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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1232439
審判番号 不服2008-30428  
総通号数 136 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-01 
確定日 2011-02-15 
事件の表示 特願2004-371660「ジメタクリル酸亜鉛を使用する高反撥係数を持つゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月 7日出願公開、特開2005-177511〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年12月22日の出願(パリ条約による優先権主張 2003年12月22日 米国)であって、平成19年9月19日及び平成20年6月17日に手続補正がなされ、平成20年6月17日付け手続補正は平成20年8月21日付けで却下されるとともに、同日付けで拒絶査定され、これに対して、同年12月1日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、平成21年1月5日に手続補正がなされたものである。

第2 平成21年1月5日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成21年1月5日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容・目的
(1)補正の内容
ア 平成21年1月5日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前に、

「コア及びカバーを含むゴルフボールであって、前記コアが弾性ポリマー成分、遊離基源、ジメタクリル酸亜鉛及び、次の一般式I:
【化1】

(式中、R_(1)?R_(5)は、置換又は非置換のC_(1)?C_(8)のアルキル基、ハロゲン基、チオール基(-SH)、カルボキシレート化基、スルホネート化基及び水素から成る群から任意の順序で選ばれる)を有する少なくとも一種のハロゲン化有機硫黄化合物を含む組成物で形成され、前記コアが90以上のアッティ圧縮を有する事を特徴とするゴルフボール。」
とあったものを、

「コア及びカバーを含むゴルフボールであって、前記コアが弾性ポリマー成分、遊離基源、前記弾性ポリマー成分の5pph?50pphの量で存在するジメタクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛以外の不飽和酸モノマーの金属塩及びモノカルボン酸の金属塩から成る群から選ばれる、前記弾性ポリマー成分の20pph?40pphの量で存在する追加の架橋剤及び、次の一般式I:
【化1】

(式中、R_(1)?R_(5)は、置換又は非置換のC_(1)?C_(8)のアルキル基、ハロゲン基、チオール基(-SH)、カルボキシレート化基、スルホネート化基及び水素から成る群から任意の順序で選ばれる)を有する少なくとも一種のハロゲン化有機硫黄化合物を含む組成物で形成され、前記コアが90以上のアッティ圧縮を有する事を特徴とするゴルフボール。」
に補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)

イ 上記アの請求項1に係る本件補正は、以下の補正内容からなる。
本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「コア」を、「ジメタクリル酸亜鉛」の含有量が「弾性ポリマー成分の5pph?50pph」であり、かつ、「ジメタクリル酸亜鉛以外の不飽和酸モノマーの金属塩及びモノカルボン酸の金属塩から成る群から選ばれる、前記弾性ポリマー成分の20pph?40pphの量で存在する追加の架橋剤」を含むものに限定する。

(2)補正の目的
上記(1)イの補正内容は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定して、本件補正後の請求項1とするものであるから、請求項1に係る本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

2 独立特許要件について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
本願補正発明は、多数の数値限定でゴルフボールを特定しようとするものである。
そこで、本願の特許請求の範囲の請求項1の「コア及びカバーを含むゴルフボールであって、前記コアが弾性ポリマー成分、遊離基源、前記弾性ポリマー成分の5pph?50pphの量で存在するジメタクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛以外の不飽和酸モノマーの金属塩及びモノカルボン酸の金属塩から成る群から選ばれる、前記弾性ポリマー成分の20pph?40pphの量で存在する追加の架橋剤及び、次の一般式I:
【化1】

(式中、R_(1)?R_(5)は、置換又は非置換のC_(1)?C_(8)のアルキル基、ハロゲン基、チオール基(-SH)、カルボキシレート化基、スルホネート化基及び水素から成る群から任意の順序で選ばれる)を有する少なくとも一種のハロゲン化有機硫黄化合物を含む組成物で形成され、前記コアが90以上のアッティ圧縮を有する」(以下「本願補正発明特定事項」という。)に係る多数の数値限定に関する記載について、以下検討する。
ア 本願明細書に開示された発明の課題と、本願の特許請求の範囲の請求項1の上記記載との技術的関係
(ア) 本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】及び【0003】には、発明の課題に関する記載があり、該記載によれば、従来のゴルフボールに対して、ジメタクリル酸亜鉛を使用して、改善された反撥係数(「CoR」)並びに増加した圧縮を持つゴルフボールを提供するという目的に対し、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし22に記載された構成を採用することにより、上記目的を達成することができたとされることが開示されていると認められる。

(イ) 本願明細書の発明の詳細な説明には、本願補正発明特定事項に関する数値限定に関連して、以下a?cに示す記載がある。
a 「【0009】
本発明は、ワンピースゴルフボール、ツーピースゴルフボール又は中心、中心に隣接して同心円状に配置される少なくとも一つの中間層及びカバーを有する多層ゴルフボールに関するものである。又、本発明は、二重コア、多層コア、二重カバー、多層カバー又は二つ以上の中間層を有するゴルフボールに関するものである。ゴルフボールの少なくとも一部、即ち、中心、カバー又は中間層の一つは、ジメタクリル酸亜鉛(ZDMA)と、次の一般式I:
【化3】

(式中、R_(1)?R_(5)は、置換又は非置換のC_(1)?C_(8)のアルキル基、ハロゲン基、チオール基(-SH)、カルボキシレート化基、スルホネート化基及び水素から成る群から任意の順序で選ばれる)を有する少なくとも一種のハロゲン化有機硫黄化合物を含む。
更に詳しく言えば、ゴルフボールの少なくとも一部は、弾性ポリマー成分、ZDMA、式Iの少なくとも一種のハロゲン化有機硫黄化合物及び任意に遊離基源を含む組成物を含む。如何なる理論にも拘束される積りはないが、ZDMAは、特に架橋剤として機能し、式Iの少なくとも一種のハロゲン化有機硫黄化合物は、特に加硫促進剤として機能する。
一般的に、ジアクリル酸亜鉛(ZDA)組成物へのZnPCTPの添加は、ZnPCTP無しのZDAと比較した場合、TC90を増加し、ゴルフボールの圧縮を低くし、そして、38.1m(125フィート)/秒での反撥係数(以下に定義される様な「CoR」)を適度に増加させる。本発明では、ZDMA組成物への式Iのハロゲン化有機硫黄化合物の少なくとも一種の添加が、ゴルフボールの圧縮を驚く程に増加させ、TC90を低下させ、且つ38.1m(125フィート)/秒でのCoRを著しく増加させる。又、本発明の組成物は、38.1m(125フィート)/秒で相当なCoRを有するゴルフボールを与える。
【0010】
一実施態様では、ZDMAは、ベースポリマーの約10pphを超える量で、好ましくは約0.01pph?約100pph、更に好ましくは約1pph?約60pphの量で存在する。ここで使用される「100当りの部」又は”pph”として知られている用語は、弾性ポリマー成分とその他のポリマー成分とを含む全ポリマー成分の100質量部当りの、混合物で存在する特定の成分の質量部の数と定義される。数学的に、これは、ポリマーの全質量で割った成分の質量に100の因子を掛けて表す事ができる。その他の実施態様では、ZDMAは、ベースポリマーの約5pph?約50pph、好ましくはベースポリマーの約10pph?約35pph、更に好ましくは、ベースポリマーの約15?25pphで存在する。
一般式Iを有する好ましいハロゲン化有機硫黄化合物としては、ペンタフルオロチオフェノール、2-フルオロチオフェノール、3-フルオロチオフェノール、4-フルオロチオフェノール、2,3-フルオロチオフェノール、2,4-フルオロチオフェノール、3,4-フルオロチオフェノール、3,5-フルオロチオフェノール、2,3,4-フルオロチオフェノール、3,4,5-フルオロチオフェノール、2,3,4,5-テトラフルオロチオフェノール、2,3,5,6-テトラフルオロチオフェノール、4-クロロテトラフルオロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール、2-クロロチオフェノール、3-クロロチオフェノール、4-クロロチオフェノール、2,3-クロロチオフェノール、2,4-クロロチオフェノール、3,4-クロロチオフェノール、3,5-クロロチオフェノール、2,3,4-クロロチオフェノール、3,4,5-クロロチオフェノール、2,3,4,5-テトラクロロチオフェノール、2,3,5,6-テトラクロロチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、2-ブロモチオフェノール、3-ブロモチオフェノール、4-ブロモチオフェノール、2,3-ブロモチオフェノール、2,4-ブロモチオフェノール、3,4-ブロモチオフェノール、3,5-ブロモチオフェノール、2,3,4-ブロモチオフェノール、3,4,5-ブロモチオフェノール、2,3,4,5-テトラブロモチオフェノール、2,3,5,6-テトラブロモチオフェノール、ペンタヨードチオフェノール、2-ヨードチオフェノール、3-ヨードチオフェノール、4-ヨードチオフェノール、2,3-ヨードチオフェノール、2,4-ヨードチオフェノール、3,4-ヨードチオフェノール、3,5-ヨードチオフェノール、2,3,4-ヨードチオフェノール、3,4,5-ヨードチオフェノール、2,3,4,5-テトラヨードチオフェノール、2,3,5,6-テトラヨードチオフェノール及び、これらとZn、Cd、Sn、Mg及びMnとの塩が挙げられる。
【0011】
好ましくは、ハロゲン化有機硫黄化合物は、ペンタクロロチオフェノール(PCTP)であり、これはニート形態で市販されているし、或いは、45%で装填された硫黄化合物のペンタクロロチオフェノール(2.4部のPCTPに相当する)を含む粘土ベースの担体で、商品名が「STRUKTOL」として市販されている。「STRUKTOL」は、Structol Company of America of Stow, OHから市販されている。PCTPは、ニート形態及びその塩形態で、eChinachem of San Francisco, CAから市販されている。更に好ましくはハロゲン化有機硫黄化合物は、ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩であり、これは、eChinachem of San Francisco, CAから市販されている。
ここで使用される「置換又は非置換C_(1)?C_(8)アルキル」と言う用語は、1?8個の炭素原子を有する任意の置換又は非置換非環式炭素含有基を意味する。置換又は非置換C_(1)?C_(8)アルキル基の例としては、例えば、イソ-プロピル、n-ブチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、イソ-ペンチル、neo-ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル等を含む、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル及びそれらの異性体が挙げられる。当業者は、本発明の範囲内にある直鎖及び分岐アルキル基の様々な配列には精通している。
ここで使用される「置換」と言う用語は、又、一つ以上の水素原子が官能基(例えば、一個以上の官能基を有する置換アルキル基)で置き換えられている様々な置換基又は上記で定義された様なアルキル基を含む基を意味する。官能基としては、ヒドロキシル、アミノ(例えば、R_(1)R_(2)N(ここで、R_(1)とR_(2)はそれぞれ独立的に、水素、アルキル、アリール又はシクロアルキルである))、アルコキシ、カルボニル(例えば、エステル、酸及びそれらの金属誘導体)、スルホキシジル、スルホニル、スルホノイル、アミド、ホスフェート、チオール、シアノ、ニトロ、シリル及びハロゲン(例えば、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0012】
一実施態様では、式Iのハロゲン化有機硫黄化合物は、約0.01pph?約50pph、好ましくは約0.1pph?約20pphの量で存在する。その他の実施態様では、式Iのハロゲン化有機硫黄化合物は、約1pph?約5pph、好ましくは約2pph?約3pphの量で存在する。ここに開示された範囲の上限と下限は新たな範囲を形成する為に置き換え可能である。例えば、式Iのハロゲン化有機硫黄化合物の量は、約0.1?約5pph、約1pph?約3pph、及び5pph?約20pphであっても良い。
本発明の組成物は、如何なるタイプのボール構造で使用されても良い。例えば、ボールはワンピース、ツーピース又はスリーピースの設計、多層コア、多層カバー、一つ以上の中間層を有しても良い。ここで使用される「多層」と言う用語は、少なくとも2つの層、即ち、少なくとも2つの構造層を意味する。例えば、本発明の組成物は、ゴルフボールのコア、中間層、及び/又はカバーで使用されても良く、それぞれは単一層又は複数層を有しても良い。この様に、本発明は、ZDMAと式Iの少なくとも一種のハロゲン化有機硫黄化合物を含む組成物から作られる少なくとも一つの層を有しても良い。ここで使用される「層」と言う用語は、ゴルフボールの一般的に球状の部分、即ち、ゴルフボールコア又は中心、中間層及び/又はゴルフボールカバーを含む。
この様に、一実施態様では、ゴルフボールコアは、ZDMAと式Iの一種以上のハロゲン化有機硫黄化合物を含む。その他の実施態様では、コアが一より多い層を有するゴルフボールは、コア層の少なくとも一つの層においてZDMAと式Iの少なくとも一種のハロゲン化有機硫黄化合物を含む。」

b 「【0018】
架橋剤は、弾性ポリマー成分中のポリマーの鎖の部分を架橋するのに十分な量で存在しなければならない。例えば、所望の圧縮は、架橋剤の量を調整する事によって得られても良い。これは、例えば、架橋剤のタイプおよび量を変える事、即ち、当業者には公知の方法によって達成されても良い。架橋剤の使用がゴルフボールの圧縮を増加させる事は公知である。
追加の架橋剤は、弾性ポリマー成分の約0.1%を超える量で、好ましくは、弾性ポリマー成分の約5?40%、更に好ましくは弾性ポリマー成分の約10?25%の量で存在しても良い。
一実施態様では、追加の架橋剤は、ベースポリマーの約10pphを超える量で、好ましくはベースポリマーの約20pph?約40pph、更に好ましくはベースポリマーの約25pph?約35pphの量で存在する。追加の架橋剤は純粋な形態で、即ち、100%の活性形態で、又は当業者に公知の適当な担体中に分散された形態である事ができる。…(略)…」

c 「【0053】
…(略)…
又、ゴルフボールは、一般的に、少なくとも約40、好ましくは約50?120、更に好ましくは約60?100のアッティ圧縮(過去においてはPGA圧縮と言われていた)を有する。好ましくは、ゴルフボールは、80以上、更に好ましくは90以上、最も好ましくは95以上のアッティ圧縮を有する。ここで使用される「アッティ圧縮」と言う用語は、アッティ圧縮ゲージ(ニュージャージー州、ユニオン市のアッティエンジニヤリング社から市販されている)で測定した時の、較正されたバネの歪みに比例する対象物又は材料の歪みとして定義される。アッティ圧縮は、一般的に、ゴルフボール及び/又はゴルフボールコアの圧縮を測定するのに使用される。圧縮値は測定される製品の直径に依存する。本発明のゴルフボールポリブタジエン材料は、一般的に、3.44MPa?2068.4MPa(約500psi?300,000psi)、好ましくは、13.7MPa?1378.9MPa(約2000?約200,000psi)の曲げ弾性率を有する。ゴルフボールポリブタジエン材料は、一般的に、少なくとも約15ショアA、好ましくは約30ショアA?80ショアD、更に好ましくは約50ショアA?60ショアDの硬度を有する。ゴルフボールポリブタジエン材料の比重は、一般的に、約0.7を超え、好ましくは約1を超える。約23℃での動的剪断貯蔵弾性率、又は貯蔵弾性率は、一般的に、少なくとも約10,000dyn/cm^(2)、好ましくは約10^(4)?10^(10)dyn/cm^(2)、更に好ましくは約10^(6)?10^(10)dyn/cm^(2)である。
【0054】
圧縮値は、測定される成分の直径に依存する。本発明により調製されたゴルフボールのコア、或いはコアの部分のアッティ圧縮は、好ましくは、約80未満、更に好ましくは約75未満である。その他の実施態様では、コアの圧縮は約40?約80、好ましくは約50?約70である。尚その他の実施態様では、コアの圧縮は、好ましくは約50以下、更に好ましくは約25以下である。尚その他の実施態様では、コアの圧縮は、ゼロ又はマイナスの圧縮(即ち、ゼロ以下)である。
別の低圧縮の実施態様では、コアは、約20未満、更に好ましくは約10未満、最も好ましくは0の圧縮を有する。然しながら、当業者には公知の通り、本発明により作られるコアは、アッティ圧縮ゲージの測定以下であっても良い。コアが硬い実施態様では、圧縮は約90以上であっても良い。一実施態様では、硬いコアの圧縮は、約90?約100の範囲である。」

(ウ) 上記(イ)から、本願補正発明特定事項に関する数値限定と本願明細書に開示された発明の課題との因果関係、又は前記数値限定の特定が前記課題を解決するメカニズムを、当業者といえども把握できるものでない。

(エ) 上記(ア)ないし(ウ)にて検討したとおり、本願補正発明特定事項に関する数値限定と、本願明細書に開示された発明の課題との間に、明確な技術的関係があるとは、当業者といえども理解することができない。

イ 小括
上記のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願補正発明特定事項に関する数値限定と、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の課題との因果関係、又は前記数値限定の特定が前記課題を解決するメカニズムについて記載も示唆もされていない。

ウ 本願明細書における具体例の開示からの検討
(ア) 本願明細書の発明の詳細な説明に記載の具体例について、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0057】?【0060】には、実施例1(ZnPCTPとZDMAを含むゴルフボールコア)としての「表1-ZnPCTPとZDMAを有するコア組成」に係る1ないし7(以下「実施例1-1」ないし「実施例1-7」という。)及びZDMAの代りにZDAを含む比較のコア組成としての「表2-ZDAを有する比較のコア組成」に係る8ないし11(以下「比較例1-8」ないし「比較例1-11」という。)に関する以下の記載がある。
「【実施例】
【0058】
実施例1 ZnPCTPとZDMAを含むゴルフボールコア
当該技術分野において周知の方法を使用して、ZDMAとZnPCTPを含む組成物でゴルフボールコアを形成した。特に、このゴルフボールコアは、BUNA CB-23ポリブタジエン(Bayer of Akron,OH)、酸化亜鉛、AKTIPLAST PP(Rhein Chemie Rheinau GmbH of Germany)、PERKADOX BC(Akzo Noble Polymer Chemicals of Chicaga, IL)、SR-365ZDMA( Sartomer Company, Inc. of Exton, PA)及びZnPCTP(eChinachem of San Francisco, CA)を含む。以下の表は、本発明により作られたコア組成物及びそれに相当するコア圧縮及び38.1m(125フィート)/秒(fps)でのCoRを示す。表中に列挙された全ての量はpphでの量である。

【0059】
更に、以下の表は、ZDMAの代りにZDAを含む比較のコア組成を示す。特に、このゴルフボールは、BUNA CB-23ポリブタジエン(Bayer of Akron,OH)、酸化亜鉛、AKTIPLAST PP(Rhein Chemie Rheinau GmbH of Germany)、PERKADOX BC(Akzo Noble Polymer Chemicals of Chicago, IL)、SR-705ZDA(Sartomer Company, Inc. of Exton, PA)及びZnPCTP(eChinachem of San Francisco, CA)を含む。

【0060】
ZnPCTPの添加は、ZDA含有組成物と比較した時に、ZDMA含有組成物において予期せぬ効果を与えた。表2の組成8と9は、ZDA量の増加がコア圧縮に顕著な増加をもたらすが、ZnPCTPの添加は(組成9と10を比較して)、CoR(@125fps)の僅かな増加とTC90時間での大きな増加を示してコア圧縮を低下させる事を示す。表1の組成1?4は、ZDMA量の増加がコア圧縮の顕著な増加をもたらすが、ZnPCTPの添加は、CoR(@125fps)の大きな増加とTC90時間での小さな減少(組成5?8)を示してコア圧縮を予想外に増加させる事を示す。更に、ZDMAとZnPCTPの組合せは、ゴルフボールコアにとって適当なCoR値を与える。
ここに開示され且つクレームされた本発明は、ここに開示された特定の実施態様によってその範囲が限定されるものではなく、これらの実施態様は本発明の幾つかの観点の例示に過ぎない。任意の均等の実施態様は本発明の範囲内にあるべきものである。事実、ここに示され且つ記述されたものに加えて本発明の様々な変更は、先の記述から当業者には明らかとなるであろう。例えば、本発明の組成物は、様々なゴルフ用具、例えば、ゴルフシューズの靴底用途及びゴルフパターのインサートで使用されても良い。その様な変更は又、添付の特許請求の範囲内に入るものである。」

(イ) そこで、実施例1-1ないし1-7及び比較例1-8ないし1-11について以下に検討する。
平成21年1月5日付け手続補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は変更された(上記1(1)ア参照。)ものの、実施例1-1ないし1-7及び比較例1-8ないし比較例1-11に関する記載については何ら変更されていない。
そして、比較例1-8ないし比較例1-11は、特許請求の範囲の請求項1記載の「ジメタクリル酸亜鉛」(ZDMA)を含まない例であるから、本願補正発明の実施例とはいえない。
次に、実施例1-1ないし1-7について以下検討する。
本願明細書の【0058】の表1に示されたZnPCTPとZDMAを有するコア組成のうち、「BUNA CB-23ポリブタジエン(Bayer of Akron,OH)」、「PERKADOX BC(Akzo Noble Polymer Chemicals of Chicaga, IL)」、「SR-365ZDMA(Sartomer Company, Inc. of Exton, PA)」及び「ZnPCTP(eChinachem of San Francisco, CA)」は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1に記載の「弾性ポリマー成分」、「遊離基源」、「ジメタクリル酸亜鉛」及び「一般式I:【化1】(略)」に相当するものであることは、本願明細書の記載から明らかであるが、「AKTIPLAST PP(Rhein Chemie Rheinau GmbH of Germany)(以下、単に「AKTIPLAST PP」という。)は、本願明細書の記載を参酌しても、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載の「組成物」に係るいずれの成分に相当するものであるのか明らかでない。
仮に、「AKTIPLAST PP」を、特許請求の範囲の請求項1に記載の「『ジメタクリル酸亜鉛以外の不飽和酸モノマーの金属塩及びモノカルボン酸の金属塩から成る群から選ばれ』る『追加の架橋剤』」に相当するものと善解したとしても、実施例1-1ないし1-7はいずれも、「AKTIPLAST PP」を「BUNA CB-23ポリブタジエン(Bayer of Akron,OH)」(弾性ポリマー成分)に対して5.0pph含有するものであって、特許請求の範囲の請求項1に記載の「前記弾性ポリマー成分の20pph?40pphの量で存在する追加の架橋剤」との要件を充足しないものであるから、本願補正発明の実施例とはいえない。
また、上記表1には、単に「圧縮」との記載はあるものの、「アッティ圧縮」との記載はなく、仮に「圧縮」を「アッティ圧縮」と善解したとしても、実施例1-1ないし1-7はいずれも、「圧縮」の値がそれぞれ「-」、「2」、「23」、「46」、「31」、「54」、「87」であるものであって、特許請求の範囲の請求項1に記載の「90以上のアッティ圧縮」との要件を充足しないものであるから、本願補正発明の実施例とはいえない。
してみれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願補正発明の「ジメタクリル酸亜鉛以外の不飽和酸モノマーの金属塩及びモノカルボン酸の金属塩から成る群から選ばれる、前記弾性ポリマー成分の20pph?40pphの量で存在する追加の架橋剤」及び「前記コアが90以上のアッティ圧縮を有する」との事項を含む本願補正発明の具体例が、一例も記載されていないことになる。

(ウ) したがって、上記(ア)及び(イ)にて検討したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された「ジメタクリル酸亜鉛以外の不飽和酸モノマーの金属塩及びモノカルボン酸の金属塩から成る群から選ばれる、前記弾性ポリマー成分の20pph?40pphの量で存在する追加の架橋剤」及び「前記コアが90以上のアッティ圧縮を有する」との数値限定に関し、具体例を開示していないという点からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するものであるとは認められない。

エ まとめ
上記アないしウにて検討したとおりであるから、本願補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものでなく、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2)進歩性
ア 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-111872号公報(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア) 「【0011】本発明のゴルフボールは種々の構成のいずれをも含むことができるが、好ましくはコアとコアを取り巻くカバーを含む。コア及び/又はカバーは1を越える層を有することができ、中間層をゴルフボールのコアとカバーの間に配置することもできる。例えばゴルフボールのコアは、センターと内部カバー層の間に配置した中間層又は外部コア層によって取り巻かれた常用のセンターを含むことができる。コアは単一の層であってもよく又は複数の層を含んでいてもよい。コアの最も内部の部分は中実又は液体で充填した球体であることができるが、中実であることが好ましい。コアに関しては、中間層又は外部コア層は複数の層を含むことができる。コアは中実又は液体を充填したセンターを含むことができ、その周りに張力をかけた弾性材料が巻かれている。
【0012】中実コアの材料は、ベースゴム、架橋剤、フィラー、ハロゲン化した有機硫黄化合物、及び共架橋剤又は開始剤を有する組成物を含む。ベースゴムは典型的には天然又は合成ゴムを含む。好ましいベースゴムはcis-構造を少なくとも40%、好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも約95%有する1,4-ポリブタジエンである。最も好ましくは、ベースゴムは高ムーニー粘度ゴムを含む。好ましくはベースゴムは約35より大きい、より好ましくは約50より大きいムーニー粘度を有する。好ましくは、ポリブタジエンゴムは約400,000より大きい分子量を有し、かつ約2より大きくない多分散性を有する。好ましいポリブタジエンゴムの例は以下を含む:アクロンのバイエル(Bayer of Akron, OH)から市販品として入手可能なBUNA(登録商標)CB22及びBUNA(登録商標)CB23;東京のウベ工業(UBE Industries of Tokyo, 日本)から市販品として入手可能なUBEPOL(登録商標)360L及びUBEPOL(登録商標)150L;及びヒューストンのシェル(Shell of Houston, TX)から市販品として入手可能なCARIFLEX(登録商標)BCP820及びCARIFLEX(登録商標)BCP824。所望の場合には、コアの性質を変性するために、ポリブタジエンに本技術分野で公知の他のエラストマー、例えば天然ゴム、ポリイソプレンゴム及び/又はスチレン-ブタジエンゴムを混合することもできる。
【0013】架橋剤は、3?8の炭素原子を有する不飽和脂肪酸、例えばアクリル酸又はメタクリル酸の金属塩、例えば亜鉛又はマグネシウム塩を含む。例は、一又は複数の金属塩ジアクリレート、ジメタクリレート、及びモノメタクリレートであって金属がマグネシウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、ナトリウム、リチウム、又はニッケルであるものを含み、これに限定されない。好ましいアクリレートは亜鉛アクリレート、亜鉛ジアクリレート、亜鉛メタクリレート、亜鉛ジメタクリレート、及びこれらの混合物を含む。架橋剤は典型的にはベースポリマー100部当たり約10部(“pph”)より多い量で、好ましくはベースポリマーの約20?40pph、より好ましくはベースポリマーの約25?35pphの量で存在する。開始剤は硬化サイクル中で分解する公知の重合開始剤のいずれでもあることができる。適切な開始剤は有機ペルオキシド化合物、例えばジクミルペルオキシド;1,1-ジ(t-ブチルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン;α,α-ビス(t-ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン;2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)へキサン;ジ-t-ブチルペルオキシド;及びこれらの混合物を含む。他の例は以下を含むがこれに限定されない:フィラデルフィアのエルフ アトケム(Elf Atochem of Philadelphia, PA)から市販品として入手可能なVAROX(登録商標)231XL及びVarox(登録商標)DCP-R;シカゴのアクゾ ノーベル(Akzo Nobel of Chicago, IL)から市販品として入手可能なPERKODOX(登録商標)BC及びPERKODOX(登録商標)14;及びトレントンのライン ケミ(Rhein Chemie of Trenton, NJ)から市販品として入手可能なELASTOCHEM(登録商標)DCP-70。
【0014】ペルオキシドは種々の形態で利用可能であり種々の活性を有することは周知である。活性は典型的には“活性酸素含量”によって規定される。例えばPERKODOX(登録商標)BCペルオキシドは98%活性であり、かつ5.80%の活性酸素含量を有し、これに対してPERKODOX(登録商標)DCP-70は70%活性で、かつ4.18%の活性酸素含量を有する。ペルオキシドが純粋な形態で存在する場合、それは少なくとも約0.25pph存在するのが好ましく、より好ましくは約0.35pph?約2.5pph、さらに好ましくは約0.5pph?約2pph存在する。ペルオキシドを濃縮した形態で使用することも可能であり、これらの活性が異なることは上記したように周知である。この場合、本発明で濃縮したペルオキシドを使用すると、純粋なペルオキシドに対する適切な濃度は、活性で割ることによって濃縮ペルオキシドが容易に調整される。例えば、2pphの純粋ペルオキシドは活性が50%の4pphの濃縮ペルオキシドと等価である(すなわち2÷0.5=4)。
【0015】本発明のハロゲン化した有機硫黄化合物は以下の一般式を有するものを含むがこれに限定されない:

式中、R_(1)?R_(5)はいずれの順番であってもよいC_(1)?C_(8)アルキル基;ハロゲン基;チオール基(-SH)、カルボキシル基;スルホネート基;及び水素;及びさらにペンタフルオロチオフェノール;2-フルオロチオフェノール;3-フルオロチオフェノール;4-フルオロチオフェノール;2,3-フルオロチオフェノール;2,4-フルオロチオフェノール;3,4-フルオロチオフェノール;3,5-フルオロチオフェノール;2,3,4-フルオロチオフェノール;3,4,5-フルオロチオフェノール;2,3,4,5-テトラフルオロチオフェノール;2,3,5,6-テトラフルオロチオフェノール;4-クロロテトラフルオロチオフェノール;ペンタクロロチオフェノール;2-クロロチオフェノール;3-クロロチオフェノール;4-クロロチオフェノール;2,3-クロロチオフェノール;2,4-クロロチオフェノール;3,4-クロロチオフェノール;3,5-クロロチオフェノール;2,3,4-クロロチオフェノール;3,4,5-クロロチオフェノール;2,3,4,5-テトラクロロチオフェノール;2,3,5,6-テトラクロロチオフェノール;ペンタブロモチオフェノール;2-ブロモチオフェノール;3-ブロモチオフェノール;4-ブロモチオフェノール;2,3-ブロモチオフェノール;2,4-ブロモチオフェノール;3,4-ブロモチオフェノール;3,5-ブロモチオフェノール;2,3,4-ブロモチオフェノール;3,4,5-ブロモチオフェノール;2,3,4,5-テトラブロモチオフェノール;2,3,5,6-テトラブロモチオフェノール; ペンタヨードチオフェノール;2-ヨードチオフェノール;3-ヨードチオフェノール;4-ヨードチオフェノール;2,3-ヨードチオフェノール;2,4-ヨードチオフェノール;3,4-ヨードチオフェノール;3,5-ヨードチオフェノール;2,3,4-ヨードチオフェノール;3,4,5-ヨードチオフェノール;2,3,4,5-テトラヨードチオフェノール;2,3,5,6-テトラヨードチオフェノール;及びこれらの亜鉛塩。好ましくはハロゲン化した有機硫黄化合物はペンタクロロチオフェノールであり、これは純粋な形態で市場から入手可能であり、又はペンタクロロチオフェノールを45パーセント(2.4部のPCTPに相当する)負荷した硫黄化合物を含むクレイをベースとするキャリヤーであるSTRUKTOL(登録商標)の登録商標名で入手可能である。 STRUKTOL(登録商標)はストウのストラクトル カンパニー オブ アメリカ(Struktol Company of America of Stow, OH)から市場を通じて入手可能である。PCTPは市場を通じてサンフランシスコのエキナケム(eChinachem of San Francisco, CA)から純粋な形態で入手可能であり、サンフランシスコのエキナケム(eChinachem of SanFrancisco, CA)から塩の形態で入手可能である。最も好ましくは、ハロゲン化した有機硫黄化合物はペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩であり、これはサンフランシスコのエキナケム(eChinachem of San Francisco, CA)から市場を通じて入手可能である。本発明のハロゲン化した有機硫黄化合物は好ましくは約2.2pphより多くの、より好ましくは約2.3pph?約5pph、最も好ましくは約2.3pph?約4pphの量で存在する。
【0016】フィラーは典型的には、タングステン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、金属、金属酸化物及び塩、リグリンド(リサイクルしたコア材料であって典型的には約30メッシュの粒子に粉砕したもの)、高ムーニー粘度ゴムリグリンド、及び類似物。ゴルフボールの1部又は多数部に添加するフィラーは典型的には、レオロジー特性及び混合特性に影響を与えるように処置することを目的とし又はそのための化合物を含み、密度調整用フィラー、引き裂き強度又は強化用フィラー等を含む。フィラーは一般に無機物であり、適切なフィラーは多数の金属又は金属酸化物を含み、例えば酸化亜鉛及び酸化スズ、及び硫酸バリウム、硫酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、クレイ、タングステン、炭化タングステン、シリカのアレイ、及びこれらの混合物を含む。フィラーは種々の発泡剤又はブローイング剤を含むこともでき、当業者はこれらを直ちに選択することができる。フィラーはポリマー、セラミック、金属及びガラスの中実又は中空の、充填した又は充填していない微小粒子を含むこともできる。フィラーは典型的にはゴルフボールの1部又は複数部まで添加されてその密度を調整し、均一なゴルフボール標準に適合させる。フィラーを使用してセンター又は特別なボールのための少なくとも一つの追加的な層の質量を調整することもでき、例えば質量が小さいボールはスイング速度が小さい競技者に好ましいものである。」

(イ) 「【0046】本発明のコアは約80より小さい、より好ましくは約40?約80、最も好ましくは約50?約70のアッティ圧縮を有する。別の場合の小さい圧縮の態様では、コアは約20より小さい、より好ましくは約10より小さい、最も好ましくは0の圧縮を有する。…(略)…」

(ウ) 上記(ア)及び(イ)からみて、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「コアと該コアを取り巻くカバーを含むゴルフボールであって、
前記コアの材料は、ベースゴム、架橋剤、フィラー、ハロゲン化した有機硫黄化合物、及び、硬化サイクル中で分解する重合開始剤を有する組成物を含み、
前記架橋剤は、ベースポリマー100部当たり約20pph?40pphの量で存在する、亜鉛ジメタクリレート、亜鉛アクリレート、亜鉛ジアクリレート及び亜鉛メタクリレートの混合物であり、
前記ハロゲン化した有機硫黄化合物は、次の一般式:

(式中、R_(1)?R_(5)はいずれの順番であってもよいC_(1)?C_(8)アルキル基;ハロゲン基;チオール基(-SH)、カルボキシル基;スルホネート基;及び水素)
を有するものであり、
前記コアは、約80より小さいアッティ圧縮を有する、
ゴルフボール。」

イ 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「コアと該コアを取り巻くカバーを含むゴルフボール」、「『ベースゴム』である『ベースポリマー』」、「ハロゲン化した有機硫黄化合物」、「亜鉛ジメタクリルレート」及び「硬化サイクル中で分解する重合開始剤」は、それぞれ、本願補正発明の「コア及びカバーを含むゴルフボール」、「弾性ポリマー成分」、「ハロゲン化有機硫黄化合物」、「ジメタクリル酸亜鉛」及び「遊離基源」に相当する。

(イ)引用発明の「『一般式:

(式中、R_(1)?R_(5)はいずれの順番であってもよいC_(1)?C_(8)アルキル基;ハロゲン基;チオール基(-SH)、カルボキシル基;スルホネート基;及び水素)
を有す』る『ハロゲン化した有機硫黄化合物』」は「一般式I:
【化1】

(式中、R_(1)?R_(5)は、置換又は非置換のC_(1)?C_(8)のアルキル基、ハロゲン基、チオール基(-SH)、カルボキシレート化基、スルホネート化基及び水素から成る群から任意の順序で選ばれる)を有する少なくとも一種のハロゲン化有機硫黄化合物」の点で本願補正発明に包含される。

(ウ)引用発明の「架橋剤」である「亜鉛ジメタクリレート、亜鉛アクリレート、亜鉛ジアクリレート及び亜鉛メタクリレート」は、いずれも不飽和脂肪酸であるアクリル酸又はメタクリル酸の亜鉛塩である(上記(2)ア(ア)【0013】参照。)から、引用発明の「架橋剤」のうち、「ジメタクリル酸亜鉛(亜鉛ジメタクリレート)」を除いた「亜鉛アクリレート、亜鉛ジアクリレート及び亜鉛メタクリレート」は、「ジメタクリル酸亜鉛以外の不飽和酸モノマー及びモノカルボン酸の金属塩から成る群から選ばれる追加の架橋剤」の点で本願補正発明に包含される。

(エ)引用発明の「コア」は、約80より小さいアッティ圧縮を有するから、引用発明の「コア」と本願補正発明の「『90以上のアッティ圧縮』を有する『コア』」とは「所定のアッティ圧縮を有する」点で一致する。

(オ)上記(ア)ないし(エ)から、本願補正発明と引用発明とは、
「コア及びカバーを含むゴルフボールであって、前記コアが弾性ポリマー成分、遊離基源、ジメタクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛以外の不飽和酸モノマー及びモノカルボン酸の金属塩から成る群から選ばれる追加の架橋剤及び、次の一般式I:
【化1】

(式中、R_(1)?R_(5)は、置換又は非置換のC_(1)?C_(8)のアルキル基、ハロゲン基、チオール基(-SH)、カルボキシレート化基、スルホネート化基及び水素から成る群から任意の順序で選ばれる)を有するハロゲン化有機硫黄化合物を含む組成物で形成され、前記コアが所定のアッティ圧縮を有する、ゴルフボール。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
本願補正発明では、前記コアにおけるジメタクリル酸亜鉛及び追加の架橋剤の存在量が、それぞれ「弾性ポリマー成分の5pph?50pph」及び「弾性ポリマー成分の20pph?40pph」であるのに対して、引用発明では、架橋剤は、ベースポリマー100部当たり約20pph?40pphの量で存在するが、架橋剤をなす混合物の各成分の存在量は明らかでない点。

相違点2:
前記コアのアッティ圧縮が、本願補正発明では、「90以上」であるのに対して、引用発明では、「約80より小さい」値である点。

ウ 判断
上記相違点1及び2について検討する。
(ア)相違点1について
引用発明の架橋剤をなす混合物の各成分の存在量は、当業者が適宜決定すべき設計事項というべきものであるから、引用発明において上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が適宜なし得た設計上のことである。

(イ)相違点2について
a 本願明細書の段落【0054】の「圧縮値は、測定される成分の直径に依存する。本発明により調製されたゴルフボールのコア、或いはコアの部分のアッティ圧縮は、好ましくは、約80未満、更に好ましくは約75未満である。その他の実施態様では、コアの圧縮は約40?約80、好ましくは約50?約70である。尚その他の実施態様では、コアの圧縮は、好ましくは約50以下、更に好ましくは約25以下である。尚その他の実施態様では、コアの圧縮は、ゼロ又はマイナスの圧縮(即ち、ゼロ以下)である。
別の低圧縮の実施態様では、コアは、約20未満、更に好ましくは約10未満、最も好ましくは0の圧縮を有する。然しながら、当業者には公知の通り、本発明により作られるコアは、アッティ圧縮ゲージの測定以下であっても良い。コアが硬い実施態様では、圧縮は約90以上であっても良い。一実施態様では、硬いコアの圧縮は、約90?約100の範囲である。」との記載から、「アッティ圧縮」とは、アッティ圧縮ゲージにより測定される値であるといえる。
b ゴルフボールのコアのアッティ圧縮の具体的数値は、当業者が適宜決定すべき設計事項というべきものであるところ、コアのアッティ圧縮が90以上であるゴルフボールは、本願の優先日前に周知である(以下「周知技術」という。例.特表2003-512495公報特に「【0005】…(略)…ゴルフボールの構成部分、すべり止めをつけた履物用の熱可塑性靴底、スポーツ用品向け弾性発泡体等の成形物を製造するために有用である。それらは、特に、ワンピース、ツーピース、スリーピースおよび多層ゴルフボールの製造に有用である。本発明は、特に、125フィート/秒(約38.1m/秒)で計ったときに少なくとも0.785の反発係数と100以下のAtti圧縮を有する球状構成部分(芯、中心部分、ワンピースのボール)に関する。」、国際公開99/08756号特に「FIG. 8 shows a golf ball of the invention having a core 20 and a cover 22 having a single layer.
The core 20 is preferably a solid piece having a spherical configuration circumscribed by a cover 22 of determined thickness. Generally, the core is formed of a rubber composition of abase rubber blended with a co-crosslinking agent, a peroxide and a filler by a compression process including heating, pressing and shaping procedure. The rubber core can also be produced by the method of injection molding.
A preferred base rubber is 1,4-polybutadiene having a cis structure of at least 40 wt %. More preferably, the cis structure represents at least 90 wt % of the 1,4- polybutadiene. Other various rubbers including natural and synthetic rubbers can be added to the 1,4-polybutadiene. The crosslinking agent includes a metal salt of an unsaturated fatty acid such as zinc salt, a magnesium salt of unsaturated fatty acid such as methacrylic acid, acrylic acid and ester compounds.
Polybutadiene rubber is prepared with a rare earth element catalyst, such as neodymium (Nd). This polymer has a higher amount of 1,4-polybutadiene than the conventional polybutadiene rubbers. The consequence is an improvement of the values of compression of the core and an improvement of the ball initial velocity.
Preferably, the core has a specific gravity of 1.05 and higher and a PGA compression which varies depending upon the size of the core so as to confer a soft feel to the ball. More precisely, the PGA compression of the core is comprised:
between 70 to 95, for a core diameter between 1.56 to 1.60 inches;
between 50 to 80, for a core diameter between 1.43 to 1.56 inches; and
between 35 to 70, for a core diameter between 1.39 to 1.43 inches.
The PGA compressions of core are measured with an ATTI compression gauge known by one skilled in the art.」(57頁9行?58頁14行)(審決訳:図8は、コア20と単一層を有するカバー22とを有する本発明のゴルフボールを示している。
コア20は、好ましくは、所定厚さのカバー22によって取囲まれている球形形状を有する固体部品である。一般的に、コアは、加熱、プレス、及び造形手順を含む圧縮プロセスによって、共架橋剤、過酸化物、及び充填剤とブレンドされたベースゴムのゴム組成物から形成されている。このゴムコアはまた、射出成形方法によって製造することもできる。
好ましいベースゴムは、少なくとも40質量%のシス構造を有する1,4-ポリブタジエンである。より好ましくはシス構造は、1,4-ポリブタジエンの少なくとも90質量%を表わす。天然ゴム及び合成ゴムを含むその他の様々なゴムを、1,4-ポリブタジエンに添加することもできる。架橋剤には、不飽和脂肪酸の金属塩(例えば亜鉛塩)、不飽和脂肪酸のマグネシウム塩(例えばメタクリル酸、アクリル酸)、及びエステル化合物が含まれる。
ポリブタジエンゴムは、希土類元素触媒、例えばネオジム(Nd)を用いて調製される。このポリマーは、通常のポリブタジエンゴムよりも高い量の1,4-ポリブタジエンを有する。その結果、コアの圧縮値の改良及びボール初期速度の改良がある。
好ましくはコアは、1.05及びそれ以上の比重、及びボールに柔らかい感触を与えるようにコアのサイズに応じて様々なPGA圧縮を有する。より正確には、コアのPGA圧縮は次のものである:
コア直径1.56?1.60インチの場合70?95;
コア直径1.43?1.56インチの場合50?80;及び
コア直径1.39?1.43インチの場合35?70。
コアのPGA圧縮は、当業者に知られているATTI圧縮ゲージで測定される。)、特表2003-502123公報特に「【0053】
PGA圧縮力を決定するための一例は、Atti Engineering Corporation (Newark N.J.)により製造されているゴルフボール圧縮力テスターを利用することによって示すことができる。このテスターによって得られる値は、0?100の範囲にありうる1つの数字によって表現された任意の値に関連するものであるが、器具上のダイアルインジゲータの2回の回転により表示されるように200という値も測定可能である。得られた値は、圧縮荷重を受けた時点でゴルフボールが受けるたわみを定義する。Attiテスト器具は、下部可動プラットフォーム及び上部可動バネ式アンビルで構成されている。ダイアルインジケータは、バネ式アンビルの上向きの動きを測定するように取付けられている。テストされるべきゴルフボールは、下部プラットフォーム内に設置され、このプラットフォームは次に定距離だけもち上げられる。ゴルフボールの上部部分は、バネ式アンビルと接触しこの上に圧力を加える。圧縮すべきゴルフボールの飛距離に応じて、上部アンビルは、バネに対抗して上向きに強制される。」及び「以下に示すコア配合物Kを用いて、平均直径39.2mm(1.545インチ)、重量36.7gの複数のスタンダードサイズの対照ゴルフボールコアを形成した。…(略)…
【0183】コア配合物 K…(略)…
【0184】
コアを320°Fで11.5分間硬化させ、次に約7分間冷却水を用いて冷却した。コアのPGA圧縮力は95、CORは0.770であった。」、特開2003-52861号公報特に「【0038】得られるゴルフボールは、一般に、約0.7より大きい、好ましくは約0.75より大きい、そして更に好ましくは約0.78より大きいはねかえり係数を有する。又、ゴルフボールは一般に、少なくとも約40、好ましくは約50?120、更に好ましくは約60?100のアッティ圧縮(Atti compression)を有する。…(略)…」及び「【0041】本発明のコアは、約50?約90、更に好ましくは約60?約85、最も好ましくは約65?約85のアッティ圧縮を有する。」並びに特開2002-346000公報特に「【0043】“材料固さ”と“ゴルフボール上で直接測定した固さ”は基本的に異なることを特に当業者は理解すべきである。材料固さは、ASTM-D2240に記載された手順によって規定されており、一般に固さを測定する材料を平板状の“スラブ”又は“ボタン”型にしたものの固さを測定することを含む。ゴルフボール(又は他の球体表面)上で直接測定した場合、固さの測定は完全に異なり、従って固さの値が異なる。この相違は以下の多数の因子から生じるものであるが、これらに限定されない:ボールの構造(すなわち、コア型、コア及び/又はカバー層の数等)、ボール(又は球体)の直径、及び隣接する層の材料組成。二つの測定技術の関係は直線的ではなく、従って、一つの固さの値を他の値と相関させることはできない。本明細書で使用した“固さ”という用語は、上記した材料固さを意味する。本発明のコアのアッティ圧縮は約50?約90、より好ましくは約60?約85、最も好ましくは約70?約85である。」参照。)。
c 上記a及びbから、引用発明において、コアのアッティ圧縮を90以上とし、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて容易になし得たことである。

(ウ)効果について
本願補正発明の奏する効果は、当業者が、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から予測できた程度のものである。

(エ)まとめ
したがって、本願補正発明は、当業者が、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)小括
上記(1)及び(2)のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。
よって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成21年1月5日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし23に係る発明は、平成19年9月19日付け手続補正によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし23に記載された事項によってそれぞれ特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2〔理由〕1(1)アで、本件補正前の請求項1として記載したものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、上記第2〔理由〕2(2)アに記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、本願補正発明において、その発明特定事項である「コア」から、「ジメタクリル酸亜鉛」の含有量が「弾性ポリマー成分の5pph?50pph」であり、かつ、「ジメタクリル酸亜鉛以外の不飽和酸モノマーの金属塩及びモノカルボン酸の金属塩から成る群から選ばれる、前記弾性ポリマー成分の20pph?40pphの量で存在する追加の架橋剤」を含むとの限定を省いたものに相当する(上記第2〔理由〕1(2)参照。)。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2〔理由〕2(2)ウに記載したとおり、当業者が、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-09-15 
結審通知日 2010-09-21 
審決日 2010-10-04 
出願番号 特願2004-371660(P2004-371660)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A63B)
P 1 8・ 121- Z (A63B)
P 1 8・ 575- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤坂 祐樹  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 ジメタクリル酸亜鉛を使用する高反撥係数を持つゴルフボール  
代理人 平山 孝二  
代理人 箱田 篤  
代理人 浅井 賢治  
代理人 小川 信夫  
代理人 熊倉 禎男  
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