下、「被請求人」という。)より、平成22年7月20日付けで答弁書が提出され、その後、平成22年10月28日付けで請求人及び被請求人から口頭審理陳述要領書が提出され、平成22年11月11日付けで請求人から上申書が提出され、平成22年11月11日に特許庁において口頭審理が行われ、平成22年11月30日付けで請求人及び被請求人から上申書が提出されたものである。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された次のとおりのものである(以下、請求項1ないし14に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明14」という。)。なお、本件特許発明1を、構成要件AないしFに分説した。
「【請求項1】
A 共同回転ロール(9)で支えられた移動するペーパーウェブ(7)上にコーティング組成物を制御しながら塗布し、平らにならすコーティング・ブレード(5)であって、
B このブレード(5)は、スチール・ストリップ(13)を包含し、
C その1つの長手方向の縁部分がペーパーウェブ(7)に係合し、
D かつブレードの寿命を延ばす耐摩滅摩耗性コーティングまたは付着層(15)を備えているコーティング・ブレードにおいて、
E 付着層(15)とスチール・ストリップ(13)との間に位置する中間層(17)を包含し、
F この中間層(17)が付着層(15)よりも高い耐摩滅摩耗性を有することを特徴とするコーティング・ブレード。
【請求項2】
中間層(17)が、金属炭化物、ホウ化物、窒化物およびそれの複合物から選んだ材料からなり、金属炭化物は場合により金属マトリックス内に埋め込まれていることを特徴とする請求項1記載のコーティング・ブレード。
【請求項3】
中間層(17)が、ブレードの先端で、50μmから150μmの範囲内の厚さを有することを特徴とする請求項1または2記載のコーティング・ブレード。
【請求項4】
中間層(17)が、炭化物と金属とからなるサーメットであることを特徴とする請求項1?3のいずれか一項記載のコーティング・ブレード。
【請求項5】
中間層(17)が、付着層の耐摩滅摩耗性の2?6倍も高い耐摩滅摩耗性を有する材料によって構成してあることを特徴とする請求項4記載のコーティング・ブレード。
【請求項6】
中間層(17)が、クロム炭化物およびCr-Niによって構成してあることを特徴とする請求項5記載のコーティング・ブレード。
【請求項7】
付着層(15)が、金属酸化物によって構成してあることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項記載のコーティング・ブレード。
【請求項8】
付着層(15)が、実質的にアルミナからなることを特徴とする請求項7記載のコーティング・ブレード。
【請求項9】
付着層(15)が、アルミナと或る量の別の金属酸化物によって構成してあることを特徴とする請求項8記載のコーティング・ブレード。
【請求項10】
別の金属酸化物が、酸化ジルコニウムであることを特徴とする請求項9記載のコーティング・ブレード。
【請求項11】
付着層(15)が、0.1?1.0mmの厚さを有し、長手方向に対して直角の方向においてスチール・ストリップの平面における幅が4?12mmであることを特徴とする請求項1?10のいずれか一項記載のコーティング・ブレード。
【請求項12】
中間層(17)が、50?150μmの厚さを有することを特徴とする請求項11記載のコーティング・ブレード。
【請求項13】
スチール・ストリップが、0.3?0.6mmの厚さを有することを特徴とする請求項11または12記載のコーティング・ブレード。
【請求項14】
中間層(17)が、長手方向に対して直角の方向において付着層の幅を超えない幅を有することを特徴とする請求項1?13のいずれか一項記載のコーティング・ブレード。」


第3 請求人及び被請求人の主張の概略
第3-1 請求人の主張
請求人は、「特許第3597870号の請求項1ないし14に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との趣旨で特許無効審判を請求し、その理由として、以下の無効理由1ないし6を主張し、証拠方法として審判請求時に甲第1号証ないし甲第4号証及び参考資料1ないし4を提出した。また、平成22年10月28日付け口頭審理陳述要領書に添付して甲第5号証ないし甲第7号証が提出され、平成22年11月11日付け上申書に添付して甲第8号証が提出された。

[無効理由1]
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(具体的理由)
甲第1号証には、本件特許発明の構成要件AないしEが記載され、構成要件Fについても、「ニッケル合金などの結合剤の層」が記載されている。ここで、アルミナとニッケル合金では、アルミナよりもニッケル合金の方が耐摩滅摩耗性において優れていることは当業者の技術常識である(例えば甲第4号証を参照。)から、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明と一致し、本件特許発明は新規性がない。

[無効理由2-1]
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明から容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(具体的理由)
本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明の差異は微差であるから、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明から容易に想到できたものである。

[無効理由2-2]
本件特許発明1は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明から容易に想到できたものであり、本件特許発明2ないし14は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明から容易に想到できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(具体的理由)
甲第1号証には、『例えば、ニッケル合金などの結合剤の層をブレード材料の予備処理表面と第一層との間に施すことも適している。』(甲第1号証の第3頁第6欄第40行?42行)、及び『第一層がアルミナからなるドクターブレード』(甲第1号証の第4頁第7欄第9行?15行参照)が記載されている。
ここで、「ニッケル合金の中にはNi-Crも含まれる」ことは、本件優先日(1996年12月20日)前の公知技術であった(必要ならば、例えば甲第2号証の第2頁第2欄、段落【0008】及び甲第3号証の第4頁第6欄、段落【0034】参照)。また、ブレードの材料に金属炭化物を用いることも、本件優先日(1996年12月20日)前の公知技術であったといえる(必要ならば例えば甲第1号証の第3頁第6欄第47行?第4頁第7欄第1行参照)。従って、本件特許発明1の構成要件Fの例として、「中間層に金属炭化物である炭化クロム及びCr-Niを用い、付着層としてアルミナを用いる」(例えば本件特許明細書第3頁第34行?37行参照)ことは、当業者には自明なことである。
従って、本件特許発明1の構成要件Fは、甲第1号証ないし第3号証から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

[無効理由3]
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。
(具体的理由)
(i)本件コーティング・ブレードの作成方法について、本件特許明細書第4頁第28行?37行、第3頁第28行?42行、第4頁第22行?27行及び第4頁第42行?46行にあるように、中間層および付着層に関する材料および厚さ、また、中間層および付着層の塗布方法の例として、プラズマ溶射、HVOF溶射が挙げられているが、ブレードが新規であるにも関わらず具体的なブレードの作成工程については一切記載がない。また、プラズマ溶射、HVOF溶射についても、具体的な溶射パラメータ(条件)については一切記載がない。つまり、本件特許発明1に記載のコーティング・ブレードを作成するための具体的な実験手順、条件、時間について記載がなされていないので、当業者が本件特許発明1ないし14に係る技術的範囲全体の構成を実施できる程度に、発明の詳細な説明の記載が十分に記載されていないと言える。
(ii)本件コーティング・ブレードの構成について、中間層・付着層間の耐摩滅摩耗性は図3及び図6のダイアグラムにて示されている。本件特許明細書第4頁第22行?27行及び第4頁第42行?46行の記載にあるように、このダイアグラムからは、縦座標にセラミック、スチールの全厚さを100%として示した割合(%)、横座標に摩耗時間の数値が読み取れるが、本件特許発明1ないし14のコーティング・ブレードに用いられた中間層および付着層の材料における具体的な摩耗量は一切記載されていない。つまり、本件の発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし14に係るコーティング・ブレードについて、具体的にどれくらいの耐摩滅摩耗性を有する中間層および付着層を用いればよいか、当業者が実施できる程度に十分に記載されていないと言える。
(iii)さらに、構成要件Fの、付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有する中間層については、その具体例として「炭化クロムとCr-Niから構成される」旨記載されており、炭化クロムとCr-Niからなる中間層が本件特許発明の主要部・眼目であるが、公知技術に対する改良点がどのようにして実施されるのか全く記載されていない。両原料の形態、混合比率、種々の製造条件など全く記載されていない。当該中間層には字義解釈上、炭化クロムとCr-Niから成る合金が含まれているが、合金の製造は条件が少し変われば、合金の性質が大きく変わる。合金の製法は実験なくして予見できないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施可能性要件違反である。

[無効理由4]
本件特許明細書の特許請求の範囲は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。
(具体的理由)
(i)本件特許発明1の構成要件Fの「中間層が付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有する」について、本件特許明細書第4頁第22行?27行及び第4頁第42行?46行の記載にあるように、本件特許明細書の図3及び図6のダイアグラムからは、縦座標にセラミック、スチールの全厚さを100%として示した割合(%)、横座標に摩耗時間の数値が読み取れるが、本件特許発明2のコーティング・ブレードに用いられた中間層および付着層の材料における具体的な摩耗量は一切記載されていない。つまり、本件の発明の詳細な説明には、本件特許発明1に係るコーティング・ブレードについて、具体的にどれくらいの耐摩滅摩耗性を有する中間層および付着層を用いればよいかの記載がないので、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明1ないし14の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(ii)構成要件Fの、付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有する中間層については、その具体例として「炭化クロムとCr-Niから構成される」旨記載されており、炭化クロムとCr-Niからなる中間層が本発明の主要部・眼目であるが、公知技術に対する改良点がどのようにして実施されるのか全く記載されていない。両原料の形態、混合比率、種々の製造条件など全く記載されていない。当該中間層には字義解釈上、炭化クロムとCr-Niから成る合金が含まれているが、合金の製造は条件が少し変われば、合金の性質が大きく変わる。合金の製法は実験なくして予見できない。
よって、本件特許発明1ないし14は、いわゆるサポート要件を満たしていない。

[無効理由5]
本件特許明細書の特許請求の範囲は、明確に記載されておらず、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである。
(具体的理由)
(i)本件特許発明1の構成要件のうち、Fの『中間層が付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有することを特徴とするコーティング・ブレード。』に記載されている「高い」は、不明瞭である。
(ii)本件特許発明1において、なぜ中間層が付着層よりも高い摩滅摩耗性を有する構成要件を採用しているかの技術的意味・技術的関連については一切記載されていないから、本件特許発明1に係るコーティング・ブレードについては、発明を特定するための事項の内容に技術的な矛盾や欠陥があるか、又は、技術的意味・技術的関連が理解できない結果、発明が不明確であると考えられる。
従って上記本件特許発明1ないし14は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


[証拠方法]
甲第1号証:特公平8-11877号公報
甲第2号証:特開平5-195193号公報
甲第3号証:特開平5-198023号公報
甲第4号証:特開平8-89873号公報
参考資料1:実施可能要件に関する審査基準の抜粋
参考資料2:サポート要件に関する審査基準の抜粋
参考資料3:特許法第36条第6項第2号の要件に関する審査基準の抜粋
参考資料4:数値限定を伴った発明における考え方に関する審査基準の抜粋
甲第5号証(参考文献):特開平10-274092号公報
甲第6号証(参考文献):「溶射条件と皮膜硬さの関係」(請求人の社内資料)
甲第7号証(参考文献):三菱マテリアルグループのホームページ(http://group.mmc.co.jp/superalloy/ja/02/04.html)に掲載されている「MMC SUPERALLOY」(平成22年10月18日取得)
甲第8号証(参考文献):株式会社三幸商会のホームページ(http://www.sks.co.jp/business/japan_synr_qj_rsc_as.shtml)に掲載されている「溶射材」(平成22年11月8日取得)
(なお、請求人が平成22年10月28日付け口頭審理陳述要領書に添付した甲第5号証、甲第6号証及び甲第7号証並びに平成22年11月11日付け上申書に添付した甲第8号証は、口頭審理時に「参考文献」とされた。)


第3-2 被請求人の主張
被請求人は、答弁書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の無効理由に対して以下のように反論するとともに、「ニッケル合金などの結合剤」と「ニッケル基タングステンカーバイト」が異なるものであることを立証するための証拠方法として乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。

[無効理由1について]
本件特許発明1と、甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)には、以下の相違点がある。
相違点:甲1発明には、中間層を設けることについては何も記載されていない、ましてや、中間層と付着層の耐摩滅摩耗性の大小関係については記載も示唆もない点。
甲1発明の「結合剤層」は、スチール・ストリップと第一層との結合性を向上させるだけの目的で設けられたものであって、スチール・ストリップと第一層との間に結合性がある場合は、必要ではなく、本質的には結合性を改善した2層構造のブレードが記載されているだけのものである。
また、請求人がニッケル合金としている「ニッケル基タングステンカーバイド」は甲第4号証の表1に記載のとおり「サーメット」であり、通常「ニッケル合金」といわれているものと明らかに異なるものであって、甲1発明の「結合剤」の「ニッケル合金」とはなり得ないものである。
「結合剤としてのニッケル合金」は、基体と塗材との間の結合力を増加させるために用いられ、具体的にはNi-A1系の合金で、金属と合金とからなるものが一般に使用されている。
また、各乙号証によれば、結合コートとしてのニッケル合金のビッカス硬度は、130?410程度とその成分系により幅があるものの、Ni-A1の2成分系が一般的で、2成分系のNi-A1合金であるとビッカス硬度は130?210程度である。
したがって、「結合剤としてのニッケル合金」はアルミナよりも硬度が低く、摩耗しやすく、アルミナより「結合剤としてのニッケル合金」の耐摩滅摩耗性が低いことが当該技術分野における技術常識である。

[無効理由2-1について]
本件特許発明1と甲1発明との相違点は微差ではなく、本件特許発明1の必須の事項である。また甲1発明は硬い層を介在させることに阻害要因があるので、本件特許発明1は甲第1号証に記載された事項から容易に想到し得るものではないことは明らかである。
したがって、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする無効理由の主張は妥当なものではない。
本件特許発明1が甲1発明から容易に想到することができた発明ではない以上、本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし14も当然甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

[無効理由2-2について]
ブレードの局部的な縁部分には摩耗が生じているが、ブレードの中間部分は摩滅しない場合でもブレードを交換しなければならなかったという従来の課題を、本件特許発明1は、スチール・ストリップ/中間層/付着層からなる3層構造のブレードであって、その構成層間における耐摩滅摩耗性の大小関係を、付着層より中間層の耐摩滅摩耗性を高くした3層構造のブレードとすることにより解決したものである。
一方、甲1発明は、ブレードとして備えていなければならない重要な物性である「可撓性」に影響を及ぼさないように、摩耗を遅らせるためブレードに形成する耐摩耗性層を如何に形成するかという発明である。
したがって、甲1発明において、「可撓性」を失わせるような処理等を施すことはあり得ないことである。また、甲1発明において、摩耗を遅らせるため耐摩耗性層を設けるということは記載されているが、縁部分の摩耗などの局部的、不均一な摩耗に如何に対処するかということについて全く記載も示唆もない。
本件特許発明1と甲1発明とは目的も課題も全くことなることから、甲1発明は本件特許発明1を記載も示唆もしないものである。
また、本件特許発明1は、ブレードの可撓性を失わせるような、付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有する、すなわち高い硬度を有する耐摩滅摩耗性材料を採用し、かつ付着層とスチール・ストリップとの間に中間層として介在させるものである。
すなわち、本件特許発明1は、甲第1号証が必要な要件とするブレード全体の「可撓性」を低下させることに繋がる硬い層を、スチール・ストリップと耐摩耗性層との間に設けるものである。
それ故、本件特許発明1は甲1発明の課題解決手段とは明らかに技術的に反することを行うものであり、甲第1号証に記載された「結合剤としてのニッケル合金」として第一層の耐摩滅摩耗性より高いものを用いることは阻害要因であるので、甲1発明に本件特許発明1の中間層に相当する高い耐摩滅摩耗性を有する、すなわち硬度の高い結合剤層を設けるようなことはあり得ないことである。
したがって、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものではない。
甲第2号証は、ニッケル合金の表面に窒化層を形成して表面硬度等を向上させる窒化方法に関するもので、その窒化層を形成するニッケル合金としてNi-Crが挙げられているに過ぎない。甲第3号証は、長期信頼性および耐酸化性(耐腐食性)に優れた光磁気記録膜およびこの光磁気記録膜を有する光磁気記録媒体に関するもので、光磁気記録膜の上に金属膜が設けられていてもよいし、あるいは第2保護膜の上に金属膜が設けられていてもよいとするもので、その金属膜として、たとえばAl、Pt、Au、Cu等の金属、あるいはNi-Crなどのニッケル合金、あるいはアルミニウム合金から形成されている膜が挙げられているものである。そして、そのNi合全膜は反射膜としての役割を果たすものとして挙げられているに過ぎない。
このように、甲第2号証及び第3号証は、それぞれ、単に、ニッケル合金にNi-Crが含まれるというに過ぎず、単に、反射膜としてNi-Crなどのニッケル合金が記載されているもので、「結合剤としてのニッケル合金」について記載するものではない。
請求人のこの主張は「ニッケル合金の中にNi-Cr」が含まれるという主張にすぎないもので、甲第2及び第3号証は「Ni-Cr」の合金が甲第1号証の「結合剤としてのニッケル合金」に用いることができることを何ら示唆するものではなく、「結合剤としてのニッケル合金」に適用できることを立証するものではない。
仮に、甲第2号証及び第3号証に記載のニッケル合金を甲1発明の「結合剤としてのニッケル合金」に採用したとしても、従来、可撓性が失われ、問題があった「耐摩耗性」の第一層に、硬度不明のニッケル合金を更に層として追加するということである。
とすると、第一層より硬い耐摩滅摩耗性層を形成するようなニッケル合金を甲1発明に用いることは、ブレードの「可撓性」を失わせるようなニッケル合金を設けることであり、上記のとおりの阻害要因がある以上、当業者はむしろ硬度が第一層よりも低い材料のものを選択するものと考えられ、甲第2号証及び第3号証を甲第1号証に適用したとしても、やはり、本件特許発明1は導き出し得ないものである。
よって、本件特許発明1は甲第1号証ないし第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものではない。
請求人の主張は、甲第2号証及び第3号証のニッケル合金を「金属炭化物」を添加して変性させた材料を甲1発明に組み合わせることを主張するものであり、その組み合わせる甲1発明は、耐摩滅摩耗性層を有するブレードに、層として硬い層を追加することに阻害要因があることから、甲第2号証及び第3号証のニッケル合金であるNi-Crに金属炭化物であるCrCを添加して耐摩耗性を向上し、硬さを増加させたものを甲1発明の「結合剤としてのニッケル合金」に用いることなど想いも因らないことであり、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものではない。
したがって、本件特許発明1は甲第1号証ないし第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、無効理由の主張は妥当なものではない。
本件特許発明1が甲第1号証ないし第3号証に記載された発明から容易に想到することができた発明ではない以上、本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし14も当然甲第1号証ないし第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

[無効理由3について]
本件特許明細書は、本件特許発明及び実施例等を必要かつ十分に当業者が実施し得る程度に記載しているものであるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているものである。
(i)本件特許発明のコーティング・ブレードの作成方法について、ブレードの構造、ブレードの付着層及び中間層に使用する耐摩耗性材料の具体的な材料及び厚さ等の寸法、並びに各層の形成方法については、付着層及び中間層がコーティング組成物を塗布することで形成されること、また、その塗布方法としては当該技術分野において周知のプラズマ溶射、HVOF溶射などの適当な溶着技術を用いて塗布することが特許明細書中に明記されている。各層の形成方法は、当該技術分野で使用されている材料の通常の層形成方法であり、溶射技術等の適用条件が特定されていなくても、当業者ならば技術常識を考慮して材料毎に適宜最適な適用条件を選択し、実施できる程度のことである。
(ii)及び(iii)本件特許発明1は、スチール・ストリップと付着層との間に中間層を設けた3層構造のコーティング・ブレードであって、その中間層が付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有することを特徴とする発明であり、特許明細書に「本発明によれば、高品質コーティングを維持しながらコーティング・ブレードの寿命をかなり延ばすことができる。ここに開示したサンドイッチ・デザインは上記の具体例に限らず、中間層が耐摩耗性付着層よりも高い耐摩耗摩滅性を有するということだけが必要である。」(第4頁47?50行)と記載されている。さらに、中間層と付着層で使用する材料の耐摩滅摩耗性の大小関係が、「中間層が耐摩耗性付着層よりも高い耐摩耗摩滅性を有する」ということを満たす本件特許発明1の具体的な材料として、中間層には炭化クロムとCr-Niからなる合金であって炭化クロムの含有範囲が75?96%の範囲のものが、付着層には金属酸化物のアルミナが挙げられている。そして、硬い材料ほど耐摩耗性が良好になることは当該技術分野において技術常識であるから、材料の摩耗量と材料の硬さは関連し、材料の硬さが増加すると耐摩滅摩耗性はよくなる傾向を示すので、耐摩滅摩耗性の比較は材料の硬さの比較で特定できることである。以上のとおりであるから、請求人が主張するように、実施可能要件の(ii)摩耗量が明確に定まるようにどれくらいの耐摩滅摩耗性を有する中間層及び付着層を用いればよいか具体的に記載されていなくても、あるいは実施可能要件の(iii)具体的に炭化クロムとCr-Niからなる合金の組成、製造条件などが詳細に記載されていなくても本件特許発明1は当業者が実施することができることは明らかである。

[無効理由4について]
本件特許発明1ないし14が、それぞれ、発明の課題を解決できることを当業者が認識できる程度に特許明細書の発明の詳細な説明中に記載されているので、本件特許発明1ないし14は発明の詳細な説明に記載された発明である。
(i)及び(ii)本件特許発明は、スチール・ストリップと付着層との間に中間層を設けた3層構造のコーティング・ブレードであって、中開層が耐摩耗性付着層よりも高い耐摩耗摩滅性を有するという「中間層と付着層の耐摩滅摩耗性の相対的な大小関係」を必須の特徴とする発明である。
特許明細書にも「本発明によれば、高品質コーティングを維持しながらコーティング・ブレードの寿命をかなり延ばすことができる。ここに開示したサンドイッチ・デザインは上記の具体例に限らず、中開層が耐摩耗性付着層よりも高い耐摩耗摩滅性を有するということだけが必要である。」(第4頁第47ないし50行)と記載されているように、付着層の耐摩滅摩耗性より中間層の方が耐摩滅摩耗性を有するものを選択すればよいのであり、当業者に十分に理解できることである。
そして、特許請求の範囲の記載は、中開層と付着層の耐摩滅摩耗性の相対的な大小関係を特許明細書に記載したとおり特定しているのであるから、発明の詳細な説明に開示された内容を何ら拡張しておらず、一般化できる範囲に記載したものである。

[無効理由5について]
本件特許発明1ないし14は、それぞれ、特許を受けようとする発明を明確に記載したものであるから、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしているものである。
(i)請求人が指摘している「高い」は、構成要件Fに記載された「中間層が付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有する」との文脈から理解されるべきものである。とすると、構成要件Fの記載から「高い」は、中間層と付着層の材料を比較したとき、中間層の耐摩滅摩耗性が付着層の耐摩滅摩耗性より高いとの比較関係で高いと規定していることは明らかであり、その記載は明確である。
(ii)本件特許発明1は、ブレードの縁部分の局部的な摩滅摩耗が生じて、ブレードの中間部分が摩滅摩耗していなくてもブレード交換しなければならなかったという課題を、本件特許発明1においては、スチール・ストリップ/中間層/付着層からなる3層構造のブレードであって、その構成層間における耐摩滅摩耗性の大小関係を、付着層より中間層の耐摩滅摩耗性が高い3層構造のブレードとすることにより解決することができるという技術的意味や技術的関連を、当業者ならば請求項の記載や特許明細書の説明から理解できることは明らかである。
(iii)本件特許発明1は、構成要件Fに記載のとおり中間層と付着層の耐摩滅摩耗性の大小関係を特定したことに特徴がある発明であり、この耐摩滅摩耗性の大小関係を有すれば、自ずと発明が明確に特定されることは特許明細書の記載から明らかである。
(iv)本件特許発明1は構成要件Fとして「中間層は付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有する」と記載しているもので、中間層と付着層の耐摩滅摩耗性の大小関係を明確に特定しているものであるから、この記載自体が明確で何ら発明を不明瞭にするものではない。
したがって、本件特許発明1は明確である。

[証拠方法]
乙第1号証:McGraw-Hill Concise Encyclopedia of Science & Technology, Second Edition, Edited by Sibyl P. Parker, 1989, p. 67-68, 346. 及び抄訳
乙第2号証:ASM Materials Engineering Dictionary, Edited by J. R. Davis, 1992, p. 71. 及び抄訳
乙第3号証:Engineering Coatings - design and application, Edited by Stan Graiger, 1989, p. 78, 79, 92, 93. 及び抄訳
乙第4号証:K. A. Kohr and N. L. Loh, "Micro structure and Properties of Plasma Sprayed Ni-Based Alloys After Hot Isostatic Pressing", Proceedings of the 1993 National Thermal Conference, Anaheim, CA, June 1993, p. 613-618 及び抄訳
乙第5号証:D. J. Varacalle Jr., et al. "An SDE Study of Twin-Wire Electric Arc Sprayed Nickel-Aluminium Coatings", Proceedings of the 8th National Spray Conference, September 1995, Houston, Texas, p. 373-380. 及び抄訳
乙第6号証:J. Beczkowiak, J. Fischer, H. Keller and G. Schwier. "Advanced Carbides and Borides for Wear Resistant Coatings - Powder and Coating Properties", Proceedings of the 1995 International Thermal Spray Conference, Kobe, Japan, May 1995, p. 1053-1057. 及び抄訳
乙第7号証:Advanced Techniques for Surface Engineering, Edited by W. Gissler and H. A. Jehn, 1992, p. 224-225. 及び抄訳

第4 当審の判断
1 本件特許発明1ないし14
本件特許発明1ないし14は、上記第2 に記載したとおりのものである。

2 甲第1号証ないし甲第4号証について
2-1 甲第1号証について
(1)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証(特公平8-11877号公報)には、図面と共に、次の(a)ないし(g)の事項が記載されている。

(a)「【請求項1】走行紙ウエブに被覆剤を調節塗布しかつ均すためのドクターブレードにおいて、ブレードは、0.7mmもしくはそれ以下の肉厚を有する可撓性の鋼片からなり、その作用域に鋼片の肉厚よりも薄くかつ鋼ブレードよりも耐摩耗性の大きいセラミック材料の表面被覆を最高0.25mmの全厚さを有する層で構成され、かつ前記セラミック材料層が、熔融状態にて噴霧により順次の工程で次々と塗布された複数層のセラミック材料層として構成されてなることを特徴とするドクターブレード。
(中略)
【請求項3】前記セラミック材料が一つ又はそれ以上の金属酸化物、又は一つ又はそれ以上の金属炭化物、又はこれらの組合せからなる特許請求の範囲第1項又は2項に記載のドクターブレード。
【請求項4】前記金属酸化物がアルミナからなる特許請求の範囲第3項記載のドクターブレード。」(第1ページ第1欄第2行ないし第2欄第10行)

(b)「(産業上の利用分野)
本発明は、走行する連続紙ウエブに被覆剤を調節塗布し、かつ均すためのドクターブレードに関し、特に、鋼片からなり、耐摩耗性のセラミック材料で被覆され、かつ可撓性であるドクターブレードに関するものである。」(第2ページ第3欄第31行ないし第35行)

(c)「(発明が解決しようとする課題)
本発明者等は、鋼片からなるドクターブレードに、その可撓性を阻害することなくセラミック材料の付着を実施することを試みていたが、驚くべきことに、セラミック材料を熔融状態で噴霧により順次に複数の薄いセラミック材料の層として構成して付着することにより、耐摩耗性のセラミック材料の被覆を施しても、鋼ブレードの本来の可撓性を実質的に失うことなく、走行する連続紙ウエブに被覆材を調節塗布しかつ均すのに完全に満足し得る結果が保証されることを突き止めて本発明を完成した。
従って、本発明の目的は、耐摩耗性のセラミック材料の被覆を施しても、鋼ブレードの本来の可撓性を実質的に失うことなく、走行する連続紙ウエブに被覆剤を調節塗布しかつ均すのに完全に満足し得る被覆性能が保証され、慣用のドクターブレードに比較して長期の使用寿命を有するドクターブレードを提供することである。」(第3ページ第5欄第8行ないし第24行)

(d)「耐摩耗性の表面被覆の構造については、第一の薄層をブレード材料に塗布する前に、ブレード材料を被覆すべき表面領域内において適当な予備表面処理にかけるべきであり、好適には、第一の薄層を塗布する直前に、例えばカーボランダムによる緩和な砂吹きを行う。或る場合には、例えば、ニッケル合金などの結合剤の層をブレード材料の予備処理表面と第一層との間に施すことも適している。次いで、その初期の帯片の可撓性と平滑性とに影響を与えないように順次の層を塗布する。
最後に、所望ならば、仕上げ表面被覆を研磨にかけて、3.0μRa未満の研磨仕上げを形成することもできる。」(第3ページ第6欄第35行ないし第46行)

(e)「本発明による被覆に使用される耐摩耗性の材料は、サーメット、又は特に一種又はそれ以上の金属酸化物、又は一種又はそれ以上の金属炭化物、又はこれらの組合、即ち、一般的に所謂セラミックと総称されるセラミック材料から構成することができる。」(第3ページ第6欄第47行ないし第4ページ第7欄第1行)

(f)「驚くことに、主としてアルミナからなるブレード被覆は、幾つかの目的に必要とされる高品質の紙ウエブ被覆に対して特に適していることが判明した。例えば、酸化チタン(TiO_(2))のような他の金属酸化物を少量(例えば3%)含有するアルミナ(Al_(2)O_(3))(97%)のブレード被覆を使用することにより、特に良好な結果が得られた。」(第4ページ第7欄第9行ないし第15行)

(g)「図面に示したドクターブレードは、走行紙ウエブを被覆する際に使用することを目的とする。この被覆工程において、一般的に紙ウエブは、ウエブの走行方向に回転するゴム被覆された支持ローラを部分的に囲繞する。被覆剤の槽中に部分的に浸漬された回転式塗布ローラを用いることにより、過剰の被覆剤を紙ウエブの一面に塗布し、ブレード(原理上、従来型のブレードホルダに配置する)をこのように被覆されたウエブの表面へ押圧されて、塗布した被覆剤の層を均一にする。ウエブに対するブレードの接触角度及びウエブに対しブレードを当接させる圧力は、好適には調節自在であり、紙ウエブに対するブレードの接触圧力及び接触角度の適する調節は、ウエブ上に残留する被覆剤の量を良好な精度で設定することを可能にする。図示したドクターブレードは、この種の工程における従来のドクターブレードと同様に使用される。」(第4ページ第7欄第19行ないし第34行)

(h)「第1?8図の各々には、各ドクターブレードの作用自由端部のみを示す。これらの図面に関する実施例の各々において、ブレード1は、平行な対向する主面としての側部2及び3を有する鋼ブレード材料の帯片からなっている。図示した各ブレード1は、使用時に紙ウエブ7に係合する作用面を有する。ベベル表面4の寸法を図面では破線8で示し、これは更に太い実線で示した導入域9の一部を含み、この導入域9において矢印6の方向へ移動する紙ウエブの1面が使用時に最初にブレード1と接触する。紙ウエブ7の他面は、一般的に矢印6の方向へ回転する支持ローラ(図示せず)に係合するが、或る配置の場合紙ウエブ7は、ブレード1と係合する全領域に亙りこのローラにより支持される必要はない。紙ウエブ7に面する側部2の部分は、ブレード1よりも耐摩耗性の大きい薄いセラミック材料の表面被覆5を有する。この表面被覆5の組成及び構造を、以下詳細に説明する。各ブレードの作用面は、従って、使用に際し紙ウエブ7と作用面との間に位置する紙被覆剤の層(簡単にするため図示せず)を介して紙ウエブ7と係合するよう設計される。表面被覆5は、紙ウエブ7に最初に出会いかつローラに面するブレード1の側部2に塗布される。側部2は、以下にブレード1の導入側とも呼ばれる。ブレードの表面被覆5は、被覆領域に配設され、その幅は、側部2に沿って好ましくは最高20mmである。第1図には、被覆領域を参照符号5aで示す。」(第4ページ第7欄第35行ないし第8欄第9行)

(i)「(発明の効果)
本発明による走行する連続紙ウエブに被覆剤を調節塗布しかつ均すためのドクターブレードによると、耐摩耗性のセラミック材料の被覆を施しても、鋼ブレードの本来の可撓性を実質的に失うことなく、かつセラミック被覆層自身における良好な可撓性を確保すると共にその脆さを最小とし、例えば、亀裂の危険を最小化させ、走行する連続紙ウエブに被覆剤を調節塗布しかつ均すのに完全に満足し得る被覆性能が保証され、慣用のドクターブレードに比較して長期の使用寿命を有するドクターブレードが提供できる。」(第5ページ第10欄第18行ないし第28行)

(j)「【図面の簡単な説明】
第1?8図は、本発明に使用されるドクターブレードの種々異なる具体例と示す略側面図である。
1……ブレード、2,3……側部
4……ベベル表面、5……表面被覆
6……移動方向、7……紙ウエブ
8……ベベル表面、9……導入域
10……斜面」(第5ページ第10欄第29行ないし第36行)

(2)上記(1)(a)ないし(j)の記載、並びに、第1図ないし第8図の記載から、甲第1号証には次の(ア)ないし(エ)の事項が記載されていることが分かる。

(ア)上記(1)(a)ないし(j)の記載、並びに、第1図ないし第8図の記載から、甲第1号証には、支持ローラで支えられた移動する紙ウエブ7上に被覆剤を調節塗布しかつ均すドクターブレードが記載されていることが分かる。

(イ)上記(1)(a)ないし(j)の記載、並びに、第1図ないし第8図の記載から、甲第1号証に記載されたドクターブレードのブレード1は、鋼ブレード材料の帯片からなり、ブレード1の側部2に、ブレード1よりも耐摩耗性の大きい薄いセラミック材料の表面被覆5を有することが分かる。

(ウ)上記(1)(h)の記載及び第1図ないし第8図の記載から、ブレード1の作用面である側部2の部分が紙ウエブ7に係合することが分かる。

(エ)上記(1)(d)の記載及び第1図ないし第8図の記載から、甲第1号証に記載されたドクターブレードは、ニッケル合金などの結合剤の層をブレード1と表面被覆5との間に含むことが適していることが分かる。

(3)上記(1)及び(2)の記載から、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「支持ローラで支えられた移動する紙ウエブ7上に被覆剤を調節塗布し、均すドクターブレードであって、
このドクターブレードは鋼ブレード材料の帯片からなるブレード1を含み、
その側部2が紙ウエブ7に係合し、
かつ耐摩耗性の大きい薄い表面被覆5を備えているドクターブレードにおいて、
表面被覆5と鋼ブレード材料の帯片からなるブレード1との間に位置する結合剤の層を含む、
ドクターブレード。」


2-2 甲第2号証について
(1)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平5-195193号公報)には、図面と共に、次の(a)の事項が記載されている。

(a)「【0008】この発明の対象となる上記ニッケル合金としては、ニッケルの含有量が25重量%(以下「%」と略す)以上のニッケル合金が主として用いられる。例えばNi-Cr,Ni-Cr-Mo,Ni-Cr-Feがあげられる。具体的には、インコネル系,ハステロイ系,インコロイ系等の高ニッケル含有合金があげられる。なお、ニッケル含量が25%未満の合金であってもこの発明の処理対象となる。したがって、この発明でニッケル合金とは、ニッケル含量が25%以上のものと25%未満のものの双方を含む。好適にはニッケル含量が25%以上のものである。また、ニッケル合金の形状等も問わない。また、加工の度合い等も問わない。ニッケル合金からなる材料、ニッケル合金からなる中間製品,ニッケル合金からなる完成品の全てが、この発明のニッケル合金の範囲に含まれる。」(段落【0008】)

(2)上記(1)の記載から、甲第2号証には次の技術(以下、「甲2技術」という。)が記載されていると認められる。

「ニッケル合金として、Ni-Crを使用する技術。」


2-3 甲第3号証について
(1)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証(特開平5-198023号公報)には、図面と共に、次の(a)の事項が記載されている。

(a)「【0034】上記の金属膜としては、たとえばAl、Pt、Au、Cu等の金属、あるいはNi-Crなどのニッケル合金、あるいはアルミニウム合金から形成されている膜が挙げられる。これらの合金のうち、本発明では、アルミニウム合金が好ましい。これらの金属膜は種々の役割を果たす。たとえばNi合金膜は反射膜としての役割を果たし、またAl合金膜は熱伝導膜としての役割を果たす。」(段落【0034】)

(2)上記(1)の記載から、甲第3号証には次の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されていると認められる。

「ニッケル合金として、Ni-Crを使用する技術。」


2-4 甲第4号証について
(1)本件特許出願の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証(特開平8-89873号公報)には、図面と共に、次の(a)ないし(d)の事項が記載されている。

(a)「【0010】本発明者等は、ペーパーロールにドクターブレードを適用することを前提として、適切なドクターブレード材とロールへの被覆材質の組み合わせを発見するべく、以下のような検討を行った。
(a)硬度と耐摩耗性の検討
まず、鋼管製ロールに被覆できそうな材料を選定し、硬さと耐摩耗性の調査を行った。試験に供したものは、例えば、溶射材料の内、セラミックとしてグレイアルミナ、アルミナ・チタニア、ホワイトアルミナ、スピネル、酸化クロム、ジルコニア、ジルコニア・イットリア、ジルコニア・マグネシア、チタニア、また、サーメットとしては、クロムカーバイト、ニッケル基タングステンカーバイト、コバルト基タングステンカーバイト、チタンカーバイト、チタンナイトライド、チタンボライド、シリコンカーバイト等を調査したが、硬さはあっても密着性が悪かったり、溶射固有の気孔が多かったりして利用できそうな被膜材料は、表1のセラミックやサーメットにほぼ限定されることが明らかとなった。表1において、耐摩耗性はテーバー摩耗試験機によって求めたが、摩耗輪はH-10を使用し、付与した荷重は1kgである。また、摩耗量は材料によって密度が異なるので、まず、被膜の重量減少量を求め、密度を利用して摩耗体積に換算した。
【0011】
【表1】
【0012】表1の結果でも明らかなように、クロムめっきと比べて硬度、耐摩耗性共に勝る被膜材料は意外に少ないことが判明したが、問題は、これらの被膜に適合するドクターブレードを発見できるか否かにあるために、表1に示した材料に対して、ドクターブレードを適用する試験を実施した。(以下略)」(段落【0010】ないし【0011】)

(b)【表1】中には、
「No:3 供試材料:グレイアルミナ 分類:セラミック 密度:3.40(g/cm^(3)) 硬度:800?900(Hv) 摩耗量:0.027(cm^(3)/1,000rev)
No:4 供試材料:ホワイトアルミナ 分類:セラミック 密度:3.98(g/cm^(3)) 硬度:900?1000(Hv) 摩耗量:0.024(cm^(3)/1,000rev)
No:6 供試材料:ニッケル基タングステンカーバイド 分類:サーメット 密度:12.90(g/cm^(3)) 硬度:880?950(Hv) 摩耗量:0.004(cm^(3)/1,000rev)」 という事項が記載されている。

(c)「【0013】(b)ドクター効果とドクター材質の検討
直径360mm、面長500mmの鉄鋼製ロール6本を準備し、それぞれの表面にグレイアルミナ(Al_(2) O_(3) -2.3%TiO_(2) )、ホワイトアルミナ、酸化クロム、コバルト基タングステンカーバイト(WC-12%Co)、ニッケル基タングステンカーバイト、クロムカーバイトをプラズマ溶射又はガス溶射し、研摩加工により、表面粗さ0.8s、0.15mm厚に仕上げた。これらのロールに対して、SUS304、SUS440A、燐青銅、SK-5からなるブレード面長100mm、奥行き75mm、板厚1.2mmとしたドクターブレードをそれぞれ6枚ずつ準備し、ロール周速960m/分、ブレード線圧435g/cm、オッシレーション±10mmで押し当てて、ブレードの摩耗量、ドクター効果、ロールへの損傷の有無を評価したが、試験は4種類のドクターブレードを同時に1本のロールに押当て、まず最初は、塗料の代わりに水道水2リットル/分を滴下しつつ、16時間連続して行った。結果を表2に示す。表2において、ドクター効果は、ロールに押し当てたドクターブレードの水切り効果で判定した。また、ドクターブレードの摩耗量は、いずれのブレード素材も金属であり、密度も似通っているので試験前後の重量差で求めた。
【0014】
【表2】
【0015】以上の試験の結果、コバルト基及びニッケル基のタングステンカーバイト類には、燐青銅製のドクターブレードが、また、酸化クロム及びクロムカーバイトでは、SUS440A製のドクターブレードが適していることを発見した。そして、グレーアルミナ、ホワイトアルミナ等のアルミナ系のセラミック材料には、ドクター効果を示すドクターブレード材が有っても、それを使用することによって、ロール表面に摩耗粉と思われるものが固着し、結局適切なドクターブレード材を発見出来ず、この用途には不適当であった。」(段落【0013】ないし【0015】)

(d)【表2】には、「ドクターブレード材質」として、「SUS304、SUS440A、燐青銅、SK-5」が記載されている。(審決注;SUS304、SUS440Aはステンレス鋼、SK-5は炭素工具鋼である。)

(2)上記(1)(a)ないし(d)の記載、並びに、図1ないし図7の記載から、甲第4号証には、次の(ア)及び(イ)の事項が記載されていることが分かる。

(ア)上記(1)(a)、(b)及び図1ないし図7の記載から、鋼管製ロールに被覆する材料として、ニッケル基タングステンカーバイドがあり、ニッケル基タングステンカーバイドの耐摩耗性は、アルミナ(グレイアルミナ及びホワイトアルミナ)の耐摩耗性よりも高いことが分かる。

(イ)上記(1)(c)、(d)及び図1ないし図7の記載から、ドクターブレードの材質としては、SUS304、SUS440A、燐青銅、SK-5が使用されていることが分かる。

(3)上記(1)及び(2)の記載から、甲第4号証には、次の技術(以下、「甲4技術」という。)が記載されていると認められる。

「鋼管製ロールを、アルミナよりも耐摩耗性が高いニッケル基タングステンカーバイドで被覆する技術。」


3 本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「支持ローラ」は、その機能からみて、本件特許発明1における「共同回転ロール」に相当し、以下同様に、「紙ウエブ7」は「ペーパーウェブ(7)」に、「被覆剤」は「コーティング組成物」に、「調節塗布し」は「制御しながら塗布し」に、「均す」は「平らにならす」に、「ドクターブレード」は「コーティング・ブレード(5)」に、「鋼ブレード材料の帯片からなるブレード1」は「スチール・ストリップ(13)」に、「含み」は「包含し」に、「側部2」は「1つの長手方向の縁部分」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明における「耐摩耗性の大きい薄い表面被覆5」は、耐摩耗性の大きい層をブレードの表面に付着させてブレードの寿命を延ばす表面被覆であるから、本件特許発明1における「ブレードの寿命を延ばす耐摩滅摩耗性コーティングまたは付着層(15)」に相当し、同様に、「表面被覆5」は「付着層(15)」に相当する。
また、甲1発明における「結合剤の層」は、「付着層(15)とスチール・ストリップ(13)との間に位置する」層である限りにおいて、本件特許発明1における「中間層(17)」に相当する。
してみると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「共同回転ロールで支えられた移動するペーパーウェブ上にコーティング組成物を制御しながら塗布し、平らにならすコーティング・ブレードであって、
このコーティング・ブレードはスチール・ストリップを包含し、
その1つの長手方向の縁部分がペーパーウェブに係合し、
かつブレードの寿命を延ばす耐摩滅摩耗性コーティングまたは付着層を備えているコーティング・ブレードにおいて、
付着層とスチール・ストリップとの間に位置する層を包含した、
コーティング・ブレード。」
である点で一致し、次の(1)の点で相違する。

(1)本件特許発明1においては、「付着層(15)とスチール・ストリップ(13)との間に位置する中間層(17)を包含し、この中間層(17)が付着層(15)よりも高い耐摩滅摩耗性を有する」のに対し、甲1発明においては、本件特許発明1における「付着層(15)」に相当する「表面被覆5」と、本件特許発明1における「スチール・ストリップ(13)」に相当する「鋼ブレード材料の帯片からなるブレード1」との間に位置する「結合剤の層」を包含するものの、この「結合剤の層」が「付着層(15)よりも高い耐摩滅摩耗性を有する」かどうか明らかでない点(以下、「相違点」という。)。

4 当審の判断
4-1 無効理由1(特許法第29条第1項第3号)について
(相違点についての検討)
請求人は、審判請求書において、「アルミナとニッケル合金では、アルミナよりもニッケル合金の方が耐摩滅摩耗性において優れていることは当業者の技術常識である(例えば甲第4号証を参照。)から、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明と一致し、本件特許発明は新規性がない。」と主張しているので、請求人の上記主張について検討する。
請求人が「ニッケル合金である」と主張する「ニッケル基タングステンカーバイド」は、甲第4号証の【表1】に記載されているように、分類が「サーメット」である。「サーメット」とは、「セラミックと金属成分の親和混合物からなる複合材料の一群」であることが周知であって、乙第1号証及び乙第2号証にもその旨が記載されている。したがって、「ニッケル基タングステンカーバイド」は、通常、「ニッケル合金」には分類されないものである。また、「ニッケル基タングステンカーバイド」は、非常に硬いものであるから、「結合剤としてのニッケル合金」として使用することは考え難い。したがって、甲1発明の「結合剤としてのニッケル合金」が「ニッケル基タングステンカーバイド」であるとは認められない。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明と同一ではない。


4-2 無効理由2(特許法第29条第2項)について
4-2-1 無効理由2-1について
請求人は、「本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明の差異は微差であるから、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明から容易に想到できたものである。」と主張している。
請求人が提出した平成22年10月28日付け口頭審理陳述要領書第3ページ第5行ないし第4ページ第2行の記載によれば、上記「微差」とは、「甲第1号証には構成要件Fが明示されていないという点」であり、請求人は「甲第1号証には、中間層と付着層の硬さの大小関係が特定されていないだけであり、中間層が付着層より硬いか、または付着層が中間層より硬いかのいずれの可能性も存在する甲第1号証に記載の発明において、被請求人は、単に中間層が付着層より硬い場合を選択したに過ぎないという点において、本発明1と甲第1号証の発明との差異は微差としか言いようがない。」と主張している。
請求人の上記主張について検討する。
甲1発明は、「耐摩耗性の大きい薄い表面被覆5」と、「表面被覆5と鋼ブレード材料の帯片からなるブレード1との間に位置する結合剤の層」を備え、該「結合剤の層」は、「ニッケル合金などからなる」ものである。
ここで、「ニッケル合金」としては、請求人が主張する甲2技術及び甲3技術における「Ni-Cr合金」、甲第2号証に記載された「Ni-Cr-Mo、Ni-Cr-Fe」、乙第4号証に記載された「Ni-A1、NiCrAl」等がある。このうち、甲第1号証における「結合剤」として適用できるのは、乙第3号証ないし乙第5号証の記載から、「Ni-A1合金」が最も有力であることが分かる。
ところで、Ni-A1合金のビッカース硬度Hvは、129?205の範囲(乙第5号証を参照。)であり、甲1発明の表面被覆5に使用されるセラミック(実施例においては、アルミナ)のビッカース硬度Hv(800?900、900?1000、甲第4号証を参照。)に比べて、非常に小さいものである。
そして、ビッカース硬度と耐摩滅摩耗性は一般的に相関関係を有するものである(例えば、参考文献である甲第5号証の段落【0012】に「耐摩耗性を確保するためには、できるだけ硬度が高いほうがよいものである」と記載されている。)から、甲1発明における結合剤の耐摩滅摩耗性は、表面被覆5の耐摩滅摩耗性よりも小さいといえる。
一方、本件特許発明においては、「中間層(17)が付着層(15)よりも高い耐摩滅摩耗性を有する」ものであるから、甲1発明における結合剤の耐摩耗性の大きさと表面被覆の耐摩耗性の大きさとの大小関係は、本件特許発明1における中間層(17)の耐摩滅摩耗性の大きさと付着層(15)の耐摩滅摩耗性の大きさの大小関係とは逆の関係になっている。
したがって、甲1発明から本件特許発明1を想到することは困難である。
つまり、無効理由2-1によって、本件特許発明1は当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
また、本件特許発明2ないし14は、本件特許発明1をさらに限定するものであるから、本件特許発明1と同様に、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。


4-2-2 無効理由2-2について
請求人は、「甲第1号証には、『例えば、ニッケル合金などの結合剤の層をブレード材料の予備処理表面と第一層との間に施すことも適している。』(甲第1号証の第3頁第6欄第40行?42行)、及び『第一層がアルミナからなるドクターブレード』(甲第1号証の第4頁第7欄第9行?15行参照)が記載されている。ここで、「ニッケル合金の中にはNi-Crも含まれる」ことは、本件優先日(1996年12月20日)前の公知技術であった(必要ならば、例えば甲第2号証の第2頁第2欄、段落【0008】及び甲第3号証の第4頁第6欄、段落【0034】参照)。また、ブレードの材料に金属炭化物を用いることも、本件優先日(1996年12月20日)前の公知技術であったといえる(必要ならば例えば甲第1号証の第3頁第6欄第47行?第4頁第7欄第1行参照)。従って、本件特許発明1の構成要件Fの例として、「中間層に金属炭化物である炭化クロム及びCr-Niを用い、付着層としてアルミナを用いる」(例えば本件特許明細書第3頁第34行?37行参照)ことは、当業者には自明なことである。従って、本件特許発明1の構成要件Fは、甲第1号証ないし第3号証から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。」(審判請求書第6ページ第10行ないし第24行)と主張している。
請求人の上記主張について検討する。甲2技術、甲3技術は、「ニッケル合金として、Ni-Crを使用する技術。」であるから、「ニッケル合金の中にはNi-Crも含まれる」ことは、本件優先日前の公知技術である。また、ブレードの材料に「被覆剤として」金属炭化物を用いることも、甲第1号証の請求項3等に記載されているとおり、本件優先日前の公知技術である。
しかしながら、上記Ni-Crを「コーティング・ブレードの中間層として」用いることが公知であるとはいえない。また、上記金属炭化物は「被覆剤として」用いられるものであるから、「中間層として」金属炭化物を用いることが公知であるともいえない。
したがって、請求人が主張するように「中間層に金属炭化物である炭化クロム及びCr-Niを用い、付着層としてアルミナを用いる」ことが当業者に自明であるとはいえない。

また、本件特許発明1の課題は「ペーパーウェブと係合する縁に沿ったセラミック付着層を備えたコーティング・ブレードの使用により、スチール・ブレードと比較してブレードの寿命が延びるが、摩耗度が縁領域において高くなっているので、ブレードの中間部分がまだ有効に使用できる状態であってもブレードを交換しなければならないという従来のコーティング・ブレードの局所的摩耗についての問題を解決する」(答弁書第5ページ第9行ないし第13行)ことであり、本件特許発明1は「コーティング・ブレードにおいて、「付着層(15)とスチール・ストリップ(13)との間に位置する中間層(17)を包含し、この中間層(17)が付着層(15)よりも高い耐摩滅摩耗性を有すること」により、中間層が付着層より高い耐摩滅摩耗性を有するために、摩滅がスチール・ストリップに達する時間が長くなり、したがって、ブレードは従来より長い時間にわたって使用できることとなり、ブレードの寿命を延ばすと共にペーパー上へのコーティングの良好な平滑化を維持し、高品質を達成できるものである。」(答弁書第5ページ第14行ないし第20行)という作用効果を奏するものであるが、甲第1号証ないし甲第4号証には、そのような課題を考慮したものはなく、また、そのような作用効果を奏するものもない。

よって、無効理由2-2によっても、本件特許発明1は当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
また、本件特許発明2ないし14は、本件特許発明1をさらに限定するものであるから、本件特許発明1と同様に、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。


4-3 無効理由3(特許法第36条第4項第1号)について
4-3-1 無効理由3(i)について
請求人は、「(i)本件コーティング・ブレードの作成方法について、本件特許明細書第4頁第28行?37行、第3頁第28行?42行、第4頁第22行?27行及び第4頁第42行?46行にあるように、中間層および付着層に関する材料および厚さ、また、中間層および付着層の塗布方法の例として、プラズマ溶射、HVOF溶射が挙げられているが、ブレードが新規であるにも関わらず具体的なブレードの作成工程については一切記載がない。また、プラズマ溶射、HVOF溶射についても、具体的な溶射パラメータ(条件)については一切記載がない。つまり、本件特許発明1に記載のコーティング・ブレードを作成するための具体的な実験手順、条件、時間について記載がなされていないので、当業者が本件特許発明1ないし14に係る技術的範囲全体の構成を実施できる程度に、発明の詳細な説明の記載が十分に記載されていないと言える。」(審判請求書第7ページ第24行ないし第33行)という旨の主張をしている。
請求人の上記主張について検討する。本件特許明細書には、中間層の厚さが、好ましくは、約50μmないし約150μmであること、耐摩耗性の付着層の厚さが、たとえば、約0.2?0.5mmであること、スチール・ストリップ13の開先に沿って、タングステン・カーバイド-コバルトまたはクロム・カーバイド-ニッケル・クロムからなる中間層17をプラズマ溶射、HVOF溶射その他の溶着技術によって塗布し、中間層17の上面に、場合により酸化ジルコニウムと共にアルミナからなるセラミックの付着層15が、たとえばプラズマ溶射、HVOF溶射などで塗布すること等が記載されている(本件特許掲載公報第3ページ第28行ないし第42行、第4ページ第28行ないし第37行等の記載を参照。)。そして、プラズマ溶射、HVOF溶射等の技術においては、使用する装置及び材料並びに気温等の作業環境等により溶射条件、溶射時間等のパラメータが異なることは技術常識であり、当業者であれば、装置を使用する際に溶射条件、溶射時間等のパラメータを適切に選択して溶射を行うことは過度の試行錯誤によらずとも可能であると考えられる。
したがって、本件特許明細書には、本件コーティング・ブレードの作成方法について、発明の詳細な説明が、当業者が実施できる程度に記載されていると認められる。
なお、請求人が口頭審理陳述要領書に添付した参考文献である甲第6号証において、様々に条件を変えて溶射を行い、条件によって硬度が変わる旨を主張するが、このように溶射が可能であるすべての条件を特許明細書に記載するのは非現実的であるし、使用する装置や作業環境によっても適切なパラメータが異なるものであるから、具体的な溶射パラメータまで記載することを要求することは困難である。


4-3-2 無効理由3(ii)について
請求人は、「(ii)本件コーティング・ブレードの構成について、中間層・付着層間の耐摩滅摩耗性は図3及び図6のダイアグラムにて示されている。本件特許明細書第4頁第22行?27行及び第4頁第42行?46行の記載にあるように、このダイアグラムからは、縦座標にセラミック、スチールの全厚さを100%として示した割合(%)、横座標に摩耗時間の数値が読み取れるが、本件特許発明1ないし14のコーティング・ブレードに用いられた中間層および付着層の材料における具体的な摩耗量は一切記載されていない。つまり、本件の発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし14に係るコーティング・ブレードについて、具体的にどれくらいの耐摩滅摩耗性を有する中間層および付着層を用いればよいか、当業者が実施できる程度に十分に記載されていないと言える。」(審判請求書第8ページ第1行ないし第9行)という旨の主張をしている。
請求人の上記主張について検討する。請求人は、本件特許発明1ないし14のコーティング・ブレードに用いられた中間層および付着層の材料における具体的な摩耗量を本件特許明細書に記載することを求めているが、具体的な摩耗量は、本発明のコーティング・ブレードを使用するペーパーウェブの種類やサイズ、コーティング組成物の種類や温度、粘性等の条件により変化すると考えられるから、具体的な摩耗量を例えば「何ミリメートル」と記載することにさほど意味があるとは考えられない。むしろ、本件特許明細書の図3や図6のように、セラミック、中間層、スチールの摩耗する傾向を表現する方が、当業者にとり有意義と考えられる。
また、本件特許発明1ないし14は、耐摩滅摩耗性の大きさに関しては、セラミックからなる付着層の耐摩滅摩耗性がスチールの耐摩滅摩耗性よりも大きく、中間層の耐摩滅摩耗性がセラミックからなる付着層の耐摩滅摩耗性よりも大きいことのみが必要であり、具体的な耐摩滅摩耗性の数値は限定されていないものである。
したがって、本件特許明細書に具体的な耐摩滅摩耗性の数値が記載されていないからといって、本件特許発明1ないし14を当業者が実施できる程度に十分に記載されていないとはいえない。


4-3-3 無効理由3(iii)について
請求人は、「(iii)さらに、構成要件Fの、付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有する中間層については、その具体例として「炭化クロムとCr-Niから構成される」旨記載されており、炭化クロムとCr-Niからなる中間層が本件特許発明の主要部・眼目であるが、公知技術に対する改良点がどのようにして実施されるのか全く記載されていない。両原料の形態、混合比率、種々の製造条件など全く記載されていない。当該中間層には字義解釈上、炭化クロムとCr-Niから成る合金が含まれているが、合金の製造は条件が少し変われば、合金の性質が大きく変わる。合金の製法は実験なくして予見できないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施可能性要件違反である。」(審判請求書第8ページ第10行ないし第18行)という旨の主張をしている。
請求人の上記主張について検討する。請求人は、炭化クロムとCr-Niからなる中間層を製造するための両原料の形態、混合比率、種々の製造条件などが記載されていない旨主張する。しかし、本件特許明細書には、「この中間層は、タングステン・カーバイド-コバルトまたはクロム・カーバイド-ニッケル・クロムからなると好ましい。この中間層は、約75%?約96%の範囲内でカーバイド成分を有すると好ましい。」(本件特許掲載公報第4ページ第31行ないし第33行)と記載されており、クロム・カーバイド(炭化クロム)の割合が約75%?約96%の範囲内であることが望ましいことが分かる。(なお、この「%」は、サーメットの技術分野においては、乙2号証に記載されているように、容量%(体積%)を意味する事が技術常識である(被請求人提出の平成22年11月30日付け上申書第22ページ第13行ないし第19行の記載を参照。)。)
また、甲第4号証の【表1】において「クロムカーバイト」(審決注;正しくは「クロムカーバイド」。炭化クロムのこと)の摩耗量が、0.013cm^(3)/1,000rev.とアルミナに比べて非常に少なく、換言すると「クロムカーバイト」(炭化クロム)の耐摩滅摩耗性がアルミナよりも非常に大きいことが分かる。したがって、本件特許発明1ないし14の発明の詳細な説明に記載された「炭化クロムとCr-Niからなる中間層」はアルミナよりも耐摩滅摩耗性が大きいことが分かる。
したがって、当業者であれば、中間層を、例えばクロム・カーバイド-ニッケル・クロムからなるものとし、この中間層は、約75%?約96%の範囲内でカーバイド成分を有するものとすることにより、本件特許発明1ないし14を容易に実施できるものである。


4-4 無効理由4(特許法第36条第6項第1号)について
請求人は、「(i)本件特許発明1の構成要件Fの「中間層が付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有する」について、本件特許明細書第4頁第22行?27行及び第4頁第42行?46行の記載にあるように、本件特許明細書の図3及び図6のダイアグラムからは、縦座標にセラミック、スチールの全厚さを100%として示した割合(%)、横座標に摩耗時間の数値が読み取れるが、本件特許発明2のコーティング・ブレードに用いられた中間層および付着層の材料における具体的な摩耗量は一切記載されていない。つまり、本件の発明の詳細な説明には、本件特許発明1に係るコーティング・ブレードについて、具体的にどれくらいの耐摩滅摩耗性を有する中間層および付着層を用いればよいかの記載がないので、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明1ないし14の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」(審判請求書第9ページ第4行ないし第13行)という旨の主張をしている。
また、請求人は、「(ii)構成要件Fの、付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有する中間層については、その具体例として「炭化クロムとCr-Niから構成される」旨記載されており、炭化クロムとCr-Niからなる中間層が本発明の主要部・眼目であるが、公知技術に対する改良点がどのようにして実施されるのか全く記載されていない。両原料の形態、混合比率、種々の製造条件など全く記載されていない。当該中間層には字義解釈上、炭化クロムとCr-Niから成る合金が含まれているが、合金の製造は条件が少し変われば、合金の性質が大きく変わる。合金の製法は実験なくして予見できない。よって、本件特許発明1ないし14は、いわゆるサポート要件を満たしていない。」(審判請求書第9ページ第14行ないし第22行)という旨の主張をしている。
請求人の上記主張について検討する。
本件特許発明1ないし14は、「中間層が付着層より高い耐摩耗性を有する」という大小関係が満たされることが必要なのであり、具体的な材料、耐摩滅摩耗性の大小の定量的な値、摩耗量の程度の差などを特定すべきものではないから、ダイアグラムの材料、縦軸横軸の数値などが特定の数値として表わされる必要のないものである。
それ故、2層構造及び3層構造を有する場合のブレードの摩耗状態の経時変化は、特定の数値を有するものに限定されず、材料によりブレードに用いる厚さ、経時変化の時間などが変わることから、縦軸、横軸が変数となるので、図3又は図6のように模式図的に表現されることは当業者が直ちに理解できることである。
そして、ダイアグラム及びその説明が、当該技術分野における技術常識を考慮するならば、従来のブレードと本件特許発明1ないし14のブレードのダイアグラムが示す経時変化から、そのダイアグラムの意味合い、そのダイアグラムが示す効果としてブレードの寿命を延ばすことができることを当業者が理解できるように特許明細書に記載されている。
したがって、本件特許発明1ないし14は、当該技術分野における技術常識等を考慮すれば、発明の詳細な説明に裏付けられ記載されている。


4-5 無効理由5(特許法第36条第6項第2号)について
請求人は、「(i)本件特許発明1の構成要件のうち、Fの『中間層が付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有することを特徴とするコーティング・ブレード。』に記載されている「高い」は、不明瞭である。」「(ii)本件特許発明1において、なぜ中間層が付着層よりも高い摩滅摩耗性を有する構成要件を採用しているかの技術的意味・技術的関連については一切記載されていないから、本件特許発明1に係るコーティング・ブレードについては、発明を特定するための事項の内容に技術的な矛盾や欠陥があるか、又は、技術的意味・技術的関連が理解できない結果、発明が不明確であると考えられる。従って上記本件特許発明1ないし14は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」(審判請求書第10ページ第18行ないし第20行及び第23行ないし第27行)という旨の主張をしている。
請求人の上記主張について検討する。
上記(i)に関して、請求人が指摘している「高い」は、構成要件Fに記載された「中間層が付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有する」との文脈から理解されるべきものである。してみると、構成要件Fの記載から「高い」は、中間層と付着層の材料を比較したとき、中間層の耐摩滅摩耗性が付着層の耐摩滅摩耗性より高いとの比較関係で高いと規定していることは明らかであり、その記載は明確である。
上記(ii)に関して、本件特許発明1は、ブレードの縁部分の局部的な摩滅摩耗が生じて、ブレードの中間部分が摩滅摩耗していなくてもブレード交換しなければならなかったという課題を、本件特許発明1においては、スチール・ストリップ/中間層/付着層からなる3層構造のブレードであって、その構成層間における耐摩滅摩耗性の大小関係を、付着層より中間層の耐摩滅摩耗性が高い3層構造のブレードとすることにより解決することができるという技術的意味や技術的関連を、当業者ならば請求項の記載や特許明細書の説明から理解できることは明らかである。
本件特許発明1は、構成要件Fに記載のとおり中間層と付着層の耐摩滅摩耗性の大小関係を特定したことに特徴がある発明であり、この耐摩滅摩耗性の大小関係を有すれば、自ずと発明が明確に特定されることは特許明細書の記載から明らかである。
本件特許発明1は構成要件Fとして「中間層は付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有する」と記載しているもので、中間層と付着層の耐摩滅摩耗性の大小関係を明確に特定しているものであるから、この記載自体が明確で何ら発明を不明瞭にするものではない。
したがって、本件特許発明1ないし14は明確であり、本件特許発明1ないし14は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。


第5 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし14は、甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号の発明に該当し同規定に違反して特許されたものとはいえない。
また、本件特許発明1ないし14は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとはいえない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているから、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
また、本件特許明細書の特許請求の範囲は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
また、本件特許明細書の特許請求の範囲は、明確に記載されているから、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、審判請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1ないし14を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。


第7 付記
付記1
請求人が参考文献として提出した甲第5号証(特開平10-274092号公報)についても検討しておく。請求人は、平成22年10月28日付け口頭審理陳述要領書において「甲第5号証の図11には、ライナを形成する金属多孔体11の材質をニッケル-クロム(Ni-Cr)またはアルミナで表面処理した鉄材(アルミナ/CF)とし、ピストンリング3にクロムメッキ(Crメッキ)を施した場合において、ライナ材の比摩耗量(×10^(-11)mm/N)が示されている。甲第5号証の図11に示されているように、アルミナで表面処理した鉄材(アルミナ/CF)の摩耗量がニッケル-クロム(Ni-Cr)より大きく、アルミナよりニッケル合金の方が耐摩滅摩耗性において優れうることは、本件特許の出願時において当業者の技術常識である。」(第2ページ第21行ないし第28行)と主張している。
しかしながら、甲第5号証の図11は、「ライナを形成する多孔体の材質と、ピストンリングの各種表面処理との耐アブレッシブ摩耗性を示すもの」(段落【0018】の記載を参照。)であり、比較されているのは、「アルミナで表面処理した鉄材」(大部分が鉄材)と「ニッケル-クロム」(全部がニッケル-クロム)の「耐アブレッシブ摩耗性」であって、本件特許発明1のようにコーティング・ブレードに付着させて耐摩滅摩耗性を比較したものではない。したがって、「アルミナ」と「ニッケル合金」の耐摩滅摩耗性の比較とはいえない。また、「ニッケル-クロム」は、一般的に、結合剤として用いられているものではない(乙第3号証ないし第5号証の抄訳文を参照。)から、甲第5号証に記載された「ニッケル-クロム」を甲1発明における「結合剤」として適用することは困難である。

付記2
請求人は、平成22年10月28日付け口頭審理陳述要領書において、「硬さの測定方法が本件特許の特許請求の範囲にも発明の詳細な説明にも記載されていないから、特許請求の範囲に記載された「中間層が付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有すること」という構成要件は不明確である。」(第11ページ第11行ないし第14行)と主張している。
この主張は、請求の要旨を変更するものであるが、一応、検討しておく。
「本件特許発明は、セラミック付着層付きコーティング・ブレードにおける前記コーティング・ブレードの「両端縁部分における局所的摩耗による交換寿命」を延ばすことを目的とする発明である。すなわち、本件特許発明1はブレードの偏摩耗に対処するものである。
本件特許発明は、「耐摩滅摩耗性の付着層とスチール・ストリップとの間に、付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有する「中間層」を設ける」ことにより、上記目的を達成するものである。」(被請求人の平成22年10月28日付け口頭審理陳述要領書第3ページ第11行ないし第18行の記載を参照。)
以上のような発明の目的及び解決手段をかんがみると、「耐摩滅摩耗性」とは、コーティング・ブレードを使用したときの摩滅摩耗のしにくさ(言い換えると、摩滅摩耗に長時間を要すること)であり、「中間層が付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有すること」とは、ブレードに設けた中間層が、ブレードに設けた付着層よりも摩滅摩耗しにくい(すなわち、摩滅摩耗に長時間を要する)ということであると、容易に理解できる。
そして、耐摩滅摩耗性を測定するためには、コーティングブレードの使用条件またはそれに類似する条件で、実際にコーティングブレードを使用すればよいことも、容易に理解できる。
したがって、「中間層が付着層よりも高い耐摩滅摩耗性を有すること」という構成要件(発明特定事項)は不明確ではない。

付記3
請求人は、平成22年11月30日付け上申書において、「(1)発明の本質的部分の特許性欠如」と題して、「(本件特許の請求項1において、)付着層の厚さと中間層のコーティングブレードの長手方向における位置と長さを明確に規定することが必要である。」旨を主張している。
このような主張は時期に遅れた主張であって、請求の理由の要旨の変更に当たるものであるが、念のため、検討しておく。
付着層の厚さについては、請求項11において、「付着層(15)が、0.1?1.0mmの長さを有し」と限定されている。また、該付着層は、特許掲載公報の第4ページ第34行に「中間層の上面には、セラミックの付着層15が、たとえば、プラズマ溶射、HVOF溶射などで塗布してあり」と記載されているように、プラズマ溶射、HVOF溶射などを使って塗布するものであるから、「溶射をするのに適した厚さ」とすることが自明である。
また、該付着層は、スチールブレードを被覆し保護するものであるから、被覆する層としての技術常識の範囲内に収まる厚さであることが自明である。ただし、付着層を形成する材料の種類により、最適な付着層の厚さが変わってくると考えられる。
さらに、本件特許発明1のコーティング・ブレードがどのような大きさのどのような材質のペーパーウェブに対して、どのようなコーティング組成物をコーティングするのかによっても、最適な付着層の厚さが変化するものと考えられる。
したがって、本件特許発明1において、付着層の厚さを明確に規定することは困難であり、必ずしも発明を特定するために必要な事項とはいえない。
また、中間層のコーティングブレードの長手方向における位置と長さについては、本件特許発明1において「付着層(15)とスチール・ストリップ(13)との間に位置する中間層(17)」と記載されていることから、付着層と同程度の位置及び長さを有していることが原則であると解される。また、本件特許発明1ないし14は「セラミック付着層付きコーティング・ブレードにおける前記コーティング・ブレードの「両端縁部分における局所的摩耗による交換寿命」を延ばすことを目的とする発明である。」(例えば、被請求人が提出した平成22年10月28日付け口頭審理陳述要領書の第3ページ第11行ないし13行の記載を参照。)から、少なくとも、ブレードの両端縁部分に中間層が存在する必要があることが分かる。その際に、両端縁部分の長さを規定する必要があるという請求人の主張であるが、中間層がその耐摩滅摩耗性の機能を発揮するためには、自ずと、最小限必要な長さがあり、それは、中間層の材質と製造方法、コーティングブレードの大きさ、コーティングブレードが使用される条件等により変わってくると考えられる。したがって、(例えば両端から何mmというように)明確に規定することは困難であり、被請求人にそこまで要求することは酷であると考えられる。
 
審理終結日 2010-12-14 
結審通知日 2010-12-16 
審決日 2011-01-06 
出願番号 特願平10-528681
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B05C)
P 1 113・ 536- Y (B05C)
P 1 113・ 537- Y (B05C)
P 1 113・ 113- Y (B05C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村山 禎恒  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 西山 真二
金澤 俊郎
登録日 2004-09-17 
登録番号 特許第3597870号(P3597870)
発明の名称 コーティング・ブレード  
代理人 上田 茂  
代理人 竹林 則幸  
代理人 岩谷 龍  
代理人 結田 純次  
代理人 石井 淑久  

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